説明

粒子含有試料の固有特性決定方法

【課題】
観測体積内で光子を放出、散乱、及び/又は反射する少なくとも1つの化学種の粒子を含む試料の固有特性を決定する。
【解決手段】
1)式(4)で表される観測時間T内の各時間間隔Δtにおいて記録される光子イベント(photon event)の数n(計数率)を記録及びカウントし、
2)所定の時間間隔Δtにおける光子イベントの数nの分布関数p(n)を決定し、
3)分布関数p(n)と、濃度cと、予め設定された時間間隔Δtにおける光子イベントの数nについての単一粒子分布関数P(n)と、有効体積Veffとの間の理論的関係を使用して、P(n)、Veff、濃度c、及び/又は、これらの特性値を測定されたp(n)にフィッティングすることによりVeff及び/又はP(n)から決定される他の固有特性値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の連続時間内において、観測体積(observation volume)内で光子を放出、散乱、及び/又は反射する少なくとも1つの化学種の粒子を含む試料についてその固有の特性(characteristic property)を決定する方法に関する。さらに、本発明は、異なる連続時間内において同様の粒子を含む試料についてその固有の特性を決定するように拡張し得る。
【背景技術】
【0002】
上記の方法は、広範な適用分野、特に生物物理学及び生化学における標準的な方法として確立されている蛍光揺らぎ分光法(FFS:fluorescence fluctuation spectroscopy)[非特許文献1参照]に基づいている。
高スループットのふるい分け及びオンライン解析で利用するために開発された理論及び具体的手法が蛍光強度分布解析法(FIDA:fluorescence−intensity distribution analysis)として知られている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
単一分子実験においては、状況は以下の通りである。
小さな観測体積V内の分子から放出された光子は、光子用の検出器に衝突する。離散時間点t,i=0,1,2…は、観測時間を一定の時間間隔Δt=[ti−1,t](i=1,2,3…N)に分割する。
時間間隔Δt内でカウントされた光子の数は、数列{n,n,n,…}を提示する。完全な測定は、有限の数の計数率(counting rate)n,n,…nを与える。n個の光子がカウントされる時間間隔の数(#k)は、光子計数分布(photon counting distribution)(#k(n))を与える。
【0004】
列#k(n)の各要素を、式(1)で定義される間隔の総数Nで除算することで、式(2)のように実数p(n)が得られ、この実数は、少なくとも測定された「非常に多い」時間間隔の極限では、時間間隔Δtにおいてn個の光子を測定する確率として解釈することができる。
また、対応する物理的確率分布p(n)は式(3)のように表される。
【0005】
【数1】

【0006】
簡単化のため、すべての光子は、対象分子によって生成されると仮定し、例えば検出器ハードウェア又は散乱光によって生成される背景雑音は、すべて無視する。背景雑音を組み込むことは容易であり、p(n)に対するその影響が後で説明される。
【0007】
FFSにおいて試料の固有特性を決定する方法は、2つの基本ステップを含んで、
1)式(4)で表される観測時間T内の各時間間隔Δt=[ti−1,t](i=1,2,3…N)において記録される光子イベント(photon event)の数n(計数率)を記録及びカウントし、
2)所定の時間間隔Δtにおける光子イベントの数nの分布関数p(n)を決定し、
3)所与の理論モデルが測定されたp(n)の結果を最適な一致(optimal agreement)(以下「フィッティング(fitting)」と呼ばれる)で説明するように、1つ又は複数の対象の特性を決定する。
なお、観測時間は式(4)で表される。
【0008】
【数2】

【0009】
p(n)から取り出すことができる典型的な特性は、
1.純粋溶液における分子の濃度
2.混合物における分子の濃度
3.分子間結合過程(intermolecular binding process)の動力学
4.分子間解離過程(intermolecular dissociation process)の運動速度
5.分子内共形変化(intramolecular conformal change)の運動速度
6.分子の拡散速度
7.分子輝度(molecular brightness)
8.光学セットアップの空間輝度関数(spatial brightness function)
9.分子に特有な一重項状態(singlet state)の存続時間
10.検出器のアフターパルス・レート(after−pulse rate)を含む。
【0010】
FIDAにおいては、理論的な光子カウント分布p(n)は、式(5)に示す母関数(generating function)G(ξ)により計算される。
G(ξ)は、いわゆる空間輝度関数Bに依存する関数上での空間積分の指数関数として表現される。空間輝度関数は、試料内の粒子の座標の正規化関数としての、励起光強度と光学機器による蛍光光の透過係数(transmission coefficient)との積である。
【0011】
【数3】

