説明

糸巻取方法及び糸巻取装置

【課題】綾落ちのない高品質なパッケージ7を形成できる糸巻取方法を提供する。
【解決手段】自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、糸巻取用の巻取ボビン6,7を回転駆動するためのパッケージ駆動モータ41と、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りの際にその糸4を綾振るためのトラバース装置5と、を備える。トラバース装置5は、糸4と係合して糸4を綾振りさせるためのトラバースガイド11と、パッケージ駆動モータ41とは切り離されて駆動し、トラバースガイド11を移動させるためのトラバースガイド駆動モータ45と、を有する。巻取チューブ6への糸4の巻始めの時や、糸切断や糸切れ後に糸継装置14の糸継作業が完了した後の巻取再開時においては、巻取ボビン6,7の回転が開始されるが、その開始直後を含む回転加速区間において、前記トラバースガイド11のトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータ45を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸をトラバースしながら巻き取ってパッケージを形成する糸巻取方法及び糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の糸巻取方法は例えば特許文献1に開示される。特許文献1に開示される自動ワインダは、パッケージの周面に接触して回転する綾振ドラムを備えている。この綾振ドラムの外周面には綾振り溝が螺旋状に形成されており、糸がこの綾振り溝に係合することにより、糸をトラバースながら巻き取ってパッケージを形成するように構成されている。
【特許文献1】特開平6−247629号公報(0003、図5等)
【0003】
また、特許文献2は、綾巻きボビンの駆動を駆動装置を介して行うとともに、糸綾振り装置の糸ガイドを電気機械式の駆動手段によって駆動する構成の巻取装置を開示する。この特許文献2の巻取装置は、綾巻きボビンとトラバース装置とが別個の駆動手段で駆動されるので、前述の特許文献1の構成に比べて多様な糸巻取が可能になっている。また、前記糸ガイドはフィンガ状(アーム状)に構成されており、前記駆動手段によって往復旋回駆動される構成になっている。
【特許文献2】特開2002−114445号公報(0031、0033、図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献2の構成では確かに多様な糸巻取が可能になるものの、綾巻きボビンと前記糸ガイドとは接触しないように若干離して配置されるため、糸ガイドと圧着ローラとの間の糸がフリーな区間(フリーレングス)が特許文献1の場合よりも大きくなる。このため、何らかの事情で糸の巻取テンションが変動すると、トラバースされる糸の挙動に大きな影響を与えてしまう。例えば、巻取開始時に綾巻きボビンの駆動を開始する際にはテンションが不安定になり易いので、糸の挙動が安定せず、綾落ちが生じ易くなってしまう。
【0005】
なお、糸の綾落ちを防止可能な糸巻取装置は特開2003−201059号公報(0034等)にも開示されているが、この糸巻取装置では瞬間的な停電を原因とする綾落ちを防止する技術を開示するに留まり、巻取スタート時のテンション変動の問題を解決するものではない。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、綾落ちのない高品質なパッケージを形成できる糸巻取方法及び糸巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、糸巻取装置を用いて糸を前記巻取ボビンに巻き取る、以下のような糸巻取方法が提供される。即ち、前記糸巻取装置は、糸巻取用の巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備える。前記トラバース装置が、糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、を有する。そして、前記巻取ボビンの少なくとも回転開始直後において、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御する。
【0009】
この方法により、巻取ボビン回転駆動モータの駆動開始時のテンション変動による糸の綾落ちを防止することができ、品質の良好なパッケージを得ることができる。
【0010】
前記の糸巻取方法においては、前記巻取ボビンの回転開始直後から加速終了までの全域にわたって、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御することが好ましい。
【0011】
この方法により、糸の綾落ちを一層確実に防止することができる。
【0012】
前記の糸巻取方法においては、前記糸巻取装置は、前記巻取ボビンに巻き取られる糸に対し糸巻取速度に応じたテンションを付与するテンション付与装置を備えることが好ましい。
【0013】
この方法により、巻取ボビンの回転開始直後において糸への付与テンションをテンション付与装置で適宜制御することで、糸のテンションの変動を低減できる。また、同時にトラバースストロークが狭まるので、糸の綾落ちも確実に防止できる。
