説明

粘着シート

【課題】凹み回復性と異物取り込み性の両方を兼ね備えた粘着シートを提供する。
【解決手段】少なくともA層とB層の2層を備えた粘着シートであって、A層およびB層のいずれも、1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含むベースポリマーと、アクリル系架橋モノマーと、架橋開始剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる層であって、凹み回復性試験において、A層は、除荷後10秒以内に凹みが回復して視認可能な歪が残らない凹み回復性を備えており、且つ、異物取込み性試験において、B層は、ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満である異物取込み性を備えたものであることを特徴とする粘着シートを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層窓などの各種窓材や各種表示パネル等を構成するガラス材同士の貼り合せ、ディスプレイパネルと光学フィルムとの貼り合せ、光学フィルム同士の貼り合せ、ガラスやプラスチック等の透明基材と各種透明フィルムとの貼り合せなど、各種透明部材の貼り合せに用いることができる粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
透明部材の貼り合せが行われる製品の代表例としてフラットパネルディスプレイを挙げることができる。近年、フラットパネルディスプレイはブラウン管テレビの代替として期待され、その市場が急速に立上りつつあり、中でもプラズマディスプレイパネル(「PDP」という)や液晶ディスプレイはその代表例である。
【0003】
このようなフラットパネルディスプレイにおいては、基体となるパネル上に、例えば反射防止、近赤外線カット、可視調色、電磁波シールドなどの各種機能を備えた光学機能フィルムや、それらを貼り合せした光学フィルムフィルタを、空気層を介さず粘着シートを介して直接貼り合せる構成のものが開発され、その用途に用いる粘着シートも新たに開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温環境下で貼り合せせることができ、しかも優れた緩衝性を付与することができる粘着シートとして、3次元架橋ポリマーを可塑剤及び無機微粒子を含有する液体で膨潤させてなるゲル状の粘着シートが開示されている。
また、特許文献2には、十分な接着強度を有し、且つ変形回復力に優れた新たな光学部材貼合用粘着シートとして、ベースポリマー、多官能アクリレートモノマーからなる架橋モノマー及び光開始剤を含有してなる粘着剤組成物をシート状に成形し、これを架橋してなる非ゲル状粘着シートであって、23℃×50%RHの環境下において、100mm/minの引張速度で50%伸長し、同速度で元に戻した時の歪復元率が60%以上であることを特徴とする光学部材貼合用粘着シートが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−359808号公報
【特許文献2】特開2006−169438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、PDPなどのフラットディスプレイに対して、画面における凹み回復性の向上がより一層求められるようになってきており、この用途に用いる粘着シートにも同様の特性が求められるようになってきている。例えば、パネル上に粘着シートを介して複数の光学フィルムを貼り合わせる構成のフラットディスプレイにおいて、粘着シートが凹み回復性に劣るものであると、画面を指で押した場合に容易に凹み、凹みが回復するのに時間を要するばかりか、凹んだまま回復せずに永久歪みとして残ってしまうこともあり、視認性を低下させる一因となることが指摘されている。このため、光学フィルムと粘着シートとの間にリジッドな保護板を介在させることも行なわれていたが、フィルタそのものの質量が増して軽量化の妨げとなっていた。
【0007】
また、PDPパネル上に光学フィルム等を貼り合わせるのに用いる従来の粘着剤は、耐久性を付与するべく粘着剤の凝集力を高め、かつ25μm前後の薄い粘着層を形成するものが多かったため、被着体であるパネルガラスとの界面に異物が存在すると、貼り合せ後に該異物の周囲で視認可能な気泡が生じ、画面上の外観不良を生じることがあった。この際、より柔軟な粘着剤を用いれば、被着体との界面に異物が存在したとしても、異物の周囲を粘着剤が取り囲むように濡れるため、貼り合せ時の気泡の発生を抑えることができる。
【0008】
しかし、粘着シートにおいては、凹み回復性と異物取り込み性(;異物が存在した場合に、該異物を粘着剤の濡れ性で取り込んで該異物の周囲に気泡を発生させない性質)とは、相反する特性であるため、両者を兼ね備えた粘着シートの開発は困難であるとされていた。
【0009】
本発明の目的は、凹み回復性と異物取り込み性の両方を兼ね備えた粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくともA層とB層の2層を備えた粘着シートであって、
A層およびB層のいずれも、1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含むベースポリマーと、アクリル系架橋モノマーと、架橋開始剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる層であって、
A層は、下記凹み回復性試験において、除荷後10秒以内に凹みが回復して視認可能な歪が残らない凹み回復性を備えており、且つ、
B層は、下記異物取込み性試験において、ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満である異物取込み性を備えたものであることを特徴とする粘着シートを提案する。
(凹み回復性試験)
10cm×10cmのソーダライムガラスに粘着シートを貼り合せ、該粘着シート上に、厚さ100μmのPETフィルムを貼り合わせて試験試料を作製し、この試験試料のPET面上に、重さ534gの鋼球を静かに載せて30秒間静置した後、除荷して凹みの回復具合を目視観察する。
(異物取込み性試験)
10cm×10cm、厚み3mmのソーダライムガラス上に、粒子径50μm以上60μm未満のガラスビーズを振りまき、さらにその上に、予め粘着シートをPETフィルム(厚み100μm)に貼り合せて該ガラスと同サイズにカットしたものを、740gのハンドロールを用いて加熱することなく貼り合わせ、室温、常圧下の環境下で静置し、貼合後30分以内にガラスビーズの周囲の気泡の発生をマイクロスコープを用いて観察する。
【0011】
