説明

粒子の製造方法及び粒子製造装置

【課題】粒子形成用の組成液の吐出液滴に対して、液滴の吐出周波数を高めた場合であっても、十分な液滴の合一防止を行うことを目的とする。
【解決手段】帯電された液滴を吐出する液滴吐出工程(S101)と、液滴に、液滴の進行方向と直交する向きの、時間変化する電界を作用させて、液滴を分散させる液滴分散工程(S102)と、液滴を固化させて粒子を形成する粒子形成工程(S103)と、粒子を捕集する粒子捕集工程(S104)とを有する粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を固化させて粒子を形成する粒子製造方法及び粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに代表される電子写真、静電印刷等に使用されるトナーの形成において、広く用いられるトナーの製造工程は、溶媒中に樹脂及び着色剤等が含有しているトナー組成液からノズルを通し液滴を形成して、さらに固化させる工程を有するものである。印刷された画面の品質を左右するトナーは、均一な大きさを要することから、ノズルから吐出された液滴は、粒子を形成していく過程において、均一な大きさを保つことが必要である。また、トナーの製造に限らず、液滴の固化により粒子を形成する場合には、大きさの均一な粒子を実現する技術が必要になる。
【0003】
図1は、従来の、トナーの製造装置100を例示する図である。トナーの製造装置100は、トナー組成液収容部101と、液滴吐出ユニット102と、粒子形成部103と、トナー捕集部104と、トナー貯留部105とを有している。
【0004】
トナー組成液収容部101においては、樹脂及び着色剤等を含有するトナー組成液106が収容されており、ポンプ107等の使用により、トナー組成液106が液滴吐出ユニット102へ供給される。
【0005】
液滴吐出ユニット102の有するノズルプレート109から液滴110が吐出され、粒子形成部103において、吐出された液滴110が、液滴の進行方向(鉛直方向)に流れる乾燥した気体111によって搬送され、搬送中に液滴110の溶媒等が除去されて、トナー粒子Pが形成される。トナー粒子Pは、トナー捕集部104で捕集され、トナー貯留部105に貯留される。
【0006】
図2は、従来の液滴吐出ユニット102を例示する図である。図2の(a)は斜視図であり、(b)は、断面の模式図である。図の(a)において、液滴吐出ユニット102は、振動発生部21、ハウジング22及びノズル部23を有している。
【0007】
インクジェットプリンタ等における印刷、または溶融材料の粒状結晶の作成等において、微細液滴を吐出し、気体中に落下させて、落下時に溶媒等除去、または凝固によって固化した粒子を形成するときに、液滴同士の合一、すなわち、液滴同士が、衝突しまたは付着して1個の液滴に合わさる状態が生じることがある。この液滴同士の合一を防止するために、いくつかの対応がなされている。
【0008】
例えば、特許文献1には、落下しつつある液滴に対して、横方向からガスを吹付けて、液滴同士の衝突による合一を防止する技術が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、溶融金属の液滴をノズルから吐出させる際に、ノズルを振動または運動等させることにより、液滴の合一を防止する技術が記載されている。
【0010】
また、特許文献3においては、坩堝において溶融した液滴から粒状結晶を製造する際に、ノズルの3次元運動により、落下中の液滴の合一を防止する技術が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3は、液滴の合一の状態を例示する図である。ノズル31から吐出された液滴32の、乾燥した気体111の流れの方向33に沿った、所定の時刻ごとの位置を、1つの図に重ねて模式的に表わしている。相前後して吐出された液滴の流れ方向の間隔は狭く、また気体の抵抗によってその落下速度が減少する等して、液滴同士の合一が生じ、不均一な粒径の液滴または粒子が生じた状態である。
【0012】
高い生産性を有する粒子製造等のため、液滴の吐出の周波数を数10KHzの高いレベルで使用する場合には、相前後して吐出される液滴の間隔が特に狭いので、従来技術のガス吹付けの方法によると、液滴同士の合一が多発し、合一防止を十分に行うことは困難である。また、他の従来技術の溶融金属の液滴吐出のような数10Hzの吐出周波数のレベルでは、高生産への対応が難しい。さらに、液滴吐出ノズルの3次元の機械的運動を使用しても、機械的制約により、ノズルの移動量は、例えばミクロン(μm)のオーダの極端に小さい値となって、数10μmの液滴径を要する粒子の形成において、液滴の合一を十分に防止することは困難である。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、粒子形成用の組成液の吐出液滴に対して、液滴の吐出周波数を高めた場合であっても、十分な液滴の合一防止を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、帯電された液滴を吐出する液滴吐出工程と、前記液滴に、該液滴の進行方向と直交する向きの、時間変化する電界を作用させて、前記液滴を分散させる液滴分散工程と、前記液滴を固化させて粒子を形成する粒子形成工程と、前記粒子を捕集する粒子捕集工程とを有する粒子の製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粒子形成用の組成液の吐出液滴に対して、液滴の吐出周波数を高めた場合であっても、十分な液滴の合一防止を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の、トナーの製造装置100を例示する図である。
