精神症状・心理状態評価装置および評価方法
【課題】能面の刺激画像の有する特徴を生かして、上述した諸症を個々に判別するばかりでなく、諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸症の罹患を確率高く判定することのできる精神症状・心理状態評価装置および評価方法を提供する。
【解決手段】各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを周収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを書く特定症状毎に生成する。
【解決手段】各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを周収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを書く特定症状毎に生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精神症状・心理状態評価装置および該評価装置を用いた精神症状・心理状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症患者を対象とした表情認知の研究は、1970年代から盛んに行われるようになってきた。それらの研究は、統合失調症患者は全般的な認知の障害を持つとするもの、全般的に感情認知の衰えがあるとするもの、ネガティブな感情認知においてのみ衰えているとするもの、特別な感情に衰えがあるとするものなどさまざまであり、さらに、統合失調症の病型により表情認知が異なるとするもの、感情認知の障害はないとする研究も存在する。つまり、統合失調症患者は相手の表情にある全ての感情を認知できないという説と、一部特定の感情に限って認知できないという説に、そもそも感情認知が障害されていないという説が加わり、いまだ論争が続いている。
【0003】
Brodらは、統合失調症患者の陰性症状は右大脳半球障害と関連しているという。また統合失調症患者では感情の鈍麻とともに、表情認知が悪くなるという仮説は証明されず、つまり感情鈍麻と感情認知との間に関係はないことが示唆された。
【0004】
このように統合失調症患者の表情認知障害の研究は全般的な感情の認知障害であるのかどうかという論争に加えて、症状にも焦点をあてた研究も行われてきており、より実地に即した研究も行われつつある。現在では、様々な議論の結果、統合失調症患者は、曖昧な表情認知において障害されるという一致した結論にほぼまとまりつつある。
【0005】
本願発明者等は、非特許文献1に「表情認知の精神病理学的研究」を発表した。この発表内容の一部にIII.能面を用いた表情認知の研究として次の記載を行った。
「ここで、筆者らが開発している能面を用いた表情認知の研究を紹介する。能面を用いた先行研究の増山,Osaka,鈴木らのイメージ研究を踏まえ、次の研究を行っている。
【0006】
この実験では、被験者にコンピューター上の能面刺激画像について筆者らが独自に絞った12の質問項目(1.彼女は驚いている、2.彼女は悲しんでいる、3.彼女は希望をもっている、4.彼女ははにかんでいる、5.彼女は私を呪っている、6.彼女はぼーっとしている、7.彼女は楽しんでいる、8.彼女は私に興味がある、9.彼女は誇りがある、10.彼女は落ち込んでいる。11.彼女は恍惚としている、12.彼女は私を不気味だと思っている)ごとに評定させた。
【0007】
使用した能面画像は、下向き50度から上向き48度の範囲の、15枚(down50,down40,down30,down20,down10,down6,down2,front,up2,up6,up10,up20,up30,up40,up48)であった。実験は項目が先に呈示され、その後に注視点,能面刺激画像と続き、被験者が「はい」か「いいえ」を答えるまで能面は呈示され続ける。
【0008】
実験対象者は健常男性15名,統合失調症群15名とした。
得られたデータを、多次元尺度構成法(MDS)を用いて解析した。この手法は、感情研究の刺激画像を配置するためによく用いられており、Schlosbergの感情円環モデルでもこの手法を用いている。結果のマッピングは、「快−不快」「注意−拒否」の二次元を図示した(図1)。」
なお、上述の図1について本願においては図23として最後の図として表示してある。また、上述の記述の一部を変更している。
【0009】
続いて、上記論文を訂正した特許文献1には、「マッピングから、たとえば、下50度の能面に対して健常者は、おおむね快であり、拒否していると評価するのに対して、統合失調症患者は、おおむね、不快で拒否していると評価していることが分る。健常者はSchlosbergの感情円環構造と同様に能面に対する評価が、「快−不快」「注意−拒否」の二次元上でほぼ円環をなしている。一方、統合失調症患者は、「不快」の方向の欠けた半円の構造となっている。つまり、統合失調症患者は能面が悪意を持っているという認知をすることがなく、かえって好意を持っていると認知する。そのため統合失調症患者は他者の悪意に気づくことが遅れがちであり、騙されてしまう可能性が推測された。」と記載している。
【0010】
特許文献1には、被験者に対して視覚的な刺激を提示する刺激表示手段と、刺激表示手段に対する被験者の視点を特定するための視点特定手段と、刺激表示手段及び視点特定手段の計測結果から反応的探索スコアを算出する反応的検索スコア算出手段と、刺激表示手段及び視点特定手段の計測結果から運動数を計測する運動数計測手段と、反応的探索スコア算出手段で得られた反応的探索スコア及び運動数計測手段で得られた運動数から被験者が統合失調症に罹患しているか否かを判定する手段とを有している統合失調症診断装置が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2004−298526号公報
【非特許文献1】脳の科学 2000年2月号(株)星知書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
精神科診察や精神鑑定において、脳器質性障害,統合失調症,うつ病,人格障害,アルコール依存者,薬物中毒,PTSD,カウンセリングで治療可能なうつ傾向のある健常者の診断,診察や査定,カウンセリングが行われる。
【0013】
本願発明者等は、上述のように能面の刺激画像を用いて精神病に罹患しているかどうかを効果的に判定できることを見い出した。また、本願発明者は上述した診断,診察や査定,カウンセリングに長年携って来ているが、その際に脳器質性障害あるいは統合失調症を個々に判定するばかりでなく、上述した諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸症の罹患を判定する手法の必要性を痛感してきた。特に、多数の患者について脳器質性障害,統合失調症、うつ傾向者(うつ病を含む)、およびうつ状態の程度を迅速かつ正確に判定することは重要である。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑み能面の刺激画像の有する特徴を生かして、上述した諸障害を個々に判定するばかりでなく、諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸障害の罹患を確率高く判別することのできる精神症状・心理状態評価装置および評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置において、
前記データベースは、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段は、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成する精神症状・心理状態評価装置およびこれを使用した精神症状・心理状態評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、能面の刺激画像の有する特徴を生かして、上述した諸症を個々に判定するばかりでなく、諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸症の罹患を確率高く判定することのできる精神症状・心理状態評価装置および評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
能面とは、日本の伝統芸能として知られる能に用いられる仮面であり、能舞台ではシテと呼ばれる主役のダンサーのみがかぶる。
【0018】
能面は、人の顔の要素を複合し統一した典型面であり、人々の様々な感情を集約した豊かな感情を持っているといわれる。角度変化によって表情が変化する仮面は、世界の中でも能面以外にもバリ島の仮面などが存在する。能面の中でも女面のみが角度変化により、(上を向くと「テラス」、下を向くと「クモラス」といい、)様々な表情に変化するように創られているという利点がある。女面の中でも10代の若い女性をかたどった実験に用いた小面が最も表情変化すると言われている。ただし、能面と人間の表情認知のメカニズムは、両者ともに分かっておらず、単純に同じものとみなすことは難しいかもしれない。
【0019】
また、能面は、上を向くと口はへの字型となり、不快な表情であるのに、眉と目は垂れ下がり、快の表情をなし、下を向くと口は快、眉と目はつり上がり不快の表情となるように互いに矛盾する感情を表出するように創作されているという。そのため被験者は、人の顔や線描画と比較して相矛盾する顔部位を統合しながらより高度の判断をしなければならない可能性がある。しかしながら、発明者等の先行研究(Minoshita et al.,1996)で得られた、健常者を被験者とした能面を刺激とした表情認知の因子分析結果と先行研究における人間の顔写真を刺激とした表情認知の因子分析結果でほとんど同じ因子が抽出された。
【0020】
本願発明者等は、10年にわたって、精神障害者の表情認知特性を計測する有効なツール作りに取り組み、能面を用いた表情認知テストを作成することが出来た。その成果は、人間工学(Vol.33,No.2,79-86,1997)、Psychiatry and Clinical Neurosciences(Vol.53, No.1, Feb, 1999)に掲載された。以下に概略を示す。本願発明者等は、多田富雄東大名誉教授が所蔵する大正時代の小面を借り受ける幸運を得ることができた。その小面は、筑波大学内の照明設備が完備されたフォトスタジオでプロカメラマンが設定した最も小面の表情が生き生きと変化するライティング状況の下、能面回転装置に取り付けられて角度を1度ずつ測定しながら撮影した。能面テスト作成方法は別稿を参照されたい(人間工学Vol.33,No.2,79-86,1997)。そして、健常者の反応特性を因子分析を用いて解析し、能面テストの特徴を探り、テストに用いる感情項目を抽出することにより能面テストの手法を洗練させた(Psychiatry and Clinical Neurosciences(Vol.53, No.1, Feb, 1999))。
【0021】
その後、YG性格テストとの比較検討、怒り行動尺度との比較検討、自己感情と表情認知の関係を探る研究をそれぞれ行ってきた(社会精神医学会(簑下成子、森田展彰、佐藤親次、浅井義弘、統合失調症患者における表情認知と社会適応度の関係−能面テスト(Noh Mask Test)を用いて− 社会精神医学雑誌 12(3)253-261,2004.( Minoshita S, Morita N, Satoh S, Asai Y. Relationships between facial expression recognition and social adjustment in schizophrenia. -The Noh mask Test as a social skill assessment- Japanese Bulletin of Social Psychiatry 12(3)253-261,2004.)、顔学会(簑下成子,山下利之,森田展彰,佐藤親次、傾き変化の動きを伴う能面の表情識別,第1回日本顔学会,1996.8.31,国立博物館新宿分館)、印象工学ワークショップ(簑下成子,山下利之,森田展彰,佐藤親次、表情認知の印象工学的研究能面を用いた顔の印象工学的研究-顔イメージと心理状態との関係について-,「印象の工学」ワークショップ,1996.11.1,富士通クロスカルチャーセンター,富士通・感性技術推進部)。さらに、能面の表情が示す曖昧さをファジィ推論の手法を用いて解析し、異文化交流へのツール作成の可能性を探った(Yamashita T, Yoshikawa M, Minoshita S, Ichimura T, Satoh S, Automatic scenario analysis system for Noh play with Noh masks. KES '01 Baba N et al (Eds.) IOS Press, 983-987, 2001.)。
【0022】
本発明の実施例によれば、上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置による精神症状・心理状態評価方法において、
前記データベースには、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段によって、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データおよび反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データおよび反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成し、
前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0023】
また、上述の精神症状・心理状態評価方法において、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0024】
また、上述の精神症状・心理状態評価方法において、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の実施例である精神症状・心理状態評価装置(表情認知評価装置,各種精神障害診断支援装置)を示すブロック図である。
【0027】
図1において、精神症状・心理状態評価装置100は、入力手段1,データベース2,処理手段3,および表示画像生成手段4から構成されるパソコンである。
