説明

糖鎖の切断触媒

ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する触媒、該糖鎖の特異的切断剤、生体組織中に存在する該糖鎖を特異的に切断するために用いられることを特徴とする医薬、該糖鎖を特異的に切断する方法、低分子量化された該糖鎖を特異的に生産する方法、および該触媒、該切断剤および該医薬の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な糖鎖切断触媒、糖鎖の特異的切断剤等に関する。
【背景技術】
まず、本明細書中で共通して用いる略号について説明する。
HA:ヒアルロン酸
CH:コンドロイチン
CS:コンドロイチン硫酸
CSA:コンドロイチン硫酸A
CSC:コンドロイチン硫酸C
CSD:コンドロイチン硫酸D
DS(CSBと表記することもある):デルマタン硫酸
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィー
KS:ケラタン硫酸
なおCSAは、「グルクロン酸残基とN−アセチルガラクトサミン残基とがβ1,3グリコシド結合した二糖単位」が連続して結合されてなる分子であって、「グルクロン酸残基(β1−3)4位が硫酸化されたN−アセチルガラクトサミン残基」からなる二糖単位を主たる構成成分とするCSである。
CSCは、「グルクロン酸残基とN−アセチルガラクトサミン残基とがβ1,3グリコシド結合した二糖単位」が連続して結合されてなる分子であって、「グルクロン酸残基(β1−3)6位が硫酸化されたN−アセチルガラクトサミン残基」からなる二糖単位を主たる構成成分とするCSである。
CSDは、「グルクロン酸残基とN−アセチルガラクトサミン残基とがβ1,3グリコシド結合した二糖単位」が連続して結合されてなる分子であって、「2位が硫酸化されたグルクロン酸残基(β1−3)6位が硫酸化されたN−アセチルガラクトサミン残基」からなる二糖単位を主たる構成成分とするCSである。
The Journal of Biological Chemistry,Vol.277,p33654−33663(2002)には、ヒアルロニダーゼの一種であるHYAL1が記載されている。またBiochemical and biophysical research communications,236(1),p10−15,(1997)には、HYAL1の全アミノ酸配列及びこれをコードするcDNAの全塩基配列が開示されている。
しかし、HYAL1がCSB、KS及び平均分子量1000のCHを切断する活性を実質的に有さず、CSA、CSC及びCSDを切断する活性を有することは知られていない。
【発明の開示】
本発明は、HYAL1を必須成分とする新規な糖鎖切断触媒、糖鎖の特異的切断剤等を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、HYAL1を必須成分とする新規な糖鎖切断触媒、糖鎖の特異的切断剤及び医薬、並びにHYAL1を特定の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む糖鎖の特異的切断方法、HYAL1を特定の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された当該糖鎖を特異的に生産する方法、HYAL1を保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、前記触媒の製造方法、HYAL1を保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、前記切断剤の製造方法、及びHYAL1を保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、前記医薬の製造方法等を提供するに至った。
本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とし、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する触媒(以下、「本発明触媒」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明触媒は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。
また本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とする、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖の特異的切断剤(以下、「本発明切断剤」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明切断剤は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。
また本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とし、生体組織中に存在するHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられることを特徴とする医薬(以下、「本発明医薬」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明医薬は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。
また、本発明医薬による切断対象となる糖鎖が存在する「生体組織」は、髄核であることが好ましい。また本発明医薬は、椎間板ヘルニアの処置剤であることが好ましい。
また本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質を、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法(以下、「本発明切断方法」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明切断方法においては、DS、KS及び平均分子量7000のCHが切断されないことが好ましい。
また本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質を、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された当該糖鎖を特異的に生産する方法(以下、「本発明糖鎖生産方法」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明糖鎖生産方法においては、低分子量化されたDS、KS及びCHが生産されないことが好ましい。
また本発明は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明触媒の製造方法(以下、「本発明触媒製造方法」という)を提供する。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
また本発明は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明切断剤の製造方法(以下、「本発明切断剤製造方法」という)を提供する。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
また本発明は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明医薬の製造方法(以下、「本発明医薬製造方法」という)を提供する。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
さらに本発明は、下記(A)又は(B)のタンパク質と他のペプチドとの融合タンパク質(以下、「本発明融合タンパク質」という)を提供する。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明融合タンパク質は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。
