説明

粉末イオン交換樹脂包含吸着体を濾過層とする水の浄化法。

【課題】粉末イオン交換樹脂包含吸着体に、水中のバイオフイルムを主成分とするコロイドを吸着させて調製したバイオリアクターに閉鎖系水域の溶液を通流させることを特徴とする水の浄化方法であって、観賞魚の飼育や植物の水耕栽培を容易にすることである。
【解決する手段】粉末イオン交換樹脂、好ましくは陰イオン粉末イオン交換樹脂、より好ましくは陰陽粉末イオン交換樹脂を包含させた濾過吸着体を閉鎖系水域の養魚水や植物工場循環培養液の生物濾過材として用い、バイオフイルムを主成分とするコロイドを懸濁した水溶液を接触させることで、粉末イオン交換樹脂が有害成分を含むコロイドを吸着して透明な液を生成するばかりでなく、使用水のブロー回数を減らしてそのまま利用しても、最も危惧していたバイオフイルムから溶出する毒素成分による観賞魚の死亡や植物の生長阻害もなく、優れた生物濾過機能を持った濾過吸着体が調製出来ることが判った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末イオン交換樹脂包含吸着体固有の浄化機能を利用することで、水溶液中から微細な粒子(コロイド)を効果的に除去して生物にとって安全な水を調製する方法であって、特に観賞魚の飼育水や水耕栽培の循環培養液に適用して著しい効果を発揮する。前記コロイドは、閉鎖系の水を長期間継続使用することで発生する浮遊粒子状物質からなる直径10ミクロン以下の微粒子状化合物であって、微生物菌体及び生物からの有害代謝産物を含むバイオフイルムである。前記バイオフイルムを粉末イオン交換樹脂包含濾過体に吸着除去させることで、前記吸着体をバイオリアクターとしての機能を高め、魚や植物の生育を阻害する有害成分を除去して、生物の生育に適した水質を長期間にわたって維持する。
【0002】
例えば、前記バイオリアクターを、魚の飼育水や水耕栽培の循環培養液等の閉鎖系の水域で使用する循環水の濾過装置として用いる。特に観賞魚飼育水槽壁面に付着したバイオフイルムを剥離したコロイドや、植物生育阻害成分を含む植物工場の循環培養液中のコロイドを前記粉末イオン交換樹脂包含吸着体に吸着させ、前記バイオリアクターの生物濾過機能を著しく向上させることで、生物にとって安全な水を供給する。このことで、長期間に及んで循環水を交換しなくても魚の飼育や植物栽培を可能にした。
【背景技術】
【0003】
イオン交換樹脂包含吸着体としては、例えば、特許文献1または3,4、5に記載されるように、多孔性支持体(例、不織布や発泡石等の多孔体)と微小セルローズと粉末イオン交換樹脂を、水中で接触させることで、多孔性支持体の細孔内部で微小セルローズと粉末イオン交換樹脂とを凝集反応させ、前記多孔性支持体細孔内部に粉末イオン交換樹脂を内蔵させた不織布フエルトや多孔性鉱物等がある。その他、微粒子状粉末イオン交換樹脂と微小繊維状セルローズを一定割合で混合させた後、ホモゲナイズ処理して調製した液状組成物を不織布濾過シートや各種多孔性支持体に塗付した後、脱水乾燥後調製した粉末イオン交換樹脂包含吸着体がある。
【0004】
観賞魚の飼育を継続すると、汚泥(残餌や糞、これらから派生する微生物代謝物)が蓄積し、次第に有害成分(毒性、難分解性)を含む白濁コロイドを飼育水中に放出し、飼育水の透明度が低下するばかりでなく魚を死亡させる。観賞魚の飼育水を浄化する為に、ウールマット等を始めとする各種濾過材が汎用されている。その使用方法は、水槽水を一定の速度で強制循環させ、その経路にシート等の濾過材を設置し、前記汚泥を除くことで、飼育水の汚染を弱め、魚の死亡を少なくしているが、飼育を長期間継続すると、濾過シート表面に前記汚泥が蓄積すると同時に、水槽水中に白濁コロイドを流出する。飼育後1カ月も経過すると、水槽壁面等に微粒子(バイオフイルム)が付着し、水中に流出した白濁(有害コロイド)により観賞魚を死に至らしめる。
【0005】
