説明

精密プレス装置及びそれにおけるプレス荷重制御方法

【課題】真空チャンバ内におけるプレス加工において、真空チャンバを小形し真空到達時間を短縮させ、更には高精度の圧力制御を行う精密プレス装置、及びそれにおけるプレス荷重制御方法を提供する。
【解決手段】真空にされるチャンバ16を小形化するために、圧力センサをチャンバ16外に設置し、チャンバ16の筒状形状を利用して筒状のプランジャ7が出没可能なシリンダ室17を形成する。チャンバ16内の負圧22に起因して受圧部2と加圧部1とを互いに引き寄せる力が発生するが、逆方向からシリンダ室17内に同等となる流体の圧力19を入れて筒状のプランジャ7を押し出して筒状プランジャ7に加圧力20を発生させることで、この引き寄せる力はプランジャ7からの加圧力20によってキャンセルされる。プレスステージで転写される基板等への荷重を駆動部による駆動力に基づいて高い精度で制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高平坦度で微細構造転写可能な精密プレス装置、特に、表面に微細な凹凸パターンが形成された転写元となる原板(微細構造転写モールド)を転写先となる基板(被転写体)に押し付け、基板表面に微細な凹凸パターンを転写・形成するための微細構造転写モールド及び微細構造転写装置に適用される精密プレス装置及びそれにおけるプレス荷重制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、上記微細構造転写装置においては、比較的安価なナノレベルのインプリント装置が発売されている。微細構造転写装置はナノレベルの転写が可能であり、一般的にそれらの装置はナノインプリント装置と呼ばれている。被転写体の素材は主に樹脂やガラス等が使用されており、ナノインプリントの方式については、それら素材特性により、紫外線を利用した光ナノインプリント装置と、熱を利用した熱ナノインプリント装置の大きく2つに分類されている。また、転写方式としては一般的なプレス装置の原理を利用した平行平板方式と、ローラタイプのシートナノ装置等が挙げられる。
【0003】
ここで、平行平板タイプのナノインプリント装置においては、被転写物への転写の際にプレスステージ部の平坦度及び平行度の高精度化が特に重要であると共に、熱及び圧力の均一性が求められている。また、平面にてプレス加工を行うために気泡が発生する可能性があり、光ナノプリント及び熱ナノプリントの両方において被転写物への気泡混入を避けるため、現在では真空下にて転写を行うのが一般的である。現在見受けられる真空プレスを行う装置としては、図4に示す様な真空BOX内にてプレスを行う方式や、特許文献1に記載のような、プレスステージ部付近にバネやOリングなどを利用したシーリング機能を搭載させ、プレスステージや加圧部のみを真空にする方式や、或いは、特許文献2に記載のような、上下のハウジングが接触し、真空状態にし、内部機構にてプレスする方式がある。
【0004】
近年、平行平板タイプにおいては、装置の小形化、低価格、高タスク化はもちろんのこと、小形(□20mm)〜大形(φ300mm)と様々なサイズ、及び材料種類の転写に対応できる装置が求められている。
【0005】
プレス方式としては、エアシリンダを採用している装置も見受けられるが、高度な制御が容易に行えるサーボプレスが一般化してきている。ナノインプリントの装置自体は主として、半導体関連で扱われる部類であり、クリーンルーム内での使用が一般的であるため、発塵、汚染の面から油圧シリンダを採用しているところは多くない。
【0006】
大形(φ300)の転写も可能なナノインプリント装置の場合においては、真空BOXを使用すると、大型化してしまう問題がある。ここで、小形化を考えた場合においては、プレスプレート付近にシーリング機能を持たせたものが有効であると考えられる。ここで、真空時のチャンバ内に発生する圧力変動について考えてみる。φ300の大形サイズが転写できる装置において、真空引きを行う室内の大きさをφ300とし、大気と真空との差圧を約0.1MPaとすると、プレスプレートが接するまで、チャンバには荷重にして約720kgもの負圧が発生する。
【0007】
また、この大型転写可能な装置において、小形(□20mm)の転写を行う際は約4kgの負圧しか発生しない。転写物が接している面積については、負圧が発生しなくなるが、真空チャンバ内で被転写物が接していない面積については、前記負圧が発生するため、約716kgもの荷重が小形(□20mm)に掛かってしまうと言う問題があった。真空BOX使用時において、摺動軸径をφ60mmとおくと、約29kgの負圧が発生する。ここで、Oリングやバネの反発力を利用し、負圧と吊り合せようとしても、被転写物のサイズや、厚みが異なるだけで使用不可能となってしまう。
【0008】
ここで、ナノインプリント装置においては、圧力をフィードバック制御するために、圧力センサが真空チャンバの内部、又は外部に取り付けられる。しかし、チャンバと可動軸との境界部は必ず存在するため、軸の径分又はチャンバ径分の真空状態における引き圧が加圧軸上に負圧として発生するという問題があった。また、真空チャンバ内に圧力センサを設置する方法では、チャンバ部が大形化、複雑化するという問題もある。また、プレスステージ及び軸径が大きければ大きいほど負圧が増大し、更には、被転写物のサイズによっても、プレス加工時の圧力に影響を与えるといった問題がある。
【特許文献1】特開平10−156943号公報
【特許文献2】特開2003−181697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の技術課題に鑑み、本発明の目的は、微細な形状の構造体を形成するためのパターン転写技術であるナノプリントにおいて、構造が容易で、高精度な圧力制御が可能な微細構造転写装置(ナノインプリント装置)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、小形且つ、高精度な圧力制御が行える機構に着目し、本発明に至った。本発明は、小形化を念頭に置き、プレスプレート部付近に真空チャンバとなるシーリング機構をもたせ、真空時の負圧を打ち消すために、前記チャンバ自体にシリンダ機能を搭載し、シリンダへの流体供給圧力を制御することにより、真空時の負圧とシリンダによる圧力を吊り合わせ、真空による影響がない装置を提供する。また、シリンダのストロークが利用できるため、被転写物の厚み方向の影響を受けない精密真空プレス機構を提供する。
【0011】
この発明による精密プレス装置は、受圧部、当該受圧部に対向し且つ前記受圧部に対して進退可能に配置された加圧部、前記受圧部と前記加圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、前記加圧部を駆動する駆動部、及び前記受圧部及び前記加圧部の接近状態で前記受圧部と前記加圧部との間で前記プレスステージを封止状態に囲む筒壁を有するチャンバを備えた精密プレス装置であって、前記チャンバ内の負圧に基づいて発生する前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を打ち消す流体作動部を備えていることを特徴とする。
【0012】
この発明による精密プレス装置におけるプレス荷重制御方法は、受圧部、当該受圧部に対向し且つ前記受圧部に対して進退可能に配置された加圧部、前記受圧部と前記加圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、前記加圧部を駆動する駆動部、及び前記受圧部及び前記加圧部の接近状態で前記受圧部と前記加圧部との間で前記プレスステージを封止状態に囲む筒壁を有するチャンバを備えた精密プレス装置において、前記筒壁を、前記受圧部と前記加圧部との少なくとも一方に形成されたシリンダ内の流体圧力に基づいて他方に向かって進退可能に設けられた筒状プランジャとし、前記チャンバ内の負圧に基づいて発生する前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を、前記流体圧力に基づいて前記筒状プランジャに発生する加圧力と吊り合わせて打ち消すことを特徴としている。
【0013】
この発明による精密プレス装置、及びそれにおけるプレス荷重制御方法によれば、チャンバ内の負圧に起因して受圧部と加圧部とを互いに引き寄せる力が発生するが、シリンダ内の流体圧力に基づいて筒状プランジャに加圧力を発生させ、引き寄せ力と加圧力とを吊り合わせて打ち消すことができるので、プレスステージで転写される基板等への荷重を駆動部による駆動力に基づいて高い精度で制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡素、且つ安価な構造にて、良好な真空状態、高精度の圧力制御が可能な精密プレス装置、及び精密プレス装置におけるプレス荷重制御を実現することができる。また、本発明のよる精密真空プレス装置を微細構造転写装置に適用した場合には、転写される材料の厚みの変化に容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による精密プレス装置の実施形態を、図1及び図2を参照して説明する。本精密プレス装置の実施形態は、極微細なパターンのプレス成形を行う微細構造転写装置(ナノインプリント装置)として適用されている。図1に示す精密プレス装置は、基本的に、複数本の互いに平行に配置されたガイドポスト3a,3b(以下、総称として符号3を用いる。他の構成要素についても同様。)の一端部に固定されている受圧部2と、受圧部2に対向して配置されており且つガイドポスト3上を摺動して受圧部2に対して進退可能に配置されている加圧部1と、フリー軸受10を介して加圧部1を受圧部2に向かって駆動する駆動部11とを備えている。ガイドポスト3を3本以上とすることによって、加圧部1の均一なガイドを可能にしている。互いの平行性を確保できるのであれば、ガイドポスト3は2本で済ますことも可能である。
