説明

粉塵処理剤、粉塵発生層の剥離方法及び浮遊粉塵の除去方法

【課題】粉塵発生層の剥離・除去作業による有害微粉塵の発生を効率的に防止し、作業能率を向上させる処理剤及び剥離方法、浮遊粉塵の除去方法を提供する。
【解決手段】極限粘度法に基づいて測定される数平均分子量が5×10 以上で、直鎖状のポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液からなる粉塵処理剤であって、前記ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液が0.0001〜0.01重量%の固形分濃度を有し、かつ乾燥することにより前記固形分濃度が上昇し、保水性ゲルを形成すること、前記保水性ゲルが非水溶性であることを特徴とする粉塵処理剤および、粉塵発生層の剥離方法、ならびに浮遊粉塵の除去方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が適用される主な技術分野を、下記(1)〜(3)に挙げる。
(1) 建造物、構築物、艦船、機器類、生産工場や生産設備などの内面に、断熱、防耐火、保温・結露水落下防止などの目的で吹き付けられた石綿、ガラス繊維、ロックウ−ルなどの有害微粉塵が発生する部分を、粉塵が飛散せずに安全に剥離除去することができ、作業者及びその周辺住民への悪影響を著しく低減できる粉塵処理剤に関し、また空気中に浮遊する粉塵及び被剥離表面に残留する該有害微粉塵を安定に閉じ込め、除去することができる粉塵処理剤及び剥離・除去方法に関する。
【0002】
(2) (1)に挙げた剥離・除去しようとする有害微粉塵が発生する部分にしばしば共存し、あるいは、倉庫、工場、家屋、装置、機械類、地下構築物、住宅などに蓄積・汚染する極めて有害なかび菌の胞子、有害細菌、ダニ類、ウイルス、すす、内燃機関の排煙、電池・電極工場での炭素微粒子、機械製作工場での金属微粉、金属酸化物、鋳型解体時に発生する粉塵、鉱石類、コ−クス、石炭、電極製造工場での炭素の微粉塵、セメント、その他粉末状の無機・有機薬品、砂塵、硬化した油膜、コンクリ−トなどの有害微粉塵などの一括撤去・除去・清掃などを行う作業者に頻発する健康障害危険を軽減・防止できる技術に関する。
(3) (1)及び(2)に挙げた汚染状態にある建造物、構築物、艦船、装置などを、鉄筋やコンクリ−トの切断や火薬の爆発による解体と解体物を撤去する時、事前に有害粉塵発生部分を処理しておくことにより、作業者や周辺にいる人畜への危険を軽減・防止できる技術に関する。
【背景技術】
【0003】
石綿などの剥離・除去作業時の粉塵発生防止のため、事前に水、無機塩水溶液、皮膜を形成するアクリル酸エステル樹脂の水溶液やエマルジョンなどの噴霧による湿潤処理が、行政当局や公的機関などから推奨されているが、現在の石綿則では義務化されていない。しかもこのような湿潤処理では翌日には水分が乾燥することが多く、目的を満足していない。また、このような湿潤噴霧液も、作業現場の湿度が低い場合には、翌日までに乾燥してしまうことが多く、ケレンやスクレ−パ−などで行う剥離作業時には、例え湿潤していても、作業空間の視界を失うほど微粉塵が飛散し、作業者に恐怖感を与え周辺の住民が微粉塵を吸入する危険に直面している。
またポリビニルアルコ−ル(例えば特許文献1参照)、アクリル酸エステル樹脂、その他の造膜性で接着力が強い高分子化合物の稀薄水溶液を噴霧してから剥離作業をするという技術が開示されている。
しかしこの場合希薄水溶液が被接着面まで浸透し、数時間で乾燥・皮膜ができ、ケレンやスクレ−パによる剥離作業の能率が低下する。
また密閉した作業室で作業をすると、作業室内に粉塵が発生し充満して、たちこめた粉塵のため視界が白くなる。また作業員が除去した乾燥又は固結した微粉塵を袋に入れる時にも微粉塵が発生し、床に流下し形成された粘着性の皮膜は、粘っこく、清掃が困難などの欠点も指摘されている。
【0004】
さらに空調機のアルミニウム製熱交換機の表面には、いずれも有害微粉塵であるかび菌、病原菌、すす、ダニなどと、煙草のヤニ、調理ミスト、内燃機関燃料の不完全燃焼物などとが粘着し、固結層を形成するため、有害微粉塵を発生させずに完全に除去することは困難であった。
浮遊微粉塵の除去については、重量平均分子量が100,000以上の水溶性高分子化合物、及び潮解性及び/あるいは結晶水形成能を有する無機塩を含有してなる浮遊粉体の水性処理剤が提案されている(例えば特許文献2参照)。
しかしこの提案の中で挙げられている陰性荷電や両性荷電のポリアクリルアミドの稀薄溶液を微細なミスト状で噴霧含浸させて形成した石綿塊は、剥離する際粉塵の発生を避けることができなかった。また剥離の際に有害微粉塵の飛散を防止するため、狭い閉鎖空間で行われるため、水性液の噴霧により湿度が瞬間的に100%RHに上昇し視野を喪失して、しばしば、作業者が危険にさらされるという問題があった。
更に広く使用されるアクリル系樹脂は、残留する有機溶剤や変異原性・発癌性のおそれがある未反応の単量体などが毒性や刺激臭を有するため、作業者が強い恐怖感と忌避感を抱き、このため作業者の確保が困難になりつつある。
【0005】
このような作業環境下では、作業空間の粉塵測定器による粉塵濃度の測定が困難となり、作業者のための科学的安全管理が不可能となりつつある。
2006年4月13日付け日本経済新聞社のNIKKEI NET 10によると、溶接や石材加工作業員が防塵マスクを着用しても、粉塵がマスク内に入る割合は、約24%に達し、塵肺の発症予防に役に立っていないとの岡山労災病院と岡山産業保険センタ−との共同研究結果が発表され、石綿の浮遊微粉塵吸入の完全防止も同様に不可能と報道された。
そこで、この吸入防止のために、剥離作業時の浮遊粉塵の発生が完全に防止できる目的に合致した処理剤と処理法も含めたシステムが求められている。