前記汚泥には飼育水の生物濾過にとって必要な有効バクテリア群を含むが、バクテリアによる中間代謝物の中には、生物の健康を阻害する化合物、例えば発生期のイオンを発生する化合物や毒性物質が存在するものと推定できる。これら有害な微生物代謝物を分解する為に、前もって人工培養・増殖させた有効バクテリア(硝化菌など)を投入することで、例えば窒素サイクル(有害窒素成分の分解・無害化)を促進させる試みもあるが、費用もかかり実用効果は極めて低いのが実情である。通常の飼育方法では、有効微生物群(生物膜)の自然発生を待って飼育水の極端な汚染を回避しているが、実用効果のある生物膜の生成には日数が必要で、例えば生物濾過の整っていない飼育開始初期(1か月以内)に於いて、飼育水中に発生する有害成分(アンモニアや亜硝酸等の毒素)を除くことは難しく、この間における魚の死亡率が高く、老人や子供等にとって魚の飼育方法を難しくしている。どの様な方式であっても、魚の飼育を継続することで汚泥が生成し、水槽壁面や濾過材表面に汚泥が付着し、外観上の美観を著しく損ね、最悪の場合は魚を死亡させている。通常の観賞魚飼育方法では、1か月に1〜2回、水槽を掃除し、汚れた水槽水の半分程度を新しい水と交換して、飼育水の清澄度を確保すると共に前記有害成分の蓄積を回避している。
【0006】
水耕栽培に用いる循環培養液については、水耕栽培中に発生する植物生長阻害物質を濾過吸着体で除去する技術、バイオリアクターを用いて培養液中の有効バクテリア群を積極的に有効利用しようとする技術は見当たらず、現状技術では、生育阻害成分が蓄積(pH低下)して植物の生長が低下した循環培養液を定期的に廃棄しているが、栽培コスト低減の為には廃棄量の削減をして植物の生長を図る技術の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−312881
【特許文献2】特開2003−245687
【特許文献3】特開2004−203988
【特許文献4】特開2005−102674
【特許文献5】特願2010−151942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、観賞魚や野菜に代表される身近な生物の飼育や栽培を容易にする技術であって、例えば専門知識を必要とした難解な観賞魚の飼育作業や水耕栽培を著しく簡便化した方法であって、魚の飼育や植物水耕栽培に由来するコロイドによる循環水の汚染を防ぎ、長期間にわたって観賞魚の飼育や水耕栽培を可能にした水の浄化方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述(0004)した様に、観賞魚を水槽で飼育する際、水槽内部、例えば濾過シート表面や水槽底部への汚泥の蓄積や水槽壁への微粒子状固形物の付着による美観の低下を避けることは出来ない。この汚れは、水槽に残餌や糞に由来する汚泥が付着したものであり、固形物の周辺に微生物群及びその微生物の分泌物が凝集して構成された集合体としてのバイオフイルムであり、蓄積したまま放置すると、堆積物から有害成分を含む白濁コロイドや、微生物による代謝産物(発生期の有害イオンを発生する化合物)を発生して、魚を死亡させる。
【0010】
一方植物水耕栽培においても、循環使用する培養液にオゾン殺菌や紫外線殺菌を実施しているが、循環液中にバイオフイルム(コロイド)の発生を阻止することは不可能である。
これらバイオフイルムは、単一の微生物集団ではなく、複数の微生物から構成されている。このようなバイオフイルムには好気性微生物以外に嫌気性微生物も検出された。
【0011】
本発明は、前述したバイオフイルムを利用することにあり、例えば観賞魚の飼育の場合、水中に沈降し易い汚泥やシート表面に蓄積した汚泥(微生物の死骸や有機物の中間代謝物に富むバイオフイルム)は、定期的に(1か月に1度前後)余剰汚泥として、可能な限り系外に排出することが好ましい。水槽内壁に付着した固形物(バイオフイルム)は、清掃作業を兼ねて、定期的(1か月に一度程度)に壁面を軽く擦り懸濁液を生成する。前記懸濁液は、有効バクテリアを始めとする活力のある微生物群に富んだ微粒子(コロイド)であり、水中に溶解していた化合物(金属成分や非金属成分)と反応して水不溶性の白濁物質を生成する。この白濁物質は、残留性有機汚染物質やヒ素などの有害成分を含有することもあるが、主成分は、難分解性無機化合物などの微生物代謝物を含むバイオフイルムからなるコロイドである。