説明

粒子線治療装置及び照射ノズル装置

【課題】ビーム走査方式の照射法でより細径のビームを実現させるため、照射ノズル装置内にビーム輸送チェンバを設置する場所を確保することができる粒子線治療装置及び照射ノズル装置を提供する。
【解決手段】走査電磁石を備えた走査式の照射ノズル装置の内側にあったX線管1を従来設置していたX線検出器3の位置に移動し、X線検出器3を逆に照射ノズル装置55の内側に設置する。X線検出器3はX線管1よりもビーム軸方向に薄く、構造が単純であるため、照射ノズル装置55内にビーム輸送チェンバ12を設置する場所を確保することができ、かつ照射ノズル装置55内のビーム輸送チェンバ12を伸長することができる。これによりビーム輸送時の空気による散乱を抑え、従来の設計よりビームを細径化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子または炭素イオン等の荷電粒子ビームを照射対象(患者)に出射する粒子線治療装置及び照射ノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん等の治療装置として、陽子または炭素イオン等の荷電粒子ビーム(以下、適宜ビームと称する)を患者の患部に照射する粒子線治療装置が知られている。
【0003】
粒子線照射装置は、ビーム発生装置、ビーム輸送装置及び照射野形成装置(以下、照射ノズル装置と称する)を有している。ビーム発生装置は、周回軌道に沿って周回するビームを所望のエネルギーまで加速する。目標のエネルギーまで加速されたビームが、ビーム輸送装置を経て照射ノズル装置に輸送され、照射ノズル装置から出射される。出射された荷電粒子ビームは、最終的に治療室内の患者の患部に照射される。
【0004】
粒子線治療装置における照射方法のひとつとして、例えば特許文献1に記載のようなビーム走査方式の照射法がある。この照射法では、患者の体表面からの深さ方向(ビーム進行方向)に患部を複数の層に分割し、各層に分けてビームを照射する。細いビームを照射領域内で走査するための一対の走査電磁石が、照射ノズル装置内に設けられる。ビームのエネルギーを変更させることによって、ビームを照射する層を変更し、走査電磁石の励磁量を変更させることによって、ビームの進行方向と垂直な面の照射位置を変更する。このようにビームを走査して、患者に必要な粒子線照射野を作る。
【0005】
ビーム走査方式照射法は、他の照射方法で必要となる患者コリメータ等の機器を必要としないため、照射装置内のビーム経路上に配置すべき機器を少なくできるという利点を持つ。逆にこの照射法では、ビームの照射位置の精度を高めることが必要となる。また、ビーム走査方式照射法での利点は照射野の辺縁部にもあり、ビームが細ければ細いほど、細かな照射が可能なため(ラテラルペナンブラ−半影−が小さい)、正常組織への照射を抑えることができる。
【0006】
照射ノズル装置内のビーム経路に空気が存在する場合、ビームが空気によって散乱されるため、ビームを細くすることには限界がある。そこで、特許文献2に記載のように、空気によるビームの散乱を抑えるためのヘリウム等のガスを充填した金属製或いは繊維補強樹脂製のビーム輸送チェンバ或いは真空領域を確保したビーム輸送チェンバを照射ノズル装置内に配置することが提案されている。
【0007】
粒子線治療の重要なプロセスの一つに患者の位置決めがある。この患者の位置決めは、例えば特許文献3に記載のように、治療計画時にCT画像に基づいて作成したディジタル再構成X線(Digital Reconstructed Radiograph;DRRという)画像情報と、治療時のビーム照射前にX線撮像装置を用いて治療用ベッドの上に患者を横たわらせた状態で撮影して得られた単純X線画像情報とを比較して行う。X線撮像装置は、照射ノズル装置内に配置されたX線発生装置(X線管)と、照射ノズル装置の外側であって、治療台を挟んで照射ノズル装置と反対側に配置されたX線検出器とを有している。
【0008】
また、特許文献4では、X線治療装置において、照射ノズル装置の外側に2つのX線管を搭載させ、それぞれ違う角度から位置決め用のX線を放出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2833602号公報
【特許文献2】特開2007−268035号公報
【特許文献3】特開2006−239403号公報