さらに本発明は、上記本発明医薬を投与することを特徴とする、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が生体組織に過剰に存在する疾患を処置する方法(以下、「本発明処置方法」という)を提供する。
本発明処置方法における好ましい本発明医薬及び好ましい生体組織は、上記本発明医薬において好ましいものと同様である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、HYAL1の基質としてHAを用いた場合の結果を示す図である。
第2図は、HYAL1の基質としてCHを用いた場合の結果を示す図である。
第3図は、HYAL1の基質としてCSAを用いた場合の結果を示す図である。
第4図は、HYAL1の基質としてCSBを用いた場合の結果を示す図である。
第5図は、HYAL1の基質としてCSCを用いた場合の結果を示す図である。
第6図は、HYAL1の基質としてCSDを用いた場合の結果を示す図である。
第7図は、HYAL1の基質としてKSを用いた場合の結果を示す図である。
第8図は酵素源をHYAL1、基質をHAとした場合のクロマトグラフの結果を示す図である。
第9図は酵素源をHYAL1、基質をCSAとした場合のクロマトグラフの結果を示す図である。
第10図は酵素源をHYAL1、基質をCSCとした場合のクロマトグラフの結果を示す図である。
第11図は酵素源をPH20、基質をHAとした場合のクロマトグラフの結果を示す図である。
第12図は酵素源をPH20、基質をCSAとした場合のクロマトグラフの結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を、発明の実施の形態によって詳説する。
<1>本発明触媒
本発明触媒は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とし、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する触媒である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
(A)のタンパク質はHYAL1のタンパク質である。
なお、天然に存在するタンパク質には、それをコードするDNAの多型や変異の他、生成後のタンパク質の細胞内及び精製中の修飾反応などによってそのアミノ酸配列中にアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位等の変異が起こりうるが、それにもかかわらず変異を有しないタンパク質と実質的に同等の生理、生物学的活性を示すものがあることが知られている。このように(A)のタンパク質に対して構造的に若干の差違があってもその機能については大きな違いが認められないタンパク質も、本発明触媒の必須成分として用いることができる。人為的にタンパク質のアミノ酸配列に上記のような変異を導入した場合も同様であり、この場合にはさらに多種多様の変異体を作製することが可能である。例えば、ヒトインターロイキン2(IL−2)のアミノ酸配列中の、あるシステイン残基をセリンに置換したポリペプチドがインターロイキン2活性を保持することが知られている(Science,224,1431(1984))。また、ある種のタンパク質は、活性には必須でないペプチド領域を有していることが知られている。例えば、細胞外に分泌されるタンパク質に存在するシグナルペプチドや、プロテアーゼの前駆体等に見られるプロ配列などがこれにあたり、これらの領域のほとんどは翻訳後、又は活性型タンパク質への転換に際して除去される。このようなタンパク質は、一次構造上は異なった形で存在しているが、最終的には(A)のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質である。上記の(B)のタンパク質は、このようなタンパク質を規定するものである。
本明細書において「数個のアミノ酸」とは、HYAL1の活性が失われない程度の変異を起こしてもよいアミノ酸の数を示し、例えば600アミノ酸残基からなるタンパク質の場合、2〜30程度、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜8以下の数を示す。配列番号2の場合には、2〜22程度、好ましくは2〜11、より好ましくは2〜6以下の数を示す。
本明細書において、(B)のタンパク質と同様に、配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質も本発明触媒の有効成分として使用することができる。
配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列と好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、最も好ましくは97%以上の相同性を有することが好ましい。アミノ酸配列の相同性は、FASTAのような周知のコンピュータソフトウェアを用いて容易に算出することができ、このようなソフトウェアはインターネットによっても利用に供されている。
また本発明触媒における上記(A)及び(B)のタンパク質のアミノ酸配列には、他のタンパク質やペプチドのアミノ酸配列が含まれていても良い。すなわち上記(A)及び(B)のタンパク質は、他のペプチドとの融合タンパク質であっても良い。本発明は、このような上記(A)又は(B)のタンパク質と他のペプチドとの融合タンパク質(本発明融合タンパク質)をも提供する。本明細書における「他のペプチド」という用語は、「ポリペプチド」を含む概念として用いる。
本発明融合タンパク質としては、HYAL1とマーカーペプチドとの融合タンパク質等が例示される。このような本発明融合タンパク質は、精製や分析を容易にすることができるというメリットがある。上記マーカーペプチドとしては例えばFLAGペプチド、プロテインA、インスリンシグナル配列、His、CBP(カルモジュリン結合タンパク質)、GST(グルタチオン S−トランスフェラーゼ)などが挙げられる。例えばFLAGペプチドとの融合タンパク質は、抗FLAG抗体を結合させた固相を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって簡便に精製することができる。プロテインAとの融合タンパク質は、IgGを結合させた固相を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって簡便に精製することができる。同様に、Hisタグとの融合タンパク質については磁性ニッケルを結合させた固相を用いることができる。またインスリンシグナルとの融合タンパク質は、細胞外(培地等)に分泌されることから、細胞破砕等の抽出操作が不要となる。本発明融合タンパク質は、なかでもFLAGペプチドとの融合タンパク質であることが好ましい。
本発明融合タンパク質は、以下の通り製造することができる。
まず、前記(A)のタンパク質(配列番号2におけるアミノ酸番号1〜435で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質)をコードするDNA(以下「DNA(a)」という)を用意する。このDNAは、配列番号2におけるアミノ酸番号1〜435で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、遺伝暗号の縮重によって種々の異なったヌクレオチド配列を有するDNAが存在するが、配列番号1におけるヌクレオチド番号1〜1308で示されるヌクレオチド配列によって特定されるDNAが好ましい。このDNAは、GenBank accession No.U03056として登録されている。
また、前記(A)のタンパク質に代えて前記(B)のタンパク質をコードするDNA(以下「DNA(b)」という)を用いてもよい。「DNA(b)」は、前記(A)のアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有する限りにおいて特に限定されない。
