説明

粒子線による再スキャン方法のための照射または照射計画

本発明は、目標体積の照射計画方法に関するものであり、この方法では、個別に走査可能な目標点を備える目標領域が設定され、目標領域が繰り返しスキャンされる再スキャン試行の数が、該目標領域の目標点が再スキャン試行中に異なる頻度で走査されるように設定され、これにより該目標点の少なくとも一部が各再スキャン試行の際に走査されないようにされ、ここで目標点の走査は、各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点において、この目標点が走査される最後の再スキャン試行の前に、この目標点が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が行われるように分散される。本発明はさらに、対応する照射方法、対応する照射計画装置、照射装置を制御するための対応する制御装置、ならびにこの種の照射装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標体積の照射計画方法、目標体積内の目標領域を照射する方法、照射計画装置、照射装置用の制御装置、ならびに再スキャン照射方法を実現または可能にするこの種の制御装置を備える照射装置に関する。この種の照射方法は、とりわけ運動する目標体積を照射し、目標体積の運動に起因する照射不正確性を補償するために使用される。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は、組織、とりわけ腫瘍患者を治療するための確立された方法である。しかし粒子線治療で使用されるような放射方法は、非治療分野でも使用される。たとえば非生体のファントムまたは物体で実施される粒子線治療の枠内での製品開発のための調査作業、材料の照射等がある。
【0003】
ここでは荷電された粒子、たとえばプロトンまたは炭素イオンまたはその他のイオンが高エネルギーに加速され、粒子線に形成され、高エネルギー照射輸送システムを介して1つまたは複数の照射空間に供給される。照射空間では、照射すべき目標体積が粒子線により照射される。
【0004】
ここでは照射すべき目標体積が運動することがある。たとえば患者を照射する際に照射すべき腫瘍の運動が呼吸運動によって引き起こされることがある。この種の運動は、ファントムと称される研究目的のモデル対象物に基づいてもシミュレートすることができる。
【0005】
とりわけ、多数の照射線量が目標体積内の異なる個所に逐次蓄積されるべき照射方法では、すなわち粒子線がスキャンされる場合には、目標体積が照射の進行中に運動すると、目標体積内で所望の均一な線量分布を達成することが困難である。
【0006】
したがって粒子線がスキャンされる場合には、適用すべき線量を複数の試行に分散することができる。この方法は、「再スキャニング」の名前でも知られている。これは、目標領域が繰り返し走査され、繰り返し適用された複数の個別線量により、そこでの全線量が再スキャン試行中に逐次形成されることを意味する。これの利点は、ただ1回の試行では線量が完全に失敗して蓄積されることになるような線量デポジットでのエラーが、複数のラスタスキャン試行によりある程度まで平均化されることである。目標体積を基準にする位置不安定性、目標体積の運動等も少なくとも部分的に補償することができる。
【0007】
オンラインで公開されたSilvan Zenklusenらの「Preliminary investigation for developing repainted beam scanning on the psi gantry 2」(http://ptcog.web.psi.ch/ptcog47_talks.htmlで入手可)と題する講演は、各再スキャン試行の際に複数の再スキャン試行で繰り返しスキャンされる領域の各目標点に、上限、すなわち「上側線量限界」より小さい線量を常に適用するという改善策を提案する。目標点は連続する再スキャン試行で、その目標線量に達するまで照射される。引き続く再スキャン試行ではこの目標点がさらなる照射から除外される。すなわちこの目標点はそれ以上走査されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開公報20080078942号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Preliminary investigation for developing repainted beam scanning on the psi gantry 2(http://ptcog.web.psi.ch/ptcog47_talks.htmlで入手可)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、再スキャンの際に照射装置を高速に有利に制御することのできる照射計画方法ないしは照射方法を提供することである。