説明

粒子捕捉材及びその製造方法

【課題】繊維の破片の発生が効果的に抑制された粒子捕捉材を提供する
【解決手段】第一のフッ素樹脂から形成され開口11が形成された第一の基部材10と、第二のフッ素樹脂から形成され前記開口11の一方側を覆うように配置された第二の基部材20と、1又は複数の無機繊維シート40を含み前記第一の基部材10と前記第二の基部材20とに挟まれた無機繊維層と、を有し、前記無機繊維層において、1又は複数の前記無機繊維シートの一部が前記開口から露出し、前記一部を囲む前記無機繊維シート40の外周部には、融点が前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い第三のフッ素樹脂が含浸されている粒子捕捉材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子捕捉材及びその製造方法に関し、特に、粒子を捕捉するための無機繊維を含む粒子捕捉材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置のように、内部の雰囲気を真空に維持しつつ、当該内部で所定の処理が行われる装置においては、汚染の原因となる粒子を捕捉する必要がある。そこで、従来、例えば、特許文献1において、ステンレスフェルト又はフッ素樹脂のフェルトから成る綿状体を粒子捕捉材として用いることが記載されている。このような粒子捕捉材を装置に取り付ける場合には、例えば、当該装置の形状に合わせて当該粒子捕捉材を切断したり、当該粒子捕捉材に固定用のビス穴を形成する等、当該粒子捕捉材に必要な加工が施される。
【特許文献1】特開2007−180467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来、粒子捕捉材が粒子を捕捉するための繊維を含む場合、当該粒子捕捉材に切断や穴あけ等の加工を施すことにより、当該粒子捕捉材から当該繊維の破片が発生して汚染源となってしまうことがあった。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、繊維の破片の発生が効果的に抑制された粒子捕捉材及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る粒子捕捉材は、第一のフッ素樹脂から形成され開口が形成された第一の基部材と、第二のフッ素樹脂から形成され前記開口の一方側を覆うように配置された第二の基部材と、1又は複数の無機繊維シートを含み前記第一の基部材と前記第二の基部材とに挟まれた無機繊維層と、を有し、前記無機繊維層において、1又は複数の前記無機繊維シートの一部が前記開口から露出し、前記一部を囲む前記無機繊維シートの外周部には、融点が前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い第三のフッ素樹脂が含浸されていることを特徴とする。本発明によれば、繊維の破片の発生が効果的に抑制された粒子捕捉材を提供することができる。
【0006】
また、前記無機繊維シートの前記外周部には、前記第一の基部材側及び前記第二の基部材側の両方から前記第三のフッ素樹脂が含浸されていることとしてもよい。こうすれば、外周部からの繊維片の発生をより確実に回避することができる。また、前記第三のフッ素樹脂から形成され前記第一の基部材の前記開口に対応する開口が形成された溶融シートを溶融させることにより、前記無機繊維シートの前記外周部に前記第三のフッ素樹脂が含浸されていることとしてもよい。こうすれば、粒子を捕捉するために露出させる無機繊維シートの一部の形状や面積を確実に制御することもできる。また、前記第一の基部材は、前記第一のフッ素樹脂の多孔質体であり、前記第二の基部材は、前記第二のフッ素樹脂の多孔質体であり、前記第一の基部材及び前記第二の基部材と前記無機繊維層とは前記第三のフッ素樹脂により接着していることとしてもよい。こうすれば、粒子捕捉材の柔軟性を高めることができるとともに、第一の基部材及び第二の基部材と無機繊維層との強固な接着をより確実に達成することもできる。また、前記第一のフッ素樹脂及び前記第二のフッ素樹脂は、いずれもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、前記第三のフッ素樹脂は、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)であることとしてもよい。