説明

精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法

【課題】ポリグリセリル基の重合度分布が広いポリグリセリルモノエーテルから、重合度分布の狭いポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含む精製ポリグリセリルモノエーテルを高い回収率で製造する方法の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される原料ポリグリセリルモノエーテルをシリカゲルに吸着させる吸着工程と、前記シリカゲルにSP値9.2〜12〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある有機溶剤を接触させて、前記シリカゲルからポリグリセリルモノエーテルを溶出させる溶出工程とを包含する、精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
RO−(C362n−H (1)
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、nはグリセリンの重合度であり、1〜9の数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリルエーテルは、非イオン界面活性剤として優れた機能を有しており、例えば、乳化、可溶化、分散、洗浄、起泡、消泡、浸透、抗菌等の目的で、食品、化粧品、農薬、医薬品等の分野で広く利用されている。
【0003】
一般的なポリグリセリルエーテルの製造方法としては、脂肪族アルコールに触媒存在下、グシリドールを付加重合させる方法が知られている。
また、ポリグリセリルエーテルの組成を制御する方法として、エピクロロヒドリンを脂肪族アルコールに1モル付加した後、アルカリ条件下で脱塩化水素閉環し、次いで希硫酸で開環する操作を、目的のグリセリン重合度に達するまで繰り返す方法や、脂肪族アルコールにグリシジルエステルを付加重合した後、アルカリを用いて鹸化処理することによりアシル基を脱離する方法(特許文献1)、アルキルグリシジルエーテルをグリセリンと反応させ、アルキルジグリセリルエーテルを合成し、その水酸基にハロゲン化アリルを縮合させ、次いでアリル基を2個の水酸基に変換する操作を、目的の重合度に達するまで繰り返す方法(特許文献2)等が知られている。
【0004】
一方、高速液体クロマトグラフィーを利用して、分子量分布の広い重合物から分子量分布の狭い化合物を選択的に分離する方法が知られている。
例えば、分子蒸留、又は陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いた液体クロマトグラフィーにより、ポリグリセリン反応物から低分子反応物を除去する方法(特許文献3)や、シリカゲルを充填したカラムにポリグリセリン脂肪酸エステルを吸着させた後、ヘキサン/酢酸エチルで溶出させて、高い乳化性能を有する成分を抽出する方法(特許文献4)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9―188755号公報
【特許文献2】特開2001−114720号公報
【特許文献3】特開平7−308560号公報
【特許文献4】特開2006−169159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリグリセリルモノエーテルは、グリセリンの重合度が異なると性質が異なり、発揮される機能も変化する。一般に、工業的に得られるポリグリセリルモノエーテルはグリセリンの重合度が異なる複数の化合物の混合物であるため、求める機能が十分に発揮できるとは限らない。このため、特定のグリセリン重合度を有するポリグリセリルモノエーテルを必要量含有する組成物が求められている。
【0007】
反応により組成を制御する場合、触媒として酸を用いると、グリシドール同士の重合反応が進行し当量のポリグリセリンを生成し、他方、塩基を用いると、分子量分布の制御が難しく分子量分布の広いポリグリセリルエーテルが生成する。そのため、グリシドールに対して大過剰のアルコールを用いて、これらの反応を抑制する必要があり、生産性が低いという問題がある。
また、特許文献1及び特許文献2記載の方法は、反応操作によってポリグリセリルエーテルの組成を制御するものであるが、反応工程が煩雑になる等といった問題があり、効率的な組成制御は困難である。
また、蒸留操作により組成の調整を行う場合、ポリグリセリルモノエーテル中のアルコール等の未反応原料やグリセリン重合度が1の化合物は減圧下で蒸留することにより留去できるものの、グリセリン重合度が2以上のものを簡便に分離することはできなかった。
