説明

精製トコフェロールの製造方法

【課題】経時的な着色が抑制された精製トコフェロールの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、精製トコフェロールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたトコフェロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トコフェロール類はその優れた生理活性や抗酸化作用により、医薬品、健康食品、化粧品、飼料などの成分として広く使用されている。トコフェロールは、その抗酸化作用により、活性酸素が引き起こす種々の疾患の予防、改善に有効であると考えられている。また、トコフェロールの生理活性としては、抗酸化作用に基づく老化防止活性などの他、抗不妊活性、抗筋萎縮活性、抗溶血活性などが知られている。また、トコフェロールはその抗酸化作用により、食品や化粧品の抗酸化剤としても広く使用されている。
天然トコフェロールは、大豆や菜種などの植物油脂中に含まれており、これらの油脂から抽出することにより製造される。また、合成トコフェロールは、例えば、トリメチルハイドロキノンとフィトール、イソフィトール、又はフィチールハライドとの縮合反応によって得られる。
しかし、これらの方法で得られる市販のトコフェロールは着色性不純物を含んでいるため、経時的に着色度合いが強くなり易い。従って、トコフェロールの効率的な精製方法が求められている。
トコフェロールの脱色を目的とする精製法として、例えば、特許文献1は、α−トコフェロールアセテートを含む反応生成物を特定温度・時間条件の蒸留に供して低沸点物を除去した後、190℃以下で蒸留する方法を開示している。また、特許文献2は、亜鉛、鉄、スズの1種以上と、微量の酸の存在下で処理して脱色する方法を開示している。しかし、これらの方法では、着色性不純物を十分に除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−100081号
【特許文献2】特開昭49−80074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、経時的な着色が抑制された精製トコフェロールの効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) 精製方法としては、シリカゲルや活性炭などを用いて不純物を吸着する方法、特定溶媒への分配を利用して抽出により不純物を除去する方法、蒸留法などがあるが、蒸留法により精製したトコフェロールは、製造直後の着色が少なく、かつ経時的な着色度度合いの増大も少ない。
(ii) 蒸留法でトコフェロールを精製すると、却って、酸性物質が増加する。
(iii) 最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留することにより、酸性物質の増加を抑えつつ、着色度合い及びその経時的な増大が抑制された精製トコフェロールが得られる。
【0006】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の精製トコフェロールの製造方法等を提供する。
項1. 原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、精製トコフェロールの製造方法。
項2. 原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、項1に記載の方法。
項3. 液体クロマトグラフィーにより測定される純度が90%以上、かつ精製トコフェロール1g中に含まれる酸性物質が、0.01mol/L水酸化ナトリウム液 2mLに相当する量以下である精製トコフェロールを得る、項1又は2に記載の方法。
項4. 原料トコフェロールとして、液体クロマトグラフィーにより測定されるδ-トコフェロール純度が80%以上のものを用いる、項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、酸性物質の増加を抑制しつつトコフェロールを精製する方法。
項6. 原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、原料トコフェロールの酸性物質の増加を抑制しつつ、着色性不純物を除去する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、酸性物質の増加を抑制しつつ、着色性不純物を効率的に除去することができる。なお、酸性物質の増加には、酸性物質量の増大や、酸性物質の種類の増加などが含まれる。これにより得られるトコフェロールは、製造直後の着色が少ないとともに、長期保管しても着色し難いものとなる。また、酸性物質が多いと臭いが強くなるが、本発明方法により得られるトコフェロールは、このような問題が生じ難い。
また、本発明方法は溶媒を使用しないため、溶媒が混入する恐れがなく、食品素材として使用し易い精製トコフェロールが得られる。また、本発明方法は、簡単な装置を用いて実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の精製トコフェロールの製造方法は、原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む方法である。
単蒸留
単蒸留は、常圧蒸留でもよく減圧蒸留でもよいが、トコフェロールの熱変性や熱分解を回避するために減圧蒸留が好ましい。減圧度は、約0.1〜10mmHgが好ましく、約0.2〜5mmHgがより好ましく、約0.5〜3mmHgがさらにより好ましい。上記範囲であれば、操作が困難になることなく、トコフェロールの変性や分解を抑制することができる。
また、単蒸留の装置は、バッチ式でも良く、連続式でもよい。
最高塔頂温度は、通常240℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下とすることができる。最高塔頂温度の下限値は通常180℃程度とすればよい。上記範囲であれば、酸性物質、及び着色性不純物の少ない精製トコフェロールが得られる。
また、蒸留時間は、通常200分間以下、好ましくは180分間以下、より好ましくは170分間以下とすることができる。蒸留時間の下限値は通常80分間程度とすればよい。上記範囲であれば、酸性物質、及び着色性不純物の少ない精製トコフェロールが得られる。
さらに、上記の最高塔頂温度、及び上記の蒸留時間の条件とすることにより、一層効果的に、酸性物質、及び着色性不純物の少ない精製トコフェロールが得られる。
【0009】
原料トコフェロール
原料トコフェロールは、大豆油、菜種油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油から抽出された天然トコフェロールでもよく、合成トコフェロールでもよい。通常は、市販品を使用すればよい。
トコフェロールは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールの何れであってもよい。また、各トコフェロールは、d-体であってもよく、l-体であってもよい。また、これらの2種以上の混合物であってもよい。本発明方法は、特に、δ-トコフェロール、中でもd-δ-トコフェロールを主成分とする原料トコフェロールの精製に好適である。
原料トコフェロールとしては、液体クロマトグラフィーにより測定されるδ-トコフェロールの純度が80%以上、中でも82%以上、特に85%以上のものが好ましい。
本発明において、トコフェロールの定量のための液体クロマトグラフィーは、定量用d-δ-トコフェロール(含量99.0%以上)を標準品に用い、第15改正日本薬局方の一般試験法の項目に記載の方法で行う。条件は以下の通りである。
・検出器:紫外吸光光度計
・カラム:ステンレス管にポリアミンを化学結合した液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充填する。
・移動相:ヘキサン/酢酸エステル混液
・検出波長:290nm
・定量用d-δ-トコフェロール:ビタミンE定量用標準試薬、含量99.0%以上(発売元エーザイフード・ケミカル(株)、製造元タマ生化学(株)、又はこれと同等の性質を有するもの)
また、原料トコフェロールは、滴定法により測定するとき総トコフェロール96%以上を含み、さらにガスクロマトグラフ法により測定するとき、その総トコフェロール量の90%以上のd-δ-トコフェロールを含むものが好ましい。
【0010】
本発明において、トコフェロールの定量のための滴定は、以下の条件で行う。
被験試料約0.05gを精密に量り、硫酸のエタノール液(硫酸3mLにエタノールを加えて200mLにしたもの)100mLを加えて溶かした後、水20mLを加え、よくかき混ぜながら、0.01mol/L硫酸第二セリウム液で滴定する(指示薬:ジフェニルアミン試液2滴)。ただし、操作は直射日光を避け、なるべく暗所で行い、滴加速度は10秒間に25滴とし、滴定の終点は液の灰青色が10秒間持続するときとする。同様の方法で空試験を行い補正する。
0.01mol/L硫酸第二セリウム液の1mLは、トコフェロールの分子量をC2746としたときの2.0132mgに相当する。従って、この比率を用いて、被験試料中の総トコフェロール量を算出する。
【0011】
また、本発明において、トコフェロールの定量のためのガスクロマトグラフィーは、医薬部外品原料規格のd−δ−トコフェロールの項目の定量法(2)の方法に従い行う。具体的には、以下の条件で行う。
被験試料約0.18gを精密に量り、無水酢酸1mL及びピリジン3mLを加え、水浴上で30分間加熱し、放冷する。冷後、ヘキサンを加えて100mLとする。その液5mLをとり、n−ドトリアコンタン0.2gをとり、ヘキサンを加えて溶かし1000mLとした内部標準溶液5mLを加えて試料溶液とする。この試料溶液につき、次の条件でガスクロマトグラフ法により試験を行う。
・カラム:内径4mm、長さ2.4mのガラス製の管にメチルシリコーンを125〜150μmのガスクロマトグラフ用ケイソウ土担体に5%の割合で被覆したものを充填する。
・カラム温度:275〜285℃の一定温度
・キャリアーガス:窒素
・流量:内標準物質の保持時間が23〜27分になるように調整する。
・注入量:3〜5μLの一定量
さらに、面積百分率法により、以下の式に従い総トコフェロール中のd−δ−トコフェロールの比率を求める。
総トコフェロール中のd−δ−トコフェロールの量(%)
=Sδ÷(Sn+Sδ)×100
Sδ:d−δ−トコフェロールの面積
Sn:d−δ−トコフェロール以外のトコフェロールの総面積
また、原料トコフェロールとしては、予め、シリカゲル、活性炭などで不純物を吸着除去したものや、(酢酸エチル、トルエン及びヘキサン)などの溶媒を用いて不純物を抽出除去したものを用いることもできる。
【0012】
精製トコフェロール
上記説明した本発明方法により、上記条件の液体クロマトグラフィーにより測定される純度が90%以上、かつ酸性物質がトコフェロール1g中に、0.01mol/L水酸化ナトリウム液 2mLに相当する量以下のトコフェロールを得ることができる。酸性物質量は実施例に記載の方法で測定できる。
本発明は、原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/若しくは蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、酸性物質量を増大させずにトコフェロールを精製する方法、又は、原料トコフェロールの酸性物質量を増大させずに、着色性不純物を除去する方法も包含する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)精製法の検討
d-δ-トコフェロール((Lot No.6102);タマ生化学株式会社製 d-δ-トコフェロール含量87.9%)を、以下の各方法で精製した。
