粉末の制御された結晶化
本発明は、粉末、特に噴霧乾燥粉末の流動性と空気力学的挙動を改善するための、該粉末の制御された結晶化、及び粉末の静電気を低減する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末、特に噴霧乾燥粉末の制御された結晶化の方法に関する。さらに、本発明は、特に物質の安定性を保持しながら、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法、粉末の空気力学的特性を改善する方法及び粉末、特に噴霧乾燥粉末のより良い充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の戦略を用いて粉末の流動性を最適化する。一方では、粒子表面の粗さを増してよい。しかし、他方では、粒子表面の化学組成を改変することもできる。粒子表面の粗さの増加及び化学的改変の両方で粒子間相互作用を減らすことができるので、粉末の流動性、及び空中における粒子の分散性、ひいては空気力学的特性をも改善することができる。
例えば、粒子をナノスケール粒子で被覆することによって粗さを高めうる。(G.Huber, Powder Technology 134 (2003), 181-192, 乾燥粉末吸入器で使うための液体窒素中の固体粒子の静電気的に支持された表面被覆(Electrostatically supported surface coating of a solid particle in liquid nitrogen for the use in Dry-Powder-Inhalers)。ナノ粒子を粉末に(噴霧乾燥材料に焦点を置かずに)適用する従来の方法には、例えばジェットグラインダー又はハイブリッダイザー(Messrs Nara)での被覆等の機械的方法が含まれる。さらに、重力ミキサーも使用される(M. Eber, 2004, Dissertation Uni Erlangen, 表題:Wirksamkeit und Leistungsfahigkeit von Nanoskaligen Flussregulierungsmitteln [ナノスケールのフローレギュレーターの作用と効率])。噴霧乾燥材料を担体系と混合する場合、標準的にふるい又は重力ミキサーを使用する。
【0003】
表面粗さを改変するという戦略に加えて、粒子表面に疎水性を与えることによっても粉末の品質を最適化しうる。噴霧乾燥粉末を調製するとき、疎水性物質を噴霧溶液に直接添加してよい。噴霧溶液を霧状にして極小液滴とすることによって、かつ噴霧乾燥機の乾燥塔内で該液滴が蒸発する間に、該賦形剤の、活性物質及びさらなる賦形剤と比較して低い溶解度の結果として、表面上に疎水性物質が蓄積する。分離工程において噴霧乾燥粒子を疎水性フィルムで被覆することもできる。
原則として、非制御結晶化法は活性物質を傷つけうるので、粉末、特にタンパク質含有粉末、最も詳細には噴霧乾燥粉末による目的は、非晶形の粒子を得ることである。通常、非晶質粒子は吸湿性であり、かつ粉末凝集塊を形成する傾向がある。両作用は本質的に望ましくなく、粉末の貯蔵並びに例えば粉末を肺に投与する場合にその送達の見地からさらなる要求を強いる。
噴霧乾燥粉末中に高いタンパク質含量があれば、これらの粉末は凝集する傾向もある。タンパク質によって左右されるが、多かれ少なかれ個々の粒子がひどくくっつき合うことが起こる。例えばヒト血清アルブミンは、70%過剰の質量分で十分に噴霧乾燥されうるが、モノクロナール抗体の場合は生成物の品質が悪くなることが多い。結果の粉末は不十分な流動性を示し、吸入器を用いる場合に分散させにくい。
【0004】
これが、安定性、特に噴霧乾燥後のタンパク質の安定性を達成すること及び自由流動性で、吸入にも適する粉末を製造することの両方の製品開発者らの挑戦を惹起する。
この課題に対する解決の最新技術は、一連のプロセス工程を逐次行うことである。文献は、いわゆる皮膜形成剤による噴霧乾燥粒子の被覆又はさらなる賦形剤、例えばナノスケール粒子、若しくは約50〜100μmの寸法の実質的により大きい粒子との噴霧乾燥粒子の混合について記載している。
材料、特に噴霧乾燥材料をナノ粒子又は皮膜形成剤、例えばMg-ステアレート等で被覆する場合、装置に関する高い出費が必須である。粉砕ミルの使用は粒子に熱応力をも生じさせるので、物質、特にタンパク質に望ましくない形態学的変化及び損傷が起こりうる。
特に粉末中の活性物質の均質性に関して、ひいては薬用量の均一性については、混合操作を含むすべてのプロセスが重要である。不均質性は製造中に直接起こりうるが、その後の貯蔵中にも分離の結果として起こりうる。例えば、貯蔵中、一次包装、例えばカプセル又はブリスター内で活性物質が蓄積しうる。異なる密度の粒子を混合すると、重力の結果として分離プロセスが起こりうる。非晶質粒子を加工するとき、多段階プロセスでは、プロセス連鎖の間じゅう低減湿度レベルで運転することが必須である。そうでなければ、非制御結晶化プロセスが起こりうる。このことがプロセス開発において、また製品の製造においても高コストをもたらしうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、課題は、低減した技術的コストで上記問題を解決することである。
本発明が基礎とする課題は、以下の実施形態及び特許請求の範囲で詳述する対象と方法によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法、粉末の空気力学的特性を改善する方法及び活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度で規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、好ましくは、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、本発明の方法に関する。
特に好ましい実施形態では、問題の粉末が噴霧乾燥粉末である。
以後、この手順又はこの方法を「テンパリング(tempering)」とも称する。テンパリングは、熱力学的に安定な粒子表面を生じさせる。このことが、貯蔵中の粉末における望ましくない温度誘導及び湿度誘導変化の程度を減らす。粉末中の活性物質の均質性は、それが噴霧液滴の組成に起因する限りにおいて重大でない。純粋に噴霧乾燥させた粉末では分離プロセスはあり得ないか又は知られていない。テンパリングは、貯蔵安定性を与えること以外に、粉末の流動及び分散特性をも最適化しうる。粒子表面の熱力学的安定化のおかげで、より高い湿度でも粉末を貯蔵しうる。このことが、特に患者のための製品の安全性を改善する。ナノスケールの表面粗さを生じさせると、流動性及び空気力学を改善する。これが順次、より良い充填/加工の質及び吸入率によって実証される。
本発明の用途は、例えば薬物、例えば吸入用薬物の粉末含有製剤の開発で見つかる。
【0007】
テンパリングは、熱力学的に安定な粒子表面を生じさせる。結果として、貯蔵中の粉末における望ましくない温度誘導及び湿度誘導変化の程度が低減する。粉末中の活性物質の均質性は、それが噴霧液滴の組成に起因する限りにおいて重要でない。純粋に噴霧乾燥させた粉末では分離プロセスはあり得ないか又は知られていない。
特にタンパク質含有粉末の従来の調製方法では、非制御結晶化作用は粉末又はタンパク質を傷つけうるので、非制御結晶化作用が回避される。しかし、驚くべきことに、特定の処方箋で、物質又は活性物質、特にタンパク質を傷つけることなく、表面の結晶化を誘導できることが分かった。
表面の結晶化の発生はいくつかの前提条件に関連する:粉末、特に噴霧乾燥粉末は低タンパク質領域と高タンパク質領域を含む。この晶帯形成(zone formation)は、噴霧溶液中で疎水性の度合が異なる物質を使用することによって起こりうる。低タンパク質領域は、容易に結晶化する物質を含むだろう。一方、高タンパク質領域は結晶化がかなり困難であり、一般的に該タンパク質に加えて別の第三成分、例えば糖を含むだろう。容易に結晶化した物質は、好ましくは粒子表面上で見つかり;一方、結晶化が困難な物質は核内にあるだろう。粒子の所望の結晶化は、湿度、温度及び時間によって制御可能であり、かつ分離工程で、特に噴霧乾燥後に起こる。
HSAなどの結晶化インヒビターをさらに混合すると、粉末の粒子特性を改善しうる。結晶化インヒビターは、例えば糖のような容易に水に溶ける成分と、該タンパク質が見られる粒子核内部における非晶質マトリックスの形成を補助する。
【0008】
本発明は、先行技術に起因しない。
粉末に(噴霧乾燥材料に焦点を当てることなく)ナノ粒子を適用するプロセスのような従来の方法は、例えば、ジェットグラインダー又はハイブリッダイザー(Messrs Nara)でのコーティングのような機械的方法である。さらに、重力ミキサーをも使用する(M. Eber, 2004, Dissertation Uni Erlangen, 表題:Wirksamkeit und Leistungsfahigkeit von Nanoskaligen Flussregulierungsmitteln [ナノスケールのフローレギュレーターの作用と効率])。噴霧乾燥材料を担体系と混合する場合、一般的にふるい又は重力ミキサーを使用する。
【0009】
一特許出願(WO20040/3848)では、製造後、粉砕ミル(ジェットグラインダー/ボールミル)内で粉末(噴霧乾燥粉末を含む)をアミノ酸、Mg-ステアレート及びリン脂質と混合した。しかし、制御された結晶化の方法には何ら言及していない。この特許出願で開示されている方法は、粒子表面に疎水性を与えることに関する。そして、この疎水処理によってどうやって粒子間の相互作用を減少させ、ひいては粉末の流動性と空気力学的特性を最適化できるかについての説明があった。しかしながら、本発明は、粒子表面に疎水性を与えることに関するのではなく、制御された結晶化による表面の熱力学的安定化に関する。この方法の別の利点は、粉末内の静電気的相互作用の低減である。特別に疎水性を与えられた粉末は強力な静電気の放電への傾向を有する。そこで、本発明のテンパリングプロセス後に、静電気が減少することをフェニルアラニン含有粉末で実証できた。
【0010】
別の特許出願WO03/037303も、疎水性物質を噴霧乾燥機内で直接粒子に適用する方法を記載している。このプロセスでは、2つの噴霧溶液を相互独立に乾燥塔内にマルチプルノズルを通じて供給する。この公開特許出願の一実施例では、ラフィノース粒子とロイシン粒子が両方とも調製される。噴霧乾燥機内で粒子を直接混合する。結果として生じる混合物は、噴霧乾燥ラフィノースに比べて改良された分散特性を示した。この方法は2つの噴霧乾燥粒子集団の混合に関するので、WO03/037303は関係ない。しかし、この手順は本発明の一部でない。本発明は、追加のプロセス工程でさらなる物質を添加するのではなく、現存する粒子を改変することに関係する。
さらなる特許出願(WO0030614)には、非晶質フラクションを結晶化する方法が開示されている。超臨界又は臨界未満ガスが粉末に作用する。該ガスは、さらに水又は有機溶媒を含む。超臨界又は臨界未満ガスが粒子中に浸透し、溶媒蒸気を利用して非晶質フラクションの結晶化を引き起こす。
この公開出願は超臨界法だけを開示しているので、WO0030614は関係ない。しかし、本特許出願は、その好ましい実施形態で超臨界法を除外する。噴霧乾燥粒子のテンパリングは、本質的に、粒子内部に非晶質フラクションを保持しながら、表面の制御された結晶化をも含む。非晶質環境によって、タンパク質を安定化することができる。本方法のこの必須工程は特許出願WO0030614はの一部でない。
WO9505805は、使用する物質の全体的な結晶化の方法を開示している。すなわち、WO9505805は、如何なる晶帯形成についても述べていない。さらに、WO9505805は、担体と微細化学物質だけに言及しており、タンパク質には言及しておらず、かつ活性物質と他の物質を機械的に混合、すなわち担体に活性物質を適用するが、本発明では、タンパク質を賦形剤マトリックス内に埋め込み、ひいては安定化する。
【0011】
DE102004048390は、担体α-ラクトース一水和物と混合した非晶質の噴霧乾燥ラクトースを開示している。噴霧乾燥成分を結晶化するため、混合物を水分で調節する。しかし、本発明では、部分的結晶化だけが起こり、従って粒子の表面又は粒子の表面に近い領域だけが結晶化することが重要である。しかしながら、噴霧乾燥ラクトースでは、粒子が1つの物質のみから成るので晶帯形成は起こらない。タンパク質を安定化するため、該タンパク質の周囲に非晶質マトリックスを有することも重要である。DE102004048390では、活性物質がない粒子だけを調節するが、本発明にとっては、晶帯形成の目的のため、又は非晶質核を得るため、活性物質と賦形剤を一緒に調節することが重要である。
特許US556293、US5709884、US5874063も溶媒蒸気を用いて粉末を調節する方法を開示している。蒸気は水と、例えばエタノールのような有機溶媒の両者から成りうる。
特許US5562923は、機械的に微粉化した粒子を短鎖アルコール若しくはケトン又は酢酸エチルから成る溶媒蒸気と混ぜ合わせる方法を開示している。しかし、該米国特許にはタンパク質が現われないので、特許US556293は関係ない。さらに、上記特許明細書によれば、機械的に微粉化した粉末だけを調節する。US5562923には噴霧乾燥粉末も現われない。
特許US570984は、該米国特許にタンパク質が現われないので関係ない。さらに、別々に調製された異なる物質又は粒子から成る粉末混合物だけを調節し、噴霧乾燥粉末を調節しない。
特許US5874063は、該米国特許にタンパク質が現われないので関係ない。さらに、この方法の目標は、ほとんど全体的に非晶質フラクションを減らして粒子を結晶化することである。噴霧乾燥粉末のテンパリングでは、粒子は実質的に非晶質である。これは、結晶化度が50%未満であることを意味する。テンパリング後、タンパク質の安定化には非晶質フラクションも必要である。この事情は、明らかに米国特許US5874063の上位に本出願/発明を限定する。
【0012】
噴霧液の適切な選択によって結晶性粒子を生成する、他の噴霧乾燥プロセスが文献に記載されている。
Kambiz Gilaniら(Journal of Pharmaceutical Science, Vol 94, No 5. 2005, 1048〜1059ページ)は、エタノールを水性噴霧溶液に添加することによって、クロモグリク酸ナトリウムを含有する乾燥粒子の結晶化度を高められることを示した。噴霧乾燥粒子中の結晶性フラクションを増やすことによって、空気力学的特性を改善することもできた。
Harjunenら(Drug Development and Industrial Pharmacy, Vol 28, No. 8, 2002, 949〜955ページ)は、ラクトース含有噴霧溶液中の水とエタノールの混合比を変えることによって、0%〜100%の非晶質フラクションを有する粒子を調製できることを示した。
しかし、これらの方法は、表面の制御された結晶化と比較できない。例えば、Harjunenらが述べているように、エタノール中の15%質量部のラクトースは結晶性懸濁液として存在する。ここでは、新しい粒子を生成するためでなく、固体/液体分離のために噴霧乾燥を利用している。
本明細書で言及するすべてのパーセンテージは、特に噴霧乾燥で得られた粉末中の乾燥固体の濃度データと組成を表す(w/w)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DVS(動的蒸気吸着(Dynamic Vapor Sorption))−80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を決定するための写真を示す。 この図は、噴霧乾燥粉末の吸湿性を示す。DVS(Messrs Porotec)で測定を行った。DVS法は、サンプルを秤量する工程及びサンプルを制御条件下で水蒸気に曝露する工程を含む。質量の変化を検出する。この図では、2サイクルを追跡し、それぞれ水蒸気の吸着と対応する脱着を含む。最大相対湿度(RH)は80%だった。2サイクルを比較することによって、湿度誘導された不可逆的な結果を検出することができる。本測定では、50%のRHと60%のRHの両方で質量の低下を検出できる。この低下は、粉末の結晶化によって起こる表面の崩壊に起因する。崩壊の結果として、表面上の濃縮された水蒸気の過飽和が突然起こる。これがこの水の蒸発、ひいては質量の減少をもたらす。
【図2a】80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を示し、図2aが50%相対湿度(RH)及び図2bが60%RHにおける吸湿性である。 図1についての説明で述べた方法と同様に測定を行った。
【図2b】80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を示し、図2aが50%相対湿度(RH)及び図2bが60%RHにおける吸湿性である。 図1についての説明で述べた方法と同様に測定を行った。