前記コロイドは、魚の健康を阻害する10ミクロン以下の直径を持った微粒子を含む化合物であることを顕微鏡検査で確認した。この微粒子は、通常の観賞魚用濾過材に通流しても除去することは難しく、水の透明度を回復させることは難しかったが、粉末イオン交換樹脂(特に粉末陰イオン交換樹脂、好ましくは陰陽粉末イオン交換樹脂)を包含させた濾過吸着体に通流させることで、前記コロイドを完全に吸着し、有害イオン成分をリークすることもなかった。このことで、水の透明度を完全に回復し、外観上の美観を保つばかりでなく、魚にとって致命傷になる有害イオンの発生を無くして飼育水を無害化する。即ち、飼育水中の直径10ミクロン以下のコロイドを粉末イオン交換樹脂が吸蔵することで、最も懸念された有害イオン成分による魚の死亡を誘発することもなく、寧ろバイオフイルムによる有効バクテリアの水浄化作用(生物濾過)が高まることで、水槽水を頻繁に交換しないでも長期にわたって魚を健康な状態で飼育することが可能となったものである。(実施例1、2、3)
【0012】
植物の水耕栽培に於いて、循環培養液に本発明の粉末イオン交換樹脂包含吸着体からなる濾過層を接触させることで、前記吸着体にバイオフイルムを積極的に吸着させ、生物濾過効果を高めることで、培養液の汚染を防止する。(実施例6)
【0013】
本発明に於ける観賞魚の飼育方法の特徴は、壁面に付着した汚れを、定期的(1~2カ月に一度)に剥離清掃して水中に微粒子コロイド液を浮遊させ、粉末イオン交換樹脂包含吸着体に吸着(吸蔵)させることにある。前記コロイド成分は、好気性微生物(例、硝化菌)や嫌気性微生物(例、脱窒菌)に富んだ微生物群を含む直径10ミクロン以下の微粒子状固形物である。水槽壁に付着した汚れを剥離して、粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体に通流接触させることで、前記濾過吸着体に、最も環境に適応した活力のある微生物群を含む前記固形物が間欠的に供給されることで、生物濾過機能を著しく向上させることが判った。前記濾過吸着体は、飼育中に馴養された有効バクテリアを多量に包含することで、純粋培養された硝化バクテリア等を飼育水に添加して生物濾過効果を高めようとする従来方式に基づく飼育法よりも、遥かに窒素サイクルを始めとする生物濾過効果を迅速に発揚することを認めた(実施例4、5)。
【発明の効果】
【0014】
本発明を観賞魚の飼育に適用することで、1、観賞魚飼育水中に蓄積する汚泥に由来する有害成分を、粉末イオン交換樹脂が効率的に除去する。2、観賞魚飼育水槽の清掃操作が容易となった。3、水槽水の交換頻度が著しく減少した。4、魚の死亡率が減少した。5、飼育水の透明度が著しく向上した。これらの効果により観賞魚の飼育が容易になったことであり、水耕栽培に於いては、循環培養液のブロー量ばかりでなく、ブロー廃液の有害成分含有量が減少したことである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
下記実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
【0016】
(実験方法)
金魚飼育を開始して1カ月経過した水槽の上部濾過装置のフイルター表面に蓄積した汚泥約50mlを純水1,000mlに投入し、ミキサーに入れホモゲナイズする。この液を約1時間静置後、デカンテション法により沈殿固形物を分別して黄褐色のコロイド浮遊液を調製する。このコロイド浮遊液は、金魚の飼育環境下で馴養された活力ある微生物群(好気性菌・懸気性菌)と共に、10ミクロン以下の浮遊性粒子状物質(残留性有機汚染物質:毒性・難分解性・生物蓄積性を持った化合物)等の有害成分を含むと思われる白濁物質であり、通常の観賞魚用の濾過シートでは除去出来ない。前記汚泥を長期間放置すると飼育水中に微粒子コロイドがリークして、飼育水を白濁させ美観を損ねるばかりでなく、魚の死亡を誘発する。一方、前記沈殿性固形物は、比較的大きな凝集塊でありスポンジ等の通常フイルターでも容易に分別可能であり、余剰汚泥として容易に分別除去出来ることが判った。
【0017】
