説明

粉砕方法、粉砕装置および粉末

【課題】被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕方法、及び粉砕装置を提供する。また、小粒径の粉末を提供する。
【解決手段】被粉砕物に対して衝撃を加えることにより被粉砕物を粉砕する方法であって、被粉砕物の粉砕の進行に伴い、被粉砕物を収納する空間に、液状の添加剤を加えることを特徴とする。液状の添加剤が全て被粉砕物の外表面に付着するものとした場合に、液状の添加剤により形成される層の厚さが5〜500nmとなるように、液状の添加剤を添加する。液状の添加剤は、主としてイソプロピルアルコールで構成されたものである。被粉砕物は、金属材料で構成されるものであり、その構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下で、Snを含む金属材料で構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉砕方法、粉砕装置および粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能材料へのニーズの高まりに応じて、粉末の微粒化、超微粒化等の技術が注目されている。しかしながら、粉末の微粒化については、一般に、粉末の粒径が所定値以下(通常、数μm以下)になると急激に粉砕の効率が低下し、粉砕に極めて高いエネルギ、時間を要する。このような問題を解決する目的で、例えば、粒径の異なる2種のボールを用いた粉砕法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような方法においても、粉砕の効率を十分に高めることができない。
また、微粒化すべき粉末が、融点、軟化点等の比較的低いものである場合には、粉砕時に発生する熱エネルギーにより、粉末が凝集、焼結して塊となってしまい、粉末の粒径を所定値以下とすることが、実質的に不可能である。
【0004】
【特許文献1】特開平09−253517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕方法を提供すること、被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕装置を提供すること、また、小粒径の粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の粉砕方法は、被粉砕物に対して衝撃を加えることにより、前記被粉砕物を粉砕する方法であって、
前記被粉砕物の粉砕の進行に伴い、前記被粉砕物を収納する空間に、液状の添加剤を加えることを特徴とする。
これにより、被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕方法を提供することができる。
【0007】
本発明の粉砕方法では、前記液状の添加剤が全て前記被粉砕物およびその粉砕物の外表面に付着するものとした場合に、前記液状の添加剤により形成される層の平均厚さが5〜500nmとなるように、前記液状の添加剤を添加することが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0008】
本発明の粉砕方法では、前記液状の添加剤は、主としてアルコールで構成されたものであることが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
本発明の粉砕方法では、前記被粉砕物は、金属材料で構成されるものであり、その構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下の材料で構成されたものであることが好ましい。
従来の方法では、構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下の金属材料等のように、比較的融点の低い材料で構成された被粉砕物については、粉砕の進行とともに、粉末の凝集(造粒)が進行するため、微粉砕するのが極めて困難であったが、本発明においては、このような材料で構成された被粉砕物も効率良く、小粒径に粉砕することができる。
【0009】
本発明の粉砕方法では、前記被粉砕物は、Snを含む金属材料で構成されたものであることが好ましい。
Snを含む金属材料で構成された被粉砕物は、焼結温度が特に低く、粉砕の進行とともに、粉末の凝集(焼結)が進行する傾向が特に顕著で、微粉砕するのが極めて困難であったが、本発明においては、このような材料で構成された被粉砕物も効率良く、小粒径に粉砕することができる。
【0010】
本発明の粉砕方法では、前記被粉砕物は、平均粒径が8〜700μmの粉体であることが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
本発明の粉砕方法では、得られる粉末の平均粒径が0.1〜3μmであることが好ましい。
このように、本発明においては、粒径が特に小さい粉末であっても好適に製造することができる。また、このように、粒径が特に小さい粉末(微粉末、微粒子)を得ることにより、得られる粉末を、より好適に高機能材料に適用することができる。
