説明

粉体観察用試料の作製方法

【課題】メッシュ上で十分に均一に分散された粉体観察用試料を得るための粉体観察用試料の作製方法を提供する。
【解決手段】粉体観察用試料の作製方法であって、溶媒と前記溶媒に可溶な分散剤とを含む溶液中に被観察粉体を混合し試料混合液を作製する混合工程と、前記試料混合液を湿式衝突型分散機にて分散させる分散工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の性状を観察するための試料作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体を原料とする材料は多く、優れた特徴や高性能を有する実用材料がある。例えば磁性材料、セラミック、塗料等である。これらの原料粉の粉体性状は、機械強度、磁気特性、電気特性の、物理的、化学的特性に大きく影響する。そのため、これらの原料粉の形態や寸法測定は、新材料の開発においても重要項目であり、その評価方法としてTEM(透過型電子顕微鏡)やSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた観察により測定している。
【0003】
これらのTEMおよびSEM観察を行う際の従来の試料作製方法は、例えばガラス瓶などに水と粉体を入れて、超音波洗浄器などを用いて分散し、スポイトなどで観察用試料台(メッシュ)に滴下した後、乾燥させていた。この場合、粉体を十分に分散させ、メッシュ上で均一に分散した試料を得ることが重要であり、例えば、特許文献1〜3で開示されているような種々の方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−9614号公報
【特許文献2】特開平10−318892号公報
【特許文献3】特開平7−151660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、磁性材料、金属粉射出成形材料、超電導材料、セラミックス材料、金属ペースト材料、建材用材料、塗料、合成樹脂材料、食品材料等で使用される粉体材料は微粒子化される傾向にあり、粉体の性状を観察するために観察用の試料を作製しようとしてもメッシュ上で十分に均一に分散された観察用試料を得るのは困難な状況になってきている。そのため、メッシュ上で部分的に分散しているところを時間をかけて探し出したり、何度も試料の作成をやり直すなど、正確な性状を観察するためには非常に手間のかかる作業が要求されるようになってきている。
【0006】
前述の従来技術では、特定の分散剤や界面活性剤、特定の合成樹脂と特定の溶媒を用いたりすることが開示されているが、粉体の分散方法として超音波分散機を使用しているので、近年の微粒子粉体の観察用試料の作製方法としては十分とはいえなかった。
【0007】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、メッシュ上で十分に均一に分散された粉体観察用試料を得るための粉体観察用試料の作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
粉体観察用試料の作製方法であって、溶媒と前記溶媒に可溶な分散剤とを含む溶液中に被観察粉体を混合し試料混合液を作製する混合工程と、前記試料混合液を湿式衝突型分散機にて分散させる分散工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
前記湿式衝突型分散機による分散工程の印加圧力が50〜300MPaであり、分散回数が1〜10回であることを特徴とする
【発明の効果】
【0010】
粉体観察用試料の作製に際し、溶媒と前記溶媒に可溶な分散剤とを含む溶液中に被観察粉体を混合し試料混合液を作製する混合工程と、前記試料混合液を湿式衝突型分散機にて分散させる分散工程を行うので良好に分散した観察用試料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本発明の粉体観察用試料の作製方法においては、溶媒と前記溶媒に可溶な分散剤とを含む溶液中に被観察粉体を混合し試料混合液を作製する混合工程と、前記試料混合液を湿式衝突型分散機にて分散させる分散工程と、を含むことが好ましい。
【0012】
混合工程で使用する混合手段としては、従来公知の粉体と液体とを混合する混合手段を用いることができ、例えばディスパー、ホモジナイザー、超音波分散機などを用いることができる。
【0013】
混合工程における粉体と分散剤の比率としては、粉体100重量部に対し分散剤を10〜500重量部用いることが好ましい。この範囲が好ましいのは、10重量部未満だと分散効果が不十分なり、500重量部を超えると効果が飽和に達するからである。混合液の非溶媒成分(以下、固形分ともいう)の割合は0.05〜5.0wt%であることが好ましい。この範囲が好ましいのは、0.05wt%未満だとメッシュ上の粉体の量が少なすぎて十分に観察できなかったり、5.0wt%を超えると粉体の量が多すぎて粉体の粒子同士が重なって観察が困難になったりするからである。混合工程における混合時間としては、通常30秒から10分が好ましい。
【0014】
溶媒としては、特に制限はなく、従来公知の溶媒を用いることができ、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、脂肪族、芳香族など各種の溶媒の中から分散剤の溶解性、粉体に対する濡れ性、蒸発速度などを勘案して適宜選択することができる。
【0015】
分散剤としては、特に制限はなく、従来公知の分散剤を用いることができ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18個の脂肪酸〔RCOOH(Rは炭素数11〜17個のアルキル基またはアルケニル基)〕、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、上記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、上記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ化合物の第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンはエチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、スルホン酸塩、りん酸塩などの各種塩、銅フタロシアニンなど各種の低分子分散剤、高分子分散剤を用いることができる。また、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどのポリウレタン樹脂、官能基として、−COOH、−SO M、−OSO M、−P=O(OM) 、−O−P=O(OM) [これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR’ R’’、−N+ R’’’ R’’’’R’’’’’ [これらの式中、R’ 、R’’、R’’’ 、R’’’’、R’’’’’ は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなる塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体やウレタン樹脂等を分散剤として用いてもよい。
【0016】
混合工程を経た試料混合液は、分散工程で分散される。分散工程で使用する分散手段としては、高剪断力を付与できる湿式衝突型分散機を用いることが好ましい。湿式衝突型分散機とは、分散液を高圧フランジャーポンプにて加圧し、狭い隙間(オリフイス)から放出させることにより高速ジェット流を発生させ、分散液同士または分散液と装置内壁、との衝突、剪断、キャビテーションなどの作用を利用して分散液中の粉体粒子を分散させるもので、極めて大きな分散力を有する。印加圧力は50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましく、200〜300MPaが最も好ましい。この範囲が好ましいのは、50MPa未満では、圧力が小さすぎで、分散効果が十分でなく、又300MPaを超えると効果が飽和したり、発熱が大きくなりすぎるからである。湿式衝突型分散機による処理回数は1〜10回が好ましい。この範囲が好ましいのは、10回を超えると効果が飽和したり、発熱が大きくなりすぎたりするからである。湿式衝突型分散機の例としては、上述の条件を満たすものであれば特に制限はなく、(株)ジーナス製のジーナスPY、(株)スギノマシン製のアルティマイザ―、吉田機械興業(株)製のナノマイザー 、三和機械(株)製のホモゲナイザー、マイクロフルイディックス社製のマイクロフルイダイザー等が挙げられる。
【0017】
分散工程を経て得られた分散液を少量採取し、メッシュの上に滴下させて、乾燥させることにより粉体観察用試料が得られる。観察用試料台としてのメッシュとしては特に制限はなく、従来公知のものが用いられ、応研商事(株)製のメッシュ等が用いられる。
【0018】
以下に実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例の部は重量部を示す。また、実施例および比較例の平均粒子径は、数平均粒子径を示す。
【実施例】
【0019】
実施例1:
《混合工程》
窒化鉄系磁性粉末(平均粒子径 17nm) 0.04部
高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース32550) 0.06部
メチルイソブチルケトン 99.90部

