糖結合性ポリペプチド、複合材料、及び薬剤送達システム
【課題】新規の糖結合性ポリペプチド及びその使用を提供する。
【解決手段】C型ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来の、特定な配列で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなる複数のポリペプチド、からなる群から選択される糖結合性ポリペプチド、該糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料、並びに、該糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システム。
【解決手段】C型ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来の、特定な配列で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなる複数のポリペプチド、からなる群から選択される糖結合性ポリペプチド、該糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料、並びに、該糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の糖結合性ポリペプチドに関する。具体的には、本発明の糖結合性ポリペプチドは、C型ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)のヘマグルチニンHA1由来のポリペプチド又はその変異体であることを特徴とする。
【0002】
本発明はさらに、該ポリペプチドを含むことを特徴とする複合材料及び薬剤送達システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ボツリヌス菌は、グラム陽性・偏性嫌気性の大桿菌で芽胞を形成する。芽胞は湖沼や海、土壌中などに存在しているが、嫌気的な環境下で発芽・増殖し、神経毒素を産生する。菌は産生する神経毒素の抗原性の違いよりA〜G型に分類され、通常1菌株は1種類の毒素を産生する。神経毒素は、すべての型が分子量約15万のタンパク質で性質も類似しているが、ヒトは主にA、B、E又はF型で中毒を起こすことが知られている。ボツリヌス毒素を摂取して起こる中毒(症)としては主なものに、(1)食品中で産生された毒素を摂取することにより起こる食餌性ボツリヌス中毒、(2)破傷風と同じ感染様式で創傷より芽胞が進入し、生体内で発芽・増殖・毒素産生が起こる創傷ボツリヌス症、(3)食品などと一緒に芽胞が摂取され、これが腸内で発芽・増殖し、産生された毒素を吸収することにより主に乳児で発症する乳児ボツリヌス症(非常に希ではあるが、成人で起こることもある)がある。
【0004】
ボツリヌス神経毒素(NT)は、食品或いは培養上清中に数種類の無毒タンパク質と複合体を形成した巨大複合体分子として検出される。毒素複合体は分子量約15万の神経毒素が幾種類かの無毒タンパク質成分と結合し、分子量約300Kの12S毒素、500Kの16S毒素、或いは900Kの19S毒素複合体として存在している。12S毒素は、神経毒素に赤血球凝集活性を示さない分子量約140Kの無毒成分(non−toxic non−HA;NTNH)が結合して形成される。16S毒素、19S毒素はこの12S毒素にさらに複数の無毒成分であるヘマグルチニン(HA)が結合して形成される。HAにはHA1、HA2、HA3a、HA3bなどの成分が存在する(非特許文献1)。19S毒素は16S毒素の二量体である。これまで毒素複合体構成成分は、食品と共に経口摂取され消化管を通過する際にNTをプロテアーゼの作用から守る役割と、消化管内から上皮細胞層バリヤーを通過して体内循環系に神経毒素を送り込むいわゆるトランスサイトーシスのような吸収移行機構に関与しているのではないかと考えられている。マウスを用いた実験で、神経毒素のみでも胃から吸収されるという報告があるものの、モルモットを用いた実験で腸からの吸収を詳細に検討し場合、HAをもった複合体構造の方がHAを持たないものと較べてよりよく吸収されるという報告がある。また、A型やB型の毒素複合体では培養上皮細胞によるトランスサイトーシスが観察されている。
【0005】
Inoueらは、C型HA1のX線結晶構造解析を行い、β−トレフォイル(trefoil)構造をもつCHA1の立体構造を報告した(非特許文献2)。このなかで、既に立体構造や糖結合位置が明らかにされていてやはりβ−トレフォイル構造をもつリシンB鎖と一次構造の比較を行い、糖との結合に必要な水素結合を形成するアミノ酸の位置や疎水性の相互作用を示すアミノ酸の位置を検討して、CHA1の糖結合位置の候補を1αリピートであると推定した。しかし、配列アラインメント(Fig.4)の比較から明らかなように、CHA1の配列は、リシンB鎖、AHA1又はBHA1の各配列とかなり相違しているため、またInoueらが記載するように、β−トレフォイルドメインと糖(炭水化物)との位置、配向及び相互作用は異なるタンパク質間で変化するため、単に保存アミノ酸の存在のみからCHA1の真の糖結合部位を確定することは難しいと考えられる。さらにまた、Inoueらは、C型と一次構造が似ているA型のHA1の2γにあるアミノ酸に変異(Asn285Ala及びAsp263Ala)を導入し、ラクトースとの親和性が消失したことを確認し、さらにまた2αにあるアミノ酸を置換(Asp171Ala及びAsn187Ala)してラクトース(非還元末端側については、ガラクトース)との結合性に変化が殆ど無いという結果を得て、これらのことより、A型HA1の糖結合位置は2γであると結論している。しかし、HA1の糖結合位置は、A型HA1で確認実証されたのみであり、一方、C型の糖結合部位は、上記のとおり、他のタンパク質との一次構造の相同性に基づいて推測されたが実験的に確認されていない。また、この際議論されているのはガラクトースに対する結合性のみである。
【0006】
Fujinagaら(非特許文献1)は、小腸上皮細胞又は赤血球に対して結合するC型ボツリヌス菌16S前駆体毒素の亜成分の解析を行い、HA1とHA3bが異なる特異性をもって糖(炭水化物)を認識していることを報告している。しかし、その著者らは、この論文のなかでC型HA1の糖結合位置は記載も推測もしていない。
【0007】
なお、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株の全ゲノム配列の解析は、Sakaguchiら(非特許文献3)によって報告され、その全配列は、HA1配列(Gene ID:3772939)を含みながら、GenBankに登録番号NC_007581にて登録されている。
【0008】
【非特許文献1】Fujinagaら,Microbiology,150:1529−1538(2004)
【非特許文献2】Inoueら,Microbiology,149:3361−3370(2003)
【非特許文献3】Sakaguchiら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.102(48):17472−17477(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、C型ボツリヌス菌HA1の糖結合部位を解明し、該部位又はその変異体を利用した糖結合性ポリペプチドを提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、該ポリペプチドを含む複合材料又は薬剤送達システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
【0012】
本発明は、その第1の態様において、
下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチドを提供する。
【0013】
本発明の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0014】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0015】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0016】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0017】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0018】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、ポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。
【0019】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。
【0020】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、糖と非共有結合によって結合することを特徴とする。
【0021】
本発明の別の実施形態において、上記糖は、単糖、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである。
【0022】
本発明の別の実施形態において、上記糖は、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである。
【0023】
本発明は、その第2の態様において、上記定義の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料を提供する。
【0024】
本発明は、その第3の態様において、上記定義の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システムを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリペプチドは、糖に対し結合性を有することを特徴とする。このポリペプチドは、小腸上皮細胞表面のムチン糖鎖に親和性を有するとともに、天然型配列に対して変異を導入するときには小腸以外の粘膜組織(例えば食道、胃、大腸、鼻など)や癌組織の糖鎖に対し親和性をもたせることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者らは、毒素の細胞内移行機構や細胞内輸送に関する一連の研究のなかで、C型HA1ポリペプチドと糖分子との相互作用部位を、結晶構造解析技術及び部位特異的突然変異誘発技術を用いて今回解明することができた。
【0027】
本発明の糖結合性ポリペプチドは、小腸ムチンだけでなく顎下腺ムチンや胃ムチンなどの粘膜組織ムチンと結合性を有しているし、また、ムチン固定化マイクロタイタープレートを用いて糖特異性を検証したところ、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)などの糖を認識することを見出した。
【0028】
さらにまた、FLAG標識HA成分の発現系を利用して培養細胞に対する結合性を検証したところ、HA1は、他の成分(HA3及びHA3b)より速やかに細胞内移行することも判明したことから、本発明の糖結合性ポリペプチドは、細胞内移行も可能とする特性を有していると考えられる。
【0029】
本発明は、下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチドを提供する。
【0030】
配列番号2及び配列番号3で表されるアミノ酸配列はともに、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株のHA1に由来する。C−Stockholm株の全ゲノム配列は、Sakaguchiら(非特許文献3)によって報告されており、GenBankに登録番号NC_007581にて登録されている。この配列中、HA1配列はGene ID:3772939(塩基配列番号70937〜71797)として公表されている(配列番号1及び配列番号9)。
【0031】
配列番号1で表されるアミノ酸配列中、配列番号2で表されるアミノ酸配列は149位〜191位からなり、また、配列番号3で表されるアミノ酸配列は237位〜286位からなり、いずれも4つの異なるβシートから構成されている。前者の糖結合部位はSite Iと称し、一方、後者の糖結合部位はSite IIと称する。
【0032】
Site Iのアミノ酸配列のなかで、N−アセチルノイラミン酸との結合に関与するアミノ酸残基は、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)、179位のフェニルアラニン(Phe)及び183位のアルギニン(Arg)であり(図10)、N−アセチルガラクトサミンとの結合に関与するアミノ酸残基は、167位のアスパラギン(Asn)、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)及びアルギニン(Arg)であり(図4)、ガラクトースとの結合に関与するアミノ酸残基は、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)及び183位のアルギニン(Arg)である(図7)。
【0033】
Site IIのアミノ酸配列のなかで、ガラクトースとの結合に関与するアミノ酸残基は、259位のアスパラギン(Asn)、274位のヒスチジン(His)及び278位のアスパラギン(Asn)である(図7)。
【0034】
本発明のポリペプチドは、糖が結合する立体構造(すなわち、4つのβシートからなる構造)を保持する限り、1又は数個のアミノ酸残基の変異を有していてもよい。この場合、好ましくは、糖の結合に関与する上記のアミノ酸残基は保存されるのがよい。
【0035】
上記の変異は、アミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を含む。ここで、数個とは10〜2、9〜2、8〜2、7〜2、6〜2、5〜2、4〜2、又は3〜2の整数を指す。
【0036】
本発明によれば、好ましい変異ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、或いは、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0037】
