説明

粒状又は粉状の保存対象物の保存方法

【課題】人工結晶石内部の空洞、表面の穴・窪み・陥没状態、全体の内部及び表面にクラックが発生せず、小さいサイズに加工しても破損することのない強度に優れたものとすることができ、放射性物質その他の有害物質の保存にもコストをかけることなく好適に用いることができる保存方法を提供せんとする。
【解決手段】保存対象物とSiO2を主成分とする材料とCa、Li、Na、K、Bのいずれかを含む酸化物等の結晶化促進剤とを混合し、溶融物を型に流し込み、温度管理しながら冷却又は自然冷却し、ほぼ全体が非晶質なガラス状態に凝固したガラス固化体を成形した後、該ガラス固化体を1時間あたり600℃以下の比較的遅い速度で流動化温度以下の所定温度まで昇温し、微細結晶のネットワークが形成された多結晶体よりなる人造石状態、または該人造石状態とガラス状態との混合状態となる人工結晶石に変化させ、該人工結晶石内に前記保存対象物を封じ込める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人又は動物を焼却して残る主として燐酸カルシウムを主成分とする焼却残渣、又は放射性物質その他の有害物質の保存に好適に用いることができる粒状又は粉状の保存対象物の保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亡くなった人やペットを追悼する方法としては、生前の写真を写真立てに入れて飾る等が一般的であるが、一部には、火葬に付された遺骨または骨灰の一部を、石材製や木製の収納箱に納めて部屋の中に安置するような場合もある。また、特許文献1や2に記載されているように、火葬した人骨灰または愛玩動物骨灰を、コンクリート等とともに混合して硬化させたものや、陶土に混ぜて焼結したもの等を用いる方法もある。また、火葬した人骨灰または愛玩動物骨灰を、金属酸化物を焼結補助材として用いて、プレート状に加圧成型して焼結する「エターナルプレート」なるものが存在する。或いは、火葬した人骨灰または愛玩動物骨灰を、ガラス原料と混合し、加熱溶融して所定のガラス製品に成型する、特許文献3や4に記載されたものを用いる方法もある。
【0003】
しかし、上記の収納箱は、遺骨をそのまま収納するものであり、屋内用装飾品としてはそぐわない。また、火葬した人骨灰または愛玩動物骨灰を、コンクリートに混合して硬化させたものや、陶土に混ぜて焼結したものは、人骨灰や愛玩動物骨灰そのものは何ら変質しておらず、そのままの状態で残留することから、遺骨をそのまま保存するのに近く、屋内用装飾品としてはそぐわないといえなくもない。また、「エターナルプレート」は、加圧成形した焼結品であるため、板状のものしか製造できない。また、この「エターナルプレート」は焼結品であるため、耐衝撃性は脆弱であり落下等によって破損する恐れが大きい。また、火葬した人骨灰または愛玩動物の粉砕した焼骨を、ガラス原料と混合し、加熱溶融して所定のガラス製品に成形するものは、ガラス製であることから破損しやすく、また、材料であるガラスが人造の物質であり、遺骨のイメージにそぐわない面も否定できなかった。
【0004】
これらに対し、本出願人は、融点降下剤を加えることにより溶融物を温度管理しながら徐々に冷却して鉱物結晶を生成・成長させて人工の結晶石を作る方法をすでに提案している(特許文献5参照。)。この方法によると、人造石状態(多結晶体)、又は当該人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合状態に凝固させることができ、ガラスやエターナルプレートのように割れやすいこともなく、屋内用装飾品としてふさわしく、且つ、遺骨のイメージと違和感を生じにくい遺骨入り人工結晶石を提供できる。つまり、この方法で製作した遺骨入り人工結晶石は、内部に出来た空洞や表面の窪み・陥没状態による自然の造形の美しさ、結晶部分と非結晶部分の色彩の濃淡など配色美が表現されてオブジェや置物として優れた人工結晶石が出来ている。
【0005】
