説明

粉体塗料組成物

【課題】 平滑性、接着力、耐候性に優れ、応力破壊に対する強度が強い塗膜が得られる粉体塗料組成物を提供する。
【解決手段】 (A)酸含有量が1〜50質量%のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー100質量部に対し、(B)ポリエチレン樹脂を20〜1900質量部、および、(C)酸含量が(A)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーの酸含有量の10〜90質量%であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを0.1〜100質量部含む粉体塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物に関する。さらに詳しくは、平滑性、接着力、耐候性に優れ、応力破壊に対する強度が強い塗膜が得られる粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂粉体塗料は、耐熱性、耐候性、耐薬品性及び耐衝撃性等に優れた塗膜を形成することができ、しかも、塗装効率が高く、厚膜の塗装が容易で、自由に着色できる等の利点から、腐食や汚れを防止したり、耐久性や美観等を付与する目的で、フェンス、鋼管、台所用品、自動車部品およびガーデニング用品等の金属製品のコーティング材料として広く用いられている。
【0003】
粉体塗料に用いられるポリエチレン系樹脂粉体塗料には、前記金属製品等の基材へのコーティング性能に優れる事が要求されている。しかしながら、未変性のポリエチレン樹脂だけが用いられた粉体塗料は、基材である金属との接着性が極めて悪いため、エッヂ部(被塗物の稜線部あるいは角部)から塗膜が切れるエッヂ切れと呼ばれる問題を生じたり、被塗物に衝撃が加わった際に塗膜が膨れたり、割れたり、はがれたりする問題がある。
【0004】
そこで、基材である金属との接着性を持たせるために、エチレンと不飽和カルボン酸類とを共重合した変性ポリエチレン樹脂またはそのアイオノマー、不飽和カルボン酸またはその無水物、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤でグラフト変性した変性ポリエチレン樹脂等を単独で使用したり、前記未変性ポリエチレン樹脂と混合して使用している。
【0005】
近年、接着性に優れた粉体樹脂組成物として、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、不飽和カルボン酸類変性ポリエチレン、造核剤の特定の割合からなる粉体塗料用樹脂組成物(特許文献1参照)、未変性ポリオレフィンに対して有機ケイ素化合物を含むポリオレフィン系樹脂組成物(特許文献2参照)ポリエチレン樹脂に対し、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂と核剤とを配合してなるポリエチレン系粉体塗料組成物(特許文献3参照)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の粉体塗料用樹脂組成物は、その塗膜の表面硬度が柔らかいため、パイプや鋼板の被覆に用いた場合、衝撃等により容易に塗膜表面が傷ついてしまい、意匠性が低下するだけでなく、酷い場合には塗膜が破れて内部の基材に錆が生じる場合があるという問題がある。さらに、基材の錆を防止するために昨今頻繁に用いられている亜鉛を含むメッキ鋼板に対し、当該粉体塗料用樹脂組成物の接着力は十分ではなく、衝撃等が加わった際に基材から剥離してしまい、塗膜の膨れや割れ、またその部分から錆が発生しやすくなる場合があるという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物は、その接着成分として有機ケイ素化合物を用いているが、有機ケイ素化合物は未変性ポリエチレンに比べて高価であるために添加量が限られる上、これらの成分は一般的に液体であり、なおかつ成分自体が粘着性、硬化性を有しているため、その扱いには熟練を必要とするため敬遠されており、ハンドリングを含めた改良が望まれている。さらに、フェンスやパイプ等の被覆に用いた場合、衝撃等により塗膜が破断または破壊しやすい場合があるという問題がある。
【0008】
特許文献3のポリエチレン系粉体塗料組成物は、その組成により接着性は向上しているが、核剤の添加によりその組成物の伸びが低下するため、フェンスやパイプ等の被覆に用いた場合、衝撃等により塗膜が破断または破壊しやすい場合があるという問題がある。
【0009】
このため、接着性に優れるだけでなく、被塗物にゆっくりとした加重(例えば、人がフェンスにもたれるような力)が加えられた場合、塗膜が伸びる事で加重に追随し、塗膜が膨れたり、割れたり、はがれたりしない粉体塗料組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−208856号公報
【特許文献2】特開2003−201375号公報
