説明

粉末豆乳の製造方法

【課題】風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳を低コストで効率よく連続的に製造する技術を提供することを課題とした。
【解決するための手段】豆乳に単糖重合数が2以下の糖類と単糖重合数が5以上の糖類を所定の配合で含んでいる糖類を粉末化基材として所定量添加し、噴霧乾燥によって粉末化することよって、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は豆乳を粉末化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳は植物性タンパク質に富んだ栄養価の高い食品である。また、牛乳と異なり乳糖を含まないため、乳糖不耐症者にとっても、消化不良を起こすことなく利用できる。さらに、イソフラボンやレシチンなどを多く含み、健康食品としての利用価値も高い。そのため、飲料のみならず幅広い形態で利用されつつある。乾燥粉末の形態はその一つであり、保存性の向上や容易な携行性、あるいは水分の増加を嫌う食品への豆乳の利用を可能にする。豆乳の主要成分である大豆タンパク質は粉末化処理中に加熱や冷凍、乾燥による変性を受けやすく、一度変性すると水への溶解性が著しく低下する。そのため粉末化された豆乳を水に分散させても不溶性の沈殿物が生じることがしばしあり、商品価値を損なってしまうという問題点がある。そのため粉末を再度水へ溶解した際の溶解性を改良するため、様々な提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、粉末化基材を使用せずに豆乳を噴霧乾燥する際、加熱条件を工夫することにより粉末の水分含度を高め、変質の抑えられた溶解性の高い粉末豆乳を製造する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、大豆抽出物あるいは豆乳に糖類を添加して、真空ドラム乾燥法で乾燥し、溶解性の高い粉末豆乳を製造する方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、豆乳に蛋白質分解酵素を作用させたのち、単糖類または少糖類を添加して乾燥、粉末化することで、溶解性が良好で且つ保存性、輸送性が優れた粉末豆乳を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−95032号公報
【特許文献2】特開2007−143414号公報
【特許文献3】特願平4−336806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の噴霧乾燥時の加熱条件の操作により水分を高める方法では、変質は抑えられるが水分が高いために保存時に粉体が固結してしまう可能性が高くなるという問題点がある。また、未乾燥の粉末が乾燥塔内壁への付着を起こし、洗浄性の悪化を招いたり、付着物が異物として混入する恐れがある。
【0008】
また、前述の大豆抽出物あるいは豆乳に糖類を添加して、真空ドラム乾燥法により乾燥物を得る方法では、溶解性の高い粉末豆乳を得ることができるが、糖類由来の甘味が強く、豆乳本来の風味を損なってしまうという問題がある。さらには乾燥に要するエネルギーコストが高いことや、粉体を得るためには乾燥固形物を粉砕する必要があり、生産効率が低いことから、大量生産には適さないという問題がある。
【0009】
また、前述の蛋白質分解酵素を作用させたのち、単糖類または少糖類を添加して乾燥、粉末化する方法では、溶解性の高い粉末豆乳を得ることができるが、酵素の作用により生成したペプチド類が苦味や雑味の原因となり、豆乳本来の風味の再現性を下げる恐れがあるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明者は、風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳を低コストで効率よく連続的に製造する技術を提供することを本発明の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳を製造する技術を提供することを目的として、鋭意検討を行った結果、豆乳に特定の組成で構成される糖類を粉末化基材として添加し、噴霧乾燥によって粉末化を行うことで、課題を解決できることを知るに至り、さらに実用化に必要な最適条件を求めた結果、本課題を解決するための手段の各態様を以下の通り提供した。
【0012】
まず、豆乳に粉末化基材として糖類を添加し噴霧乾燥をすることによって、風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳を製造する技術を、本課題を解決するための第1の態様とした。
【0013】
さらに前記第1の態様において、豆乳由来の固形分(A)及び、添加する糖類由来の固形分(B)の構成比(A)/(B)が、0.3以上3.0未満であることによって、風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳を製造する技術を、本課題を解決するための手段の第2の態様とした。
【0014】
さらに前記第1又は2の態様において、添加する糖類中に含まれる成分、つまり単糖重合数が2以下の糖類(C)、及び単糖重合数が5以上の糖類(D)の、添加する糖類由来固形分(B)に対する組成質量比(C)/(B)が0.015以上0.600未満、及び、(D)/(B)が0.050以上0.950未満であることを、本課題を解決するための第3の態様とした。
【0015】
さらに又、前記第1乃至3の何れかの態様において製造された粉末豆乳を本課題を解決するための手段の第4の態様とすることによって本課題を解決し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は次の通りである。
【0017】
本発明において、豆乳に糖類を粉末化基材として添加し噴霧乾燥することで、風味を損なうことなく溶解性の優れた粉末豆乳が得られるという効果がもたらされる。
【0018】
本発明において、乾燥方法として噴霧乾燥を利用することで、風味を損なうことなく、低コストで効率的に生産できるという効果がもたらされる。
【0019】
或いは又、粉末中の豆乳由来の固形分(A)及び添加する糖類由来の固形分(B)の構成比(A)/(B)が0.3以上3.0未満であることによって、風味を損なうことなく一層溶解性の優れた粉末豆乳が得られるという効果がもたらされる。
【0020】
或いは又、添加する糖類中に含まれる単糖重合数が2以下の糖類(C)、及び単糖重合数が5以上の糖類(D)の、添加する糖類由来の固形分(B)に対する組成重量比(C)/(B)が0.015以上0.600未満でかつ、(D)/(B)が0.050以上0.950未満であることによって、風味を損なうことなく、沈殿が生じにくく溶解性の優れた粉末豆乳が得られるという効果がもたらされる。
