説明

精密機器用トレー

【課題】
トレーを常温また高温で使用する時でも積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることなく同上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)を規制できて、トレーを自動機械で安全に取り扱うことができる精密機器用トレーを提供できるようにした。
【解決手段】
積み重ねたトレーの水平方向への移動を規制するためのトレー上面4側および下面5側の辺部または辺部近傍にそれぞれ対に設ける凸体2および凹体3の少なくともトレーの辺方向に沿って前後する2つの側面を、凸体2においては突出方向に先細となるように、かつ凹体3においては開口方向に対し先広となるようにほぼ同じ勾配の傾斜を付してなる精密機器用トレー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC等の電子部品を収容するための収容ポケットを、上面に多数備えた精密機器用トレーに関し、より詳しくは、トレーを上下方向に積み重ねた際に、同上下トレーに生じる水平方向のずれを低減できる精密機器用トレーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC等の電子部品を製造する際に、これら部品の各工程間における搬送や保管等に数段積み重ねて用いる耐熱用のプラスチックトレーは、ICの製造過程におけるアニール工程にて、同トレーにも125℃〜150℃の熱が数十分〜数時間加わっている。
【0003】
このため、前述するトレーは熱収縮して全体の寸法が小さくなるので、同トレーは熱収縮を考慮した寸法公差で形成してあり、積み重ねた上下トレーに食い付きが生じないようにしている。
【0004】
また前述のように、トレーは積み重ねた状態で用いるのが普通であり、また自動機械によって取り扱われることが一般的であるので、同トレーには、積み重ねた上下トレーに水平方向のずれが生じないようにするための凸体と凹体より構成したずれ止め手段を、各トレーの上下両面にそれぞれ設けている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このずれ止め手段も熱収縮を考慮した嵌め合い公差で形成されているので、同手段における構成部材の嵌め合い公差をより小なる値にして積み重ねた上下トレーの水平方向のずれを低減させ、自動機械でトレーを取り扱う際に、ずれによる事故が発生する可能性を低減しようとしても、積み重ねている上下トレーに食い付きが生じる可能性があるため、嵌め合い公差をより小なる値にするには限界があった。
【0006】
このため、常温使用時では積み重ねた上下トレーに生じる水平方向のずれが大になる恐れがあることから、自動機械でトレーを取り扱う際に支障が生じる恐れがあり、したがって、前述する積み重ねた上下トレーに水平方向のずれが生じないようにするために設けたずれ止め手段が有効に機能していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−88995号公報(第1〜10頁、図1〜19)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トレーを常温また高温で使用する時でも積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることなく同上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)を極めて小なる値に規制できて、トレーを自動機械で安全に取り扱うことができる精密機器用トレーを提供できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る精密機器用トレーは、被収容物たる機器を収容するための多数のポケットを上面に備え、少なくとも2段以上積み重ねて使用できる精密機器用トレーにおいて、積み重ねたトレーの水平方向への移動を規制するためのトレー上面側および下面側の辺部または辺部近傍にそれぞれ対に設ける凸体および凹体の少なくともトレーの辺方向に沿って前後する2つの側面を、凸体においては突出方向に先細となるように、かつ凹体においては開口方向に対し先広となるようにほぼ同じ勾配の傾斜を付してなるものとしてある。
【0010】
また前記凸体および凹体における前記側面の勾配を、トレー面の垂直方向に対し20〜40度の範囲にしたものとしてある。
【0011】
また前記凸体および凹体を、トレーの少なくとも隣り合う2辺に設け、トレーを積み重ねて凸体と凹体とを嵌着した状態において、隣り合う一方の辺の凹体内における凸体のトレー辺方向の遊び寸法に対し、隣り合う他方の辺における凹体に嵌入する凸体のトレー内方側の厚みと前記凹体のトレー内方への奥行き寸法との差を十分に大なる寸法にしたものとしてある。
【0012】
また前記凸体および凹体を、トレーの全ての辺部またはその近傍に設けたものとしてある。
【0013】
また前記凸体および凹体に、トレーの積み重ねる方向を一定にするための方向決め機能を設けたものとしてある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の精密機器用トレーによれば、トレーを積み重ねた際に、上下トレーに水平方向のずれが生じないようにするためのトレー上面側および下面側に設けているずれ止め手段を、一対に形成してなる突出方向に対し先細の凸体と、開口方向に対し先広の凹体で構成しているので、凸体と凹体の嵌め合い公差をより小なる値にして上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)を極めて小なる範囲に規制した場合でも、上下トレーに食い付きが生じることがない。
【0015】
例えば、凸体と凹体の嵌め合い公差をゼロに等しくして凸体と凹体を嵌合した際の遊びをほぼ無くして上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)を極めて小なる値に規制した場合でも、凸体と凹体における同水平方向の移動(ずれ)を規制する部位の接触を斜面同士の接触としているので、温度変化等によってトレーが収縮した場合でも、それぞれの接触面同士が食い付くことがなく凸体側を上方に逃がす(移動)ことができ、したがって積み重ねている上下トレーに食い付きが生じることがない。
【0016】
これにより、トレーを常温また高温で使用する時でも積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることなく同上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)を極めて小なる範囲に規制できて、トレーを自動機械で安全に取り扱うことができる。
【0017】
また、使用しているトレーの中に製造ロットが異なるトレーが混ざっている場合や、経年変化により寸法が縮小しているトレーが混ざっている場合でも、積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る精密機器用トレーを示す平面図。
【図2】トレーの下面を示した図。
【図3】トレーの側面を示した図。
【図4】トレーを上方より見た一部拡大斜視図。
【図5】トレーの積み重ね状態を示す側面図。
【図6】積み重ねる時のトレーを上方より見た一部拡大斜視図。
【図7】トレーを図1中の矢印Gより見た側面図。
【図8】トレーの凸部と凹部の嵌め合い関係を示した図。
【図9】図8に示した嵌め合い関係に対する嵌合状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る精密機器用トレーは、少なくとも2段以上積み重ねて使用できる耐熱用の精密機器用トレーであり、図1に示すような上面4に被収容物たるIC等の電子部品を収容するためのポケトット7を多数備えるものを例に挙げて説明する。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の精密機器用トレーを添付図面に基づいて説明する。
【0021】
本トレー1における積み重ねたトレーの水平方向への移動を規制するための凸体および凹体は、図1に示すように、トレー1の上面4側に凹体3を、また図2に示すように、トレー1の下面5側に凸体2を配していて、これら凹体3および凸体2はそれぞれ対となるように外枠9寄りの位置に設けている。
【0022】
また、図1に示すトレーの上側の長辺に設けた上面4側の凹体3と、この凹体と対をなす下面5側の凸体2(図2では下側の長辺に表れている)を、図1、2において向かい合う長辺同士に設けた凹体3はその辺方向の寸法を異にしており、同様に凸体2もその辺方向の寸法を異にする。このように構成することにより、トレー同士を積み重ねる際、上下のトレーの向きが、異なっていると凹体と凸体の寸法関係が対応せず、積み重ねることが出来ないため、誤った方向での積み重ねを防止する機能、すなわち方向決め機能を有する。
【0023】
そして、図1、図2に示した凸体2および凹体3は、トレー1の上面4側および下面5側における外枠9寄りのトレーの全ての辺部の近傍にそれぞれ1つ配しているが、トレー1の形態等によっては、例えば、長手方向の2辺部に複数配する場合もあって、トレーにより適する数を選定する。
【0024】
これら凸体2および凹体3は、図1中の矢印F方向より見ている図3に示すように、トレー1を側面方向より見た時、凸体2においては突出方向に先細となるように、かつ凹体3においては開口方向に対し先広となるようにほぼ同じ勾配の傾斜を付し、凸体2の頂部および凹体3の底部をそれぞれ略平坦にする逆台形の形状にしている。
【0025】
そして、これら逆台形形状の凸体2および凹体3は、図4中の(a)図に示すように、トレー内方に対し所定の厚みおよび奥行きを有していて、かつ凸体2と凹体3との厚みと奥行きの関係は、トレーを積み重ねて凸体2と凹体3とを嵌着した状態において、隣り合う一方の辺の凹体3内における凸体2のトレー辺方向の遊び寸法に対し、隣り合う他方の辺における凹体3に嵌入する凸体2のトレー内方側の厚みと前記凹体3のトレー内方への奥行き寸法、すなわち図4中の(b)図に示した凹体3の奥行きたる寸法Aとの差を十分に大なる寸法にしていて、トレーを積み重ねる際や積み重ねたトレーが水平方向に移動した際、凸体2のトレー内方に向く面と凹体3のトレー外方に向く面とが当たらないようにしている。
【0026】
また、逆台形形状の凸体2および凹体3における側面(トレーの辺方向に沿って前後する側面)の勾配を、すなわち図4中の(b)図に示す角度θは、トレー面の垂直方向に対し20〜40度の範囲にするのが望ましく、同角度の範囲内にすることで、トレーを積み重ねた際におけるトレーの水平方向への移動がしっかりと規制できる。
【0027】
そして、図5に示すように、トレー1は数段積み重ねて使用され、トレー1の上面4側および下面5側に設ける凹体3および凸体2は、図6に示すように、上トレーの凸体2が下トレーの凹体3に嵌るようにしている。
【0028】
次に、図8および図9を用いて、凸体2と凹体3の嵌め合い公差をより小なる値にして上下トレーにおける水平方向の移動(ずれ)、すなわちトレーの辺方向の移動(ずれ)を極めて小なる範囲に規制した場合でも、上下トレーに食い付きが生じることがないことを説明する。
【0029】
図8において、上トレーの凸体2における図中の寸法Cと、下トレーの凹体3における図中の寸法Bとの関係を、凸体2と凹体3の嵌め合い公差をより小なる値に設定したとする。
すなわち、凸体2を凹体3に嵌めた際、トレーの辺方向の遊びを非常に小なる値に設定したものとする。
【0030】
そして、上トレーを下トレーに積み重ねて上トレーの凸体2が下トレーの凹体3に嵌合した状態を示した図9において、例えば常温使用時たる(a)図(条件:B>C)の時、すなわちトレーの辺方向にそって前後する2つの側面の遊びが嵌め合い公差よりも小なる値になっている時、凸体2と凹体3の嵌め合い状態は、(a)図中の寸法Dがそれぞれ左右に空き(上下のトレーを水平方向にずれることなく正確に積み重ねた場合)、したがって、積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることはない。
【0031】
次に、図9において、例えば高温使用時たる(b)図(条件:B<C)の時、すなわち温度変化によって凸体2の図8に示した寸法Cよりも凹体3の図8に示した寸法Bが小なる寸法になっている時、凸体2と凹体3の嵌め合い状態は、上トレーを下トレーに積み重ねると凸体2と凹体3の傾斜面同士は接触してしまうが、接触部位が傾斜面同士であるため凸体2が上方に逃げ(移動)て(b)図中の寸法Eが空き、したがって、上トレーが寸法E分上方に移動するだけなので積み重ねた上下トレーに食い付きが生じることはない。
【0032】
また、前述するトレーの積み重ねる方向を一定にするための方向決め機能としては、トレー1の上面4側および下面5側に設ける凹体3および凸体2をそれぞれ同じ寸法にし、これら凸体2および凹体3を長手方向の2辺に対し一方の辺には1つ、他方の辺には2つ設けるというように配設する数を変えて、トレーを積み重ねる際に同じ向きでないとトレーを積み重ねることができないようにする場合もある。
【0033】
また、前述するポケット7は、収容する電子部品の形態によって形状や数量等も適宜変更する場合もある。
【0034】
さらに、トレー1における上面4(図5参照)や上面4の背面となる下面5(図6参照)の表面は、平坦な表面に限るものではなく、強度向上や変形防止のために突条や溝等を設けたり、また、軽量化や部品が乾燥し易いようにポケット内や各ポケット間を肉抜きする場合もある。
【0035】
実施例における図中の符号6は、トレーを持ち運ぶ際の持ち手、符号8は、トレーを積み重ねる際の方向を示す目印となる切り欠きである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、IC等の電子部品を収容するための数段積み重ねて使用することができる精密機器用トレーに関するものである。
【符号の説明】
【0037】
1 トレー
2 凸体
3 凹体
4 上面
5 下面
6 持ち手
7 ポケット
8 切り欠き
9 外枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被収容物たる機器を収容するための多数のポケットを上面に備え、少なくとも2段以上積み重ねて使用できる精密機器用トレーにおいて、積み重ねたトレーの水平方向への移動を規制するためのトレー上面側および下面側の辺部または辺部近傍にそれぞれ対に設ける凸体および凹体の少なくともトレーの辺方向に沿って前後する2つの側面を、凸体においては突出方向に先細となるように、かつ凹体においては開口方向に対し先広となるようにほぼ同じ勾配の傾斜を付してなる精密機器用トレー。
【請求項2】
前記凸体および凹体における前記側面の勾配を、トレー面の垂直方向に対し20〜40度の範囲にしてなる請求項1に記載の精密機器用トレー。
【請求項3】
前記凸体および凹体を、トレーの少なくとも隣り合う2辺に設け、トレーを積み重ねて凸体と凹体とを嵌着した状態において、隣り合う一方の辺の凹体内における凸体のトレー辺方向の遊び寸法に対し、隣り合う他方の辺における凹体に嵌入する凸体のトレー内方側の厚みと前記凹体のトレー内方への奥行き寸法との差を十分に大なる寸法にしてなる請求項1に記載の精密機器用トレー。
【請求項4】
前記凸体および凹体を、トレーの全ての辺部またはその近傍に設けてなる請求項1に記載の精密機器用トレー。
【請求項5】
前記凸体および凹体に、トレーの積み重ねる方向を一定にするための方向決め機能を設けてなる請求項1に記載の精密機器用トレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189048(P2010−189048A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37538(P2009−37538)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(592180476)シノン電気産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】