【0028】
なお、図中の組み合わせ選択入力6は入力手段1を介して処理手段3に入力される。
【0029】
データベース2には、図2に示す能面の刺激画像21が例えば15コ格納される。15コに限定されず、15コ以上でもよいし、少なくてもよい。図2は写真図であり、本出願において不鮮明になることが否めないので、図3として外形図を作成した。従って、図2および図3から能面の刺激画像の詳細を判断することとする。
【0030】
能面は前述したように、垂直方向の上下の傾き角度によって種々の感情を表現しており、観者に上下の傾き角度に対応して種々の感情をいだかせる。感情としては、幸せ,驚き,恐ろしい,悲しい,嫌悪,怒り,羞恥,不気味,呆然,落ちつき等がある。ここでは前6者を基本感情とし、他を付加感情とする。ここで基本感情としたのは、1970年代から研究されているEkmanの表情認知研究を初めとする膨大な表情認知研究で支持されている人が持っている感情のうち、はっきりと日常意識し、感じたり、他の人の顔に表出している感情を簡単にしかも文化を超えて理解しあえるとされている6つの感情(幸せ,怒り,嫌悪,興味,恐れ,悲しみ)を指す。興味は、驚きと同義である。データベース2にはデータ1,データ2およびデータ3が格納される。更にデータベース2にはコンピューター処理上に必要とされるプログラム,情報および処理手段3での処理に必要とされる情報が格納される。
【0031】
データ1は、能面の刺激画像であり、垂直方向の角度上向き50度から下向き50度の間での多数の刺激画像21からなる。上向き40度から下向き40度としても良い。他の角度範囲としても良い。
【0032】
データ2は、基本感情と付加感情からの複数選択された感情22と能面の刺激画像からの複数の選択された角度画像23の多数の組み合わせ24からなる。
【0033】
この組み合わせによって、脳器質性障害26,統合失調症27,うつ傾向(うつ病を含む)28、および人格障害,アルコール依存,薬物中毒,PTSD等が判別することを後述するように行う。図1にあっては、選択1として脳器質性障害、選択2として統合失調症、選択3としてうつ傾向(うつ病を含む)の3つの症状を表示している。なお、これらには限定されない。
【0034】
脳器質性障害患者は、一般に認知機能自体がかなりの程度障害されていると知られており、脳器質性障害と表情認知の関係が注目され多く研究され、あいまいな表情と各種脳部位の機能の関連性が解明されつつある。一般に脳器質性障害においては、生命に危険を及ぼすようなことに対しても認知障害が目立つ。例えば相手の「怒り」感情を認知できないで相手に接近すると、生体にとって危険な状況に陥ってしまう可能性が生ずる。本願発明者はこういった脳器質性障害患者の特徴・特質に注目した。「怒り」感情の把握の障害、それから、表情研究の中で「幸せ」表情の優位性(幸せの表情をしている顔のほうが記憶しやすく、忘れにくく、人の判別も容易になり、表情判断の実験でも正答率が他の表情と比較し突出して高く、反応時間も他の表情よりも早い。)は多くの健常者研究から解明されているが、こういった人類に共通の「幸せ」表情の優位性が脳器質性障害では障害されるという知見も、能面テストに応用されている。
【0035】
データベース2には、データ3として健常者のデータが入力される。図4は、能面の刺激画像に対する健常者の認知結果を示すデータである。能面画像は、健常者に下向きの浅い角度から正面までは快適な刺激であり、下向きの深い角度と上向きの角度を不快な刺激として認知する傾向がある。
【0036】
○「統合失調症患者」について
DSM-IV(精神科診断マニュアル)に記載してある統合失調症の主要な症状は以下の通りである。
【0037】
A.特徴的症状
以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのは、1ヶ月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在:
(1)妄想(2)幻覚(3)解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)(4)ひどく解体したまたは緊張病性の行動(5)陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如
注:妄想が奇異なものであったり、幻聴がその人の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声が互いに会話しているようなものであるときには基準Aの症状を一つ満たすだけでよい。
【0038】
B.社会的または職業的機能の低下
障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が以前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)
また統合失調症患者の症状には、病型(妄想型、解体型、緊張型、残遺型)により多彩な特徴が存在するが、共通した基礎症状として認知障害、思考障害などがある。
【0039】
統合失調症の認知障害研究はさまざまなものがあるが、曖昧なものの認知に弱く、明確なものの認知については健常者と大差がないという一致した見解である。本願発明者等は、統合失調症患者が、病棟内の生活や社会復帰施設で「だいたいでいいからやっておいて」「塩梅をみておいて」などの曖昧な指示に混乱を来し、家族関係などの関係悪化を招き、結果的に症状が増悪することを観察し、日々、スタッフや家族に明確な指示と対応を心がけるように助言を行っている。
【0040】
統合失調症患者のこのような「曖昧耐性の弱さ」は表情認知においても発現し、明確な基本表情においては錯誤が生じないのに、より微妙で複雑な表情や感情については簡単に混乱を来す。例えば「不気味」という感情感情については、相手を不気味に感じて、自己にとって敵対するものと認知してしまう。このように統合失笑症患者は、「曖昧耐性の弱さ」から曖昧な表情などの刺激に出会うと、論理の飛躍がおこり妄想(思考障害)が強化されてしまうということが起こりがちである。
【0041】
このように、能面テストは、こういった統合失調症患者の「曖昧耐性の弱さ」を鋭敏に検出することができる。能面画像といった「微妙」で「曖昧」な表情刺激を用いて、基本感情とその他の複合感情や複雑な感情、さらには統合失調症に特徴的な「不気味感」等の感情項目を用いることはこれまで成されて来ていない。
【0042】
(2−2)「うつ病患者」について
うつ
DSM-IV(精神科診断マニュアル)に記載してあるうつ病の症状は以下のとおりである。
[大うつ病エピソード]
以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている;これらの症状のうち1つは、1.抑うつ気分または2.興味または喜びの喪失である。
1.ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
2.ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退
3.食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加(例えば、1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加
4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6.ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7.ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある)、(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)
8.思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる
9.死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
こういったうつ病の基礎症状として様々な研究から認知のネガティブな歪みが指摘されている。
【0043】
発明者等は、こういったうつ病患者の臨床を行う上で投薬治療と共にネガティブ認知を根気よく修正することを試み続けている。また、うつ病患者の多くは、他の精神障害者とはことなり、正常心理から理解可能な感情や共感性を持ち合わせている。そのため、うつ患者は、健常者と比較して、感情や表情の認知においても基本感情、及び、微妙で複雑な感情の認知においても、基本的な判断基準がネガティブ方向へ歪む現象は認められるが、表情認知の円環構造は崩れないことが予測できる。
【0044】
入力手段1からは入力データとして感情についての質問項目、即ち感情項目11を入力する。また、処理手段3はデータベース2から必要とされる組み合わせを選択入力6とする。
このような状態で能面テストが実施される。
【0045】
処理手段3は、全体統計データ収集手段31、注目データの収集手段32、特定症状の判別(嫡出)手段33、個別データの生成と評価確認手段34および結果出力手段35からなる。
【0046】
能面画像として「微妙」で「曖昧」な表情刺激画像を用いて、基本感情、およびその他の複合感情あるいは統合失調症に特徴的な「不気味」などの感情項目毎に評価させることは、以下の利点がある。すなわち、脳器質障害者は基本感情についても認知障害がおこると言われ、統合失調症患者は、「不気味」「はにかみ」の項目で得点低下が認められる。
【0047】
前述したように、基本感情を利用することで、基本感情の認知も崩れてしまう器質性障害と基本感情の認知は崩れない統合失調症の判別が可能となる。また基本感情を用いることで、精神状態の把握に限らず、健常者のパーソナリティ、対人関係の特性、職場適応の程度、職業適性、営業成績予測などの把握も可能となる。
【0048】
表示画面上には選択された組み合わせに使用される能面の刺激画像が表示可能に準備される。そして、この刺激画像に組み合わされて使用される感情項目が選択可能とされる。感情項目は予め定めた感情項目を全て組み合わせることができる。この場合には必要とされる感情項目のデータは処理時に取捨選択される。
【0049】
このように、データベース2は、刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と刺激画像についての感情項目から選択された複数の感情項目が人間の各種精神症状・心理状態毎に予め設定された組み合わせを複数、例えば3つ以上格納する。また、処理手段3は、設定された多数の組み合わせの中から特定症状の1つの組み合わせが選択可能であり、該選択された組み合わせについて刺激画像と該刺激画像に対する感情項目が入力可能とされる。そして、各設定した感情項目について質問(はい,いいえ)と肯定回答(はい)についてのデータおよび回答に至るまでの反応時間値がデータとして取得される。
【0050】
全体統計データ収集手段31は、能面テストを行う機能であり、各刺激画像について各感情項目の質問と回答を入力する手段311,回答による反応値および反応時間値の収集を行う手段312,基準値に対する反応データおよび反応時間データの収集を行う手段313から構成される。
【0051】
本実施例でベースとなるレスポンスデータは、肯定回答(「はい」「いいえ」を示す1,0データ)と反応時間であり、その肯定回答を感情項目毎に集計し直した1肯定数、2表情評定変化数、3表情のバランス係数、4健常者からの逸脱得点は一次処理を行った変数である。
【0052】
刺激画像ごとの反応値およびデータについて説明する。
図4において、いま、 i = 項目番号、j = 写真番号、k = 被験者番号とする。
刺激に対する反応(R(i,j,k))は「はい」を1、「いいえ」を0として数値化した。--定義1
被験者kがj番目の刺激画像を見て項目iについて「はい」と回答すれば、R(i,j,k)=1、「いいえ」と回答すれば、R(i,j,k)=0とする。(例:被験者番号3の被験者が5番目の能面画像を見て感情項目番号1の「幸せ」に「はい」と答えた場合、R(1,5,3)=1となる。)健常者群のR(i,j,k)をRc(i,j,k)とする。
【0053】
15
健常者の反応の平均は、(ΣRc(i,j,k)/15)と表記できる。
k=1
項目肯定数
項目肯定数は以下のように定義される。
いま、 i = 項目番号、j = 写真番号、k = 被験者番号とする。
項目肯定数(L(i,k))=項目に答えられた「はい」の回数
(k番目の個人のi番目の項目に対する「はい」の回答数)
これを式に示すと次のとおりである。
15
L(i,k)=ΣR(i,j,k) …式1
j=1
健常者群のL(ik)をLc(ik)とした。
15
健常者の平均項目肯定数は(ΣLc(i,k)/15)と示される。
k=1
【0054】
反応データは、基準値に対する反応値の大きさで定められる。そして、反応値と共に(あるいは反応時間単独に)反応時間についても上述と同様に収集され、基準値に対する反応時間の長さに依存する形で反応時間データが定められる。
【0055】
注目データの収集手段32は、刺激画像に対する注目データの収集する手段321および選定された刺激画像について注目される感情項目の特定する手段322、すなわち特定の刺激画像と特定感情項目の注目データを生成する機能を有する。
【0056】
特定の刺激画像と特定感情項目の注目データの例を図6〜図9および図10に示す。図10は図6〜図9の内容をまとめたものである。
【0057】
これらの図において、横軸に刺激画像が、そして縦軸に感情項目が並べて記載してある。健常者の場合、図6に示すように、各刺激画像に対して反応データは各感情項目についてプラス(+)となって現れる。
【0058】
これに対しては、脳器質性障害の場合、感情項目の「幸せ」が上向き30度、40度でマイナス(−)となって現われる傾向があり、うつ感情項目の「怒り」が下向き40度、下向き30度でプラスとなって現われる傾向がある。これらの傾向は、図6との比較において、顕著な差異として把握できることになる。
【0059】
統合失調症の場合、感情項目の「嫌悪」が上向き10度でプラスが、そして40度においてマイナスとなって現われる傾向があり、かつ感情項目の「羞恥」が正面(0度)においてマイナスとなって現われる傾向がある。これらの傾向は、図6との比較において顕著な差異として把握できることになる。
【0060】