一方で、特許文献3及び特許文献4に記載の技術は、前者はポリグリセリン、後者はポリグリセリン脂肪酸エステルが分離対象成分であり、ポリグリセリルモノエーテルと相違する化合物である。一般に吸着剤による分離では、溶媒と溶質と吸着剤のバランス、及び含有する微量成分に大きな影響を受け、溶質成分が異なる場合には、従来記載の分離方法の知見を適用できるとは限らない。
【0008】
したがって、本発明の課題は、ポリグリセリル基の重合度分布が広いポリグリセリルモノエーテルから、重合度分布の狭いポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含む精製ポリグリセリルモノエーテルを高い回収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、ポリグリセリルモノエーテルをシリカゲルに吸着させた後、これにSP値9.2〜12〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある有機溶剤を通液してポリグリセリルエーテルを溶出させると、グリセリンの重合度に応じてポリグリセリルエーテルを溶出分離でき、ポリグリセリル基の重合度分布の狭いポリグリセリルモノエーテルを高い回収率で回収できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表される原料ポリグリセリルモノエーテルをシリカゲルに吸着させる吸着工程と、前記シリカゲルにSP値9.2〜12〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある有機溶剤を接触させて、前記シリカゲルからポリグリセリルモノエーテルを溶出させる溶出工程とを包含する、精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法を提供するものである。
【0011】
RO−(C362n−H (1)
【0012】
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、nはグリセリンの重合度であり、1〜9の数を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明方法によれば、グリセリンの重合度に応じてポリグリセリルエーテルを溶出分離できるので、ポリグリセリル基の重合度分布の狭いポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含む精製ポリグリセリルモノエーテルを簡便に高い回収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】擬似移動床分離装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においてポリグリセリルモノエーテルとは、グリセリン又はその重合物であるポリグリセリン中の水酸基の水素原子の一つが、炭素数6〜22の炭化水素基で置換されてエーテル結合を形成したグリセリルモノエーテル及びポリグリセリルモノエーテルを併せての総称である。
【0016】
(原料ポリグリセリルモノエーテル)
本発明で用いられる原料ポリグリセリルモノエーテルは、下記一般式(1)
【0017】
RO−(C362n−H (1)
【0018】
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、nはグリセリンの重合度であり、1〜9の数を示す。)
で表される。すなわち、グリセリンの重合度が1〜9のポリグリセリルモノエーテルの混合物である。
【0019】
式(1)中、Rで示される炭素数6〜22の炭化水素基としては、洗浄性や起泡性の点から、炭素数8〜18の炭化水素基、更に炭素数10〜16の炭化水素基、特に炭素数12〜14の炭化水素基が好ましい。ここで、炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基が挙げられるが、洗浄性や起泡性の点から、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が好ましい。具体的には、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基若しくはアルケニル基等が挙げられる。
【0020】
式(1)中、−C362−は、下記式(2a)及び(2b)からなる群から選ばれる1種以上の構造を挙げることができる。
【0021】
−CH2−CH(OH)−CH2O− (2a)
−CH2−CH(CH2OH)−O− (2b)
【0022】