【0016】
加圧部1は、ガイドポスト3に対して保持器4を介して摺動可能に配置されている。加圧部1には各ガイドポスト3を挿通させる摺動孔が形成されている。保持器4としては、例えば、直動ガイド軸受等を使用することができ、成形型と転写対象物が接触するまで、高アライメント性を備えることができる。保持器4にはその一端側にフランジ部が設けられた筒状形状に形成されており、当該フランジ部が加圧部1に当接して位置決めされている。保持器4の筒状内部にガイドポスト3が挿通されており、保持器4はガイドポスト3上を摺動可能であり、その結果、加圧部1は保持器4を介して、ガイドポスト4上を摺動可能である。
【0017】
加圧部1と受圧部2との対向面側には、それぞれプレスステージ5a,5bが設けられている。プレスステージ5a,5bには、一方において表面に微細加工が形成されている原板が配置され、他方には基板が配置されており、プレス時に基板と原板とが互いに押し当てられることで、基板には原板の微細加工が転写される。
【0018】
加圧部1を駆動させる駆動部11はフリー軸受10を介して加圧部1を押圧する。フリー軸受10の先端部は球面となっており、プレス作動時に加圧部1と受圧部2とが倣う、即ち、後述するプレスステージ7a,7bが倣った場合においても、加圧部1に対して単一点で荷重を作用させることが可能である。したがって、加圧部1と受圧部2の倣いが維持され、プレスステージ7に均一な荷重が作用し、高平坦度の精度にてプレス成形を行うことができる。
【0019】
加圧部1と駆動部11はボルト固定されておらず、ストリッパボルト、ダンパ、又はバネのような、ある程度の揺動が可能な状態で取り付けられており、フリー軸受10に乗せられている。なお、駆動部11と加圧部1との当接を行う介在手段としてフリー軸受10としたが、これに代えて球体と球面との組み合わせた球面軸受を備えたフリージョイントとすることも可能である。
【0020】
本精密プレス装置においては、駆動部11の駆動源として、サーボモータ、エアシリンダ、油圧シリンダ等を使用することができる。
【0021】
本精密プレス装置においては、駆動部11が加圧部1を押すときにフリー軸受10が加圧部1に当接する当接部は単一点であるとしたが、複数点が均等に配列された構成とすることもできる。複数点を配列する場合にも、各点は均等に配置されているので、加圧部1、及びプレスステージ5bには荷重が均一に掛けられるようになっている。
【0022】
本精密プレス装置においては、チャンバ6は、プレスステージ5を最小範囲にて囲む形状をしている。チャンバ6は、加圧部1側と受圧部2側とでそれぞれ(即ち、上下で二つ)、又は少なくとも一方の側で配設される。図示の例では、チャンバ6は、受圧部2側においては、流体にて摺動する筒状のプランジャ7を出没可能に備えた筒状シリンダ方式のチャンバであり、もう片側である加圧部1側においては、固定高さのリング8で構成されている。加圧部1側において、リング8に代えてチャンバ6と同様の筒状シリンダ方式のチャンバとすることができる。チャンバ6の表面、即ち、加圧部1と受圧部2との対向面に当接する端面には、チャンバ6内が真空とされるときに、その真空を保持するためのリング状の弾性体9が少なくとも1つ設置されている。
【0023】
シリンダ室17に入る流体の圧力19は制御可能である。プレス時にはチャンバ6内は所謂真空状態にまで吸引される。チャンバ16内に発生する負圧22によって、加圧部1と受圧部2とには、外気の圧力に起因して互いに引き寄せる力が作用する。加圧口12からシリンダ室17に流体を入れることにより、プランジャ7が押下され、加圧部1と受圧部2とを引き離す方向の加圧力20が発生し、負圧22に基づく上記の引き寄せ力を打ち消すことができる。
【0024】
圧力調整を行うタイミングとしては図7に示すようなステップA、B、Cの3つが挙げられ、其々の状況に応じて圧力制御が可能である。かかる精密プレス装置の制御ブロック図、及び圧力制御における各ステップのフローチャートを図8〜図11に示す。
【0025】
図8に示す精密プレス装置の制御ブロック図によれば、精密プレス装置は、制御部30とセンサ部40とメカ部50とから成っている。センサ部40には、プレス荷重を検出する荷重圧計41と、チャンバ16内の圧力を検出する真空圧計42とを備えている。制御部30は、センサ部40からの上記各圧力計からの検出出力が入力されるPLC(プログラマブルコントローラ)31と、PLC31の出力を受けて駆動部11を構成するアクチュエータ等制御機器への制御部32と、シリンダ室17内への流体圧力を制御する空圧制御機器への制御部33とを備えている。PLC31においては、各ステップA、B、Cの制御内容がプログラムとして書き込まれている。また、PLC31は、チャンバ6内の圧力を変更・制御する真空ポンプ53を制御している。メカ部50は、駆動部11などの動力元51、チャンバ6のプランジャ7の出没を行うシリンダ室17等を備える流体作動部(真空チャンバ)52、及び真空ポンプ53を備えている。
【0026】
ステップAでは、図7の上段図に示すように、加圧部1が駆動部11の駆動によってフリー軸受10を介して押されて真空引き可能な位置まで移動し、その後、真空引き21を行った際にチャンバ6内に発生する負圧22を打ち消すため、加圧用口12からシリンダ室17に流体の圧力19を導入することで加圧力20を発生させる。図9はステップAの制御内容を示すフローチャートである。図9には、加圧部1の真空引き可能な位置までの移動と、その後の真空引き21のステップが示されている。即ち、駆動部11の駆動によって加圧部1を受圧部2の方向に移動させるとともに、プランジャ7を押し出して(ステップ1、「S1」と略す。以下同じ)、加圧部1を受圧部2との間で、シリンダとプランジャ7、及びリング8で、プレスステージ5を囲むチャンバ6が形成される。真空引き可能位置にまで達すると(S2)、シリンダについてのアクチュエータ作用によるプランジャ7の移動が停止され、真空ポンプ53の作動をONにして真空引きが開始される(S3)。ステップ7では、荷重が0であり且つ真空度が設定値以下であれば、ステップAが完了して、次段のステップBに移行するが、そうでない場合には、ステップ4に戻って、荷重がプラス又はマイナスに応じて圧力減少(S5)又は圧力増加(S6)を行う。
【0027】
次にステップBにおいては、図7の中段図に示すように、真空引き完了後に加圧部1が被転写物18の転写位置まで移動する際に発生するプランジャ7の摺動抵抗23を打ち消すため加圧力20を調整する。図10はステップBの制御内容を示すフローチャートである。図10には、プランジャ7の摺動抵抗23を打ち消すために加圧力20を調整するステップが示されている。即ち、加圧部1が受圧部2に向かう方向に移動し(S11)、摺動摩擦抵抗が固有値以下か否かを判定し(S12)、判定結果がYesであると、空圧制御で圧力を減少させ(S14)、荷重が0であるか否かを判定し(S15)、判定結果がYesであればステップBが完了して、次段のステップCに移行するが、そうでない場合には、ステップ14に戻って、空圧制御を繰り返す。S12の判定結果がNoであると、エラー処理(S13)をする。この時、プランジャ7が移動する際の摩擦力であるため、移動速度、接触面積、摩擦係数から求まる固有の値であり、その数値を上回るような外力が発生した場合に対応すべく、エラー処理(S13)を取り入れている。このステップは被転写物18がプレスプレート5面に接触する前に行われるため、非常に短時間で行われるものである。また、前記記載の通り、摺動抵抗23は固有値であるため、その値をステップCでのステップ22における荷重+の検出値から除外することにより、ステップBを省略し、ステップAからステップCへ行くことも可能である。
【0028】
最後にステップCにおいては、図7の下段図に示すように、被転写物18がプレスステージ5面に接触した際、真空引きされる面積が変化する(面積減少)ため、圧力変動が発生する(引き寄せ力減少)。その負圧22の変化を打ち消すため加圧力20を調整する制御を行うものである。図11はステップCの制御内容を示すフローチャートである。図11には、真空引き面積の変化に起因した引き寄せ力変動を打ち消すための加圧力20を調整するステップが示されている。即ち、加圧部1が受圧部2の方向に移動し(S21)、前記記載の通り、被転写物18がプレスステージ5面に接触した際、負圧22は減少するが、加圧力20はそのままの力を維持するため、力の均衡が崩れ、検出する圧力(荷重)は急激に増大する(S22)。その力を検出した時点で、加圧部1は移動を停止し、加圧力20を減少させ(S23)、負圧22と均衡させ荷重が0となるように制御を行い(S24)、荷重が0となった時点でステップCが完了となる。
【0029】
ここで、圧力計算値としては次に示す通りである。
加圧力20=プランジャ7面積(若しくは別途取り付けのシリンダ内径)×流体の圧力19
ステップAの時の負圧22=シリンダ内面積×外気圧との差(約0.1MPa)
ステップBの時の負圧22=負圧22a―プランジャ7の摺動抵抗23
ステップCの時の負圧22=(シリンダ内面積―被転写体18の接触面積) ×外気圧との差(約0.1MPa
【0030】
