粒子線照射装置
【課題】荷電粒子ビームの最大利用可能飛程の減少を抑えながら、ビームスポットの線量分布を拡大する粒子線照射装置を得る。
【解決手段】照射制御手段14は、複数の小領域のうち照射対象とする小領域を荷電粒子ビームが走査するように第一走査手段3を制御し、照射対象とする小領域を複数の小領域のうち別の小領域に変更するように第二走査手段4を制御し、かつ、第二走査手段4による標的領域における荷電粒子ビームの走査速度よりも、第一走査手段3による標的領域における荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御する。
【解決手段】照射制御手段14は、複数の小領域のうち照射対象とする小領域を荷電粒子ビームが走査するように第一走査手段3を制御し、照射対象とする小領域を複数の小領域のうち別の小領域に変更するように第二走査手段4を制御し、かつ、第二走査手段4による標的領域における荷電粒子ビームの走査速度よりも、第一走査手段3による標的領域における荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療等の医療用や研究用に用いられる粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子,炭素イオンなどの荷電粒子ビームが体内に照射された場合、荷電粒子ビームの体内における単位質量当たりのエネルギー付与(吸収線量)は荷電粒子ビームの飛程終端付近において最大となる性質を有する。粒子線照射装置はこの性質を利用して、患部に線量を集中させながら、患部周辺の正常組織に対する影響を最小に抑えることができる。通常、加速器から得られる荷電粒子ビームの横断面は径が約1cm以下の円形または楕円形である。一方、腫瘍などの患部のサイズは十数cmのものもある。そこで、加速器から得られる小さい荷電粒子ビームを大きい患部に均一に照射する方法として、荷電粒子ビームを患部において走査するスキャニング照射法と呼ばれるものがある。
【0003】
具体的には、荷電粒子ビームスポットを照射方向と垂直な面による照射ターゲットの断面を走査するように走査電磁石で制御すると同時に、各走査位置における荷電粒子ビームの照射量を制御する。最終的には、走査された全ての位置における荷電粒子ビームスポットの線量合計の分布が腫瘍の形状になるべく一致するようにする。なお、ビームスポットの深さ方向の走査は荷電粒子ビームの運動エネルギーを変更することで実現される。このように荷電粒子ビームを走査して、患部の3次元形状に合わせるように、3次元線量分布を形成する粒子線治療装置は、特許文献1に記述されている。
【0004】
特許文献1では、加速器によって加速されたビームエネルギーが約200MeVの陽子線ビームを、走査電磁石によって、ビーム進行方向と直交する方向に、任意形状の線量分布を有するように形成する照射装置と照射方法が開示されている。ここでは、陽子線ビームのエネルギーをレンジシフタと呼ばれる板を挿入して変更し、陽子線ビームを深さ方向においても走査するようにしている。また、必要に応じて、照射位置におけるビームスポットサイズは照射系において、鉛などの散乱物質を挿入して変えている。なお、ビームスポットサイズを大きくする目的は、同じ大きさの標的領域をより少ないスポットの照射によって十分な線量分布の形成が可能にすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−212253号公報
【特許文献2】特表2005−516634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1に開示されている従来の粒子線治療装置では、被照射体である腫瘍の大きさに応じて、照射に用いる荷電粒子ビームスポットのサイズを変更している。スポットサイズの変更方法としては、鉛などの散乱物質をビーム経路に挿入する方法が用いられている。散乱物質挿入によるビームスポットサイズ拡大とは、散乱によるビーム角度分散の増大を利用したものである。しかし、この従来のビームスポット変更方法でスポットサイズを拡大した場合、一定厚みの散乱物質を挿入する必要があるため、挿入した散乱物質の厚み分だけ、荷電粒子ビームの最大レンジが減少してしまう。したがって、治療で利用できる最大ビームエネルギーが減少してしまう課題があった。特に、荷電粒子ビームが炭素線ビームである場合、炭素線ビームが陽子線に比べて重く散乱され難いので、さらに厚い散乱物質を挿入する必要がある。よって、散乱物質挿入によるビームエネルギーロスがより大きいものとなるという問題があった。
【0007】
更に、散乱物質挿入によって得られた拡大スポットの横方向密度分布(近似的にスポットの形成する線量分布に比例する)は一般的にガウス分布に近い分布を有しており、この拡大されたスポットの分布の標準偏差をσ1とした場合、この拡大スポットを用いて腫瘍領域において走査して形成した線量分布のエッジ部の急峻度を表す80%−20%幅(以下ではペナンブラと呼ぶ)は最小でも1.12×σ1である。つまり、σ1が大きい程、得られる最終線量分布の傾斜がσ1に比例して大きくなる。一般的に、粒子線を用いた治療では、形成した線量分布のペナンブラが小さい程、照射標的である腫瘍以外の正常組織に照射する余分な線量が小さくなる。従って、この従来のスポットサイズ拡大法で得られたスポットによって形成した線量分布は、ペナンブラがスポットサイズσ1に比例して増大し、腫瘍周辺にある正常組織に照射する余分な線量が増えてしまう問題があった。
【0008】
また、特許文献2では、ビーム輸送系に設けた四極子電磁石などの設定を変えて、照射に用いるスポットサイズを変更する方法が開示されている。ここでは、ビーム輸送系にあるほぼすべての電磁石の設定を変更する必要があるため、照射制御手段が煩雑になる問題があると共に、変更できる最大スポットサイズが輸送系の電磁石ギャップサイズによって制限されてしまう問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような問題点を解消するためになされたもので、荷電粒子ビームの最大利用可能飛程の減少を抑えながら、ビームスポットの線量分布を拡大する粒子線照射装置を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、スキャニング照射によって形成する線量分布のペナンブラの増大を抑えることのできるビームスポットの線量分布の変更手段を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の粒子線照射装置は、荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、前記粒子線輸送手段で輸送される前記荷電粒子ビームを走査し、第一走査手段と第二走査手段とを有する走査装置と、複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御し、前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御し、かつ、前記第二走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御するものである。
また、本発明の粒子線照射装置は、荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、前記粒子線輸送手段で輸送される荷電粒子ビームを走査する走査装置と、複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記走査装置を制御する第一の制御信号と、前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記走査装置を制御する第二の制御信号とを前記走査装置に出力し、かつ、前記第二の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る粒子線照射装置によれば、ビームスポットの拡大は、走査装置を用いて実現するので、ビームエネルギーの不要なロスを無くすことが可能である。従って、同じ最大出射ビームエネルギーを有する粒子線加速手段において比較した場合、より深い位置にある標的領域を照射することができる。
また、走査装置を用いてスポットサイズを拡大することができるため、疑似拡大スポット(小領域)を構成する各スポットの線量分布の標準偏差σ1はスポットサイズ拡大前とほぼ同一に保たれたままである。このためこの標準偏差σ1と比例関係にある疑似拡大スポットの線量分布のペナンブラも大きくなることはなく、腫瘍周辺にある正常組織に照射する余分な線量を最小化することができる。
さらに、同じ大きさの標的領域をより少ないスポットの照射によって十分な線量分布の形成が可能になるため、照射管理の手間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図2】実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図3】実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。
【図4】従来技術による拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。
【図5】実施の形態1における第一走査手段による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図である。
【図6】実施の形態1における第一走査手段による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図7】実施の形態1における第一走査手段による疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【図8】実施の形態1における第一走査手段による別の荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図9】実施の形態1における第一走査手段による別の疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【0013】
【図10】実施の形態1における第一走査手段によるさらに別の荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図11】実施の形態1における第一走査手段によるさらに別の疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【図12】実施の形態1における第二走査手段を用いて、第一走査手段によって拡大された各種ビームスポットを走査して、患部において所定線量分布を形成する様子を示す概念図である。
【図13】実施の形態1における第二走査手段を用いて、第一走査手段によって拡大された各種ビームスポットを走査して、患部において所定線量分布を形成する様子を示す概念図である。
【図14】加速器から得られる拡大前スポットの線量分布とその形状を示す図である。
【図15】実施の形態3における疑似拡大スポットの線量分布とその形状を示す図である。
【図16】実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図17】実施の形態6における粒子線照射装置を示し構成図である。
【図18】実施の形態6における別の粒子線照射装置を示し構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における粒子線照射装置を示す構成図である。図1において、1は入射された荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段、2は加速され出射された荷電粒子ビームが輸送される粒子線輸送手段である。3は荷電粒子ビーム走査電磁石12を有する第一走査手段であり、4は荷電粒子ビーム走査電磁石13を有する第二走査手段であり、走査電源11より荷電粒子ビーム走査電磁石12,13に電力が印加され走査される。第一走査手段3,第二走査手段4及び走査電源11で走査装置を構成する。走査装置は図1では、粒子線輸送手段2に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置されている。5はビーム取り出し窓、6は荷電粒子ビームの線量モニタとビーム位置モニタ、7は照射対象である標的領域を表す。14は照射制御手段で粒子線照射装置の全体を制御し、加速器1からのビームエネルギーを制御し、荷電粒子ビームの出射、停止を制御し、標的領域への照射を制御する。15はオペレータが操作でき照射制御手段14に指令を入力するインターフェースで、ディスプレイとキーボードなどで構成される。また、10は加速器1によって所定ビームエネルギーに加速されて、粒子線輸送手段2によって走査装置まで輸送される荷電粒子ビームを表す。26は第一走査手段によって照射領域が拡大された疑似拡大スポットを表す。なお、ビーム取り出し窓5は第二走査手段4又は第一走査手段3より上流側に配置してもよい。線量モニタとビーム位置モニタ6は第二走査手段4より上流側に配置してもよい。