【0011】
本発明の粉砕方法では、水冷により冷却しつつ粉砕を行うことが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
本発明の粉砕方法では、前記被粉砕物の粉砕は、振動のエネルギにより行うことが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
本発明の粉砕方法では、前記被粉砕物の粉砕は、前記空間内に、前記被粉砕物とともに、固体状の粉砕媒体を収納した状態で行うことが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0012】
本発明の粉砕方法では、前記空間の体積をV[m]、前記空間内に投入される前記粉砕媒体の充填体積をV[m]としたとき、0.05≦V/V≦0.90の関係を満足することが好ましい。
これにより、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0013】
本発明の粉砕装置は、本発明の粉砕方法に用いられることを特徴とする。
これにより、被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕装置を提供することができる。
本発明の粉砕装置では、前記被粉砕物の粉砕を行う粉砕室と、前記粉砕室内に前記液状の添加剤を供給する液状添加剤供給手段とを有することが好ましい。
これにより、被粉砕物を効率良く粉砕することができる粉砕装置を提供することができる。
本発明の粉末は、本発明の方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、凝集(造粒)等が防止された小粒径の粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
[粉砕装置]
まず、本発明の粉砕装置について説明する。
図1は、本発明の粉砕装置の構成を示す模式図である。
粉砕装置1は、被粉砕物10の粉砕を行う円筒型の粉砕室2と、粉砕室2を振動させる振動手段3と、粉砕室2内に被粉砕物10を供給するホッパー4と、粉砕室2内に液状の添加剤(液状添加剤)20を供給する液状添加剤供給手段5とを備えている。
【0015】
粉砕室2は、その内面付近が摩耗し難く、かつ、硬質の材料で構成されている。これにより、被粉砕物10の粉砕を効率良く行うことができる。粉砕室2の内面(内壁面)の構成材料としては、例えば、アルミナ等のセラミックス材料、ステンレス鋼等の金属材料等が挙げられる。
粉砕室2は、水冷ジャケット(冷却ジャケット)6で覆われている。これにより、被粉砕物10の粉砕の際に発生する熱を効率良く除去(抜熱)することができ、粉砕室2内の温度が上昇するのを防止・抑制することができる。その結果、被粉砕物10やその粉砕物同士が凝集するのを効果的に防止することができ、目的の粉末(被粉砕物10の粉砕物としての粉末)を、より小粒径のものとして得ることができる。
【0016】
振動手段3は、粉砕室2を振動させることにより、被粉砕物10に対して、粉砕するための衝撃(エネルギ)を与える機能を有する。振動手段3により発生する振動の振動数、振幅は、例えば、図示しない制御手段により制御するものであってもよい。
ホッパー4には、必要時に、粉砕室2内に供給される被粉砕物10が蓄えられている。ホッパー4内の被粉砕物10は、バルブ7の開閉等を調節することにより、所望の量だけ粉砕室2内に供給されるように構成されている。
【0017】
液状添加剤供給手段5は、液状添加剤20を貯留する液状添加剤貯留部51を有しており、必要時に、粉砕室2内に液状添加剤20を供給する機能を有している。液状添加剤貯留部51内の液状添加剤20は、バルブ52の開閉等を調節することにより、所望の量だけ粉砕室2内に供給されるように構成されている。また、液状添加剤供給手段5により供給される液状添加剤20の供給量、タイミングは、例えば、粉体の粒径を検出する検出手段(図示せず)により検出された結果に基づいて制御されるものであってもよい。
【0018】
[粉砕方法]
次に、本発明の粉砕方法の一例について説明する。
本発明の粉砕方法には、上述したような粉砕装置を好適に用いることができる。以下の説明では、上述した粉砕装置1を用いて粉砕物としての粉末を得るものとして説明する。
本発明の粉砕方法の詳細な説明に先立ち、被粉砕物、液状添加剤、ボール(固体状の粉砕媒体)について説明する。
【0019】
<被粉砕物>
被粉砕物10は、いかなるものであってもよいが、通常、粉砕の効率等の観点から、所定の粒径を有する粉末(粉体)であるのが好ましい。
被粉砕物10が粉末である場合、その平均粒径は、8〜700μmであるのが好ましく、9〜100μmであるのがより好ましく、10〜30μmであるのがさらに好ましい。
【0020】