【図3】50%RHで貯蔵中の80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の原子間力測定(AFM)写真を示す。 サンプルの調製:スパチュラを用いてAFMサンプルディスク上に粉末を置いた。接着剤(STKY-Dot)がサンプルホルダーと粉末の底層との間の凝縮結合を与えた。粉末の重なり層が粒子接着によって接着した。結びついていない粒子を乾燥窒素流を用いて吹き払った。 方法:サンプルの調製直後に粉末をAFMヘッド内に置き、AFM-LASERを調整した。調整後、フード(大気フード)を用いてAFMを密封し、空中でロックしたAFMを0%の相対湿度まで除湿した。除湿後、ある点で適切な粉末粒子表面を連続的に走査した。安定した走査状態が確立されたら、数分内で50%の相対湿度に高めた。材料:AFM MultiModeTM SPM(Veeco) E-スキャナー(Veeco) TIP: MPP-11200(Veeco) 大気フード(Veeco) サンプルディスク(Veeco) STKY-Dot(Veeco) ソフトウェアバージョンV5.12b48 湿度調整装置UH-LFR(Boehringer Ingelheim)パラメーター:タッピングモード 走査速度:1〜2Hz 走査解像度:512×512ピクセル チップ周波数:250〜300kHz 空気湿度:約0%のRH、50±4%のRH、70±3%のRH(相対湿度) 走査中のサンプルの温度:TS=22〜28℃a)出発値、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1b)50%RHで12分インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1c)50%RHで53分インキュベーション後の50%RHでのインキュベーション時間、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1d)50%RHで8時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1e)50%RHで20時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1
【図4】60%RHで貯蔵中の80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の原子間力測定(AFM)写真を示す。 図3について述べた方法と同様に測定を行った。a)出発値、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1b)60%RHで12分インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1c)50%RHで44分インキュベーション後の50%RHでのインキュベーション時間、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1d)50%RHで8時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1e)50%RHで17時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1
【図5】テンパリング前後の噴霧乾燥粉末の微粒子フラクションの比較を示す。 空気力学粒径測定器(Aerodynamic Particle Sizer)(APS, TSI)と組み合わせた一段階インパクター(Impactor Inlet, TSI)で微粒子フラクションを決定した。インパクターノズルの分離限界は5.0μmであった。微粒子フラクションに加え、APSを用いて空気力学粒径を決定し、かつ飛行時間を測定して粒度分布を決定した。これを行うため、サンプル誘導ポートを通過後、粉末を分割した。等速条件下で小キャピラリー中に0.2%のフラクションを吸引し、飛行時間測定ユニットを導入した。残存フラクションを用いて微粒子フラクションを決定した。 測定のため粉末を3号サイズのカプセルに詰め、吸入器(HandiHaler(登録商標), Boehringer Ingelheim)を用いて放出した。HandiHalerによって4kPaの圧力降下の効果があるように、粉末を放出するための流速を調整した。空気体積はPharmEurによって4リットルだった。インパクターステージ上に堆積した粒子の「反跳」を阻止するため、インパクタープレートを測定用の高粘度Brij溶液で被覆した。吸入器(HandiHaler(登録商標)を通じた放出前後のカプセルの重量の差から放出された質量を得る。明るい棒:テンパリング前の微粒子フラクションのパーセンテージ暗い棒:テンパリング後の微粒子フラクションのパーセンテージ▲:噴霧乾燥直後の放出された質量■:テンパリング(50%RH、周囲温度、20時間)後の放出された質量粉末1:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のIgG1から成る噴霧乾燥粉末粉末2:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のリゾチームから成る噴霧乾燥粉末粉末3:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のカルシトニンから成る噴霧乾燥粉末
【図6】LS90Pの結晶化エンタルピーを決定するためのDSC測定を示す。 粉末の加熱中の熱の流れを測定することによって結晶化エンタルピーを決定した。非晶質粉末を加熱しているとき、ガラス転移温度を通過後、粒子の構成成分が移動度を増して結晶化しうる。ガラス転移温度の通過は吸熱プロセスである。他方、その後の結晶化は発熱を伴う。さらに粉末を加熱すると、粉末は融解又は分解しうる。 DSC測定のため、数ミリグラムの粉末をるつぼ内でわずかに圧縮して、できる限り均質かつ濃密な粉末の層を形成した。次に、るつぼを冷間圧接で封止した。穴をあけられていないるつぼで測定を行った。 他のパラメーターは以下の通りだった:測定装置:DSC 821/Mettler Toledo評価ソフトウェア:STARバージョン4.20炉ガス:窒素/40mL/分洗い流しガス:窒素/150mL/分るつぼ:アルミニウム製るつぼ、40μL走査速度:温度10℃/分粉末1:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/40%のLS90P 粉末2:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1粉末3:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/9%のIgG1/1%のHSA粉末4:凍結乾燥粉末:100%のLS90P 明るい棒:テンパリング前の結晶化エンタルピー(J/g)暗い棒:テンパリング後の結晶化エンタルピー(J/g)
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔発明の詳細な説明〕
(定義)
この明細書の範囲内で使用する用語及び名称は以下に定義する意味を有する。質量の詳細及び質量パーセンテージは、特に断らない限り、組成物又は溶液/懸濁液の固形分の乾燥質量に基づく。
一般的表現「含有する」又は「含む」は、より特別な用語「から成る」を包含する。さらに、「1」及び「多」は、限定的に使用されない。
「粉末」は、非常に微細な粉砕物質を表す。「噴霧乾燥粉末」は、噴霧乾燥によって生成された粉末を意味する。
「粒子」は、物質の小フラグメントを表す。本発明では、用語「粒子」は本発明の粉末中の粒子を指す。用語「粒子」及び「粉末」は、本発明では相互交換可能に使用されることもある。用語「粉末」はその構成成分である粒子をも包含する。従って、粒子は、すべての粒子、すなわち粉末を表す。
この発明の意味での用語「混合物」は、全成分の真正溶液から、又は1種以上の成分が懸濁している溶液から生成される当該混合物の両方を指す。しかし、この発明の意味での用語「混合物」は、これらの成分の固体粒子から物理的混合プロセスによって生成された混合物又はこれらの成分の溶液若しくは懸濁液を1種以上の固体成分に適用して形成された混合物をも指す。
【0015】
用語「組成物」は、少なくとも2種の出発原料の液体、半固体又は固体混合物を指す。
用語「医薬組成物」は、患者に投与するための組成物を指す。
用語「医薬的に許容しうる賦形剤」は、本発明の範囲内の製剤中におそらく存在しうる賦形剤を指す。賦形剤は、例えば、対象又は対象の肺に如何なる有意な中毒学的に有害な作用をも及ぼすことなく、肺経路で投与されうる。
用語「医薬的に許容しうる塩」は、限定するものではないが、例えば以下の塩を包含する:無機酸の塩、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化水素酸塩及び硝酸塩。また、有機酸の塩、例えばリンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、パラ-トルエンスルホン酸、パルモエート(palmoate)、サリチル酸塩及びステアリン酸塩、並びにエストレート(estolate)、グルセプト酸塩(gluceptate)及びラクトビオン酸塩(lactobianate)も挙げられる。
用語「活性物質」は生体内で活性又は反応を引き起こす物質を意味する。活性物質が人体又は動物体に治療目的で投与される場合、活性物質は医薬組成物又は薬物と呼ばれる。
「タンパク質活性物質」とは、本発明では、構造的にタンパク質として存在し、或いはタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを構造的に構成する活性物質を意味する。
【0016】
活性物質の例は、インスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、-β、-γ、-ω若しくは-τ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、β若しくはγ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGFである。他の例は、モノクロナール、ポリクロナール、多特異性及び単鎖抗体並びに例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント等のそのフラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部若しくは超可変部、並びにFv及びFdフラグメントである(Chamov et al.、1999)。抗体はヒト起源でも非ヒト起源でもよい。ヒト化抗体及びキメラ抗体も可能である。同様に、活性物質は、例えば放射性物質又は化学的に定義された薬物に連結している複合タンパク質及び抗体を指す。
Fabフラグメント(フラグメント抗原結合=Fab)は、両鎖が隣接定常部と結合している可変部から成る。Fabフラグメントは、例えば通常の抗体から、パパイン等のプロテアーゼによる処理によるか又はDNAクローニングによって生成されうる。他の抗体フラグメントはF(ab')2フラグメントであり、ペプシンによるタンパク質分解消化で生成されうる。
遺伝子クローニングによって、重鎖(VH)と軽鎖(VL)の可変部のみから成る短縮抗体フラグメントを調製することもできる。これらはFvフラグメントとして知られる(可変フラグメント=可変部のフラグメント)。これらのFvフラグメントにおいて定常鎖のシステイン基による共有結合は不可能なので、これらのFvフラグメントは何らかの他の方法で安定化されることが多い。この目的のため、約10〜30個のアミノ酸、好ましくは15個のアミノ酸の短ペプチドフラグメントを用いて重鎖と軽鎖の可変部を結合することが多い。これにより、VHとVLがペプチドリンカーで結合している単一のポリペプチド鎖が生じる。該抗体フラグメントは、単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる。scFv抗体の例は既知かつ開示されている。例えば、Hustonら(1988)を参照されたい。
【0017】
過去に、多量体scFv誘導体を作製するための種々の戦略が開発された。その意図は、改良された薬物動態学的特性と高い結合アビディティーを有する組換え抗体を作製することである。scFvフラグメントの多量体化を達成するため、多量体化ドメインのある融合タンパク質として組換え抗体を作製する。多量体化ドメインは、例えばIgGのCH3部又はヘリックス構造(「コイルドコイル構造」)、例えばロイシンジッパードメインでよい。他の戦略では、多量体化(例えば、ダイアボディー、トリボディー及びペンタボディー)のため、scFvフラグメントのVH部とVL部の間の相互作用を利用する。
本技術分野では用語「ダイアボディー」を用いて二価のホモ二量体scFv誘導体を表す。scFv分子中のペプチドリンカーを5〜10個のアミノ酸に短縮すると、VH/VL鎖の重ね合わせによってホモ二量体の形成となる。挿入ジサルファイト(disulphite)架橋によってダイアボディーをさらに安定化しうる。ダイアボディーの例は、文献、Perisicら(1994)で見つけられる。
本技術分野では用語「ミニボディー」を用いて二価のホモ二量体scFv誘導体を表す。ミニボディーは二量体化領域として免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を含む融合タンパク質から成る。これは、IgGのヒンジ部によってscFvフラグメントとリンカー部を連結する。このようなミニボディーの例は、Huら(1996)によって開示されている。
本技術分野では、用語「トリアボディー」を用いて三価のホモ三量体scFv誘導体を表す(Kortt et al., 1997)。リンカー配列を用いないVH-VLの直接融合が三量体の形成をもたらす。
二価、三価又は四価構造を有するミニ抗体として本技術分野で既知のフラグメントもscFvフラグメントの誘導体である。多量体化は、二価、三価又は四価のコイルドコイル構造を用いて達成される(Pack et al., 1993 and 1995; Lovejoy et al., 1993)。
【0018】
用語「賦形剤」は、製剤、本発明では粉末、特に噴霧乾燥粉末に添加する物質を指す。賦形剤は、通常、それ自体は活性、特に医薬活性を持たず、実際の成分、例えば活性物質の製剤を改良し、又はその特定局面(例えば、貯蔵安定性)を最適化するのに役立つ。
医薬「賦形剤」は薬物又は医薬組成物の一部であり、とりわけ、確実に活性物質が活性部位に到達してそこで活性物質を放出させる。賦形剤は、担体機能、活性物質の放出の制御及び安定性の向上という3つの基本的な仕事を有する。また、賦形剤を用いて、医薬品の作用の持続時間又は速度が変化した医薬品形態をも生じさせる。
用語「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つのカルボキシル基を含む化合物を指す。アミノ基は通常カルボキシル基に対してα-位にあるが、分子中のずれの他の配置も考えられる。アミノ酸は、他の官能基、例えばアミノ、カルボキサミド、カルボキシル、イミダゾール、チオ基及び他の基をも含有しうる。天然若しくは合成起源のラセミ又は光学活性(D-又はL-)(種々の立体異性比を含む)のアミノ酸を使用しうる。例えば、用語イソロイシンは、D-イソロイシン、L-イソロイシン、ラセミイソロイシン及び種々の比の該2つのエナンチオマーを包含する。
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、2より多くのアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを指す。
さらに、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、10より多くのアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを指す。
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は仮名として使用され、ホモペプチド及びヘテロペプチドの両方、すなわち同一又は異なるアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを包含する。従って、「ジペプチド」は、2つのペプチド結合したアミノ酸で構成され、「トリペプチド」は3つのペプチド結合したアミノ酸で構成される。
本明細書で使用する用語「タンパク質」は、20より多く、特に100より多くのアミノ酸基を有するアミノ酸のポリマーを指す。
用語「小タンパク質」は50kD未満若しくは30kD未満又は5〜50kDのタンパク質を指す。用語「小タンパク質」は、さらに500未満のアミノ酸基若しくは300未満のアミノ酸基又は50〜500のアミノ酸基を有するアミノ酸基のポリマーを指す。好ましい小タンパク質は、例えば「ヒト成長ホルモン/因子」、インスリン、カルシトニン等の成長因子である。
用語「タンパク質安定性」は、90%超え、好ましくは95%超えのモノマー含量を表す。
用語「オリゴ糖」又は「多糖」は、少なくとも3つのモノマー糖分子から成る多糖を意味する。
用語「%(w/w)」は、噴霧乾燥粉末中の活性物質又は賦形剤の、質量に基づいたパーセンテージ量を意味する。言及する比率は、粉末の乾燥物質に基づく。従って、粉末中の残存水分は考慮されない。
用語「非晶質」とは、粉末製剤が10%未満、好ましくは7%未満、さらに好ましくは5%未満、最も好ましくは4、3、2、又は1%未満の結晶性フラクションを含むことを意味する。