【0012】
光学機器を特徴付けるために、空間輝度関数Bの単純なモデルが適用され、その調整パラメータは、単一の化学種での実験によって決定される。未知のモデル・パラメータ、濃度c及び特定の輝度値qは、非線形フィッティング手順によって、又は正則化法を用いる逆変換によって決定される。ただし、FIDAの難点は、以下の点にある。
1.母関数手法は、理論モデルをあまり直観的なものにせず、より複雑な応用のために方法を拡張することが難しい。
2.モデルは、未知パラメータc及びqについて非線形の度合いが高く、これらのパラメータの決定は複雑である。
3.各分子の輝度は、すべての化学種に共通な空間輝度関数と、化学種ごとに特徴的な値を有する特定の輝度との積として表現される。化学種が異なれば三重項状態ポピュレーション(triplet state population)は著しく異なるので、すべての測定において、この仮定はある程度は違反される。
4.分子の座標は、計数時間間隔(ビン幅(bin width))の間は変化しないと仮定される。数μsの範囲の非常に短い時間間隔であっても、これは粗雑な近似でしかない。さらに、分子の拡散運動に対するp(n)の依存性は、モデルからは取り出すことができない有用な情報を有している。
【0013】
FIDAへの半経験的な補正係数の導入によって、いわゆる多項目蛍光強度分布解析法(FIMDA:fluorescence intensity multiple distribution analysis)が、拡散時間及び分子輝度の同時決定のために開発された[非特許文献3参照]。FIDAと比較すると、マスタ方程式(Master equation)を介した光子カウント分布の直接計算は、著しく改善されたフィット品質を示す。しかし、そのような数値シミュレーションは非常に遅く、高スループットの応用例には適していない[非特許文献3参照]。
【0014】
FIDA及びその後継の代替方法は、光子カウント・ヒストグラム(photon count histogram)PCHアルゴリズムに基づいている[非特許文献5、非特許文献6、http://www.lfd.uiuc.edu/staff/grattonにおいて入手可能な非特許文献7、及び非特許文献8参照]。
これらの方法は、技術的詳細がFIDAと異なるだけであり、空間レーザ輝度分布の異なる形状を仮定している。PCH法は、商業的用途では僅かな役割しか演じていない。PCH手法では、検出体積をかなり恣意的に選択しなければならない。寄与分子の平均数及び単一分子の光子確率分布などの特性は、どのような物理的意味ももたない抽象的な特性となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO98/16814
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】L.Mandel:Fluctuations of photon beams and their correlations、Proc. Phys. Soc. 72、1037〜1048頁、(1958)
【非特許文献2】Peet Kask、Kaupo Palo、Dirk Ullmann、Karsten Gall:Fluorescence-intensity distribution analysis and its application in biomolecular detection technology、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96、13765〜13761頁、(1999)
【非特許文献3】Kaopo Palo、Ulo Mets、Stefan Jager、Peet Kask、Karsten Gall:Fluorescence intensity multiple distribution analysis:Concurrent determination of diffusion times and molecular brightness、Biophysical J.79、2858〜2866頁、(2000)
【非特許文献4】Kaopo Palo、Ulo Mets、Vello Loorits、Peet Kask:Calculation of photon count number distributions via master equatons、Biophysical J.90、2179〜2191頁、(2006)
【非特許文献5】Yan Cheng、D.Muller Joachi、Peter T.C.So、Enrico Gratton:The photon counting histogram in fluorescence fluctuation spectroscopie、Biophysical J.77、553〜557頁、(1999)
【非特許文献6】Yan Cheng:Analysis and applications of fluorescence fluctuation spectroscopy.PhD thesis、University of Illinois at Urbana-Champain、Urbana、Illinois、(1999)
【非特許文献7】Thomas D.Perroud、Bo Huang、Richard N.Zare:Effect on bin time on the photon counting histogram for one-photon excitation、ChemPhysChem 6、905-912頁、(2005)
【非特許文献8】Y.Cheng、M.Tekmen、L.Hillesheim、J.Skinner、B.Wu、J.Muller:Dual-color photon counting histogram、Biophysical J.88、2177〜2192頁、(2005)
【非特許文献9】Lars Kastrup、Hans Blom、Christian Eggeling、Stefan W.Hell:Fluorescence fluctuation spectroscopy in subdiffraction focal volume、Phys.Rev.Lett.94、(2005)
【非特許文献10】Yan Cheng、Joachim D.Muller、Peter T.C.So、Enrico Gratton:The photon counting histogram in fluorescence fluctuation spectroscopie、Biophysical J.77、553〜557頁、(1999)
【非特許文献11】Bo Huang、Zhomas D.Perroud、Richard N.Zare、Photon counting histogram:One-photon excitation、ChemPhysChem 5、1323〜1331頁、(2004)
【非特許文献12】Bruno Klahn、Werner A.Bingel:The convergence of the Raleigh-Ritz Method in Quantum Chemistry、Theoret.Chim.Acta 44、9〜43頁、(1977)
【非特許文献13】H.P.Dikshit、Charles A.Michelli編:Advances in Computational Mathematics、World Scientific Publishing Co., Inc.(1993)に所収のP.Deuflhard、J.Ackermann:Adaptive Discrete Galerkin Methods FOR Macromolecular Processes
【非特許文献14】J.Ackermann、M.Wulkow:MACRON-A Program Package FOR Macromolecular Reaction Kinectics、Konrad-Zuse-Zentrum、Preprint SC-90-14、(1990)
【非特許文献15】M.Wulkow、J.Ackermann:Numerical Simulation of Macromolecular Kinetics − Recent Developments、IU-PAC Working Party、Macro group、(1990)
【非特許文献16】M.Wulkow、J.Ackermann:The Treatmeant of Macromolecular Processes with Chain-Length-Dependent Reaction Coefficients − An Example from Soot Formation、Konrad-Zuse-Zentrum Berlin、Preprint-91−18、(1991)
【非特許文献17】U.Budde、M.Wulkow:Computation of molecular weight distributions FOR free radical polymerization systems、Chem.Ing.Sci.46、497〜508頁、(1991)
【非特許文献18】M.Wulkow:Numerical Treatment of Countable Systems of Ordinary Differential Equations、Thesis and Technical Report-90-8、Konrad-Zuse-Zentrum Berlin、(1990)
【非特許文献19】M.Wulkow:Adaptive Treatment of Polyreactions in Weighted Sequence Spaces、IMPACT Comput. Sci. Engrg. 4、152〜193頁、(1992)
【非特許文献20】E.Van Craenenbroeck、G.Matthys、J.Beirlant、Y.Engelborghs:“A statistical analysis of fluorescence correlation data”:Journal of Fluorescence、9、325〜331頁、1999
【非特許文献21】Jerker Widengren、Ulo Mets、Rudolf Rigler:Fluorescence Correlation Spectroscopy of Triplet States in Solution:A Theoretical and Experimental Study、Journal of Physical Chemistry、99、13368〜13379頁、(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、光子計数ヒストグラムの事前予測のための改良された理論的プラットフォームを提供することである。本発明のさらなる目的は、FFSに対するより深遠な物理的洞察を提供し、PCH手法を複雑な実験課題に対して直観的に拡張できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の上記の目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決される。
【0019】
有効体積Veffは、光学セットアップによって容易に記述されず、考察される粒子化学種の特性にも依存する。粒子は、それが計数率に寄与する場合に限って、特定の時間間隔の間、この体積の「内部に」存在すると定義される。計数率に寄与する確率は、どの空間位置に見出される粒子についても非ゼロである。したがって、有効体積Veffは、物理的な空間境界によって決定することはできない。それにも関わらず、この体積「に入る」/「から出る」過程は、小さな物理的体積への/からの拡散過程と同様に、確率過程である。誘導放出抑制(STED:stimulated emission depletion)などの技法[非特許文献9参照]は、有効体積を著しく減少させることが可能であることに留意されたい。
【0020】
定義によって、有効体積内部の「単一粒子」は、ゼロの計数率を生じさせることができない。その結果、有効体積内部に「単一粒子」を有するという言葉は、任意の空間体積内に「単一粒子」を有するのとは概念的に非常に異なる。物理的に、確率分布P(n)は、時間間隔Δtの間のすべての光子イベントがもっぱら単一粒子から生じる、非ゼロ計数率だけを考察することによる思考実験において測定することができる。いくつかの粒子から生じる信号の重ね合わせは、無視されなければならない。
【0021】
本発明によれば、粒子化学種、例えば分子化学種は、所与の実験セットアップについて、2つの量、すなわち、有効体積Veff及び単一粒子分布P(n)によって特徴付けられる。2つの量はともに、上述されたような、定義された物理的意味を有する。単一粒子分布P(n)は、その特有の特性P(n=0)=0によって、FIDA及びPCH手法における同じ名前を付された単一粒子分布と区別することができる。
【0022】
eff及びP(n)の知識は、1つ又は複数の化学種(混合物)の分子を含む試料における分子濃度の迅速かつ頑健な決定のために利用することができる。方法は、例えば、アフター・パルシング、分子拡散、又はこれまでのすべての方法、例えば、FIDA、FIMDA、もしくはPCHアルゴリズムなどの適用性を制限する一重項状態励起のような、妨害の影響に対して頑健である。本発明による方法は、FIDA又はPCHアルゴリズムのように、ビン幅を短くすることに限定されない。本発明による方法は、例えば、流動、微細構造、細胞、小胞、エマルジョン、又はゲルのような任意の分子環境に適用可能である(これまでのところ実験的に検証されていない)。
【0023】
本発明による方法は、これまでのすべての方法よりも単純である。技法的に、本発明による方法は、例えば、非線形フィット、母関数、又はモーメント法(method of moments)のような、標準的なフィッティング法と組み合わせることができる。技法的具現化に応じて、本発明による方法は、オンライン診断に適した非常に迅速な方法となる。
【0024】
FIDAにおいては、ある種の分子は、実数値によって与えられる特定の分子輝度によって特徴付けられる。本発明によれば、ある種の分子は、Veff及びP(n)によって完全に特徴付けられる。
【0025】
特性Veff及びP(n)は、例えば、実験セットアップに関係する拡散率又は一重項状態励起確率のような、すべての情報をそれらが含むという意味で豊富である。原理上は、例えば分子などの粒子を特徴付けるすべての情報は、Veff及びP(n)から取り出すことができる。しかし、この情報を取得するには、特定の理論モデルが適用されなければならない。
特性Veff及びP(n)は、いくつかの粒子の同時寄与のためにどのような実験にも存在する平均化プロセスを伴わずに、それらが単一粒子の特性を特徴付けるという意味で純粋である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ポリスチレン微小球含有試料の光強度トレースを示すグラフ。
【図2】図1の100トレースにわたって平均された自己相関カーブを示すグラフ。
【図3】ビン幅Δt=0.1msecについて光子カウント分布p(n,c)を示すグラフ。
【図4】本発明方法によって取得された分子数を示すグラフ。
【図5】輝度値μmax−ビン時間Δtの関係を示すグラフ。
【図6】直径100μm及び75μmのピンホールを用いた場合の輝度関数を示すグラフ。
【図7】ビン時間ΔTに対する各成分の輝度値を示すグラフ。
【図8】フェード・アウト時間τμと輝度値の関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の好ましい一実施形態では、マルコフ過程の理論に基づいて、単一粒子分布関数P(n)は、式(6)で与えられる。
【0028】
【数4】

【0029】
所与のビン幅Δtについての光子計数率nは、空間的に変化するレーザ強度及び光学セットアップの光子収集特性(photon collection property)のために、レーザ焦点に対するすべての分子の位置に強く依存する。レーザ焦点に近い分子は、光子計数率に大きく寄与する一方で、レーザ焦点から遠く離れた分子は、僅かな寄与しかせず、又はまったく寄与しない。
単一分子の寄与は、表面(例えばガラス表面)上又はマトリックス(例えばゲル)内の所与の位置r’においてそれを固定化することによって、測定することができる。このセットアップについて記録される光子カウントnの列は、確率分布p(n)を与える。そのようにして測定された光子カウントの平均値〈n〉は位置(r’)における分子輝度μと呼ばれ、式(7)で表される。
【0030】
【数5】

