説明

粘性流体ダンパ

【課題】 粘性流体ダンパにおいて、ケース内の気泡の排出性を向上すること。
【解決手段】 粘性流体ダンパ20において、回転板42の上面と下面のそれぞれを外周に向けて下向きにし、回転板42の上面と下面のそれぞれに上下の間隙を介して相対するケース30の天面と底面のそれぞれも外周に向けて下向きにし、回転軸41に液排出孔51、連通孔52、53を設けてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
粘性流体ダンパとして、特許文献1に記載の如く、粘性流体をケースに封入するとともに、回転体をケースに内蔵し、回転体とケースの対向する間隙に粘性流体を充たしてなるものがある。
【0003】
特許文献1の粘性流体ダンパにあっては、回転体とケースの間隙が小さい場合に、粘性流体に混入した気泡が粘性流体の挙動を不安定にすることを回避するため、ケースの天面の中心部に液排出孔を設け、ケースの天面を外周に向けて下り勾配をなすようにしている。粘性流体を充填する際に、ケース内の気泡は粘性流体とともにケースの天面の勾配に沿って液排出孔の方に浮上し、ひいては液排出孔から排出される。
【特許文献1】特開2004-278749
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の粘性流体ダンパにあっては、ケースの天面に外周に向かう下り勾配を設けたものの、ケースの底面、回転体を形成する回転板の上下面のそれぞれに付着する気泡を、液排出孔に向けて浮上させることができない。
【0005】
本発明の課題は、粘性流体ダンパにおいて、ケース内の気泡の排出性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、粘性流体をケースに封入するとともに、回転体をケースに内蔵し、回転体とケースの対向する間隙に粘性流体を充たしてなる粘性流体ダンパにおいて、回転体がケースに液密に枢支される回転軸に回転板を備えてなり、回転体の回転軸を鉛直方向に配置した状態で、回転板の上面と下面のそれぞれを外周に向けて下向きにし、回転板の上面と下面のそれぞれに上下の間隙を介して相対するケースの天面と底面のそれぞれも外周に向けて下向きにし、回転軸の軸方向に液排出孔を設けるとともに、液排出孔から回転板の上面の上の間隙に向けて下向きをなす連通孔を設け、液排出孔から回転板の下面の下の間隙に向けて下向きをなす連通孔を設けてなるようにしたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記回転軸に設ける液排出孔を該回転軸の下端面から上端面に貫通してなるようにしたものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記回転軸に設ける液排出孔の外部開口端にドレンボルトを着脱自在にしてなるようにしたものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において更に、前記ケースが上下のケース体からなり、上ケース体の天面の外周から下がる側壁の外面を、下ケース体の底面の外周から上がる側壁の内面にシール材を介して嵌合してなるようにしたものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において更に、前記回転板の下面に軸方向の下方側に突出する凸部を設けるとともに、ケースの底面に軸方向の上方側に突出する凸部を設け、回転板の凸部とケースの凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板の下面に設けた凸部の付根に、回転板の下面の半径方向に沿う貫通孔を設け、回転軸の液排出孔から回転板の下面に沿って下向きをなす連通孔を設けてなるようにしたものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において更に、前記ケースの天面に軸方向の下方側に突出する凸部を設けるとともに、回転板の上面に軸方向の上方側に突出する凸部を設け、回転板の凸部とケースの凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、ケースの天面に設けた凸部の付根に、ケースの天面の半径方向に沿う貫通孔を設け、回転軸の液排出孔からケースの天面に沿って下向きをなす連通孔を設けてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)
(a)粘性流体を充填する際に、ケース内の気泡は粘性流体とともに、ケースの天面、回転板の上面、ケースの底面、回転板の下面の勾配に沿って回転軸の方に浮上し、更に回転軸の上下の連通孔を液排出孔の方に浮上し、ひいては液排出孔から排出される。