しかし、特許文献5の人工結晶石は、外観はユニークで評価できるものの、アクセサリー類など小型の人工結晶石にする場合、人工結晶石内部の空洞、表面の穴・窪み・陥没状態、全体の内部及び表面に発生したクラックを避けて採取しなければならず、場合によっては小型人工結晶石が破損するなどの虞もあり、小さいサイズに加工できない等、用途が限られることも多かった。すなわち、個々の結晶が不揃いに大きく成長するため、結晶の粒堺面が大きく平坦になったり、人工結晶石の表面に穴・窪み・陥没状態を呈することもある。このような大きく成長した結晶は、内部の個々の単結晶自体は強度を有するが結晶同士の付着力が弱くなり、全体としての強度が低下する。また、溶融体内部での結晶化の速度等の違い或いは偏在から、溶融状態には無かった空洞が内部に発生、或いは表面に穴・窪み・陥没状態を呈することもある。更に結晶化速度の違いは全体に内部応力をもたらし、全体としての人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)内部にクラックを発生させることがある。更に、人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合状態において、出来た結晶体の熱膨張率とガラス状態(非晶質体)の熱膨張率の違いから人工結晶石全体の内部及び表面にもクラックが発生することもある。これら人工結晶石内部の空洞、表面の穴・窪み・陥没状態、全体の内部及び表面に発生したクラックも人工結晶石の強度を低下させる原因となる。
【0006】
一方、結晶化しない有害無機物質や放射性物質、下水処理等の汚泥中に含まれる有害物質など、放射性物質その他の有害物質を環境から隔離し、環境中に拡散しにくくする技術として、特に使用済燃料の再処理後に残る高レベル放射性廃棄物については、該廃棄物の廃液とガラス原料とを混合して高温で溶かし、廃液中の水分を蒸発させた後、ステンレス製の容器(キャニスター)内で冷却・固化させる技術が採用されているが、ガラスは割れ易すいといった欠点があった。これに対し、天然鉱物をモデルにしたチタン酸塩の安定な鉱物相からなる合成岩石により廃棄物を固化する方法として、廃液中に含まれる放射性核種を結晶構造中に主成分または副成分として分配させるセラミック固化方法(代表的なものとしてシンロック(SYNROC)固化方法)が研究されているが、このように結晶構造中の主成分に放射性核種を分配させるためには製造過程の厳密なコントロールが必要となりコストがかかるとともに、取り込まれた核種の核変換による結晶体への影響が心配される。
【0007】
【特許文献1】特開平9−300896号公報
【特許文献2】特開平9−308661号公報
【特許文献3】特開2000−79798号公報
【特許文献4】特開2000−109338号公報
【特許文献5】特開2004−167135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ガラスやエターナルプレートのように割れやすいこともなく、屋内用装飾品としてふさわしく、且つ、遺骨のイメージと違和感を生じにくい人造石状態(多結晶体)、又は当該人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合状態に凝固させる粒状又は粉状の保存対象物の保存方法であって、人工結晶石内部の空洞、表面の穴・窪み・陥没状態、全体の内部及び表面にクラックが発生せず、小さいサイズに加工しても破損することのない強度に優れたものとすることができ、放射性物質その他の有害物質の保存にもコストをかけることなく好適に用いることができる人工結晶石内保存方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、粒状又は粉状の保存対象物と、SiO2を主成分とする材料と、Ca、Li、Na、K、Bのいずれかを含む酸化物、炭酸塩、または水酸化物、或いはこれらの組み合わせよりなる結晶化促進剤とを混合し、該混合物を熱で溶かした溶融物を型に流し込み、結晶化が始まらないか、或いは一部結晶化する場合でも微細な結晶が一部に生成される程度の速度で温度管理しながら冷却又は自然冷却し、ほぼ全体が非晶質なガラス状態に凝固したガラス固化体を成形した後、更に、該ガラス固化体を1時間あたり600℃以下の比較的遅い速度で流動化温度以下の所定温度まで昇温し、微細結晶のネットワークが形成された多結晶体よりなる人造石状態、または該人造石状態とガラス状態との混合状態となる人工結晶石に変化させ、該人工結晶石内に前記保存対象物を封じ込めてなることを特徴とする粒状又は粉状の保存対象物の保存方法を提供する。