【0031】
分子輝度μ(r’)の測定は、任意の位置r’について可能であり、μ(r’)の関数形式は、分子の様々な位置についてこの手順を繰り返すことによって、例えば、等距離空間メッシュ上のすべての位置r’についてμを測定し、メッシュ点の間ではμ(r’)を補間することによって、測定することができる。
分子輝度関数μ(r’)の測定は時間を消費し、高価であるので、それは通常、分子蛍光分光法(molecular fluorescence spectroscopy)の理論に基づいたモデルと、空間レーザ光強度の所与のモデルによって近似される。
これに関連して、分子輝度μ(r’)は、例えば、ビン幅Δt、励起波長(λ)における光の空間的分布及び強度、光学セットアップの収集効率関数、検出器の量子効率(q)、横断面(σ)、ならびに所与のタイプの分子の蛍光量子収量(fluorescence quantum yield)(φ)のような、パラメータに依存する。三重項状態励起及び検出器のアフター・パルシングのような効果も同様に、重要な役割を演じることが示された。
【0032】
分子輝度μ(r’)の知識は、実験的光子カウント分布のどのようなアブ・イニシオ予測(ab initio prediction)のためにも必須である。FIDA及びPCHにおいては、μ(r’)についての理論モデルが適用される。これらのモデルにおける自由パラメータは、単一化学種における実験によって決定される。
【0033】
分子輝度関数μ(r’)が、直接測定又は理論モデルによる近似によって分かると仮定した場合、個別分子からn個の光子を測定する確率P(n)は、マンデルの古典公式(Mandel’s classical formula)[非特許文献1参照]により式(8)のように記述される。
【0034】
【数6】

【0035】
残念なことに、確率P(n)についての式(8)は、無限に大きな積分体積Vの極限で、単純解P(n)=δ0nをもたらす。これは、有限体積内の個別分子は、ゼロ濃度に対応し、光子カウント・イベントを生じさせることができないという物理的事実を反映している。一般的な実践は、大きいが有限の体積Vを導入することによって、この難点を回避することであり、例えば、非特許文献10の説明を参照されたい。
【0036】
本発明によれば、PCHアルゴリズムについての上述の問題は、有効体積Veff内での「単一分子」の定義をマンデルの公式に適用することによって回避され、その場合、マンデルの公式は、式(9)で表される。
【0037】
【数7】

【0038】
この式は、P(n)、Veff及びμ(r’)の間の関係を確立し、これらの固有特性のどれか1つを決定するために使用することができる。
【0039】
さらに、マルコフ過程の理論に基づいたポアソン近似は、〈m〉及びVeffについての以下の公式をもたらす。
【0040】
現実の物理状況における非ゼロ濃度cを考慮する場合、各計数率に寄与する分子の平均数〈m〉は、式(10)によって与えられる。
【0041】
【数8】

【0042】
eff:=〈m〉/cの関係より、式(11)が得られる。
【0043】
【数9】

【0044】
上記の式は、〈m〉、μ(r’)及びcの間の理論的関係、ならびにVeff及びμ(r’)の間の理論的関係をそれぞれ確立し、これらの固有特性のどれか1つを決定するために使用することができる。
【0045】
FFSのほとんどの応用例では、同じ化学種の粒子(分子)は、蛍光性であるか、又は蛍光標識を付され、粒子を励起するために、レーザ・ビームが使用される。
輝度関数μ(r’)の最大値は、式(12)で表される分布関数の1次モーメントによって定義される。
【0046】
【数10】

【0047】
非線形フィット手順の代替手順としてのモーメント法の意義が、以下でさらに考察される。
雑音寄与〈n〉noiseが考慮される場合、輝度関数μ(r’)の最大値は、異なる輝度関数の重ね合わせとして式(13)でモデル化される。
【0048】
【数11】

【0049】
代替として、輝度関数μ(r’)は異なる輝度関数の重ね合わせとして式(14)でモデル化される。
【0050】
【数12】

:パラメータ
異なる輝度関数μ(r’)(j=1,2,…,K)
【0051】
各輝度関数μ(r’)(j=1,2,…,K)は、M個の特性パラメータμjk(k=1,2,…,M)によって決定される。
【0052】
輝度関数のポピュラなモデルは、式(15)に表される空間ガウス分布(spatial Gaussian profile)である。
【0053】
【数13】

【0054】
かなり複雑な3次元空間輝度関数を考慮したそのような大胆な近似の限界が、いくつかのグループによって示されており、非特許文献11及び同文献中に記載の文献を参照されたい。
この選択が説明例として正当なものであることを簡単に述べておくのが適当である。
第1に、本発明の我々の手法は、任意の空間輝度関数に適用することができる。
第2に、ガウス関数による近似は、通常は扱いが容易であり、ガウス関数の収縮(contraction)は、積分可能空間関数に収束することが証明されている[非特許文献12参照]。これが、数十年間、それらが現代量子化学において広く利用されてきた1つの理由である。
【0055】
ガウス分布を有効体積及び単一分子関数の定義にそれぞれ挿入すると、座標変換r→μ、及び回転対称上での積分は、式(16)〜(19)で表される。
【0056】
【数14】

【0057】
関数F及びQを計算するために、数値ロンバーグ積分(Numerical Romberg integration)が利用できる。Qは、n≧1の場合に限って有限であり、n=0の場合は発散することに留意されたい。
ガウス形状のμ(r’)に関し、有効体積Veffは、F(μmax)=√(2π)におけるFCSの対応検出体積Vfcs=π3/2と一致する。
すなわち、μmaxのある値について、P(n)は、μmaxについて数値的に安定かつ高速な方法で計算することができ、定義された物理的意味を有する。
【0058】
輝度関数μ(r’)のより正確なモデル化は、式(20)によるガウス分布の重ね合わせにより実行される。
【0059】
【数15】

【0060】
特性パラメータμjk(j=1,2,…,K;k=1,2,…,M)は、標準的なデコンボリューション法(deconvolution method)によって決定される。
特性パラメータμjk(j=1,2,…,K;k=1,2,…,M)は、反復リチャードソン−ルーシ・デコンボリューション・アルゴリズム(interative Richardson-Lucy deconvolution algorithm)によっても決定することができる。
【0061】
上述されたような単一分子関数P(n)及びVeffの理論的計算は、古典マンデル公式に基づいている。しかし、この公式は、ある限界を有する。光子計数率の分布は、光子生成率が時間間隔Δtの間に変化し得るので、ポアソン分布Poi(n,μ(r’))から逸脱することがある。
いくつかの影響が、光子生成率のそのような変化を引き起こし得る。単一分子は、時点tに位置r’から動き始め、時間間隔Δtの間に他の位置まで行くことがある。
空間レーザ強度は変化するので、この拡散過程は、例えば、著しく非一定の光子生成率と、マンデル公式の適用不能(break down)をもたらし得る。そのような場合、マンデルの公式の中のポアソン分布は、より一般的な分布p(n、r’)によって式(21)のように置き換えられなければならない。
【0062】
【数16】

【0063】
分布p(n、r’)の計算は一般に、理論的課題である。分子の拡散運動を考慮するため、分布p(n、r’)は、形式的に式(22)のように書くことができる。
【0064】
【数17】

【0065】
遅い拡散の極限D→0においては、従来のマンデル公式は、式(18)により得られる。この例は、上で導入された単一粒子分布関数P(n)の概念を、どのようにしたら複雑な測定条件に容易に拡張できるかを示している。しかし、P(n)及びVeffは、理論的考察によって獲得可能でない場合、実験的に決定できることに留意されたい。
【0066】
【数18】

【0067】
単一粒子確率分布P(n)から開始して、P(n)と、測定された分布関数p(n)の間の関係は、以下のようにして得られる。
【0068】
現実の物理的状況では、平均数の〈m〉=cVeff個の粒子が、同時に信号に寄与する。マルコフ過程の理論を使用して、所与の濃度cについての確率分布p(n,c)は、m個の粒子すべての寄与を合計することによって、式(24)によって決定される。
【0069】
【数19】

