説明

精神病性障害を診断及びモニタリングする方法及びバイオマーカー

本発明は、被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法に関し、試験生体サンプルを被験体から準備すること、1つ又は複数のスペクトルを与えるために当該試験生体サンプルでスペクトル分析を行うこと、及び1つ又は複数のスペクトルを1つ又は複数の対照スペクトルと比較することを含む。本発明は、統合失調症又は双極性障害などの精神病性障害を診断又はモニタリングする方法にも関し、試験被験体から採取した生体サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを測定することを含み、当該バイオマーカーがトランスサイレチン、ApoA1、VLDL、LDL、及び血漿タンパク質等の芳香族種から成る群から選択される。本発明は、本発明の方法を実施するためのセンサー、バイオセンサー、多重検体パネル、アレイ、アッセイ及びキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマーカーを用いて精神病性障害、特に統合失調症(及び双極性障害)を診断又はモニタリングする方法に関する。バイオマーカー、及びバイオマーカーが利用される方法は、診断を補助し、また精神病性障害の発症及び進行を評価するのに用いることができる。本発明は、臨床スクリーニング、予後の評価、治療の評価における、並びに薬物スクリーニング及び薬物開発のためのバイオマーカーの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
精神病は、重度の精神疾患の症状である。精神病は、任意の特定の精神状態又は身体状態に排他的に関連されるとは限らないが、精神病は、特に統合失調症、双極性障害(躁うつ病)及び重度の臨床的うつ病に関連される。精神病は、基本的な知覚過程、認知過程、情動過程及び判断過程における障害を特徴とする。精神病エピソードに悩む個体は、幻覚(多くの場合、幻聴又は幻視)を体験し、偏執的又は妄想的信念を抱き、人格変化を体験し、支離滅裂な思考(思考障害)を示すことがある。これは、場合によっては行動の異常性又は奇妙性に対する洞察の欠如、社会的相互作用の困難及び日常生活の活動を行う際の機能障害のような特徴を伴うことがある。
【0003】
精神病は、脳損傷の症例で見られることが珍しくなく、薬物使用後、特に薬物過剰摂取又は慢性使用後に起こる場合があり、或る特定の化合物は、精神病を誘導する可能性がより高い場合があり、個体によっては、他者よりも高い感受性を示す場合がある。幻覚薬の直接的な影響は、薬物が身体から代謝される場合にそれらが和らぐ限りは、通常精神病と分類されない。慢性心理的ストレスもまた、精神病的状態を促進させることが知られているが、正確なメカニズムは不明確である。任意の他の精神疾患の非存在下でストレスにより誘発される精神病は、短期反応精神病として知られている。したがって、精神病は、行動及び体験の複雑な群に関する記述用語である。統合失調症の患者は、長期間精神病を伴わないことがあり、双極性障害又はうつ病の個体は、精神病を伴わない気分症状を有することがある。
【0004】
幻覚は、外部刺激の非存在下での知覚として定義される。精神病的幻覚は、五感のいずれかで起こり、ほぼ任意の形態を取る可能性があり、単純な感覚(例えば、光、色彩、味、臭い)からより意味ある体験(例えば、完全に形成された動物及び人間を見ること及びそれらと接触すること、声を聞くこと並びに複雑な触感)までを包含し得る。幻聴、特に声を聞くという体験は、精神病の一般的且つ多くの場合顕著な特徴である。幻覚の声は、人について又は人と話すことがあり、別々の人格を伴う数名の話し手を包含することもある。幻聴は、それらが軽蔑的であるか、命令調であるか、又は心が捕らわれている場合に特に苦痛を伴う傾向にある。
【0005】
精神病は、妄想的又は偏執的信念を包含する場合があり、第1の型及び第2の型に分類される。第1の妄想は、不意に生じ、正常な精神過程の観点では理解できないとみなされるのに対して、第2の妄想は、人の過去又は現在の状況により影響を受けていると理解されることがある、即ち、「現実の」状況の妄想的解釈を表す。
【0006】
思考障害は、意識的思考に対する根本的な混乱を表すものであり、主として話すこと及び書くことの内容並びに形態に対するその影響により分類される。罹患した人はまた、話すことへの圧力(絶え間なく迅速に話すこと)、発想の脱線又は飛躍(主題の途中で又は不適切に切り換えること)、思考途絶、ろれつが回らない状態(rhyming or punning)を示し得る。
【0007】
精神病エピソードは、個体間で継続期間が異なり得る。短期反応精神病では、精神病エピソードは、一般的に特異的なストレスの多い生活上の出来事に直接関連されるため、患者は、通常2週間以内に自然に正常な機能を回復する。幾つかの稀な場合では、個体は、何年にもわたって本格的な精神病の状態が続くか、或いはほとんどの場合で起こる弱い精神病的症状(例えば、低度の幻覚)を有する場合がある。
【0008】
短期精神病エピソードを患う患者は、例えば統合失調症の結果として精神病である人と同じ症状の多くを有することがあり、この事実は、精神病が主として脳内の幾つか特異的な生体系における崩壊であるという概念を支持するのに用いられている。
【0009】
統合失調症は、人口の最大1%が罹患する主要な精神病性障害である。統合失調症は、男女共に同様の有病率で見られ、多様な文化及び地理的領域全体にわたって見出される。世界保健機関は、統合失調症が身体障害の世界で4番目に主要な原因であり、総DALY(障害調整生存年)の1.1%及びYLD(障害生存年数)の2.8%を占めることを見出した。統合失調症の経済費用は、1991年では190億USドルを超え、米国における全ての癌の総費用よりも大きいと推定された。早期の診断及び統合失調症の有効な治療は、予後を改善させて、この疾病に関連する費用を低減させるのを補助することができる。
【0010】
統合失調症の臨床的症候群は、陽性症状(幻覚、妄想、思考の解体及び奇妙な行動)、陰性症状(自発性の損失、感情面での経験及び表現の制限、並びに快楽能力の低減)及び個体間での広範な変動を伴う認知障害を含む個々の臨床的特徴を含む。単一の症状が統合失調症に特有であるのではなく、且つ/又はあらゆる場合に存在するのではない。臨床的症状の均質性の欠如にもかかわらず、統合失調症の現在の診断及び分類は、依然として患者により示される臨床的症状に基づいている。これは主として、統合失調症の原因論が依然として未知であり(実際、ほとんどの精神病の原因論が依然として不明確である)、原因論に基づく分類がいまだに実現できていないためである。統合失調症の臨床的症状は、多くの場合他の神経精神障害及び神経発達障害で観察される症状に類似している。
【0011】
統合失調症の被験体により示される複雑で多種多様な症状及び他の精神障害に対するそれらの類似性に起因して、統合失調症の現在の診断は、患者の家族歴、個人歴、現在の症状(精神状態検査)及び他の障害の存在/非存在(鑑別診断)の複雑な臨床検査/問診に基づいて行われる。この評価により、「最も見込みある」診断を確立することが可能となり、初期治療計画につながる。統合失調症と診断されるには、患者(少数の例外を除く)は、少なくとも6ヶ月間精神病的「現実の喪失(loss-of-reality)」症状を有し(DSM IV)、また正常に機能することがより困難になることを示すものとする。
【0012】
1992年に世界保健機関により出版された精神及び行動の障害のICD−10分類(The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders)は、精神衛生状態を診断するのに欧州の精神科医により最も一般的に使用されるマニュアルである。マニュアルは、詳細な診断ガイドラインを提供し、様々な形態の統合失調症:統合失調症、妄想型統合失調症、破瓜型(hebrephrenic)統合失調症、緊張型統合失調症、識別不能型統合失調症、統合失調症後抑うつ、残遺型統合失調症及び単純型統合失調症を規定する。
【0013】
米国精神医学会(Washington, D.C.)により1994年に出版された精神障害の診断及び統計マニュアル第四版(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fourth edition)(DSM IV)は、精神衛生問題を類別及び診断するための英国及び米国の両方における医療従事者用の権威ある参考ハンドブックであるとされている。これには、統合失調症、双極性障害及び関連精神病性障害を含む精神衛生障害の診断基準、亜型、関連する特徴並びに識別診断に関する基準が記載されている。
統合失調症に関するDSM IVの診断基準
A.特徴的な症状:以下のうちの2つ(又はそれ以上)がそれぞれ1ヶ月(又は首尾よく治療される場合にはそれ未満)の期間の相当部分に存在する:妄想、幻覚、解体した会話(例えば、頻繁な脱線又は支離滅裂)、極めて解体した行動又は緊張病性行動、陰性症状、即ち感情鈍磨、失語又は自発性欠如(avolition)。妄想が奇妙であるか、又は幻覚が人の行動又は思考に関して実況解説をし続ける声、或いは互いに会話している2つ以上の声から構成される場合には、唯一の基準A症状が必要とされる。
B.社会的/職業的機能不全:障害の発症から相当部分の時間、仕事、対人関係又はセルフケアのような機能の1つ又は複数の主要な領域が、発症前に達成されたレベルを著しく下回る(或いは、発症が幼児期又は思春期である場合、対人的、学問的又は職業的な達成の予測レベルを達成することができない)。
C.持続期間:障害の連続的な徴候が、少なくとも6ヶ月間存続する。この6ヶ月の期間は、基準Aを満たす症状(即ち、活動期の症状)の少なくとも1ヶ月(或いは首尾よく治療される場合にはそれ未満)を包含しなくてはならず、前駆症状又は残留症状の期間を包含し得る。これらの前駆期間又は残留期間中、障害の徴候は、単なる陰性症状又は減衰された形態で存在する基準Aに列挙される2つ以上の症状(例えば、異様な信念、異常な知覚体験)を呈し得る。
D.統合失調性感情障害及び気分障害の排除:精神病的な特徴を伴う統合失調性感情障害及び気分障害は、(1)大うつ病エピソード、躁病エピソード又は混合エピソードのいずれかが活動期症状と同時に起こっていないため、或いは(2)気分エピソードが活動期症状中に起こる場合に、それらの総持続期間が活動期間及び残留期間の持続期間に対して短いため除外される。
E.物質/一般的な医学的状態の排除:障害は、物質(例えば、薬物乱用、投薬)の直接的な生理学的影響又は一般的な医学的状態、いわゆる「器質性」脳障害/症候群に起因しない。
F.広汎性発達障害との関係:自閉症又は別の広汎性発達障害の病歴が存在する場合、統合失調症のさらなる診断は、顕著な妄想又は幻覚も少なくとも1ヶ月間(或いは首尾よく治療される場合にはそれ未満)存在する場合にのみ為される。
統合失調症亜型
1.妄想型:以下の基準が満たされる統合失調症の型:1つ又は複数の妄想(特に、被害内容)を伴う没頭、又は頻発する幻聴。以下のいずれも顕著ではない:解体した会話、解体した行動又は緊張病性行動、又は鈍磨若しくは不適切な感情)。
2.緊張型:臨床像が以下の少なくとも2つを特色とする統合失調症の型:強硬症(ろう屈症を含む)により明らかなような運動不動性又は昏迷過剰運動活動(これは、明らかに無意義であり、外部刺激により影響を受けない)、極度の否定主義(全ての指示に対する明らかに動機のない抵抗又は移動させようとする試みに対する硬直した姿勢の維持)又は無言症、ある態度をとること(不適切な態度又は奇妙な態度を随意にとること)により明らかであるような随意的な動作という奇癖、常同運動、顕著な癖、或いは顕著な顔をゆがめる反響言語又は反響動作。
3.解体型:以下の基準が満たされる統合失調症の型:以下の全てが顕著である:解体した会話、解体した行動、鈍磨又は不適切な感情。基準は、緊張型を満たすものではない。
4.識別不能型:基準Aを満たす症状が存在するが、基準は、妄想型、解体型又は緊張型を満たすものではない統合失調症の型。
5.残遺型:以下の基準が満たされる統合失調症の型:顕著な妄想、幻覚、解体した会話及び極めて解体した行動又は緊張病性行動の欠如。陰性症状或いは減衰された形態で存在する統合失調症に関する基準Aに列挙される2つ以上の症状(例えば、異様な信念、異常な知覚体験)の存在により示されるように、障害の継続した徴候が見られる。
統合失調症関連特徴
統合失調症に関連する特徴としては、学習上の問題、自発運動の抑制、精神病、多幸気分、抑うつ気分、身体上の又は性的な機能障害、活動亢進、自責心又は脅迫観念、性的異常行動、異様な/変わった人格又は不審な人格、心配性又は恐がり又は依存的な人格、劇的又は気まぐれ又は反社会的な人格が挙げられる。
【0014】
多くの障害は、統合失調症に類似するか、又はさらには統合失調症と同じ症状を有する:一般的な病状、せん妄又は認知症に起因する精神病性障害、物質誘導性精神病性障害、物質誘導性せん妄、物質誘導性持続性認知症、物質関連障害、精神病的特徴を伴う気分障害、統合失調性感情障害、特定不能の抑うつ障害、特定不能の双極性障害、緊張病性特徴を伴う気分障害、統合失調症様障害、短期精神病性障害、妄想性障害、特定不能の精神病性障害、広汎性発達障害(例えば、自閉性障害)、解体した会話(意思疎通障害由来)及び解体した行動(注意欠陥/多動性障害由来)を組み合わせた幼児期症状(presentation)、統合失調症性障害、統合失調症的人格障害及び偏執性人格障害。
DSM IV 躁うつ病/双極性情動障害(BD)に関する診断カテゴリー
双極性疾病のわずか2つの亜型は、それら自体のDSMカテゴリー、即ち双極性I及び双極性IIが付与されるのに十分明確に規定されている。
双極性I:この障害は、躁病エピソード:躁うつサイクルの「高(high)」を特徴とする。概して、この躁状態期間後に、抑うつ状態の期間が続くが、双極性I個体によっては、大うつ病エピソードを経験しない場合がある。躁病症状又は軽躁病症状及びうつ病症状が同時に起こる混合状態もまた、双極性I患者に頻繁に見られる(例えば、躁病の思考の早まり(racing thoughts)を伴ううつ病)。また、不快性躁病は一般的であり、これは、怒り及び興奮性を特徴とする躁病である。
双極性II:この障害は、大うつ病エピソードが躁病のより穏やかな形態である軽躁病のエピソードと交互に起こることを特徴とする。軽躁病エピソードは、あまり崩壊的でない形態の躁病であり、躁病の低レベルの非精神病性症状(例えば、活力の増大又は通常よりも高揚した気分)を特徴とし得る。軽躁病エピソードは、日常的に活動をする個体の能力に影響を及ぼし得ない。軽躁病に関する基準は、それらのより短い持続期間(1週間ではなくて少なくとも4日)及びより穏やかな重篤性(顕著な機能障害、入院又は精神病性特徴なし)のみが、躁病に関する基準と異なる。
【0015】
うつ病及び躁病状態の交互のエピソードが2年間続いて、且つ大うつ病又は躁病エピソードに関する基準を満たさない場合、診断は、双極性情動障害のあまり重篤でない形態である気分循環性障害と分類される。気分循環性障害は、2年にわたって診断され、安定期で隔てられ、短期間で軽躁病とうつ病症状とが頻発することを特徴とする。
【0016】
急速交代型は、個体の気分が、間に安定期をあまり有さずに又は安定期を全く有さずに、間断なく抑うつ状態から軽躁病又は躁病へ変動する場合に見られる。或る年に、大うつ病エピソード、躁病エピソード、混合エピソード又は軽躁病エピソードに関する基準を満たす4回以上のエピソードを有した場合には、人は急速交代型を経験すると言われている。急速交代型の人々によっては、月1回、週1回又はさらには毎日、極性の交代を経験し得る人もいる(場合によっては、超急速交代型と呼ばれる)。
【0017】
躁病、うつ病、混合気分又は軽躁病の症状が、甲状腺疾患又は卒中のような内科的障害により直接的に引き起こされる場合、現在の診断は、一般的な病状に起因する気分障害である。
【0018】
躁病気分が、抗うつ薬であるECTにより、或いはストリートドラッグ(street drug)を使用している個体により引き起こされる場合、診断は、躁病特徴を伴う物質誘導性気分障害である。
【0019】
双極性IIIの診断は、自発的ではなくて、抗うつ薬投薬を行った結果として起こる躁病エピソードを類別するのに使用されている。紛らわしいことに、双極性IIIの診断はまた、大うつ病を伴わずに個体が軽躁病又は気分循環症(即ち、あまり重篤でない躁病)を経験する状況でも使用されている。
躁病
躁うつ病は、2つの別個の且つ正反対の気分状態から構成され、抑うつ状態が躁状態と交互に起こる。DSM IVは、障害が躁病と分類される前に満たさなくてはならない多数の基準を示している。第1の基準は、個体の気分が高揚されているか、開放的であるか、或いは興奮性でなくてはならないことである。気分は、安定期中の個体の通常の感情状態と異なる気分でなくてはならない。相当な期間にわたって顕著な変化が存在しなくてはならない。人は、非常に高揚した状態となり、誇大な発想を有さなくてはならない。人はまた、非常にいらいらするようになる場合があり、同様に態度が「傲慢」であるように見える場合がある。躁病に関する第2の主要な基準は、以下の症状のうち少なくとも3つが相当な度合いで存在した状態でなくてはならないことを強調する:自尊心の誇張、睡眠欲求の減少、多弁の増大、観念の奔逸或いは競合、注意散漫、目標指向活動の増大。喜びをもたらすことができるが、破滅的な結末(性的な事件及び過剰な浪費)を有する場合がある活動における過度の関与。DSM IVにおける躁病に関する第3の基準は、気分の変化が、個体の業務遂行又は日常的な社会活動に参加する能力又は他人との関係に影響を及ぼすのに十分顕著でなくてはならないことを強調する。この第3の基準は、躁病と軽躁病との間の違いを強調するのに使用される。
うつ病
DSM IVは、大うつ病が臨床上規定される多数の基準が存在することを明言している。状態は、少なくとも2週間明白でなくてはならず、以下の症状のうち5つを有さなくてはならない:ほとんど毎日、ほぼ一日中の抑うつ気分、ほとんど毎日、ほぼ全ての活動における興味又は喜びの損失、体重及び食欲の変化、睡眠障害、身体活動の減少、疲労及び活力の損失、倦怠感又は過剰な罪悪感、乏しい集中力、自殺願望。
【0020】
抑うつ気分及び日常活動における興味の損失は共に、大うつ病を特徴付ける5つの症状のうちの2つとして明白でなくてはならない。躁うつ病の抑うつ気分を患う個体と大うつ病を患うものの症状間を識別することは困難である。気分変調は、単極性うつ病よりもあまり重篤でないうつ病であるが、気分変調はより持続的であり得る。
【0021】
精神病性障害の正確な診断を達成するのに現在必要とされる長期にわたる過程は、適切な治療の遅延を引き起こすおそれがあり、中期から長期の疾患の転帰に重大な影響を持つ可能性が高い。客観的な診断方法、試験及びツールの開発は、類似した臨床症状を伴う精神病間を識別するのを補助するのに緊急に要される。統合失調症及び/又は双極性障害のような精神病性障害に関する客観的な診断方法及び試験は、疾病の間に個体をモニタリングすること(治療応答、コンプライアンス等)を補助し、また予後を決定する際、並びに薬物スクリーニング及び薬物開発用のツールを提供する際に有用であり得る。
【0022】
残念なことに、現在のところ、統合失調症又は双極性障害のような精神病性障害に関する標準的で高感度で特異的な試験が存在しない。
【0023】
統合失調症診断用に現在開発中の生化学試験の1つは、異常なアラキドン酸代謝に起因して、幾つかの統合失調症患者においてナイアシン皮膚試験に応答することができないという観察に基づくナイアシン皮膚紅潮試験である。しかしながら、この試験の特異性及び感受性は、23%〜87%の範囲で研究間の極端な不一致を示し、この試験の信頼性及び妥当性は、依然として実証される必要がある。
【0024】
国際公開特許第WO01/63295号は、神経精神学的又は神経学的状態(BAD(双極性情動障害)、統合失調症及び血管性認知症を含む)のスクリーニング、診断及び予後の確定のための、これらの状態における治療の有効性をモニタリングするための、及び薬物開発における使用のための方法並びに組成物について記載している。
【0025】
前頭葉及び側頭葉並びに脳幹神経節の繊細な変化に基づく磁気共鳴映像法又は陽電子射出断層撮影法のような他の技法は、統合失調症を伴う個体患者と正常な比較被験体との間のこれらの報告される違いの実寸は概して小さく、2つの群間で顕著な重複を伴っていたため、個体患者における統合失調症の診断、治療又は予後にとってあまり価値がない。これらの神経画像処理技法の役割は、脳腫瘍又は出血のような統合失調症の症状に付随し得る他の状態の排除に主として限定される。
【0026】
メタボノミクス研究は、個体の代謝状態の特徴的なパターン又は「フィンガープリント(fingerprint)」を作成するのに使用することができる。生体液のような生体サンプルに関するメタボノミクス研究は、生物体全体の生化学的状態に関する情報を提供する。
【0027】
「メタボノミクス」は、「病態生理学的刺激又は遺伝子改変に対する生物系の多パラメータ代謝応答の定量測定」として従来定義される。メタボノミクスは、生体サンプル:生体液、細胞及び組織の代謝組成を研究するためのH NMR分光法の使用から、また複雑なNMRで作成された代謝データ組を解釈及び分類するための並びに有用な生物学的情報を抽出するためのパターン認識(PR)、エキスパートシステム及び他のケモインフォマティクスを利用する研究から開発された。
【0028】
生体液及び組織のH NMRスペクトルは、サンプルが一連の生物学的に重要な内因性代謝産物に関して得られる生物体の特徴的な代謝の「フィンガープリント」又はプロファイルを提供する。この代謝プロファイルは、疾患、障害、毒性プロセス又は生体異物(例えば、薬物物質)により特徴的に変化される。生体サンプルにおける代謝産物パターンの定量化可能な差は、疾患又は障害の基礎を成す分子メカニズムに対する情報及び洞察を付与し得ることである。薬物の影響の評価において、各化合物又は化合物類により、生体サンプルにおける内因性代謝産物の濃度及びパターンの特徴的な変化が生じる。
【0029】
代謝性変化は、多次元空間における座標として生体サンプルにおいて測定される各代謝産物を表す自動コンピュータプログラムを使用して特性化され得る。
【0030】
メタボノミクス技術は、代謝の先天異常、肝臓及び腎臓疾患、心血管疾患、インスリン抵抗性及び神経変性障害のバイオマーカーを同定するのに使用されている。
【0031】
症状の複雑なスペクトル及び他の精神障害とのこのスペクトルの類似性だけでなく、経験的な疾患マーカーの欠如のために、統合失調症等の精神病性障害の現行の診断は主観的なままである。重篤な精神病を治療するのにより効果的な薬剤及び診断試験が臨床的に非常に必要とされている。
【0032】
近年の機能的ゲノミクス研究によって、統合失調症に対する代謝成分は存在するが、代謝的側面の精神病性障害への寄与は十分に理解されていないことが示唆されている。異常な糖調節、脂質代謝及びミトコンドリア機能障害が統合失調症及び情動障害に関係があるという証拠もある8〜11。しかし、これらの代謝変動が障害自体の原因又は結果であるかどうか、又は薬物治療の結果としてこれらの代謝の変動が起こるか否かは理解されていない。抗神経性障害剤の作用は顕著に脂質異常症と結び付いているが、グルコース代謝の変動の報告よりも前に抗精神病薬eraが存在しており(Haupt and Newcomer12によって総説された)、長期間の統合失調症患者におけるメタボリック症候群の進行速度を求めることを目的とする近年の報告によって、メタボリック症候群の有病率が抗精神病薬の日用量に逆相関することが見出された13
【0033】
遺伝的環境要因及び非遺伝的環境要因の両方が統合失調症の病状に寄与し、及び/又は症候群の発症を引き起こすことがこれまでに広く受け入れられている。多くの生物学的ストレス要因(ウイルス曝露、違法薬物の使用、周産期の発作等)及び社会的ストレス要因が環境疾患成分であると考えられ、素因の遺伝子型と相互作用する場合が多い。双生児の研究が複雑な障害に関与する遺伝要因及び環境要因を解明するのに特に強力なツールである。これまでの研究によって、統合失調症を発症する可能性は、血縁関係のレベルに高い相関があり、一卵性双生児においては一致率が約30〜50%に達することが実証されている1、2。不一致な双生児、即ち双生児の1人が障害を示し、双生児のもう1人が障害を示さない双生児が、これらの成分の幾つかの影響を解明する助けと為り得る。十分な数の不一致な双生児から脳サンプルを得ることが困難であるために、今までのところ統合失調症に関して不一致な一卵性双生児の研究は脳撮像に集中している。双生児の研究では、統合失調症においてほぼ一貫して報告された脳の変動のうちの1つ、即ち側脳室拡張は環境要因に寄与している可能性があることが暗示される6〜7
【0034】
容易に入手可能な体液、例えば血液、血漿、血清、尿、唾液又は脳脊髄液(CSF)等に存在するバイオマーカーは、神経病性障害の診断に有用であることが証明され、治療応答及びコンプライアンスを予測及びモニタリングする助けとなり、新規の薬剤標的の同定の補助となり得る。適切なバイオマーカーは、転帰を改善するように、又は病理を予防するように設計された新規の早期治療法又は発症前治療法の開発に重要なツールでもある。
