説明

粘弾性ダンパー装置

【課題】粘弾性体から過大な力が発生することを防止しつつ、装置の一層の小型化を実現できる粘弾性ダンパー装置を提供する。
【解決手段】建物を構成する部材間に設けられる粘弾性ダンパー装置であって、一方の部材側に接続される第1の接続板と、他方の部材側に接続される第2の接続板と、粘弾性体を介して第1の接続板に固定されると共に、締結部材によって第2の接続板に固定される第3の接続板と、を備え、第2の接続板と第3の接続板とには、互いに交差する向きに長孔がそれぞれ設けられ、第3の接続板は、粘弾性体から発生する力が一定値を超えたときに第2の接続板に対して摺動可能となるように、各長孔に通された締結部材によって第2の接続板に取り付けられている粘弾性ダンパー装置を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅など設置され、地震や風などによる建物の揺れを低減する粘弾性ダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の揺れを低減するためのダンパー装置の普及が進んでいる。ダンパー装置を設置した建物では、地震や風などを受けた場合の振幅が小さくなり、また、早期に揺れを減衰させることができる。このようなダンパー装置の種類は様々であるが、エネルギー吸収体として粘弾性体を用いたダンパー装置(以下、「粘弾性ダンパー装置」と称す)は、形状の自由度に優れていることから、広く採用されている。
【0003】
従来の粘弾性ダンパー装置として、例えば特許文献1に記載の制震ダンパーがある。この従来の制震ダンパーは、一対の内部鋼板と、内部鋼板の内側に配置された中間鋼板と、内部鋼板及び中間鋼板の間に配置された粘弾性体とを備え、内部鋼板及び中間鋼板とが摩擦材を介してボルトで固定されている。この構造では、粘弾性体から発生する力が一定以上になると、中間鋼板が内部鋼板に対して力の作用方向に滑るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−247278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような粘弾性ダンパー装置は、粘弾性体から過大な力が発生することを防止できる点で有用である。このことは、粘弾性体の破断を防止することにも貢献する。しかしながら、建物の設計の自由度を更に確保する観点及び装置のコストダウンの観点から、粘弾性体から過大な力が発生することを防止しつつ、装置の一層の小型化を実現できる技術が望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、粘弾性体から過大な力が発生することを防止しつつ、装置の一層の小型化を実現できる粘弾性ダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、建物を構成する部材間に設けられる粘弾性ダンパー装置であって、一方の部材側に接続される第1の接続板と、他方の部材側に接続される第2の接続板と、粘弾性体を介して第1の接続板に固定されると共に、締結部材によって第2の接続板に固定される第3の接続板と、を備え、第2の接続板と第3の接続板とには、互いに交差する向きに長孔がそれぞれ設けられ、第3の接続板は、粘弾性体から発生する力が一定値を超えたときに第2の接続板に対して摺動可能となるように、各長孔に通された締結部材によって第2の接続板に取り付けられている粘弾性ダンパー装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る粘弾性ダンパー装置によれば、粘弾性体から過大な力が発生することを防止しつつ、装置の一層の小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る粘弾性ダンパー装置の設置状態を示す図である。
【図2】図1に示した粘弾性ダンパー装置の正面図である。
【図3】図2の側面図である。
【図4】粘弾性ダンパー装置の第1の状態を示す図である。
【図5】粘弾性ダンパー装置の第2の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この粘弾性ダンパー装置では、粘弾性体から発生する力が一定値を超えたときに、第3の接続板が第2の接続板に対して摺動することによって粘弾性体の変形の一部が負担される。これにより、粘弾性体から過剰な力が発生することを防止できる。このことは、粘弾性体自体の薄型化を可能とする。また、この粘弾性ダンパー装置では、締結部材が通されている第2の接続板の長孔と第3の接続板の長孔とが互いに交差する向きに設けられている。したがって、第3の接続板は、第2の接続板に対して回転しながら摺動可能となっており、単に第2の接続板の変位に追従して直線的に摺動させる場合に比べて長孔を短くできる。これにより、装置の小型化が図られる。
【0011】
また、第2の接続板の長孔は、第1の接続板に対する第2の接続板の変位方向に延在し、第3の接続板の長孔は、第2の接続板の長孔の延在方向に直交する方向に延在していることが好ましい。この場合、第3の接続板の摺動量を十分に確保できる。
【0012】
また、締結部材は、所定の間隔をもって複数設けられ、第2の接続板の長孔は、各締結部材が共通して通る長さで設けられ、第3の接続板の長孔は、締結部材ごとに複数設けられていることが好ましい。このような構成においても、単に第2の接続板の変位に追従して直線的に摺動させる場合に比べて第2の接続板の長孔を短くできる。したがって、装置の小型化を担保できる。
