説明

粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法

【課題】粉体の空隙率に応じて測定が可能な粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る粉体の熱伝導率測定装置は、半径が互いに異なる少なくとも3層の円筒部を備える熱伝導率測定装置20であって、冷却部7、収容部8および加熱部9は、同心円を形成するように配置されており、冷却部7には冷却器10が備えられ、加熱部9には電気ヒーター12が備えられており、収容部8には収容した粉体を封入する蓋部11が備えられ、複数の温度センサ2〜5が、収容部8における、上記同心円の中心軸からの半径が異なる水平な位置にそれぞれ備えられており、蓋部11は、収容部8の内容積を加減することができるように移動可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法に関し、詳細には、粉体の空隙率が変化した場合に測定が可能な粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー、金属、セラミックス、炭素繊維などに例示される粉体は、伝熱装置または反応装置、または、新素材等の開発において広く用いられており、粉体の熱伝導率を得ることは重要である。
【0003】
非特許文献1〜3には、粉体の任意の空隙率にて、それぞれ、鉄粉、ガラス粉体、アルミナ粉体などの熱伝導率測定方法が開示されている。
【非特許文献1】杉山幸男ら著、「化学工学」、社団法人化学工学協会、1969年、p.163〜168
【非特許文献2】杉山幸男ら著、「化学工学」、社団法人化学工学協会、1970年、p.545〜548
【非特許文献3】高橋一郎ら著、「第21回 日本伝熱シンポジウム講演論文集」、京都市、p.259〜261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粉体の伝熱は、粒子間の接触伝熱、放射伝熱、粒子間にある気体の伝熱などを同時に伴うため、空隙率によって、粉体の熱伝導率が影響を受ける。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その課題は、粉体の空隙率に応じて測定が可能な粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粉体の熱伝導率測定装置は、上記課題を解決するために、半径が互いに異なる少なくとも3層の円筒部を備える粉体の熱伝導率測定装置であって、上記少なくとも3層の円筒部は、同心円を形成するように配置されており、同心円の最も内側に位置する第1の円筒部には、第1の温度調節器が備えられ、同心円の最も外側に位置する第2の円筒部には、第2の温度調節器が備えられ、上記第1の円筒部と第2の円筒部との間に位置し、粉体が収容される第3の円筒部には、収容した粉体を封入する蓋部が備えられるとともに、上記第3の円筒部には、同一水平面状に位置し、かつ、上記同心円の中心から水平方向において互いに異なる距離に、複数の温度センサが備えられており、上記蓋部は、第3の円筒部の内容積を加減することができるように移動可能に設けられていることを特徴としている。
【0007】
上記の発明によれば、第1の温度調節器によって第1の円筒部を、第2の温度調節器によって第2の円筒部を温度調節し、粉体が収容される収容部に収容された粉体の温度を、上記複数の温度センサによって測定されることができる。この測定された複数(2点以上)の温度を測定することができる。また、粉体を封入する蓋部は、第3の円筒部の内容積を加減することができるよう移動可能であるため、粉体の熱伝導率を測定する際には、粉体の体積を可変させることができる。すなわち、粉体の空隙率を可変させることができる。このため、測定時の粉体の空隙率を変更しながら、上記複数の温度と既知の値とから、粉体の熱伝導率を測定可能な粉体の熱伝導率測定装置を提供することができる。
【0008】
また、本発明の粉体の熱伝導率測定装置では、上記第1の温度調節器が冷却器であり、上記第2の温度調節器が加熱器であることが好ましい。
【0009】
上記第1の円筒部を冷却器とすることによって、第2の円筒部を冷却器とする場合に比較して冷却する範囲を少スペース化することができ、より簡易な構造の粉体の熱伝導率測定装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明の粉体の熱伝導率測定装置では、上記第2の円筒部の外周部に、断熱材が備えられていることが好ましい。
【0011】
これにより、熱伝導率測定装置から放熱される熱量を減少させることができるので、より安定した粉体の熱伝導率測定が可能な、熱伝導率測定装置を提供することができる。
【0012】
