説明

粒子光学鏡筒用の鏡筒内検出器

【課題】 本発明は、SEM用の複合静電/磁気対物レンズ内に設けられた鏡筒内後方散乱電子検出器に関する。
【解決手段】 当該検出器は、荷電粒子に敏感な表面−好適には静電集束場を生成する電極面(110)の1つとして機能するシンチレータディスク(406)−として形成される。前記シンチレータ内で生成された光子は、光子検出器(202,408)−たとえばフォトダイオード又は多画素光子検出器−によって検出される。前記対物レンズには、軸付近に保持される2次電子を検出する他の電子検出器(116)が備えられて良い。導光体(204,404)が、前記光子検出器とシンチレータとの間での電気的絶縁を供するのに用いられて良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子鏡筒に関する。当該荷電粒子鏡筒は:
− 荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源;
− 試料の保持及び位置設定を行う試料キャリア;
− 集束静電場を生成する第1電極及び第2電極と、集束磁場を生成する第1磁極片及び第2磁極片を有する前記荷電粒子ビームを前記試料に集束させる対物レンズ;
荷電粒子を検出するための前記第1電極の荷電粒子源側に設けられた検出器;
を有する。
【0002】
前記第1電極は前記第2電極と前記試料キャリアとの間に設けられ、前記第1磁極片は前記第2磁極片と前記試料キャリアとの間に設けられ、前記集束静電場と前記集束磁場とは重なりを有し、前記検出器は荷電粒子に対して敏感な表面を有する。
【0003】
本発明はさらに当該鏡筒の使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
係る鏡筒は特許文献1から既知である。
【0005】
特許文献1は、光軸を中心として電子源と磁気/静電複合対物レンズを有する電子光学鏡筒について記載している。レンズの磁気部分は地電位で2つの磁極片を有する。前記2つの磁極片とは、試料に近い第1磁極片と、試料から離れた第2磁極片である。
【0006】
静電レンズは、試料付近であって光軸を中心とする位置に設けられたアパーチャである第1電極で構成される。前記第1電極は第1磁極片と一致する。
【0007】
フレア管である第2電極は、第1電極と電子源との間で光軸を取り囲む。フレア管は、試料側で小さな直径を有し、電子源側で大きな直径を有する。第2電極は、試料及び磁極片に対して電位UKEに維持される。
【0008】
小さな直径を有する管である第3電極は、第2電極と電子源との間で光軸を中心とするように設けられる。第3電極は、試料及び磁極片に対して電位UREに維持される。
【0009】
たとえば導光体を備えるシンチレータディスク又は半導体ディスク(たとえばPINダイオード)を有する検出器は、光軸に垂直な検出器面内で第3電極を取り囲む。検出器は、第2電極の電位であるUKEに維持される。
【0010】
1次ビームが試料に衝突するとき、2次電子(SE:50eV未満のエネルギーで、より具体的には5eV以下のエネルギーを有する電子として定義される)及び後方散乱電子(BSE:50eV〜衝突電子のエネルギーを有する電子として定義される)を含む2次放射線が生成される。
【0011】
レンズの外で生じる静電場と磁場の複合効果により、SEは、対物レンズの軸の近くに維持される。特許文献1は、試料と検出器との間にクロスオーバーが生成され、その結果発散ビームが検出器を照射することを教示している。よって検出器は、多くのSEと一部のBSEを検出する。
【0012】
特許文献1で開示された鏡筒の欠点は、BSEの検出効率が低いことである。
【0013】
特許文献2は、特許文献1に開示されたレンズと同様のレンズであって、試料と磁気レンズのヨークとの間に追加の制御電極を有することで、SEのクロスオーバー位置を調節することのできるものについて開示している。クロスオーバー位置にアパーチャを設けることによって、BSEは阻止され、かつ、ほとんどSEだけの像を生成することができる。
【0014】
特許文献2で開示された鏡筒の欠点は、BSEの検出効率が低いこと、及び、さらに追加の制御電極と付随する電源が必要となる結果、さらに複雑なレンズになってしまうことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4831266号明細書