【特許文献4】US2004/0024300A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載のようなビーム輸送チェンバを照射ノズル装置に配置する場合、ビーム輸送チェンバを長くすればするほど、空気によるビームの散乱抑制効果が高くなり、特許文献1記載のようなビーム走査方式の照射法においてビームを細径化できる。しかし、特許文献3記載の治療装置では、X線画像情報を用いて患者の位置決めを行うため、照射ノズル装置内にX線管を備えており、このX線管は重く大型の機器である。また、照射ノズル装置の長さは回転ガントリ内のスペースから決まる最適値がある。このため特許文献3記載のような照射ノズル装置にビーム輸送チェンバを搭載する場合、照射ノズル装置内におけるビーム輸送チェンバの配置スペースはX線管によって制約されて、ビーム輸送チェンバを一定以上長くすることはできなかった。その結果、ビームの細径化にも限界があった。
【0011】
特許文献4記載の治療装置では、回転ガントリの機構を二重に増やすことになり、機構的にも複雑になり、装置(システム)全体のコストも増大してしまう。また、特許文献4はX線治療装置であるため、陽子線治療装置にそのままこの技術を導入すると、撮像範囲が狭くなってしまうという問題もある。撮像範囲が狭くなる理由は、陽子線治療装置の照射ノズル装置はX線のものよりサイズが大きくなるからである。
【0012】
本発明の目的は、ビーム走査方式の照射法でより細径のビームを実現させるため、照射ノズル装置内にビーム輸送チェンバを設置する場所を確保することができるとともに、装置のコストの増加を抑え、かつ必要な撮像範囲を確保することができる粒子線治療装置及び照射ノズル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、走査電磁石を備えた走査式の照射ノズル装置の内側にあったX線管を従来設置していたX線検出器の位置に移動し、X線検出器を逆に照射ノズル装置の内側に設置する。X線検出器、特にフラットパネルディテクタを備えるX線検出器はX線管よりもビーム軸方向に薄く、構造が単純であるため、照射ノズル装置内にビーム輸送チェンバを設置する場所を確保することができ、かつ照射ノズル装置内のビーム輸送チェンバを伸長することができる。これによりビーム輸送時の空気による散乱を抑え、従来の設計よりビームを細径化できる。
【0014】
また、X線検出器はX線管よりもビーム軸方向に薄く、構造が単純であるため、配置の自由度が高く、従来のX線管の位置より照射ノズル装置の下流側に設置することができる。例えば、走査式の照射ノズル装置内には、通常、走査電磁石及びビーム輸送チェンバよりもビーム進行方向下流側の位置にビームモニタ(例えばビーム線量モニタ)が配置されているが、X線検出器はそのビームモニタの更に下流側の位置に配置される。これにより照射ノズル装置内の最適位置にビーム輸送チェンバを設置する場所を確保することができ、ビーム輸送チェンバ12を伸長し、ビームを細径化できる。
【0015】
更に、X線管とX線検出器の位置を逆にしただけなので、装置のコストの増加が抑えられ、かつ必要な撮像範囲を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、照射ノズル装置内にビーム輸送チェンバを設置する場所を確保することができ、その結果、従来の照射ノズル装置の長さを保ったままビーム輸送チェンバを搭載しかつチェンバを伸張できるため、ビームを細径化できる。また、装置のコストの増加を抑え、かつ必要な撮像範囲を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる粒子線治療装置の全体構成を示す図である。
【図2】回転ガントリを治療室側から見た回転ガントリ内の構成を示す図である。
【図3】走査式照射ノズル装置の構成を示す図である。
【図4】鉛直方向の真上からビーム照射を行う場合であって、X線管及びX線検出器をビーム軸から退避した状態を示す図である。
【図5】比較例として、X線管を備えた走査式照射ノズル装置にビーム輸送チェンバを配置した場合の照射ノズル装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態として、ガス領域の代わりに真空領域を形成したビーム輸送チェンバを設けた場合の図3と同様な走査式照射ノズル装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態である粒子線治療装置について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係わる粒子線治療装置の全体構成を示す概略図である。粒子線治療装置は、荷電粒子ビーム発生装置51、ビーム輸送系52及び回転式照射装置53を備え、回転式照射装置53は治療室内に配置された回転ガントリ54(図2参照)と、回転ガントリ54に取り付けられた走査式照射ノズル装置55を有している。
【0020】
荷電粒子ビーム発生装置51は、イオン源(図示せず)、前段加速器(例えば直線加速器)61及びシンクロトロン62を有し、イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段加速器61で加速され、前段加速器61から出射されたイオンビームはシンクロトロン62に入射される。このイオンビームは、シンクロトロン62で加速され、設定されたエネルギーまでに高められた後、出射用デフレクタ63から出射される。シンクロトロン62から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系52のビーム輸送ダクト56を経由して回転式照射装置53の照射ノズル装置55に達し、照射ノズル装置55から治療台(天板又はベッド)57に横たわっている患者58の患部に照射される。ビーム輸送ダクト56の一部は回転式照射装置53の回転ガントリ54に取り付けられ、回転ガントリ54と一体に回転する。
【0021】
図2は、回転ガントリを治療室の反対側(回転ガントリの奥部側)から見た回転ガントリ内の構成を示す図である。
【0022】
回転ガントリ54は図示しない複数のサポートローラによって支持され、回転可能である。走査式照射ノズル装置55は回転ガントリ54の回転胴に取り付けられ、回転ガントリ54とともに回転する。回転ガントリ54内には照射室59が形成され、照射室59内に治療台57が配置されている。回転ガントリ54が回転することで照射ノズル装置55の向きが変わり、照射ノズル装置55は患者58の周りを一周することができる。治療台57はX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3次元的にどの方向にも移動することができ、かつX,Y,Z軸の各軸回りの3方向へ回転することができる。回転ガントリ54の回転と治療台57の移動及び回転により患者58を任意の方向から照射することが可能である。なお、Y軸は回転ガントリ54の回転軸と平行に設定された軸線であり、X軸は回転軸に直交する水平方向に設定された軸線であり、Z軸は回転軸と直交する垂直方向に設定された軸線である。
【0023】
また、回転ガントリ54内には、患者58の位置決め(治療台57の位置決め)に用いるX線画像情報を得るための2組のX線管(X線発生装置)1,2及びX線検出器3,4が配置されている。X線管1とX線検出器3は患者58(治療台57)を挟んで対向配置され、X線管1から放出されたX線は患者58を透過してX線検出器3により検出される。X線管1とX線検出器3は第1X線撮像装置を構成する。X線検出器3は照射ノズル装置55内に配置されている(後述)。X線管2とX線検出器4はX線管1とX線検出器3の配置方向と直交する方向に患者58(治療台57)を挟んで対向配置され、X線管2から放出されたX線は患者58を透過してX線検出器4により検出される。X線管2とX線検出器4は第2X線撮像装置を構成する。2組のX線管(X線発生装置)1,2及びX線検出器3,4も回転ガントリ54とともに回転する。
【0024】
X線管1,2及びX線検出器3,4はX線撮像制御装置5に接続され、X線管1,2はX線撮像制御装置5によって駆動され、X線検出器3,4の取得したX線情報(パルス信号)はX線撮像制御装置5に入力され、X線撮像制御装置5はそのX線情報に基づいてX線画像情報を生成する。
【0025】
図3は走査式照射ノズル装置の構成を示す図である。この図も、治療室の反対側(回転ガントリの奥部側)から見た図である。
【0026】
図3において、走査式照射ノズル装置55は、X方向ビーム走査電磁石11A及びY方向ビーム走査電磁石11Bと、ビーム輸送チェンバ12と、ビームモニタ13と、X線検出器(フラットパネルディテクタ)3と、X線検出器駆動アクチュエータ14と、これらを収納する金属製のハウジング15とを有している。
【0027】
X方向ビーム走査電磁石11A及びY方向ビーム走査電磁石11Bは、荷電粒子ビームの照射時に照射ノズル装置55に入射された荷電粒子ビームを走査して水平方向の照射野を形成するものである。
【0028】
ビーム輸送チェンバ12は、荷電粒子ビームの散乱を抑えるためのガス領域或いは真空領域を確保するための装置であり、横断面が矩形をしたセラミックス製或いは繊維補強樹脂製のチェンバ容器12aと、チェンバ容器の両端を塞ぐ隔離窓12b,12cを有し、チェンバ12の内部は空洞になっている。本実施の形態において、ビーム輸送チェンバ12内にはヘリウムガスが充填され、ヘリウム領域が形成されている。また、ビーム輸送チェンバ12は、その上流側の端部に位置する隔離窓12cがビーム輸送ダクト56の一部であるビームダクト17に対面し、かつハウジング15内において、ビーム軸mを内包するように配置されている。ビーム軸mはビームの中心軌道であり、ビーム輸送系52の設計軌道と回転ガントリ54の回転軸上のアイソセンタ(照射中心)Cを通るように設計されている。
【0029】
ビームモニタ13は例えば患部に照射される荷電粒子ビームの線量を検出するビーム線量モニタである。ビームモニタ13として、患部に照射される荷電粒子ビームの位置と幅を検出するビーム位置モニタが更にあってもよい。ビームモニタ13は、走査電磁石11A,11B及びビーム輸送チェンバ12よりもビーム進行方向下流側の位置でハウジング15内に配置されている。
【0030】
X線検出器3は例えばフラットパネルディテクタを備えており、ビーム線量モニタ13よりもビーム進行方向の更に下流側の位置において、ガントリ回転方向(図篠位置でX方向)にビーム軸mに対して退避可能にハウジング15内に配置されている。
【0031】
X線検出器駆動アクチュエータ14は例えば複動型のエアシリンダであり、ボトム側シリンダ室にエアを供給すると伸長して、X線検出器3を図示の挿入位置に押し出し、ロッド側シリンダ室にエアを供給すると収縮して、X線検出器3を退避位置(図4参照)に引き戻す。ハウジング15のエアシリンダ14が位置する部分には図示のように突出部15aが形成され、この突出部15aにエアシリンダ14が配置されている。
【0032】
また、エアシリンダ14は、回転ガントリ54のホームポジションを考慮して照射ノズル装置55の図示左側(回転ガントリ54の回転方向に位置する側)に配置されている。回転ガントリ54のホームポジションは、回転ガントリ54を図2の左方向に270°回転させた位置である。この位置では、照射ノズル装置55は図示右側の照射室の床面近傍に位置しており、医師等は照射ノズル装置に容易にアクセス可能である。また、突出部15aが照射ノズル装置55の図示左側に配置されているため、回転ガントリ54がホームポジションにあるときに突出部15aは上方を向き、その突出部15aが医師等の操作者の活動範囲を狭めることはない。
【0033】
次に、本実施の形態の粒子線治療装置の患者位置決め時とビーム照射時の動作を説明する。以下の説明において、各機器の動作は、医師等の操作者が図示しない操作装置を用いて指示することによって開始される。
【0034】
<患者位置決め時>
患者58の位置決め時は、回転ガントリ54をホームポジションから左方向に90°回転させ、図2に示す状態にする。この状態では、第1X線撮像装置のX線管1は鉛直方向の真下に位置し、X線検出器3は鉛直方向の真上に位置し、第2X線撮像装置のX線管2は水平方向の右真横に位置し、X線検出器4は水平方向の左真横に位置している。
【0035】
次いで、エアシリンダ14のボトム側シリンダ室にエアを供給して第1X線撮像装置のX線検出器3を図3に示す挿入位置に押し出す。
【0036】
次いで、医師等の操作者が撮像の開始を指示すると、まず、第1X線撮像装置のX線管1が作動してX線を放出し、患者58を透過したX線情報がX線検出器3によって検出される。X線検出器2はその検出したX線情報をX線撮像制御装置5に出力し、X線撮像制御装置5はそのX線情報に基づいてX線画像情報を生成する。次いで、第2X線撮像装置のX線管2が作動してX線を放出し、患者58を透過したX線情報がX線検出器4により検出される。X線検出器4はその検出したX線情報をX線撮像制御装置5に出力し、X線撮像制御装置5はそのX線情報に基づいてX線画像情報を生成する。
【0037】
X線撮像制御装置5によって生成された2方向のX線画像情報は図示しない位置決め制御装置に送られ、位置決め制御装置は、その2方向のX線画像情報を治療計画時にCT画像に基づいて作成した対応する2つのDRR画像情報と比較して、治療台57の位置決めに必要な位置決めデータを生成する。また、位置決め制御装置はこの位置決めデータを用いて図示しない位置決め装置を駆動し、治療台57の位置決めを行う。
【0038】
<ビーム照射時>