こうすれば、粒子捕捉材からのアウトガスの発生を効果的に回避できるとともに、当該粒子捕捉材の耐薬品性及び耐熱性を向上させることもできる。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る粒子捕捉材の製造方法は、第一のフッ素樹脂から形成され開口が形成された第一の基部材と、第二のフッ素樹脂から形成され前記開口の一方側を覆うように配置された第二の基部材と、の間に、融点が前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い第三のフッ素樹脂から形成され前記第一の基部材の前記開口に対応する開口が形成された溶融シートを少なくとも一対配置するとともに、前記一対の溶融シートの間に、一部が前記第一の基部材の前記開口から露出するように無機繊維シートを配置して積層体を形成する積層工程と、前記積層体を、前記第三のフッ素樹脂の融点以上、前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い温度で加熱しながらプレスすることにより、前記溶融シートを溶融させて、前記一部を囲む前記無機繊維シートの外周部に、前記第三のフッ素樹脂を含浸させる加熱プレス工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、繊維の破片の発生が効果的に抑制された粒子捕捉材の製造方法を提供することができる。
【0008】
また、前記積層工程において、前記第一の基部材と前記第二の基部材との間に、各々が一対の前記溶融シートに挟まれた複数の無機繊維シートを配置し、前記加熱プレス工程において、前記複数の無機繊維シートの各々の前記外周部分に、前記第一の基部材側及び前記第二の基部材側の両方から前記第三のフッ素樹脂を含浸させることとしてもよい。こうすれば、外周部からの繊維片の発生がより確実に回避された粒子捕捉材の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係る粒子捕捉材(以下、「本捕捉材」という。)、及び粒子捕捉材の製造方法(以下、「本製造方法」という。)について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、本捕捉材1の外観の一例を示す説明図である。図2は、図1に示す本捕捉材1の断面を示す説明図である。図3は、図1に示す本捕捉材1の製造に用いられる部材の外観を示す説明図である。図4は、図3に示す部材の断面を示す説明図である。図5は、本製造方法における加熱プレスの一例を示す説明図である。なお、以下の説明において、2つ以上の同様の要素については、これらの要素を互いに区別しない場合には単に数字のみを付して示し(例えば、「40」)、これらの要素を互いに区別する場合には、当該数字に小文字のアルファベットを付して示す(例えば、「40a」、「40b」)こととする。
【0011】
図1及び図2に示すように、本捕捉材1は、第一の基部材(以下、「上基部材10」という。)と、第二の基部材(以下、「下基部材20」という。)と、当該上基部材10と下基部材20とに挟まれた無機繊維層30と、を有している。この本捕捉材1は、図3及び図4に示すように、上基部材10と、下基部材20と、2つの無機繊維シート40と、3つの溶融シート50と、を積層して製造される。
【0012】
上基部材10は、第一のフッ素樹脂から形成されている。また、下基部材20は、第二のフッ素樹脂から形成されている。第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂としては、それぞれ本捕捉材1に要求される特性に応じて選択される適切なフッ素樹脂を用いることができる。第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂とは同じ種類のフッ素樹脂とすることができ、又は互いに異なる種類のフッ素樹脂とすることもできる。
【0013】
具体的に、第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、充填材含有PTFE(ガラスファイバー等の充填材を混合したPTFE)からなる群から選択される1種類のフッ素樹脂又は2種類以上を組み合わせたフッ素樹脂を用いることができる。これらの中でも特にPTFEを好ましく用いることができる。第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂としてPTFEを用いる場合には、上基部材10及び下基部材20からのアウトガスの発生を効果的に回避することができる。