【0070】
一方、p(n,c)は、次の漸化式(25)により計算することができる。
【0071】
【数20】

【0072】
背景雑音を無視すると、粒子の濃度は、計数率をゼロにする確率によって、式(26)で完全に決定される。
【0073】
【数21】

【0074】
背景雑音を考慮する場合、粒子の濃度cは、計数率をゼロにする確率と、雑音寄与〈n〉noiseによって、式(27)のように決定される。
【0075】
【数22】

【0076】
粒子の平均数〈m〉は、計数率をゼロにする確率によって、式(28)のように決定される。
【0077】
【数23】

【0078】
雑音寄与を考慮する場合、粒子の平均数〈m〉は、式(29)のように決定される。
【0079】
【数24】

【0080】
単一粒子確率分布関数P(n)は、次の漸化式(30)で計算することができる。
【0081】
【数25】

【0082】
分布p(n,c)は、付加的な背景信号(例えばハードウェアのランダム雑音)を考慮するために、式(31)のように、ポアソン分布Poi(n,〈n〉noise)とのコンボリューションを行わなければならないことがある。
【0083】
【数26】

【0084】
上記の理論的考察によれば、蛍光粒子(例えば分子)を含む試料は、所与の実験セットアップについて、濃度c、輝度関数μ(r’)、有効体積Veff、及び単一粒子分布P(n)によって特徴付けられる。ほとんどの実験セットアップにおいて、雑音寄与〈n〉noiseは無視することができないので、それも同様に考察しなければならない。FIDA及びPCHアルゴリズムにおいて説明される規約に従って、これらのパラメータは、例えばマルカード−レーベンバーグ・アルゴリズム(Marquard−Levenberg algorithm)などの非線形マルチパラメータ・フィット手順、又はこの作業に適した他の標準的な数値フィット法によって決定することができる。したがって、輝度関数μ(r’)は、多くの調整可能パラメータを有する解析関数によって近似されなければならない。
μ(r’)の解析形式は、上記の例のようなガウス関数、いくつかのガウス関数の収縮、又は他の任意の適切な形状関数として選択することができる。
【0085】
濃度c及び雑音寄与〈n〉noiseばかりでなく、μ(r’)のすべての調整可能パラメータも、測定された分布p(n)に対する理論的モデルの非線形フィットによって決定されなければならない。有効体積Veff及び単一粒子分布P(n)は、上述されたようにμ(r’)を積分することによって直接導かれる。
【0086】
非線形フィット手順の代替手順は、の調整可能パラメータ、濃度c、及び雑音寄与〈n〉noiseの値の任意の組について予想されるモーメントの事前計算リストを利用するモーメント法である。そのようなリストは、パラメータの適切な範囲について事前に計算して保存しておくことができるので、これは、オンライン・アプリケーションのための最高速の可能な手順である。分布p(n)のモーメントは、式(32)で定義される。
【0087】
【数27】

【0088】
、i=1,2,…,kが、決定されるk個のパラメータを表すとする。パラメータaの値の適切な範囲内で、予想モーメントν、i=1,2,…,lが計算できる。パラメータ値a、i=1,2,…,kのすべての可能な組についてのl個の1次モーメントνの事前計算は、写像
(a,a,…,a)→(ν,ν,…,ν
をもたらす。
【0089】
離散パラメータ値のグリッドは、計算労力を低減するが、このグリッド上にないパラメータ値の予想モーメントは、例えばスプライン外挿によって外挿されなければならない。モーメントの数lは、可能な限り小さいが、上記の写像が全単射関数(bijective function)となることを保証するように十分大きく選択される。その場合、写像は、
(ν,ν,…,ν)→(a,a,…,a
に逆転することができ、これは、測定されたモーメントμi, i=1,2,…,lの任意の組に対する要求パラメータを与える。
【0090】
単一粒子確率分布関数のモーメントは、次の漸化式(33)により計算される。
【0091】
【数28】

【0092】
雑音寄与〈n〉noiseは、蛍光粒子を含まない試料の媒液を使用することによって、実験セットアップについて、直接計算することができる。試料の媒液は、同一又は類似の(光学)特性を有する液によって置き換えることもできる。事前に〈n〉noiseを決定することで、このパラメータは、非線形フィット手順及びモーメント法において一定に維持することができる。このようにして、これらの手順において要求されるパラメータの数は、1だけ減らされる。
【0093】
上記の考察は、単一化学種の粒子の試料に関係する。
【0094】
本発明は、N個の異なる化学種の粒子(粒子化学種の混合物)を含む試料にも容易に適用される。
【0095】
粒子化学種の混合物の場合、各化学種の濃度の決定は、多段階手順で行われる。最初に、有効体積Veff(s)及び単一粒子分布P(s)(n)が、混合物及び所与の実験セットアップ内に存在する各化学種sについて測定されなければならない。これは、上述の手順の1つによって行われる。
【0096】
決定された特性Veff(s)、P(s)(n)に基づいて、予想される全分布p(n;c,c,…,c)は、単一化学種寄与p(s)(n;c)、s=1,2,…,Nのコンボリューションによって、式(34)のように表される。
【0097】
【数29】

【0098】
決定されるパラメータは、濃度c、s=1,2,…,Nと、雑音寄与〈n〉noiseである。
【0099】
要求されるパラメータは、理論的モデルに対する測定データの非線形フィットを使用することによって決定することができる。上述された非線形フィット手順と同様に、標準的な数値技法が適用できる。場合によっては、母関数手順は、p(n;c,c,…,c)の計算を高速化することができる。
【0100】
非線形フィッティングの代替として、パラメータは、上述されたモーメント法によって決定することができる。この手順は、p(n;c,c,…,c)のモーメントが、p(s)(n;c)、s=1,2,…,Nのモーメントの積として表現できるという事実によって技法的に簡単化される。
【0101】
eff及びP(n)の測定は、分子の輝度関数についてのモデル又は知識がなくても可能である。これらの特性は、測定された分布p(n,c)の解析によって直接決定することができる。測定された分布は雑音のあるデータであるので、誤差伝播の影響が、P(n)を取り出すための数値的な方法を不安定化することがあり得る。
【0102】
この理由で、P(n)のグローバル表現が有利である。強力な方法は、式(35)の形式のいわゆる離散ガレルキン近似(discrete Galerkin approximation)である。
【0103】
【数30】

【0104】
パラメータp及びλは、P(n)の1次モーメントによって決定される。そのような誤差制御ガレルキン射影(error controlled Galerkin projection)は、数値数学においてよく研究されている方法であり、通常は高分子化学に適用される[非特許文献13〜19参照]。
この近似のパラメータは、フィッティング手順(上述の非線形マルチパラメータ・フィット手順を参照)又は上述のモーメント法に類似したモーメント法によって、p(n,c)から取得することができる。
【0105】
これに関連した有用な特性は、式(36)により定義されるn個の光子を生成する平均分子輝度である。
【0106】
【数31】

