説明

粘着性フィルム剥離方法

【課題】粘着性フィルムを介して接着された第一の基材と第二の基材とを、これらの基材に対してできるだけ物理的な外的負荷をかけずに剥離することができる剥離方法を提供する。
【解決手段】粘着性ポリマーと、その中に分散した加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む粘着性フィルムによって接着された第一の基材と第二の基材との剥離方法であって、
前記粘着性フィルムを金属水酸化物もしくは金属塩水和物が分解して脱水する温度に加熱し、剥離を促進する工程を含む、剥離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性フィルムで貼り合わされた第一の基材と第二の基材との剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、第一の基材、たとえば、プラズマディスプレイパネルなどのディスプレイパネルと、第二の基材、たとえば、ディスプレイ設置用シャーシとの接着には、粘着性フィルムが用いられている。現在、接着された基材を含む製品を長年使用した後に、粘着性フィルムを容易かつきれいに除去し、各基材を構成する部品に分離することが求められている。たとえば、ディスプレイパネルと、シャーシとの分離には、以下のような方法が取られている。
(1)200℃前後の加熱や有機溶剤によって、粘着剤の凝集力を低下させ、捻るなどの物理的、外的負荷をかけることで剥離する。
(2)ディスプレイパネルとシャーシとの間にワイヤーや糸などを挿入し、粘着性フィルムを切断し、分離する。
(3)粘着性フィルム片を短冊状に配置し、側面からそれを引き抜くことで分離する。
(4)特許文献1(特開2004−69766号公報)及び特許文献2(特開2004−309551号公報)は、ディスプレイパネルと支持プレートの間に、それらを支持する粘着テープを有し、その粘着テープが端部を引っ張ることで支持プレートから剥離可能である、ディスプレイ装置を開示している。
【0003】
上述の方法(1)の場合、ディスプレイパネル及びシャーシに少なからず負荷がかかってしまうため、剥離時にディスプレイパネルが破損したり、シャーシが著しく変形してしまうことがある。また、熱や有機溶剤による凝集力の低下が有効である時間内に剥離作業を行わねばならず、時間的な制約がある。また、方法(2)の場合には、接着剤の凝集力が高く、抵抗力が大きいと、粘着性フィルムを切断しえない場合がある。さらに、方法(3)及び(4)では、粘着性フィルムの抜き取り作業時にフィルム自体が途中で切断されて、粘着性フィルムをうまく引き抜けない場合がある。また、経時による接着力の変化により、安定した効果が得られないなどの問題もある。このように、接着された第一の基材及び第二の基材を剥離しようとするときに、これらの基材が剛性基材であると剥離が非常に困難である。
【0004】
一方、電子機器における放熱特性をも備えた粘着性フィルム又はシートは知られている。特許文献3(特開2002−294192号公報)は難燃剤として水酸化アルミニウム、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウムを含む熱伝導性難燃性感圧接着剤を開示している。しかし、かかる接着剤を熱伝導性粘着性シートとして使用した後に、いかに粘着性シートを剥離するかについては開示がない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−69766号公報
【特許文献2】特開2004−309551号公報
【特許文献3】特開2002−294192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、粘着性フィルムを介して接着された第一の基材と第二の基材とを、これらの基材に対してできるだけ物理的な外的負荷をかけずに、剥離することができる剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりの態様を含む。
(1)粘着性ポリマーと、その中に分散した加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む粘着性フィルムによって接着された第一の基材と第二の基材との剥離方法であって、
前記粘着性フィルムを金属水酸化物もしくは金属塩水和物が分解して脱水する温度に加熱し、剥離を促進する工程を含む、剥離方法。
【0008】
(2)前記第一の基材及び第二の基材は剛性基材である、上記(1)記載の方法。
【0009】
(3)前記第一の基材はディスプレイパネルであり、前記第二の基材はディスプレイ設置用シャーシである、上記(2)記載の方法。
【0010】
(4)前記加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム水和物、二水和石こう及びホウ酸亜鉛水和物からなる群より選択される、上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の方法。
【0011】
(5)前記加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは粘着剤の質量を基準として20〜70質量%の量で含まれる、上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の方法。
【0012】
(6)前記粘着性ポリマーは(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルエステル系ポリマー、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる、上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の方法。
【0013】
(7)前記粘着性ポリマーは(メタ)アクリル系ポリマーである、上記(6)記載の方法。
【0014】
(8)前記加熱分解性金属水酸化物は水酸化アルミニウムであり、前記粘着性フィルムは250℃以上の温度にまで加熱される、上記(1)〜(7)のいずれか1項記載の方法。
【0015】