また、作業後に被剥離面に残留する有害微粉塵を確実に閉じ込めるためには、乾燥速度が早く、皮膜強度が大で、硬度が高くしかも衝撃や雰囲気の温度変化によって塗膜がひび割れや剥落せず、塗装作業や完全乾燥に至るまで、有機揮発性成分の含量が低く、低刺激臭で不引火性の低固形分の水性の閉じ込め剤が求められている。
【特許文献1】特開平01−250558号公報
【特許文献2】特開平02−149310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は以下の(1)〜(7)に挙げられる。
(1)微粉塵発生層への噴霧時には完全な水溶液で、浸透性が優れ、数時間後から翌日以降まである程度乾燥すると潤滑性の高い抱水ゲルを形成し、完全に乾燥せず、剥離・除去作業による有害微粉塵の発生を効率的に防止し、作業能率を向上させる処理剤及びシステムを提供すること。
(2)有害微粉塵発生層に(1)項の噴霧液を噴射塗装する時、微粉塵の発生を完全に防止できる噴霧法を提供すること。
(3)有害微粉塵発生層に、乾燥が遅く、強い衝撃が加わっても、浮遊粉塵が発生しない、浸透性の優れた剥離促進性薬剤を提供し、強い機械的衝撃を加えて有害微粉塵部の剥離作業をおこなっても微粉塵の発生・拡散をほぼ完全に防止する方法を提供すること。
【0007】
(4)作業所の足場や梯子などからの作業者の墜落、剥離工具類の見失いや刃先による負傷や不安感、作業能率の低下と有害微粉塵の吸入量の最大の原因となる高濃度で白く濁り、視野を失うほど高濃度の有害微粉塵の発生をほぼ完全に防止する方法を提供すること。
(5)有害微粉塵発生層に存在する有害細菌類、有害真菌類とこれらの胞子、ダニ、昆虫とこれらの死骸などの有害微粉塵も一括して除去し、作業者の危険性と不快感除き、これら有害微粉塵の近隣への拡散を防止する方法を提供すること。
(6)上記のように粉塵濃度計の連続測定が可能となる作業空間を作り、作業者や近隣への安全管理を可能とする処理剤及び方法を提供すること。
【0008】
(7)微粉塵発生層に噴霧、剥離・除去・剥離物のよせ集めと袋入れと運搬車両への積み込みと末端処理場への輸送後積み降ろしの各工程の作業時に有害微粉塵の発生と拡散をなくするか著しく低減し、除去物からの液ダレを無くして作業所の清掃を簡略化し、作業者と近隣の人畜の粉塵の吸入量を著しく低減する方法を提供すること。
(8)有害微粉塵発生層を剥離除去した後にも被剥離表面に残る微粉塵を閉じ込め、作業者の安全性と快適性、作業能率を著しく向上する方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について、鋭意検討した結果、特定の平均分子量を有し、0.0001〜0.01重量%の固形分濃度を有する直鎖状のポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液であって、固形分濃度が0.01重量%を越えることにより保水性ゲルを形成するポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液からなる粉塵処理剤を用いると、上記課題を解決することができることを発見するに及んで、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、極限粘度法を用いて測定される平均分子量が5×10
以上で、直鎖状のポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液からなり、前記ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液が0.0001〜0.01重量%の固形分濃度を有し、乾燥することにより固形分濃度が上昇し、保水性ゲルを形成すること、前記保水性ゲルが非水溶性であることを特徴とする粉塵処理剤を提供するものである。また本発明は、表面に粉塵発生層を有する物体の粉塵発生層に、前記の粉塵処理剤を噴霧し、粉塵発生層に湿潤・浸透させると同時に前記粉塵処理剤がゲル化した後、前記粉塵発生層に機械的作用を加えることにより、粉塵を飛散させることなく粉塵発生層を物体から剥離することを特徴とする粉塵発生層の剥離方法を提供するものである。さらに本発明は、空気中に浮遊する粉塵に請求項1〜7のいずれかに記載の粉塵処理剤を噴霧しゲル化することにより、前記粉塵処理剤で粉塵を閉じ込め、閉じ込められた粉塵を落下させることを特徴とする浮遊粉塵の除去方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
下記のように危険性の大きい作業は、社会的に必要性が非常に高いが、従来の薬剤や使用法では、作業者と近隣の人々の安全と衛生をほとんど守れず、現在危険な状態にある。本発明によれば、これらの作業において、効率を著しく向上することができる。
(A) 例えば高湿度下での作業が多い生鮮食品加工場、弁当工場、洗濯工場内の大型空調機は、病原性かび菌の培地となり易く、熱交換器の表面に胞子が5cm以上も盛り上がり、絶えず胞子と固有の悪臭を作業室内に排出している場合が多い。この室内での作業、これら工場の食品の喫食、空調機の清掃作業自体が危険であるが、本発明のシステムにより空調機内のかび胞子、同伴するすす、ディゼ−ル排煙、ダニなどの完全な除去洗浄と効果が持続する消毒や静菌塗装が安全に実施できる。
【0012】
(B) 建造物や構築物、装置・機器類、車両、艦船など内面に吹き付けたり巻き付けた石綿、ガラス繊維、ロックウ−ル、その他の無機繊維類、沈着したすす、金属粉、化学薬品、ハウスダスト、かび菌、ダニ類などが混合した有害微粉塵の処理作業を有害性、危険性及び不快性を伴わずに行うことができる。
(C) 種々の生産工場内の床やその他の表面に有害な微粉塵が堆積したり粘着したりした汚染物を清掃する場合、汚染物に本発明の処理液を散布すると保水性ゲルを形成するので、吸引圧を適度に調節すれば、吸引式掃除機の使用も可能となり、箒やモップによる有害微粉塵の集積作業なども安全かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の粉塵処理剤は、極限粘度法を用いて測定される平均分子量が5×10 以上で、直鎖状のポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液からなるものである。