【特許文献2】米国特許第4926054号明細書
【特許文献3】欧州特許出願第2009705号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】NewDevelopments in GEMINI(登録商標) FESEM Technology、
【非特許文献2】“Electron Specimen Interaction in Low Voltage Electron BeamLithography”, monthly progress reports, July 1995 − Oct 1995,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、BSEを検出するための解決法を供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のため、本発明は、
前記第2電極が、前記試料キャリアに対向する電極面を前記第2磁極片と前記試料キャリアとの間に有し、
前記電極面は、前記荷電粒子ビームを通過させる穴を有し。かつ、
前記荷電粒子に敏感な面は、前記電極表面の少なくとも一部を構成する、
ことを特徴とする。
【0019】
本願発明者等は、前記検出器の敏感表面と、前記試料に対向する第2電極の面とを組み合わせることによって、かつ、磁気レンズと静電レンズ(二電極)レンズを適切に励起されることによって、第3電極及び付随する電源は、レンズの性能又は検出効率について妥協しなくても不要となることを発見した。
【0020】
前記磁極片は地電位であって良いが、このことは必須ではないことに留意して欲しい。前記試料及び試料キャリアについても同様のことが言える。前記試料及び試料キャリアは、前記第1電極と同一電位であって良いが、前記第1電極及び第1磁極片に対してバイアス印加されても良い。
【0021】
非特許文献1では、さらに複雑な検出器が開示されている。前記検出器では、SEは第1検出器によって検出され、かつ、BSEは試料から離れた第2検出器によって検出される。SEは、発散ビームによって第1検出器を照射するように、試料と第1検出器との間でクロスオーバーを生成する。その一方で、非特許文献1の図7によるBSEは、第1検出器の位置でクロスオーバーを生成する。第1検出器が(1次ビーム及び後方散乱電子ビームを通過させるための)中心穴を有するので、ほとんどのBSEは、第1検出器を通過して、第2検出器によって検出される。
【0022】
特許文献1及び特許文献2に記載された検出器面は、電極として考えることができるが、この電極は、集束静電場を生成するための電極ではないことに留意して欲しい。軸に平行な電場又は磁場がビームを集束させることが議論されているとしても、この電場又は磁場は、集束磁場とは重ならない。
【0023】
試料から数えて第2の電極がSE検出によって覆われている4つの電極からなる静電レンズ系が、非特許文献2の図4に図示されていることに留意して欲しい。
【0024】
本発明による鏡筒の実施例では、前記第2電極の少なくとも一部は、前記第1磁極片と前記第2磁極片との間に設けられ、かつ、前記第1磁極片は前記第1電極と一致する。
【0025】
この実施例によると、前記第2電極は、前記荷電粒子源の方向に管として延びて良い。その場合、前記試料キャリアに最近接する前記第2電極の端部は、前記第1磁極片と前記第2磁極片との間で終端し、かつ、前記第1電極は前記第1磁極片と一致する。前記試料と対向する前記ディスクの面は、前記検出器の敏感な表面である。
【0026】
本発明による鏡筒の他の実施例では、前記敏感な表面はシンチレータであり、かつ、前記検出器は光検出器をさらに有する。
【0027】
シンチレータとして前記敏感な表面を形成することによって、前記シンチレータに衝突する荷電粒子が1つ以上の光子を生成できる。続いてこれらの光子は、光検出器−たとえばフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード(APD)、ガイガーモードAPD、又はそれらのアレイ、多画素光子検出器(シリコン光電子増倍管Si-PMTとしても知られている)、CMOSデバイス、CCDデバイス、又は光電子増倍管−によって検出されることが好ましい。