【0107】
〈μ〉は、有効光子生成率の観点から空間輝度μ(r’)を特徴付け、式(37)のように確率分布P(n)に結び付けられる。
【0108】
【数32】

【0109】
一般に、分子輝度は、計数率nが低い場合は、〈μ〉≒nのように線形に増大し、励起光焦点の中心において、1つの分子の最大分子輝度にある定数になる。この特性は、〈μ〉=定数という一定の分布を与えるランダム雑音信号から単一分子信号をよく区別できるようにする。
【0110】
本発明の上記及び他の目的、態様、及び利点は、ポリスチレン微小球懸濁液系列(polystyrene micro spheres suspension series)、色素ローダミン6G希釈系列(dye Rhodamine 6G dilution series)、ならびにポリスチレン微小球及びローダミン6G色素の混合物が解析される以下の3つの実施例に基づいて、より良く理解されよう。50μWの強度で532nm励起光を放出する光源、組み込み高感度光電子増倍管、ならびにデジタル相関器を備える従来技術の蛍光分光法ユニットが、実験データを収集するために利用された。使用された蛍光分光法ユニットは、30nsecの反応時間を有する。データ収集は、2つの連続する光子記録の間のクロック・パルスをカウントすることによって達成された。そのような収集データに基づいて、いくつかの光強度トレースが、異なるビン幅Δtについて計算できる。
【実施例1】
【0111】
<微小球懸濁液系列>
第1の実施例として、蛍光ポリスチレン微小球懸濁液系列の解析が実行された。
図1は、モル濃度がc≒1.9E−10Mol/Lのポリスチレン微小球(小球)を含む試料について3.2secにわたって記録された、典型的な光強度トレースを示している。
図2は、(図1に示される3.2secあたり100トレースにわたって平均された)自己相関カーブを示している。
図3は、ビン幅Δt=0.1msecについて、対応する光子カウント分布p(n,c)を示している。
図4は、様々な試料について、本発明による方法によって取得された分子の数(実線)、及び蛍光相関分光法(FCS:fluorescence correlation spectroscopy)によって取得された分子の数(破線)を示している。参考として、理論的な下降勾配(線で結ばれていない四角)も示されている。
【0112】
図1は、モル濃度がc≒1.9E−10Mol/Lであることが知られている0.014μmの小球を含む試料について記録された、典型的な光強度トレースを示している。ビン時間は、1msecに調整された。強度ピークは、共焦点FCS体積(confocal FCS volume)を通過する分子の移動を示している。
【0113】
図2は、(3.2secあたり100ループにわたって平均された)対応する自己相関カーブを示している。フィットは、τ=1.74msecの拡散時間と、共焦点FCS体積におけるn=0.1529の小球をもたらす。いくつかのFCS測定にわたって平均された拡散時間は、τ=1.91±0.33msecを与える。この拡散時間は、小球が共焦点FCS体積を通過するのに必要とする時間を決定する。製造業者の情報によれば、利用された蛍光分光法ユニットは、VFCS≒1フェムト・リットル(fL)のFCS体積を有する。
【0114】
図3は、ビン幅Δt=0.1msecについて、対応する光子カウント分布p(n,c)を示している。確率p(n=0,c)=0.79976は、図1のすべての光子カウントの約80%がゼロであることを意味する。純水を用いた測定は、〈n〉noise=0.0230642の背景雑音レベルを与える。
【0115】
本発明によれば、有効体積Veff内の分子の平均数〈m〉は、式24により、
cVeff=〈m〉=−ln(p(n=0,c))−〈n〉noise=0.20038
で表される。
【0116】
結果として、本発明による有効体積Veffは、
eff=〈m〉/(c)≒1.75fL
で表され、(c=1.9E−10Mol/L、N=6.022E23)の大きさのオーダとなることが分かり、したがって、共焦点FCS体積より僅かに大きい。
データは示されていないが、Veffの値は、ビン幅Δt又は励起光強度を減少(増大)させることによって、減少(増大)させ得ることに留意されたい。一般に、Veffは、分子パラメータばかりでなく、装置パラメータにも依存する。
【0117】
図4には、様々な試料について、標準的なFCS解析によって取得された分子の数(破線)が示されている。各試料について、2つの測定が実行され、各測定は、それぞれ黒丸(測定I)及び星印(測定II)によって示されている。一連の測定は、所定のc=2.44E−8Mol/Lの初期溶液で開始する(段階1)。
【0118】
この初期溶液は、「混合分割(mix and split)」法によって12段階で希釈される。50μLの試料が、50μLの水で希釈され、結果の100μLの半分が、測定用に利用され、残りの半分は、次の「混合分割」段階のための試料として使われる。理想的には、微小球の濃度は、各希釈段階によって2分の1ずつ低下する。段階13において、c=3E−12Mol/Lとなる微小球の最低濃度に達する。図4の対数目盛りでは、標準的なFCSによって取得される小球の数は、線で結ばれていない四角によって示されるように、線形に低下する。
【0119】
この理論的挙動からの小さな逸脱は、一連の「混合分割」段階の間の小体積の取り扱いにおける不確実性からもたらされ得る。しかし、標準的なFCSによって行われた同じ試料の2つの測定の結果が、10%から50%の間で異なっていることは明白である。このばらつきは、決定された小球の数、及びFCSによって取得された濃度の同様な不確実性についてのかなり大きな統計誤差を表す。しかし、濃度が低い場合、FCSの挙動はより激しい。c=3.8E−10Mより低い濃度の場合、FCS法は、正確な濃度を決定することができず、誤った高い値を与える。希釈段階13における試料の場合、FCSは、2桁分高い値を与える。上述されたFCSのこの挙動は、よく知られており、特に濃度が低い場合に、FCS法の深刻な限界を提示する。
【0120】
以下では、本発明の方法が、従来技術のFCS法と比較して、蛍光粒子の数についてはるかに正確な決定をもたらすことが理解されよう。本発明によれば、蛍光粒子の濃度、すなわちVeff内の粒子の数〈m〉は、p(n=0,c)によって決定することができる(上述を参照)。p(n=0,c)は、低濃度状況において高い統計精度で測定できることに留意されたい。対応する分子の数が、図4に示されている(実線)。
【0121】
本発明の方法は、FCS法によって使用されたのと同じ収集データ記録に適用された。したがって、これらの結果を本発明の方法によって取得するために、追加の測定は実行されなかった。FCSによって得られた値と比較すると、〈m〉の統計的ばらつきははるかに小さい(濃度が約c=5E−10Mol/Lの場合の1%から最低濃度c=3E−12Mの場合の10%の間)。より重要なこととして、測定された濃度は、正確な理論的線形低下勾配に従っており、c=3E−12Mの濃度を下回っても、検出限界は見られない。
【実施例2】
【0122】
<色素ローダミン6Gの希釈系列>
同様の結果が、(上記の実施例1と同じ条件で)色素ローダミン6Gの希釈系列についても得られた。ここでは、FCSの検出限界が、装置の感度によって決定され、それはc=3E−9Mol/Lのオーダにある。データは示されていないが、本発明は、FCSの検出限界を下回っても、2%の精度で濃度の測定を可能にすることが分かった。ローダミン6Gの場合、有効体積の値は、蛍光分光法ユニットの所与の装置パラメータについて、Veff≒0.2fLに減少する。
【0123】
蛍光粒子によって生成される光子カウント信号の統計的有意性を高めるには、かなり大きなビン幅を選択するのが有利なことがある。標準的な解析法及びそれらの後継と比較して、本発明は、優れた簡潔性及び精度で、非常に低い濃度の決定を可能にする。
【実施例3】
【0124】
<小球とローダミン6Gの混合物>
小球と色素ローダミン6G(Rh6G)を含む試料の測定は、有効体積における粒子の平均数〈m〉=2.2を与える(上記の実験条件)。この値は、〈m〉FCS=2.35のFCS値に類似している。しかし、パラメータが2つのFCSは、各化学種の濃度を別々に決定することができない。本発明によれば、小球及びRh6Gの濃度は、様々な方法によって決定することができる。1つの方法は、モーメント法を利用するものである。
【0125】
小球及びRh6Gについての単一分子分布の1次モーメントは、
ν(P(beads))=1.55
ν(P(Rh6G))=1.06
で表され、上記の例1及び例2において説明された測定からそれぞれ計算される。
したがって、測定された分布の1次モーメントν(ptot)と単一分子分布のモーメントν(P)の間の関係
ν(ptot)=〈n〉noise+〈m〉ν(P
が適用される。
ν(P(beads))及びν(P(Rh6G))の値は、各化学種をその実際の濃度とは独立に特徴付けることに留意されたい。
混合物について取得された単一分子信号の1次モーメントは、
ν(P(beads+Rh6G))=1.30
で表され、小球のモーメントとも、色素のモーメントともフィットしない。
ν(P(beads+Rh6G))を計算するため、式(38)が適用される。
【0126】
【数33】

【0127】
混合物における信号に対する小球寄与の部分xは、
x:=〈m〉(beads)/〈m〉(beads)+〈m〉(Rh6G)
は、式(39)に示す関係によって容易に決定される。
【0128】
【数34】

【0129】
〈m〉beads=X*〈m〉=0.95
〈m〉Rh6G=(1−X)*〈m〉=1.25
が得られる。
結果の濃度(単位:mol/L)は、
(beads)=〈m〉beads/(Veff(beads)*N)≒1E−9Mol/L
(Rh6G)=〈m〉Rh6G/(Veff(Rh6G)*N)≒1E−8Mol/L
である。
【0130】
データは示されていないが、この試料の希釈系列について測定された濃度は、両方の化学種について正確な濃度低下を再現する。
【0131】
比xを決定するための代替方法は、小球、Rh6G、及び混合物それぞれの単一分子分布の第1の非ゼロ成分P(n=1)の比較である。
測定されたptot(n=1)から単一分子分布P(1)を取得するために、式(40)の関係が適用された。
【0132】
【数35】