この精密プレス装置においては、シリンダ17を加圧するための流体としては、エア、ガス、油、水、その他流体を使用することができる。
【0031】
この精密プレス装置において、シーリング部を形成する弾性体9として、Oリング、又はその代替となる樹脂(ウレタン、シリコン、ポリイミド、ふっ素、ポリエチレン等)を使用することができる。
【0032】
この精密プレス装置において、真空時の負圧22をチャンバ6に付加したシリンダ機構(シリンダ室17への圧力導入)でキャンセルさせるのではなく、図5に示すような、受圧部2〜加圧部1間に別途にシリンダ24a,24bを設置し、シリンダ24a,24bの加圧力20によってチャンバ6内の負圧22に反発させることができる。または、図6に示すように、加圧部1の裏側にシリンダ25a,25bを設置し、引き寄せ力20によって負圧22をキャンセルさせることができる。
【0033】
この精密プレス装置において、チャンバ6のシリンダ状の筒壁については、その形状を円筒形以外に、断面が四角、多角形、楕円など、シリンダ機構を備えうる形状を持たせることができる。
【0034】
この精密プレス装置において、加圧部1及び受圧部2は上下逆配置となっても装置として成立させることができる。
【0035】
この精密プレス装置において、図3に示すように、受圧部2又は加圧部1の対向面に環状溝を加工して環状シリンダ室を成形し、環状シリンダ室に筒状のプランジャ7を埋め込んでシリンダ機構を構成することができる。
【0036】
この精密プレス装置において、図3に示すように、加圧部1と受圧部2との少なくとも一方はシリンダ形状を取っているが、もう片方(この例では、加圧部1側)でチャンバ6及びリング8を取外して、対向面それ自体としても、プレス可能とすることができる。
【0037】
この精密プレス装置において、図2に示すように、プランジャ7がチャンバ6より外れないように、チャンバ6のシリンダ側には、プランジャ7と係止可能なストッパとしてのエンドプレート26を少なくとも一つ以上設けることができる。なお、この場合、プランジャ7には、基板等の厚みを許容する等のために、エンドプレート26と干渉しない領域としての溝を形成することができる。また、シリンダ室17に連通する加圧用口12は、シリンダの外側に開口して形成することができる。また、真空漏れを防止するため、Oリング9,9aを収容する溝が筒状プランジャ7の先端面、及びシリンダの上端面に形成されている。更に、シリンダ室17内の流体漏れを防止するため、筒状プランジャ7の内外の各筒面に形成された周溝に、シリンダ室17との間でシールをするOリングが収容されている。
【0038】
本発明である精密プレス装置が適用されたナノプリント装置の正面図を図12に示す。図12において、101はガイドポスト104に固定されている受圧部、102はガイドポスト104に保持器を介して摺動案内される加圧部、103は調整ナットで、ガイドポスト104に対して高さ調整可能に固定する。105は保持器、116は操作パネルで、チャンバ内の加圧部や受圧部の圧力の昇圧・降圧、温度の昇温・降温、また、チャンバの真空制御、さらにメニュー、レシピを設け、圧力や温度の自動制御の設定等を行う。117は受圧部及び加圧部のヒータ温調器で、118は加圧部の圧力を表示する圧力表示器、119はチャンバ内の真空度を表示する表示器である。120は真空チャンバを示し、内部を真空にして原板から基板への転写を行う室である。121は、フレーム又はカバーを示し、装置内に塵埃等が侵入しないようにしている。122はキャスタで、装置全体を移動するときに使用する。123はアジャスタで、本装置を設置する場合水平度を出すため高さ調整をするものである。124はアンカー座で、アジャスタの高さ調整により水平度がでたら、ベースに固定するものである。125は操作釦で、電源ON,OFFの機能を有する。
【0039】
図13及び図14に本発明装置のプレスステージの構造を示し、図13はプレスステージの断面図を、図14は斜視図を表す。
図13において、110はトッププレート、11は冷却加熱プレートで、この冷却加熱プレート11の内部にヒータ115及び冷却用通路を設置する。112は冷却加熱プレート111に接続した断熱材で、ヒータ115により加熱された熱が放熱しないようにしている。また、この断熱材112に冷却用の孔を設け、冷却加熱プレート111を経由して再度、断熱材112に設けた別の孔から冷却用冷媒が戻るようにしている。図13では、113が冷却媒体入口で、114が冷却媒体出口を示す。冷却媒体として、エア、ガス、水、油などがある。
【0040】
ヒータ115は、冷却加熱プレート111に概略等間隔で配置されており、冷却用の通路(管)もヒータ間にほぼ等間隔に配置されている。このように等間隔に配置することによって、トッププレート上の熱の分布を均一にする効果、すなわち温度ムラをなくす効果がある。また、図14に示すように、ヒータ115は直線状のヒータを用い、片側から電源ラインに接続し、電源をオン、オフすることにより温度上昇や下降を制御する。