うつ傾向者(うつ病を含む)の場合、感情項目の「嫌悪」が下向き20度においてプラスが、そして上向き10度においてプラスが、かつ感情項目の「悲しみ」が下向き10度においてプラスが、そして感情項目の「幸せ」が正面において、マイナス、上向き10度においてマイナスとして現われる傾向がある。これらの傾向は、図5との比較において、顕著な差異として把握できることになる。図7〜図9に示したプラス・マイナス表示以外にも小さな傾向であるがプラス・マイナスが現われており、これらを加えて注目データとすることができる。
【0061】
図6〜図9をまとめると図10のようになり、収集された全体統計データから注目データを算出することによって脳器質性障害、統合失調症およびうつ傾向(うつ病を含む)を容易に判別することができ、またこの判別は健常者の注目データと比較することによってより確実に行うことができる。
【0062】
特定された刺激画像と特定された感情項目について注目データは、プラス側とマイナス側が混在した二次元構造となる。また、注目データには強弱があり、二次元構造は標準値に対してプラス側・マイナス側への山形および海底形を呈することになる。
【0063】
これらの注目データは、後述する表示画面生成手段4に表示することができ、脳器質性障害、統合失調症あるいはうつ傾向(うつ病を含む)と表示することができるが、これらの病名の表示がなくても刺激画像に対する感情項目についての注目データを表示することによって脳器質性障害、統合失調症あるいはうつ傾向者(うつ病を含む)であると同等の表示を行うことができる。
【0064】
このようにして、特定症状の判別手段33は判別された脳器質性障害331、判別された統合失調症332、あるいはうつ傾向(うつ病を含む)333を表示する出力を行うことができる。
【0065】
個別データの生成と評価確認手段34は、判別された各症状について個別データの生成を行い、評価確認のためのデータの提供を行う。このために、この手段34は、判別毎の健常者データの入力手段341すなわち取り入れ機能、認知的マッピングデータ生成手段342、レーダーチャートデータ生成手段343、健常者データとの比較手段345、および判別式(1)、(2)、(3)の適用手段を有する。これらの手段によって生成された判別毎の個別データは表示画面生成手段4に表示される。このように、判別に対する評価確認を行うための機能の役目を果す。
【0066】
結果出力手段35は、健常者データ図との比較図出力手段351および判別式(1)、(2)、(3)による結果データ図出力手段352を有する。これらの図は、表示画面生成手段4に表示される。表示画面生成手段4は、特定の刺激画像と特定感情項目の注目データ表示手段411,健常者データ図との比較図表示手段412,および判別式(1)、(2)、(3)による結果データ図表示手段413を有する。
【0067】
○反応時間による判別について
反応時間による判別についても反応による判別と同様である。
【0068】
統合失調症患者は、発症初期から、慢性期に到るまで「不気味感」を持つ。能面テストを実施することで、能面の表情が「不気味」であるかどうかを判断してもらうことで、反応時間を測定し、統合失調症患者の「不気味感」に対する慢性的準備状態が示される。統合失調症患者は全項目の反応時間は健常者と比較して長く、2800ms以上であるのに、能面画像下10度,正面,上10度,上20度のいずれかの画像についてのみ「能面が不気味と思っている」への反応時間が1200ms以下である。
【0069】
うつ病患者に対する表情認知の実験はこれまで多く行われているが、うつ病患者のネガティブ感情に対する反応のみに焦点付けられた研究が中心である。能面の画像に対して反応値と反応時間値を計測し、基準値との比較によってネガティブ感情項目(マイナス)にポジティブ感情項目(プラス)について注目データを収集することを行う。
【0070】
従来のうつ病判定システムは質問紙法などのように被験者によって簡単に誘導できるシステムにおいて判定されているため、職場や学校などで障害者であることを隠蔽することも可能であった。実施例の方法によれば、感情項目と能面画像がランダムに提示されるためにその誘導はほとんど不可能である。そのため、学習による誘導はほとんど不可能であるので、継続的に気分の波を計測することが期待される気分障害(うつ傾向)の判別システムとして、また定期的に検査する心理テストとしての妥当性,信頼性が望める。
【0071】
今回は能面画像に対してうつ病患者はネガティブ感情に多く肯定し、ネガティブ感情についての反応時間も短くなるという知見を利用してうつ傾向者(うつ病を含む)の判別を行う。反応のみを用いた診断システムは、判定率が90%であるので、反応時間を判別式にあてはめることにより、判別率を95%以上にあげることができる。
【0072】
さらに、反応時間データを用いることで、PTSD及び、他の不安障害患者の過敏状態を把握できる可能性がある。
【0073】
またこれまで、多くの抑うつチェックリスト(うつ病尺度)において、うつ傾向が、「うつ病を示しているのか」,「人格障害から来るのか」,「統合失調症の症状から来るのか」,「PTSDに随伴するうつ傾向なのか」,「不安障害の一状態を示しているのか」、あるいは「健常者が一時的に落ち込んでいるのか」を識別することは不可能であった。
【0074】
実施例では、反応自体のみではなく、反応時間を用いることで、それらの他疾患をある程度除外したうえで、うつ病,うつ傾向を診断補助することができる。
○サブクリニカル集団の選別(精神健康低下群)について
反応時間(値)は、これまでの研究により、健常者の場合、全項目にわたって平均1600msであり、サブクリニカル集団(精神障害者やうつ傾向者等を含む精神健康状態がやや低下している群)は、400ms以下、あるいは、2800ms以上として、選別する。
【0075】
○統合失調症患者の選別について:
全項目に対する反応の平均が2800ms以上の対象者のうち、能面画像下10度,正面,上10度,上20度のいずれかの画像についてのみ「能面が不気味と思っている」への反応時間が1200ms以下である場合は統合失調症の疑いとする。(他のネガティブ感情項目でも一定して反応時間が短い場合は、以下の項目でうつ傾向(うつ病を含む)を検討し、不気味についてのみの場合でも全ての画像で反応時間が短い場合は、詐病(精神障害を装って精神鑑定などで刑を免れる状態)を疑う。)
【0076】
○うつ傾向者(うつ病を含む)の選別について:
全項目に対する反応の平均が2800ms以上の対象者のうち、ネガティブ感情項目(悲しみ,怒り,嫌悪,不気味,恐れ)とポジティブな感情項目(幸せ,はにかみ,落ち着き)の差が1000ms以上でネガティブ感情項目について反応時間が短縮される場合はうつ病(通院投薬治療が必要な精神病)を疑い、差が500ms以上1000ms未満の場合は健常群のうつ傾向とする(職場や学校などで適応範囲内であり、産業カウンセリングや学校カウンセリングで対応可能範囲)。
【0077】
覚醒水準と結びついた項目「驚き」「呆然」は、PTSD症状の過覚醒を反映すると考えられる。
【0078】
判別は判別式(1)(2)(3)の適用346について説明する。
以下に3つの判別式(1)(2)(3)を示す。
【0079】
1)能面テストの結果により、精神疾患を疑われる被験者の中で脳器質性障害を集中する判別式(87%判別可能)
z=−0.550×幸上30−1.588×幸上40+0.972×怒下40+
0.999×怒下30−0.276
この式において図7の注目データが採用される。
【0080】
2)精神障害を疑われる被験者から脳器質性障害を除外した集団の中で統合失調症患者を抽出する判別式(82%判別)統合失調症の可能性が高い程得点は上昇する。
【0081】
z=−1.485×嫌悪上40+1.330×嫌悪上10−0.789×恥正面+
0.247
この式において、図8の注目データが採用される。
【0082】
3)健常集団(企業,学校)の中でうつ傾向がある人を抽出する判別式(90%判別)
z=−0.295×幸正面−1.420×幸上10+1.925×悲下10+1.137
×嫌悪下20+0.963×嫌悪上10+0.408
この式において、図9の注目データが採用される。判別のために多くの刺激画像および多くの感情項目を使用して精度を上げることができる。
【0083】
上述の式は知識と経験から以下に述べる疾患やうつ状態の把握が能面の刺激画像が示す表情認知の差異によってできることを示す。上式を更に詳細なものにしてもよい。
【0084】
脳器質性障害患者は、極端に上を向いた能面画像については健常者よりも幸せを感じない。また、極端に下を向いた能面画像について健常者より、「怒り」を感じる傾向がある。このことより経験則から1つの例として上述の判別式が得られた。
【0085】
統合失調症の初期の顕著な症状に被害妄想があるが、その妄想を表現する日常の感情語として「嫌悪」があげられる。しかし、精神科臨床経験では、慢性期の統合失調症患者は、他者のうそが見抜けず簡単に騙されてしまうという特性が顕著になってくる。これは他者の悪意に対して統合失調症患者が鈍感になっていることを示すと考えられる(公知の論文)。さらに公知の論文で能面のはにかみ認知が統合失調症において障害されていることが分った。以上のことから、「不気味」「嫌悪」「羞恥」の3つの感情語にあらわれる能面画像認知の歪みを用いて統合失調症患者と健常者を判別する式として上述の判別式(2)が採用し得る。
【0086】
統合失調症患者は、極端に上向きの能面画像について「嫌悪」を読みとれない(他者の悪意に気づかない)のに、やや上向きでは健常者に比較して嫌悪を感じてしまう(微細なサインから被害妄想的になる)、統合失調症患者は「はにかみ」認知において健常者と異なる(公知の論文)ため、正面の能面画像に対して「羞恥」を読みとり過ぎてしまう。
他の例としては、詳細にした判別式も採用し得る。
【0087】
うつ病患者は、健常者が「幸せ」と認知しやすい正面付近の能面画像を「悲しみ」「嫌悪」と判断し、ネガティブ感情認知への偏倚が認められる。
【0088】
図11は、図12の状態を障害別の刺激画像と感情項目の3次元構造で示す図であり、正の側からパースペクティブを示す。図12は図11の状態の内、負の側のパースペクティブを示しており、判り易くするための正の側に伸びる棒グラフを削除して示している(ただし、健常者についての棒グラフは表示した)。
【0089】
図13は脳器質性判別得点(BRSCORE)を示す。脳器質性障害あり群と脳器質性障害なし群の場合では図13に示すように明確に分かれる。
【0090】
図14は統合失調症判別得点(S得点)を示す。統合失調症群と健常群とでは図14に示すように明確に分かれる。
【0091】
時間短縮の為の簡便法を採択した判別式(2)の場合は統合失調症の可能性が高い程、得点は上昇するが、図12の場合は、判別率を99%にするためすべての変数を用いて判別式を導入した場合であり、その場合は、統合失調症の表情認知特性が強いほど小さい値となり、統合失調症患者は負の値となる。
【0092】
図15はうつ傾向判別得点(うつ得点)と示す。抑うつ傾向健常者と抑うつ傾向なしの場合では図15に示すように明確に分かれる。
【0093】
処理手段3は、図13〜図15に示すように、各組み合わせについて各刺激画像毎に設定した係数が設定され、健常者の統計データを入力したときに負正いずれかの得点を算出するものであり、特定の症状者の設計データを入力したときに正負の得点を算出することを行う。
横軸は、0:対照群(非疾患群)と1:疾患群を示す。
【0094】
図16は正準判別関数を示し、統計された健常者群、統合失調症群および脳器質性障害群を示す。図16において、関数1、関数2は次の通りである。
関数1:表情認知の円環構造の崩れ度(バランスが全方向へ崩れるほど数値が上昇する)
関数2:表情認知の円環構造の快側への偏倚(快-不快の軸が快側に矮小化するほど数値が上昇する。関数1の場合は全方向へバランスが崩れるが関数2は円環構造がつぶれて半円構造となる。)
以上のようにして結果出力を行う。
【0095】
以上のようにして、入力された組み合わせについて刺激画像と感情項目に対する肯定回答、または当該刺激画像についての感情項目に対する回答時の反応時間を統計し、基準値との比較によって反応データおよび反応時間データを算出し、健常者の当該組み合わせについての刺激画像と該刺激画像に対する反応データおよび/または、反応時間データの統計とを比較することによって特定症状に該当するかを判別する統計判別方法と、および特定症状の特質を示す刺激画像についての感情項目による統計値(得点)を健常者の統計値(得点)と比較することによって判別する判別式判別方法が構成される。
【0096】
統計判別方法および判別式判別方法は並列処理法として、また直列処理法としてもよい。直列処理法を図1において鎖線もしくは一点鎖線で示す。直列処理法を採用することによって判別確率は向上する。また、肯定数データによる判別および反応時間による判別を並用することによっても判別確率は向上する。
【0097】
次に表示画像生成手段4について説明する。
いくつかのプロフィール図を次に示す。
【0098】
図17は、脳器質性障害の場合のレーダーチャートによる表情構造モデルの例を示す。
図18は、統合失調症の場合のレーダーチャートによる表情構造モデルの例を示す。
図19は、うつ傾向(うつ病を含む)の場合のレーダーチャートによる表情円環構造モデルの例を示す。
【0099】
これらの図は、特定された感情項目毎に特定された刺激画像の統計の状態をプロフィール図として表示し、健常者の状態を示すプロフィール図を対比して表示する。
【0100】
「今の気分」と表示されている変数は、「幸せ」などの感情項目に答えた「はい」の合計数つまり肯定数である(9個の能面画像すべてに「はい」と答えれば9となる)。
【0101】
NMTscoreは、能面テストスコアの略であり、健常者の70%以上が答えたパターンとすべて一致すれば100点、すべて異なれば0点となるように標準化された得点である。
【0102】
図17は.脳器質性障害の表情認知パターンを示す。
脳器質性障害患者の表情認知パターンは、図17(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、円環構造が崩れ、健常者においては、隣どおしで近似しているはずの感情項目が似ていないためにバランスが崩れ、円にならず、グラフの線がガタガタとなる。その結果グラフの線によって囲まれた面積は非常に小さくなる。
【0103】
図17(b)は相手の表情を読み取る力を示す。この図に示すように、NMTscoreにおいても同様に得点の高低がばらばらであるが、特に注意する点は、基本感情のなかでももっとも重要な表情(「幸せ」「怒り」等)で低得点となることである。
【0104】
