説明

精製ジャトロファ油の製造方法

【課題】ホルボールエステル含有量を除去・低減させ、かつ、酸価が低い精製ジャトロファ油の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の精製ジャトロファ油の製造方法は、ジャトロファ油と、該ジャトロファ油の酸価に対し1.0当量以上のアルカリ化合物を含むアルカリ水溶液と、を混合させた混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を攪拌し、ジャトロファ油から脂肪酸を除去する脱酸工程と、前記混合液から脱酸されたジャトロファ油を分離する分離工程と、を含むことを特徴とする精製ジャトロファ油の製造方法であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルボールエステルを含むジャトロファ油を精製する精製ジャトロファ油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物由来の油脂が、食品油脂からバイオマス燃料に至るまで、幅広く利用される中、原料油脂から遊離脂肪酸を除去し、品質の良好な油脂を精製することが求められている。 特に、トウダイグサ科の植物油脂であるジャトロファ油は、バイオマス燃料に好適な油脂として注目され、品質の良好な精製ジャトロファ油が求められている。
【0003】
この点に関し、従来の油脂の精製方法としては、油脂にアルカリ水溶液を加え、遊離脂肪酸を脂肪酸の塩として除去する、アルカリ脱酸の方法が知られている。
例えば、米ぬか油のアルカリ精製において、含有される遊離脂肪酸を除去するにあたり、弱アルカリ水溶液を用いて、原料油中のオリザノールを80重量%以上残存させる方法が開示されており、この方法によると、米ぬか油の脱酸方法において、遊離脂肪酸を必要なレベルまで低下させながら、従来、同時に除去されていたオリザノール等のフェノール性物質を高濃度に残存させることができる(特許文献1参照)。
また、遊離脂肪酸を含む油脂から遊離脂肪酸を除去する工程において、遊離脂肪酸を含む油脂を極性有機溶媒に溶解した溶液に炭酸塩あるいは燐酸塩の水溶液を添加混合し、脂肪酸を含む含水有機剤と油脂とを分離する方法が開示されており、この方法によると、酸価の極めて高い油脂を原料にしたときにおいても、簡便で効率的な遊離脂肪酸含有量(酸価)の少ない油脂を製造することができ、また、簡便な操作で効率よく酸価の少ない油脂を製造することができる(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、原料に米ぬか油を用いるものであり、ジャトロファ油の精製に用いることの検討はされておらず、したがって、ジャトロファ油の精製に必要な条件等は、何ら開示されていない。
また、特許文献2に記載の方法は、遊離脂肪酸除去工程において、極性有機溶媒を用いており、無機塩基水溶液のみを用いる方法は、開示されておらず、また、ジャトロファ油の精製に必要な条件等は、何ら開示されていない。
ジャトロファ油は、バイオマス燃料を始めとする油脂材料として、有用な原料油脂であるものの、発癌プロモーターとしての性質を有するホルボールエステルを含み、また、遊離脂肪酸の含有量が多いことから、これらの成分を除去・低減することが重要な課題であり、こうした課題を解決する手段としては、未だ提供されていないというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−119682号公報
【特許文献2】特開平8−81692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成すること課題とする。即ち、ホルボールエステル含有量を除去・低減させ、かつ、酸価を低減させる精製ジャトロファ油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。即ち、
<1> ジャトロファ油と、該ジャトロファ油の酸価に対し1.0当量以上のアルカリ化合物を含むアルカリ水溶液と、を混合させた混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を攪拌し、ジャトロファ油中に含まれる脂肪酸を除去する脱酸工程と、前記混合液から脱酸されたジャトロファ油を分離する分離工程と、を含むことを特徴とする精製ジャトロファ油の製造方法である。
<2> アルカリ化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのいずれかである前記<1>に記載の精製ジャトロファ油の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、本発明は、ホルボールエステル含有量を除去・低減させ、かつ、酸価を低減させる精製ジャトロファ油の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の精製ジャトロファ油の製造方法は、混合液調製工程と、脱酸工程と、分離工程とを含み、必要に応じて、その他の工程を含んでなる。
【0010】
−混合液調製工程−
前記混合液調製工程は、ジャトロファ油と、該ジャトロファ油の酸価に対し1.0当量以上のアルカリ化合物を含むアルカリ溶液と、を混合させた混合液を調製する工程としてなる。
【0011】
−−ジャトロファ油−−
前記ジャトロファ油は、トウダイグサ科の植物油脂であり、ジャトロファ(和名:ナンヨウアブラギリ)の種子から搾油される。
該ジャトロファ種子は、油成分を多く含み、バイオマス燃料の原料油脂として好適に利用され、また、石鹸、ろうそく、下剤、解熱剤などの原料油脂としても好適に利用することが可能であるが、前記ジャトロファ油は、発癌プロモーターとしての性質を有するホルボールエステル、その他遊離脂肪酸を含み、酸価が大きいという特性を有する。
本発明では、原料油脂としてのジャトロファ油から、前記ホルボールエステル、遊離脂肪酸を除去、低減させることを可能とする。
前記ジャトロファ油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インドネシア産のジャトロファの種子から搾油したものなどを用いることができる。
【0012】
−−アルカリ水溶液−−
前記アルカリ水溶液は、アルカリ化合物を含むこととしてなる。
前記アルカリ化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、及び炭酸塩を用いることができる。
具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができるが、中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
前記アルカリ水溶液は、1種又は2種以上の前記アルカリ化合物を含むことが好ましい。
【0013】
前記アルカリ化合物の添加量としては、前記ジャトロファ油の酸価に対し1.0当量以上であり、また、1.2当量〜1.4当量が好ましい。
1.0当量未満であると、十分に酸価の低減が行えず、1.4当量を超えると、油(グリセライド成分)のけん化が進行し、精製ジャトロファ油の収率が低下する。
【0014】
前記アルカリ水溶液には、水として、通常の水を用いることができるが、精製水が好ましい。
また、前記アルカリ水溶液のpH条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH11以上が好ましい。
【0015】
−−混合液−−
前記混合液としては、前記ジャトロファ油と、前記アルカリ水溶液とを含むものであれば、特に制限はないが、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を添加することができる。
【0016】
−脱酸工程−
前記脱酸工程は、前記混合液を攪拌し、ジャトロファ油を脱酸する工程としてなる。該脱酸工程において、ジャトロファ油から、ホルボールエステル、遊離脂肪酸が、所望の量となるまで除去・低減される。
前記攪拌の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の攪拌方法のすべてを適用することができる。
【0017】
−分離工程−
前記分離工程は、前記混合液から脱酸されたジャトロファ油を分離する工程としてなる。
前記分離の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離による分離の方法が挙げられる。
前記遠心分離を行うと、脱酸されたジャトロファ油は上層に、ホルボールエステルと遊離脂肪酸の塩は下層に、層分離され、脱酸されたジャトロファ油を分離することができる。
【0018】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0019】
−精製ジャトロファ油−
本発明の精製ジャトロファ油の製造方法により製造される精製ジャトロファ油としては、原料油脂としての前記ジャトロファ油に含まれるホルボールエステルの含有量が、80%以上低減されていることが好ましく、85%以上低減されていることがより好ましい。80%以上低減されていると、品質のよい精製ジャトロファ油を提供することができる。
また、前記精製ジャトロファ油としては、酸価が2.0mg−KOH/g以下であることが好ましく、0.5mg−KOH/g以下がより好ましい。2.0mg−KOH/g以下であると、品質のよい精製ジャトロファ油を提供することができる。
なお、酸価とは、試料1gあたり、中和に要した水酸化カリウムの質量(mg)で表される酸性物質の濃度であって、油脂の場合、脂肪酸の濃度を意味する。酸価が1mg−KOH/gとは、脂肪酸濃度0.46質量%(パルミチン酸換算)に相当する。酸価はAV(Acid Value)と呼ばれる場合もある。
【0020】
前記精製ジャトロファ油におけるホルボールエステルの含有量を測定する方法としては、特に制限はなく、例えば、Industrial Crops and Products 12 (2000) 111−118)に記載の方法が挙げられる。
具体的には、以下の方法が挙げられる。
まず、TPA(12−O−tetradecanoyl phorbol−13−acetate)をメタノールに溶解させた標準溶液を調製し、検量線を作成する。次いで、精製ジャトロファ油をメタノール溶媒に溶解させた溶液を攪拌した後、遠心分離し、その上澄みを分析試料とする。この分析試料におけるホルボールエステルを高速液体クロマトグラフィー法により検出し、前記検量線を用いて、精製ジャトロファ油におけるホルボールエステルの含有量を測定することができる。
【0021】
また、前記酸価を測定する方法としては、特に制限はなく、油脂基準分析試験法2.3.1−1996(酸価)に規定の方法が挙げられる。
具体的には、以下の方法が挙げられる。
即ち、精製されたジャトロファ油20gに、約100mLのエタノールを加えた後、0.1mol/L水酸化カリウム標準液を用いて電位差滴定を行い、終点を求め、下記数式に基づいて酸価を算出した。
【数1】

ただし、上記数式において、Aは、0.1mol/L水酸化カリウム標準液の使用量(mL)を示し、Fは、0.1mol/L水酸化カリウム標準液のファクターを示し、Bは、用いた精製ジャトロファ油の使用量(g)を示す。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき、より具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
300mLビーカーに、インドネシア産のジャトロファ油(酸価;21.5mg−KOH/g、ホルボールエステル含有量;5,000ppm)100質量部と、アルカリ化合物として水酸化ナトリウム2質量部(ジャトロファ油の酸価に対して1.3当量)を含むアルカリ水溶液10質量部を加え、これらの混合溶液を調製した(混合溶液調製工程)。
この混合溶液を85℃の温度条件下で、20分間攪拌し、ジャトロファ油を脱酸させた(脱酸工程)。
次いで、混合溶液を遠心分離装置(LC−121、トミー工業社製)を用い、3,000rpmの回転速度で20分間、遠心分離させ、脱酸されたジャトロファ油を混合溶液から分離して(分離工程)、実施例1における精製ジャトロファ油を製造した。
【0024】
(実施例2)
実施例1において、水酸化ナトリウム2質量部に代えて、水酸化カリウム2.7質量部(ジャトロファ油の酸価に対して1.3当量)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2における精製ジャトロファ油を製造した。
【0025】
(比較例1)
実施例1において、水酸化ナトリウムの添加量を、ジャトロファ油の酸価に対して1.3当量から0.75当量に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1における精製ジャトロファ油を製造した。
【0026】
(測定方法)
以下の測定方法により、実施例1、2及び比較例1の精製ジャトロファ油における、ホルボールエステル含有量と、酸価とを測定した。
【0027】
−ホルボールエステル含有量の測定方法−
実施例1、2及び比較例1における精製ジャトロファ油におけるホルボールエステルの含有量を次のように測定した。
まず、TPAをメタノールに溶解し、所定の濃度となるように標準溶液を調製し、検量線を作成した。次いで、精製ジャトロファ油1gをメタノール溶媒25mLに溶解させた溶液を調製し、5分間攪拌した後、遠心分離装置(LC−121、トミー工業社製)により遠心分離し、その上澄みを分析試料とした。この分析試料におけるホルボールエステルを、以下の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により検出し、前記検量線を用いて、精製ジャトロファ油ホルボールエステルの含有量を測定した。なお、原料油脂としてのジャトロファ油についても、同様の測定を行った(対照試料)。結果を下記表1に示す。
・HPLC分析条件
使用カラム:Lichrospher100 RP−18e
(4.0mm.I.D.×125mm×5μm:Merck社製)
移動相 :アセトニトリル:水=8/2(V/V)
流量 :1.0mL/min
カラム温度:25℃
検出波長 :280nm
注入量 :20μL
【0028】
−ホルボールエステルの低減率算出方法−
上記ホルボールエステル含有量の測定結果に基づき、実施例1、2及び比較例1の精製ジャトロファ油におけるホルボールエステルの低減率を、下記数式により算出した。結果を下記表1に示す。
【0029】
【数2】