これらの糖鎖を切断する活性を有するか否かは、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。例えば、後述の実施例に示すようなGPCにおける糖鎖のピークの移動によって検出することができ、この方法によって検出されることが好ましい。
また、HA、CSA、CSC及びCSD以外の種々の基質(糖鎖)を用いて、GPCにおける糖鎖のピークの移動の有無を検出することにより、HA、CSA、CSC及びCSDに対する切断活性の特異性の有無を検出することができる。このような方法によって、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を保持しているアミノ酸の欠失、置換、挿入又は転位を容易に選択することができる。
このような「DNA(b)」としては、例えば「DNA(a)」若しくは当該DNAに相補的なDNA又はこれらのDNAの塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが例示される。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning,Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」として具体的には、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt’s solution、100μg/mlサケ精子DNAを含む溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、50℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
上記DNA(a)又はDNA(b)のいずれかを保持するDNAを用いたタンパク質の発現は、当該DNAが保持されたベクター(好ましくは発現ベクター)を用いて行うことが好ましい。DNAのベクターへの組込みは、通常の方法によって行うことができる。
DNAを導入するベクターとしては、例えば、導入したDNAを発現させることができる適当な発現ベクター(ファージベクター或いはプラスミドベクター等)を使用することができ、本発明ベクターを組込む宿主細胞に応じて適宜選択できる。このような宿主−ベクター系としては、大腸菌(E.coli)と、pET15b(Novagen社製)、pTrcHis(インビトロゲン社製)、pGEX(ファルマシア バイオテック社製)、pTrc99(ファルマシア バイオテック社製)、pKK233−3(ファルマシア バイオテック社製)、pEZZZ18(ファルマシア バイオテック社製)、pCH110(ファルマシア バイオテック社製)、pBAD(インビトロゲン社製)、pRSET(インビトロゲン社製)又はpSE420(インビトロゲン社製)等の原核細胞用の発現ベクターとの組み合わせ、COS細胞や3LL−HK46細胞などの哺乳類細胞と、pGIR201(Kitagawa,H.,and Paulson,J.C.(1994)J.Biol.Chem.269,1394−1401)、pEF−BOS(Mizushima,S.,and Nagata,S.(1990)Nucleic Acid Res.18,5322)、pCXN2(Niwa,H.,Yamanura,K.and Miyazaki,J.(1991)Gene 108,193−200)、pCMV−2(イーストマン コダック(Eastman Kodak)製)、pCEV18、pME18S(丸山ら,Med.Immunol.,20,27(1990))又はpSVL(ファルマシア バイオテック社製)等の哺乳類細胞用発現ベクターの組み合わせのほか、宿主細胞として酵母、枯草菌などが例示され、これらに対応する各種ベクターが例示される。上述の宿主−ベクター系の中でも特に原核細胞(特に大腸菌細胞)とpET15bとの組み合わせが好ましい。
また、宿主細胞として昆虫細胞を用いることもできる。この場合にも、昆虫細胞に対応する各種ベクターを用いることができる。昆虫細胞としては、高発現SF+細胞(expresSf+(登録商標))を用いることが好ましい。また、DNAを組み込むトランスファーベクターとしてはpPSC8やpPSC12が好ましい。DNAをpPSC8に組み込む場合には、SmaI、KpnI、PstI、XbaI、NruI、BglIIを利用して組み込みを行うことができる。DNAをpPSC12に組み込む場合には、SmaI、KpnI、PstI、BglIIを利用して組み込みを行うことができる。また、タンパク質のN末端にFLAGペプチドが融合されたかたちで発現されるようにするために、トランスファーベクターに組み込む前に、対応するDNAの末端にFLAGペプチドをコードする配列を付加しておくことが好ましい。
DNAをトランスファーベクターに組み込んだ後、これをバキュウロウイルスに導入することが好ましい。バキュウロウイルスとしては、Autographa californica nucleopolyhedrovirus(AcNPV)や、Bombyx mori nucleopolyhedrovirus(BmNPV)を用いることが好ましい。そして、目的とするDNAが導入されたバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させればよい。
DNAを組込むベクターは、目的とするタンパク質とマーカーペプチドとの融合タンパク質を発現するように構築されたものを用いることができる。DNAからのタンパク質の発現及び発現されたタンパク質の採取も、通常の方法に従って行うことができる。
例えば、目的とするDNAが組み込まれた発現ベクターを適当な宿主に導入することによって宿主を形質転換し、この形質転換体を生育させ、その生育物から発現されたタンパク質を採取することによって行うことができる。
本発明触媒は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有しており、この能力の有無も、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。なかでも、HA、CSA、CSC及びCSDの4種類の糖鎖を特異的に切断する能力を有するものが好ましい。
また本発明触媒は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。DS、KS及び平均分子量7000のCHに対する切断能力の有無も、前記と同様にDS、KS又は平均分子量7000のCHを基質として用いて、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。
本発明触媒は、少なくとも前記の(A)又は(B)のタンパク質を含んでいればよい。すなわち本発明触媒は、前記の(A)又は(B)のタンパク質自体をそのまま本発明触媒としてもよく、前記の(A)又は(B)のタンパク質に加えて、これらのタンパク質に悪影響を与えず、かつ、本発明の効果に影響を与えない限りにおいて、他の成分を含有させてもよい。
本発明触媒の製造方法も特に限定されず、天然物から上記(A)又は(B)のタンパク質を単離してもよく、化学合成等によって上記(A)又は(B)のタンパク質を製造してもよく、遺伝子工学的手法によって上記(A)又は(B)のタンパク質を製造してもよい。遺伝子工学的手法によって本発明触媒を製造する方法については、後述の本発明触媒製造方法を参照されたい。
本発明触媒の形態も限定されず、溶液形態、凍結形態、凍結乾燥形態、担体と結合した固定化酵素形態のいずれであってもよい。
<2>本発明切断剤
本発明切断剤は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とする、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖の特異的切断剤である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明切断剤は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有しており、この能力の有無も、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。なかでも、HA、CSA、CSC及びCSDの4種類の糖鎖を特異的に切断する切断剤であることが好ましい。