本明細書中で使用される「含む」なる用語は、HA1由来の該アミノ酸配列以外の別個のアミノ酸配列を含んでもよいことを意味する。また、「同一性」なる用語は、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列の全アミノ酸数あたりの同一アミノ酸数の割合(%)であり、配列の整列比較(アラインメント)をするときにはギャップを導入してもよいしギャップを導入しなくてもよい。配列の%同一性の決定のためには、BLASTやFASTAなどの公知のアルゴリズムを利用することができる(高木利久及び金久實編、ゲノムネットのデータベース利用法、第5章ホモロジー検索プログラムの利用法、1998年、共立出版)。
【0038】
好ましい変異は、保存的アミノ酸置換又は非保存的アミノ酸置換である。保存的アミノ酸置換とは、荷電性(正電荷又は負電荷)、極性(親水性又は疎水性)、構造的性質(芳香族官能性など)などの性質が類似したアミノ酸間の置換を意味する。例えば塩基性アミノ酸にはアルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれるし、酸性アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれるし、疎水性アミノ酸にはバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、プロリンなどが含まれるし、極性アミノ酸にはセリン、トレオニン、メチオニン、グリシン、チロシン、グルタミン、アスパラギンなどが含まれるし、芳香族アミノ酸にはトリプトファン、フェニルアラニン及びチロシンが含まれる。一方、非保存的アミノ酸置換は、上記の性質の異なるアミノ酸間の置換であり、この場合、例えば糖結合アミノ酸残基又はその近傍のアミノ酸残基を改変することによって糖に対する結合特異性を変化させることが可能となる。そのような置換の例は、Site IIの271位のアスパラギン酸(Asp)の、フェニルアラニン(Phe)への置換、Site Iのトリプトファン(Trp)の、アラニン(Ala)への置換などである(図12)。
【0039】
本発明のポリペプチドの別の例は、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドを含む以下の(5)〜(9)のポリペプチドを含む。
(5)配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(6)配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、をからなるポリペプチド、或いは、配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(7)配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(8)配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(9)配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド。
【0040】
上記の配列番号2〜8で表されるアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1のHA1配列のアミノ酸残基番号に基づいて、149〜191位(配列番号2)、237〜286位(配列番号3)、149〜236位(配列番号4)、100〜236位(配列番号5)、192〜286位(配列番号6)、149〜286位(配列番号7)、100〜286位(配列番号8)のアミノ酸配列に相当する。
【0041】
本発明のポリペプチドのさらに別の例は、上記(1)〜(9)のポリペプチドから選択されるポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。好ましくは、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。ヘテロ又はホモ多量体は、例えば二量体、三量体、四量体などである。本明細書中「多量体」とは、同じか又は異なる2以上のポリペプチドが、直接的に、或いはリンカーを介して、結合して得られるポリペプチドである。ポリペプチド間の結合は、共有結合であってもよいし、又は非共有結合であってもよい。このような多量体は、糖が結合する立体構造を保持しており、複数の糖結合部位が存在する。リンカーの例は、ペプチド性リンカー、アミノ酸の遊離アミノ基と反応性のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基、ホルミル基、エポキシ基などの官能基を両端にもつ炭化水素などを含む。リンカーの別の例は、ポリペプチドのシステイン同士の反応によって形成されるジスルフィド結合である。これに対して、リンカーを介さない場合には、単にポリペプチド同士の親和性で複合体を形成してもよい。
【0042】
本発明の実施形態において、上記ポリペプチドは、糖と非共有結合によって結合することを特徴とする。糖は、上記の3つ組又は4つ組の糖結合アミノ酸残基と水素結合や静電的結合、または疎水的結合によって結合される。
【0043】
本発明のポリペプチドと結合可能な糖は、単糖、オリゴ糖、多糖、或いは糖タンパク質である。その他の糖の例は、糖脂質又はプロテオグリカンである。好ましくは、上記糖は、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖又は糖タンパク質である。
【0044】
糖タンパク質の例は、ヒト器官(例えば腸、胃、食道、鼻など)の組織のムチン、例えばMUC1、2、3、4、6、13、15などである(M.E.Lidellら,J.Biol.Chem.,278:13944−13951(2003);L.T.Pallesenら,Eur.J.Biochem.,269:2755−2763(2002);J.R.Gim Jr.ら,BBRC 291:466−475(2002);S.J.Williamsら,J.Biol.Chem.,276:18327−18336(2001); S.J.Gendler及びA.P.Spicer,Annu.Rev.Physiol.,57:607−634(1995);S.B.Hoら,Cancer Res.,53:641−651(1993))。
【0045】
ムチンは、高度にグリコシル化された糖タンパク質であって、粘液ゲルの主要な構造成分である。ムチンの生理学的機能は、細胞保護、機械的保護、分泌液の粘性維持、及び細胞認識である。腸管の主要なムチンにはMUC2やMUC3などがあり、胃ではMUC5ACやMUC6などが多く発現している。ムチンはさらに、胆嚢、膵臓、精液小胞、及び女性の生殖管にも見出だされている。ムチンはまた、嚢胞性線維症や大腸癌の発達に関与することも知られている(M.Davril,Glycobiology,9:311321(1999);E.Lindhorst,Tumour Biol.,21:116122(2000))。
【0046】
別の糖タンパク質の例は、赤血球膜のグリコホリン、細胞表面のインテグリン類、各種レセプター糖タンパク質などを含む。糖脂質の例は、細胞表面に存在するガングリオシド類(例えばGM3)などを含む。プロテオグリカンの例は、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸などを含む。
【0047】
本発明のポリペプチドは、ペプチド合成技術又はDNA組換え技術を用いて合成することができる。
【0048】
ペプチド合成は、液相法又は固相法によって行うことができる。一般に、アミノ酸のα−アミノ基又はα−カルボキシル基、或いは側鎖の官能基、を適当な保護基で保護したアミノ酸を原料とし、α−アミノ保護アミノ酸とα−カルボキシル保護アミノ酸との間でペプチド形成反応を行う。生成ジペプチドのα−カルボキシル保護基の脱保護を行ったのち、α−カルボキシル保護アミノ酸を原料としてペプチド形成反応を行う。生成トリペプチドに対して、さらに脱保護とペプチド形成反応を行い、この操作を繰り返して目的のポリペプチドを形成し、最後に全保護基の脱保護を行い、精製工程にかける。
【0049】
α−アミノ保護基の例は、ベンジルオキシカルボニル基、p−トルエンスルホニル基、t−ブトキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基などを含む。その脱保護試薬の例は、接触還元(Pd触媒など)、HF/Na−NH3/HBr、臭化水素/酢酸、トリフルオロ酢酸などを含む。
【0050】
α−カルボキシル保護基の例は、メチル、エチル又はt−ブチルエステル基、ベンジルエステル基などを含む。その脱保護試薬の例は、苛性ソーダなどのアルカリ剤、接触還元(Pd触媒など)などを含む。
【0051】
セリンやトレオニンの水酸基、チロシンのフェノール性水酸基、アルギニンのグアニジノ基、ヒスチジンのイミダゾール基、リジンのε−アミノ基、グルタミン酸のγ−カルボキシル基、アスパラギン酸のβ−カルボキシル基、グルタミンやアスパラギンのアミド基、トリプトファンのインドール核、メチオニンのチオエーテル基などの側鎖の保護及び脱保護については、日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、第II部ペプチド合成(2章液相法によるペプチド合成(矢島治明)、3章固相法によるペプチド合成(榊原俊平))に記載されている。
【0052】
ペプチド結合形成法には、酸クロリド法、混合酸無水物法、活性エステル法などが含まれる。
【0053】
ペプチド合成方式には、段階的伸長法とフラグメント縮合法がある。段階的伸長法は、N末端側から順次、構成アミノ酸を結合する方式である。一方、フラグメント縮合法は、通常、ポリペプチドの合成に適用される方式であり、適当な長さのフラグメントのペプチド合成を行い、その後、各フラグメント同士を結合する方式である。
【0054】
好ましいペプチド合成法は、固相法である。この方法はMerrifield法として知られており、一般に、ペプチドのC末端のアミノ酸を架橋ポリスチレンに縮合させておき、N末端に向かってt−ブトキシカルボニルアミノ酸などのα−アミノ保護アミノ酸を順次縮合させる。具体的な手法は、例えば日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、第II部ペプチド合成(3章固相法によるペプチド合成(榊原俊平))に記載されている。
【0055】
DNA組換え法を用いるポリペプチドの合成は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用する遺伝子増幅、ベクターによるクローニング、発現ベクターで形質転換された大腸菌などの細菌細胞での発現などを含む方法で行うことができる。C型HA1の発現と精製は、例えばFujinagaら(非特許文献1)又はInoueら(非特許文献2)に記載されており、この手法と同様に、本発明のポリペプチドを合成することができる。
【0056】
PCR条件は、94℃30秒〜5分の変性、55〜60℃30秒〜1分のアニーリング、及び72℃1分〜10分の伸長反応を1サイクルとし、20〜40サイクル行うことを含む。プライマーは、正方向プライマーと逆方向プライマーを、配列番号1のHA1配列に基づいて、目的のポリペプチドをコードするDNAを増幅可能なように設計し、例えばDNA自動合成装置を用いて合成することができる。プライマーの長さは、例えば15〜30塩基、好ましくは19〜23塩基とすることができる。また、増幅のための鋳型は、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株の全RNAから調製したmRNAのcDNAライブラリー中に含まれるHA1をコードするcDNAとすることができる。
【0057】
さらにまた、発現ベクターは、例えば細菌用の市販プラスミドベクターのいずれかを使用することができる。ベクターには、プロモーター、複製開始点、シャイン−ダルガルノ配列(又はリボソーム結合部位)、ターミネーターなどの制御配列、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーなどを含むことができる。
【0058】
変異体の合成は、例えばPCRを利用した部位特異的突然変異誘発法などの公知の方法を用いて行うことができる。部位特異的突然変異誘発法は、例えば、変異を導入したプライマーを合成し、HA1をコードするDNA、又は該DNAを含むベクターDNA、を鋳型としてPCRを行うことを含む。この手法は、例えばQuickChange Site−Directed Mutagenesis kit(Stratagene社製)を用いて行うことができる。
【0059】
DNA組換え法、PCR法及び部位特異的突然変異誘発法は、例えばSambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989; Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,1995に記載されている手法を利用することができる。
【0060】
本発明のポリペプチドと糖との結合アッセイは、例えば後述の実施例5に記載の方法で行うことができる。簡単に説明すると、ムチン(例えばウシ顎下腺ムチン又はブタ胃ムチン)を固相化したマイクロタイターウエルプレートを作製し、ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングする。ウエルに、本発明のポリペプチドを加えてインキュベートし、プレートを洗浄した後、ウサギ抗C16無毒成分抗血清又はウサギ抗HA1抗体と反応させ、標識化抗ウサギIgG抗体を加えて反応させて、結合したポリペプチドの量を定量する。標識は、放射性同位元素(125I、32Pなど)又は酵素(ペルオキシダーゼ、ホスファターゼなど)などである。
【0061】
本発明はさらに、上記定義の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料を提供する。
【0062】
本発明のポリペプチドは、糖を結合する特性を有するため、この特性を種々の用途に利用することができる。例えば、本発明のポリペプチドを支持体に結合することによって、該ポリペプチドに結合する糖、糖タンパク質、糖脂質などの物質の分離或いは分析のために、該複合材料を使用することができる。
【0063】
支持体の例は、多糖類(例えばアガロース、セルロース、デキストランなど)、樹脂(ポリスチレン、ポリスチレン共重合体、ポリアクリルアミドなど)、シリカゲル、ガラスなどを含む。また、支持体の形状は、限定されないが、球状、粒子状、微粒子状、平面(例えばプレート、ウエルなど)などであり、支持体は多孔性又は非多孔性のいずれでもよい。
【0064】
