粘土鉱物系複合材料とその製造方法
【課題】粘土鉱物系複合材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料、及び粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【効果】生理活性機能をもつ有機化合物を、層間陽イオンと有機化合物との錯体化を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することができる。
【解決手段】層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料、及び粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【効果】生理活性機能をもつ有機化合物を、層間陽イオンと有機化合物との錯体化を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性機能を有する粘土鉱物系複合材料に関するものであり、更に詳しくは、防虫・昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能等の生理活性機能を有する有機化合物を、無機物である粘土鉱物と複合一体化した、生理活性機能を有する粘土鉱物系複合材料及びその製造方法に関するものである。本発明は、業務用、産業用及び人の生活の場において、その徐放性故に人を含めた生態系にやさしく、かつ機能・効果の安定性、持続性にも優れた機能性物質とその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防虫・昆虫忌避剤、抗菌・防カビ剤等の抗微生物剤、野菜、果物等の生鮮食料品の鮮度維持剤及び芳香剤等は、液体、固体の別を問わず、それぞれ実用上の適した形態に加工され用いられている。このような製品にあっては、その有効成分を保持し、効果を持続させ、ハンドリング上の利便性をもたらす目的で、無機物を担体として一体化して用いることが多く、例えば、タルク、粘土、蝋石、石灰石、珪藻土、パーライト、軽石などの無機粉体がしばしば用いられる。
【0003】
例えば、防虫・昆虫忌避剤としては、有効成分である天然物精油や合成農薬を、天然・合成繊維やガラス繊維、ゼオライト、タルク、珪藻土、石灰、シリカゲル、活性炭等を担体として用いた例がある(特許文献1)。また、生鮮食料品の鮮度維持を目的とした例としては、ケイヒ酸及びその誘導体と酸化チタンを混合したもの(特許文献2)や、タルクを担体としてニンニク、唐辛子成分、ワサビ成分、シソ成分などを複合化した例(特許文献3)がある。また、抗菌・防カビ剤等の抗微生物剤にあっては、カテキン類、サポニン類、タンニン(酸)をバーミキュライトやベントナイトに担時した機能性材料が提案されている(特許文献4)。
【0004】
担体として用いられる、タルク、カオリン、蝋石等担体の役割は、前記のように、その表面に有効成分を付着・吸着させ、業務用、産業用及び家庭用に用いられた際に、効果の及ぶ範囲を限定したり、有効成分の担体への親和性により残効性を付与し、あるいはハンドリング性を含めて、種々の形態に加工する際の利便性を確保することにある。しかしながら、こうした無機質担体への有効成分の親和性は、素材への付着、吸着現象に基づくものであるために、利用に際して何らかの洗浄操作を受けると、有効成分は、担体から比較的に容易に移動し、その残効性は乳剤等に比べると一般に劣っている。また、有効成分の保持力が強くないことで、有効成分の徐放性も達成できていなかった。
【0005】
また、こうした点を解決すべく、近年、スメクタイトやバーミキュライト等の層間にイオン交換能をもつ無機層状化合物を担体として、その層間に特定の化合物を導入した組成物が提案されている(特許文献5など)。層間に導入されるゲスト化合物として、銀、銅、亜鉛等の抗菌力を有する金属イオンと、防カビなどの機能を持つ有機化合物を錯体化して導入すると、抗菌と防カビの双方の機能を併せもつ無機・有機複合材料を作ることができる。
【0006】
また、アルミニウムやジルコニウム等の金属水酸化物カチオンを、前記の金属イオン−有機化合物錯体と併せて層間に導入すると、その耐熱性が大幅に高められることが分かっている(特許文献6)。更に、生理活性機能をもつ物質として、植物成長調節機能、病害虫防除機能、抗微生物機能等をもつ有機化合物を、適当な金属イオンとの組み合わせにおいて、無機層状化合物の層間に導入する方法が提案されている(特許文献7)。
【0007】
このようなイオン交換能をもつ無機層状化合物への生理活性物質の導入は、解離していない有機化合物を金属イオンと組み合わせて、金属錯体イオン化することで達成される。有機化合物と陽イオンとが錯体を形成するためには、両者が錯体を形成するための条件、すなわち錯体としての安定度を具備する必要があり、そうした条件を備えていない有機化合物と金属イオンを組み合わせて、これらを無機層状化合物の層間へ導入することは通常は困難と考えられている。
【0008】
また、金属イオンには、前記の銀、銅、亜鉛の他、鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属イオンがしばしば選ばれるが、金属イオン種によっては安全性や衛生上の理由から、その用途が制限されることもある。アルカリ金属、アルカリ土類金属のなかで制約の少ないイオン種も存在するが、こうした金属イオン種が中心金属となって安定な有機金属錯体を形成することはあまり期待できない。このように、陽イオン交換型の無機層状化合物をホスト化合物とする場合、金属イオンと有機化合物の組み合わせには、錯体の安定性の他に、金属イオン種の安全・衛生上の制約という課題も存在する。
【0009】
【特許文献1】特開2002−173407号公報
【特許文献2】特開平11−332460号公報
【特許文献3】特開平10−210958号公報
【特許文献4】特開2000−271201号公報
【特許文献5】特開2002−327090号公報
【特許文献6】特開2002−20158号公報
【特許文献7】特開2005−281263号公報
【0010】
このため最近注目される防除技術として忌避剤の利用がある。コナジラミやアブラムシなどの主要種に対して、一定以上の忌避活性を有し、かつその効力を長期間持続させることができれば、前記防除法と組み合わせることによって、安全で効果的な防除が可能となる。しかしながら、農業分野における害虫忌避剤の開発は、環境衛生分野に比べ進んでいないのが現状である。その理由として、一つには害虫の主要種に対して忌避活性をもつ既知の成分が少ないこと、また既知の成分の忌避活性は強いものではないため、単独では防除効果が得られないこと、さらに忌避成分の多くは、その揮発性や不安定性などから野外では効果が持続しないことが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の課題を解決することが可能な新しい粘土鉱物系複合材料とその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオンのアルカリ/アルカリ土類金属及び有機化合物でそれぞれ交換し、層間に、有機化合物をアルカリ、アルカリ土類金属との組み合わせにおいて導入することにより層間にこれらを安定ないし準安定な状態で導入することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的課題から構成される。
(1)層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組合せにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料。
(2)アルカリもしくはアルカリ土類金属が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムである、前記(1)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(3)生理活性機能が、昆虫忌避、抗微生物、鮮度維持、又は芳香の機能である、前記(3)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(4)機能性として、昆虫忌避、抗微生物、鮮度保持、又は芳香の機能が付与されている、前記(1)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(5)層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(6)粘土鉱物の層間水を排除する熱処理を、加熱、マイクロ波照射、又は赤外線照射により行う、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(7)粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合する装置もしくは容器として、トロンミル、ボールミル、遊星型ボールミル、遠心ミル、振動ミル及び外気との接触を絶つことのできる構造をもった乳鉢を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(8)粘土鉱物として、スメクタイト、バーミキュライト、又はカオリン族粘土鉱物を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(9)熱処理後の粘土鉱物に導入する有機化合物として、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能を有する有機化合物を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(10)昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能及び芳香機能のいずれかを有する有機化合物が、桂皮油、タイム・ホワイト油、クローブ・バッド油、シナモン・リーフ油、ラベンダー・フレンチ油、レモングラス油、ペパーミント油、ベルガモット油、ティートゥリー油、ゼラニウム油、シトロネラ油、ローズ油、レモン油、ユーカリ油、オリガヌム油、シンナムアルデヒド、オイゲノール、サリチル酸メチル、シトラール、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、リナロール、メントール、ゲラニオール、チモール、テルピネオール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド、シアゾファミド、メタラキシル、エピガロカテキンガレート、ミリシトリン、カフェインの少なくとも1つ以上である、請求項9に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(11)粘土鉱物の層間陽イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムである、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(12)前記(1)から(4)のいずれかに記載の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料の点に特徴を有するものである。また、本発明は、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とするものである。
【0014】
更に、本発明は、上記の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品の点に特徴を有するものである。本発明では、粘土鉱物の層間陽イオンは、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムであることが好ましいが、鉄、コバルト、チタン、マンガン、ニッケル、亜鉛、金、銀、銅などの金属イオンが層間に入っている場合でも、有機化合物を容易に層間に導入することができるため、本発明は、そうした金属イオンと有機化合物の組み合わせを排除するものではない。
【0015】
以下、煩雑さを避けるために、ホスト化合物である粘土鉱物としてスメクタイトを、また、その中でも特にモンモリロナイトをとりあげて本発明を説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、主原料の粘土鉱物であるモンモリロナイトとは、SiO4四面体シートがAlO4(OH)2八面体シートをサンドイッチ状に挟んだ、いわゆる2:1型といわれる結晶構造をもった粘土鉱物である。モンモリロナイト結晶の八面体シートのAlが一部2価のMgやFeで置換されることで、粘土層間はマイナス電荷を帯びている。このマイナス電荷を電気的に中和するために、その層間には層間カチオンと呼ばれる陽イオンが入っている。
【0016】
モンモリロナイトの場合、その層間カチオンは普通はナトリウムイオンであることが多いので、以下、元々の層間陽イオンをナトリウムイオンに固定して説明を行う。このナトリウムイオンは系外の有機あるいは無機の陽イオンと比較的容易に交換できるため、モンモリロナイトに適当な金属錯体カチオンを接触させることにより、その層間に元々存在したナトリウムイオンに代えて金属錯体カチオンを導入することができる。導入された金属錯体カチオンは、モンモリロナイト粒子が分散媒中にあっても、その層間内で比較的安定な状態に保たれるため、分散媒への金属錯体カチオンの溶出は徐々に起こる。すなわち徐放性を有している。
【0017】
上記のイオン交換反応において、金属錯体イオンがナトリウムイオンと交換した場合、層間にあった水分子もナトリウムイオンと同様に交換されて粘土層間から排除される。一方、水分子が粘土層間から排除されるのは、必ずしも層間カチオンの交換に伴ってのみ行われるのではない。層間水とグリセリンやエチレングリコールの交換反応は良く知られている現象である。しかし、この場合、粘土層間のナトリウムイオンに変化は起こらない。従って、先行文献(特開2005−281263号公報)でも、層間陽イオンと水分子の交換反応はそれぞれ独立に行うことができることが示されている。
【0018】
モンモリロナイトは15Å粘土鉱物と呼ばれているが、空気中では、水分子層は3枚まで層間に入ることが知られている。層間に含まれる水分子層の数によって対応する底面間隔はそれぞれ、10Å(0枚)、12〜13Å(1枚)、14〜16Å(2枚)、18〜19Å(3枚)となっている。繰り返しになるが、前記のように水分子層は層間の金属イオンに水和(配位)することで層間に取り込まれており、金属錯体が層間に入るためには、水分子と錯形成分子の交換が必要となる。水分子に代わり錯形成分子が層間に入った方が層間化合物としての安定性が高い場合でも、水分子と錯形成分子との交換には、ある程度の時間を必要とし、交換反応時の温度を上げて反応を促進するなどの処置もとられる。また、水分子と比較して層間での安定性が低い錯形成分子の場合は、これまでは交換反応は起こり難いと考えられていた。
【0019】
本発明は、このような水分子と、錯形成分子である有機化合物の交換を起こりやすくするためになされたものであり、しかも通常では層間での安定性を欠くと考えられる有機化合物をも、層間内へ導入することを可能とした。すなわち、本発明では、例えば、モンモリロナイトを220℃以上に加熱して、粘土層間の水分子を速やかに排除し、粘土層間の復水(層間への水分子の再進入)が起こる前に、層間に導入すべき有機化合物を直ちに接触させることにより、錯形成分子を粘土層間に導入することを特徴としている。
【0020】
モンモリロナイトの層間水と交換して安定であることが既に判明している、アルコール、アルデヒド、ケトンなどの極性有機化合物は、水及び適当な有機溶媒に溶解させ、モンモリロナイト懸濁液に添加することで、モンモリロナイトの層間水と交換することができるが、モンモリロナイト層間で安定な有機化合物であっても、層間水と有機化合物の交換には通常1日程度の時間を要していた。このような場合でも、本発明の方法を適用することにより、その導入に要する時間を大幅に短縮することができる。すなわち、モンモリロナイトの層間水を熱処理によって予め排除しておき、その層間が復水する前に、有機化合物もしくはその溶液に直ちに添加することにより、有機化合物の層間への導入は容易に達成される。
【0021】
また、分子内の極性があまり強くない極性有機化合物の場合は、層間水との交換は起こり難いが、本発明の方法を適用することにより、層間への準安定な導入が可能となる。すなわち、層間水を排除したモンモリロナイトを、その有機化合物もしくはその溶液に直ちに添加することにより、上記の層間で安定な極性有機化合物と同様に、モンモリロナイト層間への導入が行われる。ただし、このようにして層間に導入された有機化合物は、長時間の撹拌もしくは混合操作を継続すると、次第に水分子の交換(復水)が進行し、層間から移動して排除されていく。したがって、層間での安定性が充分ではない、このような極性有機化合物をモンモリロナイト層間に導入する際には、媒液を介した接触は必要充分な時間で停止することが望ましい。
【0022】
また、本発明では、アルカリ、アルカリ土類金属がその層間に入っているモンモリロナイトに、室温における蒸気圧が高い有機化合物を導入する方法をとるが、このような方法で導入された有機化合物はモンモリロナイト層間で充分に安定ではない。従って、粒子が液体中ではなく空気中にある場合でも、有機化合物蒸気が徐々に空気中に放出される。すなわち、気体の徐放性を有している。本発明者らは、生理活性機能をもつ天然物精油の中に、モンモリロナイトに対して、こうした性質をもたらす有機化合物を数多く見出している。具体例は実施例の中で説明する。なお、実施例では天然物精油を用いた例について説明するが、粘土鉱物の層間に導入されて同様の性質を示す有機化合物であれば、その種類に限定されることはない。
【0023】
以上のように、本発明では、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物の層間に、生理活性機能をもつ有機化合物を導入する際に、熱処理によって層間水を予め排除しておき、これと上記有機化合物を直ちに接触させることにより、(1)層間陽イオンと有機化合物との錯体の安定性を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することを可能とする、(2)また、これまで、該粘土鉱物の層間での安定性が充分ではなく、層間への導入が困難とされてきた有機化合物にあっても、本発明の方法を適用することにより、準安定ながらも層間に導入することができる、また、(3)用途によっては、材料に含まれることが望ましくないとされる遷移金属や重金属等の金属イオン種との錯体形成が不要となることから、安全、衛生上の需要に応えることができる、更に、(4)層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されている無機・有機複合材料を作製し、提供することができる、という利点が得られる。
【0024】
本発明は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムがその層間に存在する場合に、層間水を予め排除しておくことにより、安定な錯体を形成する可能性に乏しい金属イオンと有機化合物の組み合わせであっても、準安定ながら層間に導入することが可能となる。すなわち、通常、安定な有機金属錯体は、中心金属の電子配置である内殻や外殻の空軌道が混成して、非共有電子対を有する有機化合物と配位結合することによってなるものが一般的で、無機・有機複合材料は、これらによる安定な有機金属錯体カチオンを予め形成した後にモンモリロナイト層間に導入することによって作製される。
【0025】