【0014】
前記の糸巻取方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記トラバース装置は、前記トラバースガイドの位置を検出するガイド位置検出手段を備える。前記トラバースガイドのトラバースストローク端点を前記ガイド位置検出手段で検出し、この検出値に基づいて次回のトラバースストロークを演算し、演算されたトラバースストロークに基づいて前記トラバース駆動モータを制御する。
【0015】
この方法により、トラバースガイドを正確なストロークでトラバースすることで高品質なパッケージを形成できる。また、少なくとも回転開始直後において目標トラバースストロークを短く設定することで、トラバースガイドのトラバースストロークを狭める制御を容易に実現できる。
【0016】
前記の糸巻取方法においては、前記巻取ボビンの回転によって給糸ボビンの糸を解舒し、この糸を当該巻取ボビンに巻き取るように構成されていることが好ましい。
【0017】
この構成では、給糸ボビンの糸がなくなったときや、給糸ボビンからの糸解舒時の糸切れ等が発生する毎に巻取ボビンは停止制御され、所定の作業後に巻取ボビンの回転が開始されて巻取りが再開されることになる。このときに糸のテンションが不安定になり易いが、前記トラバースストローク狭化制御を行う本方法によれば、糸の綾落ちを効果的に回避することができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の糸巻取装置が提供される。即ち、糸巻取用の巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備える。前記トラバース装置が、糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、を有する。かつ、前記糸巻取装置は、前記巻取ボビン回転駆動モータ及び前記トラバースガイド駆動モータを制御する制御装置を備える。前記制御装置は、前記巻取ボビン回転駆動モータを速度ゼロから所定の速度まで加速させる巻取加速手段と、この巻取加速手段による前記巻取ボビン回転駆動モータの少なくとも回転開始直後において、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御するトラバースストローク短縮手段と、を備える。
【0019】
この構成により、巻取ボビン回転駆動モータの駆動開始時のテンション変動による糸の綾落ちを防止することができ、品質の良好なパッケージを得ることができる。
【0020】
前記の糸巻取装置においては、前記トラバースストローク短縮手段は、前記巻取ボビン回転駆動モータが速度ゼロから所定の速度までの加速が終了するまでの全域にわたって、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御することが好ましい。
【0021】
この構成により、糸の綾落ちを一層確実に防止することができる。
【0022】
前記の糸巻取装置においては、前記巻取ボビンに巻き取られる糸に対しテンションを付与するテンション付与装置を備えることが好ましい。
【0023】
この構成により、巻取ボビンの回転開始直後において糸への付与テンションをテンション付与装置で適宜制御することで、糸のテンションの変動を低減できる。また、同時にトラバースストロークが狭まるので、糸の綾落ちも確実に防止できる。
【0024】
前記の糸巻取装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記トラバース装置は、前記トラバースガイドのトラバースストローク端点の位置を検出するストローク端点位置検出手段を備えるとともに、この検出値に基づいて次回の目標トラバースストロークを演算し、演算された目標トラバースストロークに基づいて前記トラバースガイド駆動モータを制御するように構成している。前記トラバースストローク短縮手段は、前記目標トラバースストロークを短く設定することで前記トラバースガイドのトラバースストロークを短縮する。
【0025】
この構成により、トラバースガイドを正確なストロークでトラバースすることで高品質なパッケージを形成できる。また、少なくとも回転開始直後において目標トラバースストロークを短く設定することで、トラバースガイドのトラバースストロークを狭める制御を容易に実現できる。
【0026】
前記の糸巻取装置においては、前記巻取ボビンの回転によって給糸ボビンの糸を解舒し、この糸を当該巻取ボビンに巻き取るように構成されていることが好ましい。
【0027】
この構成では、給糸ボビンの糸がなくなったときや、給糸ボビンからの糸解舒時の糸切れ等が発生する毎に巻取ボビンは停止制御され、所定の作業後に巻取ボビンの回転が開始されて巻取りが再開されることになる。このときに糸のテンションが不安定になり易いが、前記トラバースストローク狭化制御を行うことで、糸の綾落ちを効果的に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図である。図2は、巻取ボビンの回転開始直後から所定の速度に到達するまでの、巻取ボビンの回転速度、付与テンション及びトラバースストロークの制御を示すグラフ図である。
【0029】