【0013】
(b)ケース内の気泡を粘性流体とともに回転軸の液排出孔から集中的に排出することになり、ケースから排出される粘性流体の回収性も向上し、粘性流体ダンパの組立環境の汚損もない。
【0014】
(請求項2)
(c)液排出孔を回転軸の下端面から上端面に貫通させたから、ケース内で回転軸の下端面の側に付着する気泡も、粘性流体とともに液排出孔から排出できる。
【0015】
(請求項3)
(d)液排出孔の外部開口端にドレンボルトを着脱することにより、粘性流体を排出した後のケースを密封できる。
【0016】
(請求項4)
(e)上下のケース体を、シール材を介して嵌合することにより、ケースを密封できる。
【0017】
(請求項5)
(f)回転板の下面の凸部とケースの底面の凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板とケースの対向間隙箇所を増大するに際し、回転板の下面の相隣る凸部の間に侵入した気泡も粘性流体とともに、回転板の下面の凸部の付根の貫通孔を経て、回転軸の連通孔から液排出孔の方に浮上し、ひいては液排出孔から排出される。
【0018】
(請求項6)
(g)ケースの天面の凸部と回転板の上面の凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板とケースの対向間隙箇所を増大するに際し、ケースの天面の相隣る凸部の間に侵入した気泡も粘性流体とともに、ケースの天面の凸部の付根の貫通孔を経て、回転軸の連通孔から液排出孔の方に浮上し、ひいては液排出孔から排出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1はステアリングダンパ装置を示す平面図、図2は電気粘性流体ダンパを示す断面図、図3は図2のIII−III線に沿う断面図、図4はダンパの分解図、図5は上ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図、図6は下ケース体を示し(A)は断面図、(B)は平面図、図7は回転体を示し、(A)は断面図、(B)は上面図、(C)は下面図、図8はダンパの組立過程を示す模式図、図9は電気粘性流体ダンパを示す断面図、図10は図9のX−X線に沿う断面図、図11はダンパの分解図、図12は上ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図、図13は下ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図、図14は回転体を示し、(A)は断面図、(B)は上面図、(C)は下面図、図15は電気粘性流体ダンパを示す断面図である。
【実施例】
【0020】
(実施例1)(図1〜図8)
図1は自動二輪車を示し、車体フレーム1の前方部に配置したヘッドパイプ(不図示)にステアリング軸2を枢支し、ステアリング軸2に一体化されているアッパーブラケット3の左右にハンドル4を取付けている。
【0021】
ステアリングダンパ装置10は、キックバック等の外乱によるハンドル4の振れを防止するため、振れに対する減衰力を発生するものであり、車体フレーム1のヘッドパイプより後方に回転式電気粘性流体ダンパ20を取付ボルト21により固定配置して構成される。
【0022】
電気粘性流体ダンパ20は、図2、図3に示す如く、電気粘性流体をケース30に封入するとともに、回転体40をケース30に内蔵し、一方の電極(+)40Aを回転体40に設け、他方の電極(−)30Aを該一方の電極40Aに対向するようにケース30に設ける。そして、両電極30A、40Aの対向する間隙に電気粘性流体を充たし、両電極30A、40A間に電場をかけることによって回転体40のトルク(減衰力)を制御可能にする。
【0023】
尚、電気粘性流体ダンパ20に関する以下の説明において、上下の文言は、回転体40の回転軸41を鉛直方向に配置した状態で、鉛直上方を上、鉛直下方を下と称する。
【0024】
ケース30は、図4、図5、図6に示す如く、上下のケース体31、32からなり、上ケース体31の天面31Aの外周から下がる側壁31Bの外面を、下ケース体32の底面32Aの外周から上がる側壁32Bの内面にシール材33を介して嵌合して構成される。上ケース体31の天面31A及び側壁31Bの内面に、該上ケース体31が樹脂成形されたものである場合には、金属系インキの塗装を施す等により電極30Aを形成し、下ケース体32の底面32Aに、該下ケース体32が樹脂成形されたものである場合には、金属系インキの塗装を施す等により電極30Aを形成する。シール材33はOリングからなり、上ケース体31の側壁31Bの外面の下部寄りに設けた環状溝に装填される。上ケース体31の外周取付片31Cに挿着される止ねじ34Aを、下ケース体32の外周取付片32Cのねじ孔34Bに螺着することにて、上下のケース体31、32が一体化される。