また、本発明の粉体の熱伝導率測定装置では、第3の円筒部に収容された粉体の容積を、上記蓋部の高さに基づき測定可能であることが好ましい。
【0013】
上記の構成によって、容易に粉体の空隙率が測定可能であり、粉体の熱伝導率の測定をより容易に行うことができる。
【0014】
また、本発明の粉体の熱伝導率測定方法は、上記粉体の熱伝導率測定装置を用いる粉体の熱伝導率測定方法であって、上記第3の円筒部に粉体を収容した後、上記蓋部によって粉体を封入し、上記第1の温度調節器によって第1の円筒部を、上記第2の温度調節器によって第2の円筒部を、互いに異なる温度で恒温状態とし、上記複数の温度センサのうち、任意の2つの温度センサが示す温度を測定し、
以下の式1
【0015】
【数1】

【0016】
(式中、Kは、粉体の熱伝導率 〔J/(s・m・K)〕、Rは、第3の円筒部の半径と第1の円筒部の半径との差(m) 、Qは、第1の温度調節器および第2の温度調節器のうち、高温の温度調節器から供給される単位時間および単位面積当たりの熱量〔J/(s・m2)〕 、rおよびrは、任意の2つの温度センサが配置された位置Pおよび位置Pから、同心円の中心までの距離(m) 、TおよびTは、それぞれ位置Pおよび位置Pに位置する温度センサによって測定された温度(K)、Lnは自然対数lnを示す)
を用いて粉体の熱伝導率を算出する方法である。
【0017】
上記方法によれば、上記粉体の熱伝導率測定装置における任意の2箇所の温度センサによって測定された温度等および上記式1から、第3の円筒部に収容された粉体の熱伝導率を算出することができる。この際、上記蓋部を移動させることによって、粉体の空隙率を変更することができるため、粉体の空隙率に応じて、粉体の熱伝導率を測定することが可能である。
【0018】
また、本発明に係る空隙率測定方法は、上記粉体の熱伝導率測定装置を用いる粉体の空隙率測定方法であって、空隙率測定の対象となる粉体は、微粒子と、微粒子を媒介する媒体とを含んでおり、上記第3の円筒部に粉体を収容した後、上記蓋部によって粉体を封入して上記蓋部の高さから充填された粉体のかさ体積を算出し、以下の式(2)から空隙率εを測定する方法である。
【0019】
ε=1−w/(v×ρ)・・・(2)
(式中、wは粉体の重量を、vは粉体のかさ体積を、ρは微粒子の粒子密度を表す。)
上記の発明によれば、粉体の熱伝導率測定装置を用いて、上記粉体の空隙率を測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、粉体の空隙率に応じて測定が可能な粉体の熱伝導率測定装置、粉体の熱伝導率測定方法および粉体の空隙率測定方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態について図1ないし図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0022】
<熱伝導率測定装置>
図1は、本発明に係る熱伝導率測定装置(粉体の熱伝導率測定装置)20の断面図である。熱伝導率測定装置20は、半径が互いに異なる少なくとも3層の円筒部を備えており、上記少なくとも3層の円筒部は、同心円を形成するように配置されている。すなわち、同図に示すように、同心円の最も内側に位置する冷却部(第1の円筒部)7、その周囲に粉体を収容する収容部(第3の円筒部)8、さらに、同心円の最も外側に加熱部(第2の円筒部)9を備えている。
【0023】
冷却部7は、熱伝導率測定装置20において温度勾配を生じさせるために、粉体の熱伝導率の測定時において、加熱部9と共に恒温状態となる役割を果たすものである。冷却部7の中心部には温度センサ1が設置され、さらに冷却部7を冷却する冷却器10が備えられている。
【0024】
冷却部7を構成する材料としては、真鍮が用いられているが、伝熱し易い材料であれば特に限定されず用いることができる。例えば、鉄、真鍮、ステンレス鋼、銅、銀、アルミニウムなどを例示することができる。
【0025】
熱伝導率測定装置20では、冷却部7を冷却するために冷却器(第1の温度調節器)10が備えられている。冷却器10は水冷式の冷却器となっており、冷却器10において、矢印方向に冷却水が送液され、冷却部7を恒温状態に保持することができる。熱伝導率測定装置20では、冷却器10として水冷による冷却器10が用いられているが、冷却部7を冷却できる構成であれば特に限定されるものではない。例えば、上記冷却による冷却器10に代えて、空気を送風させることによって冷却を行う空冷器を用いてもよいし、冷媒を用いる冷却器であってもよい。
【0026】
円筒形の収容部8には、熱伝導率が測定される対象となる粉体が収容される。熱伝導率測定装置20では、収容部8は1層の構造としているが、これに限られず、2層以上の構造としてもよい。本構成により、複数種類の粉体間における熱伝導率を測定することが可能となる。