【0035】
精神障害の逆転又は進行に特異的に対応する早期の変化を検出することができるバイオマーカーの検証は、診療をモニタリング及び最適化するのに必須である。予測因子(predictors)として使用したこれらのバイオマーカーは、危険性の高い個体及び化学介入試験に対する標的集団として有用であり得る疾患の亜群を同定する助けとなり得る一方で、サロゲートエンドポイントとして、バイオマーカーは、現在のところ明白な精神障害の発症をエンドポイントとして用いることができない速度での予防介入の有効性及び費用対効果を評価する潜在性を有している。
【0036】
トランスサイレチン遺伝子は、チロキシン結合グロブリン及びアルブミンを含むタンパク質の群に属する血漿タンパク質トランスサイレチン(TTR)をコードし、これは血中の甲状腺ホルモンを結合し、輸送する。TTRは、血流から脳へチロキシンを輸送する15。TTRは、127個のアミノ酸の一本鎖ポリペプチドであり(14kDa)、非共有結合モノマーのテトラマーとして血漿中に存在する。TTRは脳脈絡叢において、高い速度で発現され、脳脊髄液(CSF)へ放出される。末梢組織において、TTRは主に肝臓で発現される。脳室CSFにおいてトランスサイレチンの推定で3%のみ、及び腰部CSFにおいてトランスサイレチンの10%のみが血液由来である16。生理学的条件下で、高分子複合体はレチノールに特異的な輸送タンパク質であるリポカリンレチノール結合タンパク質(RBP)と結合するので、ビタミンAホメオスタシスに重要な生理学的役割を果たす。このことによって、腎臓において低分子量の輸送タンパク質(21kDa)の糸球体濾過が低減される。濾過される任意のTTR又はRBP分子が、腎近位尿細管の管腔表面上で発現するマルチリガンド受容体であるメガリンと迅速に結合し、それにより内在化する。このように、生理学的条件下で、TTR及びRBPは仮にあったとしても微量だけ尿に存在する。トランスサイレチンをコードする遺伝子TTRは、染色体領域18q11.2〜q12.1にある。
【0037】
トランスサイレチンはアルツハイマー病及びうつ病に関係している17。トランスサイレチンは、クロザピンで治療された統合失調症患者がトランスサイレチンのレベルにおいて差を示すことも示している18
【0038】
アポリポタンパク質はリポタンパク質粒子の構造成分、酵素に対する補因子、及び細胞表面受容体に対するリガンドとして脂質輸送で機能する。5つの主要な型のアポリポタンパク質が存在する:ApoA(ApoA1、ApoA2)、ApoB、ApoC(ApoC1、ApoC2、ApoC3、ApoC4)、ApoD、及びApoE。特に、ApoA1は高濃度リポタンパク質の主要なタンパク質成分であり、ApoA4は腸の脂質吸収で主に作用すると思われ、ApoEは、低濃度のリポタンパク質(LDL)受容体を含む異なる細胞受容体との高いアフィニティ相互作用によって、コレステロール及び脂質の輸送及び取り込みを介在する血漿タンパク質である。ApoA1は、心臓保護特性を有し、アテローム性動脈硬化症及び糖尿病に役割を果たすことが知られている28、29
【0039】
Wen et al30は、フェノチアジンによる治療を受けている患者のApoA1のレベルが、健常な個体由来の正常な対照と比べて低いことを開示している。
【0040】
Middleton et al31は、アポリポタンパク質遺伝子ファミリークラスターの発現レベルを分析した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0041】
発明の要約
本発明は、疾患関連のメタボリック兆候を特定するために、精神病性障害である統合失調症に関して不一致である一卵性双生児(即ち、双生児のうちの1人が病気に罹り、もう1人が病気に罹っていない)由来、及び健常な双生児の対照組由来の血漿をプロファイルする(profile)H NMRベースのメタボノミクスのアプローチの結果に一部基づく。
【0042】
一態様において、本発明は、
(a)前記被験体由来のサンプルを準備すること、
(b)1つ又は複数のスペクトルを得るために前記サンプルに対してスペクトル分析を実施すること、及び
(c)前記1つ又は複数のスペクトルを、1つ又は複数の対照スペクトルと比較することを含む、被験体における精神病性障害を診断又はモニタリングする方法を提供する。
【0043】
本発明は、
(a)前記被験体由来のサンプルを準備すること、
(b)1つ又は複数のスペクトルを得るために前記サンプルに対してスペクトル分析を実施すること、
(c)前記1つ又は複数のスペクトルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを検出するために前記1つ又は複数のスペクトルを分析すること、及び
(d)前記1つ又は複数のスペクトルで検出される前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、対照のスペクトルで検出される前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルと比較することを含む、被験体における精神病性障害を診断又はモニタリングする方法をさらに提供する。
【0044】
さらなる態様において、本発明は精神病性障害又はその素因を診断又はモニタリングする方法であって、試験被験体から採取した生体サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを測定することを含み、当該バイオマーカーは、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される。このような方法は、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に罹りやすい被験体における治療(例えば、治療物質)の有効性をモニタリングする方法において用いることができる。
【0045】
さらなる態様では、本発明は以下の群:VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される1つ、2つ又は3つのバイオマーカーを検出することができる多重検体パネル又はアレイを提供する。
【0046】
多重検体パネルは、多くの異なる検体を検出することができる。アレイは多くのサンプルにおいて単一の検体を検出することができるか、又は多重検体アレイとして、サンプルにおいて多くの異なる検体を検出することができる。本発明による多重検体パネル又は多重検体アレイは、本明細書で記載されるように1つ又は複数の代謝バイオマーカーを検出することができ、本明細書に具体的に記載されるもの以外のバイオマーカー(複数可)を検出することができる。
【0047】
また、必要に応じてキットの使用に関する取扱説明書と共に、本発明による方法を行うのに好適な診断又はモニタリング試験キットが提供される。診断又はモニタリングキットは、本発明による1つ又は複数のバイオセンサーを含んでもよく、単一センサー、又はバイオセンサー、或いはセンサー及び/又はバイオセンサーの組み合わせがこのキットに含まれ得る。診断又はモニタリングキットは、本発明によるパネル又はアレイを含み得る。診断又はモニタリングキットは、本発明によるアレイ又はアレイの組合せを含み得る。
【0048】
精神病性障害を診断及び/又はモニタリングするために、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される1つ又は複数のバイオマーカーの使用がさらに提供される。
【0049】
精神病性障害を調節することができる物質を同定するために、本発明による方法、センサー、バイオセンサー、多重検体パネル、アレイ又はキットの使用がさらに提供される。精神病性障害を調節することができる物質は、精神病の治療に有用な抗精神病物質、又は精神病を誘導し得る精神病促進物質であり得る。
【0050】
被験体において精神病性障害を調節することができる物質を同定する方法がさらに提供され、本明細書に記載されるようにモニタリングする方法を含み、特に好ましくは同定する方法が、試験被験体に試験物質を投与すること、及び生体サンプル、好ましくは当該被験体から採取した全血、血清又は血漿サンプルにおいて、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを検出することを含む。
【0051】
本発明は、統合失調症又はその素因に関するバイオマーカーとして配列番号1で示されるアミノ酸配列又はその断片を含むトランスサイレチンペプチドの使用にも関する。
【0052】
本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列又はその断片を含む、統合失調症に関するトランスサイレチンペプチドのバイオマーカーをさらに提供する。
【0053】
さらなる態様において、本発明は、統合失調症又はその素因を診断又はモニタリングする方法であって、試験被験体由来の生体サンプルに存在する配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含むトランスサイレチンペプチドのバイオマーカーを検出及び/又は定量することを含む方法を提供する。
【0054】
本発明のさらなる態様は、トランスサイレチンペプチドのバイオマーカーと特異的に結合することができる天然に存在する又は化学合成した化合物等のリガンドを提供する。本発明によるリガンドは、トランスサイレチンペプチドのバイオマーカーと特異的に結合することができるペプチド、抗体、又はその断片、或いはアプタマー又はオリゴヌクレオチドを含み得る。抗体は、トランスサイレチンペプチドのバイオマーカーと特異的に結合することができるモノクローナル抗体又はその断片であり得る。本発明によるリガンドは、発光マーカー、蛍光マーカー、酵素マーカー又は放射性マーカー等の検出可能なマーカーで標識され得る。代替的には又は付加的には、本発明によるリガンドは、アフィニティタグで標識され得る。好ましくは、本発明によるリガンドは、本明細書に記載されるように、トランスサイレチンペプチドのバイオマーカーと特異的に結合することができる、ペプチド、抗体又はその断片、或いはアプタマー又はオリゴヌクレオチドを含み、このリガンドは表1に列挙された群から選択された抗体、或いはT3、T4(甲状腺ホルモン)、ビタミンA(血清レチノール結合タンパク質と間接的に相互作用することによって)、アポリポタンパク質A1(ApoA1)、ノルアドレナリン酸化生成物、及びプテリン、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、ポリハロゲン化ビフェニル及び甲状腺ホルモン様化合物等の環境汚染物質、キサントン誘導体又は天然フラボノイド及び合成フラボノイドから成る群から選択されたリガンドではない。
【0055】
本発明は、統合失調症又はその素因を診断する方法であって、試験被験体由来の生体サンプルにおいて、配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含むApoA1ペプチドバイオマーカーを検出及び/又は定量することを含む方法を提供する。
【0056】
統合失調症に関するバイオマーカーは、疾患進行を遅らせるか、又は止める新規の標的及び薬剤分子の発見に対する標的である。ApoA1ペプチドバイオマーカーのレベルは、障害及び薬剤応答の指標となるので、ApoA1バイオマーカーはin vitro及び/又はin vivoアッセイにおける新規の治療化合物の同定に有用である。したがて、本発明のApoA1バイオマーカーは、本発明によるApoA1ペプチドバイオマーカーの活性を促進するか、又は生成を活性化する化合物をスクリーニングする方法に利用することができる。
【0057】
このように、本発明のさらなる態様において、ApoA1バイオマーカーペプチドの生成を刺激又は促進することができる物質又はリガンドであって、当該バイオマーカーが統合失調症又はその素因の治療のための薬物の製造において配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含む、物質又はリガンドの使用が提供される。ApoA1バイオマーカーペプチドの活性を刺激することができる物質又はリガンドであって、当該バイオマーカーが統合失調症又はその素因の治療のための薬物の製造において配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含む、物質又はリガンドの使用も提供される。
【0058】
本発明は、配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含むペプチドの活性又は生成を刺激、促進又は活性化することができる物質又はリガンドを、それを必要とする患者に投与することを含む、統合失調症を治療する方法にも関する。
【0059】
正常な対照のレベルに比べて、試験生体サンプルにおいて低いレベルの血漿タンパク質バイオマーカーは、精神病性障害、特に統合失調症、双極性障害、又はその素因の存在の指標となる。
【0060】
本発明に従ってモニタリング及び診断する方法は、障害若しくはその素因の存在を確認するのに、発症及び進行を評価することによって障害の進行をモニタリングするのに、又は障害の改善又は再発を評価するのに有用である。モニタリング及び診断する方法は、臨床スクリーニング、予後、治療選択の評価、治療的有用性の評価のため、即ち薬剤スクリーニング及び薬剤開発のための方法にも有用である。
【0061】
効果的に診断及びモニタリングする方法は、正確な診断を確立すること、最も適切な治療の迅速な同定を可能にすること(これにより、有害な薬剤の副作用に不必要に曝されるのを緩和すること)、「ダウンタイム(down-time:休止時間)」及び再発率を低減することによって、予後を改善させる潜在性のある非常に強力な「患者の解決策」を提供する。
【0062】
治療の有効性をモニタリングする方法は、ヒト被験体及び非ヒト被験体(例えば動物モデル)における現行の治療及び新規の治療の治療有効性をモニタリングするのに用いることができる。これらのモニタリング方法は、新規の薬剤物質及び物質の組合せのスクリーニングに組み込むことができる。
【0063】
ペプチドバイオマーカーのレベルの調節は、統合失調症又はその素因の状態の指標として有用である。経時的なペプチドバイオマーカーのレベルの低減が、発症又は進行、即ち障害の悪化の指標となる一方で、ペプチドバイオマーカーのレベルの増大は、障害の改善又は寛解を示す。
【0064】
統合失調症に関するバイオマーカーの同定によって、診断手順及び治療計画が統合される。現在、効果的な治療の決定が大幅に遅れ、今日まで薬剤応答の評価を迅速に行うことは不可能である。従来、抗統合失調症治療の多くは、所与の治療アプローチのために数週間から数ヶ月続く治療試験が必要である。本発明のペプチドバイオマーカーの検出を用いて、臨床試験における参加の前に被験体をスクリーニングすることができる。バイオマーカーは、治療応答、応答不良、好ましくない副作用プロファイル、薬物治療コンプライアンスの程度及び適当な血清薬剤レベルの達成を示す手段を提供する。バイオマーカーを用いて、全ての向精神薬薬物治療で起こる主な問題である不都合な薬物応答の警告を発することができる。応答の評価を用いて、用量を微調整し、処方薬物の数を最小限にし、効果的な治療の実現の遅れを縮め、不都合な薬物応答を回避することができるので、バイオマーカーは、個別の脳治療の開発に有用である。このように、本発明のバイオマーカーをモニタリングすることによって、患者のケアは、障害及び患者のファーマコゲノミクスプロファイルによって求められた要求を正確に合わせるように調整することができ、したがって、バイオマーカーを用いて、最適な用量を滴定し、正の治療応答を予測し、重篤な副作用の危険性が高い患者を同定することができる。
【0065】
バイオマーカーベースの試験は、「新規な」患者の第一線の評価を提供し、現行の主観的手段を用いては達成することができない時間枠内で精度よく、正確で迅速な診断のための客観的手段を提供する。
【0066】
さらに、診断バイオマーカー試験は、「前駆期」におけるファミリーメンバー又は患者、即ち顕性統合失調症を発症する危険性が高いファミリーメンバー又は患者を同定するのに有用である。このことは、適切な治療、例えば低用量の抗精神病薬、又は予防手段、例えばストレス、不正薬剤使用、又はウイルス感染等のリスク管理要因を開始させる。これらのアプローチは、転帰を改善し、障害の顕性発症を予防し得ると認識されている。
【0067】
バイオマーカーモニタリング方法、バイオセンサー及びキットは、再発は疾患の真の解明又は疾患の悪化によるものであるか否か、患者のコンプライアンスの低下又は物質の乱用によるものであるか否かを医師が判断することができる患者のモニタリングツールとして不可欠でもある。薬理学的治療が不十分に評価される場合、治療は回復するか、又は増大し得る。真に解明された疾患に関して適切な場合、治療の変化が与えられ得る。バイオマーカーは障害の状態に感受性があるので、薬剤治療又は物質乱用の効果の指標を提供する。
【0068】
本発明のバイオマーカーに基づくハイスループットスクリーニング技術、例えばアレイフォーマットで構成された本発明の使用及び方法は、潜在的に有用な治療化合物、例えばバイオマーカーの発現を調節することができる、天然化合物、合成化合物(例えばコンビナトリアルライブラリ由来)、ペプチド、モノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体、又はそれらの断片等のリガンドの同定に関するバイオマーカーをモニタリングするのに好適である。
配列表情報
配列番号1 ヒトのトランスサイレチンのアミノ酸配列
PLMVKVLDAV RGSPAINVAV HVFDKAADDT WEPFASGKTS
ESGELHGLTT EEEFVEGIYK VEIDTKSYWK ALGISPFHEH AEVVFTANDS
GPRRYTIAAL LSPYSYSTTA VVTNPKE
配列番号2 ApoA1
1 mkaavltlav lfltgsqarh fwqqdeppqs pwdrvkdlat vyvdvlkdsg rdyvsqfegs
61 algkqlnlkl ldnwdsvtst fsklreqlgp vtqefwdnle keteglrqem skdleevkak
121 vqpylddfqk kwqeemelyr qkveplrael qegarqklhe lqeklsplge emrdrarahv
181 dalrthlapy sdelrqrlaa rlealkengg arlaeyhaka tehlstlsek akpaledlrq
241 gllpvlesfk vsflsaleey tkklntq
本明細書に記載される2つ以上のバイオマーカーは組合せて用いられてもよい。特定のバイオマーカーに関して本明細書で記載されるような本発明のそれぞれの態様は、本明細書に記載される任意の他のバイオマーカーに等しく適用可能であり得る。さらに統合失調症に対する任意の参考文献は、別の精神病に等しく適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
発明の説明
「バイオマーカー」という用語は、プロセス、事象又は状態の特有の生物学的指標又は生物学的に誘導された指標を意味する。ペプチドバイオマーカーを診断方法、例えば臨床スクリーニング及び予後評価に、並びに特定の治療上の処置に応答する可能性が最も高い患者を同定するために治療の結果をモニタリングするのに、並びに薬剤のスクリーニング及び開発に用いることができる。バイオマーカー及びその使用は、新規の薬剤治療の同定に、及び薬剤治療に関する新規の標的の発見に役立つ。
【0070】
トランスサイレチンペプチドバイオマーカーという用語は、成熟全長ヒトトランスサイレチンペプチドを含む。好ましいトランスサイレチンペプチドのバイオマーカー(配列番号1)は、ヒトトランスサイレチンタンパク質であるか、又はそれに由来する。配列番号1のペプチドは、前駆体で見出されるようなシグナル(リーダー)配列を含まない分泌形態である。例えば両方ともCSFサンプルで見出されたTTRの一般的な修飾であるS−システイン化及びS−グルタチオン化(S-gluthanionylated)されたトランスサイレチンであるトランスサイレチンアイソフォーム及び誘導体も含まれる。配列番号1で示されるようなペプチドバイオマーカーは、統合失調症の初めて発症した精神病の特徴を有する個体でより低いレベルで存在することが見出され、したがってこのバイオマーカーは、統合失調症又はその素因を診断及びモニタリングするマーカーとして有用である。本発明によれば、バイオマーカーは配列番号1で示されるアミノ酸配列又はその断片を含み得る。例えば、バイオマーカーは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1つ又は複数の断片(複合断片(multiple fragments))を含み得る。
【0071】
ApoA1ペプチドバイオマーカーという用語は、成熟した全長のヒトApoA1ペプチドを含む。好ましいApoA1ペプチドバイオマーカーは配列番号1で示される。配列番号2(図13)で示されるようなペプチドバイオマーカーは、正常な対照に比べて、統合失調症の初めて発症した精神病の特徴を有する薬剤が未投与の個体において低減したレベルで存在することが見出される。したがってこのバイオマーカーは、統合失調症又はその素因を診断するマーカーとして有用である。
【0072】
本明細書で用いられるような薬剤が未投与の患者という用語は、任意の統合失調症治療物質で治療していない個体を意味する。したがって好ましい実施形態では、本発明は試験サンプルが試験被験体由来であり、試験被験体が最初に発症した薬剤が未投与の個体であり、サンプルは、被験体に任意の抗統合失調症治療薬の投与前に採取される方法に関する。対照サンプルは正常な個体由来のサンプルであるのが好ましい。
【0073】
正常な対照におけるレベルに比べて、試験サンプルにおけるより低いレベルのApoA1ペプチドバイオマーカーが、統合失調症又はその素因の存在の指標となる。正常な対照に比べて試験サンプルにおける等しいか、又はより高いレベルの上記ペプチドが、統合失調症又はその素因の欠如の指標となる。
【0074】
本明細書で用いられるような「診断」という用語は、統合失調症又はその素因の同定、確認、及び/又は特徴付けを包含する。本明細書で用いられるような「素因」という用語は、被験体が現在のところ障害を示していないが、やがては障害に罹る傾向にあることを意味する。本発明による診断方法は、障害又はその素因の存在を確認するのに有用である。診断方法は、臨床スクリーニング、予後、治療選択の評価、治療的有用性の評価のため、即ち薬剤スクリーニング及び薬剤開発のための方法にも有用である。
【0075】
本発明のモニタリング方法を用いて、精神病性障害の発症、進行、安定、改善、及び/又は再発をモニタリングすることができる。
【0076】
本明細書で用いられるような「精神病性障害」という用語は、精神病が認識されている症状である障害に関し、これには、神経精神病性障害(心因性うつ病及び他の精神病エピソード)及び神経発生障害(特に自閉症スペクトル障害)、神経変性障害、うつ病、躁病、及び特に統合失調症(偏執型統合失調症、強硬型統合失調症、解体型統合失調症、未分化型統合失調症、及び残遺型統合失調症)並びに双極性障害が挙げられる。
【0077】
本発明の方法で試験され得る生体サンプルとしては、全血、血清若しくは血漿、尿、唾液、脳脊髄液(CSF)、又は他の体液(糞便、涙液、滑液、痰)、呼気(例えば、濃縮呼気として)、又はそれら由来の抽出物若しくは精製物、或いはそれらの希釈物が挙げられる。生体サンプルとしては、生被験体由来の、又は死後に採取した組織ホモジネート、組織切片及び生検標本も挙げられる。例えば適切に希釈又は濃縮されれば、サンプルを調製することができ、常法で保存される。
【0078】
多くの分光技法を用いて、本発明に従ってスペクトルを生成することができ、これにはNMR分光法及び質量分析法が含まれる。好ましい方法では、スペクトル分析はNMR分光法、好ましくはH NMR分光法によって行われる。1つ又は複数のスペクトルを生成し、一連のスペクトルを測定してもよく、これには小分子に関して1つのスペクトル、及びマクロ分子プロファイルに関して別のスペクトルが含まれる。得られたスペクトルをスペクトル編集技法にかけることができる。一次元又は二次元NMR分光法を行うことができる。
【0079】
複雑な生体混合物を研究するのにNMR分光法を用いる利点は、測定が最小限のサンプル調製で(通常、5〜10%のDOを添加するのみで)為されることが多く、全生体サンプルの詳細な分析プロファイルを得ることができる。
【0080】
一般的には、サンプル容量は標準プローブで0.3〜0.5ml、及びマイクロプローブでわずか3μlと低い。フローインジェクション法を用いると、単一NMRスペクトルの検出(acquisition)は迅速で効果的である。通常、水のNMR共鳴を抑制する必要がある。