さらに本発明の課題は、対応する照射計画装置、照射装置用の制御装置および照射装置を調達することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、独立請求項の対象によって解決される。本発明の好ましい構成は従属請求項に記載されており、以下詳細に説明する。個々の特徴の前記および以降の説明は、個別にはいずれの場合でも明示的に述べられていなくても、装置カテゴリーにも方法カテゴリーにも関連するものである。そこに開示された個々の特徴は、示された組合せ以外でも本発明に重要なものであり得る。
【0012】
本発明による目標体積の照射計画方法は、以下のステップを含む:
・個別に走査可能な目標点を備える目標領域を設定するステップ、
・目標領域が繰り返しスキャンされる再スキャン試行の数を、目標領域の目標点が再スキャン試行中に異なる頻度で走査されるように設定し、これにより目標点の少なくとも一部が各再スキャン試行の際に走査されないようにするステップ、
ここで目標点の走査は、各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点において、この目標点が走査される最後の再スキャン試行の前に、この目標点が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来るように複数の再スキャン試行に分散される。
【0013】
ここで照射すべき目標体積は通例、多数の目標領域に分割される。照射セッション中に、目標領域は再スキャン方法で照射される。すなわち複数の再スキャン試行により照射される。ここで目標領域は通例、逐次走査される。すなわち1つの目標領域が再スキャン方法で走査されたら直ちに、次の目標領域が再び再スキャン方法で走査される等々。
【0014】
とりわけ、目標領域に対して設定される線量分布は不均一であってもよい。目標体積に対して適用されるべき全線量が均一の線量分布を有している場合であっても、目標領域に対して適用すべき線量分布が不均一であることが必要な場合もある。これは目標領域の一部が、別の目標領域の照射中にすでに予備線量により占められているためである。ここで線量分布は、適用すべき粒子数に対する尺度となり得る。線量分布は、目標体積、目標体積内に蓄積すべき線量および/または組織内に蓄積される線量の有効作用(たとえば生物学的効果比(RBWまたはRBE)の記述により特徴付けることのできる)に関する計画設定を考慮して計画フェーズで求めることができる。
【0015】
本発明の方法では、目標領域に対する線量分布が、この目標領域の目標点が再スキャン試行中に異なる頻度で走査されることによって適用される。ここで「目標点の走査」とは、この目標点に個別線量が適用されること、またはこれが計画されることであると理解されたい。とりわけ不均一な線量分布をこのようにして簡単に適用することができる。たとえば比較的高い総線量が施される目標点は、再スキャン試行中に、比較的低い総線量が施される目標点よりも全体でより頻繁に走査される。
【0016】
目標領域の目標点を異なる頻度で走査することにより、目標点の少なくとも一部が特定の再スキャン試行では走査されなくなる。たとえば全部で10の再スキャン試行が行われるが、1つの目標点が全部で7回しか走査すべきでない場合、この目標点を走査しない、すなわち飛ばす再スキャン試行が3つ存在する。
【0017】
本発明の基礎とするアイデアは、各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点において、この目標点が走査される最後の再スキャン試行の前に、この目標点が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来るように目標点の走査が複数の再スキャン試行に分散されると有利であることである。このことはたとえば、この目標点が最初の再スキャン試行では走査されないことにより達成することができる。しかしこのことは、少なくとも2つの再スキャン試行で走査される目標点では、これら2つの再スキャン試行の間にこの目標点が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来るようにしても達成できる。
【0018】