【0025】
回転体40は、図4、図7に示す如く、ケース30に液密に枢支される回転軸41に厚板状回転板42を備えて構成される。該回転板42が樹脂成形されたものである場合には、回転板42の表面に金属系インキの塗装を施す等により電極40Aを形成する。回転軸41は回転板42の上方に突出する上軸41Aと、下方に突出する下軸41Bからなる。
【0026】
上ケース体31は、図4、図5に示す如く、天面31Aの中心部に貫通状の軸受孔31Dを備え、軸受孔31Dに樹脂製絶縁ブッシュ35が圧入される。絶縁ブッシュ35は貫通筒体からなり、Oリングからなるシール材35Aを外周環状溝に備えて軸受孔31Dに圧入され、Oリングからなるシール材35Bを内周環状溝に備えるとともに、金属環にテフロン(登録商標)コーティングされてなる軸受ブッシュ36を内周段差孔に備える。
【0027】
下ケース体32は、図4、図6に示す如く、底面32Aの中心部に閉塞状の軸受孔32Dを備え、軸受孔32Dに樹脂製絶縁ブッシュ37が圧入される。絶縁ブッシュ37は有底筒体からなり、金属環にテフロン(登録商標)コーティングされてなる軸受ブッシュ38を内周孔に備える。
【0028】
電気粘性流体ダンパ20は、図8に示す如く、上ケース体31の絶縁ブッシュ35が備えるシール材35B、軸受ブッシュ36に回転体40の回転軸41(上軸41A)を挿通し、回転板42の上面中央側を絶縁ブッシュ35の下端面に当てる小組体を形成し、この小組体をなす上ケース体31と回転体40を、電気粘性流体を装填してある下ケース体32に挿入し、下ケース体32の絶縁ブッシュ37が備える軸受ブッシュ38に回転体40の回転軸41(下軸41B)を挿入し、回転板42の下面中央側を絶縁ブッシュ37の上端面に当て、上ケース体31の外周取付片31Cを下ケース体32の外周取付片32Cに重ね合せてそれらを止ねじ34Aで締結することにて組立てられる。尚、回転体40の回転軸41に後述する如くに設けられる液排出孔51の外部開口端にはドレンボルト51Aがパッキン51Bを挟んで着脱される。
【0029】
以下、(A)ステアリングダンパ装置10の構成、(B)電気粘性流体ダンパ20におけるケース30内の気泡の排出構造について詳述する。
【0030】
(A)ステアリングダンパ装置10の構成
ステアリングダンパ装置10は、図1に示す如く、ステアリング軸2の上端部に歯車からなる駆動車11をナット11Aにより固定するとともに、車体フレーム1のヘッドパイプより後方に配置した電気粘性流体ダンパ20のケース30(上ケース体31の軸受孔31D)から外方に突出している回転軸41(上軸41A)の外周に歯車からなる被動車12を形成し、駆動車11と被動車12にベルト(チェーンでも可)からなる巻掛体13を巻掛ける。このとき、駆動車11の直径を被動車12の直径より大径にする。
【0031】
従って、ステアリングダンパ装置10にあっては、ハンドル4により回転されるステアリング軸2の回転が、被動車12に対する駆動車11の直径比により増幅されて電気粘性流体ダンパ20に伝達されると、回転体40がケース30との間の電気粘性流体を剪断しながら回転する。電気粘性流体ダンパ20において、電極30A、40Aの間に電場を与えないときには、ケース30内の電気粘性流体ダンパが低粘度であるため、回転体40のトルクは小さく減衰力は低い。電極30A、40Aの間に電場を与えて電気粘性流体を高粘度にすると、回転体40のトルクは大きく減衰力は高くなる。電極30A、40Aの間に印加する電圧の高低により、電気粘性流体の粘度を制御し、減衰力を制御できる。
【0032】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ハンドル4により回転されるステアリング軸2の回転が、被動車12に対する駆動車11の直径比により増幅されてダンパ20に伝達される。このため、自動二輪車等で、ハンドル4の回転角が小回転角であっても、ダンパ20の回転軸41を増速回転でき、高減衰力を得ることができる。ダンパ20を一定の減衰力に対して小型化できる。
【0033】
(b)ダンパ20をステアリング軸2に対して巻掛体13により連結でき、ダンパ20の配置の自由度を向上できる。自動二輪車等において、ライダーの前方視認性を確保したり、燃料タンクの容量を確保しながら、ダンパ20を配置できる。
【0034】
(c)電気粘性流体ダンパ20とすることにより、電気粘性流体への印加電圧の調整により、不要なときには減衰力を発生させず、必要なときには所望の減衰力を発生させることができる。