【0133】
また、比xは、式(41)で決定され、x≒0.36±0.15の値をもたらす。上述の方法はどちらも、純粋溶液から混合物を区別すること、及び混合物内の各化学種の濃度のオーダを決定することを可能にする。
【0134】
【数36】

【0135】
上述の方法及び実施例は、粒子を含む試料の固有特性を決定するために、固定ビン時間Δtに適用される。これらの特性は、所与のビン時間にわたって記録された光強度トレースから取り出すことができる分子化学種の光物理的属性に依存する。したがって、ビン幅Δtの選択は、上述された方法によって取得される結果に影響を及ぼす。
【0136】
本発明は、適切又は最適なビン幅を決定するため、及び1つの化学種の粒子又はいくつかの異なる化学種の粒子の混合物を含む試料の固有特性E,…EをΔtの関数として決定するための、さらなる方法に拡張される。
【0137】
ビン幅Δtに対する方法の依存性は、分子化学種を、例えば拡散時間など、その動的特性によって特徴付けるために利用することができる。
【0138】
拡散時間の測定のための標準的な方法は、光トレースの時間挙動を利用するが、化学種の異なる光物理的属性は無視する、蛍光相関分光法(FCS)である。結果として、異なる輝度の分子化学種が試料中に存在する場合、FCS法の適用は困難になる[非特許文献20参照]。PCH手法のパラメータに対するビン時間の影響[非特許文献7参照]及びFIDAのパラメータに対するビン時間の影響[非特許文献3参照]が文献において説明されている。
これらの手法は、時間依存光子計数多重ヒストグラム(PCMH:photon counting multiple histograms)及び蛍光強度多重分布解析(FIMDA:fluorescence intensity multiple distribution analysis)とそれぞれ呼ばれる。PCMHとFIMDAは、分子化学種の拡散時間及び分子輝度を同時に測定するために適用された。混合物から濃度を決定するため、及びタンパク質−リガンド相互作用(protein-ligand interaction)の結合定数を決定するための、FIMDAの適用が示された。
【0139】
FIMDAの適用及びPCMHの適用は、いくつかの難点を有する。
1.各ビン幅についての分子輝度の決定は、複雑で時間を要する数値的に非安定な非線形フィッティング手順を必要とする。
2.どちらの方法も、ビン幅に対するモデル・パラメータの依存性を記述するために、複雑な式に依存する。
3.さらに、これらの式は、保存されないその場限りの仮定に基づいている。
【0140】
本発明によるさらなる方法は、本発明による上記の第1の方法によって説明されたような粒子を含む試料の固有特性を、一連の異なる時間幅Δtについて決定することに関する。本明細書では、固定ビン幅について決定される固有特性は、ビン幅Δtの関数として理解される。
【0141】
したがって、本発明のさらなる方法は、以下のステップ、すなわち、
1)式42であらわされる観測時間Tの引き続く所定の時間間隔Δt=[ti−1,t)(i=1,…,N)において記録される光子イベントの数n(計数率)を記録及びカウントし、
2)所定の時間間隔Δtにおける光子イベントの数nの分布関数p(n)を決定し、
3)本発明による上述の第1の方法の他のステップを実行し、また更なるステップとして、
4)異なる時間間隔Δt(k=1,…,K)についてステップ1)からステップ3)をK回繰り返し、これらのステップの各組によって同じ固有特性E,…Eを決定し、
5)Δtに対する特性E,…Eの依存性を決定し、
6)ステップ5)によって測定された依存性から、適切もしくは最適なΔt、又は粒子の他の固有特性を決定するようにした。
【0142】
【数37】

【0143】
ビン時間Δtの関数としての固有特性の知識は、
1.上述された本発明による第1の方法のビン時間について1つの適切又は最適な値を選択するため、
2.分子化学種を特徴付けるため、
3.測定された依存性に所与の解析関数をフィッティングすることによって別の固有特性を取得するため、
4.混合物中の分子化学種を同定し、それらの濃度を計算するため、に利用することができる。
【0144】
時間間隔(ビン幅)Δt(k=1,…,K)は、10−6秒から数秒の間で選択することができる。
【0145】
固有特性の一例は、ビン幅が短いと高く、ビン幅が長くなると低下する(実施例4を参照)、単一分子の有効輝度である。輝度のこの低下は、レーザ焦点から遠ざかる可視分子の拡散から生じる。したがって、輝度の最大レベル及び輝度の勾配は、分子化学種を特徴付ける。
【0146】
個々のビン幅は、例えば、k=0,…,72として、Δt=0.8secのように、対数目盛り上で等距離になるように選択することができる。
【0147】
ビン幅に対する最大輝度μmaxの依存性は、特定の化学種の分子の輝度及びサイズに特徴的な、実験的なダイイング・アウト関数(dying-out function)をもたらす。測定された依存性を用いたそのような関数の計算は、高速で(数秒以内に)実行することができる。原理的に、ビン幅Δtに対するそのような依存性は、本発明の第1の方法によって上で説明された、単一化学種の粒子のすべての特性について決定することができる。
【0148】
所与の解析関数は、標準的なフィッティング手順によって、ビン幅Δtに対する固有特性の測定された依存性にフィットさせることができる。
【0149】
固有特性は、測定される試料中の分子の特定の化学種とすることができる。
【0150】
さらに、固有特性は、試料中のいくつかの化学種の分子の、混合物内における部分濃度とすることもできる。
【0151】
測定された依存性は、分子の特定の化学種を同定するため、又は試料中の分子の部分濃度を特定するために、すでに測定された依存性又は理論的関数と比較することができる。
【0152】
ビン幅Δtに対する固有特性の測定された依存性は、試料中の分子の部分濃度のために、分子の特定の化学種を決定するための非線形フィット手順によって、すでに測定された依存性又は理論的関数の重ね合わせと一致させることができる。
【0153】
本発明による方法の特定の応用では、分布関数p(n,Δt)(k=1,…,K)が測定され、最大輝度μmax(Δt)が、適切なフィッティング手順を用いて、p(u,Δt)から固有特性として決定される。
【0154】
上記の方法は、時間極限Δt→0におけるμmax(Δt)、拡散運動、拡散時間τ、及び/又は装置の構造パラメータSPを、適切なフィッティング関数によって、μmax(Δt)から決定することをさらに含むことができる。
【0155】
さらなるステップとして、試料中の特定の化学種の粒子のフェード・アウト時間(fade-out time)τμ及び/又は分率が、μmax(Δt)から決定できる。
【0156】
本発明による方法のさらなる実施例では、いくつかの化学種の粒子を含む試料が測定でき、その場合、μmax(Δt)が決定され、試料中の化学種sのモル分率Xは、先に測定又は他の方法で決定されたμmax,s(Δt)によって式(43)で決定される。
【0157】
【数38】

【0158】
代替として、μmax,s(Δt)が決定でき、試料中の化学種のモル分率Xが、式(44)を境界条件とするパラメータ0≦X≦1(s=1,…,S)を有する非線形フィットによって決定される。
【0159】
【数39】

【0160】
以下のさらなる実施例4及び5では、ビン幅Δtの値に対する特性の依存性が説明される。
【実施例4】
【0161】
固有特性のための説明的な一例は、式(45)によって計算される輝度値μmaxである。
【0162】
【数40】