【0010】
また、前記型内でのガラス固化体の冷却を、常温まで冷却することが好ましい。
【0011】
また、前記型内でのガラス固化体の冷却が常温よりも高い温度までの冷却の場合に、該温度に予め暖めた炉内に冷却後の前記ガラス固化体を入れ、前記所定温度まで昇温する方法が好ましい。
【0012】
前記混合物は、SiO2を主成分とする材料のSiO2成分を10重量%以上、保存対象物を80重量%以下、および結晶化促進剤を酸化物換算で5重量%以上含んでいることが好ましく、とくに、SiO2を主成分とする材料のSiO2成分を70〜75重量%、保存対象物としてを略10重量%、および結晶化促進剤を酸化物換算で15〜20重量%含んでいることがより好ましい。
【0013】
また、前記混合物に、さらにTi,Zn,Fe,Mn,Co,Sr,Cu,Ni,Cd,Te,Se,V,Pr,Cr,Ca,Nd,Er,S又はMoのいずれか一種以上を含む酸化物または炭酸塩、或いは陶磁器用顔料よりなる発色剤を加えることが好ましい。
【0014】
また、前記保存対象物は、人又は動物を焼却して残る主として燐酸カルシウムを主成分とする焼却残渣、又は放射性物質その他の有害物質とすることができる。
【0015】
また、前記SiO2を主成分とする材料は、SiO2、ガラス、若しくはSiO2を主成分とする鉱物、又はこれらを2種類以上組み合わせたものであることが好ましい。
【0016】
また、前記保存対象物を封じ込めた人工結晶石を、置物等の物体に埋設、挿入、嵌着、または付着させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本願発明によれば、例えば人又は動物を焼却して残るCa3(PO42(燐酸カルシウム)(液相温度1670℃)を主成分とする焼却残渣と、SiO2(酸化珪素)(液相温度1610℃)を液相温度1000℃以下のガラスに生成することができ、当該ガラス状態に保存しつつ様々の形状に容易に成形することができる。また、これにより上記焼却残渣が非晶質になり固体ではない、すなわち目に見えない状態でガラス体に内蔵され、保管されることとなり、例えば焼骨などを骨の形状をなくして保存する方法として利用でき、具体的には、ガラス装身品(ブレスレットや指輪等)、ガラス置物、ガラスの墓としての機能を持たせることができる。
【0018】
また、結晶化促進剤を混合して、前記ガラス固化体を成形した後、更に、該ガラス固化体を1時間あたり600℃以下の比較的遅い速度で流動化温度以下の所定温度まで昇温し、微細結晶のネットワークが形成された多結晶体よりなる人造石状態、または該人造石状態とガラス状態との混合状態となる人工結晶石に変化させ、該人工結晶石内に前記保存対象物を封じ込めるものでは、一度冷却凝固させたガラス固化体は成分をすべて含有して均質であり、それを再度、温度制御しながら徐々に昇温させることで、均質なガラス固化体内で結晶化が同時多発的に始まり成長してゆく。そして、成長する個々の結晶は、液体状態から凝固する際に結晶化させる上記特許文献5の場合と異なり、固化状態から軟化して結晶化する関係上、生成した各結晶の動きは制限され、したがって目視では認識できない程のサイズの無数の結晶体(微細結晶)のネットワークからなる人造石状態(多結晶体)、又は当該人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合状態が生成される。これは上述した特許文献5のものとは異なり、人工結晶石内部の空洞、表面の穴・窪み・陥没状態、全体の内部及び表面に発生したクラックもなく、生成した人工結晶石は均質な度合いが高いものとなるため、小さいサイズに加工しても破損せず、強度の優れたものとすることができる。また、放射性物質その他の有害物質についても、強度、じん性、化学的安定性の高い微細結晶のネットワークで閉じ込める構造であるため、結晶の主成分として取り込む厳密な製造コントロールも必要でなく、コストをかけずにこれら物質を強固かつ安定的に保管することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態に係る保存方法を、図1〜4に基づき詳細に説明する。