【0028】
2つ以上の光検出器を備える検出器を、たとえば4分割された領域のうちのどの領域に荷電粒子が衝突したのか、又はどの半径に荷電粒子が衝突したのかを検出するように形成することは既知であることに留意して欲しい。前記2つ以上の光検出器は、一のデバイス(ウエハ、チップ)上に形成されても良いし、又は、互いに隣接して設けられる物理的には別個のデバイスであっても良い。
【0029】
前記検出器は、前記シンチレータから前記光子検出器まで光子を導光する導光体を有して良い。
【0030】
本願においては、シンチレータとは、荷電粒子−たとえばイオン又は電子−が衝突する結果、1つ以上の光子を放出する材料と介されるので、蛍光、燐光、又はフォトルミネッセンスを含むことに留意して欲しい。
【0031】
荷電粒子装置(たとえば走査型電子顕微鏡)において広く用いられているシンチレータの例は、YAP:Ce(セリウムドープされたイットリウム・ペロブスカイト、Y3AlO3)及びYAG:Ce(セリウムドープされたイットリウム・アルミニウムガーネット、Y3Al5O12)、たとえばYSi2O7:Ce(P47としても知られている)のような粉末シンチレータ、又はたとえばNE102Aのようなプラスチックシンチレータである。シンチレータは典型的には、良好な絶縁体である。帯電を防止するため、これらのシンチレータは、薄い層(たとえば典型的には10〜100nmのアルミニウム)がコーティングされることで、伝導層が供される。そのようなコーティングを有するシンチレータは市販されている。またITO(インジウム−スズ酸化物)を有するコーティングは、伝導層を供するのに用いられて良い。
【0032】
前記シンチレータは、前記試料に対して数kVの電位を有することで、前記シンチレータに衝突する1つの荷電粒子−たとえば電子−は、2つ以上の光子に変換されることが好ましい。
【0033】
本発明による鏡筒の別な実施例では、前記荷電粒子源は電子源で、かつ、前記荷電粒子ビームは電子ビームである。
【0034】
当該鏡筒は電子ビームを生成する鏡筒であることが好ましい。当該鏡筒は、走査型電子顕微鏡(SEM)のみならず、2つの鏡筒−一の鏡筒は電子ビームを生成し、他の鏡筒はイオンビームを生成する−が用いられる装置においても用いられる。係る装置は当業者にとって周知である。
【0035】
電子を生成する鏡筒内においては、前記第2電極から前記試料へ進行するビームが、前記第2電極と前記試料との間で減速されるときに、最高の光学特性が得られる。このことは、前記第2電極の電位は前記試料に対して正であるので、前記電位は、前記ビームが前記試料と相互作用する結果、前記試料から放出されて前記敏感な表面へ向かう電子を引きつけることを示唆している。
【0036】
検出される前記荷電粒子は、前記検出器が設けられた鏡筒によって生成されたビームと前記試料との相互作用の結果生成される必要がないことに留意して欲しい。前記試料に衝突する他の鏡筒からのビームが、続いて検出される2次荷電粒子の生成を引き起こして良い。前記他の鏡筒はたとえばイオン鏡筒であって良い。前記イオンとはたとえば、前記試料を加工(エッチング又はスパッタリング)するイオンビーム及び前記試料からの引出2次電子である。
【0037】
他の実施例では、前記検出器には、衝突イオン(正又は負)又は電子を、前記検出器の敏感な表面によって検出される電子へ変換する変換電極が備えられている。
【0038】
前記鏡筒(本願においては前記第1電極から前記試料へ伸張する体積も含まれる)に変換電極を備えることによって、イオン(正又は負の、帯電した原子又は分子又はクラスタ)及び電子の検出を最適化することができる。前記変換電極は、前記第1電極の電子源側に設けられても良いし、前記第1電極の試料キャリア側に設けられても良いことに留意して欲しい。前記変換電極には、検出される荷電粒子の種を引きつける電圧及び前記敏感な表面に対して負の電位がバイアス印加されることで、前記変換電極から放出される電子が、前記敏感な表面へ向かって加速されることが好ましい。
【0039】
前記鏡筒は、たとえば走査型電子顕微鏡(SEM)のような荷電粒子装置の一部、本発明による鏡筒を有する装置、及び集束イオンビーム(FIB)鏡筒であることが好ましい。またたとえば電子プローブマイクロ分析装置のような透過型電子検出器を備えるSEMも本発明の技術的範囲内である。