再スキャンの際に目標点が異なる頻度で走査されるとたしかに有利である。すなわちこのことにより不均一な線量適用が保証され、同時に、目標点に適用される個別線量が、測定装置による個別線量の適用の確実な監視がもはや保証できなくなるほど小さくならないように注意することが可能になるからである。
【0019】
しかし、再スキャン試行の繰り返しの際に、目標点ごとに適用される総線量までこの目標点が走査され、この目標点が以降の再スキャン試行ではそれ以上走査されないことが問題であることも認識された。この「融通のきかない」スキームによって、1つの再スキャン試行で走査される目標点が大量に間引かれる。しかしこれは照射装置にとっては不利である。目標点が間引かれる比較的後の再スキャン試行で、たとえば目標点の残った島から次の残った島に達するために放射線を過度に頻繁に遮断しなければならない場合、このことが照射時間を延長する。
【0020】
この融通のきかないスキームは、本計画法によって打破される。これにより、目標点の照射が比較的後の時点、すなわち比較的後の再スキャン試行にずらされる。これにより前記の不利な作用を減少または回避することができる。
【0021】
たとえば比較的後の再スキャン試行で初めて走査される目標点は、後の再スキャン試行の残った島を繋げるために使用することができる。これにより、比較的後の再スキャン試行中に走査される放射線経路をフレキシブルに最適化することができる。比較的後の再スキャン試行の残った島を繋げるために複数の目標点が使用される通例の場合であっても、目標領域の幾何形状と適用すべき線量分布の配置関係に応じて、比較的後の再スキャン試行中に初めて走査される個々の目標点がすでに、再スキャン試行の実施の改善をもたらすことができる。
【0022】
しかし、再スキャン試行中に走査すべき目標点は、再スキャン試行ごとにできるだけ均等に多数の目標点が走査されるように分散することもできる。すなわち各試行で走査される目標点の数が実質的に同じであるように分散することもできる。この実質的に均等の分散は、「間引き」が発生しないか、または非常に少量しか発生しないようにする。このことはたとえば、各再スキャン試行で走査されない目標点が1つまたは複数存在することによって達成できる。目標点および目標点ごとの走査の数は、再スキャン試行にわたってランダムに分散することができる。
【0023】
目標点を複数の再スキャン試行に分散するための1つの可能性は、スキャン経路を考慮して分散を行うことである。すなわち、1回の再スキャン試行で走査すべき目標点が走査されるスキャン経路が、前もって規定された基準を満たすように分散するのである。たとえば目標点の分散後に、そこから得られたスキャン経路が各再スキャン試行で、前もって規定された基準を満たすか否かを検査することができる。これが満たされない場合、目標点の分散を変更することができる。また分散は、実行すべきアルゴリズムで目標点と再スキャン試行の特定の組合せが許容されない、または罰せられるように前もって構成することもできる。
【0024】
前もって規定された基準は、たとえば1つのスキャン経路で連続して走査すべき2つの目標点の間隔が閾値以下であることとすることができる。たとえば2つの目標点の最大間隔が20mm以下、とりわけ10mmまたは5mm以下であるように設定することができる。すなわちこの場合、2つの目標点の間で放射線を遮断することが必然的に必要とならずにスキャンを行うことができる。他の可能な基準は、スキャン経路の走査の際に必要な放射線の遮断回数が最小であるか、または閾値以下であることである。
【0025】
有利な変形実施形態では、1つの目標点において適用すべき総線量が、この目標点が1回の再スキャン試行で走査されるときに常に適用されるこの目標点での適用すべき個別線量の整数倍であるように計画方法が構成される。この制限は、各目標点ですべての個別線量を常に適用することができるという利点を有する。場合により所要の精度で監視できないため時折、問題となる個別線量の端数を適用することが、これにより回避される。
【0026】
この変形実施形態も、開示された方法に関係なく実現することができる。これは、再スキャン方法のための再スキャンまたは照射計画の際に、目標点ごとの総線量と個別線量の比が整数であることだけが許容されることを意味する。このようにして目標点ごとに常にすべての個別線量が適用されることを保証することができる。この種の構成は、たとえば照射パラメータの決定の際の自由度を制限する周辺条件を設定することにより実現される。たとえば目標点の空間的位置は、この設定が満たされるように選択することができる。整数比が基礎である個別線量は、すべての照射計画に対して同じに選択することができる。または照射計画の異なる部分に対しては、たとえば異なる目標領域に対しては異なっていてもよい。
【0027】