本発明に使用するポリ(メタ)アクリルアミドの平均分子量が極限粘度法を用いて測定される値で5×10以上であれば、保水性ゲルの形成能が大きく、本発明の目的に適するものとなる。平均分子量が5×10未満では、凝集力が不足し、粉塵処理剤の機能及び持続性が低下する。平均分子量は、1.0×10以上であることが好ましく、1.5×10以上であることが最も好ましい。平均分子量が5×10未満のものであっても、平均分子量1.0×10 以上のものに低率で混合することにより平均分子量が5×10 以上になれば、使用することができる。
また本発明に使用するポリ(メタ)アクリルアミドは、噴霧のし易さの点で直鎖状であることが必要である。
さらに形成された保水性ゲルは、非水溶性であるので、湿気等の水分によって溶解することがなく耐久性に優れ、剥離後でも、長期間粉塵を発生せずに取り扱うことができる。
【0014】
本発明の粉塵処理剤は、前記ポリ(メタ)アクリルアミドの0.0001〜0.01重量%水溶液あるいは水分散液として使用することができる。
粉塵処理剤の粉塵処理とは、例えば粉塵を発生する部分を有する物体の粉塵発生層から粉塵が発生するのを防止するため、粉塵処理剤を塗布・散布し、湿潤・ゲル化して粉塵を発生させずに物体から粉塵発生層の剥離を促進すること、空気中に浮遊している粉塵に粉塵処理剤を噴霧して粉塵を捕捉しゲル化して粉塵を沈降させること、粉塵が積層又は付着した面に粉塵処理剤を塗布・散布し清掃することにより粉塵を取り除くこと、粉塵が発生する物体に粉塵処理剤を塗布・散布し湿潤・ゲル化して粉塵を発生させずに物体の解体を促進すること等を意味するものである。
本発明の粉塵処理剤の対象とする粉塵又は粉塵発生物質としては、例えば石綿、ガラス繊維、ロックウ−ル、その他の無機繊維類、沈着したすす、金属粉、化学薬品、ハウスダスト、かび菌、ダニ類などが挙げられる。
【0015】
粉塵発生層の湿潤処理・剥離促進処理用に用いるには、0.001〜0.002重量%ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液であることが好ましく、粉塵が沈降した床の洗浄用には、0.002〜0.005重量%ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液であることが好ましく、空調機の熱交換機の洗浄用には、0.001〜0.003重量%ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液であることが好ましい。
【0016】
本発明の粉塵処理剤の必須成分として、ポリ(メタ)アクリルアミド(以下、PAMという)が最良である理由を説明する。
(1)PAMは非粘着性で低接着性を有する。
天井に接着剤と主に吹き付けられた石綿層に、(メタ)アクリル酸とこのアルキルエステル類との共重合樹脂(いわゆるアクリル樹脂)やポリビニルアルコ−ルなど高接着力の造膜性高分子化合物等の水溶液等を吹き付け一旦乾燥すると、ケレンやスクレ−パ−で剥離・除去する際にこの接着力の強い皮膜も石綿層と共に除去する必要があるため、著しく作業能率を低下させ、乾燥した後では該皮膜と石綿との混合した粉塵を発生・拡散させ、まだ湿潤した条件では、該微粉塵と現行使用品とが混合した粘着性皮膜が作業能率を著しく低下させるが、本発明のPAMは非粘着性で低接着性を有するため、このような欠陥が生じない。
【0017】
(2)PAMは有害微粉塵の発生・拡散防止能力に優れる。
ほとんどの微粉塵が陰性及び/又は陽性に荷電していることが知られているが、本発明のPAMは他の天然及び合成高分子と比較して各段に高分子量で、極限粘度法を用いて測定される平均分子量が5×10 以上のものの水中での直鎖延伸長さは約42μmと試算される。本発明者らは、この点に着目し後記の4種類の異なる荷電性の中で、最も剥離処理時の微粉塵の発生・拡散抑制効果が低いと判断された非荷電性PAMでも、石綿吹き付け層のある現場での剥離除去試験で、水素結合を形成して多量の水分子と水のクラスタ−を保持するため、湿潤状態にある限りは、単なる水やアクリル樹脂の水溶液で微粉塵を湿潤された場合と比較して、スクレ−パ−などによる剥離処理時の微粉塵の発生・拡散性が著しく抑制される。
【0018】
(3)PAMを塗布した場合、タレ(sagging)が生じず、清掃作業が容易である。
現在業界で使用中の湿潤・剥離促進剤を、垂直方向の有害微粉塵発生層に噴霧塗布すると、強いタレを生じ、床や塗布面の下部や養生シ−トなどを著しく汚染するため、この清掃作業は、困難を極めている。ところで、本発明の湿潤・剥離促進剤は、このような欠点が非常に少ないか、全くないため、作業者の転倒による負傷を防ぎ作業能率を著しく向上する。
(4)PAMは使用時、臭気が発生しない。
現在業界で使用中のアクリル樹脂は、未反応単量体やイソプロピルアルコ−ルなどによる刺激臭が強く、変異原性が陽性で発癌性とされている未反応の単量体を含むが、本発明のPAMを用いた湿潤・剥離促進剤は、これらを含まないため、作業者や周辺の住人に対する安全性向上に貢献し、不快感を与えない。
(5)本発明のPAMを浮遊粉塵に噴霧すると速やかに沈降する。
本発明のPAMを用いた粉塵処理剤は、粉塵に噴霧し、乾燥するとゲル化するので、被覆した粉塵が速やかに落下し、落下した粉塵から再度粉塵が飛散することがない。
以上が粉塵飛散防止・粉塵捕捉等の点で合成高分子としてPAMを用いると最良である理由である。
【0019】
次に、本発明に使用するPAMの荷電性と水溶液のpHについて説明する。本発明で使用するPAMは、下記のように非荷電、陰性、陽性及び両性の4種類がある。