一方、ナトリウムイオンやカルシウムイオンの場合は、その周囲には層間水としての水分子が配位しているが、その結合は弱く、加熱によって容易に失われる。また、グリセリンやエチレングリコールなどの極性分子が接近すると、水分子は容易に交換されて層間から排除される。しかし、この場合、層間のナトリウムイオン等に変化は起こらない。本発明では、極性が非常に小さく、通常の接触では水分子との交換が容易には起こらない生理活性機能を有する有機化合物を、層間水を熱処理によって予め除いておくことにより、アルカリもしくはアルカリ土類金属との組み合わせにおいて、準安定ながら導入することに成功した。ここで、準安定といっているのは、粘土鉱物の層間から水分子が一旦は排除されても、水との接触が再び行われると、次第に水分子との交換が起こることを意味している。
【0026】
本発明による粘土鉱物系複合材料は、上記のような原理により、精油など生理活性機能をもつ有機化合物をその層間に導入し、有機化合物を徐々に層間から徐放することが特徴であるが、更なる特徴は、これらの有機化合物を、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなどの、通常、その単独では毒性、有害性がほとんど知られていないアルカリ、アルカリ土類金属との組み合わせ(複合体の形成)において導入できることにある。もし、粘土鉱物の層間における安定性を、重金属イオンを中心原子とした、有機配位子による錯体によって保持しようとすれば、しかも、抗菌などの生理活性の一端を重金属イオンによってもたらそうとすれば、近年、世界的にも潮流となっている各種の消費財の安全性に少なからぬ影響が及ぶことは必至である。本発明によれば、そうした懸念にほとんど及ばない安定な典型元素である上記金属イオンによる粘土鉱物系複合材料を提供することができる。また、本発明の更なる特徴は、既述のように、常温における蒸気圧が高く、原体のままでは容易に揮散する天然物精油やその主要成分を、上述のアルカリ金属等との複合体の形成により、粘土鉱物の層間に導入できるため、天然物精油やその主要成分を長期にわたり比較的安定に保存できることである。本発明者らによる調査では、その徐放期間は大気の気流中に開放した状態で、数ヶ月にも及んでいる。
【0027】
本発明は、上記粘土鉱物系複合材料を、例えば、天然物精油等を用いた昆虫忌避剤として利用するものであり、農作物を栽培する圃場に設置することで、コナジラミやアブラムシなどの微小害虫が飛来、侵入及び農作物へ寄生することを防ぐ昆虫忌避作用を有し、その徐放性故に人を含めた生態系にやさしく、かつ機能・効果の安定性、持続性に優れた害虫防除資材とそれを利用した害虫防除法を提供するものである。
【0028】
農業害虫のうち、コナジラミやアブラムシなどの微小害虫は、野菜類(キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ等)、花卉類(バラ、キク、ガーベラ等)、果実類(ミカン、モモ、ナシ等)の重要害虫であり、本種が作物に寄生することによる吸汁害や、排泄物に雑菌が繁殖して作物の光合成を阻害する、すす病の被害、を引き起こす。微小害虫は、これら直接的な加害にとどまらず、植物病原ウイルスの媒介者として大きな被害を及ぼす。
【0029】
微小害虫に対する従来の防除技術としては、殺虫剤を用いた方法が主であり、殺虫剤の有効成分としては、例えば、有機リン剤、合成ピレスロイド剤、IGR剤(昆虫成長制御剤)、ネオニコチノイド系剤等の薬剤が使用されてきた。しかしながら、コナジラミやアブラムシなど微小害虫の主要種は、多くの殺虫剤に対して抵抗性が発達し、これらを散布しても防除効果が得られにくく、発生が多い時期には、4〜5日間隔で散布しなければ防除できないのが実情である。しかし、一方で、昨今、環境や食品に対する安全性への関心は、かつてない高まりをみせており、農薬残留のリスクを招く殺虫剤の多用は、農業者や消費者のニーズに反することとなる。
【0030】
そのため、他の防除技術として、例えば、施設内への侵入を阻止するため、開口部に防虫ネットを張る方法や、近紫外線カットフィルムを被覆して害虫の侵入を抑制する方法、微小害虫が誘引される青色や黄色の粘着テープや粘着板を設置、捕獲して害虫密度を低下させる方法が利用されている。また、最近では、害虫の天敵類を施設内に導入し、防除する方法の開発も進められている。しかしながら、微小害虫は、体サイズが1〜2mm程度と小さく、また繁殖能力が極めて高いため、前記のいずれの防除方法でも十分な効果が上がっていないのが実情である。
【0031】
このため、最近注目される防除技術として忌避剤の利用があり、コナジラミやアブラムシなどの主要種に対して、一定以上の忌避活性を有し、かつその効力を長期間持続させることができれば、前記防除法と組み合わせることによって、安全で効果的な防除が可能となる。しかしながら、農業分野における害虫忌避剤の開発は、環境衛生分野に比べ進んでいないのが現状である。その理由として、一つには害虫の主要種に対して忌避活性をもつ既知の成分が少ないこと、また既知の成分の忌避活性は強いものではないため、単独では防除効果が得られないこと、更に忌避成分の多くは、その揮発性や不安定性などから野外では効果が持続しないこと、が挙げられる。
【0032】
本発明は、例えば、コナジラミやアブラムシなどの主要な害虫種に対し、一定以上の忌避機能を有し、かつその効力を長期間持続させることができるよう、忌避成分の徐放性と安定性に優れた昆虫忌避剤を提供するものである。
【0033】
そのために、本発明では、粘土鉱物を主原料として、昆虫忌避機能をもつシナモンリーフ、ゼラニウム、シトロネラ、ローズ油等の植物精油、及びシトラール、ベンジルイソチオシアネート、ゲラニオール、チモール、シトロネラール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド等の有機化合物から選ばれる1種以上を有効成分として含有する昆虫忌避効果について検討し、徐方性と安定性に優れた昆虫忌避剤を構築した。
【0034】
また、本発明は、上記粘土鉱物系複合材料を、例えば、天然物由来灰色カビ抑制剤として利用し、イチゴなどのカビ汚染を抑制する、特に蒸気処理による抗微生物剤を提供するものである。現在、食の安全・安心が求められている中で、農産物の劣化においては、エチレンによる老化、褐変、微生物による腐敗等がある。これまで、様々な抗微生物剤が検討されており、これらは、抗微生物を目的とする物質に直接、液相又は固相で接触することが必要であった。最近、蒸気接触することにより抗微生物活性を有する物質が注目されている。また、抗微生物剤は、これまで、化学合成物質が中心であったが、安全性等から天然物由来成分物質が求められている。
【0035】
また、カット野菜は、簡便性など多様化する消費者ニーズに合致しており、近年では、業務用にとどまらず、家庭用としても需要が増加している。しかし、切断されているために、通常の野菜に比べ品質低下が速く、中でも外観上の褐変の発生は、消費者の購買意欲を最も低下させる。特に、カットレタスは、カット野菜の中でも微生物の増殖よりも褐変がより早く発生するため、消費期限が極めて短期間に限定されている。
【0036】
天然物質においては、耐熱性、安定性に問題があるものがある。天然物質でも必ずしも安全性が保証されているのではないが、食品分野では食品添加物としていくつのかの天然成分、多くの植物抽出物が登録されており、これらは、一定の安全性が保証されている。食品のカビ汚染は、保存状態にもよるが、保存期間が長くなるにつれて、そのリスクは高まる。農産物の栽培管理状況や流通時の温度管理などによって、輸送時にカビが発生し、商品化率の低下の一要因となっている。
【0037】
従来の抗微生物技術としては、ワサビやキャベツなどに含まれるイソチオシアン酸アリルを用い、これと直接に接触させる抗微生物技術が報告されている。しかし、この物質の揮発性が極めて高く長期的な抗菌効果は期待できない。また、この揮発性のため、包装資材として加工しようとすると、その工程で大半が失われ、資材に残った場合でも抗微生物活性の寿命は短い。
【0038】
このようなことから、本発明では、カビ、細菌等を抑制し、消費期限を延長することができ、低コストで環境に配慮した、蒸気徐放性のある農産物の抗微生物抑制技術を構築した。本発明は、例えば、野菜の鮮度保持効果に関する技術で、レタスなどのカット野菜の褐変を抑制する技術、特に蒸気によるカット野菜の褐変抑制生理活性複合体を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明では、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物の層間に、生理活性機能をもつ有機化合物を導入する際に、熱処理によって層間水を予め排除しておき、これと上記有機化合物を直ちに接触させることにより、層間陽イオンと有機化合物との錯体の安定性を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することを可能とする。
(2)また、これまで、該粘土鉱物の層間での安定性が充分ではなく、層間への導入が困難とされてきた有機化合物にあっても、本発明の方法を適用することにより準安定ながらも層間に導入することができる。
(3)用途によっては、材料に含まれることが望ましくないとされる遷移金属や重金属等の金属イオン種との錯体形成が不要となることから、安全、衛生上の需要に応えることができる。
(4)天然物精油など、これまで粘土鉱物との複合化が難しいと考えられていた、室温における蒸気圧の高い有機化合物を、容易に、短時間に粘土鉱物と複合化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例により何ら限定されるものではない。以下に、生理活性有機物質もしくはその溶液を熱処理粘土と直ちに接触させて行った実施例について説明する。なお、本発明の方法を説明の便宜上、以下「熱処理・接触法」と呼称する。
【実施例1】
【0041】
モンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを電気炉中230℃で3h加熱し、この熱処理モンモリロナイト試料を、いずれもモンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対して1モルに当たるエピガロカテキンガレート(C22H18O11)又はミリシトリン(ヤマモモ抽出物、C21H20O12)を含む水溶液100mlに、電気炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に、超音波浴中で試料を水溶液中に分散した後、純水を加えて全量を200mlとし、マグネットスターラーで撹拌を続けた。撹拌開始より24h及び48h後に試料を採取して固液分離後、その試料中の炭素、窒素含有量をCHN分析により求めた。
【0042】
得られた試料の作製条件と分析値を表1に示す。これによると、エピガロカテキンガレートは接触24h後に炭素を12.3mass%含んでいるが、48h後にはそれが5.9mass%に減少している。予備実験において、懸濁液中での通常の撹拌・接触で得られる試料の炭素含有量は、5.3mass%(20日後)、4.0mass%(40℃−24h)であったことから、上記の24h後の炭素含有量はその値を大幅に上回る値である。一方、接触48h後にはその値が半減しており、一旦はモンモリロナイトの層間に取り込まれたエピガロカテキンガレートが、接触時間を長くすると分散媒中に溶出したものと考えられる。
【0043】
エピガロカテキンガレートと同様にミリシトリンを接触させた試料では、その炭素含有量は23.4mass%(24h)、32.7mass%(48h)であり、接触時間を長くしてもその値が減少することはなかった。
【0044】
【表1】
【実施例2】
【0045】
天然物精油であるユーカリ油、オリガヌム油、ローズ油、レモン油及びケイヒ油のいずれも4mlをエタノール50mlにそれぞれ溶かし、更に、純水を加えて、全量を200mlとした。これらを超音波浴中にて乳化させ、マグネティックスターラーにより40℃で撹拌した。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを230℃で3h加熱し、これを上記の懸濁液に炉から取り出して直ちに投入し、なおも撹拌を続けた。24h、48h後に試料の一部を採取し、CHNコーダーにより、炭素、窒素量を測定した。
【0046】
天然物精油を熱処理・接触法で導入した試料の炭素、窒素含有量を表2に示す。これによると、ケイヒ油複合試料の炭素含有量が42.1mass%、オリガヌム油複合試料の炭素含有量が11.0mass%と高い値を示した他、その他の試料でも炭素含有量は3〜6mass%の値を示している。薄膜X線回折による各試料の底面反射から、各試料の層間距離は、ユーカリ油複合試料:2.45nm、オリガヌム油複合試料:1.44nm、ローズ油複合試料:1.77nm、レモン油複合試料:1.76nm、ケイヒ油複合試料:2.70nmであった。いずれの試料の層間距離も一様に拡がっており、それぞれの精油成分がモンモリロナイトの層間に導入されたことが分かる(図1)。
【0047】
【表2】
【実施例3】
【0048】
合成農薬のシアゾファミド水和剤(C13H13ClN4O2S、商品名:ランマンフロアブル)4g、メタラキシル水和剤(C15H21NO4、商品名:リドミル水和剤)2gを、それぞれモンモリロナイト4gを含む純水懸濁液200mlに加え、マグネティックスターラーにより40℃で撹拌、接触させた。接触を始めてから24h後、48h後に試料の一部を採取し凍結乾燥後、CHNコーダーにより、炭素、窒素含有量を測定した。
上記により得られた試料の作製条件と分析値を表3に示す。
【0049】
これによると、シアゾファミド水和剤複合試料では、炭素が9.3mass%、窒素が2.8mass%含まれていた。シアゾファミドの化学式からN/C比を計算すると0.36であるが、分析値から求めたN/C値は0.3とこれに近いことも、モンモリロナイト層間におけるシアゾファミドの存在を裏付けている。また、メタラキシル水和物(リドミル)から得られた試料は炭素2.7mass%、窒素0.3mass%を含んでいた。面間隔は1.54nmへと拡がっている(図2)。リドミル2gは同様にメタラキシル0.5g(25mass%)を含み、加えたメタラキシル水和剤の33.5%がモンモリロナイトと複合化されたことが分かる。
【0050】
【表3】
【実施例4】
【0051】
所定量のカフェイン(C8H10N4O2)を純水に加えて200mlとし、1時間撹拌した後、別にモンモリロナイト4gを230℃で3h加熱しておき、これを前記のカフェイン水溶液中に炉から取り出して直ちに投入した。試料懸濁液をマグネットスターラーで撹拌し、4h、24h後に試料を採取して凍結乾燥を行った。試料の炭素・窒素含有量をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。その結果を表4に示す。
【0052】
モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対して1モルの比でカフェインを加えると、得られた試料の炭素含有量は凍結乾燥後に5.9mass%であった。また、層間CECの1モル当量に対して4モルのカフェインを加えると、炭素含有量は6.8mass%であった。更に、同じ量比で加えた後、超音波浴中で接触を行うと炭素含有量は7.5mass%と若干増加を見せた。いずれの試料でも炭素と窒素の比は概ねカフェインのそれに近く、層面間隔値が脱水状態の0.95nmから1.47〜1.61nmへと増加を見せたことから(図3)、モンモリロナイト層間へカフェイン分子が進入したものと考えられる。このように、熱処理し復水前のモンモリロナイトをカフェイン水溶液に投入することにより、モンモリロナイト層間へのカフェインの導入を容易に行うことができる。
【0053】
【表4】
【実施例5】
【0054】
シトラール(C10H16O)、チモール(C10H14O)、カルバクロール(C10H14O)の各4mlをいずれもエタノール50mlに溶かし、更に、純水で200mlとした。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを230℃で3h加熱し、この熱処理モンモリロナイト試料を前記各溶液中に、炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に超音波を30min間照射した後、マグネットスターラーで撹拌し、24h後に試料を採取して固液分離後、40℃で風乾した。試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。
【0055】
カルバクロール、チモール及びシトラールを熱処理・接触法によって導入した試料の作製条件と分析値を表5に示す。カルバクロール複合試料では、底面間隔値は1.86nmへと拡がり、試料洗浄後、炭素を2.5mass%含んでいた。チモール複合試料では炭素含有量は0.2mass%とわずかであり、モンモリロナイトの底面間隔値は1.11nmと脱水時の0.95nmから約0.16nm拡がった。また、シトラール複合試料においては、面間隔値は1.69nmを示しており層間化合物が生じたことが示唆されるものの(図4)、炭素含有量値は0.2mass%と小さい。
【0056】
このように、モンモリロナイトの主な分散媒として水を用い、熱処理・接触法によりカルバクロール、チモール、シトラールを接触させても、モンモリロナイト層間への導入はあまり進まないようであった。水の代わりにメタノールのみを用い、熱処理・接触法で接触を試みたが、水を用いたときと同様に効果は見られなかった。このように、熱処理を施したモンモリロナイトに対して、大量の分散媒を介して接触を行っても、有機化合物の種類によっては、期待したような結果が必ずしも得られない場合がある。明確な原因は今後の研究に待たれるところであるが、本発明者らは分散媒をほとんど用いずに、熱処理モンモリロナイトと有機化合物を接触させることで、両者の複合化が可能なことを見出した。このことについて実施例6で説明する。
【0057】
【表5】
【実施例6】
【0058】
実施例4で述べたように、モンモリロナイトの主な分散媒として水を用い、シトラール、カルバクロール、チモールに対し熱処理・接触法での層間導入を試みたところ、導入はあまり進まなかったので、次に述べるように、分散媒を用いない方法として乾式による熱処理・接触法を試みた。シトラール、カルバクロール、チモールのそれぞれ所定量(供試モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対し有機物1モルを対応させて計算した量)を、遊星ボールミルのメノウ製容器にとり、その上に、予め230℃で3h加熱したモンモリロナイト試料を加え、メノウボールを投入し、500rpmで10分間混合した。得られた試料をボールミル容器から取り出した後、ドラフトチャンバー内にて室温で3h風乾した後、薄膜X線回折により面間隔を、また有機物含有量をCHNコーダーにより測定した。
【0059】
得られた試料の炭素、窒素含有量を表6に示す。これによると、各試料とも炭素含有量は概ね17mass%以上となっており、実施例4に比べて大幅に増加している。試料の層面間隔値は、水分子が層間に入らないときの1.0nm付近の他に、シトラール複合試料では1.70nm、3.33nmが、また、カルバクロール複合試料では2.20nmの値が示されており(図5)、これはモンモリロナイトに接触させた上記の有機物が、層間に導入された結果と考えられる。このように、遊星ボールミル内で、熱処理を施したモンモリロナイトを有機化合物に接触させる方法は、これまでに試みられた大量の分散媒を用いる熱処理・接触方法と比較し、得られた試料中の炭素含有量が多い。これは、プロセスが閉鎖されたミル容器内で行われるために、混合中に原材料が系外に消失するのを押さえることができるためとも考えられる。
【0060】
【表6】
【実施例7】
【0061】
モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対し2モルのサリチル酸メチル(C8H8O3)を遊星ボールミルの容器にとり、これに230℃で3h熱処理したモンモリロナイトを炉から取り出して直ちに加え、ボールを加えた後、500rpmで15分間内容物の撹拌・接触を行った。また、上記と同様に準備したサリチル酸メチルを、同様に熱処理を施した後にデシケーター中で放冷したモンモリロナイトに加え、同様の条件で撹拌・接触を行った。試料を容器から取り出して、室温で3h風乾した後、炭素含有量を求めると、熱処理直後のモンモリロナイトを添加した試料では11.0mass%、デシケーターで放冷後のモンモリロナイトを添加した試料では12.6mass%であった。