本明細書において「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によると、粘着性フィルムを金属水酸化物もしくは金属塩水和物の脱水分解反応温度以上の温度に加熱すると、金属水酸化物もしくは金属塩水和物が分解して、水蒸気が発生し、それにより、粘着性フィルムの剥離を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において、本発明をその好ましい態様に基づいて説明するが、本発明は記載される具体的な態様に限定されるべきでない。
本発明は、1つの態様において、粘着性ポリマーと、その中に分散した加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む粘着性フィルムによって接着された第一の基材と第二の基材との剥離方法であって、
前記粘着性フィルムを金属水酸化物もしくは金属塩水和物が分解して脱水する温度に加熱し、剥離を促進する工程を含む、剥離方法である。
【0018】
本発明の方法は、第一の基材と第二の基材が剛性基材であるときに特に有利である。というのは、基材が可とう性である場合には、基材自体を撓ませながら粘着性フィルムを剥離することができるので、本発明の方法を用いずにも粘着性フィルムを剥離することが比較的に容易である。しかし、基材が剛性である場合には粘着性フィルムの剥離が困難であるから、本発明の有用性が増す。
【0019】
粘着性フィルムは、粘着性ポリマーと、加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む。粘着性ポリマーは、第一の基材(たとえば、ディスプレイパネル)と第二の基材(たとえば、シャーシ)を接合するための接着力を粘着性フィルムに与え、また、基材を含む製品の使用条件及び剥離操作条件に耐えることができるものであれば限定されない。粘着性ポリマーは、たとえば、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルエステル系ポリマー、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、又は、ポリアクリロニトリルであることができ、これらは2種以上組み合わせて使用されてもよい。粘着性ポリマーは、使用時における耐候性及び粘着性や、剥離操作時の加熱に耐えることができる耐熱性などの観点から、好ましくは、(メタ)アクリル系ポリマーである。
【0020】
以下において、好ましい粘着性ポリマーとして、(メタ)アクリル系ポリマーについて記載する。使用される(メタ)アクリル系ポリマーは特に限定されず、従来から粘着剤に用いられるものが使用できる。このような(メタ)アクリル系ポリマーとしては、アルキル基中に1〜12個の炭素原子を有する1種以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル(以下において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」ともいう)モノマーと、このモノマーと共重合可能な極性モノマーとのコポリマーが挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このようなモノマーは得られる粘着剤にタックを付与するように作用する。一方、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと共重合可能な極性モノマーは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を含有するモノマーや、アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等の窒素を含有するモノマーが挙げられる。このような極性モノマーは粘着剤の凝集力及び接着力を向上させるように作用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと、極性モノマーとの割合は、限定するわけではないが、一般に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー100質量部当たり1〜20質量部である。
【0022】
粘着剤に用いられる(メタ)アクリル系ポリマーは、所望により、架橋されてよい。架橋は、通常、使用するモノマーの合計質量を基準として、約0.05〜1質量%の量で使用され、それにより、粘着剤のせん断接着性を高めることができる。架橋剤としては、多官能性アクリレート、例えば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、1,2-エチレングリコールジアクリレート及び1,12-ドデカンジオールジアクリレートのような架橋性モノマーを用いることができる。また、他の架橋剤としては、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-p-メトキシスチレン-5-トリアジン等の置換トリアジン、4-アクリルオキシベンゾフェノンのようなモノエチレン系不飽和芳香族ケトン等が挙げられる。
【0023】
通常、粘着剤の(メタ)アクリル系ポリマーは、上記のモノマーの重合を、通常のラジカル重合法、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合又はバルク重合により行うことにより得られる。重合法は、好ましくは、適当な重合開始剤の存在において光重合法に従って行うことができる。さらに好ましくは、本発明に使用される前記(メタ)アクリル系ポリマーは、上記モノマーに対して紫外線(UV)等を照射することにより重合させることによって得ることができる。適当な重合開始剤としては、例えばベンゾインエーテル、例えばベンゾインメチルエーテル又はベンゾインイソプロピルエーテル、置換ベンゾインエーテル、例えば、アニソールメチルエーテル、置換アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン及び2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等を挙げることができる。このような重合開始剤の量は一般にモノマーの混合物100質量部にして0.01〜5質量部の量で使用するのが好ましい。