【図2】従来の、液滴吐出ユニットを例示する図である。
【図3】液滴の合一の状態を例示する図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るトナー製造方法の工程を例示する図である。
【図5】本発明に係るトナー製造装置50を例示する図である。
【図6】液滴が電界を通過する際に受けるクーロン力、初速度及び位置等について例示する図である。
【図7】本発明に係る偏向電極に印加する電圧の波形を例示する図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る2つの偏向電極対と1つの吐出ノズルとの組合せを例示する図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る電界E1,E2及び電界の強度の値を例示する図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る連続して吐出された3個の液滴の挙動を模式的に示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る、ノズルNから連続して吐出された液滴群の、粒子形成工程における状態を模式的に例示する図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る、他の電界E1,E2及び電界の強度を例示する図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る、他の電界の強度を例示する図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る電界E1,E2及び電界の強度の値を例示する図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態の変形例に係る、電界E1,E2及び電界の強度を例示する図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態に係る、吐出液滴を帯電させるための帯電化機構を有する液滴吐出ユニットを例示する図である。
【図17】本発明の第5の実施の形態に係るトナー製造装置170を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施の形態の説明を行う。
〈第1の実施の形態〉
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るトナー製造方法の工程を例示する図であり、
工程は、液滴吐出工程(S101)、液滴分散工程(S102)、粒子形成工程(S103)、粒子捕集工程(S104)を有している。
【0018】
図5に示した本発明に係るトナー製造装置50を参照して、上記工程を説明する。トナー製造装置50は、液滴吐出ユニット51、偏向電極52、粒子形成部53、粒子捕集部54等を有している。
(S101:液滴吐出工程)
トナー組成液55は、液滴吐出ユニット51における振動発生部56の振動の駆動によって、ノズルプレート57に配列されたノズル58から液滴Dとなって吐出される。トナー組成液の液滴Dは、帯電し易い性質を有しているので、ノズルの通過時、または雰囲気の気体との摩擦等の原因によって、容易に帯電する。
(S102:液滴分散工程)
吐出された帯電した液滴Dは、ノズルプレート57の直後に設けられた偏向電極52の電界Eによってクーロン力を受け、後述するように、吐出された相前後する液滴同士の合一防止のため、その進行方向が分散させられ、落下後の位置が分散する。
(S103:粒子形成工程)
液滴Dは、粒子形成部53において、進行方向(鉛直方向)と同方向に流れる乾燥した気体の流れ59によって搬送されている時間内に、溶媒等が除去されて、トナー粒子Pが形成される。粒子形成部53において、上述の液滴分散工程による液滴分散の効果によって、相前後する液滴同士または固化した後のトナー粒子同士の合一が防止され、分散されている。
(S104:粒子捕集工程)
形成されたトナー粒子Pは、粒子捕集部54において捕集される。そして、吸引ポンプ60の作動により、下流の粒子貯留部61に移送される。
(液滴の分散の方法)
以下、粒子形成工程における、相前後するトナー組成液の液滴同士の合一防止のための分散の方法について説明する。
【0019】
トナー組成液の帯電した液滴に、偏向電極により生じる電界を通過させ、電界からのクーロン力を作用させることによって、液滴に、偏向電極の通過の時刻における電界の強度の方向に初速度を与える。粒子形成部における液滴の進行の軌跡は、電界の向きに得た初速度と搬送される気体の流速に応じて定まる。従って、電界を形成する偏向電極に印加する電圧を、時間tに対して変化させ、初速度を変化させて、液滴の分散を図ることができる。
【0020】
図6は、液滴が、ノズルによる吐出直後の液滴の進行方向Gと直交する向きの電界E(t)の場を通過する際に受けるクーロン力、生じる初速度及び位置変化等について例示する図である。電界E(t)は、偏向電極52によって発生し、時間tに伴い変化する。
【0021】
電界E(t)について、偏向電極への印加電圧を、例えば正弦波A・sin(2πp×t−φ)とすると、帯電した電荷qの液滴Dは、電界の方向に、
F=q×A・sin(2πp×t−φ)・・・(式1).