支持体へのポリペプチドの結合は、共有結合又は非共有結合のいずれでもよい。非共有結合の例は、吸着、イオン結合、水素結合などである。また、共有結合を利用する場合、支持体表面に、ポリペプチドの例えばアミノ基、カルボキシル基、イミダゾール基、フェノール性水酸基、チオール基などの基と反応性の官能基を導入することによって、この官能基にポリペプチドを直接又はスペーサーを介して結合させることができる。官能基の例は、臭化シアン(CNBr)による多糖類の活性化によって形成されるイミドカルボネートである。官能基の別の例は、ω−アミノアルキル基、ω−カルボキシアルキル基、ブロモアセチル基、チオール(SH)基、エポキシ基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基などである。スペーサーの例は、−NH−、−NHCO−などの基を含んでもよいC4〜C10のアルキレン鎖である。官能性支持体の調製に関しては、例えば千畑一郎ら、実験と応用、アフィニティクロマトグラフィー、講談社サイエンティフィク、1980年に記載されており、その開示は本発明のために使用しうる。
【0065】
本発明はさらに、上記定義の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システムを提供する。
【0066】
本発明の薬剤送達システム(DDS)は、例えば薬剤を内包するリポソームの表面に本発明のポリペプチドを結合して得られる複合体を含む。本発明のポリペプチドは、標的細胞(例えば小腸上皮細胞、大腸上皮細胞、大腸ガン細胞など)に移行し、該細胞内に入る性質をも有しているため、この性質を利用することによって、薬剤としてのタンパク質やポリペプチドを細胞内に送達することができる。リポソームは、好ましくはカチオン性リポソームであり、これにはコレステロール系カチオン性リポソームも含まれる(中西守ら、蛋白質核酸酵素44巻11号1590〜1596頁(1999年))。カチオン性リポソームは、陰イオン性表面をもつ細胞に接近しやすいという性質を有している。このようなリポソームと本発明のポリペプチドとによって、標的細胞に接近し、その細胞内に薬剤を届ける効率が増すと考えられる。
【0067】
別のDDSの例は、薬剤がタンパク質又はポリペプチドである場合、それらと本発明のポリペプチドとの融合体である。この場合も、本発明のポリペプチドは、標的細胞内に薬剤を送達する働きをする。もし薬剤タンパク質と本発明のポリペプチドとの融合部分に、細胞質プロテアーゼによって特異的に切断可能なアミノ酸配列を挿入する場合には、細胞内に移行後に、プロテアーゼの作用によって薬剤を細胞内で放出することも可能になるだろう。このような融合タンパク質は、DNA組換え技術(Sambrookら(上記))を用いて合成することができる。
【0068】
本発明のDDSは、適切な賦形剤、希釈剤または担体と組み合わせて製剤化することができる。製剤は、固体、半固体または液体投与製剤、例えば溶液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、座剤、エマルジョン、噴霧剤などとしうる。また、製剤には、補助剤または添加剤、例えば安定化剤、界面活性剤、崩壊剤、結合剤、風味剤、懸濁助剤、滑沢剤、着色剤、噴射剤などを含みうる。投与経路は、経口、非経口、例えば静脈内投与、粘膜投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、直腸内投与、舌下投与などを含む。用量は、患者の年齢、性別、症状の程度などによって変化しうるが、例えば成人1kgあたり10μg〜10mgの有効成分(薬剤)の量である。
【0069】
最後に、本発明のポリペプチドを、HA2及びHA3と複合体を形成することも可能である。本発明のポリペプチドは、部位特異的突然変異の導入によって、天然型HA1と異なる配列を有し、糖に対する結合の特異性に変化をもたせることも可能である。例えば、アミノ酸置換により、HA1の結合糖の種類を変化させられるだけでなく、HA1分子で結合できる糖を0〜2個に調整することができる。さらにまた、HAは多分子が会合して複合体を形成するため、HA分子にバリエーションが増えれば、複合体の認識できる糖の種類や構造は計り知れない数にのぼる。細胞表面の糖鎖構造は、動物種や組織、細胞の種類、正常か異常か等によって異なることが知られている。従って、例えばヒトで考えた場合、喉、食道、胃、小腸、大腸、他に鼻など様々な粘膜組織があり、これらに対して最も効率よく細胞表面の糖鎖に結合するように複合体を調製することが可能である。そのうえ、ヒト以外でも、イヌ、ネコ、ネズミといった哺乳類、鳥類、は虫類、魚類、さらに昆虫など脊椎動物以外にも、本発明のポリペプチドの応用の可能性がある。
【0070】
本発明のポリペプチドは、腸管壁からの効率的な体内吸収のための新規のDDSとして使用可能であるし、また、例えば糖に親和性のあるレクチンのように、糖鎖構造を識別したり、糖鎖を分離したり、細胞に刺激を与える実験、研究用試薬としても使用可能である。この場合、1分子が認識できる糖の数を2個又はそれ以上に多価の反応性を付与されたものは、糖鎖の種類による分離や、識別において既存のものにない新たな用途開発につながる可能性がある。さらにまた、本発明のポリペプチドは、病気の診断、例えば細胞のガン化などにより、糖鎖構造の変化することが知られているガンの診断に使用することができる。ガン化によって変化した糖鎖構造を認識できるようにHA1や複合体を調製すれば既存のものと同等な検出、或いは既存のものでは検出できなかったものの検出を可能とするような診断薬を創製できる。
【0071】
本発明者らは、HA3についても結晶構造解析を進めてきたが、先行技術文献で記載されるようなβ−トレホイル構造などのこれまで糖親和性タンパクに多く認められた特徴的な構造などはなく、したがって、HA1で決定したような糖結合部位を、配列アラインメントのみで推測することは当業者といえども難しいことであり、実際に確認する必要があることも分かった。
【実施例1】
【0072】
C型ボツリヌス菌stockholm株HA1の結晶構造解析
(1)HA1結晶の作製方法
HA1はマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として大腸菌で発現するようにcDNAを作製した。そして、MBPとHA1との間にFactor Xaによる切断可能サイトとFLAGタグを挿入した。この融合タンパク質を大腸菌で大量に発現させ、菌体を集めて破砕し、遠心分離で得られた上清をアミロースレジンカラム(Amylose Resin,New England BioLab Inc.)にかけて精製した。次にFactor Xaを作用させてMBPを除去した後、イオン交換クロマトグラフィー(HiPrep 16/10 Q FF;GEヘルスケアバイオサイエンス)にてFLAGタグ−HA1を精製した。
【0073】
結晶化はハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて20℃で行った。具体的には3mg/ml濃度のHA1溶液1.0μlと等量の結晶化母液(12% エタノール及び1.7M NaClを含むMilli−Q水)と混合したドロップをスライドグラス上で作成し、同じ結晶化母液を加えた24−ウェルプレート上にそのスライドグラスをドロップが内側になるように配置してグリースを用いて密閉した。約一ヶ月程度の静置により結晶成長を行い良好な単斜晶型の結晶を得た。この条件は従来法に比べ母液組成が簡便であり、また、タンパク質濃度を下げることにより、より大きな結晶を形成させることが可能となった。
【0074】
(2)HA1結晶の結晶構造解析の方法
HA1結晶の回折データは、高エネルギー加速器研究機構(茨城、つくば市)のシンクロトロン(PF−AR)に設置されたBL−5Aのビームラインで収集した。X線波長は1Å、結晶に窒素ガスを吹き付け、−180℃で測定を行った。全てのデータセットはHKL2000ソフトウェア(HKL Research,Inc.;Otwinowski and Minor,Methods in Enzymology,276,p307−326)を用いて解析を行った。
【0075】
(3)HA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.6オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、これは以前の報告(非特許文献2)と同様であった。格子定数はa=138.5オングストローム、b=62.0オングストローム、c=83.1オングストローム、α=γ=90°、β=104.4°であり、完全性は99.8%、Rmergeが6.9%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを表1にまとめた。
【0076】
【表1】
【0077】
(4)HA1結晶の全体構造
結晶の空間群はC2に属し、非対称単位内にMol−A及びMol−Bの2つの分子を含む(図1)。HA1の構造は、2つのβ−trefoilドメインから構成され、α−ヘリックスからなるリンカーが2つのドメインをつないでおり、鉄アレイ様の形状をしている。N−末端側及びC−末端側β−trefoilドメインはそれぞれ1〜141及び146〜286のアミノ酸残基で構成されている。1つのβ−trefoilドメインは2つのストランドがβ−ヘアピンでつながった構造を三対持つが、それらは3回の繰り返し構造(リピート)をとっており、1つのリピートは4つのストランド(β1〜β4)で構成されている。
【実施例2】
【0078】
N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1の結晶構造解析
(1)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の作製方法
HA1−糖の複合体結晶の作製は、浸透法(soaking)により行なった。これは予めリガンドの無い状態でタンパク質の結晶を作製し、後からリガンドを含む溶液に結晶を浸すことで複合体構造を得る方法である。実際には0.1〜0.4MのGalNAcを結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4時間後に回折データの収集に用いた。
【0079】
(2)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0080】
(3)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.7オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―N−アセチルガラクトサミン複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=137.9オングストローム、b=62.1オングストローム、c=82.4オングストローム、α=γ=90°、β=104.2°であり、完全性は99.9%、Rmergeが5.6%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを表2にまとめて記載した。
【0081】
【表2】
【0082】
(4)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の全体構造
リガンド糖は、HA1分子の3ヶ所に結合しているように見いだされ、Mol−Aにおけるその部位をSite IA 、Site IIA及びSite IIIA、Mol−Bの各部位をSite IB 、Site IIB及びSite IIIBと表記することとした。GalNAcは、Site IBのみに確認された(図2)。
【0083】
(5)N−アセチルガラクトサミンの電子密度マップ
リガンドとしてソーキングしたGalNAcの電子密度マップにモデルを当てはめた様子を図3に示した。図3はXtalViewシステム(McRee,1999,J.Structual Biology,125,156−165)のXfitを用い、電子密度マップにモデルを当てはめることで作成した。GalNAc分子は良好な電子密度が得られ、糖のモデルがきれいにあてはまった。
【0084】
(6)N−アセチルガラクトサミンと周辺アミノ酸との相互作用
GalNAcのアセチル基に存在するO7分子はArg183のグアニジド基由来の2ヶ所の窒素分子とそれぞれ2.7及び2.8オングストロームの距離で水素結合を形成し、GalNAcの環構造がTrp176と疎水的なスタッキングを形成していた。またGalNAcのO3分子とAsn167の間に水分子を介した間接的な相互作用が認められた。これらの相互作用はLigplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8, 127−134)を用い、リガンド及び周辺アミノ酸残基の各原子間の距離より評価した(図4)。
【実施例3】
【0085】
ガラクトースを結合させたHA1の結晶構造解析
(1)ガラクトースを結合させたHA1結晶の作製方法
実施例1と同様の手法で、0.1〜0.4Mのガラクトースを結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4h 後に回折データの収集に用いた。
【0086】
(2)ガラクトースを結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0087】
(3)ガラクトースを結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.78オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―ガラクトース複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=137.9オングストローム、b=62.2オングストローム、c=82.3オングストローム、α=γ=90°、β=104.7°であり、完全性は97.5%、Rmergeが4.3%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを、上記の表2にまとめて記載した。
【0088】
(4)ガラクトースを結合させたHA1結晶の全体構造
HA1−ガラクトース複合体の全体構造を図5に示した。ガラクトースはC−末端側β−trefoilドメインに位置するSite IB及びSite IIB の2ヶ所に確認できた。
【0089】
(5)ガラクトースの電子密度マップ
ガラクトースの電子密度雲はSite IB及びSite IIBの2ヶ所に確認され、ガラクトース分子のモデルをきれいに当てはめることができた(図6)。電子密度マップの作成方法は実施例2と同じである。
【0090】
(6)ガラクトースと周辺アミノ酸との相互作用
ガラクトース(Gal)(Site I、Site II)と周辺アミノ酸との相互作用を図7に示した。Site IにおいてはGalのO4及びO6分子はArg183の2ヶ所のアミノ基とそれぞれ3.0及び2.6オングストロームの距離で水素結合を形成していた。また、GalのO1及びO5分子はLeu168と3.0オングストロームの距離で水素結合を形成していた。糖の環構造はTrp176の芳香環と疎水的なスタッキングを形成していた。Site IIにおいてGalのO1及びO4分子はAsn259の側鎖及び主鎖に存在する窒素分子と2.7オングストロームの距離で水素結合を形成していた。GalのO3分子はHis274及びAsn278の窒素分子と2.7オングストロームの距離で水素結合を形成していた。相互作用の評価はligplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8,127−134)で行った(図7)。
【0091】
(7)Site I及びIIの位置づけ
糖結合部位の立体構造における差異を検証する目的で、既に報告されているA型HA1(Arndt,et al.,2005,J.Mol.Biol.,346,1083−1093)とC型HA1の結晶構造の比較を行なった。A型のHA1も2つのβ−trefoilドメインで構成され、その形状はC型と非常に似ている。
【0092】
Site Iを見た場合、C型ではリシンの糖結合サイトと環状疎水性アミノ酸や糖と水素結合できるようなアミノ酸残基の配置が似ているため、Inoueら(Microbiology,149:3361−3370(2003))は糖結合の可能性を推定している。しかし、それを証明するためにA型HA1の同サイトにある関連アミノ酸を置換する実験を行い、糖結合性に変化がないことからA型の同サイトが重要でないことのみを述べている。今回、本発明者らは、X線結晶構造解析において同サイトに結合している糖を直接観察することができた。しかも、Inoueら(上記)は、ガラクトースやラクトースの結合性にのみ着眼し、本発明者らが今回発見したN−アセチルガラクトサミンやN−アセチルノイラミン酸に関しては何の推測も考察も行っていないが、本発明者らは今回これらの糖についても同サイトに結合していることを確認した。
【0093】
一方、Site IIにおいてもInoueら(上記)は、C型の結合サイトであることを予想しているがそのことをA型で重要と考えられるアミノ酸の置換で証明しているのみである。本発明者らは、ガラクトースに関して、C型がこのサイトで結合できることをX線結晶構造解析より新たに証明した。しかし、後述図11で明らかにするように、Site Iにある結合に重要な役割を果たすと考えられるアミノ酸を別のものに置換した変異体HA1(W176A)がムチンへの結合能を大きく消失してしまうことから、C型ではSite IIはSite Iに比べ結合力がそれほど強くないことが考えられる。
【実施例4】
【0094】
N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1の結晶構造解析
(1)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の作製方法
実施例1と同様の手法で、0.1〜0.4MのN−アセチルノイラミン酸を結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4h 後に回折データの収集に用いた。
【0095】
(2)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0096】
(3)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により2.2オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―アセチルノイラミン酸複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=138.3オングストローム、b=61.7オングストローム、c=82.4オングストローム、α=γ=90°、β=104.3°であり、完全性は95.0%、Rmergeが5.0%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを上記の表2にまとめて記載した。
【0097】
(4)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の全体構造
N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の全体構造を図8に示した。Neu5Acは、Site IA及びSite IBにそれぞれ確認できた。Site IAとSite IBはHA1分子が異なるものの同じ部位であり、結合に関与する残基も全く同様であった。
【0098】
(5)N−アセチルノイラミン酸の電子密度マップ
N−アセチルノイラミン酸(Site I)の電子密度マップを図9に示した。Neu5AcのSite Iに関しては両分子とも同様に良好な電子密度が得られたのでSite IAの電子密度雲にモデルを当てはめたもののみ掲載した。電子密度マップの作成方法は実施例2に同じである。
【0099】
(6)N−アセチルノイラミン酸と周辺アミノ酸との相互作用
N−アセチルノイラミン酸(SiteI)と周辺アミノ酸との相互作用を図10に示した。Neu5Acのアセチル基に存在するO10分子はArg183のグアニジド基由来の2ヶ所のアミノ基と3.0オングストロームの距離で水素結合を形成していた。Neu5Acの環構造がTrp176と疎水的なスタッキングを形成し、C7及びC9分子とPhe179との間に疎水的な相互作用が認められた。相互作用の評価はLigplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8,127−134)で行った。
【実施例5】
【0100】
トリプトファン176をアラニンに置換したHA1の結合能
(1)実験方法
HA1変異体W176AはpGEX 5X−3に導入されたHA1のcDNA配列をQuikChange multi site−directed mutagenesis kit (Stratagene社製)により製造元のマニュアルに従って改変することで作製し、その発現ベクターをE.coli JM109に導入した。発現誘導は0.5mM IPTGで行ない、精製はグルタチオンアガロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のアフィニティーカラムを用いて行った。得られたGST−HA1変異体はGSTを切断しないでそのままアッセイに使用した。
【0101】
結合アッセイは以下の方法で行った。96−ウェルマイクロプレート(ホワイトマキシソープモジュールU bottom, Nalgenunc International社製)に10μg/ml濃度でPBS(pH6.8)に溶解したウシ顎下腺ムチン(BSM)(シグマ社製)あるいはブタ胃ムチン(PGM)(シグマ社製)を100μlずつ加え、4℃で一晩静置しムチンを固相化した。PBSによる洗浄の後、1%BSAを含むPBST(PBSに0.2%Tween20を含む)を加え1時間静置することでブロッキングを行い、PBSTによる洗浄に引き続き76pmolのGST−HA1を含むPBSTを100μl加えて室温で1時間インキュベートした。次にウェルをPBSTで洗浄し2,000倍希釈したウサギ抗C16S無毒成分抗血清を加え1時間反応させた。PBSTでウェルをよく洗浄し、10,000倍希釈したHRP標識抗−ウサギIgG抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加えて1時間の反応を行なった。その後PBSTで再度ウェルを洗浄し、ルミノール溶液を加えて検出をおこなった。化学発光はルミノイメージングアナライザーLAS3000(富士フィルム社製)で検出し、マルチゲージv2.1ソフトウェア(富士フィルム社製)で解析を行なった。
【0102】
(2)実験結果
結果を図11に示した。図の縦軸はHA1の固相化ムチンに対する結合量を示し、野生型HA1のBSM及びPGMへの結合量をそれぞれ100%とした時の変異体の結合量を割合で示している。図からW176A変異体は、BSMへの結合能が10%以下と極端に減少し、PGMに対する結合も40%以下に減少した。このことから、Site Iは糖結合部位として機能し、同部位がHA1における主たる糖結合部位であることが示唆された。一般に、BSMは末端にN−アセチルノイラミン酸を持つ糖鎖が多数含まれており、PGMは末端がガラクトースの糖鎖を多く含んでいるとされている。C型HA1のこれらムチンに対する結合能の詳細はNakamuraらの文献(Nakamuraら,BBA − General Subjects,in press;http://dx.doi.org/10.1016/j.bbagen.2006.11.006)に記載されている。
【実施例6】
【0103】
アスパラギン酸271をフェニルアラニンに置換したHA1の結合能
(1)実験方法
実施例5で作製したpGEX 5X−3ベクターに導入されたHA1の変異体W176AのcDNA配列をQuikChange multi site−directed mutagenesis kit (Stratagene社製) によりさらに改変してD271Fのアミノ酸置換体発現ベクターW176A/D271Fを作製した。作製方法は製造元のマニュアルに従った。以下実施例5と同様にしてGST−HA1変異体W176A/D271Fを得た。結合アッセイは実施例5と同様に行ったが、HA1変異体をウエルに加える際に25mMのガラクトースあるいはNeu5Acを同時に加える阻害実験も行った。
【0104】
(2)実験結果
図12はW176A変異体のAsp271をフェニルアラニン(Phe)に置換したW176A/D271F変異体の固相化ムチンへの結合能を検証した結果である。図の縦軸はHA1のムチンに対する結合量を示し、野生型HA1のBSM及びPGMへの結合をそれぞれ100%とした割合で示している。W176Aで減少したムチンへの結合能はW176A/D271F変異体では野生型と同程度或いはそれ以上の結合能を示すようになった。野生型HA1のBSMへの結合は阻害剤として25mM濃度で加えたNeu5Acにより著明に減少したが、同濃度のNeu5Ac添加でW176A/D271F変異体のBSMへの結合が阻害されることはなかった。一方、野生型HA1のPGMへの結合は25mM濃度のGalの添加ではほとんど阻害されなかったが、W176A/D271F変異体の結合は大きく阻害された。このことは、W176A/D271F変異体がSite IIを主たる結合部位としてガラクトースを強く認識する特性を獲得したことを示している。
【実施例7】
【0105】
その他のアミノ酸置換をしたHA1の結合能
実施例2の(1)と同様の手法で179番目のフェニルアラニン(Phe)をアルギニン(Arg)など側鎖の長いアミノ酸に置換した変異体のcDNAを作製し、大腸菌で発現させ、タンパク質を精製して糖に対する結合性を測定したところ、N−アセチルノイラミン酸に対する結合能が異なるものが得られた。
【0106】
実施例2の(1)と同様の手法で259番目のアスパラギン(Asn)をアラニン(Ala)に置換した変異体のcDNAを作製し、大腸菌で発現させ、タンパク質を精製して糖に対する結合性を測定したところ、Site IIでの糖結合性が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のポリペプチドは、糖に対し結合性を有する特性を利用して、例えば特定の器官組織や癌組織に特異的な糖鎖に薬剤を送達するための薬剤送達システム(drug delivery system)、癌の診断、カラム担体の表面に結合させて糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどを精製するための複合材料、などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】C型ボツリヌス(Clostridium botulinum)stockholm株HA1の全体構造。
【図2】HA1−N−アセチルガラクトサミン複合体の全体構造。
【図3】N−アセチルガラクトサミンの電子密度マップ。
【図4】HA1の糖結合部位におけるGalNAcと周辺残基との相互作用。
【図5】HA1−ガラクトース複合体の全体構造。
【図6】ガラクトースの電子密度マップ。
【図7】HA1の糖結合部位におけるガラクトースと周辺残基との相互作用。
【図8】HA1−N−アセチルノイラミン酸複合体の全体構造。
【図9】HA1−N−アセチルノイラミン酸の電子密度マップ。
【図10】HA1の糖結合部位におけるNeu5Acと周辺残基との相互作用。
【図11】HA1変異体のムチン結合能。
【図12】HA1変異体のムチン結合能。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の糖結合性ポリペプチドに関する。具体的には、本発明の糖結合性ポリペプチドは、C型ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)のヘマグルチニンHA1由来のポリペプチド又はその変異体であることを特徴とする。
【0002】
本発明はさらに、該ポリペプチドを含むことを特徴とする複合材料及び薬剤送達システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ボツリヌス菌は、グラム陽性・偏性嫌気性の大桿菌で芽胞を形成する。芽胞は湖沼や海、土壌中などに存在しているが、嫌気的な環境下で発芽・増殖し、神経毒素を産生する。菌は産生する神経毒素の抗原性の違いよりA〜G型に分類され、通常1菌株は1種類の毒素を産生する。神経毒素は、すべての型が分子量約15万のタンパク質で性質も類似しているが、ヒトは主にA、B、E又はF型で中毒を起こすことが知られている。ボツリヌス毒素を摂取して起こる中毒(症)としては主なものに、(1)食品中で産生された毒素を摂取することにより起こる食餌性ボツリヌス中毒、(2)破傷風と同じ感染様式で創傷より芽胞が進入し、生体内で発芽・増殖・毒素産生が起こる創傷ボツリヌス症、(3)食品などと一緒に芽胞が摂取され、これが腸内で発芽・増殖し、産生された毒素を吸収することにより主に乳児で発症する乳児ボツリヌス症(非常に希ではあるが、成人で起こることもある)がある。