【0021】
或いは又、本発明により沈殿の生じにくく溶解性の優れた粉末豆乳を提供するという効果も達成された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例に過ぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0023】
まず、本発明における豆乳とは、JAS規格(日本農林規格)に準拠して製造される豆乳類であり、豆乳(大豆固形分8%以上)、調整豆乳(大豆固形分6%以上)、豆乳飲料(果汁入り:大豆固形分2%以上、その他:大豆固形分4%以上)等である。豆乳類のうち1つでもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
噴霧乾燥法において噴霧形式や熱風方向は特に限定されるものではない。噴霧形式としては加圧ノズル形式など、熱風方向としては並流式など公知の方法で行えばよい。
【0025】
粉末を構成する豆乳由来の固形分(A)及び添加する糖類由来の固形分(B)の構成重量比(A)/(B)は0.3以上3.0未満であるのがよく、好ましくは0.4以上2.3未満、より好ましくは0.6以上1.5未満とするのがよい。(A)/(B)が3.0以上であると粉末の溶解性を向上する効果が十分に得られずに沈殿を生じやすく、0.3未満であると豆乳本来の風味が極めて弱く商品価値が低下する。
【0026】
添加する糖類中(B)に含まれる単糖重合数が2以下の糖類の構成重量比(C)/(B)は、好ましくは0.015以上0.600未満である。(C)/(B)が0.015よりも小さいと沈殿生成を抑制する効果が弱く溶解性が低くなり、0.600以上であると糖類由来の甘味が強くなり豆乳本来の風味を損なってしまう。また糖類中に含まれる単糖重合数5以上の糖類(D)の構成重量比(D)/(B)は、好ましくは0.050以上0.950未満とするのがよい。(D)/(B)が0.050よりも小さいと糖類中の単糖重合数が4以下である糖類が多くなるため甘味度が高く、豆乳本来の風味を損なってしまい、0.950以上であると沈殿生成を抑制する効果が弱く溶解性が低下する。
【0027】
添加する糖類を構成する各種糖分子は特に限定されるものではなく、単糖としてはグルコース、フルクトース、ガラクトース等が、二糖としてはマルトース、トレハロース、スクロース、ラクトース等を適宜使用することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を持って本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
無調整豆乳(乾燥固形分9.5%)1000gにオリゴ糖(フジオリゴ#450P;日本食品化工製、乾燥固形分95%)を100g添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0030】
[比較例1]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにオリゴ糖(前述のフジオリゴ#450P)を20g添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0031】
[比較例2]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにオリゴ糖(前述のフジオリゴ#450P)を1000g添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0032】
[比較例3]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにオリゴ糖(前述のフジオリゴ#450P)を30gとマルトース(ニューマルトF;ニッシ製、水分7%)72gを添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0033】
[比較例4]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにオリゴ糖(前述のフジオリゴ#450P)を6.3gとデキストリン(マックス1000;松谷化学工業製、水分5%)99gを添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0034】
[比較例5]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにデキストリン(パインデックス#100;松谷化学工業製、水分5%)を100gを添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0035】
[比較例6]
無調整豆乳(実施例に同じ)1000gにオリゴ糖(前述のフジオリゴ#450P)を10gと水あめ(オリゴMT500;昭和産業製、水分28%)118.8gを添加して噴霧乾燥を行い、粉末豆乳を得た。
【0036】
【表1】


【0037】
表1から明らかなとおり、豆乳の乾燥固形分と糖類の固形分が所定の範囲の割合で配合されていること、また、糖類が所定の範囲の単糖重合数2以下の糖類と単糖重合数5以上の糖類で構成されていることによって豆乳の風味を損なうことなく、溶解性の良好な粉末豆乳が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳に粉末化基材として糖類を添加する工程と、噴霧乾燥をする工程を有することを特徴とする粉末豆乳の製造法
【請求項2】
粉末中の下記成分、
(A)豆乳由来の固形分、
(B)添加する糖類由来固形分
の構成比(A)/(B)が0.3以上3.0未満であることを特徴とする請求項1に記載の粉末豆乳の製造法
【請求項3】
添加する糖類中に含まれる次の成分
(C)単糖重合数が2以下の糖類、
(D)単糖重合数が5以上の糖類
の、前記添加する糖類由来固形分(B)に対する組成質量比が下記(1)および(2)、
(1)(C)/(B)=0.015以上0.600未満、
(2)(D)/(B)=0.050以上0.950未満
の両方を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末豆乳の製造法
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法によって製造された粉末豆乳

【公開番号】特開2010−268781(P2010−268781A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140572(P2009−140572)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】