のクーロン力を受ける。
【0022】
図6の(a)は、ノズルN1から吐出された液滴D1の、時刻t1において受けるクーロン力F1及び初速度v1を示している。図6の(b)は、液滴D1の吐出直後に吐出された液滴D2の、時刻t2において受けるクーロン力F2及び初速度v2を示している。
【0023】
液滴D1及びD2の初速度v1及びv2の差は、それぞれの液滴が電界を通過する時刻t1及びt2において受けるクーロン力(式1)に応じて生じるので、(式1)の値が異なるときには、液滴D1とD2とは電界の方向の位置が重なることは少なく、進行方向(概ね鉛直方向で、上述の電界方向と直交する方向)において衝突したり、追いついたりする合一の可能性は低い。
【0024】
図6の(c)は、M個の連続した液滴の、時刻tMにおける粒子形成部における位置を例示した図である。則ち、時刻t1,t2,・・・,tMに、液滴D1,D2,・・・,DMが偏向電極52を通過した場合の、時刻tMにおける粒子形成部における各液滴(または固化した粒子)の位置を例示した図である。各液滴は、電界の強度に比例したクーロン力を受け、電界の方向に初速度を得るので、電界の向きと液滴の進行方向とを含む仮想の面内の液滴を観察すると、各液滴は概ね正弦波を示す位置にある。
【0025】
図6の(d)は、進行方向と直交する面(図6の(c)における矢視X−Xの切断面)において各液滴(または固化した粒子)の軌跡が集合したものを概観した模式図である。液滴を吐出するノズルは平面に格子状に配置されているので、同時刻に格子点の位置に吐出された液滴の全体が、電界から受けるクーロン力によって、電界の方向に移動して、ある一定時間における状態を重ね合わせると、ノズルプレートを構成する幅方向にk列の列をなす各ノズルに対応する線J1,J2,・・・,Jkの位置を中心に、図のような線幅をもった、分散された液滴または粒子の軌跡が観察できる。
【0026】
図7は、偏向電極52に印加する電圧として、(a)正弦波(振幅A、周波数p、初期位相φ)、(b)三角波(振幅a、周期T)及び(c)台形波(振幅b、周期S)を例示した図である。信号の取り扱い上、周期関数の形状が望ましい。また、印加する電圧が三角波の場合には、三角波の頂点においても電界の強度は変化するが、正弦波の場合には、波の頂点(位相がπ/2の奇数倍の部分)において電界の強度の変化が極小となるので、三角波の方が、相当する箇所においては、液滴の合一防止効果が高い場合もある。ただし、次に述べるように、吐出周波数と所定の関係を有する印加電圧の周波数の制御によって、電界の強度の変化が極小の場合であっても、液滴の合一防止を適切に行うことができる。
(液滴吐出の周波数と印加電圧の周波数)
偏向電極への印加電圧の周波数と液滴吐出の周波数とが、高調波またはサブハーモニクスの関係を有する場合には、液滴同士の合一の可能性が高まる。その理由は、印加電圧及び液滴吐出の2つの周波数の波形が同期することにより、所定の時間間隔で吐出された液滴同士が、その落下の位置(進行方向に直交する仮想平面における位置)において重なることが増えるからである。
【0027】
ここに、高調波(harmonics)とは、基本波の整数倍の周波数成分を有する信号を、また、サブハーモニクス(sub harmonics)とは、基本波の整数分の1の周波数成分を有する信号を指している。
【0028】
そこで、均一なトナーの製造のため、吐出周波数と、偏向電極への印加電圧の周波数との関係を、高調波、サブハーモニクスのいずれにも異なるように、すなわち、整数倍でも整数分の1でもない周波数を設定することによって、液滴またはトナーの合一を防止することができる。また、トナーの生産性向上のための高い周波数の液滴吐出の場合であっても、偏向電極への印加電圧を制御することによって、容易に液滴等の合一防止を行うことができる。
(第1の実施の形態の効果)
偏向電極の印加電圧を変化させて、液滴の粒子形成工程における経路を分散させることにより、液滴同士の合一を防止することができ、高品質のトナーを供給することができる。
【0029】