【0020】
なお、以下の説明ではSi02を主成分とした原料から微細結晶のネットワークを形成し、結晶性物質、非結晶性物質を問わず内部に封じ込める結晶性人工石(人工結晶石)の製造である人工結晶石内保存方法について説明するが、結晶性人工石を作る工程を省略し、ガラス固化体の状態を得るものでもよい。この場合、混合物に、ガラス強度を強める或は液相温度を下げる効果を有するAl23,NaO,ZrO2,MgO,CaO,SrO,Li2O,K2Oなどを添加することが好ましく、また、ガラスの着色剤としてCoO,MuO,Cr,Er23(エルビウム)、Fe23,Ti2Oなどを添加して装飾性を向上させることも望ましい。
【0021】
本実施形態では、具体的には、粒状又は粉状の保存対象物に対し、SiO2を主成分とする材料と特定の結晶化促進剤を加えて混合し、特殊な熱処理工程を経て微細結晶のネットワークが形成された多結晶体よりなる人造石状態、または該人造石状態とガラス状態との混合状態である人工結晶石に変化させ、内部に前記保存対象物を封じ込めるようにした人工結晶石内保存方法であり、有害物質や放射性物質を内部に封じ込めて隔離し、環境中に拡散しにくくする効果や、焼骨を内部に封じて故人の永久の形見として関係遺族等の心を癒す効果を期待できるものである。
【0022】
以下、本実施形態に係る人工結晶石内保存方法を図1に示す処理手順に沿って詳しく説明する。
【0023】
まず、人工結晶石の結晶の素となる原料であるSiO2を主成分とする材料(無機材料、例えば酸化物)と結晶化促進剤とを粉末状になるように粉砕して混合物とする(S1)。前記無機材料としては、例えばガラスを用いることができ、SiO2、ガラス、花崗岩等のSiO2を主成分とする鉱物(岩石)、下水汚泥焼却灰、下水汚泥スラグ、若しくはこれらを2種類以上組み合わせたものが好ましく、更に、これに大理石や蛇紋岩を組み合わせて用いるようにしてもよい。特に花崗岩は扱い易く好適である。ガラスには、石英、水晶(SiO2:100%)をはじめソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、弗化物ガラス、或いは、これらを組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、前記結晶化促進剤としては、Ca、Li、Na、K、Bのいずれかを含む酸化物、炭酸塩、または水酸化物、或いはこれらの組み合わせよりなるものが好ましく、例えばB23、Na2CO3、CaO、Na2O、Li2O、CaCO3、Ca(OH)2、NaOH等を用いることができる。これらは融点降下材として一般に知られているものである。
【0025】
次に、この混合物に発色剤を加えて混合する(S2)。発色剤としては、Ti,Zn,Fe,Mn,Co,Sr,Cu,Ni,Cd,Te,Se,V,Pr,Cr,Ca,Nd,Er,S又はMoのいずれか一種以上を含む酸化物または炭酸塩、或いは陶磁器用顔料よりなるものが好ましく、例えばCoOを用いることができる。発色剤の量が多すぎると綺麗な色に発色しないため、混合物全体の15重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下でも十分な発色を得ることが可能である。また、金、銀、白金、銅、パラジウム等の微粒子を用いて着色することもできる。特に、金は赤色の発色に、銀は黄色の発色に効果がある。
【0026】
次に、上記混合物にさらに粒状又は粉状の保存対象物として、例えば人又は動物を焼却して残るCa3(PO42(燐酸カルシウム)を主成分とする焼却残渣、あるいは有害物質や放射性物質などの粉末を加えて全体を混合する(S3)。焼却残渣としては、例えば火葬した人骨灰について行なうことができるが、その他、愛玩動物骨灰についても同様に対処できる。また、保存対象物として、毛髪や爪等の人体から離脱した人体の一部、あるいは、愛玩動物体から離脱した羽毛等の愛玩動物体の一部についても同様に対処できる。この場合、生前或いは死亡後火葬する前に人体から採取され、人体から離脱している毛髪や爪、若しくは、愛玩動物体から採取され、愛玩動物体から離脱している羽毛等を用いる。これらの毛髪や爪、羽毛等は、加熱によりその有機物成分が分解されて蒸発し、これらに含まれていた微量の無機物成分が酸化物に変化し、これが溶融SiO2を主成分とする酸化物や結晶化促進剤、着色添加物等とともに溶融される。