【0041】
また、トッププレート110及び冷却加熱プレート111は、これまで材質ステンレスがあったが、Cu合金を採用することにより熱伝導率が高いため、プレスステージの昇降温の制御が短時間にでき、転写時間の短縮化を図ることができ、効率向上の効果がある。
【0042】
図15は、本発明装置のプレスステージの冷却加熱プレート111の平面図を示す。図15において、115はヒータで、空白部分である113,114が冷却用の通路を示し、113は冷却媒体入口で、114が冷却媒体出口を示す。冷却媒体を左上の冷却媒体入口から入れ、右上の冷却媒体出口から出た媒体を2段目の冷却通路の右側から入れ、2段目の冷却通路の左側から出た冷媒を3段目の冷却通路に入れ、この構成は冷却媒体を冷却通路の順次に送る構成である。このような構成により、トッププレートの温度を均一に、且つ短時間で冷却できる効果を有する。
【0043】
また、図16は、冷却媒体の流れを変えた別の実施例である。図16の構成は、左側から第1段目の冷却通路(図の空白部分)、第3段目の冷却通路(図の空白部分)及び第5段目の冷却通路(図の空白部分)に冷媒を流し、右側から第2段目の冷却通路(図の空白部分)、第4段目の冷却通路(図の空白部分)及び第6段目の冷却通路(図の空白部分)に冷却媒体を流入する構成である。このように左右から冷却冷媒を流すことにより、プレスステージの冷却効果を高めることができる。また、トッププレートの温度ムラを小さくする効果も有する。
【0044】
本発明の装置は、これまでに、ナノスケール(ナノメートルは、10億分の1メートル)の凹凸パターンを成形する技術である熱ナノインプリントおよび光ナノインプリントの技術として研究・開発されてきている。この度の開発に係る熱ナノインプリント装置は、加熱/冷却機構を改良することで、転写ステージ面内の温度バラつきを抑えつつ、120°の昇降温時間を4分に大幅低減するとともに、装置構造と部品の見直しを図ることで、同水準のナノインプリント装置としては、小型化かつ低価格化を実現した。本装置を使用することにより、Φ150mm迄のワークサイズに対してナノスケールの構造体を10分以内で成形することが可能となる。今回のナノインプリント装置の仕様は次のとおりである。
【表1】

【0045】
次世代の微細加工技術の一つとして注目を浴びているナノインプリント技術は、日米欧を中心に実用化に向けた様々な研究・開発が行なわれている。ナノインプリントとは、ナノスケールの凹凸パターンを成形したモールド(金型、スタンパ、テンプレートとも呼ぶ)を、ポリマー等の被転写材に押し当てて、凹凸パターンを成形する加工技術である。本技術を用いて、半導体や光デバイス、次世代ストレージデバイス、バイオデバイス等の開発が進められており、その実用化にあたっては生産性向上が一つの課題になっている。特に、熱ナノインプリントでは、ガラス転移温度以上まで加熱することで軟化させた被転写材にモールドをプレスする技術であるため、その昇降温時間が高スループット化のボトルネックになっている。
【0046】
このような背景から、高スループット化を目標に、新たな熱ナノインプリント装置の開発を行った。熱解析に基づくヒータ構造及び部材の大幅見直しにより、加熱時の温度バラつきを抑えるとともに、加熱時間の短縮を実現した。さらに、射出成形光ディスク用金型で培われてきた冷却制御技術を活用することで、冷却時間を大幅に短縮した。その他、従来機の真空チャンバ構造を再設計することで、チャンバ内容積を縮小させ、装置の小型化と脱気時間の大幅な短縮が可能になった。
【0047】
また、本出願人が持つプラスチック成形金型の精密加工技術を駆使し、転写ステージ表面は平面度数μm、面精度数nmの高精度ステージとなっている。さらに、モールドのセット作業や転写ステージ交換等の作業を考慮し、ワーク取り出し部を従来機よりも大きくすることで、メンテナンス性を向上している。
【0048】
本発明装置の特徴は、加熱・冷却機構を改良し、業界トップクラスの昇降温時間4(60°→180°→60°)を実現していることにある。さらに、装置構造と部品を見直し、同水準(Φ6inch)の装置としては、小型化かつ低価格化となっている。転写サイズ(幅、長さ、シート厚み)については、本装置はmax6inchΦ対応である。シート厚みについては、不問である。また、両面転写が可能である。転写材質は、PS(ポリスチレン),PC(ポリカーボネート),PMMA(ピーエムエムエイ)などの熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂への転写が可能である。
【0049】
