説明

粉末製造法

【課題】表面が丸味を帯びた硬い粒状物であっても、遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕して、粉末にすることができる方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1個のポットと、ポット内に封入される複数個のボールとを備え、ポットの内径がボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備する(S1)。ポットに、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料をボールとともに封入する(S2)。ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の3.5〜4.5倍となるように遊星運動させ、それによって、原料を粗粉砕して、原料の粉末を製造する(S3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ボールミル装置を用いて、表面が丸味を帯びた硬い粒状物、例えば、米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、およびコーヒー豆等の豆類を乾式粉砕することによって、その粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポットおよびポットに封入されるボールがいずれも合成樹脂製であり、ボールがポットの内径に対して相対的に大きな直径を有する遊星ボールミル装置を準備し、原料となる茶葉や乾燥食品等を4〜8個のボールと共にポットに封入し、ポットを公転運動および自転運動させることによって、原料を乾式粉砕し、粉末茶や乾燥食品の微粉末等を製造する方法が従来技術において知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、この粉末製造法によれば、金属製ポットと、クロム鋼やセラミックス等から形成された多数個の小型硬質ボールとを備えた遊星ボールミル装置を用いる粉末製造法と比べると、原料の均一な微粉末化を実現することができ、例えば、原料茶葉から粉末茶を製造する場合には、従来の石臼を用いて得られる粉末茶と遜色のない製品が得られる。
【0004】
しかしながら、この従来の粉末製造法によれば、米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、およびコーヒー豆等の豆類のような、表面が丸味を帯びた硬い粒状物を原料とした場合、これらの粒状物は、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間から容易にすり抜けてしまい、うまく粉砕できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/106964号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、表面が丸味を帯びた硬い粒状物であっても、遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕して、粉末にすることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1発明は、(1)少なくとも1個のポットと、前記ポット内に封入される複数個のボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、(2)前記ポットに、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料を前記ボールとともに封入し、(3)前記ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ前記自転運動の回転速度が前記公転運動の回転速度の3.5〜4.5倍になるように遊星運動させ、それによって、前記原料を粗粉砕して、前記原料の粉末を製造することを特徴とする粉末製造法としたものである。
ここで、「硬い原料」とは、当該原料を単独で遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕しようとした場合に、当該原料が、簡単には変形せず、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間からすり抜ける程度に、丸味を帯びた表面形状を維持し得る硬さを有していることを意味し、「粗粉砕」とは、平均粒径が100μm以上の粉末が得られるレベルの粉砕を意味する。以下同様。
【0008】
上記課題を解決するため、また、第2発明は、(1)少なくとも1個のポットと、前記ポット内に封入される複数個のボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、(2)前記ポットに、表面が丸味を帯びた粒状の硬い第1の原料と、表面が角張った粒状、または扁平状、または粉末状の第2の原料とを所定の比率で混合したものを前記ボールとともに封入し、(3)前記ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になるように遊星運動させ、それによって、前記第1および第2の原料を微粉砕して、前記第1および第2の原料の粉末を製造することを特徴とする粉末製造法としたものである。