【0040】
本発明の態様では、試料から放出される2次電子及び/又は後方散乱電子を検出する方法は:
− 試料位置に試料を供する手順;
− 荷電粒子ビームを生成する荷電粒子鏡筒を供する手順であって、
前記鏡筒には、前記荷電粒子ビームを前記試料に集束させる対物レンズが備えられ、
前記対物レンズは、集束静電場を生成するため、前記試料付近に位置する第1電極と、前記試料から離れた第2電極を有し、
前記対物レンズは、集束磁場を生成するため、前記試料付近に位置する第1磁極片と、前記試料から離れた第2磁極片を有し、
前記集束静電場及び前記集束磁場は重なりを有する、
手順;
− 前記試料に対向する前記第1電極の側に荷電粒子検出器を供する手順;
− 前記試料から放出される2次荷電粒子を、荷電粒子に敏感な表面を有する前記荷電粒子検出器へ向けて加速させる手順;
を有する。
【0041】
また当該方法は、
− 前記第2電極が、前記試料キャリアに対向する電極表面を、前記第2磁極片と前記試料キャリアの間に有し、
− 前記電極表面は、前記荷電粒子ビームを通過させる穴を有し、かつ、
− 前記敏感な表面は、前記電極表面の少なくとも一部を構成する、
ことを特徴とする。
【0042】
本発明による方法の実施例では、前記荷電粒子に敏感な表面はシンチレータで、かつ、当該方法は、荷電粒子が前記シンチレータに衝突した結果前記シンチレータによって放出される光子を検出する手順をさらに有する。
【0043】
本発明による方法の実施例では、当該方法は、導光体によって前記光子を前記シンチレータから前記光子検出器へ導光する手順を有する。
【0044】
一部の光子検出器は、導光体を用いることなく光子を検出できる程度十分に前記シンチレータに近接して設けられて良い。しかし空間的問題及び/又は電気バリアを作る必要があるため、導光体(たとえば良好な絶縁体であって、かつ広い色範囲について良好な透過性を示す石英又はPMMA)を利用することは魅力的であると考えられる。
【0045】
本発明による方法の実施例では、前記2次荷電粒子は電子である。
【0046】
本発明による方法の実施例では、前記荷電粒子ビームは電子ビームである。
【0047】
本発明による方法の実施例では、前記検出器は変換電極を有し、かつ、当該方法は、前記試料から放出される荷電粒子を前記変換電極へ案内する手順をさらに有し、前記変換電極は、該変換電極上での前記荷電粒子に応答して電子を放出し、前記電子は、電子に敏感な検出器へ案内される。
【0048】
この方法を用いることによって、前記検出器は、正の荷電粒子(イオン、クラスタ)が検出されるモードから、負の荷電粒子(電子、イオン、クラスタ)が検出されるモードへ切り換えられる。前記電極と前記磁極片の幾何学構造並びに前記磁気レンズ及び静電レンズの励起が与えられると、前記試料の電位及び位置は、検出効率を最適化するように変更されて良い。
【0049】
電子に対して敏感な検出器は、前記第2電極面上の検出器であって良いが、たとえば前記第2電極内部の電場が存在しない領域内に設けられた検出器のような、電子に敏感な別の検出器であっても良いことに留意して欲しい。
【0050】
本発明による方法の実施例では、当該方法は、前記試料位置にて浸漬磁場を発生させる磁気コイルを起動させる手順をさらに有する。
【0051】
解像度(プローブ径)を改善するため、前記試料を磁場中に浸漬させることは既知である。前記磁場は、前記対物レンズのヨーク周辺にコイルを設けることにより、又は、前記試料の下にコイルを設けることにより生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による対物レンズを概略的に図示している。
【図2】光子検出器がシンチレータに接続される、本発明による荷電粒子鏡筒のレンズを概略的に図示している。
【図3】4つのコーティングされていない窓を有するシンチレータを概略的に図示している。
【図4】図1のレンズで用いられる荷電粒子検出器を概略的に図示している。
【発明を実施するための形態】
【0053】
ここで図によって本発明を明らかにする。図中、対応する参照番号は対応する特徴部位を指称する。
【0054】