【0062】
得られたモンモリロナイト試料の層面間隔値は、熱処理直後に混合した試料では1.84nm、熱処理・放冷後に接触させた試料では1.68nmと、いずれも脱水状態の0.95nmより0.7〜0.9nmの増加を示した(図6)。なお、予備実験において、サリチル酸メチルを50mlのエタノールに溶解させた後、純水で全量を200mlとして、これに230℃で熱処理を行ったモンモリロナイトを、炉から直ちに投入し接触させた試料では炭素含有量は0.5mass%に満たなかった。このように懸濁液状態で接触させてもモンモリロナイト層間への導入が容易ではない有機化合物であっても、遊星ボールミルのような密閉構造の混合装置を用いて接触させると、容易に層間導入できることが分かる。また、熱処理を施したモンモリロナイトは炉から直ちに有機化合物と接触させなくても、復水していなければ、層間導入への影響はないことが分かる。
【実施例8】
【0063】
桂皮油、シトロネラ油、ペパーミント油、ローズ油、レモン油、オリガヌム油をそのままあるいは少量のエタノールにそれぞれ溶かした後、全量を純水で200mlとした。モンモリロナイト4gを230℃で3h加熱して、前記溶液中に炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に超音波を30min間照射して分散させた後、マグネットスターラーで撹拌し、24h及び48h後に試料を採取して固液分離後、40℃で風乾した。試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。
【0064】
表7に、得られた各試料の炭素、窒素含有量を示す。モンモリロナイト接触後はいずれの試料でも炭素含有量が増加している。各試料の層面間隔値を加えた天然物精油に対して示すと、桂皮油:1.53nm、シトロネラ油:1.43nm、ペパーミント油:1.30nm、ローズ油:1.77nm、レモン油:1.76nm、オリガヌム油:1.41nmと、いずれも層面間隔がモンモリロナイト単独のときよりも拡がっていることが分かる(図7−8)。炭素含有量が増加したことと併せ、天然物精油の成分が層間に進入し両者が複合化されたものと考えられる。以上のように、モンモリロナイト層間への有機物質の進入は、両者の接触時に超音波処理を併せて行うことで促進される。
【0065】
【表7】
【実施例9】
【0066】
天然物精油の成分である、ゲラニオール(C10H18O)、テルピネオール(C10H18O)、リナロール(C10H18O)、オイゲノール(C10H12O2)、シンナムアルデヒド(C9H8O)をそのまま、また、ヒノキチオール(C10H12O2)にあってはエタノール2mlを加え、これらをそれぞれ遊星ボールミル容器にとり、別に230℃で熱処理を施したモンモリロナイトを、炉から取り出して直ちに加え、蓋をして500rpmで15分間混合した。遊星ボールミルから取り出した試料は25℃で3h風乾した後、炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。表8に、各試料の炭素含有量を示す。
【0067】
いずれの試料でも炭素含有量が一様に増加した(いずれの試料も窒素分は定量されなかった。)。層面間隔を加えた天然物成分に対応させて示すと、ゲラニオール:2.4nm、オイゲノール:2.86nm、ヒノキチオール:1.89nm、シンナムアルデヒド:1.71nm、テルピネオール:1.32nm、リナロール:1.31nmであった。いずれも接触前の層面間隔値である0.95nmよりも拡がっており、天然物精油成分がモンモリロナイトと複合化されたことが分かる(図9−10)。
【0068】
【表8】
【実施例10】
【0069】
香辛料等天然物から抽出されたアリルイソチオシアネート(C4H5NS)、フェニルエチルイソチオシアネート(C9H9NS)及びベンジルイソチオシアネート(C8H7NS)の所定量をそれぞれ遊星ボールミルにとり、これらに、別に230℃で熱処理を施したモンモリロナイトを、炉から取り出して直ちに加え、蓋をして500rpmで15分間混合した。遊星ボールミルから取り出した試料は25℃で3h風乾した後、炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。その結果を表9に示す。
【0070】
いずれの試料も炭素含有量のみならず窒素含有量が増加しており、イソチオシアン酸化合物とモンモリロナイトの複合体が生成したことが窺える。アリルイソチオシアネート複合試料では、数時間後に炭素含有量は1mass%まで減少し、複合体の安定性は高くなかった。X線回折では、アリルイソチオシアネート:1.16nm、フェニルエチルイソチオシアネート:1.30nm、ベンジルイソチオシアネート:1.13nm、がそれぞれ観察され、不安定ながら層間化合物が形成されていることが分かる(図11)。
【0071】
【表9】
【実施例11】
【0072】
(天然物精油の複合化)
桂皮油、シトロネラ油、クローブ・バッド油、タイム・ホワイト油、ゼラニウム油、ティートゥリー油、ラベンダー・フレンチ油、ベルガモット油、ペパーミント油、レモングラス油(いずれも市販のエッセンシャルオイル)を、そのままあるいは2mlのエタノールに溶かした後、純水を加えて200mlとした。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを電気炉中230℃で3h加熱した後、上記の各種有機化合物溶液中に電気炉から取り出して直ちに投入した。
【0073】
各試料をマグネットスターラーで撹拌し、24h後に試料を固液分離後、風乾もしくは凍結乾燥し、試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めた。また、有機化合物のモンモリロナイト層間への進入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。上記の方法によって得られた試料の炭素含有量及び層面間隔は、表10のとおりである。
【0074】
【表10】
【0075】
表によれば、いずれの天然物精油複合試料も炭素を含有していることが分かる。こうした天然物精油の主成分は、以下に示すように、既に例示してきた有機化合物から構成されたものも多く、天然物精油複合試料中の炭素成分もそうした主成分によるものと考えられる。
【0076】
<天然物精油名>:<主成分名>
桂皮油:シンナムアルデヒド
シトロネラ油:シトロネラール、ゲラニオール
クローブ・バッド油:オイゲノール
タイム・ホワイト油:チモール
ゼラニウム油:シトロネロール、ゲラニオール
ティートゥリー油:テルペネン−4−オール
ラベンダー・フレンチ油:酢酸リナリル
ベルガモット油:酢酸リナリル
レモングラス油:シトラール
シナモン・リーフ油:オイゲノール
【0077】
次に、本願発明の粘土鉱物系複合材料による生理活性評価について行われた実施例を示す。
【実施例12】
【0078】
(昆虫忌避機能をもつ粘土鉱物系複合材料の実施例)
実験は、片端をコルク栓で、もう一方をゴース布で閉じたガラス管(直径2.5cm、長さ15cm)に、シルバーリーフコナジラミ成虫10頭を閉じこめ、コルク栓を上にして垂直に立てて行った。コルク栓下面には、原体をエタノールで10,000ppmに希釈して調製した供試試料20μlを含ませ、約15分間風乾させた1.5cm四方のろ紙を貼り付けた。ガラス管の上方、約20cmの位置に光源(100w白熱灯)を設置し、コナジラミが止まった位置を、上(コルク栓下面の位置)から0cm、0〜2cm、2cm以上の3つに区分して、その個体数を調査した。調査は15分毎に、60分後まで4回行った。その結果を図12に示す。
【0079】
コナジラミは走光性があり、Cont区に見られるように、多くの個体は0cm付近に集まる。これに対し、ジエチルトルアミド区では、0cm付近の個体が減少し、2cm超の個体が増加したことから、試料を保持したろ紙を忌避したものと見なすことができる。ヒノキチオール区では、ジエチルトルアミド区には劣るが、0cm付近の個体が減少して他の区分で増加したことから、コナジラミに対し忌避活性を有することが分かる。
【実施例13】
【0080】
内径25mm×高さ25mmのガラス管の片方をラップでシールし、約3mlの1%寒天溶液を入れた。固まった寒天の表面に、直径25mmのインゲン葉リーフディスクを貼り付け、保持した。植物精油等については、試料原体をエタノールで所定の濃度に調整し、ガラス管内壁に貼り付けた定性ろ紙(10mm×60mm)に含浸させて、20分風乾した後に、供試虫成虫10〜15頭を放飼したフラスコの口に設置した。上記の各有機化合物をモンモリロナイトに接触させ層間に導入した試料(以下、原体名の後に「複合試料」を付して表す。)については、ガラス管下方の縁に、固着剤を塗布して付着させた。試験開始3時間後に、コナジラミの葉面への寄生率を調査し、次式により補正忌避虫率を算出した。その結果を表11、表12に示す。
補正忌避虫率 =(処理区の忌避虫率−Contの忌避虫率)/(100−Contの忌避虫率)×100
【0081】
試料原体では、ジエチルトルアミドの忌避活性が最も高く、続いてゼラニウム、シナモン・リーフ、シトロネラ、ヒノキチオール、ローズ油の順に忌避活性が高かった。有機化合物−モンモリロナイト複合試料では、ジエチルトルアミド複合試料、ゲラニオール複合試料の活性が最も高く、次いで活性が高いグループは、シナモン・リーフ、シトロネラール、シトロネラ油、ヒノキチオール、ゼラニウムの各有機化合物複合試料5種であった。ベンジルイソチオシアネート複合試料については、供試虫のすべてが苦悶後死亡した。こうした現象は、殺虫効果を含む忌避活性をもつものと考えられる。
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【実施例14】
【0084】
ポリビニルアルコール(PVA)の0.2%水溶液5mlにジエチルトルアミド−モンモリロナイト複合試料0.5gを懸濁させ、極力ムラの無いようピペットでろ紙へ含浸させ、風乾した。高さ40cm、一辺が15cmの直方形の枠の周囲に、有機化合物複合試料を付着させたろ紙(長さ60cm、幅1cm)を1本、もしくは3本、5本を等間隔になるよう取り付けた。この枠内にインゲン苗(初生葉のみ着生)を納めて、昆虫飼育箱内に静置した後、シルバーリーフコナジラミ約300頭を放した。試験開始後、経時的にインゲン苗への寄生虫数を調査した。その結果を表13に示す。この結果から、ジエチルトルアミド複合試料は、ろ紙5本処理で忌避効果があると判定される。
【0085】
【表13】
【0086】
以上のように、昆虫忌避活性をもつ有機化合物と粘土鉱物との接触により作製した、有機化合物複合試料は、有機化合物を試料の外界に徐々に放出する性質を有しており、長期にわたってその機能を維持することが可能であることが分かる。
【0087】
次に、ダニ忌避に関する実施例を示す。
【実施例15】
【0088】
(精油配合ナノシート防ダニ材料の持続性確認試験法による防ダニ試験)
防ダニ試験のための供試料として、ヒノキチオール、ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、シンナムアルデヒドを各々配合した有機化合物−モンモリロナイト複合試料を用いた。また、防ダニ試験のための供試ダニとして、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)の雌を用いた。培地は、MF粉末に乾燥酵母エビオスを5:1の割合で混合したものを使用し、恒温恒湿器で25℃、相対湿度75〜80%で培養した。
【0089】
供試試料は、プラスチック容器(φ約13mm、高さ約9mm)に各々100mg量り入れ、室内環境に1日間暴露させた。φ45mmガラスシャーレに供試試料を容器ごと入れ、更にシャーレ内の湿度を80%に保つため、プラスチック容器(φ約13mm、高さ約9mm)にKBr飽和水溶液500μlを入れたものを入れた。メッシュ袋に緩衝材として綿を入れたものに、木綿針を用いてダニを10匹入れ、ポリシーラーで封をした後、シャーレに入れた。パラフィルムで封をし、恒温器で25℃、24時間飼育した後、実体顕微鏡を用いてダニの生死を観察し、死亡率を求めた。試験後は、シャーレの蓋を開けて室内環境に暴露させ、試験時には、再びKBr飽和水溶液500μlを入れ実施した。その結果を表14に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
表14より、オイゲノール、ヒノキチオール、シンナムアルデヒドのモンモリロナイト複合試料は、室内環境暴露19日後にいずれも防ダニ効果が認められた。ベンジルイソチオシアネート配合ナノシート試料は、13日後まで防カビ効果が認められた。
【実施例16】
【0092】
(有機化合物−モンモリロナイト複合試料の抗菌活性選抜試験に関する実施例)
各種精油をモンモリロナイトへ接触させて得た試料の抗菌活性選抜試験を行った。各試料は、100.0mgを秤量し、10mlの滅菌蒸留水に分散させて試験原液とした。1mlの試験原液を、予め9mlのカチオン調整済みミューラーヒントンブイヨン(CSMHB:Cation−Supplemented Mueller Hinton Broth)入りL字型試験管に挿入して最終濃度1000mg/lの試験液とし、試験原液の代わりに1ml滅菌蒸留水を入れたものを対照として用いた。CSMHBとは、ミューラー・ヒントン・ブイヨン培地(DIFCO)に塩化カルシウムと塩化マグネシウム (最終濃度それぞれ50mg/lと25mg/l)を添加したものである。
【0093】
2回継代培養したStaphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli NBRC3972(大腸菌)を試験に供した。ミューラーヒントンブイヨン(MHB)により、約10−4CFU/mlに調整し、その0.1mlを菌種毎に前述の試験液に接種した。35℃、18〜24時間で、100rpm振盪培養した後、普通寒天培地(栄研化学)に各試験液の10μlを移植して乾燥後、35℃、18〜24時間培養した後に、対照と比較して明らかに菌の発育を阻止又は抑制しているものを抗菌活性選抜試験陽性とした。その結果を表15に示す。表より明らかなように、ヒノキチオール、シンナムアルデヒド、ベンジルイソチオシアネートをモンモリロナイトへ接触させて得た試料において抗菌活性を認めた。
【0094】
【表15】
【実施例17】
【0095】
(有機化合物を複合化した材料の抗菌活性値の評価に関する実施例)
実施例16における抗菌活性試験で陽性を示した有機化合物複合試料の最小発育阻止濃度試験を行った。試験方法は、抗菌製品評価協議会の方法(1998版)を準用した。すなわち、各試料の160.0mgを秤量し、10mlの滅菌蒸留水に分散させて試験原液とした。試験原液を用いて6段階2倍希釈列(必要に応じて15段階まで)を作製し、各々の1mlを、予め9mlCSMHB入りL字型試験管に挿入し、充分に撹拌した。試験原液の代わりに滅菌蒸留水を入れたものを対照として用いた。
【0096】
2回継代培養したStaphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli NBRC3972(大腸菌)を試験に供した。MHBを用いてそれぞれを約10−4CFU/mlに調整し、その0.1mlを菌種毎に前述のL字型試験管希釈系列に接種した。35℃で18〜24時間、100rpm振盪培養した後、目視にて対照と比較して、明らかに菌の発育を阻止又は抑制しているものを発育阻止と判定し、発育を阻止した最小濃度を最小発育阻止濃度とした。その結果を表16に示す。
【0097】
表より明らかなように、ヒノキチオール複合試料は、大腸菌に対して200mg/l、黄色ブドウ球菌に対して100mg/lの濃度で発育阻止作用を示し、ベンジルイソチオシネート複合試料は、黄色ブドウ球菌に対していずれも400mg/lで発育阻止作用を示した。シンナムアルデヒド複合試料の供試菌に対する発育阻止作用は、MICで1600mg/lであった。
【0098】
【表16】
【0099】
次に、粘土鉱物系複合材料の防カビ特性に関する実施例として、粘土鉱物系複合材料のイチゴ灰色カビに対する防カビ活性試験を示す。
【実施例18】
【0100】
(精油成分による抗微生物効果:灰色カビ)
本実施例においては、市販のベンジルイソチオシアネートを生理活性物質として用いた。この成分を、胞子濃度105cells/mlの灰色カビ50μlを90mmシャーレ(PDA培地)に塗布し、シャーレの培地の中心にペーパーディスク(8mm)を置き、DMSOで希釈したベンジルイソチオシアネートを50μl滴下し、パラフィルムでシールし、25℃で7日間培養した。培養期間終了後、ペーパーディスクの生育抑制状況によってその成分の抑制効果を評価した。すなわち、生育状況は、シャーレに完全に生育する場合、阻止円を形成する場合、完全に生育が抑制する場合がある。更に阻止円を形成する場合は、その程度により抑制状況が異なっていた。本実施例の成分は、0.155μl/50μlの濃度まで完全に灰色カビの生育を抑制した。
【0101】
一方、実施例10に記載した方法で作製したベンジルイソチオシアネート複合試料を用いた試験は、次のように行われた。胞子濃度105cells/mlの灰色カビ50μlを90mmシャーレ(PDA培地)に塗布し、シャーレの蓋の中心に、ベンジルイソチオシアネート複合試料0.5gを充填したストローを貼り付け、ストローの開口部から気化成分がシャーレ内へ移動できるようにした。シャーレをパラフィルムでシールし、25℃で7日間培養した結果、明らかに灰色カビ抑制効果が認められた。
【実施例19】
【0102】
(イチゴ炭疽病菌に対する各種天然物質等の培地内菌糸最低生育阻止濃度試験)
植物からの抽出物、精油など7種を供試した。各種物質を20、50、100、200、400及び1000ppmの濃度になるように添加したPDA培地に、28℃で5〜10日間培養したイチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata、96C−1)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度1シャーレを用い、3菌そうずつ切片を置床した。その後、28℃で5日間培養し、菌糸の生育・伸長の有無により、最低生育阻止濃度(MIC)を求めた。その結果を表17に示す。表に示すように、供試料は、いずれも炭疽病菌の生育を抑制した。すなわち、ヒノキチオールのMIC値は50ppmと最も低く、次いでアリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネートが100ppm、カルバクロールとチモールが200ppm、オリガヌム油が400ppmの値を示した。
【0103】
【表17】
【実施例20】
【0104】
(各種天然物質等を配合したナノシートの培地内におけるイチゴ炭疽病菌菌糸伸長抑制試験)
実施例19における供試料がいずれもイチゴ炭疽病菌生育抑制効果を示したので、次に、これらの有機化合物をモンモリロナイトへ接触させて作製した試料9種を供試した。各試料を100及び1000ppmの濃度になるように添加したPDA培地に、28℃で5〜10日間培養したイチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata、96C−1)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度3シャーレを用い、1菌そうずつ切片を置床した。その後、28℃で3〜4日間培養し、菌糸の生育の有無及び菌糸の伸長を測定して菌糸伸長抑制率を求めた。その結果を表18に示す。
【0105】
培地への1000ppm添加における菌糸伸長抑制率が最も高かったのは、表に示すように、ヒノキチオール/モンモリロナイトNSとフェニルエチルイソチオシアネート/モンモリロナイトNSの100%であり、以下90%を越えたのは、銅・ヒノキチオール/モンモリロナイトNSの92.8%であった。また、ヒノキチオール/モンモリロナイトNSは、100ppm添加においても菌糸伸長抑制率が89.7%と極めて高かった。