ここで、「硬い第1の原料」とは、第1の原料を単独で遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕しようとした場合に、第1の原料が、簡単には変形せず、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間からすり抜ける程度に、丸味を帯びた表面形状を維持し得る硬さを有していることを意味し、「微粉砕」とは、平均粒径が100μm以下の粉末が得られるレベルの粉砕を意味する。以下同様。
【0009】
第2発明において、前記第2の原料として、前記第1の原料を粗粉砕したもの、あるいは前記第1の原料を粉末状にしたものを用いれば、単一種類の原料からなる粉末を製造することができる。
また、第2発明において、前記自転運動の回転速度が前記公転運動の回転速度の2〜3倍になるように、前記ポットを遊星運動させることが好ましい。
また、第1および第2発明において、前記ポットおよび前記ボールを形成する材料は、特に限定されないが、米粉や蕎麦粉等の食品の粉末を製造する場合には、前記ポットおよび前記ボールはそれぞれ合成樹脂製であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、ポットが遊星運動する間に、ポット内の各ボールに及ぼされる、ポットの公転運動に起因する遠心力と、ポットの自転運動に起因する遠心力との合成力が調節され、それによって、ポット内で一体となって回転運動するボール群と、このボール群から分離し、ポット内で自由に無秩序運動する少数のボールとが生じる。そして、ポットの遊星運動の間に、この無秩序運動するボールが、他の無秩序運動するボール、ボール群およびポット内壁と衝突を繰り返し、この衝突力によって原料が粗粉砕される。こうして、表面が丸味を帯びた硬い粒状物であっても、遊星ボールミル装置を用いて容易に乾式で粗粉砕することができる。
【0011】
第2発明によれば、粉砕過程の初期段階では、遊星運動するポット内においてボールの運動は無秩序となり、ボール間の衝突、並びにボールおよびポット内壁の間の衝突が頻繁に生じる。この間に、第1の原料は、第2の原料と混じり合うことによって、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間に一定時間留まり、それによって、第1の原料は、第2の原料とともに、ボール同士の衝突力およびボールとポット内壁の摩擦と剪断力によって粉砕される。そして、第1の原料が粉砕され、粉砕物の全体がある程度細かくなると、ボールの運動を無秩序にする力が弱くなり、ボールの全体が整然とした運動を開始し、第1および第2の原料は、主として、ボールの集合体とポット内壁の相対運動による剪断力によって粉砕され、微粉化される。こうして、表面が丸味を帯びた硬い粒状物であっても、遊星ボールミル装置を用いて容易に乾式で微粉砕することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の1実施例による粉末製造法のフロー図である。
【図2】遊星ボールミル装置の1例の側断面図である。
【図3】遊星ボールミル装置のポットの1例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図4】ポットにボールが収容された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
【図5】遊星ボールミル装置のポットの別の例を示す図であり、(A)はポット内にボールが収容された状態の平面図、(B)はその縦断面図である。
【図6】粉砕過程におけるポット内でのボールの運動状態を説明する図である。
【図7】本発明の別の実施例による粉末製造法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施例について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の1実施例による粉末製造法のフロー図である。
図1に示すように、この実施例では、少なくとも1個のポットと、ポット内に封入される複数個のボールとを備え、ポットの内径がボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備する(図1のS1)。この場合、ポットの容量は、500〜20000cc程度であることが好ましい。
【0014】
図2は、この遊星ボールミル装置の側断面図である。なお、本発明の粉末製造法で用いる遊星ボールミル装置は、ポットおよびボールを除き、公知の遊星ボールミル装置と同じ構成を有しているので、以下では、遊星ボールミル装置のポットおよびボール以外の構成要素に関しては簡単に説明するに留める。また、遊星ボールミル装置のポットを遊星運動させる回転駆動機構の構成は、以下に説明するものに限定されず、任意の適当な公知の回転駆動機構を備えた遊星ボールミル装置が使用可能である。