被粉砕物10の構成材料は、いかなるものであってもよいが、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag、Co、In、W、Ti、Rh等の金属元素の1種または2種以上を含む金属材料(単体としての金属材料、合金、金属間化合物等を含む);Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag、Co、In、W、Ti、Rh等の金属元素の1種または2種以上についての酸化物、窒化物、炭化物等のセラミックス材料;黒鉛、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維等の炭素系材料;熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の各種樹脂材料;小麦粉等の各種食品;各種医薬品等が挙げられる。
【0021】
上記のように、被粉砕物10の構成材料は、いかなるものであってもよいが、金属材料で構成されるものであり、その構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下のものであるのが好ましい。従来の方法では、構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下の金属材料等のように、比較的融点の低い材料で構成された被粉砕物については、粉砕の進行とともに、粉末の凝集(造粒)が進行するため、微粉砕するのが極めて困難であったが、本発明においては、このような材料で構成された被粉砕物も効率良く、小粒径に粉砕することができる。すなわち、被粉砕物10が、構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下の金属材料で構成されたものである場合、本発明の効果はより顕著なものとして発揮される。また、被粉砕物10の構成材料(金属材料)の構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点は、500℃以下であるのが好ましいが、400℃以下であるのがより好ましく、50〜350℃であるのがさらに好ましい。これにより、上記のような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0022】
また、被粉砕物10は、上記のような材料の中でも、Snを含む金属材料(例えば、単体としての金属、合金、金属間化合物等)で構成されたものであるのが好ましく、Snを含む合金(例えば、Sn−Co系合金)で構成されたものであるのがより好ましい。このような材料は、焼結温度(凝集温度)が特に低く、粉砕の進行とともに、粉末の凝集(焼結)が進行する傾向が特に顕著で、微粉砕するのが極めて困難であったが、本発明においては、このような材料で構成された被粉砕物も効率良く、小粒径に粉砕することができる。すなわち、被粉砕物10が、Snを含む金属材料(特に、Snを含む合金)で構成されたものである場合、本発明の効果はより顕著なものとして発揮される。また、Snを含む合金の中でも、Sn−Co系合金(特に、CoSn)は、Liイオン2次電池の陰極材等として注目を集める材料であり、本発明を適用することによる効果がより顕著に発揮されるものである。
【0023】
<液状添加剤>
液状添加剤20は、被粉砕物10の粉砕時において、被粉砕物10(および被粉砕物10の粉砕物)の表面付近を覆う機能を有するものである。このように、粉砕時において、被粉砕物10の表面が液状添加剤により覆われることにより、粉砕時に、被粉砕物10およびその粉砕物が過熱するのを効果的に防止することができ、その結果、被粉砕物10またはその粉砕物が凝集(造粒、焼結)するのを効果的に防止することができる。
【0024】
特に、本発明では、後に詳述するように、被粉砕物の粉砕の進行に伴い液状添加剤を付与することにより、被粉砕物およびその粉砕物が過熱するのを確実に防止しつつ、液状添加剤の存在により被粉砕物の粉砕が妨げられるのを十分に防止することができる。その結果、被粉砕物の粉砕の効率を特に優れたものとすることができる。
液状添加剤20の構成材料は、いかなるものであってもよいが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の1価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール類;リグロイン等の石油系有機溶媒;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸(金属塩等を含む)等が挙げられる。この中でも、液状添加剤20の構成材料としては、アルコール類が好ましい。液状添加剤20がこのような材料で構成されたものであると、被粉砕物10の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0025】
<ボール(粉砕媒体)>
本実施形態においては、被粉砕物10、液状添加剤20とともに、固体状の粉砕媒体(メディア)としてのボール9を、粉砕室2内に収納した状態で、被粉砕物10の粉砕を行う。このような固体状の粉砕媒体(ボール9)を用いることにより、被粉砕物10の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0026】