【0004】
ボツリヌス神経毒素(NT)は、食品或いは培養上清中に数種類の無毒タンパク質と複合体を形成した巨大複合体分子として検出される。毒素複合体は分子量約15万の神経毒素が幾種類かの無毒タンパク質成分と結合し、分子量約300Kの12S毒素、500Kの16S毒素、或いは900Kの19S毒素複合体として存在している。12S毒素は、神経毒素に赤血球凝集活性を示さない分子量約140Kの無毒成分(non−toxic non−HA;NTNH)が結合して形成される。16S毒素、19S毒素はこの12S毒素にさらに複数の無毒成分であるヘマグルチニン(HA)が結合して形成される。HAにはHA1、HA2、HA3a、HA3bなどの成分が存在する(非特許文献1)。19S毒素は16S毒素の二量体である。これまで毒素複合体構成成分は、食品と共に経口摂取され消化管を通過する際にNTをプロテアーゼの作用から守る役割と、消化管内から上皮細胞層バリヤーを通過して体内循環系に神経毒素を送り込むいわゆるトランスサイトーシスのような吸収移行機構に関与しているのではないかと考えられている。マウスを用いた実験で、神経毒素のみでも胃から吸収されるという報告があるものの、モルモットを用いた実験で腸からの吸収を詳細に検討し場合、HAをもった複合体構造の方がHAを持たないものと較べてよりよく吸収されるという報告がある。また、A型やB型の毒素複合体では培養上皮細胞によるトランスサイトーシスが観察されている。
【0005】
Inoueらは、C型HA1のX線結晶構造解析を行い、β−トレフォイル(trefoil)構造をもつCHA1の立体構造を報告した(非特許文献2)。このなかで、既に立体構造や糖結合位置が明らかにされていてやはりβ−トレフォイル構造をもつリシンB鎖と一次構造の比較を行い、糖との結合に必要な水素結合を形成するアミノ酸の位置や疎水性の相互作用を示すアミノ酸の位置を検討して、CHA1の糖結合位置の候補を1αリピートであると推定した。しかし、配列アラインメント(Fig.4)の比較から明らかなように、CHA1の配列は、リシンB鎖、AHA1又はBHA1の各配列とかなり相違しているため、またInoueらが記載するように、β−トレフォイルドメインと糖(炭水化物)との位置、配向及び相互作用は異なるタンパク質間で変化するため、単に保存アミノ酸の存在のみからCHA1の真の糖結合部位を確定することは難しいと考えられる。さらにまた、Inoueらは、C型と一次構造が似ているA型のHA1の2γにあるアミノ酸に変異(Asn285Ala及びAsp263Ala)を導入し、ラクトースとの親和性が消失したことを確認し、さらにまた2αにあるアミノ酸を置換(Asp171Ala及びAsn187Ala)してラクトース(非還元末端側については、ガラクトース)との結合性に変化が殆ど無いという結果を得て、これらのことより、A型HA1の糖結合位置は2γであると結論している。しかし、HA1の糖結合位置は、A型HA1で確認実証されたのみであり、一方、C型の糖結合部位は、上記のとおり、他のタンパク質との一次構造の相同性に基づいて推測されたが実験的に確認されていない。また、この際議論されているのはガラクトースに対する結合性のみである。
【0006】
Fujinagaら(非特許文献1)は、小腸上皮細胞又は赤血球に対して結合するC型ボツリヌス菌16S前駆体毒素の亜成分の解析を行い、HA1とHA3bが異なる特異性をもって糖(炭水化物)を認識していることを報告している。しかし、その著者らは、この論文のなかでC型HA1の糖結合位置は記載も推測もしていない。
【0007】
なお、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株の全ゲノム配列の解析は、Sakaguchiら(非特許文献3)によって報告され、その全配列は、HA1配列(Gene ID:3772939)を含みながら、GenBankに登録番号NC_007581にて登録されている。
【0008】
【非特許文献1】Fujinagaら,Microbiology,150:1529−1538(2004)
【非特許文献2】Inoueら,Microbiology,149:3361−3370(2003)
【非特許文献3】Sakaguchiら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.102(48):17472−17477(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、C型ボツリヌス菌HA1の糖結合部位を解明し、該部位又はその変異体を利用した糖結合性ポリペプチドを提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、該ポリペプチドを含む複合材料又は薬剤送達システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
【0012】
本発明は、その第1の態様において、
下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチドを提供する。
【0013】
本発明の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0014】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0015】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0016】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0017】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである。
【0018】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、ポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。
【0019】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。
【0020】
本発明の別の実施形態において、上記ポリペプチドは、糖と非共有結合によって結合することを特徴とする。
【0021】
本発明の別の実施形態において、上記糖は、単糖、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである。
【0022】
本発明の別の実施形態において、上記糖は、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである。
【0023】
本発明は、その第2の態様において、上記定義の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料を提供する。
【0024】
本発明は、その第3の態様において、上記定義の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システムを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリペプチドは、糖に対し結合性を有することを特徴とする。このポリペプチドは、小腸上皮細胞表面のムチン糖鎖に親和性を有するとともに、天然型配列に対して変異を導入するときには小腸以外の粘膜組織(例えば食道、胃、大腸、鼻など)や癌組織の糖鎖に対し親和性をもたせることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者らは、毒素の細胞内移行機構や細胞内輸送に関する一連の研究のなかで、C型HA1ポリペプチドと糖分子との相互作用部位を、結晶構造解析技術及び部位特異的突然変異誘発技術を用いて今回解明することができた。
【0027】
本発明の糖結合性ポリペプチドは、小腸ムチンだけでなく顎下腺ムチンや胃ムチンなどの粘膜組織ムチンと結合性を有しているし、また、ムチン固定化マイクロタイタープレートを用いて糖特異性を検証したところ、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)などの糖を認識することを見出した。
【0028】
さらにまた、FLAG標識HA成分の発現系を利用して培養細胞に対する結合性を検証したところ、HA1は、他の成分(HA3及びHA3b)より速やかに細胞内移行することも判明したことから、本発明の糖結合性ポリペプチドは、細胞内移行も可能とする特性を有していると考えられる。
【0029】
本発明は、下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチドを提供する。
【0030】
配列番号2及び配列番号3で表されるアミノ酸配列はともに、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株のHA1に由来する。C−Stockholm株の全ゲノム配列は、Sakaguchiら(非特許文献3)によって報告されており、GenBankに登録番号NC_007581にて登録されている。この配列中、HA1配列はGene ID:3772939(塩基配列番号70937〜71797)として公表されている(配列番号1及び配列番号9)。
【0031】
配列番号1で表されるアミノ酸配列中、配列番号2で表されるアミノ酸配列は149位〜191位からなり、また、配列番号3で表されるアミノ酸配列は237位〜286位からなり、いずれも4つの異なるβシートから構成されている。前者の糖結合部位はSite Iと称し、一方、後者の糖結合部位はSite IIと称する。
【0032】
Site Iのアミノ酸配列のなかで、N−アセチルノイラミン酸との結合に関与するアミノ酸残基は、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)、179位のフェニルアラニン(Phe)及び183位のアルギニン(Arg)であり(図10)、N−アセチルガラクトサミンとの結合に関与するアミノ酸残基は、167位のアスパラギン(Asn)、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)及びアルギニン(Arg)であり(図4)、ガラクトースとの結合に関与するアミノ酸残基は、168位のロイシン(Leu)、176位のトリプトファン(Trp)及び183位のアルギニン(Arg)である(図7)。
【0033】
Site IIのアミノ酸配列のなかで、ガラクトースとの結合に関与するアミノ酸残基は、259位のアスパラギン(Asn)、274位のヒスチジン(His)及び278位のアスパラギン(Asn)である(図7)。
【0034】
本発明のポリペプチドは、糖が結合する立体構造(すなわち、4つのβシートからなる構造)を保持する限り、1又は数個のアミノ酸残基の変異を有していてもよい。この場合、好ましくは、糖の結合に関与する上記のアミノ酸残基は保存されるのがよい。
【0035】
上記の変異は、アミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を含む。ここで、数個とは10〜2、9〜2、8〜2、7〜2、6〜2、5〜2、4〜2、又は3〜2の整数を指す。
【0036】
本発明によれば、好ましい変異ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、或いは、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0037】
本明細書中で使用される「含む」なる用語は、HA1由来の該アミノ酸配列以外の別個のアミノ酸配列を含んでもよいことを意味する。また、「同一性」なる用語は、配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列の全アミノ酸数あたりの同一アミノ酸数の割合(%)であり、配列の整列比較(アラインメント)をするときにはギャップを導入してもよいしギャップを導入しなくてもよい。配列の%同一性の決定のためには、BLASTやFASTAなどの公知のアルゴリズムを利用することができる(高木利久及び金久實編、ゲノムネットのデータベース利用法、第5章ホモロジー検索プログラムの利用法、1998年、共立出版)。
【0038】
好ましい変異は、保存的アミノ酸置換又は非保存的アミノ酸置換である。保存的アミノ酸置換とは、荷電性(正電荷又は負電荷)、極性(親水性又は疎水性)、構造的性質(芳香族官能性など)などの性質が類似したアミノ酸間の置換を意味する。例えば塩基性アミノ酸にはアルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれるし、酸性アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれるし、疎水性アミノ酸にはバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、プロリンなどが含まれるし、極性アミノ酸にはセリン、トレオニン、メチオニン、グリシン、チロシン、グルタミン、アスパラギンなどが含まれるし、芳香族アミノ酸にはトリプトファン、フェニルアラニン及びチロシンが含まれる。一方、非保存的アミノ酸置換は、上記の性質の異なるアミノ酸間の置換であり、この場合、例えば糖結合アミノ酸残基又はその近傍のアミノ酸残基を改変することによって糖に対する結合特異性を変化させることが可能となる。そのような置換の例は、Site IIの271位のアスパラギン酸(Asp)の、フェニルアラニン(Phe)への置換、Site Iのトリプトファン(Trp)の、アラニン(Ala)への置換などである(図12)。
【0039】
本発明のポリペプチドの別の例は、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドを含む以下の(5)〜(9)のポリペプチドを含む。
(5)配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(6)配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、をからなるポリペプチド、或いは、配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(7)配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(8)配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(9)配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、或いは配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド。