個別線量は、これが閾値のわずかに上であるように選択するのが有利である。すなわちこれにより、線量適用を正確に監視できることが保証される。すなわち個別線量が小さくなりすぎると個別線量を測定装置により十分な精度で監視することが時折できなくなり、このことは最終的に治療の成功を脅かし得る。
【0028】
やはり開示された方法に関係なく、1つの目標点に適用すべき個別線量、すなわち1回の目標点走査で適用される線量は、とりわけ再スキャンの際には個別線量が常に所定の閾値の上になるよう選択するのが有利である。このようにして、線量適用を監視する測定装置により個別線量を所要の精度で監視できることが保証される。個別線量は、測定装置の測定領域の選択および加速装置から抽出される強度に整合することができる。全体として、使用されるハードウエアの可能性が明示的に考慮される。照射の進行中にハードウエアが、たとえば抽出される強度の変更および/または検出器の測定領域の選択の変更により別の動作モードで駆動される場合、前もって設定した閾値に適合することができる。
【0029】
しかし再スキャン試行の数が高められたため、個別線量をこの設定内でできるだけ小さく選択すべき場合、これにより再スキャンのポジティブな効果がさらに際立つようになる。さらに「総線量は個別線量の整数倍である」という設定は比較的簡単に満たすことができる。たとえば個別線量は、閾値の10倍または5倍、とりわけ閾値の2倍より常に下にすることができる。照射計画装置または照射装置用の制御装置は、対応して構成することができる。
【0030】
有利な実施形態では、目標領域の目標点で常にそれぞれ同じ大きさの個別線量が適用される。この変形実施形態は、照射装置に組み込むのに特に適する。なぜなら照射装置は、適用すべき同じ大きさの個別線量に合わせて設計し、最適化することができるからである。たとえば個別線量の適用を監視する装置の測定領域は、個別線量の大きさに整合することができる。さらに再スキャンの際、とりわけ体積再スキャンの際には、等エネルギー層の切り換えなしで、および/または加速ユニットから抽出される粒子線の強度の切り換えなしで、および/または測定装置、たとえば電離箱システムの測定領域の切り換えなしで照射を行うことができ、このことにより同じ大きさの個別線量が得られる。
【0031】
したがってこの場合、異なる再スキャン試行により照射される目標体積の他の目標領域に移行する前に、目標領域をすべての再スキャン試行によって完全にスキャンする必要はない。目標領域の1つが照射されるいくつかの再スキャン試行中ですでに、別の目標領域の目標点を走査することができる。1つの目標領域に対する再スキャン試行を別の目標領域の再スキャン試行とこのように「織り合わせる」ことによっても、目標点の有利な走査を達成することができる。1回の再スキャン試行でたとえば目標領域のさらに少数の目標点だけを走査しなければならない場合には、この目標点を別の目標領域の別の再スキャン試行に収めることも考えられる。すなわち、もう1つの目標領域の目標点の一部を、別の目標領域の照射がすでに開始された場合に初めて走査することが時折有利である。この方法も、開示された方法に関係なく実現することができる。照射計画装置、または照射装置用の制御装置は、対応して構成することができる。
【0032】
目標体積内の目標領域を照射する本発明の方法は、目標領域が個別に走査すべき目標点を含み、この目標領域内ではとりわけ不均一な線量分布が適用されるよう構成される。目標領域は多数の再スキャン試行により照射される。すなわち目標領域は全体で繰り返し走査される。目標領域自体の目標点は、再スキャン試行中に異なる頻度で走査され、したがって目標点の少なくとも一部は、すべての再スキャン試行で走査されない。この方法は、各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点において、この目標点が走査される最後の再スキャン試行の前に、この目標点が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が実施されるように構成されている。
【0033】
本発明の照射計画装置は、開示された方法を照射計画のために実行するように構成された計算ユニットを有する。これはたとえば適切なコンピュータプログラムを用いて行うことができる。
【0034】
照射装置用の本発明の制御装置は、目標体積内の目標領域を照射するための開示方法の1つが実施されるように照射装置を照射中に制御する制御計算機を有する。これも適切なコンピュータプログラムによって行うことができる。本発明の照射装置は、この種の制御装置を有する。
【0035】