【0027】
骨灰の量を比較的多くする場合、上記混合物にさらにホウ砂、硝石、鉛丹、若しくは珪石、又はこれらの組み合わせよりなる融点降下添加物を混合し、燐酸カルシウムを含んだ混合物を溶融しやすくすることが好ましい。尚、混合する岩石やガラスの種類、配合割合、骨灰の配合割合などによっては、これら融点降下添加物を省略する。
【0028】
以上の混合物は、SiO2を主成分とする材料のSiO2成分が10重量%以上、保存対象物が80重量%以下、結晶化促進剤が酸化物換算で5重量%以上、発色剤が15重量%以下の配合比に設定することが好ましい。特に、強度があり石として美しい光沢を持つためには、好ましくは、前記SiO2成分を70〜75重量%前後、保存対象物としての燐酸カルシウムを10重量%前後、結晶化促進剤を15〜20重量%前後、発色剤を0〜5重量%前後に設定することや、あるいは、板ガラスの場合はこれを70〜80重量%前後、保存対象物としての燐酸カルシウムを10重量%前後、結晶化促進剤を10〜15重量%前後、発色剤を0〜5重量%前後に設定することが好ましい。
【0029】
次に、以上の混合物をPID制御された電気炉を用いてSiO2や燐酸カルシウムなどの全ての成分が溶融するまで加熱する(S4)。溶融温度は材料及びその配合により500〜1800℃、好ましくは800〜1500℃程度で、より好ましくは1000〜1300℃で容易に鋳込み可能な粘性の状態まで加熱される。尚、高温の溶融物を常温の鋳型に注入後、注入物にクラックが入る場合があるため、次のステップで用いる鋳型を予熱しても良い。
【0030】
次に、鋳型に溶融物を注入して鋳造する(S5)。不燃、耐熱性が確保されていれば鋳型の材質・形状は問わないが、好ましくは材料を有効に利用するために鋳込み可能な粘性の溶融物を目的とする最終形状に近い型の中に流し込む。本例では、図2(a)に示す円盤形状の成形体を鋳造するための鋳型を用いるが、成形体の形状は特に限定されず、例えば図3(a)に示すような円錐形状や、(b)に示すような、立方体形状等、或いは、円柱、三角錐、多角錐、三角錐台、多角錐台、涙滴、勾玉、ハート型、直方体等の形状など、鋳造可能な形状であればいかなる形状に成形してもよい。
【0031】
次に、常温の鋳型、又は予熱の必要がある場合は該鋳型を加熱炉内で、或いは加熱炉から取り出し、鋳型内の溶融物が冷却中に一部で結晶化が始まらない速度以上の速度で、或いは、一部が結晶化する場合でも微細な結晶が一部に生成される速度以上の速度で、温度管理しながら冷却するか、または自然冷却することにより、溶融物のほぼ全体が非晶質なガラス状態に凝固したガラス固化体を成形する(S6)。冷却温度は、後述する再加熱ステップ(S7)における上昇温度から少なくとも低い温度、又は常温までとする。
【0032】
次に、当該冷却されたガラス固化体を再度、SiO2及びSiO2化合物を主成分とした微細結晶のネットワークが形成されるように所定のゆっくりした昇温速度、具体的には600℃/時間以下、好ましくは400℃/時間以下、より好ましくは200℃/時間以下の昇温速度で、所定温度まで昇温させる(S7)。前記型内でのガラス固化体の冷却が常温よりも高い温度までの冷却の場合は、該温度に予め暖めた炉内に冷却後の前記ガラス固化体を入れ、前記所定温度まで昇温する。この際、成形体を型から取り出さずに型ごと炉内で加熱してもよいし、型から取り出してから炉内で加熱するようにしてもよい。
【0033】
再加熱時の昇温速度は、一度ガラス状に固化したガラス固化体を再度溶融して人造石状態の成形体とするための本発明における最も重要な要素の一つである。600℃/時間よりも速い昇温速度に設定すると結晶化が十分に起こりにくく、加熱後冷却して得られる成形体はもとのガラス状態が大勢を占めてしまう。ただし、600℃/時間に近い昇温速度では融点降下剤などが必要になり、この融点降下剤が歩留り低下の原因になるため、好ましくは400℃/時間以下に設定される。加熱温度は、ガラス固化体の形状を維持できるように、軟化し流動性を持ち始める付近の温度或いは若干下回る温度で止めるのが望ましく、材料の成分にもよるが材料が流動性を呈する温度より数十℃前後低い温度までとすることが好ましい。
