説明

粉塵発生を防止する蝶番

【課題】金属粉塵の発生を少なくすると共に、発生しても周囲にまき散らさないように工夫した蝶番を提供する。
【解決手段】上羽根10Aの端縁に取り付けられた上羽根軸筒部11Aと、下羽根30Aの端縁に取り付けられた下羽根軸筒部31Aと、上羽根軸筒部11A及び下羽根軸筒部31Aを貫通する軸部20Aを有する。前記上羽根軸筒部11A及び前記下羽根軸筒部31Aの何れかは前記軸部20Aに対して回転可能であり、回転する側の羽根軸筒部11A又は31Aの上端及び下端は密閉されている。回転する側の羽根軸筒部11A又は31Aを、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプ32とからなる二重構造とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗等を原因とする粉塵の発生を防止することのできる蝶番に関する。本発明の蝶番は、半導体製造関連施設や食品衛生環境施設等におけるクリーンルーム等に使用するのに適しているが、もちろん一般使用も可能である。
【背景技術】
【0002】
一般的に蝶番は、端縁に軸筒部を有する二枚の金属製羽根部材を、各軸筒部に金属製の枢軸を貫通させて連結してなるものであり、二枚の金属製羽根部材の一方が出入口の戸枠側に固定され、他方が扉側に固定される。二枚の金属製羽根部材の軸筒部間には扉の重量がかかっており、扉を開閉するときに両方の金属製羽根部材が擦れ合って摩耗し、金属の粉塵が発生する。このような金属粉塵は空気中に浮遊し、クリーンルーム内の清浄度を低下させる原因となる。
【0003】
この問題を解決するため、従来、クリーンルームで用いる金属製蝶番には、金属部材同士が接する箇所に合成樹脂製のブッシュが設けてあり、金属部材が磨耗し金属粉塵が発生するのを防止している。
【0004】
この合成樹脂製ブッシュを用いたクリーンルーム用の金属製蝶番は、扉の開閉が、その重みによっても円滑に行われ、又合成樹脂製ブッシュが金属部材との摩擦により磨耗しないようにするため、様々な工夫がなされている。例えば、上記ブッシュが金属部材と直接摩擦する面に上記ブッシュと対となる合成樹脂製の第二ブッシュ又はワッシャーを設けたり、又、上記ブッシュを固定させて装着することにより上記ブッシュと金属部材との摩擦を極力少なくするなどの工夫がされている(下記特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2000−204832号公報
【特許文献2】特開2001−152727号公報
【特許文献3】特開2004−183321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような蝶番によってもなお、金属粉塵の発生が見られるという。本願発明は、金属粉塵の発生を少なくすると共に、発生しても周囲にまき散らさないように工夫した蝶番を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の、粉塵発生を防止する蝶番は、上羽根の端縁に取り付けられた上羽根軸筒部と、下羽根の端縁に取り付けられた下羽根軸筒部と、上羽根軸筒部及び下羽根軸筒部を貫通する軸部を有し、前記上羽根軸筒部及び前記下羽根軸筒部の何れかは前記軸部に対して回転可能である蝶番において、前記した回転する側の羽根軸筒部の上端及び下端が密閉されていることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
前記した回転する側の羽根軸筒部は、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプとからなる二重構造とすることもできる(請求項2)。
【0008】
別の見方では、本発明の、粉塵発生を防止する蝶番は、上羽根の端縁に取り付けられた上羽根軸筒部と、上羽根軸筒部内部に固着され、上羽根軸筒部から下方に向けて突出している軸部と、前記突出した軸部に回動自在に嵌められた下羽根軸筒部とからなる蝶番であって、前記上羽根軸筒部と前記下羽根軸筒部の間に間隙が設けられていること、前記下羽根軸筒部の上端及び下端が密閉されていることを特徴とする(請求項3)。
【0009】
前記下羽根軸筒部は、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプからなる二重構造とすることができる(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本発明請求項1及び2の発明は、軸筒部の上端及び下端は密閉されているので、軸筒部の上下から金属粉塵がまき散らされることがない。従来技術であれば、軸筒部の上下部分から周囲へ金属粉塵が舞い散っていた。
【0011】
さらに本発明請求項2及び4の発明によると、パイプを使用することにより、軸筒部が真円に近くなって加工がしやすくなると共に、精度が向上するという特別な効果が得られる。
【0012】
本発明請求項3及び4の発明によれば、次の仕組みにより、ドアの開閉に伴って金属粉塵がまき散らされることがない。
【0013】
(1)軸部は上羽根軸筒部内部で固着されているので、上羽根軸筒部から金属粉塵が下方に向かってまき散らされることがない。従来技術であれば、軸部を雄側軸筒部から上方へ突出させこれに雌側羽根板を被せていたので、この嵌合部分から発生する金属粉塵が下方へ舞い降りていた。
【0014】