加熱最大温度は、300℃である。冷却方法は、高精度の温度調整を行うため、水冷(急冷)とN2(窒素)ガス冷却(除冷)の2つの方法を採用している。真空度は、1.33kPa(10Torr)以下とする。本装置の最大荷重は、98kN(10t)になる。転写スピードは、転写するパターン形状にもよるが、基本プロセスにて10分以下で転写が可能である。プロセス条件等の最適化により、さらなる短縮も可能である。
【0050】
加圧方法としては、微細なナノ構造を高精度に転写するため、2段階圧力制御方法が採用されている。2段加圧とは、ステージ上昇に伴うサーボモータのトルク制御で第一加圧を行い、その後本加圧を行う加圧方法である。
【0051】
大面積への転写は、本装置は、最大Φ6inch対応であるが、これまでの本出願人による装置開発では、最大Φ12inchへの転写実績がある。高アスペクト比の転写は、通常、アスペクト比2以下の転写をする。最小転写サイズは、最小転写サイズとしては、Φ70nm、H110nmのドットパターンを転写した実績がある。貫通穴の転写は、一般的に、ナノインプリント技術を用いての貫通穴の加工は不可能であると考えられる。被転写材料の温度分布、モールド形状凹パターンへの気泡溜まりの影響により、転写精度が落ちることが考えられるので、本装置では真空雰囲気にしている。また、オプション対応により、自動剥離機構を設けることで、自動剥離対応が可能である。
【0052】
被転写材については、熱可塑性材料や熱硬化性樹脂に対応可能であるが、結晶性の樹脂については転写が難しくなるものの、可能である。基板上に塗布した樹脂への転写については、Si(シリコン)基板やガラス基板へ熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を塗布し、転写することは可能である。モールドの材料としては、モールド材料としては、Si(シリコン)、Ni(ニッケル)、石英等になる。モールドの製作については、半導体製造技術であるフォトリソグラフィーや電子線直接描画法を用いて製作可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本精密プレス装置は、真空プレス加工を行う装置で、被転写物への高精度の圧力制御が必須な装置に適用可能であり、特に、光学デバイス、ディスプレイデバイス、バイオデバイスやストレージメディアなどの製造工程において、微細構造を転写する装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明による精密プレス装置の一実施例を示す断面概要図。
【図2】図1に示す精密プレス装置のチャンバの鳥瞰図、及び断面図。
【図3】形状変更時の精密プレス用真空保持機構の断面概要図。
【図4】従来の真空BOX使用時の装置概要図。
【図5】別途シリンダ24設置時の装置概要図。
【図6】別途シリンダ25設置時の装置概要図。
【図7】真空プレス時の各ステップ動作の概要図。
【図8】この発明による精密プレス装置の制御ブロック図。
【図9】ステップA時のフローチャート。
【図10】ステップB時のフローチャート。
【図11】ステップC時のフローチャート。
【図12】本発明によるナノプリント装置の本体概略図。
【図13】本発明による精密プレス装置のプレステージの概略図。
【図14】本発明による精密プレス装置のプレステージの鳥瞰図。
【図15】本発明のプレスステージの平面図。
【図16】本発明の別のプレスステージの平面図。
【符号の説明】
【0055】
1 加圧部 2 受圧部
3 ガイドポスト 4 保持器
5 プレスステージ 6 シリンダ
7 プランジャ 8 リング
9 Oリング(シール材) 10 圧力センサ
11 可動部 12 加圧用口
13 真空引き用口 14 真空BOX
15 取っ手、及び扉 16 チャンバ
17 シリンダ室 18 被転写物、及びモールド
19 流体の圧力 20 加圧力
21 真空引き 22 (真空引きによる)負圧
23 プランジャの摺動抵抗 24 押圧用シリンダ
25 引き圧用シリンダ 26 エンドプレート
101 受圧部 102 加圧部
103 調整ナット 104 ガイドポスト
105 保持器 110 トッププレート
111 加熱冷却プレート 112 断熱材
113 冷却媒体入口 114 冷却媒体出口
115 ヒータ 116 操作パネル
117 ヒータ温調器 118 圧力表示機器
119 真空度表示器 120 真空チャンバ
121 フレーム 122 キャスタ
123 アジャスタ 124 アンカー座
125 操作釦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受圧部、当該受圧部に対向し且つ前記受圧部に対して進退可能に配置された加圧部、前記受圧部と前記加圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、前記加圧部を駆動する駆動部、及び前記受圧部及び前記加圧部の接近状態で前記受圧部と前記加圧部との間で前記プレスステージを封止状態に囲む筒壁を有するチャンバを備えた精密プレス装置において、