本発明の粘着シートは、凹み回復性と異物取り込み性とを兼ね備えており、例えば図1及び図2に示すように、本発明の粘着シートを介してPDP等のディスプレイパネルに光学フィルムを貼り合わせれば、画面表面(言い換えれば光学フィルムの表面)を指などで押圧しても変形し難く、且つ変形しても凹みが回復し易いばかりか、被着面であるディスプレイパネル表面に埃等の異物が存在したとしても、視認可能な気泡の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る粘着シート(以下「本粘着シート」という)は、少なくとも後述するA層とB層の2層を備えた粘着シートである。
【0013】
<A層>
A層は、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Paを超えて1.0×105Pa以下の範囲内にあり、且つ周波数10-3Hzにおけるtanδが1.0×10-1以下である物性を備えた層であるのが好ましい。
【0014】
A層は、ガラス転移温度(Tg)が比較的低いベースポリマーを用いて、比較的高密度に架橋させるようにして形成するのが好ましい。例えば、以下に説明するベースポリマーと、架橋モノマーと、架橋開始剤と、必要に応じて可塑剤などの添加剤とから粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を架橋して、動的粘弾性を所定範囲内に調整することによって得ることができる。
【0015】
(ベースポリマー)
A層で用いることが可能なベースポリマーとして、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(共重合体を含む)を挙げることができる。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体を形成するために用いる(メタ)アクリレートモノマー成分、即ち、アルキルアクリレートモノマー成分又はアルキルメタクリレートモノマー成分としては、アルキル基がn−オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、n−ブチル、イソブチル、メチル、エチル、イソプロピルのうちのいずれか1つであるアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートモノマーのうちの1種又はこれらから選ばれた2種以上の混合物であるのが好ましい。
【0017】
その他の成分として、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基等の有機官能基を有するアクリレート又はメタクリレートモノマーを共重合させてもよい。具体的には、前記(メタ)アクリレートモノマー成分とこのような有機官能基を有する(メタ)アクリレートモノマー成分とを適宜に選択的に組み合わせたモノマー成分を出発原料として重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体ポリマーを挙げることができる。
【0018】
好ましくは、イソ−オクチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートの1種又はこれらから選ばれた2種以上の混合物か、或いは、α、β不飽和カルボン酸を含有した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、例えばイソ−オクチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等から少なくとも1種類以上と、アクリル酸とを共重合させたものなどを挙げることができる。
【0019】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−20℃以下、特に−20℃未満、中でも特に−80℃〜−30℃未満であるのが好ましい。A層のベースポリマーのガラス転移温度は、B層のベースポリマーのガラス転移温度よりも低温であるのが好ましい。
また、ベースポリマーの130℃における溶融粘度は5万mPa・s以上、特に10万mPa・s〜50万mPa・s、中でも特に10万mPa・s〜30万mPa・sであるのが好ましい。
【0020】
なお、上記のガラス転移温度(Tg)は、粘弾性測定装置、例えばレオメトリックス社製の粘弾性測定装置「ダイナミックアナライザーRDAII」を用いて測定することができる。その際、Tgはパラレルプレート25mmφ、歪み0.5%、周波数1Hzで測定した時のTanδの極大値を示す温度を読みとればよい。
溶融粘度は、粘弾性測定装置、例えばレオロジ社製「レオメータ MR−300T」用いて測定することができる。その際、コーンプレート40mmφ、コーン角2°、温度130℃、歪み(角度)0.7°、周波数0.02Hzで測定した時の粘度η*値を読みとればよい。
【0021】
(架橋モノマー)
架橋モノマーとしては、アクリル系架橋モノマーを用いるのが好ましく、中でも、単官能(メタ)アクリレートよりは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート、若しくは、単官能〜4官能(メタ)アクリレートの2種以上が混合してなる混合物が好ましく、中でも3官能アクリレートモノマーを主成分とする、単官能〜4官能アクリレートモノマーの混合物が好ましい。
【0022】
ここで、単官能(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸等の(メタ)アクリル酸類、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート等を挙げることができる。
2官能(メタ)アクリレートとしては、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレート等を挙げることができる。
3官能(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート等のトリアクリレートや、それらのトリメタクリレートなどを挙げることができる。
4官能(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等を挙げることができる。
【0023】
なお、架橋モノマーは、以上例示した(メタ)アクリレートに限定されるものではなく、例えば有機官能基を含有した(メタ)アクリレートモノマー等も好適に用いることが可能である。
【0024】
粘弾性特性を所望範囲に調整する観点からすると、架橋モノマーの分子量は比較的大きいことが好ましい。具体的には、分子量が300〜2000、中でも400〜1500が、その中でも特に500〜1000である架橋モノマー(オリゴマーを含む)が好ましい。