【0015】
図2を参照して、遊星ボールミル装置は、モータ1によって回転駆動される垂直な主軸2を備え、主軸2には円盤状の回転テーブル3が固定されている。また、回転テーブル3上には、4つのポット回転台5が主軸2に関して回転対称となるように配置され、それぞれ、垂直な自転軸4のまわりに回転テーブル3に対して回転可能になっている。そして、主軸2と各自転軸4とは遊星歯車機構6によって連結され、それによって、ポット回転台5は、主軸2のまわりに公転運動しつつ、自転軸4のまわりに自転運動し得る。
【0016】
さらに、主軸2の上部には平板状の上部支持部材7が固定されている。上部支持部材7は、主軸2から放射状にのび、各ポット回転台5の上方に達する複数の腕部分を有し、各腕部分5には、軸方向に上下運動可能とされた押圧ロッド8がその軸のまわりに回転自在に取り付けられている。
そして、ポット回転台2には、内部に複数個のボールと製粉原料とが封入されたポット3が載置された後、押圧ロッド8が下向きに運動させしてられて押圧ロッド8の先端がポット10の上面に押しつけられることにより、ポット10がポット回転台5に固定されるようになっている。
【0017】
こうして、回転テーブル3が、モータ1によって主軸2のまわりに回転駆動されるとともに、ポット回転台5は、それぞれ、モータ1により、遊星歯車機構6を介して、自転軸4のまわりに回転テーブル3に対して回転駆動され、それによって、ポット10は、主軸2のまわりに公転運動せしめられるとともに、自転軸4のまわりに自転運動せしめられる。
なお、遊星ボールミル装置の運転中の危険防止のため、遊星ボールミル装置の上部には、ポット回転台5の運動空間を被覆する開閉可能な保護カバー9が設けられている。
【0018】
図3は、ポットの1実施例を示した図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。図3に示すように、ポット10は、一端が閉じられた円筒形状のポット本体11と、ポット本体11の他端開口をリング状のパッキン14を介して密閉し得る蓋体12からなっている。また、ポット本体11の内側空洞部13の周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11cは、所定の曲率半径rをもって湾曲している。
【0019】
ポット10およびボール15は、高耐摩耗性、高自己潤滑性および高耐衝撃性を有する材料、例えば、金属(ステンレスまたはクロム等)、またはセラミックス(例えば、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニアまたはメノウ等)、または合成樹脂から形成することができるが、米粉や蕎麦粉等の食品の粉末を製造する場合には、人体に無毒な合成樹脂製のポット10およびボール15を使用することが好ましい。この場合、合成樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)およびポリアミドイミド(例えば、トーロン(登録商標))およびポリベンゾイミダゾールのいずれか1つまたはそれらの混合物、あるいは、ポリエーテルエーテルケトンまたはポリアミドイミド(例えば、トーロン(登録商標))またはポリベンゾイミダゾールの構成モノマーからなるコポリマーを使用することが、特に好ましい。
【0020】
また、同一種類の合成樹脂から形成されたポット10およびボール15を常に組み合わせて使用する必要はなく、異なる種類の合成樹脂から形成されたポット10およびボール15を組み合わせて使用してもよい。
ポット10は、内壁面が合成樹脂製であればよく、変形防止等のために、内壁面を形成する合成樹脂層の外側に、ステンレスや鉄等の金属からなる外皮を有するポットとしてもよい。
【0021】
良好な粉砕を実現するために、ボール15およびポット10の寸法、並びに原料の種類に応じて、ボール15の比重を適宜変化させてもよい。ボール15の比重を変化させる方法としては、互いに比重の異なる2種類の合成樹脂を用意し、ボール15を、第1の合成樹脂から形成された球形の核と、核の外側を取り巻く、第2の合成樹脂から形成された外皮層からなる2層構造として比重を変化させる方法、あるいは、ボール15の内部に金属球からなる芯を組み込んで比重を大きくする方法、あるいは、ボール15の内部を中空とすることで比重を小さくする方法がある。
【0022】
図4は、ポット内にボールが収容された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。図4を参照して、ポット10の内側空洞部13の周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11cの曲率半径rは、ボール15の半径と等しいかまたはそれよりも大きくなっている。
さらに、ポット10の内側空洞部13の径sは、ボール15の直径Rの2.5〜4倍の大きさを有し、かつ、ポット1本当たりに5〜8個の同一のボール15が収容される。
【0023】
図5は、ポットの別の例を示した図であり、(A)はポット内にボールが収容された状態の平面図、(B)はその縦断面図である。図5の例は、図4の例と、ポットの内部構造が異なっているだけである。したがって、図5中、図4と同一の構成要素には同一番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0024】