原料ポリグリセリルモノエーテルにおいて、式(1)中、nで示されるグリセリンの重合度が1である化合物は0〜40質量%(以下、単に「%」とする)、重合度が2である化合物は5〜40%、重合度が3である化合物は5〜35%、重合度が4である化合物は0〜25%、重合度が5である化合物は0〜20%、重合度が6以上である化合物は0〜20%の範囲であることが好ましい。洗浄性の点からは、グリセリンの重合度は2〜6が好ましく、2〜5がより好ましく、特に3〜5が好ましい。本発明の製造方法においては、条件を変更することにより、求める性能に応じて好ましい範囲を適宜変更することができる。
【0023】
原料ポリグリセリルモノエーテルは、特に限定されないが、例えば、アルコールと2,3−エポキシ−1−プロパノール(グリシドール)をアルカリや希土類元素の単純金属塩等の触媒の存在下で反応させることで得られる。また、特開2000−160190公報の段落0007−0011に記載の方法によっても得ることができる。
【0024】
反応終了後、反応液をそのまま下記吸着工程に供することができるが、反応液には、アルコール等の未反応原料が残っている場合があるため、あらかじめ、これらを低減する操作を行ってもよい。当該操作としてはろ過、蒸留、抽出等が挙げられ、なかでも蒸留操作が好ましい。未反応原料を低減することにより、本願発明における負荷を低減でき、精製ポリグリセリルモノエーテル回収率や選択性を向上させることができる。
【0025】
原料ポリグリセリルモノエーテル中のアルコールの含有量は、0〜60%が好ましく、0.1〜40%がより好ましく、特に1〜30%であることが好ましい。
【0026】
また、原料ポリグリセリルモノエーテルの粘度(50℃)は、溶剤への溶解性若しくは拡散性を向上させ、分離効率を高めるという点から、10〜500mPa・s、特に20〜300mPa・s、さらに50〜200mPa・sであることが好ましい。
【0027】
このような原料ポリグリセリルモノエーテルから、以下の吸着工程及び溶出工程を経て、特定のグリセリン重合度を有するポリグリセリルモノエーテルの含有量を高めた、精製ポリグリセリルモノエーテルを得る。
【0028】
本願発明の吸着工程及び溶出工程は、バッチ式及び連続式のいずれにおいても実施可能である。
【0029】
バッチ式の場合は、シリカゲルに原料ポリグリセリルモノエーテルを接触させ、その後、後述する有機溶剤を必要量加え、その後、有機溶剤を排出することにより行う。分離効率向上のために、シリカゲルを充填したカラムに原料ポリグリセリルモノエーテルを通液し、その後、当該カラムに後述する有機溶剤を必要量通液し、経時的に得られる画分を取得してもよい。これにより、求める組成の精製ポリグリセリルモノエーテルを得ることができる。ここで、カラム容量に対する有機溶剤の通液量の比をベッドボリューム(BV)と呼ぶ。
【0030】
連続式の場合は、シリカゲルを充填した複数のカラムに複数の導入口を設け、原料導入口からは原料ポリグリセリルモノエーテルを、溶剤導入口からは後述する有機溶剤を、それぞれ連続的に通液する。それらに加えて任意の排出口から液を循環させるための他の導入口を有していてもよい。また、当該カラムには複数の排出口を設け、組成の異なる精製ポリグリセリルモノエーテルを得ることができる。かかる操作を連続的に行うために、時間の経過に沿って原料導入口、溶剤導入口、並びに各排出口の場所を切り替える。この方式は、一般に擬似移動床方式と呼ばれる。
【0031】
(吸着工程)
本発明において吸着工程は、原料ポリグリセリルモノエーテルをシリカゲルに吸着させる工程である。
シリカゲルの平均細孔径は、3〜20nm、更に5〜15nm、特に6〜12nm、殊更7〜10nmであることが、分離性が良好な点、運転操作及び回収率改善の点から好ましい。
【0032】
また、シリカゲルの平均粒径は、150〜600μm、更に180〜500μm、特に200〜400μm、殊更242〜263μmであることが、同様な点から好ましい。また、粒径の最大値と最小値の幅(粒径分布の幅、ともいう)は100〜800μm、更に150〜600μm、特に180〜500μmであることが好ましい。
平均細孔径は、水銀圧入法、又は窒素吸着法により求めることができる。平均粒径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置により求めることができる。
【0033】
シリカゲルの使用量は、シリカゲルの全容量(m3)に対する、操作時間あたりの原料ポリグリセリルモノエーテルの全容量(m3/hr)の比(以下、原料負荷量と呼ぶ)で規定することができる。
原料負荷量((m3/hr)/m3)={操作時間あたりの原料ポリグリセリルモノエーテルの全容量(m3/hr)}/シリカゲルの全容量(m3
【0034】
「操作時間あたりの原料ポリグリセリルモノエーテルの全容量」とは、バッチ式の場合は、原料ポリグリセリルモノエーテルの全容量を、原料ポリグリセリルモノエーテルを導入した後、有機溶剤を必要量導入し終わるまでの時間で除したものをいう。連続式の場合は、時間あたりの原料ポリグリセリルモノエーテルの導入容量をいう。