【特許文献3】特開平10−168379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、平滑性、接着力、耐候性に優れ、応力破壊に対する強度が強い塗膜が得られる粉体塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(A)酸含有量が1〜50質量%のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー100質量部に対し、(B)ポリエチレン樹脂を20〜1900質量部、および、(C)酸含量が(A)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーの酸含有量の10〜90質量%であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを0.1〜100質量部含む粉体塗料組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平滑性、接着力、耐候性に優れ、応力破壊に対する強度が強い塗膜が得られる粉体塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粉体塗料組成物は、(A)酸含有量が1〜50質量%のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー100質量部に対し、(B)ポリエチレン樹脂を20〜1900質量部、および、(C)酸含量が(A)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーの酸含有量の10〜90質量%であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを0.1〜100質量部含む粉体塗料組成物である。
【0015】
(A)酸含有量が1〜50質量%のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー〔以下、「(A)樹脂」と表記する場合がある〕としては、例えば、エチレンと(メタ)アクリル酸〔なお、本明細書においては、「アクリル」および「メタクリル」を合わせて「(メタ)アクリル」と表記する。以下同様。〕とを、ランダム状、ブロック状に共重合したエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびそのアイオノマー等が挙げられる。これらの(A)樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(A)樹脂の酸含有量は、1〜50質量%であり、好ましくは5〜30質量%である。(A)樹脂の酸含有量が1質量%未満の場合、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の接着力が低下し、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。また、(A)樹脂の酸含有量が50質量%を超える場合、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料組成物を得るのが困難になり、粉体流動性が悪くなる。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性、強度が悪くなる。
【0017】
本発明に用いられる(A)樹脂としては、後述する測定方法により測定した引張強さ、引張破壊呼びひずみ、メルトマスフローレイト〔以下、「MFR」という場合がある〕、および硬度が次の範囲のものが好ましい。
【0018】
(A)樹脂の引張強さは、1〜30MPaが好ましく、5〜25MPaがより好ましい。引張強さが1MPa未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。また、引張強さが30MPaを超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になるおそれがある。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなるおそれがある。
【0019】
(A)樹脂の引張破壊呼びひずみは、350〜1500%が好ましく、500〜1000%がより好ましい。引張破壊呼びひずみが350%未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなるおそれがある。また、引張破壊呼びひずみが1500%を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になるおそれがある。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなるおそれがある。
【0020】
(A)樹脂のMFRは、0.1〜100g/10分が好ましく、1〜80g/10分がより好ましい。MFRが0.1g/10分未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が不十分になるおそれがある。また、MFRが100g/10分を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜において、タレが発生したり衝撃強度が低下したりするおそれがある。
【0021】
(A)樹脂の硬度は、HDD10〜60が好ましく、HDD40〜60がより好ましい。硬度がHDD10未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が衝撃によって傷つきやすくなるおそれがある。また、硬度がHDD60を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業性が損なわれるおそれがある。
【0022】
なお、(A)樹脂としては、各種の市販品を使用することもできる。この場合、引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、および、硬度が上述の範囲のものが好ましい。
【0023】
(B)ポリエチレン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のエチレンホモポリマー;エチレンとα−オレフィンとの共重合体である線状低密度ポリエチレン等が挙げられる。これらの(B)ポリエチレン樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明に用いられる(B)ポリエチレン樹脂としては、後述する測定方法により測定した引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、および硬度が次の範囲のものが好ましい。