語「吸入可能」とは、粉末が肺投与に適することを意味する。吸入器を用いて吸入可能粉末を分散かつ吸入させうるので、粒子が肺に入って、任意に肺胞を通じて全身的な活性を発現できる。吸入可能粒子は、例えば、0.4〜3μm(MMD=質量中央径)、通常0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmの平均粒径及び/又は0.5〜10μm、好ましくは0.5〜7.5μm、さらに好ましくは0.5〜5.5μm、なおさらに好ましくは1〜5μm、最も好ましくは1〜4.5μm又は3〜10μmの平均空力粒径(MMAD=質量中央空力径)を有しうる。
「質量中央径」又は「MMD」は、平均粒度分布の測定値である。全貫流の50%における全体積分布の直径として結果を表す。例えば、レーザー回折法でMMD値を決定できるが、当然、他のいずれの常法をも使用しうる(例えば電子顕微鏡、遠心沈降)。
用語「平均空力粒径」(=質量中央空力径(MMAD))は、粉末の50%の粒子が、一般的により小さい空力径を有するときの空力径を示す。疑わしい場合、MMADを決定するための参照方法はこの特許明細書で特定される方法である(見出し「実施例」の方法を参照されたい)。
MMD及びMMADは相互に異なりうる。例えば、噴霧乾燥によって作製された中空球は、そのMMADより大きいMMDを有するだろう。
用語「微粒子フラクション」(FPF)は、粒径5μm以下のMMADを有する粒子から成る粉末の吸入可能部分を表す。容易に分散しうる粉末では、FPFは、20%超え、好ましくは30%超え、さらに特に40%超え、さらに好ましくは50%超え、なおさらに好ましくは55%超えである。この本文で使用する表現「カットオフ径(Cut Off Diameter)」は、FPFを決定するときに粒子を考慮することを示す。5μmのカットオフ径を有する30%のFPF(FPF5)は、粉末中の全粒子の少なくとも30%が5μm未満の平均空力粒径を有することを意味する。
用語「相対FPF」は、初期又は出発値に関するFPFを表す。例えば、貯蔵後の相対FPFは、貯蔵前のFPFに基づく。
用語「飛行時間」は、見出し「実施例」でさらに詳述するように、測定の標準的方法の名称である。飛行時間の測定では、規定の測定距離にわたって粒子の飛行時間を測定することによってMMADを決定する。MMADは飛行時間に関係する。これは、より大きいMMADの粒子は、対応するより小さい粒子より、飛ぶのに長時間かかることを意味する(この1つの対象:見出し「実施例」の方法を参照されたい)。
用語「分散しうる」とは飛行できることを意味する。粉末が飛ぶ能力の基本的必要条件は、粉末が脱凝集して個々の粒子になることと、個々の粒子が空気中で分布することである。粒子凝集塊は大きすぎて肺に入れないので、吸入療法に適さない。
用語「放出質量」は、吸入器を使用するときに送達される粉末の量を言う。例えばカプセルを使用する場合、放出前後のカプセルを秤量することによって送達量を決定する。放出質量は、放出前後のカプセルの質量の差に相当する。
【0019】
用語「テンパリング」は状態の変化を果たすことを意味する。テンパリングは、等しく規定曝露時間にわたって、規定温度にて、湿気への又は規定相対湿度を有する水含有若しくは溶媒含有ガスへの非晶質粉末の制御曝露を含む。テンパリングの本質的特徴は、湿気による粒子の制御された結晶化である。テンパリングは、表面上で主に結晶形成が起こる点に表面構造を改変べきである。粒子の核も非晶質である。この方法は、さらに、結晶化すべき物質が主に該粒子の表面上に配置されることを特徴とする。この物質は、通常1種以上の賦形剤である。テンパリングの正の効果は、物理化学的性質の改善である。結晶化を粒子の表面に限定することによって、物質又は活性物質、特にタンパク質が該粒子の核内の非晶質環境内でさらに安定化される。しかし、全体としての粒子の結晶化は回避されうる。テンパリングプロセスは、好ましくは30%を超える相対湿度、理想的には50〜60%の相対湿度で起こる。曝露時間は賦形剤の結晶化の速度によって決まる。
用語「結晶」は、イオン、分子及び原子のような最小構成成分が結晶構造を構成している物質を意味する。適切な方法で「結晶化度」又は「結晶化」が検出される場合、物質及び物質の組合せは「結晶性」である。適切な分析法の例はX線回折、溶液熱量測定及び吸湿性を決定する方法(例えばDVS, Messrs Porotecで)である。X線回折では、X線ビームが結晶格子から屈折する。回折スペクトルの配列から結晶構造を決定できる。結晶化度又は結晶化の定量的知見は、反射ピークの強度から得られる。溶液熱量測定及び吸湿性の測定によっても結晶化度を定量化できる。溶液熱量測定では、定量化プロセスのため、固体の非晶質変態及び結晶性変態の熱の種々の微妙な差異を利用する。吸湿性を決定する方法は、非晶質変態は結晶性変態より吸湿性が低いという特性を利用する。
上記分析方法では、結晶化度を定量化する前に、既知の結晶化度のサンプルを用いて検定線を記録する。
用語「相対湿度」(RH)は、蒸気について空気又は窒素などの吸収能を指す。蒸気は水又は何らかの他の有機溶媒から成りうる。相対湿度とは、空気又は窒素などの中で得られた蒸気の実際の質量の、可能な最大質量に対する比率を意味する。
用語「蒸気」は、ある物質が沸騰又は昇華の結果としてなる、該物質のガス性凝集状態を意味する。蒸気は、水と有機溶媒の両者から成りうる。有機溶媒のうち、例えばエタノール又はイソプロパノール等の医薬的に許容しうる物質が好ましい。さらに、特別の場合、以下の有機溶媒、例えばグルコフロール、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール又は短鎖飽和炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、へプタンを使用しうる。しかし、適用はこれらの例に限定されない。
用語「蒸気」及び「ガス」、「水含有ガス」及び「水含有蒸気」又は「溶媒含有ガス」及び「溶媒含有蒸気」は、相互交換可能に使用される。これらの用語の意味は、蒸気の定義から明白だろう。
用語「周囲温度」は、約20〜25℃(±10%)の温度を表す。用語「周囲温度」は、特に25℃の温度を示す。
用語「モノマー含量」及び「モノマー」は単一サブユニットのタンパク質から成るタンパク質の百分率を表す。モノマーの小フラグメントから成るモノマー含量及びフラクションと、数サブユニットから成るダイマー又はオリゴマーとは区別しなければらならない。本特許明細書で言及するモノマー含量は、排除クロマトグラフィーで決定される。
用語「凝集」は、自然な状態で単一サブユニットから成るタンパク質のダイマー及びオリゴマーの比率を表す。
【0020】
(本発明の組成物)
本発明は、粉末、特に噴霧乾燥粉末の湿度/温度への制御曝露によって、該粉末の表面を改変することに関する。これが表面上に結晶を生じさせる。内部では、粉末粒子はほとんど非晶質のままである。以後、このプロセスをテンパリングと称する。
本発明の最重要点は、粉末の流動性を最適にすることと、空気力学的特性及び静電気特性を改善することに関する。
本発明は、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤を含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて、規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、特に好ましくは前記非晶質粉末が活性物質と賦形剤を両方含む、本発明の方法に関する。他言すれば、非晶質粉末は活性物質と賦形剤の混合物である。この混合物中の二成分を制御様式で、一緒に湿気に曝露、すなわちテンパリングする。
従って、本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、活性物質、好ましくはタンパク質活性物質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法に関する。
従って、本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、タンパク質と少なくとも1種の賦形剤とを含有する非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法に関する。
【0021】
本発明は、好ましくは前記曝露時間が、前記活性物質の前に前記賦形剤が結晶化するように選択される、本発明の方法に関する。
本発明は、好ましくは前記賦形剤が前記粉末粒子の表面上で主に、すなわち、少なくとも10%若しくは少なくとも50%又は50〜100%、好ましくは85%超え若しくは90%超えの度合まで結晶化し、かつ前記活性物質は前記粉末粒子内部で主に非晶質状態である、本発明の方法に関する。
さらに、本発明は、好ましくは前記粉末粒子の結晶化度が50%未満/以下である、本発明の方法に関する。
本発明のこの方法では、HSA(ヒト血清アルブミン)等の結晶化インヒビターを使用することが好ましい。好ましくは、粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)HSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
さらに、本発明は、好ましくは前記水含有ガス若しくは溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、本発明の方法に関する。
特に好ましい実施形態では、前記賦形剤がフェニルアラニンである。
さらに本発明は、好ましくは賦形剤の量が少なくとも10%(w/w)である、本発明の方法に関する。好ましい賦形剤はフェニルアラニンである。従って、特に好ましい実施形態は、少なくとも10%(w/w)のフェニルアラニンを賦形剤として使用する、本発明の方法である。さらに少なくとも30%(w/w)及び少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニン含量も好ましい。
【0022】
好ましい実施形態では、前記物質の安定性を保持しながら本発明の方法を実施する。特に貯蔵安定性、特に高い(elevated)湿度条件下で物質の安定性を保持又は改善する。
本発明の方法の特定の実施形態では、本プロセス後に60%(w/w)の相対湿度の湿度で3ヶ月の貯蔵後の粉末のFPF(この場合、FPFは相対FPF=rFPF、すなわち出発値に対する相対値)は、出発値(本プロセス前)の60%、70%、80%、90%、95%超えである。
本発明の別の特定の実施形態では、物質の安定性、特に貯蔵安定性が、特に高い(elevated)相対湿度で維持又は改善される。例えば、貯蔵は3ヶ月又は6ヶ月以上である。
本発明の方法の好ましい実施形態では、温度は60℃未満である。好ましい実施形態では、問題の粉末は噴霧乾燥粉末である。
特別な実施形態では、本発明は、タンパク質又はタンパク質-活性物質と、賦形剤としてフェニルアラニンとを含み、任意に糖を含んでよい粉末であって、前記粉末が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%、少なくとも40%(w/w)、好ましくは10%(w/w)、特に好ましくは30%(w/w)のフェニルアラニンを含むことを特徴とする前記粉末に関する。任意に、他の物質、特に他の賦形剤を前記粉末に含めてよい。さらに、本発明のこの特別の実施形態は、タンパク質又はタンパク質-活性物質と賦形剤としてフェニルアラニンとから成り、任意に糖を含有しうる粉末を含む医薬組成物であって、前記粉末が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%、少なくとも40%(w/w)、好ましくは10%(w/w)、特に好ましくは30%(w/w)のフェニルアラニンを含む、前記医薬組成物にも関する。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態は、FPFを高める方法、特に少なくとも6%、好ましくは7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は14%より多く高める方法に関する。
本発明は、さらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の空気力学的特性を改善する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
好ましくは粉末の安定性が維持される。
本発明は、好ましくは粉末の空気力学的特性を改善する方法であって、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質より前に結晶化するように選択される、前記方法に関する。
本発明のこの方法では、HSA等の結晶化インヒビターを使用することも好ましい。好ましくは粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
さらに、本発明は、好ましくは粉末の空気力学的特性を改善する本発明の方法であって、前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、前記方法に関する。
温度は、好ましくは60℃未満である。
本発明はさらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、好ましくは粉末の静電気を低減する方法であって、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、前記方法に関する。
さらに、本発明は好ましくは粉末の静電気を低減する本発明の方法であって、前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が、30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、前記方法に関する。
温度は好ましくは60℃未満である。
粉末の静電気を低減する方法の好ましい実施形態では、本発明は、HSA等の結晶化インヒビターを含有する粉末に関する。好ましくは粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、 少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに、粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
【0024】
特別な実施形態では、本発明は、粉末を充填する方法であって、前記粉末を本発明に従って処理したことを特徴とする方法に関する。
本方法は、例えばピペット、充填ローラー又は重力ディスペンサーによる容積測定及び質量依存充填法に関する。追加のテンパリング工程のおかげで改良された充填性(fillability)は、粉末の流動性の当然の改善及び粉末の静電気荷電の減少の結果として、充填時間が短縮され、かつ充填精度が改善されることを特徴とする。
本発明の方法の一実施形態では、曝露時間は少なくとも8時間以上、少なくとも12時間以上、少なくとも20時間以上、好ましくは20時間、特に好ましくは20時間、最も特に好ましくは1時間〜72時間又は4〜48時間である。
本発明の方法のさらなる実施形態では、曝露時間中の温度は60℃未満、特に-10℃〜60℃、好ましくは4℃〜40℃、特に好ましくは16℃〜35℃である。
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、曝露時間中の温度が4℃、10℃、周囲温度又は37℃、好ましくは周囲温度である。本発明の方法の別の好ましい実施形態では、曝露時間中の温度が15〜60℃、好ましくは20℃〜30℃、特に好ましくは25℃〜30℃、例えば26℃、27℃、28℃又は29℃である。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明の方法における活性物質は、例えばインスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-ω又は-IFNτ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、TNF-β又はTNF-γ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGF等のタンパク質である。他の例はモノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、多特異性抗体及び単鎖抗体並びにそのフラグメント、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部又は超可変部並びにFv及びFdフラグメントである(Chamov et al., 1999)。抗体はヒト起源でも非ヒト起源でもよい。ヒト化抗体及びキメラ抗体も可能である。
本発明は、さらに、本発明の方法で調製できる、流動性(FPF)が上昇し、維持され又は最小限に低減し、或いは空気力学的特性又は静電気特性が改良された粉末に関する。
本発明は、特に、本発明の方法の1つで得ることができる、上昇した流動性又は増加したナノ-粗さの粉末に関する。
粉末の流動性(FPF)の低減を増加、維持若しくは最小化するため又は粉末の空気力学的特性若しくは静電気特性を改善するための本発明のさらなる実施形態では、粉末は物質1と少なくとも1種の他の物質2を含み、物質2は物質1の前に結晶化する。
従って、本発明は、さらに、物質1、特にタンパク質と、少なくとも1種の物質2とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露し、
−物質2が物質1の前に結晶化する