ただし、上記数式において、Aは、精製される前のホルボールエステル含有量を示し、Bは、精製された後のホルボールエステル含有量を示す。
【0030】
−低減率の評価−
上記数式で算出された結果に基づき、下記の基準で低減率の評価を行った。結果を下記表1に示す。
○:80%以上
×:80%未満
【0031】
−酸価の測定方法−
実施例1、2及び比較例1の精製されたジャトロファ油における酸価を次のように測定した。
精製されたジャトロファ油20gに、約100mLのエタノールを加えた後、0.1mol/L水酸化カリウム標準液を用いて電位差滴定を行い、終点を求め、下記数式に基づいて酸価を算出した。なお、原料油脂としてのジャトロファ油についても、同様の測定を行った(対照試料)。結果を下記表1に示す。
【0032】
【数3】

ただし、上記数式において、Aは、0.1mol/L水酸化カリウム標準液の使用量(mL)を示し、Fは、0.1mol/L水酸化カリウム標準液のファクターを示し、Bは、用いた精製ジャトロファ油の使用量(g)を示す。
【0033】
上記数式で算出された結果に基づき、下記の基準で酸価の評価を行った。結果を下記表1に示す。
○:2.0mg−KOH/g以下
×:2.0mg−KOH/gより大きい
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の精製ジャトロファ油の製造方法により製造される精製ジャトロファ油は、ホルボールエステルが含有量が低く、酸価も抑えられているため、精製油脂を原料とする様々な油脂製品に好適に利用することができるため、本発明の精製ジャトロファ油の製造方法は、ジャトロファ油を精製する製造プロセスとして、広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャトロファ油と、該ジャトロファ油の酸価に対し1.0当量以上のアルカリ化合物を含むアルカリ水溶液と、を混合させた混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を攪拌し、ジャトロファ油から脂肪酸を除去する脱酸工程と、
前記混合液から脱酸されたジャトロファ油を分離する分離工程と、を含むことを特徴とする精製ジャトロファ油の製造方法。
【請求項2】
アルカリ化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのいずれかである請求項1に記載の精製ジャトロファ油の製造方法。