【0106】
【表18】
【実施例21】
【0107】
(イチゴ疫病菌に対する各種天然物質等の培地内菌糸最低生育阻止濃度試験)
植物からの抽出物や精油など16種と対照として化学合成農薬のメタラキシル水和剤を供試した。各種物質を20、50、100、200、400、800及び1000ppmの濃度になるように添加したV−8ジュース寒天培地に、23℃で5〜10日間培養したイチゴ疫病菌(Phytophthora nicotianae var. parasitica、PY2102)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度1シャーレを用い、3菌そうずつ切片を置床した。その後、23℃で4〜5日間培養し、菌糸の生育・伸長の有無により、最低生育阻止濃度(MIC)を求めた。その結果を表19に示す。
【0108】
MIC値が最も低かったのは、表に示すように、アリルイソチオシアネートとベンジルイソチオシアネートで50ppm、次いでフェニルエチルイソチオシアネート、ヒノキチオール、カルバクロールで100ppm、その次にはチモールとオリガヌム油で200ppmであった。桂皮油(シナモン油)、trans−シンナムアルデヒド、シトロネロール、丁子油(クローブ・バッド油)、オイゲノール、ゲラニオールは400ppm、シトラール、ローズ油は800ppmであった。なお、対照の化学合成農薬のメタラキシル水和剤のMIC値は、50ppmであった。
【0109】
【表19】
【実施例22】
【0110】
(各種天然物質/モンモリロナイト複合試料の培地内におけるイチゴ疫病菌菌糸伸長抑制試験)
植物からの抽出物や精油等及び対照として化学合成農薬のメタラキシル水和剤をモンモリロナイトに接触させて得られた複合試料34種を供試した。各種物質を100及び1000ppmの濃度になるように添加したV−8ジュース寒天培地に、23℃で5〜10日間培養したイチゴ疫病菌(Phytophthora nicotianae var. parasitica、PY2102)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度3シャーレを用い、1菌そうずつ切片を置床した。その後、23℃で5日間培養し、菌糸の生育の有無及び菌糸の伸長を測定して菌糸伸長抑制率を求めた。その結果を表20に示す。
【0111】
培地への1000ppm添加における菌糸伸長抑制率が最も高かったのは、表に示すように、ヒノキチオール/モンモリロナイト複合試料とフェニルエチルイソチオシアネート/モンモリロナイト複合試料の100%であり、以下90%を越えた試料は、桂皮油/モンモリロナイト複合試料の95.3%、チモール/モンモリロナイト複合試料の92.0%であった。なお、対照の化学合成農薬をナノシート化したメタラキシル複合試料は91.4%であった。
【0112】
【表20】
【実施例23】
【0113】
(有機化合物複合試料のイチゴに対する効果)
タッパーウェア(密閉可能なもの、容積5.2リットル)にイチゴ15個(品種:さちのか)及びベンジルイソチオシアネート(BITC)複合試料をシャーレ(直径90mm)に広げ、設置し、密閉した。このタッパーウェアを10℃にて1週間処理した。1週間後、硬度、イチゴの外観(カビ)を調査した。その結果を表21に示す。表に示すように、0.01g添加した場合でも良好な結果が得られた。
【0114】
【表21】
【0115】
本発明が適用され、同様の効果が得られる農産物としては、イチゴ以外の他に、カビの発生が多いビワ、ミカンなどが挙げられる。
【実施例24】
【0116】
(精油を配合した粘土鉱物系複合材料の防カビ試験)
防カビ試験のための供試料として、ヒノキチオール、ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、シンナムアルデヒドをそれぞれ接触させて得られた試料を用いた。供試菌には、Aspergillus niger(NBRC6341、クロカビ)、Penicillium citrinum(NBRC6352、アオカビ)、Aureobasidium pullulans(NBRC6353、クロコウボ)、Rhizopus oryzae(NBRC31005、乳酸生成糸状菌)の4菌種を使用し、培地は、RPMI1640を蒸留水に溶解し、MOPSを34.5g/lの割合で加えた後、1M−NaOHを用いてpH7.0に調製後、メンブランフィルター(ポアーサイズ0.2μm)でろ過滅菌して用いた。
【0117】
供試料は、滅菌蒸留水を用いて20,000〜313μg/mlあるいは2,000〜31.3μg/mlに調製後、培地を用いて10倍希釈し、2,000〜31.3μg/mlあるいは200〜3.13μg/mlに調製し、供試液とした。これらの供試液を96ウェルマイクロプレートに各々0.1ml分注し試験液とした。供試菌は0.005%AerosolOTを加えた生理食塩水を用いて胞子濃度を105cells/mlに調製した後、3000rpm、10分遠心後上清を除き、同量の培地で置換し、充分懸濁させた後、予め試料の入れてあるマイクロプレートのウェルに0.1mlずつ接種した(供試料の終濃度は1,000〜15.6μg/mlあるいは100〜1.56μg/mlとなる)。恒温器で25℃、4日間培養後、肉眼的に菌糸の発育の有無を確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。その結果を表22に示す。
【0118】
【表22】
【0119】
表より、ヒノキチオール配合ナノシート試料は、4菌種に対して防カビ効果が明らかに認められた。ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、及びシンナムアルデヒド複合試料は、R.oryzaeを除く3菌種に防カビ効果が認められた。
【実施例25】
【0120】
(精油成分によるカットレタスの褐変抑制効果に及ぼす影響)
精油を密閉できるプラスティック容器の中にジメチルスルホキシド20mlで希釈した2.4mlの精油原体をガラスシャーレに入れた。別のガラスシャーレに入れたカットレタス20gを3−4個とともに密閉し、2日間10℃で保存した。レタス可食部と色調の変化を明確に判断するため、カットレタスは、外葉の特に緑色の濃い部分は取り除いた。試験の保存期間終了後、分光測色計(CM−2500d、コニカミノルタ社製)でカットレタスの色調を測定した。色調の変化は、既に報告されている褐変評価測定に用いられるハンターLabで表示した。更に、測定値のLabのうち褐変を評価するためには、最も色調変化が著しいa値が高い場合を褐変の指標とした。
【0121】
レタスは、個々の品質によりa値にバラツキが生じるため、対照区を設置し、その相対値で個々の比較を行った。a値のみでは精油成分により褐変以外の変色をした場合は、判定不能になるため、品質を含め達観でもその補助的な評価を行った。その結果を表23に示す。このうち、a値、相対値及び達観の順に褐変抑制効果の可能性を検討した。すなわち、a値が1.00以下、更に相対値が60以下、達観では、褐変の状況及び変色のないものについて、褐変抑制効果有りと判定した。これから明らかなように、供試料のうち原体の6成分が、レタスを2日間保存すると良好な褐変抑制効果を示すことが分かった。
【0122】
【表23】
【実施例26】
【0123】
(精油/モンモリロナイト複合試料のカットレタスの褐変抑制効果)
実施例9の方法で作製した精油/モンモリロナイト複合材料を0.5gガラスシャーレに入れ、別にガラスシャーレに入れたカットレタス20gを3−4個準備し、これらをともに密閉し、2日間10℃で保存した。精油/モンモリロナイト複合材料によるレタスの褐変抑制効果の評価は、実施例25の方法で行った。その結果を表24に示す。オイゲノール/粘土複合試料を除き、他の精油/粘土複合試料は、いずれもレタスに対して褐変抑制効果を示すことが分かった。
【0124】
【表24】
【実施例27】
【0125】
(精油のカットレタスにおける褐変酵素に対する抑制効果)
野菜の褐変に関連する代表的な酵素としてポリフェノールオキシダーゼ(PPO)、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)があり、褐変抑制に効果がある物質は、この酵素の活性に影響を与えている。従って、実施例25及び26において評価した精油について、これらの酵素活性に対する抑制効果が考えられたため、上記実施例における処理の後、PPO及びPAL酵素活性を測定したところ、その活性が抑制されていることが分かった。このように、実施例26で褐変抑制が認められた精油は、レタスの褐変時に作用する酵素の働きを抑制していることが明らかとなった。
【実施例28】
【0126】
(精油/粘土複合試料からの精油の放出)
ゲラニオール/粘土複合試料20mlをバイアルに0.5mg加え、その気相のゲラニオール濃度をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で、以下の条件において測定した。
【0127】
(GC/MS条件)
SPME:DVD/carboxen/PDMS(ファイバーの膜厚:50/30μm、結合タイプ:高架橋型)
Extraction:20 min headspace sampling 95℃
Desorption:3.0 min 250℃
Colum:Stabil−WAX ,60m×0.25mm,0.25μm
キャリアガス:He(120kPa)
oven:70℃(3min)to250℃at10℃/min,hold 10min
Inj:250℃
【0128】
この測定の結果、バイアルの気相中には、1500ppm相当量のゲラニオール蒸気が存在することが分かり、ゲラニオール/粘土複合試料から放出される気体は原体であるゲラニオールであることが明らかとなった。すなわち、粘土と複合化された精油は、放出される際にも、複合化前と同じ精油蒸気として存在するものと考えられる。
【0129】
精油/粘土複合試料による同様の褐変抑制効果が期待される褐変性カット野菜としては、レタスの他に、特に、レンコン、ジャガイモ、サツマイモ、ゴボウ、キャベツなどが挙げられる。
【実施例29】
【0130】
実施例6で作製したシトラール複合試料、実施例8で作製したローズ油複合試料、実施例9で作製したシンナムアルデヒド、オイゲノール、リナロール、ゲラニオール、テルピネオール、ヒノキチオールの各複合試料、及び実施例10で作製したベンジルイソチオシアネート接触試料をそれぞれガラス製シャーレにとり、これらをドラフトチャンバー内で25℃に温度調節したシリコンラバーヒーター上に置いて、ドラフトチャンバー内に流入する空気流と接触させた。各試料と空気流との接触開始から所定時間毎に試料を少量採取し、その炭素含有量をCHNコーダーにより分析することにより、各試料から揮発する有機化合物量を調べた。各試料の炭素含有量の変化を図13−14に示す。
【0131】
各試料中の有機化合物が徐放・揮発によって完全に失われるには相当の時間を要するため、初期炭素含有量が概ね1/2になるまでの時間を、図から炭素半減期として求め、各試料の徐放性を評価した。なお、測定期間中に半減期に到達しない試料の場合は、測定結果から回帰式を求め、計算によって炭素半減期を求めた。各複合試料の炭素半減期を、その対応する有機化合物名と併記して示すと、シトラール:1600h、シンナムアルデヒド:650h、オイゲノール:750h、リナロール:350h、ゲラニオール:340h、テルピネオール:130h、ヒノキチオール:3400h、ベンジルイソチオシアネート:150hであった。このように、本発明により作製した有機化合物/モンモリロナイト複合試料の徐放性を炭素半減期で表現すると、その長短の違いはあっても、いずれも徐放性をもっていることが分かる。
【実施例30】
【0132】
既に記載した方法で作製した、生理活性機能をもつ有機化合物/モンモリロナイト複合材料を、実施例29と同様にして25℃で空気流と接触させ徐放性を調べた。各試料の初期炭素含有量と炭素半減期を、実施例29記載分も含めて表25に一覧表にして示す。実施例29の結果と同様に、本発明により作製した有機化合物/モンモリロナイト複合試料の徐放性は、その長短の違いはあるが、いずれも徐放性を有していることが分かる。
【0133】
【表25】
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上詳述したように、本発明は、粘土鉱物系複合材料とその製造方法に係るものであり、本発明により、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能等を有する有機化合物を、熱処理によって層間水を排除した粘土鉱物と直ちに接触させることにより、極めて短時間に、効率よく粘土鉱物と複合化することができる。このようにして得られた有機化合物―粘土鉱物複合体は、空気中では酸化や揮発などのために不安定な有機化合物を、固体として扱うことが可能となることから、紙、樹脂、造粒体のように種々の形態に加工することができる。更に、粘土鉱物との複合化によって粘土鉱物に拘束された有機化合物は、試料の外界に徐々に放出される、いわゆる徐放性を有しており、長期にわたってその機能を維持することが可能となる。本発明によって提供される、粘土鉱物系複合材料は、各種産業分野や生活の場において、昆虫忌避、抗菌・防カビ、植物体や果実の鮮度維持、防ダニなど、様々な機能を有する有用な素材として好適に活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】天然物精油をモンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図2】シアゾファミド水和剤及びメタラキシル水和剤を、モンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図3】カフェインを、モンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形の一例である。
【図4】カルバクロール、チモール、シトラールを、モンモリロナイトの熱処理後に、液相から直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図5】カルバクロール、チモール、シトラールを、モンモリロナイトの熱処理後に、遊星ボールミル内において直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図6】サリチル酸メチルを、モンモリロナイトの熱処理直後(上)及び熱処理後に放冷後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図7】桂皮油、シトロネラ油、ペパーミント油を、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図8】ローズ油、レモン油、オリガヌム油を、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図9】ゲラニオール、オイゲノール、ヒノキチオールをモンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図10】テルピネオール、リナロール、シンナムアルデヒドを、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図11】アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネートを、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図12】ジエチルトルアミド及びヒノキチオールの接触により作製した粘土鉱物系複合材料による昆虫忌避効果を示す図である。
【図13】シンナムアルデヒド、オイゲノール、シトラール、ベンジルイソチオシアネート複合試料を、それぞれガラス製シャーレにとり、25℃で空気流を強制的に接触させたときの各試料の炭素含有量変化である。図中の半減期は炭素含有量の半減期を示す。
【図14】リナロール、ゲラニオール、テルピネオール、ヒノキチオール複合試料を、それぞれガラス製シャーレにとり、25℃で空気流を強制的に接触させたときの各試料の炭素含有量変化である。図中の半減期は炭素含有量の半減期を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性機能を有する粘土鉱物系複合材料に関するものであり、更に詳しくは、防虫・昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能等の生理活性機能を有する有機化合物を、無機物である粘土鉱物と複合一体化した、生理活性機能を有する粘土鉱物系複合材料及びその製造方法に関するものである。本発明は、業務用、産業用及び人の生活の場において、その徐放性故に人を含めた生態系にやさしく、かつ機能・効果の安定性、持続性にも優れた機能性物質とその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防虫・昆虫忌避剤、抗菌・防カビ剤等の抗微生物剤、野菜、果物等の生鮮食料品の鮮度維持剤及び芳香剤等は、液体、固体の別を問わず、それぞれ実用上の適した形態に加工され用いられている。このような製品にあっては、その有効成分を保持し、効果を持続させ、ハンドリング上の利便性をもたらす目的で、無機物を担体として一体化して用いることが多く、例えば、タルク、粘土、蝋石、石灰石、珪藻土、パーライト、軽石などの無機粉体がしばしば用いられる。
【0003】
例えば、防虫・昆虫忌避剤としては、有効成分である天然物精油や合成農薬を、天然・合成繊維やガラス繊維、ゼオライト、タルク、珪藻土、石灰、シリカゲル、活性炭等を担体として用いた例がある(特許文献1)。また、生鮮食料品の鮮度維持を目的とした例としては、ケイヒ酸及びその誘導体と酸化チタンを混合したもの(特許文献2)や、タルクを担体としてニンニク、唐辛子成分、ワサビ成分、シソ成分などを複合化した例(特許文献3)がある。また、抗菌・防カビ剤等の抗微生物剤にあっては、カテキン類、サポニン類、タンニン(酸)をバーミキュライトやベントナイトに担時した機能性材料が提案されている(特許文献4)。
【0004】
担体として用いられる、タルク、カオリン、蝋石等担体の役割は、前記のように、その表面に有効成分を付着・吸着させ、業務用、産業用及び家庭用に用いられた際に、効果の及ぶ範囲を限定したり、有効成分の担体への親和性により残効性を付与し、あるいはハンドリング性を含めて、種々の形態に加工する際の利便性を確保することにある。しかしながら、こうした無機質担体への有効成分の親和性は、素材への付着、吸着現象に基づくものであるために、利用に際して何らかの洗浄操作を受けると、有効成分は、担体から比較的に容易に移動し、その残効性は乳剤等に比べると一般に劣っている。また、有効成分の保持力が強くないことで、有効成分の徐放性も達成できていなかった。
【0005】
また、こうした点を解決すべく、近年、スメクタイトやバーミキュライト等の層間にイオン交換能をもつ無機層状化合物を担体として、その層間に特定の化合物を導入した組成物が提案されている(特許文献5など)。層間に導入されるゲスト化合物として、銀、銅、亜鉛等の抗菌力を有する金属イオンと、防カビなどの機能を持つ有機化合物を錯体化して導入すると、抗菌と防カビの双方の機能を併せもつ無機・有機複合材料を作ることができる。
【0006】
また、アルミニウムやジルコニウム等の金属水酸化物カチオンを、前記の金属イオン−有機化合物錯体と併せて層間に導入すると、その耐熱性が大幅に高められることが分かっている(特許文献6)。更に、生理活性機能をもつ物質として、植物成長調節機能、病害虫防除機能、抗微生物機能等をもつ有機化合物を、適当な金属イオンとの組み合わせにおいて、無機層状化合物の層間に導入する方法が提案されている(特許文献7)。
【0007】