また、電界の変化を利用した液滴の分散であるため、ノズル部分に機械的振動を起こさせることもなく、高い周波数を要する液滴の分散も、印加電圧の変化の制御により容易に実施することができる。また、偏向電極の形成する電界の強度が一様であることによって、複数のノズルから同時に吐出される液滴の挙動、軌跡も同方向でかつ均一であるため、液滴同士の合一を防止することができる。
【0030】
さらに、偏向電極を、ノズルを取り囲むように設けることによって、乾燥した気体がノズル付近に直接当たることがなく、従って、ノズルの液滴吐出部分が乾燥したり、または固体が付着したりすることによる液滴吐出状態の不良を発生させることなく、良好な吐出状態を長時間に亘って持続でき、高い生産性を実現することができる。
【0031】
さらに、また、印加電圧の波形を正弦波とする場合には、安価な波形発生器を用いることができ、生産コストの低減を図ることができる。
〈第2の実施の形態〉
本発明の第2の実施の形態に係る発明は、2つの直交する電界を形成する偏向電極を設けて、液滴に作用するクーロン力を2次元平面において制御し、液滴の合一を防止して、一層高品質のトナーを得るための、トナーの製造方法である。
【0032】
図8は、2つの偏向電極対81−81及び82−82と1つの吐出ノズルN2との組合せを例示した図である。偏向電極対81−81は電界E1を、偏向電極対82−82は電界E2を形成し、電界のE1とE2の向きは直交し、また、各々の向きは液滴の進行方向Gと直交している。ただし、液滴の挙動、または設備の条件等に応じて、それぞれの向きを適度に調整することができる。
(同一周波数で、位相差が90度(π/2)の電界の場合)
偏向電極対81−81及び他の偏向電極対82−82に印加される、時間tにおける電圧V,Vが、それぞれ、正弦波;
=B・sin(2πp×t−φ)・・・(式2),
=C・sin(2πp×t−φ)・・・(式3).
を有するものとする(B,Cは振幅、p,pは周波数、φ,φは初期位相)。
【0033】
ここで、(式2)及び(式3)において、振幅B,Cを等しくBとし、周波数p及びpを等しくpとし、また、φ=0,φ=π/2と設定すると、V,Vは、
=B・sin(2πp×t),
=−B・cos(2πp×t).
と表わされるので、電界E1,E2を合成した電界の強度は、円で表わされる。
【0034】
図9は、振幅B、周波数p及び初期位相の差が90度(π/2)の場合の、電界E1,E2及び電界の強度の合成を例示した図である。図9の(a)は、電界E1の強度の正弦波を、(b)は、電界E2の強度の正弦波(余弦波)を、また(c)は、E1−E2平面における合成した電界の強度を示している。図9の(c)においては、時間tに対する電界の強度を示す点をE(t)、時刻t=1/4pにおける電界の強度を示す点をE(1/4p)等と表わしている。図9においては、同一周波数、同一振幅B、かつ初期位相の差がπ/2であるので、合成した電界の強度は、常にBで一定であり、電界の向きは角速度2πpの値で反時計回りに回転する。
【0035】
例えば、時刻t=3/8pにおける電界の強度は、矢印OE(3/8p)の長さ、すなわちBであり、向きは、OE1,OE2の中間の角度(OE1から反時計回りに45度)の向きである。従って、電荷qを有する液滴は、大きさq×Bのクーロン力を矢印OE(3/8p)の向きに受け、初速度v0を得て、乾燥した気体に運搬され、落下していく。
(液滴の挙動)
図10は、時刻t1,t2,t3においてノズルN1から連続して吐出された3個の液滴R1,R2,R3の挙動を模式的に示した図である。
【0036】
時刻t1に吐出された液滴R1は、直交する2つの電界の合成されたH1の向きに初速度v10を得て、液滴R3が吐出される時刻t3においては、電界方向(水平方向)にほぼv10×(t3−t1)の距離分を移動しているが、鉛直方向の気体の流れ59によって、図のR13の位置に飛来する。液滴R1は、電界の向きH1と気体の流れの流れ59との向きとがなす平面PL1内をほぼ放物線を描きつつ進行する。液滴は気体から抵抗力を受けるので、やがて、気体の流れ59の方向に進行することになる。
【0037】
時刻t2に吐出された液滴R2は、電界の向きH2に初速度v20を得て、時刻t3においては、電界方向にほぼ距離v20×(t3−t2)を移動し、また、気体の流れによって、図のR23の位置に飛来する。このとき、液滴R2は、電界の向きH2と気体の流れ59の向きとがなす平面PL2内をほぼ放物線を描き、やがて、気体の流れの方向に進行する。平面PL1とPL2とがなす角θ12は、時刻t1,t2における電界の向きのなす角2πp×(t2−t1)である。