【0027】
上記粉体とは、微粒子と、微粒子の媒質である、気体、液体又はゲルなどの媒体とを含むものである。媒体は、微粒子を媒介する役割を果たし、上記微粒子および媒体を含む粉体は、一つの集合体として流体のような挙動を示すことができるものである。
【0028】
上記微粒子としては、例えば、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、炭素繊維などの合成高分子;小麦粉、セルロースなどの天然高分子;顔料などの有機化合物;金属粉、セラミックス、カーボン、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナなどの無機化合物などが挙げられる。
【0029】
また、上記微粒子の粒子径としては、狭義の微粒子の粒子径(直径)としては、通常、10−9m以上、5×10−3m以下である。微粒子の粒子径は、電子顕微鏡、光学顕微鏡、ルーペ等で測定されるFeret径で測定される。
【0030】
上記媒体としては、媒体として用いられた場合に、上記媒体と微粒子とが、混合可能であれば特に限定されるものではなく、公知の気体または液体を用いることができる。気体としては、例えば、空気、酸素、窒素、二酸化炭素などの気体およびこれらの混合気体、液体としては、水、アルコール類、炭化水素系の有機溶媒、液体状のポリマーなどが挙げられる。
【0031】
収容部8には収容された粉体を封入するための蓋部11が備えられている。蓋部11としては、例えば、油圧式または空気圧などによる加圧器により上下する構成、蓋部11の側面に外周部と螺合するネジ溝が形成されている構造などとしてもよい。このような構成により、蓋部11が移動上下方向に移動可能となり、収容部8の内容積を加減することにより、収容された粉体の体積を変化させることができる。すなわち、粉体の空隙率を変化させることができる。なお、熱伝導率測定装置20では、ネジ式の蓋部11が採用されている。
【0032】
蓋部11は、粉体の温度変化により生じる圧力によって、上下する構成とすることもできる。図1においては、収容部8における粉体が占める高さを高さL3にて表している。この場合、粉体の体積が変動することが可能なため、温度変化で膨張収縮する粉体であっても、体積変化と共に熱伝導率を同時に測定することができる。
【0033】
また、蓋部11の側面には目盛りが設けられており、空隙率算出のためのかさ体積(v)の計測にこの目盛りを読取ることができる構成となっている。また、蓋部11が移動された場合に、作業者は目盛りから収容部8の体積を読取ることができる。このため、上記蓋部11は、目盛りが作業者によって確認されるよう、粉体の熱伝導率測定時において、隣接する加熱部9の高さよりも、目盛りが高い位置となるように設計されている。
【0034】
収容部8の周囲には、円筒形の加熱部9が備えられている。加熱部9を構成する材料としては、冷却部7と同様に、真鍮が用いられているが、伝熱し易い材料であり、具体例としては冷却部7と同様のものが例示される。
【0035】
さらに加熱部9の外周部には電気ヒーター(第2の温度調節器、加熱器)12が備えられている。電気ヒーター12としては、加熱部9を加熱することができればよく、公知の電気ヒーターを用いることができる。例えば、リボンヒーター、コイルヒーター、セラミックヒーター,温水ヒーター,蒸気ヒーターなどを用いることができる。
【0036】
また、図示しないが、電気ヒーター12には、温度センサを備える出力調節器が備えられており、加熱部9が所望の温度の恒温状態となるよう電気ヒーター12の出力が調整される。
【0037】
冷却部7および収容部8の底部、並びに、加熱部9および電気ヒーター12の周囲は、粉体の熱伝導率を測定する際、放熱を抑制するために、断熱材13によって覆われている。これにより、熱伝導率測定装置20から放熱される熱量を減少させることができ、より安定した粉体の熱伝導率測定ができる。また、放熱をより抑制するためには、冷却部7および蓋部11の上部についても断熱材13を備える構成とすることが好ましい。
【0038】
冷却部7、収容部8および加熱部9のそれぞれ1箇所、4箇所および1箇所に温度センサ1〜温度センサ6が備えられている。温度センサ1は、熱伝導率測定時において、粉体の温度を測定するために用いられ、従来公知の温度センサを用いることができる。粉体の熱伝導率測定が測定される際には、加熱部9から冷却部7間の温度勾配が測定されるため、温度センサ1〜温度センサ6は、同一水平面状に位置し、かつ、上記同心円の中心から水平方向において互いに異なる距離にそれぞれ備えられている。
【0039】
粉体の熱伝導率の測定方法については後述するが、収容部8の同心円からの異なる距離に最低2箇所の位置に温度センサが設置されていれば測定可能である。さらに、熱伝導率測定装置20のように、温度センサが多数設置されていれば、測定データを多く収集できる点で好ましい。