【0014】
上基部材10及び下基部材20は、本捕捉材1に要求される特性に応じて選択される適切な成形方法により形成することができる。具体的に、上基部材10及び下基部材20は、例えば、それぞれ第一のフッ素樹脂の多孔質体及び第二のフッ素樹脂の多孔質体とすることができる。第一のフッ素樹脂の多孔質体及び第二のフッ素樹脂の多孔質体は、例えば、延伸法により成形することができる。すなわち、例えば、第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂がPTFEである場合には、ナフサ等の助剤を添加した乳化重合PTFEの微粉末から押出機及びカレンダーロールを用いて予備成形体を成形し、当該予備成形体を延伸し、さらに高温で熱処理することにより、PTFEの多孔質シートを成形することができる。上基部材10及び下基部材20が多孔質体である場合、本捕捉材1は柔軟性を備えることができる。
【0015】
上基部材10には、開口11が形成されている。すなわち、本実施形態において、上基部材10は、その中央に矩形の開口11が形成された枠状の成形体である。一方、下基部材20に上基部材10の開口11に対応する開口は形成されていない。すなわち、本実施形態において、下基部材20は、上基部材10の開口11の一方側を覆うように配置することのできる板状の成形体である。なお、上基部材10及び下基部材20の厚さは、本捕捉材1に要求される特性に応じて任意に設定することができる。例えば、上基部材10及び下基部材20の厚さを無機繊維シート40及び溶融シート50のいずれよりも大きくすることにより、当該上基部材10及び下基部材20は、本捕捉材1の骨格を構成する支持部材として好ましいものとなる。
【0016】
無機繊維シート40は、無機繊維から形成されている。無機繊維シート40を構成する無機繊維は、本捕捉材1に要求される特性に応じて選択される適切な無機繊維を用いることができる。具体的に、無機繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ガラス繊維、シリカ繊維を用いることができる。無機繊維シート40には、上基部材10の開口11に対応する開口は形成されていない。すなわち、本実施形態において、無機繊維シート40は、上基部材10の開口11の一方側を覆うように配置することのできる織布又は不織布である。なお、無機繊維シート40の厚さは、本捕捉材1に要求される特性に応じて任意に設定することができるが、例えば、上基部材10及び下基部材20の厚さより小さくすることができる。
【0017】
溶融シート50は、第三のフッ素樹脂から形成されている。第三のフッ素樹脂は、その融点が第一のフッ素樹脂の融点及び第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低いフッ素樹脂である。第三のフッ素樹脂としては、本捕捉材1に要求される特性に応じて選択される適切なフッ素樹脂を用いることができる。
【0018】
具体的に、第三のフッ素樹脂としては、例えば、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群から選択される1種類のフッ素樹脂又は2種類以上を組み合わせたフッ素樹脂を用いることができる。これらの中でもETFE、FEPを好ましく用いることができ、特にETFEを好ましく用いることができる。第三のフッ素樹脂としてETFEを用いる場合には、無機繊維層30からのアウトガスの発生を効果的に回避することができる。
【0019】
さらに、第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂としてPTFEを用い、第三のフッ素樹脂としてETFEを用いる場合には、本捕捉材1からのアウトガスの発生を確実に回避することができる。また、この場合、本捕捉材1は、優れた耐薬品性及び耐熱性を備えることもできる。このため、例えば、本捕捉材1に対して洗浄等の目的で薬品処理や熱処理を施すことができる。
【0020】
溶融シート50は、本捕捉材1に要求される特性に応じて選択される適切な成形方法により形成することができる。具体的に、溶融シート50は、例えば、第三のフッ素樹脂のフィルム成形により形成されたフィルム状の成形体とすることができる。
【0021】