【0081】
高分解能NMR分光法(特にH NMR)が特に適している。H NMR分光法を用いる主な利点は、方法の速度(スペクトルが5〜10分で得られる)、最小限のサンプル調製に対する要求性、及び代謝産物がNMR実験の検出限界を超えて存在し、非交換性水素原子を含む場合にのみ、これらの構造型に関わらず、生体液中の全ての代謝産物に関する非選択的な検出を与えるという事実である。
【0082】
体液のNMR研究は、最大限の拡散及び感受性を得るために利用可能な最高の磁場で等しく行うべきであり、ほとんどのH NMR研究は、400MHz以上、例えば600MHzで行われる。
【0083】
通常、H NMRスペクトルを帰属するために、標準物質(authentic materials)の対照スペクトルで、及び/又は参照標準物質のサンプルへの標準的な添加によって、比較が為される。利用される対照スペクトルは、正常な被験体由来の生体サンプルのスペクトル分析によって発生する正常な対照スペクトル、及び/又は精神病性障害の被験体由来の生体サンプルのスペクトル分析によって発生する精神病性障害の対照スペクトルであり得る。
【0084】
通常、帰属のさらなる確認を、他のNMR法の適用から求め、これには例えば二次元(2D)NMR法、特にCOSY(相関分光法)、TOCSY(全相関分光法)、HMBC(異核多重結合相関)、HSQC(異核単一量子コヒーレンス)、及びHMQC(異核多重量子コヒーレンス)等の逆検出異核相関法、2D J分離(JRES)法、スピンエコー法、緩和編集、分散編集(例えば、分散編集TOCSY等の1D NMR及び2D NMR)、及び多重量子フィルタリングが含まれる。
【0085】
スペクトルの正常な及び/又は精神病性障害の対照スペクトルとの比較によって、試験スペクトルは正常なプロファイル、精神病性障害プロファイル、又は精神病性障害素因プロファイルを有するものに分類することができる。
【0086】
スペクトルの比較は、スペクトル全体又はスペクトルの選択された領域で行うことができる。スペクトルの比較は、正常なスペクトルプロファイルからの偏差に関与するスペクトル領域の変動の評価、及び特に、これらの領域内の1つ又は複数のバイオマーカーの変動の評価を伴い得る。
【0087】
血漿等の生体液の1D−NMRスペクトル及び2D−NMRの両方からの生化学的情報の理解における限定要因は、これらの複雑性にある。これらの複雑な多パラメータのデータを比較及び研究するのに最も効果的な方法は、コンピューターベースの「パターン認識」(PR)法及びエキスパートシステムと組合せた1D NMR又は2D NMRのメタボノミクスのアプローチを採用することである。
【0088】
メタボノミクスのアプローチの有用性が十分に確立されているが、その完全な潜在性は未だに引き出されていない。代謝変動はわずかであることが多く、特にデータが非常に複雑である場合(例えばNMRスペクトル)、強力な分析法が特定の検体の検出に必要となる。
【0089】
試験集団由来の分析データ(例えばNMRスペクトル)のメタボノミクス法(これは、多変量統計分析及びパターン認識(PR)技法、並びに任意にデータフィルタリング技法を利用する)によって正確な数学モデルが得られ、これは後で試験サンプル又は被験体を分類するのに、及び/又は診断に用いることができる。
【0090】
スペクトルの比較には、スペクトルの1つ又は複数のケモメトリクス分析が含まれ得る。「ケモメトリクス」という用語は、パターン認識(PR)法及び化学数値データに対する関連の多変量統計アプローチの使用を記載するのに適用される。したがって、比較は、1つ又は複数の管理方法及び/又は非管理方法によって行うことができる1つ又は複数のパターン認識分析法を含み得る。
【0091】
パターン認識(PR)法を用いて、データ組の複雑性を低減し、科学的仮説を立てて、仮説検定を行うことができる。一般に、パターン認識アルゴリズムの使用によって、複雑系を規定するパラメータのノイズ又はランダム変動によってあいまいになる可能性がある複雑系における幾つかの非ランダム挙動の同定、及び幾つかの方法による解釈が可能になる。また、用いられるパラメータ数は、ヒト脳では三次元以下で最良となる規則性又は不規則性の可視化が困難と為り得る程、非常に大きい可能性がある。
【0092】
通常、測定される記述子(descriptors)の数は3を大幅に超え、つまり単純な散布図を用いても、サンプル間の類似性又は相違性を可視化することは全くできない。パターン認識法を用いて、例えば言語学、フィンガープリント、化学及び心理学にわたる多くの異なる種類の問題を広く特徴付けている。
【0093】
本明細書に記載の方法に関して、パターン認識は、分光データを分析し、これによりサンプルを分類して、観察された測定値の範囲に基づき、幾つかの従属変数の値を予測するために、パラメトリック及び非パラメトリックの両方の多変量統計を使用することである。2つの主なアプローチがある。一連の方法は「非管理(unsupervised)」と呼ばれ、これらによって単純に合理的な方法でデータの複雑性が低減し、また人間の目で判別できるディスプレイのプロットが生じる。他のアプローチは「管理(supervised)」と呼ばれ、それによって既知の分類又は転帰によるサンプルの訓練組(training set)を用いて数学モデルを作製し、それからこれを独立検証データ組で評価する。
【0094】
非管理技法は、任意の固有のクラスタリングがデータ組内に存在するか否かを確立するのに用いられ、多くは次元縮小によって、これらの特性に従って、任意の他の独立した知識とは関係なく、例えばサンプル群の予備知識なしでサンプルをマッピングする方法から成る。非管理方法の例としては、主成分分析(PCA)、非線形写像(NLM)及び階層的クラスタ分析等のクラスタリング法が挙げられる。
【0095】
最も有用で容易に適用される非管理PR技法のうちの1つは主成分分析(PCA)である(例えばKowalski et al., 1986を参照されたい)。主成分(PC)は、開始変数の適切な重み付け係数との線型結合から作製される新たな変数である。これらのPCの特性は、(i)それぞれのPCが他のPC全てと(相関なく)直交し、(ii)第1のPCが、データ組の変数の最大部分(情報量)を含み、後のPCがそれに応じてより低い量の変数を含むというようなものである。
【0096】
次元縮小技法であるPCAは、それぞれがK次元(記述子ベクトル)の値で記載されたm個の対象又はサンプルを取り、記述子ベクトルの線形組み合わせである一組の固有ベクトルを抽出する。固有ベクトル及び固有値がデータの共分散行列の対角化によって得られる。固有ベクトルは、主成分(PC)と呼ばれる直交プロッティング軸の新たな組と考えられ得る。データの体系的変動の抽出は、データ行列の分散構造及び共分散構造の投影及びモデル化によって達成される。一次軸はデータの最大変動を示す単一の固有ベクトルであり、主成分1(PC1)と呼ばれる。固有値を減らすことでランク付けした続くPCは、連続的に変動性が低くなることを示している。PCで示されていないデータの変動は残差分散と呼ばれ、このモデルがデータにどの程度適合するかどうかを示す。PC上への記述子ベクトルの投影はスコアとして定義され、これはサンプル又は対象間の関係を表す。グラフ表示では(「スコアプロット」又は固有ベクトル投射)、同様の記述子ベクトルを有する対象又はサンプルが共にクラスターにグループ化される。別のグラフ表示はローディングプロットと呼ばれ、これはPCを個々の記述子ベクトルと結び付けて、PCの評価に対するそれぞれの記述子ベクトルの重要性及びこのPCにおける記述子ベクトル間の関係性の両方を示す。実際、ローディング値は単純に、元の記述子ベクトルがPCと共に形成する角度のコサインである。
【0097】
このプロットの元々の値近くにある記述子ベクトルがPCにおける情報をほとんど保有していない一方で、元々の値から離れた記述子ベクトル(高ローディング)は解釈するにあたって重要である。
【0098】
したがって、初めの2つ又は3つのPCスコアのプロットが、それぞれ二次元又は三次元におけるデータ組の情報量の点で「最良の」表示を与える。最初の2つの主成分スコアのプロット、PC1及びPC2は二次元におけるデータの最大の情報量を提供する。このようなPC図を用いて、例えば代謝応答の類似性に基づく薬剤及び毒素に対する固有のクラスタリング挙動、及びしたがって作用メカニズムを可視化することができる。当然ながら、クラスタリング情報はより低いPCにおいて得られ、これらを分析することもできる。
【0099】
別の非管理パターン認識法である階層クラスター分析は、幾つかの多次元空間において互いに「近い」ということで類似しているデータ点のグループ化を可能にする。個々のデータ点は、例えば特にNMRスペクトルの帰属されたピークに対するシグナル強度であり得る。「類似マトリクス」Sは、要素ssij=1−rij/rijmax’(式中、rijはi点とj点との間の点間距離(例えば、ユークリッド点間距離)であり、rijmaxは全ての点における最大の点間距離である)で構成されている。
【0100】
したがって最も遠い点の対は、rijがrijmaXと等しいので、sijが0と等しくなる。逆に、最も近い点の対は、1に近づく最大sijを有する。類似マトリクスは、最も近い点の対でスキャンされる。点の対は分離距離で報告され、それにより2つの点が検出され、単一の連結した点に置き換わる。次いで、このプロセスを1つの点のみが残るまで繰り返し反復する。多くの異なる方法を用いて、2つのクラスターがどのように連結するかどうかを確定することができ、これには最近隣法(単一リンク法としても知られる)、最遠隣法、セントロイド法(セントロイドリンク、増分リンク、メジアンリンク、グループ平均リンク、及び柔軟リンク変動を含む)が含まれる。
【0101】
したがって、報告された連結性が系統樹(クラスタリングの可視化を可能にする樹状チャート)としてプロットされ、増大する分離距離対(言い換えれば低減する類似性の対)サンプル間の連結性を示す。系統樹において、分枝長は様々なクラスター間の距離と比例関係にあり、したがって隣の一サンプルと結び付く分枝の長さはそれらの類似性の尺度となる。このように、同様のデータ点はアルゴリズムで特定することができる。
【0102】
分析の管理方法は、2つ以上のサンプル群間の分離を最適化するのに、訓練組のサンプルデータに対して与えられる群情報を用いる。これらの技法としては、SIMCA法(soft independent modelling of class analogy)、部分最小二乗(PLS)法、例えば潜在判別分析に対する投影(PLS DA)、k−最近隣分析及びニューラルネットワークが挙げられる。ニューラルネットワークは、モデル化データの非線形方法である。訓練組のデータを用いて、データの構造を「学習する」アルゴリズムを開発し、複雑な機能に対処することができる。幾つかの種類のニューラルネットワークは、スペクトル情報から毒性又は疾患を首尾よく予測するのに適用されている。
【0103】
一元配置分散分析(ANOVA)等の統計技法を用いて、データを分析することもできる。
【0104】
スペクトル分析を伴う本発明の方法を行い、被験体から2回以上採取した生体サンプルからスペクトルが与えられ得る。被験体から2回以上採取した生体サンプル由来のスペクトルを比較して、別々に(different occasions)採取されたサンプルのスペクトル間の違いを明らかにすることができる。該方法には、生体サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを定量するために試験被験体からの2回以上採取した生体サンプルからのスペクトルの分析、及び2回以上採取した生体サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを比較することが含まれる。
【0105】
本発明の診断及びモニタリング方法は、精神病性障害を有するか、有する疑いがあるか、又はそれに素因がある被験体に投与される治療物質の有効性をモニタリングするのに、及び抗精神病物質又は精神病促進物質を同定するのに、精神病性障害の予後を評価する方法に有用である。このような方法は、被験体から採取した試験生体サンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、物質の投与前の被験体から採取した1つ又は複数のサンプル、及び/又は物質による処理中の初期段階で被験体から採取した1つ又は複数のサンプルに存在するレベルと比較することを含み得る。さらに、これらの方法は、2回以上被験体から採取した生体サンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルの変化を検出することを含み得る。
【0106】
本発明の方法、特にスペクトル分析を用いるものにおいて、特に生体サンプルが血液又は血液由来、例えば血漿又は血清である場合、適切な1つ又は複数のバイオマーカーは、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される。
【0107】
H NMRベースの代謝研究において、罹患及び非罹患の統合失調症の双生児両方の脂質プロファイルの変動を同定している。脂質レベルが、罹患した女性の双生児に対するグローバル機能スコア(global function score)で強く関連付けることを見出した。
【0108】
精神病性障害、特に統合失調症のこれらのバイオマーカーは、21組の統合失調症に関して不一致の一卵性双生児及び8組の年齢を合わせた健常な対照双生児由来の血漿サンプルを研究するのにコンピューター制御したパターン認識分析と共にH NMR分光法を用いる広範な代謝プロファイリング分析によって同定された。全てのサンプルが標準条件下で得られ、人口動態及び臨床詳細に関して注記された。
【0109】
これらの研究の結果は、VLDL、LDL及び血漿タンパク質に関連する芳香族領域由来のシグナルが、統合失調症に関して不一致の一方が病気でもう一方が健常な双生児(ill and healthy co-twins)を健常な対照双生児と区別する最も重要な因子であることを示す。VLDL及びLDLレベルが統合失調症ではない正常な対照双生児に比べて、統合失調症に関して不一致の双生児において上昇することが見出された。不一致な双生児において、罹患した双生児は、羅患してない不一致な双生児で見られるレベルより上昇したVLDL及びLDLレベルを有していた。この区別は女性の双生児で非常に顕著であった。VLDL/LDLシグナルとグローバル機能スコア(DSMIV、Axis V)との密接な相関性が統合失調症を患う女性の双生児で見出された。不一致な双生児は、正常な対照双生児よりも低い血漿タンパク質レベルを有し、血漿タンパク質の最大の低減は罹患双生児で見出された。
【0110】
統合失調症に関して不一致な双生児における脂質及び芳香族領域で観察される変化によって、代謝障害と統合失調症の病因との間の関係が示唆される。抗精神病薬物の効果は全てが無視できるという訳ではないが、共に健常な双生児が推測上の「素因」特性を示すという事実によって、これらの変化が薬物の人為的結果というよりは、疾患に関連しているということが暗示される。VLDL、LDLの増大及び芳香族領域(血漿タンパク質)の低減は、正常な個体と、精神病性障害の個体との間で区別することができる代謝バイオマーカーを構成している。
【0111】
また罹患した女性の双生児の脂質プロファイルは、グローバル機能スコア(Global Functioning Scores)(GAF)と高い相関があることも見出された。GAFスコアは精神科医による主観的判断に基づいている。VLDL及びLDL脂質バイオマーカーのレベルの上昇と、GAFスコアとの間の相関関係によって、統合失調症(及び双極性障害)等の精神病性障害の診断及びモニタリングのための主観的なGAFスコアを確認及び実証する客観的な手段が与えられる。
【0112】
本発明に従って診断又はモニタリングする方法は、試験被験体から2回以上採取した生体サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを測定することを含み得る。比較は、2回以上採取したサンプルにおけるバイオマーカーのレベル間ですることができる。2回以上採取したサンプルにおけるバイオマーカーのレベルのあらゆる変化を評価することができる。バイオマーカーのレベルの調節は、精神病性障害又はその素因の症状の指標として有用である。
【0113】
生体サンプル、好ましくは血漿におけるVLDL又はLDLのレベルの経時的な増大は、障害の発症又は進行、即ち悪化の指標である一方で、VLDL又はLDLのレベルの低減は、障害の改善又は寛解を示す。
【0114】
生体サンプル、好ましくは全血、血漿、又は血清のサンプルにおける血漿タンパク質のレベルの経時的な低減は、障害の発症又は進行、即ち悪化の指標である一方で、血漿タンパク質のレベルの増大は、障害の改善又は寛解を示す。
【0115】
本発明による方法は、試験被験体から採取される生体サンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、治療の開始前に試験被験体から採取される1つ又は複数のサンプル及び/又は治療の初期段階で試験被験体から採取される1つ又は複数のサンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルと比較することを含み得る。このような方法は、2回以上で採取されるサンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーの量の変化を検出することを含み得る。本発明の方法は、特に抗精神病治療の評価において特に有用である。
【0116】
本発明による診断又はモニタリングの方法は、試験被験体から採取される試験生体サンプルにおいて1つ又は複数のバイオマーカーを定量化すること、及び上記試験サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを1つ又は複数の対照のものと比較することを含み得る。対照は、正常対照及び/又は精神病性障害対照から選択され得る。本発明の方法で使用される対照は、正常な被験体由来の正常対照サンプルに見出されるバイオマーカーのレベルである正常なバイオマーカーレベル、正常なバイオマーカー範囲、統合失調症、双極性障害、関連精神病性障害又はそれらに対する診断された傾向を有する被験体由来のサンプル中のレベル、統合失調症マーカーレベル、双極性障害マーカーレベル、関連精神病性障害マーカーレベル、統合失調症マーカー範囲、双極性障害マーカー範囲及び関連精神病性障害マーカー範囲から成る群から選択される1つ又は複数の対照であり得る。
【0117】
生体サンプルは、被験体の余寿命又はその一部にわたる間隔で採取され得る。適切に、診断又はモニタリングを受ける被験体からサンプルを採取する間に経過する時間は、3日、5日、1週、2週、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又は12ヶ月である。サンプルは、抗統合失調症治療又は抗双極性障害治療のような抗精神病治療の前に、及び/又は抗精神病治療中に、及び/又は抗精神病治療後に採取され得る。
【0118】
バイオマーカーのレベルの測定は、患者から採取される生体サンプル、又はサンプルの精製物若しくは抽出物、或いはそれらの希釈物におけるバイオマーカーの量を同定するのに適した任意の方法により実施することができる。サンプルに存在するバイオマーカーのレベルを測定することは、サンプルに存在するバイオマーカーの濃度を測定することを含み得る。このような定量は、サンプルで直接、又はその抽出物、若しくはその希釈物で間接的に行うことができる。本発明の方法では、生体サンプル(好ましくは、全血、血漿又は血清である)におけるバイオマーカーの濃度を測定することのほかに、バイオマーカーの濃度は、試験被験体から採取される種々の生体サンプル、例えばCSF、尿、唾液又は他の体液(糞便、涙液、滑液、痰)、呼気(例えば、濃縮呼気として)、又はそれら由来の抽出物若しくは精製物、或いはそれらの希釈物において試験され得る。また、生体サンプルとして、生被験体由来の又は死後に採取した組織ホモジネート、組織切片及び生検標本が挙げられる。サンプルは、通常の方法で調製されて、例えば、適切な場合には希釈又は濃縮されて、保管され得る。
【0119】
バイオマーカーレベルは、NMR(核磁気共鳴)等の分光分析又は質量分析法(MS)、SELDI(−TOF)、MALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、液体クロマトグラフィ(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)又は低速液体クロマトグラフィ(LPLC))、薄層クロマトグラフィ及びLC−MSベース技法から成る群から選択される1つ又は複数の方法により測定され得る。適切なLC MS技法としては、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)が挙げられる。
【0120】
バイオマーカーの測定は、直接的又は間接的検出方法により実施され得る。バイオマーカーは、酵素、結合、受容体若しくは輸送タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマー又はオリゴヌクレオチド、或いは任意の合成化学受容体又はバイオマーカーと特異的に結合することが可能な化合物のようなリガンド(複数可)との相互作用により、直接又は間接的に検出され得る。リガンドは、発光標識、蛍光標識又は放射性標識及び/又はアフィニティタグのような検出可能な標識を保有し得る。
【0121】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片及びF(ab’)断片、Fab発現ライブラリで産生された断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で用いられるような「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、いわゆる抗原と特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子も表す。本発明の免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)又は免疫グロブリン分子の任意のサブクラスであり得る。
【0122】
本明細書中に記載するような代謝産物バイオマーカーは、従来の化学的方法又は酵素的方法(これらは、直接又は間接的であってもよく、且つ/又は結合されていなくてもよい)、電気化学法、蛍光法、発光法、分光光度法、蛍光技法、発光技法、分光法、旋光法、クロマトグラフィ(例えば、HPLC)又は類似の方法により適切に測定される。
【0123】
酵素的方法に関して、反応における基質の消費、又は反応の生成物の生成は、測定の手段として直接又は間接的に検出され得る。
【0124】
VLDL及びLDLバイオマーカーを検出し、脂質相化学法(ポリアニオン界面活性剤/洗浄剤の組合せによる免疫分離及び分離)、リポタンパク質の分離のための物理的方法(例えば電気泳動、キャピラリー等速電気泳動、及びクロマトグラフィ)を含む様々な検出システムを用いてレベルを測定することができ、これは、酵素検定法、例えばコレステロールエステラーゼ−コレステロールオキシダーゼ(ペルオキシダーゼ)酵素アッセイ、及びNMR等の間接的な方法と共に行うことができる。
【0125】
正常な個体において、血清/血漿におけるVLDL及びLDLレベルは一般的に、それぞれそれぞれVLDL及びLDLに対して85mg/dl±15%及び30mg/dl±10%であり、したがってこれらを上回るレベルが精神病性障害、特に統合失調症、双極性障害、又はそれらの素因の診断である。
【0126】
血漿タンパク質等の芳香族種バイオマーカーを検出し、紫外線吸光度法及びブラッドフォードアッセイ等の比色分析法、ローリーアッセイ、及びBCAアッセイ(これらに限定されない)を含む方法を用いてレベルを測定することができる。
【0127】
好ましくは、本発明のバイオマーカーは、質量分析系技法、クロマトグラフィに基づく技法、(直接又は間接的な測定法による)酵素検出システムを用いて、又は例えば電流測定、電位差測定、伝導度測定、電気抵抗、磁気、光学、音響又は熱の変換器を備えるセンサーシステムと共にセンサーを用いて検出及び測定される。
【0128】
センサーは、物理的、化学的、又は生物学的検出システムを組み込み得る。センサーの一例は、バイオセンサー、即ち例えばオリゴヌクレオチドプローブ若しくはアプタマー等の核酸、又は酵素、結合タンパク質、受容体タンパク質、輸送タンパク質若しくは抗体等のタンパク質に基づく生体認識システムを伴うセンサーである。
【0129】
バイオセンサーは、バイオマーカーの検出のための免疫学的方法、電気、熱、磁気、光学(例えばホログラム)又は音響の技法を組み込むことができる。このようなバイオセンサーを用いて、生体サンプルに見出される予測濃度で標的バイオマーカーを検出することができる。