照射計画方法について挙げて説明したものの構成と利点は、目標体積内の目標領域を照射する方法にも同様に当てはまり、さらに対応して照射計画装置、および照射装置用の制御装置にも同様に当てはまる。
【0036】
従属請求項の特徴による改善形態を備える本発明の実施形態を、以下の図面に基づいて詳細に説明するが、これに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】再スキャン法を実施することのできる照射装置の概略的斜視図である。
【図2】等エネルギー層の1つに適用すべき不均一な線量分布を示す線図である。
【図3】目標領域において適用すべき線量分布の概略図である。
【図4】順次実施すべき1つの再スキャン試行と、再スキャン試行で走査される目標点を示す図である。
【図5】順次実施すべき1つの再スキャン試行と、再スキャン試行で走査される目標点を示す図である。
【図6】順次実施すべき1つの再スキャン試行と、再スキャン試行で走査される目標点を示す図である。
【図7】順次実施すべき1つの再スキャン試行と、再スキャン試行で走査される目標点を示す図である。
【図8】本発明の実施形態で実行される方法ステップを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、粒子線治療装置10の構造を極端に概略化した図である。粒子線治療装置10は、位置決め装置上に配置された物体を、粒子からなる放射線によって照射するために使用され、この放射線を以下では粒子線12と称する。とりわけ目標体積14として、患者の腫瘍組織が粒子線12によって照射される。同様に粒子線装置10は、非生物の物体、とりわけウォーターファントムまたは他のファントムの照射にも使用される。ウォーターファントムの照射は、たとえば患者の照射前および/または照射後での照射パラメータの検査および検証のために行うことができる。しかし他の物体、たとえば研究目的の培養細胞または培養バクテリアのようなとりわけ実験構造体を粒子線12により照射することもできる。すべての場合で、運動する物体または静止した物体を取り扱うことができる。
【0039】
粒子線治療装置10は、典型的には加速ユニット16を有し、これはたとえばシンクロトロン、サイクロトロン、または照射に必要なエネルギーを備える粒子線12を準備するその他の加速器である。粒子としてもっぱら、たとえばプロトン、パイオン、ヘリウムイオン、炭素イオン、または他の元素のイオンのような粒子が使用される。典型的には粒子線12は3〜10mmの線直径を有する。
【0040】
照射すべき目標体積14内には、等エネルギー層に対応する層18,20,22,24,26および28が示されている。等エネルギー層18,20,22,24,26または28は、粒子線12のエネルギーが所定の場合の粒子線12の浸透深度によって特徴付けられる。各等エネルギー層18,20,22,24,26,28は、ここに図示する例では、目標体積14内の目標領域であり、これが再スキャン法で照射されることになる。
【0041】
スキャン法として好ましくはラスタスキャン法が使用される。このラスタスキャン法では、粒子線12が目標点50から次の目標点50に移行する際に強制的に遮断されることなく、目標点50から次の目標点50へ案内される。個々の目標点50の間で粒子線が遮断されるスポットスキャン法、またはたとえば連続スキャン法のような別のスキャン法も、目標領域を再スキャン法により照射するために使用することができる。図1には、目標体積14内にある中央の等エネルギー層22の目標点50がいくつか示されており、これらが粒子線12により逐次走査される。
【0042】
粒子線12はスキャンマグネット30により、その側方の偏向が調整される。すなわち線延在方向に対して垂直(x方向およびy方向としても示されている)に、粒子線の位置が偏向される。さらにエネルギー変調装置32が設けられており、これにより粒子線12のエネルギーを急速に変化することができ、したがって粒子線12の浸透深度を変化することができる。このようにして粒子線の線方向で再スキャンすることができる(「体積再スキャン」、すなわち線形路が等エネルギー層内に延在する必要はない)。
【0043】
さらに照射装置10は、進行制御部36と、線パラメータを監視するための検出器34を有する。ここに図示した粒子線装置10のコンポーネントの配置は単なる例である。他の配置構造も考えられる。
【0044】
進行制御部36、すなわち装置のコントロールシステムは、たとえば加速器16、スキャンマグネット30のような装置の個々のコンポーネントを制御し、線パラメータを監視するための検出器34のデータのような測定データを収集する。通例、制御は照射計画40に基づいて行われ、この照射計画40は照射計画装置38によって求められ、準備される。