(a)弱酸性から中性に調整した非荷電のPAMの水溶液は、アミド基相互間の水素結合によって分子が水中に広がらないため粉塵発生・拡散阻止効果は限られるが、ゲル形成能を有さない。この場合ゲル化剤を使用することにより本発明の目的に適した保水性ゲルを生成することができる。
(b)弱酸性から塩基性に調整した陰性のPAMの水溶液は、陰性基間の反発力により分子が広がり、粉塵発生・拡散阻止効果はあるが、粉塵発生層を剥離する場合の微粉塵発生・拡散阻止効果は余り大きくない。この場合もゲル化剤を使用することによりこれらの効果を大きくすることができる。
【0020】
(c)強酸性から中性に調整した陽性のPAM水溶液は、陽性基間の反発力により分子が広がり、粉塵発生・拡散阻止効果は大きくなるが、粉塵発生層を剥離する場合の微粉塵の拡散防止効果は余り大きくない。この場合もゲル化剤を使用することによりこの効果を大きくすることができる。
(d)弱酸性から弱塩基性に調節した両性のPAM水溶液は、有害粉塵発生層への浸透性は(b)〜(c)と同様に優れ、かつ両荷電基の間に吸引力が生じるので、有害粉塵発生層に浸透して乾燥すると、分子内及び分子間の造塩結合によってゲル化するため、最良の粉塵発・拡散阻止効果を示すので、最も好ましい。
(e)しかし、(d)を高湿度下で使用すると、乾燥が遅れ、ゲル化速度が著しく遅れることがあるので、この場合には、ゲル化剤を添加することにより最良の粉塵発生・拡散阻止効果を得ることができるので、最も好ましい。
【0021】
このような両性PAM水溶液の陰性荷電基を有する単量体の例は、(メタ)アクリル酸及び/又はビニルスルホン酸、共重合性の不飽和酸、及びこれらの水溶性の塩の1種以上であり、また好ましい陽性基を有する単量体の例は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレ−ト、アミノメチルアクリルアミド、ビニルイミダゾリンの1種以上である。PAMは、これらの陰性基と陽性基の合計が例えば30〜70%モルで、両性基の比率が等モル有するものに汎用性があるため好ましい。
しかし、ススや石綿のように陰性に帯電している有害微粉塵の場合は、陽性基と陰性基との比(陽性基/陰性基)が、例えば70モル%:30モル%のものが好ましく、陽性に帯電している有害微粉塵には、30モル%:70モル%のものが好ましい。
本発明の粉塵処理剤は、前記のとおり、PAMのほかに、ゲル化剤を含むものであることが好ましい。PAMは、前記のとおり、両性荷電体でかつ高分子量であれば造塩結合によりゲル化し非水溶性のゲルを形成するのでゲル化剤は必ずしも必要ないが、PAMが低分子量の場合、ゲル化しても非水溶性のゲルを形成せず、本発明の効果を発揮することができなくなるので、この場合ゲル化剤を含むことが必要である。
【0022】
かかるゲル化剤としては、例えばアジピン酸ジアンモニウム、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、アミノポリクリルアミド、硝酸マグネシウム、2価のカルボン酸、グリオキザ−ル、グルタルアルデヒド、前記ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液と逆荷電を有する(メタ)アクリルアミド及び/又は他の高分子化合物等が挙げられる。これらのゲル化剤の1種以上をPAMの固形分に対して1〜100重量%を水溶液状で添加するのが好ましいが、20〜80重量%の範囲で添加するのが、最も好ましい。
【0023】
以上をまとめると、最良の結果を得るためには、平均分子量が好ましくは1.0×10 以上、さらに好ましくは、1.5×10 以上の両性荷電性のPAMの水溶液であって、使用時は完全な水溶性を保つが、有害微粉塵層に浸透して濃度を上昇させ、速やかに強固な保水性ゲルを形成することができ、かつこの保水性ゲルが非水溶性であるPAMの水溶液又は水分散液からなる粉塵処理剤であることが必要である。
【0024】
次に本発明に使用するPAM水溶液あるいは水分散液の具体例(A)〜(G)を記載する。
(A)(メタ)アクリルアミドと分子中にカルボキシル基及び/若しくはスルホン基、ならびにエチレン性不飽和結合を有する化合物との共重合体及びゲル化剤を含む陰性荷電水溶液あるいは水分散液。
(B)(メタ)アクリルアミドを必須成分とするポリ(メタ)アクリルアミド重合体又は共重合体中のアミド基を水中で加水分解し、これにゲル化剤を加えた陰性荷電水溶液あるいは水分散液。
(C)前記(A)及び/又は(B)のポリ(メタ)アクリルアミド重合体又は共重合体中のアミド基の10〜90モル%をメチロ−ル化し、更にメチロ−ル化度と当量以上の炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコ−ル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基の1〜3置換アミン類;N−ビニ−ル−2−ピロリドン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、ホモピペラジン、N−メチルピペラジン、2−メチルピペラジン、ピペリジン、ピラジン、モルホリン及びその1〜3アルキル基置換体の1種以上を反応させて陽性基を導入したポリ(メタ)アクリルアミドの両性荷電水溶液あるいは水分散液、又はこれにゲル化剤を1種以上加えた両性荷電水溶液あるいは水分散液。
【0025】
(D)(メタ)アクリルアミドと分子中にカルボキシル基及び/若しくはスルホン基、ならびにエチレン性不飽和結合を有する単量体と分子中にカチオン基及びエチレン性不飽和結合を有する単量体とに、不活性気体を吹き込み酸素を含まない気流中で、過酸化物の存在下に共重合して得た両性荷電の三元共重合体の水溶液あるいは水分散液、又はこれにゲル化剤を1種以上加えた両性荷電水溶液あるいは水分散液。
(E)(メタ)アクリルアミドと分子中にカチオン基とエチレン性不飽和基とを有する単量体とを反応させて陽性基を導入したポリ(メタ)アクリルアミドの陽性荷電水溶液あるいは水分散液にゲル化剤を1種以上加えた水溶液あるいは水分散液。