図1は、試料102に衝突する荷電粒子ビーム100を概略的に図示している。試料102は、荷電粒子ビーム100に対して移動可能である試料キャリア104上に載置されている。対物レンズは、コイル114によって発生した磁場を、荷電粒子ビーム100付近の領域へ案内する2つの磁極片を備える磁気ヨークを有する。前記ヨークは、地電位と接続し、かつ第1電極106をも形成する。第2電極108は、荷電粒子ビーム100を取り囲む管として形成され、前記試料に対向する面110で終端する。絶縁体112は、前記磁気ヨーク内部の管を中心として、第1電極106と第2電極108とを絶縁する。
【0055】
前記管と面は一の部品である必要はないし、又は一の材料である必要すらないことに留意して欲しい。管と面が十分な伝導性を有し、かつ互いに電気的に接続することは、一電極として機能する上で重要である。面110上には、敏感な表面−たとえばYAP:Ce又はYAG:Ce結晶−が載置される。シンチレータによって生成される光子は、光子検出器によって検出される。図から明らかなように、シンチレータは、該シンチレータ内に中心穴を有するディスクとして形成されなければならない。
【0056】
シンチレータディスクは、アルミニウムの薄い(10〜100nm)層でコーティングされることが好ましいことに留意して欲しい。前記コーティングは伝導層を形成する。前記コーティングは、シンチレータから試料の方向に放出される光子を反射させる。
【0057】
第2荷電粒子検出器116は、第2電極内部の電場が存在しない領域内に設けられる。この第2検出器はたとえば、固体電子検出器、又は、シンチレータと光子検出器を有する検出器であって良い。
【0058】
磁気偏向器が、たとえば内側ヨークと第2電極との間の領域118内に設けられて良いことに留意して欲しい。
【0059】
アルミニウム層の代わりに、インジウム−スズ酸化物(ITO)層が用いられても良いことに留意して欲しい。
【0060】
このレンズが、荷電粒子を集束させるのに磁場と静電場の両方を用いるので、このレンズは、イオンにとっては電子ほど有効ではないことに留意して欲しい。なぜならイオンは、電子よりも質量が大きいので、電子よりも磁場の影響を受けにくいからである。従ってこの実施例の機能について、(負に帯電した)電子を用いて説明する。
【0061】
対物レンズは、静電レンズと磁気レンズの複合レンズである。前記対物レンズは既に特許文献1で記載されている。特に電子がレンズに入射する際のエネルギーが、電子がレンズを飛び出す(後に試料に衝突する)際のエネルギーよりも大きいとき、レンズの性能は、単純な磁気レンズ又は静電レンズよりも優れている。実際の問題として、コイル114を備える磁気ヨーク、つまり電極106は、通常地電位と接続する。しかしこのことは基本的な制約ではない。
【0062】
試料に正のエネルギーをバイアス印加することによって、第1電極106と試料位置との間でビームをさらに減速させることは既知であることに留意して欲しい。
【0063】
1次電子は、試料に衝突するとき、後方散乱電子(BSE)と2次電子(SE)を含む2次放射線の放出を引き起こす。検出の観点からは、これらの差異とは、SEが通常50eV未満さらには5eVのエネルギーを有して試料から放出される電子として定義される一方で、BSEは、50eV以上のエネルギー(で最大1次ビームのエネルギー)を有して試料から放出されることである。試料と第2電極との間の電場は、これらの電子を面110の方向へ案内し、レンズを発生させる磁場へ入り込む。低エネルギー電子(全てのSEとごく一部のBSE)は、あまりに軸に接近した状態で維持されるので、面110内の穴を通り抜けて、第2電極内部の電場の存在しない領域へ入り込む。これらの電子の多くは検出器116に衝突する。大きなエネルギー−たとえば1次電子のエネルギーの80%を超えるエネルギー−を有する後方散乱電子は、静電場と磁場の複合効果によってはあまり閉じこめられず、面110、つまりはシンチレータに衝突する。それにより光子検出器によって検出される光子が発生する。
【0064】
試料と第2電極との間に電位差が存在するため、BSEは数keVのエネルギーでシンチレータに衝突する。本願発明者らは、図1に図示されたレンズを用いて、試料と第1電極(及びヨーク)を地電位として、第2電極を+8kVとすることによって、作動距離(試料と第1磁極片との間の距離)、入射電圧及びBSEのエネルギー(たとえば試料と第1磁極片との間のバイアス電圧によって影響を受ける)に依存して、BSEについて85%の検出効率が得られた。