図18は.統合失調症患者の表情認知パターンを示す。
統合失調症患者の表情認知パターンは、図18(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、健常者においては円環構造となるはずの感情項目で不快な感情の認知力が弱いため、不快感情の肯定数が潰れ(低得点)、快感情に偏った半円構造となる。しかし、「不気味」感情については例外的にやや健常者よりも平均得点が高い(有意差はない)。
【0105】
図18(b)は相手の表情を読み取る力を示し、この図に示すように、NMTscoreにおいては、基本感情については健常者と同様得点が高いが、「羞恥」をはじめとした複雑な感情の得点が低い。
【0106】
図19は.うつ傾向者(うつ病を含む)の表情認知パターンを示す。
うつ傾向者(うつ病を含む)の表情認知パターンは、図19(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、健常者と同様円環構造であるが、ネガティブ感情への偏倚がみられる。
【0107】
図19(b)は相手の表情を読み取る力を示し、この図に示すように、NMTscoreにおいては、基本的に健常者の得点とほぼ同じであるが、「悲しみ」、「怒り」、「嫌悪」などのネガティブ認知に肯定しやすいため、結果としてそれらの感情項目で得点が低下する。
【0108】
図20は、職業別のプロフィール(適職診断システムへの応用)の例を示す。
「注目しがちな表情」と表記した変数は、「能面画像評定変化数」であり、能面の角度は9種類もちいるが、近い角度どうしの能面画像に「はい」「いいえ」など、異なった回答をした場合に1を加算する変数であるため、「はい、いいえ、いいえ、いいえ、いいえ、はい、いいえ、いいえ、いいえ」と答えた場合は、3点となる変数である(実際の提示はランダムであるので、誘導は困難である)。この得点が高い感情項目については、判断の変化が激しく、その人にとって気になる表情、人の表情を読みとるときに注目してしまう表情と解釈する。この得点とTEG(東大式エゴグラム)、MINI-124(MMPIの短縮版で最も診断力があるとされる質問紙法の心理テストの簡易版である)との比較研究は未公開であるが、臨床尺度や性格との相関が得られている(併存的妥当性)。
【0109】
図20(a)に示す熟練精神科医の表情認知パターンは、数名に実施したところ以下の様な共通点が得られた。精神科医は通常患者を診察するときに意識障害を確認するためなのか、「落ち着き」、「呆然」の項目に注目した。その次に「悲しみ」に注目した。
【0110】
図20(b)に示す熟練臨床心理士数名の共通したパターンは、「悲しみ」に注目した点であった。このような特徴は医者以外の医療福祉関係者とも共通しており、福祉的な業務に従事する人の共通点として、他者の「悲しみ」に注目し、どのように援助を行っていくかを常に考えている人ということができる。
【0111】
図20(c)に示す熟練営業マンの共通したパターンは、「幸せ」「驚き」に注目した点である。相手が人好きで話をしてくれそうな人なのかどうかを気にし、自分の話に注目してくれるか(驚いて聴いてくれるか)に注目する性格があるのであろう。
【0112】
また、発明者等の研究で、数例のDV被害をうけた母子研究があるが、ネグレクト(養育拒否)をしている母親の表情認知能力は低く、虐待をうけている子供は健常者以上に表情認知能力が高く、さらに、注目する表情(能面画像評定変化数)は、「嫌悪」や「怒り」であり、常に他者に嫌われていないか怒らせてしまわないかに注目している性格となっていることが推測できた。このような傾向はいじめ被害を受けている学生も同様であり、今後学校臨床のスクリーニングシステムとしても期待できる。さらに、本願発明者等らの高校生を対象とした未公開の研究では、怒り感情の表出タイプと能面テスト結果に相関がみとめられたため、現代の課題である「キレる少年」や少年の重大犯罪を予防するシステムとして学校で健康診断時に利用できるといった応用可能性がある。
【0113】
このように、能面の表情認知実験から得られたデータを集計しなおすことで、診断ばかりでなく、性格や職業選択援助システム、ふさわしい職場配置や営業成績予測などの企業人事支援システムとしても採用しうる。
【0114】
画像表示の一例としてのグラフ表示においては、感情項目毎に合計されたデータを、感情得点としてレーダーチャートを作成し、表情円環構造モデル(Schlosbergが提唱した公知のモデルである。)人間の感情は円環構造を成しており、(人の感情は、驚き→幸せ→悲しみ→嫌悪→怒り→恐れ→驚きと一周して戻ってくるという心理学で有名な70年代からの説)そのモデルに基づき円環構造にイメージが重なりやすくするためレーダーチャート驚き,幸せ,羞恥,落ち着き,呆然,悲しみ,不気味,嫌悪,怒り,恐れの順に表示する。ここで算出した結果は、本人用用紙としての本人用出力として付属プリンターなどの用途別表示画像出力手段(診断補助手段)から印刷出力される。また、同一結果は専門家用出力としても出力される。
【0115】
生成されたデータを解析し、顔のマンガを作成し、被験者の表情認知実験の結果データに基づいて、マンガの表情を変化させて『今日のあなたの気持ち』として元気度(幸せに対する肯定率+驚きに対する肯定率×0.5、おちこみ度(3の判別式の正負逆の値)と共に出力することができる。出力方法はそれぞれの表情の割合により、モルフィング技術(視覚的平均化作業)を用い平均して出力するものである。図20はその一例としての画像表示(表出感情表示)を示す。
【0116】
また、解析の一例のプロフィール図を図22に示す。図22には統合失調症の例とうつ傾向者(うつ病を含む)の例が並列して画像表示として出力される。
【0117】
被験者個人の反応結果を多変量解析法(例:MDS(多次元尺度法)、因子分析、林の数量化理論)によって分析し、各能面画像を個人の認知的空間にマッピングする。
【0118】
具体的には、各能面画像についての複数の感情項目に対して得られた反応データを能面画像の傾き角度によって集計し、相関係数や類似度などを指標として反応パターが類似している画像どおしを近くに、似ていない画像を遠くに配置することで認知的空間マッピングを行う。(画像1,2,3を空間マッピングする場合、近似したデータ行列を示す画像1と画像2は近い場所にマッピングされ、似ていない画像2と画像3は遠い場所にマッピングされ、視覚的には画像1と2の集団と画像3の距離が離れて主観的に把握しやすいように観察できるようになる。)
【0119】
同時に、マッピングされた能面画像から認知的空間を構成する各直交軸の認知的意味を推定し、各被験者の能面画像からの感情認知に関するメカニズムを推定することができる。(例えば、本出願においては、次元1(x軸)については、正の高得点Cd50,Cd40,Sd50,Cd30、負の高得点Cu06,Cu10,Cu02,Cd02について感情肯定率を検討したところ、正の高得点画像については、「呪い」が、負の高得点画像については、「興味」の肯定率が高かった。そこで、次元1を注意−拒否と命名した。次元2(y軸)については、正の高得点Sd30,Sd40,Sd50,Sd10、負の高得点Cu30,Cu40,Cu50,Cu20について感情肯定率を検討したところ、正の高得点画像については、「落ち着き」「希望」「はにかみ」が、負の高得点画像については、「呆然」「驚き」「悲しみ」「呪い」の肯定率が高かった。そこで、次元2を快−不快と命名した。)
【0120】
こうした能面画像の空間配置は各疾患毎に明確に異なって見えるため、専門家にそのマッピングを提示することにより診断補助ツールとして効果的であり、結果として精神科医や専門家が診断に要する時間が短縮できる。
【0121】
これらの出力図は、前述と同様にして本人用出力あるいは/および専門家用出力として画面上に、あるいは用紙上に出力される。
【0122】
以上のように、能面の刺激画像を用い、刺激画像についての感情項目について回答状況を予め設定した各症状にデータを統計する処理を行うことによって脳器質性障害,統合失調症およびうつ傾向(うつ病を含む)の多数の、少なくとも複数の症状について診断補助を自動的に行うことができ、多数の患者を多面的に迅速かつ正確に診断補助することが可能になる。
【0123】
特に、多数の患者について脳器質性障害,統合失調症およびうつ病を迅速かつ正確に判定することができるばかりでなく、他の症状についても同様に迅速かつ正確に判定することができるようになる。また、患者の治療支援システム,自己感情評価システムとしても構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の実施例を示すブロック図である。
【図2】能面の刺激画像を上下方向に示す図である。
【図3】図2を線形で示す図である。
【図4】データベースにデータ3として格納されたデータを示す図である。
【図5】刺激画像ごとの統計の取り方を説明する図である。
【図6】健常者についての注目データを示す図である。
【図7】脳器質性障害についての注目データを示す図である。
【図8】統合失調症についての注目データを示す図である。
【図9】うつ傾向者(うつ病を含む)についての注目データを示す図である。
【図10】図5から図8の注目データをまとめて表示する図である。
【図11】図11の状態を3次元構造で示す図である。
【図12】図11の内、特に負の側のパースペクティブを示す図である。
【図13】脳器質性障害判別得点(BRSCORE)を示す図である。
【図14】統合失調症判別得点(S得点)を示す図である。
【図15】うつ傾向(うつ病を含む)判別得点(うつ得点)を示す図である。
【図16】正準判別関数を示す図である。
【図17】脳器質性障害についての表情円環構造モデルを示す図である。
【図18】統合失調症についての表情円環構造モデルを示す図である。
【図19】うつ傾向(うつ病を含む)の場合のレーダーチャートによる表情円環構造モデルを示す図である。
【図20】職業別のプロフィール(適職診断システムへの応用)を示す図である。
【図21】表出感情表示の例を示す図である。
【図22】2つの症状について二次元図示する例を示す図である。
【図23】公知の二次元図示する例を示す図である。
【符号の説明】
【0125】
1…入力手段、2…データベース、3…処理手段、4…表示画面生成手段、5…用途別表示画像出力手段、6…組み合わせ選択入力、11…質問項目(感情項目)、21…能面の刺激画像、22…基本感情と付加感情からの複数選択、23…能面の刺激画像からの複数の角度画像選択、24…多数の組み合わせ、25…選択組み合わせ、31…全体統計データ収集手段、32…注目データの収集手段、33…特定症状の判別(摘出)、34…個別データの生成と評価確認手段、35…結果出力手段、100…精神症状・心理状態評価装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は精神症状・心理状態評価装置および該評価装置を用いた精神症状・心理状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症患者を対象とした表情認知の研究は、1970年代から盛んに行われるようになってきた。それらの研究は、統合失調症患者は全般的な認知の障害を持つとするもの、全般的に感情認知の衰えがあるとするもの、ネガティブな感情認知においてのみ衰えているとするもの、特別な感情に衰えがあるとするものなどさまざまであり、さらに、統合失調症の病型により表情認知が異なるとするもの、感情認知の障害はないとする研究も存在する。つまり、統合失調症患者は相手の表情にある全ての感情を認知できないという説と、一部特定の感情に限って認知できないという説に、そもそも感情認知が障害されていないという説が加わり、いまだ論争が続いている。
【0003】
Brodらは、統合失調症患者の陰性症状は右大脳半球障害と関連しているという。また統合失調症患者では感情の鈍麻とともに、表情認知が悪くなるという仮説は証明されず、つまり感情鈍麻と感情認知との間に関係はないことが示唆された。
【0004】
このように統合失調症患者の表情認知障害の研究は全般的な感情の認知障害であるのかどうかという論争に加えて、症状にも焦点をあてた研究も行われてきており、より実地に即した研究も行われつつある。現在では、様々な議論の結果、統合失調症患者は、曖昧な表情認知において障害されるという一致した結論にほぼまとまりつつある。
【0005】
本願発明者等は、非特許文献1に「表情認知の精神病理学的研究」を発表した。この発表内容の一部にIII.能面を用いた表情認知の研究として次の記載を行った。
「ここで、筆者らが開発している能面を用いた表情認知の研究を紹介する。能面を用いた先行研究の増山,Osaka,鈴木らのイメージ研究を踏まえ、次の研究を行っている。
【0006】
この実験では、被験者にコンピューター上の能面刺激画像について筆者らが独自に絞った12の質問項目(1.彼女は驚いている、2.彼女は悲しんでいる、3.彼女は希望をもっている、4.彼女ははにかんでいる、5.彼女は私を呪っている、6.彼女はぼーっとしている、7.彼女は楽しんでいる、8.彼女は私に興味がある、9.彼女は誇りがある、10.彼女は落ち込んでいる。11.彼女は恍惚としている、12.彼女は私を不気味だと思っている)ごとに評定させた。
【0007】
使用した能面画像は、下向き50度から上向き48度の範囲の、15枚(down50,down40,down30,down20,down10,down6,down2,front,up2,up6,up10,up20,up30,up40,up48)であった。実験は項目が先に呈示され、その後に注視点,能面刺激画像と続き、被験者が「はい」か「いいえ」を答えるまで能面は呈示され続ける。
【0008】
実験対象者は健常男性15名,統合失調症群15名とした。
得られたデータを、多次元尺度構成法(MDS)を用いて解析した。この手法は、感情研究の刺激画像を配置するためによく用いられており、Schlosbergの感情円環モデルでもこの手法を用いている。結果のマッピングは、「快−不快」「注意−拒否」の二次元を図示した(図1)。」
なお、上述の図1について本願においては図23として最後の図として表示してある。また、上述の記述の一部を変更している。
【0009】
