説明

粉末香味料及びその製造方法

【課題】口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる粉末香味料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料10であって、液体原料が香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料であり、平均粒子径が50μm〜1000μmである。その製造方法は、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により粉末香味料を製造する方法であって、上記混合液体原料を、加熱した空気によって流動化させた香味料核粒子11の床の中へ噴霧し、流動層の温度を80℃〜140℃に保持して、平均粒子径が50μm〜1000μmの粉末香味料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる粉末香味料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液状食品を乾燥して粉末化する製造プロセスに用いられる乾燥方法としては噴霧乾燥法がその代表例といえる。噴霧乾燥法は、非常に優れた方法ではあるが、図3(a)に示すように、得られる粉末が極めて微細であるため、流動性に欠けたり、吸湿してしまうことがあり、取り扱い上の不備を有していた。更に、香味の発現性に関しても初発に偏るものであった。
【0003】
これらの物性の改善、或いは香味上の改善を目的とした手法として、噴霧乾燥などによって得られた微粒子を造粒することにより、顆粒化することが行われており、最近では噴霧乾燥装置内に流動層造粒の機能を設けた装置などが開発されている。これらの装置により製造された顆粒状粉末香味料は、造粒機構が「流動層凝集造粒」であり、図3(b)に示すように、ポーラスな凝集構造を持った不定形状であるため、物性は改善されるものの、食品に添加した場合に口中での香味の発現は初発性に偏り、持続性に欠けるという課題を有している。また、図3(c)に示すように、湿式撹拌造粒装置により得られる湿式撹拌造粒香味料もポーラスな凝集構造を持った不定形状であるため、上記と同様に、物性は改善されるものの、食品に添加した場合に口中での香味の発現は初発性に偏り、持続性に欠けるという課題を有している。
【0004】
更に、最終製品として重質で美観のある球形状顆粒を製造する場合は、押し出し造粒機などが用いられているが、図3(d)に示すように、いったん円柱状造粒物を作製し、これを転動式球形化装置などにかけて球形状顆粒に成形し、仕上げ乾燥を行うため、多数の工程を経る必要性があり、また、得られる顆粒の平均粒子径が大きすぎるといった課題を有している。そのため、粉末香味料として食品中に使用することが不適当である場合もあるものである。
【0005】
持続性を有する香味料の製造方法としては、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料が提案されている(特許文献1)。しかしながら、一般的な噴霧乾燥法では生成された粉末粒子はその後短時間で冷却工程へと移行するのに対し、流動層レイヤリング造粒法では乾燥塔内に長時間滞留することになるために熱履歴が大きく、熱によって飛散しやすい香味原料への応用には不向きと考えられていたのが実情であった。なお、熱によって飛散しやすい香味原料としては、メントール、エステル類、酸類などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4188512号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題等についてこれを解消しようとするものであり、口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる粉末香味料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の課題等を解決するため、鋭意研究を行った結果、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料について、液体原料を香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料とし、平均粒子径を50μm〜1000μmとすることによって、粉末香味料の香味の持続性と香味ピークの高さ(香味の強さ)の両立を達成できることを見出し、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、次の(1)〜(5)に存する。 (1)液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料であって、液体原料が香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料であり、平均粒子径が50μm〜1000μmであることを特徴とする粉末香味料。 (2) 硬度が200.0gf/mm2〜2000.0gf/mm2である上記(1)記載の粉末香味料。 (3) 嵩密度が0.40g/cm3〜1.00g/cm3である上記(1)又は(2)記載の粉末香味料。 (4) 液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により粉末香味料を製造する方法であって、液体原料として香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料を用い、加熱した空気によって流動化させた香味料核粒子の床の中へ混合液体原料を噴霧し、流動層の温度を80℃〜140℃に保持して、平均粒子径が50μm〜1000μmの粉末香味料を製造することを特徴とする粉末香味料の製造方法。 (5) 香味料核粒子が、混合液体原料を流動層中に直接噴霧することにより生成される上記(4)記載の粉末香味料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる粉末香味料、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の粉末香味料の部分断面図である。