【0015】
図3は実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布とスポット位置を説明する図である。21は、図3(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図3(b)によりそのスポット位置を示す。なお、以下では、標的領域7において、深さ方向をZ方向、Z方向と直交する方向をX方向とY方向で表す。
【0016】
図4は、従来技術による散乱体を挿入した場合の拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。22は、図4(a)により散乱体挿入による拡大後の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図4(b)によりそのスポット位置を示す。23は線量分布傾斜部幅を示し、線量分布のペナンブラとも呼ぶ。
【0017】
図5は実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布とスポット位置を説明する図で、第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図である。21aは、図5(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図5(b)によりそのスポット位置を示す。図6は実施の形態1における第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポット21aの様子を示す。図において、21aは同様に図6(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図6(b)によりそのスポット位置を示す。24aは第一走査手段3による走査パターンの例を示す。25aは第一走査手段3による最大走査幅の例を示す。
【0018】
図7は図6に示す第一走査パターン24aに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、26aは図7(a)により拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布を示し、図7(b)によりそのスポット位置を示す。
【0019】
図8は実施の形態1における第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、別の第一走査パターン24bに従って走査される拡大前の別のスポット21bの様子を示す。図において、21bは同様に図8(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図8(b)によりそのスポット位置を示す。図9は図8に示す走査パターン24bに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、21bは拡大前スポットの線量分布を示し、26bは図9(a)により拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布を示し、図9(b)によりそのスポット位置を示す。
【0020】
図10は実施の形態1による第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、さらに別の第一走査パターン24cに従って走査される拡大前の別のスポット21cの様子を示す。図において、21cは同様に図10(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図10(b)によりそのスポット位置を示す。図11は図10に示す走査パターン24cに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、21cは拡大前スポットの線量分布を示し、26cは図11(a)により疑似拡大スポットの線量分布を示し、図11(b)によりそのスポット位置を示す。なお、第一走査手段による走査パターン24a,24b,24c,及びそれらの組み合わせは、治療計画で予め設定されるが、インターフェース15により照射制御手段14に指令を入力し選択できるようにしてもよい。
【0021】
図12は実施の形態1において、第一走査手段3によって拡大された荷電粒子ビーム(疑似拡大スポット)の各種線量分布を有するビームスポットを、第二走査手段4を用いて走査し、標的領域7において所定第二走査パターンを形成したときの、各拡大スポット(疑似拡大スポット)の位置、つまり、複数の擬似拡大スポットの位置と標的領域の関係を示す図である。図において、27は疑似拡大スポット(小領域)26の小さいサイズの例、28は疑似拡大スポット(小領域)26の大きいスポットの例、29は四角形状を有する疑似拡大スポット(小領域)の例を表す。30は標的領域7周辺にある照射線量をなるべく減らしたい重要臓器を表す。33は、第二走査手段4による走査幅を示す。
【0022】
また、図12の標的領域7において所定第二走査パターンを形成するには、各疑似拡大スポット(すなわち、小スポット,大スポット,四角スポット等)は、第一走査手段3で連続走査で形成し、所定第二走査パターンは第二走査手段4で連続走査(ラスタスキャン),非連続走査(スポットスキャン)又は連続非連続混合走査(ハイブリッドスキャン)で形成するようにしてもよい。従って、照射制御手段14は、荷電粒子ビームから疑似拡大スポットが形成されるように第一走査手段3を制御した後、前記疑似拡大スポットの位置が走査されるように第二走査手段4を制御するようにしてもよい。また、照射制御手段14は、荷電粒子ビームから疑似拡大スポットが形成されるように第一走査手段3を制御しつつ、前記疑似拡大スポットの位置が走査されるように第二走査手段4を制御するようにしてもよい。
【0023】
図13は実施の形態1において、第一走査手段3によって拡大された荷電粒子ビームの各種線量分布を有するビームスポットを、第二走査手段4を用いて走査し、標的領域7において所定第二走査パターンを形成したときの、得られる最終線量分布(照射された全ての疑似拡大スポット線量分布の合成線量分布)を示す図である。図において、31は第一走査手段3によって形成した各種の疑似拡大スポットの線量分布を示す。32は第二走査手段によって形成した最終合成線量分布を示す。
【0024】
次に、実施の形態1の粒子線照射装置(又は粒子線治療装置)の基本構成と動作を説明する。図1を参照して、粒子線加速器などから構成される粒子線加速手段1は、入射された荷電粒子ビームを治療に必要なビームエネルギーまで加速し出射する。出射された荷電粒子ビームは、電磁石システムを含む粒子線輸送手段2により、加速器室から、第一走査手段3、第二走査手段4、ビームを真空ダクトから大気中に取り出すビーム取り出し窓5、各スポットの線量を管理する線量モニタとスポット位置を管理するビーム位置モニタ6を備える照射室へ輸送される。
【0025】
第一走査手段3は例えば、ビーム進行方向と直交する方向において荷電粒子ビームを偏向する方向がお互いに直交する2台の高速走査電磁石から構成される。第二走査手段4は第一走査手段1と別個に独立して構成され、例えば、ビーム進行方向と直交する方向において荷電粒子ビームを偏向する方向がお互いに直交する2台の走査電磁石から構成される。但し、第一走査手段3の走査速度f1(走査の繰り返し周波数f1)は第二走査手段の走査速度f2(走査の繰り返し周波数f2)と比べて速い(周波数としては高い)。また、第一走査手段3の走査幅A1(標的領域7における走査範囲)は第二走査手段の走査幅A2(標的領域7における走査範囲)と比べ小さい。照射室に輸送された荷電粒子ビーム10は、まず、第一走査手段3によって、治療計画(図示せず)で予め設定した第一走査パターン24a,24b,24cに従って、高速に走査され、標的領域7において、疑似的に元のビームスポットより広い範囲に渡って分布する疑似拡大スポットを形成する。
【0026】
図6,図7は第一走査パターン24aが円軌道である場合の疑似拡大スポットの線量分布形成を示す。この例によれば、拡大前スポット21aは第一走査手段3によって、図6に示す第一走査パターン24aに従い、拡大前スポット21aのビーム経と同程度の半径を有する円軌道を描くように走査される。結果として、図7に示す疑似拡大スポットの線量分布26aが得られる。なお、第一走査手段3に必要な走査幅25aは元のスポットサイズと同じ程度で十分であるため、必要な走査磁場は小さくてよいため、非常に高速な走査が可能性である。
【0027】
また、図7に示す疑似拡大スポットの線量分布26aについては、この疑似拡大スポットのサイズを構成する各スポットの線量分布の標準偏差σ1はスポットサイズ拡大前と同一に保たれたままである。このためこの標準偏差σ1と比例関係にある疑似拡大スポットの線量分布26aのペナンブラも大きくなることはない。また、粒子線加速手段1から出射される荷電粒子ビーム10のビーム電流が時間と共に変化している場合でも、第一走査手段3の走査周期(第一走査パターン24aを繰り返す時間)をビーム電流の時間変化スケールに比べ十分短くすれば、形成された疑似拡大スポットの線量分布26aはほぼ一定にできる。荷電粒子ビーム10のビーム電流が時間に関してほぼ一定の場合には、第一走査手段3の走査速度がそれほど高速でなくてよいが、後述する第二走査手段4と比較して、十分高速にすればよい。また、逆に、照射野中心領域に照射されるスポットに関しては、わざとペナンブラが大きい擬似拡大スポットを用いて照射することによって、照射されるスポットの位置変動による最終線量分布の誤差を小さくできる効果が得られる。これは、粒子線照射装置の第一走査手段を用いて実現できる。例えば、呼吸移動性標的を対象にした場合、この効果により、より高い精度で3次元線量分布を標的に与えることができる。
【0028】
第一走査手段3によって、拡大された所定線量分布26を有する疑似拡大スポットは、治療計画(図示せず)によって設定した第二走査パターンに従って、第一走査手段3の下流側に設置した第二走査手段4によって、図1に示すように、標的領域7において、走査照射される。その際、第二走査パターンの各照射位置における各疑似拡大スポットの照射線量は線量モニタ6によって管理され、全ての疑似拡大スポット26による合計線量が治療計画で定めた線量分布となるように、照射制御手段によって第二走査動作が実行される。また、第二走査動作が実行されている際、位置モニタ6によって、疑似拡大スポット26の位置がモニタされ、制御される。
【0029】
また、荷電粒子ビーム10は第二走査手段4を通過後、ビーム取り出し窓5を通過し、真空領域から大気中に入り、線量モニタとビーム位置モニタ6を通過した後、標的領域7に照射される。荷電粒子ビーム10は第一走査手段3によって、そのスポットの線量分布が拡大され、疑似拡大スポット26となり、疑似拡大スポット26は第二走査手段4によって、標的領域7の任意位置に走査され、標的領域7において、治療計画で決めた3次元線量分布を形成する。なお、図示していないが、荷電粒子ビーム10のビームエネルギーの変更手段を用いて、標的領域7における深さ方向の位置走査が行われる。
【0030】
前記説明では、第二走査手段4の走査の繰り返し周波数f2(X方向とY方向があるが、速い方の走査の繰り返し周波数を指す)は普通10Hzから100Hzであるため、第一走査手段3の走査の繰り返し周波数f1(X方向とY方向があるが、遅い方の走査の繰り返し周波数を指す)は数百から数kHz以上であることが望ましい。一般的には、必要走査電磁石の偏向角度(標的領域7における走査幅に比例)が大きいほど、走査速度(走査の繰り返し周波数)を上げることが走査電磁石の駆動電源の大型につながる。また、第二走査手段4に必要な走査幅A2は腫瘍幅と同程度であるため、数cmから数十cmである。一方、第一走査手段3に必要な走査幅A1は拡大前スポットサイズ程度であるため、数cmより小さい。従って、A1は普通A2の10分の一であり、f1をf2より高くすることは相対的に容易である。