【0065】
図2は、本発明による荷電粒子鏡筒のレンズを概略的に図示している。当該鏡筒内では、光子検出器がシンチレータと接続している。
【0066】
図2は、図1から派生したと考えることができる。光子検出器202と第2電極の面110との間には、光子をシンチレータから光子検出器へ導光する導光体204が載置されている。導光体は、たとえば石英、ガラス、又はポリメチルメタクリラート(PMMA)から作られて良く、かつ、ビーム100を中心とした対称性を有するように構成されて良い。その代わりに、ある数−たとえば4−のファイバが、シンチレータの(4分割された領域の)一部と接続して、かつこれらの4分割された領域の各々の光子を別個の検出器−たとえばフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード(APD)、ガイガーモードAPD、又はそれらのアレイ、多画素光子検出器(シリコン光電子増倍管Si-PMTとしても知られている)、CMOSデバイス、CCDデバイス、又はPMT−へ導光して良い。
【0067】
図3は、図2のレンズで用いられる4つのコーティングされていない窓を有するシンチレータを図示している。
【0068】
図3は、シンチレータディスクの上面、つまり導光体と接するシンチレータディスクの側を図示している。ディスクは、第2電極の管及び荷電粒子ビームを通過させる中心穴306を有する。シンチレータの表面は、4つの窓304-i(i=1…4)だけが開いたままになるように、アルミニウムのコーティング302で覆われている。その結果、シンチレータ内で生成される光子は、これらの窓を介してシンチレータディスクを飛び出すだけである。理由は、シンチレータの対向面もまたアルミニウムのコーティングで覆われているからである。4つの円筒形導光体又はファイバは窓上に設けられている。これらの導光体の各々は、光検出器と接する。この実施例の利点は、光子検出器が環状検出器を必要とせず、単純なディスク形状又は長方形の検出器の集合体で良いことである。また4分割された検出器もこのようにして利用可能である。
【0069】
図4は、図1のレンズで用いられる荷電粒子検出器を概略的に図示している。
【0070】
図4は、荷電粒子が進行する軸402を表している。軸402を取り囲む管108は第2電極の一部である。環状シンチレータディスク406が、ねじ挿入部414によるねじ止めにより管の端部に取り付けられている。シンチレータは、光子をシンチレータから光子検出器408へ導光する導光体404を形成するガラス、石英、又はPMMAの環状ディスクに対向するように設けられている。シンチレータは、導光体がシンチレータと接する側に対向する面110を有する。表面110は、アルミニウムの薄い層でコーティングされる。前記層は、第2電極の一部となり、かつ光子を導光体404へ向かうように反射する。電気的接続412は、光子検出器から電子機器への電流路を供する。検出器の一部は、管(地電位に対して数kVの電位で動作する)から光子検出器(地電位で動作する)へのフラッシュオーバーを回避するため、たとえばエポキシ樹脂又はシリコーンゴム410内で鋳型成型される。
【0071】
数keVのエネルギーを有する荷電粒子−たとえば電子−がシンチレータ406に衝突するとき、複数の光子が生成される。一部は導光体404の方向へ進行し、他の一部は面110の方向へ進行する。全ての光子を検出するため、導光体に対向していないシンチレータの一部は、高反射性材料−たとえばアルミニウム−によって最善に覆われる。10nm〜100nmのアルミニウム層は、電子が十分なエネルギーを有した状態でシンチレータへ入り込む程度に十分透明でだが、ほとんどの光子を反射する。好適には、導光体と接するシンチレータの面は、シンチレータと導光体との間の結合を改善するように光沢が消されている。導光体は、光子を光子検出器408−たとえばフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード(APD)、ガイガーモードAPD、又はそれらのアレイ、多画素光子検出器(シリコン光電子増倍管Si-PMTとしても知られている)、CMOSデバイス、CCDデバイス、又はPMT−へ導光する。好適にはこの光子検出器は地電位で動作する。このことは、光検出器408と、管108と面110でのアルミニウムコーティングとの間には数kVの電位差が存在することを意味している。導光体は、パンチ穴を開けるためのこの電位差を絶縁する。たとえばシリコーンゴム410内に検出器を封止することによって、フラッシュオーバーは回避される。ワイヤ412もまた、高電圧に耐えるように評価される。