【0130】
本発明の方法は、臨床スクリーニング、予後の評価、治療の結果をモニタリングすること、特定の治療上の処置に応答する可能性が最も高い患者を同定することに、薬物スクリーニング及び開発に、並びに薬物治療に関する新たな標的の同定を補助するのに適している。疾患に特異的な重要なバイオマーカーの同定は、診断手順及び治療体制の統合の中心となる。
【0131】
本発明の方法は、被験体における精神病性障害を診断及び/又はモニタリングする1つ又は複数の評価をさらに含み得る。評価は、認められた評価プロトコル、例えばグローバル機能スコア(GAF)又はSCIDに従って臨床医によって行われる臨床評価であってもよく、及び/又は被験体による自己評価を伴ってもよい。評価尺度を用いて、診断及び/又はモニタリングを補助することができる。GAF及びSCIDは、臨床医の問診に基づきは評価される。グローバル機能スコア等の評価は被験体由来の試験生体サンプルの採取時(即ち採取と同じ日)又はその前後(即ち採取の数日以内)で為されることが好ましい。これは、VLDL及びLDLレベルが、グローバル機能スコアによって決定された臨床評価と非常に密接な逆の相関関係を有することが見出された女性の被験体を診断及びモニタリングするツールとして特に有用である。
【0132】
本明細書で記載されるような予測バイオマーカーを用いて、センサー及びバイオセンサー等の適切な診断ツールを本発明の方法及び使用に従って開発することができ、センサー又はバイオセンサーを用いて1つ又は複数のバイオマーカーを検出及び定量することができる。
【0133】
本発明によるセンサー又はバイオセンサーは、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種の群から選択される1つ、2つ、又は3つのバイオマーカーを定量することができる精神病性障害のセンサー又はバイオセンサーである。
【0134】
センサー又はバイオセンサーは、バイオマーカーの検出に関して本明細書中で記載するような検出方法及びシステムを組み込んでもよい。センサー又はバイオセンサーは、電気技術(例えば、電流測定検出系、電位差測定検出系、伝導度測定検出系又はインピーダンス検出系)、熱技術(例えば、変換器)、磁気技術、光技術(例えば、ホログラム)又は音響技術を用いてもよい。本発明によるセンサー又はバイオセンサーでは、1つ、2つ、又は3つのバイオマーカーのレベルが、直接、間接的な、又は連動した、酵素技法、分光光度技法、蛍光技法、発光技法、分光技法、旋光技法及びクロマトグラフィ技法から選択される1つ又は複数の方法により検出することができる。特に好ましいセンサー又はバイオセンサーは、直接的に又は介在物質を介して間接的に用いられるか、或いは電気変換器、光変換器、音響変換器、磁気変換器若しくは熱変換器に連結され、結合タンパク質、受容体タンパク質又は輸送タンパク質を用いて使用される1つ又は複数の酵素を含む。このようなバイオセンサーを用いる1つ又は複数の酵素を含む。このようなバイオセンサーを用いて、生体サンプルで見出される予測濃度で標的バイオマーカーのレベルを検出することが可能である。
【0135】
本発明のバイオマーカー(複数可)は、「スマート」ホログラム又は高周波数音響システムに基づく技術を組み込んでいるセンサー又はバイオセンサーを用いて検出することができ、このようなシステムは、「バーコード」又はアレイ配置に特に従うものである。
【0136】
スマートホログラムセンサー(Smart Holograms Ltd, Cambridge, UK)では、ホログラフィック画像が、バイオマーカーと特異的に反応するように感作される薄いポリマーフィルム中に保管される。露光時に、バイオマーカーはポリマーと反応して、ホログラムにより表示される画像の変化をもたらす。試験結果の読み出しは、光輝度、画像、色彩及び/又は画像の位置の変化であり得る。定性的用途及び半定量的用途に関して、センサーホログラムは目で読み取ることができ、したがって検出機器の必要性が取り除かれる。定量測定が必要な場合は、単色センサーを用いてシグナルを読み取ることができる。サンプルの不透明度又は色彩は、センサーの操作を妨害しない。センサーのフォーマットは、幾つかの物質の同時検出のための多重化を可能にする。可逆性センサー及び不可逆性センサーは、種々の要件を満たすように設計することができ、対象の特定バイオマーカーの連続的なモニタリングが実現可能である。
【0137】
適切に、本発明のバイオマーカーの検出用のバイオセンサーが連結され、即ち、このバイオセンサーは、生体分子認識を適切な手段と組み合わせて、サンプルにおけるバイオマーカーの存在の検出又は定量化をシグナルに変換する。バイオセンサーは、例えば病棟、外来、手術室、自宅、現場及び職場における「代替地」診断試験に適応させることができる。
【0138】
本発明のバイオマーカーを検出するためのバイオセンサーとしては、音響センサー、プラズモン共鳴センサー、ホログラフィックセンサー及びマイクロエンジニアリング(microengineered)センサーが挙げられる。刷り込み(Imprinted)認識要素、薄膜トランジスタ技術、磁気音響共鳴機器及び他の新規音響電気システムが、本発明のバイオマーカーの検出用のバイオセンサーで用いられ得る。
【0139】
本発明のバイオマーカーの検出及び/又は定量化を伴う方法は、卓上装置を用いて実施することができるか、或いは研究室ではない環境で、例えば診療所で又は患者の寝床の傍で用いることができる使い捨てのプラットホーム、診断用のプラットホーム又はモニタリング用のプラットホームに組み込ませることができる。本発明の方法を実施するのに適したセンサー又はバイオセンサーとしては、光学式読取装置又は音響読取装置を備える「クレジット」カードが挙げられる。センサー又はバイオセンサーは、収集されたデータを解釈のために医師へ電子的に送信させるように設計することができ、したがってe−神経内科(e-neuromedicine)の基盤を形成し得る。
【0140】
正常な対照におけるレベルに比べて、試験生体サンプルのVLDL及び/又はLDLバイオマーカーのレベルがより高いことが精神病性障害、特に統合失調症、双極性障害又はそれらの素因の存在を示している。
【0141】
本発明は、試験被験体由来の試験生体サンプルにおいて、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含むトランスサイレチンペプチドバイオマーカーを検出及び/又は定量すること、及び当該試験サンプルに存在するペプチドのレベルを、1つ又は複数の対照と比較することも含む。
【0142】
本発明は、試験被験体由来の試験生体サンプルにおいて、配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含むApoA1ペプチドバイオマーカーを検出及び/又は定量すること、及び当該試験サンプルに存在するペプチドのレベルを、1つ又は複数の対照と比較することをさらに含む。
【0143】
本発明の方法に用いられる対照は、正常な被験体由来の正常な対照サンプルで見出されたバイオマーカーのレベル、正常なバイオマーカーレベル、又は正常なバイオマーカー濃度範囲から成る群から選択される1つ又は複数の対照であり得る。
【0144】
好適には、試験サンプル及び正常な対照サンプルは、同じ種類のサンプルであり、例えば試験血清サンプルにおけるレベルが対照の血清サンプルにおけるレベルと比較される。
【0145】
統合失調症又はその素因を診断する好ましい方法は、
(a)試験生体サンプルに存在する配列番号1又は配列番号2又はそれらの断片を含むペプチドバイオマーカーの量を定量すること、及び
(b)上記試験サンプルの上記ペプチドの量を、正常な被験体由来の正常な対照生体サンプルに存在する量と比較すること
を含む。
【0146】
正常な対照におけるレベルと比べて、試験サンプルにおけるトランスサイレチンペプチドバイオマーカーのレベルがより低いことは、統合失調症又はその素因の存在を示している。正常な対照に比べて、試験サンプルにおける当該ペプチドのレベルが同程度か、又はより高いことは、統合失調症の非存在及び/又はその素因の非存在を示す。
【0147】
効果的な診断方法及びモニタリング方法は、正しい診断を確立すること、最も適切な治療の迅速な同定を可能にすること(これにより、有害な薬剤の副作用に不必要に曝されるのを緩和すること)、「ダウンタイム」及び再発率を低減させることによって、予後を改善させる潜在性のある非常に強力な「患者の解決策」を提供する。
【0148】
このような障害を有するか、このような障害を有する疑いがあるか、又はその素因がある疑いがある被験体において統合失調症に対する治療の有効性をモニタリングする方法も提供され、これには、好ましくは、当該被験体由来の生体サンプルに存在する配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含むトランスサイレチンペプチドを検出及び/又は定量することが含まれる。方法をモニタリングする際、試験サンプルは2回以上採取し得る。この方法は、試験サンプルに存在するバイオマーカーのレベルを、1つ又は複数の対照、並びに/或いは例えば治療の開始前に同じ試験被験体から及び/又は治療の初期段階で同じ試験被験体からより早期に採取した1つ又は複数の前試験サンプルと比較することをさらに含み得る。この方法は、様々な回数採取した試験サンプルにおけるバイオマーカーのレベルの変化を検出することを含み得る。
【0149】
本発明は、被験体における統合失調症に対する治療の有効性をモニタリングする方法であって、
(a)好ましくは、上記被験体から採取した試験生体サンプルに配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含むトランスサイレチンペプチドバイオマーカーの量を定量すること、及び
(b)上記試験サンプルにおける上記ペプチドの量を、1つ又は複数の対照及び/又は同じ試験被験体からより早期に採取した1つ又は複数の前試験サンプルに存在する量と比較することを含む方法を提供する。
【0150】
同じ試験被験体からより早期に採取したこれまでの試験サンプルにおけるレベルに比べて、試験サンプルにおけるペプチドバイオマーカーのレベルの増大は、有利な効果、例えば障害、疑いがある障害、又はその素因に対する上記の治療の安定化又は改善の指標となる。
【0151】
治療の有効性をモニタリングする方法を用いて、ヒト被験体及び非ヒト動物(例えば動物モデル)における現行の治療及び新規の治療の治療有効性をモニタリングすることができる。これらのモニタリング方法は、新規の薬剤物質及び物質の組合せに関するスクリーニングに組み込むことができる。
【0152】
好適には、診断又はモニタリングを受ける被験体からサンプルを採取する間に経過する時間は、3日、5日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又は12ヶ月である。サンプルは抗統合失調症の治療前、及び/又は治療中、及び/又は治療後に採取され得る。サンプルは被験体の余寿命にわたる間隔又はその一部で採取することができる。
【0153】
サンプルに存在するバイオマーカーの量の定量は、サンプルに存在するペプチドバイオマーカーの濃度を求めることを含み得る。検出及び/又は定量は、サンプルで直接、又はその抽出物若しくはその希釈物で間接的に行ってもよい。
【0154】
検出及び/又は定量は、患者由来の生体サンプル、又は生体サンプルの抽出物若しくはその希釈物の精製物における特定のタンパク質の存在及び/又は量を同定するのに好適な任意の方法で行うことができる。本発明の方法では、定量は、サンプル(複数可)におけるペプチドバイオマーカーの濃度を測定することによって行うことができる。本発明の方法で試験し得る生体サンプルとしては、脳脊髄液(CSF)、全血、血清、尿、唾液、又は他の体液(排泄物、涙液、滑液、唾液)、例えば濃縮呼気のような呼気、又はそれらの抽出物若しくは精製物、又はそれらの希釈物が挙げられる。生体サンプルとしては、生被験体由来の、又は死後に採取した組織ホモジネート、組織切片及び生検標本も挙げられる。好ましくは、サンプルはCSF又は血清である。サンプルは、例えば、適切に希釈又は濃縮され、通常の方法で保存された場合に調製することができる。
【0155】
トランスサイレチンペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量は、ペプチドバイオマーカー、又はその断片、例えばC末端が切断された断片、及び/又はN末端が切断された断片の検出によって行うことができる。断片は好適には、4アミノ酸長より長い。好ましくは、断片は約6〜約50アミノ酸長の範囲である。
【0156】
バイオマーカーは、例えばSELDI又はMALDI−TOFによって直接検出することができる。代替的には、バイオマーカーは、バイオマーカーと特異的に結合することができる、抗体又はそのバイオマーカー結合断片等のリガンド(複数可)、或いは他のペプチド、或いはリガンド、例えばアプタマー、或いはオリゴヌクレオチドとの相互作用を介して、直接又は間接的に検出することができる。リガンドは、発光標識、蛍光標識、若しくは放射性標識等の検出可能な標識、及び/又はアフィニティタグを保有し得る。リガンドとしては、例えば
(1)in vivo:T3、T4(甲状腺ホルモン)、ビタミンA(血清レチノール結合タンパク質と相互作用することによって間接的に)、アポリポタンパク質A1(ApoA1)、ノルアドレナリン酸化生成物、及びプテリン
(2)in vitro(それらのほとんどは薬理学的作用物質):幾つかの非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、ポリハロゲン化ビフェニル等の環境汚染物質、及び甲状腺ホルモン様化合物、キサントン誘導体、並びに天然フラボノイド及び合成フラボノイドが挙げられる。他のリガンドは、表1で列挙されるような抗体であり得る。
【0157】
例えば、検出、モニタリング、診断及び/又は定量に関する方法は、SELDI(−TOF)、MALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、質量分析法(MS)、LCベース技法及びLC−MSベース技法から成る群から選択される1つ又は複数の方法によって行うことができる。適切なLC−MS技法には、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)、又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)が含まれる。液体クロマトグラフィ(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)又は低速液体クロマトグラフィ(LPLC))、薄層クロマトグラフィ、NMR(核磁気共鳴)分光法も用いることができる。
【0158】
本発明による診断方法又はモニタリング方法は、SELDI TOF、MALDI TOF及び質量分析法を用いた他の方法によって生体サンプル、例えば脳脊髄液(CSF)又は血清を分析し、配列番号1若しくは配列番号2又はその断片を含むペプチドバイオマーカーの存在又はレベルを検出することを含み得る。このような技法は、相対的定量及び絶対的定量に、及び本発明によるバイオマーカーの存在し得る他のバイオマーカーとの比率を評価するのに用いてもよい。これらの方法は、臨床的スクリーニング、予後、治療結果をモニタリングすること、薬剤のスクリーニング及び開発に関して特定の治療的処置に応答がある可能性が最も高い患者を同定すること、及び薬剤治療に対する新規の標的の同定にも好適である。
【0159】
表面増強レーザーイオン消失イオン化(Surface enhanced laser deionization ionization)(SELDI)質量分析法は、所定の状態、例えば薬剤治療及び疾患に対する、体液及び組織におけるタンパク質及びペプチドの特有の「指紋(fingerprint)」を同定するのに強力なツールである19。この技術は、タンパク質/ペプチドを捕捉するのにタンパク質チップ、並びに1000Da未満の小分子及びペプチドから最大500kDaのタンパク質までの範囲に及ぶ化合物の質量を定量及び算出するのに飛行時間型質量分析計(tof−MS)を利用する。タンパク質/ペプチドパターンの定量化可能な違いは、多次元空間座標として、生体液スペクトルで測定されたタンパク質/ペプチドをそれぞれ表すコンピュータにより自動化されたプログラムを用いて統計的に評価することができる。このアプローチは、バイオマーカーの同一性を知ることなく、診断ツールとして用いることができるような臨床的バイオマーカーの発見といった分野で最も成功を収めている。SELDIシステムは、単独の実験で数百のサンプルを作動させる能力も有している。加えて、SELDI質量分析法由来のシグナルは全て、(プロテアーゼ消化を必要とする幾つかの他のプロテオミクス技術とは異なり)天然のタンパク質/ペプチドに由来し、これによって所定の状態の生理機能を直接反映する。
【0160】
トランスサイレチンペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量は、免疫学的認識、ペプチド認識、アプタマー認識、又は合成物質認識に基づく任意の方法を用いて行うことができる。例えばこの方法は、トランスサイレチンペプチドバイオマーカー、例えば配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含む、又はそれらから成るペプチドと特異的に結合することができる抗体、又はその断片を伴い得る。ヒトTTRと結合する好適な抗体が市販されており、表1に列挙される。
【0161】
【表1】

【0162】
好適な免疫学的方法としては、ペプチドバイオマーカー上の異なるエピトープを認識する2つの抗体を用いてペプチドバイオマーカーの検出が行われるサンドイッチELISA等(実施例参照)、放射免疫測定法(RIA)、直接又は競合酵素免疫測定法(ELISA)、酵素免疫測定(EIA)、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法及び任意の粒子ベースの免疫測定(例えば、金、銀、又はラテックス粒子、磁性粒子、又はQドットを用いる)等のサンドイッチ免疫測定法が挙げられる。免疫学的方法は、例えばマイクロタイタープレート又はストリップフォーマットで行うことができる。
【0163】
試験被験体由来の試験サンプルに存在する配列番号1のトランスサイレチンバイオマーカーペプチド又はその断片の量を測定する本発明の方法及び使用において、正常な個体由来の正常な対照サンプルで見出されるレベルに比べて、試験サンプルにおけるバイオマーカーペプチドのより低いレベルの検出は、試験被験体における統合失調症又はその素因を示す指標となる。例えば血清において、統合失調症又はその素因を有する試験被験体由来のサンプルで検出される、配列番号1のトランスサイレチンペプチド、その断片、又はその誘導体の量は一般的に、正常な対照サンプルで見出されるトランスサイレチンペプチドの量より少なくとも15%少ない。前頭前野では、トランスサイレチン発現の低減は約40%である。CSFサンプルでは、その低減は正常な対照サンプルのTTRレベルに比べて約20%である。
【0164】
本発明によれば、例えば質量分析法又は他の好適な技法を用いて、対照のペプチド又はタンパク質のレベルを参照に、配列番号1のTTRペプチド又はその断片の低減を評価することもできる。このようなペプチドは、統合失調症に関する別のバイオマーカーであり得る。
【0165】
試験被験体由来の試験サンプルに存在する配列番号2のApoA1バイオマーカーペプチド又はその断片の量、レベル、又は濃度を測定する本発明の方法及び使用において、正常な個体由来の正常な対照サンプルで見出されるレベルに比べて、試験サンプルにおけるバイオマーカーペプチドのより低いレベルの検出は、試験被験体における統合失調症又はその素因を示す指標となる。例えば、統合失調症又はその素因を有する試験薬剤が未投与の被験体由来の試験サンプルで検出した配列番号2のペプチドのレベルは一般的に、正常な対照サンプルで見出されるペプチドの量より少なくとも約10%〜約80%、好ましくは約18%〜約60%低い。
【0166】
本発明の方法で試験され得る生体サンプルとしては、脳脊髄液(CSF)、全血、血清、血漿、赤血球、肝細胞、尿、唾液、又は他の組織液若しくは体液(排泄物、涙液、滑液、痰)、例えば濃縮呼気のような呼気、或いはそれらの抽出物又は精製物、或いはそれらの希釈物が挙げられる。生体サンプルとしては、生被験体由来又は死後に採取した組織ホモジネート、組織切片及び生検標本も挙げられる。サンプルは、例えば、適切に希釈又は濃縮され、通常の方法で保存された場合に調製することができる。
【0167】
統合失調症又はその素因を有する試験薬剤が未投与の被験体由来の血清サンプルにおいて、本発明の方法に従って検出及び/又は定量した配列番号2を含むApoA1バイオマーカーペプチド又はその断片のレベルは、正常な対照血清サンプルで見出されるペプチドの量より約10%〜約25%、好ましくは約18%低い。
【0168】
統合失調症又はその素因を有する試験薬剤が未投与の被験体由来の赤血球サンプルにおいて、本発明の方法に従って検出及び/又は定量した配列番号2を含むApoA1バイオマーカーペプチド又はその断片のレベルは、正常な対照赤血球サンプルで見出されるペプチドの量より好ましくは約50%〜約70%、好ましくは約60%低い。
【0169】
統合失調症又はその素因を有する試験薬剤が未投与の被験体由来の肝細胞において、本発明の方法に従って検出及び/又は定量した配列番号2を含むApoA1ペプチドバイオマーカーペプチド又はその断片のレベルは、正常な対照肝細胞サンプルで見出されるペプチドの量より好ましくは約20%〜約40%、好ましくは約30%低い。
【0170】
統合失調症又はその素因を有する試験薬剤が未投与の被験体由来のCSFサンプルにおいて、本発明の方法に従って検出及び/又は定量した配列番号2を含むApoA1ペプチドバイオマーカーペプチド又はその断片のレベルは、正常な対照CSFサンプルで見出されるペプチドの量より好ましくは約20%〜約40%、好ましくは約30%〜約35%低い。
【0171】
ApoA1ペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量は、ペプチドバイオマーカー、又はその断片、例えばC末端若しくはN末端が切断された断片の検出によって行うことができる。断片は好適には、4アミノ酸長より大きい。
【0172】
バイオマーカーは、例えばSELDI、MALDI−TOFによって直接検出することができる。代替的にはバイオマーカーは、抗体若しくはそのバイオマーカー結合断片等の任意の天然、生物学的に誘導された、又は合成リガンド(複数可)、或いは他のペプチド、或いはバイオマーカーと特異的に結合することができるリガンド、例えばアプタマー又はオリゴヌクレオチド又は化学合成した結合パートナーによる相互作用によって、直接又は間接的に検出することができる。本発明の方法で用いられるリガンドは、発光標識、着色標識、金属標識、磁性標識、蛍光標識又は放射性標識等の検出可能な標識、及び/又はアフィニティタグ(例えばArgタグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、DsbA、c−mycタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、FLAGタグ、HATタグ、Hisタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、Sタグ、SBPタグ、Strepタグ、又はチオレドキシン)を保有し得る。マーカーはナノ粒子も含み得る。量子ドット(Qドット)を用い得る。Qドットは、数ナノメートルサイズのコア/シェルCdSe/ZnSナノ結晶であり、生体分子と結合することができる。
【0173】
リガンドは、アップコンバートしたリン光体(phosphor)で標識することもできる。アップコンバートしたリン光体は、抗体等の生物学的に活性なプローブで合成及びコーティングすることができる一様にサブミクロンなアップコンバートしたリン光体の微粒子である。リン光体は、近赤外光による励起の際に可視光を放出する物質である。
【0174】
リガンドの性質に応じて、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、チャネリングアッセイ(例えば、生体分子と結合するLOCI(登録商標)ラテックス粒子を用いる発光酸素チャネリング等)、又は近接アッセイを検出に用いることができる。
【0175】
さらに、表面プラズモン共鳴(SPR)は、標識を用いない検出ツールとして用い得る。
【0176】