【0031】
また、図1に示したように、第一走査手段3は第二走査手段4の上流に設置した場合(この限りではないが)、第一走査手段3を第二走査手段4の下流に設置した場合と比較して、第一走査手段を2台のダイポール走査電磁石から構成したとき、走査電磁石の必要磁極ギャップ(荷電粒子ビーム10が通過する空間)が小さくてよいので、第一走査手段の走査繰り返し周波数f1を高くし易い効果がある。なお、前記説明では、元ビームスポットを拡大する手段として、第一走査手段3のみを用いることにしていたが、実際、炭素線のように標的中における散乱が小さい粒子線の場合、エネルギーロスが気にならない程度の厚みが一定である散乱物質を予め挿入し、少し大きい目の拡大前スポット21を形成してから、任意可変の第一走査手段3を用いて任意の線量分布に高速に変更するようにしてもよい。
【0032】
実施の形態1による粒子線照射装置の効果を説明する。ビームスポットの線量分布の拡大は、第一走査手段3を用いて実現するので、ビームエネルギーの不要なロスを無くすことが可能である。換言すれば、第一走査手段3による第一走査パターンに従って、高速且つ小振幅走査動作によって拡大されたビームスポット線量分布を用いて、第二走査手段を用い、拡大されたビームスポットの線量分布を患部において走査照射することによって、必要な3次元線量分布を形成できるため、荷電粒子ビームエネルギーの不要なロスを抑えることができる。従って、同じ最大出射ビームエネルギーを有する粒子線加速手段1において、従来技術に比べ、より深い位置にある患部を照射できる効果がある。
【0033】
また、第一走査手段3の走査パターン24a,24b,24cを含む動作パラメータを適切に設定することによって、形成された疑似拡大スポット26a,26b,26cは拡大前スポット21とほぼ同程度の80%−20%幅を維持しながら、拡大前スポット21より大きいスポットの線量分布を形成できる。従って、疑似拡大スポット26a,26b,26cを標的領域7において、第二走査手段によって、走査して形成した最終線量分布は標的領域7と周辺正常組織の境界において、拡大前スポット21のペナンブラと同じ程度にすることが可能である。換言すれば、従来より急峻な線量分布(小さいペナンブラ)を有する。よって、従来技術に比べ、正常組織に与える不要線量を減らし、治療効果を上げることが可能である。
【0034】
さらに、第一走査手段3の第一走査パターン24a,24b,24cを含む動作パラメータを変更することによって、スキャン照射中に、制御信号に従って、拡大されたビームスポットの線量分布形状とサイズを高速に変更することが可能であり、複雑な腫瘍形状に対しても高精度の3次元線量分布を形成することが可能である。さらにまた、ビーム輸送系のパラメータ変更を少なくできるスポットの線量分布の高速変更手段を実現できる。
【0035】
次に、第一走査パターンについて、図6,図7では、第一走査手段3の走査パターン24aがほぼ円形である場合を示した。しかし、第一走査手段3の目的は、粒子線加速器1から輸送されてきた荷電粒子ビーム10のサイズを必要に応じて(治療計画の指示どおりに)拡大することであるので、疑似拡大スポット26の形状は必ずしも円形である必要がない。例えば、図8,図9に示すように、第一走査手段3の走査パターン24を螺旋軌道とし、結果的に図9に示すような中心部がほぼ平坦で、エッジ部の80%−20%幅はなるべく拡大前スポット21と同程度であるような疑似拡大スポット26bを形成することも可能である。この場合、図7に示すものより、更に大きい疑似拡大スポット26bを形成できるので、大きい患部7を照射する際、第二走査手段による照射時間の短縮を図ることができる。
【0036】
また、図10,図11に示す場合では、第一走査手段3の走査パターン24cは鋸波形を有しており、これによれば、図11に示す、矩形の疑似拡大スポット26cを得ることが可能である。例えば、標的領域7が図12に示したような角を有する場合でも、第二走査手段4を用いて、この矩形の疑似拡大スポット26c(図12では四角スポット29と表記している)を走査し、より標的領域7に近い形の線量分布を形成できる効果がある。換言すれば、荷電粒子ビーム10のスポットサイズを拡大するための第一走査手段3は、予め照射制御手段の記憶媒体などに格納しておいた複数の任意形状の第一走査パターン3を照射制御手段に従い、呼び出してビームスポットの拡大を行うことが可能である。
【0037】
従来はビーム経路中に散乱物質を挿入することによりスポットサイズを変更しており、この散乱物質を機械的に移動させるのにかなりの時間を要するため、ビーム照射中にスポットサイズを変更することは現実的ではなかった。これに対して実施の形態1によれば、治療計画立案段階において、標的領域7の形状に従って、第二走査手段4の各走査位置に対して、どの第一走査パターン24を用いるかを予め決定しておけば、照射中にスポットサイズと形状の高速変更が可能である。従って、図12に示すように、複数種類の疑似拡大スポット(小領域)27、28、29などを使い分けることが可能となる。実際の運用では、第二走査手段4によって走査されるこれらの拡大スポットは標的領域7において、その分布は十分お互いにオーバーラップするようにその位置を配置するようにすれば、各拡大スポットの位置と照射線量を最適化し、図13に示すように標的領域7において必要な3次元線量分布を形成することが可能である。
【0038】
また、既に述べたように、スポット拡大手段では、元のスポットサイズと同じ程度に小さい線量分布ペナンブラを実現できるので、図12に示す重要臓器30が存在する場合でも、標的領域7に必要な線量を集中させると同時に、重要臓器30に照射する線量を最小に抑えることが可能である。実際、患部の大きさに依存して、第二走査手段によってスキャン照射されるこのような疑似拡大スポットの数は数百から数十万まである。
【0039】
実施の形態1では、第一走査手段3は2台のスキャン方向が直交するスキャン電磁石として説明したが、これを上記2台のスキャン電磁石は空芯のコイルから構成した電磁石としてもよい。第一走査手段3に必要な走査幅(走査範囲)は小さいので、空芯コイルから構成した電磁石でも十分な走査幅を得ることが可能である。よって、より高い走査繰り返し周波数f1を実現できる効果がある。また、高速性を実現するには、上記2台のスキャン電磁石は高速応答の磁性体などを用いたスキャン電磁石を用いてもよい。例えば、フェライトコアなどの高速応答性のある磁性体とコイルを組み合わせて、高速に走査できる第一走査手段3のスキャン電磁石を構成してもよい。
【0040】
第一走査手段3として、走査電場を用いても、前述効果は全く同じである。また、第一走査手段3の走査電源として、パターン電源または、高速振動する共振電源を用いてもよい。また、高速で振動するランダム(Random)な信号源を用いて駆動された電源を用いてもよい。
また、第一走査手段3と第二走査手段4は、粒子線輸送手段2に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置し、第一走査手段3は第二走査手段4の上流側に設置されているが、第一走査手段3と第二走査手段4の設置順番を入れ替えても、上述した基本的な効果は同じである。さらに、第一走査手段3と第二走査手段4の設置位置を入れ子配置または、同じ位置に配置した場合でも、前述と同じ効果が得られる。要するに、第一走査手段3は第二走査手段4と比較して、その走査繰り返し周波数f1が第二走査手段の走査繰り返し周波数f2より高く、且つその走査幅A1は第二走査手段の走査幅A2より小さいことである。そうすれば、安定した拡大スポットを第一走査手段3により得ることができる。
【0041】
好ましくは、第一走査手段3による最大走査幅A1は第二走査手段4の最大走査幅A2の3分の一以下であると同時に、第一走査手段3による走査繰り返し周波数f1は第二走査手段4の走査繰り返し周波数f2の3倍以上にするとよい。また、不要な同期現象を避けるために、f1とf2の比を整数とならないようにした方がよりよい。第一走査手段3は粒子線輸送手段2が有する電磁石に所定の高速信号を上乗せして擬似拡大スポットを形成するように構成されても、効果が同じである。その場合、第一走査手段3として専用の電磁石を設けなくてもよいので、粒子線照射装置の構成をより簡単にできると同時に、コスト削減できる効果が得られる。
【0042】
また、第一走査手段を、高速回転する少なくても一台の電磁石、永久磁石、又は偏向電極で作った偏向磁場又は偏向電場を用いて構成してもよい。つまり、図6に示す走査パターン24aの円軌道走査を回転する電場または磁場で実現する。もちろん、滑らかな疑似拡大スポット26を形成するには、前記磁場または電場による走査幅は拡大前スポット21のサイズと同程度にする必要がある。その際、前記秒間回転数はf1に相当する。その際、同様に上述した効果が得られる。
【0043】
実施の形態2.
図2は実施の形態2における粒子線照射装置(または粒子線治療装置)の基本構成と動作を説明する図である。図2において、図1と同じ符号は同一又は相当部分を示す。2は粒子線輸送手段であり、第一輸送手段2aと第二輸送手段2bとを有する。3は第一走査手段を示す。図1と異なる点は、第一走査手段3を粒子線加速手段1より下流側に設置し、粒子線輸送手段2の粒子線経路中に配置したことである。ここでいう粒子線輸送手段2は普通HEBT (High Energy Beam Transport System)と称されていて、複数の偏向、収束用電磁石から構成される。一般的に、第一走査手段3を標的領域7から離して、なるべくHEBT系の上流に配置した方が、小さい偏向角(キック角)でも、標的領域7において大きい偏向距離(走査幅)を得ることが可能になる。
【0044】
ここで、標的領域7における偏向距離と第1走査手段3による偏向角の比が大きいほど、必要な第一走査手段3の偏向角(励磁量)が小さくて済むので、第一走査手段3の走査速度(走査繰り返し周波数)をより高速にできる。従って、HEBT系の配置位置において、標的領域7における偏向距離と第1走査手段3による偏向角の比(偏向距離/偏向角)がなるべく大きい配置位置を選択し、第一走査手段3を設置すれば、より繰り返し周波数f1が大きい第一走査パターンを得ることが可能である。実際的には、粒子線輸送手段の中に配置される第一走査手段は、第一走査手段による荷電粒子ビームの微小偏向によって生じる標的領域における粒子線スポットの位置ずれ量と前記微小偏向量の比が必要とする値より大くなる位置に配置される。
【0045】
次に、実施の形態2の粒子線照射装置の動作を説明する。粒子線加速手段1によって加速された荷電粒子ビーム10は、粒子線輸送手段2を経て照射系へ輸送されるが、その際、粒子線輸送手段2の経路中に設置した第一走査手段3によって、振幅(走査幅)が微小であるが、高速に走査され、標的領域7において、疑似拡大スポット26を形成することができる。拡大疑似スポット26は第一走査手段3で制御され、予め格納された複数の第一走査パターンの選択されたパターンに対応した疑似拡大スポット線量分布を形成する。従って、例えば、インターフェース15により第一走査手段3に指令を送ることによって、素早く、疑似拡大スポット26の線量分布を変更できる。この際、特許文献2のように、HEBT系のすべての電磁石の設定値を変更する必要がない。また、特許文献1のように、荷電粒子ビーム10の経路に散乱物質を挿入する必要がない。所定の線量分布に拡大されたスポット26は、治療計画に従い、照射制御手段によって制御された第二走査手段4によって、標的領域7において走査され、標的領域7にあわせて3次元線量分布を形成する。
【0046】
標的領域7における深さ方向走査は、荷電粒子ビーム10のビームエネルギーを変更して行う。変更方法としては、粒子線加速手段1の出射ビームエネルギーを直接変えるものと、荷電粒子ビームの経路にレンジシフタを挿入するものとの2通りの方法がある。実施の形態2の粒子線照射装置では、実施の形態1で述べた効果に加え、第一走査手段3をHEBT系の望ましい位置に設置することによって、新たに、必要な第一走査手段3の偏向角を小さくできる効果がある。それによって、第一走査手段3の走査速度(走査繰り返し周波数)f1を簡単に高速にできるだけでなく、第一走査手段3の走査電源の低コスト化にもつながる。
【0047】
第一走査手段3は、HEBT系および照射系の複数箇所に複数個あってもよい。そうした場合、該当箇所設置のそれぞれの第一走査手段3を切り入りして、第一走査パターンを切り替えることが可能である。第一走査パターンの切り替えをより簡単に、確実できる効果がある。
【0048】
実施の形態3.