ことを特徴とする前記方法に関する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、さらなる粒子でさらにコーティングする工程を除く、例えばMg-ステアレート又はリン脂質でコーティングする工程を除く方法に関する。
本発明の別の好ましい実施形態は、粒子、例えば極小ロイシン粒子、通常ナノスケール粒子と混合する工程を除く、実質的により大きい担体と混合する工程をも除く、方法に関する。従って、本発明の特定の実施形態は、他の粒子と混合する工程を除く。
本発明の好ましい実施形態は、超臨界又は臨界未満の媒体を使用せずに、非晶質又は部分的に結晶性の粉末を調節する方法に関する。従って、好ましい実施形態では、本発明は超臨界法又は超臨界若しくは臨界未満の媒体の使用を排除する。
従って、本発明はさらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を増加、維持若しくは最小化するため又は粉末の空気力学的特性若しくは静電気特性を改善するための方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露し、
−超臨界若しくは臨界未満の媒体の適用又は使用を排除する
ことを特徴とする前記方法に関する。
【0027】
以下の実験から、テンパリングによる空気力学的特性の最適化は抗体に限定されず、例えば酵素(例えばリゾチーム)及びホルモン(例えばカルシトニン)等の他分類のタンパク質でも可能であることが分かる。
さらに、タンパク質安定化のための他の賦形剤は一分類の物質に限定されないことが明白である。分かるように、LS90Pのほかに、例えば、二糖サッカロース又はポリマーPVPも賦形剤として使用しうる。しかし、可能性はこれら3種の物質に限定されず;ポリオール、アミノ酸、単糖、オリゴ糖若しくは多糖又はタンパク質安定化ポリマーを使用することもできる。
以下の実験から、新規粉末が、湿気への制御された曝露によって、タンパク質の安定性を保持しながら、粒子の空気力学的特性又は流動性について最適化されることも分かる。粉末の特性の最適化は、粒子表面の表面結晶化によって達成される。
噴霧溶液に疎水性又は低溶解性物質を添加すること、さらに乾燥後、この物質が十分に、かつ湿気の作用下、制御可能様式で結晶化しうることを特に強調すべきである。従って、例えば、フェニルアラニンはこの特徴を示し、特に粉末中のフェニルアラニン含量が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%(w/w)又は少なくとも40%(w/w)であり、少なくとも10%(w/w)の含量が好まししい。このアミノ酸は、噴霧液滴内で疎水性のため液滴表面上に蓄積する。抗体及び例えばサッカロース又はマンニトール等の常用される糖又はポリオールに比べて低い溶解度の結果として、まず該液滴が蒸発すると、主にフェニルアラニンから成る固体層が形成される。疎水性及び低溶解度のため、フェニルアラニンは乾燥粒子内の粒子表面上に蓄積する。粒子表面上のフェニルアラニン-リッチ相と、粒子の核内のフェニルアラニン-プア相との間には少なくとも部分的な分離がある。他方、活性物質及び任意的な他の容易に溶解しうる賦形剤は粒子の核内に蓄積する。
フェニルアラニンが容易に結晶化する傾向の結果として、粒子の層化構造のおかげで、核内のタンパク質を傷つけることなく、制御された様式で粒子の表面が結晶化されうる。
【0028】
テンパリングのための基本的な必要条件は、粉末の層化構造(晶帯形成)である。これは、使用する粉末成分は粒子内で均質に分布しないが、該成分の物理化学的性質によって決まる、粒子の特有の領域又は層内に蓄積しうる。粒子をテンパリングするため、結晶化可能成分が粒子の外層上に蓄積することが好ましい。
2つの吸熱作用が検出されることを実験的に実証した(実施例5)。これらの吸熱作用は2つのガラス転移温度に対応し、使用物質が粒子内で均質に分布していないことを示唆している。物質が粉末粒子内で均質に分布していれば、Gordon-Taylor方程式(L Mackin, International Journal of Pharmaceutics 231 (2002) 227-236)を用いて計算できる1つだけのガラス転移温度が検出されるだろう。
いくつかの研究は、噴霧液滴の表面組成が噴霧乾燥粉末内の表面組成と関係があることを示した(Faldt et al. 1994, 噴霧乾燥タンパク質-ラクトース粉末の表面組成(The surface composition of spray dried protein-lactose powders), Colloid Surf A 90, 183-190 / Elversson, J. Et al., インサイツコーティング−噴霧乾燥中のタンパク質の粒子修飾及び封入のアプローチ(In situ coating - an approach for particle modification and encapsulation of proteins during spray drying), Int. J. Pharm (2006), 323, 52-63)。そこで、本発明の溶液の張力測定学によって個々成分の表面活性を決定した。
従って、LS90Pは水より高い表面活性を持たないので、噴霧溶液の噴霧工程後に該糖は表面上に蓄積しないことを実験的に示すことができた(実施例5)。60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1で構成される粉末中の組成を有する噴霧溶液は最低の表面張力を示した。表面張力の低減はフェニルアラニンの添加のせいだろう。これらの結果により、フェニルアラニンは液滴の表面上に蓄積する。同じ噴霧乾燥粉末のDSCデータと組み合わせて、噴霧乾燥中に起こる2種の賦形剤LS90Pとフェニルアラニンの相分離の結果として、フェニルアラニンが粒子内の外層を形成し、ひいてはLS90Pが粒子内の内層を形成する粉末が得られる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
〔表面の湿気誘導結晶化〕
(テンパリング)
フェニルアラニン、LS90P及びIgG1(比80/10/10)から成る噴霧溶液を調製した。噴霧溶液の固体フラクションは3.83%(w/v)だった。
溶液を次の条件下で乾燥させた:
噴霧乾燥機:SD-Micro(Messrs. Niro)
入口温度:120℃
出口温度:90℃
噴霧ガス速度:4kg/時間
乾燥ガス速度:28kg/時間
噴霧乾燥粉末をDVS内で種々の湿度に曝露した。測定中、相対湿度の関数として水蒸気の吸着/脱着を測定した。本粉末は臨界湿度50%で質量の損失を受けることが分かった(図1)。この質量の損失は粉末の再結晶によって達成される。質量の損失は非常にわずかであることも分かり、粉末は部分的に結晶化したにすぎないことを示唆している。
結晶化のキネティクス及び程度は湿度にも依存する。50%RHでの結晶化の速度は60%RHにおけるより実質的に遅いことが分かった(図2a、2b)。さらに、60%RHでは結晶化後の粉末の残留水分が50%RHでの結晶化後よりも有意に少ない。これは、60%RHで結晶化の度合が高いことを示している。
【0030】
(形態学調査)
原子間力顕微鏡下、粉末を制御条件下で湿気に曝露し、湿気への曝露時間の関数として形態変化を決定した。
このため、粉末をまず乾燥させてから目標の湿度に曝露した。粉末を規則的間隔で走査した。目標の湿度は50%RH及び60%RHだった。
AFM写真(図3及び4)は、湿度に依存して粒子内で結晶化が誘導され、結果として表面粗さが増すことを示している。粉末が非常に急速に水を吸収することも明らかになった。50%又は60%では、粉末は、再結晶化作用が始まるために十分な水を約1分以内で吸収した。
(実施例2)
【0031】
〔空気力学及びタンパク質安定化に及ぼすテンパリングの効果〕
この実施例では、フェニルアラニン、LS90P及びIgG1から成る種々の噴霧乾燥粉末を調製した(下表1及び2参照)。
【0032】
【0033】
フェニルアラニンを加熱しながら(80℃)溶かした。溶液を周囲温度に冷ました後、タンパク質と糖を加えた。
次の噴霧条件下で溶液を噴霧乾燥させた:
噴霧乾燥機:SD-Micro(Messrs. Niro)
入口温度:150℃
出口温度:90℃
噴霧ガス速度:4kg/時間
乾燥ガス速度:28kg/時間
【0034】
【0035】
調製した粉末を20時間にわたって50%の相対湿度でテンパリングした。
【0036】
【0037】
【0038】
テンパリングプロセスは、試験した粉末の空気力学的特性を改善した。テンパリングの結果として粒子中の微粒子フラクションが増えた。テンパリングプロセスによってタンパク質が安定化されたので、湿気誘導損傷はなかった。上表から分かるように、テンパリング後モノマー含量はほとんど変化しない。
フェニルアラニンによる空気力学の改善は、おそらく2つの作用のせいだろう。実施例1で分かるように、湿気の作用の結果として、フェニルアラニン含有粉末中の粒子表面上に小さい結晶が生成する。これらの結晶は、一方でスペーサーとして作用する。他方で、結晶性表面は吸湿性がずっと低いので、蒸気凝縮の結果としてあまり毛管力が生じない。
(実施例3)
【0039】
〔賦形剤の量に依存するテンパリング効果〕
この実施例は、テンパリング効果が、結晶化される賦形剤の量の関数としてどのように振る舞うかを示すことを意図する。このため、フェニルアラニンを結晶化可能成分として使用し、噴霧乾燥粉末中のフェニルアラニンの割合を50%から5%まで減じた。粉末の組成を下表5に示し、噴霧条件を下表6に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
噴霧乾燥後、粉末を20時間にわたって50%の相対湿度と周囲温度でテンパリングした。
下表7は、テンパリング前後の粉末のモノマー含量を示す。テンパリング後にモノマー含量は有意に低くならないことから、テンパリングはIgG1-抗体に如何なる損傷をも生じさせないことが分かる。
【0043】
【0044】
粉末をテンパリングすることによって、10%のフェニルアラニン含量まで空気力学的特性を改善できた(表8参照)。粉末1〜5ではテンパリングによって、微粒子フラクションと放出質量を両方とも増やすことができた。5%のフェニルアラニン含量では、微粒子フラクションと放出質量が両方とも減少する。従って、結晶化可能物質の比率が低すぎる場合、テンパリング効果は生じないかもしれない。
【0045】
【0046】
(実施例4)
〔使用タンパク質の関数としてのテンパリング効果〕
この実施例では、異なるタンパク質を賦形剤LS90P及びフェニルアラニンで噴霧乾燥させてからテンパリングした。意図は、粉末の品質を最適化するためのテンパリング効果は一分類のタンパク質に限定されるのではなく、該タンパク質とは無関係にテンパリングを使用しうることを示すことである。粉末の組成を下表9、噴霧条件を下表10に列挙する。
【0047】
【0048】
【0049】
図5は、調製粉末のテンパリング前後の微粒子フラクションと放出質量を示す。これにより、粉末をテンパリングすることによって微粒子フラクションを改善できた。調製粉末1〜3の微粒子フラクションはテンパリングの前後両方で同様に高い。放出質量は、使用タンパク質の関数として何ら重要な差異を示さない。これは、テンパリングによる空気力学的特性の最適化がIgG1型の抗体に限定されず、この実施例で分かるように、酵素(例えばリゾチーム)及びホルモン(例えばカルシトニン)でも可能であることを意味する。
【0050】
(実施例5)
〔噴霧乾燥粉末の層化モデルへの調査〕
テンパリングのための基本的な必要条件は粉末の層化構造である。これは、使用粉末成分が粒子内で均質に分布しないが、該成分の物理化学的性質に依存して該粒子の特有の領域又は層内に蓄積しうることを意味する。粒子をテンパリングするため、結晶化可能成分が粒子の外層上に蓄積することが好ましい。
この実施例は、粒子内の層形成又は賦形剤の相分離が起こったかどうかを調べることを意図する。このため、60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のIgG1から成る噴霧乾燥粉末を用いて熱量測定法(DSC)でガラス転移温度を決定した。下表11に噴霧条件を示し、下表12にDSC法のパラメーターを示す。穴をあけていないるつぼを用いてDSC測定を行った。結果は6つの個々の測定の平均に基づく。ガラス転移温度の開始と中央を評価した。
粉末を加熱すると、以下の2つの吸熱作用を検出できた:
作用1:開始:38.3℃/中央:41.7℃
作用2:開始:127.6℃/中央:131.7℃
これらの吸熱作用は2つのガラス転移温度に対応し、使用物質が粒子内で均質に分布しないことを示唆している。該物質が粉末粒子内で均質に分布していれば、Gordon-Taylor方程式(L Mackin, International Journal of Pharmaceutics 231 (2002) 227-236)を用いて計算できる1つだけのガラス転移温度が検出されるだろう。
【0051】
【0052】
【0053】
さらに、溶液の張力測定学で個々成分の表面活性を決定した。いくつかの研究は、噴霧液滴の表面組成が噴霧乾燥粉末内の表面組成と関係があることを示した(Faldt et al. 1994, 噴霧乾燥タンパク質-ラクトース粉末の表面組成(The surface composition of spray dried protein-lactose powders), Colloid Surf A 90, 183-190 / Elversson, J. Et al., インサイツコーティング−噴霧乾燥中のタンパク質の粒子修飾及び封入のアプローチ(In situ coating - an approach for particle modification and encapsulation of proteins during spray drying), Int. J. Pharm (2006), 323, 52-63)。
表13は、試験した噴霧溶液を列挙する。溶液4は、この特許明細書の典型的な噴霧溶液に相当し、粉末の組成は60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1である。
【0054】
【0055】
得られた表面張力は以下の通りだった:
溶液1:72mN/m
溶液2:72mN/m
溶液3:65mN/m
溶液4:59mN/m
LS90Pは水より高い表面活性を持たないので、噴霧溶液の噴霧後に該糖は表面上に蓄積しない。噴霧溶液4は最低の表面張力を示す。表面張力の低減はフェニルアラニンの添加のせいでありうる。これらの結果により、フェニルアラニンは液滴の表面上に蓄積する。この実施例で述べた噴霧乾燥粉末のDSCデータと組み合わせて、噴霧乾燥中に起こる2種の賦形剤LS90Pとフェニルアラニンの相分離の結果として、フェニルアラニンが粒子内の外層を形成し、ひいてはLS90Pが粒子内の内層を形成する粉末が得られる。
【0056】
(実施例6)
〔結晶化インヒビターを用いる噴霧乾燥〕
この実施例は、結晶化インヒビターを使用することによって、噴霧乾燥粉末をさらに最適化できることを示すことを意図する。この目的のため、下表14に示すような種々の粉末を調製した。
【0057】
【0058】
SDMicroでの噴霧条件を下表15にまとめた。
【0059】
【0060】
水性LS90P溶液を凍結乾燥させる目的はX線-非晶質粉末を調製することだった。このため、小固体フラクション(5g/100mL)を有する水溶液を調製し、下表16に示すように凍結乾燥させた。
【0061】
【0062】
図6は、DSC装置(DSC821/Mettler Toledo)内で粉末を加熱後のLS90Pの再結晶化エンタルピーを示す。1%のHSAの添加の結果として、結晶化エンタルピーが質量比に基づいて大いに増加することが分かる。従って、LS90Pの結晶化エンタルピーはテンパリング前は6.80J/gから24.3J/gに増加し、テンパリング後は4.8J/gから26.0J/gに増加する。これは、1%のHSAの添加がLS90Pの非晶質性を高めることを意味する。
【0063】
(実施例7)
〔IGG1/LS90P及びさらなる賦形剤を含有する他の粉末の噴霧乾燥〕
この実施例では、他の賦形剤をそのテンパリング特性について調査する。このため、下表17に従って2種の粉末を調製し、噴霧条件は下表18に従った。
【0064】
【0065】
【0066】
下表19に示されるように、テンパリングによってFPFを改善できる。テンパリングによって得られる空気力学的特性の改善に加え、この実施例で示されるように(下表20参照)、テンパリングによってタンパク質の完全性(モノマー含量)も改善できる。テンパリング後、特に粉末1の場合、モノマー含量が有意に高い。
【0067】
【0068】
【0069】
(実施例8)
〔IGG1/フェニルアラニン及び別の賦形剤を含有する他の粉末の噴霧乾燥〕
この例は、さらなる賦形剤の添加がタンパク質の安定性に決定的に影響を及ぼしうることを示すことを意図する。このため、下表21に従って噴霧乾燥により種々の粉末を調製した。噴霧乾燥のプロセスパラメーターを下表22に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
調製後、粉末を周囲温度で20時間50%の相対湿度にて調節した。次に、粉末をストレス条件下に組み入れた。
貯蔵条件1:25℃/60%のr.h.
貯蔵条件2:25℃/60%のr.h.