【0035】
(B)電気粘性流体ダンパ20におけるケース30内の気泡の排出構造
電気粘性流体ダンパ20は、回転体40の回転板42の上面42Aと下面42Bのそれぞれを中央側から外周に向けて下向き勾配にし、回転板42の上面42Aと下面42Bのそれぞれに上下の間隙を介して相対するケース30(上下のケース体31、32)の天面31Aと底面32Aのそれぞれも中央側から外周に向けて下向き勾配をなす。
【0036】
電気粘性流体ダンパ20は、回転体40の回転軸41の中心部の軸方向に液排出孔51を設けるとともに、液排出孔51から直径方向又は放射方向に交差し、回転板42の上面42Aの上の間隙に向けて僅かに下向きをなす連通孔52を上軸41A側に設け、液排出孔51から直径方向又は放射方向に交差し、回転板42の下面42Bの下の間隙に向けて下向きをなす連通孔53を下軸41B側に設ける。このとき、上軸41Aが挿通される絶縁ブッシュ35の下端面であって、前述の如くに回転板42の上面中央側に当たる絶縁ブッシュ35の下端面には、直径方向又は放射方向に貫通する連通溝52Aが形成され、回転軸41の連通孔52を回転板42の上面42Aの上の間隙に連通可能にする。また、下軸41Bが挿通される絶縁ブッシュ37の上端面であって、前述の如くに回転板42の下面中央側に当たる絶縁ブッシュ37の上端面には、直径方向又は放射方向に貫通する連通溝53Aが形成され、回転軸41の連通孔53を回転板42の下面42Bの下の間隙に連通可能にする。
【0037】
電気粘性流体ダンパ20は、回転軸41に設ける液排出孔51を該回転軸41の下端面から上端面に貫通する。
【0038】
電気粘性流体ダンパ20は、回転軸41を上ケース体31の軸受孔31Dから外方に突出しており、回転軸41に設けた液排出孔51の外部開口端にドレンボルト51Aがパッキン51Bを挟んで、着脱自在に螺着される。
【0039】
従って、電気粘性流体ダンパ20の組立手順と、ケース30内の気泡の排出手順は以下の如くになる(図8)。
【0040】
(1)上ケース体31の絶縁ブッシュ35が備えるシール材35B、軸受ブッシュ36に回転体40の回転軸41(上軸41A)を挿通し、回転板42の上面中央側を絶縁ブッシュ35の下端面に当てる小組体を形成する。回転軸41の液排出孔51に対するドレンボルト51Aは外しておく(図8(A))。下ケース体32の内部に適量の電気粘性流体ERを装填する(図8(A))。
【0041】
(2)上ケース体31の側壁31Bの外面を、下ケース体32の側壁32Bの内面にシール材33を介して嵌合し、回転体40の回転軸41(下軸41B)を下ケース体32の絶縁ブッシュ37が備える軸受ブッシュ38に挿入し、回転板42の下面中央側を絶縁ブッシュ37の上端面に当てる。
【0042】
(3)上ケース体31と回転体40の小組体が上述(2)の如くに下ケース体32に挿入されるとき、該小組体の下ケース体32への挿入体積分の電気粘性流体が回転軸41の連通孔52、53を介する液排出孔51経由で外方に押出され、高粘度の電気粘性流体に混入しているケース30内の気泡も電気粘性流体とともに外方に排出される。
【0043】
(4)上ケース体31の外周取付片31Cを下ケース体32の外周取付片32Cに重ね合せ、それらを取付ねじ34Aで締結する。
【0044】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)粘性流体を充填する際に、ケース30内の気泡は粘性流体とともに、ケース30の天面31A、回転板42の上面42A、ケース30の底面32A、回転板42の下面42Bの勾配に沿って回転軸41の方に浮上し、更に回転軸41の上下の連通孔52、53を液排出孔51の方に浮上し、ひいては液排出孔51から排出される。
【0045】
(b)ケース30内の気泡を粘性流体とともに回転軸41の液排出孔51から集中的に排出することになり、ケース30から排出される粘性流体の回収性も向上し、粘性流体ダンパ20の組立環境の汚損もない。
【0046】
(c)液排出孔51を回転軸41の下端面から上端面に貫通させたから、ケース30内で回転軸41の下端面の側に付着する気泡も、粘性流体とともに液排出孔51から排出できる。
【0047】
(d)液排出孔51の外部開口端にドレンボルト51Aを着脱することにより、粘性流体を排出した後のケース30を密封できる。
【0048】
(e)上下のケース体31、32を、シール材33を介して嵌合することにより、ケース30を密封できる。
【0049】
(実施例2)(図9〜図14)
実施例2が実施例1と異なる点は、電気粘性流体ダンパ20のケース30(下ケース体32)と回転体40(回転板42)の構成である。
【0050】