原料負荷量は、各成分の分離性及び生産性より、0.005〜1.0(m3/hr)/m3が好ましく、更に0.01〜0.8(m3/hr)/m3が好ましく、特に0.015〜0.5(m3/hr)/m3が好ましく、殊更0.02〜0.3(m3/hr)/m3が好ましい。
【0035】
(溶出工程)
本発明において溶出工程は、シリカゲルに吸着されたポリグリセリルモノエーテルを特定の有機溶剤で溶出する工程である。
本願発明で用いられる有機溶剤は、SP値が9.2〜12〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある有機溶剤である。ここで、SP値とは、溶解度パラメーターを示し、例えば、「SP値基礎・応用と計算方法」(株式会社情報機構,2005年)、Polymer handbook Third edition(A Wiley−Interscience publication,1989)等に記載されている。また、SP値の具体的数値が前記文献に記載されていない溶剤については、例えば、前記「SP値基礎・応用と計算方法」又はPolymer Engineering and Science,Vol.14,No.2,147−154(1974)等に記載されているFedors法を用いて、そのSP値を求めることができる。複数の溶剤を組み合わせて用いる場合は、各溶剤のSP値の体積平均値を計算することにより求める。
【0036】
有機溶剤(括弧内はSP値を示す)としては、例えばメチルエチルケトン(9.3)、クロロホルム(9.3)、クロロベンゼン(9.5)、アセトン(9.8)、酢酸(10.5)、2−メチル−1−プロパノール(10.5)、t−ブチルアルコール(10.6)、1−ペンタノール(10.6)、ヘキサノール(10.7)、2−ブタノール(10.8)、2−メトキシエタノール(11.4)、シクロヘキサノール(11.4)、イソプロピルアルコール(11.5)、アリルアルコール(11.8)、プロパノール(12.0)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、混合後の溶剤のSP値が前記範囲となるように、SP値9.2〜12の範囲外にある溶剤をも適宜組み合わせて、SP値が前記範囲となるように調製して用いてもよい。かかる溶剤としては、ヘキサン(7.2)、エタノール(13.0)、及びメタノール(14.5)等が挙げられる。
【0038】
混合後の溶剤のSP値が前記範囲であって、ヘキサン、アセトン、及びエタノールから選ばれる1種又は2種以上を含有する有機溶剤が好ましい。好ましい組合せとしては、ヘキサン−エタノール、ヘキサン−アセトン、アセトン−エタノール等を挙げることができる。また、アセトンを含有する有機溶剤が好ましく、特にアセトンが好ましい。
【0039】
有機溶剤は、重合度の大きい成分をシリカゲルに残存させてしまうことなく溶出脱離できるという点から9.2以上が好ましく、分離性が良好な点から、SP値9.2〜11の溶剤を使用することが好ましく、更に9.2〜10.6が好ましく、特に9.5〜10.5が好ましい。
シリカゲルへの残存を防ぐため、BV=6.1の通液量において、グリセリンの重合度が6以上のポリグリセリルモノエーテルを実質的に全量、好ましくは95%以上流出できることが好ましい。
【0040】
有機溶剤の使用量は、原料ポリグリセリルモノエーテルの全質量に対して3〜45質量倍を用いるのが好ましく、更に4〜35質量倍、特に5〜25質量倍、殊更に6〜15質量倍であるのが好ましい。
擬似移動床方式を採用する場合、有機溶剤の供給速度と原料ポリグリセリルモノエーテルの供給速度の比(Ud/Uf)は、分離性及び生産効率の点から、3〜45、更に4〜35、特に5〜25、殊更に6〜15であるのが好ましい。
【0041】
溶出した画分より有機溶剤を除去することにより、求める組成の精製ポリグリセリルモノエーテルを得ることができる。
【0042】
グリセリンの重合度が2〜5、特に3〜5であるポリグリセリルモノエーテルは、高い洗浄性能を示し(特開2008−255258号公報)、また、後記実施例に示すように泡立ちが良好であることから、本発明においては、斯かるポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含む画分を回収するのが好ましい。
精製ポリグリセリルモノエーテル中、グリセリンの重合度が2〜5であるポリグリセリルモノエーテルの含有量は、合計で43%以上、更に45%以上、特に50%以上、殊更55%以上であるのが好ましい。上限は特に規定されるものではないが、経済性より99%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。