【図2】本発明の粉末香味料の成長メカニズムを説明する説明図である。
【図3】(a)は、従来の噴霧乾燥法により得られた粉末香味料の説明図であり、(b)は、従来の流動層凝集造粒装置により得られた粉末香味料の説明図であり、(c)は、湿式撹拌造粒装置により得られた粉末香味料の説明図であり、(d)は、従来の押し出し造粒機を用いて得られる円柱状造粒物の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の粉末香味料の部分断面図であり、図2は、本発明の粉末香味料の成長メカニズムを説明する説明図である。本発明における粉末香味料10は、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料であり、図1に示すように、香味料核粒子11を有し、該香味料核粒子11は流動層レイヤリング造粒により香味粉末粒子を有する複数の香味粉末粒子層12、12……が多層コーティングされた単一粒子構造となっている。
【0013】
この粉末香味料10は、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する装置、例えば、図2に示される噴霧乾燥式流動層造粒装置20を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られるものである。この粉末香味料10は、下記による成長メカニズムにより得られる。図2(I)における噴霧乾燥式流動層造粒装置20において、高温空気流の流入する空塔内(スプレーゾーン)21にスプレーノズル(図示せず)により供給された香味料組成物からなる液体原料は、その上昇過程で微粒化され瞬時に乾燥されて微細粒子(数μm〜数十μm)22となって上部のバクフィルタ部23に捕捉される。このバクフィルタ部23ではその内部への定期的な圧縮空気の吹き込み(パルスジェット逆洗方式)によって粒子の払い落としがなされる。微細な粒子群は、その慣性力により下部のスプレーゾーン21に落下し、ここで香味料核粒子となって液体原料にレイヤリングされる。香味料核粒子はレイヤリングされた溶出固形分のみの粒子成長を伴いながら上部のバクフィルタ部23に再捕捉される。
【0014】
すなわち、香味料組成物からなる液体原料は、噴霧乾燥による微細な香味料核粒子(図1における図示符号11)の生成と共に、いったん生成された香味料核粒子のレイヤリングに消費される。これらの現象の継続によって粒子は成長を遂げ、やがてその粒子径が高温空気流の上昇速度に対して相対的に終末速度以下に成長すると、粒子は装置下部で流動層を形成するようになる〔図2(II)〕。次いで、スプレーノズルより高圧で噴霧供給されている香味料組成物からなる液体原料は成長した流動層粒子をレイヤリングする一方、その一部はこれらの粒子層を吹き抜けて微細な香味料核粒子として生成する〔図2(III)〕。このように噴霧乾燥原理と流動層レイヤリング原理が複合された造粒機構に基づいて成長した粉末香味料(顆粒製品)10は、図1に示すような構造となるものである。なお、顆粒製品の排出は、バッチ運転の場合には通気板中央部の排出口24により一括して行われる。また、連続運転では流動層が所定の顆粒ホールド量に到達した時点〔図2(III)〕から、固形分供給速度に等しい排出口よりシール付排出機(ロータリバルブ等)を介して連続・定量的に抜き出される。
【0015】
本発明で用いられる造粒装置としては、流動層レイヤリング造粒法として確立された噴霧乾燥式流動層造粒装置であれば、その構造については特に限定されるものではないが、例えば、アグロマスタAGM−SD型(ホソカワミクロン社製)が挙げられる。この噴霧乾燥式流動層造粒装置では、従来における乾燥(噴霧乾燥又は真空乾燥)、液添(造粒用水分調整)、造粒(流動層又は押出造粒機)、球形化(転動球形化機)、仕上げ乾燥(流動乾燥機)を一つ装置(1プロセス)で実現できるので、効率的、かつ、経済的な造粒乾燥システムで粉末香味料が得られることとなる。
【0016】
本発明において、粉末香味料の平均粒子径は、50μm〜1000μmとすることが好ましく、100μm〜700μmとすることがさらに好ましい。平均粒子径が50μm未満であれば、香味発現力が弱くなる傾向があり、また、1000μmを越えるものは、口中で異物として感じられる可能性が高くなり、好ましくない。なお、本発明における平均粒子径は、JIS規格篩を使用した篩分法に基づいて測定したものをいう。また、粉末香味料の平均粒子径は、流動層の温度、総風量、噴霧溶液の流量、噴霧溶液の内容組成、噴霧空気の流量と圧力などを調整することによって、適宜調整することができる。また、得られた粉末香味料から篩や遠心分離等を用いて所望の平均粒子径を有するものを取り出すこともできる。つまり、噴霧乾燥式流動層造粒装置から得られたものを直接、本発明の粉末香味料としてもよいし、篩や遠心分離等を用いて所望の平均粒子径を有するものを取り出すようにしてもよい。いずれも本発明に含まれる。