溶融シート50には、上基部材10の開口11に対応する開口51が形成されている。すなわち、本実施形態において、溶融シート50は、その中央に、上基部材10の開口11と同一形状の矩形の開口51が形成された枠状のシートである。なお、溶融シート50の厚さは、本捕捉材1に要求される特性に応じて任意に設定することができるが、例えば、上基部材10及び下基部材20の厚さより小さくすることができる。また、この溶融シート50の厚さを無機繊維シート40と同程度とすることにより、当該無機繊維シート40に適切な量の第三のフッ素樹脂を含浸させることができる。
【0022】
本製造方法に含まれる第一の工程(以下、「積層工程」という。)においては、まず、図3及び図4に示す部材を、同図に示す順に積み重ねて、図5に示すような積層体60を形成する。すなわち、本実施形態においては、上基部材10と下基部材20との間に、各無機繊維シート40が一対の溶融シート50によって挟まれるよう、溶融シート50と無機繊維シート40とを交互に配置する。
【0023】
具体的に、上基部材10側に配置される無機繊維シート(以下、「上繊維シート40a」という。)は、当該上基部材10側に配置される溶融シート(以下、「上溶融シート50a」という。)と、中間に配置される溶融シート(以下、「中溶融シート50c」という。)と、の間に配置される。一方、下基部材20側に配置される無機繊維シート(以下、「下繊維シート40b」という。)は、当該下基部材20側に配置される溶融シート(以下、「下溶融シート50b」という。)と、中溶融シート50cと、の間に配置される。
【0024】
また、上繊維シート40aの一部は、上基部材10の開口11から露出するよう配置される。すなわち、本実施形態においては、上繊維シート40aのうち、上基部材10の開口11に対応する中央の矩形部分(以下、「中央部41a」という。)が、当該開口11から露出する。本捕捉材1においては、この上繊維シート40aの中央部41aと、当該中央部41aに対応する下繊維シート40bの中央の矩形部分(以下、「中央部41b」という。)と、が粒子を捕捉する部分として機能する。
【0025】
本製造方法に含まれる第二の工程(以下、「加熱プレス工程」という。)おいては、上述の積層体60を加熱しながらプレスする処理(以下、「加熱プレス」という。)を行う。図5に示す例においては、離型紙として用いる一対の樹脂フィルム70a,70bを積層体60の上方側(上基部材10側)及び下方側(下基部材20側)に配置し、当該一対の樹脂フィルム70a,70bの上方側及び下方側に一対の金属板71a,71bを配置し、さらに当該一対の金属板71a,71bの上方側及び下方側に一対の加熱プレス器具72a,72bを配置している。また、一対の金属板71の間であって積層体60の周囲には、加熱プレス後の当該積層体60の厚さ(積層方向における長さ)を制限するためのスペーサ−73a,73bが配置されている。
【0026】
加熱プレス工程においては、まず、加熱プレス器具72により金属板71を加熱して、積層体60を、第三のフッ素樹脂の融点以上、第一のフッ素樹脂の融点及び第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い温度で加熱する。具体的に、例えば、第一のフッ素樹脂及び第二のフッ素樹脂がPTFEであり、第三のフッ素樹脂がETFEである場合には、加熱時の温度は、ETFEの融点以上であって、PTFEの融点未満となる。この加熱によって、積層体60を構成する部材のうち、溶融シート50のみを選択的に溶融させることができる。
【0027】
加熱プレス工程においては、さらに、一対の加熱プレス器具72により、溶融シート50を溶融させる上記の加熱下で、部材が積層される方向に積層体60を圧縮する。すなわち、このプレスによって、上基部材10と下基部材20との間で、溶融した一対の溶融シート50と、当該一対の溶融シート50に挟まれた無機繊維シート40と、は所定の圧力で圧接される。なお、スペーサー73a,73bを用いることにより、例えば、プレスされる面積が互いに異なる複数の積層体60を一対の加熱プレス器具72a,72bの間に配置して同時に加熱プレスする場合において、各積層体60の潰される量(プレスにより減じられる厚さ)を一定としつつ、一定の荷重でプレスすることができる。また、積層体60を加熱プレスする方法は、加熱プレス器具72を用いる方法に限られず、例えば、所定の重りを載せた積層体60を電気炉の中で加熱することにより、溶融シート50を溶融させるとともに、当該重りによる荷重によって当該積層体60をプレスする方法を用いることもできる。