続いて、上記論文を訂正した特許文献1には、「マッピングから、たとえば、下50度の能面に対して健常者は、おおむね快であり、拒否していると評価するのに対して、統合失調症患者は、おおむね、不快で拒否していると評価していることが分る。健常者はSchlosbergの感情円環構造と同様に能面に対する評価が、「快−不快」「注意−拒否」の二次元上でほぼ円環をなしている。一方、統合失調症患者は、「不快」の方向の欠けた半円の構造となっている。つまり、統合失調症患者は能面が悪意を持っているという認知をすることがなく、かえって好意を持っていると認知する。そのため統合失調症患者は他者の悪意に気づくことが遅れがちであり、騙されてしまう可能性が推測された。」と記載している。
【0010】
特許文献1には、被験者に対して視覚的な刺激を提示する刺激表示手段と、刺激表示手段に対する被験者の視点を特定するための視点特定手段と、刺激表示手段及び視点特定手段の計測結果から反応的探索スコアを算出する反応的検索スコア算出手段と、刺激表示手段及び視点特定手段の計測結果から運動数を計測する運動数計測手段と、反応的探索スコア算出手段で得られた反応的探索スコア及び運動数計測手段で得られた運動数から被験者が統合失調症に罹患しているか否かを判定する手段とを有している統合失調症診断装置が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2004−298526号公報
【非特許文献1】脳の科学 2000年2月号(株)星知書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
精神科診察や精神鑑定において、脳器質性障害,統合失調症,うつ病,人格障害,アルコール依存者,薬物中毒,PTSD,カウンセリングで治療可能なうつ傾向のある健常者の診断,診察や査定,カウンセリングが行われる。
【0013】
本願発明者等は、上述のように能面の刺激画像を用いて精神病に罹患しているかどうかを効果的に判定できることを見い出した。また、本願発明者は上述した診断,診察や査定,カウンセリングに長年携って来ているが、その際に脳器質性障害あるいは統合失調症を個々に判定するばかりでなく、上述した諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸症の罹患を判定する手法の必要性を痛感してきた。特に、多数の患者について脳器質性障害,統合失調症、うつ傾向者(うつ病を含む)、およびうつ状態の程度を迅速かつ正確に判定することは重要である。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑み能面の刺激画像の有する特徴を生かして、上述した諸障害を個々に判定するばかりでなく、諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸障害の罹患を確率高く判別することのできる精神症状・心理状態評価装置および評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置において、
前記データベースは、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段は、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成する精神症状・心理状態評価装置およびこれを使用した精神症状・心理状態評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、能面の刺激画像の有する特徴を生かして、上述した諸症を個々に判定するばかりでなく、諸症の診断,診察や査定,カウンセリング時に一括して諸症の罹患を確率高く判定することのできる精神症状・心理状態評価装置および評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
能面とは、日本の伝統芸能として知られる能に用いられる仮面であり、能舞台ではシテと呼ばれる主役のダンサーのみがかぶる。
【0018】
能面は、人の顔の要素を複合し統一した典型面であり、人々の様々な感情を集約した豊かな感情を持っているといわれる。角度変化によって表情が変化する仮面は、世界の中でも能面以外にもバリ島の仮面などが存在する。能面の中でも女面のみが角度変化により、(上を向くと「テラス」、下を向くと「クモラス」といい、)様々な表情に変化するように創られているという利点がある。女面の中でも10代の若い女性をかたどった実験に用いた小面が最も表情変化すると言われている。ただし、能面と人間の表情認知のメカニズムは、両者ともに分かっておらず、単純に同じものとみなすことは難しいかもしれない。
【0019】
また、能面は、上を向くと口はへの字型となり、不快な表情であるのに、眉と目は垂れ下がり、快の表情をなし、下を向くと口は快、眉と目はつり上がり不快の表情となるように互いに矛盾する感情を表出するように創作されているという。そのため被験者は、人の顔や線描画と比較して相矛盾する顔部位を統合しながらより高度の判断をしなければならない可能性がある。しかしながら、発明者等の先行研究(Minoshita et al.,1996)で得られた、健常者を被験者とした能面を刺激とした表情認知の因子分析結果と先行研究における人間の顔写真を刺激とした表情認知の因子分析結果でほとんど同じ因子が抽出された。
【0020】
本願発明者等は、10年にわたって、精神障害者の表情認知特性を計測する有効なツール作りに取り組み、能面を用いた表情認知テストを作成することが出来た。その成果は、人間工学(Vol.33,No.2,79-86,1997)、Psychiatry and Clinical Neurosciences(Vol.53, No.1, Feb, 1999)に掲載された。以下に概略を示す。本願発明者等は、多田富雄東大名誉教授が所蔵する大正時代の小面を借り受ける幸運を得ることができた。その小面は、筑波大学内の照明設備が完備されたフォトスタジオでプロカメラマンが設定した最も小面の表情が生き生きと変化するライティング状況の下、能面回転装置に取り付けられて角度を1度ずつ測定しながら撮影した。能面テスト作成方法は別稿を参照されたい(人間工学Vol.33,No.2,79-86,1997)。そして、健常者の反応特性を因子分析を用いて解析し、能面テストの特徴を探り、テストに用いる感情項目を抽出することにより能面テストの手法を洗練させた(Psychiatry and Clinical Neurosciences(Vol.53, No.1, Feb, 1999))。
【0021】
その後、YG性格テストとの比較検討、怒り行動尺度との比較検討、自己感情と表情認知の関係を探る研究をそれぞれ行ってきた(社会精神医学会(簑下成子、森田展彰、佐藤親次、浅井義弘、統合失調症患者における表情認知と社会適応度の関係−能面テスト(Noh Mask Test)を用いて− 社会精神医学雑誌 12(3)253-261,2004.( Minoshita S, Morita N, Satoh S, Asai Y. Relationships between facial expression recognition and social adjustment in schizophrenia. -The Noh mask Test as a social skill assessment- Japanese Bulletin of Social Psychiatry 12(3)253-261,2004.)、顔学会(簑下成子,山下利之,森田展彰,佐藤親次、傾き変化の動きを伴う能面の表情識別,第1回日本顔学会,1996.8.31,国立博物館新宿分館)、印象工学ワークショップ(簑下成子,山下利之,森田展彰,佐藤親次、表情認知の印象工学的研究能面を用いた顔の印象工学的研究-顔イメージと心理状態との関係について-,「印象の工学」ワークショップ,1996.11.1,富士通クロスカルチャーセンター,富士通・感性技術推進部)。さらに、能面の表情が示す曖昧さをファジィ推論の手法を用いて解析し、異文化交流へのツール作成の可能性を探った(Yamashita T, Yoshikawa M, Minoshita S, Ichimura T, Satoh S, Automatic scenario analysis system for Noh play with Noh masks. KES '01 Baba N et al (Eds.) IOS Press, 983-987, 2001.)。
【0022】
本発明の実施例によれば、上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置による精神症状・心理状態評価方法において、
前記データベースには、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段によって、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データおよび反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データおよび反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成し、
前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0023】
また、上述の精神症状・心理状態評価方法において、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0024】
また、上述の精神症状・心理状態評価方法において、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法が構成される。
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の実施例である精神症状・心理状態評価装置(表情認知評価装置,各種精神障害診断支援装置)を示すブロック図である。
【0027】
図1において、精神症状・心理状態評価装置100は、入力手段1,データベース2,処理手段3,および表示画像生成手段4から構成されるパソコンである。
【0028】
なお、図中の組み合わせ選択入力6は入力手段1を介して処理手段3に入力される。
【0029】
データベース2には、図2に示す能面の刺激画像21が例えば15コ格納される。15コに限定されず、15コ以上でもよいし、少なくてもよい。図2は写真図であり、本出願において不鮮明になることが否めないので、図3として外形図を作成した。従って、図2および図3から能面の刺激画像の詳細を判断することとする。
【0030】
能面は前述したように、垂直方向の上下の傾き角度によって種々の感情を表現しており、観者に上下の傾き角度に対応して種々の感情をいだかせる。感情としては、幸せ,驚き,恐ろしい,悲しい,嫌悪,怒り,羞恥,不気味,呆然,落ちつき等がある。ここでは前6者を基本感情とし、他を付加感情とする。ここで基本感情としたのは、1970年代から研究されているEkmanの表情認知研究を初めとする膨大な表情認知研究で支持されている人が持っている感情のうち、はっきりと日常意識し、感じたり、他の人の顔に表出している感情を簡単にしかも文化を超えて理解しあえるとされている6つの感情(幸せ,怒り,嫌悪,興味,恐れ,悲しみ)を指す。興味は、驚きと同義である。データベース2にはデータ1,データ2およびデータ3が格納される。更にデータベース2にはコンピューター処理上に必要とされるプログラム,情報および処理手段3での処理に必要とされる情報が格納される。
【0031】
データ1は、能面の刺激画像であり、垂直方向の角度上向き50度から下向き50度の間での多数の刺激画像21からなる。上向き40度から下向き40度としても良い。他の角度範囲としても良い。
【0032】
データ2は、基本感情と付加感情からの複数選択された感情22と能面の刺激画像からの複数の選択された角度画像23の多数の組み合わせ24からなる。
【0033】
この組み合わせによって、脳器質性障害26,統合失調症27,うつ傾向(うつ病を含む)28、および人格障害,アルコール依存,薬物中毒,PTSD等が判別することを後述するように行う。図1にあっては、選択1として脳器質性障害、選択2として統合失調症、選択3としてうつ傾向(うつ病を含む)の3つの症状を表示している。なお、これらには限定されない。
【0034】
脳器質性障害患者は、一般に認知機能自体がかなりの程度障害されていると知られており、脳器質性障害と表情認知の関係が注目され多く研究され、あいまいな表情と各種脳部位の機能の関連性が解明されつつある。一般に脳器質性障害においては、生命に危険を及ぼすようなことに対しても認知障害が目立つ。例えば相手の「怒り」感情を認知できないで相手に接近すると、生体にとって危険な状況に陥ってしまう可能性が生ずる。本願発明者はこういった脳器質性障害患者の特徴・特質に注目した。「怒り」感情の把握の障害、それから、表情研究の中で「幸せ」表情の優位性(幸せの表情をしている顔のほうが記憶しやすく、忘れにくく、人の判別も容易になり、表情判断の実験でも正答率が他の表情と比較し突出して高く、反応時間も他の表情よりも早い。)は多くの健常者研究から解明されているが、こういった人類に共通の「幸せ」表情の優位性が脳器質性障害では障害されるという知見も、能面テストに応用されている。
【0035】
データベース2には、データ3として健常者のデータが入力される。図4は、能面の刺激画像に対する健常者の認知結果を示すデータである。能面画像は、健常者に下向きの浅い角度から正面までは快適な刺激であり、下向きの深い角度と上向きの角度を不快な刺激として認知する傾向がある。
【0036】
○「統合失調症患者」について
DSM-IV(精神科診断マニュアル)に記載してある統合失調症の主要な症状は以下の通りである。
【0037】
A.特徴的症状
以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのは、1ヶ月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在:
(1)妄想(2)幻覚(3)解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)(4)ひどく解体したまたは緊張病性の行動(5)陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如
注:妄想が奇異なものであったり、幻聴がその人の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声が互いに会話しているようなものであるときには基準Aの症状を一つ満たすだけでよい。
【0038】
B.社会的または職業的機能の低下
