説明

粉末濃色醤油及びその製造法

【課題】
米菓業界及びスナック菓子業界等において、焼成した菓子生地、ポテトチップの生地等の表面に付着させて使用する、苦味がなく、醤油の風味付け用として好適な粉末濃色醤油を得る。
【解決手段】
醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化して、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.5以上である粉末濃色醤油を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味を有しない粉末濃色醤油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来加工食品業界、例えば米菓業界、スナック菓子業界等では、醤油香味を付与する手段として、焼成した菓子生地もしくはポテトチップ等の生地の表面に粉末醤油を付着させる方法が採用されている。その際、濃色の粉末醤油が人気であり、これに対する需要が多い。そこで、この需要に応ずべく通常の醤油にカラメルと賦形剤とを添加し、溶解した後噴霧乾燥して、粉末濃色醤油を製造することが知られている。
しかし、この粉末濃色醤油は、本発明者らの検討によると、苦味を有する欠点のあることが判明した。
【0003】
一方、醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加し、加熱処理して食品着色用の濃色醤油を得ること(特許文献1参照)が知られている。しかし、この醤油を、常法により得られた醤油に添加すること、添加後の醤油を乾燥粉末化すること、また乾燥粉末化するとどのような粉末が得られるか、は知られていない。
【特許文献1】特公平6−11224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、苦味のない粉末濃色醤油を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化することにより、苦味を有しない粉末濃色醤油が得られること、またその色調は、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.5以上であるものが好ましいことを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に示す粉末濃色醤油及びその製造法である。
【0006】
(1)醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化して得られ、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.5以上である粉末濃色醤油。
(2)醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化することを特徴とする粉末濃色醤油の製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、米菓業界、スナック菓子業界等で、焼成した菓子生地及びポテトチップの生地等の表面に付着させて使用する、醤油の風味付け用として好適な、苦味を有しない粉末濃色醤油を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、先ず醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して濃色醤油を調製する。
【0009】
上記醤油としては、天然醸造醤油、化学醤油、濃口醤油、淡口醤油、生醤油、火入醤油等の任意の醤油を用いることができる。また、醤油製造用原料を酵素的もしくは化学的に加水分解した加水分解液も、醤油として用いることができる。
【0010】
上記糖類としては、例えばグルコース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、蔗糖、乳糖等を単独又は組合せて用いることができる。
【0011】
上記有機酸としては、食品原材料として使用されている、酢酸、乳酸、酒石酸、蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等を単独又は組合せて用いることができる。
【0012】
上記無機酸としては、炭酸、リン酸もしくはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0013】
上記糖類の添加量は、醤油に対して5〜50%(w/v)が好ましく、25〜40%(w/v)がより好ましい。
【0014】
上記有機酸、無機酸もしくはその塩の添加量は、醤油に対して5〜30%(w/v)が好ましく、15〜25%(w/v)がより好ましい。
【0015】
上記加熱処理は、低すぎると着色の効果が少なく、反対に高すぎると製品に苦味や焦げ臭を生じ、また沈殿物が生じる等の悪影響があるので好ましくない。好ましい加熱温度は、120℃前後で5〜15分を目安とし、目的とする着色度合に応じ、120℃より高温の場合は加熱時間を短くし、反対に低温の場合は加熱時間を長くする。
【0016】
上記加熱処理の手段は、例えば空気、飽和水蒸気、過熱水蒸気等の加熱ガス、加熱水、加熱油等の加熱液体を熱媒体として用いることができる。
また、上記加熱処理に際し、例えば空気、酸素等を用いて通気撹拌を行えば、着色の効果を一層高めることができる。
【0017】
このようにして、醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加して、加熱処理することにより高度に着色した、濃色醤油を得ることができる。