電気粘性流体ダンパ20は、図9、図10に示す如く、回転体40の回転板42が中央側だけを厚板にし、その外周側を薄板にし、厚板側上面42Aと薄板側上面42Aを連続状にし、厚板側下面42Bと薄板側下面42Bを段差状にした。そして、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大するため、実施例1の構成に加え、回転体40の回転板42、本実施例では薄板側下面42Bに軸方向の一方側(下方側)に一体(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では環状凸部Kを設けるとともに(図14)、ケース30、本実施例では下ケース体32の底面32Aに軸方向の他方側(上方側)に一体に(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では環状凸部Lを設ける(図13)。そして、回転体40の環状凸部Kとケース30の環状凸部Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転体40の環状凸部Kを含む表面に電極40Aを形成するとともに、ケース30の環状凸部Lを含む内面(上ケース体31の天面31A及び側壁31Bの内面、下ケース体32の底面32A)に電極30Aを形成する。
【0051】
電気粘性流体ダンパ20は、回転体40の環状凸部Kを、図14に示す如く、回転板42の下面42B上で同芯状をなす複数の回転半径位置のそれぞれに設ける。また、ケース30の環状凸部Lも、図13に示す如く、下ケース体32の底面32A上で同芯状をなす複数の回転半径位置のそれぞれに設ける。
【0052】
更に、このとき、電気粘性流体ダンパ20は、図9、図10、図14に示す如く、ケース30内の気泡の排出性を確保するため、実施例1の構成に加え、回転体40の回転軸41に交差する回転板42の直径方向又は放射方向に沿う直径上で、回転板42の下面42Bに設けた環状凸部Kの付根に、回転板42の下面42Bの半径方向に沿う貫通孔54を設ける。また、回転軸41の液排出孔51から直径方向又は放射方向に交差し、回転板42の下面42Bに沿うように下向きをなす連通孔55を設ける。
【0053】
本実施例によれば、実施例1の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
(a)回転体40の凸部Kとケース30の凸部Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転体40の凸部Kに一方の電極40Aを設け、ケース30の凸部Lに他方の電極30Aを設けるようにしたから、1枚の平板状回転体40だけを用いるものに比して、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大し、電場の拡張により、トルク特性(減衰特性)の制御範囲を拡大できる。
【0054】
(b)回転体40に凸部Kを設け、ケース30に凸部Lを設け、それらの凸部K、Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませるだけであり、部品点数を少なくし、組立性を向上できる。このとき、回転体40の凸部Kを軸方向に沿う一方側に突出させるものであり、回転体40を金型で成形するときの形抜き方向が一定になり、回転体40に凸部Kを設ける一体成形も容易になる。また、ケース30の凸部Lも軸方向に沿う一方側に突出させるものであり、ケース30を金型で成形するときの形抜き方向が一定になり、ケース30に凸部Lを設ける一体成形も容易になる。
【0055】
(c)回転体40の凸部Kが、回転体40の回転板42上で複数の回転半径位置のそれぞれに設けられ、ケース30の凸部Lが、ケース30の内面上で複数の半径位置のそれぞれに設けられるものとした。従って、回転体40の複数の回転半径位置に設けた凸部Kと、ケース30の複数の半径位置に設けた凸部Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、それら複数の凸部K、Lに各電極30A、40Aを設けることにより、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大できる。
【0056】
(d)回転体40の凸部Kが環状をなし、ケース30の凸部Lが環状をなすものとした。従って、回転体40の同芯状をなしてそれぞれ周方向に連続する複数の環状凸部Kと、ケース30の同芯状をなしてそれぞれ周方向に連続する複数の環状凸部Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、それら複数の凸部K、Lに各電極30A、40Aを設けることにより、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大できる。