【0163】
上式において、高輝度、すなわちν(p)≫〈n〉noiseである場合、雑音寄与〈n〉noiseは、無視することができる。上記の式によって計算されるこの輝度値μmaxは、ガウス分布μ(r’):=μmaxexp(−2r/a)を示す輝度関数μ(r’)の最大値であるが、同様に他の分布タイプのための固有輝度値でもある。
モル濃度がc=56E−10Mである色素ATTO 532(ATTO TEC、ジーゲン、ドイツ)を含む試料が、ConSense検出システム(FluIT Biosystems、ザンクト・アウグステン、ドイツ、http://www.fluit-biosystems.de)において測定された。
蛍光光強度のトレースが、3分間にわたって記録され、Virtual Labソフトウェア(FluIT Biosystems)によって解析された。確率分布p(n,c)が、1sから数μs(10−6s)の範囲の様々なビン時間について構成された。具体的には、Δt=Δt0.8、n=1,2,3,…,72、Δt=1sという別個のビン時間を選択する。各ビン時間及び対応する確率分布p(n,c)について、輝度値μmaxが、p(n,c)の1次及び2次モーメントを介して計算された(上記の式を参照)。μmaxの取得された値は、適用されたビン時間に依存し、図5においては、μmaxが、Δtに対してプロットされている。結果として、固有特性μmaxは、Δtの関数として理解され、この関数は、以下ではμmax(Δt)によって表される。
【0164】
最大輝度μmaxは、レーザ焦点の中心における単一分子の輝度として解釈することができる。拡散によって、中心に見出された単一分子は、中心から遠ざかり、(カウント毎秒cpsを単位とする)その輝度は減少する。結果として、ビン時間Δtが長くなると、測定される有効最大輝度μmax(Δt)は低下する。ビン時間が短い場合、有効最大輝度は大きくなる。
【0165】
化学種の(有効)輝度の値は、ビン幅Δtに依存する。図5においてプロットされたカーブは、式(46)で表される解析関数にフィットすることができる。
【0166】
【数41】

【0167】
パラメータμmax(Δt=0)、τμ、及びSPは、短いビン時間の極限における最大輝度、フェード・アウト時間、及び光学セットアップの構造パラメータをそれぞれ表す。フィットは、輝度値μmax(Δt=0)=15.1kcps、フェード・アウト時間τμ=0.731ms、及び構造パラメータ2を与える。
【0168】
輝度値μmax(Δt=0)及びフェード・アウト時間τμは、所与の光学セットアップにおける分子化学種についての固有特性である。輝度値μmax(Δt=0)は、分子の光物理的特性と、最大局所レーザ光強度に依存する。フェード・アウト時間τμは、分子の拡散定数、すなわち分子の流体力学的半径(hydro-dynamical radius)と、共焦点検出体積(confocal detection volume)に比例する。
【0169】
光学セットアップの影響を説明するため、モル濃度が3.0・10−11Mの色素ATTOを含む試料が、2回測定された。1回目は、背景雑音を低減するために、直径100μmのピンホールが利用され、試料の蛍光光強度のトレースが、ConSense検出システムを用いて、3分間にわたって記録された。2回目のセットアップでは、同一の試料が、直径75μmのピンホールを代わりに用いて、30sにわたって測定された。蛍光光強度のトレースはどちらも、上述されたように解析され、両セットアップについて取得された輝度関数が、図6に示されている。ピンホール直径の100μmから75μmへの直径の減少は、フェード・アウト時間τμの0.567msから0.343msへの低下ももたらす。より小さなピンホール直径は、より小さな検出体積寸法をもたらし、したがって、フェード・アウト時間の減少をもたらす。
【実施例5】
【0170】
試料中の異なる分子化学種を区別するため、ビン時間に対する固有特性の依存性が利用できる。第1のステップにおいて、固有特性と、ビン時間に対するそれらの依存性が、すべての可能な分子化学種についてプローブ内で測定されなければならない。典型的な状況が、図7及び図8(Table 1)に略述されている。
【0171】
輝度関数μmax(Δt)が、蛍光色素について測定され、パラメータμmax(Δt=0)及びτμが、実施例4において説明されたような非線形フィットによって決定された。抗体が、この色素によって標識付けされた。抗体は色素よりはるかに大きいので、標識付けされた抗体について測定されたフェード・アウト時間τμ=255μsは、純粋色素について測定されたフェード・アウト時間τμ=33μsよりはるかに長い。標識付けされた抗体は、フェード・アウト時間ばかりでなく、より高い輝度値によっても色素から区別可能である。大抵、各抗体分子は2つの色素分子によって標識付けられるが、このことは、抗体の高い輝度値μmax(Δt=0)によって示される。
【0172】
他方、抗体は、タンパク質に結合することができる。抗体+タンパク質の複合体を特徴付けるため、タンパク質が、試料に過剰に与えられた。タンパク質分子は標識付けされておらず、蛍光抗体に結合されていない場合は暗いことに留意されたい。より長いフェード・アウト時間τμ=663μsは、複合体の増大した直径に対応する。タンパク質の結合は、抗体分子の輝度値を減少させ、それは、タンパク質が2つの色素分子の一方に取って代わったことを示す。
【0173】
タンパク質は、重合体に結合することができる。溶液に重合体を過剰に追加することで、抗体+タンパク質+重合体の複合体(及び暗い分子)だけを含む試料がもたらされる。その長いフェード・アウト時間τμ=1611μsによって示されるように、この複合体は、かなり大きい。輝度値の減少は、電子三重項状態における分子のかなり高いポピュレーションによって説明することができる。三重項存続期間及びポピュレーションは、非特許文献21において説明されるように、輝度に対する三重項状態の影響をモデル化し、非線形フィッティング法を適用することによって、取得することができる。
【0174】
1つのビン時間において異なる複合体を区別するために、適切又は最適なビン時間Δtを選択することができる。したがって、各化学種の輝度値が互いによく分離されるビン時間が、選択されなければならない。すべての成分が異なる輝度値を有するΔTによる一例が、図7に示されている。図7を見ると、悪い選択はΔTであり、その理由は、このビン時間では、抗体+タンパク質+重合体の複合体及び色素が同じ輝度を有するからである。
【0175】
抗体とタンパク質と重合体の混合物では、図8(Table 1)に列挙された複合体が出現し得る。混合物内のこれらの複合体の各々のモル濃度を決定するために、ビン時間に対する単一分子の固有特性の依存性を利用することができる。標準的な希釈系列による結合定数の測定にとって、これは特に重要である。所定の個別輝度関数μmax,s(Δt)、s=1,2,…,Sを有するS個の異なる化学種の混合物を含む試料の輝度カーブは式(47)で与えられる。
【0176】
【数42】

【0177】
パラメータX、s=1,2,…,Sは、非線形フィットにより決定され、式(48)のように成分sの相対モル分率を表す。
【0178】
【数43】

【0179】
本例では、成分の数は4である(図8(Table 1)参照)。非線形フィッティング・アルゴリズムによって対応するモル分率X、s=1,2,3,4を取得するために、図7に示された4つの輝度関数が適用されなければならない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測体積内で光子を放出、散乱、及び/又は反射する少なくとも1つの化学種の粒子を含む試料の固有特性を決定する方法であって、
1)式(4)で表される観測時間Tの引き続く時間間隔Δt=[ti−1,t)(i=1,2,3…)において記録される光子イベントの数n(計数率)を記録及びカウントし、
2)所定の時間間隔Δtにおける光子イベントの数nの分布関数p(n)を決定し、
3)前記分布関数p(n)と、前記濃度cと、思考実験で予想される予め設定された時間間隔Δtにおける光子イベントの数nについての単一粒子分布関数P(n)と、有効体積Veff:=〈m〉/c(〈m〉は各計数率に対する粒子寄与の平均数)との間の理論的関係を使用して、P(n)、Veff、濃度c、及び/又は、これらの特性値を測定されたp(n)にフィッティングすることによりVeff及び/又はP(n)から決定される他の固有特性値を決定する
ことを特徴とする粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数2】

【請求項2】
請求項1記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、前記単一粒子分布関数P(n)が、マルコフ過程の理論に基づいて、式(6)によって与えられ、
μ(r’)が位置r’における単一粒子による光子イベントの平均値によって定義される粒子の輝度関数を表し、ポアソン分布は、Poi(n,μ)=exp(−μ)μ/n!である粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数4】

【請求項3】
請求項1又は2記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、前記輝度関数μ(r’)が、複数の位置r’についてμを測定し、これらの位置の間ではμを補間することによって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項4】
請求項1又は2に記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、前記輝度関数μ(r’)が、分子蛍光分光法の理論に基づいたモデルと、空間レーザ光強度の所与のモデルによって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
(n)が、前記輝度関数μ(r’)によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項6】
請求項1〜4のいずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
effが、前記輝度関数μ(r’)によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項7】
請求項1又は2記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記輝度関数μ(r’)が、P(n)又はVeffによって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項8】
請求項7記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
(n)又はVeffが、直接測定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
同じ化学種の粒子は、蛍光性であるか、又は蛍光標識を付され、レーザ・ビームによって励起される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項10】
請求項9記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記輝度関数μ(r’)の最大値が、前記分布関数の1次モーメントによって、式(12)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数10】