【0038】
時刻t3に吐出された液滴R3も、同様にして、電界の向きH3に初速度v30を得て、電界の向きH3と気体の流れ59の向きとがなす平面PL3内をほぼ放物線を描きつつ落下する。
平面PL2とPL3とがなす角θ23は、時刻t2,t3における電界の向きのなす角2πp×(t3−t2)である。
(液滴群の軌跡)
図11は、ノズルNから連続して吐出された液滴群の、ある時刻の、粒子形成工程における状態を模式的に例示した図である。図11の(a)は、斜視図を、(b)は、ノズルから吐出された液滴の向きGの向きに、液滴群を見た図である。図11の液滴R10,R11,R12,・・・は、連続して吐出された液滴であり、上記の図9の(c)の電界の強度により初速度を得て、それぞれ矢印の向きに落下進行している。落下進行の矢印の向きは、図10におけるそれぞれの放物線の接線の向きに相当している。なお、各液滴の位置関係を表わすため、図11の(a)に、補助線として、破線の螺旋等を示した。また、ノズルNから吐出された液滴の向きGから、液滴群(R10,R11,R12,・・・)を観察したとすると、液滴群は、概ね円を形成し、時間とともに、その円が拡大していく形態となる。図11の(a)の、電界通過直後の領域11Aにおいては、その円が拡大していくが、液滴が気体から受ける抵抗力により、液滴は次第に気体の流れ59の向きに進行することとなり、領域11Bにおいては、液滴群は、気体の流れ59の向きに進行するので、液滴全体の軌跡は、同一径の円の形状が保たれる。
【0039】
図11の(b)は、領域11Aにおける電界通過直後の各液滴の位置を示した円C、拡大していく円の状態及び領域11Bにおける同一径の円Cについて示している。
【0040】
また、上記の液滴の挙動は、1個のノズルNの吐出による液滴の場合であるが、液滴吐出用ノズルは、平面に格子状に配置されているので、吐出時には、ノズルの個数と同数の液滴が同時に吐出されるが、これら複数の液滴は、互いに合一化することは極めて少なく、合一化を防止することができる。
【0041】
この合一化を防止できる理由は、形成される電界が、偏向電極間においてほぼ一様であり、複数のノズルから同一時刻に複数の液滴が吐出されても、各々の液滴は一様の電界内において、同一の初速度を得て同一の向きへ移動し、互いに所定の間隔を保ったまま、同様の挙動、軌跡を示すからである。従って、液滴群が全体として分散することになり、合一が生じることもなく、粒子形成工程を経て、均一の粒径のトナーが形成される。
(周波数が異なる電界の場合)
図12は、片方の印加電圧の周波数が他の2倍、初期位相の差がπ/3の2つの周波数を有する2つの電界についての、電界の強度を例示する図である。
【0042】
印加電圧V,Vは、
=C1・sin(2πp×t),
=C1・sin(4πp×t―π/3).
である。
【0043】
図12の(a)は、電界E1を、(b)は、電界E2を、(c)は、E1−E2平面における合成した電界の強度を示している。
【0044】
図12の(c)に示す電界の強度は、リサージュ図形となっている。前出の図9における同一周波数かつ初期位相差π/2の場合と異なり、電界の強度、向きが時刻毎に大きく変化している。電界の強度は、C2のほぼ1.4倍以下の値の範囲で変化する。電界のE1−E2平面のリサージュ図形において、E1の軸から反時計回りに、概ねπ/4から3π/4の角度の向きには、電界が生じない。従って、トナーの粒子形成工程において水平方向への運動の規制を必要とする場合等において、図12の電界を効果的に使用することができる。
【0045】
なお、粒子形成工程における液滴群の全体を、図11における説明と同様に、液滴の向きGから観察したとすると、概ね、図12の(c)のリサージュ図形が拡大した図形として観察される。
【0046】
図13は、片方の印加電圧の周波数が他の3倍、初期位相の差がπ/3の場合の2つの電界による、電界の強度を例示する図である。
【0047】
印加電圧V,Vは、
=C2・sin(2πp×t),
=C2・sin(6πp×t―π/3).