また本発明切断剤は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。DS、KS及び平均分子量7000のCHに対する切断能力の有無も、前記と同様にDS、KS又は平均分子量7000のCHを基質として用いて、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。
そして本発明切断剤は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられるが、このような目的の下でDS、KS及び平均分子量7000のCHを切断しない目的で用いられることが好ましい。
本発明切断剤の製剤化には、公知の方法を用いることができる。また本発明切断剤の形態も特に限定されず、例えば溶液状態、凍結状態、凍結乾燥状態、担体と結合した固定化酵素形態のいずれであってもよい。
本発明切断剤に関するその他の説明は、前記の「<1>本発明触媒」と同様である。遺伝子工学的手法によって本発明切断剤を製造する方法については、後述の本発明切断剤製造方法を参照されたい。
<3>本発明医薬
本発明医薬は、下記(A)又は(B)のタンパク質を必須成分とし、生体組織中に存在するHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられることを特徴とする医薬である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明医薬は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有しており、この能力の有無も、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。なかでも、HA、CSA、CSC及びCSDの4種類の糖鎖を特異的に切断する医薬であることが好ましい。
また本発明医薬は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断する能力を有しないものが好ましい。DS、KS及び平均分子量7000のCHに対する切断能力の有無も、前記と同様にDS、KS又は平均分子量7000のCHを基質として用いて、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。
そして本発明医薬は、生体組織中に存在するHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられるが、このような目的の下でDS、KS及び平均分子量7000のCHを切断しない目的で用いられることが好ましい。
また本発明医薬が適用される生体組織は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断することが望まれる生体組織である限りにおいて特に限定されない。例えば、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が、健常状態におけるレベルよりも過剰に存在しているような生体組織が挙げられる。このような生体組織として具体的には髄核が例示され、なかでも椎間板ヘルニアの状態にある髄核が好ましい。すなわち本発明医薬は、椎間板ヘルニアの処置剤であることが好ましい。本明細書における「処置」の用語には、予防、進行抑制(悪化防止)、改善、治療等を目的とする処置が含まれる。
近年、コンドロイチナーゼを椎間板に投与して髄核を融解し、椎間板ヘルニアを治療する試みが現に行われている(米国特許第4696816号、Clinical Orthopaedics,253,301−308(1990))。このことから、CSを切断する活性を有する本発明医薬は、同様に椎間板ヘルニアの処置剤として十分に利用しうるものである。
そして本発明医薬が適用される動物も特に限定されないが、脊椎動物であることが好ましく、なかでも哺乳類であることが好ましい。哺乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ等が提示されるが、ヒトに対して適用されるものが特に好ましい。
本発明医薬の投与方法は、本発明医薬による生体組織中のHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖の特異的切断作用が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば注射による投与が挙げられる。本発明医薬を髄核に適用する場合には、目的とする髄核が存在する椎間板又は脊髄硬膜外腔に注射することが好ましい。
投与方法に応じて上記(A)又は(B)のタンパク質を適宜製剤化して、本発明医薬とすることができる。通常、製剤化は医薬的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により行われる。剤形としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、液剤等が挙げられる。なかでも注射剤が好ましい。
本発明医薬の投与量は、上記(A)又は(B)のタンパク質の種類、比活性、投与される動物の種類や症状等、投与対象となる生体組織の種類やその状態等によって個別的に設定されるべきものであり、特に限定されないが、一般的には一日あたり0.1μg〜1000mg程度を投与することができる。
本発明医薬に関するその他の説明は、前記の「<1>本発明触媒」と同様である。遺伝子工学的手法によって本発明医薬を製造する方法については、後述の本発明医薬製造方法を参照されたい。
<4>本発明切断方法
本発明切断方法は、下記(A)又は(B)のタンパク質を、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
上記(A)及び(B)のタンパク質に関する説明は、前記の「<1>本発明触媒」と同様である。上記(A)又は(B)のタンパク質を、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる方法は、これらの分子が相互に接触して酵素反応が生ずる状態となる限りにおいて特に限定されず、例えば前者に後者を添加してもよく、後者に前者を添加してもよく、両者を同時に添加してもよい。
また、上記(A)及び(B)のタンパク質を担体(例えば、ゲル、ビーズ、膜、プレート等)に固定させ、これとHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖とを接触させてもよい。
両者を接触させた後の反応の条件は、上記(A)又は(B)のタンパク質が作用する条件である限りにおいて特に限定されないが、これらのタンパク質の至適pH付近(例えばpH4〜pH5程度)で反応させることが好ましく、当該pH下で緩衝作用を有する緩衝液中で反応を行うことがより好ましい。またこのときの温度も、これらのタンパク質の活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、35℃〜40℃程度が例示される。またこれらのタンパク質の活性を増加させる物質がある場合には、その物質を添加してもよい。反応時間は、pH条件、温度条件、作用させるタンパク質及び糖鎖の量、及びどの程度の切断(低分子量化)を所望するか等によって適宜調節することができる。反応時間を長くすれば切断(低分子量化)の程度を増すことができ、反応時間を短くすればその程度を減ずることができる。
また本発明切断方法には、このようなタンパク質の作用工程が少なくとも含まれていればよく、さらに他の工程が含まれていてもよい。
本発明切断方法によって、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が特異的に切断される。これらの糖鎖が切断されたか否かは、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。その方法の説明は前記と同様である。なかでも、HA、CSA、CSC及びCSDの4種類の糖鎖を特異的に切断する方法であることが好ましい。