【0013】
また、少なくとも第2の接続板と第3の接続板とは、メッキ処理された鋼板によって形成されていることが好ましい。この場合、第2の接続板と第3の接続板との間の摩擦係数の経時変化を抑えることができる。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る粘弾性ダンパー装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る粘弾性ダンパー装置の設置状態を示す図である。図1に示すように、粘弾性ダンパー装置1は、例えば地震や風などによって柱2や梁3といった部材に加わるエネルギーを吸収する装置であり、柱2,2及び梁3,3で囲まれる空間部分において、柱2と梁3との交差部分から対角線に沿って延びる4本の角材4の先端部分同士を連結するように設置されている。
【0016】
粘弾性ダンパー装置1は、図2及び図3に示すように、上方から延びる2本の角材4,4に接続される第1の接続板11と、下方から延びる2本の角材4,4に接続される第2の接続板12と、粘弾性体14を介して第1の接続板11に固定されると共に、ボルト18(図3参照)によって第2の接続板12に固定される一対の第3の接続板13,13とを備えて構成されている。
【0017】
第1の接続板11は、例えばメッキ処理された鋼板によって矩形状に形成されている。第1の接続板11の一方側は、角材4,4の先端部分に固定される第1の固定部11aとなっており、複数(本実施形態では5箇所)のボルト孔21が幅方向に設けられている。また、第1の接続板11の他方側は、粘弾性体14が固定される第2の固定部11bとなっている。
【0018】
第2の接続板12は、第1の接続板11と同様に、例えばメッキ処理された鋼板によって矩形状に形成され、第1の接続板11と略同一面上に所定の間隔をもって配置されている。第2の接続板12の一方側は、角材4,4の先端部分に固定される第1の固定部12aとなっており、複数(本実施形態では5箇所)のボルト孔22が幅方向に設けられている。また、第2の接続板12の他方側は、第3の接続板13の他方側に固定される第2の固定部12bとなっており、幅方向に沿う長孔(以下、「横孔16」と称す)が設けられている。
【0019】
一対の第3の接続板13,13は、第1の接続板11及び第2の接続板12と同様に、例えばメッキ処理された鋼板によって矩形状に形成され、第1の接続板11及び第2の接続板12を挟むように配置されている。第3の接続板13の一方側は、第2の接続板12の他方側に固定される第1の固定部13aとなっており、第2の接続板12の横孔16に直交する方向に沿う長孔(以下、「縦孔17」と称す)が設けられている。縦孔17は、後述するボルト18の配置数(本実施形態では2本)に応じて、所定の間隔をもって設けられている。
【0020】
また、第3の接続板13の他方側は、粘弾性体14が固定される第2の固定部13bとなっている。第1の固定部13aと第2の固定部13bとの間には、粘弾性体14の厚さに対応する段差部20が形成されている。第1の固定部13aは、縦孔17と横孔16とが重なるようにして第2の接続板12の第2の固定部12bに当接し、縦孔17及び横孔16に通されたボルト18及びナット19によって第2の接続板12の第2の固定部12bに固定されている。なお、ボルト18は、第2の接続板12及び第3の接続板13の法線方向に対して僅かに傾けてあってもよい。
【0021】
このボルト18の締め付け力(ボルト18への導入軸力)は、摺動する面の摩擦係数、摺動面の数、摺動が開始される力(滑り荷重)を考慮して設定されている。一方、第2の固定部13bは、第1の接続板11の第2の固定部11bと対向するように配置され、粘弾性体14を介して当該第2の固定部11bに取り付けられている。
【0022】
粘弾性体14は、例えばアクリル樹脂などの粘弾性材料によって矩形のシート状に形成されている。粘弾性体14は、第1の接続板11の第2の固定部11bと第3の接続板13の第2の固定部13bとの間に配置され、例えば接着や粘着によって強固に固定されている。第2の固定部11b及び第2の固定部13bにおいて、粘弾性体14との接着面には、例えばショットブラスト処理、皮膜処理、または溶融亜鉛めっき処理といった接着力の強化等の所望の効果を発揮させるための表面処理を施しておくことが好ましい。
【0023】
続いて、粘弾性ダンパー装置1の作用効果について説明する。
【0024】
地震などによって梁3に対して柱2が傾くように変位する場合、その変位は角材4を介して粘弾性ダンパー装置1に伝達される。このとき、粘弾性ダンパー装置1では、粘弾性体14から発生する力が一定値を超えるまでは、第2の接続板12と第3の接続板13との固定状態が維持される。したがって、図4に示すように、第1の接続板11の変位量と第2の接続板12の変位量との差に基づいて粘弾性体14がせん断変形し、この粘弾性体14の変形によってエネルギーの吸収がなされる(第1の状態)。
【0025】
一方、粘弾性ダンパー装置1では、粘弾性体14から発生する力が一定値を超えると、第2の接続板12と第3の接続板13との固定状態が解除され、第3の接続板13が第2の接続板12に対して摺動する(第2の状態)。このように、粘弾性ダンパー装置1では、粘弾性体14から発生する力が一定値を超えた場合に、粘弾性体14のみが変形する第1の状態から第3の接続板13の摺動が生じる第2の状態に移行することにより、粘弾性体14から過剰な力が発生することを防止できる。このことは、粘弾性体14の薄型化を可能とする。