(a)減圧蒸留法
d-δ-トコフェロールを、外温260〜270℃で減圧蒸留し、210〜223℃/270Pa(約2mmHg)の留分として淡黄色オイルを得た。
(b) シリカゲルカラムクロマトグラフィー法
富士シリシア株式会社製シリカゲルPSQ60AB 45gをn-ヘキサンに懸濁し、直径25mmのカラム管に充填した。d-δ-トコフェロール 5gを酢酸エチル:n-ヘキサン=1:20の混合溶媒10mLに溶解し、カラムクロマトグラフィーに供した。酢酸エチル:n-ヘキサン=1:15の混合溶媒で溶出し、黄褐色のオイルを4.3g得た(収率87.8%)。
(c)シリカゲルスラッジ法
d-δ-トコフェロール 5.5gを酢酸エチル 20mLに溶解した。シリカゲル60N, 11gを加え室温で30分撹拌して吸引ろ過した。残渣は酢酸エチル 20mLで洗浄し、ろ液と洗液を合わせて減圧濃縮し、黄褐色のオイルを5.38g得た(収率97.82%)。
(d)抽出法
d-δ-トコフェロール 6.3gをトルエン 30mLに溶解し、有機層を5%重曹水、1M 塩酸水、5%重曹水、水、20%塩化ナトリウム水の順で洗浄した。有機層は無水硫酸ナトリウムで脱水した後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して黄褐色のオイルを6.05g得た(収率96.03%)。
(e)活性炭カラム法
クロマトグラム用活性炭素20gを酢酸エチル:n-ヘキサン=1:10の混合溶媒に懸濁し、直径25mmのカラム管に充填した。d-δ-トコフェロール 10gを酢酸エチル:n-ヘキサン=1:10の混合溶媒10mLに溶解し、カラムクロマトグラフィーに供した。酢酸エチル:n-ヘキサン=1:10で溶出し、黄褐色のオイルを9.17g得た(収率91.7%)。
【0014】
精製前の原料d-δ-トコフェロール、及び上記(a)〜(e)の各方法で精製した直後の精製d-δ-トコフェロールについて、定量用d-δ-トコフェロール(含量99.0%以上)を標準品に用い、第15改正日本薬局方の一般試験法の項目に記載の液体クロマトグラフィーにより純度を測定した。液体クロマトグラフィー条件は以下の通りである。
・カラム:ステンレス管にポリアミンを化学結合した液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充填したもの。
・移動相:ヘキサン/酢酸エステル混液
・流量:d-α-トコフェロールの保持時間が約20分になるように調整する
・検出器:紫外吸光光度計
・検出波長:290nm
・定量用d-δ-トコフェロール:ビタミンE定量用標準試薬、含量99.0%以上(発売元エーザイフード・ケミカル(株)、製造元タマ生化学(株))
また、目視により、製造直後の色、及び50℃で1週間保管した後の色を観察した。
結果を以下の表1に示す。
【0015】
【表1】

表1より、減圧蒸留で精製することにより、最も高純度で、かつ着色の少ないδ-トコフェロールが得られたことが分かる。また、減圧蒸留により、得られたδ−トコフェロールは50℃の高温下で保管した後にも、わずかに着色が強くなったにすぎず、長期保管しても着色度合いが強くならないことが示された。
【0016】
(2)減圧蒸留の条件の検討
上記(a)の減圧蒸留条件、及び(a)において塔頂温度、及び蒸留時間を種々変化させた条件で、それぞれ減圧蒸留を行い、蒸留前後の酸性物質(滴定液消費量)を測定し、その増加量を評価した。
<酸性物質量の測定方法>
被験試料10gをとり、無水エタノール及びエーテルの等容量混液50mLを加えて溶かし、0.1mol/L水酸化ナトリウム液で滴定して、その消費量を測定する。(指示薬:フェノールフタレイン試液3滴)
【0017】
結果を、以下の表2に示す。
【表2】

【0018】
表2から明らかなように、塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の実施例1〜5で精製したδ−トコフェロールは、塔頂温度240℃超、及び蒸留時間200分間超の比較例1、2で精製したδ−トコフェロールに比べて、酸性物質の増加量が少なかった。
また、塔頂温度240℃以下、及び蒸留時間200分間以下の実施例1及び2で精製したδ−トコフェロールは、塔頂温度240℃以下(蒸留時間200分間超)の実施例3、4で精製したδ−トコフェロール、及び蒸留時間200分間以下(蒸留時間200分間超)の実施例5で精製したδ−トコフェロールに比べて、酸性物質の増加量が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明方法は、単蒸留という簡単な方法で、酸性物質の増加を抑制しつつ、トコフェロールの着色性不純物を効率的に除去することができる。これにより得られるトコフェロールは、製造直後の着色が少ないとともに、長期保管しても着色し難いものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、精製トコフェロールの製造方法。
【請求項2】
原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体クロマトグラフィーにより測定される純度が90%以上、かつ精製トコフェロール1g中に含まれる酸性物質が、0.01mol/L水酸化ナトリウム液 2mLに相当する量以下である精製トコフェロールを得る、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
原料トコフェロールとして、液体クロマトグラフィーにより測定されるδ-トコフェロール純度が80%以上のものを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、酸性物質の増加を抑制しつつトコフェロールを精製する方法。
【請求項6】
原料トコフェロールを、最高塔頂温度240℃以下、及び/又は蒸留時間200分間以下の条件で単蒸留する工程を含む、原料トコフェロールの酸性物質の増加を抑制しつつ、着色性不純物を除去する方法。