【0040】
熱伝導率測定装置20では、中心部に冷却部7を、外周部に加熱部9を備える構成としているが、本構成によれば、中心部を加熱部9、外周部を冷却部7とする場合に比較して冷却する範囲を少スペース化することができ、より簡易な構造の粉体の熱伝導率測定装置を提供することができる。しかしながら、上記冷却部7および加熱部9の配置については、中心部と外周部とにおいて温度勾配を生じさせることができればよく、本構成に限定されるものではない。例えば、外周部を冷却部7とし、中心部を加熱部9としてもよい。また、中心部および外周部を共に加熱部9または冷却部7とし、温度勾配を生じさせるよう両方の加熱部9において供給される熱量に差を設ける構成としてもよい。
【0041】
<粉体の熱伝導率の測定方法>
次に粉体の熱伝導率の測定方法について説明する。本発明に係る粉体の熱伝導率測定方法は、上記粉体の熱伝導率測定装置20を用いて実施されることができる。以下に、熱伝導率測定装置20の動作について説明する。まず、収容部8に収容する粉体の質量を予め測定しておく。さらに、粉体を収容部8に収容し、収容部8の体積が所定量となるよう蓋部11を移動させる。収容部8の体積の変化に伴い変化した粉体の体積は、蓋部11の目盛りによって作業者が目視確認される。
【0042】
その後、電気ヒーター12を所定の温度となるように設定し、加熱部9を昇温させる。この際の設定温度としては、熱伝導率測定装置20内に温度勾配を生じさせる温度であればよく、また、熱伝導率測定装置20を構成する材料、および、測定対象となる粉体に悪影響を与えない温度であれば、特に限定されるものではない。
【0043】
次に、冷却部7を冷却する。熱伝導率測定装置20では、冷却部7は水冷装置を備えており、冷却水を一定の単位時間当たりの量にて、矢印方向へ送液させる。温度センサ1および温度センサ6の温度が一定の温度となった時点をそれぞれの恒温状態とする。
【0044】
恒温状態が確認された後に、温度センサ2〜温度センサ5のそれぞれにおいて測定された温度が読み取られる。少なくとも2箇所の温度センサの位置Pおよび位置Pにおいて、粉体の温度Tおよび温度Tが測定されれば熱伝導率を測定することが可能であるが、多数の温度センサを用いて温度が測定されることによって、温度Tおよび温度Tのデータが一度の測定においてより多く測定され得る。これにより、粉体の熱伝導率について多数の測定結果が得られ、より信頼性の高いデータを得ることができる。
【0045】
上記所定の粉体の空隙率にて、熱伝導率を測定した後に、蓋部11を上方または下方に移動させることによって、収容部8の体積が調節される。これにより、粉体の空隙率を変動させ、温度センサ2〜温度センサ5が示す温度が3分間で±0.1℃以内の、一定となった後に再度、粉体の温度が読取られる。その後、再度、粉体の空隙率の調整を行い、粉体の温度を測定する動作を繰り返す。
【0046】
上記の得られた測定温度に基づき、粉体の熱伝導率を算出する方法について以下に説明する。円筒形形状の粉体の熱伝導率Kは、Transport Phenomena 2nded. (2002)p.305-307 を参照して、以下の(式1)によって表される。
【0047】
【数2】

【0048】
上記(式1)において、Kは粉体の熱伝導率〔J/(s・m・K)〕を、Rは、収容部8の半径と冷却部7の半径との差であり、Qは、第1の温度調節器および第2の温度調節器のうち、高温の温度調節器から供給される単位時間および単位面積当たりの熱量〔J/(s・m2)〕を示し、rおよびrは、任意の2つの温度センサが配置された位置Pおよび位置Pから、同心円の中心までの距離(m)であり、TおよびTは任意の2箇所の温度センサによって測定された温度(K)である。また、Lnは自然対数であるlnを示すものである。
【0049】
また、Rは、熱伝導率測定装置20では、収容部8の半径L1と、冷却部7の半径L2との差である、L1−L2で表すことができる。Qは、より高温の温度調節器である加熱部9から供給される単位時間および単位面積当たりの熱量を示し、具体的な算出方法を説明すると、まず、電気ヒーター12を備えた加熱部9の周囲全体を断熱材13で覆い、かつ、粉体挿入部にも断熱材を充填する。その後、粉体の熱伝導率の測定時における電気ヒーター12の出力条件で、加熱部9を加熱する。この際の加熱部9の温度を温度センサ6によって測定する。この測定時の単位時間あたりの温度上昇に,加熱部9の比熱(この場合,真鍮で385J/kgK)と加熱部9の質量(この場合,1.33kg)を乗じて、単位時間あたりの供給熱量を得、続いて、該供給熱量を加熱部9の粉体充填側の表面積で除して熱量Qを算出することができる。
【0050】