上記組成の混合液を出力200Wの超音波分散機にて2分間混合し試料混合液を得た。

《分散工程》
前記試料混合液を、(株)ジーナス製の湿式衝突型分散機ジーナスPYを使用し、印加圧力を200MPaにて10回分散処理をして分散液を得た。この分散液を少量採取し、あらかじめCu上にカーボンを蒸着させた応研商事(株)社製のシートメッシュ「エラスティックカーボン支持膜」に、滴下し、自然乾燥後、粉体観察用試料を得た。

実施例2:
印加圧力を200MPaから50MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

実施例3:
印加圧力を200MPaから100MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

実施例4:
分散処理回数を10回から1回に変更した以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

実施例5:
分散処理回数を10回から5回に変更した以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

比較例1:
混合工程の組成中、高分子分散剤を使用せず、水を12.00部使用し、超音波分散機による混合工程、湿式衝突型分散機による分散工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

比較例2:
混合工程の組成中、高分子分散剤を使用せず、メチルイソブチルケトンを99.96部使用した以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

比較例3:
超音波分散機による混合工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

比較例4:
湿式衝突型分散機による分散工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして粉体観察用試料を得た。

以下の方法により、得られた粉体観察用試料を評価した。
〈メッシュ上の粉体の分散状態〉
メッシュを透過型電子顕微鏡(TEM)のサンプルホルダーに装着し、直接倍率2万倍にて観察し写真撮影を行った。撮影画像の磁性粉末粒子を500粒子観察し、各粒子が少しでも重なっているか接触している場合を観察不可能粒子と判定し、観察可能な粒子が全体の何%あるかを判定基準とした。観察可能な粒子が70%以上である場合を◎、50%以上70%未満である場合を○、30%以上50%未満である場合を△、30%未満である場合を×とした。
【0020】
表1に評価結果を示した。表から明らかなように、本発明にかかる実施例1〜5の粉体観察用試料は、観察可能な粒子の割合が大きく、観察が容易であったに対して、請求項を満たさない比較例1〜5の粉体観察用試料は、観察可能な粒子の割合が小さく、観察が困難であった。
【0021】
【表1】

*)比較例3は、湿式衝突型分散機のオリフィスに磁性粉末が詰り分散ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体観察用試料の作製方法であって、溶媒と前記溶媒に可溶な分散剤とを含む溶液中に被観察粉体を混合し試料混合液を作製する混合工程と、前記試料混合液を湿式衝突型分散機にて分散させる分散工程と、を含むことを特徴とする粉体観察用試料の作製方法。
【請求項2】
前記湿式衝突型分散機による分散工程の印加圧力が50〜300MPaであり、分散回数が1〜10回であることを特徴とする請求項1に記載の粉体観察用試料の作製方法。