障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が以前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)
また統合失調症患者の症状には、病型(妄想型、解体型、緊張型、残遺型)により多彩な特徴が存在するが、共通した基礎症状として認知障害、思考障害などがある。
【0039】
統合失調症の認知障害研究はさまざまなものがあるが、曖昧なものの認知に弱く、明確なものの認知については健常者と大差がないという一致した見解である。本願発明者等は、統合失調症患者が、病棟内の生活や社会復帰施設で「だいたいでいいからやっておいて」「塩梅をみておいて」などの曖昧な指示に混乱を来し、家族関係などの関係悪化を招き、結果的に症状が増悪することを観察し、日々、スタッフや家族に明確な指示と対応を心がけるように助言を行っている。
【0040】
統合失調症患者のこのような「曖昧耐性の弱さ」は表情認知においても発現し、明確な基本表情においては錯誤が生じないのに、より微妙で複雑な表情や感情については簡単に混乱を来す。例えば「不気味」という感情感情については、相手を不気味に感じて、自己にとって敵対するものと認知してしまう。このように統合失笑症患者は、「曖昧耐性の弱さ」から曖昧な表情などの刺激に出会うと、論理の飛躍がおこり妄想(思考障害)が強化されてしまうということが起こりがちである。
【0041】
このように、能面テストは、こういった統合失調症患者の「曖昧耐性の弱さ」を鋭敏に検出することができる。能面画像といった「微妙」で「曖昧」な表情刺激を用いて、基本感情とその他の複合感情や複雑な感情、さらには統合失調症に特徴的な「不気味感」等の感情項目を用いることはこれまで成されて来ていない。
【0042】
(2−2)「うつ病患者」について
うつ
DSM-IV(精神科診断マニュアル)に記載してあるうつ病の症状は以下のとおりである。
[大うつ病エピソード]
以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている;これらの症状のうち1つは、1.抑うつ気分または2.興味または喜びの喪失である。
1.ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
2.ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退
3.食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加(例えば、1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加
4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6.ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7.ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある)、(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)
8.思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる
9.死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
こういったうつ病の基礎症状として様々な研究から認知のネガティブな歪みが指摘されている。
【0043】
発明者等は、こういったうつ病患者の臨床を行う上で投薬治療と共にネガティブ認知を根気よく修正することを試み続けている。また、うつ病患者の多くは、他の精神障害者とはことなり、正常心理から理解可能な感情や共感性を持ち合わせている。そのため、うつ患者は、健常者と比較して、感情や表情の認知においても基本感情、及び、微妙で複雑な感情の認知においても、基本的な判断基準がネガティブ方向へ歪む現象は認められるが、表情認知の円環構造は崩れないことが予測できる。
【0044】
入力手段1からは入力データとして感情についての質問項目、即ち感情項目11を入力する。また、処理手段3はデータベース2から必要とされる組み合わせを選択入力6とする。
このような状態で能面テストが実施される。
【0045】
処理手段3は、全体統計データ収集手段31、注目データの収集手段32、特定症状の判別(嫡出)手段33、個別データの生成と評価確認手段34および結果出力手段35からなる。
【0046】
能面画像として「微妙」で「曖昧」な表情刺激画像を用いて、基本感情、およびその他の複合感情あるいは統合失調症に特徴的な「不気味」などの感情項目毎に評価させることは、以下の利点がある。すなわち、脳器質障害者は基本感情についても認知障害がおこると言われ、統合失調症患者は、「不気味」「はにかみ」の項目で得点低下が認められる。
【0047】
前述したように、基本感情を利用することで、基本感情の認知も崩れてしまう器質性障害と基本感情の認知は崩れない統合失調症の判別が可能となる。また基本感情を用いることで、精神状態の把握に限らず、健常者のパーソナリティ、対人関係の特性、職場適応の程度、職業適性、営業成績予測などの把握も可能となる。
【0048】
表示画面上には選択された組み合わせに使用される能面の刺激画像が表示可能に準備される。そして、この刺激画像に組み合わされて使用される感情項目が選択可能とされる。感情項目は予め定めた感情項目を全て組み合わせることができる。この場合には必要とされる感情項目のデータは処理時に取捨選択される。
【0049】
このように、データベース2は、刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と刺激画像についての感情項目から選択された複数の感情項目が人間の各種精神症状・心理状態毎に予め設定された組み合わせを複数、例えば3つ以上格納する。また、処理手段3は、設定された多数の組み合わせの中から特定症状の1つの組み合わせが選択可能であり、該選択された組み合わせについて刺激画像と該刺激画像に対する感情項目が入力可能とされる。そして、各設定した感情項目について質問(はい,いいえ)と肯定回答(はい)についてのデータおよび回答に至るまでの反応時間値がデータとして取得される。
【0050】
全体統計データ収集手段31は、能面テストを行う機能であり、各刺激画像について各感情項目の質問と回答を入力する手段311,回答による反応値および反応時間値の収集を行う手段312,基準値に対する反応データおよび反応時間データの収集を行う手段313から構成される。
【0051】
本実施例でベースとなるレスポンスデータは、肯定回答(「はい」「いいえ」を示す1,0データ)と反応時間であり、その肯定回答を感情項目毎に集計し直した1肯定数、2表情評定変化数、3表情のバランス係数、4健常者からの逸脱得点は一次処理を行った変数である。
【0052】
刺激画像ごとの反応値およびデータについて説明する。
図4において、いま、 i = 項目番号、j = 写真番号、k = 被験者番号とする。
刺激に対する反応(R(i,j,k))は「はい」を1、「いいえ」を0として数値化した。--定義1
被験者kがj番目の刺激画像を見て項目iについて「はい」と回答すれば、R(i,j,k)=1、「いいえ」と回答すれば、R(i,j,k)=0とする。(例:被験者番号3の被験者が5番目の能面画像を見て感情項目番号1の「幸せ」に「はい」と答えた場合、R(1,5,3)=1となる。)健常者群のR(i,j,k)をRc(i,j,k)とする。
【0053】
15
健常者の反応の平均は、(ΣRc(i,j,k)/15)と表記できる。
k=1
項目肯定数
項目肯定数は以下のように定義される。
いま、 i = 項目番号、j = 写真番号、k = 被験者番号とする。
項目肯定数(L(i,k))=項目に答えられた「はい」の回数
(k番目の個人のi番目の項目に対する「はい」の回答数)
これを式に示すと次のとおりである。
15
L(i,k)=ΣR(i,j,k) …式1
j=1
健常者群のL(ik)をLc(ik)とした。
15
健常者の平均項目肯定数は(ΣLc(i,k)/15)と示される。
k=1
【0054】
反応データは、基準値に対する反応値の大きさで定められる。そして、反応値と共に(あるいは反応時間単独に)反応時間についても上述と同様に収集され、基準値に対する反応時間の長さに依存する形で反応時間データが定められる。
【0055】
注目データの収集手段32は、刺激画像に対する注目データの収集する手段321および選定された刺激画像について注目される感情項目の特定する手段322、すなわち特定の刺激画像と特定感情項目の注目データを生成する機能を有する。
【0056】
特定の刺激画像と特定感情項目の注目データの例を図6〜図9および図10に示す。図10は図6〜図9の内容をまとめたものである。
【0057】
これらの図において、横軸に刺激画像が、そして縦軸に感情項目が並べて記載してある。健常者の場合、図6に示すように、各刺激画像に対して反応データは各感情項目についてプラス(+)となって現れる。
【0058】
これに対しては、脳器質性障害の場合、感情項目の「幸せ」が上向き30度、40度でマイナス(−)となって現われる傾向があり、うつ感情項目の「怒り」が下向き40度、下向き30度でプラスとなって現われる傾向がある。これらの傾向は、図6との比較において、顕著な差異として把握できることになる。
【0059】
統合失調症の場合、感情項目の「嫌悪」が上向き10度でプラスが、そして40度においてマイナスとなって現われる傾向があり、かつ感情項目の「羞恥」が正面(0度)においてマイナスとなって現われる傾向がある。これらの傾向は、図6との比較において顕著な差異として把握できることになる。
【0060】
うつ傾向者(うつ病を含む)の場合、感情項目の「嫌悪」が下向き20度においてプラスが、そして上向き10度においてプラスが、かつ感情項目の「悲しみ」が下向き10度においてプラスが、そして感情項目の「幸せ」が正面において、マイナス、上向き10度においてマイナスとして現われる傾向がある。これらの傾向は、図5との比較において、顕著な差異として把握できることになる。図7〜図9に示したプラス・マイナス表示以外にも小さな傾向であるがプラス・マイナスが現われており、これらを加えて注目データとすることができる。
【0061】
図6〜図9をまとめると図10のようになり、収集された全体統計データから注目データを算出することによって脳器質性障害、統合失調症およびうつ傾向(うつ病を含む)を容易に判別することができ、またこの判別は健常者の注目データと比較することによってより確実に行うことができる。
【0062】
特定された刺激画像と特定された感情項目について注目データは、プラス側とマイナス側が混在した二次元構造となる。また、注目データには強弱があり、二次元構造は標準値に対してプラス側・マイナス側への山形および海底形を呈することになる。
【0063】
これらの注目データは、後述する表示画面生成手段4に表示することができ、脳器質性障害、統合失調症あるいはうつ傾向(うつ病を含む)と表示することができるが、これらの病名の表示がなくても刺激画像に対する感情項目についての注目データを表示することによって脳器質性障害、統合失調症あるいはうつ傾向者(うつ病を含む)であると同等の表示を行うことができる。
【0064】
このようにして、特定症状の判別手段33は判別された脳器質性障害331、判別された統合失調症332、あるいはうつ傾向(うつ病を含む)333を表示する出力を行うことができる。
【0065】
個別データの生成と評価確認手段34は、判別された各症状について個別データの生成を行い、評価確認のためのデータの提供を行う。このために、この手段34は、判別毎の健常者データの入力手段341すなわち取り入れ機能、認知的マッピングデータ生成手段342、レーダーチャートデータ生成手段343、健常者データとの比較手段345、および判別式(1)、(2)、(3)の適用手段を有する。これらの手段によって生成された判別毎の個別データは表示画面生成手段4に表示される。このように、判別に対する評価確認を行うための機能の役目を果す。
【0066】
結果出力手段35は、健常者データ図との比較図出力手段351および判別式(1)、(2)、(3)による結果データ図出力手段352を有する。これらの図は、表示画面生成手段4に表示される。表示画面生成手段4は、特定の刺激画像と特定感情項目の注目データ表示手段411,健常者データ図との比較図表示手段412,および判別式(1)、(2)、(3)による結果データ図表示手段413を有する。
【0067】
○反応時間による判別について
反応時間による判別についても反応による判別と同様である。
【0068】
統合失調症患者は、発症初期から、慢性期に到るまで「不気味感」を持つ。能面テストを実施することで、能面の表情が「不気味」であるかどうかを判断してもらうことで、反応時間を測定し、統合失調症患者の「不気味感」に対する慢性的準備状態が示される。統合失調症患者は全項目の反応時間は健常者と比較して長く、2800ms以上であるのに、能面画像下10度,正面,上10度,上20度のいずれかの画像についてのみ「能面が不気味と思っている」への反応時間が1200ms以下である。
【0069】
うつ病患者に対する表情認知の実験はこれまで多く行われているが、うつ病患者のネガティブ感情に対する反応のみに焦点付けられた研究が中心である。能面の画像に対して反応値と反応時間値を計測し、基準値との比較によってネガティブ感情項目(マイナス)にポジティブ感情項目(プラス)について注目データを収集することを行う。
【0070】
従来のうつ病判定システムは質問紙法などのように被験者によって簡単に誘導できるシステムにおいて判定されているため、職場や学校などで障害者であることを隠蔽することも可能であった。実施例の方法によれば、感情項目と能面画像がランダムに提示されるためにその誘導はほとんど不可能である。そのため、学習による誘導はほとんど不可能であるので、継続的に気分の波を計測することが期待される気分障害(うつ傾向)の判別システムとして、また定期的に検査する心理テストとしての妥当性,信頼性が望める。
【0071】
今回は能面画像に対してうつ病患者はネガティブ感情に多く肯定し、ネガティブ感情についての反応時間も短くなるという知見を利用してうつ傾向者(うつ病を含む)の判別を行う。反応のみを用いた診断システムは、判定率が90%であるので、反応時間を判別式にあてはめることにより、判別率を95%以上にあげることができる。
【0072】
さらに、反応時間データを用いることで、PTSD及び、他の不安障害患者の過敏状態を把握できる可能性がある。