このようなイオン交換能をもつ無機層状化合物への生理活性物質の導入は、解離していない有機化合物を金属イオンと組み合わせて、金属錯体イオン化することで達成される。有機化合物と陽イオンとが錯体を形成するためには、両者が錯体を形成するための条件、すなわち錯体としての安定度を具備する必要があり、そうした条件を備えていない有機化合物と金属イオンを組み合わせて、これらを無機層状化合物の層間へ導入することは通常は困難と考えられている。
【0008】
また、金属イオンには、前記の銀、銅、亜鉛の他、鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属イオンがしばしば選ばれるが、金属イオン種によっては安全性や衛生上の理由から、その用途が制限されることもある。アルカリ金属、アルカリ土類金属のなかで制約の少ないイオン種も存在するが、こうした金属イオン種が中心金属となって安定な有機金属錯体を形成することはあまり期待できない。このように、陽イオン交換型の無機層状化合物をホスト化合物とする場合、金属イオンと有機化合物の組み合わせには、錯体の安定性の他に、金属イオン種の安全・衛生上の制約という課題も存在する。
【0009】
【特許文献1】特開2002−173407号公報
【特許文献2】特開平11−332460号公報
【特許文献3】特開平10−210958号公報
【特許文献4】特開2000−271201号公報
【特許文献5】特開2002−327090号公報
【特許文献6】特開2002−20158号公報
【特許文献7】特開2005−281263号公報
【0010】
このため最近注目される防除技術として忌避剤の利用がある。コナジラミやアブラムシなどの主要種に対して、一定以上の忌避活性を有し、かつその効力を長期間持続させることができれば、前記防除法と組み合わせることによって、安全で効果的な防除が可能となる。しかしながら、農業分野における害虫忌避剤の開発は、環境衛生分野に比べ進んでいないのが現状である。その理由として、一つには害虫の主要種に対して忌避活性をもつ既知の成分が少ないこと、また既知の成分の忌避活性は強いものではないため、単独では防除効果が得られないこと、さらに忌避成分の多くは、その揮発性や不安定性などから野外では効果が持続しないことが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の課題を解決することが可能な新しい粘土鉱物系複合材料とその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオンのアルカリ/アルカリ土類金属及び有機化合物でそれぞれ交換し、層間に、有機化合物をアルカリ、アルカリ土類金属との組み合わせにおいて導入することにより層間にこれらを安定ないし準安定な状態で導入することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的課題から構成される。
(1)層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組合せにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料。
(2)アルカリもしくはアルカリ土類金属が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムである、前記(1)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(3)生理活性機能が、昆虫忌避、抗微生物、鮮度維持、又は芳香の機能である、前記(3)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(4)機能性として、昆虫忌避、抗微生物、鮮度保持、又は芳香の機能が付与されている、前記(1)に記載の粘土鉱物系複合材料。
(5)層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(6)粘土鉱物の層間水を排除する熱処理を、加熱、マイクロ波照射、又は赤外線照射により行う、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(7)粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合する装置もしくは容器として、トロンミル、ボールミル、遊星型ボールミル、遠心ミル、振動ミル及び外気との接触を絶つことのできる構造をもった乳鉢を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(8)粘土鉱物として、スメクタイト、バーミキュライト、又はカオリン族粘土鉱物を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(9)熱処理後の粘土鉱物に導入する有機化合物として、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能を有する有機化合物を用いる、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(10)昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能及び芳香機能のいずれかを有する有機化合物が、桂皮油、タイム・ホワイト油、クローブ・バッド油、シナモン・リーフ油、ラベンダー・フレンチ油、レモングラス油、ペパーミント油、ベルガモット油、ティートゥリー油、ゼラニウム油、シトロネラ油、ローズ油、レモン油、ユーカリ油、オリガヌム油、シンナムアルデヒド、オイゲノール、サリチル酸メチル、シトラール、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、リナロール、メントール、ゲラニオール、チモール、テルピネオール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド、シアゾファミド、メタラキシル、エピガロカテキンガレート、ミリシトリン、カフェインの少なくとも1つ以上である、請求項9に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(11)粘土鉱物の層間陽イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムである、前記(5)に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
(12)前記(1)から(4)のいずれかに記載の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料の点に特徴を有するものである。また、本発明は、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とするものである。
【0014】
更に、本発明は、上記の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品の点に特徴を有するものである。本発明では、粘土鉱物の層間陽イオンは、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムであることが好ましいが、鉄、コバルト、チタン、マンガン、ニッケル、亜鉛、金、銀、銅などの金属イオンが層間に入っている場合でも、有機化合物を容易に層間に導入することができるため、本発明は、そうした金属イオンと有機化合物の組み合わせを排除するものではない。
【0015】
以下、煩雑さを避けるために、ホスト化合物である粘土鉱物としてスメクタイトを、また、その中でも特にモンモリロナイトをとりあげて本発明を説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、主原料の粘土鉱物であるモンモリロナイトとは、SiO4四面体シートがAlO4(OH)2八面体シートをサンドイッチ状に挟んだ、いわゆる2:1型といわれる結晶構造をもった粘土鉱物である。モンモリロナイト結晶の八面体シートのAlが一部2価のMgやFeで置換されることで、粘土層間はマイナス電荷を帯びている。このマイナス電荷を電気的に中和するために、その層間には層間カチオンと呼ばれる陽イオンが入っている。
【0016】
モンモリロナイトの場合、その層間カチオンは普通はナトリウムイオンであることが多いので、以下、元々の層間陽イオンをナトリウムイオンに固定して説明を行う。このナトリウムイオンは系外の有機あるいは無機の陽イオンと比較的容易に交換できるため、モンモリロナイトに適当な金属錯体カチオンを接触させることにより、その層間に元々存在したナトリウムイオンに代えて金属錯体カチオンを導入することができる。導入された金属錯体カチオンは、モンモリロナイト粒子が分散媒中にあっても、その層間内で比較的安定な状態に保たれるため、分散媒への金属錯体カチオンの溶出は徐々に起こる。すなわち徐放性を有している。
【0017】
上記のイオン交換反応において、金属錯体イオンがナトリウムイオンと交換した場合、層間にあった水分子もナトリウムイオンと同様に交換されて粘土層間から排除される。一方、水分子が粘土層間から排除されるのは、必ずしも層間カチオンの交換に伴ってのみ行われるのではない。層間水とグリセリンやエチレングリコールの交換反応は良く知られている現象である。しかし、この場合、粘土層間のナトリウムイオンに変化は起こらない。従って、先行文献(特開2005−281263号公報)でも、層間陽イオンと水分子の交換反応はそれぞれ独立に行うことができることが示されている。
【0018】
モンモリロナイトは15Å粘土鉱物と呼ばれているが、空気中では、水分子層は3枚まで層間に入ることが知られている。層間に含まれる水分子層の数によって対応する底面間隔はそれぞれ、10Å(0枚)、12〜13Å(1枚)、14〜16Å(2枚)、18〜19Å(3枚)となっている。繰り返しになるが、前記のように水分子層は層間の金属イオンに水和(配位)することで層間に取り込まれており、金属錯体が層間に入るためには、水分子と錯形成分子の交換が必要となる。水分子に代わり錯形成分子が層間に入った方が層間化合物としての安定性が高い場合でも、水分子と錯形成分子との交換には、ある程度の時間を必要とし、交換反応時の温度を上げて反応を促進するなどの処置もとられる。また、水分子と比較して層間での安定性が低い錯形成分子の場合は、これまでは交換反応は起こり難いと考えられていた。
【0019】
本発明は、このような水分子と、錯形成分子である有機化合物の交換を起こりやすくするためになされたものであり、しかも通常では層間での安定性を欠くと考えられる有機化合物をも、層間内へ導入することを可能とした。すなわち、本発明では、例えば、モンモリロナイトを220℃以上に加熱して、粘土層間の水分子を速やかに排除し、粘土層間の復水(層間への水分子の再進入)が起こる前に、層間に導入すべき有機化合物を直ちに接触させることにより、錯形成分子を粘土層間に導入することを特徴としている。
【0020】
モンモリロナイトの層間水と交換して安定であることが既に判明している、アルコール、アルデヒド、ケトンなどの極性有機化合物は、水及び適当な有機溶媒に溶解させ、モンモリロナイト懸濁液に添加することで、モンモリロナイトの層間水と交換することができるが、モンモリロナイト層間で安定な有機化合物であっても、層間水と有機化合物の交換には通常1日程度の時間を要していた。このような場合でも、本発明の方法を適用することにより、その導入に要する時間を大幅に短縮することができる。すなわち、モンモリロナイトの層間水を熱処理によって予め排除しておき、その層間が復水する前に、有機化合物もしくはその溶液に直ちに添加することにより、有機化合物の層間への導入は容易に達成される。
【0021】
また、分子内の極性があまり強くない極性有機化合物の場合は、層間水との交換は起こり難いが、本発明の方法を適用することにより、層間への準安定な導入が可能となる。すなわち、層間水を排除したモンモリロナイトを、その有機化合物もしくはその溶液に直ちに添加することにより、上記の層間で安定な極性有機化合物と同様に、モンモリロナイト層間への導入が行われる。ただし、このようにして層間に導入された有機化合物は、長時間の撹拌もしくは混合操作を継続すると、次第に水分子の交換(復水)が進行し、層間から移動して排除されていく。したがって、層間での安定性が充分ではない、このような極性有機化合物をモンモリロナイト層間に導入する際には、媒液を介した接触は必要充分な時間で停止することが望ましい。
【0022】
また、本発明では、アルカリ、アルカリ土類金属がその層間に入っているモンモリロナイトに、室温における蒸気圧が高い有機化合物を導入する方法をとるが、このような方法で導入された有機化合物はモンモリロナイト層間で充分に安定ではない。従って、粒子が液体中ではなく空気中にある場合でも、有機化合物蒸気が徐々に空気中に放出される。すなわち、気体の徐放性を有している。本発明者らは、生理活性機能をもつ天然物精油の中に、モンモリロナイトに対して、こうした性質をもたらす有機化合物を数多く見出している。具体例は実施例の中で説明する。なお、実施例では天然物精油を用いた例について説明するが、粘土鉱物の層間に導入されて同様の性質を示す有機化合物であれば、その種類に限定されることはない。
【0023】
以上のように、本発明では、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物の層間に、生理活性機能をもつ有機化合物を導入する際に、熱処理によって層間水を予め排除しておき、これと上記有機化合物を直ちに接触させることにより、(1)層間陽イオンと有機化合物との錯体の安定性を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することを可能とする、(2)また、これまで、該粘土鉱物の層間での安定性が充分ではなく、層間への導入が困難とされてきた有機化合物にあっても、本発明の方法を適用することにより、準安定ながらも層間に導入することができる、また、(3)用途によっては、材料に含まれることが望ましくないとされる遷移金属や重金属等の金属イオン種との錯体形成が不要となることから、安全、衛生上の需要に応えることができる、更に、(4)層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組み合わせにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されている無機・有機複合材料を作製し、提供することができる、という利点が得られる。
【0024】
本発明は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムがその層間に存在する場合に、層間水を予め排除しておくことにより、安定な錯体を形成する可能性に乏しい金属イオンと有機化合物の組み合わせであっても、準安定ながら層間に導入することが可能となる。すなわち、通常、安定な有機金属錯体は、中心金属の電子配置である内殻や外殻の空軌道が混成して、非共有電子対を有する有機化合物と配位結合することによってなるものが一般的で、無機・有機複合材料は、これらによる安定な有機金属錯体カチオンを予め形成した後にモンモリロナイト層間に導入することによって作製される。
【0025】
一方、ナトリウムイオンやカルシウムイオンの場合は、その周囲には層間水としての水分子が配位しているが、その結合は弱く、加熱によって容易に失われる。また、グリセリンやエチレングリコールなどの極性分子が接近すると、水分子は容易に交換されて層間から排除される。しかし、この場合、層間のナトリウムイオン等に変化は起こらない。本発明では、極性が非常に小さく、通常の接触では水分子との交換が容易には起こらない生理活性機能を有する有機化合物を、層間水を熱処理によって予め除いておくことにより、アルカリもしくはアルカリ土類金属との組み合わせにおいて、準安定ながら導入することに成功した。ここで、準安定といっているのは、粘土鉱物の層間から水分子が一旦は排除されても、水との接触が再び行われると、次第に水分子との交換が起こることを意味している。
【0026】
本発明による粘土鉱物系複合材料は、上記のような原理により、精油など生理活性機能をもつ有機化合物をその層間に導入し、有機化合物を徐々に層間から徐放することが特徴であるが、更なる特徴は、これらの有機化合物を、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなどの、通常、その単独では毒性、有害性がほとんど知られていないアルカリ、アルカリ土類金属との組み合わせ(複合体の形成)において導入できることにある。もし、粘土鉱物の層間における安定性を、重金属イオンを中心原子とした、有機配位子による錯体によって保持しようとすれば、しかも、抗菌などの生理活性の一端を重金属イオンによってもたらそうとすれば、近年、世界的にも潮流となっている各種の消費財の安全性に少なからぬ影響が及ぶことは必至である。本発明によれば、そうした懸念にほとんど及ばない安定な典型元素である上記金属イオンによる粘土鉱物系複合材料を提供することができる。また、本発明の更なる特徴は、既述のように、常温における蒸気圧が高く、原体のままでは容易に揮散する天然物精油やその主要成分を、上述のアルカリ金属等との複合体の形成により、粘土鉱物の層間に導入できるため、天然物精油やその主要成分を長期にわたり比較的安定に保存できることである。本発明者らによる調査では、その徐放期間は大気の気流中に開放した状態で、数ヶ月にも及んでいる。
【0027】
本発明は、上記粘土鉱物系複合材料を、例えば、天然物精油等を用いた昆虫忌避剤として利用するものであり、農作物を栽培する圃場に設置することで、コナジラミやアブラムシなどの微小害虫が飛来、侵入及び農作物へ寄生することを防ぐ昆虫忌避作用を有し、その徐放性故に人を含めた生態系にやさしく、かつ機能・効果の安定性、持続性に優れた害虫防除資材とそれを利用した害虫防除法を提供するものである。
【0028】
農業害虫のうち、コナジラミやアブラムシなどの微小害虫は、野菜類(キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ等)、花卉類(バラ、キク、ガーベラ等)、果実類(ミカン、モモ、ナシ等)の重要害虫であり、本種が作物に寄生することによる吸汁害や、排泄物に雑菌が繁殖して作物の光合成を阻害する、すす病の被害、を引き起こす。微小害虫は、これら直接的な加害にとどまらず、植物病原ウイルスの媒介者として大きな被害を及ぼす。
【0029】
微小害虫に対する従来の防除技術としては、殺虫剤を用いた方法が主であり、殺虫剤の有効成分としては、例えば、有機リン剤、合成ピレスロイド剤、IGR剤(昆虫成長制御剤)、ネオニコチノイド系剤等の薬剤が使用されてきた。しかしながら、コナジラミやアブラムシなど微小害虫の主要種は、多くの殺虫剤に対して抵抗性が発達し、これらを散布しても防除効果が得られにくく、発生が多い時期には、4〜5日間隔で散布しなければ防除できないのが実情である。しかし、一方で、昨今、環境や食品に対する安全性への関心は、かつてない高まりをみせており、農薬残留のリスクを招く殺虫剤の多用は、農業者や消費者のニーズに反することとなる。
【0030】
そのため、他の防除技術として、例えば、施設内への侵入を阻止するため、開口部に防虫ネットを張る方法や、近紫外線カットフィルムを被覆して害虫の侵入を抑制する方法、微小害虫が誘引される青色や黄色の粘着テープや粘着板を設置、捕獲して害虫密度を低下させる方法が利用されている。また、最近では、害虫の天敵類を施設内に導入し、防除する方法の開発も進められている。しかしながら、微小害虫は、体サイズが1〜2mm程度と小さく、また繁殖能力が極めて高いため、前記のいずれの防除方法でも十分な効果が上がっていないのが実情である。
【0031】
このため、最近注目される防除技術として忌避剤の利用があり、コナジラミやアブラムシなどの主要種に対して、一定以上の忌避活性を有し、かつその効力を長期間持続させることができれば、前記防除法と組み合わせることによって、安全で効果的な防除が可能となる。しかしながら、農業分野における害虫忌避剤の開発は、環境衛生分野に比べ進んでいないのが現状である。その理由として、一つには害虫の主要種に対して忌避活性をもつ既知の成分が少ないこと、また既知の成分の忌避活性は強いものではないため、単独では防除効果が得られないこと、更に忌避成分の多くは、その揮発性や不安定性などから野外では効果が持続しないこと、が挙げられる。