【0018】
次に、上記で得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、必要によりさらに賦形剤を添加した後、乾燥粉末化する。
【0019】
上記別の醤油としては、例えば天然醸造醤油、化学醤油、濃口醤油、淡口醤油、生醤油、火入醤油等の任意の醤油を用いることができる。また、醤油製造用原料を酵素的もしくは化学的に加水分解した加水分解液も、醤油として用いることができる。
【0020】
上記別の醤油に対する、濃色醤油の添加量は、5〜30%(v/v)が好ましく、10〜20%(v/v)がより好ましい。添加料が少なすぎると、目的とする色調(1%w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.5以上の濃色粉末醤油が得られない。
本発明において、上記O.D.値が0.5以上とすることは重要であって、0.5未満例えば0.1〜0.4である通常の粉末醤油においては、濃色感が感じられないので、本発明の目的を達成することができない。
【0021】
上記賦形剤としては、デキストリン、ゼラチン、可溶性デンプン等が用いられる。賦形剤の添加量は、濃色醤油と別の醤油との混合液に対して5〜30%(w/v)が好ましく、15〜25%(w/v)がより好ましい。
【0022】
次に賦形剤をよく溶解し、通常の粉末醤油の製造法に従い、乾燥粉末化する。乾燥粉末化の手段としては、任意の手段が挙げられるが、噴霧乾燥法が好ましく、例えば熱風入口温度120〜200℃、出口温度80〜100℃で噴霧乾燥する。
【0023】
このようにして、本発明によれば、苦味がなく、通常の粉末醤油に比べて水溶液の色調が極めて濃厚である粉末濃色醤油が得られる。特に、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.が0.5以上である粉末濃色醤油が得られる。
【0024】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。
なお、下記実施例で用いる濃色醤油は、以下により得たものである。
(濃色醤油の製造)
濃口醤油にグルコース30%(w/v)及び炭酸ナトリウムを20%(w/v)添加した後、オートクレーブで120℃、15分間加熱処理を行い、濃色醤油を得た。
【実施例1】
【0025】
(粉末濃色醤油の製造)
濃口醤油に、該濃口醤油の対して10%(v/v)に相当する上記で得られた濃色醤油を混和し、また該混和液に対して20%(w/v)に相当するデキストリンを混和し、80℃に加温して該デキストリンを均一に溶解し、これを入口温度140℃、出口温度90℃で噴霧乾燥し、本発明の粉末濃色醤油(水分約2%w/w)を得た。この粉末濃色醤油は、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.8であった。
なお、上記O.D.値は、日立社製分光光度計、HITACHI U−1100により求めた(後述の比較例及び対照例もこの方法によって求めた)。
【0026】
(比較例)
比較のため、濃口醤油に、該醤油に対して3%(w/v)に相当するカラメルを混和し、また該混和液に対して20%(w/v)に相当するデキストリンを混和し、80℃に加温して該デキストリンを均一に溶解し、これを入口温度140℃、出口温度90℃で噴霧乾燥し、比較例の粉末濃色醤油(水分約2%w/w)を得た。この粉末濃色醤油は、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.8であった。
【0027】
(対照例)
比較のため、濃口醤油に、濃色醤油及びカラメルを混和することなく、これに20%(w/v)に相当するデキストリンを混和し、80℃に加温して該デキストリンを均一に溶解し、これを入口温度140℃、出口温度90℃で噴霧乾燥し、対照例の粉末醤油(水分約2%w/w)を得た。この粉末醤油は、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.2であり、本発明及び比較例の粉末濃色醤油と比べると非常に淡色のものであった。
【0028】
(官能検査)
本発明及び比較例で得られた粉末濃色醤油及び対照例で得られた粉末醤油をそれぞれ水に溶解して水溶性窒素濃度が0.5%(w/v)の水溶液を調製し、それぞれ水溶液の苦味の程度について、20名の識別能力を有する訓練されたパネルにより官能検査を行った。その結果を表1に示す。
官能検査は、評点法によって行い、1:苦味がない、2:苦味がほとんどない、3:苦味が弱い、4:苦味が強い、5:苦味が非常に強いとして評価し、表中の評点は平均値を示す。
【0029】
表1


【0030】
表1の結果から、醤油にカラメルと賦形剤とを添加し噴霧乾燥して得られる粉末濃色醤油は、苦味が強いことが判る。
これに対し、醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加し、加熱処理して得られ濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化して得られる粉末濃色醤油は、苦味が殆どないことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化して得られ、1%(w/v)水溶液の10mm無色透明セルの470nmでのO.D.値が0.5以上である粉末濃色醤油。
【請求項2】
醤油に糖類及び有機酸、無機酸もしくはその塩を添加した後加熱処理して得られた濃色醤油を、これとは別の醤油に添加し、乾燥粉末化することを特徴とする粉末濃色醤油の製造法。