説明

粒子保持繊維

【課題】
本発明は、表面に裸の粒子を強固に保持させた粒子保持繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の粒子保持繊維は、個々の粒子、それぞれその一部分が、前記繊維本体に埋没して保持されていることを特徴とする。
本発明の粒子保持繊維において、前記繊維本体の直径が50μm以下であって、前記粒子の直径が、前記本体の直径よりも小さいことを特徴とする。
本発明は、粒子保持繊維において、未固化状態の繊維状体の粒子を含んでいる霧が存在する雰囲気中に供給して固化し、得られたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維本体の表面に粒子を保持させた粒子保持繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような粒子保持繊維としては、非特許文献1または特許文献1に示すような、樹脂製の繊維本体内に無機粒子を埋め込んだ複合材料系のものと、特許文献2のように繊維本体の表面に、繊維直径に比べれば極微小な直径の粒子を被着させたものとが知られている。
前者の場合は、粒子は一体化され繊維から脱落する恐れはないが、当該粒子は繊維を構成する樹脂に囲まれているので、外部環境との接触により機能を発現する触媒などでは、その本来の機能を発現できなくなる。また、後者の場合は、粒子を繊維に被着させるバインダーが別途必要となり、当該バインダーにより粒子の外部接触が阻害されるので、それにより触媒機能は低下される他はなかった。
【非特許文献1】Nanotechnology,16号,2233−2237頁,2005年10月,Lu XF他
【特許文献1】特開2008−75010
【特許文献2】特開2005−264386
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、表面に裸の粒子を強固に保持させた粒子保持繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の粒子保持繊維は、個々の粒子は、それぞれその一部分が、前記繊維本体に埋没して保持されていることを特徴とする。
発明2は、 発明1の粒子保持繊維において、前記繊維本体の直径が50μm以下であって、前記粒子の直径が、前記本体の直径よりも小さいことを特徴とする。
発明3は、発明1の粒子保持繊維において、未固化状態の繊維状体を粒子を含んでいる霧が存在する雰囲気中に供給して固化した得られたものであることを特徴とする。
【0005】
発明4は、発明1から3のいずれかの粒子保持繊維において、前記粒子が触媒であることを特徴とする。
発明5は、発明4のいずれかの粒子保持繊維において、前記粒子が光触媒であって,前記繊維が、少なくとも前記粒子の励起周波数の光を透過する透明体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、粒子は繊維の表面に存在するのみならず、その一部が繊維本体内に埋没することによる機械的な結合力により保持されるので、粒子を裸状態で繊維本体に強固に固定することができた。
それ故に、外部環境との接触によりその機能を発現させる触媒などでは、粒子本来のもつ能力を全く阻害することなく発現させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
下記実施例に示すように、本発明の繊維を製造する方法としては、溶媒Aに高分子Bを溶解した液を用いてエレクトロスピニングを行い,Bの繊維を作製している。この際に揮発性溶媒Cに粒子Dを分散した液を霧化して吹き付けることにより,B繊維の表面に粒子Dを付着させている。
エレクトロスピニングとは、繊維化したい高分子を揮発性の溶媒に溶解した溶液を,細いノズルを持つ容器に入れて帯電させ,静電反発力により溶液をノズルから噴出させる。帯電量,溶液の物性を適切に制御しておくと,噴出した溶液は溶媒が揮発すると同時に,残存する高分子が延ばされ絡み合い,細い繊維を生成する方法のことである。
繊維本体となる繊維は,一部埋没という機械的な結合手段により、繊維本体に粒子を保持させているので、繊維本体の材質が上記エレクトロスピニング可能なものならすべて適用可能である。
【0008】
また、上記のようにして、粒子分散液を霧化する手段としては、ネブライザーが知られている。