なお、「オリゴマー」とは、JIS−K6900による定義では「1種又はそれ以上の種類の原子または原子団(構成単位)の少数が互いに繰り返し連結されたものを含む分子からなる物質」とされ、また、高分子大辞典によれば「この定義は、必ずしも絶対的な重合度や分子量でポリマーとオリゴマーを区別するものではない」とされている。一般的にモノマーとオリゴマーの場合も区別は不明確であり、分子中に構成単位の繰り返しがあってもモノマーと呼称する場合もあるから、本明細書では、モノマーとオリゴマーとは区別せず、「モノマー」と記載した場合でも「オリゴマー」を包含するものとする。
【0025】
架橋モノマーの含有量は、上記貯蔵剪断弾性率が所定範囲内に入るように調整するのが好ましく、一般的にはベースポリマー100質量部に対し0.01〜40.0質量部、特に好ましくは0.1〜40.0質量部、中でも1.0〜30.0質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0026】
(架橋開始剤)
架橋開始剤は、光開始剤或いは熱重合開始剤を用いることが可能であり、特に光開始剤が好ましい。
光開始剤としては、開裂型の光開始剤及び水素引抜型の光開始剤のいずれを用いることもでき、中でも水素引抜型光開始剤が好ましい。水素引抜型と開裂型とを種々の割合で併用してもよい。
水素引抜型光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、イソブチルチオキサンソンなどのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合わせからなる混合成分を用いることができる。但し、水素引抜型の光開始剤として前記に挙げた物質に限定するものではない。
【0027】
架橋開始剤の添加量は、上記貯蔵剪断弾性率が所定範囲内に入るように調整するのが好ましく、一般的にはベースポリマー100質量部に対し0.05〜5.0質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0028】
(可塑剤)
可塑剤は、必ずしも必須の成分ではないが、目的に応じて配合するのがよい場合もある。すなわち、可塑剤の種類と量を調整することにより緩衝力を調整することができ、貯蔵剪断弾性率を全体的に下げることができるため、貯蔵剪断弾性率を所望範囲に調整するためには可塑剤を配合する方が調整し易い場合がある。
【0029】
可塑剤としては、凝固点が−20℃以下の液状のもの、特に凝固点−80〜−40℃の液状のものが好ましく、例えばアジピン酸エステル系、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系可塑剤のいずれか或いはこれら二種類以上の組合わせからなる混合物を使用することができ、ベースポリマーである(メタ)アクリル酸エステル系重合体ポリマーに相溶するものが好ましい。但し、可塑剤として前記に挙げた物質に限定するものではない。また、紫外線光架橋する場合には、紫外線を吸収しない可塑剤を用いるのが好ましい。
【0030】
可塑剤の配合量は、少なくとも上記貯蔵剪断弾性率が所定範囲から外れないように調整しつつ設定すればよく、一般的にはベースポリマー100質量部に対し1〜150質量部、好ましくは10〜100質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0031】
(他の添加剤)
上記成分のほか、必要に応じて、近赤外線吸収特性を有する顔料や染料などの色素、粘着付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、吸湿剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズなどの各種の添加剤を適宜配合することもできる。
【0032】
(A層の物性)
A層は、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Paを超えて1.0×105Pa以下の範囲内にあり、且つ周波数10-3Hzにおけるtanδ(=損失剪断弾性率/貯蔵剪断弾性率)が1.0×10-1以下である物性を備えることが好ましい。
このように低周波数領域において貯蔵剪断弾性率(G’)の絶対値を大きくすると同時に、損失剪断弾性率(G”)の絶対値を小さくして両者の差をより大きくすることによって、外力、特に低速での押圧による凹み変形に対する回復性を高めると共に、永久歪みを残り難くすることができる。例えば粘着シートを介して貼り合わせたものの表面、特にA層及びB層の2層からなる場合にはA層側の表面が変形し難く、変形しても凹みが短時間で回復して歪みが残り難くなる。
逆に、周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれかにおいて、貯蔵剪断弾性率が1.0×105Paより大きいと、柔軟性が劣り被着体へのぬれ性が悪くなってしまう。また、周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれかにおいて、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Paより小さいと、押圧により変形し易くなり、凹み回復性に劣るものとなってしまう。また、周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Pa〜1.0×105Paの範囲内であっても、10-3Hzにおけるtanδが1.0×10-1より大きいと、押圧による凹み変形の回復性が充分でなく永久歪みが残り易くなってしまう。
かかる観点から、貯蔵剪断弾性率は、周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても1.0×104Paを超えて1.0×105Pa以下であるのが好ましく、2.0×104Pa〜1.0×105Paであるのが特に好ましい。
また、10-3Hzにおけるtanδは1.0×10-1以下であるのがより好ましく、特に8.0×10-2以下、中でも特に2.0×10-2以下であるのが好ましい。
【0033】
A層は、さらに、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hzにおけるtanδが4.0×10-1以下であることが好ましく、3.5×10-1以下であるのがより好ましい。
【0034】
また、20℃基準マスターカーブの周波数103Hz〜104Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が3.0×104Pa〜6.0×106Paの範囲に入るものがさらに好ましい。
周波数103Hz〜104Hz域の貯蔵剪断弾性率は耐衝撃性に影響し、かかる周波数域の貯蔵剪断弾性率を3.0×104Pa〜6.0×106Paの範囲に調整することにより、A層の耐衝撃性についても好適なものとすることができる。
この際、周波数103Hz〜104Hz域の貯蔵剪断弾性率を上記所定範囲内にするためには、例えばベース樹脂のガラス転移温度(Tg)や、必要に応じて可塑剤の含有量を調整すればよいが、この方法に限定されるものではない。