図14は加速器から得られる拡大前スポットの線量分布とその形状を示す図である。図15は実施の形態3における疑似拡大スポットの線量分布とその形状を示す図である。図14,図15において、34は加速器1から得られた拡大前スポットの線量分布を示し、34aはその形状を示す。35は擬似拡大スポットの線量分布を示し、35aは擬似拡大スポットの形状を示す。粒子線照射装置では、粒子線源としてシンクロトロン加速器を用いることがある。シンクロトン加速器より取り出される荷電粒子ビームは一般的にX−Y平面において、その形状が非対称である。例えば、図14(b)に示したようなY方向に伸びた非対称の断面形状を有している。このような非対称のビームを回転ガントリー照射装置(図示せず)などに導入した場合、被照射体において、図14(b)に示す形状が回転ガントリーの回転角度によって回転する現象が生じる。
【0049】
そこで、加速器1から得られる拡大前スポットの線量分布をなるべく対称な形状にすることが照射手順を簡便にし照射精度を向上させる上で重要である。そこで、第一走査手段3を用いて、加速器1から得られる非対称の拡大前スポット34aをX方向に、所定の走査パターンにおいて走査し、結果的にX方向における分布を広げることが可能である。また、走査の詳細パターンと範囲を調整することによって、図15の擬似拡大スポットの線量分布35と擬似拡大スポットの形状35aに示すようにより対称な擬似拡大スポットを得ることが可能である。具体的な例として、X方向における走査速度をV(x)とした場合、V(x)を走査量xの関数として、x=0付近では遅く、xの絶対値が大きくなるにつれて、V(x)を大きくすれば、スポットのX方向における分布を広げることが可能である。例えば、V(x)をガウス分布の逆数とする。その結果、回転ガントリーを用いた粒子線照射装置でも、回転ガントリーの回転角度が変化しても、照射位置に照射される擬似拡大スポットの形状がほぼ一定にできるため、スキャニング照射の精度を向上できる効果がある。
【0050】
実施の形態4.
実施の形態4における粒子線照射装置を説明する。実施の形態4では、第一走査手段によって形成できる複数種類の擬似拡大スポット分布に対応して、複数種類の走査モードを用意する。また、照射制御手段(スキャニング照射制御手段)には、オペレータが操作可能なインタフェースを用意し、オペレータがこのインタフェースを用いて、実際に照射で使用する走査パターンや走査モードを選択できるようにする。そうすることによって、照射される標的領域の状況に合わせて、予め治療計画で決まった擬似拡大スポット分布を用いたスキャニング照射を実施することが可能である。
【0051】
その結果、実施の形態1と実施の形態2で述べたような一回の照射中に、複数の擬似拡大スポットを併用することが必要でない場合には、簡単且つ確実に選択した所定の走査モードを用いてスキャニング照射を実施できる効果がある。なお、第一走査手段は加速器から得られた荷電粒子ビームを1次元又は2次元において走査できる。第一走査手段による走査パターンは第二走査手段で用いる擬似拡大スポットの分布が加速器のビーム電流の時間構造による分布変化が十分小さいように、高速の走査信号またはホワイトノイズ走査信号を用いると効果的である。ホワイトノイズ走査信号を用いた場合、ビームスポットは原理的に第1走査手段の走査範囲内に、均一に分布するので、ビーム電流の時間変化に影響されにくく、安定した分布(分布自体は必ずしも均一分布にならないが)を有する擬似拡大スポットを得ることができる。その結果、高い精度のスキャニング照射線量分布を得ることができる。
【0052】
実施の形態5.
図16は実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。図1の照射制御手段14と走査電源11は図16に示すように分離して構成してもよい。照射制御手段14には、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力する第1照射制御手段14aと、疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力する第2照射制御手段14bを備える。走査電源11には、第1照射制御手段14aからの出力を受け第一走査手段3を走査する第1走査電源11aを設ける。さらに、走査電源11には、第2照射制御手段14bからの出力を受け第二走査手段4を走査する第2走査電源11bを設ける。このように、第一走査手段3用と第二走査手段4用に、照射制御手段14と走査電源11を分離しておくと、制御が容易になり、走査電源の電力と周波数の制御が容易である。
【0053】
実施の形態6.
本発明で示した疑似拡大スポットを形成する第一走査手段の役割と、疑似拡大スポットを走査する第二走査手段の役割を、1組のX方向,Y方向走査電磁石17である走査装置16(図17参照)で実現してもよい。走査装置16は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである。図17は実施の形態6における粒子線照射装置を示し構成図である。照射制御手段14には、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力する第1照射制御手段14aと、疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力する第2照射制御手段14bを備える。走査電源11には、第1照射制御手段14aからの出力を受ける第1走査電源11aと、第2照射制御手段14bからの出力を受ける第2走査電源11bを設ける。第1走査電源11aからの拡大スポット形成信号と第2走査電源11bからの拡大スポット走査信号は加算器18で重ね合わせて1つの走査装置16に出力する。換言すれば、拡大スポット走査信号上に拡大スポット形成信号を重畳させた信号を1つの走査装置16に出力する。このように、走査電源11を分離しておくと、走査電源の電力と周波数の制御が容易である。
【0054】
図18は実施の形態6における別の粒子線照射装置を示し構成図である。図17と同様に、走査装置16は1つである。第1照射制御手段14aからの拡大スポット形成信号の出力と、第2照射制御手段14bからの拡大スポット走査信号の出力とは、加算器19で重ね合わせて走査電源11を経由して走査装置16に出力され、走査装置16が制御される。実施の形態6では、走査装置16は1つであるので、構成が簡単になる。
【0055】
また、実施の形態6においても、図12の標的領域7で所定第二走査パターンを形成するには、各疑似拡大スポット(すなわち、小スポット,大スポット,四角スポット等)は、走査手段16で連続走査で形成し、所定第二走査パターンは走査手段16で連続走査(ラスタスキャン),非連続走査(スポットスキャン)又は連続非連続混合走査(ハイブリッドスキャン)で形成するようにしてもよい。換言すれば、照射制御手段は、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力した後、前記疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力するようにしてもよい。
また、照射制御手段は、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力しつつ、前記疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力するようにしてもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療等の医療用や研究用に用いられる粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子,炭素イオンなどの荷電粒子ビームが体内に照射された場合、荷電粒子ビームの体内における単位質量当たりのエネルギー付与(吸収線量)は荷電粒子ビームの飛程終端付近において最大となる性質を有する。粒子線照射装置はこの性質を利用して、患部に線量を集中させながら、患部周辺の正常組織に対する影響を最小に抑えることができる。通常、加速器から得られる荷電粒子ビームの横断面は径が約1cm以下の円形または楕円形である。一方、腫瘍などの患部のサイズは十数cmのものもある。そこで、加速器から得られる小さい荷電粒子ビームを大きい患部に均一に照射する方法として、荷電粒子ビームを患部において走査するスキャニング照射法と呼ばれるものがある。
【0003】
具体的には、荷電粒子ビームスポットを照射方向と垂直な面による照射ターゲットの断面を走査するように走査電磁石で制御すると同時に、各走査位置における荷電粒子ビームの照射量を制御する。最終的には、走査された全ての位置における荷電粒子ビームスポットの線量合計の分布が腫瘍の形状になるべく一致するようにする。なお、ビームスポットの深さ方向の走査は荷電粒子ビームの運動エネルギーを変更することで実現される。このように荷電粒子ビームを走査して、患部の3次元形状に合わせるように、3次元線量分布を形成する粒子線治療装置は、特許文献1に記述されている。
【0004】
特許文献1では、加速器によって加速されたビームエネルギーが約200MeVの陽子線ビームを、走査電磁石によって、ビーム進行方向と直交する方向に、任意形状の線量分布を有するように形成する照射装置と照射方法が開示されている。ここでは、陽子線ビームのエネルギーをレンジシフタと呼ばれる板を挿入して変更し、陽子線ビームを深さ方向においても走査するようにしている。また、必要に応じて、照射位置におけるビームスポットサイズは照射系において、鉛などの散乱物質を挿入して変えている。なお、ビームスポットサイズを大きくする目的は、同じ大きさの標的領域をより少ないスポットの照射によって十分な線量分布の形成が可能にすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−212253号公報
【特許文献2】特表2005−516634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1に開示されている従来の粒子線治療装置では、被照射体である腫瘍の大きさに応じて、照射に用いる荷電粒子ビームスポットのサイズを変更している。スポットサイズの変更方法としては、鉛などの散乱物質をビーム経路に挿入する方法が用いられている。散乱物質挿入によるビームスポットサイズ拡大とは、散乱によるビーム角度分散の増大を利用したものである。しかし、この従来のビームスポット変更方法でスポットサイズを拡大した場合、一定厚みの散乱物質を挿入する必要があるため、挿入した散乱物質の厚み分だけ、荷電粒子ビームの最大レンジが減少してしまう。したがって、治療で利用できる最大ビームエネルギーが減少してしまう課題があった。特に、荷電粒子ビームが炭素線ビームである場合、炭素線ビームが陽子線に比べて重く散乱され難いので、さらに厚い散乱物質を挿入する必要がある。よって、散乱物質挿入によるビームエネルギーロスがより大きいものとなるという問題があった。
【0007】
更に、散乱物質挿入によって得られた拡大スポットの横方向密度分布(近似的にスポットの形成する線量分布に比例する)は一般的にガウス分布に近い分布を有しており、この拡大されたスポットの分布の標準偏差をσ1とした場合、この拡大スポットを用いて腫瘍領域において走査して形成した線量分布のエッジ部の急峻度を表す80%−20%幅(以下ではペナンブラと呼ぶ)は最小でも1.12×σ1である。つまり、σ1が大きい程、得られる最終線量分布の傾斜がσ1に比例して大きくなる。一般的に、粒子線を用いた治療では、形成した線量分布のペナンブラが小さい程、照射標的である腫瘍以外の正常組織に照射する余分な線量が小さくなる。従って、この従来のスポットサイズ拡大法で得られたスポットによって形成した線量分布は、ペナンブラがスポットサイズσ1に比例して増大し、腫瘍周辺にある正常組織に照射する余分な線量が増えてしまう問題があった。