また、精製ポリグリセリルモノエーテル中、グリセリンの重合度が3〜5であるポリグリセリルモノエーテルの含有量は、合計で25%以上、更に40%以上、特に50%以上、殊更60%以上であるのが好ましい。上限は特に規定されるものではないが、経済性より99%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。
【0043】
また、この精製ポリグリセリルモノエーテル中のアルコールとグリセリン重合度が1であるグリセリルモノエーテルの含有量の和は、50%以下、更に0〜40%、特に0〜35%、殊更0〜15%であることが好ましい。
また、この精製ポリグリセリルモノエーテル中のアルコールとグリセリン重合度が1及び2であるグリセリルモノエーテルの含有量の和は、60%以下、更に0〜30%、特に0〜25%、殊更0〜20%であることが好ましい。
また、グリセリンの重合度が6以上であるポリグリセリルモノエーテルは、35%以下、更に特に0〜30%、特に0〜25%、殊更0〜20%であることが好ましい。
【0044】
原料ポリグリセリルモノエーテル中に含まれる、特定のグリセリン重合度を有するポリグリセリルモノエーテルに対し、精製ポリグリセリルモノエーテル中に含まれる、特定のグリセリン重合度を有するポリグリセリルモノエーテルを回収率50%以上で得ることが好ましく、特に60%以上、更に75%以上、殊更85%以上で得ることが好ましい。
【0045】
本発明方法で得られる精製ポリグリセリルモノエーテルは、非イオン界面活性剤として有用であり、例えば、乳化、可溶化、分散、洗浄、起泡、消泡、浸透、抗菌等の目的で使用することができる。
特に、グリセリンの重合度が2〜5であるポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含有する精製ポリグリセリルモノエーテルは、衣類用洗浄剤、食器用洗浄剤等の高泡性が求められる洗浄剤に有用である。
【実施例】
【0046】
[ポリグリセリルモノエーテルの分析方法]
試料を40℃の電気恒温乾燥機で3時間乾燥して得られた乾燥残分をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。
(GC分析条件)
<前処理>
サンプル約50mgにTMS化剤(ジーエルサイエンス社製TMS−I)約1mLを加えて攪拌した後、シリンジフィルター(PTFE0.2mm)を通して測定サンプルを得た後、下記分析装置にて分析した。
<分析装置>機種:Agilent Technologies製のガスクロマトグラフ
(HEWLETT PACKARD 6850)
検出器: FID
カラム:DB−1HTカラム(長さ15m、内径0.25mm、膜厚0.1μm)
分析温度:350℃
ガス流量:1ml/min
注入量:1μl
【0047】
[平均粒径の測定]
吸着剤の平均粒径の測定には、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置(LS 13 320、BECKMAN COULTER)を用いた。
【0048】
[粘度の測定]
50℃における粘度を、レオメーター:MCR300(Anton−Paar社製)を用いて測定した。
【0049】
[泡立ちの評価]
試料を固形分濃度1%程度になるようにアセトンで希釈した後、9mLバイアル瓶(高さ3.5cm)に5mL入れ、1分間しんとうした後、泡立ち量を定規で測定し、また泡の持続性を目視にて確認した。下記の評価基準で評点を決定した。
3:良好(しんとう直後に2mm以上の泡立ちがあり、30分後に泡が残存していた)
2:やや良好(しんとう直後に2mm以上の泡立ちがあり、30分後に泡が消失していた)
1:やや不良(しんとう直後の泡立ちが2mm未満であった)
【0050】
製造例1
ラウリルアルコール95.1g(0.50mol)、ランタントリフラート2.94g(0.0050mol)を300mL四つ口フラスコに入れ、窒素気流下、攪拌しながら90℃まで昇温した。次に、その温度を保持しながらグリシドール55.56g(0.75mol)を24時間で滴下し、そのまま2時間攪拌を続け、反応生成物153.6gを得た。
この反応生成物を、以下の吸着工程の原料1として用いた。「原料1」の組成を表1に示す。
また、50℃における原料1の粘度は108mPa・sであった。
【0051】
製造例2
原料1を、蒸留操作にてラウリルアルコールとグリセリン重合度1のグリセリルモノエーテルを低減させ、蒸留精製物を得た。50℃における蒸留精製物の粘度は3040mPa・sであった。さらに、蒸留精製物中の溶媒濃度が20wt%になるようにアセトンを加え、50℃における粘度が110mPa・sである原料2を得た。「原料2」の組成を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、「原料1」のアルコール及びグリセリンの重合度が1であるグリセリルモノエーテル(「ROH+1GE」)の含有比率は51.8%、グリセリンの重合度が2〜5であるポリグリセリルモノエーテル(「2GE〜5GE」)の含有比率は41.7%、グリセリンの重合度が6以上であるポリグリセリルモノエーテル(「6GE〜」)の含有比率は6.5%であった。