【0035】
<B層>
B層は、20℃基準マスターカーブの周波数10-3Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が5.0×102Pa〜1.0×104Paの範囲内にある物性を備えた層であるのが好ましい。
【0036】
B層は、ガラス転移温度(Tg)が比較的高いベースポリマーを用いて、比較的低密度に架橋させるようにして形成するのが好ましい。例えば、以下に説明するベースポリマーと、架橋モノマーと、架橋開始剤と、必要に応じて可塑剤などの添加剤とから粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を架橋して、動的粘弾性を特定範囲内に調整することによって得ることができる。
【0037】
(ベースポリマー)
B層に用いることが可能なベースポリマーとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体が挙げられる。
但し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体以外の樹脂を全て除外する意図ではなく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体以外の樹脂であっても、これと同様の結果が得られる樹脂が存在することは想定できる。
【0038】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体を形成するために用いる(メタ)アクリレート、即ち、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレート成分としては、アルキル基がn−オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、n−ブチル、イソブチル、メチル、エチル、イソプロピルのうちのいずれか1つであるアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートの1種又はこれらから選ばれた2種以上の混合物であるのが好ましい。
その他の成分として、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基等の有機官能基を有するアクリレート又はメタクリレートを共重合させても良い。具体的には、前記アルキル(メタ)アクリレート成分と有機官能基を有する(メタ)アクリレート成分とを適宜に選択的に組み合わせたモノマー成分を出発原料として加熱重合して(メタ)アクリル酸エステル系共重合体ポリマーを得ることができる。
【0039】
中でも好ましくは、イソ−オクチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートの1種又はこれらから選ばれた2種以上の混合物か、或いは、α、β不飽和カルボン酸を含有した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、例えばイソ−オクチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等から少なくとも1種類以上と、アクリル酸とを共重合させたものを挙げることができる。
【0040】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−30℃以上であるのが好ましく、特に−30℃〜10℃であるのが好ましく、中でも特に−25℃〜0℃であるのが好ましい。上述したように、B層のベースポリマーのガラス転移温度は、A層のベースポリマーのガラス転移温度よりも高温であるのが好ましい。
また、ベースポリマーの130℃における溶融粘度は5万mPa・s以上、特に10万mPa・s〜50万mPa・s、中でも特に20万mPa・s〜40万mPa・sであるのが好ましい。
なお、これらのガラス転移温度(Tg)及び溶融粘度は、前記同様に測定することができる。
【0041】
(架橋モノマー)
架橋モノマーとしては、アクリル系架橋モノマーを用いるのが好ましく、A層に用いる架橋モノマーと同様のものを好適に用いることが出来る。
【0042】
粘弾性特性を所望範囲に調整する観点からすると、B層を構成する架橋モノマーの分子量は、例えば300〜2000、中でも400〜1500、その中でも特に500〜1000であるのが好ましい。
【0043】
架橋モノマーの含有量は、上記貯蔵せん断弾性率が所定範囲内に入るように調整すればよいが、一般的にはベースポリマー100質量部に対し0.01〜30.0質量部、好ましくは0.1〜30.0質量部、中でも1.0〜20.0質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0044】
(架橋開始剤)
架橋開始剤としては、光開始剤或いは熱重合開始剤を挙げることができるが、光開始剤が好ましい。
光開始剤としては、開裂型の光開始剤及び水素引抜型の光開始剤のいずれを用いることもできるが、好ましくは水素引抜型であり、例えばベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、イソブチルチオキサンソンなどのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合わせからなる混合成分を用いるのが好ましい。但し、水素引抜型の光開始剤として前記に挙げた物質に限定するものではない。
また、水素引抜型と開裂型とを種々の割合で併用してもよい。
【0045】
架橋開始剤の添加量は、上記貯蔵せん断弾性率が所定範囲内に入るように調整すればよいが、一般的にはベースポリマー100質量部に対し0.05〜5.0質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0046】
(可塑剤)
可塑剤は、必ずしも必須の成分ではないが、目的に応じて配合するのがよい場合もある。すなわち、可塑剤の種類と量を調整することにより緩衝力を調整することができ、貯蔵剪断弾性率を全体的に下げることができるため、貯蔵剪断弾性率を所望範囲に調整するためには可塑剤を配合する方が調整し易い場合がある。
【0047】
可塑剤としては、凝固点が−20℃以下の液状のもの、特に凝固点−80〜−40℃の液状のものが好ましく、例えばアジピン酸エステル系、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系可塑剤のいずれか或いはこれら二種類以上の組合わせからなる混合成分を使用することができ、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体ポリマーに相溶するものが好ましい。また、紫外線光架橋する場合には、紫外線を吸収しない可塑剤を用いるのが好ましい。
【0048】