ボール9の構成材料としては、例えば、アルミナ等のセラミックス;ステンレス鋼、高炭素クロム軸受鋼等の金属材料等が挙げられる。
ボール9の大きさは、特に限定されないが、その直径が、1〜30mmであるのが好ましく、5〜20mmであるのが好ましく、8〜15mmであるのがさらに好ましい。上記のような大きさのボール9を用いることにより、被粉砕物10の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。なお、ボール9としては、大きさの異なる、複数種のものを用いてもよい。
以下、上記のような被粉砕物、液状添加剤、ボール(固体状の粉砕媒体)を用いた、本発明の粉砕方法の一例について詳細に説明する。
【0027】
<粉砕方法の詳細な説明>
まず、上記のような粉砕装置1のホッパー4、液状添加剤供給手段5から、それぞれ、被粉砕物10、液状添加剤20を、所定量だけ粉砕室2内に供給する。
この際、粉砕室2内の空間の体積をV[m]、粉砕室2内に投入されるボール(粉砕媒体)9の充填体積をV[m]としたとき、0.05≦V/V≦0.90の関係を満足するのが好ましく、0.20≦V/V≦0.85の関係を満足するのがより好ましく、0.30≦V/V≦0.82の関係を満足するのがさらに好ましい。このような関係を満足することにより、被粉砕物10の粉砕の効率を特に優れたものとすることができ、より小粒径の粉末を得ることができる。
【0028】
また、被粉砕物10の粉砕に先立って粉砕室2に供給される液状添加剤20の供給量は、粉砕室2に供給される被粉砕物10の供給量との間で所定の関係を満足するものであるのが好ましい。
例えば、被粉砕物10の粉砕に先立って粉砕室2に供給される液状添加剤20が全て被粉砕物10の外表面に付着するものとした場合、液状添加剤20により形成される層の厚さが5〜500nmとなるように、液状添加剤20を添加するのが好ましい。上記のように液状添加剤20を供給すると、被粉砕物10の粉砕を好適に開始することができる。より詳しく説明すると、被粉砕物10および被粉砕物10の粉砕物が過熱するのを効果的に防止しつつ、効率良く被粉砕物10を粉砕することができる。上記のような層の厚さは、5〜500nmであるのが好ましいが、10〜450nmであるのがより好ましく、20〜400nmであるのがさらに好ましい。これにより、上記のような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0029】
粉砕室2内に、被粉砕物10と液状添加剤20とが供給された後、振動手段3により、粉砕室2を振動させる。これにより、被粉砕物10、ボール9が粉砕室2内を移動し、被粉砕物10は、ボール9や粉砕室2の内面等に衝突したり、被粉砕物10同士で衝突したりし、その結果、粉砕される。この際、粉砕室2内には、所定量の液状添加剤20が存在している。このため、液状添加剤20が被粉砕物10やその粉砕物の表面を覆い、被粉砕物10が過熱するのを効果的に防止する。また、液状添加剤20が被粉砕物10やその粉砕物の表面を覆うことにより、例えば、被粉砕物10が比較的化学的安定性の低いもの等であっても、粉砕室3内の雰囲気の制御(雰囲気の組成、圧力、温度等)を厳密に制御することなく、好適に粉砕することができる。
【0030】
振動手段3による振動方向は、特に限定されないが、円運動を含む上下方向(鉛直方向)であるのが好ましい。これにより、振動のエネルギを効率良く粉砕に利用することができる。
また、振動手段3による振動の振動数は、特に限定されないが、10〜200Hzであるのが好ましく、20〜150Hzであるのが好ましく、30〜80Hzであるのがさらに好ましい。これにより、被粉砕物10およびその粉砕物の温度が上昇するのをより効果的に防止しつつ、効率良く被粉砕物10を粉砕することができる。
【0031】
また、振動手段3による振動の振幅は、特に限定されないが、1〜50mmであるのが好ましく、2〜15mmであるのが好ましく、3〜8mmであるのがさらに好ましい。これにより、被粉砕物10およびその粉砕物の温度が上昇するのをより効果的に防止しつつ、効率良く被粉砕物10を粉砕することができる。
また、振動手段3による振動(被粉砕物10の粉砕)を行う際、粉砕室2は、水冷ジャケット(冷却ジャケット)6により冷却するのが好ましい。このように、水冷を行うことにより、被粉砕物10の粉砕の際に発生する熱を効率良く除去(抜熱)することができ、粉砕室2内の温度が上昇するのを防止・抑制することができる。その結果、被粉砕物10やその粉砕物同士が凝集するのを効果的に防止することができ、目的の粉末(被粉砕物10の粉砕物としての粉末)を、より小粒径のものとして得ることができる。
【0032】
被粉砕物10の粉砕時における粉砕室2内の雰囲気としては、特に限定されないが、例えば、空気;ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス;窒素;酸素;水素等を用いることができる。また、被粉砕物10の粉砕時における粉砕室2の圧力条件は、特に限定されず、常圧(約1気圧)であっても、減圧(真空)であっても、加圧であってもよい。