【0017】
また、本発明における粉末香味料の硬度は、特に限定されるものではないが、硬度測定器(セイシン企業製、BHT−500)の測定値において、200.0gf/mm2〜2000.0gf/mm2とすることが好適であり、500.0gf/mm2〜1600.0gf/mm2とすることがさらに好適である。硬度が低すぎると、従来の技術により製造された顆粒との効果の差が小さくなる傾向にあり、硬度が大きすぎると、口中で異物として感じられ易くなる。硬度を上記範囲とすることで、従来の技術により製造された顆粒との効果の差が明瞭になると共に、口中で異物として感じられ難くなる。また、粉末香味料の硬度は、流動層の温度、総風量、噴霧溶液の流量、噴霧溶液の内容組成、噴霧空気の流量と圧力などを調整することによって、適宜調整することができる。
【0018】
本発明において上述の流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料の嵩密度は、特に限定されるものではないが、0.40g/cm3〜1.00g/cm3とするのが好適であり、0.45g/cm3〜0.90g/cm3とするのがより好適であり、0.50g/cm3〜0.80g/cm3とするのがさらに好適である。嵩密度が低すぎると、香味の持続性に優れた粉末香味料が得られ難くなると共に従来の技術により製造された顆粒との効果の差が小さくなる傾向にあり、嵩密度が大きすぎると、口中で異物として感じられ易くなる。嵩密度を上記範囲とすることで、口中において香味成分の溶出を遅らせ、長時間口中にあっても強い香味を発現させる、持続性に優れた目的の粉末香味料とできる。また、従来の技術により製造された顆粒との効果の差が明瞭になると共に、口中で異物として感じられ難くなる。なお、この粉末香味料の嵩密度の調整は、主に流動層の温度を調整することによって行うことができる。例えば、後述するように流動層の温度を80℃〜140℃に保持することにより行うことができる。
【0019】
本発明で用いられる液体原料は、香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料であれば特に限定されるものではないが、香料、シクロデキストリンおよび賦形剤の含有量がそれぞれ、1〜25重量部、5〜75重量部、20〜80重量部で合計100重量部とすることが好適であり、3〜20重量部、10〜60重量部、25〜70重量部で合計100重量部とすることがより好適であり、5〜10重量部、20〜60重量部、30〜60重量部で合計100重量部とすることが特に好適である。さらに、シクロデキストリンの含有量は香料の3〜10倍程度であることが好適である。賦形剤の含有量が低すぎると、流動層レイヤリング造粒粒子の平均粒子径が50μm未満となりやすくなる傾向があり、また、賦形剤の含有量が高すぎると、粉末製剤としての香気成分含量が低くなってしまうため、香味面で好ましくないことがある。賦形剤の含有量を上記範囲とすることで、流動層レイヤリング造粒粒子の平均粒子径を50μm以上とし易くすることができ、香気成分含有量も十分に確保することができる。
【0020】
本発明において用いられる賦形剤は、特に限定されるものではないが、例えば糖類や糖アルコールを使用することが好適である。そのような賦形剤としては、例えば、糖類としては、グルコース、フラクトース、ガラクトースなどの単糖類、ショ糖、マルトースなどの二糖類、澱粉を液化し得られる澱粉部分分解物などが例示され、また、糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトールなどが例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明で用いられるシクロデキストリンとは、環状構造を有するシクロデキストリンであれば特に限定されることはなく、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。一般的なα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの他、マルトシルシクロデキストリンなどの分岐鎖を有するシクロデキストリンを例示することができ、本発明においては通常α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが好適に用いられ、β−シクロデキストリンがさらに好適に用いられる。
【0022】
本発明では乳化剤を併用してもなんら問題はなく、用いられる乳化剤は可食性の乳化剤であれば特に限定されることはないが、一般にはアラビアガム、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キラヤサポニンなどが用いられ、さらに好適にはアラビアガム、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムなどが例示され、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明においては、香料部に溶剤を用いることができる。