(F)(メタ)アクリルアミドを必須成分とする無荷電の重合体又は共重合体に(A−2c)項と同じ方法で陽性基を導入した陽性荷電の重合体及び/又は共重合体の水溶液あるいは水分散液にゲル化剤を1種以上加えた水溶液あるいは水分散液。
【0026】
(G)カルボキシル基を有する単量体50モル%以下とその他の重合性単量体とに、不活性ガスを吹き込み、過酸化物を含む水、アンモニア水、エチルアルコ−ル中で溶液重合した後、減圧下に未反応単量体とエチルアルコ−ルとを水蒸気蒸留で除き、更にアンモニア水を加えた水溶性の重合物を固形分換算で、(A)〜(F)それぞれの固形分濃算で50重量%以下混合した水溶液あるいは水分散液、又はこれにゲル化剤を1種以上加えた水溶液あるいは水分散液。
【0027】
本発明に使用するPAM水溶液には、有害微粉塵と共に形成する保水性ゲルを、有害微粉塵の形成面からの剥離作業を完全にするためには、潤剤及び浸透剤として、脂肪酸塩及び/又はその誘導体を含むことが好ましい。かかる脂肪酸塩及び/又はその誘導体は水溶性、水分散性、乳化性、すなわち水性に調製することが好ましく、その使用量はPAM水溶液に対し0.1〜5重量%程度であることが好ましい。
【0028】
脂肪酸塩は、炭素数が12〜24で、二重結合数が1か0の不乾性で、低臭性の脂肪酸の塩類が好ましく、特に炭素数が16〜18の脂肪酸であることが好ましい。炭素数が16〜18の脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。脂肪酸の塩としては、アミン塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられる。これらの塩のうち、アミン塩が好ましい。特にモノイソプロパノ−ルアミン塩、ジイソプロパノ−ルアミン塩、トリイソプロパノ−ルアミン塩が好ましい。親水性の有害微粉塵は、一般にタ−ル類や油脂類など親油性の汚染物と混合し固結していることが多く、アミン塩であれば疎油性が強い微粉塵発生層への浸透性と剥離促進効果が非常に優れているので、剥離、洗浄が容易である。
また潤剤としては、金属塩が優れているので、これらアミン塩とアルカリ金属塩との併用が最も好ましい。アミン塩、金属塩の具体例としては、アミン石鹸、金属石鹸等が挙げられる。
【0029】
本発明の粉塵処理剤で処理した微粉塵発生層の剥離の容易さは、作業時の室内の湿度に大きく左右される。前記脂肪酸塩は、かなり乾燥遅延剤及び保湿剤として機能するが、湿度が低い日や冬季や夏期で高温少が続く場合には、吸湿剤を加えることが好ましい。年間を通じて使用することにより、乾燥期の粉塵発生層の過乾燥による剥離作業の能率の変動を防止することができる。
【0030】
前記吸湿剤としては種々挙げられるが、低毒性、環境への排出時の環境への汚染性や水棲動物への蓄積性がなく、金属への腐食性がなく、沸点が150℃以上で無臭性、潮解性で本発明のPAM水溶液と混合できる濃度範囲がある物質であることが好ましい。これらの物質としては、例えば塩化第一鉄、三ヨウ素1−カリウム、硫酸水素カリウム、チオ硫酸カリウム、アミノトリメチレンホスホン酸とこのアルカリ金属塩、チオ硫酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、硝酸マグネシウム、酢酸カリウム、塩化マグネシウム、塩化マグネシウムカリウム、テトラクロル亜鉛酸アンモニウム、エチルアセトアミド塩酸塩、18−クラウン−6、グリセリン、トリエチレングリコ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2,3−ブタンジオ−ル、2−メチルブタンジオ−ル、2−メチル−2,3−プロパンジオ−ル,1,5−ペンタンジオ−ル、1,2−ヘキサンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、2,5−ヘキサンジオン、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、2,5−ヘキサントリオ−ル、2−メチルイミダゾ−ルなどが挙げられる。これらを1種又は2種以上用いることができる。これらの吸湿剤の使用量としては、0.01〜1重量%であることが好ましく、0.1〜0.2重量%であることがより好ましい。
冬季の低湿度時の剥離作業を容易にするためには、塩化カリウム及び/又はトリエチレングリコ−ルを0.05〜0.5重量%加えることも好ましい。
【0031】
また本発明の粉塵処理剤は、殺菌剤、静菌剤又は防腐剤のいずれかを含むことが好ましい。
本発明の粉塵処理剤で剥離・除去・清拭する有害微粉塵発生層には、通常は有害微粉塵の1種である真菌、細菌、ウイルス、ダニ等が共存している。空調機のアルミニウム製の熱交換機の表面や室内の石綿層などには、人畜を刺咬しないが真菌の胞子を摂取するコナダニが増殖すると、このコナダニを捕食して人畜を刺咬するツメダニが誘引され増殖する。従ってこの有害菌や胞子を完全に除去すれば、コナダニとツメダニもほぼ同時に除去できる。
【0032】
前記殺菌剤、静菌剤又は防腐剤は、作業者や近隣住民の安全衛生の観点から、該作業の所在場所に存在する種菌を採取し、これらを加えた培地で菌の増殖試験を行い、抗菌スぺクトラムの範囲内であることを確認することが必要である。前記殺菌剤・静菌剤又は防腐剤としては、例えば2−ブロモ−3−ニトロ1,3−プロパンジオ−ル、 5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1、2ベンゾチアゾロン、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、アルキルジメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウ、塩化ベンゼトニウム、1,2−ベンツイソチアゾロン及びこのナトリウム塩及びこのアミン塩、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノ−ル、2,4,5,6−テトラクロロイソフタルニトリル、パラクロロフェニ−ル−3−ヨ−ドプロパギルフォルマ−ル、3−ヨ−ド−2−プロパギ−ルブチルカルバメ−ト、1−[(ジヨ−ドメチル)スルホニル]−4−メチルベンゼン、N,N´−ジメチル−N´(ジクロロフルオロメチルチオ)−フタルイミド、N´フェニルスルファミド、2、3、3−トリヨ−ドアリルアルコ−ル、2,3,5,6−テトラクロル−4−(メチルスルホニル)ピリジン、2−(ピリジルチオ−1−オキシド)ナトリウム、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチルイソチアゾリン、1,2−ベンゾチアゾロン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン3−オン、1−2−ベンゾチアゾロン、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾイミダゾ−ル、2−(4´−チアゾリル)ベンゾイミダゾ−ル、2−メトキシカルボニルアゾ−ル、2−(4´−チアゾリル)ベンゾイミダゾ−ル、2−メトキシカルボニルアミノベンゾイミダゾ−ル、10,10´−オキシビスフェノキアルシン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、ポリヘキサメチレンバイアナジンの塩、N−ジメチルN´−ジメチルN´(フルオロジクロルメチルチオ)スルファミドの塩酸塩、グルコン酸クロルヘキシジン 2−(カルボメトキシアミノ)−ベンツイミダゾ−ル、パラクロロメトキシレノ−ルのナトリウム塩、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾ−ルの塩酸塩、3−クロロ N−メチルイソチアゾリン3−オン、次亜塩素酸のアルカリ塩、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸の1アルカリ金属塩、モノクロロイソシアヌル酸の2アルカリ金属塩、ポピドンよう素等が挙げられる。
これらの1種または2種以上用いることができる。これらの抗菌スペクトラムを拡大するためには、1種類を単独で使用するよりも、相溶性のよいものを3種類以上で混合した製剤を使用することが好ましい。
【0033】
次に本発明の粉塵発生層の剥離方法及び浮遊粉塵の除去方法について説明する。
すなわち本発明の粉塵発生層の剥離方法は、表面に粉塵発生層を有する物体の粉塵発生層面に、前記粉塵処理剤を噴霧し湿潤・浸透させた後、前記粉塵発生層に機械的作用を加えることにより前記物体から粉塵発生層を剥離するものである。
【0034】
この場合、粉塵発生層とは、物体に、前記粉塵の例として挙げた石綿、ガラス繊維、ロックウ−ル、その他の無機繊維類、すす、金属粉、化学薬品、ハウスダスト、かび菌、ダニ類などが付着又はこれらが積層した部分で、剥離・清掃等の処理によって粉塵を発生する可能性のある部分を意味する。
粉塵発生層に粉塵処理剤を噴霧し養生すると、例えば粉塵発生層が石綿などの無機繊維の場合、無機繊維に浸透して展着し、石綿などの無機繊維間を湿潤させ保湿効果が発揮されるので、剥離しやすくなる。この際、ポリ(メタ)アクリルアミドが非粘着性・非接着性であり、かつ平均分子量が5×10
以上の高分子量であるので、浸透・湿潤と同時に固形分濃度の減少によりゲル化し、無機繊維自体が破壊されても、微粉塵を発生せずに石綿を容易に剥離することができる。また剥離された石綿は、粉塵処理剤のゲルにより固着されているので、長期間粉塵を飛散させることなく取り扱うことができる。
【0035】
噴霧・吹きつけは、二流体ノズル型噴霧機、一流体ノズル型噴霧機などを使用する。これらのうち、一流体ノズル型噴霧機で噴霧することが好ましい。この一流体ノズル型噴霧機は、空気を同伴せず、液体だけを噴出するものを意味し、単に気泡が入らないものを意味しない。
機械的作用を加える方法としては、ケレン、スクレ−パ−又はハンマ−などによる方法が挙げられる。
【0036】
また粉塵発生層を剥離した後に、残留している粉塵が拡散するのを防止するため、前記粉塵発生層を剥離した後に、物体表面に水溶性の皮膜形成能のある高分子化合物を塗布することが好ましい。
かかる水溶性の皮膜形成能のある高分子化合物としては、ポリエステル、ポリエステルポリエ−テル、ポリアミド、ポリエ−テル、ポリウレタン及び/又はこれらの誘導体、(メタ)アクリル酸の重合体及び/又は共重合体及びこれら酸とのアルキルエステル及び/又はこれら酸の共重合性単量体との共重合体及び/又はこれらの塩、キトサンの塩、ポリアリルアミンの塩及びポリビニルアルコ−ルが挙げられ、これらであることが好ましい。これらのうち、1種以上を使用することができる。
さらに、前記粉塵処理剤を粉塵発生層に湿潤・浸透させる前又は湿潤・浸透させた後に、粉末状及び/又は粒状の吸水性ゲルを散布しておくことが好ましい。
【0037】
本発明の浮遊粉塵の除去方法は、空気中に浮遊する粉塵に粉塵処理剤を噴霧しゲル化することにより、浮遊粉塵を閉じ込め、閉じ込められた粉塵を落下させるものである。
噴霧方法としては、前記のとおり、二流体ノズル型噴霧機、一流体ノズル型噴霧機等で噴霧する方法が挙げられるが、前記粉塵を剥離する場合と同様に、一流体ノズル型噴霧機を用いるのが好ましい。
浮遊粉塵に粉塵処理剤を噴霧することにより、高分子量の処理剤、好ましくはゲル化剤を含む処理剤がゲル化しつつ粉塵を閉じ込めるため被覆効率が高くなるとともに、落下し、乾燥した後は強固な乾燥皮膜が形成されることになる。このため一度落下した粉塵は、これらの粉塵を取り扱う際にも飛散することがなく、長期間再度飛散することがないのである。
【実施例】
【0038】
以下、石綿層の剥離及び浮遊粉塵への噴霧について、実験を行った。
<石綿層の剥離>
(比較例1)
近く解体を予定している3階建ての鉄筋コンクリート製ビルには、各階の天井板を撤去した上の階の床の裏面、上の階の床面を撤去した天井面との間にある鉄骨の躯体(柱と梁)の表面には、耐火性を与えるため素地を完全に覆うように、長さ約30mmの石綿の短繊維が接着剤と共に吹き付けられていた。
作業者は、上記ビルの石綿を剥離する作業を行うにあたって、有害な微粉塵の吸入と作業室から微粉塵の流出を防止するため、室内全面に透明なポリエチレンフィルムを貼って室内を気密状にし、さらに外気を吸引する管に連結した。ポンプで室内空気を吸引し、該ポンプの後に取り付けられているヘパフィルターで微粉塵を完全に除去して作業室内を換気していた。この室内でケレン棒やスクレーパーを用いて石綿剥離作業をすると、たちまち作業者が視界を失うほど白い微粉塵が発生する状態であった。
この微粉塵は、乾燥状態では、作業者が指定防塵用マスクを着用しても完全には除去できず、作業者は有害微粉塵を相当量吸入することが避けられないという、研究者の報告がある。
そこで、通常の二流体ノズルで、粒子径が25μmの二流体ノズル型噴霧機で水を約30ml/分の割合で石綿層に対して垂直に2分間噴霧した。すると石綿層全体に水が浸透していることを確認できたが、噴霧機から発生する気流のため、目視できる程度の白い微粉塵の発生を認めた。
【0039】
(比較例2)
比較例1の作業現場と同じ室内の別の場所で、石綿層に対し、噴霧機を空気のみで噴出し吸液とその吐出をそれぞれ独立させるプランジャーポンプを用い、空気を全く排出しない一流体ノズル型噴射洗浄機により、水140ml/分で2分間1mの石綿層面に噴射した。この場合比較例1よりも多い水噴射量であったにもかかわらず、微粉塵の発生量は目視判定でかなり低下していた。しかし噴射し湿潤し乾燥した粉塵層をケレン棒により剥離すると、粉塵が著しく多く発生し、作業者の保護眼鏡の表面に付着し視野の低下が著しかった。
(比較例3)
比較例2に記載した水の代わりに、湿潤剤として4%の塩化マグネシウムの6水塩の水溶液を用いて、比較例2と同条件で石綿層に噴射した。この場合1日経た後にも湿潤状態を保ったが、ケレン棒やスクレーパーによる石綿層の剥離作業時に白い粉塵の発生を防止するには不十分であり、その結果粉塵が作業室の床に落下した。この粉塵は室内全体にばらばらに広がり、この掃き集め作業は困難を極めた。
【0040】
(比較例4)
比較例2に記載した水の代わりに、ポリアクリル酸エステル共重合物の水溶液に酸化チタンを混合したペーストを固形分で2.5重量%含む水分散液を用いて、比較例2と同様に、石綿層に噴射した。24時間経過後には、該石綿層が素地の鉄骨やコンクリート表面上に固着してしまい、ケレン棒やスクレーパーとの強い摩擦力のため、剥離作業とその後の清掃作業は極めて困難であった。
(比較例5)
比較例2に記載した水の代わりに、重合度1700、ケン化度85%のポリビニルアルコール1%溶液を使用して石綿層に噴射した。この場合は、比較例4と同様に掃き集め作業の困難さに加えて、垂直面に噴射した溶液が乾燥する前に作業室内の床にタレ落ちるため、ケレン棒により剥離作業を行うことが困難な部分が生じ、有害微粉塵の発生が避けられなかった。また床にタレ落ちた液の水洗いなどの清掃も非常に困難であった。
【0041】
(実施例1)
1l中に
(1)エチレングアニジン四酢酸2ナトリウムの2水塩 2g
(2)硝酸マグネシウム 0.01g
(3)オレイン酸のジイソプロパノールアミン塩 15g
(4)ソジウムオマジン(殺菌剤) 1.5g
(5)平均分子量1.8×10で、アクリル酸が20モル%
ジメチルアミノメチル基が20モル%、アクリルアミドが
60モル%で両性荷電重合体(固形分) 0.015g
を含む水溶液を30倍の水で溶解して粉塵処理剤Aを調整した。この粉塵処理剤を密閉空間において、比較例1と同様に石綿層に一流体型噴霧機で噴射した。1日及び2日乾燥させ、表面に保水性ゲルを完成させた。この石綿層をケレン棒で剥離したが、表面はゲルで覆われているため、白化など視界を妨げる粉塵の発生が見られず、1日後及び2日後いずれの日でも極めて容易に剥離作業が終了した。また床に落下した石綿層はやわらかく固まっており、粉塵の飛散がなく、スコップやほうきで集めることができ、比較例3の場合のように硬化していないため、末端処理場までの袋詰め作業は石綿を袋に押し込む必要がなく、極めて作業が容易であった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)
実施例1中の(1)、(2)、(3)、(5)の化合物の代わりに以下の化合物(6)〜(9)を含む粉塵処理剤Bを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い保水性ゲルを完成させた。
(6)硫酸ナトリウム
(7)平均分子量1.8×10で、アクリル酸20モル%、ジメチルアミノメチル基が20モル%、アクリルアミドが60モル%で両性荷電重合体(固形分)
(8)アジピン酸ジヒドラジド
(9)エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物
得られた保水性ゲルについて、剥離時粉塵発生、剥離後粉塵発生及び剥離材の取り扱い性の評価を行ったが、実施例1の評価と同様であった。
(比較例6)
実施例2の(8)アジピン酸ジヒドラジドを用いない以外は、実施例2と同様の配合の粉塵処理剤Cを用いた以外は、実施例2と同様に操作を行い保水性ゲルを完成させた。得られた保水性ゲルについて、剥離時粉塵発生、剥離後粉塵発生及び剥離材の取り扱い性の評価を行った。その結果、石綿層の剥離時に若干の粉塵発生が見られたが、剥離することができた。剥離した石綿をスコップやほうきで集めたところ、粉塵が少し飛散した。また剥離した石綿を移動するには、若干粉塵が飛散し易いため完全密封が必要であった。
【0044】
以上評価結果について、表−1にまとめた。
[液浸透性];粉塵処理剤を石綿層に噴霧したときの処理剤の浸透の度合いを目視で観察した。噴霧30分経過後に石綿層全面に浸透したときを○、30分経過後一部浸透していない所があったときを△とした。