可塑剤の配合量は、少なくとも上記貯蔵せん断弾性率が所定範囲から外れないように調整しつつ設定すればよく、一般的にはベースポリマー100質量部に対し1〜150質量部、好ましくは10〜100質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0049】
(他の添加剤)
上記成分のほか、必要に応じて、近赤外線吸収特性を有する顔料や染料などの色素、粘着付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、吸湿剤、天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズなどの各種の添加剤を適宜配合することもできる。
【0050】
(B層の物性)
B層は、20℃基準マスターカーブによる貯蔵せん断弾性率が、周波数10-3Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が5.0×102Pa〜1.0×104Pa、好ましくは1.0×103Pa〜1.0×104Paの範囲内に入るように架橋するのが好ましい。かかる物性を備えたB層であれば、たとえ被着面上に粒径50μm〜60μm程度の微粒子が存在したとしても、当該被着面に本粘着シートを積層すれば、特にA層及びB層の2層からなる場合にはB層側を被着面に重ねて積層すれば、前記微粒子を取り込むように濡れるため、前記微粒子周囲において目視にて視認可能な気泡の発生を抑えることができる。
【0051】
また、B層は、10-3Hzにおけるtanδが1.0×100以下であるのが好ましく、特に5.0×10-1以下であるのが特に好ましい。
さらに、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hzにおけるtanδが1.0×100以下であることが好ましく、特に8.0×10-1以下であるのがより好ましい。
【0052】
さらにB層は、20℃基準マスターカーブによる貯蔵せん断弾性率が、周波数103Hz〜104Hzのいずれにおいても、3.0×104Pa〜4.0×106Paの範囲に入るものがさらに好ましい。
周波数103Hz〜104Hz域の貯蔵せん断弾性率は耐衝撃性に影響し、かかる周波数域の貯蔵せん断弾性率を3.0×104Pa〜4.0×106Paの範囲にすることにより、耐衝撃性を好適なものとすることができる。
【0053】
(A層及びB層の製造方法)
A層及びB層はそれぞれ、例えば、ベースポリマーに、架橋モノマー及び架橋開始剤、必要に応じて可塑剤、その他の添加剤を添加して粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を加熱溶融してホットメルトコーターにて離型フィルムの離型面上に塗布し、離型フィルム間に挟んで積層シートとし、その後、この積層シートを加熱或いは光照射するなどして前記粘着剤組成物を架橋させることにより、離型フィルムに挟まれた状態の粘着シート(A層形成用粘着シート或いはB層形成用粘着シート)として作製することができる。
光架橋する場合には、例えば高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等を用いて光照射すればよい。
【0054】
このような製造方法において、A層形成用粘着シートの粘弾性特性を所望範囲に調整するためには、例えば、ベースポリマーとしてガラス転移温度が−20℃以下、好ましくは−80℃〜−30℃未満の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を用い、架橋モノマーとして分子量300〜2000のアクリル系架橋モノマーを用い、必要に応じて可塑剤を配合すると共に、アクリル系架橋モノマーの量、架橋開始剤の量、架橋度などを調整しながら粘着剤組成物を架橋することにより、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Paを超えて1.0×105Pa以下の範囲内の値を示し、且つ周波数10-3Hzにおけるtanδが1.0×10-1以下の値を示す粘着シートを作製すればよい。但し、この方法に限定されるものではない。
A層は、ガラス転移温度(Tg)が比較的低いベースポリマーを用いて、比較的高密度に架橋させるようにして形成するのが好ましい。この際、架橋度は、光架橋であれば、積算光量を変化させることによっても調整することができる。
【0055】
他方、B層形成用粘着シートの粘弾性特性を所望範囲に調整するためには、例えば、ベースポリマーとしてガラス転移温度が−30℃以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を用い、架橋モノマーとして有機官能基含有(メタ)アクリレートモノマーを用い、必要に応じて可塑剤を配合すると共に、アクリル系架橋モノマーの量、架橋開始剤の量、架橋度などを調整しながら粘着剤組成物を架橋することにより、20℃基準マスターカーブの周波数10−3Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が5.0×102Pa〜1.0×104Paの範囲内の値を示す粘着シートを作製すればよい。但し、この方法に限定されるものではない。
B層は、A層よりもガラス転移温度(Tg)が高いベースポリマーを用いて、比較的低密度に架橋させるようにして形成するのが好ましい。この際、架橋度は、光架橋であれば、積算光量を変化させることによっても調整することができる。
【0056】
(積層構成)
本粘着シートは、A層とB層の2層を備えた粘着シートであればよく、例えば、A層及びB層からなる2種2層、A層/B層/A層或いはB層/A層/B層の順に積層してなる2種3層、或いはA層/B層/A層/B層からなる2種4層の積層構成を例示することができる。中でも、A層及びB層からなる2種2層、B層/A層/B層の順に積層してなる2種3層の積層構成が特に好ましい。
必要に応じてA層、B層間に両層以外の層が介在してもかまわない。
【0057】
なお、A層およびB層の積層方法は、架橋度をそれぞれ調整するのが好ましいから、この点を考慮すると、各層を形成する粘着シートをそれぞれ形成し、これらの粘着シートを貼り合わせるのが好ましい。この際、粘着シートを貼り合わせた後、再度光線照射するなどして架橋させ、粘弾性特性の最終調整をするようにしてもよい。それぞれ架橋してA層形成用粘着シート及びB層形成用粘着シートを作製し、別々に架橋した粘着シートを貼り合わせる場合、貼合界面の密着力が弱くなる傾向があるため、密着強度を高めるためにも再び架橋するのが好ましい場合がある。
但し、かかる積層方法に限定するものではない。
【0058】
(厚み)
粘着シート全体の厚み(合計厚み)は、用途や必要に応じて変えるのが好ましいが、ディスプレイ体への用途を考慮すると、50μm〜5mm、特に75μm〜2mm、中でも特に75μm〜1mmの厚みとするのが好ましい。