【0045】
図示の粒子線治療装置10で本発明の実施形態を実現することができる。可能な実施形態を、以下の図面に基づいて詳細に説明する。
【0046】
図1の目標体積は楕円形状を有する。目標体積14全体を均一な目標線量で照射すべき場合、このことは中央の等エネルギー層22に対しては、この中央の等エネルギー層22で適用すべき線量分布が不均一であることを意味する。これは、中央の等エネルギー層22の中心領域が、線方向で中央の等エネルギー層22の後方にある等エネルギー層24,26,28が照射されるときに、わずかな線量によってすでに負荷されるためである。したがって中央の等エネルギー層22に対しては、適用すべき線量が縁部では中心よりも大きい。
【0047】
中央の等エネルギー層22で適用すべき線量分布が、中央の等エネルギー層の複数の目標点について図2に示されている。ここでx軸は、中央の等エネルギー層内のラインに沿った目標点の位置xを表し、y軸は適用すべき総線量Dを表す。
【0048】
破線は、最小フルエンスである閾値60を示し、この上に最小適用線量も設定され、その適用は粒子線治療装置10の測定装置により所要の精度で監視することができる。
【0049】
ここで、中央の等エネルギー層22に対して適用すべき不均一な総線量62は、目標点50でそれぞれ適用すべき総線量62が常に個別線量64の整数倍であるように選択されている。この選択は一般的に照射計画中に行われ、したがって一般的に問題なく可能である。なぜなら個別線量64は、閾値60のわずかに上になるほど小さく選択されており、したがって通例は適用すべき総線量62より格段に小さいからである。個別線量64は、たとえば閾値60の1.5倍以下とすることができる。個別線量64の選択により、一方では線量適用を所要の精度で監視することができることが保証され、他方では総線量62を中央の等エネルギー層22に適用するために可及的に多数の再スキャン試行を行うことができるようになる。
【0050】
等エネルギー層は再スキャン法で照射される。ここで目標点50は、異なる再スキャン試行中に、この目標点50に対する総線量62に達するまで全体として走査される。目標点50の各走査の際に、全個別線量64を整数比に基づいて適用することができる。
【0051】
個別線量の設定により、近位層が一般的に比較的低い線量で照射される。なぜならこの層は、少数の再スキャン試行で照射される予備線量により占められているからである。しかしこのことは、この領域がすでに遠位層の照射により多数の再スキャン試行で間接的に照射されているので是認できる。さらに近位層では通例、より正確な線量測定と、ひいては比較的小さな閾値60を可能にする調節が使用される。これはたとえば、粒子線の強度を比較的小さくし、粒子線の線量適用を監視する電離箱のような測定装置の鋭敏な測定領域を選択することにより達成できる。
【0052】
図3から8を用いて、本発明の方法の実施形態を、仮想の正方形の等エネルギー層52の図示に基づき説明する。図示された等エネルギー層52は、現実に通常発生する等エネルギー層を極端に簡素化したものである。しかし基本原理をより良く説明することができる。
【0053】
図3は、各目標点50ごとに適用すべき総線量を個別線量の倍数として示す。正方形の等エネルギー層52の縁部領域における総線量は、(単に個別線量の1倍である)中央よりも(個別線量の4倍まで)大きいことが分かる。これは図2に示した不均一な線量分布に、基本原理としてほぼ対応する。
【0054】
図4から図7は、連続して実施すべき4回の再スキャン試行についての目標点の走査を示す。ここでハッチングされたボックス56は、対応する再スキャン試行で走査され、個別線量が適用される目標点を意味し、これに対してハッチングされないボックス54は、再スキャン試行で走査されない、すなわち飛ばされる目標点を意味する。
【0055】
ここで目標点50は、各再スキャン試行の際にできるだけ同数の目標点50が走査されるように複数の再スキャン試行に分散された。さらに目標点50の走査を複数の再スキャン試行に分散する際には、常に一筆書きのスキャン経路58が得られ、これにより1回の再スキャン試行では中断なしの照射が可能であることに注意が払われた。
【0056】
均一に分散することにより、とりわけ特定の目標点では、この目標点が走査されない複数の再スキャン試行が存在し、この複数の再スキャン試行はこの目標点が走査される再スキャン試行の前に来るようになる。これはたとえば中央の目標点59の場合である。この目標点59は第2と第4の再スキャン試行の際にだけ走査され、第1と第3の再スキャン試行では走査されない。
【0057】