「原料2」の、アルコール及びグリセリンの重合度が1であるグリセリルモノエーテル(「ROH+1GE」)の含有比率は0.4%、グリセリンの重合度が2〜5であるポリグリセリルモノエーテル(「2GE〜5GE」)の含有比率は85.2%、グリセリンの重合度が6以上であるポリグリセリルモノエーテル(「6GE〜」)の含有比率は14.5%であった。
【0054】
実施例1
シリカゲル4B(富士シリシア化学(株)製:平均細孔径7nm)を篩(494μm・180μm)で篩うことにより、所望のシリカゲル(平均粒径263μm)を得た。これをカラム(内径1.0cm×高さ50cm、容積39.3mL)に充填した。
次に、「原料1」1.67mL(原料1/シリカゲルの容積比率0.0425)を、カラムに通液した。
【0055】
続いて、アセトン(SP値9.8(cal/cm31/2)を溶出液として、2mL/minにて120分間通液した。溶出液の全通液量は240mLであり、6.1BVに相当する。
流出液を時間ごとに分取し、「ROH+1GE」、「2GE〜5GE」、及び「6GE〜」の流出量をそれぞれ積算した。
「2GE〜5GE」の回収率が0〜29%未満の画分を「画分1」、「2GE〜5GE」の回収率が29%〜99%の画分を「画分2」、「2GE〜5GE」の回収率が99%超の画分を「画分3」、とした。すなわち、画分2における「2GE〜5GE」の回収率は70%である。
【0056】
実施例2
シリカゲル5D(富士シリシア化学(株)製:平均細孔径10nm)を篩(410μm及び180μm)で篩うことにより得たシリカゲル(平均粒径242μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0057】
比較例1
合成吸着剤SP70(三菱化学(株)製:平均細孔径7nm)を篩(373μm及び257μm)で篩うことにより得た平均粒径303μmの吸着剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0058】
比較例2
オクタデシルシリル処理シリカゲルODSFS−1830FMT(オルガノ(株)製:粒子径範囲が0.4μm〜147μm、平均粒径95μm、平均細孔径10nm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0059】
実施例3
ヘキサン66体積%とエタノール34体積%からなる混合溶剤(SP値9.2(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0060】
実施例4
ヘキサン61体積%とエタノール39体積%からなる混合溶剤(SP値9.5(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0061】
実施例5
ヘキサン47体積%とエタノール53体積%からなる混合溶剤(SP値10.3(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0062】
実施例6
アセトン75体積%とエタノール25体積%からなる混合溶剤(SP値10.6(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0063】
比較例3
溶出液としてエタノール(SP値13.0(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0064】
比較例4
アセトン34体積%とヘキサン66体積%からなる混合溶剤(SP値8.1(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0065】
比較例5
溶出液として酢酸エチル(SP値9.0(cal/cm31/2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で「画分2」を得た。
【0066】
実施例1〜6及び比較例1〜5で得た「画分2」の組成、泡立ち評価の結果、並びに有機溶剤6.1BV通液時点の「6GE〜」の回収率を求めた結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2より、ポリグリセリル基の重合度分布が広いポリグリセリルモノエーテルを、シリカゲルに吸着させた後、特定のSP値を有する有機溶剤で溶出させることにより、グリセリンの重合度に応じて溶出分離され、「2GE〜5GE」を高濃度に含む、泡立ちの良い精製ポリグリセリルモノエーテルを高い回収率で製造できることが確認された。