検出及び/又は定量は、LC、UPLC、CZE、SELDI(−TOF)、MALDI(−TOF)、1−Dゲールベース分析、2−Dゲルベース分析、例えばディファレンスゲル電気泳動(Differential In Gel Electrophoresis)(2D−DIGE)、質量分析法(MS)及びLC−MSベースの技法から成る群から選択される1つ又は複数の方法によって行うことができる。適切なLC−MS技法としては、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)、又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems, CA, USA)が挙げられる。液体クロマトグラフィ(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)又は低速液体クロマトグラフィ(LPLC))、薄層クロマトグラフィ、NMR(核磁気共鳴)分光法も用いることができる。
【0177】
本発明に従って診断する方法は、SELDI TOF又はMALDI TOFによって生体サンプル、例えば脳脊髄液(CSF)、血清又は血漿を分析し、配列番号2のペプチドバイオマーカー又はその断片の存在又はレベルを検出することができる。
【0178】
ApoA1ペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量は、ApoA1ペプチドバイオマーカーと特異的に結合することができる抗体又はその断片、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列又はその断片から成るペプチドに対する抗体又はその断片が関与する免疫学的方法を用いて行うことができる。好適な免疫学的方法としては、ペプチドバイオマーカーの検出がペプチドバイオマーカー上の異なるエピトープを認識する2つの抗体を用いて行われるサンドイッチELISA、放射免疫測定法(RIA)、直接若しくは競合酵素免疫測定法(ELISA)又はその任意の修正形態若しくは任意の実施形態、酵素免疫測定(EIA)、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法及び任意の粒子ベースの免疫測定(例えば、金、銀、又はラテックス粒子、磁性粒子、又はQドットを用いる)等のサンドイッチ免疫測定法が挙げられる。免疫学的方法は、例えばマイクロタイタープレート又はストリップフォーマットで行うことができる。
【0179】
本発明によるバイオセンサーは、ペプチドバイオマーカーと特異的に結合することができる本明細書に記載されるようなリガンド(複数可)を含み得る。このようなバイオセンサーは、本発明のペプチドを検出及び/又は定量するのに有用である。
【0180】
ペプチドバイオマーカーと特異的に結合することができる本明細書に記載されるようなリガンドを含むアレイ、パターン又はシグネチャー(signature)も提供される。
【0181】
本発明の方法を行うための診断キット又はモニタリングキットが提供される。このようなキットは好適には、ペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量のために、本明細書で記載されるようなリガンド、並びに/或いは任意にキットの使用のための取扱説明書と共に、本明細書で記載されるようなバイオセンサー及び/又はアレイを含む。
【0182】
本発明によって、天然であっても化学的に合成されてもよい、好適にはペプチド、抗体若しくはその断片、アプタマー又はオリゴヌクレオチドである、本明細書で記載されるようなリガンドの使用、或いはペプチドバイオマーカー又はその断片を検出及び/又は定量するための本発明のバイオセンサー、又は本発明のアレイ、又は本発明のキットの使用も提供される。この使用において、検出及び/又は定量は、CSF、全血、血清、涙液、尿、唾液、又は他の体液、例えば濃縮呼気のような呼気、或いはその抽出物又は精製物、或いはその希釈物等の生体サンプルで行うことができる。
【0183】
したがって、本発明のさらなる態様において、本発明によるペプチド、抗体若しくはその断片、又はアプタマー又はオリゴヌクレオチドであり得る、本明細書に記載されるようなリガンドの使用、或いはペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる物質を同定するための本発明によるバイオセンサー、又は本発明によるアレイ、又は本発明によるキットの使用が提供される。
【0184】
また、好ましくは、被験動物に試験物質を投与すること、及び被験体由来の試験サンプルに存在するペプチドバイオマーカーのレベルを検出及び/又は定量することを含む、被験体において配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸配列又はそれらの断片を含むペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる物質を同定する方法も提供される。
【0185】
任意の好適な動物は、例えば、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ゼブラフィッシュ、ヒツジ、イヌ、ネコ、魚、齧歯類(例えばテンジクネズミ、ラット又はマウス)、昆虫(例えばショウジョウバエ)、両生類(例えばアフリカツメガエル)又はシノラブディス・エレガンス(C. elegans)等の被験非ヒト動物として用いられ得る。
【0186】
試験物質は、抗統合失調症治療薬(これに限定されない)等の既知の化学物質又は薬学的物質であり得るか、或いは試験物質は、新規の合成若しくは天然化学物質(chemical entity)、又は2つ以上の上記の物質の組合せであり得る。
【0187】
試験細胞を試験物質に曝すこと、及び当該試験細胞内の、又は当該試験細胞で分泌されたペプチドバイオマーカーのレベルをモニタリングすることを含む、被験体において、好ましくは配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸配列又はそれらの断片を含むペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる物質を同定する方法が提供される。試験細胞は原核生物であり得るが、真核細胞が細胞ベースの試験法に利用されることが好ましい。好適には、真核細胞は酵母細胞、昆虫細胞、ショウジョウバエ細胞、両生類細胞(例えばアフリカツメガエル由来)、シノラブディス・エレガンス細胞であるか、又はヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、魚、齧歯類又はネズミ由来の細胞である。
【0188】
潜在的な治療的に使用される物質を同定する方法において、ヒトのトランスサイレチンポリペプチドを発現することができる非ヒト動物又は細胞を用い得る。
【0189】
スクリーニング方法は、結合に適切な条件でペプチドバイオマーカーの存在下で試験物質をインキュベートすること、及びペプチドの当該試験物質との結合を検出及び/又は定量することを含む、本発明によるペプチドバイオマーカーと結合することができるリガンドを同定する方法も包含する。
【0190】
例えば、アレイ、パターン、又はシグネチャーフォーマットで構成された、本発明のバイオマーカー、使用及び方法に基づくハイスループットスクリーニング技術は、潜在的に有用な治療化合物、例えばバイオマーカーと結合することができる、天然化合物、合成化合物(コンビナトリアルライブラリ由来)、ペプチド、モノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体又はその断片等のリガンドの同定のためのバイオマーカーシグネチャーをモニタリングするのに好適である。
【0191】
本発明の方法は、例えばチップ上のアレイ、パターン、若しくはシグネチャーフォーマットで、又はマルチウェルアレイとして行うことができる。上記のように、質量分析法等の他の技法も用いることができる。方法は、単独の試験、又は複数の同一試験、又は複数の異なる試験でプラットフォームに適合させることができ、ハイスループットフォーマットで行うことができる。本発明の方法は、診断を確認又は除外する、及び/又はさらに症状を特徴付けるために1つ又は複数の付加的な異なる試験を行うことを含み得る。
【0192】
本発明はさらに、同定方法若しくはスクリーニング方法、又は本発明の使用によって同定されるか、或いは同定することができる物質、例えばリガンドを提供する。このような物質は、ペプチドバイオマーカーの活性を直接若しくは間接的に、刺激、促進、又は活性化することができるか、或いはペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる。物質という用語は、直接ペプチドバイオマーカーと結合せず、ペプチドバイオマーカーの発現を直接誘導するか、又は機能を促進若しくは活性化するが、その代わりにペプチドバイオマーカーの発現を間接的に誘導するか、或いはペプチドバイオマーカーの機能を促進/活性化する物質が含まれる。物質という用語にはリガンドも含まれ、本発明のリガンド(例えば、天然化合物若しくは合成化合物、ペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、抗体又は抗体断片)は、ペプチドバイオマーカーと結合、好ましくは特異的に結合することができる。
【0193】
本発明はさらに、統合失調症又はその素因の治療において、本発明による物質又はリガンドの使用を提供する。
【0194】
薬物として、本発明による物質の使用も提供される。
【0195】
さらに統合失調症又はその素因の治療のための薬物の製造における本発明による物質の使用が提供される。
【0196】
統合失調症又はその素因を診断又はモニタリングするためのキットが提供される。好適には、本発明によるキットは、任意にキットの使用のための取扱説明書と共に、ペプチドバイオマーカーに特異的なリガンド、ペプチドバイオマーカー、対照、試薬、及び消耗品の群から選択される1つ又は複数の構成要素を含み得る。
【0197】
本発明のバイオマーカーの治療的な使用に関して本明細書で用いられるような「治療すること」又は「治療」という用語は、闘病目的での患者の管理又はケアを示し、例えば症状又は合併症の発症を防ぐ(即ち、予防)ための無症候性の個体への活性物質の投与が含まれる。
【0198】
また、ApoA1ペプチドバイオマーカーの生成を促進することができる統合失調症の治療物質を同定する方法が提供され、この方法は、当該物質を試験被験体に投与すること、及び当該試験被験体においてApoA1ペプチドバイオマーカーのレベルを検出及び/又は定量することを含む。別の実施形態では、ApoA1ペプチドバイオマーカーの活性を促進することができる統合失調症の治療物質を同定する方法が提供され、この方法は、当該物質を試験被験体に投与すること、及び当該試験被験体においてApoA1ペプチドバイオマーカーの活性を検出及び/又は定量することを含む。ApoA1バイオマーカーペプチドのレベル又は活性の増大は、その物質が統合失調症の治療物質であることを示す。好ましくは、これらの方法によるApoA1ペプチドバイオマーカーは、配列番号2、その断片又は非ヒトApoA1ホモログを含む。
【0199】
本明細書で用いられるような「治療物質」という用語は、治療、即ち治癒/有益な(curative/beneficial)特性を有し、且つ統合失調症を治療して、その症状を緩和するか、又は統合失調症の発症を防ぐ物質を定義する。したがって、この物質は統合失調症の治療に用いられる。
【0200】
統合失調症の治療物質を同定する方法による上記試験被験体は、任意の好適な動物、好ましくは非ヒト動物、例えば非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、魚、齧歯類(例えばテンジクネズミ、ウサギ、ラット又はマウス)、昆虫(例えばショウジョウバエ)、両生類(例えば、アフリカツメガエル)又はシノラブディス・エレガンスであり得る。
【0201】
試験物質は、抗統合失調症治療薬(これに限定されない)等の既知の化学物質若しくは薬学的物質、又は既知の抗精神病薬であり得るか、或いは試験物質は、新規の合成若しくは天然化学物質、又は2つ以上の上記の物質の組合せであり得る。
【0202】
本発明はさらに、ApoA1ペプチドバイオマーカーの生成を刺激又は促進することができる統合失調症の治療物質を同定するin vitro方法を提供し、前記方法は試験細胞を試験物質に曝すこと、及び当該試験細胞内の、又は当該試験細胞により分泌された上記バイオマーカーペプチド若しくはその断片のレベルの増大を検出することを含む。ApoA1ペプチドバイオマーカーの活性を刺激又は促進することができる統合失調症の治療物質を同定するin vitro方法も提供され、前記方法は、試験細胞を試験物質に曝すこと、及び当該試験細胞内の、又は当該試験細胞により分泌された上記バイオマーカーペプチド若しくはその断片の活性の増大を検出することを含む。好ましくは、これらのin vitro方法によるApoA1ペプチドバイオマーカーは、配列番号2、その断片、又は非ヒトApoA1ホモログを含む。
【0203】
好適には、真核細胞は酵母細胞、昆虫細胞、ショウジョウバエ細胞、両生類細胞(例えばアフリカツメガエル由来)、シノラブディス・エレガンス細胞から選択し得るか、又はこの細胞はヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、魚、齧歯類又はネズミ由来の細胞であり得る。
【0204】
潜在的な治療に使用される物質を同定する方法において、ヒトのApoA1ポリペプチドを発現することができる非ヒト動物又は細胞を用い得る。代替的には、非ヒト細胞は、それらの内因性ApoA1を発現し得る。
【0205】
スクリーニング方法は、本発明によるApoA1ペプチドバイオマーカーと結合することができるリガンドを同定する方法も包含し、結合に適切な条件でペプチドバイオマーカーの存在下で試験物質をインキュベートすること、及びペプチドの当該試験物質との結合を検出及び/又は定量することを含む。
【0206】
本発明の方法によって同定される物質も提供される。
【0207】
本発明による方法を行うための診断キット又はモニタリングキットが提供される。このようなキットは好適には、ApoA1ペプチドバイオマーカーの検出及び/又は定量のために、ApoA1ペプチドバイオマーカーに特異的に結合することができる本明細書で記載されるようなリガンド、並びに/或いは任意にキットの使用のための取扱説明書と共に、本明細書で記載されるようなバイオセンサー及び/又はアレイを含む。別の態様では、本発明は、統合失調症又はその素因を診断又はモニタリングするためのキットを提供する。好適には、本発明によるキットは、任意にキットの使用のための取扱説明書と共に、ApoA1ペプチドバイオマーカーに特異的なリガンド、ApoA1ペプチドバイオマーカー、ApoA1ペプチドバイオマーカーの構造/形態模倣体、対照、試薬、及び消耗品の群から選択される1つ又は複数の構成要素を含み得る。
【0208】
本発明の方法は、例えばチップ上の多重検体パネル若しくはアレイフォーマットで、又はマルチウェルアレイとして行うことができる。方法は、単独の試験、又は複数の同一試験、又は複数の異なる試験でプラットフォームに適合させることができ、ハイスループットフォーマットで行うことができる。本発明の方法は、診断を確認又は除外する、及び/又はさらに精神病状態を特徴付けるために1つ又は複数の付加的な異なる試験を行うことを含み得る。
【実施例】
【0209】
本発明は、以下で与えられる実施例を参照してさらに理解される。
[実施例1]
【0210】
21組の統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び16人の適合した対照双生児由来の血漿サンプルは、Dr Fuller Torrey(Stanley Medical Research Institute, Bethesda, USA)によって標準化された条件下で回収した。研究の参加者は全て、記入済みのインフォームドコンセントを提出し、元の研究は、施設内倫理委員会(Institutional Review Board)によって承認を受けた。それぞれの個体のGAFは、SCID面接(DSM−IV−TRに関する構造化臨床面接(Structured Clinical Interview for DSM-IV-TR))(SCID)を行った2人の面接官の合意によって得られた。SCIDは、臨床的評価尺度であり、信頼性のあるDSM−IVの精神科診断を行う臨床医、研究者、及び研修医を補助するように設計された半構造化診断面接を伴う。同様の食事をし、共にホテルに滞在した両方の双生児によって午前中に行われたリンパ採取アフェレーシス(aphoresis)手順の一部として両方の双生児から同時に血漿を得た。血漿サンプル(50μl)は、H NMR分析のための調製にDOを添加することによって最終容量500μlにした。血漿サンプルは、NMRフィールド周波数ロック(field-frequency lock)のための10%DOを含む等張食塩溶液を添加することによって最終容量550μlまで希釈した。
【0211】
双生児サンプルをアリコートで分割し、−80℃で保存した。サンプルは、NMRスペクトルを得る前に3回を超える凍結融解サイクルを受けることはなかった。全ての実験を盲検化条件及びランダム条件で行った。血漿サンプル(50μl)は、H NMR分析のための調製にDOを添加することによって最終容量500μlにした。血漿サンプルは、NMRフィールド周波数ロックのための調製に10%DOを含む等張食塩溶液を添加することによって最終容量550μlまで希釈した。
血漿サンプルのH NMR分光法:
水の共鳴の抑制を達成するのに、予備飽和(pre-saturation)パルス系列を用いて全てのサンプルに対して標準的な1−D 600MHz H NMRスペクトルが得られた(パルス系列:緩和遅延−90°−t−90°−t−90°−取得 FID、Bruker Analytische GmbH, Rheinstetten, Germany)。このパルス系列では、二次高周波照射が、2sの緩和遅延及び混合期間(t=100ms)(tは3μsで固定)中に水共鳴周波数で特に適用された。通常、256個の過渡状態が、6000Hzのスペクトル幅及びスキャン1回当たり1.36sの取得時間で、300Kで32Kデータ点に対して得られた。フーリエ変換に先立って、自由誘導減衰(FID)を、0.3Hzの線幅拡大に相当する指数重み関数で乗じた。
データ整理及びパターン認識手順:
患者及び対照に由来する生体液内及び生体液間の代謝変動性を効率的に評価するために、ソフトウェアプログラムAMIX(混合物の分析バージョン2.5(Analysis of MIXtures version 2.5)、Bruker Rheinstetten, Germany)を用いて、スペクトルをデータ整理して、SIMCA−P(バーション10.5、Umetrics AB, Umea, Sweden)にエクスポートして、そこで一連の多変量統計分析を行った。最初に、スペクトルプロファイルにおける固有の類似性の存在を明確に認識するために、主成分分析(PCA)をデータに適用させた。H NMRスペクトルの分類が外因性の混入物により影響を受ける場合、これらのシグナルを含有するスペクトル領域は、統計分析から取り去った。統合失調症患者と適合対照との間を識別するバイオマーカーを確認するために、潜在構造判別分析に対する投影(PLS−DA)を用いた。必要に応じて、社会科学者向けの統計学的パッケージ(Statistical Package for Social Scientists)(SPSS/PC 13、SPSS, Chicago)を用いて、データを一元配置分散分析(ANOVA)に付した。F比がPを0.05未満とする場合、個々の群平均間の比較は、P=0.05の有意レベルでダネットT3検定によって為された。
結果
21組の統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び16人の適合した対照双生児由来の血漿のH NMRスペクトルに基づくPLS−DAスコアのプロットによって、罹患した双生児及び罹患していない双生児と、年齢を適合させた対照双生児が区別された。(図1A及び図1B)。ローディング係数は、VLDL(0.92〜0.88ppm及び1.28〜1.32ppm)、LDL(0.84〜0.88ppm及び1.24〜28ppm)及び芳香族群(約δ7.5、最も代表的な血漿タンパク質)由来の共鳴が分離に顕著に関与していた(表3、図1C)ことを示した。統合失調症の双生児は、対照の双生児に比べて、血漿のVLDLシグナル(1.28〜1.32ppm)において23%(p=0.015、ANOVA)の増大を示した。対応する罹患していない双生児は、増大した1.28〜1.32ppmのシグナルを有していたも見出されたが、差は罹患していない群に関しては有意なものではなかった(p=0.18、ANOVA)。3つの群におけるLDLレベルは、VLDLシグナルのものと同様の傾向を示していたが、これも統計的な有意差には達していなかった(データ示さず)。さらに、不一致な統合失調症双生児は、約7.5ppmの芳香族シグナルで表された低い血漿タンパク質レベルを有していた(罹患した双生児及び罹患していない双生児のそれぞれに関して、14%減少及び8%減少、p<0.01)。群間のHDLシグナル(0.6〜0.7ppm)には差が見られなかった。さらなる分析によって、女性の双生児のさらに多くの顕著な区別が示された(図2)。群を区別した鍵となるケミカルシフトを表3に示す。興味深いことに、女性の罹患した双生児と、健常で不一致な双生児との間のPLS−DA分析単独によって、不一致な双生児を対照双生児から有意に分離したものと同じスコア及びローディングプロットが不一致な双生児自身の分離に関与していることが示された。このことは、同定された代謝の変動が純粋な疾患関連のシグネチャであることを意味している。さらに、1.24〜1.28ppm(主にLDL)のシグナルは、DSM IV第V軸のグローバル機能評定(Global Assessment of Functioning)(GAF)尺度(R=0.62、図3)から得られたスコアと強い相関があり、精神病性障害の患者の機能障害を評価する最も広く用いられる方法の1つである。格付けは、重度の機能障害を表す1〜10の格付けと、優れた機能を示す90以上の格付けとで1〜100の尺度で行われる(DSMIV、Moos et al., 2002)。女性の双生児の血漿のVLDLシグナル(1.28〜1.32ppm)もGAFスコアと強い相関を示す(R=0.54、図3)。全ての双生児又は男性の双生児単独を考慮した場合、相関は見出されなかった(データ図示せず)。年齢は、疾患関連の化学シフトに影響を与えないと考えられた。しかし、抗精神病薬曝露(フルフェナジン(fluphenezine)等価物として測定される)も女性の双生児それぞれのGAFスコア及び代謝シグネチャと相関があった。
【0212】
一方で、統合失調症に関して不一致な男性の双生児に由来する血漿のH NMRスペクトルのPLS−DAスコアの対応するプロットは、罹患した双生児と、罹患していない双生児との間のあまり顕著でない区別を示した(図4A)。女性の双生児とは異なり、ローディング係数によって、血漿タンパク質に対応する芳香族領域からの共鳴が、男性の双生児間の分離に主に関与することが示された(図4B)。男性の双生児に関して、グルコースシグナルと、抗精神病治療、年齢、病気の期間、薬物乱用及びGAFスコア(データ図示せず)との間には相関が見出されなかった。男性の対照双生児と、罹患していない双生児との間に有意な差は見出されなかった(図4A)。
実施例1の考察
本研究は、統合失調症に寄与する遺伝因子及び環境因子の役割を調べるために、H NMRを用いて、合計42人の統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び16人の適合した対照双生児の代謝血漿プロファイルを試験した。この結果によって、VLDL、LDL及び芳香族領域由来のシグナルが、統合失調症に関して不一致な病気の双生児及び健常な双生児を、対照双生児と区別する最も重要な因子であることが示されている。興味深いことに、この区別は女性の双生児に関してより一層顕著であった。
【0213】
概して、同様の代謝変化が、男性及び女性の統合失調症の双生児で観察され、女性群では、潜在的な素因疾患シグネチャが罹患していない双生児で見出された。このことは女性の双生児に関してより大きな遺伝的負荷を示唆し得る。統合失調症における顕著な性差は十分に確立した事実であり、女性の統合失調症患者は平均してより後期に発症し、良好な予後を有する。このことがエストロゲンの保護効果に寄与している。急性精神病エピソードを患う女性は、エストロゲンレベルの低下を示している(Huber et al., 2005)。エストロゲンは神経保護性質を有することが知られており、興奮毒性及び酸化ストレスに関与する細胞死を低減し得る。
【0214】
統合失調症を患う女性双生児において、変動は疾患の重症度、及び典型的な抗精神病薬の曝露に強い関連があり、このことが環境因子及び薬剤効果の寄与を評価することを難しくしている。しかし、幾つかの一連の証拠によって、同様の変化が罹患していない双生児で確認され、また抗精神病薬が、罹患した女性の双生児におけるグローバル機能スコアとの相関が見出されなかったことから、この効果は薬剤効果ではないことが示唆された。