前記コロイド浮遊液400mlを投入した透明なガラス製円筒(高さ30cm)を3基用意する。1基目の円筒(A)には、粉末イオン交換樹脂を包含させた不織布シート(5×5×2cm)を投入して前記コロイド浮遊液に浸漬する。次の1基(B)には、粉末イオン交換樹脂を包含させない不織シートを浸漬させ、3基目(C)の円筒には、同量の前記コロイド浮遊液のみを入れたものを準備し、各々の円筒について外観上の変化、特に水溶液の透明度、ガラス製円筒内壁への微粒子状固形物の付着状況の違いを観察した。
【0018】
一晩放置後、両者のガラス円筒には外観上著しい変化が見られた。
試験結果を表1に示す。
【表1】

*白濁コロイドは、粉末イオン交換樹脂包含繊維で容易に吸着されること、ガラス壁面に付着して白濁させることが判った。
【0019】
(実施例2)
飼育水中に長期間滞留させた汚泥から溶出すると思われる有害成分として、ヒ素を選び、粉末イオン交換樹脂の作用効果を確認する為に、デジタルパックテスト ヒ素[DPM-As]、(共立理化学研究所)を用いて、被検液:ひ酸と亜ひ酸イオン0.3ppm水溶液含有した水溶液を被検液として、実施例1と同様の方法で、ヒ素イオンの消長を測定したが、粉末イオン交換樹脂を適含まないシートを浸漬した試験区では、一晩経過後もヒ素イオン濃度に変化はなかったが、粉末イオン交換樹脂を包含したシートを浸漬した試験区(A)では、一晩経過後、水溶液中のヒ素濃度が検出限界以下となり、粉末イオン交換樹脂によりヒ素イオンを吸着することを認めた。
【0020】
(実施例3)
観賞魚飼育水中に蓄積する微生物の代謝物から生じると予想される有害成分(発生期のイオン)に対する粉末イオン交換樹脂の作用効果を調べる為に、微生物に対する殺菌能力のある遊離塩素イオンを1ppm以上含む岡崎市の水道水を被検液として選び、次の実験を実施した。
【0021】
(実験方法)
粉末陰イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径15ミクロン、ダイヤイオンPA316)1gと粉末陽イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径17ミクロン、ダイヤイオンPK216)0.5gを、常法により包含させた粉末イオン交換樹脂繊維30mlをガラスカラムに充填し、常温、750ml/hで、前記水道水(岡崎市水)を下降流で流し、処理水中の遊離塩素イオンの消長を調べた。分析は、オルト・トルイジン法試薬を用いる簡便法により測定した。
岡崎水道水の性状:電気伝導度0.15ms/cm、pH7.5
オルト・トルイジン反応:陽性、遊離塩素含有量;1ppm以上
【0022】
試験結果を表2に示す。
【表2】

【0023】
粉末イオン交換樹脂は、魚の生育に有害な遊離塩素と作用して、微生物や魚の生育し易い無害な水にすることが明らかになった。この効果は、粉末イオン交換樹脂交換基が遊離塩素イオンに作用して発生期イオンを消滅させたもので、この作用機構については不明であるが、全く予期しなかった粉末イオン交換樹脂の作用効果である。
【0024】
粉末イオン交換樹脂包含吸着体を観賞魚飼育水の濾過材として利用することで、飼育を継続することで汚泥から発生すると思われる遊離イオンによる健康阻害を消滅させ、有効バクテリアの生育に寄与することで、「バイオリアクター」としての生物濾過効果を高める。このことが本発明の作用効果を高めている重要な要因の一つであることを確認した。
【0025】
(実施例4)
実験方法
使用済粒状イオン交換樹脂を機械粉砕して調製した塩素形強塩基性粉末陰イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径15ミクロン)100gと強酸性陽イオン交換樹脂(水分50%、平均粒径17ミクロン)及び微小繊維状化合物(水分90%、PC110SとFD1000の等量混合物、ダイセル工業(株))100gを水10,000mlに混合し、2分間ホモゲナイズ処理して、粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物を調製した。観賞魚飼育用不織布濾過シート(市販品)を、前記液状組成物に浸漬後、脱水して粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体シートを調製した。