【0040】
上記の配列番号2〜8で表されるアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1のHA1配列のアミノ酸残基番号に基づいて、149〜191位(配列番号2)、237〜286位(配列番号3)、149〜236位(配列番号4)、100〜236位(配列番号5)、192〜286位(配列番号6)、149〜286位(配列番号7)、100〜286位(配列番号8)のアミノ酸配列に相当する。
【0041】
本発明のポリペプチドのさらに別の例は、上記(1)〜(9)のポリペプチドから選択されるポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。好ましくは、上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である。ヘテロ又はホモ多量体は、例えば二量体、三量体、四量体などである。本明細書中「多量体」とは、同じか又は異なる2以上のポリペプチドが、直接的に、或いはリンカーを介して、結合して得られるポリペプチドである。ポリペプチド間の結合は、共有結合であってもよいし、又は非共有結合であってもよい。このような多量体は、糖が結合する立体構造を保持しており、複数の糖結合部位が存在する。リンカーの例は、ペプチド性リンカー、アミノ酸の遊離アミノ基と反応性のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基、ホルミル基、エポキシ基などの官能基を両端にもつ炭化水素などを含む。リンカーの別の例は、ポリペプチドのシステイン同士の反応によって形成されるジスルフィド結合である。これに対して、リンカーを介さない場合には、単にポリペプチド同士の親和性で複合体を形成してもよい。
【0042】
本発明の実施形態において、上記ポリペプチドは、糖と非共有結合によって結合することを特徴とする。糖は、上記の3つ組又は4つ組の糖結合アミノ酸残基と水素結合や静電的結合、または疎水的結合によって結合される。
【0043】
本発明のポリペプチドと結合可能な糖は、単糖、オリゴ糖、多糖、或いは糖タンパク質である。その他の糖の例は、糖脂質又はプロテオグリカンである。好ましくは、上記糖は、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖又は糖タンパク質である。
【0044】
糖タンパク質の例は、ヒト器官(例えば腸、胃、食道、鼻など)の組織のムチン、例えばMUC1、2、3、4、6、13、15などである(M.E.Lidellら,J.Biol.Chem.,278:13944−13951(2003);L.T.Pallesenら,Eur.J.Biochem.,269:2755−2763(2002);J.R.Gim Jr.ら,BBRC 291:466−475(2002);S.J.Williamsら,J.Biol.Chem.,276:18327−18336(2001); S.J.Gendler及びA.P.Spicer,Annu.Rev.Physiol.,57:607−634(1995);S.B.Hoら,Cancer Res.,53:641−651(1993))。
【0045】
ムチンは、高度にグリコシル化された糖タンパク質であって、粘液ゲルの主要な構造成分である。ムチンの生理学的機能は、細胞保護、機械的保護、分泌液の粘性維持、及び細胞認識である。腸管の主要なムチンにはMUC2やMUC3などがあり、胃ではMUC5ACやMUC6などが多く発現している。ムチンはさらに、胆嚢、膵臓、精液小胞、及び女性の生殖管にも見出だされている。ムチンはまた、嚢胞性線維症や大腸癌の発達に関与することも知られている(M.Davril,Glycobiology,9:311321(1999);E.Lindhorst,Tumour Biol.,21:116122(2000))。
【0046】
別の糖タンパク質の例は、赤血球膜のグリコホリン、細胞表面のインテグリン類、各種レセプター糖タンパク質などを含む。糖脂質の例は、細胞表面に存在するガングリオシド類(例えばGM3)などを含む。プロテオグリカンの例は、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸などを含む。
【0047】
本発明のポリペプチドは、ペプチド合成技術又はDNA組換え技術を用いて合成することができる。
【0048】
ペプチド合成は、液相法又は固相法によって行うことができる。一般に、アミノ酸のα−アミノ基又はα−カルボキシル基、或いは側鎖の官能基、を適当な保護基で保護したアミノ酸を原料とし、α−アミノ保護アミノ酸とα−カルボキシル保護アミノ酸との間でペプチド形成反応を行う。生成ジペプチドのα−カルボキシル保護基の脱保護を行ったのち、α−カルボキシル保護アミノ酸を原料としてペプチド形成反応を行う。生成トリペプチドに対して、さらに脱保護とペプチド形成反応を行い、この操作を繰り返して目的のポリペプチドを形成し、最後に全保護基の脱保護を行い、精製工程にかける。
【0049】
α−アミノ保護基の例は、ベンジルオキシカルボニル基、p−トルエンスルホニル基、t−ブトキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基などを含む。その脱保護試薬の例は、接触還元(Pd触媒など)、HF/Na−NH3/HBr、臭化水素/酢酸、トリフルオロ酢酸などを含む。
【0050】
α−カルボキシル保護基の例は、メチル、エチル又はt−ブチルエステル基、ベンジルエステル基などを含む。その脱保護試薬の例は、苛性ソーダなどのアルカリ剤、接触還元(Pd触媒など)などを含む。
【0051】
セリンやトレオニンの水酸基、チロシンのフェノール性水酸基、アルギニンのグアニジノ基、ヒスチジンのイミダゾール基、リジンのε−アミノ基、グルタミン酸のγ−カルボキシル基、アスパラギン酸のβ−カルボキシル基、グルタミンやアスパラギンのアミド基、トリプトファンのインドール核、メチオニンのチオエーテル基などの側鎖の保護及び脱保護については、日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、第II部ペプチド合成(2章液相法によるペプチド合成(矢島治明)、3章固相法によるペプチド合成(榊原俊平))に記載されている。
【0052】
ペプチド結合形成法には、酸クロリド法、混合酸無水物法、活性エステル法などが含まれる。
【0053】
ペプチド合成方式には、段階的伸長法とフラグメント縮合法がある。段階的伸長法は、N末端側から順次、構成アミノ酸を結合する方式である。一方、フラグメント縮合法は、通常、ポリペプチドの合成に適用される方式であり、適当な長さのフラグメントのペプチド合成を行い、その後、各フラグメント同士を結合する方式である。
【0054】
好ましいペプチド合成法は、固相法である。この方法はMerrifield法として知られており、一般に、ペプチドのC末端のアミノ酸を架橋ポリスチレンに縮合させておき、N末端に向かってt−ブトキシカルボニルアミノ酸などのα−アミノ保護アミノ酸を順次縮合させる。具体的な手法は、例えば日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、第II部ペプチド合成(3章固相法によるペプチド合成(榊原俊平))に記載されている。
【0055】
DNA組換え法を用いるポリペプチドの合成は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用する遺伝子増幅、ベクターによるクローニング、発現ベクターで形質転換された大腸菌などの細菌細胞での発現などを含む方法で行うことができる。C型HA1の発現と精製は、例えばFujinagaら(非特許文献1)又はInoueら(非特許文献2)に記載されており、この手法と同様に、本発明のポリペプチドを合成することができる。
【0056】
PCR条件は、94℃30秒〜5分の変性、55〜60℃30秒〜1分のアニーリング、及び72℃1分〜10分の伸長反応を1サイクルとし、20〜40サイクル行うことを含む。プライマーは、正方向プライマーと逆方向プライマーを、配列番号1のHA1配列に基づいて、目的のポリペプチドをコードするDNAを増幅可能なように設計し、例えばDNA自動合成装置を用いて合成することができる。プライマーの長さは、例えば15〜30塩基、好ましくは19〜23塩基とすることができる。また、増幅のための鋳型は、C型ボツリヌス菌C−Stockholm株の全RNAから調製したmRNAのcDNAライブラリー中に含まれるHA1をコードするcDNAとすることができる。
【0057】
さらにまた、発現ベクターは、例えば細菌用の市販プラスミドベクターのいずれかを使用することができる。ベクターには、プロモーター、複製開始点、シャイン−ダルガルノ配列(又はリボソーム結合部位)、ターミネーターなどの制御配列、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーなどを含むことができる。
【0058】
変異体の合成は、例えばPCRを利用した部位特異的突然変異誘発法などの公知の方法を用いて行うことができる。部位特異的突然変異誘発法は、例えば、変異を導入したプライマーを合成し、HA1をコードするDNA、又は該DNAを含むベクターDNA、を鋳型としてPCRを行うことを含む。この手法は、例えばQuickChange Site−Directed Mutagenesis kit(Stratagene社製)を用いて行うことができる。
【0059】
DNA組換え法、PCR法及び部位特異的突然変異誘発法は、例えばSambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989; Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,1995に記載されている手法を利用することができる。
【0060】
本発明のポリペプチドと糖との結合アッセイは、例えば後述の実施例5に記載の方法で行うことができる。簡単に説明すると、ムチン(例えばウシ顎下腺ムチン又はブタ胃ムチン)を固相化したマイクロタイターウエルプレートを作製し、ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングする。ウエルに、本発明のポリペプチドを加えてインキュベートし、プレートを洗浄した後、ウサギ抗C16無毒成分抗血清又はウサギ抗HA1抗体と反応させ、標識化抗ウサギIgG抗体を加えて反応させて、結合したポリペプチドの量を定量する。標識は、放射性同位元素(125I、32Pなど)又は酵素(ペルオキシダーゼ、ホスファターゼなど)などである。
【0061】
本発明はさらに、上記定義の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料を提供する。
【0062】
本発明のポリペプチドは、糖を結合する特性を有するため、この特性を種々の用途に利用することができる。例えば、本発明のポリペプチドを支持体に結合することによって、該ポリペプチドに結合する糖、糖タンパク質、糖脂質などの物質の分離或いは分析のために、該複合材料を使用することができる。
【0063】
支持体の例は、多糖類(例えばアガロース、セルロース、デキストランなど)、樹脂(ポリスチレン、ポリスチレン共重合体、ポリアクリルアミドなど)、シリカゲル、ガラスなどを含む。また、支持体の形状は、限定されないが、球状、粒子状、微粒子状、平面(例えばプレート、ウエルなど)などであり、支持体は多孔性又は非多孔性のいずれでもよい。
【0064】
支持体へのポリペプチドの結合は、共有結合又は非共有結合のいずれでもよい。非共有結合の例は、吸着、イオン結合、水素結合などである。また、共有結合を利用する場合、支持体表面に、ポリペプチドの例えばアミノ基、カルボキシル基、イミダゾール基、フェノール性水酸基、チオール基などの基と反応性の官能基を導入することによって、この官能基にポリペプチドを直接又はスペーサーを介して結合させることができる。官能基の例は、臭化シアン(CNBr)による多糖類の活性化によって形成されるイミドカルボネートである。官能基の別の例は、ω−アミノアルキル基、ω−カルボキシアルキル基、ブロモアセチル基、チオール(SH)基、エポキシ基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基などである。スペーサーの例は、−NH−、−NHCO−などの基を含んでもよいC4〜C10のアルキレン鎖である。官能性支持体の調製に関しては、例えば千畑一郎ら、実験と応用、アフィニティクロマトグラフィー、講談社サイエンティフィク、1980年に記載されており、その開示は本発明のために使用しうる。
【0065】
本発明はさらに、上記定義の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システムを提供する。
【0066】
本発明の薬剤送達システム(DDS)は、例えば薬剤を内包するリポソームの表面に本発明のポリペプチドを結合して得られる複合体を含む。本発明のポリペプチドは、標的細胞(例えば小腸上皮細胞、大腸上皮細胞、大腸ガン細胞など)に移行し、該細胞内に入る性質をも有しているため、この性質を利用することによって、薬剤としてのタンパク質やポリペプチドを細胞内に送達することができる。リポソームは、好ましくはカチオン性リポソームであり、これにはコレステロール系カチオン性リポソームも含まれる(中西守ら、蛋白質核酸酵素44巻11号1590〜1596頁(1999年))。カチオン性リポソームは、陰イオン性表面をもつ細胞に接近しやすいという性質を有している。このようなリポソームと本発明のポリペプチドとによって、標的細胞に接近し、その細胞内に薬剤を届ける効率が増すと考えられる。
【0067】
別のDDSの例は、薬剤がタンパク質又はポリペプチドである場合、それらと本発明のポリペプチドとの融合体である。この場合も、本発明のポリペプチドは、標的細胞内に薬剤を送達する働きをする。もし薬剤タンパク質と本発明のポリペプチドとの融合部分に、細胞質プロテアーゼによって特異的に切断可能なアミノ酸配列を挿入する場合には、細胞内に移行後に、プロテアーゼの作用によって薬剤を細胞内で放出することも可能になるだろう。このような融合タンパク質は、DNA組換え技術(Sambrookら(上記))を用いて合成することができる。
【0068】