【0024】
また、紫外線(UV)等による光重合では、窒素などの不活性ガスの雰囲気下にて溶存酸素を除去したモノマーの混合物を、適切な光開始剤および必要に応じて架橋剤とともにキャリアーとなる支持体上に塗布し、紫外線を照射することにより重合を行うことができる。なお、支持体上への塗布性を良好にするために、適切な粘度の粘性液体(シロップ)になるまでモノマーを紫外線により、予備重合してから、支持体上に塗布し、その後、さらに紫外線を照射して重合を完了させることが便利である。
【0025】
本発明の方法に用いる粘着性フィルムは、加熱により脱水分解を起こす金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは、加熱時に脱水分解によって水蒸気を発生し、それにより、粘着性フィルムの剥離を容易にすることができるという、本発明の効果を発揮することができる限り、限定されない。好ましくは、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、ドーソナイト(NaAl(CO)(OH))、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al・6HO))、二水和石こう(CaSO・2HO)、ホウ酸亜鉛水和物(2ZnO・3B・3.5HO)である。二水和石こうは熱分解温度が150℃であるから、接合された基材を含む製品が使用時に加熱される用途、たとえば、プラズマディスプレイ用途には適さないかもしれない。しかし、使用時に温度上昇を伴なわない用途の場合には、比較的に低い温度で脱水分解反応を生じるので、剥離のための加熱操作時に粘着剤に含まれる粘着性ポリマーなどの分解を防止することができる。他方、水酸化マグネシウム及びホウ酸亜鉛もしくは金属塩水和物は分解温度が300℃を超えるので、粘着性ポリマー等の成分の分解を生じることがあるので注意を要する。水酸化アルミニウム、ドーソナイト及びアルミン酸カルシウム水和物は200℃〜350℃の適度の熱分解温度を有するので好ましく、水酸化アルミニウムは良好な熱伝導性及び難燃性を有し、かつ低コストで入手可能であるから最も好ましい。
【0026】
金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの粒径は、限定するわけではないが、1〜120μmであることが好ましい。1μm未満であると、粘着剤調製時の粘度上昇の問題が生じ、フィルム化が困難になるおそれがあり、一方、120μmを超えると、フィルム表面の平滑性が失われ、粘着性フィルムの接着力を阻害することがある。ここにいう粒径とは平均粒径を意味する。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは、粘着剤の質量を基準として20〜70質量%の量で含まれる。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの量が少なすぎると、加熱による粘着性フィルムの剥離容易性を発揮することができず、多すぎると、粘着性フィルムの粘着性を阻害することがある。
【0027】
本発明で使用する粘着性フィルムは、上述の金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラー以外に、熱伝導性フィラーをさらに含んでもよい。このような追加の熱伝導性フィラーは、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーとともに組み合わせて用いるときに、粘着性フィルムの熱伝導性を相乗的に向上させることができる。このような熱伝導性フィラーは、好ましくは、50〜120μmの粒径を有する。粒径の大きな熱伝導性フィラーの間の空隙を埋めるように、粒径の小さい金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーが存在することにより、熱伝導性フィラーによる効率的な伝熱を促進することができる。熱伝導性フィラーとしては、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を挙げることができる。
【0028】
金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラー及び場合により存在する熱伝導性フィラーは、粘着剤中に良好に分散されるように、(メタ)アクリル系ポリマーの製造の前又はその間の適切なタイミングで配合される。例えば、上記の紫外線重合において、適切な粘度のシロップになるまでモノマーを一定量の紫外線により予備重合した後に、これらのフィラーをシロップ中に導入し、攪拌し、その後、さらに紫外線を照射して重合を完了させることにより、フィラーを粘着剤中に良好に分散させることができる。
【0029】
追加の熱伝導性フィラーの配合量は、要求される伝熱性にもよるが、通常、粘着剤の質量を基準として40質量%以下である。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラー及び熱伝導性フィラーの合計量は20〜80質量%であることが好ましく、この範囲より多いと、重合完了前の粘性液体の流動性が失われることにより粘着性フィルムの調製が困難になり、或いは、得られる粘着剤の被着体に対する濡れ性が低下し、接着性能に悪影響を及ぼすことがある。また、上記範囲よりも少量であると、加熱時の剥離容易性及び充分な熱伝導性とを両立することが困難になるおそれがある。
【0030】
粘着剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさないかぎり、着色剤、酸化防止剤、安定剤、粘度調節剤等の添加剤を含むことができる。
【0031】
本発明で使用される粘着性フィルムはいずれかの適切な方法によってシート状に成形される。粘着性フィルムは、例えば、上記のように溶液重合により、フィラーを含む(メタ)アクリル系ポリマー溶液を製造したときには、剥離処理を施したプラスティックフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、そして乾燥して溶剤を除去することによりフィルム化される。また、紫外線によるバルク重合においては、予備重合したシロップを上記と同様のフィルム上でさらに紫外線を照射することにより重合を完成させてフィルム化される。フィルムの厚さは特に限定されないが、通常、50μm〜3mmの厚さである。