【0073】
またこれまで、多くの抑うつチェックリスト(うつ病尺度)において、うつ傾向が、「うつ病を示しているのか」,「人格障害から来るのか」,「統合失調症の症状から来るのか」,「PTSDに随伴するうつ傾向なのか」,「不安障害の一状態を示しているのか」、あるいは「健常者が一時的に落ち込んでいるのか」を識別することは不可能であった。
【0074】
実施例では、反応自体のみではなく、反応時間を用いることで、それらの他疾患をある程度除外したうえで、うつ病,うつ傾向を診断補助することができる。
○サブクリニカル集団の選別(精神健康低下群)について
反応時間(値)は、これまでの研究により、健常者の場合、全項目にわたって平均1600msであり、サブクリニカル集団(精神障害者やうつ傾向者等を含む精神健康状態がやや低下している群)は、400ms以下、あるいは、2800ms以上として、選別する。
【0075】
○統合失調症患者の選別について:
全項目に対する反応の平均が2800ms以上の対象者のうち、能面画像下10度,正面,上10度,上20度のいずれかの画像についてのみ「能面が不気味と思っている」への反応時間が1200ms以下である場合は統合失調症の疑いとする。(他のネガティブ感情項目でも一定して反応時間が短い場合は、以下の項目でうつ傾向(うつ病を含む)を検討し、不気味についてのみの場合でも全ての画像で反応時間が短い場合は、詐病(精神障害を装って精神鑑定などで刑を免れる状態)を疑う。)
【0076】
○うつ傾向者(うつ病を含む)の選別について:
全項目に対する反応の平均が2800ms以上の対象者のうち、ネガティブ感情項目(悲しみ,怒り,嫌悪,不気味,恐れ)とポジティブな感情項目(幸せ,はにかみ,落ち着き)の差が1000ms以上でネガティブ感情項目について反応時間が短縮される場合はうつ病(通院投薬治療が必要な精神病)を疑い、差が500ms以上1000ms未満の場合は健常群のうつ傾向とする(職場や学校などで適応範囲内であり、産業カウンセリングや学校カウンセリングで対応可能範囲)。
【0077】
覚醒水準と結びついた項目「驚き」「呆然」は、PTSD症状の過覚醒を反映すると考えられる。
【0078】
判別は判別式(1)(2)(3)の適用346について説明する。
以下に3つの判別式(1)(2)(3)を示す。
【0079】
1)能面テストの結果により、精神疾患を疑われる被験者の中で脳器質性障害を集中する判別式(87%判別可能)
z=−0.550×幸上30−1.588×幸上40+0.972×怒下40+
0.999×怒下30−0.276
この式において図7の注目データが採用される。
【0080】
2)精神障害を疑われる被験者から脳器質性障害を除外した集団の中で統合失調症患者を抽出する判別式(82%判別)統合失調症の可能性が高い程得点は上昇する。
【0081】
z=−1.485×嫌悪上40+1.330×嫌悪上10−0.789×恥正面+
0.247
この式において、図8の注目データが採用される。
【0082】
3)健常集団(企業,学校)の中でうつ傾向がある人を抽出する判別式(90%判別)
z=−0.295×幸正面−1.420×幸上10+1.925×悲下10+1.137
×嫌悪下20+0.963×嫌悪上10+0.408
この式において、図9の注目データが採用される。判別のために多くの刺激画像および多くの感情項目を使用して精度を上げることができる。
【0083】
上述の式は知識と経験から以下に述べる疾患やうつ状態の把握が能面の刺激画像が示す表情認知の差異によってできることを示す。上式を更に詳細なものにしてもよい。
【0084】
脳器質性障害患者は、極端に上を向いた能面画像については健常者よりも幸せを感じない。また、極端に下を向いた能面画像について健常者より、「怒り」を感じる傾向がある。このことより経験則から1つの例として上述の判別式が得られた。
【0085】
統合失調症の初期の顕著な症状に被害妄想があるが、その妄想を表現する日常の感情語として「嫌悪」があげられる。しかし、精神科臨床経験では、慢性期の統合失調症患者は、他者のうそが見抜けず簡単に騙されてしまうという特性が顕著になってくる。これは他者の悪意に対して統合失調症患者が鈍感になっていることを示すと考えられる(公知の論文)。さらに公知の論文で能面のはにかみ認知が統合失調症において障害されていることが分った。以上のことから、「不気味」「嫌悪」「羞恥」の3つの感情語にあらわれる能面画像認知の歪みを用いて統合失調症患者と健常者を判別する式として上述の判別式(2)が採用し得る。
【0086】
統合失調症患者は、極端に上向きの能面画像について「嫌悪」を読みとれない(他者の悪意に気づかない)のに、やや上向きでは健常者に比較して嫌悪を感じてしまう(微細なサインから被害妄想的になる)、統合失調症患者は「はにかみ」認知において健常者と異なる(公知の論文)ため、正面の能面画像に対して「羞恥」を読みとり過ぎてしまう。
他の例としては、詳細にした判別式も採用し得る。
【0087】
うつ病患者は、健常者が「幸せ」と認知しやすい正面付近の能面画像を「悲しみ」「嫌悪」と判断し、ネガティブ感情認知への偏倚が認められる。
【0088】
図11は、図12の状態を障害別の刺激画像と感情項目の3次元構造で示す図であり、正の側からパースペクティブを示す。図12は図11の状態の内、負の側のパースペクティブを示しており、判り易くするための正の側に伸びる棒グラフを削除して示している(ただし、健常者についての棒グラフは表示した)。
【0089】
図13は脳器質性判別得点(BRSCORE)を示す。脳器質性障害あり群と脳器質性障害なし群の場合では図13に示すように明確に分かれる。
【0090】
図14は統合失調症判別得点(S得点)を示す。統合失調症群と健常群とでは図14に示すように明確に分かれる。
【0091】
時間短縮の為の簡便法を採択した判別式(2)の場合は統合失調症の可能性が高い程、得点は上昇するが、図12の場合は、判別率を99%にするためすべての変数を用いて判別式を導入した場合であり、その場合は、統合失調症の表情認知特性が強いほど小さい値となり、統合失調症患者は負の値となる。
【0092】
図15はうつ傾向判別得点(うつ得点)と示す。抑うつ傾向健常者と抑うつ傾向なしの場合では図15に示すように明確に分かれる。
【0093】
処理手段3は、図13〜図15に示すように、各組み合わせについて各刺激画像毎に設定した係数が設定され、健常者の統計データを入力したときに負正いずれかの得点を算出するものであり、特定の症状者の設計データを入力したときに正負の得点を算出することを行う。
横軸は、0:対照群(非疾患群)と1:疾患群を示す。
【0094】
図16は正準判別関数を示し、統計された健常者群、統合失調症群および脳器質性障害群を示す。図16において、関数1、関数2は次の通りである。
関数1:表情認知の円環構造の崩れ度(バランスが全方向へ崩れるほど数値が上昇する)
関数2:表情認知の円環構造の快側への偏倚(快-不快の軸が快側に矮小化するほど数値が上昇する。関数1の場合は全方向へバランスが崩れるが関数2は円環構造がつぶれて半円構造となる。)
以上のようにして結果出力を行う。
【0095】
以上のようにして、入力された組み合わせについて刺激画像と感情項目に対する肯定回答、または当該刺激画像についての感情項目に対する回答時の反応時間を統計し、基準値との比較によって反応データおよび反応時間データを算出し、健常者の当該組み合わせについての刺激画像と該刺激画像に対する反応データおよび/または、反応時間データの統計とを比較することによって特定症状に該当するかを判別する統計判別方法と、および特定症状の特質を示す刺激画像についての感情項目による統計値(得点)を健常者の統計値(得点)と比較することによって判別する判別式判別方法が構成される。
【0096】
統計判別方法および判別式判別方法は並列処理法として、また直列処理法としてもよい。直列処理法を図1において鎖線もしくは一点鎖線で示す。直列処理法を採用することによって判別確率は向上する。また、肯定数データによる判別および反応時間による判別を並用することによっても判別確率は向上する。
【0097】
次に表示画像生成手段4について説明する。
いくつかのプロフィール図を次に示す。
【0098】
図17は、脳器質性障害の場合のレーダーチャートによる表情構造モデルの例を示す。
図18は、統合失調症の場合のレーダーチャートによる表情構造モデルの例を示す。
図19は、うつ傾向(うつ病を含む)の場合のレーダーチャートによる表情円環構造モデルの例を示す。
【0099】
これらの図は、特定された感情項目毎に特定された刺激画像の統計の状態をプロフィール図として表示し、健常者の状態を示すプロフィール図を対比して表示する。
【0100】
「今の気分」と表示されている変数は、「幸せ」などの感情項目に答えた「はい」の合計数つまり肯定数である(9個の能面画像すべてに「はい」と答えれば9となる)。
【0101】
NMTscoreは、能面テストスコアの略であり、健常者の70%以上が答えたパターンとすべて一致すれば100点、すべて異なれば0点となるように標準化された得点である。
【0102】
図17は.脳器質性障害の表情認知パターンを示す。
脳器質性障害患者の表情認知パターンは、図17(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、円環構造が崩れ、健常者においては、隣どおしで近似しているはずの感情項目が似ていないためにバランスが崩れ、円にならず、グラフの線がガタガタとなる。その結果グラフの線によって囲まれた面積は非常に小さくなる。
【0103】
図17(b)は相手の表情を読み取る力を示す。この図に示すように、NMTscoreにおいても同様に得点の高低がばらばらであるが、特に注意する点は、基本感情のなかでももっとも重要な表情(「幸せ」「怒り」等)で低得点となることである。
【0104】
図18は.統合失調症患者の表情認知パターンを示す。
統合失調症患者の表情認知パターンは、図18(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、健常者においては円環構造となるはずの感情項目で不快な感情の認知力が弱いため、不快感情の肯定数が潰れ(低得点)、快感情に偏った半円構造となる。しかし、「不気味」感情については例外的にやや健常者よりも平均得点が高い(有意差はない)。
【0105】
図18(b)は相手の表情を読み取る力を示し、この図に示すように、NMTscoreにおいては、基本感情については健常者と同様得点が高いが、「羞恥」をはじめとした複雑な感情の得点が低い。
【0106】
図19は.うつ傾向者(うつ病を含む)の表情認知パターンを示す。
うつ傾向者(うつ病を含む)の表情認知パターンは、図19(a)に示すように、今の気分(感情項目肯定数)は、健常者と同様円環構造であるが、ネガティブ感情への偏倚がみられる。
【0107】
図19(b)は相手の表情を読み取る力を示し、この図に示すように、NMTscoreにおいては、基本的に健常者の得点とほぼ同じであるが、「悲しみ」、「怒り」、「嫌悪」などのネガティブ認知に肯定しやすいため、結果としてそれらの感情項目で得点が低下する。
【0108】
図20は、職業別のプロフィール(適職診断システムへの応用)の例を示す。
「注目しがちな表情」と表記した変数は、「能面画像評定変化数」であり、能面の角度は9種類もちいるが、近い角度どうしの能面画像に「はい」「いいえ」など、異なった回答をした場合に1を加算する変数であるため、「はい、いいえ、いいえ、いいえ、いいえ、はい、いいえ、いいえ、いいえ」と答えた場合は、3点となる変数である(実際の提示はランダムであるので、誘導は困難である)。この得点が高い感情項目については、判断の変化が激しく、その人にとって気になる表情、人の表情を読みとるときに注目してしまう表情と解釈する。この得点とTEG(東大式エゴグラム)、MINI-124(MMPIの短縮版で最も診断力があるとされる質問紙法の心理テストの簡易版である)との比較研究は未公開であるが、臨床尺度や性格との相関が得られている(併存的妥当性)。
【0109】
図20(a)に示す熟練精神科医の表情認知パターンは、数名に実施したところ以下の様な共通点が得られた。精神科医は通常患者を診察するときに意識障害を確認するためなのか、「落ち着き」、「呆然」の項目に注目した。その次に「悲しみ」に注目した。
【0110】
図20(b)に示す熟練臨床心理士数名の共通したパターンは、「悲しみ」に注目した点であった。このような特徴は医者以外の医療福祉関係者とも共通しており、福祉的な業務に従事する人の共通点として、他者の「悲しみ」に注目し、どのように援助を行っていくかを常に考えている人ということができる。
【0111】
図20(c)に示す熟練営業マンの共通したパターンは、「幸せ」「驚き」に注目した点である。相手が人好きで話をしてくれそうな人なのかどうかを気にし、自分の話に注目してくれるか(驚いて聴いてくれるか)に注目する性格があるのであろう。
【0112】
また、発明者等の研究で、数例のDV被害をうけた母子研究があるが、ネグレクト(養育拒否)をしている母親の表情認知能力は低く、虐待をうけている子供は健常者以上に表情認知能力が高く、さらに、注目する表情(能面画像評定変化数)は、「嫌悪」や「怒り」であり、常に他者に嫌われていないか怒らせてしまわないかに注目している性格となっていることが推測できた。このような傾向はいじめ被害を受けている学生も同様であり、今後学校臨床のスクリーニングシステムとしても期待できる。さらに、本願発明者等らの高校生を対象とした未公開の研究では、怒り感情の表出タイプと能面テスト結果に相関がみとめられたため、現代の課題である「キレる少年」や少年の重大犯罪を予防するシステムとして学校で健康診断時に利用できるといった応用可能性がある。
【0113】
このように、能面の表情認知実験から得られたデータを集計しなおすことで、診断ばかりでなく、性格や職業選択援助システム、ふさわしい職場配置や営業成績予測などの企業人事支援システムとしても採用しうる。
【0114】
画像表示の一例としてのグラフ表示においては、感情項目毎に合計されたデータを、感情得点としてレーダーチャートを作成し、表情円環構造モデル(Schlosbergが提唱した公知のモデルである。)人間の感情は円環構造を成しており、(人の感情は、驚き→幸せ→悲しみ→嫌悪→怒り→恐れ→驚きと一周して戻ってくるという心理学で有名な70年代からの説)そのモデルに基づき円環構造にイメージが重なりやすくするためレーダーチャート驚き,幸せ,羞恥,落ち着き,呆然,悲しみ,不気味,嫌悪,怒り,恐れの順に表示する。ここで算出した結果は、本人用用紙としての本人用出力として付属プリンターなどの用途別表示画像出力手段(診断補助手段)から印刷出力される。また、同一結果は専門家用出力としても出力される。