【0026】
飼育中の観賞魚水槽に生成したバイオフイルム含有溶液と前記粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体シート(縦35cm×横12cm×幅1cm)を接触混合して本発明の濾過材を調製した。上部濾過装置に前記濾過材をセットした60cm水槽(内容積:100L)(A)を準備する(前記濾過材の上部に、粗目スポンジシートを重ねてセットすることは、余剰汚泥を採取し易くし、清掃作業を容易にする)。コントロールとして、常用の粉末イオン交換樹脂を含まない(A)と同一の観賞魚用不織布濾過シートをセットした上部濾過装置を備えた観賞魚飼育水槽2基(BとC)を用意する。日光が約1時間照射する屋内窓際に、前記水槽(A)、(B)、(C)を設置し、各々の水槽に、同数の100匹のグッピーを放ち、朝晩2回、同量(小さじ一杯)の餌を投与しながら飼育試験を開始した。
【0027】
飼育試験開始後1カ月も経過すると水槽壁面には固形物が付着し、外観上の汚れには著しい差異が表れた。粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体シートを設置した水槽(A)は、日光の当たる壁面は藻類の発生による壁面の汚れが僅かに認められたが、著しい壁面の汚れもなく壁面コーナに付着した異物は、ブラシで軽く擦ることで容易に剥離した。この時、前記粗めのスポンジシートには汚泥の沈降は殆どなかった。(このことは、生物濾過が順調で、微生物による中間代謝物が少ないことを示している)。水槽の汚れを示す指標として、水槽壁面の汚れを剥離してバイオフイルムを懸濁した直後の水槽水の透明度を測定した。吸光度計(日立製;)透過率:T720cm,1cm、86.5%であった。
【0028】
粉末イオン交換樹脂を含まない濾過シートを用いた水槽(BとC)では、前記粗めのスポンジシートに蓄積した汚泥の量は多く、(A)とは著しい差があった。特に壁面の汚れは酷く、日光の当たる壁面は藻類で青くなり、水槽中の魚体を確認出来ないほど汚れが発生した。汚れは壁面に強固に付着し、特に壁面コーナに付着した異物を完全に剥離することは難しかった。剥離物を懸濁させた水槽水は汚れもひどく黒褐色であり、この時の透明度は著しく低下し、透過率:T720nm,1cm:65.3%で、水槽(A)とは著しい差があった。
【0029】
水槽(A)の水槽壁面の異物を剥離した微粒子状コロイドを含む水槽水は、そのままの状態で濾過操作を継続することで、1時間も経過すれば水槽水の透明度は回復し、壁面の汚れがなくなり、外観上の美観、特に水の透明度は素晴らしく、飼育開始から1ヶ月間の魚の死亡数は僅か1匹であった。
【0030】
水槽(B),(C)については、濾過シート表面の汚れは酷く、水槽(A)と比較してシート表層に蓄積した汚泥が多く、魚の死亡数も多かった。水槽(B)と(C)の濾過シート表面に蓄積した余剰汚泥を排出した後、水槽(B)と水槽(C)について飼育方法を変更して、余剰汚泥をそのまま系外に排出するが、飼育水を交換しないで観賞魚を飼育する本発明に準じた方式(B)、と水槽を清掃して汚れた飼育水と新しい水を半分量交換をし、市販の硝化バクテリアを加え、飼育水の透明度を向上させ、外観を重視する通常方式に飼育方法を変更して比較試験を実施した。水槽(A)については、そのまま継続して実施した。
【0031】
水槽(B)については、2週間ごとに水槽壁面の付着物を水槽中に剥離させ、水槽(A)と同様にして飼育水の交換作業はしないが、濾過シートに蓄積した余剰汚泥の塊を系外に排出させた後、水槽水を交換しないでそのまま水槽水を生物濾過しながら観賞魚の飼育試験を継続した。水槽(C)については、従来一般的に実施されている水槽清掃作業を実施し、シート状の汚泥や水槽底に沈降した汚泥を出来るだけ系外に排出し、黒褐色に汚れた汚泥を含む水槽水の約半分量を排出し、新しい水(地下水)を加えて水槽水を満たすことで、飼育水の透明度を回復させた後、観賞魚飼育試験を継続した。
【0032】