上記のような振動を行う(被粉砕物10に衝撃を与える)ことにより、被粉砕物10は徐々に粉砕されていき、その粒径は小さいものとなる。このように、被粉砕物10の大きさが小さくなっていくと、粉砕の効率は急激に低下する。また、被粉砕物10の粉砕の進行に伴い、粉末(被粉砕物10およびその粉砕物)の表面積が増大するため、粉末の接触(摩擦)による発熱が急激に上昇する。
【0033】
そこで、本発明では、前述したように、被粉砕物の粉砕の進行に伴い、液状添加剤を添加する。このように、液状添加剤を被粉砕物の粉砕の進行に伴って添加(追加)することにより、被粉砕物の粉砕を効率良く行うことができるとともに、被粉砕物およびその粉砕物の温度が上昇するのを効果的に防止することができるため、粉砕された被粉砕物(粉砕物)同士が凝集するのを防止することができる。その結果、従来では製造するのが困難であった小粒径の粉末を効率良く製造することができる。また、被粉砕物およびその粉砕物の温度が上昇するのを効果的に防止することができるため、被粉砕物が熱により劣化・変性し易いものであっても、このような劣化・変性をより確実に防止することができる。
【0034】
これに対し、粉砕の途中で液状添加剤を追加しない場合には、上記のような効果は得られない。すなわち、粉砕の途中で液状添加剤を追加しない場合、被粉砕物の粉砕に伴い、粉末(被粉砕物およびその粉砕物)の総表面積が増大するため、被粉砕物の粉砕の進行に伴い、粉末の表面(単位面積あたり)付近に存在する液状添加剤の量が低下する。これにより、液状分散剤を含むことによる効果が粉砕の進行に伴って著しく低下し、被粉砕物を効率良く粉砕すること、被粉砕物を十分に小さく粉砕することが困難となる。また、粉砕の開始時から比較的多量の液状添加剤を用いることにより、粉砕の途中で液状添加剤を追加しないような構成にすることも考えられるが、このような場合には、過剰の液状分散剤の存在により、被粉砕物の粉砕が阻害される。すなわち、被粉砕物の粉砕の効率が著しく低下する。
【0035】
液状添加剤20は、被粉砕物10の粉砕の進行に伴って供給(追加)されるものであれば、その供給方法は限定されず、例えば、粉砕室2内に、間欠的に供給されるものであってもよいし、連続的に供給されるものであってもよい。また、液状添加剤20の供給速度は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。また、例えば、被粉砕物10の粉砕は、被粉砕物10の粉砕の進行度合い(例えば、粉末の粒径)を定期的に検出しつつ行い、当該検出結果に応じて、液状添加剤20の供給量、供給速度等を制御するようにして行ってもよい。
【0036】
液状添加剤20は、被粉砕物10の粉砕の進行に伴って供給(追加)されるものであればよいが、液状添加剤20は、粉砕室2中の被粉砕物10およびその粉砕物との間で所定の関係を満足するように、供給されるのが好ましい。
例えば、粉砕処理工程において、液状添加剤20が全て被粉砕物10およびその粉砕物の外表面に付着するものとした場合に、液状添加剤20により形成される層の厚さが5〜500nmとなるように、液状添加剤20を添加するのが好ましい。上記のように液状添加剤20を供給(補充)すると、被粉砕物10の粉砕を好適に行うことができ、上述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。上記のような層の厚さは、5〜500nmであるのが好ましいが、10〜450nmであるのがより好ましく、20〜400nmであるのがさらに好ましい。これにより、上記のような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0037】
上記のように、液状添加剤20を補充しつつ、被粉砕物10の粉砕を行うことにより、粉末の温度が上昇するのを防止・抑制しつつ、所望の粒径の粉末(特に、小粒径の粉末)を短時間で効率良く得ることができる。
なお、液状添加剤20は、振動手段3による振動を行いつつ追加するものであってもよいし、振動手段3による振動を一旦停止した状態で追加するものであってもよい。
【0038】
上記のような方法における粉砕処理時間(被粉砕物に対して衝撃を加える時間)は、被粉砕物10の粒径、製造すべき粉末の粒径等により異なるが、1〜17時間であるのが好ましく、2〜14時間であるのがより好ましく、3〜10時間であるのがさらに好ましい。これにより、十分に粒径が小さく、粒径のばらつきの小さい粉末を、効率良く得ることができる。
また、上記のような粉砕処理の後、必要に応じて、液状添加剤を除去するような処理を施してもよい。
【0039】
[粉末(微粉末)]
上記のような方法により得られる粉末(微粉末)の平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜3μmであるのが好ましく、0.2〜2μmであるのがより好ましく、0.3〜1μmであるのがさらに好ましい。得られる粉末の平均粒径が前記範囲内の値であると、当該粉末を、より好適に高機能材料(例えば、Liイオン2次電池の陰極材等)に適用することができる。