【0032】
本発明で用いる粘着性フィルムは、加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含み、このため、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの熱分解温度以上の温度に加熱した時に、脱水反応を生じる。このとき、かかる脱水反応は吸熱反応であるから、粘着性フィルムの難燃性にも寄与する。特定の理論に固執するつもりはないが、加熱時に金属水酸化物もしくは金属塩水和物から発生する水蒸気が粘着性フィルムと基材との界面において剥離を促進する応力を加えることによって粘着性フィルムが容易に剥離されるものと考えられる。したがって、剥離の容易性は、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの量に依存することになる。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの量は、多いほうが熱分解による水蒸気発生量が多いので、粘着性フィルムの剥離容易性を発揮することができる。一方、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは、多すぎると、粘着性フィルムの粘着性を阻害することがある。金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの量は、既に上述したとおりである。
【0033】
粘着性フィルムの剥離を容易にするために、粘着性フィルムの温度を金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーの熱分解温度にまで加熱する。たとえば、水酸化アルミニウムは約245℃でその一部がベーマイト転移を生じて脱水を生じ(2Al(OH)→2AlO・OH+2HO)、さらに、約320℃でギブサイトの脱水(2Al(OH)→κ-Al+3HO)を生じることが知られている。このため、粘着性フィルム中に含まれる金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーが水酸化アルミニウムである場合には、約245℃以上に加熱することで粘着性フィルムの剥離容易性が得られる。このように、加熱の最小必要温度は金属水酸化物もしくは金属塩水和物の脱水温度によって決まる。
【0034】
一方、上限温度は、基材及び粘着性フィルムの耐熱性に依存して決まる。たとえば、粘着性ポリマーなどの粘着性フィルム中の他の成分が加熱により分解などを実質的に生じないことが重要である。たとえば、(メタ)アクリル系粘着剤であれば、350℃程度までは加熱に耐えることができる。また、シリコーン系粘着剤であれば、より高温までの加熱が可能であるが、この粘着剤は基材が被着された状態での使用時におけるシロキサンガスの発生のために電子機器用途では敬遠される傾向にある。
【0035】
このように、プラズマディスプレイなどのディスプレイパネルとシャーシとの接着の用途では、粘着性フィルム中に含まれる粘着性ポリマーが(メタ)アクリル系ポリマーであり、金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーが水酸化アルミニウムであることが望ましい。このような粘着性フィルムであれば、約250℃以上の温度、たとえば、250℃〜350℃に加熱することで容易にディスプレイパネルとシャーシとを分離することができる。このため、ディスプレイ装置の使用期間経過後に、パネルとシャーシとを容易に分離することができ、リサイクルを容易に行うことが可能になる。
【0036】
なお、本明細書中においては、粘着性フィルムにより接着される基材として、ディスプレイパネルとシャーシを挙げて説明しているが、基材はこれらの場合に限定されず、他の電子機器などの装置や、建材用途でも使用可能であることが理解されるべきである。
【実施例】
【0037】
以下において、実施例を用いて本発明をさらに説明する。実施例において、特に指示がない限り、部及び百分率は質量を基準とする。
実施例1
1.粘着性フィルムの製造
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート(日本触媒社(大阪市中央区)製)100部と、光開始剤としてイルガキュア651(2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン:チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社(東京都港区)製)0.04部をガラス容器中でよく混合し、窒素ガスにて溶存酸素を置換した後に、低圧水銀ランプで数分間紫外線照射して部分重合させ、粘度が1500cPの粘性液体(シロップ)を得た。得られた組成物100部に対して極性モノマーとしてアクリル酸(三菱化学社(東京都港区)製)3部、架橋剤として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)(新中村化学社(和歌山県和歌山市)製のNK−エステル−A−HD(商品名))0.08部、金属水酸化物フィラーとして、平均粒径が30μmである水酸化アルミニウム(Al(OH)3、日本軽金属社(東京都品川区)製のB−303(商品名))を得られる粘着剤の質量を基準として20質量%となる量で加え、均一になるまで攪拌した。この混合物を真空脱泡した後に、剥離処理を施した50μm厚のポリエステルフィルムの上に1mm厚となるように塗工し、重合を阻害する酸素を除去するためにもう一枚の上記と同一のフィルムを被せ、両面から低圧水銀ランプで約5分間照射し、粘着性フィルムを得た。
【0038】
2.評価試験