【0008】
また、特許文献2では、ビーム輸送系に設けた四極子電磁石などの設定を変えて、照射に用いるスポットサイズを変更する方法が開示されている。ここでは、ビーム輸送系にあるほぼすべての電磁石の設定を変更する必要があるため、照射制御手段が煩雑になる問題があると共に、変更できる最大スポットサイズが輸送系の電磁石ギャップサイズによって制限されてしまう問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような問題点を解消するためになされたもので、荷電粒子ビームの最大利用可能飛程の減少を抑えながら、ビームスポットの線量分布を拡大する粒子線照射装置を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、スキャニング照射によって形成する線量分布のペナンブラの増大を抑えることのできるビームスポットの線量分布の変更手段を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の粒子線照射装置は、荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、前記粒子線輸送手段で輸送される前記荷電粒子ビームを走査し、第一走査手段と第二走査手段とを有する走査装置と、複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御し、前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御し、かつ、前記第二走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御するものである。
また、本発明の粒子線照射装置は、荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、前記粒子線輸送手段で輸送される荷電粒子ビームを走査する走査装置と、複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記走査装置を制御する第一の制御信号と、前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記走査装置を制御する第二の制御信号とを前記走査装置に出力し、かつ、前記第二の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る粒子線照射装置によれば、ビームスポットの拡大は、走査装置を用いて実現するので、ビームエネルギーの不要なロスを無くすことが可能である。従って、同じ最大出射ビームエネルギーを有する粒子線加速手段において比較した場合、より深い位置にある標的領域を照射することができる。
また、走査装置を用いてスポットサイズを拡大することができるため、疑似拡大スポット(小領域)を構成する各スポットの線量分布の標準偏差σ1はスポットサイズ拡大前とほぼ同一に保たれたままである。このためこの標準偏差σ1と比例関係にある疑似拡大スポットの線量分布のペナンブラも大きくなることはなく、腫瘍周辺にある正常組織に照射する余分な線量を最小化することができる。
さらに、同じ大きさの標的領域をより少ないスポットの照射によって十分な線量分布の形成が可能になるため、照射管理の手間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図2】実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図3】実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。
【図4】従来技術による拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。
【図5】実施の形態1における第一走査手段による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図である。
【図6】実施の形態1における第一走査手段による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図7】実施の形態1における第一走査手段による疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【図8】実施の形態1における第一走査手段による別の荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図9】実施の形態1における第一走査手段による別の疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【0013】
【図10】実施の形態1における第一走査手段によるさらに別の荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポットの様子を示す。
【図11】実施の形態1における第一走査手段によるさらに別の疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。
【図12】実施の形態1における第二走査手段を用いて、第一走査手段によって拡大された各種ビームスポットを走査して、患部において所定線量分布を形成する様子を示す概念図である。
【図13】実施の形態1における第二走査手段を用いて、第一走査手段によって拡大された各種ビームスポットを走査して、患部において所定線量分布を形成する様子を示す概念図である。
【図14】加速器から得られる拡大前スポットの線量分布とその形状を示す図である。
【図15】実施の形態3における疑似拡大スポットの線量分布とその形状を示す図である。
【図16】実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図17】実施の形態6における粒子線照射装置を示し構成図である。
【図18】実施の形態6における別の粒子線照射装置を示し構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における粒子線照射装置を示す構成図である。図1において、1は入射された荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段、2は加速され出射された荷電粒子ビームが輸送される粒子線輸送手段である。3は荷電粒子ビーム走査電磁石12を有する第一走査手段であり、4は荷電粒子ビーム走査電磁石13を有する第二走査手段であり、走査電源11より荷電粒子ビーム走査電磁石12,13に電力が印加され走査される。第一走査手段3,第二走査手段4及び走査電源11で走査装置を構成する。走査装置は図1では、粒子線輸送手段2に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置されている。5はビーム取り出し窓、6は荷電粒子ビームの線量モニタとビーム位置モニタ、7は照射対象である標的領域を表す。14は照射制御手段で粒子線照射装置の全体を制御し、加速器1からのビームエネルギーを制御し、荷電粒子ビームの出射、停止を制御し、標的領域への照射を制御する。15はオペレータが操作でき照射制御手段14に指令を入力するインターフェースで、ディスプレイとキーボードなどで構成される。また、10は加速器1によって所定ビームエネルギーに加速されて、粒子線輸送手段2によって走査装置まで輸送される荷電粒子ビームを表す。26は第一走査手段によって照射領域が拡大された疑似拡大スポットを表す。なお、ビーム取り出し窓5は第二走査手段4又は第一走査手段3より上流側に配置してもよい。線量モニタとビーム位置モニタ6は第二走査手段4より上流側に配置してもよい。
【0015】
図3は実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布とスポット位置を説明する図である。21は、図3(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図3(b)によりそのスポット位置を示す。なお、以下では、標的領域7において、深さ方向をZ方向、Z方向と直交する方向をX方向とY方向で表す。
【0016】
図4は、従来技術による散乱体を挿入した場合の拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布を説明する図である。22は、図4(a)により散乱体挿入による拡大後の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図4(b)によりそのスポット位置を示す。23は線量分布傾斜部幅を示し、線量分布のペナンブラとも呼ぶ。
【0017】
図5は実施の形態1における拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布とスポット位置を説明する図で、第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図である。21aは、図5(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの標的領域7における線量分布を示し、図5(b)によりそのスポット位置を示す。図6は実施の形態1における第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、走査される拡大前のスポット21aの様子を示す。図において、21aは同様に図6(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図6(b)によりそのスポット位置を示す。24aは第一走査手段3による走査パターンの例を示す。25aは第一走査手段3による最大走査幅の例を示す。
【0018】
図7は図6に示す第一走査パターン24aに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した拡大後の荷電粒子ビームスポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、26aは図7(a)により拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布を示し、図7(b)によりそのスポット位置を示す。
【0019】
図8は実施の形態1における第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、別の第一走査パターン24bに従って走査される拡大前の別のスポット21bの様子を示す。図において、21bは同様に図8(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図8(b)によりそのスポット位置を示す。図9は図8に示す走査パターン24bに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、21bは拡大前スポットの線量分布を示し、26bは図9(a)により拡大後の荷電粒子ビームスポット(疑似拡大スポット)の線量分布を示し、図9(b)によりそのスポット位置を示す。
【0020】