【0072】
シンチレータディスクは、導光体と接する一の完全な面を有して良いが、この面は、アルミニウムによって部分的にコーティングされることによって、ある数の導光体(たとえばシリンダ)が、図3に図示されているようにコーティングされていない部分に設けられて良いことに留意して欲しい。
【0073】
SE検出器116とBSE検出器の両方にとって、同様の設計が用いられても良いが、同様の設計を用いる必要はないことにさらに留意して欲しい。図2に図示されているように導光体を備えたBSE検出器を構成し、かつ図4に図示された形態のSE検出器を構成すること、又はその逆も可能である。また他の種類の検出器−たとえば特許文献3に記載された検出器−が用いられても良い。
【0074】
シンチレータの厚さが必要な隔離を供するのに十分であるとき、導光体は省略されて良いことにも留意して欲しい。上述したように、シンチレータ−より具体的にはYAP、YAG、及びプラスチックシンチレータ−は良好な絶縁体である。
【0075】
2つの異なる荷電粒子検出器−面110上のシンチレータにより形成される検出器と検出器116−もまた、(負の電荷を有する)イオン及びそのクラスタと、電子とを区別するのに用いられても良い。その理由は、イオンは、磁場による影響をあまり受けないため、軸からさらに進行することができるが、電子は、磁場によって軸に近接した状態に維持されるからである。
【符号の説明】
【0076】
100 荷電粒子ビーム
102 試料
104 試料キャリア
106 第1電極
108 第2電極
112 絶縁体
114 コイル
116 検出器
202 光子検出器
204 導光体
302 コーティング
304 窓
306 中心穴
402 光軸
404 導光体
406 シンチレータディスク
408 光検出器
410 シリコーンゴム
412 電気的接続
414 ねじ挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源、
試料の保持及び位置設定を行う試料キャリア、
集束静電場を生成する第1電極及び第2電極と、集束磁場を生成する第1磁極片及び第2磁極片を有する前記荷電粒子ビームを前記試料に集束させる対物レンズ、
荷電粒子を検出するための前記第1電極の荷電粒子源側に設けられた検出器、
を有する荷電粒子鏡筒であって、
前記第1電極は前記第2電極と前記試料キャリアとの間に設けられ、
前記第1磁極片は前記第2磁極片と前記試料キャリアとの間に設けられ、
前記集束静電場と前記集束磁場とは重なりを有し、
前記検出器は荷電粒子に対して敏感な表面を有し、
前記第2電極が、前記試料キャリアに対向する電極面を前記第2磁極片と前記試料キャリアとの間に有し、
前記電極面は、前記荷電粒子ビームを通過させる穴を有し。かつ、
前記荷電粒子に敏感な面は、前記電極表面の少なくとも一部を構成する、
ことを特徴とする荷電粒子鏡筒。
【請求項2】
前記第2電極の少なくとも一部が、前記第1磁極片と前記第2磁極片の間に設けられ、かつ、前記第1磁極片は前記第1電極と一致する、
請求項1に記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項3】
前記敏感な表面がシンチレータで、かつ、
前記検出器は光子検出器をさらに有する、
請求項1又は2に記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項4】
前記光子検出器が、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード(APD)、ガイガーモードAPD、多画素光子検出器、CMOSデバイス、CCDデバイス、又は光電子増倍管を有する、請求項3に記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項5】
