説明

粉末の識別方法

【課題】選択的レーザ焼結法のような層付加製造法において構築材料として使用できる粉末に標識付けすることを可能にする方法を提示すること。
【解決手段】粉末を少なくとも1種類の希土類金属の塩と混合する。この塩は可視スペクトル外の波長を有する光子または粒子放射線を照射した時に発光する特性を有するものであり、それによって層付加製造法によって製造した部品の製造者、製造地、または製造データを識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層付加製造法に使用する粉末状の出発原料に対しその原産地に関する標識付けをできるようにする方法、および層付加製造法においてそのような標識付けした粉末を原材料として使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状の原材料からレーザ焼結などにより物体を製造する場合、粉末状の原材料がそれぞれ異なる粉末であるにも拘わらず、外観では区別できないという問題が生じる。例えば、生成する物体に耐火性をもたせる目的で、粉末に耐燃剤を添加する場合があるが、このような添加剤は粉末の外観を変化させないのが普通である。そのような場合、耐燃剤が添加されているかどうかを判断するには、粉末を詳細に分析するしかない。
【0003】
また、既に完成した物体および部品に関しても、それぞれどのような粉末から製造されたのか判定することが重要となる場合がある。例えば、物体の性質が所望レベルでない場合に行う故障解析の一端として判断する場合である。物体に欠点が無くても、何年も後になって使用したレーザ焼結用粉末の供給元を調べる場合もあり得る。このような場合、解析時に試料を採取する際に物体を破壊する必要性が生じないようにするのが普通である。
【0004】
異なる粉末の特徴に標識を付けるために有色顔料を添加するのは、生成する物体の最終的な色に影響し多くの場合望ましくないため、適当ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 90/03893
【特許文献2】US 6,375,874 B1
【特許文献3】EP 0 555 947 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、層付加製造法、特にレーザ焼結法において使用する粉末、およびそのような粉末から製造された部品を、粉末および部品の外観を変えることなく識別できるようにする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載の粉末に標識する方法、および請求項8または13に記載のそのような粉末の使用によって達成される。
【0008】
本発明のさらなる進展については従属請求項に記載のとおりである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によると、特に、製造した部品とそれに使用した出発原料の粉末とを正確に関係づけることが可能になる。これにより、何年も後になって、記録を紛失したり、供給プロセスを追跡できなくなっても、それぞれの部品がどの出発原料からどのメーカによって製造されたかを判定することができる。特に、特定のメーカまたは特定の製造日に従って粉末に標識できるだけでなく、この粉末を用いて部品を誰が製造したかを示すインジケータを加えることも可能になる。さらに、本発明の方法によると、部品のごく小さい任意の断片しかない場合でも識別が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】標識付けした粉末または該粉末で製造した部品を検査する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明のさらなる特長や利点について、実施形態に基づいて説明する。
【実施例】
【0012】
レーザ焼結法のような層付加製造法(additive layer manufacturing method)において構築材料として使用する粉末に対して、その特性または特定の製造元を識別できるように標識するための本発明によると、標準的な混合装置において粉末とマーカー粉末とを混合する。マーカー粉末によって出発粉末の特性の変化が大きくなりすぎると言った状況を避けるため、混合物におけるマーカー粉末の分率が一定の割合、例えば20重量%を超えないようにするのが望ましい。言うまでもなく、分率をさらに低くして、例えば10重量%、さらには0.1〜10重量%とするのが望ましい。しかしながら、マーカー粉末の分率を低くすると、混合物全体としての小さな試料におけるマーカー粒子も減少する可能性も高くなる。少量の粉末に関する粉末の識別については、最終製品が均質になるように混合ができるだけを完全に行われていることが重要である。
【0013】