本発明のDDSは、適切な賦形剤、希釈剤または担体と組み合わせて製剤化することができる。製剤は、固体、半固体または液体投与製剤、例えば溶液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、座剤、エマルジョン、噴霧剤などとしうる。また、製剤には、補助剤または添加剤、例えば安定化剤、界面活性剤、崩壊剤、結合剤、風味剤、懸濁助剤、滑沢剤、着色剤、噴射剤などを含みうる。投与経路は、経口、非経口、例えば静脈内投与、粘膜投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、直腸内投与、舌下投与などを含む。用量は、患者の年齢、性別、症状の程度などによって変化しうるが、例えば成人1kgあたり10μg〜10mgの有効成分(薬剤)の量である。
【0069】
最後に、本発明のポリペプチドを、HA2及びHA3と複合体を形成することも可能である。本発明のポリペプチドは、部位特異的突然変異の導入によって、天然型HA1と異なる配列を有し、糖に対する結合の特異性に変化をもたせることも可能である。例えば、アミノ酸置換により、HA1の結合糖の種類を変化させられるだけでなく、HA1分子で結合できる糖を0〜2個に調整することができる。さらにまた、HAは多分子が会合して複合体を形成するため、HA分子にバリエーションが増えれば、複合体の認識できる糖の種類や構造は計り知れない数にのぼる。細胞表面の糖鎖構造は、動物種や組織、細胞の種類、正常か異常か等によって異なることが知られている。従って、例えばヒトで考えた場合、喉、食道、胃、小腸、大腸、他に鼻など様々な粘膜組織があり、これらに対して最も効率よく細胞表面の糖鎖に結合するように複合体を調製することが可能である。そのうえ、ヒト以外でも、イヌ、ネコ、ネズミといった哺乳類、鳥類、は虫類、魚類、さらに昆虫など脊椎動物以外にも、本発明のポリペプチドの応用の可能性がある。
【0070】
本発明のポリペプチドは、腸管壁からの効率的な体内吸収のための新規のDDSとして使用可能であるし、また、例えば糖に親和性のあるレクチンのように、糖鎖構造を識別したり、糖鎖を分離したり、細胞に刺激を与える実験、研究用試薬としても使用可能である。この場合、1分子が認識できる糖の数を2個又はそれ以上に多価の反応性を付与されたものは、糖鎖の種類による分離や、識別において既存のものにない新たな用途開発につながる可能性がある。さらにまた、本発明のポリペプチドは、病気の診断、例えば細胞のガン化などにより、糖鎖構造の変化することが知られているガンの診断に使用することができる。ガン化によって変化した糖鎖構造を認識できるようにHA1や複合体を調製すれば既存のものと同等な検出、或いは既存のものでは検出できなかったものの検出を可能とするような診断薬を創製できる。
【0071】
本発明者らは、HA3についても結晶構造解析を進めてきたが、先行技術文献で記載されるようなβ−トレホイル構造などのこれまで糖親和性タンパクに多く認められた特徴的な構造などはなく、したがって、HA1で決定したような糖結合部位を、配列アラインメントのみで推測することは当業者といえども難しいことであり、実際に確認する必要があることも分かった。
【実施例1】
【0072】
C型ボツリヌス菌stockholm株HA1の結晶構造解析
(1)HA1結晶の作製方法
HA1はマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として大腸菌で発現するようにcDNAを作製した。そして、MBPとHA1との間にFactor Xaによる切断可能サイトとFLAGタグを挿入した。この融合タンパク質を大腸菌で大量に発現させ、菌体を集めて破砕し、遠心分離で得られた上清をアミロースレジンカラム(Amylose Resin,New England BioLab Inc.)にかけて精製した。次にFactor Xaを作用させてMBPを除去した後、イオン交換クロマトグラフィー(HiPrep 16/10 Q FF;GEヘルスケアバイオサイエンス)にてFLAGタグ−HA1を精製した。
【0073】
結晶化はハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて20℃で行った。具体的には3mg/ml濃度のHA1溶液1.0μlと等量の結晶化母液(12% エタノール及び1.7M NaClを含むMilli−Q水)と混合したドロップをスライドグラス上で作成し、同じ結晶化母液を加えた24−ウェルプレート上にそのスライドグラスをドロップが内側になるように配置してグリースを用いて密閉した。約一ヶ月程度の静置により結晶成長を行い良好な単斜晶型の結晶を得た。この条件は従来法に比べ母液組成が簡便であり、また、タンパク質濃度を下げることにより、より大きな結晶を形成させることが可能となった。
【0074】
(2)HA1結晶の結晶構造解析の方法
HA1結晶の回折データは、高エネルギー加速器研究機構(茨城、つくば市)のシンクロトロン(PF−AR)に設置されたBL−5Aのビームラインで収集した。X線波長は1Å、結晶に窒素ガスを吹き付け、−180℃で測定を行った。全てのデータセットはHKL2000ソフトウェア(HKL Research,Inc.;Otwinowski and Minor,Methods in Enzymology,276,p307−326)を用いて解析を行った。
【0075】
(3)HA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.6オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、これは以前の報告(非特許文献2)と同様であった。格子定数はa=138.5オングストローム、b=62.0オングストローム、c=83.1オングストローム、α=γ=90°、β=104.4°であり、完全性は99.8%、Rmergeが6.9%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを表1にまとめた。
【0076】
【表1】
【0077】
(4)HA1結晶の全体構造
結晶の空間群はC2に属し、非対称単位内にMol−A及びMol−Bの2つの分子を含む(図1)。HA1の構造は、2つのβ−trefoilドメインから構成され、α−ヘリックスからなるリンカーが2つのドメインをつないでおり、鉄アレイ様の形状をしている。N−末端側及びC−末端側β−trefoilドメインはそれぞれ1〜141及び146〜286のアミノ酸残基で構成されている。1つのβ−trefoilドメインは2つのストランドがβ−ヘアピンでつながった構造を三対持つが、それらは3回の繰り返し構造(リピート)をとっており、1つのリピートは4つのストランド(β1〜β4)で構成されている。
【実施例2】
【0078】
N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1の結晶構造解析
(1)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の作製方法
HA1−糖の複合体結晶の作製は、浸透法(soaking)により行なった。これは予めリガンドの無い状態でタンパク質の結晶を作製し、後からリガンドを含む溶液に結晶を浸すことで複合体構造を得る方法である。実際には0.1〜0.4MのGalNAcを結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4時間後に回折データの収集に用いた。
【0079】
(2)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0080】
(3)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.7オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―N−アセチルガラクトサミン複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=137.9オングストローム、b=62.1オングストローム、c=82.4オングストローム、α=γ=90°、β=104.2°であり、完全性は99.9%、Rmergeが5.6%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを表2にまとめて記載した。
【0081】
【表2】
【0082】
(4)N−アセチルガラクトサミンを結合させたHA1結晶の全体構造
リガンド糖は、HA1分子の3ヶ所に結合しているように見いだされ、Mol−Aにおけるその部位をSite IA 、Site IIA及びSite IIIA、Mol−Bの各部位をSite IB 、Site IIB及びSite IIIBと表記することとした。GalNAcは、Site IBのみに確認された(図2)。
【0083】
(5)N−アセチルガラクトサミンの電子密度マップ
リガンドとしてソーキングしたGalNAcの電子密度マップにモデルを当てはめた様子を図3に示した。図3はXtalViewシステム(McRee,1999,J.Structual Biology,125,156−165)のXfitを用い、電子密度マップにモデルを当てはめることで作成した。GalNAc分子は良好な電子密度が得られ、糖のモデルがきれいにあてはまった。
【0084】
(6)N−アセチルガラクトサミンと周辺アミノ酸との相互作用
GalNAcのアセチル基に存在するO7分子はArg183のグアニジド基由来の2ヶ所の窒素分子とそれぞれ2.7及び2.8オングストロームの距離で水素結合を形成し、GalNAcの環構造がTrp176と疎水的なスタッキングを形成していた。またGalNAcのO3分子とAsn167の間に水分子を介した間接的な相互作用が認められた。これらの相互作用はLigplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8, 127−134)を用い、リガンド及び周辺アミノ酸残基の各原子間の距離より評価した(図4)。
【実施例3】
【0085】
ガラクトースを結合させたHA1の結晶構造解析
(1)ガラクトースを結合させたHA1結晶の作製方法
実施例1と同様の手法で、0.1〜0.4Mのガラクトースを結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4h 後に回折データの収集に用いた。
【0086】
(2)ガラクトースを結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0087】
(3)ガラクトースを結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により1.78オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―ガラクトース複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=137.9オングストローム、b=62.2オングストローム、c=82.3オングストローム、α=γ=90°、β=104.7°であり、完全性は97.5%、Rmergeが4.3%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを、上記の表2にまとめて記載した。
【0088】
(4)ガラクトースを結合させたHA1結晶の全体構造
HA1−ガラクトース複合体の全体構造を図5に示した。ガラクトースはC−末端側β−trefoilドメインに位置するSite IB及びSite IIB の2ヶ所に確認できた。
【0089】
(5)ガラクトースの電子密度マップ
ガラクトースの電子密度雲はSite IB及びSite IIBの2ヶ所に確認され、ガラクトース分子のモデルをきれいに当てはめることができた(図6)。電子密度マップの作成方法は実施例2と同じである。
【0090】
(6)ガラクトースと周辺アミノ酸との相互作用
ガラクトース(Gal)(Site I、Site II)と周辺アミノ酸との相互作用を図7に示した。Site IにおいてはGalのO4及びO6分子はArg183の2ヶ所のアミノ基とそれぞれ3.0及び2.6オングストロームの距離で水素結合を形成していた。また、GalのO1及びO5分子はLeu168と3.0オングストロームの距離で水素結合を形成していた。糖の環構造はTrp176の芳香環と疎水的なスタッキングを形成していた。Site IIにおいてGalのO1及びO4分子はAsn259の側鎖及び主鎖に存在する窒素分子と2.7オングストロームの距離で水素結合を形成していた。GalのO3分子はHis274及びAsn278の窒素分子と2.7オングストロームの距離で水素結合を形成していた。相互作用の評価はligplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8,127−134)で行った(図7)。
【0091】
(7)Site I及びIIの位置づけ
糖結合部位の立体構造における差異を検証する目的で、既に報告されているA型HA1(Arndt,et al.,2005,J.Mol.Biol.,346,1083−1093)とC型HA1の結晶構造の比較を行なった。A型のHA1も2つのβ−trefoilドメインで構成され、その形状はC型と非常に似ている。
【0092】
Site Iを見た場合、C型ではリシンの糖結合サイトと環状疎水性アミノ酸や糖と水素結合できるようなアミノ酸残基の配置が似ているため、Inoueら(Microbiology,149:3361−3370(2003))は糖結合の可能性を推定している。しかし、それを証明するためにA型HA1の同サイトにある関連アミノ酸を置換する実験を行い、糖結合性に変化がないことからA型の同サイトが重要でないことのみを述べている。今回、本発明者らは、X線結晶構造解析において同サイトに結合している糖を直接観察することができた。しかも、Inoueら(上記)は、ガラクトースやラクトースの結合性にのみ着眼し、本発明者らが今回発見したN−アセチルガラクトサミンやN−アセチルノイラミン酸に関しては何の推測も考察も行っていないが、本発明者らは今回これらの糖についても同サイトに結合していることを確認した。
【0093】
一方、Site IIにおいてもInoueら(上記)は、C型の結合サイトであることを予想しているがそのことをA型で重要と考えられるアミノ酸の置換で証明しているのみである。本発明者らは、ガラクトースに関して、C型がこのサイトで結合できることをX線結晶構造解析より新たに証明した。しかし、後述図11で明らかにするように、Site Iにある結合に重要な役割を果たすと考えられるアミノ酸を別のものに置換した変異体HA1(W176A)がムチンへの結合能を大きく消失してしまうことから、C型ではSite IIはSite Iに比べ結合力がそれほど強くないことが考えられる。