【0059】
B層の厚み(B層が多層の場合にはその合計厚み)が10μm〜2mmであり、且つ、B層の厚み(B層が多層の場合にはその合計厚み)が粘着シートの合計厚みの半分以下であるのが好ましい。
【0060】
(粘着シートとしての特性)
本粘着シートは、下記凹み回復性試験において、A層は、除荷後10秒以内に凹みが回復して視認可能な歪が残らない凹み回復性を備えており、且つ、
下記異物取込み性試験において、B層は、ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満である異物取込み性を備えたものである。
なお、A層及びB層がこのような特性を備えているかどうか調べるには、例えばA層及びB層の2層からなる場合であれば、粘着シートのA層側及びB層側について凹み回復性試験及び異物取込み性試験を行うことによって調べることができる。
本粘着シートにおいて、B層の凹み回復性並びにA層の異物取込性は任意である。
【0061】
本粘着シートは、上記のように凹み回復性と異物取り込み性とを兼ね備えており、本粘着シートを介してPDP等のディスプレイパネルに光学フィルムを貼り合わせれば、特にB層をディスプレイパネルに重ねるように貼り合わせれば、画面表面を指などで押圧しても変形し難く変形しても凹みが回復し易いばかりか、被着面に異物が存在したとしても、視認可能な気泡の発生を抑えることができる。
【0062】
(用途)
本粘着シートは、複層窓などの各種窓材や各種表示パネル等を構成するガラスの貼り合せ、フラットパネルディスプレイ前面側への光学フィルムの貼り合せ、光学フィルム同士の貼り合せ、ガラスやプラスチック等の透明基材への各種透明フィルムの貼り合せなど、各種透明部材の貼り合せに用いることができる。
中でも、ディスプレイパネル上に光学フィルムを貼り合わせる際、本粘着シートのB層をディスプレイパネルのディスプレイ被着面に重ねるようにして、本粘着シートを介してディスプレイパネル上に光学フィルムを貼り合わせれば、画面表面を指などで押圧しても変形し難く変形しても凹みが回復し易いと共に、被着面に異物が存在したとしても、視認可能な気泡の発生を抑えることができる。しかも、視認性の低下を防ぐことができ、しかもリジッドな保護板を介在させる必要もないから軽量化を図ることが出来る。
よって、例えば本粘着シートを介してガラス板を積層してなる構成を備えた複層窓材や、本粘着シートのB層をディスプレイ被着面に貼着して、本粘着シートをディスプレイパネルに積層してなる構成を備えたディスプレイ体などを提供することができる。
【0063】
(用語の説明)
なお、本発明において「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含するものである。特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、その成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)が組成物中で50質量%以上、特に70質量%以上、中でも90質量%以上(100%含む)を占めるものである。
また、本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0064】
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JISK6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において「粘着シート」とは、粘着剤組成物からなる粘着層を備えたシートを意味し、粘着剤組成物とは、粘着性を有する組成物を意味する。
また、本発明において「ディスプレイ体」とは、液晶ディスプレイ、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの各種ディスプレイ(画像表示装置)の画面を構成する積層パネル乃至シートを意味する。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を挙げてより具体的に説明する。
なお、以下において「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0066】
<貯蔵剪断弾性率G’、損失剪断弾性率G”、Tanδの測定>
A層およびB層の貯蔵剪断弾性率G′は、下記のようにして測定した。
粘弾性測定装置ダイナミックアナライザー(レオメトリックス社製「RDAII」)を用いて、以下の条件で測定した。
・温度:−50〜200℃
・角振動数:ω=0.05〜500rad/sec
・パラレルプレート:25mmφ
・歪み量:3%
【0067】
RDAII で20℃を基準温度として温度−時間換算のマスターカーブを作成し、周波数f値は、下記式(1)から算出し、周波数10-5Hz、10-3Hz、10-1Hz、103Hz及び104Hzにおける貯蔵弾性率G'、損失剪断弾性率G”をグラフ上から読み取り、Tanδ(=G”/G')を算出した。
f(Hz)=ω/(2π)・・(1)
【0068】
<積算光量の測定>
ウシオ電機製紫外線積算光量計「UIT−150」に受光器「UVD-S365」を取付けて波長365nmの積算光量を測定した。
【0069】
(実施例1)
アクリル酸エステル共重合体ポリマー(1):100質量部に対し、光開始剤としてLamberti社製の商品名「Esacure TZT」(2,4,6−トリメチルベンゾフェノンと4−メチルベンゾフェノンの混合品):0.8質量部と、架橋モノマー(A):20.0質量部とを添加して溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン離型PETの離型面上に、厚さ100μmになるようにホットメルトコーターを用いて塗布し、その上に、厚さ50μmのシリコーン離型PETを積層させ、高圧水銀ランプを用いて片面積算光量2,000mJ/cm2の紫外線エネルギー(波長365mm換算)を両面側から照射して架橋させて、A層形成用粘着シートを得た。
【0070】
これとは別に、アクリル酸エステル共重合体ポリマー(2):100部に対し、光開始剤として日本シイベルヘグナー社製の商品名「Esacure TZT」:0.8部と、A層と同じ架橋モノマー(A):10.0部とを添加して溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン離型PETの離型面上に、厚さ0.05mmになるようにホットメルトコーターを用いて塗布し、その上に、厚さ50μmのシリコーン離型PETを積層させ、高圧水銀ランプを用いて片面積算光量1,000mJ/cm2の紫外線エネルギー(波長365mm換算)を両面側から照射して架橋させて、B層形成用粘着シートを得た。
【0071】