前記チャンバ内の負圧に基づいて発生する前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を打ち消す流体作動部を備えていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項2】
請求項1記載の精密プレス装置において、
前記流体作動部は、前記筒壁を構成しており且つ前記受圧部と前記加圧部の少なくとも一方に設けられたシリンダと、前記シリンダ内の流体圧力に基づいて他方に向かって進退可能に設けられた筒状プランジャと、前記シリンダ内の前記流体圧力を制御して前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を打ち消す加圧力を前記筒状プランジャに発生させる圧力制御部とを備えていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項3】
請求項2記載の精密プレス装置において、
前記筒状プランジャの先端には、進出状態で前記受圧部と前記加圧部の前記他方に接触して前記チャンを真空維持するためのシール部材を備えていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の精密プレス装置において、
前記シリンダは前記受圧部と前記加圧部との前記一方に前記対向面に取り付けられた筒状シリンダであり、
前記筒状プランジャは前記筒状シリンダの内部に密封状態に収容され且つ前記筒状シリンダ先端から前記受圧部と前記加圧部との他方に向かって進退可能に設けられていることを特徴とする精密プレス装置。
【請求項5】
請求項1記載の精密プレス装置において、
前記流体作動部は、前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を打ち消すため、前記受圧部と前記加圧部との間に配設された押圧用流体作動部、又は前記加圧部と固定部との間に設けられた引き圧用流体作動部であること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記流体作動部は、圧力調整を行うタイミングとしては次の三つのステップA、B、Cを順次踏むこと
を特徴とする精密プレス装置。
ステップAでは、前記加圧部を真空引き可能な位置まで移動し、真空引きを行った際に発生する負圧を打ち消すため、加圧力を発生させる。
ステップBにおいては、真空引き完了後に前記加圧部が被転写物の転写位置まで可動する際に発生する前記流体作動部の摺動抵抗を打ち消すため、前記加圧力を調整する。
ステップCにおいては、前記被転写物がプレスプレート面に接触した際、真空引きされる面積が変化することに起因した圧力変動に対応するため、前記加圧力を調整する。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記プレスステージに加熱、冷却能力を有したこと
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
真空引きにて発生した負圧を加圧力として利用すること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記チャンバに加圧用口を少なくとも一つ以上有したこと
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項記載の精密プレス装置において、
前記チャンバの前記筒壁は、円筒形、四角筒形、多角筒形等の筒形に形成されていること
を特徴とする精密プレス装置。
【請求項11】
受圧部、当該受圧部に対向し且つ前記受圧部に対して進退可能に配置された加圧部、前記受圧部と前記加圧部との各対向面に装着されるプレスステージ、前記加圧部を駆動する駆動部、及び前記受圧部及び前記加圧部の接近状態で前記受圧部と前記加圧部との間で前記プレスステージを封止状態に囲む筒壁を有するチャンバを備えた精密プレス装置において、
前記筒壁を、前記受圧部と前記加圧部との少なくとも一方に形成されたシリンダ内の流体圧力に基づいて他方に向かって進退可能に設けられた筒状プランジャとし、
前記チャンバ内の負圧に基づいて発生する前記受圧部と前記加圧部とを互いに引き寄せる力を、前記流体圧力に基づいて前記筒状プランジャに発生する加圧力と吊り合わせて打ち消すこと
を特徴とする精密プレス装置におけるプレス荷重制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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