【0025】
(B)ポリエチレン樹脂の引張強さは、5〜50MPaが好ましく、10〜30MPaがより好ましい。引張強さが5MPa未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。また、引張強さが50MPaを超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業性が損なわれるおそれがある。
【0026】
(B)ポリエチレン樹脂の引張破壊呼びひずみは、150〜1500%が好ましく、300〜1000%がより好ましい。引張破壊呼びひずみが150%未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなるおそれがある。また、引張破壊呼びひずみが1500%を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になるおそれがある。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなるおそれがある。
【0027】
(B)ポリエチレン樹脂のMFRは、0.1〜100g/10分が好ましく、1〜80g/10分がより好ましい。MFRが0.1g/10分未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が不十分になるおそれがある。また、MFRが100g/10分を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜において、タレが発生したり衝撃強度が低下したりするおそれがある。
【0028】
(B)ポリエチレン樹脂の硬度は、HDD40〜65が好ましく、HDD45〜65がより好ましい。硬度がHDD40未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が衝撃によって傷つきやすくなるおそれがある。また、硬度がHDD65を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業性が損なわれるおそれがある。
【0029】
なお、(B)ポリエチレン樹脂としては、各種の市販品を使用することもできる。この場合、引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、および硬度が上述の範囲のものが好ましい。
【0030】
(B)ポリエチレン樹脂の使用量は、(A)樹脂100質量部に対し、20〜1900質量部であり、好ましくは25〜1800質量部である。(B)ポリエチレン樹脂の使用量が20質量部未満の場合、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料組成物を得るのが困難になり、粉体流動性が悪くなる。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性、強度が悪くなる。また、(B)ポリエチレン樹脂の使用量が1900質量部を超える場合、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の接着力が低下し、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。
【0031】
(C)酸含量が(A)樹脂の酸含有量の10〜90質量%であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー〔以下、「(C)樹脂」という場合がある〕としては、例えば、エチレンと(メタ)アクリル酸とを、ランダム状、ブロック状に共重合したエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体ならびにそのアイオノマー等が挙げられる。これらの(C)樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(C)樹脂の酸含有量は、(A)樹脂の酸含有量の10〜90質量%であり、好ましくは30〜70質量%である。(C)樹脂の酸含有量が(A)樹脂の10質量%未満の場合、得られる粉体塗料組成物の引張破壊呼びひずみの減少率が大きくなり、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。また、(C)樹脂の酸含有量が(A)樹脂の90質量%を超える場合、得られる粉体塗料組成物の引張破壊呼びひずみの減少率が大きくなり、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。
【0033】
本発明に用いられる(C)樹脂としては、後述する測定方法により測定した引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、および硬度が次の範囲のものが好ましい。
【0034】
(C)樹脂の引張強さは、1〜30MPaが好ましく、5〜25MPaがより好ましい。引張強さが1MPa未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。また、引張強さが30MPaを超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になるおそれがある。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなるおそれがある。
【0035】