下表23は、テンパリング前後の、生成粉末の微粒子フラクションを示す。粉末1及び2の場合、粉末はその空気力学的特性において何ら有意な改善を示さなかった。この観察の主な理由は、空気力学的特性は生成直後に非常に良かったことである。5.0μm未満の粒子の質量比として定義されるMMADを微粒子フラクションに関係づけると、テンパリングによる最適化の可能性は、高いMMADによって制限されることが明らかになる。テンパリング中の別の必須因子は、このプロセスでは粒子の細分化がないことである。
【0073】
【0074】
下表24にモノマー含量を列挙する。粒子をテンパリングすることによって粉末が安定化した。これは、表面が結晶化したことを意味する。この結晶性層は湿分バリアとして作用するので、非晶質コアを保護できる。タンパク質安定化用の賦形剤は一分類の物質に限定されない。分かるように、LS90Pのほかに、例えば、二糖サッカロース又はポリマーPVPも賦形剤として使用しうる。しかし、可能性は、これら3種の物質に限定されず;例えば、ポリオール、アミノ酸、単糖、オリゴ糖若しくは多糖又はタンパク質安定化ポリマーも使用できる。
さらなる賦形剤の機能性、ひいてはその選択は、そのさらなる賦形剤によってタンパク質を安定化することにある。
【0075】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末、特に噴霧乾燥粉末の制御された結晶化の方法に関する。さらに、本発明は、特に物質の安定性を保持しながら、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法、粉末の空気力学的特性を改善する方法及び粉末、特に噴霧乾燥粉末のより良い充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の戦略を用いて粉末の流動性を最適化する。一方では、粒子表面の粗さを増してよい。しかし、他方では、粒子表面の化学組成を改変することもできる。粒子表面の粗さの増加及び化学的改変の両方で粒子間相互作用を減らすことができるので、粉末の流動性、及び空中における粒子の分散性、ひいては空気力学的特性をも改善することができる。
例えば、粒子をナノスケール粒子で被覆することによって粗さを高めうる。(G.Huber, Powder Technology 134 (2003), 181-192, 乾燥粉末吸入器で使うための液体窒素中の固体粒子の静電気的に支持された表面被覆(Electrostatically supported surface coating of a solid particle in liquid nitrogen for the use in Dry-Powder-Inhalers)。ナノ粒子を粉末に(噴霧乾燥材料に焦点を置かずに)適用する従来の方法には、例えばジェットグラインダー又はハイブリッダイザー(Messrs Nara)での被覆等の機械的方法が含まれる。さらに、重力ミキサーも使用される(M. Eber, 2004, Dissertation Uni Erlangen, 表題:Wirksamkeit und Leistungsfahigkeit von Nanoskaligen Flussregulierungsmitteln [ナノスケールのフローレギュレーターの作用と効率])。噴霧乾燥材料を担体系と混合する場合、標準的にふるい又は重力ミキサーを使用する。
【0003】
表面粗さを改変するという戦略に加えて、粒子表面に疎水性を与えることによっても粉末の品質を最適化しうる。噴霧乾燥粉末を調製するとき、疎水性物質を噴霧溶液に直接添加してよい。噴霧溶液を霧状にして極小液滴とすることによって、かつ噴霧乾燥機の乾燥塔内で該液滴が蒸発する間に、該賦形剤の、活性物質及びさらなる賦形剤と比較して低い溶解度の結果として、表面上に疎水性物質が蓄積する。分離工程において噴霧乾燥粒子を疎水性フィルムで被覆することもできる。
原則として、非制御結晶化法は活性物質を傷つけうるので、粉末、特にタンパク質含有粉末、最も詳細には噴霧乾燥粉末による目的は、非晶形の粒子を得ることである。通常、非晶質粒子は吸湿性であり、かつ粉末凝集塊を形成する傾向がある。両作用は本質的に望ましくなく、粉末の貯蔵並びに例えば粉末を肺に投与する場合にその送達の見地からさらなる要求を強いる。
噴霧乾燥粉末中に高いタンパク質含量があれば、これらの粉末は凝集する傾向もある。タンパク質によって左右されるが、多かれ少なかれ個々の粒子がひどくくっつき合うことが起こる。例えばヒト血清アルブミンは、70%過剰の質量分で十分に噴霧乾燥されうるが、モノクロナール抗体の場合は生成物の品質が悪くなることが多い。結果の粉末は不十分な流動性を示し、吸入器を用いる場合に分散させにくい。
【0004】
これが、安定性、特に噴霧乾燥後のタンパク質の安定性を達成すること及び自由流動性で、吸入にも適する粉末を製造することの両方の製品開発者らの挑戦を惹起する。
この課題に対する解決の最新技術は、一連のプロセス工程を逐次行うことである。文献は、いわゆる皮膜形成剤による噴霧乾燥粒子の被覆又はさらなる賦形剤、例えばナノスケール粒子、若しくは約50〜100μmの寸法の実質的により大きい粒子との噴霧乾燥粒子の混合について記載している。
材料、特に噴霧乾燥材料をナノ粒子又は皮膜形成剤、例えばMg-ステアレート等で被覆する場合、装置に関する高い出費が必須である。粉砕ミルの使用は粒子に熱応力をも生じさせるので、物質、特にタンパク質に望ましくない形態学的変化及び損傷が起こりうる。
特に粉末中の活性物質の均質性に関して、ひいては薬用量の均一性については、混合操作を含むすべてのプロセスが重要である。不均質性は製造中に直接起こりうるが、その後の貯蔵中にも分離の結果として起こりうる。例えば、貯蔵中、一次包装、例えばカプセル又はブリスター内で活性物質が蓄積しうる。異なる密度の粒子を混合すると、重力の結果として分離プロセスが起こりうる。非晶質粒子を加工するとき、多段階プロセスでは、プロセス連鎖の間じゅう低減湿度レベルで運転することが必須である。そうでなければ、非制御結晶化プロセスが起こりうる。このことがプロセス開発において、また製品の製造においても高コストをもたらしうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、課題は、低減した技術的コストで上記問題を解決することである。
本発明が基礎とする課題は、以下の実施形態及び特許請求の範囲で詳述する対象と方法によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法、粉末の空気力学的特性を改善する方法及び活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度で規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、好ましくは、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、本発明の方法に関する。
特に好ましい実施形態では、問題の粉末が噴霧乾燥粉末である。
以後、この手順又はこの方法を「テンパリング(tempering)」とも称する。テンパリングは、熱力学的に安定な粒子表面を生じさせる。このことが、貯蔵中の粉末における望ましくない温度誘導及び湿度誘導変化の程度を減らす。粉末中の活性物質の均質性は、それが噴霧液滴の組成に起因する限りにおいて重大でない。純粋に噴霧乾燥させた粉末では分離プロセスはあり得ないか又は知られていない。テンパリングは、貯蔵安定性を与えること以外に、粉末の流動及び分散特性をも最適化しうる。粒子表面の熱力学的安定化のおかげで、より高い湿度でも粉末を貯蔵しうる。このことが、特に患者のための製品の安全性を改善する。ナノスケールの表面粗さを生じさせると、流動性及び空気力学を改善する。これが順次、より良い充填/加工の質及び吸入率によって実証される。
本発明の用途は、例えば薬物、例えば吸入用薬物の粉末含有製剤の開発で見つかる。
【0007】
テンパリングは、熱力学的に安定な粒子表面を生じさせる。結果として、貯蔵中の粉末における望ましくない温度誘導及び湿度誘導変化の程度が低減する。粉末中の活性物質の均質性は、それが噴霧液滴の組成に起因する限りにおいて重要でない。純粋に噴霧乾燥させた粉末では分離プロセスはあり得ないか又は知られていない。
特にタンパク質含有粉末の従来の調製方法では、非制御結晶化作用は粉末又はタンパク質を傷つけうるので、非制御結晶化作用が回避される。しかし、驚くべきことに、特定の処方箋で、物質又は活性物質、特にタンパク質を傷つけることなく、表面の結晶化を誘導できることが分かった。
表面の結晶化の発生はいくつかの前提条件に関連する:粉末、特に噴霧乾燥粉末は低タンパク質領域と高タンパク質領域を含む。この晶帯形成(zone formation)は、噴霧溶液中で疎水性の度合が異なる物質を使用することによって起こりうる。低タンパク質領域は、容易に結晶化する物質を含むだろう。一方、高タンパク質領域は結晶化がかなり困難であり、一般的に該タンパク質に加えて別の第三成分、例えば糖を含むだろう。容易に結晶化した物質は、好ましくは粒子表面上で見つかり;一方、結晶化が困難な物質は核内にあるだろう。粒子の所望の結晶化は、湿度、温度及び時間によって制御可能であり、かつ分離工程で、特に噴霧乾燥後に起こる。
HSAなどの結晶化インヒビターをさらに混合すると、粉末の粒子特性を改善しうる。結晶化インヒビターは、例えば糖のような容易に水に溶ける成分と、該タンパク質が見られる粒子核内部における非晶質マトリックスの形成を補助する。
【0008】
本発明は、先行技術に起因しない。
粉末に(噴霧乾燥材料に焦点を当てることなく)ナノ粒子を適用するプロセスのような従来の方法は、例えば、ジェットグラインダー又はハイブリッダイザー(Messrs Nara)でのコーティングのような機械的方法である。さらに、重力ミキサーをも使用する(M. Eber, 2004, Dissertation Uni Erlangen, 表題:Wirksamkeit und Leistungsfahigkeit von Nanoskaligen Flussregulierungsmitteln [ナノスケールのフローレギュレーターの作用と効率])。噴霧乾燥材料を担体系と混合する場合、一般的にふるい又は重力ミキサーを使用する。
【0009】
一特許出願(WO20040/3848)では、製造後、粉砕ミル(ジェットグラインダー/ボールミル)内で粉末(噴霧乾燥粉末を含む)をアミノ酸、Mg-ステアレート及びリン脂質と混合した。しかし、制御された結晶化の方法には何ら言及していない。この特許出願で開示されている方法は、粒子表面に疎水性を与えることに関する。そして、この疎水処理によってどうやって粒子間の相互作用を減少させ、ひいては粉末の流動性と空気力学的特性を最適化できるかについての説明があった。しかしながら、本発明は、粒子表面に疎水性を与えることに関するのではなく、制御された結晶化による表面の熱力学的安定化に関する。この方法の別の利点は、粉末内の静電気的相互作用の低減である。特別に疎水性を与えられた粉末は強力な静電気の放電への傾向を有する。そこで、本発明のテンパリングプロセス後に、静電気が減少することをフェニルアラニン含有粉末で実証できた。
【0010】
別の特許出願WO03/037303も、疎水性物質を噴霧乾燥機内で直接粒子に適用する方法を記載している。このプロセスでは、2つの噴霧溶液を相互独立に乾燥塔内にマルチプルノズルを通じて供給する。この公開特許出願の一実施例では、ラフィノース粒子とロイシン粒子が両方とも調製される。噴霧乾燥機内で粒子を直接混合する。結果として生じる混合物は、噴霧乾燥ラフィノースに比べて改良された分散特性を示した。この方法は2つの噴霧乾燥粒子集団の混合に関するので、WO03/037303は関係ない。しかし、この手順は本発明の一部でない。本発明は、追加のプロセス工程でさらなる物質を添加するのではなく、現存する粒子を改変することに関係する。
さらなる特許出願(WO0030614)には、非晶質フラクションを結晶化する方法が開示されている。超臨界又は臨界未満ガスが粉末に作用する。該ガスは、さらに水又は有機溶媒を含む。超臨界又は臨界未満ガスが粒子中に浸透し、溶媒蒸気を利用して非晶質フラクションの結晶化を引き起こす。
この公開出願は超臨界法だけを開示しているので、WO0030614は関係ない。しかし、本特許出願は、その好ましい実施形態で超臨界法を除外する。噴霧乾燥粒子のテンパリングは、本質的に、粒子内部に非晶質フラクションを保持しながら、表面の制御された結晶化をも含む。非晶質環境によって、タンパク質を安定化することができる。本方法のこの必須工程は特許出願WO0030614はの一部でない。
WO9505805は、使用する物質の全体的な結晶化の方法を開示している。すなわち、WO9505805は、如何なる晶帯形成についても述べていない。さらに、WO9505805は、担体と微細化学物質だけに言及しており、タンパク質には言及しておらず、かつ活性物質と他の物質を機械的に混合、すなわち担体に活性物質を適用するが、本発明では、タンパク質を賦形剤マトリックス内に埋め込み、ひいては安定化する。
【0011】
DE102004048390は、担体α-ラクトース一水和物と混合した非晶質の噴霧乾燥ラクトースを開示している。噴霧乾燥成分を結晶化するため、混合物を水分で調節する。しかし、本発明では、部分的結晶化だけが起こり、従って粒子の表面又は粒子の表面に近い領域だけが結晶化することが重要である。しかしながら、噴霧乾燥ラクトースでは、粒子が1つの物質のみから成るので晶帯形成は起こらない。タンパク質を安定化するため、該タンパク質の周囲に非晶質マトリックスを有することも重要である。DE102004048390では、活性物質がない粒子だけを調節するが、本発明にとっては、晶帯形成の目的のため、又は非晶質核を得るため、活性物質と賦形剤を一緒に調節することが重要である。
特許US556293、US5709884、US5874063も溶媒蒸気を用いて粉末を調節する方法を開示している。蒸気は水と、例えばエタノールのような有機溶媒の両者から成りうる。
特許US5562923は、機械的に微粉化した粒子を短鎖アルコール若しくはケトン又は酢酸エチルから成る溶媒蒸気と混ぜ合わせる方法を開示している。しかし、該米国特許にはタンパク質が現われないので、特許US556293は関係ない。さらに、上記特許明細書によれば、機械的に微粉化した粉末だけを調節する。US5562923には噴霧乾燥粉末も現われない。
特許US570984は、該米国特許にタンパク質が現われないので関係ない。さらに、別々に調製された異なる物質又は粒子から成る粉末混合物だけを調節し、噴霧乾燥粉末を調節しない。
特許US5874063は、該米国特許にタンパク質が現われないので関係ない。さらに、この方法の目標は、ほとんど全体的に非晶質フラクションを減らして粒子を結晶化することである。噴霧乾燥粉末のテンパリングでは、粒子は実質的に非晶質である。これは、結晶化度が50%未満であることを意味する。テンパリング後、タンパク質の安定化には非晶質フラクションも必要である。この事情は、明らかに米国特許US5874063の上位に本出願/発明を限定する。
【0012】
噴霧液の適切な選択によって結晶性粒子を生成する、他の噴霧乾燥プロセスが文献に記載されている。
Kambiz Gilaniら(Journal of Pharmaceutical Science, Vol 94, No 5. 2005, 1048〜1059ページ)は、エタノールを水性噴霧溶液に添加することによって、クロモグリク酸ナトリウムを含有する乾燥粒子の結晶化度を高められることを示した。噴霧乾燥粒子中の結晶性フラクションを増やすことによって、空気力学的特性を改善することもできた。
Harjunenら(Drug Development and Industrial Pharmacy, Vol 28, No. 8, 2002, 949〜955ページ)は、ラクトース含有噴霧溶液中の水とエタノールの混合比を変えることによって、0%〜100%の非晶質フラクションを有する粒子を調製できることを示した。
しかし、これらの方法は、表面の制御された結晶化と比較できない。例えば、Harjunenらが述べているように、エタノール中の15%質量部のラクトースは結晶性懸濁液として存在する。ここでは、新しい粒子を生成するためでなく、固体/液体分離のために噴霧乾燥を利用している。
本明細書で言及するすべてのパーセンテージは、特に噴霧乾燥で得られた粉末中の乾燥固体の濃度データと組成を表す(w/w)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DVS(動的蒸気吸着(Dynamic Vapor Sorption))−80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を決定するための写真を示す。 この図は、噴霧乾燥粉末の吸湿性を示す。DVS(Messrs Porotec)で測定を行った。DVS法は、サンプルを秤量する工程及びサンプルを制御条件下で水蒸気に曝露する工程を含む。質量の変化を検出する。この図では、2サイクルを追跡し、それぞれ水蒸気の吸着と対応する脱着を含む。最大相対湿度(RH)は80%だった。2サイクルを比較することによって、湿度誘導された不可逆的な結果を検出することができる。本測定では、50%のRHと60%のRHの両方で質量の低下を検出できる。この低下は、粉末の結晶化によって起こる表面の崩壊に起因する。崩壊の結果として、表面上の濃縮された水蒸気の過飽和が突然起こる。これがこの水の蒸発、ひいては質量の減少をもたらす。
【図2a】80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を示し、図2aが50%相対湿度(RH)及び図2bが60%RHにおける吸湿性である。 図1についての説明で述べた方法と同様に測定を行った。
【図2b】80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の吸湿性を示し、図2aが50%相対湿度(RH)及び図2bが60%RHにおける吸湿性である。 図1についての説明で述べた方法と同様に測定を行った。
【図3】50%RHで貯蔵中の80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の原子間力測定(AFM)写真を示す。 サンプルの調製:スパチュラを用いてAFMサンプルディスク上に粉末を置いた。接着剤(STKY-Dot)がサンプルホルダーと粉末の底層との間の凝縮結合を与えた。粉末の重なり層が粒子接着によって接着した。結びついていない粒子を乾燥窒素流を用いて吹き払った。 方法:サンプルの調製直後に粉末をAFMヘッド内に置き、AFM-LASERを調整した。調整後、フード(大気フード)を用いてAFMを密封し、空中でロックしたAFMを0%の相対湿度まで除湿した。除湿後、ある点で適切な粉末粒子表面を連続的に走査した。安定した走査状態が確立されたら、数分内で50%の相対湿度に高めた。材料:AFM MultiModeTM SPM(Veeco) E-スキャナー(Veeco) TIP: MPP-11200(Veeco) 大気フード(Veeco) サンプルディスク(Veeco) STKY-Dot(Veeco) ソフトウェアバージョンV5.12b48 湿度調整装置UH-LFR(Boehringer Ingelheim)パラメーター:タッピングモード 走査速度:1〜2Hz 走査解像度:512×512ピクセル チップ周波数:250〜300kHz 空気湿度:約0%のRH、50±4%のRH、70±3%のRH(相対湿度) 走査中のサンプルの温度:TS=22〜28℃a)出発値、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1b)50%RHで12分インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1c)50%RHで53分インキュベーション後の50%RHでのインキュベーション時間、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1d)50%RHで8時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1e)50%RHで20時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1
【図4】60%RHで貯蔵中の80%のフェニルアラニン、10%のLS90P及び10%のIgG1を含有する噴霧乾燥粉末の原子間力測定(AFM)写真を示す。 図3について述べた方法と同様に測定を行った。a)出発値、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1b)60%RHで12分インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1c)50%RHで44分インキュベーション後の50%RHでのインキュベーション時間、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1d)50%RHで8時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1e)50%RHで17時間インキュベーション後、噴霧乾燥粉末:80%のフェニルアラニン/10%のLS90P/10%のIgG1