それぞれ得たA層形成用粘着シート及びB層形成用粘着シートの一面側の離型フィルムを剥離してお互いに貼り合わせた後、高圧水銀ランプを用いて離型PET越しに片面の積算光量1000mJ/cm2を表裏両面側から照射させて積層粘着シート(A層厚さ:0.1mm、B層厚さ:0.05mm)を得た。
【0072】
なお、アクリル酸エステル共重合体ポリマー(1)の組成は、n−ブチルアクリレート:78.4質量%、2−エチルヘキシルアクリレート:19.6質量%、アクリル酸:2質量%を共重合させたもので、Tgは−35℃、130℃溶融粘度は17.5万mPa・secであった。
アクリル酸エステル共重合体ポリマー(2)の組成は、2−エチルヘキシルアクリレート:77質量%、アクリル酸:4質量%、酢酸ビニル:19質量%を共重合させたもので、Tgは−15℃、130℃溶融粘度は33万mPa・secであった。
用いた架橋モノマー(A)は、分子量530の3官能アクリレートモノマーを主成分とする、単官能〜4官能アクリレートモノマーの混合物であった。
【0073】
(実施例2)
実施例1において、A層形成用粘着シートとして次の粘着シートを用いた以外、実施例1と同様に積層粘着シート(A層厚さ:0.25mm、B層厚さ:0.05mm)を得た。
【0074】
アクリル酸エステル共重合体ポリマー(3):100質量部に対し、光開始剤としてLamberti社製の商品名「Esacure TZT」(2,4,6−トリメチルベンゾフェノンと4−メチルベンゾフェノンの混合品):0.8質量部と、実施例1と同じ架橋モノマー(A):20.0質量部と、架橋モノマー(B):5.0質量部とを添加して溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン離型PETの離型面上に、厚さ250μmになるようにホットメルトコーターを用いて塗布し、その上に、厚さ50μmのシリコーン離型PETを積層させ、高圧水銀ランプを用いて片面積算光量3,000mJ/cm2の紫外線エネルギー(波長365mm換算)を両面側から照射して架橋させて、A層形成用粘着シートを得た。
【0075】
用いたアクリル酸エステル共重合体ポリマー(3)の組成は、n−ブチルアクリレート:50質量%、2−エチルヘキシルアクリレート:50質量%を共重合させたもので、Tgは−43℃、130℃溶融粘度は21.7万mPa・secであった。
また、用いた架橋モノマー(B)は、新中村化学工業社製のポリテトラメチレングリコール#650ジアクリレート(商品名「NKエステルA−PTMG65」、分子量775)であった。
【0076】
(実施例3)
実施例1において、A層形成用粘着シートとして次の粘着シートを用いた以外、実施例1と同様に積層粘着シート(A層厚さ:0.25mm、B層厚さ:0.05mm)を得た。
【0077】
実施例2と同じアクリル酸エステル共重合体ポリマー(3):100質量部に対し、光開始剤としてLamberti社製の商品名「Esacure TZT」(2,4,6−トリメチルベンゾフェノンと4−メチルベンゾフェノンの混合品):3.0質量部と、実施例1と同じ架橋モノマー(A):20.0質量部と、他の添加剤としてモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(旧GE東芝シリコーン)社製のシランカップリング剤 商品名「TSL8375」(γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン):1.0質量部とを添加して溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン離型PETの離型面上に、厚さ250μmになるようにホットメルトコーターを用いて塗布し、その上に、厚さ50μmのシリコーン離型PETを積層させ、高圧水銀ランプを用いて片面積算光量1,000mJ/cm2の紫外線エネルギー(波長365mm換算)を両面側から照射して架橋させて、A層形成用粘着シートを得た。
【0078】
(比較例1)
2−エチルヘキシルアクリレートを成分としたベースポリマー(130℃溶融粘度:16万mPa・sec、Tg:−43℃)100部に対し、光開始剤として日本シイベルヘグナー社製の商品名「Esacure TZT」:1.3部と、架橋モノマーとして大阪有機化学社製の商品名「ビスコートV#260(1,9−ノナンジオールジアクリレート、分子量267)」:0.1部、柔軟化のため可塑剤DIDP(ジイソデシルフタレート)26.0部、吸湿剤として日本アエロジル社製の商品名「アエロジル300」:4.0部とを添加して溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ100μmのシリコーン離型PETの離型面上に、厚さ0.5mmになるようにホットメルトコーターを用いて塗布し、その上に、厚さ38μmのシリコーン離型PETを積層させ、高圧水銀ランプを用いて片面積算光量1,000mJ/cm2の紫外線エネルギー(波長365mm換算)を両面側から照射して架橋させて、透明粘着シートを得た。
【0079】
(比較例2)
綜研化学社製の粘着剤
商品名「SKダイン1882」の主剤原液(不揮発分15.5〜17.5%、溶剤組成:酢酸エチル、MEKその他):100質量部に対し、イソシアネート系硬化剤「L−45」:0.185質量部と、エポキシ系硬化剤「E−5XM」:0.05質量部とを添加して攪拌混合して粘着剤組成物を調製した。
この粘着剤組成物を、厚さ75μmのシリコーン離型PETの離型面上に、ドライ厚さ20μmになるようバーコーターを用いて塗布した後、乾燥機内に90℃で3分間静置、乾燥し、その上に、厚さ50μmのシリコーン離型PETを積層し、さらに室温で7日間熟成させて粘着シートを得た。
こうして得た粘着シートの一面側の離型フィルムを剥離して、ハンドロールにて粘着面同士を気泡無く貼り合わせるようにして、厚さ20μmの粘着シートを10枚重ねて総厚200μmの粘着シートを得た。
【0080】
【表1】

【0081】
なお、表1には、周波数10-5Hz、10-3Hz、10-1Hz、103Hz及び104Hzにおける各貯蔵弾性率G'を示した。どの実施例について見ても、周波数10-5Hz〜10-1Hzの周波数の貯蔵弾性率G'は、周波数10-5Hzの貯蔵弾性率G'と周波数10-1Hzの貯蔵弾性率G'との間の値にあった。また、周波数10-5Hz〜10-3Hzの周波数の貯蔵弾性率G'は、周波数10-5Hzの貯蔵弾性率G'と周波数10-3Hzの貯蔵弾性率G'との間の値にあった。さらにまた、周波数103Hz〜104Hzの周波数の貯蔵弾性率G'は、周波数103Hzの貯蔵弾性率G'と周波数104Hzの貯蔵弾性率G'との間の値にあった。
【0082】
<試験1:凹み回復性>
上記実施例で得られた粘着シートのA層側の凹み回復性を次の方法で測定し、比較例で得られた粘着シートの凹み回復性と比較した。
【0083】