図5を参照して、この実施例では、ポット本体11の上端開口が蓋体12によって密封された状態で、ポット10の内部空間13における周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11c、および周壁面11aから上壁面への移行部分11dが、いずれも所定の曲率半径rをもって湾曲して形成されている。この場合、移行部分11c、11dの曲率半径rはボール15の半径と等しく、またはそれよりも大きくなっている。
この例では、さらに、ポット本体11の上端開口が蓋体12によって密封された状態で、ポット10の内部空間13の高さdがボール15の直径Rの約1.1〜1.9倍となっている。したがって、この実施例では、ポット10内にボール15が2段に配置されることはない。
【0025】
この例においても、図4の例の場合と同様、ポット10の内側空洞部の径sは、ボール15の直径の2.5〜4倍の大きさを有し、かつ、ポット1本当たりに同一のボール15が5〜8個封入される。
【0026】
再び図1を参照して、この実施例では、次に、ポット10に、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料をボール15とともに封入する(図1のS2)。この場合、「硬い原料」とは、当該原料を単独で遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕しようとした場合に、当該原料が、簡単には変形せず、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間からすり抜ける程度に、丸味を帯びた表面形状を維持し得る硬さを有していることを意味する。
【0027】
そして、ポット10を、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の3.5〜4.5倍になるように遊星運動させ、それによって、原料を粗粉砕して、原料の粉末を製造する(図1のS3)。ここで、「粗粉砕」とは、平均粒径が100μm以上の粉末が得られるレベルの粉砕を意味する。
【0028】
次に、図6を参照して、この実施例の粉砕原理について説明する。なお、明瞭にするために、図6中、一部のボール15a〜15cのみを示した。
今、ポット10が遊星運動すると、ボール15a〜15cに及ぼされる遠心力は、ポット10の自転運動による遠心力Fと、ポット11の公転運動による遠心力Fとの合力となり、F、Fはそれぞれ次式で表される。
=m×r×ω
=m×r×ω
ここで、mはボールの質量であり、rはポットの中心O’とボールの中心O”との最大距離であり、ωはポットの自転運動の角周波数であり、rは公転運動の中心O(回転テーブル3の中心)とボールとの最大距離であり、ωはポットの公転運動の角周波数である。
そして、例えば、ポット10内において公転運動の中心Oから最も遠い位置にあるボール15aについて、遠心力Fおよび遠心力Fがいずれも外向きに及ぼされるので、それらを合成した遠心力が最大となる。
【0029】
この実施例では、ポット10を、自転運動および公転運動が逆向きになり、かつ公転運動の回転速度と自転運動の回転速度の比が、1:3.5〜1:4.5となるように遊星運動させて、ポット10内の各ボール15a〜15cに及ぼされる、ポット10の公転運動に起因する遠心力と、ポット10の自転運動に起因する遠心力との合成力を調節することによって、ポット10内で一体となって回転運動するボール群と、このボール群から分離し、ポット内で自由に無秩序運動する少数のボールとを生じさせる。
こうして、ポット10の遊星運動の間に、この無秩序運動するボールが、他の無秩序運動するボール、ボール群およびポット内壁と衝突を繰り返し、この衝突力によって原料が粗粉砕される。
【0030】
これに対し、公転運動の回転速度と自転運動の回転速度の比が上記範囲内にない場合には、ポットが遊星運動をする間に、ボールは一体となってポット内で回転し、ボール間の衝突は生じない。そして、ボールと原料は一体となってポット内で回転するだけであり、原料の粉砕は殆ど行われない。
【0031】
この実施例によれば、例えば、米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、およびコーヒー豆等の豆類のような、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料であっても、遊星ボールミル装置を用いて容易に乾式で粗粉砕し、それらの微粉末を製造することができる。
【0032】
この場合、ポットの公転および自転運動の速度が大きくなるにつれて、また、公転および自転運動の継続時間が長くなるにつれて、ポット内の温度が上昇する。この温度上昇は、衝突およびせん断的な力の両方に起因する。
ところで、原料の粉砕時にポット内の温度上昇が激しいと、製造される粉末が熱の作用によって退色し、香りや風味等の品質を低下させてしまうことがある。このような場合には、製造される粉末に品質低下が生じる温度以下の温度で粉砕を行うことが望ましい。このため、粉砕時のポット内の温度上昇が所定の温度以下に抑えられるように、遊星ボールミル装置の回転数および回転継続時間を設定することが望ましい。