【請求項11】
請求項9記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記輝度関数μ(r’)の最大値が、前記分布関数の1次モーメントと、雑音寄与によって、式(45)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数40】

【請求項12】
請求項9記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
輝度関数μ(r’)が異なる輝度関数の重ね合わせによって式(13)のようにモデル化される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数11】

【請求項13】
請求項12記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
各輝度関数μ(r’)が、所与の数のM個の特性パラメータμjk(k=1,2,…,M)によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項14】
請求項9記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記輝度関数μ(r’)が、空間ガウス分布によって式(15)のようにモデル化される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数13】

【請求項15】
請求項9記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記輝度関数μ(r’)がガウス分布の重ね合わせによって、式(20)のようにモデル化される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数15】

【請求項16】
請求項13記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記特性パラメータμjk(j=1,2,…,K;k=1,2,…,M)が、標準的なデコンボリューション法によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項17】
請求項13記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記特性パラメータμjk(j=1,2,…,K;k=1,2,…,M)が、反復リチャードソン−ルーシ・デコンボリューション・アルゴリズムによって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項18】
請求項1記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記単一粒子分布関数P(n)が式(21)で与えられる粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数16】

【請求項19】
請求項1〜18いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
マルコフ過程の理論に基づいて、確率分布関数p(n,c)と前記単一粒子分布関数P(n)の間の以下の理論的関係式(24)が使用される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数19】

【請求項20】
請求項1〜19いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記確率分布関数p(n,c)が次の漸化式(25)により計算される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数20】

【請求項21】
請求項1〜20いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
粒子の前記濃度cが、前記計数率をゼロにする確率によって式(26)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数21】

【請求項22】
請求項1〜21いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
粒子の前記濃度cが、前記計数率をゼロにする確率と、前記雑音寄与〈n〉noiseによって式(27)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数22】

【請求項23】
請求項1〜22いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
粒子の前記平均数〈m〉が、前記計数率をゼロにする確率によって式(28)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数23】

【請求項24】
請求項1〜22いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
粒子の前記平均数〈m〉が、前記計数率をゼロにする確率p(n=0,c)と前記雑音寄与〈n〉noiseによって式(29)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数24】

【請求項25】
請求項1〜24いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記単一粒子確率分布関数P(n)が、次の漸化式(30)により計算される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数25】

【請求項26】
請求項1〜25いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記分布関数p(n,c)が、付加的な背景信号(例えばハードウェアのランダム雑音)を考慮するために、ポアソン分布Poi(n,〈n〉noise)とのコンボリューションを通して式(31)で決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数26】

【請求項27】
請求項1〜26いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
請求項1のステップ(3)による前記固有特性が、標準的な非線形マルチパラメータ・フィット手順によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項28】
請求項1〜26いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
請求項1のステップ(3)による前記固有特性が、標準的なモーメント法によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項29】
請求項28いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記単一粒子確率分布関数のモーメントが、漸化式(33)により計算される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数28】

【請求項30】
請求項24,26、29いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記雑音寄与〈n〉noiseが、請求項1のステップ(3)において〈n〉noiseを一定に維持するため、前記化学種の粒子を含まない試料の媒液を使用することによって、又は試料として同一もしくは類似の特性を有する液を使用することによって直接測定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項31】
観測体積内で光子を放出、散乱、及び/又は反射するN個の異なる化学種の粒子の混合物を含む試料の固有特性を決定する粒子含有試料の固有特性決定方法であって、単一化学種寄与p(s)(n;c)が、請求項1〜30のいずれかに従って、前記混合物内に存在する各化学種sについての所定の有効体積Veff(S)及び単一粒子分布P(S)(n)ならびに所与の実験セットアップによって決定されることによって、前記混合物の全体的な分布関数p(n;c,c,…,c)が、前記単一化学種寄与p(s)(n;c)、s=1,2,…,Nのコンボリューションによって、式(34)で決定される、粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数29】

【請求項32】
請求項31記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記パラメータc、s=1,2,…,N及び前記雑音寄与〈n〉noiseが、理論的モデルに対する前記所定のパラメータの非線形フィットを使用することによって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項33】
請求項31又は32記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
p(n;c,c,…,c)の計算が、母関数手順によって高速化される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項34】
請求項31又は32記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
p(n;c,c,…,c)のモーメントが、p(s)(n;c)、s=1,2,…,Nのモーメントの積として表現されることによって、要求されるパラメータが、モーメント法によって決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項35】
観測体積内で光子を放出、散乱、及び/又は反射する少なくとも1つの化学種の粒子を含む試料の固有特性E,…Eを決定する粒子含有試料の固有特性決定方法であって、
1)式(42)で表される観測時間Tの引き続く所定の時間間隔Δt=[ti−1,t)(i=1,…,N)において記録される光子イベントの数n(計数率)を記録及びカウントし、
2)前記所定の時間間隔Δtにおける光子イベントの数nの分布関数p(n)を決定し、
3)請求項1〜34いずれか記載の他のステップを実行し、
さらなるステップとして、
4)異なる時間間隔Δt(k=1,…,K)について前記ステップ1)からステップ3)をK回繰り返し、これらのステップの各組によって同じ固有特性E,…Eを決定し、
5)Δtに対する前記特性E,…Eの依存性を決定し、
6)ステップ5)によって測定された前記依存性から、最適なΔt又は前記粒子の他の固有特性を決定する
ことを含む粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数37】

【請求項36】
請求項35記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記時間間隔Δt(k=1,…,K)が、10−6秒から1秒の間である粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項37】
請求項35又は36記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記時間間隔Δt(k=1,…,K)が、対数目盛り上で等距離になるように選択される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項38】
請求項37記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
Δt=0.8sec(k=0,…,72)である粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項39】
請求項35〜38いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
所与の解析関数が、標準的なフィッティング手順によって、ステップ5)によって測定された前記依存性にフィットさせられる粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項40】
請求項35〜39いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
ステップ4)及び5)による前記固有特性E,…Eの1つが、前記試料中の前記粒子の特定の化学種である粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項41】
請求項35〜40いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
ステップ4)及び5)による前記固有特性E,…Eの少なくともいくつかが、前記試料中のいくつかの化学種の粒子の、混合物内における部分濃度である粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項42】
請求項35〜41いずれか記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
ステップ5)によって測定された前記依存性が、粒子の特定の化学種を同定するため、又は前記試料中の特定の化学種の粒子の部分濃度を特定するために、すでに測定された依存性又は理論的関数と比較される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項43】
請求項39記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
前記測定された依存性が、粒子の特定の化学種又は前記試料中の特定の化学種の粒子の部分濃度を決定するための非線形フィッティングによって、すでに測定された依存性又は理論的関数の重ね合わせと一致させられる粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項44】
請求項42記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
適切なフィッティング手順を用いることによりp(u,Δt)から固有特性として、前記分布関数p(n,Δt)(k=1,…,K)が測定されると共に、最大輝度μmax(Δt)が決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項45】
請求項44記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
さらなるステップとして、極限Δt→0におけるμmax(Δt)、拡散運動、拡散時間τ、及び/又は装置の構造パラメータSPが、適切なフィッティング関数によって、μmax(Δt)から決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項46】
請求項44又は45記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
さらなるステップとして、前記試料中の特定の化学種の粒子のフェード・アウト時間τμ及び/又は分率が、μmax(Δt)から決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。

【請求項47】
請求項44記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
いくつかの化学種の粒子を含む試料を用いた場合に、先に測定され又は他の方法で決定されたμmax,s(Δt)を用いて、式(43)に基づき、μmax(Δt)が決定され、前記試料中の化学種sのモル分率Xが決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数38】

【請求項48】
請求項44記載の粒子含有試料の固有特性決定方法において、
いくつかの化学種sの粒子を含む試料を用いた場合に、式(44)で表される境界条件においてパラメータ0≦X≦1(s=1,...,S)としたときの非線形フィットによって、μmax(Δt)が決定され、前記試料中の前記化学種のモル分率Xが決定される粒子含有試料の固有特性決定方法。
【数39】




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−515031(P2010−515031A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543396(P2009−543396)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011448
【国際公開番号】WO2008/080612
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509181655)フルイトバイオシステムズ ゲゼルシャフトミットベシュレンクターハフトゥング (1)
【Fターム(参考)】