である。
【0048】
図13のリサージュ図形は、図12の(c)の電界の強度の図形と比較して、電界の強度、向きが、ともにより大きく変化している。電界の強度は、概ね、C2の(0.3〜1.4)倍の範囲で変化する。粒子形成工程において、相前後する液滴またはトナーの位置関係にさらに変化を要する場合等に、図13の電界を効果的に使用することができる。
【0049】
この図13の場合においても、図11におけるのと同様に、粒子形成工程における液滴群の全体を液滴の向きGから観察したとすると、概ね、図13のリサージュ図形が拡大した図形として観察される。
【0050】
その他、偏向電極に印加する電圧の波形について、1つの正弦関数に限らず、複数の正弦関数等を適宜選んで重ね合わせ、所望の関数の形状を容易に発生させることができる。このように、液滴等の材料、その他の設計、製造条件に応じて、種々の関数を発生させて、電圧の波形として印加することが可能である。
(第2の実施の形態の効果)
2対の偏向電極により形成される電界の2次元平面における強度変化を、高い周波数においても、広い自由度をもって設定し、液滴または粒子の合一防止の制御を行うことによって、粒子形成工程における粒子の落下後の分散ができ、形成する粒子の均一化、品質の向上を図ることができる。
〈第3の実施の形態〉
図14は、本発明の第3の実施の形態に係る、三角波の印加電圧による電界E1,E2及び電界の強度の値を例示する図である。
【0051】
図14の(a)及び(b)は、電界E1及びE2の強度を示している。電界E1及びE2の周期はT、振幅はc、初期位相は、電界E2において1/4Tである。図14の(c)は、E1−E2平面における合成した電界の強度を示している。合成した電界の強度の図形は、1辺がcの約1.4倍の長さの正方形である。正方形の各辺は、電界E1,E2の方向と45度の角度をなしている。また、電界の強度は、概ね、cの(0.7〜1)倍の範囲で変化する。
(液滴群の軌跡)
図11において説明した場合と同様に、粒子形成工程における液滴群の全体を、ノズルNから吐出された液滴の向きGから観察したとすると、液滴群は、電界の強度概ね正方形を形成し、時間とともに、その形状が拡大する。ただし、気体の流れが、液滴の初速度が無視できる程の大きさとなる領域において、同一の大きさの正方形となる。また、正方形の各辺は、各電界の方向と45度をなしている。
(第3の実施の形態の効果)
各ノズルから連続して吐出された液滴は、液滴全体が、ノズルからの吐出の方向から見て、正方形の形状をなすように分散されるので、液滴の合一を生じることなく、均一な固化した粒子を得ることができる。
〈第3の実施の形態の変形例〉
図15は、本発明の第3の実施の形態の変形例に係る、台形波の印加電圧による電界E1,E2及び電界の強度の値を例示する図である。
【0052】
図15の(a)及び(b)は、電界E1及びE2の強度を示している。電界E1及びE2の周期はS、振幅はd、初期位相は、電界E2において1/4Sである。図15の(c)は、E1−E2平面における合成した電界の強度を示している。合成した電界の強度の図形は、1辺が2dの長さの正方形である。電界の強度は、概ね、cの(1〜1.4)倍の範囲で変化する。なお、第3の実施の形態の場合の正方形を、45度回転させた位置関係にある。
(第3の実施の形態の変形例の効果)
第3の実施の形態の効果と同様に、各ノズルから連続して吐出された液滴は、液滴全体が、ノズルからの吐出の方向から見て、正方形の形状をなすように分散される。また、液滴の合一を生じることなく、均一な固化した粒子を得ることができる。
〈第4の実施の形態〉
本発明の第4の実施の形態は、吐出液滴の帯電のための帯電化機構を有する液滴吐出ユニットである。
【0053】
トナーの電気的性質としては、トナー自体が付着するOPC(Organic Photo Conductors:感光層を有機光導電材料と樹脂で構成した有機感光体)が、帯電する静電気を利用するものであるために、強い帯電性を有している。従って、通常、トナー組成液の液滴が吐出された段階で、ノズル孔を通過する時ノズル自体との摩擦によって、または雰囲気の気体との摩擦等によって、液滴は帯電した状態となっている。相前後して連続して吐出され、帯電した液滴は、偏向電極の形成する電界からクーロン力を受けて、電界の強度の時間変化に伴い、各々が異なる向きに初速度を有して進行していくので、液滴や固化したトナーの合一を発生させることなく、分散を有効に行うことができる。
【0054】
また、液滴への自然帯電のみに頼ることなく、液滴を強制的に帯電させ、或いはその帯電量を制御することによって、電界から液滴に与えられるクーロン力を強めることができ、粒子形成の際に、液滴、トナーを制御することができて、均一なトナー形成を行うことができる。
【0055】
図16は、本発明の第4の実施の形態に係る、トナー組成液の吐出液滴を帯電させるための帯電化機構を有する液滴吐出ユニット161を例示する図である。
【0056】
印加電圧を直流とし、ノズルプレート57、ノズルプレート57を保持するハウジング162または液貯留部62の電位を、グランドの電位に対して、例えば、所定の正の値に保つことによって、吐出液滴の帯電量を十分に確保することができる。
(第4の実施の形態の効果)
吐出液滴の帯電量を十分に高い値に安定させることができ、液滴に、偏向電極の有する電界からの強いクーロン力を与え、粒子形成部における液滴を広く分散できる初速度を与えることができるので、より安定した液滴同士の合一防止を行うことができ、高品質のトナーを供給することができる。
〈第5の実施の形態〉
本発明に係る第5の実施の形態は、時間変化する偏向電極の電界を用いて液滴にクーロン力を作用させることにより液滴の分散を図るトナー製造装置に関する。
【0057】
図17は、本発明に係るトナー製造装置170を例示する図である。トナー製造装置170は、液滴吐出ユニット161、偏向電極52、粒子形成部53、粒子捕集部54等を有している。
【0058】
液滴吐出ユニット161は、振動発生部56、上部のトナー組成液収容部(図示せず)から供給されたトナー組成液55を貯留する液貯留部62、複数のノズル58を有するノズルプレート57等を有している。
【0059】
ノズル58は、例えば、直径10μmで200μmのピッチで複数形成されている。
【0060】
液滴吐出ユニット161は、さらに、上述の〈第4の実施の形態〉において示した帯電化機構を備えている。
【0061】
液滴Dは、振動発生部56の振動によって、ノズルプレート57の複数のノズル58から、周期的に吐出される。
【0062】
振動発生部56は、例えば、積層ピエゾアクチュエータ56aと、発せられた振動を広い振動面に対して均一に伝播させる振動伝播部56b等で構成される。振動発生部56は、ハウジング162に固定され、ノズル58と対向しており、ノズルプレート57の吐出面との距離は、ハウジング162等によって適度に調整される。
【0063】
振動伝播部56bの振動面の寸法は、例えば、縦10mm、幅65mmであり、一般的なインクジェットプリンタに使用される振動面の寸法と比較して非常に大きい値となっている。
【0064】
液滴Dは、連続して吐出され、偏向電極52が有する電界Eを通過する際に、各々がクーロン力を受け、電界Eの方向に初速度を得て、進行方向が分散させられるので、液滴の合一を防止することができる。前述の第1乃至第3の実施の形態において詳説したように、クーロン力による分散について、状況に応じた自由度の高い制御を行うことができる。
【0065】
液滴Dは、粒子形成部53において、鉛直方向に流れる乾燥した気体の流れ59によって搬送されている時間内に、溶媒等が除去されて、トナー粒子Pが形成される。粒子形成部53において、液滴Dが電界Eを通過したとき得た初速度の効果によって、相前後して吐出された液滴または固化したトナー粒子の合一が防止され、相互に分散される。
【0066】
形成されたトナー粒子Pは、粒子捕集部54において捕集され、吸引ポンプ60の作動により、下流の粒子貯留部61に移送される。
(第5の実施の形態の効果)
トナーを分散させるための機械振動装置を設ける必要がないので、低コストの設備を実現することができる。
【0067】
また、トナー製造の際の液滴吐出の速度、周波数、ロット替えその他製造条件、トナーの設計条件またはその他の条件に応じて、電界の強度の2次元平面における状態を、容易に設定することが可能なので、液滴の合一の防止効果を高めることができ、高いトナーの生産性、低コストのトナー製造装置を実現することができる。特に、液滴吐出に高い周波数を要する場合でも、高い周波数の印加電圧による電界の制御を行うことにより、液滴の均一な分散を行うことができる。
【0068】
さらに、トナー製造装置を用いたトナーの品質向上を図ることができる。
【0069】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0070】