用いられる溶剤は可食性の溶剤であれば特に限定されることはないが、一般には中鎖脂肪酸トリグリセライド、大豆油、ヤシ油、パーム油などが用いられ、好適には中鎖脂肪酸トリグリセライドなどが例示され、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明においては、香味部に使用される香料原料は特に限定されることはなく、例えば、ペパーミント油、スペアミント油、フルーツミックス油、ベリー油、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、ラベンダー油、ジャスミン油、セージ油、ローレル油、カモミール油、バジル油、キヤラウェイ油、カルダモン油、シンナモン油、ショウガ油、コリアンダー油、ゼラニウム油、ヒソップ油、オリス油、ダバナ油、エレミ油、オスマンタス油などの精油類、パプリカオレオレジン、バニラエキストラクトなどの香辛料抽出物類、カルボン、オイゲノール、イソオイゲノール、エステル類、ケイ皮酸及びその誘導体、イオノン、バニリン、エチルバニリン、マルトールなどの合成香料が例示され、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
またさらに、本発明の混合液体原料には、トラガントガム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースなどの天然及び合成糊料類、ゼラチン、カゼインなどの蛋白質類、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸類を必要に応じて適宜添加することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、上述の如く、混合液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により粉末香味料の製造を行うものであり、加熱した空気によって流動化させた香味料核粒子の床の中へ香料、シクロデキストリン及び賦形剤を含有する混合液体原料を噴霧し、流動層の温度を80℃〜140℃に保持することにより目的の粉末香味料を製造することができることとなる。流動層の温度は、90℃〜120℃とすることがより好ましく、95℃〜115℃とすることがさらに好ましい。流動層の温度が80℃未満であると、水分の乾燥が遅く製造時間が長くなり、また、140℃を越えると、香味成分の揮散や熱劣化が顕著になるため、目的の品質の優れた粉末香味料を得ることが難しくなる傾向があり、好ましくない。
【0027】
なお、本発明において香味料核粒子は、混合液体原料を流動層中に噴霧することにより、流動層中に直接生成させることもできるが、予め流動層中に調製しておいて用いることもできる。
【0028】
このように構成される本発明の粉末香味料は、液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られ、かつ、液体原料として香料、シクロデキストリン及び賦形剤を含有する混合液体原料を用いると共に、該粉末香味料の平均粒子径を50μm〜1000μmとすることにより初めて、長時間咀嚼を受けても持続して香味を発現させ、かつ、香味ピークの高い(香味の強い)粉末香味料となる。なお、上記流動層レイヤリング造粒法により得られた粉末香味料であっても、平均粒子径が50μm〜1000μmの範囲から外れるものでは、本発明の効果を達成することができないものとなる。また、従来の噴霧乾燥法、若しくは、噴霧乾燥装置内に流動層造粒の機能を設けた装置(流動層凝集造粒装置)、または、湿式撹拌造粒装置などにより得られた粉末香味料の平均粒子径を50μm〜1000μmとしても、本発明の効果を達成することができないものとなる。
【0029】
本発明の製造方法では、噴霧乾燥原理と流動層レイヤリング原理が複合された造粒機構を備えた噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、加熱した空気によって流動化させた香味料核粒子の床の中へ香料、シクロデキストリン及び賦形剤を含有する混合液体原料を噴霧し、流動層の温度を80℃〜140℃に保持することにより目的の粉末香味料を1プロセスで製造することができることとなる。
【0030】
本発明の粉末香味料は、口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる優れたものであり、食品用に好適に用いることができる。用途としては、例えば、チューインガム、チューイングキャンディー、グミ等の口中で長時間咀嚼をうけるものが挙げられるが、本発明の粉末香味料の用途は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
尚、以下の説明において、「%」表記されているものは、特に断りのない限り、「質量%」を意味する。
【0033】
〔実施例1〕β−シクロデキストリン75g、水(精製水)200g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム13g、エリスリトール2gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにメントールと中鎖脂肪酸トリグリセライドからなるメントール香料(小川香料社製)10gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料とし、アグロマスタAGM−SD(ホソカワミクロン社製)を用いて、送風温度110℃にて流動層レイヤリング造粒を行い、篩過後、メントール粉末顆粒約50gを得た。この粉末顆粒の平均粒子径は、156μm〜416μmで、硬度は1049.6gf/mm2で、嵩密度は0.57g/cm3であった。
【0034】
