説明

粘性可変流体緩衝器

【課題】粘性可変流体を用いた緩衝器の安全性の向上を図る。
【解決手段】粘性可変流体を用いた緩衝器において、ピストンヘッド側室9から連通の粘性流体通路12に抵抗可変効果発生用オリフィス18を設ける。そして、この抵抗可変効果発生用オリフィス18が設けられている磁性材13に永久磁石16とコイル17が設けられている。このコイル17が永久磁石16に対し、その発生する磁力の極性を異にしている。これにより、コイル17への無通電時に粘性可変流体に対する磁場強度が最大となることから、フェイルセーフ機能が発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両の連結器、航空機の着陸装置、エレベータ落下時の緩衝装置などに応用されている粘性可変流体を用いた緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に上記技術分野に応用されている緩衝器は、いずれの場合も衝突物体に生じる減速度をできるだけ軽減するように衝突エネルギーを吸収する能力を持たなければならない。この種の緩衝器は、そのほとんどがシリンダとピストンの摺動による面積可変オリフィスを有する構造であり、その抵抗力は動圧による抵抗力と復元ばねによる抵抗力を組み合わせたもの、もしくは動圧による抵抗力のみによるもので、衝突物体の質量・速度を想定して、この条件下で面積可変オリフィスを決定し、衝突条件に合わせて抵抗力ストロークの特性を設けていた。
【0003】
また、近年、電流の増加減少による磁力の変化によって粘性が変化するMR流体(または磁気粘性流体と称する)を作動流体に用いた緩衝装置の場合においても、磁力を印加しない場合の粘性の抵抗力は、温度に依存するMR流体粘性係数に比例するため、温度の変化によって変化してしまうことになる。
【0004】
一方、動圧による抵抗力は、温度変化の影響を受けないので、粘性可変流体を用いた緩衝器における温度変化の影響をできるだけ少なくするには、動圧による抵抗力を発生させる構造を組み込み、全抵抗力の中で無電界時または無磁界時の粘性抵抗力の占める割合をできるだけ少なくすることが肝要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような観点から、出願人は前に特許文献1に示す発明を提案した。即ち、シリンダとこのシリンダ内にピストンを挿入し、前記ピストンにピストンロッドを有し、前記シリンダには、その周囲壁に長手方向に間隔をおいて多数のオリフィス孔を設ける。この多数のオリフィス孔とピストンで面積可変のオリフィスが形成される。それから、シリンダの外周で長手方向に粘性可変流体が流れる粘性可変流体の通路を構成し、この通路内を流れる粘性可変流体の粘性による抵抗可変効果発生用オリフィスを設ける。そして、この粘性可変流体の通路の一方を前記多数のオリフィス孔に、他方を加圧気体にて加圧された室にそれぞれ連通している。
【特許文献1】特開2005−54847
【0006】
しかし、特許文献1にあって、粘性可変流体は、温度の影響を少なくしようとして、動圧の抵抗力の発生装置を加えているが、それ以外にも粘性可変がコイルに印加する電流値による磁場の強度についても変化される。このために、緊急時に、万一コイルへの通電が遮断されると、磁場がなくなり、粘性が極端に低下することになり、所望の緩衝効果が得られない不都合が生じるおそれがある。
【0007】
そこで、この発明は、万一コイルに電流が遮断されたとしても、粘性可変流体の抵抗値が減少することを防ぎ、緩衝器が作用を継続させるフェイルセーフ機構を盛込んだ粘性可変流体緩衝器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る粘性可変流体緩衝器は、シリンダとこのシリンダ内に挿入するピストンを有し、このピストンにはピストンロッドが設けられ、シリンダとピストンより成るピストンヘッド側室内に粘性可変流体が貯えられると共に、前記ピストンヘッド側室と気体にて加圧された室とに接続した粘性可変流体の通路を持ち、この粘性可変流体の通路に抵抗可変効果発生用オリフィスを備え、