およびrは、熱伝導率測定装置20においては、任意の温度センサを温度センサ2および温度センサ3とした場合、温度センサ3から温度センサ1までの距離と、温度センサ2から温度センサ1までの距離との差を示す。TおよびTは、熱伝導率測定装置20においては、任意の温度センサを温度センサ2および温度センサ3とした場合、温度センサ3および温度センサ2によって測定された温度を示す。
【0051】
<空隙率の算出方法>
粉体の空隙率εは、以下の式2
ε=1−w/(v×ρ)・・・(2)によって表すことができる。上記式2において、εは粉体の空隙率(-)、wは粉体の重量、vは粉体のかさ体積、ρは微粒子の密度を示している。
【0052】
粉体の重量wは、粉体の使用量を電子天秤等で測定する。または、粉体の使用量を抜き出す前後における試料瓶等の重量の差を測定することによっても、測定することができる。粉体のかさ体積vは、作業者が蓋部11の目盛りから、粉体が収容される収容部8の体積を読み取ることによって、測定することができる。尚、w/vは、粉体のかさ密度を意味する。
【0053】
微粒子の密度ρは、微粒子の材料が明らかな場合には、非特許文献2などの公知の文献から微粒子の密度ρを得ることができる。また、微粒子の材料が明らかでない場合には、例えば、粒子密度測定器(島津製作所製マイクロメリティクスAccuPyc1330)によって測定することが可能である。上記粒子密度測定器は、気体容積法(粉体工学会編、「粉体工学」、日刊工業新聞社、1998年3月30日、p.45を参照)によって、装置マニュアルに基づき測定可能である。
【0054】
本発明の装置を用いれば、粉体が可変であっても、上記式2から粉体の空隙率εを求めることができ、熱伝導率と空隙率との関係を求めることができる。
【0055】
<熱伝導率測定方法の具体例>
以下に、本発明に係る粉体の熱伝導率測定方法の具体例を示す。まず、測定対象となる粉体としては、微粒子がアルミナ、炭酸カルシウムおよび超高分子ポリエチレンをそれぞれ用い、媒体は全て空気とした。アルミナとしては、和光純薬工業株式会社製、炭酸カルシウムとしては、和光純薬工業株式会社製、超高分子ポリエチレンとしては、住友化学株式会社製のものを用いた。なお、式1における熱量Qは、370〔J/(s・m2)〕であった。
【0056】
微粒子である上記アルミナの密度ρは文献値から得た。上記微粒子を含む粉体の重量およびかさ体積を式2,3に基づき、空隙率が0.87となるように調節し、収容部8に粉体を収容した。なお、蓋部11は、温度変化によって粉体の空隙率が変化しないよう、粉体を収容した位置にて固定した。その後、冷却部7に冷却水を送液し、加熱部9を120℃となるよう電気ヒーター12を設定した。温度センサ1および温度センサ6における温度変化がともに3分間で±0.1℃以内の一定となり、冷却部7および加熱部9が恒温状態となった後に、温度センサ1〜温度センサ6が示した温度を表1に示した。また、上記温度センサ2〜温度センサ5は等間隔に設置されており、これらの温度センサ2・3,3・4,4・5間の距離は、6mmであり、L1及びL2の距離は、L1=40mm,L2=5mmに設定されている。
【0057】
次に、蓋部11を移動させ、収容部8の体積を減少させることによって、空隙率を0.84に変更した後に、温度センサ1〜温度センサ6が示す温度がともに3分間で±0.1℃以内の一定となった時点において温度センサ1〜6の温度が示す温度を表1に示した。同様にして、空隙率を0.80に変更した後に、温度センサ1〜6が示す温度を表1に示した。
【0058】
さらに、アルミナの粉体について温度センサの温度を測定した手法と同様に、微粒子を炭酸カルシウムまたは超高分子ポリエチレンに変更し、粉体の空隙率を変更させ、測定された温度センサ1〜6の温度を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
さらに、アルミナ、炭酸カルシウムおよび超高分子ポリエチレンのそれぞれの空隙率について、温度センサ2・3、3・4、4・5をそれぞれ任意の2箇所の温度センサとして熱伝導率を3点算出し、その平均値を最終的に算出された熱伝導率とした。アルミナの空隙率が0.87の場合、熱伝導率は0.25であった。同様に、表1の温度センサの測定値に基づき算出した各熱伝導率を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
また、表2に示した各粉体についての空隙率と熱伝導率との関係を図2に示す。同図は、本発明に係る空隙率および熱伝導率の関係を示すグラフである。同図に示すように、微粒子の種類によって、空隙率が増加した場合の伝導率の増加が著しく異なり、粉体の空隙率に応じて、熱伝導率を求める必要性があることが理解できる。本算出例では、所定の粉体の空隙率における熱伝導率を求めることができるのは勿論、同図における超高分子ポリエチレンのグラフのように、近似線を描くことによって、測定されていない粉体の空隙率を推定することもでき、本発明に係る粉体の熱伝導率測定方法は非常に有用であるといえる。