〔比較例1〕β−シクロデキストリン525g、水(精製水)1400g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム105gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにメントールと中鎖脂肪酸トリグリセライドからなるメントール香料(小川香料社製)70gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、スプレードライヤー(大川原化工機社製)を用いて、送風温度135℃、排風温度90℃にて噴霧乾燥を行い、篩過後、メントール粉末500gを得た。この粉末の平均粒子径は、34μm〜101μmで、硬度は143.2gf/mm2で、嵩密度は0.32g/cm3であった。 尚、比較例1の方法は、従来の噴霧乾燥法を模擬したものである。
【0035】
〔比較例2〕上記比較例1で得たメントール粉末300gを、0.5%に調製したグァーガム水溶液60gにより、フローコーター(ユニグラット社製)を用いて、送風温度70℃にて流動層造粒を行い、メントール粉末顆粒87gを得た。この粉末顆粒の平均粒子径は、126μm〜278μmで、硬度は79.3gf/mm2で、嵩密度は0.28g/cm3であった。尚、比較例2の方法は、噴霧乾燥装置内に流動層造粒の機能を設けた装置(流動層凝集造粒装置)を用いた従来の方法を模擬したものである。
【0036】
〔比較例3〕シクロデキストリンのような環状構造を有しないデキストリンである水素添加デキストリン75g、水(精製水)200g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム13g、エリスリトール2gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにメントールと中鎖脂肪酸トリグリセライドからなるメントール香料(小川香料社製)10gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、アグロマスタAGM−SD(ホソカワミクロン社製)を用いて、送風温度110℃にて流動層レイヤリング造粒を行い、篩過後、メントール粉末顆粒65gを得た。この粉末顆粒の平均粒子径は、444μm〜655μmで、硬度は1148.8gf/mm2で、嵩密度は0.82g/cm3であった。
【0037】
〔試験例1〕実施例及び比較例1〜3について、下記表1にまとめる。それらをそれぞれ2.0%添加したシュガーレスガムを作製し、香味評価を行った。まず、ガムベース、キシリトール、マルチトール、還元パラチノースを混合し、これに本発明の実施例、比較例1〜3を各々2.0%添加し、常法に従って高剪断型ミキサーを用いて約50℃で混和し、冷却後ローラーにより圧展成形し、1個0.85gの粒ガムA〜Dを調製した。この粒ガムA〜Dに関して、専門パネラー12名にて香気香味の官能評価を行った。評価は、メントールの清涼感の持続時間と強さに関して行った。清涼感の持続時間の評価は、噛み始めてから完全に清涼感が無くなったと判断するまでの時間を記録し、清涼感の強さの評価は、噛み終るまでで最も強く感じた時点の清涼感を1〜7のポイントとして記録した。それらの評価結果を下記表2、3に示す。尚、表1におけるメントール残存率は、メントール含量の実測値を処方値で割って、百分率表記したものである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
上記表1〜表3の結果から明らかなように、本発明となる実施例を用いた粒ガムAは、粉末製剤中のメントール含量実測値が少ないにもかかわらず、比較例1、2を用いた粒ガムB、Cに較べて、清涼感の強さ、香味の持続性ともに、きわめて優れていることが判明した。また、比較例3との比較においても、粉末製剤中のメントール含量実測値の差以上の優位性を示していた。
この結果から、本発明の効果は、従来の噴霧乾燥法や流動層凝集造粒装置を用いた方法では得られず、また、環状構造を有するシクロデキストリンを使用しなければ得られないことが確認できた。
【0042】
次に、熱によって飛散しやすい香味原料であるエステル類や酸類を多く含む系でも、メントールと同等の効果があるかどうかも確認した。
【0043】
〔実施例2〕β−シクロデキストリン45g、水(精製水)200g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム48.1g、エリスリトール2gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにエステル類を約25%と酸類を約5%含むフルーツミックス香料(小川香料製)4.9gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、アグロマスタAGM−SD(ホソカワミクロン社製)を用いて、送風温度110℃にて流動層レイヤリング造粒を行い、篩過後、フルーツミックス粉末顆粒約50gを得た。この粉末の平均粒子径は313μm〜646μmであった。
【0044】
〔比較例4〕β−シクロデキストリン90g、水(精製水)400g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム96.2g、エリスリトール4gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにエステル類を約25%と酸類を約5%含むフルーツミックス香料(小川香料製)9.8gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、スプレードライヤー(大川原化工機社製)を用いて、送風温度135℃、排風温度90℃にて噴霧乾燥を行い、篩過後、フルーツミックス粉末約120gを得た。この粉末の平均粒子径は17μm〜100μmであった。