患者58の位置決めが完了すると、エアシリンダ14のロッド側シリンダ室にエアを供給して第1X線撮像装置のX線検出器3を退避位置に引き戻す。また、第1X線撮像装置のX線管1も図示しない機構によりビーム軸mから退避させる。図4は、このときの第1X線撮像装置のX線管1及びX線検出器3の状態を示す図である。
【0039】
第1X線撮像装置のX線管1及びX線検出器3の退避が完了すると、患者58の患部に荷電粒子ビームを照射して治療を行う。
【0040】
まず、医師等の操作者はビームの照射方向を設定する。この設定は、回転ガントリ54を回転して行う。図4は鉛直方向の真上からビーム照射を行う場合の例である。ビームの照射方向の設定が完了すると、シンクロトロン62から荷電粒子ビームを出射させる。この荷電粒子ビーム19はビームダクト17を経由してビーム輸送チェンバ12へ侵入し、ビーム輸送チェンバ12内を通って輸送され、ビーム走査電磁石11A,11Bにて走査された後、治療台57上の患者58に照射される。
【0041】
ビーム照射は、通常、少なくとも2方向から行う(多門照射)。したがって、一方向からのビーム照射が終了すると、回転ガントリ54を回転して照射ノズル装置55の向きを変え、他の方向からビーム照射を行う。
【0042】
次に、本実施の形態の効果を説明する。
【0043】
まず、本実施の形態によれば、照射ノズル装置55内にあったX線管を照射ノズル装置55の外側に移動させることにより、従来の照射ノズル装置の長さを保ったままビーム輸送チェンバ12を搭載しかつその長さを伸長し、ビームを細径化できる。
【0044】
この効果を図5を用いて説明する。図5は、比較例として、X線管を備えた走査式照射ノズル装置にビーム輸送チェンバを配置した場合の照射ノズル装置の構成を示す図である。図中、図3に示した部材と同等の部材には同じ符号を付している。
【0045】
図5において、X線管1を照射ノズル装置155内に設置されている。X線管1は比較的重く大型の機器であるため、照射ノズル装置155内での設置位置も限られている。このため照射ノズル装置155内にビーム輸送チェンバ112を配置しようとした場合、ビーム輸送チェンバ112の配置スペースがX線管1に制約され、照射ノズル装置155の長さを保ったままビーム輸送チェンバ112を一定以上長くすることはできなかった。このためビームの細径化にも限界があった。
【0046】
図3に示す本実施の形態では、X線管を照射ノズル装置の外に出し、X線検出器を照射ノズル装置内に配置することにより、照射ノズル装置内のビーム輸送チェンバ12は、照射ノズル装置の長さを保ったままでも、図5に示す比較例に比べ長くすることが可能となる。ビーム輸送チェンバ12が長くなれば、照射ノズル装置内に侵入した荷電粒子ビームが空気に晒される距離が短くなり、荷電粒子ビームの散乱がビーム輸送チェンバ内のガス領域によって抑えられるため、患者位置でのビームサイズを比較例に比べ細くすることができる。
【0047】
また、X線管1よりもビーム軸方向に薄く、構造が単純なX線検出器3を照射ノズル装置55に搭載するため、照射ノズル装置55のメンテナンス作業が容易となる。
【0048】
また、X線管1が金属製のハウジング15を備えた照射ノズル装置55の外側にあるため、X線管1の交換等のX線管側の機器のメンテナンス作業も容易となる。
【0049】
また、照射ノズル装置55内にあったX線管1を外側に移動することにより、X線管1からの放熱もなくなり、周辺機器への熱的な影響もなくすことが可能である。特に、ビーム線量モニタ(ビームモニタ13)は放射線電離ガスを利用するため、そのガスの温度に影響され、X線管1の放熱の影響を受け易い。熱源をなくすことで、放射線電離ガスの温度も安定し、照射線量の検出精度への影響も低減され、安全性も向上する。
【0050】
更に、X線管1とX線検出器3の位置を逆にしただけなので、粒子線治療装置のコストの増加が抑えられ、かつ必要な撮像範囲を確保することができる。
【0051】
また、X線管1が照射ノズル装置55の外側に取り付けられていないため、回転ガントリ54がホームポジションにあるとき、医師等の操作者の活動範囲が狭められることがなく、効率良く治療の段取り作業を行うことができる。
【0052】
図6は、本発明の他の実施の形態として、ガス領域の代わりに真空領域を形成したビーム輸送チェンバを設けた場合の図3と同様な走査式照射ノズル装置の構成を示す図である。
【0053】
図6において、照射ノズル装置55Aは内部に真空領域を形成したビーム輸送チェンバ12Aを備えている。ビーム輸送チェンバ12Aの上流側の端部はビームダクト17に接続されている。