例えば、偏向電極を2対に限ることなく、3対以上設けることによって、液滴の分散の自由度を更に上げ、形成粒子の品質の均一性を一層向上させることができる。
(トナー以外の分野への応用)
液滴の合一を防止して均一な液滴を形成する技術は、トナーの製造に限らず、他の分野における液滴製造の方法及び液滴製造装置についても、使用することができる。例えば、スプレー塗布装置、重合装置、ディスプレイ成膜装置、インクジェットプリンタ、電極製造装置における液滴の形成過程に関する製造方法及び装置において、効果的に使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
21 振動発生部
22 ハウジング
23 ノズル部
26 フランジ
27,31,58 ノズル
28,57 ノズルプレート
29,62 液貯留部
32 液滴
33,59 気体の流れの方向
50,170 トナー製造装置
51,161 液滴吐出ユニット
52,81,82 偏向電極
53 粒子形成部
54 粒子捕集部
55 トナー組成液
56 振動発生部
56a 積層ピエゾアクチュエータ
56b 振動伝播部
60 吸引ポンプ
61 粒子貯留部
162 ハウジング
D,R 液滴
E 電界
N ノズル
F クーロン力
G 液滴の進行方向
H1,H2,H3 合成された電界の向き
J 液滴全体のノズルに対応する線
P トナー粒子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特許第3259305号公報
【特許文献2】特開2000−328111号公報
【特許文献3】特開2008−50256号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電された液滴を吐出する液滴吐出工程と、
前記液滴に、該液滴の進行方向と直交する向きの、時間変化する電界を作用させて、前記液滴を分散させる液滴分散工程と、
前記液滴を固化させて粒子を形成する粒子形成工程と、
前記粒子を捕集する粒子捕集工程とを有する粒子の製造方法。
【請求項2】
前記電界を形成する偏向電極に印加される電圧の波形は、時間に対する正弦波、三角波又は台形波のいずれか1つの関数であることを特徴とする請求項1記載の粒子の製造方法。
【請求項3】
前記時間変化する電界の周波数が、前記液滴吐出工程の吐出の周波数の高調波またはサブハーモニクスとは異なっていることを特徴とする請求項1又は2記載の粒子の製造方法。
【請求項4】
前記電界は2対の偏向電極により形成される2つの電界であり、当該2つの電界の向きが直交するときに、
前記2対の偏向電極に印加される電圧が、時間に対する正弦波の関数であることを特徴とする請求項2又は3記載の粒子の製造方法。
【請求項5】
2つの前記電界の初期位相の差が、±90度の奇数倍であることを特徴とする請求項4記載の粒子の製造方法。
【請求項6】
前記電界は2対の偏向電極により形成される2つの電界であり、当該2つの電界の向きが直交するときに、
前記2対の偏向電極に印加される電圧が、時間に対する三角波又は台形波の関数であることを特徴とする請求項2又は3記載の粒子の製造方法。
【請求項7】
前記三角波又は台形波の関数の位相差が、±90度の奇数倍であることを特徴とする請求項6記載の粒子の製造方法。
【請求項8】
前記液滴が、前記液滴吐出工程の手段のノズルプレート、該ノズルプレートを保持するハウジング又は液貯留部の帯電により、帯電していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の粒子の製造方法。
【請求項9】
帯電された液滴を吐出する液滴吐出ユニットと、
前記液滴に、該液滴の進行方向と直交する向きの、時間変化する電界を作用させて、前記液滴を分散させるための偏向電極と、
前記液滴を固化させて粒子を形成する粒子形成部と、
前記粒子を捕集する粒子捕集部とを有する粒子の製造装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の製造方法により製造されたトナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−260002(P2010−260002A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112812(P2009−112812)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】