また本発明切断方法は、DS、KS及び平均分子量7000のCHを切断しないことが好ましい。DS、KS及び平均分子量7000のCHが切断されていないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって検出することができる。
すなわち本発明切断方法は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられるが、このような目的の下でDS、KS及び平均分子量7000のCHを切断しない目的で用いられることが好ましい。
本発明切断方法に関するその他の説明は、前記の「<1>本発明触媒」と同様である。
<5>本発明糖鎖生産方法
本発明糖鎖生産方法は、下記(A)又は(B)のタンパク質を、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された当該糖鎖を特異的に生産する方法である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
本発明糖鎖生産方法により、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が低分子量化された糖鎖を特異的に生産することができる。低分子量化された糖鎖が生産されたか否かは、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。その方法の説明は前記と同様である。なかでも、HA、CSA、CSC及びCSDの4種類の糖鎖を特異的に生産する方法であることが好ましい。
また本発明糖鎖生産方法は、低分子量化されたDS、KS及びCHを生産しないことが好ましい。DS、KS及びCHが生産されていないことも、低分子量化した糖鎖の一般的な検出方法によって確認することができる。
すなわち本発明糖鎖生産方法は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられるが、このような目的の下でDS、KS及び平均分子量7000のCHを切断しない目的で用いられることが好ましい。
生成物から低分子量化された糖鎖を単離する方法等は、公知の方法によって行うことができる。
本発明糖鎖生産方法に関するその他の説明は、前記の「<1>本発明触媒」及び「<4>本発明切断方法」と同様である。
<6>本発明触媒製造方法
本発明触媒製造方法は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明触媒の製造方法である。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
上記(a)のDNAは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、遺伝暗号の縮重によって種々の異なった塩基配列を有するDNAが存在するが、配列番号1で示される塩基配列によって特定されるDNAが好ましい。配列番号1で示されるDNAは、GenBank accession No.U03056として登録されている。
上記(b)のDNAも、配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするものである限りにおいて特に限定されない。このようなDNAとしては、例えば上記(a)に記載のDNA若しくは当該DNAに相補的なDNA又はこれらのDNAの塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが例示される。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」として具体的には、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt’s solution、100μg/mlサケ精子DNAを含む溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、50℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。
上記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いたタンパク質の発現は、当該DNAが保持されたベクター(好ましくは発現ベクター)を用いて行うことが好ましい。DNAのベクターへの組込みは、通常の方法によって行うことができる。
DNAを導入するベクターとしては、例えば、導入したDNAを発現させることができる適当な発現ベクター(ファージベクター或いはプラスミドベクター等)を使用することができ、本発明ベクターを組込む宿主細胞に応じて適宜選択できる。このような宿主−ベクター系としては、COS細胞、3LL−HK46細胞などの哺乳類細胞と、pGIR201(Kitagawa,H.,and Paulson,J.C.(1994)J.Biol.Chem.269,1394−1401)、pEF−BOS(Mizushima,S.,and Nagata,S.(1990)Nucleic Acid Res.18,5322)、pCXN2(Niwa,H.,Yamanura,K.and Miyazaki,J.(1991)Gene 108,193−200)、pCMV−2(イーストマン コダック(Eastman Kodak)製)、pCEV18、pME18S(丸山ら,Med.Immunol.,20,27(1990))又はpSVL(ファルマシア バイオテック社製)等の哺乳類細胞用発現ベクターとの組み合わせ、大腸菌(E.coli)と、pTrcHis(インビトロゲン社製)、pGEX(ファルマシア バイオテック社製)、pTrc99(ファルマシア バイオテック社製)、pKK233−3(ファルマシア バイオテック社製)、pEZZZ18(ファルマシア バイオテック社製)、pCH110(ファルマシア バイオテック社製)、pET(ストラタジーン社製)、pBAD(インビトロゲン社製)、pRSET(インビトロゲン社製)、及びpSE420(インビトロゲン社製)等の原核細胞用の発現ベクターとの組み合わせ、昆虫細胞とバキュロウイルスとの組み合わせのほか、宿主細胞として酵母、枯草菌などが例示され、これらに対応する各種ベクターが例示される。上述の宿主−ベクター系の中でも特に哺乳類細胞(特にCOS細胞)とpFLAG−CMV6(SIGMA社製)との組み合わせが好ましい。
また、DNAを組込むベクターは、目的とするタンパク質とマーカーペプチドとの融合タンパク質を発現するように構築されたものを用いることもできる。DNAからのタンパク質の発現及び発現されたタンパク質の採取も、通常の方法に従って行うことができる。
例えば、目的とするDNAが組み込まれた発現ベクターを適当な宿主に導入することによって宿主を形質転換し、この形質転換体を生育させ、その生育物から発現されたタンパク質を採取することによって行うことができる。
ここで「生育」とは、形質転換体である細胞や微生物自体の増殖や、形質転換体である細胞を組み込んだ動物・昆虫等の生育を含む概念である。また、ここでいう「生育物」とは、形質転換体を生育させた後の培地(培養液の上清)及び培養された宿主細胞・分泌物・排出物等を包含する概念である。生育の条件(培地や培養条件等)は、用いる宿主に合わせて適宜選択できる。
生育物からのタンパク質の採取も、タンパク質の公知の抽出・精製方法によって行うことができる。
例えば目的とするタンパク質が、培地(培養液の上清)中に分泌される可溶性の形態で産生される場合には、培地を採取し、これをそのまま用いてもよい。また目的とするタンパク質が細胞質中に分泌される可溶性の形態、又は不溶性(膜結合性)の形態で産生される場合には、窒素キャビテーション装置を用いる方法、ホモジナイズ、ガラスビーズミル法、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出、又はこれらの組み合わせ等の処理操作によって目的とするタンパク質を抽出することができ、その抽出物をそのまま用いてもよい。