(2)上羽根軸筒部と下羽根軸筒部の間に間隙が設けられているので、両者が擦れることで発生する金属粉塵は発生することがない。従来技術であれば、上羽根軸筒部と下羽根軸筒部の接触部分から周囲へ金属粉塵が舞い散っていた。
【0015】
(3)下羽根軸筒部の上端及び下端は密閉されているので、下羽根軸筒部の上下から金属粉塵がまき散らされることがない。従来技術であれば、下羽根軸筒部の上下部分から周囲へ金属粉塵が舞い散っていた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
好ましくは、下羽根軸筒部と前記軸部との間に、スラストベアリング及びニードルベアリングを設ける。スラストベアリングは、摩耗を減らすと共に垂直方向の荷重を支えることができ、ニードルベアリングは、摩耗を減らすと共に水平方向の荷重を支えることができる(請求項5)。
【0017】
下羽根軸筒部を、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプからなる二重構造としたときは、前記パイプと前記軸部との間に、スラストベアリング及びニードルベアリングを設けることができる(請求項6)。
【0018】
好ましくは、下羽根軸筒部の上端は、スチールリング、フェルトリング、オイルシールの少なくとも1つで密閉される。また、下羽根軸筒部の下端はプラグで密閉される(請求項7)。
【0019】
下羽根軸筒部を、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプからなる二重構造としたときは、パイプの上端は、スチールリング、フェルトリング、オイルシール、フランジの少なくとも1つで密閉される。また、パイプの下端はプラグ、下蓋の少なくとも1つで密閉される(請求項8)。
【0020】
さらに好ましくは、下羽根軸筒部と軸部の隙間には、グリスで充填されている(請求項9)。これにより、発生した粉塵もグリスの中に閉じこめられる。
【0021】
下羽根軸筒部を、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプからなる二重構造としたときは、パイプと軸部の隙間がグリスで充填される(請求項10)。
【0022】
また、下羽根軸筒部のカール曲面と下羽根との交差狭窄部は溶接により密閉することが好ましい(請求項11)。この交差狭窄部から金属粉塵が漏出するのを防止できるからである。
【0023】
以下、添付の図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1の分解斜視図である。図2は、本実施例の蝶番の平面図である。図3は、本実施例の蝶番の正面図である。図4は、図3の4−4断面図である。
【0025】
図1に示すように、上羽根10の端縁に上羽根軸筒部11が取り付けられている。この上羽根軸筒部11内部に軸部20が固着され、この軸部20は、上羽根軸筒部11から下方に向けて突出している。この突出した軸部20に下羽根軸筒部31が回動自在に嵌められる。下羽根軸筒部31は下羽根30の端縁に取り付けられている。すなわち、軸部20を雄側である上羽根軸筒部11から下方へ突出させ、これに雌側である下羽根軸筒部31を被せるのであって、従来技術とは上下が逆である。
【0026】
突出する軸部20には、上部段部21、リング状の溝22、中央段部23、下部段部24が設けられると共に、短径の先端25が形成されている。
【0027】
図4に示すように、下羽根軸筒部31の下端は、プラグ40をねじ込むことで密封されている。この状態で、上羽根軸筒部11と下羽根軸筒部31が互いに接触して金属粉塵を発生させないように、間隙41が設けられている。
【0028】
下羽根軸筒部31の内面には、上部段部35、中央段部36、下部段部37が設けられている。下羽根軸筒部31の表面中央部には開口49があり、ここに挿入される止めネジ50がリング状の溝22と係合することで、下羽根30の脱落が防止されている。また、下羽根軸筒部31のカール曲面と下羽根30との交差狭窄部(図2の38)は溶接により密閉されている。
【0029】
プラグ40の上には、スラストベアリング42を配設して、これにより摩耗を減らすと共に垂直方向の荷重を支えている。スラストベアリング42は、軸筒部内の下部段部37によって形成されたスペースに設定されている。
【0030】
下羽根軸筒部31の上端も、金属粉塵を発生させないように密閉されている。上から、スチールリング43、フェルトリング44、オイルシール45、ニードルベアリング46、上蓋51が設けられている。スチールリング43、フェルトリング44、オイルシール45、上蓋51は密閉のためであり、ニードルベアリング46は摩耗を減らすと共に横方向の荷重を支えている。
【0031】
スチールリング43、フェルトリング44、オイルシール45は互いに密着して配置してもよい。これらの密閉手段とニードルベアリング46の間は、軸筒部内に形成した上部段部35により離すことができる。ニードルベアリング46は、軸筒部内の中央段部36によって形成されたスペースに設定されている。
【0032】
下羽根軸筒部31と軸部20の隙間は、グリス48で充填されている。接触部分に給油するとともに、発生した金属粉塵を閉じこめるためである。
【実施例2】
【0033】
図5は、実施例2の分解斜視図である。図6は、本実施例の蝶番の平面図である。図7は、本実施例の蝶番の正面図である。図8は、図6の8−8断面図である。実施例2において、実施例1と同じ作用をする部品には実施例の符号に「A」を付している。
【0034】