【0057】
本実施例によれば更に以下の作用効果を奏する。
(e)回転板42の下面42Bの凸部Kとケース30の底面32Aの凸部Lを互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板42とケース30の対向間隙箇所を増大するに際し、回転板42の下面42Bの相隣る凸部Kの間に侵入した気泡も粘性流体とともに、回転板42の下面42Bの凸部Kの付根の貫通孔54を経て、回転軸41の連通孔55から液排出孔51の方に浮上し、ひいては液排出孔51から排出される。
【0058】
(実施例3)(図15)
実施例3が実施例1と異なる点は、電気粘性流体ダンパ20のケース30(上下のケース体31、32)と回転体40(回転板42)の構成である。
【0059】
電気粘性流体ダンパ20は、図15に示す如く、回転体40の回転板42が中央側だけを厚板にし、その外周側を薄板にし、厚板側上面42Aに対し薄板側上面42Aを下位とする段差状にし、厚板側下面42Bに対し薄板側下面42Bを上位とする段差状にした。そして、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大するため、実施例1の構成に加え、回転体40の回転板42において、薄板側上面42Aに軸方向の一方側(上方側)に一体に(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では上向き環状凸部K1を設け、かつ薄板側下面42Bに軸方向の他方側(下方側)に一体に(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では下向き環状凸部K2を設けるとともに、ケース30において、上ケース体31の天面31Aに軸方向の他方側(下方側)に一体に(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では下向き環状凸部L1を設け、かつ下ケース体32の底面32Aに軸方向の一方側(上方側)に一体に(別体組付でも可)突出する凸部、本実施例では上向き環状凸部L2を設ける。
【0060】
そして、回転体40の上向き環状凸部K1とケース30の下向き環状凸部L1、回転体40の下向き環状凸部K2とケース30の上向き環状凸部L2をそれぞれ互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転体40の凸部K1、K2を含む表面に電極40Aを形成するとともに、ケース30の凸部L1、L2を含む内面(上ケース体31の天面31A及び側壁31Bの内面、下ケース体32の側面32A)に電極30Aを形成する。
【0061】
電気粘性流体ダンパ20は、回転体40の凸部K1、K2のそれぞれを、回転板42の上面42A、下面42B上で同芯状をなす複数の回転半径位置のそれぞれに設ける。また、ケース30の凸部L1、L2のそれぞれも、上ケース体31の天面31A、下ケース体32の底面32A上で同芯状をなす複数の回転半径位置のそれぞれに設ける。
【0062】
更に、このとき、電気粘性流体ダンパ20は、ケース30内の気泡の排出性を確保するため、実施例1の構成に加え、回転体40の回転軸41に交差する回転板42の直径方向又は放射方向に沿う直径上で、回転板42の下面42Bに設けた下向き環状凸部K2の付根に、回転板42の下面42Bの半径方向に沿う貫通孔54を設ける。また、回転軸41の液排出孔51から直径方向又は放射方向に交差し、回転板42の下面42Bに沿うように下向きをなす連通孔55を設ける。
【0063】
また、電気粘性流体ダンパ20は、ケース30内の気泡の排出性を確保するため、実施例1の構成に加え、上ケース体31の直径方向又は放射方向に沿う直径上で、天面31Aに設けた下向き環状凸部L1の付根に、上ケース体31の天面31Aの半径方向に沿う貫通孔56を設ける。尚、回転軸41の液排出孔51から上ケース体31の天面31Aに沿って下向きをなす連通孔57が設けられる。連通孔57は、実施例1の連通孔52と共通をなす。
【0064】
本実施例によれば、実施例1の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