ネブライザーとは、液体を細かい液滴にして噴霧する装置で,一般には液体薬剤を経口吸入するために用いられている。高速気流を用いて霧化する方式と超音波振動で霧化する方式がある。超音波振動で霧化する方式は例えば,加湿器にも多く用いられており,その具体的な手段は従来より周知である。
【0009】
粒子の修飾の機構
エレクトロスピニングの原理は,高分子を揮発性溶媒に溶解したスピニング液を,細孔から静電気力で噴出し,噴出した液が細く伸長すると同時に溶媒が蒸発し,残存した高分子が非常に細い繊維となるというものである。この際,噴出した液体は帯電しているので,細孔から噴出した直後の慣性が小さくなると同時に,静電反発力により樹枝状に枝分かれする。コレクターまで1本の線として飛行するのではなく,枝分かれすることから,非常に細い繊維が生成する。
つまり、細孔から噴出した直後は液体であり,コレクターに向かって飛行している最中に,溶媒の揮発が進行し,最終的にコレクターに到達した時には固体の繊維になっている。説明の便宜上,ここでは細孔からコレクター間の噴出物を仮に「プレ繊維」と名付ける。なお,細孔からコレクターまでの距離は一般的に10cmからせいぜい30cm程度である。
【0010】
本発明においては,ナノ粒子分散液を霧化して気流に乗せて吹き出させている。この気流は広がるが,その中心はプレ繊維が分裂しているあたりになるように設定している。従って,霧滴と会合するプレ繊維は液体状態である。
高分子の溶媒と,ナノ粒子分散液の分散媒が同一もしくは,親和性がよいものであれば,プレ繊維と霧滴が会合すると同時に霧滴はプレ繊維の表面に吸収されてしまう。霧滴中のナノ粒子も霧滴が吸収されると同時にプレ繊維に吸収される。
スピニング液の粘度は,元の溶媒の粘度に比べて高分子が溶解しているのでかなり高い。粘度は高分子濃度が高くなると指数的に高くなるので,プレ繊維は飛行中に溶媒が揮発していくため,粘度はさらに高くなっている。一方,分散媒には何も溶解していないので,粘度はスピニング液の粘度に比べるとはるかに小さい。
従って,分散媒が吸収されても,界面エネルギーを最小にするように,プレ繊維の表面に薄く広がるだけと推定される。従って,ナノ粒子も繊維の内部に入らずに,一部が入り込んだ状態で表面にとどまっている。プレ繊維はごく短時間(0.1秒以下)で溶媒が揮発し固化するので,粒子はプレ繊維に吸収された直後の状態をほぼ保ったまま固化され,図3に見られるように,粒子が繊維に一部めり込んだような状態になったと推定される。
【0011】
異種高分子で被膜した繊維
スピニング液中の高分子と異なる種類の高分子を,スピニング液の溶媒と同一もしくは親和性のよい溶媒に溶解し,さらにその濃度を小さくして粘度があまり大きくならないような溶液を,同様な方法で霧化して,プレ繊維に吹き付けてやると,生成した繊維は,スピニング液中の高分子繊維の表面を,霧化した高分子で薄く覆った形態の複合繊維になることが想定される。
【0012】
サイズの限定
一般に繊維と粒子を複合化する場合,粒子径は繊維径の10分の1以下と言われている。また,粒子分散液を霧化するのであるから,液滴のサイズはせいぜい10μm程度であるから,粒子サイズもそれ以下となる。エレクトロスピニングにより生成する繊維径は,数十μm〜数ナノまで幅広いが,本方法で表面を修飾する際には,繊維径の下限は50ナノ程度となる。
【0013】
組み合わせ
スピニング液の溶媒とナノ粒子分散媒は,基本的には同じものを使うことにより本方法が適用できる。しかし,粒子の分散等のため,スピニング液の溶媒と異なる分散媒を使う必要がある場合,溶媒と分散媒が完全に相互に溶解するものが望ましい。
【実施例1】
【0014】
実施例1では図1に示す装置を用いた。エレクトロスピニングは,クロロホルムとN.N−ジメチルホルムアミド(DMF)を重量比で1:1に混合した溶媒に,重合度28万のポリスチレンを溶解したスピニング液を用いて行われた。金属細管(1)にスピニング液(2)を微量送りながら,金属細管とコレクター(3)間に,高電圧電源(4)で8kV直流高電圧を印加すると,静電気力により金属細管先端からスピニング液が噴射される。約1cm飛び出した後,液は分裂し,溶媒の揮発と伸長により繊維が生成し,金属細管先端から約10cm離れた位置にあるコレクターに捕集される。
この際に,TiOナノ粒子をエチルアルコールに15重量%分散した液をネブライザー(5)で霧化して,エレクトロスピニングで噴射された液が分裂するあたりに,霧化した液滴が通過するように,ガスで送り出した。