【0028】
このような加熱プレスによって、無機繊維シート40のうち中央部41を囲む枠状の部分(以下、「外周部42」という)に、第三のフッ素樹脂を含浸させる。具体的に、本実施形態においては、各無機繊維シート40の外周部42に、上方側及び下方側の両方から第三のフッ素樹脂を含浸させる。
【0029】
すなわち、上繊維シート40aの外周部42aには、上方側から上溶融シート50aを構成する第三のフッ素樹脂が含浸されるとともに、下方側からは中溶融シート50cを構成する第三のフッ素樹脂が含浸される。一方、同様に、下繊維シート40bの外周部42bには、上方側から中溶融シート50cを構成する第三のフッ素樹脂が含浸されるとともに、下方側からは下溶融シート50bを構成する第三のフッ素樹脂が含浸される。
【0030】
この結果、本実施形態においては、各無機繊維シート40の外周部42には、当該各無機繊維シート40の厚さ方向の全域に第三のフッ素樹脂を含浸させることができる。こうして、無機繊維シート40と溶融シート50とが一体化された無機繊維層30を形成することができる。
【0031】
図6には、図2に示す本捕捉材1の断面のうち無機繊維層30の断面を選択的に示す。図6に示すように、無機繊維層30は、上基部材10の開口11から露出して粒子を捕捉する捕捉部31と、当該捕捉部31を囲む外周部32と、を有している。
【0032】
捕捉部31は、無機繊維シート40の中央部41を積層することにより形成されている。また、外周部32は、第三のフッ素樹脂が含浸された無機繊維シート40の外周部42を積層することにより形成されている。
【0033】
この無機繊維層30の外周部32においては、その積層方向の全域に第三のフッ素樹脂が含浸されている。すなわち、この外周部32においては、上基部材10側の端面(以下、「外周部上面33」という。)から、下基部材20側の端面(以下、「外周部下面34」という。)まで、第三のフッ素樹脂が充填されている。
【0034】
このような本製造方法により製造される本捕捉材1においては、無機繊維の破片の発生を効果的に抑制することができる。すなわち、無機繊維層30において、各無機繊維シート40の外周部42には第三のフッ素樹脂が含浸されている。このため、例えば、本捕捉材1の外周部42の一部を切断する場合や、当該外周部42に貫通穴を形成する場合においても、当該外周部42からの無機繊維の破片の発生を効果的に回避することができる。したがって、例えば、いったん製造した本捕捉材1の一部を、設置する環境に応じて切断して、その形状及び大きさを任意に調整することができる。
【0035】
特に、本実施形態においては、各無機繊維シート40の外周部42の上方側及び下方側の両方から第三のフッ素樹脂が含浸され、無機繊維層30の上方端33から下方端34まで第三のフッ素樹脂が充填されている。このため、本捕捉材1においては、無機繊維層30に含まれている無機繊維のほつれ、及び無機繊維の破片の飛散を確実に防止することができる。
【0036】
また、本捕捉材1において、上基部材10及び下基部材20と無機繊維層30とは、第三のフッ素樹脂により接着されている。すなわち、本製造方法においては、加熱プレスによって、第三のフッ素樹脂を無機繊維シート40の外周部42に含浸させるとともに、上基部材10及び下基部材20と当該外周部42とを第三のフッ素樹脂により溶着することもできる。
【0037】
具体的に、上基部材10と、無機繊維層30の外周部上面33と、は加熱プレス時に溶融された上溶融シート50aの第三のフッ素樹脂により接着される。一方、下基部材20と、無機繊維層30の外周部下面34と、は加熱プレス時に溶融された下溶融シート50bの第三のフッ素樹脂により接着される。
【0038】
ここで、例えば、上基部材10が第一のフッ素樹脂の多孔質体であり、下基部材20が第二のフッ素樹脂の多孔質体であり、当該上基部材10及び下基部材20と無機繊維層30とが第三のフッ素樹脂により接着している場合には、いわゆるアンカー効果によって、高い接着力を実現することができる。すなわち、この場合、加熱プレス時に、上基部材10及び下基部材20の表面に開口している孔内に、溶融された第三のフッ素樹脂の一部が浸入することにより、上基部材10及び下基部材20がPTFEの非多孔質体である場合に比べて、より低い加熱温度で当該上基部材10及び下基部材20と無機繊維シート40とを強固に接着することができる。