前述したように飼育濾過開始後、飼育水の交換はしていないにもかかわらず1時間も経過すれば水槽(A)の飼育水は透明となり、外観上の美観は完全に回復した。水槽(B)、(C)については、濾過試験開始から5時間経過後も透明度は回復せず、24時間経過後の水槽(A),(B),(C)の水槽水の透明度は、粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を用いた水槽(A)では、透過率(T720nm,1cm)は100%、水槽(B)では96%、水槽(C)では98%であり、肉眼上でもその差は明らかであり、水槽(A)の美観は圧倒的に優れていた。
【0033】
水槽(A),(B),(C)について、水槽壁面の清掃と、濾過シートに蓄積した汚泥の除去を引き続き実施しながら、前述した各々の飼育方法に従って、観賞魚飼育試験を継続した。試験結果を次に示す。
*水槽水の分析は、壁面清掃後1日経過した時点で測定した。
【0034】
試験結果を表3に示す。
【表3】

【0035】
水槽(A)が、透明度が抜群によく、有害窒素成分(NH4-N、NO2-N)は検出されなかった。NO4-Nが徐々に増加し、生物濾過が順調であることが判った。魚の死亡数も少なく、2か月経過後は、新しいグッピーの子供が生まれ、3か月後には個体数は倍増した。水槽(B)(C)では3か月後に数匹のグッピー子供が見られた。
【0036】
水槽(B)は水の透明度に難点があったが、水槽(C)に比べて、有害窒素成分(NH4-N、NO2-N)は少なかったが、水槽(A)に比べて魚の死亡数も多く、水中に存在するコロイドが魚の健康を阻害したものと推定される。
【0037】
通常の飼育方法に準じた水槽(C)は、水換えを頻繁にしたにもかかわらず、水の透明度は、水槽(B)よりは優れているが、水槽(A)に比べて悪く、従来、最も合理的な方法であるとされていた水換作業は、魚の死亡数を増やし、生物濾過機能を低下させることが判った。
【0038】
飼育方法として、水槽(A)の方式、即ち粉末イオン交換樹脂包含吸着体を用いた水槽で、濾過シートに蓄積した余剰汚泥を系外に排出すること、水槽壁面付着した微粒子(バイオフイルム)を定期的に剥離して生物濾過を促進することを特徴とする本発明の飼育方式を採用することで、飼育水槽の美観を保ち、魚の死亡数も少なく、観賞魚の飼育方法を著しく容易にすることが判った。
【0039】
(実施例5)
前記実施例3で開示した使用済粉末イオン交換樹脂を主成分とする前記液状組成物に、自動車用不織布シートの製作中に副生する型枠外シート(産業廃棄物)を裁断して調製したポリエステル不織布繊維からなる多孔性フエルト塊(直径、約10mm)100gを投入し、緩やかに混合して、フエルトに粉末イオン交換樹脂を塗付脱水後、80℃、2時間送風乾燥することで、強塩基性粉末イオン交換樹脂をフエルト繊維表層に強固に接着した濾過吸着体を調製した。この濾過吸着体は粉末イオン交換樹脂を多量に包含して剥離することがなく、この様にして調製した濾過吸着体は、既存の観賞魚用濾過材にはなかった卓越した粉末イオン交換樹脂固有の浄化機能を備えた安価な不織布濾過材(A1)である。
【0040】
下記する方法で、水槽水を交換しないことを前提とした観賞魚の長期飼育試験を開始した。
角型の水槽(内容積約30L)の中央底部に、エアーリフト式濾過装置をセットし、pH機能調整剤としての貝殻を投入する。前記濾過装置(クリオン(株)製、パワーハウス濾過筒)に前記粉末イオン交換樹脂包含濾過材(A1)20gを充填し、エアーポンプを通じて空気を挿入することで、水槽水を濾過筒内部に強制循環させる。濾過筒入口にはスポンジ状フイルターが設置され、大きな異物と余剰汚泥はフイルター表面で分別される。この水槽に飼育水25Lを満たし、日光が1日約1時間当たる窓際に置き、体長約5cmの金魚3匹と水草を植え、美観を重視した飼育試験を開始する。投与餌量は、5分間以内で食べきる量を心がけ、原則として朝夕1回与える。
【0041】
粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を使用しない通常の観賞魚飼育方法では、飼育を継続することで汚染した飼育水は、新しい水と交換することが必須の作業であり、特に外観上の美観を重視するアクアリウムを楽しむ世界では、水槽水の透明度が重要である。その為には、水槽壁面の汚れが少ないこと、水槽壁面の付着物の剥離が容易なこと、水槽水が黄ばみ色素などで着色しないことなどが必要条件である。