これらの培地や抽出物から、タンパク質をさらに精製することもできる。精製は、不完全な精製(部分精製)であっても、完全な精製であってもよく、目的とするタンパク質の使用目的等に応じて適宜選択することができる。
精製方法として具体的には、例えば硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等や、これらの組み合わせ等の処理操作が挙げられる。
目的とするタンパク質が製造されたか否かは、アミノ酸配列、作用、基質特異性等を分析することによって確認することができる。
また本発明切断方法には、以上のような発現・採取工程が少なくとも含まれていればよく、さらに他の工程が含まれていてもよい。
<7>本発明切断剤製造方法
本発明切断剤製造方法は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明切断剤の製造方法である。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
本発明切断剤製造方法に関するその他の説明は、前記の「<6>本発明触媒製造方法」と同様である。
<8>本発明医薬製造方法
本発明医薬製造方法は、下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、本発明医薬の製造方法である。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
本発明医薬製造方法に関するその他の説明は、前記の「<6>本発明触媒製造方法」と同様である。
<9>本発明処置方法
本発明処置方法は、本発明医薬を投与することを特徴とする、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が生体組織に過剰に存在する疾患を処置する方法である。
本発明処置方法に関するその他の説明は、前記の「<3>本発明医薬」と同様である。
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。しかしながら、これらによって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
(1)HYAL1遺伝子の発現
COS−7細胞(理化学研究所バイオリソースセンターより入手)を、10%のウシ胎児血清を含むDMEM培地(Invitrogen社製)中で約20〜40%コンフルエントになるまで培養した。培養は5%COの下で37℃で実施した。
配列番号1で示される塩基配列(HYAL1のcDNA)をpFLAG−CMV6ベクター(SIGMA−Aldrich社製)に組み込んだヒアルロニダーゼ発現ベクターを、TransFast Transfection kit(Promega社製)を用いてCOS−7細胞にトランスフェクトし、10%のウシ胎児血清を含むDMEM培地中、37℃で3日間培養した。培養は5%COの下で37℃で実施した。
また、配列番号1で示される塩基配列(HYAL1のcDNA)が組み込まれていないpFLAG−CMV6ベクターをトランスフェクトした細胞についても、同様に培養した。
(2)酵素液の調製
上記(1)で培養された細胞(HYAL1のcDNAを組み込んだ発現ベクターをトランスフェクトしたもの、又はHYAL1のcDNAを組み込んでいない発現ベクターをトランスフェクトしたもの)を、10mM Tris−HCl(pH7.4又はpH6.0)、0.5% Triton X−100及び0.25M シュークロースを含有する溶液中、氷冷下でセルスクレーパーを用い破砕した。この破砕後の液をそのまま酵素液として用いた。
(3)基質特異性の解析
(2)で調製された酵素液を種々の基質と反応させることによって、酵素の基質特異性を解析した。反応は、0.25%の各種基質、0.15M NaCl、及び50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4又はpH5)又はリン酸ナトリウム緩衝液(pH6又はpH7)を含有する反応混合液に(2)で調製された酵素を最終濃度20%(vol/vol)となるよう添加し、37℃で4日間インキュベートすることによって行った。
ここで用いた基質は、以下の通りである。
*HS:(鶏冠由来;生化学工業株式会社製)
*CH:(サメ由来;生化学工業株式会社製)平均分子量7000
*CSA(クジラ軟骨由来;生化学工業株式会社製)
このCSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400650として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
・セルロースアセテート膜電気泳動で単一のバンドを示す。
・窒素含量:2.4〜2.8%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
・硫黄含量:6.2〜6.6%(Mikrochim.Acta.,123(1955)に記載の方法で測定)
・ガラクトサミン含量:32.0〜37.0%(アミノ酸自動分析器)
・グルクロン酸含量:35.0〜40.0%(カルバゾール反応)
・分子量:25,000〜50,000(Biochem.J.,23,pp517(1929)に記載の方法で測定)
・4−硫酸/6−硫酸:80/20(J.Biol.Chem.,243,p1536(1968)に記載の方法で測定)
*DS(ブタ皮由来;生化学工業株式会社製)
このDS(CSB)は、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400660として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
・赤外分光光度計で純粋と判断される
・窒素含量:2.4〜2.9%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
・硫黄含量:6.2〜6.9%(Mikrochim.Acta.,p123(1955)に記載の方法で測定)
・ガラクトサミン含量:32.0〜37.0%(アミノ酸自動分析器)
・イズロン酸含量:36.0〜42.0%(カルバゾール反応)
・分子量:11,000〜25,000(Biochem.J.,23,p517(1929)に記載の方法で測定)
*CSC(サメ軟骨由来;生化学工業株式会社製)
このCSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400670として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
・セルロースアセテート膜電気泳動で単一のバンドを示す。
・窒素含量:2.3〜2.7%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
・硫黄含量:6.4〜6.8(Mikrochim.Acta.,p123(1955)に記載の方法で測定)
・ガラクトサミン含量:32.0〜37.0%(アミノ酸自動分析器)
・グルクロン酸含量:34.0〜39.0%(カルバゾール反応)
・分子量:40,000〜80,000(Biochem.J.,23,pp517(1929)に記載の方法で測定)
・4−硫酸/6−硫酸:10/90(J.Biol.Chem.,243,p1536(1968)に記載の方法で測定)
*CSD(サメ軟骨由来;生化学工業株式会社製)
このCSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400676として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
窒素含量:2.2〜2.6%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
硫黄含量:7.1〜7.7%(Mikrochim.Acta.,123(1955)に記載の方法で測定)ガラクトサミン含量:30〜35%(アミノ酸自動分析器)