(a)回転体40の一方側に突出する凸部K1とケース30の他方側に突出する凸部L1を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませるとともに、回転体40の他方側に突出する凸部K2とケース30の一方側に突出する凸部L2を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転体40の凸部K1、K2に一方の電極40Aを設け、ケース30の凸部L1、L2に他方の電極30Aを設けるようにしたから、1枚の平板状回転体40だけを用いるものに比して、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大し、電場の拡張により、トルク特性(減衰特性)の制御範囲を拡大できる。
【0065】
(b)回転体40の両側に凸部K1、K2を突出させ、ケース30の両側に凸部L1、L2を突出させ、回転体40の一方側の凸部K1とケース30の一方側の凸部L1を入り組ませ、回転体40の他方側の凸部K2とケース30の凸部L2を入り組ませた。従って、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの間に一定の対向面積を確保するに必要とされる、回転体40の各凸部K1、K2の高さ、ケース30の各凸部L1、L2の高さを低くできる。このことは、回転体40の各凸部K1、K2とケース30の各凸部L1、L2の寸法精度、組立精度を簡易に向上可能にし、ひいてはそれら凸部K1とL1の間隙、K2とL2の間隙を簡易に小さくし、電場を強化してトルク特性(減衰特性)の制御範囲を拡大できる。
【0066】
(c)回転体40の両側に凸部K1、K2を設け、ケース30の両側に凸部L1、L2を設け、それら凸部K1とL1、K2とL2を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませるだけであり、部品点数を少なくし、組立性を向上できる。このとき、回転体40の凸部K1、K2を軸方向に沿う一方側と他方側に突出させるものであり、回転体40を金型で成形するときの形抜き方向が一定になり、回転体40に凸部K1、K2を設ける一体成形も容易になる。また、ケース30の凸部L1、L2を軸方向に沿う一方側と他方側に突出させるものであり、ケース30を金型で成形するときの形抜き方向が一定になり、ケース30に凸部L1、L2を設ける一体成形も容易になる。
【0067】
(d)回転体40の凸部K1、K2が、回転体40の回転板上で複数の回転半径位置のそれぞれに設けられ、ケース30の凸部L1、L2が、ケース30の内面上で複数の半径位置のそれぞれに設けられるものとした。従って、回転体40の複数の回転半径位置に設けた凸部K1、K2と、ケース30の複数の半径位置に設けた凸部L1、L2を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、それら複数の凸部K1、K2、L1、L2に各電極30A、40Aを設けることにより、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大できる。
【0068】
(e)回転体40の凸部K1、K2が環状をなし、ケース30の凸部L1、L2が環状をなすものとした。従って、回転体40の同芯状をなしてそれぞれ周方向に連続する複数の環状凸部K1、K2と、ケース30の同芯状をなしてそれぞれ周方向に連続する複数の環状凸部L1、L2を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、それら複数の凸部K1、K2、L1、L2に各電極30A、40Aを設けることにより、回転体40側の電極40Aとケース30側の電極30Aの対向面積を増大できる。
【0069】
本実施例によれば、更に以下の作用効果を奏する。
(f)回転板42の下面42Bの凸部K2とケース30の底面32Aの凸部L2を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板42とケース30の対向間隙箇所を増大するに際し、回転板42の下面42Bの相隣る凸部K2の間に侵入した気泡も粘性流体とともに、回転板42の下面42Bの凸部K2の付根の貫通孔54を経て、回転軸41の連通孔55から液排出孔51の方に浮上し、ひいては液排出孔51から排出される。
【0070】
(g)ケース30の天面31Aの凸部L1と回転板42の上面42Aの凸部K1を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板42とケース30の対向間隙箇所を増大するに際し、ケース30の天面31Aの相隣る凸部L1の間に侵入した気泡も粘性流体とともに、ケース30の天面31Aの凸部L1の付根の貫通孔56を経て、回転軸41の連通孔57から液排出孔51の方に浮上し、ひいては液排出孔51から排出される。