[噴霧時粉塵発生];粉塵処理剤を石綿層に噴霧したときの粉塵の発生度合いを目視で観察した。ほとんど粉塵の発生のないときを○とした。
[剥離時の粉塵発生];粉塵処理剤を噴霧した石綿層をケレン棒を用いて剥離したときの粉塵の発生度合いを目視で観察した。ほとんど粉塵の発生のないときを○、少し粉塵の発生のあるときを△、視界を妨げるほど粉塵の発生があるときを××とした。
[剥離作業性];石綿層をケレン棒で剥離するときの作業のし易さを比較した。作業性のよいものを○、作業性が少し劣るものを△、作業性が悪いものを×とした。
[剥離後の粉塵発生];剥離した石綿塊からの粉塵の発生状況を目視で観察した。ほとんど粉塵の発生のないときを○、少し粉塵の発生のあるものを△、粉塵の発生の多いものを×とした。
[剥離後の片付け容易性];剥離した後の粉塵飛散状況を目視により観察した。粉塵の飛散が全くなく後片付けが容易なものを○、粉塵の飛散が少ないものを△、粉塵の飛散が多く後片付けが困難なものを×とした。
[剥離材の取り扱い性];剥離した石綿塊の運搬や取り扱いの困難度を比較した。石綿塊を簡易密封するだけで取り扱いが容易なものを○、簡易密封では取り扱いが少し困難なものを△、粉塵の飛散しやすく完全密封する必要があるものを×とした。
【0045】
<浮遊粉塵への噴霧>
(実施例3、比較例7及び比較例8)
予め柴田科学(株)製のデジタル粉塵計(LD−3K2型)を内部に装着した内径1m高さ1mの円筒状で鉄製のチャンバーを用い、その天井部分よりドライモルタルの粉塵を吹き込み、同時に、水、上記の処理剤A及びBを水で100倍に希釈した液を、それぞれ一流体式噴霧器を用いて60ml/分で10秒間噴霧した。そのときの噴霧ミストの平均粒子径は30μmであった。デジタル粉塵計での噴霧後50秒から1分経過後の粉塵のカウント数を読み取った。測定結果は、表−2のとおりである。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度法を用いて測定される平均分子量が5×10 以上で、直鎖状のポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液からなり、前記ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液あるいは水分散液が0.0001〜0.01重量%の固形分濃度を有し、乾燥することにより固形分濃度が上昇し、保水性ゲルを形成すること、前記保水性ゲルが非水溶性であることを特徴とする粉塵処理剤。
【請求項2】
前記ポリ(メタ)アクリルアミドが、両性荷電重合体である請求項1記載の粉塵処理剤。
【請求項3】
さらにゲル化剤を含む請求項1又は2記載の粉塵処理剤。
【請求項4】
前記ゲル化剤が、アジピン酸ジアンモニウム、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、アミノポリクリルアミド、硝酸マグネシウム、2価のカルボン酸、グリオキザ−ル、グルタルアルデヒド、前記ポリ(メタ)アクリルアミド水溶液と逆荷電を有する(メタ)アクリルアミド及び/又は他の高分子化合物の水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の粉塵処理剤。
【請求項5】
さらに脂肪酸塩及び/又はその誘導体を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉塵処理剤。
【請求項6】
前記脂肪酸塩が、炭素数が12〜24で、二重結合を有さないか又は1つ有する不乾性脂肪酸の塩である請求項5記載の粉塵処理剤。
【請求項7】
さらに殺菌剤、静菌剤又は防腐剤のいずれかを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉塵処理剤。
【請求項8】
表面に粉塵発生層を有する物体の粉塵発生層に、請求項1〜7のいずれかに記載の粉塵処理剤を噴霧し、粉塵発生層に湿潤・浸透させると同時に前記粉塵処理剤がゲル化した後、前記粉塵発生層に機械的作用を加えることにより、粉塵を飛散させることなく粉塵発生層を物体から剥離することを特徴とする粉塵発生層の剥離方法。
【請求項9】
前記粉塵処理剤を一流体ノズル型噴霧機により噴霧する請求項8記載の粉塵発生層の剥離方法。
【請求項10】
前記粉塵処理剤を粉塵発生層に湿潤・浸透させる前に、又は湿潤・浸透させた後に、粉末状及び/又は粒状の吸水性ゲルを散布する請求項8又は9記載の粉塵発生層の剥離方法。
【請求項11】
前記粉塵発生層を剥離した後、物体表面に水溶性の皮膜形成能のある高分子化合物を塗布する請求項8〜10のいずれか1項に記載の粉塵発生層の剥離方法。
【請求項12】
前記水溶性の皮膜形成能のある高分子化合物が、ポリエステル、ポリエステルポリエ−テル、ポリアミド、ポリエ−テル、ポリウレタン及び/又はこれらの誘導体、(メタ)アクリル酸の重合体及び/又は共重合体及びこれら酸とのアルキルエステル及び/又はこれら酸の共重合性単量体との共重合体及び/又はこれらの塩、キトサンの塩、ポリアリルアミンの塩及びポリビニルアルコ−ルから選ばれた1種以上である請求項8〜11のいずれか1項に記載の粉塵発生層の剥離方法。
【請求項13】
空気中に浮遊する粉塵に請求項1〜7のいずれかに記載の粉塵処理剤を噴霧しゲル化することにより、前記粉塵処理剤で粉塵を閉じ込め、閉じ込められた粉塵を落下させることを特徴とする浮遊粉塵の除去方法。
【請求項14】
前記粉塵処理剤を一流体ノズル型噴霧機により噴霧する請求項13記載の浮遊粉塵の除去方法。

【公開番号】特開2008−248225(P2008−248225A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11569(P2008−11569)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000102566)エスポ化学株式会社 (7)
【Fターム(参考)】