また、粉末(微粉末)の粒径についての標準偏差は、特に限定されないが、0.2μm以下であるのが好ましく、0.1μm以下であるのがより好ましく、0.05μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、当該粉末を、より好適に高機能材料(例えば、Liイオン2次電池の陰極材等)に適用することができる。
【0040】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、被粉砕物の粉砕を振動による衝撃(エネルギ)で行うものとして説明したが、被粉砕物に加えられる衝撃は、振動によるものでなくてもよい。
また、前述した実施形態では、被粉砕物、液状添加剤とともに、固体状の粉砕媒体を用いるものとして説明したが、このような粉砕媒体は用いなくてもよい。
【実施例】
【0041】
[1]粉末(微粉末)の製造
(実施例1)
まず、図1に示すような粉砕装置を用意した。この粉砕装置において、粉砕室は、その内面側がステンレス鋼で構成されたものとした。
この粉砕装置のホッパーに被粉砕物としての原料粉末を入れ、液状添加剤供給手段の液状添加剤貯留部に液状添加剤を入れた。被粉砕物(原料粉末)としては、平均粒径15μmのSn合金製の粉末を用いた。また、液状添加剤としては、イソプロピルアルコールを用いた。
【0042】
また、粉砕室内には、粉砕媒体としての多数個のボール(高炭素クロム軸受鋼(SUJ)製、直径:11.9mm)を粉砕室内の空間の体積V[m]に対し、充填体積V[m]の比率V/Vが0.80となるように投入した。
その後、粉砕室内に、所定量の被粉砕物および液状添加剤を供給した。
粉砕室内に供給された被粉砕物は、1kgであった。
【0043】
また、液状添加剤の供給量は、以下のような条件を満足するものとした。すなわち、粉砕室に供給された液状添加剤が全て被粉砕物の外表面に付着するものとした場合、液状添加剤により形成される層の厚さが333nmとなるように、液状添加剤を添加した。
その後、粉砕室内を密閉し、振動手段により、粉砕室を円運動を含む上下(鉛直方向)に振動させ、被粉砕物の粉砕を開始した。振動手段による振動の振動数は、54Hz、振動手段による振動の振幅は、5.8mmとした。また、振動手段による振動を行う際には、粉砕室を、水冷ジャケット(冷却ジャケット)により冷却した。水冷ジャケット内を流れる水の温度が10〜15℃、流量が3〜5リットル/分となるようにした。
【0044】
その後、上記のような振動(被粉砕物の粉砕)を行いつつ、粉砕室内の被粉砕物の粒径を測定した。そして、この測定結果に応じて、液状添加剤供給手段から所定量の液状添加剤を粉砕室内に供給した。
粉砕開始からの時間(粉砕時間)と、被粉砕物の単位重量あたりの表面積(比表面積)、液状添加剤の供給量(IPA供給量)、液状添加剤が全て被粉砕物およびその粉砕物の外表面に付着するものとした場合における、液状添加剤により形成される層の厚さ(層厚)を表1にまとめて示した。なお、表1中、IPA供給量の欄には、粉砕室に投入した被粉砕物に対する、各時点での粉砕室に供給した液状添加剤の総量の比率を示した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記のような粉砕処理を合計10時間行った後に、振動手段による振動を停止し、微粉末を得た。
(実施例2〜4)
粉砕処理時間、液状添加剤の供給の条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして粉末(微粉末)を製造した。
【0047】
(比較例1)
まず、液状添加剤供給手段を有さない以外は、前記実施例1で用いた粉砕装置と同様の粉砕装置を用意した。この粉砕装置の粉砕室に、被粉砕物、液状添加剤を、それぞれ、前記実施例1で用いたのと同じ量だけ投入した。
その後、液状添加剤の補充を行うことなく、被粉砕物の粉砕を行った以外は、前記実施例1と同様にして粉末を製造した。
【0048】
(比較例2)
粉砕処理時間を20時間に変更した以外は、前記比較例1と同様にして粉末を製造した。
(比較例3)
被粉砕物の粉砕開始前に、粉砕室に投入する液状添加剤の量を変更した以外は、前記比較例1と同様にして粉末を製造した。
(比較例4)
粉砕処理時間を20時間に変更した以外は、前記比較例3と同様にして粉末を製造した。
(比較例5)
粉砕処理時間、液状添加剤の供給条件を変更した以外は、前記比較例1と同様にして粉末を製造した。
【0049】
上記各実施例および各比較例について、粉砕開始前における粉砕室内への液状添加剤の供給量、液状添加剤の追加量、粉砕処理時間、液状添加剤が全て被粉砕物およびその粉砕物の外表面に付着するものとした場合における、液状添加剤により形成される層の厚さ(層厚)の最小値および最大値等の条件を表2にまとめて示した。なお、表2中、粉砕開始前における粉砕室内への液状添加剤の供給量、液状添加剤の追加量は、いずれも、粉砕室に投入した被粉砕物に対する液状添加剤の比率を示した。
【0050】
【表2】

【0051】
[2]評価
上記各実施例および各比較例で得られた粉末(微粉末)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて粒径の測定を行い、粉末の平均粒径について、以下の5段階の基準に従い評価した。