【0215】
この研究において最も興味深い知見の1つは、女性の被験体におけるVLDL/LDLシグナルとグローバル機能スコア(DSMIV、第V軸)との密接な関係である。明らかにこのことは、主観的に得られた(subjectively-derived)臨床的格付けスコアと、客観的なバイオマーカーとの間の強い相関を示す最初の報告であり、したがってこれらのバイオマーカーは、診断の補助として及び臨床応答を確立するのに有用である。
【0216】
【表2】

【0217】
【表3】

[実施例2]
【0218】
総数139個のCSFサンプル(80人の対照及び59人の初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者)由来のCSFサンプルの広範囲なタンパク質/ペプチドプロファイリング分析を、コンピューターによるパターン認識分析と組合せてSELDI質量分析法を用いて行った。高い有意性及び再現性がある違いが、年齢を適合させた対照と比べて、妄想型統合失調症と診断された、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者から得られたサンプルで見出された。
【0219】
【表4】

【0220】
【表5】

【0221】
【表6】

【0222】
【表7】

【0223】
臨床サンプル
ケルン大学医学部倫理委員会(The Ethical committee of the Medical Faculty of the University of Cologne)は、この研究のプロトコル、並びにサンプルの採取及び分析に関する手順を審査及び承認した。研究の参加者は全て、記入済みのインフォームドコンセントを提出した。臨床研究は全て、ヘルシンキ宣言で表された原則に従って行われた。CSF及び血清サンプルは、妄想型統合失調症の初期エピソード、又は病気の期間から短期精神病性障害(DSM−IV 295.30又は298.8、n=59)と診断された、薬剤が未投与の患者から、及び人口統計的に適合させた健常なボランティア(n=80)から採取した(表4及び表5)。8人の統合失調症個人及び8人の十分に適合させた対照個人の灰白質由来の新鮮凍結前頭前野組織(ブロードマン領域9)は、スタンレー財団神経病理学コンソーシアム(Neuropathology Consortium of the Stanley brain collection)(スタンレー医学研究所(Stanley Medical Research Institute), USA)から得られた。
SELDI分析のためのCSFサンプルの調製
それぞれのCSFサンプル5μlを、様々なpH条件で異なる化学特性のチップに適用した。分離されたピークの数及び分離に基づき、強いアニオン交換Q10チップにおいてpH9.0で、最適条件を選択した。簡潔には、振盪器(振動数=600rpm)において10分間室温で、結合緩衝液(100mMのTris−HCl(pH9.0))を用いて2回、アレイスポットを事前に活性化させた。結合緩衝組成物50μlを、それぞれのタンパク質スポットに添加した後、CSFサンプル5μlを添加した。タンパク質チップを室温で60分間振盪器においてインキュベートした。チップを結合緩衝液で2回、HOで1回洗浄し、それから空気乾燥させた。その後、0.6μlの50%アセトニトリル中の100%飽和シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)及び0.5%トリフルオロ酢酸でチップを2回連続処理した。チップをCiphergenプロテインチップリーダー(Ciphergenプロテインチップシステムシリーズ4000)で分析した。それぞれのサンプルを2回分析して、別個に発現したタンパク質を同定する際の再現性を確認した。
SELDI−TOF−MS分析
アレイをCiphergenプロテインチップシステムシリーズ4000(Ciphergen Biosystems, USA)で分析した。タンパク質の質量スペクトルが、1800任意単位のレーザー強度で平均254個のレーザーショットを用いることによって生成した。データ獲得のための検出サイズ範囲は3〜200kDaであった。レーザーは10kDaで焦点を合わせた。アレイ表面上で捕捉されたそれぞれのタンパク質の質量対荷電比(m/z)は、外部較正標準(Ciphergen Biosystems、USA)に従って求められた:ウシインスリン(5733.6Da)、ヒトユビキチン(8564.8Da)、ウシシトクロムc(12230.9Da)、ウシスーパーオキシドジスムターゼ(15591.4Da)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(43240Da)及びBSA(66410Da)。データは、プロテインチップデータ分析ソフトウェアバージョン3.0及びCiphergen Expressソフトウェア3.0(Ciphergen Biosystems、USA)で分析した。Ciphergen Expressソフトウェア3.0を用いて全てのスペクトルを蓄積し、定量化した質量ピークを自動検出した(autodetect)。ピークの標識が、0.2%の質量ウィンドウによるセカンドパス(second-pass)ピーク選択を用いることによって達成され、推測されたピークが与えられた。全てのスペクトルのピーク情報は、さらなる統計分析のためにエクスポートされた。
ペプチド及びタンパク質の同定
統合失調症に特異的なペプチドの同定は、精製工程(オンチップのいずれか(either on-chip))、その後のC18Zip−Tip精製の組合せによって行われた。典型的に、それぞれの対照群及び統合失調症群由来のCSFサンプル10μlをpH9.0(50mMのTris−HCl)でQ10タンパク質チップに供した。チップと結合したタンパク質/ペプチドは、ピペッティングにより、溶離緩衝液(30%アセトニトリル、50mMの酢酸ナトリウム(pH3.0))5μlで溶離し、製造業者のマニュアルに従い、C18 Ziptipを用いて脱塩した。0.1%ギ酸/50%水性アセトニトリル(2μl)で溶離したペプチドは、統合失調症患者由来のCSFサンプルにおけるピークを確認するするためのMALDI質量分析法によってさらに試験した。また溶離したペプチドは、de novoシークエンシングのために、ESI−MS/MS(Applied Biosystems, USA)と連結したC18ナノカラムに入れた。
【0224】
タンパク質バイオマーカーのために、CSFタンパク質は、アニオン交換クロマトグラフィ(HyperD F、Ciphergen Biosystems, USA)、その後のSDS−PAGEの組合せによって、プールしたCSFから精製した。適合させた質量の周りのバンドを切断し、1/3の切断タンパク質バンド由来のタンパク質をこれまでに記載した方法20を用いて受動的に溶離して、スペクトルにおける質量を確認した。室温で一晩、残りのタンパク質バンドをトリプシン(1:50、Promega, UK)でゲル内(in-gel)消化した。それから、得られたペプチド混合物をLC−MS/MS(Applied Biosystems, USA)を用いてシークエンシングした。
【0225】
タンパク質のS−システイン化又はS−グルタチオン化アイソフォーム(in vivoで精製されるアイソフォームである)を、β−メルカプトエタノールを用いたオンチップ還元の前後のスペクトルを比較することによって確認した。要するに、CSFタンパク質及びペプチドの結合を上記のように行い、最終工程でそれぞれのスポットを1mMのHEPES 100μl(pH7.5)で洗浄した。それから、チップ上のタンパク質及びペプチドを室温で30分間、1/40のβ−メルカプトエタノール(1μl)で還元した。水1mlをそれぞれのスポット上に加え、蒸発させた。この手順を2回繰り返した。それからマトリクスを加え、プロテインチップリーダー(Ciphergenプロテインチップシステムシリーズ4000)を用いてデータを得た。
酵素免疫測定法(ELISA)によるヒトの血清サンプルにおけるトランスサイレチンの定量分析
サンプルを−80℃から解凍し、実験を行なう前に10分間ボルテックスした。全てのサンプルを臨床条件が分からないように分析した。全ての生化学的分析が完了するまで、全ての被験体のアイデンティティは、コード番号でわからなくした。
【0226】
トランスサイレチン標準(Sigma, UK)、対照及び患者由来のヒト血清サンプルは、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)(Sigma, UK)で1000倍に希釈した。それから、トランスサイレチン標準及びサンプルをELISA Maxisorbプレート(Nunc(商標), Denmark)上に置き、1時間インキュベートした。全てのサンプルは二重で試験した。洗浄緩衝液で洗浄後(PBS中の0.03% Tween20)、プレートを60分間、5%脱脂粉乳粉末で遮断した。トランスサイレチン抗体(DakoCytomation, Denmark,2.5%脱脂粉乳粉末中で1:500に希釈した)100μlを60分間96ウェルプレートでインキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で4回洗浄した後、二次抗体(抗ウサギHPP結合IgG(Cell Signalling, UK、1:2000)100μlをそれぞれのウェルに加え、60分間インキュベートした。洗浄緩衝液で3回洗浄後、基質(TMB One溶液, Promega)100μlをそれぞれのウェルに加え、混合物を室温で10分間インキュベートした。プレートを450nmで読み取った(BIO-RAD,モデル680)。
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析に関するヒトの脳サンプルの調製及びウェスタンブロッティングを行うための詳細はこれまでに記載されてきた21。要するに、当量のタンパク質(1つのサンプル当たり30μg)を10%のポリアクリルアミドゲル上に電気泳動的に分離し、ニトロセルロースに移した後、4℃で一晩、3%ミルク−PBS中に一次抗体(抗トランスサイレチン, DakoCytomation)でインキュベートした後、室温で1時間、二次抗体(HRP結合抗ウサギ二次抗体(Cell Signaling,1:2500)でインキュベートした。増感化学発光法(LumiGluTM, Cell Signaling)を用いて、ブロットからシグナルを検出した。タンパク質の負荷及び転移の一貫性は、Ponseau S染色で求められた。
統計分析
主成分分析(PCA)、部分的最小二乗判別分析(PLS−DA)及びPLSを含む多重統計分析を利用して、Ciphergen Expressからのデータ出力をまとめた。PLSモデルの感受性及び特異性を推測できるように、ホールドアウト交差確認を3回行った。それぞれ3回のホールドアウト交差確認において、サンプルのうちの3分の1を無作為に選択し検証データを作成して、残りのサンプルを訓練データとして用いた。全ての多重分析をSIMCA−P+10(Umetrics AB, Sweden)を用いて行った。感受性は、全ての陽性を検出する真陽性の割合として定義され、特異性は全ての陰性を検出する真陰性の割合として定義される。必要に応じて、社会科学者向けの統計パッケージ(SPSS/PC+、SPSS, Chicago)を用いてt検定を行った。
初めて発症し、薬剤が未投与の妄想型統合失調症患者におけるCSFタンパク質/ペプチドプロファイルの変動
最初の実験セットにおいて、41人の初めて発症し、薬剤が未投与の妄想型統合失調症患者及び40人の人口統計的に適合させた健常なボランティア由来のCSFサンプルのタンパク質/ペプチドプロファイルは、SELDI質量分析法を用いて行った。CSFタンパク質及びペプチドは、pH9.0でQ10(強いアニオン交換)チップを用いてプロファイリングした。健常なボランティアのCSFタンパク質/ペプチドプロファイルの例は図5Aに示される。このQ10タンパク質チップ結合条件下で、シグナル対ノイズ比が5を超える約75個のピークを容易に検出することができる。CSFサンプルのSELDIスペクトルに基づくPLS−DAスコアのプロットによって、健常なボランティアと、初めて発症し、薬剤が未投与の妄想型統合失調症患者との間で明らかな区別が示された(図5B及び図5C)。同様の結果が、主成分分析を用いて見出された(データ示さず)。ローディングプロットによって、13600〜14000Daのピークのクラスターにおける有意な減少が示された。ホールドアウト交差確認に基づくこのモデルの感受性及び特異性はそれぞれ、80%及び95%であった(表7)。
トランスサイレチンとしての13.6〜14kDaのタンパク質クラスターの同定
13.6〜14.1kDaのタンパク質クラスターは4つのピークを含んでおり(図6B)、その内の3つが初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおいて一貫してダウンレギュレーションしていた(p<0.01、図6Bの下のパネル)。研究によって、これらのピークが、トランスサイレチンタンパク質のS−システイン化又はS−グルタチオン化誘導体22、23、血流から脳にチロキシンを輸送する甲状腺ホルモン結合タンパク質に由来し得ることが示唆されている。室温でβ−メルカプトエタノールを用いて行ったCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741、13875、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元され(図6C)、これにより3つのピークは同じタンパク質に由来していたことが確認されたことを示した。タンパク質を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症患者由来の1組のCSFサンプルをアニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドである約13〜15kDaはpH3分画で溶離した(図6Dの左のパネル)。バンドからタンパク質を溶離すること、及び質量と適合させるためにNP20チップ上を走らせることによって、バンドがSELDIスペクトルにおける約13.6〜14kDaのピーククラスターであることを確認した(図66E)。それから、このタンパク質はトリプシンで消化し、LC−MS/MSを用いてシークエンシングした。このタンパク質をトランスサイレチンとして同定した(図6Dの右のパネル)。
同じ被験体由来の血清サンプル、及び統合失調症患者由来の前頭前野組織におけるトランスサイレチンのダウンレギュレーション
脳室CSFにおいて3%のトランスサイレチン及び腰部CSFにおいて10%のトランスサイレチンが血液に由来していることが推測されている。統合失調症患者におけるCSFで見出された血液のトランスサイレチンの変化に対する寄与を評価するために、図5及び図8(人口統計に関しては表4及び表5を参照されたい)で研究された同じ個体から採取した(CSFを採取したのと同時に)血清のトランスサイレチンレベルをELISAを用いて調べた。血清におけるトランスサイレチンの中程度であるが、有意な減少が、対照に比べて統合失調症患者で見出された(15%の減少、p=0.0007、t検定)(図7A)。しかし、同じ個体由来のCSFと血清のトランスサイレチンとの間に相関が見出されず、このことはトランスサイレチンレベルがCSF及び血清で独立して調節されることを示唆していた(図7B)。トランスサイレチンレベルは、CSF及び血清サンプルの両方で減少した。しかし、CSFのトランスサイレチンレベルと血清のトランスサイレチンレベルとの相関は存在しない。
【0227】
興味深いことに、ウェスタンブロットを用いて、対照に比べて統合失調症患者由来の死後の前頭前野におけるトランスサイレチンの約40%のダウンレギュレーションが見出された(図7C)。
独立したサンプルセットにおけるタンパク質/ペプチドバイオマーカーの検証
図5におけるバイオマーカーモデルは、さらなる18人の初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者及び40人の人口統計的に適合した健常なボランティアから成る独立したサンプルセットを用いて検証した。これらのサンプルは、これまでに記載された実験と同じ条件を用いて試験した。PLS−DAスコア及びローディングプロットは、13600〜14000のタンパク質のクラスター内で図5で見出されたのと非常に類似した結果を示した(図8)。このことは、CSFタンパク質及びペプチドにおけるこれらの同定された変動は一貫した所見であり、したがって統合失調症の早期の病態生理を本当に反映することができることを示唆している。このモデルの感受性及び特異性はそれぞれ95%及び98%であった(表7)。
実施例2の考察
合計81個のCSFサンプルのSELDIスペクトルの最初の分析(41人の統合失調症、40人の対照)によって、健常なボランティアのサンプルとは異なる、初めて発症し、薬剤が未投与の妄想型統合失調症患者由来のサンプルの特異的な分布が示された(図5B、図5C及び図5D)。CSFのタンパク質/ペプチドプロファイルは、妄想型統合失調症患者で特徴的に変化することが見出され、鍵となる変動は約14kDaのトランスサイレチンのダウンレギュレーションであった。これらの統合失調症に特異的なタンパク質/ペプチドの変化は、同じ条件を用いて独立したサンプルセット(n=58)で反復/検証した(図8)。両方の実験がそれぞれ、95/98%の驚くほど高い特異性(真陰性率)及び80/90%の感受性を達成した(表7)。このことは、実質的に対照サンプルが統合失調症群と一集団になることがなかったことを意味する(図5B及び図5C)。高い診断妥当性及び結果として行う治療的介入のために、実際に疾患に罹っているこれらの個体の正確な同定が最も重要である。
【0228】
トランスサイレチンの中程度であるが、一貫した低減が、初めて発症した統合失調症患者由来のCSFで見られた。この研究でCSFサンプルが調べられたのと同じ個体から採取した血清サンプルにおけるELISA結果は、血清におけるトランスサイレチンレベルの約15%の低減(p=0.0007、t検定、図7A)を示したが、血清のトランスサイレチンのレベルと、CSFトランスサイレチン由来のSELDIシグナルとの間の相関が存在せず、これにより、肝臓由来のトランスサイレチンがCSFにおけるダウンレギュレーションに寄与し得ないことが示唆された(図7B)。摘出したヒツジの脳を灌流させる実験では、全ての新たに合成されたトランスサイレチンが、脈絡叢から脳室へ分泌されたことが示された。このタンパク質の合成は、チロキシンの輸送に必要である16。したがって、CSFにおけるトランスサイレチンのレベルの低減によって、統合失調症患者の脳におけるチロキシン輸送の低下が示唆される。実際、統合失調症患者由来の死後脳組織におけるトランスサイレチンタンパク質のダウンレギュレーションを示すこの研究で見出された結果(図7C)はさらにこの考えを支持している。甲状腺機能障害は統合失調症24、25、及び実際には障害と遺伝的に結びつく可能性がある他の精神病性障害26の患者で比較的一般的であることに注目すべきである。さらに、重度の甲状腺機能低下症及び甲状腺機能亢進症の患者において、精神病の症状が発生する可能性があり、臨床像が統合失調症としばしば類似しており27、このことはCNS甲状腺機能の増大と結び付き得ることを意味している。興味深いことに、クロザピンの長期間投与が、ラットの海馬及び大脳皮質においてトランスサイレチン発現を誘導することが示され18、本明細書の結果を考慮すると、クロザピンがCNSチロキシン機能を高めることを意味し、統合失調症の早期の病態生理におけるトランスサイレチンの臨床的関連性を支持する。
【0229】
SELDI質量分析法の適用は、妄想型統合失調症の早期診断に効果的な手段を提供し得る。
[実施例3]
【0230】
臨床サンプル
サンプルの採取及び分析の手順を含むこの研究のプロトコルは、倫理委員会によって承認された。インフォームドコンセントは全ての参加者によって記入され提出されて、ヘルシンキ宣言で表された原則に従って臨床研究が行われた。最初のエピソードである妄想型統合失調症患者、又は病気の期間から短期精神病性障害と診断された薬剤が未投与の患者から(DSM−IV 295.30又は298.8、CSFに関してn=41、血清に関してn=35、表8)、及び人口統計的に適合させた健常なボランティアから(CSFに関してn=40、血清に関してn=63、表8)CSF及び血清サンプルを採取した。
【0231】
死後研究のために、新鮮凍結した前頭前野組織(ブロードマン領域9、8人の統合失調症個人及び8人の十分に適合させた対照個人)及び肝臓サンプル(15人の統合失調症及び15人の十分に適合させた対照)を得た。人口統計の詳細は表8で列挙される。
【0232】
赤血球(RBC)実験のために、合計40個の血液サンプル(7人の始めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者、及び13人の代表的ではない抗精神病薬で治療した統合失調症患者、並びに20人の人口統計的に適合させた健常なボランティア、人口統計の詳細に関しては表8を参照されたい)は、同じサンプルの採取手順を用いて2つのセンターから収集した。
【0233】
【表8】

【0234】
RBCサンプルの調製
細胞の分離及びタンパク質抽出の前に、血液サンプルを抗凝固剤EDTAチューブに回収した(下記を参照されたい)。RBCを精製するために、40mlの新鮮採血をPBS40mlで希釈した。希釈した血液を、半分の量の密度勾配分離媒体(HISTOPAQUE(登録商標)−1077, Sigma)上にゆっくりと積層させ、10分間750×gで遠心分離した。それから、分離したRBCをチューブの底部から回収し、−80℃で凍結させた。RBCを4℃で15分間、1:5の比で赤血球溶解緩衝液(Qiagen, UK)によって溶解した。タンパク質を−20℃で一晩メタノール中の100mMの酢酸アンモニウムを用いて沈降させることによって抽出し、完全なプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche, Switzerland)を含有するASB14緩衝液(8Mの尿素、2%ASB14、5mMの酢酸マグネシウム、20mMのTris−HCl、1%トリトン−X100(pH8))、及びホスファターゼ阻害剤(1mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのソディウムオルトバナデート、10mMのβ−グリセロホスフェート、及び50mMのフッ化ナトリウム)で再懸濁した。タンパク質濃度を界面活性剤相溶性(detergent-compatible)タンパク質アッセイキット(BioRes)を用いて求めた。非常に多量に存在するタンパク質であるヘモグロビンは、ZOOM(登録商標)IEF精留器(Invitrogen)を用いてRBCプロテオームから最初に前分画した。これは溶液相等電点フォーカシング(IEF)を用いて等電点(pl)に基づいて、細胞溶解物を再現性よく分画化する単純で便利な方法である。Hbを含有する6.2〜10のplで分画化されたタンパク質は廃棄した。それぞれの個別の患者/対照由来の残りの分画(pl 3〜6.2)をプールし、タンパク質を酢酸アンモニウム析出によって再抽出し、2D−DIGE分析にかけた。
2D−DIGE分析
肝臓サンプルの2D−DIGE分析は、24cm(pH4〜7)のIDG DryStripsを用いて行った。詳細な手順はこれまでに記載されているようなものである(18)。
SELDI−TOF分析を用いたCSFタンパク質プロファイリング及びタンパク質バイオマーカー同定
それぞれのCSFサンプル5μlを、様々なpH条件で異なる化学特性のタンパク質チップに適用した。分離するピークの数及び分離に基づき、強いアニオン交換Q10チップにおいてpH9.0で、最適条件を選択した。簡潔には、振盪器(振動数=600rpm)において10分間室温で、結合緩衝液(100mMのTris−HCl(pH9.0))を用いて2回、アレイスポットを事前に活性化させた。結合緩衝液50μlを、それぞれのスポットに添加した後、CSFサンプル5μlを添加した。タンパク質チップを室温で60分間振盪器においてインキュベートし、それからチップを結合緩衝液で2回、HOで1回洗浄して、空気乾燥させた。その後、0.6μlの50%アセトニトリル中の100%飽和シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)及び0.5%トリフルオロ酢酸でチップを2回連続処理した。チップをCiphergenプロテインチップリーダー(Ciphergenプロテインチップシステムシリーズ4000)を用いて分析した。それぞれのサンプルを2回分析して、別個に発現したタンパク質を同定する際の再現性を確認した。タンパク質/ペプチドの質量スペクトルが、1800任意単位のレーザー強度で平均254個のレーザーショットを用いることによって生成した。データ獲得のための検出サイズ範囲は3〜200kDaであった。レーザーは10kDaで焦点を合わせた。アレイ表面上で捕捉されたそれぞれのタンパク質の質量対荷電比(m/z)は、外部較正標準(Ciphergen Biosystems、USA)に照らし合わせて求められた:ウシインスリン(5733.6Da)、ヒトユビキチン(8564.8Da)、ウシシトクロムc(12230.9Da)、ウシスーパーオキシドジスムターゼ(15591.4Da)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(43240Da)及びBSA(66410Da)。データは、プロテインチップデータ分析ソフトウェアヴァージョン3.0及びCiphergen Expressソフトウェア3.0(Ciphergen Biosystems, USA)で分析した。Ciphergen Expressソフトウェア3.0を用いて全てのスペクトルを蓄積し、定量化した質量ピークを自動検出した。ピークの標識が、0.2%の質量ウィンドウによるセカンドパスピーク選択を用いることによって達成され、推測されたピークが与えられた。ピーク情報の統計分析は、Ciphergen Expressソフトウェア3.0を用いて行われた。