とりわけこの分散により、複数の目標点が、比較的後の再スキャン試行で初めて走査されるようになる。これにより有利なスキャン経路58を発見することができる。そのための方法として、一般的な巡回セールスマン問題で使用されるような公知のアルゴリズムを使用することができる。そうでないと、とりわけ現実に発生するような複雑な目標領域の場合、1回の再スキャン試行で目標点の繋がらない島を走査しなければならない事態が発生し得る。このことは、目標点50の走査を種々の再スキャン試行に前記のように分散することによって阻止することができる。
【0058】
図8は、再スキャン法での照射計画の際に実施される方法ステップを概略的に示すものである。
【0059】
まず目標体積が照射すべき物体内に定義される(ステップ70)。続いてこの目標体積が、それぞれ複数の再スキャン試行で照射されるべき目標領域に分割される(ステップ72)。
【0060】
この目標領域の各々について適用すべき線量分布が求められる(ステップ74)。このときに、1つの目標点でこの目標点の走査ごとに放射される線量を記述する個別線量が決定される。しかしこの個別線量は、たとえば前もって設定しておくこともできる。適用すべき線量分布は特定の周辺条件の下で求めることもでき、たとえば目標点ごとに適用すべき総線量が個別線量の整数倍であるように設定することができる。目標点ごとの個別線量と総線量から、目標領域で所望の線量分布を適用するために適用しなければならない再スキャン試行の数が得られる。
【0061】
引き続き、目標点または目標点の走査が複数の再スキャン試行に分散される。すなわち、各再スキャン試行の際に走査されない少なくとも1つの特定の目標点においては、この目標点の最後の走査の前にこの目標点が走査されない少なくとも1つの再スキャン試行が来るように分散される(ステップ76)。
【0062】
目標点の走査が複数の再スキャン試行に分散された後、各再スキャン試行の際に、前もって規定した基準を満たすスキャン経路で目標点を走査できるか否かを検査する(ステップ78)。たとえば、スキャン経路を実施する際に必要な放射線の中断の数が値以下であるか、または最小であるか否かを検査することができる。
【0063】
前もって規定された基準が満たされない場合、目標点の分散または目標点の走査を、得られたスキャン経路が前もって規定された基準をより良好に満たすように変更することができる。
【0064】
目標点を複数の再スキャン試行に分散することは、各目標領域について同じように繰り返される。続いて、目標体積または目標体積の目標領域の照射を照射計画にしたがって行うことができる(ステップ80)。
【0065】
この方法は、再スキャンに該当する方法と組み合わせることができる。たとえば再スキャン試行を、目標体積の運動と一致しないよう時間的にずらすことができ、米国特許公開公報20080078942号に開示されたような方法と組み合わせることができる等々。
【符号の説明】
【0066】
10 粒子線治療装置
11 粒子線
14 目標体積
16 加速ユニット
18,20,22,24,26,28 等エネルギー層
30 スキャンマグネット
32 エネルギー変調装置
34 検出器
36 進行制御部
38 照射計画装置
40 照射計画
50 目標点
52 正方形の等エネルギー層
54 ハッチングされないボックス
56 ハッチングされたボックス
58 スキャン経路
59 中央の目標点
60 閾値
62 総線量
64 個別線量
70 ステップ70
72 ステップ72
74 ステップ74
76 ステップ76
78 ステップ78
80 ステップ80

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標体積(14)の照射計画方法であって、
・個別に走査可能な目標点(50)を備える目標領域(18,20,22,24,26,28)を設定し、
・目標領域(18,20,22,24,26,28)が複数回スキャンされる再スキャン試行の数を、目標領域(18,20,22,24,26,28)の目標点(50)が再スキャン試行中に異なる頻度で走査されるように設定し、これにより目標点(54)の少なくとも一部が各再スキャン試行の際に走査されないようにし、
目標点(50)の走査は、各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点(59)においては当該目標点(59)が走査される最後の再スキャン試行の前に、当該目標点(59)が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来るように複数の再スキャン試行に分散される方法。
【請求項2】