実施例2が実施例1と異なるのは、下羽根の軸筒部31Aである。この下羽根軸筒部31Aは、下羽根30Aの端縁をカールさせて形成された外側筒部の中にパイプ32を挿入して二重構造としている。その分、下羽根軸筒部31Aは分厚くなり、上羽根軸筒部11Aよりも大径である(図7参照)。
【0035】
パイプ32内部と軸部20Aの構造は、実施例1とほぼ同様であり、異なっている部分のみ説明する。下羽根軸筒部31Aの最下端には下蓋52が溶接されている。下羽根軸筒部31Aの最上端には上蓋(図1の51)はなく、パイプ32の最上端にフランジ33が設けられている。このフランジ33に設けられた雌ねじ34に雄ねじ(図示せず)をねじ込むことにより、パイプ32と軸筒部31Aは密閉状態で一体化される。
【0036】
ニードルベアリング46A,46Bは上下2個所使用されている。下部ニードルベアリング46Bはスラストベアリング42Aのすぐ上に設けられている。
【0037】
この実施例2では、パイプ32を使用することにより、軸筒部が真円に近くなって加工がしやすくなると共に、精度が向上するという特別な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の蝶番の分解斜視図である。
【図2】実施例1の蝶番の平面図である。
【図3】実施例1の蝶番の正面図である。
【図4】図3の4−4断面図である。
【図5】実施例2の蝶番の分解斜視図である。
【図6】実施例2の蝶番の平面図である。
【図7】実施例2の蝶番の正面図である。
【図8】図6の8−8断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10、10A 上羽根
11、11A 上羽根軸筒部
20、20A 軸部
21 上部段部
22 溝
23 中央段部
24 下部段部
25 先端
30、30A 下羽根
31、31A 下羽根軸筒部
32 パイプ
33 フランジ
34 雌ねじ
35 上部段部
36 中央段部
37 下部段部
38 交差狭窄部
40 プラグ
41 間隙
42、42A スラストベアリング
43、43A スチールリング
44、44A フェルトリング
45、45A オイルシール
46、46A、46B ニードルベアリング
48、48A グリス
49 開口
50 止めネジ
51 上蓋
52 下蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上羽根(10)の端縁に取り付けられた上羽根軸筒部(11)と、
下羽根(30)の端縁に取り付けられた下羽根軸筒部(31)と、
上羽根軸筒部(11)及び下羽根軸筒部(31)を貫通する軸部(20)を有し、
前記上羽根軸筒部(11)及び前記下羽根軸筒部(31)の何れかは前記軸部(20)に対して回転可能である蝶番において、
前記した回転する側の羽根軸筒部(11又は31)の上端及び下端が密閉されていること
を特徴とする粉塵発生を防止する蝶番。
【請求項2】
前記した回転する側の羽根軸筒部(11A又は31A)が、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプ(32)とからなる二重構造である請求項1記載の蝶番。
【請求項3】
上羽根(10)の端縁に取り付けられた上羽根軸筒部(11)と、
上羽根軸筒部(11)内部に固着され、この上羽根軸筒部(11)から下方に向けて突出している軸部(20)と、
前記突出した軸部(20)に回動自在に嵌められた下羽根軸筒部(31)と
からなる蝶番であって、
前記上羽根軸筒部(11)と前記下羽根軸筒部(31)の間に間隙(41)が設けられていること、
前記下羽根軸筒部(31)の上端及び下端が密閉されていること
を特徴とする粉塵発生を防止する蝶番。
【請求項4】
前記下羽根軸筒部(31A)が、羽根板をカールさせて得られる軸筒部と、その筒部内部に収容されるパイプ(32)からなる二重構造である請求項3記載の蝶番。
【請求項5】
前記下羽根軸筒部(31)と前記軸部(20)との間に、スラストベアリング(42)及びニードルベアリング(46)を設けた請求項3記載の蝶番。
【請求項6】
前記パイプ(32)と前記軸部(20A)との間に、スラストベアリング(42A)及びニードルベアリング(46A)を設けた請求項4記載の蝶番。
【請求項7】
前記下羽根軸筒部(31)の上端が、スチールリング(43)、フェルトリング(44)、オイルシール(45)、上蓋(51)の少なくとも1つで密閉され、前記下羽根軸筒部(31)の下端がプラグ(40)で密閉されている請求項3又は5記載の蝶番。
【請求項8】
前記パイプ(32)の上端が、スチールリング(43A)、フェルトリング(44A)、オイルシール(45A)、フランジ(33)の少なくとも1つで密閉され、前記パイプ(32)の下端がプラグ(40A)、下蓋(52)の少なくとも1つで密閉されている請求項4又は6記載の蝶番。
【請求項9】
前記下羽根軸筒部(31)と前記軸部(20)の隙間がグリス(48)で充填されている請求項3、5、7の何れかに記載の蝶番。
【請求項10】
前記パイプ(32)と前記軸部(20)の隙間がグリス(48)で充填されている請求項4,6、8の何れかに記載の蝶番。
【請求項11】
前記下羽根軸筒部(31、31A)のカール曲面と前記下羽根(30、30A)との交差狭窄部(38、38A)が溶接により密閉されている請求項3〜10の何れかに記載の蝶番。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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