【0042】
本発明の観賞魚飼育法では、水槽壁面の曇り、即ち壁面に付着した異物(バイオフイルム)の付着が、壁面の汚れとして美観を損ねた段階(1か月で1回程度)で付着物を水槽水中に剥離して懸濁させた後、そのまま引き続き飼育濾過試験を継続することで、懸濁物(コロイド)を粉末イオン交換樹脂濾過吸着体が吸蔵し、水の透明度は完全に回復する。濾過筒入口にセットしたスポンジフイルターに蓄積した大きな異物(余剰汚泥)は、スポンジを系外に取り出し洗浄することで簡単に廃棄される。
【0043】
現在、既に1年間以上の長期間の飼育試験を継続中であるが、水槽水の透明度は維持され、水槽壁面の汚れもなく、長期間水交換なしで美観を保つことが出来た。季節の変化に対応して藻類の発生に差があるが、壁面をブラシ等で軽く擦るだけで容易に剥離出来る。この剥離固形物で濁った水槽水は、エアーリフト方式による循環濾過を1時間も続けることで、粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体で濁り成分ばかりでなく、飼育中に生成した黄ばみ成分を効率的に吸着することも判った。
【0044】
本発明の効果は、粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を用いた濾過器を用いること、と水槽壁面に付着したバイオフイルムを間欠的に飼育水中に懸濁させること(好ましくはスポンジ等の目の粗いフイルターを用いて、シート表面に蓄積する余剰汚泥を系外に廃棄すること)からなる簡単な作業だけで、最も面倒な水換え作業を3か月以上好ましくは6カ月以上水換えしなくても、魚の飼育を可能にしたことで、従来専門家以外は難しいとされていたアクアリウムの世界を子供や老人にも容易に楽しめる様にした観賞魚飼育方法である。
【0045】
本実験に用いた粉末イオン交換樹脂は使用済み粒状イオン交換樹脂と自動車用シートの型枠外のフエルトを裁断して調製した多孔性濾過体から粉末イオン交換樹脂包含吸着体を調製した。これら物質は、いずれも産業廃棄物として大量に産出しており、粉末イオン交換樹脂は容易に再生可能であること、更には使用済みの粉末イオン交換樹脂包含吸着体は、容易に焼却処分可能であることから、本発明は、観賞魚、養魚水などを始めとして、有害成分(ヒ素など)を含む地下水や工業排水等にも適用可能な技術であり、これら産業廃棄物をリサイクル利用することにより工業規模での実施可能となった意義は大きい。
【0046】
(実施例6)
レタスを栽培中のコンテナ型小規模水耕栽培施設で使用中の培養実液A(ブロー直前の汚染した培養液)を用いて、次の試験を実施した。
実験方法1、
市販のエアーリフト式濾過装置(クリオン(株)製パワーハウス容積400ml)に実施例5で使用した物と同様の粉末イオン交換樹脂濾過吸着体(実施例5、A1)を充填し、前記エアーリフト式濾過装置を水槽Bに設置し、約10リットルの培養実液Aを投入する。エアーポンプを用いて、好奇的条件下で前記培養実液Aを内部循環させ、浄化液を調製する。1日毎に前記浄化液を採取し、原液槽(100リットルの培養実液Aを含有)に戻す。原液槽で混合した培養液10リットルを前記水槽Bに戻し、空気を投入して培養液を内部循環させることで引き続き浄化する。この様にして約100リットル前記培養液Aを順次水槽Bに移送し、好気性雰囲気下での浄化試験を実施し、処理液の性状の変化を調べた。
15日経過後、前述したクリオン(株)製パワーハウスエアーリフト式循環装置(好気的)から直径3cm×高さ60cmのテストカラム)に前記充填濾過材400mlを移転させ、上向流4,000ml/h、37℃で通流する方式(嫌気的雰囲気)に変更し、原液槽(100リットル)に貯留した培養液を直接ポンプを用いて循環させた。この時の循環処理液の性状を調べた。
【0047】
試験結果を表4に示す。
原液の性状:電気伝導度(E.C):2.5ms/cm、pH:5.7、T720nm,1cm(透過率)::86%
【表4】

【0048】
考察
1、植物工場循環培養液(ブロー直前)に粉末イオン交換樹脂包含吸着体を適用することで、エアーリフト方式でもカラム方式でも、循環液中のコロイドを効率的に吸着して、循環液の透過率が86%から95%以上に著しく上昇することが判った。