目標点(59)は最初の再スキャン試行では走査されない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2つの再スキャン試行で走査される目標点(59)では、これら2つの再スキャン試行の間に当該目標点(59)が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
各再スキャン試行の際にいくつかの目標点が走査されない、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
目標点(50)の走査は、再スキャン試行の1つにおいて走査すべき目標点(56)を走査するスキャン経路(58)があらかじめ規定した基準を満たすように複数の再スキャン試行に分散される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前もって規定された基準は、1つのスキャン経路(58)で連続して走査すべき2つの目標点の間隔が閾値以下であることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1つの目標点(50)においては、適用すべき総線量(62)が当該目標点(50)で適用すべき個別線量(64)の整数倍である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
目標領域の目標点(50)では、各走査の際にそれぞれ同じ大きさの個別線量(64)が適用される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
個別線量は、粒子線特性を監視するための測定装置により規定される閾値の倍数として選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
目標体積(14)内の目標領域(18,20,22,24,26,28)を照射するための方法であって、
目標領域(18,20,22,24,26,28)は個々に走査すべき目標点(50)を含んでおり、
目標領域(18,20,22,24,26,28)が、該目標領域(18,20,22,24,26,28)を繰り返し走査する多数の再スキャン試行により照射され、
再スキャン試行の間に目標領域(18,20,22,24,26,28)の目標点(50)が異なる頻度で走査され、これにより目標点(18,20,22,24,26,28)の少なくとも一部が各再スキャン試行の際に走査されず、
各再スキャン試行で走査されない少なくとも1つの目標点(59)においては該目標点(59)が走査される最後の再スキャン試行の前に、該目標点(59)が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が実施される方法。
【請求項11】
少なくとも1つの目標点(59)が最初の再スキャン試行では走査されないか、または
少なくとも2つの再スキャン試行で走査される少なくとも1つの目標点(59)が、当該2つの再スキャン試行の間に前記目標点(59)が走査されない少なくとも1つの別の再スキャン試行が来るように走査される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つの目標点(50)においては、適用すべき総線量(62)が当該目標点(50)で適用すべき個別線量(64)の倍数として適用される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成された計算ユニットを有する照射計画装置(38)。
【請求項14】
照射装置(10)を照射の際に、請求項10乃至12のいずれか1項に記載の方法が実施されるように制御する制御計算機を備える、照射装置(10)用の制御装置(36)。
【請求項15】
請求項14に記載の制御装置(36)を備える照射装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−532712(P2012−532712A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519954(P2012−519954)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058636
【国際公開番号】WO2011/006733
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(508021624)ゲーエスイー ヘルムホルッツェントゥルム フュア シュヴェリオネンフォルシュンク ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】