10cm×10cmのソーダライムガラス(厚みmm)の上に、実施例及び比較例で得られた粘着シートを貼り合せ(実施例の場合には、B層をガラスに重ねて貼り合せた)、さらに該粘着シート上に、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡製コスモシャインA4300)を貼り合わせて試験試料とした。
この試験試料のPET面上に、重さ534gの鋼球を静かに載せて30秒間静置した後、除荷して凹みの回復具合を目視観察し、次の基準で評価した。
【0084】
○:除荷後、10秒以内に凹みが回復し視認可能な歪が残らなかったもの。
×:除荷後、10秒以内に凹みが回復せず視認可能な歪が生じたもの。
【0085】
<試験2:異物取込み性>
上記実施例で得られた粘着シートのB層側の異物取込み性を次の方法で測定し、比較例で得られた粘着シートの異物取込み性と比較した。具体的には、実施例で得られた粘着シートを基材(ソーダライムガラス)に貼着し(実施例の場合には、B層をガラスに重ねて貼着した)、該基材(被着体)との界面に異物が存在した場合において、気泡発生の状況を観察し評価した。
【0086】
10cm×の10cmソーダライムガラス(厚み3mm)上に、粒子径50μm程度相当の微粒子として、粒子径50μm以上60μm未満のガラスビーズを振りまき、さらにその上に、予め各粘着シート(実施例又は比較例で得られたもの)を透明なPETフィルム(厚み100μm)に貼り合せて(実施例の場合には、A層をPETフィルムに重ねて貼り合せた)該ガラスと同サイズにカットしたものを、740gのハンドロールを用いて、加圧しないように注意しながら加熱することなく貼り合わせて観察試料とした。この際、実施例の粘着シートの場合には、B層をガラスに重ねて貼着した。
この観察試料を室温、常圧下の環境下で静置し、貼合直後(30分以内)に、ガラスビーズの周囲において外観上の不具合となる気泡が生じていないかマイクロスコープ(キーエンス社製)にて調べた。そして、次の基準で評価した。
【0087】
○:ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満であったもの。
×:ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍を超えたもの。
【0088】
【表2】

【0089】
(試験結果)
上記試験1及び2の結果は表2のとおりである。
これより、実施例1−3の粘着シートはいずれも、A層側は、除荷後10秒以内に凹みが回復して視認可能な歪が残らない凹み回復性を備えている一方、B層側は、ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満である異物取込み性を備えており、粘着シート全体として凹み回復性と異物取り込み性の両方を兼ね備えていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一例に係る粘着シートを介して、ディスプレイパネル上に光学フィルムを貼り合わせてなる構成の一例を、分解状態で示した断面図である。
【図2】同じく、本発明の他例に係る粘着シートを介して、ディスプレイパネル上に光学フィルムを貼り合わせてなる構成の一例を、分解状態で示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層とB層の2層を備えた粘着シートであって、
A層およびB層のいずれも、1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含むベースポリマーと、アクリル系架橋モノマーと、架橋開始剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる層であって、
A層は、下記凹み回復性試験において、除荷後10秒以内に凹みが回復して視認可能な歪が残らない凹み回復性を備えており、且つ、
B層は、下記異物取込み性試験において、ガラスビーズの周囲に生じた気泡サイズ(直径)がそのガラスビーズのサイズ(直径)の2倍未満である異物取込み性を備えたものであることを特徴とする粘着シート。
(凹み回復性試験)
10cm×10cmのソーダライムガラスに粘着シートを貼り合せ、該粘着シート上に、厚さ100μmのPETフィルムを貼り合わせて試験試料を作製し、この試験試料のPET面上に、重さ534gの鋼球を静かに載せて30秒間静置した後、除荷して凹みの回復具合を目視観察する。
(異物取込み性試験)
10cm×10cm、厚み3mmのソーダライムガラス上に、粒子径50μm以上60μm未満のガラスビーズを振りまき、さらにその上に、予め粘着シートをPETフィルム(厚み100μm)に貼り合せて該ガラスと同サイズにカットしたものを、740gのハンドロールを用いて加熱することなく貼り合わせ、室温、常圧下の環境下で静置し、貼合後30分以内にガラスビーズの周囲の気泡の発生をマイクロスコープを用いて観察する。
【請求項2】
少なくともA層とB層の2層を備えた粘着シートであって、
A層は、20℃基準マスターカーブの周波数10-1Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が1.0×104Paを超えて1.0×105Pa以下の範囲内にあり、且つ周波数10-3Hzにおけるtanδが1.0×10-1以下である物性を備えた粘着層であり、
B層は、20℃基準マスターカーブの周波数10-3Hz〜10-5Hzのいずれにおいても、貯蔵剪断弾性率が5.0×102Pa〜1.0×104Paの範囲内にある物性を備えた粘着層であることを特徴とする請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
A層のベースポリマーのガラス転移温度は、B層のベースポリマーのガラス転移温度よりも低温であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
B層の厚みが10μm〜2mmであり、且つ、B層の厚みが粘着シートの合計厚みの半分以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の粘着シート。
【請求項5】
上記のB層をディスプレイ被着面に貼着することにより、請求項1〜4の何れかに記載の粘着シートをディスプレイパネルに積層してなる構成を備えたディスプレイ体。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の粘着シートを介してガラス板を積層してなる構成を備えた複層窓材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−227891(P2009−227891A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77431(P2008−77431)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】