第一の基材として200mm×300mm×3mmのフロートガラス(プラズマディスプレイパネルをシミュレート)(415g)、第二の基材として200mm×330mm×2mmのアルミニウム板(シャーシをシミュレート)を用意し、190mm×290mmの寸法の上述の粘着性フィルムを用いてこれらの基材を接合した。貼り合わされた試験体の斜視図を図1に示す。図1中、符号1は粘着性フィルム、2は第一の基材(フロートガラス)、3は第二の基材(アルミニウム板)を示す。このような試験体を6つ作製し、図2に示すように、各試験体を150℃、200℃、250℃、300℃、350℃及び400℃にセットしたオーブン内に台座4を用いて設置し、第一の基材(フロートガラス)2と、第二の基材(アルミニウム板)3とが剥離するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例2
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成し、評価したが、水酸化アルミニウムの量が50質量%となるようにした。結果を表1に示す。
【0040】
実施例3
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成し、評価したが、水酸化アルミニウムの量が70質量%となるようにした。結果を表1に示す。
【0041】
参考例1
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成し、評価したが、水酸化アルミニウムを全く含ませなかった。結果を表1に示す。
【0042】
参考例2
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成したが、水酸化アルミニウムの量が10質量%となるようにした。
【0043】
参考例3
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成したが、水酸化アルミニウムの量が80質量%となるようにした。
【0044】
【表1】

【0045】
上述の結果から、金属水酸化物フィラーとして水酸化アルミニウムを用いた場合には、その添加量は、加熱時の剥離容易性と粘着性フィルムの接着力の観点から、20〜70質量%であり、加熱温度は250℃〜300℃が好適であることがわかる。但し、20質量%より少量であっても、基材の自重だけでなく、外力を加えることで容易に剥離しえる。また、金属水酸化物フィラーの種類によって加熱温度及び添加量を適宜決定すればよい。
【0046】
実施例4
実施例1と同様に粘着性フィルムを形成したが、水酸化アルミニウムの添加量を粘着性フィルムの質量を基準として46質量%とした。また、評価試験においては、第一の基材として実際のプラズマディスプレイ用ガラスパネル、第二の基材としてアルミニウムシャーシを用いた。
ガラスパネル:42”サイズ、重量9kg
アルミニウムシャーシ:42”サイズ、重量6kg
粘着性フィルム面積:0.42m
【0047】
図3に示すようにして、吊り下げ治具5を供えた台座4を用いて試験体を300℃のオーブン内に設置し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0048】
実施例5
実施例1と同様に粘着性フィルムを製造したが、水酸化アルミニウムの添加量を粘着性フィルムの質量を基準として60質量%とした。また、評価試験は、実施例4と同様に行ったが、2つの試験体を用いて、250℃及び300℃のオーブンにて試験した。
【0049】
【表2】

【0050】
いずれの条件においても、ガラスパネルの自重のみで、ガラスパネル及びアルミニウムシャーシに大きな損傷を与えることなく剥離することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例における試験体の斜視図を示す。
【図2】実施例における試験体のオーブン内での設置状態を示す断面図を示す。
【図3】実施例における試験体のオーブン内での設置状態を示す断面図を示す。
【符号の説明】
【0052】
1 粘着性フィルム
2 第一の基材(フロートガラス、ガラスパネル)
3 第二の基材(アルミニウム板、アルミニウムシャーシ)
4 台座
5 吊り下げ治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性ポリマーと、その中に分散した加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーを含む粘着性フィルムによって接着された第一の基材と第二の基材との剥離方法であって、
前記粘着性フィルムを金属水酸化物もしくは金属塩水和物が分解して脱水する温度に加熱し、剥離を促進する工程を含む、剥離方法。
【請求項2】
前記第一の基材及び第二の基材は剛性基材である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一の基材はディスプレイパネルであり、前記第二の基材はディスプレイ設置用シャーシである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム水和物、二水和石こう及びホウ酸亜鉛水和物からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記加熱分解性金属水酸化物もしくは金属塩水和物フィラーは粘着剤の質量を基準として20〜70質量%の量で含まれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記粘着性ポリマーは(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルエステル系ポリマー、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記粘着性ポリマーは(メタ)アクリル系ポリマーである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記加熱分解性金属水酸化物は水酸化アルミニウムであり、前記粘着性フィルムは250℃以上の温度にまで加熱される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−45020(P2008−45020A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221306(P2006−221306)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】