この抵抗可効果発生用オリフィスには、永久磁石とコイルが磁性材に並列に配され且つ前記コイルが永久磁石に対し、その発生する磁力の極性を異にしていることにある(請求項1)。
【0009】
これによって、ピストンヘッド側室内の粘性可変流体は、多数のオリフィス孔より成る面積可変オリフィスを通り、さらに粘性可変流体の通路内を流れる。まず粘性可変流体が面積可変オリフィスを通る際に動圧による抵抗力が発生し、また粘性可変流体の通路を通る際に、コイルに印加される電流値に比して生じた磁場強度から得られる粘性によって抵抗可変効果発生用オリフィスに発生する粘性抵抗力及び復元用のばね(加圧気体)の抵抗力の和の抵抗力が生じる。
【0010】
それから、今回抵抗可変効果発生用オリフィスが磁性材に永久磁石と、コイルを並設して構成し、しかもこのコイルに発生する磁力の極性を前記永久磁石に対し異ならせたことから、コイルへの無通電時に粘性抵抗力が最大で、コイルへの通電が増加するに従って粘性抵抗力が減少するような特性を得ることができる。したがって、万一コイルへの電流の遮断が生じても、加えられる磁場が最大となり、抵抗可変効果発生用オリフィスに生じる粘性抵抗力も最大となり、緩衝器の安全性を高めることができる。
【0011】
前記粘性可変流体として、電流値によって変化される磁場強度により粘性が変化されるMR(磁気粘性流体)を用いたことにある(請求項2)。また前記抵抗可変効果発生用オリフィスとして、前記磁性材と粘性可変流体の通路を構成する部位との隙間により構成したことにある(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、粘性可変流体の通路に抵抗可変効果発生用オリフィスを備え、この抵抗可変効果発生用オリフィスには、永久磁石とコイルが磁性材に並列して配され、且つ前記コイルが永久磁石に対し、その発生する磁力の極性を異にしていることから、コイルへの電流値の変化で、磁場の強度を制御し、もって電流値が増加するにつれて、抵抗可変効果発生用オリフィスを通過する粘性可変流体の抵抗値を徐々に減少させることができる。
【0013】
即ち、事故などで万一コイルに電流が供給されなくなっても、抵抗可変効果発生用オリフィスは、そこに発生する磁場が最大となり、粘性可変流体の粘性抵抗が最大となる。したがって、不足の事態時にも、充分に衝撃軽減機能が得られ、フェイルセーフ機構を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施例を図面にもとづいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1において、この発明の緩衝器1が示され、該緩衝器1は、シリンダ2が縦方向に配され、その内部にピストン4が摺動自在に挿入され、該ピストン4にピストンロッド5が固着され、前記シリンダ2より外部へ突出している。
【0016】
前記シリンダ2は、上下に二つに分けられた部材2a,2bで構成され、下方側の部材2bの周囲壁にその長手方向に適宜な間隔をあけて多数のオリフィス孔6が形成され、この多数のオリフィス孔6と前記ピストン4とにより面積可変オリフィス7が構成されている。前記ピストン4と多数のオリフィス6との関係は、ピストン4が最も押し込まれてピストンヘッド側室9の容積を最小とする時でも、該ピストンの後端を越えないように構成されている。
【0017】
この面積可変オリフィスは、最軽量物体衝突時を想定して減速度が理論的最低限度に近づくように設定している。
【0018】
粘性可変流体の通路12は、前記シリンダ2の外周に設けられた磁性材より成る中間筒13と、その外側に配される同じく磁性材のケース14とより成り、その一方を前記オリフィス孔6を介してピストンヘッド側室9と連通し、他方は下記する加圧された室22に連通している。前記通路12を構成する中間筒13は、その外経寸法を交互に変更することで、凹部15aと凸部15bが多数連続的に縦方向に形成している。
【0019】