また、溶出液を6.1BV通液した時点における「6GE〜」の回収率は100%であった。すなわち、高重合度のグリセリンを有する成分のカラムへの残留は認められず、操作性が良好であることが示された。
一方、吸着剤として合成吸着剤を用いた比較例1、オクタデシルシリル処理シリカゲルを用いた比較例2、及びSP値が12よりも大きい溶剤を使用した比較例3では、「2GE〜5GE」の高濃度化は達成できなかった。また、SP値が9.0以下の溶剤を用いた比較例4及び5では「2GE〜5GE」及び「6GE〜」の回収率が低く、カラムへの残留が発生することが見出された。このため、比較例4及び5については泡立ち評価は行わなかった。
【0069】
実施例7〜15
実施例1で得られたクロマトグラムから求めた平均滞留時間と分散の値を用いて、クロマト分離シミュレータ(オルガノ(株)製)による擬似移動層クロマトの組成の計算を行った。
(擬似移動床分離装置)
6mカラム6本から構成される擬似移動床分離装置を構成した。概略を図1に示す。
6本のカラムを、順にゾーン1を1本、ゾーン2を2本、ゾーン3を2本、ゾーン4を1本とし、図1のように接続する。各ゾーンの通液速度はそれぞれU1〜U4とする。
原料液は、ゾーン2へ通液し、その供給速度をUfとする。溶出液はゾーン4へ通液し、その供給速度をUdとする。
ゾーン2から流出する液は、一部をラフィネートとし、残りをゾーン1へ回収する。ラフィネート排出速度をUaとする。ラフィネートはいわゆる不要成分が多く含まれる画分である。本実施例では、「ROH」、「1GE」、「2GE」、及び「6GE〜」に富む画分である。
ゾーン4から流出する液は、一部をエクストラクトとし、残りをゾーン3へ回収する。エクストラクト排出速度をUcとする。エクストラクトは求める成分が多く含まれる画分である。本実施例では、主に「3GE」ないし「5GE」に富む画分である。
かかる操作を連続的に行うために、切り替え時間Ts[hr]毎に原料導入口、溶剤導入口、及び各排出口の場所を切り替える。
以下の実施例では、U1、U3、U4、Ud、及びUcを一定にし、Ufを変化させることで従属的にU2とUaが変わる条件にてそれぞれ計算を行った。
【0070】
実施例7
原料1に対して実施例1で得られた試料から求めた平均滞留時間と分散の値(画分1:平均滞留時間16.5min、分散38.4min2/画分2:平均滞留時間21.5min、分散68.5min2/画分3:平均滞留時間47.3min、分散491.1min2)を用いて、擬似移動層クロマトの組成の計算を行った。上記平均滞留時間及び分散から求められる画分1と画分2の分離度Rs[1]は0.17、画分2と画分3の分離度Rs[2]は0.42である。カラム切り替え周期Tsは0.55時間とした。
表3に示す分離条件、操作条件にて連続運転の計算を行った。原料供給速度Ufを0.69m/h、U2を2.69m/h、Uaを1.21m/hとした。Ud/Uf=3.0である。エクストラクト画分の分析値を、「ROH+1GE+2GE」、「3GE〜5GE」、及び「6GE〜」に分けて表3に示した。エクストラクト画分中に含まれる「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率は50%となった。
【0071】
実施例8
原料供給速度Ufを0.41m/h、U2を2.41m/h、Uaを0.93m/hとして、Ud/Uf=5.0に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0072】
実施例9
原料供給速度Ufを0.28m/h、U2を2.28m/h、Uaを0.80m/hとして、Ud/Uf=7.5に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0073】
実施例10
原料供給速度Ufを0.21m/h、U2を2.21m/h、Uaを0.73m/hとして、Ud/Uf=10に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0074】
実施例11
原料供給速度Ufを0.14m/h、U2を2.14m/h、Uaを0.66m/hとして、Ud/Uf=14.8に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0075】
実施例12
原料供給速度Ufを0.10m/h、U2を2.10m/h、Uaを0.62m/hとして、Ud/Uf=20に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0076】
実施例13
原料供給速度Ufを0.05m/h、U2を2.05m/h、Uaを0.57m/hとして、Ud/Uf=40に変更した以外は実施例7と同様の条件でエクストラクト画分組成及び「3GE〜5GE」成分の原料に対する回収率の計算を行った。
【0077】
実施例14