2、通気を伴うエアーリフト方式(好気的条件下)で通流処理することで、培養液のpH上昇が認められた。このことは植物が分泌する代謝成分(酸性成分)が除去されたことを示すものであり、この作用は粉末イオン交換樹脂の持つ科学的イオン交換作用だけでも、それなりの効果を有するが、初期段階に限定される。本試験結果で明らかなように、10日間に及んでpHの上昇が認められたことは、粉末イオン交換樹脂包含吸着体がバイオフイルムを吸着して生物濾過機能を高めたことを示すものである。
3、pHの上昇と共に電気伝導度の低下が、通流開始から10日経過頃から徐々に認められたが、この段階から植物培養液中の微生物群(バイオフイルムを主成分とするコロイド)を吸着してバイオリアクター(生物濾過)機能が発揚したものと思われる。
4、15日間経過後、エアーリフト方式からカラム方式に通流方法を変更し、通流方法の違いによる粉末イオン交換樹脂包含吸着体のバイオリアクターの機能を調べた。
5、エアーリフト方式からカラム方式に通流方法を変更することで、バイオリアクターとしての機能は著しく変化することが判った。
6、植物培養液中の有効成分を残し、植物代謝成分(pH低下成分)の生物濾過機能を期待する場合は、エアーリフト方式等の好気的条件下で培養液の浄化を実施し、廃液中の富栄養化成分(有害窒素成分の低下:NO3-N減少)の為には、嫌気的条件下で培養液の浄化を実施する必要のあることが判った。
7、以上の試験結果から明らかなように、植物工場の水耕栽培施設に粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を濾過層とする培養液処理装置を適用することの工業的価値の大きいことが判った。
【0049】
(実施例7)
本実験を通じて、粉末イオン交換樹脂包含吸着濾過体による培養液の浄化作用は、生物膜ろ過による作用効果が大きいことが判ったので、観賞魚の飼育水槽中で生成したバイオフイルムを主成分とするコロイドを吸着した粉末イオン交換樹脂吸着体(実施例5)を用いて、実施例5と同様の実験を実施した。
【0050】
(試験結果)
生物濾過効果は顕著で、培養液の浄化作用は顕著で濾過層を1回通流させるだけで、前記実施例の作用効果と略同様の試験結果が認められた。
本実験では、観賞魚の飼育中に発生するバイオフイルムを主成分とするコロイドを吸着した粉末イオン交換樹脂吸着体を濾過層として用いたが、枯草菌やEM菌等の有効バクテリアを添加することで生物膜効果を高めることは容易に推定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末イオン交換樹脂包含吸着体に、バイオフイルムを主成分とする微粒子状コロイドを吸着させて調製したバイオリアクターを用いて閉鎖系水域の水溶液を浄化させることを特徴とする水の浄化方法。
【請求項2】
前記粉末イオン交換樹脂包含吸着体が、型枠外の不織布シートを裁断して調製した多孔性フエルト塊に粉末イオン交換樹脂を包含させた吸着体である請求項1に記載の水の浄化方法。
【請求項3】
前記コロイドが観賞魚水槽壁面に付着したコロイドである請求項1又は2に記載の水の浄化方法。
【請求項4】
前記閉鎖系水域の水溶液が水耕栽培循環培養液である請求項1又は2に記載の水の浄化方法。
【請求項5】
好気的条件下で培養液を通流する請求項4に記載の水の浄化方法。
【請求項6】
培養液ブロー排水を、嫌気的条件下で通流して、硝酸体窒素を減少させる請求項4に記載の水の浄化方法。

【公開番号】特開2012−179001(P2012−179001A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43534(P2011−43534)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【特許番号】特許第4853800号(P4853800)
【特許公報発行日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(599077166)
【Fターム(参考)】