説明

粘膜適用液剤

【課題】 従来の粘膜適用液剤は、粘膜に滞留しないため薬効を持続させることが困難であった。また、滞留性をあげるため製剤を増粘すると噴霧性、滴下性が悪く、使用性が悪いことが懸念されていた。本発明は、噴霧性、滴下性がよく粘膜付着性の高い粘膜適用液剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 ジェランガム、PVAおよびホウ酸を配合し、アルカリ土類金属類を実質的に配合せず、pHが1.5〜6.5である粘膜適用液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘膜適用液剤に関し、さらに詳しくは粘膜への付着性を向上した粘膜適用液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻腔、口腔をはじめとする粘膜部位は、皮膚のようなバリアー能が無いため薬剤を投与すると素早く吸収される部位である。しかし、一般に粘膜は常に湿潤した状態にあるため、投与した薬物は粘液によって容易に希釈されることから薬効成分の利用率が低下してしまい、一般的に効果の持続の点では不十分である。
【0003】
このため、持続的な効果が得られる粘膜投与製剤が望まれていた。
【0004】
ここで、ゲル状の製剤であれば粘膜に投与したときに薬物含有製剤が粘膜に付着し、薬効成分の利用率が上がるため持続した効果が期待できる。しかし、ゲル状の製剤は粘膜に均一に塗布がしにくく、特に鼻腔や口腔に対しては患部が広範囲であり塗布することが困難になることから、塗布する前の製剤は液状で均一に塗布しやすく、塗布した後に患部で速やかにゲル状皮膜を形成する製剤が好ましい。
【0005】
従来、粘膜付着性を改善した点眼剤として、ポリビニルアルコール(PVA)およびホウ酸を配合し眼中でゲル化する点眼剤(特許文献1)、涙液中のイオンによってゲル化するジェランガムを配合した点眼剤(特許文献2,3)などが知られている。
【0006】
【特許文献1】WO94/10976号
【特許文献2】US5958443号
【特許文献3】特開昭62−181228号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、付着性を改善した粘膜適用液剤の検討過程で、一般的な薬剤と粘膜付着性向上のためにジェランガムを配合して製剤設計を試みたところ、薬物とジェランガムとの相互作用によりジェランガムの配合量が制限され十分な粘膜付着性が得られないことがわかった。また、従来技術である、PVAおよびホウ酸を同時配合したものも、粘膜付着性が不十分なため十分な効果が得られないことがわかった。さらに、一般的に粘性を付与するために使用される高分子成分を配合すると、製剤自体に粘性を生じ、付着性は向上するものの噴霧性、滴下性に劣る製剤となってしまうこともわかった。
【0008】
このように、従来、点眼剤として知られている粘膜付着性を改善した技術は、粘膜に対する付着性の向上効果が十分なものではなく、さらなる効果の向上が求められていた。
【0009】
本発明は粘膜に対する付着性を向上させた液剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは種々検討した結果、ジェランガム、PVAおよびホウ酸を酸性領域で同時に配合し、アルカリ土類金属を含有しない製剤は、粘膜に塗布前は液剤であるが、粘膜に投与したときにゲル化して優れた付着性が発生することを見出し本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)ジェランガム、ポリビニルアルコールおよびホウ酸を配合し、アルカリ土類金属類を実質的に配合せず、pHが1.5〜6.5である粘膜適用液剤。
(2)点鼻剤または口腔咽頭剤である(1)に記載の液剤。
(3)ポリビニルアルコールが0.01w/v%〜1.4w/v%である(1)に記載の粘膜適用液剤。
(4)ホウ酸が0.05w/v%〜2w/v%である(1)に記載の粘膜適用液剤。
(5)さらにキレート剤を配合する(1)〜(4)のいずれかに記載の粘膜適用液剤。
である。
【0012】
本発明では、ジェランガム、PVAおよびホウ酸を配合することにより、それぞれ単独で配合する場合と比較して相乗的に付着効果が向上する。
【0013】
本発明では、ジェランガムの好ましい配合量は、製剤全体の0.01〜2.0w/v%であり、さらに好ましい範囲は0.1〜1.0w/v%である。
【0014】
本発明で用いるPVAは、本発明の効果の点から、けん化度が78〜99mol%のものが好ましく、80〜95mol%のものがさらに好ましい。
【0015】
本発明で、PVAの好ましい配合量は製剤全体の0.01〜1.4w/v%である。
【0016】
本発明で、ホウ酸の好ましい配合量は製剤全体の0.05〜2.0w/v%である。
【0017】
本発明ではアルカリ土類金属類を実質的に配合しないことを特徴とする。アルカリ土類金属類は、製剤中に混入すると製剤自体をゲル化させてしまうことから、鼻腔内や口腔内への噴霧性や眼内への滴下性を低下させ、薬剤の効果を低減させるおそれがあるからである。
【0018】
ここで、「実質的に配合しない」とは、アルカリ土類金属類が製剤中に極めて微量が混在してしまうような場合は配合するものとは考えないのは当然である。
【0019】
本発明では液剤のpHは1.5〜6.5の範囲である必要がある。1.5未満であると、粘膜部位に塗布した際に刺激が生じるおそれがあり、6.5を超えると製剤自体に粘性が生じるため、噴霧性,滴下性が悪くなってしまうからである。
【0020】
ここで、塗布する部位によって刺激感、使用感の点からは好ましいpHが使用目的により異なり、口腔咽頭剤はpH1.5〜5.5、点鼻剤はpH3〜6.5、点眼剤はpH4.5〜6.5の範囲が好ましい。