【0039】
さらに、上基部材10及び下基部材20がPTFEの多孔質体である場合には、上基部材10及び下基部材20がPTFEの非多孔質体である場合に比べて、加熱時の変形率(熱膨張率又は熱収縮率)が小さい。このため、上基部材10及び下基部材20の変形によって、無機繊維層30の捕捉部31に含まれる無機繊維シート40にしわが発生することを効果的に回避することができる。
【0040】
また、上基部材10及び下基部材20が多孔質体である場合には、上基部材10及び下基部材20が非多孔質体である場合に比べて、本捕捉材1の柔軟性を向上させることができる。このため、本捕捉材1を、湾曲した表面等、比較的複雑な形状の表面に沿って適切に設置することもできる。また、下基部材20には開口が形成されていないことにより、他の表面に対する本捕捉材1の設置を容易に且つ確実に行うことができる。
【0041】
また、本捕捉材1は、第三のフッ素樹脂から形成され上基部材10の開口11に対応する開口51が形成された溶融シート50を用いて製造されるため、捕捉部31の面積を確実に制御することができる。
【0042】
すなわち、例えば、第三のフッ素樹脂の分散液(ディスパージョン)、又は第三のフッ素樹脂の粉末を用いた場合には、当該溶液又は粉末が無機繊維シート40の外周部42のみならず中央部41にまで浸出してしまう。これに対し、第三のフッ素樹脂から形成された溶融シート50を用いる場合には、当該第三のフッ素樹脂を無機繊維シート40の外周部42にのみ選択的に含浸させることができる。したがって、本製造方法によれば、粒子を捕捉できる所望の面積の捕捉部31を備えた本捕捉材1を確実に製造することができる。
【0043】
本捕捉材1の用途は、微粒子の捕捉を目的とする用途であれば特に限られない。例えば、本捕捉材1は、内部の雰囲気が真空等の低圧に維持される装置において、当該低圧雰囲気下で発生する微粒子を捕捉するために好ましく用いることができる。すなわち、本捕捉材1は、例えば、半導体の製造において、エッチング、スパッタリング、化学気相成長(CVD)等の処理を行う真空処理装置の内部に設置することができる。
【0044】
具体的に、本捕捉材1は、例えば、半導体処理装置において、エッチング等の真空処理を行う真空処理室、当該真空処理室への半導体ウエハの搬入及び搬出を行うにあたって当該真空処理室の真空度が低下することを回避するために設けられる真空予備室、当該真空処理室又は真空予備室に接続された排気管の内部に設置することができる。
【0045】
図7には、本捕捉材1が設置された半導体製造装置80の一例を示す。図7に示す半導体製造装置80は、半導体ウエハWの処理を行う処理室81と、当該処理室81から延びる排気管82と、を備えている。処理室81内には、半導体ウエハWを載置するステージを有する下部電極部83と、当該下部電極部83に対向する上部電極部84と、が設けられている。
【0046】
処理室81においては、下部電極部83及び上部電極部84に高周波電力を印加してプラズマを発生させることにより、半導体ウエハWのエッチングを行うことができる。この半導体製造装置80内の雰囲気は、エッチングに適した真空雰囲気に維持される。そして、半導体製造装置80内で発生した汚染源となる微粒子を回収するため、排気管82はポンプ等の吸引装置(不図示)に接続される。
【0047】
しかしながら、排気管82を通って排出された微粒子は、例えば、吸引装置の一部に衝突して跳ね返る等の原因により、再び処理室81に戻ってくる場合がある。そこで、図7に示すように、複数の本捕捉材1a,1b,1cを、排気管82の内面85に沿って配置する。
【0048】
そして、半導体製造装置80内で発生した微粒子を、本捕捉材1の捕捉部31(図1及び図6参照)で捕捉する。すなわち、例えば、上基部材10の開口部11から、本捕捉材1の捕捉部31に衝突した微粒子は、無機繊維シート40の中央部41を構成する無機繊維により捕捉され、無機繊維層30内に保持される。
【0049】
次に、本捕捉材1及び本製造方法の具体的な実施例について説明する。
【0050】
[実施例]
上基部材10としては、PTFEの延伸法により成形された長方形の多孔質シート(80mm×120mm、厚さ1.0mm)を用いた。この上基部材10には、長方形の開口11(20mm×60mm)が形成されていた。すなわち、この上基部材10は、幅が30mmの枠状のシートであった。下基部材20としては、上基部材10と同様の長方形のPTFE多孔質シート(80mm×120mm、厚さ1.0mm)であって開口が形成されていないものを用いた。