【図5】テンパリング前後の噴霧乾燥粉末の微粒子フラクションの比較を示す。 空気力学粒径測定器(Aerodynamic Particle Sizer)(APS, TSI)と組み合わせた一段階インパクター(Impactor Inlet, TSI)で微粒子フラクションを決定した。インパクターノズルの分離限界は5.0μmであった。微粒子フラクションに加え、APSを用いて空気力学粒径を決定し、かつ飛行時間を測定して粒度分布を決定した。これを行うため、サンプル誘導ポートを通過後、粉末を分割した。等速条件下で小キャピラリー中に0.2%のフラクションを吸引し、飛行時間測定ユニットを導入した。残存フラクションを用いて微粒子フラクションを決定した。 測定のため粉末を3号サイズのカプセルに詰め、吸入器(HandiHaler(登録商標), Boehringer Ingelheim)を用いて放出した。HandiHalerによって4kPaの圧力降下の効果があるように、粉末を放出するための流速を調整した。空気体積はPharmEurによって4リットルだった。インパクターステージ上に堆積した粒子の「反跳」を阻止するため、インパクタープレートを測定用の高粘度Brij溶液で被覆した。吸入器(HandiHaler(登録商標)を通じた放出前後のカプセルの重量の差から放出された質量を得る。明るい棒:テンパリング前の微粒子フラクションのパーセンテージ暗い棒:テンパリング後の微粒子フラクションのパーセンテージ▲:噴霧乾燥直後の放出された質量■:テンパリング(50%RH、周囲温度、20時間)後の放出された質量粉末1:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のIgG1から成る噴霧乾燥粉末粉末2:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のリゾチームから成る噴霧乾燥粉末粉末3:60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のカルシトニンから成る噴霧乾燥粉末
【図6】LS90Pの結晶化エンタルピーを決定するためのDSC測定を示す。 粉末の加熱中の熱の流れを測定することによって結晶化エンタルピーを決定した。非晶質粉末を加熱しているとき、ガラス転移温度を通過後、粒子の構成成分が移動度を増して結晶化しうる。ガラス転移温度の通過は吸熱プロセスである。他方、その後の結晶化は発熱を伴う。さらに粉末を加熱すると、粉末は融解又は分解しうる。 DSC測定のため、数ミリグラムの粉末をるつぼ内でわずかに圧縮して、できる限り均質かつ濃密な粉末の層を形成した。次に、るつぼを冷間圧接で封止した。穴をあけられていないるつぼで測定を行った。 他のパラメーターは以下の通りだった:測定装置:DSC 821/Mettler Toledo評価ソフトウェア:STARバージョン4.20炉ガス:窒素/40mL/分洗い流しガス:窒素/150mL/分るつぼ:アルミニウム製るつぼ、40μL走査速度:温度10℃/分粉末1:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/40%のLS90P 粉末2:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1粉末3:噴霧乾燥粉末:60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/9%のIgG1/1%のHSA粉末4:凍結乾燥粉末:100%のLS90P 明るい棒:テンパリング前の結晶化エンタルピー(J/g)暗い棒:テンパリング後の結晶化エンタルピー(J/g)
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔発明の詳細な説明〕
(定義)
この明細書の範囲内で使用する用語及び名称は以下に定義する意味を有する。質量の詳細及び質量パーセンテージは、特に断らない限り、組成物又は溶液/懸濁液の固形分の乾燥質量に基づく。
一般的表現「含有する」又は「含む」は、より特別な用語「から成る」を包含する。さらに、「1」及び「多」は、限定的に使用されない。
「粉末」は、非常に微細な粉砕物質を表す。「噴霧乾燥粉末」は、噴霧乾燥によって生成された粉末を意味する。
「粒子」は、物質の小フラグメントを表す。本発明では、用語「粒子」は本発明の粉末中の粒子を指す。用語「粒子」及び「粉末」は、本発明では相互交換可能に使用されることもある。用語「粉末」はその構成成分である粒子をも包含する。従って、粒子は、すべての粒子、すなわち粉末を表す。
この発明の意味での用語「混合物」は、全成分の真正溶液から、又は1種以上の成分が懸濁している溶液から生成される当該混合物の両方を指す。しかし、この発明の意味での用語「混合物」は、これらの成分の固体粒子から物理的混合プロセスによって生成された混合物又はこれらの成分の溶液若しくは懸濁液を1種以上の固体成分に適用して形成された混合物をも指す。
【0015】
用語「組成物」は、少なくとも2種の出発原料の液体、半固体又は固体混合物を指す。
用語「医薬組成物」は、患者に投与するための組成物を指す。
用語「医薬的に許容しうる賦形剤」は、本発明の範囲内の製剤中におそらく存在しうる賦形剤を指す。賦形剤は、例えば、対象又は対象の肺に如何なる有意な中毒学的に有害な作用をも及ぼすことなく、肺経路で投与されうる。
用語「医薬的に許容しうる塩」は、限定するものではないが、例えば以下の塩を包含する:無機酸の塩、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化水素酸塩及び硝酸塩。また、有機酸の塩、例えばリンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、パラ-トルエンスルホン酸、パルモエート(palmoate)、サリチル酸塩及びステアリン酸塩、並びにエストレート(estolate)、グルセプト酸塩(gluceptate)及びラクトビオン酸塩(lactobianate)も挙げられる。
用語「活性物質」は生体内で活性又は反応を引き起こす物質を意味する。活性物質が人体又は動物体に治療目的で投与される場合、活性物質は医薬組成物又は薬物と呼ばれる。
「タンパク質活性物質」とは、本発明では、構造的にタンパク質として存在し、或いはタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを構造的に構成する活性物質を意味する。
【0016】
活性物質の例は、インスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、-β、-γ、-ω若しくは-τ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、β若しくはγ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGFである。他の例は、モノクロナール、ポリクロナール、多特異性及び単鎖抗体並びに例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント等のそのフラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部若しくは超可変部、並びにFv及びFdフラグメントである(Chamov et al.、1999)。抗体はヒト起源でも非ヒト起源でもよい。ヒト化抗体及びキメラ抗体も可能である。同様に、活性物質は、例えば放射性物質又は化学的に定義された薬物に連結している複合タンパク質及び抗体を指す。
Fabフラグメント(フラグメント抗原結合=Fab)は、両鎖が隣接定常部と結合している可変部から成る。Fabフラグメントは、例えば通常の抗体から、パパイン等のプロテアーゼによる処理によるか又はDNAクローニングによって生成されうる。他の抗体フラグメントはF(ab')2フラグメントであり、ペプシンによるタンパク質分解消化で生成されうる。
遺伝子クローニングによって、重鎖(VH)と軽鎖(VL)の可変部のみから成る短縮抗体フラグメントを調製することもできる。これらはFvフラグメントとして知られる(可変フラグメント=可変部のフラグメント)。これらのFvフラグメントにおいて定常鎖のシステイン基による共有結合は不可能なので、これらのFvフラグメントは何らかの他の方法で安定化されることが多い。この目的のため、約10〜30個のアミノ酸、好ましくは15個のアミノ酸の短ペプチドフラグメントを用いて重鎖と軽鎖の可変部を結合することが多い。これにより、VHとVLがペプチドリンカーで結合している単一のポリペプチド鎖が生じる。該抗体フラグメントは、単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる。scFv抗体の例は既知かつ開示されている。例えば、Hustonら(1988)を参照されたい。
【0017】
過去に、多量体scFv誘導体を作製するための種々の戦略が開発された。その意図は、改良された薬物動態学的特性と高い結合アビディティーを有する組換え抗体を作製することである。scFvフラグメントの多量体化を達成するため、多量体化ドメインのある融合タンパク質として組換え抗体を作製する。多量体化ドメインは、例えばIgGのCH3部又はヘリックス構造(「コイルドコイル構造」)、例えばロイシンジッパードメインでよい。他の戦略では、多量体化(例えば、ダイアボディー、トリボディー及びペンタボディー)のため、scFvフラグメントのVH部とVL部の間の相互作用を利用する。
本技術分野では用語「ダイアボディー」を用いて二価のホモ二量体scFv誘導体を表す。scFv分子中のペプチドリンカーを5〜10個のアミノ酸に短縮すると、VH/VL鎖の重ね合わせによってホモ二量体の形成となる。挿入ジサルファイト(disulphite)架橋によってダイアボディーをさらに安定化しうる。ダイアボディーの例は、文献、Perisicら(1994)で見つけられる。
本技術分野では用語「ミニボディー」を用いて二価のホモ二量体scFv誘導体を表す。ミニボディーは二量体化領域として免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を含む融合タンパク質から成る。これは、IgGのヒンジ部によってscFvフラグメントとリンカー部を連結する。このようなミニボディーの例は、Huら(1996)によって開示されている。
本技術分野では、用語「トリアボディー」を用いて三価のホモ三量体scFv誘導体を表す(Kortt et al., 1997)。リンカー配列を用いないVH-VLの直接融合が三量体の形成をもたらす。
二価、三価又は四価構造を有するミニ抗体として本技術分野で既知のフラグメントもscFvフラグメントの誘導体である。多量体化は、二価、三価又は四価のコイルドコイル構造を用いて達成される(Pack et al., 1993 and 1995; Lovejoy et al., 1993)。
【0018】
用語「賦形剤」は、製剤、本発明では粉末、特に噴霧乾燥粉末に添加する物質を指す。賦形剤は、通常、それ自体は活性、特に医薬活性を持たず、実際の成分、例えば活性物質の製剤を改良し、又はその特定局面(例えば、貯蔵安定性)を最適化するのに役立つ。
医薬「賦形剤」は薬物又は医薬組成物の一部であり、とりわけ、確実に活性物質が活性部位に到達してそこで活性物質を放出させる。賦形剤は、担体機能、活性物質の放出の制御及び安定性の向上という3つの基本的な仕事を有する。また、賦形剤を用いて、医薬品の作用の持続時間又は速度が変化した医薬品形態をも生じさせる。
用語「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つのカルボキシル基を含む化合物を指す。アミノ基は通常カルボキシル基に対してα-位にあるが、分子中のずれの他の配置も考えられる。アミノ酸は、他の官能基、例えばアミノ、カルボキサミド、カルボキシル、イミダゾール、チオ基及び他の基をも含有しうる。天然若しくは合成起源のラセミ又は光学活性(D-又はL-)(種々の立体異性比を含む)のアミノ酸を使用しうる。例えば、用語イソロイシンは、D-イソロイシン、L-イソロイシン、ラセミイソロイシン及び種々の比の該2つのエナンチオマーを包含する。
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、2より多くのアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを指す。
さらに、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、10より多くのアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを指す。
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は仮名として使用され、ホモペプチド及びヘテロペプチドの両方、すなわち同一又は異なるアミノ酸基から成るアミノ酸のポリマーを包含する。従って、「ジペプチド」は、2つのペプチド結合したアミノ酸で構成され、「トリペプチド」は3つのペプチド結合したアミノ酸で構成される。
本明細書で使用する用語「タンパク質」は、20より多く、特に100より多くのアミノ酸基を有するアミノ酸のポリマーを指す。
用語「小タンパク質」は50kD未満若しくは30kD未満又は5〜50kDのタンパク質を指す。用語「小タンパク質」は、さらに500未満のアミノ酸基若しくは300未満のアミノ酸基又は50〜500のアミノ酸基を有するアミノ酸基のポリマーを指す。好ましい小タンパク質は、例えば「ヒト成長ホルモン/因子」、インスリン、カルシトニン等の成長因子である。
用語「タンパク質安定性」は、90%超え、好ましくは95%超えのモノマー含量を表す。
用語「オリゴ糖」又は「多糖」は、少なくとも3つのモノマー糖分子から成る多糖を意味する。
用語「%(w/w)」は、噴霧乾燥粉末中の活性物質又は賦形剤の、質量に基づいたパーセンテージ量を意味する。言及する比率は、粉末の乾燥物質に基づく。従って、粉末中の残存水分は考慮されない。
用語「非晶質」とは、粉末製剤が10%未満、好ましくは7%未満、さらに好ましくは5%未満、最も好ましくは4、3、2、又は1%未満の結晶性フラクションを含むことを意味する。
語「吸入可能」とは、粉末が肺投与に適することを意味する。吸入器を用いて吸入可能粉末を分散かつ吸入させうるので、粒子が肺に入って、任意に肺胞を通じて全身的な活性を発現できる。吸入可能粒子は、例えば、0.4〜3μm(MMD=質量中央径)、通常0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmの平均粒径及び/又は0.5〜10μm、好ましくは0.5〜7.5μm、さらに好ましくは0.5〜5.5μm、なおさらに好ましくは1〜5μm、最も好ましくは1〜4.5μm又は3〜10μmの平均空力粒径(MMAD=質量中央空力径)を有しうる。
「質量中央径」又は「MMD」は、平均粒度分布の測定値である。全貫流の50%における全体積分布の直径として結果を表す。例えば、レーザー回折法でMMD値を決定できるが、当然、他のいずれの常法をも使用しうる(例えば電子顕微鏡、遠心沈降)。
用語「平均空力粒径」(=質量中央空力径(MMAD))は、粉末の50%の粒子が、一般的により小さい空力径を有するときの空力径を示す。疑わしい場合、MMADを決定するための参照方法はこの特許明細書で特定される方法である(見出し「実施例」の方法を参照されたい)。
MMD及びMMADは相互に異なりうる。例えば、噴霧乾燥によって作製された中空球は、そのMMADより大きいMMDを有するだろう。
用語「微粒子フラクション」(FPF)は、粒径5μm以下のMMADを有する粒子から成る粉末の吸入可能部分を表す。容易に分散しうる粉末では、FPFは、20%超え、好ましくは30%超え、さらに特に40%超え、さらに好ましくは50%超え、なおさらに好ましくは55%超えである。この本文で使用する表現「カットオフ径(Cut Off Diameter)」は、FPFを決定するときに粒子を考慮することを示す。5μmのカットオフ径を有する30%のFPF(FPF5)は、粉末中の全粒子の少なくとも30%が5μm未満の平均空力粒径を有することを意味する。
用語「相対FPF」は、初期又は出発値に関するFPFを表す。例えば、貯蔵後の相対FPFは、貯蔵前のFPFに基づく。
用語「飛行時間」は、見出し「実施例」でさらに詳述するように、測定の標準的方法の名称である。飛行時間の測定では、規定の測定距離にわたって粒子の飛行時間を測定することによってMMADを決定する。MMADは飛行時間に関係する。これは、より大きいMMADの粒子は、対応するより小さい粒子より、飛ぶのに長時間かかることを意味する(この1つの対象:見出し「実施例」の方法を参照されたい)。
用語「分散しうる」とは飛行できることを意味する。粉末が飛ぶ能力の基本的必要条件は、粉末が脱凝集して個々の粒子になることと、個々の粒子が空気中で分布することである。粒子凝集塊は大きすぎて肺に入れないので、吸入療法に適さない。
用語「放出質量」は、吸入器を使用するときに送達される粉末の量を言う。例えばカプセルを使用する場合、放出前後のカプセルを秤量することによって送達量を決定する。放出質量は、放出前後のカプセルの質量の差に相当する。
【0019】
用語「テンパリング」は状態の変化を果たすことを意味する。テンパリングは、等しく規定曝露時間にわたって、規定温度にて、湿気への又は規定相対湿度を有する水含有若しくは溶媒含有ガスへの非晶質粉末の制御曝露を含む。テンパリングの本質的特徴は、湿気による粒子の制御された結晶化である。テンパリングは、表面上で主に結晶形成が起こる点に表面構造を改変べきである。粒子の核も非晶質である。この方法は、さらに、結晶化すべき物質が主に該粒子の表面上に配置されることを特徴とする。この物質は、通常1種以上の賦形剤である。テンパリングの正の効果は、物理化学的性質の改善である。結晶化を粒子の表面に限定することによって、物質又は活性物質、特にタンパク質が該粒子の核内の非晶質環境内でさらに安定化される。しかし、全体としての粒子の結晶化は回避されうる。テンパリングプロセスは、好ましくは30%を超える相対湿度、理想的には50〜60%の相対湿度で起こる。曝露時間は賦形剤の結晶化の速度によって決まる。
用語「結晶」は、イオン、分子及び原子のような最小構成成分が結晶構造を構成している物質を意味する。適切な方法で「結晶化度」又は「結晶化」が検出される場合、物質及び物質の組合せは「結晶性」である。適切な分析法の例はX線回折、溶液熱量測定及び吸湿性を決定する方法(例えばDVS, Messrs Porotecで)である。X線回折では、X線ビームが結晶格子から屈折する。回折スペクトルの配列から結晶構造を決定できる。結晶化度又は結晶化の定量的知見は、反射ピークの強度から得られる。溶液熱量測定及び吸湿性の測定によっても結晶化度を定量化できる。溶液熱量測定では、定量化プロセスのため、固体の非晶質変態及び結晶性変態の熱の種々の微妙な差異を利用する。吸湿性を決定する方法は、非晶質変態は結晶性変態より吸湿性が低いという特性を利用する。
上記分析方法では、結晶化度を定量化する前に、既知の結晶化度のサンプルを用いて検定線を記録する。
用語「相対湿度」(RH)は、蒸気について空気又は窒素などの吸収能を指す。蒸気は水又は何らかの他の有機溶媒から成りうる。相対湿度とは、空気又は窒素などの中で得られた蒸気の実際の質量の、可能な最大質量に対する比率を意味する。
用語「蒸気」は、ある物質が沸騰又は昇華の結果としてなる、該物質のガス性凝集状態を意味する。蒸気は、水と有機溶媒の両者から成りうる。有機溶媒のうち、例えばエタノール又はイソプロパノール等の医薬的に許容しうる物質が好ましい。さらに、特別の場合、以下の有機溶媒、例えばグルコフロール、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール又は短鎖飽和炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、へプタンを使用しうる。しかし、適用はこれらの例に限定されない。
用語「蒸気」及び「ガス」、「水含有ガス」及び「水含有蒸気」又は「溶媒含有ガス」及び「溶媒含有蒸気」は、相互交換可能に使用される。これらの用語の意味は、蒸気の定義から明白だろう。
用語「周囲温度」は、約20〜25℃(±10%)の温度を表す。用語「周囲温度」は、特に25℃の温度を示す。
用語「モノマー含量」及び「モノマー」は単一サブユニットのタンパク質から成るタンパク質の百分率を表す。モノマーの小フラグメントから成るモノマー含量及びフラクションと、数サブユニットから成るダイマー又はオリゴマーとは区別しなければらならない。本特許明細書で言及するモノマー含量は、排除クロマトグラフィーで決定される。
用語「凝集」は、自然な状態で単一サブユニットから成るタンパク質のダイマー及びオリゴマーの比率を表す。
【0020】
(本発明の組成物)
本発明は、粉末、特に噴霧乾燥粉末の湿度/温度への制御曝露によって、該粉末の表面を改変することに関する。これが表面上に結晶を生じさせる。内部では、粉末粒子はほとんど非晶質のままである。以後、このプロセスをテンパリングと称する。
本発明の最重要点は、粉末の流動性を最適にすることと、空気力学的特性及び静電気特性を改善することに関する。
本発明は、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤を含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて、規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、特に好ましくは前記非晶質粉末が活性物質と賦形剤を両方含む、本発明の方法に関する。他言すれば、非晶質粉末は活性物質と賦形剤の混合物である。この混合物中の二成分を制御様式で、一緒に湿気に曝露、すなわちテンパリングする。
従って、本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、活性物質、好ましくはタンパク質活性物質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法に関する。
従って、本発明は、粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、タンパク質と少なくとも1種の賦形剤とを含有する非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法に関する。
【0021】
本発明は、好ましくは前記曝露時間が、前記活性物質の前に前記賦形剤が結晶化するように選択される、本発明の方法に関する。
本発明は、好ましくは前記賦形剤が前記粉末粒子の表面上で主に、すなわち、少なくとも10%若しくは少なくとも50%又は50〜100%、好ましくは85%超え若しくは90%超えの度合まで結晶化し、かつ前記活性物質は前記粉末粒子内部で主に非晶質状態である、本発明の方法に関する。
さらに、本発明は、好ましくは前記粉末粒子の結晶化度が50%未満/以下である、本発明の方法に関する。
本発明のこの方法では、HSA(ヒト血清アルブミン)等の結晶化インヒビターを使用することが好ましい。好ましくは、粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)HSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
さらに、本発明は、好ましくは前記水含有ガス若しくは溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、本発明の方法に関する。
特に好ましい実施形態では、前記賦形剤がフェニルアラニンである。
さらに本発明は、好ましくは賦形剤の量が少なくとも10%(w/w)である、本発明の方法に関する。好ましい賦形剤はフェニルアラニンである。従って、特に好ましい実施形態は、少なくとも10%(w/w)のフェニルアラニンを賦形剤として使用する、本発明の方法である。さらに少なくとも30%(w/w)及び少なくとも40%(w/w)のフェニルアラニン含量も好ましい。
【0022】
好ましい実施形態では、前記物質の安定性を保持しながら本発明の方法を実施する。特に貯蔵安定性、特に高い(elevated)湿度条件下で物質の安定性を保持又は改善する。
本発明の方法の特定の実施形態では、本プロセス後に60%(w/w)の相対湿度の湿度で3ヶ月の貯蔵後の粉末のFPF(この場合、FPFは相対FPF=rFPF、すなわち出発値に対する相対値)は、出発値(本プロセス前)の60%、70%、80%、90%、95%超えである。
本発明の別の特定の実施形態では、物質の安定性、特に貯蔵安定性が、特に高い(elevated)相対湿度で維持又は改善される。例えば、貯蔵は3ヶ月又は6ヶ月以上である。
本発明の方法の好ましい実施形態では、温度は60℃未満である。好ましい実施形態では、問題の粉末は噴霧乾燥粉末である。
特別な実施形態では、本発明は、タンパク質又はタンパク質-活性物質と、賦形剤としてフェニルアラニンとを含み、任意に糖を含んでよい粉末であって、前記粉末が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%、少なくとも40%(w/w)、好ましくは10%(w/w)、特に好ましくは30%(w/w)のフェニルアラニンを含むことを特徴とする前記粉末に関する。任意に、他の物質、特に他の賦形剤を前記粉末に含めてよい。さらに、本発明のこの特別の実施形態は、タンパク質又はタンパク質-活性物質と賦形剤としてフェニルアラニンとから成り、任意に糖を含有しうる粉末を含む医薬組成物であって、前記粉末が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%、少なくとも40%(w/w)、好ましくは10%(w/w)、特に好ましくは30%(w/w)のフェニルアラニンを含む、前記医薬組成物にも関する。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態は、FPFを高める方法、特に少なくとも6%、好ましくは7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は14%より多く高める方法に関する。
本発明は、さらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の空気力学的特性を改善する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
好ましくは粉末の安定性が維持される。
本発明は、好ましくは粉末の空気力学的特性を改善する方法であって、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質より前に結晶化するように選択される、前記方法に関する。
本発明のこの方法では、HSA等の結晶化インヒビターを使用することも好ましい。好ましくは粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
さらに、本発明は、好ましくは粉末の空気力学的特性を改善する本発明の方法であって、前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、前記方法に関する。
温度は、好ましくは60℃未満である。
本発明はさらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露する
ことを特徴とする前記方法に関する。
本発明は、好ましくは粉末の静電気を低減する方法であって、前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、前記方法に関する。
さらに、本発明は好ましくは粉末の静電気を低減する本発明の方法であって、前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が、30%(w/w)超え、好ましくは30〜90%、50〜80%、特に好ましくは50〜60%(w/w)である、前記方法に関する。
温度は好ましくは60℃未満である。
粉末の静電気を低減する方法の好ましい実施形態では、本発明は、HSA等の結晶化インヒビターを含有する粉末に関する。好ましくは粉末は少なくとも0.1%(w/w)のHSA、 少なくとも0.5%(w/w)のHSA、少なくとも1%(w/w)のHSA、少なくとも5%(w/w)のHSA、少なくとも10%(w/w)のHSA、少なくとも15%(w/w)のHSAを含む。さらに粉末は好ましくは0.1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜60%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜40%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、1%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、10%(w/w)〜20%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜1%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜0.90%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜0.9%(w/w)のHSA、0.1%(w/w)〜3%(w/w)のHSA、0.5%(w/w)〜3%(w/w)のHSAを含む。さらに、粉末は好ましくは1%(w/w)未満のHSA、0.9%(w/w)未満のHSAを含む。
【0024】
特別な実施形態では、本発明は、粉末を充填する方法であって、前記粉末を本発明に従って処理したことを特徴とする方法に関する。
本方法は、例えばピペット、充填ローラー又は重力ディスペンサーによる容積測定及び質量依存充填法に関する。追加のテンパリング工程のおかげで改良された充填性(fillability)は、粉末の流動性の当然の改善及び粉末の静電気荷電の減少の結果として、充填時間が短縮され、かつ充填精度が改善されることを特徴とする。
本発明の方法の一実施形態では、曝露時間は少なくとも8時間以上、少なくとも12時間以上、少なくとも20時間以上、好ましくは20時間、特に好ましくは20時間、最も特に好ましくは1時間〜72時間又は4〜48時間である。
本発明の方法のさらなる実施形態では、曝露時間中の温度は60℃未満、特に-10℃〜60℃、好ましくは4℃〜40℃、特に好ましくは16℃〜35℃である。
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、曝露時間中の温度が4℃、10℃、周囲温度又は37℃、好ましくは周囲温度である。本発明の方法の別の好ましい実施形態では、曝露時間中の温度が15〜60℃、好ましくは20℃〜30℃、特に好ましくは25℃〜30℃、例えば26℃、27℃、28℃又は29℃である。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明の方法における活性物質は、例えばインスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-ω又は-IFNτ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、TNF-β又はTNF-γ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGF等のタンパク質である。他の例はモノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、多特異性抗体及び単鎖抗体並びにそのフラグメント、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部又は超可変部並びにFv及びFdフラグメントである(Chamov et al., 1999)。抗体はヒト起源でも非ヒト起源でもよい。ヒト化抗体及びキメラ抗体も可能である。
本発明は、さらに、本発明の方法で調製できる、流動性(FPF)が上昇し、維持され又は最小限に低減し、或いは空気力学的特性又は静電気特性が改良された粉末に関する。
本発明は、特に、本発明の方法の1つで得ることができる、上昇した流動性又は増加したナノ-粗さの粉末に関する。
粉末の流動性(FPF)の低減を増加、維持若しくは最小化するため又は粉末の空気力学的特性若しくは静電気特性を改善するための本発明のさらなる実施形態では、粉末は物質1と少なくとも1種の他の物質2を含み、物質2は物質1の前に結晶化する。
従って、本発明は、さらに、物質1、特にタンパク質と、少なくとも1種の物質2とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露し、
−物質2が物質1の前に結晶化する
ことを特徴とする前記方法に関する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、さらなる粒子でさらにコーティングする工程を除く、例えばMg-ステアレート又はリン脂質でコーティングする工程を除く方法に関する。
本発明の別の好ましい実施形態は、粒子、例えば極小ロイシン粒子、通常ナノスケール粒子と混合する工程を除く、実質的により大きい担体と混合する工程をも除く、方法に関する。従って、本発明の特定の実施形態は、他の粒子と混合する工程を除く。
本発明の好ましい実施形態は、超臨界又は臨界未満の媒体を使用せずに、非晶質又は部分的に結晶性の粉末を調節する方法に関する。従って、好ましい実施形態では、本発明は超臨界法又は超臨界若しくは臨界未満の媒体の使用を排除する。
従って、本発明はさらに、活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を増加、維持若しくは最小化するため又は粉末の空気力学的特性若しくは静電気特性を改善するための方法であって、
−規定曝露時間にわたって、
−規定温度にて規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
−非晶質粉末を曝露し、
−超臨界若しくは臨界未満の媒体の適用又は使用を排除する
ことを特徴とする前記方法に関する。
【0027】
以下の実験から、テンパリングによる空気力学的特性の最適化は抗体に限定されず、例えば酵素(例えばリゾチーム)及びホルモン(例えばカルシトニン)等の他分類のタンパク質でも可能であることが分かる。
さらに、タンパク質安定化のための他の賦形剤は一分類の物質に限定されないことが明白である。分かるように、LS90Pのほかに、例えば、二糖サッカロース又はポリマーPVPも賦形剤として使用しうる。しかし、可能性はこれら3種の物質に限定されず;ポリオール、アミノ酸、単糖、オリゴ糖若しくは多糖又はタンパク質安定化ポリマーを使用することもできる。
以下の実験から、新規粉末が、湿気への制御された曝露によって、タンパク質の安定性を保持しながら、粒子の空気力学的特性又は流動性について最適化されることも分かる。粉末の特性の最適化は、粒子表面の表面結晶化によって達成される。
噴霧溶液に疎水性又は低溶解性物質を添加すること、さらに乾燥後、この物質が十分に、かつ湿気の作用下、制御可能様式で結晶化しうることを特に強調すべきである。従って、例えば、フェニルアラニンはこの特徴を示し、特に粉末中のフェニルアラニン含量が少なくとも10%(w/w)、少なくとも30%(w/w)又は少なくとも40%(w/w)であり、少なくとも10%(w/w)の含量が好まししい。このアミノ酸は、噴霧液滴内で疎水性のため液滴表面上に蓄積する。抗体及び例えばサッカロース又はマンニトール等の常用される糖又はポリオールに比べて低い溶解度の結果として、まず該液滴が蒸発すると、主にフェニルアラニンから成る固体層が形成される。疎水性及び低溶解度のため、フェニルアラニンは乾燥粒子内の粒子表面上に蓄積する。粒子表面上のフェニルアラニン-リッチ相と、粒子の核内のフェニルアラニン-プア相との間には少なくとも部分的な分離がある。他方、活性物質及び任意的な他の容易に溶解しうる賦形剤は粒子の核内に蓄積する。
フェニルアラニンが容易に結晶化する傾向の結果として、粒子の層化構造のおかげで、核内のタンパク質を傷つけることなく、制御された様式で粒子の表面が結晶化されうる。
【0028】
テンパリングのための基本的な必要条件は、粉末の層化構造(晶帯形成)である。これは、使用する粉末成分は粒子内で均質に分布しないが、該成分の物理化学的性質によって決まる、粒子の特有の領域又は層内に蓄積しうる。粒子をテンパリングするため、結晶化可能成分が粒子の外層上に蓄積することが好ましい。
2つの吸熱作用が検出されることを実験的に実証した(実施例5)。これらの吸熱作用は2つのガラス転移温度に対応し、使用物質が粒子内で均質に分布していないことを示唆している。物質が粉末粒子内で均質に分布していれば、Gordon-Taylor方程式(L Mackin, International Journal of Pharmaceutics 231 (2002) 227-236)を用いて計算できる1つだけのガラス転移温度が検出されるだろう。
いくつかの研究は、噴霧液滴の表面組成が噴霧乾燥粉末内の表面組成と関係があることを示した(Faldt et al. 1994, 噴霧乾燥タンパク質-ラクトース粉末の表面組成(The surface composition of spray dried protein-lactose powders), Colloid Surf A 90, 183-190 / Elversson, J. Et al., インサイツコーティング−噴霧乾燥中のタンパク質の粒子修飾及び封入のアプローチ(In situ coating - an approach for particle modification and encapsulation of proteins during spray drying), Int. J. Pharm (2006), 323, 52-63)。そこで、本発明の溶液の張力測定学によって個々成分の表面活性を決定した。
従って、LS90Pは水より高い表面活性を持たないので、噴霧溶液の噴霧工程後に該糖は表面上に蓄積しないことを実験的に示すことができた(実施例5)。60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1で構成される粉末中の組成を有する噴霧溶液は最低の表面張力を示した。表面張力の低減はフェニルアラニンの添加のせいだろう。これらの結果により、フェニルアラニンは液滴の表面上に蓄積する。同じ噴霧乾燥粉末のDSCデータと組み合わせて、噴霧乾燥中に起こる2種の賦形剤LS90Pとフェニルアラニンの相分離の結果として、フェニルアラニンが粒子内の外層を形成し、ひいてはLS90Pが粒子内の内層を形成する粉末が得られる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
〔表面の湿気誘導結晶化〕
(テンパリング)
フェニルアラニン、LS90P及びIgG1(比80/10/10)から成る噴霧溶液を調製した。噴霧溶液の固体フラクションは3.83%(w/v)だった。
溶液を次の条件下で乾燥させた:
噴霧乾燥機:SD-Micro(Messrs. Niro)
入口温度:120℃
出口温度:90℃
噴霧ガス速度:4kg/時間
乾燥ガス速度:28kg/時間
噴霧乾燥粉末をDVS内で種々の湿度に曝露した。測定中、相対湿度の関数として水蒸気の吸着/脱着を測定した。本粉末は臨界湿度50%で質量の損失を受けることが分かった(図1)。この質量の損失は粉末の再結晶によって達成される。質量の損失は非常にわずかであることも分かり、粉末は部分的に結晶化したにすぎないことを示唆している。
結晶化のキネティクス及び程度は湿度にも依存する。50%RHでの結晶化の速度は60%RHにおけるより実質的に遅いことが分かった(図2a、2b)。さらに、60%RHでは結晶化後の粉末の残留水分が50%RHでの結晶化後よりも有意に少ない。これは、60%RHで結晶化の度合が高いことを示している。
【0030】
(形態学調査)
原子間力顕微鏡下、粉末を制御条件下で湿気に曝露し、湿気への曝露時間の関数として形態変化を決定した。
このため、粉末をまず乾燥させてから目標の湿度に曝露した。粉末を規則的間隔で走査した。目標の湿度は50%RH及び60%RHだった。
AFM写真(図3及び4)は、湿度に依存して粒子内で結晶化が誘導され、結果として表面粗さが増すことを示している。粉末が非常に急速に水を吸収することも明らかになった。50%又は60%では、粉末は、再結晶化作用が始まるために十分な水を約1分以内で吸収した。
(実施例2)
【0031】
〔空気力学及びタンパク質安定化に及ぼすテンパリングの効果〕
この実施例では、フェニルアラニン、LS90P及びIgG1から成る種々の噴霧乾燥粉末を調製した(下表1及び2参照)。
【0032】
【0033】
フェニルアラニンを加熱しながら(80℃)溶かした。溶液を周囲温度に冷ました後、タンパク質と糖を加えた。
次の噴霧条件下で溶液を噴霧乾燥させた:
噴霧乾燥機:SD-Micro(Messrs. Niro)
入口温度:150℃
出口温度:90℃
噴霧ガス速度:4kg/時間
乾燥ガス速度:28kg/時間
【0034】
【0035】
調製した粉末を20時間にわたって50%の相対湿度でテンパリングした。
【0036】
【0037】
【0038】
テンパリングプロセスは、試験した粉末の空気力学的特性を改善した。テンパリングの結果として粒子中の微粒子フラクションが増えた。テンパリングプロセスによってタンパク質が安定化されたので、湿気誘導損傷はなかった。上表から分かるように、テンパリング後モノマー含量はほとんど変化しない。
フェニルアラニンによる空気力学の改善は、おそらく2つの作用のせいだろう。実施例1で分かるように、湿気の作用の結果として、フェニルアラニン含有粉末中の粒子表面上に小さい結晶が生成する。これらの結晶は、一方でスペーサーとして作用する。他方で、結晶性表面は吸湿性がずっと低いので、蒸気凝縮の結果としてあまり毛管力が生じない。
(実施例3)
【0039】
〔賦形剤の量に依存するテンパリング効果〕
この実施例は、テンパリング効果が、結晶化される賦形剤の量の関数としてどのように振る舞うかを示すことを意図する。このため、フェニルアラニンを結晶化可能成分として使用し、噴霧乾燥粉末中のフェニルアラニンの割合を50%から5%まで減じた。粉末の組成を下表5に示し、噴霧条件を下表6に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
噴霧乾燥後、粉末を20時間にわたって50%の相対湿度と周囲温度でテンパリングした。
下表7は、テンパリング前後の粉末のモノマー含量を示す。テンパリング後にモノマー含量は有意に低くならないことから、テンパリングはIgG1-抗体に如何なる損傷をも生じさせないことが分かる。
【0043】
【0044】
粉末をテンパリングすることによって、10%のフェニルアラニン含量まで空気力学的特性を改善できた(表8参照)。粉末1〜5ではテンパリングによって、微粒子フラクションと放出質量を両方とも増やすことができた。5%のフェニルアラニン含量では、微粒子フラクションと放出質量が両方とも減少する。従って、結晶化可能物質の比率が低すぎる場合、テンパリング効果は生じないかもしれない。
【0045】
【0046】
(実施例4)
〔使用タンパク質の関数としてのテンパリング効果〕
この実施例では、異なるタンパク質を賦形剤LS90P及びフェニルアラニンで噴霧乾燥させてからテンパリングした。意図は、粉末の品質を最適化するためのテンパリング効果は一分類のタンパク質に限定されるのではなく、該タンパク質とは無関係にテンパリングを使用しうることを示すことである。粉末の組成を下表9、噴霧条件を下表10に列挙する。
【0047】
【0048】
【0049】
図5は、調製粉末のテンパリング前後の微粒子フラクションと放出質量を示す。これにより、粉末をテンパリングすることによって微粒子フラクションを改善できた。調製粉末1〜3の微粒子フラクションはテンパリングの前後両方で同様に高い。放出質量は、使用タンパク質の関数として何ら重要な差異を示さない。これは、テンパリングによる空気力学的特性の最適化がIgG1型の抗体に限定されず、この実施例で分かるように、酵素(例えばリゾチーム)及びホルモン(例えばカルシトニン)でも可能であることを意味する。
【0050】
(実施例5)
〔噴霧乾燥粉末の層化モデルへの調査〕
テンパリングのための基本的な必要条件は粉末の層化構造である。これは、使用粉末成分が粒子内で均質に分布しないが、該成分の物理化学的性質に依存して該粒子の特有の領域又は層内に蓄積しうることを意味する。粒子をテンパリングするため、結晶化可能成分が粒子の外層上に蓄積することが好ましい。
この実施例は、粒子内の層形成又は賦形剤の相分離が起こったかどうかを調べることを意図する。このため、60%のフェニルアラニン、30%のLS90P及び10%のIgG1から成る噴霧乾燥粉末を用いて熱量測定法(DSC)でガラス転移温度を決定した。下表11に噴霧条件を示し、下表12にDSC法のパラメーターを示す。穴をあけていないるつぼを用いてDSC測定を行った。結果は6つの個々の測定の平均に基づく。ガラス転移温度の開始と中央を評価した。
粉末を加熱すると、以下の2つの吸熱作用を検出できた:
作用1:開始:38.3℃/中央:41.7℃
作用2:開始:127.6℃/中央:131.7℃
これらの吸熱作用は2つのガラス転移温度に対応し、使用物質が粒子内で均質に分布しないことを示唆している。該物質が粉末粒子内で均質に分布していれば、Gordon-Taylor方程式(L Mackin, International Journal of Pharmaceutics 231 (2002) 227-236)を用いて計算できる1つだけのガラス転移温度が検出されるだろう。
【0051】
【0052】
【0053】
さらに、溶液の張力測定学で個々成分の表面活性を決定した。いくつかの研究は、噴霧液滴の表面組成が噴霧乾燥粉末内の表面組成と関係があることを示した(Faldt et al. 1994, 噴霧乾燥タンパク質-ラクトース粉末の表面組成(The surface composition of spray dried protein-lactose powders), Colloid Surf A 90, 183-190 / Elversson, J. Et al., インサイツコーティング−噴霧乾燥中のタンパク質の粒子修飾及び封入のアプローチ(In situ coating - an approach for particle modification and encapsulation of proteins during spray drying), Int. J. Pharm (2006), 323, 52-63)。
表13は、試験した噴霧溶液を列挙する。溶液4は、この特許明細書の典型的な噴霧溶液に相当し、粉末の組成は60%のフェニルアラニン/30%のLS90P/10%のIgG1である。
【0054】
【0055】
得られた表面張力は以下の通りだった:
溶液1:72mN/m
溶液2:72mN/m
溶液3:65mN/m
溶液4:59mN/m
LS90Pは水より高い表面活性を持たないので、噴霧溶液の噴霧後に該糖は表面上に蓄積しない。噴霧溶液4は最低の表面張力を示す。表面張力の低減はフェニルアラニンの添加のせいでありうる。これらの結果により、フェニルアラニンは液滴の表面上に蓄積する。この実施例で述べた噴霧乾燥粉末のDSCデータと組み合わせて、噴霧乾燥中に起こる2種の賦形剤LS90Pとフェニルアラニンの相分離の結果として、フェニルアラニンが粒子内の外層を形成し、ひいてはLS90Pが粒子内の内層を形成する粉末が得られる。
【0056】
(実施例6)
〔結晶化インヒビターを用いる噴霧乾燥〕
この実施例は、結晶化インヒビターを使用することによって、噴霧乾燥粉末をさらに最適化できることを示すことを意図する。この目的のため、下表14に示すような種々の粉末を調製した。
【0057】
【0058】
SDMicroでの噴霧条件を下表15にまとめた。
【0059】
【0060】
水性LS90P溶液を凍結乾燥させる目的はX線-非晶質粉末を調製することだった。このため、小固体フラクション(5g/100mL)を有する水溶液を調製し、下表16に示すように凍結乾燥させた。
【0061】
【0062】
図6は、DSC装置(DSC821/Mettler Toledo)内で粉末を加熱後のLS90Pの再結晶化エンタルピーを示す。1%のHSAの添加の結果として、結晶化エンタルピーが質量比に基づいて大いに増加することが分かる。従って、LS90Pの結晶化エンタルピーはテンパリング前は6.80J/gから24.3J/gに増加し、テンパリング後は4.8J/gから26.0J/gに増加する。これは、1%のHSAの添加がLS90Pの非晶質性を高めることを意味する。
【0063】
(実施例7)
〔IGG1/LS90P及びさらなる賦形剤を含有する他の粉末の噴霧乾燥〕
この実施例では、他の賦形剤をそのテンパリング特性について調査する。このため、下表17に従って2種の粉末を調製し、噴霧条件は下表18に従った。
【0064】
【0065】
【0066】
下表19に示されるように、テンパリングによってFPFを改善できる。テンパリングによって得られる空気力学的特性の改善に加え、この実施例で示されるように(下表20参照)、テンパリングによってタンパク質の完全性(モノマー含量)も改善できる。テンパリング後、特に粉末1の場合、モノマー含量が有意に高い。
【0067】
【0068】
【0069】
(実施例8)
〔IGG1/フェニルアラニン及び別の賦形剤を含有する他の粉末の噴霧乾燥〕
この例は、さらなる賦形剤の添加がタンパク質の安定性に決定的に影響を及ぼしうることを示すことを意図する。このため、下表21に従って噴霧乾燥により種々の粉末を調製した。噴霧乾燥のプロセスパラメーターを下表22に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
調製後、粉末を周囲温度で20時間50%の相対湿度にて調節した。次に、粉末をストレス条件下に組み入れた。
貯蔵条件1:25℃/60%のr.h.
貯蔵条件2:25℃/60%のr.h.
下表23は、テンパリング前後の、生成粉末の微粒子フラクションを示す。粉末1及び2の場合、粉末はその空気力学的特性において何ら有意な改善を示さなかった。この観察の主な理由は、空気力学的特性は生成直後に非常に良かったことである。5.0μm未満の粒子の質量比として定義されるMMADを微粒子フラクションに関係づけると、テンパリングによる最適化の可能性は、高いMMADによって制限されることが明らかになる。テンパリング中の別の必須因子は、このプロセスでは粒子の細分化がないことである。
【0073】
【0074】
下表24にモノマー含量を列挙する。粒子をテンパリングすることによって粉末が安定化した。これは、表面が結晶化したことを意味する。この結晶性層は湿分バリアとして作用するので、非晶質コアを保護できる。タンパク質安定化用の賦形剤は一分類の物質に限定されない。分かるように、LS90Pのほかに、例えば、二糖サッカロース又はポリマーPVPも賦形剤として使用しうる。しかし、可能性は、これら3種の物質に限定されず;例えば、ポリオール、アミノ酸、単糖、オリゴ糖若しくは多糖又はタンパク質安定化ポリマーも使用できる。
さらなる賦形剤の機能性、ひいてはその選択は、そのさらなる賦形剤によってタンパク質を安定化することにある。
【0075】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記非晶質粉末が活性物質と賦形剤の混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉末粒子の表面上で結晶化が起こりながら、前記粉末粒子内部の非晶質フラクションが保持される(晶帯形成)、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)より高く、好ましくは50〜60%(w/w)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記曝露プロセス後に60%(w/w)の相対湿度にて3ヶ月の貯蔵後の前記粉末の相対FPFが、出発値の60%、70%、80%、90%、95%より高い、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記物質の安定性、特に貯蔵安定性が、特に高い相対湿度で維持又は改善される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記FPFを上昇させる方法であって、特に少なくとも6%、好ましくは7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は14%より多く前記FPFが上昇する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
粉末、特に吸入可能粉末の空気力学的特性を改善する方法である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法。
【請求項11】
前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)より高く、好ましくは50〜60%(w/w)である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
粉末を充填する方法であって、請求項10〜12のいずれか1項に従って前記粉末を処理したことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記曝露時間が少なくとも1時間以上、少なくとも4時間以上、少なくとも8時間以上、少なくとも12時間以上、少なくとも20時間以上、好ましくは20時間、特に好ましくは8時間、最も特に好ましくは1〜72時間又は4〜48時間の範囲であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記曝露時間中の前記温度が、60℃未満、特に-10℃〜60℃、好ましくは4℃〜40℃、特に好ましくは16℃〜30℃である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記曝露時間中の前記温度が、4℃、10℃、周囲温度又は37℃、好ましくは周囲温度である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性物質が、タンパク質、例えばインスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-ω若しくはIFN-τ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、TNF-β若しくはTNF-γ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGF、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、多特異性抗体及び単鎖抗体並びにそのフラグメント、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部又は超可変部並びにFv及びFdフラグメントである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
噴霧乾燥粉末に関係する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜9又は14〜18のいずれか1項に従って調製できる、流動性(FPF)が上昇したか又は維持されたか又は最小限に低減した粉末であって、特に、請求項1〜9又は14〜18のいずれか1項に従って調製できる、空気力学的特性が改善された粉末、及び/又は請求項10〜18のいずれか1項に従って調製できる、静電気特性が改善された粉末。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項に従って調製できる、流動性が上昇したか又はナノ-粗さが増加した粉末。
【請求項1】
活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の流動性(FPF)の低減を改善、達成又は最小化する方法であって、非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記非晶質粉末が活性物質と賦形剤の混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉末粒子の表面上で結晶化が起こりながら、前記粉末粒子内部の非晶質フラクションが保持される(晶帯形成)、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)より高く、好ましくは50〜60%(w/w)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記曝露プロセス後に60%(w/w)の相対湿度にて3ヶ月の貯蔵後の前記粉末の相対FPFが、出発値の60%、70%、80%、90%、95%より高い、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記物質の安定性、特に貯蔵安定性が、特に高い相対湿度で維持又は改善される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記FPFを上昇させる方法であって、特に少なくとも6%、好ましくは7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は14%より多く前記FPFが上昇する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
粉末、特に吸入可能粉末の空気力学的特性を改善する方法である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
活性物質、特にタンパク質と、少なくとも1種の賦形剤とを含有する粉末の静電気を低減する方法であって、非晶質粉末を、
(i)規定曝露時間にわたって、
(ii)規定相対湿度を有する水含有ガス又は溶媒含有ガスに制御様式で、
(iii)規定温度にて
曝露することを特徴とする前記方法。
【請求項11】
前記曝露時間が、前記賦形剤が前記活性物質の前に結晶化するように選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水含有ガス又は溶媒含有ガスの相対湿度が30%(w/w)より高く、好ましくは50〜60%(w/w)である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
粉末を充填する方法であって、請求項10〜12のいずれか1項に従って前記粉末を処理したことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記曝露時間が少なくとも1時間以上、少なくとも4時間以上、少なくとも8時間以上、少なくとも12時間以上、少なくとも20時間以上、好ましくは20時間、特に好ましくは8時間、最も特に好ましくは1〜72時間又は4〜48時間の範囲であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記曝露時間中の前記温度が、60℃未満、特に-10℃〜60℃、好ましくは4℃〜40℃、特に好ましくは16℃〜30℃である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記曝露時間中の前記温度が、4℃、10℃、周囲温度又は37℃、好ましくは周囲温度である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性物質が、タンパク質、例えばインスリン、インスリン様成長因子、ヒト成長ホルモン(hGH)及び他の成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、エリスロポイエチン(EPO)、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-ω若しくはIFN-τ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α、TNF-β若しくはTNF-γ、TRAIL、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGF、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、多特異性抗体及び単鎖抗体並びにそのフラグメント、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fc及びFc'フラグメント、軽(L)及び重(H)免疫グロブリン鎖並びにその定常部、可変部又は超可変部並びにFv及びFdフラグメントである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
噴霧乾燥粉末に関係する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜9又は14〜18のいずれか1項に従って調製できる、流動性(FPF)が上昇したか又は維持されたか又は最小限に低減した粉末であって、特に、請求項1〜9又は14〜18のいずれか1項に従って調製できる、空気力学的特性が改善された粉末、及び/又は請求項10〜18のいずれか1項に従って調製できる、静電気特性が改善された粉末。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項に従って調製できる、流動性が上昇したか又はナノ-粗さが増加した粉末。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3a)】
【図3b)】
【図3c)】
【図3d)】
【図3e)】
【図4a)】
【図4b)】
【図4c)】
【図4d)】
【図4e)】
【図5】
【図6】
【図2a】
【図2b】
【図3a)】
【図3b)】
【図3c)】
【図3d)】
【図3e)】
【図4a)】
【図4b)】
【図4c)】
【図4d)】
【図4e)】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2009−541447(P2009−541447A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517198(P2009−517198)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056452
【国際公開番号】WO2008/000781
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056452
【国際公開番号】WO2008/000781
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】
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