【0026】
また、この粘弾性ダンパー装置1では、ボルト18が通されている第2の接続板12の横孔16と第3の接続板13の縦孔17とが互いに直交する向きに設けられている。したがって、図5に示すように、第2の状態において、第3の接続板13は、水平方向への直線的な摺動に加えて第2の接続板12に対して回転しながら摺動可能となっている。
【0027】
ここで、粘弾性体14の中心位置からボルト18の中心位置までの距離をL1(図2参照)とし、第3の接続板13の回転角をθ(図5参照)とすると、第3の接続板13の回転変位による吸収量U1は、U1=L1×θで表すことができる。そして、全吸収量Uは、U=U1(回転変位による吸収量)+U2(水平変位による吸収量)で表される。仮に水平変位のみによって全吸収量Uを全て吸収しようとすると、横孔16の長さをより長く形成しておく必要がある。
【0028】
これに対し、粘弾性ダンパー装置1では、第3の接続板13の回転変位を利用することで、同じ変位量に対して水平変位による吸収量は小さくて済むので、横孔16の長さを短くすることが可能となる。したがって、粘弾性ダンパー装置1の幅を小さくでき、設置の自由度の向上や装置の低コスト化を実現できる。なお、上述した距離L1を調整することにより、同じ回転角θに対する全吸収量Uを自在に調整できるので、簡単な設計変更で仕様の異なる粘弾性ダンパー装置1を作製することができる。
【0029】
また、粘弾性ダンパー装置1では、第2の接続板12の横孔16は各ボルト18が共通して通る長さで延在しており、第3の接続板13の縦孔17は2本のボルト18に対応して2箇所に設けられている。このような構成において、単に第2の接続板の変位に追従して直線的に摺動させる場合に比べて第2の接続板の長孔を短くできる。したがって、粘弾性ダンパー装置1の小型化が担保される。また、ボルト18で固定される第2の接続板12と第3の接続板13とは、メッキ処理された鋼板によって形成されている。これにより、第2の接続板12と第3の接続板13との間の摩擦係数の経時変化が抑えられ、第1の状態から第2の状態に移行する際の滑り荷重を一定に保つことができる。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、第2の接続板12と第3の接続板13とを2本のボルト18で固定しているが、接続板の枚数、粘弾性体14の枚数、ボルト18の配置数及び配置間隔などは適宜変更が可能である。また、ボルト18の配置数を変更した場合には、ボルト18ごとに縦孔17を第3の接続板13に設けることが好ましい。
【0031】
粘弾性ダンパー装置1を取り付ける場所は柱2や梁3に限られず、壁などの他の建築用部材に取り付けてもよい。また、建築用部材と粘弾性ダンパー装置1を接続する部材は、角材4に限られず、例えば台形状のボードや鉄パネルなどを用いることもできる。
【0032】
さらに、第2の接続板12と第3の接続板13との間に摩擦部材を介在させるようにしてもよい。この場合、第2の接続板12と第3の接続板13との摩擦係数をより安定させることができる。なお、摩擦部材の厚さを粘弾性体14の厚さと一致させると、第3の接続板13に段差部20を設ける必要がなくなり、構成の簡単化が図られる。
【符号の説明】
【0033】
1…粘弾性ダンパー装置、11…第1の接続板、12…第2の接続板、13…第3の接続板、14…粘弾性体、16…横孔(長孔)、17…縦孔(長孔)、18…ボルト(締結部材)、19…ナット(締結部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を構成する部材間に設けられる粘弾性ダンパー装置であって、
一方の部材側に接続される第1の接続板と、
他方の部材側に接続される第2の接続板と、
粘弾性体を介して前記第1の接続板に固定されると共に、締結部材によって前記第2の接続板に固定される第3の接続板と、を備え、
前記第2の接続板と前記第3の接続板とには、互いに交差する向きに長孔がそれぞれ設けられ、
前記第3の接続板は、前記粘弾性体から発生する力が一定値を超えたときに前記第2の接続板に対して摺動可能となるように、前記各長孔に通された前記締結部材によって前記第2の接続板に取り付けられている粘弾性ダンパー装置。
【請求項2】
前記第2の接続板の長孔は、前記第1の接続板に対する前記第2の接続板の変位方向に延在し、
前記第3の接続板の長孔は、前記第2の接続板の長孔の延在方向に直交する方向に延在している請求項1記載の粘弾性ダンパー装置。
【請求項3】
前記締結部材は、所定の間隔をもって複数設けられ、
前記第2の接続板の長孔は、前記各締結部材が共通して通る長さで設けられ、
前記第3の接続板の長孔は、前記締結部材ごとに複数設けられている請求項1又は2記載の粘弾性ダンパー装置。
【請求項4】
少なくとも前記第2の接続板と前記第3の接続板とは、メッキ処理された鋼板によって形成されている請求項1〜3のいずれか一項記載の粘弾性ダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163020(P2011−163020A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27598(P2010−27598)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】