グルクロン酸含量:32〜35%(カルバゾール反応)
*KS(ウシ角膜由来;生化学工業株式会社製)
このKSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400760として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
・セルロースアセテート膜電気泳動で単一のバンドを示す。
・窒素含量:2.2〜3.0%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
・硫黄含量:6.5〜8.0%(Mikrochim.Acta.,p123(1955)に記載の方法で測定)
・ガラクトース含量:34〜40%(Biochem.J.,50,p298(1952)に記載の方法で測定)
・ガラクトサミン含量:検出限界以下(アミノ酸自動分析器)
・グルコサミン含量:30〜40%(HITACHI KLA−5;株式会社日立製作所製)
インキュベート後の溶液を、ゲル浸透クロマトグラフィー(カラム:TSKgel−G2500PWXL、TSKgel−G3000PWXL及びTSKgel−G4000PWXLの3本。溶出液は0.2M NaCl、流速は0.6mL/分)に付し、屈折率ピークの位置の移動を観察した。
基質としてHAを用いた場合の結果を第1図に、平均分子量7000のCHを用いた場合の結果を第2図に、CSAを用いた場合の結果を第3図に、CSBを用いた場合の結果を第4図に、CSCを用いた場合の結果を第5図に、CSDを用いた場合の結果を第6図に、KSを用いた場合の結果を第7図にそれぞれ示す。各グラフの縦軸は屈折率を、横軸は時間(保持時間;分)を示す。各図の上段(各図A)はHYAL1のcDNAをトランスフェクトしていない細胞の酵素液を、下段(各図B)はHYAL1のcDNAをトランスフェクトした細胞の酵素液をそれぞれ用いた場合の結果である。また図中の最も太い実線(青線)はpH7、次に太い実線(赤線)はpH6、最も細い実線(緑線)はpH5、ドットによる線(黒線)はpH4の反応混合液中でそれぞれ反応させたときの結果を示す。グラフの中央付近に存在するピークの保持時間が、上段のグラフ(HYAL1のcDNAをトランスフェクトしていない)よりも長時間側にシフトした場合には、基質が低分子量化されたことになる。
第1図より、HYAL1のcDNAをトランスフェクトした細胞の酵素液をpH4又はpH5の条件下でHAに作用させると、中央付近に存在するピークが長時間側にシフトした(HAが低分子量化された)。このことから、HYAL1のcDNAでトランスフェクトした細胞では、HAを切断する活性を有するHYAL1が実際に発現されていることが確認された。
第2図、第4図及び第7図より、HYAL1のcDNAをトランスフェクトした細胞の酵素液をpH4〜7の条件下でCSB、KS又は及び平均分子量7000のCHに作用させても、中央付近に存在するピークのシフトは観察されなかった(これらの基質は低分子量化されなかった)。このことから、HYAL1はCSB、KS及び平均分子量7000のCHを切断する活性を実質的に有しないことが示された。
第3図、第5図及び第6図より、HYAL1のcDNAをトランスフェクトした細胞の酵素液をpH4又はpH5の条件下でCSA、CSC又はCSDに作用させると、中央付近に存在するピークが長時間側にシフトした(これらの基質が低分子量化された)。このことから、HYAL1はCSA、CSC及びCSDを切断する活性を有することが示された。
以上の結果から、HYAL1はHAのみならずCSA、CSC及びCSDを切断する活性を有するが、DS(CSB)、KS及び平均分子量7000のCHを切断する活性を実質的に有しないことが示された。
また、インキュベート後の溶液は不飽和糖を反映する210nmの吸収を示さなかったことから、HYAL1はCSA、CSC及びCSDを加水分解により切断することが示された。
(4)基質への反応性の解析
HYAL1の基質への反応性をPH20(精巣ヒアルロニダーゼ:GenBank accession No.S67798として登録されているヒアルロニダーゼ)の基質への反応性と比較した。
ここで用いた酵素液、基質は(3)で用いた酵素液、基質と同じである。また反応液の組成、反応温度も(3)と同じである。ただし、反応時間は1日間、4日間、7日間、14日間及び未反応の5点を設定し、反応終了後それぞれの試料は−30℃で凍結保存した。
また第11図、第12図で用いたPH20の酵素液は(1)及び(2)で記載された方法によりHYAL1と同様に調製した。PH20のcDNAをpFLAG−CMV6ベクターに組み込み、そのヒアルロニダーゼ発現ベクターを(1)と同条件でCOS細胞に導入してPH20タンパク質を一過性発現させた。その発現細胞を(2)と同条件で破砕し酵素液とした。
反応後の各試料は(3)と同様ゲル浸透クロマトグラフィーにおいて示差屈折率ピークの位置の移動を観察した。
第8図は酵素源をHYAL1、基質をHAとした場合のクロマトグラフの結果を示し、第9図は酵素源をHYAL1、基質をCSAとした場合、第10図は酵素源をHYAL1、基質をCSCとした場合の結果をそれぞれ示す。また第11図は酵素源をPH20、基質をHAとした場合、第12図は酵素源をPH20、基質をCSAとした場合の結果をそれぞれ示す。各グラフの縦軸は屈折率を、横軸は時間(保持時間;分)を示す。図中の0日、1日、4日、7日、14日はそれぞれの試料の反応時間を示す。また、図中の最も太い実線(黒線)は0日、次に太い実線(赤線)は1日、最も細い実線(青線)は4日、最も太いドットによる線(緑線)は7日、次に太いドットによる線(橙線)は14日での結果を示す。
(3)と同様グラフの中央付近に存在するピークの保持時間が長時間側にシフトした場合には、基質が低分子量化されたことになる。
第8図より、反応時間が0の場合に認められるピークの保持時間が、1日以上反応させた場合に長時間側に移行する(HAが低分子量化した)ことが判明した。同様に第9図より基質をCSAとした場合にも、1日以上反応させることで、ピーク保持時間が長時間側に移行し、第10図より基質をCSCとした場合にも同様の結果を示すことが判明した。このことからHYAL1はHA、CSA及びCSCに対しほぼ同様の反応性を示すことが判明した。
第11図より酵素源をPH20、基質をHAとした場合、反応時間に応じてピークの保持時間が長時間側に移行することが判明した。一方基質をCSAとした場合には、反応時間を増加させてもピークの保持時間は顕著な変化を示さないことが第12図より示された。このことからPH20は、CSAに対する反応性と比較してHAに対しては強い反応性を示すことが判明した。
以上の結果よりHYAL1は、PH20とは異なる基質反応性を有することがわかった。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年3月31日出願の日本特許出願(特願2003−097301)および2003年4月18日出願の日本特許出願(特願2003−113965)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明触媒及び本発明切断剤は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有することから、このような糖鎖を特異的に切断(低分子量化)することができ極めて有用である。また本発明医薬は、生体組織中に存在するHA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断することができることから、切断を望むこのような糖鎖を切断し、切断を望まない糖鎖を残存させることができ極めて有用である。さらに本発明医薬(本発明触媒、本発明切断剤)は、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を加水分解により切断することから、細菌由来のリアーゼ酵素と違って不飽和も生成せず、さらに安全性が高い医薬とすることができる可能性があり、極めて有用である。