【0045】
〔試験例2〕実施例2及び比較例4について、下記表4にまとめる。それらをそれぞれ2.7%添加したシュガーレスガムを作製し、粒ガムE、Fを調製した。この粒ガムE、Fに関して、専門パネラー9名にて香気香味の官能評価を行った。評価は、フルーツミックスの香味の持続時間と強さを記録した。(評価方法は試験例1と同一)その結果をそれぞれ下記表5、6に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
上記表5、6の結果から明らかなように、本発明となる実施例2を用いた粒ガムEは、従来技術を用いた粒ガムFに較べて、香味の持続性、強さともに、きわめて優れていることが判明した。
【0050】
フルーツミックス香料同様、エステル類や酸類を多く含むグレープ香料、ラクトン類を多く含むピーチ香料(ともに小川香料社製)においても、同様の効果があるかどうか確認した。
【0051】
〔実施例3〕β−シクロデキストリン45g、水(精製水)200g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム47.4g、エリスリトール2gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにエステル類を約10%と酸類を約2%含むグレープ香料(小川香料製)5.6gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、アグロマスタAGM−SD(ホソカワミクロン社製)を用いて、送風温度110℃にて流動層レイヤリング造粒を行い、篩過後、グレープ粉末顆粒約50gを得た。この粉末の平均粒子径は520μm〜632μmであった。
【0052】
〔実施例4〕β−シクロデキストリン45g、水(精製水)200g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム47.7g、エリスリトール2gからなる混合物を80℃まで加熱することにより溶解殺菌を行い、40℃まで冷却した。これにラクトン類を約7.5%と酸類を約6%含むピーチ香料(小川香料製)5.3gを加え、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用い、18000rpmにて乳化を行った。得られた乳化液を混合液体原料として、アグロマスタAGM−SD(ホソカワミクロン社製)を用いて、送風温度110℃にて流動層レイヤリング造粒を行い、篩過後、ピーチ粉末顆粒約50gを得た。この粉末の平均粒子径は368μm〜600μmであった。
【0053】
実施例3、4に関しても、試験例2と同様のガム評価を行い、従来技術を用いたものよりも、香味の持続性、強さともに、きわめて優れていることを確認した。
【0054】
〔試験例3〕実施例製造時の篩掛け工程において、篩を通過した粒子径の小さな粉末サンプルを確保した。それらの平均粒子径は3μm〜12μmであった。試験例1と同様のガムベースに0.2%添加し、粒ガムGを調製した(表7)。粒ガムA、Gに関して、専門パネラー12名にて香気香味の官能評価を行った。評価は、試験例1と同様、清涼感の持続時間と強さを記録した。その結果をそれぞれ下記表8、9に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
上記表8、9の結果から明らかなように、平均粒子径が3μm〜12μmの粉末香味料により作製されたサンプルを用いた粒ガムGは、清涼感の持続性や清涼感の強さにおいて、十分な効果を達成できていないことが判明した。このことから、粉末香味料の平均粒子径が50μm未満になると、本発明の効果を十分に達成できなくなることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、口中で長時間咀嚼を受けても、強い香味を持続して発現させることができる粉末香味料、及びその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により得られる粉末香味料であって、前記液体原料が香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料であり、平均粒子径が50μm〜1000μmであることを特徴とする粉末香味料。
【請求項2】
硬度が200.0gf/mm2〜2000.0gf/mm2である請求項1記載の粉末香味料。
【請求項3】
嵩密度が0.40g/cm3〜1.00g/cm3である請求項1又は2記載の粉末香味料。
【請求項4】
液体原料から連続的に直接、球形状顆粒を製造する噴霧乾燥式流動層造粒装置を用いて、流動層レイヤリング造粒法により粉末香味料を製造する方法であって、前記液体原料として香料、シクロデキストリンおよび賦形剤を含有する混合液体原料を用い、加熱した空気によって流動化させた香味料核粒子の床の中へ前記混合液体原料を噴霧し、流動層の温度を80℃〜140℃に保持して、平均粒子径が50μm〜1000μmの粉末香味料を製造することを特徴とする粉末香味料の製造方法。
【請求項5】
前記香味料核粒子が、前記混合液体原料を流動層中に直接噴霧することにより生成される請求項4記載の粉末香味料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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