◎:平均粒径が0.3以上1.0μm以下。
○:平均粒径が0.2以上2.0μm以下(ただし、◎の範囲のものを除く)。
△:平均粒径が0.1以上3.0μm以下(ただし、◎、○の範囲のものを除く)。
×:平均粒径が3.0μmより大きく、5.0μm以下。
××:平均粒径が5.0μmより大きい。
【0052】
また、上記各実施例および各比較例で得られた粉末(微粉末)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行い、粉末の凝集、焼結について、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:粉末の凝集、焼結が全く認められない。
○:粉末の凝集、焼結がほとんど認められない。
△:粉末の凝集、焼結がわずかに認められる。
×:粉末の凝集、焼結がはっきりと認められる。
これらの結果を、表3にまとめて示した。
【0053】
【表3】

【0054】
表3から明らかなように、各実施例(本発明)では、比較的短時間で、小粒径の粉末(微粉末)が得られた。また、各実施例(本発明)では、得られた粉末の粒径のばらつきが特に小さい。これに対し、各比較例では、満足な結果が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の粉砕装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1…粉砕装置 2…粉砕室 3…振動手段 4…ホッパー 5…液状添加剤供給手段 51…液状添加剤貯留部 52…バルブ 6…水冷ジャケット(冷却ジャケット) 7…バルブ 9…ボール 10…被粉砕物 20…液状の添加剤(液状添加剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被粉砕物に対して衝撃を加えることにより、前記被粉砕物を粉砕する方法であって、
前記被粉砕物の粉砕の進行に伴い、前記被粉砕物を収納する空間に、液状の添加剤を加えることを特徴とする粉砕方法。
【請求項2】
前記液状の添加剤が全て前記被粉砕物およびその粉砕物の外表面に付着するものとした場合に、前記液状の添加剤により形成される層の平均厚さが5〜500nmとなるように、前記液状の添加剤を添加する請求項1に記載の粉砕方法。
【請求項3】
前記液状の添加剤は、主としてアルコールで構成されたものである請求項1または2に記載の粉砕方法。
【請求項4】
前記被粉砕物は、金属材料で構成されるものであり、その構成元素のうち、1種または2種以上の元素の融点が500℃以下の材料で構成されたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項5】
前記被粉砕物は、Snを含む金属材料で構成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項6】
前記被粉砕物は、平均粒径が8〜700μmの粉体である請求項1ないし5のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項7】
得られる粉末の平均粒径が0.1〜3μmである請求項1ないし6のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項8】
水冷により冷却しつつ粉砕を行う請求項1ないし7のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項9】
前記被粉砕物の粉砕は、振動のエネルギにより行う請求項1ないし8のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項10】
前記被粉砕物の粉砕は、前記空間内に、前記被粉砕物とともに、固体状の粉砕媒体を収納した状態で行う請求項1ないし9のいずれかに記載の粉砕方法。
【請求項11】
前記空間の体積をV[m]、前記空間内に投入される前記粉砕媒体の充填体積をV[m]としたとき、0.05≦V/V≦0.90の関係を満足する請求項10に記載の粉砕方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の粉砕方法に用いられることを特徴とする粉砕装置。
【請求項13】
前記被粉砕物の粉砕を行う粉砕室と、前記粉砕室内に前記液状の添加剤を供給する液状添加剤供給手段とを有する請求項12に記載の粉砕装置。
【請求項14】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする粉末。

【図1】
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【公開番号】特開2007−7638(P2007−7638A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119081(P2006−119081)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】