原料2に対して実施例1と同様の操作によりクロマトグラムの平均滞留時間と分散の値を求め(画分1:平均滞留時間48.5min、分散1170.9min2/画分2:平均滞留時間17.3min、分散62.0min2/画分3:平均滞留時間39.7min、分散441.6min2)、擬似移動層クロマトの組成の計算を行った。
上記平均滞留時間及び分散から求められる画分1と画分2の分離度Rs[1]は0.37、画分2と画分3の分離度Rs[2]は0.39である。計算は、カラム切り替え周期Ts:0.44時間に変更した以外は、実施例10と同様の条件にて行った。
【0078】
実施例7〜14で計算した「エクストラクト画分」の組成及び「3GE〜5GE」の回収率を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3より、擬似移動層方式によりクロマト精製を行うと、グリセリンの重合度が3〜5のポリグリセリルモノエーテルを高濃度に含む精製ポリグリセリルモノエーテルをより高い回収率で製造できることが確認された。また、有機溶剤の使用量を低減できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される原料ポリグリセリルモノエーテルをシリカゲルに吸着させる吸着工程と、前記シリカゲルにSP値9.2〜12〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある有機溶剤を接触させて、前記シリカゲルからポリグリセリルモノエーテルを溶出させる溶出工程とを包含する、精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
RO−(C362n−H (1)
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、nはグリセリンの重合度であり、1〜9の数を示す。)
【請求項2】
シリカゲルの平均細孔径が3〜20nmである、請求項1記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項3】
シリカゲルの平均粒径が150〜600μmである、請求項1又は2記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤を、原料ポリグリセリルモノエーテルの全質量に対して3〜45質量倍使用する、請求項1〜3のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤が、ヘキサン、アセトン及びエタノールから選ばれる1種又は2種以上を含有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤が、アセトンである、請求項5記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項7】
前記有機溶剤が、ヘキサン及びエタノールの混合物である、請求項5記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項8】
シリカゲルの全容量(m3)に対する、操作時間あたりの原料ポリグリセリルモノエーテルの全容量(m3/hr)の比が、0.005〜1.0((m3/hr)/m3)である、請求項1〜7のずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項9】
吸着工程と溶出工程を擬似移動床方式によって行う、請求項1〜8のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項10】
精製ポリグリセリルモノエーテル中、グリセリンの重合度が2〜5であるポリグリセリルモノエーテルの含有量が43質量%以上である、請求項1〜9のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項11】
精製ポリグリセリルモノエーテル中、グリセリンの重合度が6以上であるポリグリセリルモノエーテルの含有量が35質量%以下である、請求項1〜10のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。
【請求項12】
吸着工程前において、原料ポリグリセリルエーテル中のアルコールを低減する工程を包含する、請求項1〜11のいずれか1項記載の精製ポリグリセリルモノエーテルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−106957(P2012−106957A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257967(P2010−257967)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】