【0034】
すなわち本発明は、特許文献5記載の方法のように高温から徐々に冷却して結晶化させるのではなく、自然放熱或いは急速冷却により一旦ガラス体(非晶質)に固化させ、当該ガラス固化体の温度が結晶化の始まる温度域以下〜常温になれば、ガラス固化体を再度炉に入れ、今度は比較的ゆっくりとした昇温速度で加熱してガラス固化体が僅かに流動性をもつ温度以下まで加熱することで、無数の結晶体(微細結晶)のネットワークからなる人造石状態(多結晶体)又は当該人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合状態に成長させるものである。人造石状態(多結晶体)、又は当該人造石状態(多結晶体)とガラス状態(非晶質体)の混合比率は、組成の組合せや再加熱時の昇温速度の調整によりコントロールできる。
【0035】
そして、上記のごとく再加熱により成形体を結晶化させた後、再度成形体を冷却して完成する(S8)。完成した成形体はそのままでもよいが、研磨することにより、表面にさらに光沢をもたせることができ、よりいっそう外見を見栄えよくすることができる(S9)。また、本例では、ペンダントを構成するため、成形体に穴あけ加工を施している。尚、その他、成形体を細い棒状とし、これを、図4(a)に示すように、樹脂製の円錐体等の成形体に細長い穴をあけて、その穴に挿入して装着するようにしてもよい。例えば、大理石等の天然石で製作した花瓶や時計を備えた置物の一部に、細長い穴をあけて、その穴に細い棒状の成形体を挿入して保存するものを製作することができ、第三者には、外見上、人骨灰を含んだ溶融物が保存されていることがわからないようにすることもできる。或いは、例えば、上記の成形体の形状を図3(b)に示すような立方体とし、図4(a)に示すような、樹脂製の台形状の置物の上部に窪みを設けて、その窪みにこの立方体の成形体を嵌め込むようにしてもよい。或いは、樹脂製や、木製、翡翠等の天然材料で作られた塔や仏像等や、その他の置物等の内部に、上記の成形体を埋め込んだり、挿入したり、或いは、表面に嵌め込んだり、貼り付けたりしてもよい。なお、放射性物質その他の有害物質の保管の場合には、上記成形の型の代わりにステンレス製などの容器とし、容器から取り出さずに加熱し、そのまま取り出さずに容器ごと保管すればよい。
【0036】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に係る人工結晶石内保存方法により作成された成形体のサンプル(実施例)について強度試験を行った結果について説明する。
【0038】
サンプルは、
原料;ガラス SiO2及びSiO2化合物の結晶
結晶化促進剤;酸化ホウ素、炭酸ソーダ、炭酸カリウム、炭酸リチウム
発色剤;酸化コバルト
加熱・熔融の温度;1300℃
冷却;常温まで自然冷却
再加熱;200℃/時間の昇温速度で800℃まで加熱
により成形したものである。
【0039】
そして、上記サンプルについて、JIS R 1601に準拠した3点曲げ強度試験を行った結果、どの部分でも概ね90〜130MPaの強度を得た。この強度は、代表的な天然石である花崗岩(御影石)の10〜40MPa、大理石の5〜25MPaなどに比べ概ね3倍以上の強度を有している。これにより、本発明により作成された成形体がどの部分でも均質に強度が高いことを確認できた。なお、管理冷却による従前の方法(特許文献5記載の方法)で作成した人造石は、JIS R 1601に準拠して3点曲げ強度のテストピースを作るにあたって外観的にも均質なテストピースが取れないことと、クラックがテストピースに入ることが多いため、強度的には明らかに劣るため、曲げ強度試験は行わなかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の代表的実施形態に係る保存方法の手順を示すフロー図。
【図2】(a)は同じく代表的実施形態に係る保存方法により形成した成形体を示す説明図、(b)は該成形体を更に加工してペンダントとして構成した例を示す説明図。