(C)樹脂の引張破壊呼びひずみは、350〜1500%が好ましく、500〜1000%がより好ましい。引張破壊呼びひずみが350%未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなるおそれがある。また、引張破壊呼びひずみが1500%を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になるおそれがある。また、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなるおそれがある。
【0036】
(C)樹脂のMFRは、0.1〜100g/10分が好ましく、1〜80g/10分がより好ましい。MFRが0.1g/10分未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が不十分になるおそれがある。また、MFRが100g/10分を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜において、タレが発生したり衝撃強度が低下したりするおそれがある。
【0037】
(C)樹脂の硬度は、HDD10〜60が好ましく、HDD40〜60がより好ましい。硬度がHDD10未満の場合は、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が衝撃によって傷つきやすくなるおそれがある。また、硬度がHDD60を超える場合は、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業性が損なわれるおそれがある。
【0038】
なお、(C)樹脂としては、各種の市販品を使用することもできる。この場合、引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、および硬度が上述の範囲のものが好ましい。
【0039】
(C)樹脂の使用量としては、(A)樹脂100質量部に対し、0.1〜100質量部であり、好ましくは1〜90質量部である。(C)樹脂の使用量が0.1質量部未満の場合、得られる粉体塗料組成物の引張破壊呼びひずみの減少率が大きくなり、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。また、(C)樹脂の使用量が100質量部を超える場合、得られる粉体塗料組成物の引張破壊呼びひずみの減少率が大きくなり、本発明の粉体塗料組成物による塗膜が基材の変形に追随しにくく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生し、基材の錆が発生しやすくなる。また、本発明の粉体塗料組成物を製造するための後述する粉体化の作業の際、髭状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になり、この結果、本発明の粉体塗料組成物による塗膜の表面平滑性が悪くなる。
【0040】
本発明の粉体塗料組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、例えば、滑材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤および難燃剤等の成分を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の粉体塗料組成物は、粉体塗料を製造するための公知の各種の方法により製造することができる。具体的には、上記各成分をバンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダーもしくは押出機等の各種混練機を用いて混合、混練し、ペレットを製造する。そして、このペレットを機械粉砕法や冷凍粉砕法により粉砕し、篩を用いて所定の粒度に分級するなどすると、本発明の粉体塗料組成物を得ることができる。
【0042】
本発明の粉体塗料組成物は、主に、塗装作業性を高めることができる適度の粉末流動性を得る観点、および、塗膜にピンホールが発生するのを防止し、塗膜の表面平滑性を高める観点から、例えば上述のような製造方法におけるペレットの粉砕や分級を適宜実施することにより、中位粒子径が75〜500μm、安息角が24〜38度および嵩密度が250〜500kg/mになるよう設定するのが好ましい。
【0043】
本発明の粉体塗料組成物においては、下記に記載の方法により求められる引張破壊呼びひずみの減少率が、30%以下であることが好ましく、27%以下であることがより好ましい。引張破壊呼びひずみの減少率が30%を超える場合、塗膜にした際に、耐候性が低く、応力破壊に対する強度が弱くなる傾向がある。
【0044】
なお、引張破壊呼びひずみの減少率は、下記の式より求められた値である。
[減少率(%)]={[計算値(%)]−[粉体塗料組成物の測定値(%)]}
÷[計算値(%)]×100
[計算値(%)]=[(A)樹脂の測定値(%)]×[使用量比]
+[(B)ポリエチレン樹脂の測定値(%)]×[使用量比]
+[(C)樹脂の測定値(%)]×[使用量比]
ただし、それぞれの樹脂の[使用量比]は、(A)樹脂と(B)ポリエチレン樹脂と(C)樹脂の総和の使用量を1としたときの各割合である。
【0045】
通常、(A)樹脂と(B)ポリエチレン樹脂を混合した際、混合物の引張破壊呼びひずみは、その混合前の樹脂自体の引張破壊呼びひずみから算出される値より低い値となる。これについての明確な根拠は見出せないが、一般に、(A)樹脂と(B)ポリエチレン樹脂を混合した際、その相溶性が悪いため、(A)樹脂と(B)ポリエチレン樹脂の界面ではお互いに反発するような力が作用し、その結果、界面からの破壊を生じやすくなると考えられる。一方、本発明の粉体塗料組成物は、(A)樹脂と(B)ポリエチレン樹脂と(C)樹脂とを各々特定の範囲の比率でブレンドすることにより、界面強度が増して界面からの破壊が少なくなることにより、引張破壊呼びひずみの低下を防いでいると推測される。
【0046】