【0054】
本実施の形態によれば、ビーム輸送チェンバ12Aの上流側端部に空気を遮断し、ビームを通過させる窓(隔離窓12c)を設ける必要がないため、その分、更にビームの散乱を抑制でき、ビームをより細くすることができる。
【0055】
なお、図3、図4及び図6で示した実施の形態では、X線検出器をガントリ回転方向(図示の位置でX方向)に移動退避しているが、ガントリ回転軸方向(Y方向)に移動退避してもよい。この場合、移動方向がガントリ角度によらず常に水平方向となるため、駆動動力を抑制できるとともに、X線検出器挿入時の位置決め精度を向上させやすいという効果がある。
【符号の説明】
【0056】
1,2 X線管
3,4 X線検出器
5 X線撮像制御装置
11A,11B 走査電磁石
12,12A ビーム輸送チェンバ
12a チェンバ容器
12b,12c 隔離窓
13 ビームモニタ(ビーム線量モニタ)
14 X線検出器駆動アクチュエータ(エアシリンダ)
15 ハウジング
17 ビームダクト
51 荷電粒子ビーム発生装置
52 ビーム輸送系
53 回転式照射装置
54 回転ガントリ
55,55A 走査式照射ノズル装置
56 ビーム輸送ダクト
57 治療台
58 患者
59 照射室
61 前段加速器
62 シンクロトロン
63 出射用デフレクタ
112 ビーム輸送チェンバ
155 照射ノズル装置
m ビーム軸
C アイソセンタ(照射中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速するビーム発生装置と、治療室に配置され、荷電粒子ビームの照射野を形成する照射ノズル装置と、前記ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを前記照射ノズル装置に輸送するビーム輸送装置とを備えた粒子線治療装置において、
前記照射ノズル装置内に配置され、前記照射ノズル装置に入射された荷電粒子ビームを走査する走査電磁石と、
前記照射ノズル装置内にビーム軸を内包するように配置され、前記荷電粒子ビームの散乱を抑えるためのガス領域或いは真空領域を確保するビーム輸送チェンバと、
前記照射ノズル装置の外側であって、治療台を挟んで前記照射ノズル装置の反対側に配置されたX線発生装置と、
前記照射野形成装置内に配置され、前記X線発生装置から放出されるX線を検出するX線検出器とを備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1の粒子線治療装置において、
前記X線検出器はフラットパネルディテクタを備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項1の粒子線治療装置において、
前記走査電磁石及び前記ビーム輸送チェンバよりも前記ビーム進行方向下流側の位置で前記照射ノズル装置内に配置されたビームモニタを更に備え、
前記X線検出器は、前記ビームモニタの更に下流側の位置で前記ビーム軸に対して退避可能に前記照射ノズル装置内に配置されていることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
治療室に配置され、ビーム発生装置から出射されたビーム輸送装置を経由して輸送された荷電粒子ビームの照射野を形成する照射ノズル装置において、
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記照射ノズル装置に入射された荷電粒子ビームを走査する走査電磁石と、
前記ハウジング内にビーム軸を内包するように配置され、前記荷電粒子ビームの散乱を抑えるためのガス領域或いは真空領域を確保するビーム輸送チェンバと、
前記ハウジング内に配置され、前記ハウジングの外側に配置されたX線発生装置から放出されるX線を検出するX線検出器とを備えることを特徴とする照射ノズル装置。
【請求項5】
請求項4の照射ノズル装置において、
前記走査電磁石及び前記ビーム輸送チェンバよりも前記ビーム進行方向下流側の位置で前記ハウジング内に配置されたビームモニタを更に備え、
前記X線検出器は、前記ビームモニタの更に下流側の位置で前記ビーム軸に対して退避可能に前記ハウジング内に配置されていることを特徴とする照射ノズル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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