【図3】(a)、(b)は、同じく代表的実施形態に係る保存方法により形成した成形体の他の例を示す説明図。
【図4】(a)、(b)は、同じく代表的実施形態に係る保存方法により形成した成形体を他の物体に挿入または嵌着した例を示す説明図。
【符号の説明】
【0041】
1〜5 成形体
11、12 他の物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状又は粉状の保存対象物と、SiO2を主成分とする材料と、Ca、Li、Na、K、Bのいずれかを含む酸化物、炭酸塩、または水酸化物、或いはこれらの組み合わせよりなる結晶化促進剤とを混合し、
該混合物を熱で溶かした溶融物を型に流し込み、
結晶化が始まらないか、或いは一部結晶化する場合でも微細な結晶が一部に生成される程度の速度で温度管理しながら冷却又は自然冷却し、ほぼ全体が非晶質なガラス状態に凝固したガラス固化体を成形した後、
更に、該ガラス固化体を1時間あたり600℃以下の比較的遅い速度で流動化温度以下の所定温度まで昇温し、微細結晶のネットワークが形成された多結晶体よりなる人造石状態、または該人造石状態とガラス状態との混合状態となる人工結晶石に変化させ、該人工結晶石内に前記保存対象物を封じ込めてなる粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項2】
前記型内でのガラス固化体の冷却を、常温まで冷却してなる請求項1記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項3】
前記型内でのガラス固化体の冷却が常温よりも高い温度までの冷却の場合に、該温度に予め暖めた炉内に冷却後の前記ガラス固化体を入れ、前記所定温度まで昇温する請求項1又は2記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項4】
前記混合物が、SiO2を主成分とする材料のSiO2成分を10重量%以上、保存対象物を80重量%以下、および結晶化促進剤を酸化物換算で5重量%以上含んでなる請求項1〜3の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項5】
前記混合物が、SiO2を主成分とする材料のSiO2成分を70〜75重量%、保存対象物としてを略10重量%、および結晶化促進剤を酸化物換算で15〜20重量%含んでなる請求項1〜4の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項6】
前記混合物に、さらにTi,Zn,Fe,Mn,Co,Sr,Cu,Ni,Cd,Te,Se,V,Pr,Cr,Ca,Nd,Er,S又はMoのいずれか一種以上を含む酸化物または炭酸塩、或いは陶磁器用顔料よりなる発色剤を加えてなる請求項1〜5の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項7】
前記保存対象物が、人又は動物を焼却して残る主として燐酸カルシウムを主成分とする焼却残渣、又は放射性物質その他の有害物質である請求項1〜6の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項8】
前記SiO2を主成分とする材料が、SiO2、ガラス、若しくはSiO2を主成分とする鉱物、又はこれらを2種類以上組み合わせたものよりなる請求項1〜7の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。
【請求項9】
前記保存対象物を封じ込めた人工結晶石を、置物等の物体に埋設、挿入、嵌着、または付着させてなる請求項1〜8の何れか1項に記載の粒状又は粉状の保存対象物の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−83721(P2010−83721A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255344(P2008−255344)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(502424001)株式会社レイセキ (3)
【Fターム(参考)】