図10は実施の形態1による第一走査手段3による荷電粒子ビームスポット拡大の原理を説明する図で、さらに別の第一走査パターン24cに従って走査される拡大前の別のスポット21cの様子を示す。図において、21cは同様に図10(a)により拡大前の荷電粒子ビームスポットの線量分布を示し、図10(b)によりそのスポット位置を示す。図11は図10に示す走査パターン24cに従って、第一走査手段3の高速走査によって形成した疑似拡大スポットの線量分布とスポット位置を説明する図である。図において、21cは拡大前スポットの線量分布を示し、26cは図11(a)により疑似拡大スポットの線量分布を示し、図11(b)によりそのスポット位置を示す。なお、第一走査手段による走査パターン24a,24b,24c,及びそれらの組み合わせは、治療計画で予め設定されるが、インターフェース15により照射制御手段14に指令を入力し選択できるようにしてもよい。
【0021】
図12は実施の形態1において、第一走査手段3によって拡大された荷電粒子ビーム(疑似拡大スポット)の各種線量分布を有するビームスポットを、第二走査手段4を用いて走査し、標的領域7において所定第二走査パターンを形成したときの、各拡大スポット(疑似拡大スポット)の位置、つまり、複数の擬似拡大スポットの位置と標的領域の関係を示す図である。図において、27は疑似拡大スポット(小領域)26の小さいサイズの例、28は疑似拡大スポット(小領域)26の大きいスポットの例、29は四角形状を有する疑似拡大スポット(小領域)の例を表す。30は標的領域7周辺にある照射線量をなるべく減らしたい重要臓器を表す。33は、第二走査手段4による走査幅を示す。
【0022】
また、図12の標的領域7において所定第二走査パターンを形成するには、各疑似拡大スポット(すなわち、小スポット,大スポット,四角スポット等)は、第一走査手段3で連続走査で形成し、所定第二走査パターンは第二走査手段4で連続走査(ラスタスキャン),非連続走査(スポットスキャン)又は連続非連続混合走査(ハイブリッドスキャン)で形成するようにしてもよい。従って、照射制御手段14は、荷電粒子ビームから疑似拡大スポットが形成されるように第一走査手段3を制御した後、前記疑似拡大スポットの位置が走査されるように第二走査手段4を制御するようにしてもよい。また、照射制御手段14は、荷電粒子ビームから疑似拡大スポットが形成されるように第一走査手段3を制御しつつ、前記疑似拡大スポットの位置が走査されるように第二走査手段4を制御するようにしてもよい。
【0023】
図13は実施の形態1において、第一走査手段3によって拡大された荷電粒子ビームの各種線量分布を有するビームスポットを、第二走査手段4を用いて走査し、標的領域7において所定第二走査パターンを形成したときの、得られる最終線量分布(照射された全ての疑似拡大スポット線量分布の合成線量分布)を示す図である。図において、31は第一走査手段3によって形成した各種の疑似拡大スポットの線量分布を示す。32は第二走査手段によって形成した最終合成線量分布を示す。
【0024】
次に、実施の形態1の粒子線照射装置(又は粒子線治療装置)の基本構成と動作を説明する。図1を参照して、粒子線加速器などから構成される粒子線加速手段1は、入射された荷電粒子ビームを治療に必要なビームエネルギーまで加速し出射する。出射された荷電粒子ビームは、電磁石システムを含む粒子線輸送手段2により、加速器室から、第一走査手段3、第二走査手段4、ビームを真空ダクトから大気中に取り出すビーム取り出し窓5、各スポットの線量を管理する線量モニタとスポット位置を管理するビーム位置モニタ6を備える照射室へ輸送される。
【0025】
第一走査手段3は例えば、ビーム進行方向と直交する方向において荷電粒子ビームを偏向する方向がお互いに直交する2台の高速走査電磁石から構成される。第二走査手段4は第一走査手段1と別個に独立して構成され、例えば、ビーム進行方向と直交する方向において荷電粒子ビームを偏向する方向がお互いに直交する2台の走査電磁石から構成される。但し、第一走査手段3の走査速度f1(走査の繰り返し周波数f1)は第二走査手段の走査速度f2(走査の繰り返し周波数f2)と比べて速い(周波数としては高い)。また、第一走査手段3の走査幅A1(標的領域7における走査範囲)は第二走査手段の走査幅A2(標的領域7における走査範囲)と比べ小さい。照射室に輸送された荷電粒子ビーム10は、まず、第一走査手段3によって、治療計画(図示せず)で予め設定した第一走査パターン24a,24b,24cに従って、高速に走査され、標的領域7において、疑似的に元のビームスポットより広い範囲に渡って分布する疑似拡大スポットを形成する。
【0026】
図6,図7は第一走査パターン24aが円軌道である場合の疑似拡大スポットの線量分布形成を示す。この例によれば、拡大前スポット21aは第一走査手段3によって、図6に示す第一走査パターン24aに従い、拡大前スポット21aのビーム経と同程度の半径を有する円軌道を描くように走査される。結果として、図7に示す疑似拡大スポットの線量分布26aが得られる。なお、第一走査手段3に必要な走査幅25aは元のスポットサイズと同じ程度で十分であるため、必要な走査磁場は小さくてよいため、非常に高速な走査が可能性である。
【0027】
また、図7に示す疑似拡大スポットの線量分布26aについては、この疑似拡大スポットのサイズを構成する各スポットの線量分布の標準偏差σ1はスポットサイズ拡大前と同一に保たれたままである。このためこの標準偏差σ1と比例関係にある疑似拡大スポットの線量分布26aのペナンブラも大きくなることはない。また、粒子線加速手段1から出射される荷電粒子ビーム10のビーム電流が時間と共に変化している場合でも、第一走査手段3の走査周期(第一走査パターン24aを繰り返す時間)をビーム電流の時間変化スケールに比べ十分短くすれば、形成された疑似拡大スポットの線量分布26aはほぼ一定にできる。荷電粒子ビーム10のビーム電流が時間に関してほぼ一定の場合には、第一走査手段3の走査速度がそれほど高速でなくてよいが、後述する第二走査手段4と比較して、十分高速にすればよい。また、逆に、照射野中心領域に照射されるスポットに関しては、わざとペナンブラが大きい擬似拡大スポットを用いて照射することによって、照射されるスポットの位置変動による最終線量分布の誤差を小さくできる効果が得られる。これは、粒子線照射装置の第一走査手段を用いて実現できる。例えば、呼吸移動性標的を対象にした場合、この効果により、より高い精度で3次元線量分布を標的に与えることができる。
【0028】
第一走査手段3によって、拡大された所定線量分布26を有する疑似拡大スポットは、治療計画(図示せず)によって設定した第二走査パターンに従って、第一走査手段3の下流側に設置した第二走査手段4によって、図1に示すように、標的領域7において、走査照射される。その際、第二走査パターンの各照射位置における各疑似拡大スポットの照射線量は線量モニタ6によって管理され、全ての疑似拡大スポット26による合計線量が治療計画で定めた線量分布となるように、照射制御手段によって第二走査動作が実行される。また、第二走査動作が実行されている際、位置モニタ6によって、疑似拡大スポット26の位置がモニタされ、制御される。
【0029】
また、荷電粒子ビーム10は第二走査手段4を通過後、ビーム取り出し窓5を通過し、真空領域から大気中に入り、線量モニタとビーム位置モニタ6を通過した後、標的領域7に照射される。荷電粒子ビーム10は第一走査手段3によって、そのスポットの線量分布が拡大され、疑似拡大スポット26となり、疑似拡大スポット26は第二走査手段4によって、標的領域7の任意位置に走査され、標的領域7において、治療計画で決めた3次元線量分布を形成する。なお、図示していないが、荷電粒子ビーム10のビームエネルギーの変更手段を用いて、標的領域7における深さ方向の位置走査が行われる。
【0030】
前記説明では、第二走査手段4の走査の繰り返し周波数f2(X方向とY方向があるが、速い方の走査の繰り返し周波数を指す)は普通10Hzから100Hzであるため、第一走査手段3の走査の繰り返し周波数f1(X方向とY方向があるが、遅い方の走査の繰り返し周波数を指す)は数百から数kHz以上であることが望ましい。一般的には、必要走査電磁石の偏向角度(標的領域7における走査幅に比例)が大きいほど、走査速度(走査の繰り返し周波数)を上げることが走査電磁石の駆動電源の大型につながる。また、第二走査手段4に必要な走査幅A2は腫瘍幅と同程度であるため、数cmから数十cmである。一方、第一走査手段3に必要な走査幅A1は拡大前スポットサイズ程度であるため、数cmより小さい。従って、A1は普通A2の10分の一であり、f1をf2より高くすることは相対的に容易である。
【0031】
また、図1に示したように、第一走査手段3は第二走査手段4の上流に設置した場合(この限りではないが)、第一走査手段3を第二走査手段4の下流に設置した場合と比較して、第一走査手段を2台のダイポール走査電磁石から構成したとき、走査電磁石の必要磁極ギャップ(荷電粒子ビーム10が通過する空間)が小さくてよいので、第一走査手段の走査繰り返し周波数f1を高くし易い効果がある。なお、前記説明では、元ビームスポットを拡大する手段として、第一走査手段3のみを用いることにしていたが、実際、炭素線のように標的中における散乱が小さい粒子線の場合、エネルギーロスが気にならない程度の厚みが一定である散乱物質を予め挿入し、少し大きい目の拡大前スポット21を形成してから、任意可変の第一走査手段3を用いて任意の線量分布に高速に変更するようにしてもよい。
【0032】
実施の形態1による粒子線照射装置の効果を説明する。ビームスポットの線量分布の拡大は、第一走査手段3を用いて実現するので、ビームエネルギーの不要なロスを無くすことが可能である。換言すれば、第一走査手段3による第一走査パターンに従って、高速且つ小振幅走査動作によって拡大されたビームスポット線量分布を用いて、第二走査手段を用い、拡大されたビームスポットの線量分布を患部において走査照射することによって、必要な3次元線量分布を形成できるため、荷電粒子ビームエネルギーの不要なロスを抑えることができる。従って、同じ最大出射ビームエネルギーを有する粒子線加速手段1において、従来技術に比べ、より深い位置にある患部を照射できる効果がある。
【0033】
また、第一走査手段3の走査パターン24a,24b,24cを含む動作パラメータを適切に設定することによって、形成された疑似拡大スポット26a,26b,26cは拡大前スポット21とほぼ同程度の80%−20%幅を維持しながら、拡大前スポット21より大きいスポットの線量分布を形成できる。従って、疑似拡大スポット26a,26b,26cを標的領域7において、第二走査手段によって、走査して形成した最終線量分布は標的領域7と周辺正常組織の境界において、拡大前スポット21のペナンブラと同じ程度にすることが可能である。換言すれば、従来より急峻な線量分布(小さいペナンブラ)を有する。よって、従来技術に比べ、正常組織に与える不要線量を減らし、治療効果を上げることが可能である。
【0034】
さらに、第一走査手段3の第一走査パターン24a,24b,24cを含む動作パラメータを変更することによって、スキャン照射中に、制御信号に従って、拡大されたビームスポットの線量分布形状とサイズを高速に変更することが可能であり、複雑な腫瘍形状に対しても高精度の3次元線量分布を形成することが可能である。さらにまた、ビーム輸送系のパラメータ変更を少なくできるスポットの線量分布の高速変更手段を実現できる。
【0035】