【0033】
この回転数および回転継続時間の設定は、例えば、予め試験的な粉砕を繰り返し行い、粉砕終了直後のポット内の温度を赤外線放射温度計等によって測定し、その際に取得したデータに基づいて、ポットおよびボールの寸法、原料の種類および製造される粉末の量等毎に、粉砕時の温度上昇が所定の温度以下となる回転数および回転継続時間の範囲を決定してテーブル化しておき、実際の運転時に、そのテーブルに従ってその都度行うようにすればよい。
【0034】
次に、この実施例の作用効果を確認するため、実証実験を行った。実証実験の内容は次のとおりである。
遊星ボールミル装置のポットとして、図5に示した構造を有する、PEEK製ポットを4個準備した。ポットの寸法は、内径s=110mm、深さd=65mm、周壁面から底壁面および上壁面への移行部分の曲率半径r=20mmとし、容積を500ccとした。
そして、ポット1個当たりにPEEK製ボール(比重約1.3、直径R=36.5mm)を5個封入するようにした。
【0035】
[実験1]
表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料として玄米を準備し、40gの玄米を、4個のポットのそれぞれに5個のボールとともに封入した後、各ポットを、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、180分間にわたり、250rpmおよび500rpmの回転数で互いに逆向きに公転運動および自転運動(公転対自転比=1:2)させた。そして、回転停止後、ポット内の玄米が殆ど粉砕されていないことを確認した。
【0036】
[実験2]
実験1と同様に、40gの玄米を、4個のポットのそれぞれに6個のボールとともに封入した後、各ポットを、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定した。そして、60分間にわたり、200rpmおよび800rpmの回転数で互いに逆向きに公転運動および自転運動(公転対自転比=1:4)させた。回転停止後、ポットから粉砕物を回収し、目視および手触りによって粉砕物の粒度を測定した。
測定の結果、玄米が粉末状に粗粉砕されていることが確認された。
【0037】
[実験3]
40gのコーヒー豆を、実験1と同様に、4個のポットのそれぞれに6個のボールとともに封入した後、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定した。そして、実験2と同様に、60分間にわたり、200rpmおよび800rpmの回転数で互いに逆向きに公転運動および自転運動(公転対自転比=1:4)させた。回転停止後、ポットから粉砕物を回収し、目視および手触りによって粉砕物の粒度を測定した。
測定の結果、コーヒー豆が粉末状に粗粉砕されていることが確認された。
【0038】
図7は、本発明の別の実施例による粉末製造法のフロー図である。図7に示すように、この実施例では、少なくとも1個の合成樹脂製ポットと、ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、ポットの内径がボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備する(図7のS1)。このステップS1は、図1に示した実施例のステップS1と同じである。そして、遊星ボールミル装置は、図1に示した実施例と同一の構成を有している。
【0039】
この実施例では、次に、ポット10に、表面が丸味を帯びた粒状の硬い第1の原料と、表面が角張った粒状、または扁平状、または粉末状の第2の原料とを所定の比率で混合したものをボール15とともに封入する(図7のS2)。この場合、「硬い第1の原料」とは、第1の原料を単独で遊星ボールミル装置を用いて乾式粉砕しようとした場合に、第1の原料が、簡単には変形せず、互いに衝突するボール間並びにボールおよびポット内壁間からすり抜ける程度に、丸味を帯びた表面形状を維持し得る硬さを有していることを意味する。
【0040】
そして、ポット10を、公転運動および自転運動の向きが逆になるように遊星運動させ、それによって、第1および第2の原料を微粉砕して、第1および第2の原料の粉末を製造する(図7のS3)。ここで、「微粉砕」とは、平均粒径が100μm以下の粉末が得られるレベルの粉砕を意味する。
この場合、自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の2〜3倍になるようにポット10を遊星運動させることが好ましい。また、第1および第2の原料が異なる種類のものであれば、それらの混合物としての粉末が得られるが、第2の原料として、第1の原料を粗粉砕したもの、あるいは第1の原料を粉末状にしたものを用いれば、単一種類の原料からなる粉末を製造することができる。
【0041】