また本発明切断方法も、HA、CSA、CSC及びCSDからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断でき極めて有用である
本発明糖鎖生産方法も、低分子量化された所定の糖鎖を特異的に、かつ簡便、迅速、大量、安価に生産することができ極めて有用である。
本発明触媒製造方法、本発明切断剤製造方法及び本発明医薬製造方法も、本発明触媒、本発明切断剤及び本発明医薬を簡便、迅速、大量かつ安価に製造することができ、極めて有用である。本発明融合タンパク質も、本発明触媒、本発明切断剤や本発明医薬の必須成分とすることができ、極めて有用である。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)又は(B)のタンパク質を有効成分として含有し、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する触媒。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項2】
デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲1に記載の触媒。
【請求項3】
下記(A)又は(B)のタンパク質を有効成分として含有し、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖の特異的切断剤。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項4】
デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲3に記載の切断剤。
【請求項5】
下記(A)又は(B)のタンパク質を有効成分として含有し、生体組織中に存在するヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断するために用いられることを特徴とする医薬。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項6】
デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲5に記載の医薬。
【請求項7】
生体組織が、髄核であることを特徴とする、請求の範囲5又は6に記載の医薬。
【請求項8】
医薬が、椎間板ヘルニアの処置剤であることを特徴とする、請求の範囲5〜7のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項9】
下記(A)又は(B)のタンパク質を、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、当該糖鎖を特異的に切断する方法。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項10】
該タンパク質が、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有さないことを特徴とする、請求の範囲9に記載の方法。
【請求項11】
下記(A)又は(B)のタンパク質を、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖に作用させる工程を少なくとも含む、低分子量化された当該糖鎖を特異的に生産する方法。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項12】
低分子量化されたデルマタン硫酸、ケラタン硫酸及びコンドロイチンを生産しないことを特徴とする、請求の範囲11に記載の方法。
【請求項13】
下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、請求の範囲1又は2に記載の触媒の製造方法。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項14】
下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、請求の範囲3又は4に記載の切断剤の製造方法。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項15】
下記(a)又は(b)のいずれかを保持するDNAを用いてタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質を採取する工程を少なくとも含む、請求の範囲5〜8のいずれか1項に記載の医薬の製造方法。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項16】
下記(A)又は(B)のタンパク質と他のペプチドとの融合タンパク質。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項17】
デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲16に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
請求の範囲5記載の医薬を投与することを特徴とする、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖が生体組織に過剰に存在する疾患を処置する方法。
【請求項19】
医薬が、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲18に記載の方法。
【請求項20】
生体組織が、髄核であることを特徴とする、請求の範囲18に記載の方法。
【請求項21】
疾患が、椎間板ヘルニアであることを特徴とする、請求の範囲18に記載の方法。
【請求項22】
下記(A)又は(B)のタンパク質の、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する触媒としての使用。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項23】
下記(A)又は(B)のタンパク質の、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖の特異的切断剤としての使用。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項24】
下記(A)又は(B)のタンパク質の、生体組織中に存在するヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する能力を有する医薬の製造のための使用。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2で示されるアミノ酸配列における1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は転位したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びコンドロイチン硫酸Dからなる群から選ばれる1又は2以上の糖鎖を特異的に切断する活性を有するタンパク質。
【請求項25】
医薬が、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及び平均分子量7000のコンドロイチンを切断する能力を有しないことを特徴とする、請求の範囲24に記載の使用。
【請求項26】
生体組織が、髄核であることを特徴とする、請求の範囲24又は25に記載の使用。
【請求項27】
医薬が、椎間板ヘルニアの処置剤であることを特徴とする、請求の範囲24〜26のいずれか1項に記載の使用。

【国際公開番号】WO2004/097022
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505830(P2005−505830)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004695
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】