【0021】
本発明は粘膜に適用する製剤においてもっとも効果的に使用することができる。ここで、粘膜適用製剤とは点眼剤、点鼻剤、口腔咽頭剤などがあげられるが、点鼻剤、口腔咽頭剤とする場合に特に好ましい効果が得られる。
【0022】
本発明においては、さらにキレート剤を配合すると、製剤中でのジェランガムのゲル化を防ぐことができ,良好な噴霧性、滴下性を維持する上で好ましい。
【0023】
ここで、キレート剤とは金属イオンと結合してキレート化合物を形成する多座配位子のことであり、エデト酸塩類、クエン酸塩類などがあげられる。本発明で用いるのに好ましいキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどがあげられる。
【0024】
本発明で、キレート剤を配合する場合の配合量は0.0001〜1.0w/v%である。
【0025】
本発明の粘膜適用液剤は本発明の効果を損なわない範囲で、通常これらの製剤に配合される成分を配合して、通常の方法で製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は従来知られている技術と比較して、非常に高い粘膜付着性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
ジェランガム 200mg
ポリビニルアルコール 1000mg
ホウ酸 1000mg
EDTA−2Na 50mg
グリセリン 900mg
クエン酸ナトリウム 適量
精製水 全100mL
ジェランガム及びEDTA−2Naを90℃で加温溶解した後、別に溶解したPVA溶液と混合した。次いでその他の成分を溶解し、クエン酸ナトリウムでpH5.0に調整して、精製水で全量を100mLにし点鼻用液剤を得た。得られた点鼻液の粘度は8.5mPa・sであった。
【0029】
比較例1
ジェランガム 200mg
EDTA−2Na 50mg
グリセリン 2400mg
精製水 全100mL
実施例1からPVA、ホウ酸およびクエン酸ナトリウムを抜いて作製した。得られた点鼻液の粘度は7.4mPa・sであった。
【0030】
比較例2
ポリビニルアルコール 1000mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 300mg
ホウ酸 1000mg
EDTA−2Na 50mg
グリセリン 1100mg
精製水 全100mL
実施例1のジェランガムをヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)に変更して作製した。得られた点鼻液の粘度は6.7mPa・sであった。
【0031】
試験例1
実施例1および比較例1、2の製剤の付着性を以下の方法で確認した。pH9.1の人工鼻汁に浸漬したセルロース膜(14cmφ)を45℃の角度で平板に設置し,膜に対して90℃の角度で各点鼻液を2cmの距離から1回噴霧した。1分後のセルロース膜上の液だれの長さを測定した(このとき、判定を容易にするため、各点鼻液に成分と相互作用のない色素(青色1号:ブリリアントブルーFCF:和光純薬製)を添加した)。その結果を図1および図2に示した。
【0032】
なお、人工鼻汁は佐分利らの報告(日本公衆衛生誌39巻、6号、1992年「鼻汁によるスギ花粉の破裂」)を参考にして作製した。
【0033】
図から明らかなように、ジェランガム、PVA、ホウ酸を配合した実施例1は比較例より有意に液だれがなく、顕著に付着性を向上させることがわかった。
【0034】
実施例
以下の表に示した処方により実施例2および比較例3〜5の液剤を製造した。
【0035】
次に、得られた液剤に試験例1と同様の試験を行い、液だれの試験を行った。結果を表1および図2に示した。なお、表中HPC:ヒドロキシプロピルセルロース、PVP:ポリビニルピロリドンを示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により優れた粘膜付着性を持ち、かつ、噴霧性、滴下性も良好な液剤を提供することが可能になったので、点鼻剤、口腔咽頭剤、点眼剤などに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】試験例1で試験した結果を写真撮影した図であり、左から比較例3、実施例2、比較例2、実施例1、比較例1の処方を試験した結果である。
【図2】実施例および比較例の処方を試験例1の方法で試験した結果を示したグラフであり、横軸に処方、縦軸に液だれの長さを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェランガム、ポリビニルアルコールおよびホウ酸を配合し、アルカリ土類金属類を実質的に配合せず、pHが1.5〜6.5である粘膜適用液剤。
【請求項2】
点鼻剤または口腔咽頭剤である請求項1に記載の液剤。
【請求項3】
ポリビニルアルコール含量が0.01w/v%〜1.4w/v%である請求項1記載の粘膜適用液剤。
【請求項4】
ホウ酸が0.05w/v%〜2w/v%である請求項1に記載の粘膜適用液剤。
【請求項5】
さらにキレート剤を配合する請求項1〜4のいずれかに記載の粘膜適用液剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−83081(P2006−83081A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268172(P2004−268172)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】