【0235】
タンパク質バイオマーカーの同定のために、CSFタンパク質は、アニオン交換クロマトグラフィ(HyperD F、Ciphergen Biosystems, USA)、その後のSDS−PAGEの組合せによって、プールしたCSFから精製した。SELDIピークに対応すると予測されたバンドをゲルから取り除き、室温で一晩、ゲルバンドをトリプシン(1:50、Promega, UK)でゲル内に消化した。それから、得られたペプチド混合物をLC−ESI−MS/MS(QSTAR、Applied Biosystems, USA)で分析し、マスコットソフトウェア(Matrix Science, London)を用いたデータベース検索でタンパク質を同定した。対象のタンパク質であるゲルバンドを確認するために、抗体捕捉実験を行った。要するに、抗体2μl(0.2mg/ml}をRS100反応チップ表面に結合させた後、製造業者のプロトコルに従って室温で2MのTris−HCl(pH8.0)によってブロッキングした。それから、CSFサンプル5μlを結合した抗体を有するか、又は有しないスポットに直接適用し、1時間インキュベートした。HEPES緩衝液(50mM、pH7.2)10μlで5回の洗浄の後、チップをCiphergenプロテインチップシステムシリーズ4000で分析した。
ウェスタンブロット分析
脳組織のウェスタンブロット分析はこれまでに記載されている(32)。要するに、タンパク質濃度を求めた後、最終濃度が4mg/mlになるまで、サンプルをサンプル緩衝液(Invitrogen)で希釈した。タンパク質30μgをそれぞれのウェルに入れ、陽性対照としてのApoA1標準(Sigma)と平行して、4%〜12%のSDSプレキャストゲル(Invitrogen)で分離した。分離したタンパク質は室温でニトロセルロース膜上に移した。ニトロセルロース膜は、室温で60分間ブロッキング溶液(5%乾燥脱脂粉乳)でインキュベートした後、4℃で一晩、抗ヒトApoA1ポリクローナル抗体(1:1000)(CalBiochem)でインキュベートした。膜を洗浄緩衝液で4回洗浄し、それから室温で1時間ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体(Cell Signalling,1:5000)でインキュベートした。化学発光法による可視化(GE Heathcare)を用いて、シグナルを可視化した。
ELISA
血清サンプルを無作為に選び、全ての生化学的分析が完了するまで、全ての被験体の素性をコード番号で分からなくした。患者及び対照被験体由来のヒトの血清サンプルと平行して、ApoA1標準(Sigma, UK)をリン酸生理食塩水(pH7.4)(PBS, Sigma, UK)で1:1000に希釈した。それから、ApoA1標準及びサンプルをELISA Maxisorbプレート(Nunc(商標), Denmark)に置き、1時間インキュベートした。洗浄緩衝液(PBS中の0.03%Tween20)で洗浄した後、60分間、プレートをPBS中の5%乾燥脱脂粉乳粉末でブロッキングした。ApoA1一次抗体(ウサギ)(CalBiochem, UK、1:1000)100μlを、60分間96ウェルプレートでインキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で4回洗浄した後、それぞれのウェルに抗ウサギ二次抗体(Cell Signalling, UK、1:2000)100μl加えて、60分間インキュベートした。全てのインキュベートは室温で振盪器(600rpm)において行われた。最後に、洗浄緩衝液で4回洗浄した後、基質(TMB One溶液, Promega)100μlをそれぞれのウェルに加えて、室温で10分間インキュベートした。プレートを450nmでプレートリーダー(BIO-RAD,モデル680)によって読み取った。社会科学者向けの統計パッケージ(SPSS/PC+、SPSS, Chicago)を用いてt検定によって、血清サンプルの統計分析を行った。全ての測定は独立した実験で繰り返した。
【0236】
【表9】

[実施例4]
【0237】
ApoA1(アポリポタンパク質A1)及びTTR(トランスサイレチン)タンパク質の変化は、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFで最初に同定された。両方ともCSFにおいて有意にダウンレギュレーションされたことが見出された。
【0238】
本実施例は、血清中のApoA1及びTTRの変化を研究した。このように、両方のタンパク質に関するELISA分析が確立され、27人の統合失調症(初めて発症し、薬剤が未投与)及び48人の健常なボランティアの血清を研究した。両方のタンパク質が、統合失調症の血清で有意に低減したことが見出された(apoA1:約18%、p=0.00039及びTTR:約15%、p=0.0007)。図13を参照されたい。
【0239】
【表10】

【0240】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0241】
【図1A】図1、統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び対照の双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。(A)一組の統合失調症に関して不一致な代表的な双生児由来の血漿サンプルのH NMRスペクトルの一部(灰色は罹患した双生児(co-twin)及び黒色は罹患していない双生児)は、脂質領域における−(CH脂質及びCH脂質の変化を示す。(B)および(C)PLS−DAスコアのプロットは、H NMR血漿スペクトルで求められるように、対照の双生児と、統合失調症に罹患していない双生児及び羅患した双生児との違いを示す。羅患していない双生児は、対照と統合失調症の双生児との間の中間位置を示す。
【図1B】図1、統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び対照の双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。(A)一組の統合失調症に関して不一致な代表的な双生児由来の血漿サンプルのH NMRスペクトルの一部(灰色は罹患した双生児(co-twin)及び黒色は罹患していない双生児)は、脂質領域における−(CH脂質及びCH脂質の変化を示す。(B)および(C)PLS−DAスコアのプロットは、H NMR血漿スペクトルで求められるように、対照の双生児と、統合失調症に罹患していない双生児及び羅患した双生児との違いを示す。羅患していない双生児は、対照と統合失調症の双生児との間の中間位置を示す。
【図1C】図1、統合失調症に関して不一致な一卵性双生児及び対照の双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。(A)一組の統合失調症に関して不一致な代表的な双生児由来の血漿サンプルのH NMRスペクトルの一部(灰色は罹患した双生児(co-twin)及び黒色は罹患していない双生児)は、脂質領域における−(CH脂質及びCH脂質の変化を示す。(B)および(C)PLS−DAスコアのプロットは、H NMR血漿スペクトルで求められるように、対照の双生児と、統合失調症に罹患していない双生児及び羅患した双生児との違いを示す。羅患していない双生児は、対照と統合失調症の双生児との間の中間位置を示す。
【図2A】図2、統合失調症に関して不一致な女性の双生児及び女性の対照双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。女性の一卵性双生児のPLS−DAスコアのプロット(図2A)は、H NMR血漿スペクトルで求められるように、対照双生児と、罹患していない双生児と、統合性失調症の双生児との明らかな違いを示す。ローディングプロットは、LDL(0.86及び1.26)、VLDL(0.9及び1.3)並びに芳香族領域(〜7.5)が、分離に寄与する鍵となる化学シフトであることを示す。図1Cと図2Bは高度の類似性がある。
【図2B】図2、統合失調症に関して不一致な女性の双生児及び女性の対照双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。女性の一卵性双生児のPLS−DAスコアのプロット(図2A)は、H NMR血漿スペクトルで求められるように、対照双生児と、罹患していない双生児と、統合性失調症の双生児との明らかな違いを示す。ローディングプロットは、LDL(0.86及び1.26)、VLDL(0.9及び1.3)並びに芳香族領域(約7.5)が、分離に寄与する鍵となる化学シフトであることを示す。図1Cと図2Bは高度の類似性がある。
【図3】図3、グローバル機能スコア(DSM IV、V軸)と2つの鍵となる化学シフト(A 1.24〜1.28ppm、B 1.28〜1.32ppm)との間の逆相関が主に、女性の双生児の血漿におけるLDL及びVLDLレベルに対応する。Rはそれぞれのプロットで示される。
【図4A】図4、統合失調症である男性の不一致な双生児及び統合失調症ではない男性の不一致な双生児並びに男性の対照双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。PLS−DAスコアのプロットは、(A)男性の対照双生児と罹患していない男性の双生児との間の違いを示していないが、統合失調症の双生児は、男性の対照双生児及び男性の不一致な双生児との中程度の違いを示す。グルコースレベル(3.2〜3.9ppm)並びに芳香族領域(約7.9ppm)及び1.04〜1.06〜1.12ppm領域由来のシグナルが、ローディングプロットで示されるような分離に関する主要な寄与因子であることが見出された(B)。
【図4B】図4、統合失調症である男性の不一致な双生児及び統合失調症ではない男性の不一致な双生児並びに男性の対照双生児由来の血漿サンプルの代謝分析。PLS−DAスコアのプロットは、(A)男性の対照双生児と罹患していない男性の双生児との間の違いを示していないが、統合失調症の双生児は、男性の対照双生児及び男性の不一致な双生児との中程度の違いを示す。グルコースレベル(3.2〜3.9ppm)並びに芳香族領域(約7.9ppm)及び1.04〜1.06〜1.12ppm領域由来のシグナルが、ローディングプロットで示されるような分離に関する主要な寄与因子であることが見出された(B)。
【図5A】図5、SELDI質量分析法を用いて、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFサンプルのタンパク質/ペプチドプロファイリング。A:アニオン交換チップ(Q10、50mMのTris−HCl(pH9.0))を用いた典型的なCSFタンパク質/ペプチドスペクトルは、健常なボランティアではm/z範囲は約10000〜15000を示す。B: SELDIスペクトル由来のタンパク質/ペプチドのピーク強度をPCA及びPLS−DAモデルを用いて分析した。3D PLS−DAスコアのプロットは、健常なボランティア(黒色)及び治療していない薬剤が未投与の統合失調症の患者(灰色)のクラスターを示す。C:及びD PLS−DAスコア及びローディングプロット。このスコアのプロットは(B)と類似しているが、最初の2つの成分を用いて、健常な対照と患者とを区別した。(D)で示されたローディングプロットは、(C)における分離に最も寄与している鍵となるタンパク質/ペプチドピークを示す。
【図5B】図5、SELDI質量分析法を用いて、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFサンプルのタンパク質/ペプチドプロファイリング。A:アニオン交換チップ(Q10、50mMのTris−HCl(pH9.0))を用いた典型的なCSFタンパク質/ペプチドスペクトルは、健常なボランティアではm/z範囲は約10000〜15000を示す。B: SELDIスペクトル由来のタンパク質/ペプチドのピーク強度をPCA及びPLS−DAモデルを用いて分析した。3D PLS−DAスコアのプロットは、健常なボランティア(黒色)及び治療していない薬剤が未投与の統合失調症の患者(灰色)のクラスターを示す。C:及びD PLS−DAスコア及びローディングプロット。このスコアのプロットは(B)と類似しているが、最初の2つの成分を用いて、健常な対照と患者とを区別した。(D)で示されたローディングプロットは、(C)における分離に最も寄与している鍵となるタンパク質/ペプチドピークを示す。
【図5C】図5、SELDI質量分析法を用いて、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFサンプルのタンパク質/ペプチドプロファイリング。A:アニオン交換チップ(Q10、50mMのTris−HCl(pH9.0))を用いた典型的なCSFタンパク質/ペプチドスペクトルは、健常なボランティアではm/z範囲は約10000〜15000を示す。B: SELDIスペクトル由来のタンパク質/ペプチドのピーク強度をPCA及びPLS−DAモデルを用いて分析した。3D PLS−DAスコアのプロットは、健常なボランティア(黒色)及び治療していない薬剤が未投与の統合失調症の患者(灰色)のクラスターを示す。C:及びD PLS−DAスコア及びローディングプロット。このスコアのプロットは(B)と類似しているが、最初の2つの成分を用いて、健常な対照と患者とを区別した。(D)で示されたローディングプロットは、(C)における分離に最も寄与している鍵となるタンパク質/ペプチドピークを示す。
【図5D】図5、SELDI質量分析法を用いて、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFサンプルのタンパク質/ペプチドプロファイリング。A:アニオン交換チップ(Q10、50mMのTris−HCl(pH9.0))を用いた典型的なCSFタンパク質/ペプチドスペクトルは、健常なボランティアではm/z範囲は約10000〜15000を示す。B: SELDIスペクトル由来のタンパク質/ペプチドのピーク強度をPCA及びPLS−DAモデルを用いて分析した。3D PLS−DAスコアのプロットは、健常なボランティア(黒色)及び治療していない薬剤が未投与の統合失調症の患者(灰色)のクラスターを示す。C:及びD PLS−DAスコア及びローディングプロット。このスコアのプロットは(B)と類似しているが、最初の2つの成分を用いて、健常な対照と患者とを区別した。(D)で示されたローディングプロットは、(C)における分離に最も寄与している鍵となるタンパク質/ペプチドピークを示す。
【図6A】図6、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおけるトランスサイレチンの3つの異なる形態のダウンレギュレーションを示す図である。6〜17kDa内の健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFスペクトルの例を(A)に示す。矢印で示されたピーククラスターを(B)で拡大している。それぞれのサブピークの統計的な詳細は以下の表に列挙される。室温におけるβ−メルカプトエタノールによるCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741Da、13875Da、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元したことを示し(C)、これらのピークは同じタンパク質の異なるS−システイン化誘導体であることを示唆する。同一性を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFサンプルを、アニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドはpH3分画で約14〜15kDaで溶離した(D、左側のパネル)。LC−MS/MSを用いてトランスサイレチンとしてバンドを同定し(D、右側のパネル)、配列のカバー率(sequence coverage)が示される。さらに、バンドからタンパク質を溶離し、NP20チップ上を走らせ、質量に適合させることによって、このバンドがスペクトルにおける約13.5〜14kDaのピーククラスターであることが確認された(E)。
【図6B】図6、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおけるトランスサイレチンの3つの異なる形態のダウンレギュレーションを示す図である。6〜17kDa内の健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFスペクトルの例を(A)に示す。矢印で示されたピーククラスターを(B)で拡大している。それぞれのサブピークの統計的な詳細は以下の表に列挙される。室温におけるβ−メルカプトエタノールによるCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741Da、13875Da、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元したことを示し(C)、これらのピークは同じタンパク質の異なるS−システイン化誘導体であることを示唆する。同一性を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFサンプルを、アニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドはpH3分画で約14〜15kDaで溶離した(D、左側のパネル)。LC−MS/MSを用いてトランスサイレチンとしてバンドを同定し(D、右側のパネル)、配列のカバー率(sequence coverage)が示される。さらに、バンドからタンパク質を溶離し、NP20チップ上を走らせ、質量に適合させることによって、このバンドがスペクトルにおける約13.5〜14kDaのピーククラスターであることが確認された(E)。
【図6C】図6、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおけるトランスサイレチンの3つの異なる形態のダウンレギュレーションを示す図である。6〜17kDa内の健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFスペクトルの例を(A)に示す。矢印で示されたピーククラスターを(B)で拡大している。それぞれのサブピークの統計的な詳細は以下の表に列挙される。室温におけるβ−メルカプトエタノールによるCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741Da、13875Da、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元したことを示し(C)、これらのピークは同じタンパク質の異なるS−システイン化誘導体であることを示唆する。同一性を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFサンプルを、アニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドはpH3分画で約14〜15kDaで溶離した(D、左側のパネル)。LC−MS/MSを用いてトランスサイレチンとしてバンドを同定し(D、右側のパネル)、配列のカバー率(sequence coverage)が示される。さらに、バンドからタンパク質を溶離し、NP20チップ上を走らせ、質量に適合させることによって、このバンドがスペクトルにおける約13.5〜14kDaのピーククラスターであることが確認された(E)。
【図6D】図6、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおけるトランスサイレチンの3つの異なる形態のダウンレギュレーションを示す図である。6〜17kDa内の健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFスペクトルの例を(A)に示す。矢印で示されたピーククラスターを(B)で拡大している。それぞれのサブピークの統計的な詳細は以下の表に列挙される。室温におけるβ−メルカプトエタノールによるCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741Da、13875Da、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元したことを示し(C)、これらのピークは同じタンパク質の異なるS−システイン化誘導体であることを示唆する。同一性を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFサンプルを、アニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドはpH3分画で約14〜15kDaで溶離した(D、左側のパネル)。LC−MS/MSを用いてトランスサイレチンとしてバンドを同定し(D、右側のパネル)、配列のカバー率(sequence coverage)が示される。さらに、バンドからタンパク質を溶離し、NP20チップ上を走らせ、質量に適合させることによって、このバンドがスペクトルにおける約13.5〜14kDaのピーククラスターであることが確認された(E)。
【図6E】図6、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来のCSFにおけるトランスサイレチンの3つの異なる形態のダウンレギュレーションを示す図である。6〜17kDa内の健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFスペクトルの例を(A)に示す。矢印で示されたピーククラスターを(B)で拡大している。それぞれのサブピークの統計的な詳細は以下の表に列挙される。室温におけるβ−メルカプトエタノールによるCSFペプチド/タンパク質のオンチップ還元は、13741Da、13875Da、及び13923Daの3つのピークが1つのピークに還元したことを示し(C)、これらのピークは同じタンパク質の異なるS−システイン化誘導体であることを示唆する。同一性を同定するために、健常なボランティア及び統合失調症の患者由来のCSFサンプルを、アニオン交換カラム(HyperD)に適用し、pH9〜pH3の緩衝液で溶離した。主要なバンドはpH3分画で約14〜15kDaで溶離した(D、左側のパネル)。LC−MS/MSを用いてトランスサイレチンとしてバンドを同定し(D、右側のパネル)、配列のカバー率(sequence coverage)が示される。さらに、バンドからタンパク質を溶離し、NP20チップ上を走らせ、質量に適合させることによって、このバンドがスペクトルにおける約13.5〜14kDaのピーククラスターであることが確認された(E)。
【図7】図7、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者の血清及び統合失調症患者由来の前頭前野の死後組織におけるトランスサイレチンレベル。CSFタンパク質プロファイルを図5及び図8で測定した同じ患者由来の血清サンプルがこの研究に含まれていた。図7Aは、統合失調症患者における血清トランスサイレチンのレベルが、対照の被験体に比べて約15%有意に減少したことを示す。データは、平均±S.D.p=0.007(t検定)で示される。図7Bは、血清トランスサイレチンと、2組目のサンプルにおける1つのトランスサイレチンアイソフォーム(m/z=13741)由来のCSF SELDIシグナルとの間に相関関係がないことを示す(人口統計に関しては表5を参照のこと)。CSFにおける他のアイソフォーム由来のシグナルと比較すると、同様の結果が見出された(データ図示せず)。図7Cは、5人の統合失調症患者及び5人の対照被験体の前頭前野におけるトランスサイレチン発現の約40%の減少を示す。人口統計の詳細に関しては、表6を参照されたい。