【0051】
無機繊維シート40としては、アルミナ繊維から形成された長方形のシート(80mm×120mm、厚さ0.12mm)を3つ用いた。溶融シート50としては、ETFEのフィルム成形により形成され、長方形の開口51(20mm×60mm)が形成された長方形のフィルム(80mm×120mm、厚さ0.1mm)を4つ用いた。
【0052】
そして、上基部材10と下基部材20との間に、3つの無機繊維シート40の各々が一対の溶融シート50で挟まれるように、当該溶融シート50と無機繊維シート40とを交互に配置し、図5に示したような積層体60を形成した。
【0053】
さらに、この積層体60を図5に示すような加熱プレス器具72に挟んだ。なお、樹脂フィルム70としてはポリイミドフィルム(厚さ0.1mm)を用い、金属板71としてはステンレス板(厚さ5.0mm)を用い、スペーサー73としてはステンレス板(厚さ1.5mm)を用いた。
【0054】
加熱プレスにおいては、まず、加熱温度260℃にて19トンの力で積層体60に加熱プレスを施した。次いで、加圧状態を維持したまま、加熱温度を30分かけて260℃から290℃に上昇させた。290℃の加熱温度を30分間維持した後、加熱温度を60分かけて290℃から30℃に低下させた。その後、30℃にてプレスを解除した。加熱プレス後の本捕捉材1の厚さは約1.2mmであった。
【0055】
図8には、製造された本捕捉材1のうち、無機繊維層30の外周部32を切断した断面を撮影した電子顕微鏡写真の一例を示す。図8に示すように、上基部材10としてのPTFE多孔質シートP1と、下基部材20としてのPTFE多孔質シートP2と、の間に、当該上基部材10側の無機繊維シートA1、真ん中の無機繊維シートA2、当該下基部材20側の無機繊維シートA3が積層されていることが確認された。
【0056】
また、PTFE多孔質シートP1と無機繊維シートA1との間で溶融された溶融シートE1、当該無機繊維シートA1と無機繊維シートA2との間で溶融された溶融シートE2、当該無機繊維シートA2と無機繊維シートA3との間で溶融された溶融シートE3、及び当該無機繊維シートA3とPTFE多孔質シートP2との間で溶融された溶融シートE4の痕跡が認められた。これらの4つの溶融シートE1,E2,E3,E4は、加熱プレスによって無機繊維シートA1,A2,A3の無機繊維間及びPTFE多孔質シートP1,P2の孔内に含浸されていた。また、本捕捉材1の外周部32には、その積層方向の全域にETFEが含浸されていた。
【0057】
なお、本発明は上述の例に限られない。すなわち、本捕捉材1に含まれる無機繊維シート40の数は、2又は3に限られず、1又は2以上の任意の数とすることができる。また、上基部材10及び下基部材20は、多孔質の成形体に限られず、例えば、いずれも非多孔質の成形体とすることができ、又は一方が多孔質体で他方が非多孔質体とすることもできる。また、本捕捉材1及び捕捉部31の形状は矩形に限られず、例えば、他の多角形、円形、楕円形とすることができる。また、本捕捉材1は、図7に示すように装置の内面に沿って設置されるものに限られず、例えば、装置内に立設することもできる。
【0058】
また、本製造方法は、複数対の溶融シート50を用いるものに限られず、例えば、積層された複数の無機繊維シート40を一対の溶融シート50で挟み、加熱プレスによって当該複数の無機繊維シート40の外周部42に第三のフッ素樹脂を含浸させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る粒子捕捉材の外観の一例を示す説明図である。
【図2】図1に示す粒子捕捉材の断面を示す説明図である。
【図3】図1に示す粒子捕捉材の製造に用いられる部材の外観を示す説明図である。
【図4】図3に示す部材の断面を示す説明図である。
【図5】本実施形態に係る粒子捕捉材の製造方法における加熱プレスの一例を示す説明図である。
【図6】図2に示す粒子捕捉材の断面のうち無機繊維層の断面を選択的に示す説明図である。
【図7】本実施形態に係る粒子捕捉材が設置された半導体製造装置の一例を示す説明図である。