この実施例では、粉砕過程の初期段階であって、粉砕が進まないうちは、遊星運動するポット10内においてボール15の運動は無秩序となり、ボール15間の衝突、ボール15とポット10内壁の間の衝突が頻繁に生じる。この間に、第1の原料は、第2の原料と混じり合うことによって、互いに衝突するボール15間並びにボール15およびポット10内壁間に一定時間留まり、それによって、第1の原料は、第2の原料とともに、ボール15同士の衝突力およびボール15とポット10内壁の摩擦と剪断力によって粉砕される。
そして、第1の原料が粉砕され、粉砕物の全体がある程度細かくなると、ボール15の運動を無秩序にする力が弱くなり、ボール15の全体が整然とした運動を開始し、第1および第2の原料は、主として、ボール15の集合体とポット10内壁の相対運動による剪断力によって粉砕され、微粉化される。
【0042】
この場合、ポットの公転および自転運動の速度が大きくなるにつれて、また、公転および自転運動の継続時間が長くなるにつれて、ポット内の温度が上昇する。この温度上昇は、衝突およびせん断的な力の両方に起因する。
ところで、原料の粉砕時にポット内の温度上昇が激しいと、製造される粉末が熱の作用によって退色し、香りや風味等の品質を低下させてしまうことがある。このような場合には、製造される粉末に品質低下が生じる温度以下の温度で粉砕を行うことが望ましい。このため、粉砕時のポット内の温度上昇が所定の温度以下に抑えられるように、遊星ボールミル装置の回転数および回転継続時間を設定することが望ましい。
【0043】
この回転数および回転継続時間の設定は、例えば、予め試験的な粉砕を繰り返し行い、粉砕終了直後のポット内の温度を赤外線放射温度計等によって測定し、その際に取得したデータに基づいて、ポットおよびボールの寸法、原料の種類および製造される粉末の量等毎に、粉砕時の温度上昇が所定の温度以下となる回転数および回転継続時間の範囲を決定してテーブル化しておき、実際の運転時に、そのテーブルに従ってその都度行うようにすればよい。
【0044】
こうして、この実施例によれば、例えば、米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、およびコーヒー豆等の豆類のような、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料であっても、遊星ボールミル装置を用いて容易に乾式で微粉砕し、それらの微粉末を製造することができる。
【0045】
次に、この実施例の作用効果を確認するため、実証実験を行った。実証実験の内容は次のとおりである。
遊星ボールミル装置のポットとして、図5に示した構造を有する、PEEK製ポットを4個準備した。ポットの寸法は、内径s=163mm、深さd=96.6mm、周壁面から底壁面および上壁面への移行部分の曲率半径r=29.6mmとし、容積を2000ccとした。
そして、ポット1個当たりに、PEEK製ボール(比重約1.3、直径R=56.5mm)を6個封入するようにした。
【0046】
[実験1]
表面が丸味を帯びた粒状の硬い第1の原料として米を準備し、160gの米を、4個のポットのそれぞれに6個のボールとともに封入した後、各ポットを、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、180分間にわたり、190rpmおよび380rpmの回転数で互いに逆向きに公転運動および自転運動(公転対自転比=1:2)させた。そして、回転停止後、ポット内の米が殆ど粉砕されていないことを確認した。
【0047】
[実験2]
表面が角張った粒状の第2の原料として、米(第1の原料)を粗粉砕したものを準備し、粉末状の第2の原料として、米(第1の原料)の粉末(以下、「米粉」という。)を準備した。
そして、第1の原料と第2の原料を種々の比率(重量比)で混合して、次の6種類の試料を製造した。
(試料No.1)
米と粗粉砕した米を80:20の比率で混合したもの160g
(試料No.2)
米と粗粉砕した米を50:50の比率で混合したもの160g
(試料No.3)
米と粗粉砕した米を20:80の比率で混合したもの160g
(試料No.4)
米と米粉を80:20の比率で混合したもの160g
(試料No.5)
米と米粉を50:50の比率で混合したもの160g
(試料No.6)
米と米粉を20:80の比率で混合したもの160g
【0048】
そして、上記試料No.1〜No.6をそれぞれ、実験1の場合と同様に、4個のポットのそれぞれに6個のボールとともに封入した後、各ポットを、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、30分、60分、90分、120分、150分および180分の6つの異なる時間にわたり、それぞれ190rpmおよび380rpmの回転数で互いに逆向きに自転および公転運動(公転対自転比=1:2)させた。そして、回転停止直後のポット内のボールの温度を赤外線放射温度計によって測定し、さらに、ポットから粉砕物を回収し、目視および手触りによって粉砕物の粒度を測定した。
【0049】
測定結果を表1に示す。
【表1】

表1中、×印は、米が殆ど粉砕されずに残っている状態であることを表し、△印は、米は全て粉砕されているが、全体的にザラザラした感触の状態であることを表し、○印は、米は全て粉砕されて全体的に滑らかな感触の状態であることを表す。