【図8】図8、18人の初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者及び40人の健常なボランティアを含む独立した検証サンプル組からのCSFタンパク質/ペプチドプロファイルのPLS−DA分析。このサンプル組の人口統計の詳細は表5に列挙される。PLS−DAスコアのプロットは、患者(黒色)と健常なボランティア(灰色)との間の分離を示していた。ローディングプロットは、最初の実験で見出された13600〜14000の間のトランスサイレチンタンパク質シグナルを示す(図5を参照のこと)。
【図9】図9、初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者におけるCSF ApoA1レベルのダウンレギュレーション。A:強いアニオン交換(Q10)プロテインチップアレイを用いて、CSFタンパク質及びペプチドをプロファイリングした。代表的なCSF SELDIスペクトルは、質量対電荷比が4000m/z〜70000m/zのタンパク質/ペプチドのプロファイルを示す。B:14個の代表的なスペクトルのゲル図は、対照に比べて、統合失調症サンプルにおいてapoA1タンパク質(約28kDa)が低減する(約35%、p=0.00001)ことを示す。隣接ヒストグラムは、ApoA1レベルの平均±SDを示す(初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者由来の41個のCSFサンプルを40個の適合した対照サンプルと比較した)。C:約28kDaのピークをゲル精製し(矢印)、切り出したタンパク質をLC−MS/MSを用いてシークエンシングした(右側のパネル)。太字で示される配列のカバー率は、公開されたApoA1アミノ酸配列の一部に対応する。D:このバンドは、抗ApoA1抗体オンチップ(RS−100 プロテインチップ)により、CSFサンプルにおけるタンパク質を免疫捕捉することによって、スペクトルにおいて約28kDaのピーククラスターであることが確認された。CSFサンプルを、抗ApoA1抗体と結合するか(下方のパネル)、又は結合しない(上方のパネル)RS−100チップに適用した。チップと結合したタンパク質をSELDI−TOFで分析した。捕捉したApoA1タンパク質は28kDaのm/zで示される。E:ウェスタンブロット分析は、8人の統合失調症患者及び8人の健常なボランティアの前頭前野におけるApoA1発現を示す。ダウンレギュレーションに対する傾向が観察された(約32%、p=0.07、t検定)。タンパク質ローディングはブロットの下に示される。
【図10】図10、統合失調症患者(n=15)及び対照(n=15)由来の肝臓の2−D DIGE分析。A:肝臓タンパク質抽出物の典型的な2Dゲル画像。ApoA1タンパク質(対応するスポットは矢印で示される)は、有意に変化したタンパク質のうちの1つであった。B:ApoA1レベルが、統合失調症患者由来の肝臓で有意に低減したことが見出された(約30%、p=0.017)。ヒストグラムは、相対的に標準化された存在量の平均±SDを示す。C:ゲルスポット由来のトリプシン化ペプチドのLC−MS/MS分析は、3つのペプチド断片がapoA1タンパク質に由来することを示していた。マスコットのスコア及び配列カバー率は表に示される。
【図11】図11、ApoA1タンパク質の発現の低下を示す、統合失調症患者(n=20)及び対照(n=20)由来の赤血球(RBC)の2−D DIGE分析。A:ヘモグロビンタンパク質の優性発現を示す(pI約7)未分画RBCプロテオームの典型的な2Dゲル画像。B:Ficoll密度勾配によって優性タンパク質(即ちヘモグロビン)を取り除いた後の典型的な2Dゲル画像。矢印及びスポットは、ゲル上のapoA1スポットの位置を示す。C:ApoA1レベルが統合失調症患者由来のRBCで有意に低減したことが見出された(約60%、p=0.0034)。ヒストグラムは相対的に標準化された存在量の平均±SDを示す。D:ゲルスポットからのトリプシン化ペプチドのLC−MS/MS分析は、8つのペプチド断片がApoA1タンパク質に由来することを明らかにした。マスコットのスコア及び配列カバー率は表に示される。
【図12】図12、統合失調症における血清ApoA1レベルのダウンレギュレーション。A:初めて発症し、薬剤が未投与の統合失調症患者(n=35)及び健常なボランティア(n=65)の血清におけるapoA1レベルのELISA分析を示す。統合失調症患者及び対照におけるapoA1濃度の平均値±S.D.が示される。p=0.00039(t検定)。B:CSFの相関分析及び同じ個体由来の血清のApoA1レベル。対照群又は患者群のいずれにおいても血清とCSFとの間に全く相関は見出されなかった。
【図13】図13、約89%の高感受性及び約73%の高い特異性が、PCA分析で2つのバイオマーカーを組合せることで達成することができることを示す。
【図14】図14、約89%の高感受性及び約73%の高い特異性が、PCA分析で2つのバイオマーカーを組合せることで達成することができることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
(a)前記被験体由来のサンプルを準備すること、
(b)1つ又は複数のスペクトルを得るために前記サンプルに対してスペクトル分析を実施すること、及び
(c)前記1つ又は複数のスペクトルを、1つ又は複数の対照スペクトルと比較することを含む、被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法。
【請求項2】
前記スペクトル分析は、NMR分光法により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スペクトル分析は、H NMR分光法により実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ又は複数の対照スペクトルは、正常対照スペクトルを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ又は複数の対照スペクトルは、精神病性障害対照スペクトルを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記比較することは、正常なプロファイル、精神病性障害プロファイル、又は精神病性障害素因プロファイルを有するとしてサンプルのスペクトルを分類することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記比較することは、1つ又は複数の計量化学分析を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記比較することは、パターン認識分析を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記パターン認識分析は、1つ又は複数の監視方法及び/又は非監視方法により実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ又は複数の非監視方法は、主成分分析(PCA)、非線形写像(NLM)及びクラスタリング法から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数の監視方法は、SIMCA法(soft independent modelling of class analogy)、部分最小二乗(PLS)法、k最近隣分析及びニューラルネットワークから選択される、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
スペクトル分析を行い、2回以上被験体から採取したサンプルからスペクトルを提供することを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
2回以上前記被験体から採取したサンプル由来のスペクトルを比較することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記比較することは、前記スペクトルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーにおける変動を評価することを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
(a)前記被験体由来のサンプルを準備すること、
(b)1つ又は複数のスペクトルを得るために前記サンプルに対してスペクトル分析を実施すること、
(c)前記1つ又は複数のスペクトルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを検出するために前記1つ又は複数のスペクトルを分析すること、及び
(d)前記1つ又は複数のスペクトルで検出される前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、対照のスペクトルで検出される前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルと比較することを含む、被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法。
【請求項16】
2回以上前記被験体から採取したサンプルからスペクトルを分析して該サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーを定量すること、及び該サンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを比較することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
2回以上前記被験体から採取したサンプルにおける前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルの変化を検出することをさらに含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ又は複数のバイオマーカーは、配列番号1を含むトランスサイレチンペプチド又はその断片、配列番号2を含むApoA1ペプチド又はその断片、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
精神病性障害又はその素因を診断又はモニタリングする方法であって、被験体から採取したサンプルに存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを測定することを含み、前記バイオマーカーは、配列番号1を含むトランスサイレチンペプチド又はその断片、配列番号2を含むApoA1ペプチド又はその断片、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される、精神病性障害又はその素因を診断又はモニタリングする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法を含み、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に罹りやすい被験体における治療の有効性をモニタリングする方法。
【請求項21】
2回以上前記被験体から採取したサンプルに存在する前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを測定することを含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
2回以上前記被験体から採取したサンプルに存在する前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを比較することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被験体から採取したサンプルにおける前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、治療の開始前に該被験体から採取した1つ又は複数のサンプル、及び/又は治療の初期段階において該被験体から採取した1つ又は複数のサンプルに存在するレベルと比較することを含む、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
2回以上採取したサンプルにおける前記1つ又は複数のバイオマーカーの量の変化を検出することを含む、請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記治療は抗精神病性障害治療である、請求項19〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
サンプルに存在する前記1つ又は複数のバイオマーカーの量を1つ又は複数の対照のレベルと比較することを含む、請求項19〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記対照は正常な対照及び/又は精神病性障害対照である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、NMRスペクトルの分析によって検出される、請求項14〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、NMR、SELDI(−TOF)、MALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、質量分析法(MS)及びLC−MSベース技法から選択される1つ又は複数の方法によって検出される、請求項14〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、直接又は間接、連結又は非連結の酵素法、電気化学法、分光光度法、蛍光法、発光法、分光法、旋光法及びクロマトグラフィ法、又はELISA等の免疫学的方法から選択される1つ又は複数の方法によって検出される、請求項14〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記バイオマーカーは、VLDL及び/又はLDLであり、該バイオマーカーのレベルは、液相化学法、リポタンパク質の分離のための物理的方法及び酵素アッセイから選択される1つ又は複数の方法によって検出される、請求項14〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
血漿タンパク質のレベルは、紫外吸光度法及び比色分析法から選択される1つ又は複数の方法によって検出される、請求項14〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、該バイオマーカーの直接又は間接的検出のための1つ又は複数の酵素、結合、受容体若しくは輸送タンパク質、抗体、合成受容体又は他の選択的結合分子を含むセンサー或いはバイオセンサーを用いて検出され、前記検出は、電気変換器、光変換器、音響変換器、磁気変換器又は熱変換器に連結される、請求項14〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記サンプルは、全血、血清、血漿、又はそれらの抽出物若しくは精製物、又はそれらの希釈物から選択される、請求項1〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記被験体から採取したさらなるサンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーを定量することを含む、請求項1〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記さらなる生物学的サンプルは、CSF、尿、唾液、又は他の体液、又は呼気、濃縮呼気、又はそれらの抽出物若しくは精製物、或いはそれらの希釈物から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記被験体は薬剤が未投与である、請求項1〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記精神病性障害は統合失調症である、請求項1〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記統合失調症は、偏執型統合失調症、強硬型統合失調症、解体型統合失調症、未分化型統合失調症、及び残遺型統合失調症から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記精神病性障害は双極性障害である、請求項1〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記被験体の臨床的評価又は自己評価をさらに含む、請求項1〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記臨床的評価はSCID又はグローバル機能スコア評価(global functioning score assessment)である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記評価は、前記被験体由来の前記サンプルの採取時の前後で為される、請求項41又は請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記被験体は女性の被験体である、請求項1〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に罹りやすい被験体において治療物質の有効性をモニタリングする方法であって、請求項1〜36のいずれか1項に記載の方法の工程を含む方法。
【請求項46】
抗精神病物質を同定する方法であって、請求項1〜36のいずれか1項に記載の方法の工程を含む、方法。
【請求項47】
精神病促進物質を同定する方法であって、請求項1〜36のいずれか1項に記載の方法の工程を含む、方法。
【請求項48】
前記被験体から採取したサンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、前記物質の投与前に該被験体から採取した1つ又は複数のサンプル、及び/又は該物質による治療の初期段階で該被験体から採取した1つ又は複数のサンプルに存在する該バイオマーカーのレベルと比較することを含む、請求項45〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
配列番号1を含むトランスサイレチンペプチド又はその断片、配列番号2を含むApoA1ペプチド又はその断片、VLDL、LDL及び血漿タンパク質等の芳香族種から選択される1つ又は複数のバイオマーカーを定量することができる精神病性障害センサー。
【請求項50】
前記1つ又は複数のバイオマーカーは、直接、間接又は連結した酵素法、分光光度法、蛍光法、発光法、分光法、旋光法及びクロマトグラフィ法から選択される1つ又は複数の方法によって定量することができる、請求項49に記載のセンサー。
【請求項51】
酵素、結合、受容体若しくは輸送タンパク質、抗体若しくはその断片、合成受容体、又は前記1つ又は複数のバイオマーカーの直接若しくは間接的な検出のための他の選択的結合分子を該バイオマーカーの直接若しくは間接的な検出のための他の選択的結合分子から選択される成分を含み、該成分は、電気変換器、光変換器、音響変換器、磁気変換器又は熱変換器に連結される、請求項49又は50に記載のセンサー。
【請求項52】
請求項49に記載される1つ又は複数のバイオマーカーを検出することができるアレイ又は多重検体パネル。
【請求項53】
精神病性障害を診断及び/又はモニタリングするための請求項49に記載の1つ又は複数のバイオマーカーの使用。
【請求項54】
精神病性障害を調節することができる物質を同定する方法であって、被験体に試験物質を投与すること、及び該被験体から採取したサンプルにおいて、請求項49に記載される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを検出することを含む、方法。
【請求項55】
前記サンプルは、全血、血清、血漿、又はそれらの抽出物若しくは精製物、又はそれらの希釈物から成る群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
請求項49に記載されるペプチドバイオマーカーと特異的に結合することができるリガンド。
【請求項57】
ペプチド又はオプトマーを含む、請求項56に記載のリガンド。
【請求項58】
抗体である、請求項56に記載のリガンド。
【請求項59】
前記抗体はモノクローナル抗体である、請求項58に記載のリガンド。
【請求項60】
本明細書に列挙されるリガンドではない、請求項56に記載のリガンド。
【請求項61】
直接又は間接的に検出可能なマーカーで標識される、請求項56〜60のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項62】
前記検出可能なマーカーは、発光マーカー、蛍光マーカー、酵素マーカー又は放射性マーカーである、請求項61に記載のリガンド。
【請求項63】
アフィニティタグで標識される、請求項56〜62のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項64】
請求項56〜63のいずれか1項に記載のリガンドを含むセンサー。
【請求項65】
請求項56〜63のいずれか1項に記載のリガンドを含むアレイ。
【請求項66】
請求項49に記載されるペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる物質を同定する方法であって、被験動物に試験物質を投与すること、及び該被験動物に存在する該ペプチドバイオマーカーを検出及び/又は定量することを含む方法。
【請求項67】
請求項49に記載されるトランスサイレチンペプチドバイオマーカーの生成を刺激、促進、又は活性化することができる物質を同定する方法であって、試験細胞を試験物質に曝すこと、及び該試験細胞内の又は該試験細胞によって分泌される該ペプチドのレベルをモニタリングすることを含む、方法。
【請求項68】
前記試験細胞は真核細胞である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記真核細胞は酵母細胞、昆虫細胞、ショウジョウバエ細胞、両生類細胞(例えば、アフリカツメガエル細胞)又はシノラブディス・エレガンス(C. elegans)細胞であるか、或いはヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サカナ、齧歯類、又はネズミの細胞である、請求項67又は68に記載の方法。
【請求項70】
前記動物又は前記細胞は、前記ペプチドを発現することができるように操作した(engineered)非ヒト動物又は細胞である、請求項67〜69のいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
請求項49に記載されるペプチドバイオマーカーと結合することができるリガンドを同定する方法であって、結合に適切な条件で該ペプチドの存在下において試験物質をインキュベートすること、及び該ペプチドの該試験物質との結合を検出及び/又は定量することを含む、方法。
【請求項72】
請求項49に記載されるペプチドバイオマーカーと特異的に結合することができるリガンドを同定する方法であって、該ペプチドの存在下において試験物質をインキュベートすること、及び該ペプチドの該試験物質との特異的な結合を検出及び/又は定量することを含む、方法。
【請求項73】
精神病性障害又はその素因の処置における、請求項56〜63及び66〜72のいずれか1項に記載の物質又はリガンドの使用。
【請求項74】
精神病性障害又はその素因の処置のための医薬製造における、請求項56〜63及び66〜72のいずれか1項に記載の物質又はリガンドの使用。
【請求項75】
バイオマーカーが用いられ、前記ペプチドバイオマーカーの組合せである、請求項1〜74のいずれか1項に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−516156(P2009−516156A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536117(P2008−536117)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003870
【国際公開番号】WO2007/045865
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(500341551)ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド (8)
【Fターム(参考)】