【図8】本実施形態に係る粒子捕捉材の断面の電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 粒子捕捉材、10 上基部材、11 開口、20 下基部材、30 無機繊維層、31 捕捉部、32 外周部、33 外周部上面、34 外周部下面、40 無機繊維シート、41 中央部、42 外周部、50 溶融シート、51 開口、60 積層体、70 樹脂シート、71 金属板、72 加熱プレス器具、73 スペーサー、80 半導体製造装置、81 処理室、82 排気管、83 下部電極部、84 上部電極部、85 排気管内面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のフッ素樹脂から形成され開口が形成された第一の基部材と、
第二のフッ素樹脂から形成され前記開口の一方側を覆うように配置された第二の基部材と、
1又は複数の無機繊維シートを含み前記第一の基部材と前記第二の基部材とに挟まれた無機繊維層と、
を有し、
前記無機繊維層において、1又は複数の前記無機繊維シートの一部が前記開口から露出し、前記一部を囲む前記無機繊維シートの外周部には、融点が前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い第三のフッ素樹脂が含浸されている
ことを特徴とする粒子捕捉材。
【請求項2】
前記無機繊維シートの前記外周部には、前記第一の基部材側及び前記第二の基部材側の両方から前記第三のフッ素樹脂が含浸されている
ことを特徴とする請求項1に記載された粒子捕捉材。
【請求項3】
前記第三のフッ素樹脂から形成され前記第一の基部材の前記開口に対応する開口が形成された溶融シートを溶融させることにより、前記無機繊維シートの前記外周部に前記第三のフッ素樹脂が含浸されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された粒子捕捉材。
【請求項4】
前記第一の基部材は、前記第一のフッ素樹脂の多孔質体であり、
前記第二の基部材は、前記第二のフッ素樹脂の多孔質体であり、
前記第一の基部材及び前記第二の基部材と前記無機繊維層とは前記第三のフッ素樹脂により接着している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された粒子捕捉材。
【請求項5】
前記第一のフッ素樹脂及び前記第二のフッ素樹脂は、いずれもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、
前記第三のフッ素樹脂は、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された粒子捕捉材。
【請求項6】
第一のフッ素樹脂から形成され開口が形成された第一の基部材と、
第二のフッ素樹脂から形成され前記開口の一方側を覆うように配置された第二の基部材と、の間に、
融点が前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い第三のフッ素樹脂から形成され前記第一の基部材の前記開口に対応する開口が形成された溶融シートを少なくとも一対配置するとともに、
前記一対の溶融シートの間に、一部が前記第一の基部材の前記開口から露出するように無機繊維シートを配置して積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を、前記第三のフッ素樹脂の融点以上、前記第一のフッ素樹脂の融点及び前記第二のフッ素樹脂の融点のいずれよりも低い温度で加熱しながらプレスすることにより、前記溶融シートを溶融させて、
前記一部を囲む前記無機繊維シートの外周部に、前記第三のフッ素樹脂を含浸させる加熱プレス工程と、
を含む
ことを特徴とする粒子捕捉材の製造方法。
【請求項7】
前記積層工程において、前記第一の基部材と前記第二の基部材との間に、各々が一対の前記溶融シートに挟まれた複数の無機繊維シートを配置し、
前記加熱プレス工程において、前記複数の無機繊維シートの各々の前記外周部分に、前記第一の基部材側及び前記第二の基部材側の両方から前記第三のフッ素樹脂を含浸させる
ことを特徴とする請求項6に記載された粒子捕捉材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−241008(P2009−241008A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93404(P2008−93404)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】