識別手段として作用するマーカー物質を添加することで被製造物体の特性を変化させたくないため、マーカー物質は無色とするか、あるいは出発粉末の色の変化が眼に見えない程度にマーカー物質の添加量を小さくする必要がある。本発明により粉末または部品を識別できるようにするためには、赤外光や紫外光のような可視領域外の波長を有する光を照射した時に発光する物質をマーカーとして使用する。次に、識別を行うには、発光性物質から放射される光をその波長および/または強度に関して解析する必要がある。そうすることで、ルミネッセンス発光が存在するかどうかだけに基づいて、粉末にマーカーが添加されているかどうかを判定することができる。照射に対してルミネッセンス発光が見られる場合、照射(励起)波長および/または放射波長に基づいてどのマーカーが添加されたかを判定することができる。
【0014】
非常に特異な波長、またはいくつかの固有波長、または一定の波長領域を出すトレーサーを添加することにより、粉末に標識することが可能となる。もちろん、種々の波長領域において発光するトレーサーを使用することも可能である。一般に、放出された光の非常に特異的なスペクトル分布を登録しておくことによって識別が可能となる。
【0015】
標識付けした粉末は、三次元物体を製造する任意の層付加製造法、例えば選択的レーザ焼結法やレーザ溶融法、あるいは選択的電子ビームや赤外線による焼結または溶融法において構築材料として使用することができる。また、材料を固化させるために結着剤をスプレー塗布する立体印刷法においても使用することができる。これらの方法については、特に特許文献1および2に記載されている。
【0016】
図1は、標識粉末を用いて製造された部品を検査するための構成例を示している。ここでは、紫外光源2を用いてレーザ焼結部品1に紫外光4を照射している。照射によって励起されたルミネッセンス光(luminescent light)5の一部が検出器3によって検出される。
【0017】
発光を励起するためには、紫外光の代替として可視領域外の異なる波長を有する光を用いることもできる。可視領域外の光としては、例えば赤外領域の光などであるが、本発明のより好ましい実施形態では近赤外領域(NIR)、さらに好ましくは900nm〜1000nmの波長の光を使用することができる。さらに、電離放射(粒子放射またはX線放射)を用いて励起することも可能である。
【0018】
ルミネッセンス光を解析するための検出器は、簡単なフォトダイオードで良いが、他にも光量を検出するCCDやピクセルセンサを使用することもできる。最も簡単に行う場合は、粉末または最終製品の発光を、励起光を用いた場合と用いない場合とで比較してトレーサーの存在の検出を行う。ルミネッセンス光の波長の識別は、例えば検出器の前にフィルタを取り付け、各フィルタが限定された波長領域の光のみを透過させるようにして行うことができる。ただし、これ以外にもスペクトル分解を行う構成(プリズムや回折格子など)も可能である。スペクトル分解は検出器自体で行うこともできる。
【0019】
粉末または部品におけるトレーサーの濃度を判定するためには、例えば放射されたルミネッセンス光の量を、発光スペクトルの領域でのみ透過を示すフィルタを取り付けた場合とフィルタを取り付けない場合でそれぞれ測定する。こうしてルミネッセンス光の量を、粉末または部品から反射されて検出器に入射する光の総量に関連して設定することができる。提供されるシステムを適正に較正することで、添加したトレーサーの量を、情報の符号化に利用されるのが添加されたトレーサー量である場合について判定することができる。
【0020】
変形例では、2種類のトレーサーを粉末に添加する。これら2種類のトレーサーは、異なる波長領域で光を放射する、および/または異なる励起波長を有するものである。2種類添加されるマーカー物質の相互に対する比率を設定することにより、特定の符号化を作り出すことができる。次に、粉末または部品の解析において、異なる波長領域のそれぞれにおいて放射される光の量を相互に関して設定することにより前記比率を判定する。このようにして、対応する符号を読み取ることができる。言うまでも無く、添加するトレーサーは2種類以上でも良い。また、複数の波長領域で発光するトレーサーを用いても良い。
【0021】
2種類のマーカー物質の放射領域が相互に重なり合っていても、ルミネッセンス放射を分析するための分光器を用いることによって2つの物質の相対的な比率を判定することができる。
【0022】
上記の方法は、あらゆる種類の粉末、特にポリマー粉末、金属粉末、砂焼結粉末などに適用可能である。ここに挙げた粉末の中には、焼結または溶融プロセス中に非常に高い温度になるものがあるため、トレーサーの選択に関しては、構築プロセスにおいて発生する高温によってマーカー物質が影響を受けないことが重要な要件となる。希土類の塩を用いた場合、レーザ焼結法において通常生じる温度に関して耐熱性があることが分かった。これらの中には希土類の酸化物、酸硫化物、フッ化物(例えば、酸化イットリウムYまたは酸硫化イットリウムYSまたはフッ化ナトリウムイットリウムNaYF)などが含まれるが、所望の発光を得るために、これにやはり希土類を基とする微量の元素を添加する。
【0023】