前記凹部15aには、永久磁石16が配され、その永久磁石16の外側にコイル17が配されている。この永久磁石16とコイル17の関係は、永久磁石16の上方をNとし、下方をSとすると、コイル17への通電による磁気が前記永久磁石16の磁気を逆方向即ち上方がSとし下方をNとしている。
【0020】
また、前記凸部15bは、前記ケース14との間で絞り作用を有する隙間が多数形成されている。この隙間の寸法は実験の結果から得られる。この隙間は粘性可変流体により抵抗可変効果発生装置用オリフィス18となっている。
【0021】
室22は、シリンダ2の上方で、ケース14と蓋21で形成され、その内部に加圧気体が入れられ、該加圧気体が粘性可変流体(MR流体)に圧力を加える作用をし、またシリンダ2に形成の上方の連通孔23を介してピストンロッド室23に連通している。即ち、加圧気体は、ピストン4を上方へ動かす復元ばね作用をしている。
【0022】
粘性可変流体の通路15中を流れる粘性可変流体は、コイル17に電流を流すことで発生の磁場の強度で、その粘性を変化させることができるもので、例えばMR流体である。即ち、この通路12の抵抗可変効果発生用オリフィス18を通る際には大きな抵抗力が発生する。この抵抗力は、電流値の増加により反比例して減少する関係となっている。
【0023】
この特性は図2に示される特性線図として示され、コイル17に電流(直流)を印加すると、上方にS極が下方にN極が生じる。そして、発生する磁場の強度は、印加電流に比例する。
【0024】
コイル17より生じる磁力の極性は、前記永久磁石16の極性と異なり逆となっている。従って、コイル17の磁力は、永久磁石16の磁力(磁場)の強度を減少方向に作用する。即ち、コイル17の電流値と抵抗力は、特性線が示すように反比例の関係である。この特性線から明らかなように、コイル17からの磁力が無くなれば、永久磁石16から磁場の強度のみとなり、最大の抵抗力となる。即ち、不足の事態により電気の供給が絶えても抵抗力を得ることができ、フェイルセーフ機能を得ることができる。
【0025】
前記コイル17に印加する電流は、外部に設けられた制御回路26から出力され、その入力装置27から入力により出力が制御される。入力信号として質量検出器からの質量等である。なお、前記ピストンロッド5の先端に図示しないが被緩衝物が接続される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施例を示す断面図である。
【図2】電流値と抵抗可変効果発生用オリフィスに発生する抵抗力特性線である。
【符号の説明】
【0027】
1 緩衝器
2 シリンダ
4 ピストン
5 ピストンロッド
7 面積可変オリフィス
9 ピストンヘッド側室
12 粘性可変流体の通路
13 中間筒
14 ケース
15a 凹部
15b 凸部
17 コイル
18 抵抗可変効果発生用オリフィス
26 制御回路
27 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダとこのシリンダ内に挿入するピストンを有し、このピストンにはピストンロッドが設けられ、シリンダとピストンより成るピストンヘッド側室内に粘性可変流体が貯えられると共に、前記ピストンヘッド側室と気体にて加圧された室とに接続した粘性可変流体の通路を持ち、この粘性可変流体の通路に抵抗可変効果発生用オリフィスを備え、
この抵抗可効果発生用オリフィスには、永久磁石とコイルが磁性材に並列に配され且つ前記コイルが永久磁石に対し、その発生する磁力の極性を異にしていることを特徴とする粘性可変流体緩衝器。
【請求項2】
前記粘性可変流体として、電流値によって変化される磁場強度により粘性が変化されるMR(磁気粘性流体)を用いたことを特徴とする請求項1記載の粘性可変流体緩衝器。
【請求項3】
前記抵抗可変効果発生用オリフィスとして、前記磁性材と粘性可変流体の通路を構成する部位との隙間により構成したことを特徴とする請求項1記載の粘性可変流体緩衝器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate