説明

糊溶解装置

【課題】所要時間を短縮できて取扱いが簡便な糊溶解装置を提供する。
【解決手段】底部に攪拌羽根3を設けた容器2と、攪拌羽根3を回転させる変速可能なモータ5と、モータ5を制御する制御装置とを備え、この制御装置は、粘性が低い溶解初期の工程において低速度で、溶解が進んで粘性が高くなった溶解工程において高速度で上記モータを回転させるとともに、攪拌により吸い込んだ気泡を浮上させて脱気する攪拌停止期間を設定した速度パターンに基づいて上記モータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、澱粉糊などの粉末糊およびゼリー状(ペースト状)の糊を水に溶解させる糊溶解装置に関し、粘性が低い溶解初期の工程においては攪拌速度を遅く、溶解が進んで粘性が高くなった溶解後期の工程においては攪拌速度を速めて効率よく溶解させるように構成したものである。
【背景技術】
【0002】
建造物の内装工事において、壁面や天井に壁紙やシートを貼り付ける際に、施行現場で壁紙やシートの裏面に糊を塗布している。
【0003】
この糊として、粉末糊が多く使用されるようになってきている。ゼリー状に加工して販売されている糊に比して、粉末糊は、軽量であり体積も少なくて、運搬や保管スペースの確保が容易である。しかし、粉末糊は水に溶解し難いので、高効率で均一に溶解させるために、下記特許文献1に開示されているように、モータで駆動される攪拌羽根を備えた容器に水を入れ、攪拌羽根を回転させながら粉末糊を少しづつ散布しながら混合し、混合が終了しても攪拌羽根を連続的に回転させて、粉末糊が水に均一に溶解するまで攪拌を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平5−29056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の糊溶解装置においては、攪拌羽根の回転速度は、粘性が低い溶解初期の工程においても、溶解が進んで粘性が高くなった溶解後期の工程においても一定である。
【0006】
粘性が低い溶解初期の工程に、攪拌羽根を高速で回転させると、水に作用する遠心力により円筒形の容器の内面に沿って水が上昇して溢れ出すことがあるので、攪拌羽根の回転速度を溶解初期の工程で溢れ出さない程度の速度に設定するか、余裕を持たせた大きい容器を使用している。
【0007】
このように溶解初期の工程に合わせて設定された一定の回転速度によって攪拌を続けると、粘性が増した溶解後期の工程においては糊の溶解速度が遅くなり、長時間にわたって攪拌を続けても均一に溶解することは困難であった。
【0008】
そこでこの発明の糊溶解装置は、このような課題を解決するために考えられたもので、攪拌羽根の速度パターンを糊の溶解の進行状況に合わせて変化し得るように構成して所要時間を短縮ならしめるものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明の糊溶解装置は、底部に攪拌羽根を設けた容器と、上記攪拌羽根を回転させる変速可能なモータと、このモータを制御する制御装置とを備え、
この制御装置は、粘性が低い溶解初期の工程において低速度で、溶解が進んで粘性が高くなった溶解工程において高速度で上記モータを回転させるとともに、攪拌により吸い込んだ気泡を浮上させて脱気する攪拌停止期間を設定した速度パターンに基づいて上記モータを制御するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の糊溶解装置によると、攪拌速度、攪拌時間および停止時間よりなる速度パターンを設定し、この速度パターンに基づいて攪拌モータを制御することにより、粉末糊やゼリー状の糊を水と攪拌して溶解させることを小型化した装置で短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用する糊溶解装置の一部を切除して示した側面図、
【図2】溶解の進行状況に応じて攪拌羽根の回転速度を変化させる状態を示す速度パターン図、
【図3】糊溶解装置で使用する攪拌羽根の一例を示す斜視図、
【図4】攪拌羽根の他の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を適用する糊溶解装置は、図1の側面図に一例を示すように、キャスター11を取り付けた基台1に2つのワンウエイ・クラッチ61、62と、糊供給ポンプ4とを設け、この基台1の上に攪拌容器2を搭載したものである。
【0013】
攪拌容器2には、底部の中央に攪拌羽根3の軸受を挿通する穴と、糊供給ポンプ4に連通する溶解した糊の排出口41を備えている。攪拌羽根3は、その回転軸が軸受に挿通されて第1のワンウエイ・クラッチ61に結合されている。
【0014】
糊供給ポンプ4の駆動軸には、第2のワンウエイ・クラッチ62が結合されており、これら2つのワンウエイ・クラッチ61、62は、1本のベルト51を介して1つのモータ5によって回転させられる。
【0015】
ワンウエイ・クラッチは、正方向に回転させると結合し、反対方向に回転させると空転するクラッチであって、モータ5を正方向に回転させたときには攪拌羽根3が回転して糊供給ポンプ4が空転し、モータ5を反対方向に回転させたときには攪拌羽根3が空転して糊供給ポンプ4が回転するように構成されている。
【0016】
この発明の糊溶解装置において使用する攪拌羽根3は、図3の斜視図に示すように、中心が回転軸に固定される十字形の棒材33の先端に4本の棒材31、31、32、32を回転軸方向(垂直方向)に植設したものであり、4本の棒材のうち、対向する2本の棒材31、31の間隔は広くて半径の大きい軌跡を描き、交叉して対向する他の2本の棒材32、32の間隔は狭くて半径の小さい軌跡を描設くように設定されている。
【0017】
この攪拌羽根3によると、流体を回転させて遠心力により容器の内面に押し付けて周縁部の液面を上昇させ、中央部に向かって降下させることにより攪拌を行っており、攪拌羽根3によっては、流体に上下方向の流れを発生させないので、飛沫の発生が少なく空気の吸込みの少ない攪拌を行うことができる。
【0018】
また、図4の斜視図に示す攪拌羽根30を使用することができる。この攪拌羽根30は、金属板34を打抜加工および曲げ加工したもので、下向きに傾斜した4枚の羽根板35と、接線方向に対して斜めに配置して立設した4枚の羽根板36とを備え、下向きに傾斜した4枚の羽根板35によって流体に下向きの流れを発生させ、立設した4枚の羽根板36によって流体を回転させる。
【0019】
モータ5には変速可能なインダクション・モータを使用し、電圧および周波数を調整して回転速度を変化させるインバータによって駆動される。
【0020】
また、デューティ比を変化できるパルス発生器を設け、このパルス発生器の出力で開閉動作するソリッドステート・リレーにより、モータの通電電流を開閉するように構成して、デューティ比を変化させることによりモータの速度を調整してもよいのである。
【0021】
モータ5を正方向に回転させて攪拌する場合には、攪拌容器2に水(例えば、20〜22L)を入れたのち、水の量に対応する量の粉末糊(例えば、2Kg)を入れて、モータ5を正回転させて攪拌羽根3を回転させる。このとき、図2の速度パターン図に示すように、溶解の進行状況に応じて設定した速度パターンに従って攪拌羽根3の回転速度および途中の停止時間を調整する。
【0022】
流体の粘性が低い溶解初期の工程において攪拌羽根3を高速度で回転させると、攪拌容器2の内面と流体との界面における抵抗が小さいので流体が高速で回転し、遠心力により周縁部の液面が上昇して溢れ出すから回転速度が制限される。
【0023】
溶解が進んで流体の粘性が高くなると、容器2の内面と流体との界面における抵抗が大きくなって、攪拌羽根3を高速度で回転させても周縁の液面があまり上昇しないので溢れ出すことはないのである。
【0024】
溶解初期の工程に合わせて攪拌羽根3の回転速度を一定の速度に設定しておくと、溶解が進んで粘性が高くなったときに長時間を要することになる。
【0025】
そこで、この発明の糊溶解装置においては、図2の速度パターン図に示すように、モータ5の速度制御を行って、粘性が低い溶解初期の工程においては攪拌速度を低く、粘性が高くなった溶解後期の工程においては攪拌速度を速めて効率よく攪拌するように構成したものである。なお、この速度パターンは、繰り返し行った実験により収集したデータに基づいて設定したもので、マイクロ・コンピュータにより制御する。
【0026】
(1)攪拌開始時には、スロースタートにより5秒間に20%から50%の速度まで加速させ、50%の速度を5秒間持続させたのち、スローダウンにより1秒間に50%から20%の速度まで減速させて停止する。
【0027】
(2)2秒間攪拌を停止して、吸い込んだ大きな気泡を放出させる。もし停止させないで攪拌を続けると、大きな気泡が微細化されて浮上し難くなって脱気処理に時間がかかるので、存在する気泡が大きい間に速やかに浮上させて排除する。
【0028】
また、停止をさせないで攪拌を継続すると、水の中に分散した粉末糊が、水を十分吸収しない膨潤が不十分な状態であるから、全体の体積が多く、水位が上がって攪拌容器2から水が溢れ出すことがある。そのために、ある程度の攪拌力で短時間攪拌して停止させてから再度攪拌をさせることにより、粉末糊に水を吸収させるように攪拌の制御を行っている。
【0029】
(3)その後、工程(1)と同様に、スロースタートにより5秒間に20%から50%の速度まで加速させ、50%の速度を5秒間持続させたのち、スローダウンにより1秒間に50%から20%の速度まで減速させて停止する。
【0030】
(4)工程(2)と同様に2秒間攪拌を停止して、気泡を浮上させて脱気する。
【0031】
(5)スロースタートにより5秒間に20%〜80%まで加速させ、80%の速度を5秒間持続させたのち、スローダウンにより1秒間に80%〜20%の速度まで減速させて停止する。
【0032】
(6)粉末糊を膨潤させるとともに脱気処理するために20秒間停止する。
【0033】
(7)スロースタートにより10秒間に30%から100%の速度まで加速させ、100%の速度を30秒間持続させたのち、スローダウンにより5秒間に100%から30%の速度まで減速させて停止する。
【0034】
(8)気泡を浮上させて脱気するために5秒間停止する。
【0035】
(9)粘性が高くなっているので急加速しても溢れることがないので、100%の速度まで急加速して120秒間持続させたのち、気泡を浮上させ易くするために、スローダウンにより5秒間に100%から30%の速度まで減速させて停止する。
【0036】
(10)気泡を浮上させて脱気するために5秒間停止する。
【0037】
(11)さらにタイマーを設けて、利用者が溶解後期の工程における攪拌時間を適宜設定できるように構成されている。この工程では100%の速度で攪拌する。
【0038】
(その他の実施の形態)
粉末糊に限ることなく、ゼリー状(ペースト状)の糊を水で薄めるものにも、攪拌の速度パターンを変更することにより、この発明の糊溶解装置を適用することができる。
【0039】
ゼリー状の糊は、粉末糊とは異なり水に分散しにくく、攪拌羽根3を回転させてもゼリー状の糊を多数の塊状にして水の中に分散させるた状態が持続するので溶解しにくい。
【0040】
ゼリー状の糊を溶解させる場合には、上記の工程(1)の後の工程(2A)の攪拌停止時間を約10秒程度と長くして、攪拌により発生した水流が完全に静止する程度の時間攪拌を停止させる。
【0041】
そして、上記工程(1)と工程(2A)を10回程度繰り返してから上記工程(5)または上記の工程(7)へ移り、以降は上記工程と同様の制御を行う。
【0042】
ゼリー状の糊は工程(1)を繰り返すことによって徐々に水に溶解されるので、粉末糊のように少ない回数では溶解しない。実験により工程(1)を10回程度繰り返せば、ゼリー状の糊が水にほぼ溶解し、その後、攪拌速度を上げても糊が溢れ出さないことが確認できた。
【0043】
以上のとおり、この発明の糊溶解装置によると、水と糊との攪拌速度および攪拌時間の速度パターンを制御することにより、粉末糊やゼリー状の糊を攪拌して溶解させることが、小型化した装置で行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 基台
2 攪拌容器
3、30 攪拌羽根
4 糊供給ポンプ
5 モータ
51 ベルト
61、62 ワンウエイ・クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に攪拌羽根を設けた容器と、
上記攪拌羽根を回転させる変速可能なモータと、
該モータを制御する制御装置とを備え、
該制御装置は、粘性が低い溶解初期の工程において低速度で、溶解が進んで粘性が高くなった溶解工程において高速度で上記モータを回転させるとともに、攪拌により吸い込んだ気泡を浮上させて脱気する攪拌停止期間を設定した速度パターンに基づいて上記モータを制御することを特徴とする糊溶解装置。
【請求項2】
回転軸から離れた位置に回転軸方向に配置した複数本の棒材よりなる攪拌羽根を用いることを特徴とする請求項1に記載の糊溶解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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