非常に有利な方法として、マーカー物質の粒子が粉末粒子の表面に埋め込まれるようにマーカー物質を混合すると良い。こうすることで個々の粉末粒子に標識することができる。この目的で、マーカー物質と粉末粒子とに対して、例えば特許文献3に記載の粒子の表面処理法を実施する。このプロセスでは、相互に連通している複数の衝撃チャンバの一つに粒子を送り込む。衝撃チャンバは衝撃ピンを有する回転ディスクと衝突リングとを備えており、混合粒子に衝撃・衝突作用を受けさせると共に、その作用で生成される気流を粉末から分離し、衝撃チャンバから連続的に排出する。粉末混合物を一時的に衝撃チャンバ内に留まらせながら衝撃作用を繰り返した後、混合物を次のチャンバへと順次移動させる。奈良機械製作所のNHS−1のような市販の粉末処理機による試験の結果、毎分8000回転の処理を少なくとも1分間(室温にて)続ける必要があることが分かった。
【0024】
なお、種々のマーカー物質またはトレーサーの認識は、励起後に放射される光によるだけでなく、発光を励起する波長によっても行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層付加製造法において構築材料として使用される粉末に標識付けする方法であって、
該粉末を少なくとも1種類の希土類金属の塩と混合するステップを含み、前記塩が可視スペクトル外の波長の光子または粒子放射線を照射すると発光する特性を有するものであることを特徴とする方法。
【請求項2】
発光中のスペクトル放射が相互に異なる複数種類の希土類の塩を添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マーカーとして添加する1種類または複数種類の塩の選択を、粉末の生産者の身元、申請人の身元、または層付加製造法によって製造された部品の製造地、または粉末組成に応じて行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
塩類と粉末の混合を剪断混合によって行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記塩と粉末の混合を、粉末粒子が衝撃・衝突作用を受けることにより粉末粒子の表面に塩が埋め込まれるように行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
希土類の添加酸化物、酸硫化物、またはフッ化物の中の1種類またはそれ以上の塩を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
酸化イットリウムYまたは酸硫化イットリウムYSまたはフッ化ナトリウムイットリウムNaYFをいずれの場合もエルビウム等の希土類元素を添加して使用することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
粉末の組成、粉末の生産者、粉末のユーザ、または粉末の製造地に関する情報を符号化するための、請求項1〜7に記載の方法の1つの使用。
【請求項9】
添加する塩の量を選択することによって前記符号化を行うことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
添加する特定の1種類または特定の複数種類の塩の量を選択することによって前記符号化を行うことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項11】
種々の添加塩の特定の組み合わせを選択することによって前記符号化を行うことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項12】
少なくとも2種類の添加塩の量の間の特定の関係を選択することによって前記符号化を行うことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項13】
粉末状の構築材料を被製造物体の断面に相当する位置において層状に塗布し固化することにより三次元物体を製造する方法において構築材料として請求項1〜7の記載の方法の1つにより標識付けした粉末の使用する際に、前記固化を、粉末材料に対するレーザ等のエネルギー源の作用により行うか、あるいは結着剤を選択的に塗布することにより行うことを特徴とする粉末の使用。
【請求項14】
前記三次元物体の製造方法が選択的レーザ焼結法または選択的レーザ溶融法であることを特徴とする請求項13に記載の粉末の使用。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−509471(P2012−509471A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536784(P2011−536784)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008272
【国際公開番号】WO2010/057649
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(503267906)イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ (50)
【Fターム(参考)】