ネブライザーは薬剤吸入に用いる医療用のもので,毛細管の先端を横切るようにガスを高速で流し,液を毛細管から吸い上げて霧化する方式のものである。実験ではアルゴンを5L/分で流した。
コレクターには,図2に示すようにポリスチレンの繊維が捕集された。この繊維を拡大すると図3のように繊維の表面に粒子がめり込むような形で多数存在するのが確認された。
図3の四角の枠の部分をEDAXで分析したところ,図4のようにTi,Oが検出され,粒子がTiOであることが証明された。また図4で,Cu,Zn,Cが検出されているが,CuとZnは真鍮のコレクターを使っているため,基板の真鍮が検出されたものである。またCはポリスチレンに導電性がないために,導電性を付与するためにCでコートしたからである。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本願発明は、各種の触媒粒子、特に環境と接することで、各種の機能を発現する触媒、有機物の分解、水分解、あるいは窒素酸化物の分解や一酸化炭素の酸化などの機能を有する触媒を、凝集させずに保持することに極めて有効である。これにより、微小化により効率を向上しようとしても凝集によりその効果が上がらないという問題も解消することができ、少ない触媒を最大限に利用することができるようになった。
また、粒子が触媒ではなく、抗菌・殺菌作用を持つ粒子を埋め込めば,効率的に繊維を清潔に保つことができる。また不燃性の無機物粒子を埋め込むことで,繊維を難燃性にすることも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】表面をナノ粒子で修飾した繊維の作製のための装置の模式図。
【図2】図1の装置で作製した表面をナノ粒子で修飾した繊維の顕微鏡写真。
【図3】図2の写真の部分拡大写真。
【図4】図2の写真の四角枠の部分をEDAXで組成分析した結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0017】
(1) 金属細管
(2) スピニング液
(3) コレクター
(4) 高電圧電源
(5) ネブライザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維本体の表面に粒子を保持させた粒子保持繊維であって、個々の粒子は、それぞれその一部分が、前記繊維本体に埋没して保持されていることを特徴とする粒子保持繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子保持繊維において、前記繊維本体の直径が50μm以下であって、前記粒子の直径が、前記本体の直径よりも小さいことを特徴とする粒子保持繊維。
【請求項3】
請求項1に記載の粒子保持繊維において、未固化状態の繊維状体を粒子を含んでいる霧が存在する雰囲気中に供給して固化した得られたものであることを特徴とする粒子保持繊維。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の粒子保持繊維において、前記粒子が触媒機能を有すること特徴とする粒子保持繊維。
【請求項5】
請求項4のいずれかに記載の粒子保持繊維において、前記粒子が光触媒であって、前記繊維が、少なくとも前記粒子の励起周波数の光を透過する透明体であることを特徴とする粒子保持繊維。
本発明では,エレクトロスピニングにおいて,ネブライザーにより霧化した粒子分散液を,繊維が生成する空間に吹き付けることにより,エレクトロスピニングにより生成した表面に粒子が固着させ
ることを可能にした。
ネブライザーで霧化するだけであり,繊維の種類や粒子の種類等に制限されない汎用性があり,また粒子が表面のみに選択的に付着することから,触媒等の機能粒子を繊維に保持させる場合に,必要とする粒子の量が少なくてよい。
また,溶媒に溶かした液を同様の方法で,繊維が生成する空間に吹き付けることにより,生成した繊維の表面を別材質のものでコーティングすることも可能である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−106384(P2010−106384A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277939(P2008−277939)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】