前記検出器が、前記シンチレータによって生成される光子を、前記光子検出器へ導光する導光体を有する、請求項3又は4に記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項6】
前記検出器が、前記試料に対して高い電位である前記第2電極の面で動作するように備えられ、かつ、
前記光子検出器は地電位で動作する、
請求項3乃至5のいずれかに記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項7】
前記荷電粒子源が電子源で、かつ、
前記荷電粒子ビームは電子ビームである、
請求項1乃至6のいずれかに記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項8】
前記第2電極内部の電場の存在しない領域に別な荷電粒子検出器をさらに有する、請求項1乃至7のいずれかに記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の荷電粒子鏡筒を有する荷電粒子装置。
【請求項10】
前記シンチレータに衝突する荷電粒子が、変換電極によって放出される少なくとも一部の電子で、かつ、
前記電子は、前記変換電極に衝突する正若しくは負のイオン及び/又は電子によって生じる、
請求項8又は9に記載の荷電粒子鏡筒。
【請求項11】
試料から放出される2次電子及び/又は後方散乱電子を検出する方法であって、
当該方法は:
試料位置に試料を供する手順;
荷電粒子ビームを生成する荷電粒子鏡筒を供する手順であって、
前記鏡筒には、前記荷電粒子ビームを前記試料に集束させる対物レンズが備えられ、
前記対物レンズは、集束静電場を生成するため、前記試料付近に位置する第1電極と、前記試料から離れた第2電極を有し、
前記対物レンズは、集束磁場を生成するため、前記試料付近に位置する第1磁極片と、前記試料から離れた第2磁極片を有し、
前記集束静電場及び前記集束磁場は重なりを有する、
手順;
前記試料に対向する前記第1電極の側に荷電粒子検出器を供する手順;
前記試料から放出される2次荷電粒子を、荷電粒子に敏感な表面を有する前記荷電粒子検出器へ向けて加速させる手順;
を有し、
前記第2電極が、前記試料キャリアに対向する電極表面を、前記第2磁極片と前記試料キャリアの間に有し、
前記電極表面は、前記荷電粒子ビームを通過させる穴を有し、かつ、
前記敏感な表面は、前記電極表面の少なくとも一部を構成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記敏感な表面はシンチレータである請求項11に記載の方法であって、
荷電粒子が前記シンチレータに衝突した結果として前記シンチレータによって放出される光子を検出する手順をさらに有する方法。
【請求項13】
前記2次荷電粒子が電子である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記荷電粒子ビームが電子ビームである、請求項11乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記第2電極面上の敏感な表面を用いることによって後方散乱電子を検出する手順;及び
前記第2電極内部の電場が存在しない領域内に設けられた検出器によって2次電子を検出する手順;
を有する、請求項11乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記鏡筒が変換電極を備える装置の一部である請求項11乃至15のいずれかに記載の方法であって、
前記試料から放出される荷電粒子を前記変換電極へ案内する手順であって、前記変換電極は該変換電極上での前記荷電粒子に応答して電子を放出し、前記電子は電子に敏感な検出器へ案内される、手順をさらに有する方法。
【請求項17】
前記試料位置で浸漬磁場を生成する磁気コイルを起動する手順をさらに有する、請求項11乃至16のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−230902(P2012−230902A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100249(P2012−100249)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】