【0063】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、粉体の空隙率に応じて測定が可能な粉体の熱伝導率測定装置および粉体の熱伝導率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明における熱伝導率測定装置の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明における粉体の空隙率および熱伝導率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1〜6 温度センサ
7 冷却部(第1の円筒部)
8 収容部(第3の円筒部)
9 加熱部(第2の円筒部)
10 冷却器(第1の温度調節器)
11 蓋部
12 電気ヒーター(第2の温度調節器、加熱器)
13 断熱材
20 熱伝導率測定装置(粉体の熱伝導率測定器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径が互いに異なる少なくとも3層の円筒部を備える粉体の熱伝導率測定装置であって、
上記少なくとも3層の円筒部は、同心円を形成するように配置されており、
同心円の最も内側に位置する第1の円筒部には、第1の温度調節器が備えられ、
同心円の最も外側に位置する第2の円筒部には、第2の温度調節器が備えられ、
上記第1の円筒部と第2の円筒部との間に位置し、粉体が収容される第3の円筒部には、収容した粉体を封入する蓋部が備えられるとともに、
上記第3の円筒部には、同一水平面状に位置し、かつ、上記同心円の中心から水平方向において互いに異なる距離に、複数の温度センサが備えられており、
上記蓋部は、第3の円筒部の内容積を加減することができるように移動可能に設けられていることを特徴とする粉体の熱伝導率測定装置。
【請求項2】
上記第1の温度調節器が冷却器であり、
上記第2の温度調節器が加熱器であることを特徴とする請求項1に記載の粉体の熱伝導率測定装置。
【請求項3】
上記第2の円筒部の外周部に、断熱材が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の粉体の熱伝導率測定装置。
【請求項4】
第3の円筒部に収容された粉体の容積を、上記蓋部の高さに基づき測定可能であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体の熱伝導率測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の粉体の熱伝導率測定装置を用いる粉体の熱伝導率測定方法であって、
上記第3の円筒部に粉体を収容した後、上記蓋部によって粉体を封入し、
上記第1の温度調節器によって第1の円筒部を、上記第2の温度調節器によって第2の円筒部を、互いに異なる温度で恒温状態とし、
上記複数の温度センサのうち、任意の2つの温度センサが示す温度を測定し、
以下の式1
【数1】

(式中、Kは、粉体の熱伝導率 〔J/(s・m・K)〕、Rは、第3の円筒部の半径と第1の円筒部の半径との差(m) 、Qは、第1の温度調節器および第2の温度調節器のうち、高温の温度調節器から供給される単位時間および単位面積当たりの熱量〔J/(s・m2)〕、rおよびrは、任意の2つの温度センサが配置された位置Pおよび位置Pから、同心円の中心までの距離(m) 、TおよびTは、それぞれ位置Pおよび位置Pに位置する温度センサによって測定された温度(K)、Lnは自然対数lnを示す)
を用いて粉体の熱伝導率を算出することを特徴とする粉体の熱伝導率測定方法。
【請求項6】
請求項4に記載の粉体の熱伝導率測定装置を用いる粉体の空隙率測定方法であって、
空隙率測定の対象となる粉体は、微粒子と、微粒子を媒介する媒体とを含んでおり、
上記第3の円筒部に粉体を収容した後、上記蓋部によって粉体を封入して上記蓋部の高さから充填された粉体のかさ体積を算出し、
以下の式(2)から空隙率εを測定する方法。
ε=1−w/(v×ρ)・・・(2)
(式中、wは粉体の重量を、vは粉体のかさ体積を、ρは微粒子の粒子密度を表す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128318(P2009−128318A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306518(P2007−306518)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】