【0032】
本発明は、例えば、コナジラミやアブラムシなどの主要な害虫種に対し、一定以上の忌避機能を有し、かつその効力を長期間持続させることができるよう、忌避成分の徐放性と安定性に優れた昆虫忌避剤を提供するものである。
【0033】
そのために、本発明では、粘土鉱物を主原料として、昆虫忌避機能をもつシナモンリーフ、ゼラニウム、シトロネラ、ローズ油等の植物精油、及びシトラール、ベンジルイソチオシアネート、ゲラニオール、チモール、シトロネラール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド等の有機化合物から選ばれる1種以上を有効成分として含有する昆虫忌避効果について検討し、徐方性と安定性に優れた昆虫忌避剤を構築した。
【0034】
また、本発明は、上記粘土鉱物系複合材料を、例えば、天然物由来灰色カビ抑制剤として利用し、イチゴなどのカビ汚染を抑制する、特に蒸気処理による抗微生物剤を提供するものである。現在、食の安全・安心が求められている中で、農産物の劣化においては、エチレンによる老化、褐変、微生物による腐敗等がある。これまで、様々な抗微生物剤が検討されており、これらは、抗微生物を目的とする物質に直接、液相又は固相で接触することが必要であった。最近、蒸気接触することにより抗微生物活性を有する物質が注目されている。また、抗微生物剤は、これまで、化学合成物質が中心であったが、安全性等から天然物由来成分物質が求められている。
【0035】
また、カット野菜は、簡便性など多様化する消費者ニーズに合致しており、近年では、業務用にとどまらず、家庭用としても需要が増加している。しかし、切断されているために、通常の野菜に比べ品質低下が速く、中でも外観上の褐変の発生は、消費者の購買意欲を最も低下させる。特に、カットレタスは、カット野菜の中でも微生物の増殖よりも褐変がより早く発生するため、消費期限が極めて短期間に限定されている。
【0036】
天然物質においては、耐熱性、安定性に問題があるものがある。天然物質でも必ずしも安全性が保証されているのではないが、食品分野では食品添加物としていくつのかの天然成分、多くの植物抽出物が登録されており、これらは、一定の安全性が保証されている。食品のカビ汚染は、保存状態にもよるが、保存期間が長くなるにつれて、そのリスクは高まる。農産物の栽培管理状況や流通時の温度管理などによって、輸送時にカビが発生し、商品化率の低下の一要因となっている。
【0037】
従来の抗微生物技術としては、ワサビやキャベツなどに含まれるイソチオシアン酸アリルを用い、これと直接に接触させる抗微生物技術が報告されている。しかし、この物質の揮発性が極めて高く長期的な抗菌効果は期待できない。また、この揮発性のため、包装資材として加工しようとすると、その工程で大半が失われ、資材に残った場合でも抗微生物活性の寿命は短い。
【0038】
このようなことから、本発明では、カビ、細菌等を抑制し、消費期限を延長することができ、低コストで環境に配慮した、蒸気徐放性のある農産物の抗微生物抑制技術を構築した。本発明は、例えば、野菜の鮮度保持効果に関する技術で、レタスなどのカット野菜の褐変を抑制する技術、特に蒸気によるカット野菜の褐変抑制生理活性複合体を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明では、層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物の層間に、生理活性機能をもつ有機化合物を導入する際に、熱処理によって層間水を予め排除しておき、これと上記有機化合物を直ちに接触させることにより、層間陽イオンと有機化合物との錯体の安定性を必ずしも必要とせずに、容易に短時間で層間に導入し、無機・有機複合材料を作製することを可能とする。
(2)また、これまで、該粘土鉱物の層間での安定性が充分ではなく、層間への導入が困難とされてきた有機化合物にあっても、本発明の方法を適用することにより準安定ながらも層間に導入することができる。
(3)用途によっては、材料に含まれることが望ましくないとされる遷移金属や重金属等の金属イオン種との錯体形成が不要となることから、安全、衛生上の需要に応えることができる。
(4)天然物精油など、これまで粘土鉱物との複合化が難しいと考えられていた、室温における蒸気圧の高い有機化合物を、容易に、短時間に粘土鉱物と複合化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例により何ら限定されるものではない。以下に、生理活性有機物質もしくはその溶液を熱処理粘土と直ちに接触させて行った実施例について説明する。なお、本発明の方法を説明の便宜上、以下「熱処理・接触法」と呼称する。
【実施例1】
【0041】
モンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを電気炉中230℃で3h加熱し、この熱処理モンモリロナイト試料を、いずれもモンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対して1モルに当たるエピガロカテキンガレート(C22H18O11)又はミリシトリン(ヤマモモ抽出物、C21H20O12)を含む水溶液100mlに、電気炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に、超音波浴中で試料を水溶液中に分散した後、純水を加えて全量を200mlとし、マグネットスターラーで撹拌を続けた。撹拌開始より24h及び48h後に試料を採取して固液分離後、その試料中の炭素、窒素含有量をCHN分析により求めた。
【0042】
得られた試料の作製条件と分析値を表1に示す。これによると、エピガロカテキンガレートは接触24h後に炭素を12.3mass%含んでいるが、48h後にはそれが5.9mass%に減少している。予備実験において、懸濁液中での通常の撹拌・接触で得られる試料の炭素含有量は、5.3mass%(20日後)、4.0mass%(40℃−24h)であったことから、上記の24h後の炭素含有量はその値を大幅に上回る値である。一方、接触48h後にはその値が半減しており、一旦はモンモリロナイトの層間に取り込まれたエピガロカテキンガレートが、接触時間を長くすると分散媒中に溶出したものと考えられる。
【0043】
エピガロカテキンガレートと同様にミリシトリンを接触させた試料では、その炭素含有量は23.4mass%(24h)、32.7mass%(48h)であり、接触時間を長くしてもその値が減少することはなかった。
【0044】
【表1】
【実施例2】
【0045】
天然物精油であるユーカリ油、オリガヌム油、ローズ油、レモン油及びケイヒ油のいずれも4mlをエタノール50mlにそれぞれ溶かし、更に、純水を加えて、全量を200mlとした。これらを超音波浴中にて乳化させ、マグネティックスターラーにより40℃で撹拌した。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを230℃で3h加熱し、これを上記の懸濁液に炉から取り出して直ちに投入し、なおも撹拌を続けた。24h、48h後に試料の一部を採取し、CHNコーダーにより、炭素、窒素量を測定した。
【0046】
天然物精油を熱処理・接触法で導入した試料の炭素、窒素含有量を表2に示す。これによると、ケイヒ油複合試料の炭素含有量が42.1mass%、オリガヌム油複合試料の炭素含有量が11.0mass%と高い値を示した他、その他の試料でも炭素含有量は3〜6mass%の値を示している。薄膜X線回折による各試料の底面反射から、各試料の層間距離は、ユーカリ油複合試料:2.45nm、オリガヌム油複合試料:1.44nm、ローズ油複合試料:1.77nm、レモン油複合試料:1.76nm、ケイヒ油複合試料:2.70nmであった。いずれの試料の層間距離も一様に拡がっており、それぞれの精油成分がモンモリロナイトの層間に導入されたことが分かる(図1)。
【0047】
【表2】
【実施例3】
【0048】
合成農薬のシアゾファミド水和剤(C13H13ClN4O2S、商品名:ランマンフロアブル)4g、メタラキシル水和剤(C15H21NO4、商品名:リドミル水和剤)2gを、それぞれモンモリロナイト4gを含む純水懸濁液200mlに加え、マグネティックスターラーにより40℃で撹拌、接触させた。接触を始めてから24h後、48h後に試料の一部を採取し凍結乾燥後、CHNコーダーにより、炭素、窒素含有量を測定した。
上記により得られた試料の作製条件と分析値を表3に示す。
【0049】
これによると、シアゾファミド水和剤複合試料では、炭素が9.3mass%、窒素が2.8mass%含まれていた。シアゾファミドの化学式からN/C比を計算すると0.36であるが、分析値から求めたN/C値は0.3とこれに近いことも、モンモリロナイト層間におけるシアゾファミドの存在を裏付けている。また、メタラキシル水和物(リドミル)から得られた試料は炭素2.7mass%、窒素0.3mass%を含んでいた。面間隔は1.54nmへと拡がっている(図2)。リドミル2gは同様にメタラキシル0.5g(25mass%)を含み、加えたメタラキシル水和剤の33.5%がモンモリロナイトと複合化されたことが分かる。
【0050】
【表3】
【実施例4】
【0051】
所定量のカフェイン(C8H10N4O2)を純水に加えて200mlとし、1時間撹拌した後、別にモンモリロナイト4gを230℃で3h加熱しておき、これを前記のカフェイン水溶液中に炉から取り出して直ちに投入した。試料懸濁液をマグネットスターラーで撹拌し、4h、24h後に試料を採取して凍結乾燥を行った。試料の炭素・窒素含有量をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。その結果を表4に示す。
【0052】
モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対して1モルの比でカフェインを加えると、得られた試料の炭素含有量は凍結乾燥後に5.9mass%であった。また、層間CECの1モル当量に対して4モルのカフェインを加えると、炭素含有量は6.8mass%であった。更に、同じ量比で加えた後、超音波浴中で接触を行うと炭素含有量は7.5mass%と若干増加を見せた。いずれの試料でも炭素と窒素の比は概ねカフェインのそれに近く、層面間隔値が脱水状態の0.95nmから1.47〜1.61nmへと増加を見せたことから(図3)、モンモリロナイト層間へカフェイン分子が進入したものと考えられる。このように、熱処理し復水前のモンモリロナイトをカフェイン水溶液に投入することにより、モンモリロナイト層間へのカフェインの導入を容易に行うことができる。
【0053】
【表4】
【実施例5】
【0054】
シトラール(C10H16O)、チモール(C10H14O)、カルバクロール(C10H14O)の各4mlをいずれもエタノール50mlに溶かし、更に、純水で200mlとした。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを230℃で3h加熱し、この熱処理モンモリロナイト試料を前記各溶液中に、炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に超音波を30min間照射した後、マグネットスターラーで撹拌し、24h後に試料を採取して固液分離後、40℃で風乾した。試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。
【0055】
カルバクロール、チモール及びシトラールを熱処理・接触法によって導入した試料の作製条件と分析値を表5に示す。カルバクロール複合試料では、底面間隔値は1.86nmへと拡がり、試料洗浄後、炭素を2.5mass%含んでいた。チモール複合試料では炭素含有量は0.2mass%とわずかであり、モンモリロナイトの底面間隔値は1.11nmと脱水時の0.95nmから約0.16nm拡がった。また、シトラール複合試料においては、面間隔値は1.69nmを示しており層間化合物が生じたことが示唆されるものの(図4)、炭素含有量値は0.2mass%と小さい。
【0056】
このように、モンモリロナイトの主な分散媒として水を用い、熱処理・接触法によりカルバクロール、チモール、シトラールを接触させても、モンモリロナイト層間への導入はあまり進まないようであった。水の代わりにメタノールのみを用い、熱処理・接触法で接触を試みたが、水を用いたときと同様に効果は見られなかった。このように、熱処理を施したモンモリロナイトに対して、大量の分散媒を介して接触を行っても、有機化合物の種類によっては、期待したような結果が必ずしも得られない場合がある。明確な原因は今後の研究に待たれるところであるが、本発明者らは分散媒をほとんど用いずに、熱処理モンモリロナイトと有機化合物を接触させることで、両者の複合化が可能なことを見出した。このことについて実施例6で説明する。
【0057】
【表5】
【実施例6】
【0058】
実施例4で述べたように、モンモリロナイトの主な分散媒として水を用い、シトラール、カルバクロール、チモールに対し熱処理・接触法での層間導入を試みたところ、導入はあまり進まなかったので、次に述べるように、分散媒を用いない方法として乾式による熱処理・接触法を試みた。シトラール、カルバクロール、チモールのそれぞれ所定量(供試モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対し有機物1モルを対応させて計算した量)を、遊星ボールミルのメノウ製容器にとり、その上に、予め230℃で3h加熱したモンモリロナイト試料を加え、メノウボールを投入し、500rpmで10分間混合した。得られた試料をボールミル容器から取り出した後、ドラフトチャンバー内にて室温で3h風乾した後、薄膜X線回折により面間隔を、また有機物含有量をCHNコーダーにより測定した。
【0059】
得られた試料の炭素、窒素含有量を表6に示す。これによると、各試料とも炭素含有量は概ね17mass%以上となっており、実施例4に比べて大幅に増加している。試料の層面間隔値は、水分子が層間に入らないときの1.0nm付近の他に、シトラール複合試料では1.70nm、3.33nmが、また、カルバクロール複合試料では2.20nmの値が示されており(図5)、これはモンモリロナイトに接触させた上記の有機物が、層間に導入された結果と考えられる。このように、遊星ボールミル内で、熱処理を施したモンモリロナイトを有機化合物に接触させる方法は、これまでに試みられた大量の分散媒を用いる熱処理・接触方法と比較し、得られた試料中の炭素含有量が多い。これは、プロセスが閉鎖されたミル容器内で行われるために、混合中に原材料が系外に消失するのを押さえることができるためとも考えられる。
【0060】
【表6】
【実施例7】
【0061】
モンモリロナイトの層間CECの1モル当量に対し2モルのサリチル酸メチル(C8H8O3)を遊星ボールミルの容器にとり、これに230℃で3h熱処理したモンモリロナイトを炉から取り出して直ちに加え、ボールを加えた後、500rpmで15分間内容物の撹拌・接触を行った。また、上記と同様に準備したサリチル酸メチルを、同様に熱処理を施した後にデシケーター中で放冷したモンモリロナイトに加え、同様の条件で撹拌・接触を行った。試料を容器から取り出して、室温で3h風乾した後、炭素含有量を求めると、熱処理直後のモンモリロナイトを添加した試料では11.0mass%、デシケーターで放冷後のモンモリロナイトを添加した試料では12.6mass%であった。
【0062】
得られたモンモリロナイト試料の層面間隔値は、熱処理直後に混合した試料では1.84nm、熱処理・放冷後に接触させた試料では1.68nmと、いずれも脱水状態の0.95nmより0.7〜0.9nmの増加を示した(図6)。なお、予備実験において、サリチル酸メチルを50mlのエタノールに溶解させた後、純水で全量を200mlとして、これに230℃で熱処理を行ったモンモリロナイトを、炉から直ちに投入し接触させた試料では炭素含有量は0.5mass%に満たなかった。このように懸濁液状態で接触させてもモンモリロナイト層間への導入が容易ではない有機化合物であっても、遊星ボールミルのような密閉構造の混合装置を用いて接触させると、容易に層間導入できることが分かる。また、熱処理を施したモンモリロナイトは炉から直ちに有機化合物と接触させなくても、復水していなければ、層間導入への影響はないことが分かる。
【実施例8】
【0063】
桂皮油、シトロネラ油、ペパーミント油、ローズ油、レモン油、オリガヌム油をそのままあるいは少量のエタノールにそれぞれ溶かした後、全量を純水で200mlとした。モンモリロナイト4gを230℃で3h加熱して、前記溶液中に炉から取り出して直ちに投入した。いずれの試料も、その後に超音波を30min間照射して分散させた後、マグネットスターラーで撹拌し、24h及び48h後に試料を採取して固液分離後、40℃で風乾した。試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。
【0064】
表7に、得られた各試料の炭素、窒素含有量を示す。モンモリロナイト接触後はいずれの試料でも炭素含有量が増加している。各試料の層面間隔値を加えた天然物精油に対して示すと、桂皮油:1.53nm、シトロネラ油:1.43nm、ペパーミント油:1.30nm、ローズ油:1.77nm、レモン油:1.76nm、オリガヌム油:1.41nmと、いずれも層面間隔がモンモリロナイト単独のときよりも拡がっていることが分かる(図7−8)。炭素含有量が増加したことと併せ、天然物精油の成分が層間に進入し両者が複合化されたものと考えられる。以上のように、モンモリロナイト層間への有機物質の進入は、両者の接触時に超音波処理を併せて行うことで促進される。
【0065】
【表7】
【実施例9】
【0066】
天然物精油の成分である、ゲラニオール(C10H18O)、テルピネオール(C10H18O)、リナロール(C10H18O)、オイゲノール(C10H12O2)、シンナムアルデヒド(C9H8O)をそのまま、また、ヒノキチオール(C10H12O2)にあってはエタノール2mlを加え、これらをそれぞれ遊星ボールミル容器にとり、別に230℃で熱処理を施したモンモリロナイトを、炉から取り出して直ちに加え、蓋をして500rpmで15分間混合した。遊星ボールミルから取り出した試料は25℃で3h風乾した後、炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。表8に、各試料の炭素含有量を示す。
【0067】
いずれの試料でも炭素含有量が一様に増加した(いずれの試料も窒素分は定量されなかった。)。層面間隔を加えた天然物成分に対応させて示すと、ゲラニオール:2.4nm、オイゲノール:2.86nm、ヒノキチオール:1.89nm、シンナムアルデヒド:1.71nm、テルピネオール:1.32nm、リナロール:1.31nmであった。いずれも接触前の層面間隔値である0.95nmよりも拡がっており、天然物精油成分がモンモリロナイトと複合化されたことが分かる(図9−10)。
【0068】
【表8】
【実施例10】
【0069】
香辛料等天然物から抽出されたアリルイソチオシアネート(C4H5NS)、フェニルエチルイソチオシアネート(C9H9NS)及びベンジルイソチオシアネート(C8H7NS)の所定量をそれぞれ遊星ボールミルにとり、これらに、別に230℃で熱処理を施したモンモリロナイトを、炉から取り出して直ちに加え、蓋をして500rpmで15分間混合した。遊星ボールミルから取り出した試料は25℃で3h風乾した後、炭素・窒素成分をCHN分析により求めるとともに、層間導入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。その結果を表9に示す。
【0070】