【実施例4】
【0094】
N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1の結晶構造解析
(1)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の作製方法
実施例1と同様の手法で、0.1〜0.4MのN−アセチルノイラミン酸を結晶化母液に含む溶液にHA1の結晶を浸し、約4h 後に回折データの収集に用いた。
【0095】
(2)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の結晶構造解析方法
実施例1と同様にして解析を行った。
【0096】
(3)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の結晶データ
X線回折強度測定により2.2オングストロームの高分解能で回折データが得られた。HA1―アセチルノイラミン酸複合体の単斜晶型結晶は空間群C2に属し、格子定数はa=138.3オングストローム、b=61.7オングストローム、c=82.4オングストローム、α=γ=90°、β=104.3°であり、完全性は95.0%、Rmergeが5.0%となり、非常に良質な回折データであった。これらのデータを上記の表2にまとめて記載した。
【0097】
(4)N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の全体構造
N−アセチルノイラミン酸を結合させたHA1結晶の全体構造を図8に示した。Neu5Acは、Site IA及びSite IBにそれぞれ確認できた。Site IAとSite IBはHA1分子が異なるものの同じ部位であり、結合に関与する残基も全く同様であった。
【0098】
(5)N−アセチルノイラミン酸の電子密度マップ
N−アセチルノイラミン酸(Site I)の電子密度マップを図9に示した。Neu5AcのSite Iに関しては両分子とも同様に良好な電子密度が得られたのでSite IAの電子密度雲にモデルを当てはめたもののみ掲載した。電子密度マップの作成方法は実施例2に同じである。
【0099】
(6)N−アセチルノイラミン酸と周辺アミノ酸との相互作用
N−アセチルノイラミン酸(SiteI)と周辺アミノ酸との相互作用を図10に示した。Neu5Acのアセチル基に存在するO10分子はArg183のグアニジド基由来の2ヶ所のアミノ基と3.0オングストロームの距離で水素結合を形成していた。Neu5Acの環構造がTrp176と疎水的なスタッキングを形成し、C7及びC9分子とPhe179との間に疎水的な相互作用が認められた。相互作用の評価はLigplotソフトウェア(RWallace et al.,1995,Prot.Eng.,8,127−134)で行った。
【実施例5】
【0100】
トリプトファン176をアラニンに置換したHA1の結合能
(1)実験方法
HA1変異体W176AはpGEX 5X−3に導入されたHA1のcDNA配列をQuikChange multi site−directed mutagenesis kit (Stratagene社製)により製造元のマニュアルに従って改変することで作製し、その発現ベクターをE.coli JM109に導入した。発現誘導は0.5mM IPTGで行ない、精製はグルタチオンアガロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のアフィニティーカラムを用いて行った。得られたGST−HA1変異体はGSTを切断しないでそのままアッセイに使用した。
【0101】
結合アッセイは以下の方法で行った。96−ウェルマイクロプレート(ホワイトマキシソープモジュールU bottom, Nalgenunc International社製)に10μg/ml濃度でPBS(pH6.8)に溶解したウシ顎下腺ムチン(BSM)(シグマ社製)あるいはブタ胃ムチン(PGM)(シグマ社製)を100μlずつ加え、4℃で一晩静置しムチンを固相化した。PBSによる洗浄の後、1%BSAを含むPBST(PBSに0.2%Tween20を含む)を加え1時間静置することでブロッキングを行い、PBSTによる洗浄に引き続き76pmolのGST−HA1を含むPBSTを100μl加えて室温で1時間インキュベートした。次にウェルをPBSTで洗浄し2,000倍希釈したウサギ抗C16S無毒成分抗血清を加え1時間反応させた。PBSTでウェルをよく洗浄し、10,000倍希釈したHRP標識抗−ウサギIgG抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加えて1時間の反応を行なった。その後PBSTで再度ウェルを洗浄し、ルミノール溶液を加えて検出をおこなった。化学発光はルミノイメージングアナライザーLAS3000(富士フィルム社製)で検出し、マルチゲージv2.1ソフトウェア(富士フィルム社製)で解析を行なった。
【0102】
(2)実験結果
結果を図11に示した。図の縦軸はHA1の固相化ムチンに対する結合量を示し、野生型HA1のBSM及びPGMへの結合量をそれぞれ100%とした時の変異体の結合量を割合で示している。図からW176A変異体は、BSMへの結合能が10%以下と極端に減少し、PGMに対する結合も40%以下に減少した。このことから、Site Iは糖結合部位として機能し、同部位がHA1における主たる糖結合部位であることが示唆された。一般に、BSMは末端にN−アセチルノイラミン酸を持つ糖鎖が多数含まれており、PGMは末端がガラクトースの糖鎖を多く含んでいるとされている。C型HA1のこれらムチンに対する結合能の詳細はNakamuraらの文献(Nakamuraら,BBA − General Subjects,in press;http://dx.doi.org/10.1016/j.bbagen.2006.11.006)に記載されている。
【実施例6】
【0103】
アスパラギン酸271をフェニルアラニンに置換したHA1の結合能
(1)実験方法
実施例5で作製したpGEX 5X−3ベクターに導入されたHA1の変異体W176AのcDNA配列をQuikChange multi site−directed mutagenesis kit (Stratagene社製) によりさらに改変してD271Fのアミノ酸置換体発現ベクターW176A/D271Fを作製した。作製方法は製造元のマニュアルに従った。以下実施例5と同様にしてGST−HA1変異体W176A/D271Fを得た。結合アッセイは実施例5と同様に行ったが、HA1変異体をウエルに加える際に25mMのガラクトースあるいはNeu5Acを同時に加える阻害実験も行った。
【0104】
(2)実験結果
図12はW176A変異体のAsp271をフェニルアラニン(Phe)に置換したW176A/D271F変異体の固相化ムチンへの結合能を検証した結果である。図の縦軸はHA1のムチンに対する結合量を示し、野生型HA1のBSM及びPGMへの結合をそれぞれ100%とした割合で示している。W176Aで減少したムチンへの結合能はW176A/D271F変異体では野生型と同程度或いはそれ以上の結合能を示すようになった。野生型HA1のBSMへの結合は阻害剤として25mM濃度で加えたNeu5Acにより著明に減少したが、同濃度のNeu5Ac添加でW176A/D271F変異体のBSMへの結合が阻害されることはなかった。一方、野生型HA1のPGMへの結合は25mM濃度のGalの添加ではほとんど阻害されなかったが、W176A/D271F変異体の結合は大きく阻害された。このことは、W176A/D271F変異体がSite IIを主たる結合部位としてガラクトースを強く認識する特性を獲得したことを示している。
【実施例7】
【0105】
その他のアミノ酸置換をしたHA1の結合能
実施例2の(1)と同様の手法で179番目のフェニルアラニン(Phe)をアルギニン(Arg)など側鎖の長いアミノ酸に置換した変異体のcDNAを作製し、大腸菌で発現させ、タンパク質を精製して糖に対する結合性を測定したところ、N−アセチルノイラミン酸に対する結合能が異なるものが得られた。
【0106】
実施例2の(1)と同様の手法で259番目のアスパラギン(Asn)をアラニン(Ala)に置換した変異体のcDNAを作製し、大腸菌で発現させ、タンパク質を精製して糖に対する結合性を測定したところ、Site IIでの糖結合性が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のポリペプチドは、糖に対し結合性を有する特性を利用して、例えば特定の器官組織や癌組織に特異的な糖鎖に薬剤を送達するための薬剤送達システム(drug delivery system)、癌の診断、カラム担体の表面に結合させて糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどを精製するための複合材料、などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】C型ボツリヌス(Clostridium botulinum)stockholm株HA1の全体構造。
【図2】HA1−N−アセチルガラクトサミン複合体の全体構造。
【図3】N−アセチルガラクトサミンの電子密度マップ。
【図4】HA1の糖結合部位におけるGalNAcと周辺残基との相互作用。
【図5】HA1−ガラクトース複合体の全体構造。
【図6】ガラクトースの電子密度マップ。
【図7】HA1の糖結合部位におけるガラクトースと周辺残基との相互作用。
【図8】HA1−N−アセチルノイラミン酸複合体の全体構造。
【図9】HA1−N−アセチルノイラミン酸の電子密度マップ。
【図10】HA1の糖結合部位におけるNeu5Acと周辺残基との相互作用。
【図11】HA1変異体のムチン結合能。
【図12】HA1変異体のムチン結合能。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項3】
配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項5】
配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項6】
配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項7】
ポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項8】
上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項9】
糖と非共有結合によって結合する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項10】
糖が、単糖、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項11】
糖が、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである、請求項10に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システム。
【請求項1】
下記(1)〜(4)のポリペプチド:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、からなるポリペプチド、
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチド、
からなる群から選択される糖結合性ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項3】
配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号6で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項5】
配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項6】
配列番号8で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、を少なくとも含むポリペプチドである、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項7】
ポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項8】
上記(1)〜(4)のいずれかのポリペプチドのヘテロ又はホモ多量体である、請求項1に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項9】
糖と非共有結合によって結合する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項10】
糖が、単糖、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項11】
糖が、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、或いはこれらの糖を少なくとも1つ含むオリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカンである、請求項10に記載の糖結合性ポリペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチドを支持体に結合してなる複合材料。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の糖結合性ポリペプチド及び薬剤を含む薬剤送達システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−169166(P2008−169166A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5265(P2007−5265)
【出願日】平成19年1月14日(2007.1.14)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月14日(2007.1.14)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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