次に、第一走査パターンについて、図6,図7では、第一走査手段3の走査パターン24aがほぼ円形である場合を示した。しかし、第一走査手段3の目的は、粒子線加速器1から輸送されてきた荷電粒子ビーム10のサイズを必要に応じて(治療計画の指示どおりに)拡大することであるので、疑似拡大スポット26の形状は必ずしも円形である必要がない。例えば、図8,図9に示すように、第一走査手段3の走査パターン24を螺旋軌道とし、結果的に図9に示すような中心部がほぼ平坦で、エッジ部の80%−20%幅はなるべく拡大前スポット21と同程度であるような疑似拡大スポット26bを形成することも可能である。この場合、図7に示すものより、更に大きい疑似拡大スポット26bを形成できるので、大きい患部7を照射する際、第二走査手段による照射時間の短縮を図ることができる。
【0036】
また、図10,図11に示す場合では、第一走査手段3の走査パターン24cは鋸波形を有しており、これによれば、図11に示す、矩形の疑似拡大スポット26cを得ることが可能である。例えば、標的領域7が図12に示したような角を有する場合でも、第二走査手段4を用いて、この矩形の疑似拡大スポット26c(図12では四角スポット29と表記している)を走査し、より標的領域7に近い形の線量分布を形成できる効果がある。換言すれば、荷電粒子ビーム10のスポットサイズを拡大するための第一走査手段3は、予め照射制御手段の記憶媒体などに格納しておいた複数の任意形状の第一走査パターン3を照射制御手段に従い、呼び出してビームスポットの拡大を行うことが可能である。
【0037】
従来はビーム経路中に散乱物質を挿入することによりスポットサイズを変更しており、この散乱物質を機械的に移動させるのにかなりの時間を要するため、ビーム照射中にスポットサイズを変更することは現実的ではなかった。これに対して実施の形態1によれば、治療計画立案段階において、標的領域7の形状に従って、第二走査手段4の各走査位置に対して、どの第一走査パターン24を用いるかを予め決定しておけば、照射中にスポットサイズと形状の高速変更が可能である。従って、図12に示すように、複数種類の疑似拡大スポット(小領域)27、28、29などを使い分けることが可能となる。実際の運用では、第二走査手段4によって走査されるこれらの拡大スポットは標的領域7において、その分布は十分お互いにオーバーラップするようにその位置を配置するようにすれば、各拡大スポットの位置と照射線量を最適化し、図13に示すように標的領域7において必要な3次元線量分布を形成することが可能である。
【0038】
また、既に述べたように、スポット拡大手段では、元のスポットサイズと同じ程度に小さい線量分布ペナンブラを実現できるので、図12に示す重要臓器30が存在する場合でも、標的領域7に必要な線量を集中させると同時に、重要臓器30に照射する線量を最小に抑えることが可能である。実際、患部の大きさに依存して、第二走査手段によってスキャン照射されるこのような疑似拡大スポットの数は数百から数十万まである。
【0039】
実施の形態1では、第一走査手段3は2台のスキャン方向が直交するスキャン電磁石として説明したが、これを上記2台のスキャン電磁石は空芯のコイルから構成した電磁石としてもよい。第一走査手段3に必要な走査幅(走査範囲)は小さいので、空芯コイルから構成した電磁石でも十分な走査幅を得ることが可能である。よって、より高い走査繰り返し周波数f1を実現できる効果がある。また、高速性を実現するには、上記2台のスキャン電磁石は高速応答の磁性体などを用いたスキャン電磁石を用いてもよい。例えば、フェライトコアなどの高速応答性のある磁性体とコイルを組み合わせて、高速に走査できる第一走査手段3のスキャン電磁石を構成してもよい。
【0040】
第一走査手段3として、走査電場を用いても、前述効果は全く同じである。また、第一走査手段3の走査電源として、パターン電源または、高速振動する共振電源を用いてもよい。また、高速で振動するランダム(Random)な信号源を用いて駆動された電源を用いてもよい。
また、第一走査手段3と第二走査手段4は、粒子線輸送手段2に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置し、第一走査手段3は第二走査手段4の上流側に設置されているが、第一走査手段3と第二走査手段4の設置順番を入れ替えても、上述した基本的な効果は同じである。さらに、第一走査手段3と第二走査手段4の設置位置を入れ子配置または、同じ位置に配置した場合でも、前述と同じ効果が得られる。要するに、第一走査手段3は第二走査手段4と比較して、その走査繰り返し周波数f1が第二走査手段の走査繰り返し周波数f2より高く、且つその走査幅A1は第二走査手段の走査幅A2より小さいことである。そうすれば、安定した拡大スポットを第一走査手段3により得ることができる。
【0041】
好ましくは、第一走査手段3による最大走査幅A1は第二走査手段4の最大走査幅A2の3分の一以下であると同時に、第一走査手段3による走査繰り返し周波数f1は第二走査手段4の走査繰り返し周波数f2の3倍以上にするとよい。また、不要な同期現象を避けるために、f1とf2の比を整数とならないようにした方がよりよい。第一走査手段3は粒子線輸送手段2が有する電磁石に所定の高速信号を上乗せして擬似拡大スポットを形成するように構成されても、効果が同じである。その場合、第一走査手段3として専用の電磁石を設けなくてもよいので、粒子線照射装置の構成をより簡単にできると同時に、コスト削減できる効果が得られる。
【0042】
また、第一走査手段を、高速回転する少なくても一台の電磁石、永久磁石、又は偏向電極で作った偏向磁場又は偏向電場を用いて構成してもよい。つまり、図6に示す走査パターン24aの円軌道走査を回転する電場または磁場で実現する。もちろん、滑らかな疑似拡大スポット26を形成するには、前記磁場または電場による走査幅は拡大前スポット21のサイズと同程度にする必要がある。その際、前記秒間回転数はf1に相当する。その際、同様に上述した効果が得られる。
【0043】
実施の形態2.
図2は実施の形態2における粒子線照射装置(または粒子線治療装置)の基本構成と動作を説明する図である。図2において、図1と同じ符号は同一又は相当部分を示す。2は粒子線輸送手段であり、第一輸送手段2aと第二輸送手段2bとを有する。3は第一走査手段を示す。図1と異なる点は、第一走査手段3を粒子線加速手段1より下流側に設置し、粒子線輸送手段2の粒子線経路中に配置したことである。ここでいう粒子線輸送手段2は普通HEBT (High Energy Beam Transport System)と称されていて、複数の偏向、収束用電磁石から構成される。一般的に、第一走査手段3を標的領域7から離して、なるべくHEBT系の上流に配置した方が、小さい偏向角(キック角)でも、標的領域7において大きい偏向距離(走査幅)を得ることが可能になる。
【0044】
ここで、標的領域7における偏向距離と第1走査手段3による偏向角の比が大きいほど、必要な第一走査手段3の偏向角(励磁量)が小さくて済むので、第一走査手段3の走査速度(走査繰り返し周波数)をより高速にできる。従って、HEBT系の配置位置において、標的領域7における偏向距離と第1走査手段3による偏向角の比(偏向距離/偏向角)がなるべく大きい配置位置を選択し、第一走査手段3を設置すれば、より繰り返し周波数f1が大きい第一走査パターンを得ることが可能である。実際的には、粒子線輸送手段の中に配置される第一走査手段は、第一走査手段による荷電粒子ビームの微小偏向によって生じる標的領域における粒子線スポットの位置ずれ量と前記微小偏向量の比が必要とする値より大くなる位置に配置される。
【0045】
次に、実施の形態2の粒子線照射装置の動作を説明する。粒子線加速手段1によって加速された荷電粒子ビーム10は、粒子線輸送手段2を経て照射系へ輸送されるが、その際、粒子線輸送手段2の経路中に設置した第一走査手段3によって、振幅(走査幅)が微小であるが、高速に走査され、標的領域7において、疑似拡大スポット26を形成することができる。拡大疑似スポット26は第一走査手段3で制御され、予め格納された複数の第一走査パターンの選択されたパターンに対応した疑似拡大スポット線量分布を形成する。従って、例えば、インターフェース15により第一走査手段3に指令を送ることによって、素早く、疑似拡大スポット26の線量分布を変更できる。この際、特許文献2のように、HEBT系のすべての電磁石の設定値を変更する必要がない。また、特許文献1のように、荷電粒子ビーム10の経路に散乱物質を挿入する必要がない。所定の線量分布に拡大されたスポット26は、治療計画に従い、照射制御手段によって制御された第二走査手段4によって、標的領域7において走査され、標的領域7にあわせて3次元線量分布を形成する。
【0046】
標的領域7における深さ方向走査は、荷電粒子ビーム10のビームエネルギーを変更して行う。変更方法としては、粒子線加速手段1の出射ビームエネルギーを直接変えるものと、荷電粒子ビームの経路にレンジシフタを挿入するものとの2通りの方法がある。実施の形態2の粒子線照射装置では、実施の形態1で述べた効果に加え、第一走査手段3をHEBT系の望ましい位置に設置することによって、新たに、必要な第一走査手段3の偏向角を小さくできる効果がある。それによって、第一走査手段3の走査速度(走査繰り返し周波数)f1を簡単に高速にできるだけでなく、第一走査手段3の走査電源の低コスト化にもつながる。
【0047】
第一走査手段3は、HEBT系および照射系の複数箇所に複数個あってもよい。そうした場合、該当箇所設置のそれぞれの第一走査手段3を切り入りして、第一走査パターンを切り替えることが可能である。第一走査パターンの切り替えをより簡単に、確実できる効果がある。
【0048】
実施の形態3.
図14は加速器から得られる拡大前スポットの線量分布とその形状を示す図である。図15は実施の形態3における疑似拡大スポットの線量分布とその形状を示す図である。図14,図15において、34は加速器1から得られた拡大前スポットの線量分布を示し、34aはその形状を示す。35は擬似拡大スポットの線量分布を示し、35aは擬似拡大スポットの形状を示す。粒子線照射装置では、粒子線源としてシンクロトロン加速器を用いることがある。シンクロトン加速器より取り出される荷電粒子ビームは一般的にX−Y平面において、その形状が非対称である。例えば、図14(b)に示したようなY方向に伸びた非対称の断面形状を有している。このような非対称のビームを回転ガントリー照射装置(図示せず)などに導入した場合、被照射体において、図14(b)に示す形状が回転ガントリーの回転角度によって回転する現象が生じる。
【0049】
そこで、加速器1から得られる拡大前スポットの線量分布をなるべく対称な形状にすることが照射手順を簡便にし照射精度を向上させる上で重要である。そこで、第一走査手段3を用いて、加速器1から得られる非対称の拡大前スポット34aをX方向に、所定の走査パターンにおいて走査し、結果的にX方向における分布を広げることが可能である。また、走査の詳細パターンと範囲を調整することによって、図15の擬似拡大スポットの線量分布35と擬似拡大スポットの形状35aに示すようにより対称な擬似拡大スポットを得ることが可能である。具体的な例として、X方向における走査速度をV(x)とした場合、V(x)を走査量xの関数として、x=0付近では遅く、xの絶対値が大きくなるにつれて、V(x)を大きくすれば、スポットのX方向における分布を広げることが可能である。例えば、V(x)をガウス分布の逆数とする。その結果、回転ガントリーを用いた粒子線照射装置でも、回転ガントリーの回転角度が変化しても、照射位置に照射される擬似拡大スポットの形状がほぼ一定にできるため、スキャニング照射の精度を向上できる効果がある。
【0050】
実施の形態4.
実施の形態4における粒子線照射装置を説明する。実施の形態4では、第一走査手段によって形成できる複数種類の擬似拡大スポット分布に対応して、複数種類の走査モードを用意する。また、照射制御手段(スキャニング照射制御手段)には、オペレータが操作可能なインタフェースを用意し、オペレータがこのインタフェースを用いて、実際に照射で使用する走査パターンや走査モードを選択できるようにする。そうすることによって、照射される標的領域の状況に合わせて、予め治療計画で決まった擬似拡大スポット分布を用いたスキャニング照射を実施することが可能である。
【0051】
その結果、実施の形態1と実施の形態2で述べたような一回の照射中に、複数の擬似拡大スポットを併用することが必要でない場合には、簡単且つ確実に選択した所定の走査モードを用いてスキャニング照射を実施できる効果がある。なお、第一走査手段は加速器から得られた荷電粒子ビームを1次元又は2次元において走査できる。第一走査手段による走査パターンは第二走査手段で用いる擬似拡大スポットの分布が加速器のビーム電流の時間構造による分布変化が十分小さいように、高速の走査信号またはホワイトノイズ走査信号を用いると効果的である。ホワイトノイズ走査信号を用いた場合、ビームスポットは原理的に第1走査手段の走査範囲内に、均一に分布するので、ビーム電流の時間変化に影響されにくく、安定した分布(分布自体は必ずしも均一分布にならないが)を有する擬似拡大スポットを得ることができる。その結果、高い精度のスキャニング照射線量分布を得ることができる。
【0052】
実施の形態5.
図16は実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。図1の照射制御手段14と走査電源11は図16に示すように分離して構成してもよい。照射制御手段14には、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力する第1照射制御手段14aと、疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力する第2照射制御手段14bを備える。走査電源11には、第1照射制御手段14aからの出力を受け第一走査手段3を走査する第1走査電源11aを設ける。さらに、走査電源11には、第2照射制御手段14bからの出力を受け第二走査手段4を走査する第2走査電源11bを設ける。このように、第一走査手段3用と第二走査手段4用に、照射制御手段14と走査電源11を分離しておくと、制御が容易になり、走査電源の電力と周波数の制御が容易である。
【0053】
実施の形態6.
本発明で示した疑似拡大スポットを形成する第一走査手段の役割と、疑似拡大スポットを走査する第二走査手段の役割を、1組のX方向,Y方向走査電磁石17である走査装置16(図17参照)で実現してもよい。走査装置16は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである。図17は実施の形態6における粒子線照射装置を示し構成図である。照射制御手段14には、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力する第1照射制御手段14aと、疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力する第2照射制御手段14bを備える。走査電源11には、第1照射制御手段14aからの出力を受ける第1走査電源11aと、第2照射制御手段14bからの出力を受ける第2走査電源11bを設ける。第1走査電源11aからの拡大スポット形成信号と第2走査電源11bからの拡大スポット走査信号は加算器18で重ね合わせて1つの走査装置16に出力する。換言すれば、拡大スポット走査信号上に拡大スポット形成信号を重畳させた信号を1つの走査装置16に出力する。このように、走査電源11を分離しておくと、走査電源の電力と周波数の制御が容易である。
【0054】
図18は実施の形態6における別の粒子線照射装置を示し構成図である。図17と同様に、走査装置16は1つである。第1照射制御手段14aからの拡大スポット形成信号の出力と、第2照射制御手段14bからの拡大スポット走査信号の出力とは、加算器19で重ね合わせて走査電源11を経由して走査装置16に出力され、走査装置16が制御される。実施の形態6では、走査装置16は1つであるので、構成が簡単になる。
【0055】
また、実施の形態6においても、図12の標的領域7で所定第二走査パターンを形成するには、各疑似拡大スポット(すなわち、小スポット,大スポット,四角スポット等)は、走査手段16で連続走査で形成し、所定第二走査パターンは走査手段16で連続走査(ラスタスキャン),非連続走査(スポットスキャン)又は連続非連続混合走査(ハイブリッドスキャン)で形成するようにしてもよい。換言すれば、照射制御手段は、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力した後、前記疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力するようにしてもよい。
また、照射制御手段は、荷電粒子ビームを走査して疑似拡大スポットを形成する拡大スポット形成信号を出力しつつ、前記疑似拡大スポットの位置を標的領域に合わせて走査する拡大スポット走査信号を出力するようにしてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、
前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、
前記粒子線輸送手段で輸送される前記荷電粒子ビームを走査し、第一走査手段と第二走査手段とを有する走査装置と、
複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、
前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御し、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御し、
かつ、前記第二走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御することを特徴とする
粒子線照射装置。
【請求項2】
前記照射制御手段は、前記第一走査手段による最大走査幅を前記第二走査手段による最大走査幅よりも小さく制御することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記照射制御手段は、
前記照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御した後、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記照射制御手段は、
前記照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御しつつ、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
少なくとも前記第二走査手段は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記第一走査手段は、前記第二走査手段に対して荷電粒子ビーム経路の上流側に配置されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
前記第一走査手段と前記第二走査手段は、前記粒子線輸送手段に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置されたことを特徴とする請求項6記載の粒子線照射装置。
【請求項8】
前記第一走査手段は前記粒子線輸送手段の荷電粒子ビーム経路中に配置されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項9】
前記第一走査手段は前記粒子線輸送手段が有する電磁石で構成されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項10】
前記第一走査手段を荷電粒子ビーム経路中に複数個配置し、前記複数個の前記第一走査手段の何れかを選定して稼動させるようにした請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項11】
前記照射制御手段には、オペレータが操作でき前記照射制御手段に指令を入力するインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記複数の小領域を前記第一走査手段によって走査する複数の走査パターン又は走査モードを選択し、前記照射制御手段に入力できることを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項12】
前記インターフェースは、前記複数の小領域の形および大きさを指定できることを特徴とする請求項11記載の粒子線照射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、
前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、
前記粒子線輸送手段で輸送される荷電粒子ビームを走査する走査装置と、
複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、
前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記走査装置を制御する第一の制御信号と、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記走査装置を制御する第二の制御信号とを前記走査装置に出力し、
かつ、前記第二の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であることを特徴とする
粒子線照射装置。
【請求項14】
前記照射制御手段は、前記第一の制御信号を出力した後、前記第二の制御信号を出力することを特徴とする請求項13記載の粒子線照射装置。
【請求項15】
前記照射制御手段は、前記第一の制御信号を出力しつつ、前記第二の制御信号を出力することを特徴とする請求項13記載の粒子線照射装置。
【請求項16】
前記走査装置は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである請求項13記載の粒子線照射装置。
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、
前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、
前記粒子線輸送手段で輸送される前記荷電粒子ビームを走査し、第一走査手段と第二走査手段とを有する走査装置と、
複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、
前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御し、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御し、
かつ、前記第二走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一走査手段による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であるように制御することを特徴とする
粒子線照射装置。
【請求項2】
前記照射制御手段は、前記第一走査手段による最大走査幅を前記第二走査手段による最大走査幅よりも小さく制御することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記照射制御手段は、
前記照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御した後、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記照射制御手段は、
前記照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記第一走査手段を制御しつつ、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記第二走査手段を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
少なくとも前記第二走査手段は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記第一走査手段は、前記第二走査手段に対して荷電粒子ビーム経路の上流側に配置されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
前記第一走査手段と前記第二走査手段は、前記粒子線輸送手段に対して荷電粒子ビーム経路の下流側に配置されたことを特徴とする請求項6記載の粒子線照射装置。
【請求項8】
前記第一走査手段は前記粒子線輸送手段の荷電粒子ビーム経路中に配置されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項9】
前記第一走査手段は前記粒子線輸送手段が有する電磁石で構成されたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項10】
前記第一走査手段を荷電粒子ビーム経路中に複数個配置し、前記複数個の前記第一走査手段の何れかを選定して稼動させるようにした請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項11】
前記照射制御手段には、オペレータが操作でき前記照射制御手段に指令を入力するインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記複数の小領域を前記第一走査手段によって走査する複数の走査パターン又は走査モードを選択し、前記照射制御手段に入力できることを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項12】
前記インターフェースは、前記複数の小領域の形および大きさを指定できることを特徴とする請求項11記載の粒子線照射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを加速する粒子線加速手段と、
前記粒子線加速手段から出射された荷電粒子ビームを輸送する粒子線輸送手段と、
前記粒子線輸送手段で輸送される荷電粒子ビームを走査する走査装置と、
複数の小領域を含む標的領域に対して前記荷電粒子ビームを照射するように前記走査装置を制御する照射制御手段とを備える粒子線照射装置であって、
前記照射制御手段は、前記複数の小領域のうち照射対象とする小領域を前記荷電粒子ビームが走査するように前記走査装置を制御する第一の制御信号と、
前記照射対象とする小領域を前記複数の小領域のうち別の小領域に変更するように前記走査装置を制御する第二の制御信号とを前記走査装置に出力し、
かつ、前記第二の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度よりも、前記第一の制御信号による前記標的領域における前記荷電粒子ビームの走査速度の方が高速であることを特徴とする
粒子線照射装置。
【請求項14】
前記照射制御手段は、前記第一の制御信号を出力した後、前記第二の制御信号を出力することを特徴とする請求項13記載の粒子線照射装置。
【請求項15】
前記照射制御手段は、前記第一の制御信号を出力しつつ、前記第二の制御信号を出力することを特徴とする請求項13記載の粒子線照射装置。
【請求項16】
前記走査装置は、荷電粒子ビームのビーム進行方向と直交する方向において2次元走査できるものである請求項13記載の粒子線照射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−279702(P2010−279702A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137241(P2010−137241)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2010−501297(P2010−501297)の分割
【原出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2010−501297(P2010−501297)の分割
【原出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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