【0050】
表1から、米に、粗粉砕した米または米粉を、重量比で、粗粉砕した米または米粉が米と同量または米より多くなるように混合することで、遊星ボールミル装置を用いて米を乾式粉砕し、きめの細かい滑らかな米粉を得ることができることがわかる。また、いずれの試料の場合にも、回転継続時間が増大するにつれて、ボールの温度(ポット内の温度)が上昇していくことがわかる。
【0051】
[実験3]
表面が丸味を帯びた粒状の硬い第1の原料として米を準備し、扁平状の第2の原料として、てん茶の茶葉(縦横2〜3mmの大きさ)を準備した。そして、米と茶葉を、比率(重量比)が90:10となるように混合し、250gの試料No.7を製造した。
そして、試料No.7を、実験2の場合と同様に、4個のポットのそれぞれに6個のボールとともに封入した後、ポットを、図2の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、30分、60分、90分、120分、150分および180分の6つの異なる時間にわたり、それぞれ190rpmおよび380rpmの回転数で互いに逆向きに自転および公転運動(公転対自転比=1:2)させた。そして、回転停止後、ポットから粉砕物を回収し、目視および手触りによって粉砕物の粒度を測定した。
【0052】
測定結果を表2に示す。
【表2】

表2中、×印は、米が殆ど粉砕されずに残っている状態であることを表し、△印は、米は全て粉砕されているが、全体的にザラザラした感触の状態であることを表し、○印は、米は全て粉砕されて全体的に滑らかな感触の状態であることを表す。
【0053】
表2から、米にてん茶の茶葉を混合して粉砕を行う場合には、てん茶を混合物の全重量の10%程度混ぜるだけで、かなり短時間で米とてん茶の茶葉を微粉末化し、それらの混合粉末を製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
1 モータ
2 主軸
3 回転テーブル
4 自転軸
5 ポット回転台
6 遊星歯車機構
7 上部支持部材
8 押圧ロッド
9 保護カバー
10 ポット
11 ポット本体
11a 周壁面
11b 底壁面
11c 移行部分
12 蓋体
13 内側空洞部
14 リング状パッキン
15 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも1個のポットと、前記ポット内に封入される複数個のボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、
(2)前記ポットに、表面が丸味を帯びた粒状の硬い原料を前記ボールとともに封入し、
(3)前記ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ前記自転運動の回転速度が前記公転運動の回転速度の3.5〜4.5倍になるように遊星運動させ、それによって、前記原料を粗粉砕して、前記原料の粉末を製造することを特徴とする粉末製造法。
【請求項2】
(1)少なくとも1個のポットと、前記ポット内に封入される複数個のボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、
(2)前記ポットに、表面が丸味を帯びた粒状の硬い第1の原料と、表面が角張った粒状、または扁平状、または粉末状の第2の原料とを所定の比率で混合したものを前記ボールとともに封入し、
(3)前記ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になるように遊星運動させ、それによって、前記第1および第2の原料を微粉砕して、前記第1および第2の原料の粉末を製造することを特徴とする粉末製造法。
【請求項3】
前記第2の原料は、前記第1の原料を粗粉砕したものであることを特徴とする請求項2に記載の粉末製造法。
【請求項4】
前記第2の原料は、前記第1の原料を粉末状にしたものであることを特徴とする請求項2に記載の粉末製造法。
【請求項5】
前記自転運動の回転速度が前記公転運動の回転速度の2〜3倍になるように、前記ポットを遊星運動させることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の粉末製造法。
【請求項6】
前記ポットおよび前記ボールのそれぞれが、合成樹脂製であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の粉末製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189226(P2011−189226A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55344(P2010−55344)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、「地域イノベーション創出研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(391053696)JOHNAN株式会社 (16)
【出願人】(592074175)株式会社福寿園 (11)
【Fターム(参考)】