いずれの試料も炭素含有量のみならず窒素含有量が増加しており、イソチオシアン酸化合物とモンモリロナイトの複合体が生成したことが窺える。アリルイソチオシアネート複合試料では、数時間後に炭素含有量は1mass%まで減少し、複合体の安定性は高くなかった。X線回折では、アリルイソチオシアネート:1.16nm、フェニルエチルイソチオシアネート:1.30nm、ベンジルイソチオシアネート:1.13nm、がそれぞれ観察され、不安定ながら層間化合物が形成されていることが分かる(図11)。
【0071】
【表9】
【実施例11】
【0072】
(天然物精油の複合化)
桂皮油、シトロネラ油、クローブ・バッド油、タイム・ホワイト油、ゼラニウム油、ティートゥリー油、ラベンダー・フレンチ油、ベルガモット油、ペパーミント油、レモングラス油(いずれも市販のエッセンシャルオイル)を、そのままあるいは2mlのエタノールに溶かした後、純水を加えて200mlとした。別にモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)4gを電気炉中230℃で3h加熱した後、上記の各種有機化合物溶液中に電気炉から取り出して直ちに投入した。
【0073】
各試料をマグネットスターラーで撹拌し、24h後に試料を固液分離後、風乾もしくは凍結乾燥し、試料の炭素・窒素成分をCHN分析により求めた。また、有機化合物のモンモリロナイト層間への進入に伴う層面間隔の変化を薄膜X線回折により調べた。上記の方法によって得られた試料の炭素含有量及び層面間隔は、表10のとおりである。
【0074】
【表10】
【0075】
表によれば、いずれの天然物精油複合試料も炭素を含有していることが分かる。こうした天然物精油の主成分は、以下に示すように、既に例示してきた有機化合物から構成されたものも多く、天然物精油複合試料中の炭素成分もそうした主成分によるものと考えられる。
【0076】
<天然物精油名>:<主成分名>
桂皮油:シンナムアルデヒド
シトロネラ油:シトロネラール、ゲラニオール
クローブ・バッド油:オイゲノール
タイム・ホワイト油:チモール
ゼラニウム油:シトロネロール、ゲラニオール
ティートゥリー油:テルペネン−4−オール
ラベンダー・フレンチ油:酢酸リナリル
ベルガモット油:酢酸リナリル
レモングラス油:シトラール
シナモン・リーフ油:オイゲノール
【0077】
次に、本願発明の粘土鉱物系複合材料による生理活性評価について行われた実施例を示す。
【実施例12】
【0078】
(昆虫忌避機能をもつ粘土鉱物系複合材料の実施例)
実験は、片端をコルク栓で、もう一方をゴース布で閉じたガラス管(直径2.5cm、長さ15cm)に、シルバーリーフコナジラミ成虫10頭を閉じこめ、コルク栓を上にして垂直に立てて行った。コルク栓下面には、原体をエタノールで10,000ppmに希釈して調製した供試試料20μlを含ませ、約15分間風乾させた1.5cm四方のろ紙を貼り付けた。ガラス管の上方、約20cmの位置に光源(100w白熱灯)を設置し、コナジラミが止まった位置を、上(コルク栓下面の位置)から0cm、0〜2cm、2cm以上の3つに区分して、その個体数を調査した。調査は15分毎に、60分後まで4回行った。その結果を図12に示す。
【0079】
コナジラミは走光性があり、Cont区に見られるように、多くの個体は0cm付近に集まる。これに対し、ジエチルトルアミド区では、0cm付近の個体が減少し、2cm超の個体が増加したことから、試料を保持したろ紙を忌避したものと見なすことができる。ヒノキチオール区では、ジエチルトルアミド区には劣るが、0cm付近の個体が減少して他の区分で増加したことから、コナジラミに対し忌避活性を有することが分かる。
【実施例13】
【0080】
内径25mm×高さ25mmのガラス管の片方をラップでシールし、約3mlの1%寒天溶液を入れた。固まった寒天の表面に、直径25mmのインゲン葉リーフディスクを貼り付け、保持した。植物精油等については、試料原体をエタノールで所定の濃度に調整し、ガラス管内壁に貼り付けた定性ろ紙(10mm×60mm)に含浸させて、20分風乾した後に、供試虫成虫10〜15頭を放飼したフラスコの口に設置した。上記の各有機化合物をモンモリロナイトに接触させ層間に導入した試料(以下、原体名の後に「複合試料」を付して表す。)については、ガラス管下方の縁に、固着剤を塗布して付着させた。試験開始3時間後に、コナジラミの葉面への寄生率を調査し、次式により補正忌避虫率を算出した。その結果を表11、表12に示す。
補正忌避虫率 =(処理区の忌避虫率−Contの忌避虫率)/(100−Contの忌避虫率)×100
【0081】
試料原体では、ジエチルトルアミドの忌避活性が最も高く、続いてゼラニウム、シナモン・リーフ、シトロネラ、ヒノキチオール、ローズ油の順に忌避活性が高かった。有機化合物−モンモリロナイト複合試料では、ジエチルトルアミド複合試料、ゲラニオール複合試料の活性が最も高く、次いで活性が高いグループは、シナモン・リーフ、シトロネラール、シトロネラ油、ヒノキチオール、ゼラニウムの各有機化合物複合試料5種であった。ベンジルイソチオシアネート複合試料については、供試虫のすべてが苦悶後死亡した。こうした現象は、殺虫効果を含む忌避活性をもつものと考えられる。
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【実施例14】
【0084】
ポリビニルアルコール(PVA)の0.2%水溶液5mlにジエチルトルアミド−モンモリロナイト複合試料0.5gを懸濁させ、極力ムラの無いようピペットでろ紙へ含浸させ、風乾した。高さ40cm、一辺が15cmの直方形の枠の周囲に、有機化合物複合試料を付着させたろ紙(長さ60cm、幅1cm)を1本、もしくは3本、5本を等間隔になるよう取り付けた。この枠内にインゲン苗(初生葉のみ着生)を納めて、昆虫飼育箱内に静置した後、シルバーリーフコナジラミ約300頭を放した。試験開始後、経時的にインゲン苗への寄生虫数を調査した。その結果を表13に示す。この結果から、ジエチルトルアミド複合試料は、ろ紙5本処理で忌避効果があると判定される。
【0085】
【表13】
【0086】
以上のように、昆虫忌避活性をもつ有機化合物と粘土鉱物との接触により作製した、有機化合物複合試料は、有機化合物を試料の外界に徐々に放出する性質を有しており、長期にわたってその機能を維持することが可能であることが分かる。
【0087】
次に、ダニ忌避に関する実施例を示す。
【実施例15】
【0088】
(精油配合ナノシート防ダニ材料の持続性確認試験法による防ダニ試験)
防ダニ試験のための供試料として、ヒノキチオール、ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、シンナムアルデヒドを各々配合した有機化合物−モンモリロナイト複合試料を用いた。また、防ダニ試験のための供試ダニとして、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)の雌を用いた。培地は、MF粉末に乾燥酵母エビオスを5:1の割合で混合したものを使用し、恒温恒湿器で25℃、相対湿度75〜80%で培養した。
【0089】
供試試料は、プラスチック容器(φ約13mm、高さ約9mm)に各々100mg量り入れ、室内環境に1日間暴露させた。φ45mmガラスシャーレに供試試料を容器ごと入れ、更にシャーレ内の湿度を80%に保つため、プラスチック容器(φ約13mm、高さ約9mm)にKBr飽和水溶液500μlを入れたものを入れた。メッシュ袋に緩衝材として綿を入れたものに、木綿針を用いてダニを10匹入れ、ポリシーラーで封をした後、シャーレに入れた。パラフィルムで封をし、恒温器で25℃、24時間飼育した後、実体顕微鏡を用いてダニの生死を観察し、死亡率を求めた。試験後は、シャーレの蓋を開けて室内環境に暴露させ、試験時には、再びKBr飽和水溶液500μlを入れ実施した。その結果を表14に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
表14より、オイゲノール、ヒノキチオール、シンナムアルデヒドのモンモリロナイト複合試料は、室内環境暴露19日後にいずれも防ダニ効果が認められた。ベンジルイソチオシアネート配合ナノシート試料は、13日後まで防カビ効果が認められた。
【実施例16】
【0092】
(有機化合物−モンモリロナイト複合試料の抗菌活性選抜試験に関する実施例)
各種精油をモンモリロナイトへ接触させて得た試料の抗菌活性選抜試験を行った。各試料は、100.0mgを秤量し、10mlの滅菌蒸留水に分散させて試験原液とした。1mlの試験原液を、予め9mlのカチオン調整済みミューラーヒントンブイヨン(CSMHB:Cation−Supplemented Mueller Hinton Broth)入りL字型試験管に挿入して最終濃度1000mg/lの試験液とし、試験原液の代わりに1ml滅菌蒸留水を入れたものを対照として用いた。CSMHBとは、ミューラー・ヒントン・ブイヨン培地(DIFCO)に塩化カルシウムと塩化マグネシウム (最終濃度それぞれ50mg/lと25mg/l)を添加したものである。
【0093】
2回継代培養したStaphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli NBRC3972(大腸菌)を試験に供した。ミューラーヒントンブイヨン(MHB)により、約10−4CFU/mlに調整し、その0.1mlを菌種毎に前述の試験液に接種した。35℃、18〜24時間で、100rpm振盪培養した後、普通寒天培地(栄研化学)に各試験液の10μlを移植して乾燥後、35℃、18〜24時間培養した後に、対照と比較して明らかに菌の発育を阻止又は抑制しているものを抗菌活性選抜試験陽性とした。その結果を表15に示す。表より明らかなように、ヒノキチオール、シンナムアルデヒド、ベンジルイソチオシアネートをモンモリロナイトへ接触させて得た試料において抗菌活性を認めた。
【0094】
【表15】
【実施例17】
【0095】
(有機化合物を複合化した材料の抗菌活性値の評価に関する実施例)
実施例16における抗菌活性試験で陽性を示した有機化合物複合試料の最小発育阻止濃度試験を行った。試験方法は、抗菌製品評価協議会の方法(1998版)を準用した。すなわち、各試料の160.0mgを秤量し、10mlの滅菌蒸留水に分散させて試験原液とした。試験原液を用いて6段階2倍希釈列(必要に応じて15段階まで)を作製し、各々の1mlを、予め9mlCSMHB入りL字型試験管に挿入し、充分に撹拌した。試験原液の代わりに滅菌蒸留水を入れたものを対照として用いた。
【0096】
2回継代培養したStaphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli NBRC3972(大腸菌)を試験に供した。MHBを用いてそれぞれを約10−4CFU/mlに調整し、その0.1mlを菌種毎に前述のL字型試験管希釈系列に接種した。35℃で18〜24時間、100rpm振盪培養した後、目視にて対照と比較して、明らかに菌の発育を阻止又は抑制しているものを発育阻止と判定し、発育を阻止した最小濃度を最小発育阻止濃度とした。その結果を表16に示す。
【0097】
表より明らかなように、ヒノキチオール複合試料は、大腸菌に対して200mg/l、黄色ブドウ球菌に対して100mg/lの濃度で発育阻止作用を示し、ベンジルイソチオシネート複合試料は、黄色ブドウ球菌に対していずれも400mg/lで発育阻止作用を示した。シンナムアルデヒド複合試料の供試菌に対する発育阻止作用は、MICで1600mg/lであった。
【0098】
【表16】
【0099】
次に、粘土鉱物系複合材料の防カビ特性に関する実施例として、粘土鉱物系複合材料のイチゴ灰色カビに対する防カビ活性試験を示す。
【実施例18】
【0100】
(精油成分による抗微生物効果:灰色カビ)
本実施例においては、市販のベンジルイソチオシアネートを生理活性物質として用いた。この成分を、胞子濃度105cells/mlの灰色カビ50μlを90mmシャーレ(PDA培地)に塗布し、シャーレの培地の中心にペーパーディスク(8mm)を置き、DMSOで希釈したベンジルイソチオシアネートを50μl滴下し、パラフィルムでシールし、25℃で7日間培養した。培養期間終了後、ペーパーディスクの生育抑制状況によってその成分の抑制効果を評価した。すなわち、生育状況は、シャーレに完全に生育する場合、阻止円を形成する場合、完全に生育が抑制する場合がある。更に阻止円を形成する場合は、その程度により抑制状況が異なっていた。本実施例の成分は、0.155μl/50μlの濃度まで完全に灰色カビの生育を抑制した。
【0101】
一方、実施例10に記載した方法で作製したベンジルイソチオシアネート複合試料を用いた試験は、次のように行われた。胞子濃度105cells/mlの灰色カビ50μlを90mmシャーレ(PDA培地)に塗布し、シャーレの蓋の中心に、ベンジルイソチオシアネート複合試料0.5gを充填したストローを貼り付け、ストローの開口部から気化成分がシャーレ内へ移動できるようにした。シャーレをパラフィルムでシールし、25℃で7日間培養した結果、明らかに灰色カビ抑制効果が認められた。
【実施例19】
【0102】
(イチゴ炭疽病菌に対する各種天然物質等の培地内菌糸最低生育阻止濃度試験)
植物からの抽出物、精油など7種を供試した。各種物質を20、50、100、200、400及び1000ppmの濃度になるように添加したPDA培地に、28℃で5〜10日間培養したイチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata、96C−1)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度1シャーレを用い、3菌そうずつ切片を置床した。その後、28℃で5日間培養し、菌糸の生育・伸長の有無により、最低生育阻止濃度(MIC)を求めた。その結果を表17に示す。表に示すように、供試料は、いずれも炭疽病菌の生育を抑制した。すなわち、ヒノキチオールのMIC値は50ppmと最も低く、次いでアリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネートが100ppm、カルバクロールとチモールが200ppm、オリガヌム油が400ppmの値を示した。
【0103】
【表17】
【実施例20】
【0104】
(各種天然物質等を配合したナノシートの培地内におけるイチゴ炭疽病菌菌糸伸長抑制試験)
実施例19における供試料がいずれもイチゴ炭疽病菌生育抑制効果を示したので、次に、これらの有機化合物をモンモリロナイトへ接触させて作製した試料9種を供試した。各試料を100及び1000ppmの濃度になるように添加したPDA培地に、28℃で5〜10日間培養したイチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata、96C−1)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度3シャーレを用い、1菌そうずつ切片を置床した。その後、28℃で3〜4日間培養し、菌糸の生育の有無及び菌糸の伸長を測定して菌糸伸長抑制率を求めた。その結果を表18に示す。
【0105】
培地への1000ppm添加における菌糸伸長抑制率が最も高かったのは、表に示すように、ヒノキチオール/モンモリロナイトNSとフェニルエチルイソチオシアネート/モンモリロナイトNSの100%であり、以下90%を越えたのは、銅・ヒノキチオール/モンモリロナイトNSの92.8%であった。また、ヒノキチオール/モンモリロナイトNSは、100ppm添加においても菌糸伸長抑制率が89.7%と極めて高かった。
【0106】
【表18】
【実施例21】
【0107】
(イチゴ疫病菌に対する各種天然物質等の培地内菌糸最低生育阻止濃度試験)
植物からの抽出物や精油など16種と対照として化学合成農薬のメタラキシル水和剤を供試した。各種物質を20、50、100、200、400、800及び1000ppmの濃度になるように添加したV−8ジュース寒天培地に、23℃で5〜10日間培養したイチゴ疫病菌(Phytophthora nicotianae var. parasitica、PY2102)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度1シャーレを用い、3菌そうずつ切片を置床した。その後、23℃で4〜5日間培養し、菌糸の生育・伸長の有無により、最低生育阻止濃度(MIC)を求めた。その結果を表19に示す。
【0108】
MIC値が最も低かったのは、表に示すように、アリルイソチオシアネートとベンジルイソチオシアネートで50ppm、次いでフェニルエチルイソチオシアネート、ヒノキチオール、カルバクロールで100ppm、その次にはチモールとオリガヌム油で200ppmであった。桂皮油(シナモン油)、trans−シンナムアルデヒド、シトロネロール、丁子油(クローブ・バッド油)、オイゲノール、ゲラニオールは400ppm、シトラール、ローズ油は800ppmであった。なお、対照の化学合成農薬のメタラキシル水和剤のMIC値は、50ppmであった。
【0109】
【表19】
【実施例22】
【0110】
(各種天然物質/モンモリロナイト複合試料の培地内におけるイチゴ疫病菌菌糸伸長抑制試験)
植物からの抽出物や精油等及び対照として化学合成農薬のメタラキシル水和剤をモンモリロナイトに接触させて得られた複合試料34種を供試した。各種物質を100及び1000ppmの濃度になるように添加したV−8ジュース寒天培地に、23℃で5〜10日間培養したイチゴ疫病菌(Phytophthora nicotianae var. parasitica、PY2102)の菌そうを直径5mmのコルクボーラーで打ち抜き、1濃度3シャーレを用い、1菌そうずつ切片を置床した。その後、23℃で5日間培養し、菌糸の生育の有無及び菌糸の伸長を測定して菌糸伸長抑制率を求めた。その結果を表20に示す。
【0111】
培地への1000ppm添加における菌糸伸長抑制率が最も高かったのは、表に示すように、ヒノキチオール/モンモリロナイト複合試料とフェニルエチルイソチオシアネート/モンモリロナイト複合試料の100%であり、以下90%を越えた試料は、桂皮油/モンモリロナイト複合試料の95.3%、チモール/モンモリロナイト複合試料の92.0%であった。なお、対照の化学合成農薬をナノシート化したメタラキシル複合試料は91.4%であった。
【0112】
【表20】
【実施例23】
【0113】
(有機化合物複合試料のイチゴに対する効果)
タッパーウェア(密閉可能なもの、容積5.2リットル)にイチゴ15個(品種:さちのか)及びベンジルイソチオシアネート(BITC)複合試料をシャーレ(直径90mm)に広げ、設置し、密閉した。このタッパーウェアを10℃にて1週間処理した。1週間後、硬度、イチゴの外観(カビ)を調査した。その結果を表21に示す。表に示すように、0.01g添加した場合でも良好な結果が得られた。
【0114】
【表21】
【0115】
本発明が適用され、同様の効果が得られる農産物としては、イチゴ以外の他に、カビの発生が多いビワ、ミカンなどが挙げられる。
【実施例24】
【0116】
(精油を配合した粘土鉱物系複合材料の防カビ試験)
防カビ試験のための供試料として、ヒノキチオール、ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、シンナムアルデヒドをそれぞれ接触させて得られた試料を用いた。供試菌には、Aspergillus niger(NBRC6341、クロカビ)、Penicillium citrinum(NBRC6352、アオカビ)、Aureobasidium pullulans(NBRC6353、クロコウボ)、Rhizopus oryzae(NBRC31005、乳酸生成糸状菌)の4菌種を使用し、培地は、RPMI1640を蒸留水に溶解し、MOPSを34.5g/lの割合で加えた後、1M−NaOHを用いてpH7.0に調製後、メンブランフィルター(ポアーサイズ0.2μm)でろ過滅菌して用いた。
【0117】