【0071】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明の粘性流体ダンパは、電気粘性流体ダンパに限らず、シリコンオイル等の粘性流体を用いるものにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1はステアリングダンパ装置を示す平面図である。
【図2】図2は電気粘性流体ダンパを示す断面図である。
【図3】図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4はダンパの分解図である。
【図5】図5は上ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図6】図6は下ケース体を示し(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図7】図7は回転体を示し、(A)は断面図、(B)は上面図、(C)は下面図である。
【図8】図8はダンパの組立過程を示す模式図である。
【図9】図9は電気粘性流体ダンパを示す断面図である。
【図10】図10は図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】図11はダンパの分解図である。
【図12】図12は上ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図13】図13は下ケース体を示し、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図14】図14は回転体を示し、(A)は断面図、(B)は上面図、(C)は下面図である。
【図15】図15は電気粘性流体ダンパを示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
20 粘性流体ダンパ
30 ケース
31 上ケース体
31A 天面
32 下ケース体
32A 底面
33 シール材
40 回転体
41 回転軸
42 回転板
42A 上面
42B 下面
51 液排出孔
51A ドレンボルト
52、53 連通孔
54 貫通孔
55 連通孔
56 貫通孔
57 連通孔
K、K1、K2、L、L1、L2 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体をケースに封入するとともに、回転体をケースに内蔵し、回転体とケースの対向する間隙に粘性流体を充たしてなる粘性流体ダンパにおいて、
回転体がケースに液密に枢支される回転軸に回転板を備えてなり、
回転体の回転軸を鉛直方向に配置した状態で、回転板の上面と下面のそれぞれを外周に向けて下向きにし、
回転板の上面と下面のそれぞれに上下の間隙を介して相対するケースの天面と底面のそれぞれも外周に向けて下向きにし、
回転軸の軸方向に液排出孔を設けるとともに、液排出孔から回転板の上面の上の間隙に向けて下向きをなす連通孔を設け、液排出孔から回転板の下面の下の間隙に向けて下向きをなす連通孔を設けてなることを特徴とする粘性流体ダンパ。
【請求項2】
前記回転軸に設ける液排出孔を該回転軸の下端面から上端面に貫通してなる請求項1に記載の粘性流体ダンパ。
【請求項3】
前記回転軸に設ける液排出孔の外部開口端にドレンボルトを着脱自在にしてなる請求項1又は2に記載の粘性流体ダンパ。
【請求項4】
前記ケースが上下のケース体からなり、上ケース体の天面の外周から下がる側壁の外面を、下ケース体の底面の外周から上がる側壁の内面にシール材を介して嵌合してなる請求項1〜3のいずれかに記載の粘性流体ダンパ。
【請求項5】
前記回転板の下面に軸方向の下方側に突出する凸部を設けるとともに、ケースの底面に軸方向の上方側に突出する凸部を設け、回転板の凸部とケースの凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、回転板の下面に設けた凸部の付根に、回転板の下面の半径方向に沿う貫通孔を設け、回転軸の液排出孔から回転板の下面に沿って下向きをなす連通孔を設けてなる請求項1〜4のいずれかに記載の粘性流体ダンパ。
【請求項6】
前記ケースの天面に軸方向の下方側に突出する凸部を設けるとともに、回転板の上面に軸方向の上方側に突出する凸部を設け、回転板の凸部とケースの凸部を互いに間隙を介して相対回転可能に入り組ませ、ケースの天面に設けた凸部の付根に、ケースの天面の半径方向に沿う貫通孔を設け、回転軸の液排出孔からケースの天面に沿って下向きをなす連通孔を設けてなる請求項1〜4のいずれかに記載の粘性流体ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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