本発明の粉体塗料組成物は、粉体塗料に関する公知の塗装方法、例えば、流動浸漬塗装法、静電塗装法および溶射塗装法等の塗装方法により、各種の金属やセラミック等からなる基材に対して塗装することができ、また、ピンホールが発生しにくくエッジカバー性が良好な、表面平滑性、耐熱性、耐久性、耐候性および衝撃強度等に優れた塗膜を基材に対して付与することができる。
【0047】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
(A)樹脂としてエチレン−アクリル酸共重合体(ダウ・ケミカル株式会社の商品名“プリマコール 3460”、アクリル酸含有量:9.7質量%)100質量部、(B)ポリエチレン樹脂として線状低密度ポリエチレン樹脂(株式会社プライムポリマーの商品名“スミカセン−L GA801”)350質量部、(C)樹脂としてエチレン−アクリル酸共重合体(ダウ・ケミカル株式会社の商品名“プリマコール 3150”、アクリル酸含有量:3質量%)50質量部を、ヘンシェルミキサーで予備混合し、次いで押出機を使用して160℃で溶融混練してペレットを得た。
【0049】
なお、使用した(A)樹脂の特性(引張強さ、引張破壊呼びひずみ、MFR、硬度、密度)を表1に、(B)ポリエチレン樹脂の特性(前記項目と同じ)を表2に、(C)樹脂の特性(前記項目と同じ)を表3に示す。
【0050】
得られたペレットを機械粉砕し、42メッシュパスに分級して粉体塗料組成物を得た。得られた粉体塗料組成物の特性および評価結果を表4に示す。
【0051】
[実施例2〜10および比較例1〜4]
表1に示す(A)樹脂、表2に示す(B)ポリエチレン樹脂、表3に示す(C)樹脂を、表4の配合割合に変更した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料組成物を得た。得られた粉体塗料組成物の特性および評価結果を表5に示す。
【0052】
[樹脂および粉体塗料組成物の特性]
(1)引張強さ
本発明において、引張強さとは、日本工業規格:JIS K 7161(1994年)に記載されている「プラスチック−引張特性の試験方法」により測定される、「引張強さ」を意味する。この試験方法において用いられる試験片は、被験体の粉体を圧縮成形したものであり、具体的には以下の方法により調製したものである。
【0053】
鋼板(250mm×250mm×5mm)上にブリキ板(JIS G 3303:SPTE,250mm×250mm×0.3mm)を、ずらさずに積み重ね、また、それらの中央部に対角線を合わせるようにして枠板(外寸200mm×200mm、内寸150mm×150mm、厚さ1mm)を積み重ねる。被験体のペレットまたは粉体25gを当該枠板内に略均等に入れた後、当該枠板上に上記のものと同形のブリキ板および鋼板をこの順にずらさないようにして積み重ね、150℃で5分間静置する。そして、ゲージ圧力1MPaにより150℃で0.5分間の加熱プレスと、ゲージ圧力2MPaにより150℃で5分間の加熱プレスとを続けて実施した後、ゲージ圧力0.2MPaにより20℃で5分間の冷却プレスを実施する。このような加熱プレスおよび冷却プレスにより得られる圧縮成形片を試験片とした。
【0054】
(2)引張破壊呼びひずみ
本発明において、引張破壊呼びひずみとは、日本工業規格:JIS K 7161(1994年)に記載されている「プラスチック−引張特性の試験方法」により測定される「引張破壊呼びひずみ」を意味する。この試験方法において用いる試験片は、上述の「引張強さ」の測定において用いる試験片と同じものである。
【0055】
(3)メルトマスフローレイト(MFR)
本発明において、メルトマスフローレイト(以下、「MFR」という場合がある)とは、日本工業規格:JIS K 7210(1999年)に記載されている「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に従い、その「B法」の「附属書A(規定)メルトフローレイト測定のための試験条件」の「附属書A表」中の「条件D」(試験温度:190℃、公称荷重:2.16kg)において測定される「メルトマスフローレイト(MFR)」を意味する。
【0056】
(4)硬度
本発明において、硬度とは、日本工業規格:JIS K 7215(1986年)に記載されている「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」に従い、「デュロメータのタイプD」において測定される「硬さ」を意味する。この試験方法において用いられる試験片は、被験体の粉体を圧縮成形したものであり、具体的には以下の方法により調製したものである。
【0057】
鋼板(250mm×250mm×5mm)上にブリキ板(JIS G 3303:SPTE,250mm×250mm×0.3mm)をずらさずに積み重ね、また、それらの中央部に対角線を合わせるようにして枠板(外寸200mm×200mm、内寸150mm×150mm、厚さ3mm)を積み重ねる。次に、被験体の被験体のペレットまたは粉体75gを当該枠板内に略均等に入れた後、当該枠板上に上記のものと同形のブリキ板および鋼板をこの順にずらさないようにして積み重ね、150℃で5分間静置する。そして、ゲージ圧力1MPaにより150℃で0.5分間の加熱プレスと、ゲージ圧力2MPaにより150℃で5分間の加熱プレスとを続けて実施した後、ゲージ圧力0.2MPaにより20℃で5分間の冷却プレスを実施する。このような加熱プレスおよび冷却プレスにより得られる圧縮成形片を試験片とした。
【0058】
(5)密度
本発明において、密度とは、日本工業規格:JIS K 7112(1999年)に記載されている「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に従い、その「A法(水中置換法)」において測定される「密度」を意味する。この試験方法において用いる試験片は、上述の「硬度」の測定において用いる試験片と同じものを、さらに100℃の熱水に1時間浸漬した後、室温まで冷却したものである。