供試料は、滅菌蒸留水を用いて20,000〜313μg/mlあるいは2,000〜31.3μg/mlに調製後、培地を用いて10倍希釈し、2,000〜31.3μg/mlあるいは200〜3.13μg/mlに調製し、供試液とした。これらの供試液を96ウェルマイクロプレートに各々0.1ml分注し試験液とした。供試菌は0.005%AerosolOTを加えた生理食塩水を用いて胞子濃度を105cells/mlに調製した後、3000rpm、10分遠心後上清を除き、同量の培地で置換し、充分懸濁させた後、予め試料の入れてあるマイクロプレートのウェルに0.1mlずつ接種した(供試料の終濃度は1,000〜15.6μg/mlあるいは100〜1.56μg/mlとなる)。恒温器で25℃、4日間培養後、肉眼的に菌糸の発育の有無を確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。その結果を表22に示す。
【0118】
【表22】
【0119】
表より、ヒノキチオール配合ナノシート試料は、4菌種に対して防カビ効果が明らかに認められた。ベンジルイソチオシアネート、オイゲノール、及びシンナムアルデヒド複合試料は、R.oryzaeを除く3菌種に防カビ効果が認められた。
【実施例25】
【0120】
(精油成分によるカットレタスの褐変抑制効果に及ぼす影響)
精油を密閉できるプラスティック容器の中にジメチルスルホキシド20mlで希釈した2.4mlの精油原体をガラスシャーレに入れた。別のガラスシャーレに入れたカットレタス20gを3−4個とともに密閉し、2日間10℃で保存した。レタス可食部と色調の変化を明確に判断するため、カットレタスは、外葉の特に緑色の濃い部分は取り除いた。試験の保存期間終了後、分光測色計(CM−2500d、コニカミノルタ社製)でカットレタスの色調を測定した。色調の変化は、既に報告されている褐変評価測定に用いられるハンターLabで表示した。更に、測定値のLabのうち褐変を評価するためには、最も色調変化が著しいa値が高い場合を褐変の指標とした。
【0121】
レタスは、個々の品質によりa値にバラツキが生じるため、対照区を設置し、その相対値で個々の比較を行った。a値のみでは精油成分により褐変以外の変色をした場合は、判定不能になるため、品質を含め達観でもその補助的な評価を行った。その結果を表23に示す。このうち、a値、相対値及び達観の順に褐変抑制効果の可能性を検討した。すなわち、a値が1.00以下、更に相対値が60以下、達観では、褐変の状況及び変色のないものについて、褐変抑制効果有りと判定した。これから明らかなように、供試料のうち原体の6成分が、レタスを2日間保存すると良好な褐変抑制効果を示すことが分かった。
【0122】
【表23】
【実施例26】
【0123】
(精油/モンモリロナイト複合試料のカットレタスの褐変抑制効果)
実施例9の方法で作製した精油/モンモリロナイト複合材料を0.5gガラスシャーレに入れ、別にガラスシャーレに入れたカットレタス20gを3−4個準備し、これらをともに密閉し、2日間10℃で保存した。精油/モンモリロナイト複合材料によるレタスの褐変抑制効果の評価は、実施例25の方法で行った。その結果を表24に示す。オイゲノール/粘土複合試料を除き、他の精油/粘土複合試料は、いずれもレタスに対して褐変抑制効果を示すことが分かった。
【0124】
【表24】
【実施例27】
【0125】
(精油のカットレタスにおける褐変酵素に対する抑制効果)
野菜の褐変に関連する代表的な酵素としてポリフェノールオキシダーゼ(PPO)、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)があり、褐変抑制に効果がある物質は、この酵素の活性に影響を与えている。従って、実施例25及び26において評価した精油について、これらの酵素活性に対する抑制効果が考えられたため、上記実施例における処理の後、PPO及びPAL酵素活性を測定したところ、その活性が抑制されていることが分かった。このように、実施例26で褐変抑制が認められた精油は、レタスの褐変時に作用する酵素の働きを抑制していることが明らかとなった。
【実施例28】
【0126】
(精油/粘土複合試料からの精油の放出)
ゲラニオール/粘土複合試料20mlをバイアルに0.5mg加え、その気相のゲラニオール濃度をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で、以下の条件において測定した。
【0127】
(GC/MS条件)
SPME:DVD/carboxen/PDMS(ファイバーの膜厚:50/30μm、結合タイプ:高架橋型)
Extraction:20 min headspace sampling 95℃
Desorption:3.0 min 250℃
Colum:Stabil−WAX ,60m×0.25mm,0.25μm
キャリアガス:He(120kPa)
oven:70℃(3min)to250℃at10℃/min,hold 10min
Inj:250℃
【0128】
この測定の結果、バイアルの気相中には、1500ppm相当量のゲラニオール蒸気が存在することが分かり、ゲラニオール/粘土複合試料から放出される気体は原体であるゲラニオールであることが明らかとなった。すなわち、粘土と複合化された精油は、放出される際にも、複合化前と同じ精油蒸気として存在するものと考えられる。
【0129】
精油/粘土複合試料による同様の褐変抑制効果が期待される褐変性カット野菜としては、レタスの他に、特に、レンコン、ジャガイモ、サツマイモ、ゴボウ、キャベツなどが挙げられる。
【実施例29】
【0130】
実施例6で作製したシトラール複合試料、実施例8で作製したローズ油複合試料、実施例9で作製したシンナムアルデヒド、オイゲノール、リナロール、ゲラニオール、テルピネオール、ヒノキチオールの各複合試料、及び実施例10で作製したベンジルイソチオシアネート接触試料をそれぞれガラス製シャーレにとり、これらをドラフトチャンバー内で25℃に温度調節したシリコンラバーヒーター上に置いて、ドラフトチャンバー内に流入する空気流と接触させた。各試料と空気流との接触開始から所定時間毎に試料を少量採取し、その炭素含有量をCHNコーダーにより分析することにより、各試料から揮発する有機化合物量を調べた。各試料の炭素含有量の変化を図13−14に示す。
【0131】
各試料中の有機化合物が徐放・揮発によって完全に失われるには相当の時間を要するため、初期炭素含有量が概ね1/2になるまでの時間を、図から炭素半減期として求め、各試料の徐放性を評価した。なお、測定期間中に半減期に到達しない試料の場合は、測定結果から回帰式を求め、計算によって炭素半減期を求めた。各複合試料の炭素半減期を、その対応する有機化合物名と併記して示すと、シトラール:1600h、シンナムアルデヒド:650h、オイゲノール:750h、リナロール:350h、ゲラニオール:340h、テルピネオール:130h、ヒノキチオール:3400h、ベンジルイソチオシアネート:150hであった。このように、本発明により作製した有機化合物/モンモリロナイト複合試料の徐放性を炭素半減期で表現すると、その長短の違いはあっても、いずれも徐放性をもっていることが分かる。
【実施例30】
【0132】
既に記載した方法で作製した、生理活性機能をもつ有機化合物/モンモリロナイト複合材料を、実施例29と同様にして25℃で空気流と接触させ徐放性を調べた。各試料の初期炭素含有量と炭素半減期を、実施例29記載分も含めて表25に一覧表にして示す。実施例29の結果と同様に、本発明により作製した有機化合物/モンモリロナイト複合試料の徐放性は、その長短の違いはあるが、いずれも徐放性を有していることが分かる。
【0133】
【表25】
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上詳述したように、本発明は、粘土鉱物系複合材料とその製造方法に係るものであり、本発明により、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能等を有する有機化合物を、熱処理によって層間水を排除した粘土鉱物と直ちに接触させることにより、極めて短時間に、効率よく粘土鉱物と複合化することができる。このようにして得られた有機化合物―粘土鉱物複合体は、空気中では酸化や揮発などのために不安定な有機化合物を、固体として扱うことが可能となることから、紙、樹脂、造粒体のように種々の形態に加工することができる。更に、粘土鉱物との複合化によって粘土鉱物に拘束された有機化合物は、試料の外界に徐々に放出される、いわゆる徐放性を有しており、長期にわたってその機能を維持することが可能となる。本発明によって提供される、粘土鉱物系複合材料は、各種産業分野や生活の場において、昆虫忌避、抗菌・防カビ、植物体や果実の鮮度維持、防ダニなど、様々な機能を有する有用な素材として好適に活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】天然物精油をモンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図2】シアゾファミド水和剤及びメタラキシル水和剤を、モンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図3】カフェインを、モンモリロナイトの熱処理後に直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形の一例である。
【図4】カルバクロール、チモール、シトラールを、モンモリロナイトの熱処理後に、液相から直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図5】カルバクロール、チモール、シトラールを、モンモリロナイトの熱処理後に、遊星ボールミル内において直ちに接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図6】サリチル酸メチルを、モンモリロナイトの熱処理直後(上)及び熱処理後に放冷後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図7】桂皮油、シトロネラ油、ペパーミント油を、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図8】ローズ油、レモン油、オリガヌム油を、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図9】ゲラニオール、オイゲノール、ヒノキチオールをモンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図10】テルピネオール、リナロール、シンナムアルデヒドを、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図11】アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネートを、モンモリロナイトの熱処理直後に、遊星ボールミル内において接触させて得られた試料の薄膜X線回折図形である。
【図12】ジエチルトルアミド及びヒノキチオールの接触により作製した粘土鉱物系複合材料による昆虫忌避効果を示す図である。
【図13】シンナムアルデヒド、オイゲノール、シトラール、ベンジルイソチオシアネート複合試料を、それぞれガラス製シャーレにとり、25℃で空気流を強制的に接触させたときの各試料の炭素含有量変化である。図中の半減期は炭素含有量の半減期を示す。
【図14】リナロール、ゲラニオール、テルピネオール、ヒノキチオール複合試料を、それぞれガラス製シャーレにとり、25℃で空気流を強制的に接触させたときの各試料の炭素含有量変化である。図中の半減期は炭素含有量の半減期を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組合せにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料。
【請求項2】
アルカリもしくはアルカリ土類金属が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムである、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項3】
生理活性機能が、昆虫忌避、抗微生物、鮮度維持、又は芳香の機能である、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項4】
機能性として、昆虫忌避、抗微生物、鮮度保持、又は芳香の機能が付与されている、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項5】
層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項6】
粘土鉱物の層間水を排除する熱処理を、加熱、マイクロ波照射、又は赤外線照射により行う、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項7】
粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合する装置もしくは容器として、トロンミル、ボールミル、遊星型ボールミル、遠心ミル、振動ミル及び外気との接触を絶つことのできる構造をもった乳鉢を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項8】
粘土鉱物として、スメクタイト、バーミキュライト、又はカオリン族粘土鉱物を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項9】
熱処理後の粘土鉱物に導入する有機化合物として、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能を有する有機化合物を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項10】
昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能及び芳香機能のいずれかを有する有機化合物が、桂皮油、タイム・ホワイト油、クローブ・バッド油、シナモン・リーフ油、ラベンダー・フレンチ油、レモングラス油、ペパーミント油、ベルガモット油、ティートゥリー油、ゼラニウム油、シトロネラ油、ローズ油、レモン油、ユーカリ油、オリガヌム油、シンナムアルデヒド、オイゲノール、サリチル酸メチル、シトラール、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、リナロール、メントール、ゲラニオール、チモール、テルピネオール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド、シアゾファミド、メタラキシル、エピガロカテキンガレート、ミリシトリン、カフェインの少なくとも1つ以上である、請求項9に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項11】
粘土鉱物の層間陽イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムである、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品。
【請求項1】
層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料として、層間にある層間水と交換して、アルカリもしくはアルカリ土類金属と生理活性機能をもつ有機化合物との組合せにおいて、層間に該有機化合物が安定ないし準安定な状態で導入されていることを特徴とする粘土鉱物系複合材料。
【請求項2】
アルカリもしくはアルカリ土類金属が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムである、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項3】
生理活性機能が、昆虫忌避、抗微生物、鮮度維持、又は芳香の機能である、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項4】
機能性として、昆虫忌避、抗微生物、鮮度保持、又は芳香の機能が付与されている、請求項1に記載の粘土鉱物系複合材料。
【請求項5】
層間に陽イオン交換能をもつ粘土鉱物を主原料とし、層間にある交換性の陽イオン及び層間水を、別種の陽イオン及び有機化合物でそれぞれ交換して、粘土鉱物系複合材料を製造する方法において、該粘土鉱物を予め熱処理することにより層間水を排除した後に、該粘土鉱物の層間が復水する前に、該粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合することにより、該粘土鉱物の層間に有機化合物を導入することを特徴とする粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項6】
粘土鉱物の層間水を排除する熱処理を、加熱、マイクロ波照射、又は赤外線照射により行う、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項7】
粘土鉱物を有機化合物もしくはその溶液と直ちに混合する装置もしくは容器として、トロンミル、ボールミル、遊星型ボールミル、遠心ミル、振動ミル及び外気との接触を絶つことのできる構造をもった乳鉢を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項8】
粘土鉱物として、スメクタイト、バーミキュライト、又はカオリン族粘土鉱物を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項9】
熱処理後の粘土鉱物に導入する有機化合物として、昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能、芳香機能を有する有機化合物を用いる、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項10】
昆虫忌避機能、抗微生物機能、鮮度維持機能及び芳香機能のいずれかを有する有機化合物が、桂皮油、タイム・ホワイト油、クローブ・バッド油、シナモン・リーフ油、ラベンダー・フレンチ油、レモングラス油、ペパーミント油、ベルガモット油、ティートゥリー油、ゼラニウム油、シトロネラ油、ローズ油、レモン油、ユーカリ油、オリガヌム油、シンナムアルデヒド、オイゲノール、サリチル酸メチル、シトラール、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、リナロール、メントール、ゲラニオール、チモール、テルピネオール、ヒノキチオール、ジエチルトルアミド、シアゾファミド、メタラキシル、エピガロカテキンガレート、ミリシトリン、カフェインの少なくとも1つ以上である、請求項9に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項11】
粘土鉱物の層間陽イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムである、請求項5に記載の粘土鉱物系複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載の粘土鉱物系複合材料を機能性素材として使用したことを特徴とする機能性製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図12】
【公開番号】特開2007−291097(P2007−291097A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96947(P2007−96947)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【出願人】(599019030)株式会社微研テクノス (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【出願人】(599019030)株式会社微研テクノス (2)
【Fターム(参考)】
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