【0115】
生成されたデータを解析し、顔のマンガを作成し、被験者の表情認知実験の結果データに基づいて、マンガの表情を変化させて『今日のあなたの気持ち』として元気度(幸せに対する肯定率+驚きに対する肯定率×0.5、おちこみ度(3の判別式の正負逆の値)と共に出力することができる。出力方法はそれぞれの表情の割合により、モルフィング技術(視覚的平均化作業)を用い平均して出力するものである。図20はその一例としての画像表示(表出感情表示)を示す。
【0116】
また、解析の一例のプロフィール図を図22に示す。図22には統合失調症の例とうつ傾向者(うつ病を含む)の例が並列して画像表示として出力される。
【0117】
被験者個人の反応結果を多変量解析法(例:MDS(多次元尺度法)、因子分析、林の数量化理論)によって分析し、各能面画像を個人の認知的空間にマッピングする。
【0118】
具体的には、各能面画像についての複数の感情項目に対して得られた反応データを能面画像の傾き角度によって集計し、相関係数や類似度などを指標として反応パターが類似している画像どおしを近くに、似ていない画像を遠くに配置することで認知的空間マッピングを行う。(画像1,2,3を空間マッピングする場合、近似したデータ行列を示す画像1と画像2は近い場所にマッピングされ、似ていない画像2と画像3は遠い場所にマッピングされ、視覚的には画像1と2の集団と画像3の距離が離れて主観的に把握しやすいように観察できるようになる。)
【0119】
同時に、マッピングされた能面画像から認知的空間を構成する各直交軸の認知的意味を推定し、各被験者の能面画像からの感情認知に関するメカニズムを推定することができる。(例えば、本出願においては、次元1(x軸)については、正の高得点Cd50,Cd40,Sd50,Cd30、負の高得点Cu06,Cu10,Cu02,Cd02について感情肯定率を検討したところ、正の高得点画像については、「呪い」が、負の高得点画像については、「興味」の肯定率が高かった。そこで、次元1を注意−拒否と命名した。次元2(y軸)については、正の高得点Sd30,Sd40,Sd50,Sd10、負の高得点Cu30,Cu40,Cu50,Cu20について感情肯定率を検討したところ、正の高得点画像については、「落ち着き」「希望」「はにかみ」が、負の高得点画像については、「呆然」「驚き」「悲しみ」「呪い」の肯定率が高かった。そこで、次元2を快−不快と命名した。)
【0120】
こうした能面画像の空間配置は各疾患毎に明確に異なって見えるため、専門家にそのマッピングを提示することにより診断補助ツールとして効果的であり、結果として精神科医や専門家が診断に要する時間が短縮できる。
【0121】
これらの出力図は、前述と同様にして本人用出力あるいは/および専門家用出力として画面上に、あるいは用紙上に出力される。
【0122】
以上のように、能面の刺激画像を用い、刺激画像についての感情項目について回答状況を予め設定した各症状にデータを統計する処理を行うことによって脳器質性障害,統合失調症およびうつ傾向(うつ病を含む)の多数の、少なくとも複数の症状について診断補助を自動的に行うことができ、多数の患者を多面的に迅速かつ正確に診断補助することが可能になる。
【0123】
特に、多数の患者について脳器質性障害,統合失調症およびうつ病を迅速かつ正確に判定することができるばかりでなく、他の症状についても同様に迅速かつ正確に判定することができるようになる。また、患者の治療支援システム,自己感情評価システムとしても構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の実施例を示すブロック図である。
【図2】能面の刺激画像を上下方向に示す図である。
【図3】図2を線形で示す図である。
【図4】データベースにデータ3として格納されたデータを示す図である。
【図5】刺激画像ごとの統計の取り方を説明する図である。
【図6】健常者についての注目データを示す図である。
【図7】脳器質性障害についての注目データを示す図である。
【図8】統合失調症についての注目データを示す図である。
【図9】うつ傾向者(うつ病を含む)についての注目データを示す図である。
【図10】図5から図8の注目データをまとめて表示する図である。
【図11】図11の状態を3次元構造で示す図である。
【図12】図11の内、特に負の側のパースペクティブを示す図である。
【図13】脳器質性障害判別得点(BRSCORE)を示す図である。
【図14】統合失調症判別得点(S得点)を示す図である。
【図15】うつ傾向(うつ病を含む)判別得点(うつ得点)を示す図である。
【図16】正準判別関数を示す図である。
【図17】脳器質性障害についての表情円環構造モデルを示す図である。
【図18】統合失調症についての表情円環構造モデルを示す図である。
【図19】うつ傾向(うつ病を含む)の場合のレーダーチャートによる表情円環構造モデルを示す図である。
【図20】職業別のプロフィール(適職診断システムへの応用)を示す図である。
【図21】表出感情表示の例を示す図である。
【図22】2つの症状について二次元図示する例を示す図である。
【図23】公知の二次元図示する例を示す図である。
【符号の説明】
【0125】
1…入力手段、2…データベース、3…処理手段、4…表示画面生成手段、5…用途別表示画像出力手段、6…組み合わせ選択入力、11…質問項目(感情項目)、21…能面の刺激画像、22…基本感情と付加感情からの複数選択、23…能面の刺激画像からの複数の角度画像選択、24…多数の組み合わせ、25…選択組み合わせ、31…全体統計データ収集手段、32…注目データの収集手段、33…特定症状の判別(摘出)、34…個別データの生成と評価確認手段、35…結果出力手段、100…精神症状・心理状態評価装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下角度の変位に伴って人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置において、
前記データベースは、複数の各種精神障害・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段は、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成すること
を特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項2】
請求項1において、前記個別データは、特定された刺激画像について特定された感情項目および感情項目毎に特定された刺激画像についての反応データおよび反応時間データを含んで構成されることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかにおいて、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかにおいて、前記特定された感情項目毎に特定された刺激画像の前記統計の状態をプロフィール図として表示され、健常者の状態を示すプロフィール図が対比して表示する表示画像生成手段を有することを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項7】
請求項1または2において、前記算出された刺激画像毎に特定された感情項目の前記統計の状態を質問に対する肯定データを使用したレーダーチャート図として表示され、健常者の状態を示すレーダーチャート図が対比して表示する表示画像生成手段を有することを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項8】
上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置による精神症状・心理状態評価方法において、
前記データベースには、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段によって、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成すること
を特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項9】
請求項8において、前記個別データは、特定された刺激画像について特定された感情項目および感情項目毎に特定された刺激画像についての反応データおよび反応時間データを含んで構成されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項10】
請求項8または9において、前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項11】
請求項9から10のいずれかにおいて、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項12】
請求項8から10のいずれかにおいて、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項1】
上下角度の変位に伴って人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置において、
前記データベースは、複数の各種精神障害・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段は、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成すること
を特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項2】
請求項1において、前記個別データは、特定された刺激画像について特定された感情項目および感情項目毎に特定された刺激画像についての反応データおよび反応時間データを含んで構成されることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかにおいて、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかにおいて、前記特定された感情項目毎に特定された刺激画像の前記統計の状態をプロフィール図として表示され、健常者の状態を示すプロフィール図が対比して表示する表示画像生成手段を有することを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項7】
請求項1または2において、前記算出された刺激画像毎に特定された感情項目の前記統計の状態を質問に対する肯定データを使用したレーダーチャート図として表示され、健常者の状態を示すレーダーチャート図が対比して表示する表示画像生成手段を有することを特徴とする精神症状・心理状態評価装置。
【請求項8】
上下角度の変位に伴なって人間の多数の感情を現わす能面を画像化した多数の刺激画像をデータとして格納するデータベースと、該刺激画像を表示する画像表示装置と、該画像表示装置に個々の刺激画像が順次表示された状態で該刺激画像から受ける感情についての質問項目(感情項目という)および各感情項目についての質問に対する回答の結果を表示する手段と、前記刺激画像から受ける感情についての感情項目毎に、質問に対する回答を統計する手段と、統計された統計データを基に精神症状・心理状態を評価する処理手段を有する精神症状・心理状態評価装置による精神症状・心理状態評価方法において、
前記データベースには、複数の各種精神症状・心理状態について、前記刺激画像から選択された複数の角度の刺激画像と前記感情項目から選択された複数の感情項目との予め設定された組み合わせを格納し、
前記処理手段によって、各刺激画像に対する各感情項目についての回答から反応値および反応時間値を収集して基準値と対比することで反応データあるいは/および反応時間データを収集し、各刺激画像に対する反応データあるいは/および反応時間データから注目データを収集して特定の刺激画像に対する特定の感情項目の注目データを生成し、選択された刺激画像と感情項目と、前記データベースに格納された刺激画像と感情項目の組み合わせから特定症状の判別を行い、該特定症状について、特定の感情項目毎に反応データあるいは/および反応時間データについての健常者データ比較を含む個別データを各特定症状毎に生成すること
を特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項9】
請求項8において、前記個別データは、特定された刺激画像について特定された感情項目および感情項目毎に特定された刺激画像についての反応データおよび反応時間データを含んで構成されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項10】
請求項8または9において、前記データベースには、予め設定された組み合わせが3つ以上格納され、3つ以上の特定症状についてそれぞれ個別データが提供されることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項11】
請求項9から10のいずれかにおいて、特定症状が判別されたときに、注目データのプラスおよびマイナスを反映して予め作成された判別式を用いて評価確認を行うようにしたことを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【請求項12】
請求項8から10のいずれかにおいて、特定された刺激画像と特定された感情項目について前記注目データは、プラス側とマイナス側が混在した三次構造となることを特徴とする精神症状・心理状態評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2007−44311(P2007−44311A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232622(P2005−232622)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(505303152)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(505303152)
【Fターム(参考)】
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