【0059】
[粉体塗料組成物による塗膜の評価]
(1)塗膜の表面平滑性
日本工業規格:JIS G 3141に記載されている「冷間圧延鋼板及び鋼帯」(1996年)に従い製造されたSPCC−SD鋼板(70mm×150mm×2mm)に対して、粉体塗料組成物を、流動浸漬塗装法により塗装し、塗装試料を得た。この際、流動浸漬塗装法の条件は、前加熱を280℃で6分間、流動浸漬時間を6秒間、後加熱を200℃で2分間とした。なお、前加熱直後の基材の表面温度は、接触式表面温度計にて測定した結果、250℃であった。塗装試料について、平面部における塗膜の表面平滑性を、肉眼観察により評価した。
【0060】
(2)接着力
上記「塗膜の表面平滑性」と同様の方法により塗装試料を得た後、塗膜面に、コの字型(100mm×25mm×100mm)にカッターで切り込みを入れ、切り込んだ10mmの先端の塗膜を鋼板からはがした。この塗装試料を動かないように固定した後、はがした塗膜の端をバネばかりに固定し、そのバネばかりを塗膜のはがれる方向(塗膜面に平行かつ25mmの幅の塗膜面が重なる方向)に50mm/分の速度で引っ張り、塗膜が鋼板からはがれる際の最大重量(単位:kgf)を読みとり、接着力とした。また、塗膜がはがれずに塗膜が破断した際は、最大重量(単位:kgf)を読みとり、破断時の接着力とした。
【0061】
(3)耐候性
上記「塗膜の表面平滑性」と同様の方法により塗装試料を得た後、日本工業規格:JIS K 7350−4「プラスチック−実験室光源による暴露試験方法− 第4部:オープンフレームカーボンアークランプ」(1996年)に準じ、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機株式会社製の商品名:サンシャインウェザーメーター S80BBR)にて促進試験を実施した。500時間ごとに3000時間まで、肉眼観察により塗装試料における亀裂の発生状況を確認した。なお、塗装試料において亀裂を発見した時間を亀裂発生時間とし、3000時間の試験終了後も亀裂が発生していない塗装試料は、3000時間以上と評価した。
【0062】
(4)曲げ試験
日本工業規格:JIS G 3452に記載されている「配管用炭素鋼鋼管」(1997年)に従い製造されたSGP鋼管(70mm×4mmφ)に対して、粉体塗料組成物を、流動浸漬塗装法により塗装し、塗装試料を得た。この際、流動浸漬塗装法の条件は、前加熱を280℃で7分、流動浸漬時間を6秒、後加熱を200℃で5分とした。なお、前加熱直後の基材の表面温度は、接触式表面温度計にて測定した結果、約250℃であった。
【0063】
塗装試料に対して、90度、10Rに曲げる曲げ試験を実施し、試験後の塗装試料について、亀裂の発生状況や膨れ、はがれを、肉眼観察により評価した。
【0064】
【表1】

【0065】
注)プリマコール:ダウ・ケミカル株式会社の商品名
ニュクレル:三井・デュポンポリケミカル株式会社の商品名
EAA:エチレン−アクリル酸共重合体
EMA:エチレン−メタクリル酸共重合体
【0066】
【表2】

【0067】
注)スミカセンは、株式会社プライムポリマーの商品名
ノバテックは、日本ポリエチレン株式会社の商品名
【0068】
【表3】

【0069】
注)プリマコールは、ダウ・ケミカル株式会社の商品名
ニュクレルは、三井・デュポンポリケミカル株式会社の商品名
レクスパールは、日本ポリエチレン株式会社の商品名
EAA:エチレン−アクリル酸共重合体
EMA:エチレン−メタクリル酸共重合体
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
表5に示された結果から、実施例1〜10の粉体塗料組成物は、引張破壊呼びひずみの減少率が小さいことがわかる。また、この粉体塗料組成物による塗膜は、接着力、耐候性に優れ、応力破壊(曲げ)に対する強度が強いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の粉体塗料組成物は、引張破壊呼びひずみの減少率が小さく、この粉体塗料組成物による塗膜は、接着力、耐候性に優れ、応力破壊に対する強度が強いため、基材が外部応力等により変形した場合であっても、基材の変形に追随しやすく、塗膜のはがれ、膨れ、割れが発生しにくく、基材の錆が発生しにくい。したがって、本発明の粉体塗料組成物は、各種の建築部材、厨房用品、自動車部品および日用品等に対して塗膜を付与するのに適しているのは勿論であるが、外部からの力を受けやすい基材、例えば、一般住宅の庭の柵や公園の柵等に数多く用いられているメッシュフェンスや、地中に埋設される配管などの鋼管、切り通しの法面や傾斜の大きいがけの崩落防止に用いられているメッシュフェンスにも適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸含有量が1〜50質量%のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー100質量部に対し、(B)ポリエチレン樹脂を20〜1900質量部、および、(C)酸含量が(A)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーの酸含有量の10〜90質量%であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを0.1〜100質量部含む粉体塗料組成物。
【請求項2】
引っ張り破壊呼びひずみの減少率が30%以下である請求項1に記載の粉体塗料組成物。

【公開番号】特開2010−180275(P2010−180275A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22644(P2009−22644)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】