最初に図1に基づいて、自動ワインダ1の糸巻取ユニット(糸巻取装置)2を説明する。この糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3の糸4をトラバース装置5でトラバースさせながら巻取チューブ6に巻き取って糸層を形成し、所定長で所定形状のパッケージ7を形成するものである。図1では糸巻取ユニット2を1台しか図示していないが、このような糸巻取ユニット2が図略の機台上に多数並べて設けられることで、自動ワインダ1が構成されている。
【0030】
なお本明細書では、巻取チューブ6及びパッケージ7を総称して巻取ボビンと呼ぶ。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンが巻取チューブ6であり、糸層が形成された巻取ボビンがパッケージ7である。
【0031】
糸巻取ユニット2は、前記巻取チューブ6を着脱可能に支持するクレードル(巻取ボビン支持部材)8と、前記巻取チューブ6の周面に又はパッケージ7の糸層の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、を備えている。
【0032】
前記クレードル8は、前記巻取チューブ6の両端を挟持して回転自在に支持できるように構成されている。このクレードル8の巻取チューブ6を挟持する部分には電動モータとしてのパッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動装置)41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41により巻取チューブ6を積極的に回転駆動して糸4を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41の図示しない出力軸(モータ軸)は、巻取チューブ6をクレードル8に把持させたときに、当該巻取チューブ6と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。
【0033】
前記パッケージ駆動モータ41はマイクロコンピュータ式のパッケージ駆動制御部42により制御される。また、このパッケージ駆動制御部42は、後述のユニット制御部50からの信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。
【0034】
更に、前記クレードル8にはパッケージ回転センサ(巻取ボビン回転角度センサ)43が取り付けられており、このパッケージ回転センサ43は、クレードル8に取り付けられた巻取ボビン6,7の回転角度(巻取ボビンが何回転したか)を検出するように構成している。この巻取ボビン6,7の回転角度検出信号は、パッケージ回転センサ43から前記パッケージ駆動制御部42にフィードバックされるとともに、前記ユニット制御部50や後述のトラバース制御部46へ送信される。この回転角度検出信号に基づき、巻取ボビン6,7の回転速度が適宜の演算手段(パッケージ回転速度演算手段)で演算される。この演算手段はパッケージ駆動制御部42に備えられていても良いし、ユニット制御部50に備えられていても良い。
【0035】
前記クレードル8は支軸10を中心に傾動自在に構成されており、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りに伴う巻太り(糸層の径の増大)を、クレードル8が揺動することによって吸収できるように構成されている。
【0036】
また、前記クレードル8にはロータリエンコーダ等からなるパッケージ径センサ(糸層径センサ)44が取り付けられており、このパッケージ径センサ44は、クレードル8に取り付けられた巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成される糸層(パッケージ7)の径を、クレードル8の揺動角を検出することで検出できるように構成されている。このパッケージ径センサ44は、糸4を巻き取っている時にも糸4の巻取を停止している時にも糸層の径の検出が可能なものである。パッケージ径センサ44で取得された糸層の径は、前記ユニット制御部50や後述のトラバース制御部46へ送信される。
【0037】
前記接触ローラ9の近傍には前記トラバース装置5が設けられており、このトラバース装置5によって、糸4が綾振りされながらパッケージ7に巻き取られるようになっている。このトラバース装置5は、トラバース方向に往復移動自在に設けられたトラバースガイド(糸ガイド)11と、このトラバースガイド11を往復駆動するトラバースガイド駆動モータ45と、を備えている。
【0038】
前記トラバース装置5は、支軸まわりに旋回可能に構成した細長状のアーム部材13の先端に前記トラバースガイド11をフック状に設けるとともに、このアーム部材13を前記トラバースガイド駆動モータ45により図1の矢印のように往復旋回駆動させる構成になっている。本実施形態において前記トラバースガイド駆動モータ45はボイスコイルモータで構成されている。
【0039】
このトラバースガイド駆動モータ45は、マイクロコンピュータ式のトラバース制御部46によって制御される。このトラバース制御部46は、前記パッケージ回転センサ43から入力される回転角度検出信号や、パッケージ径センサ44から入力される糸層の径の信号等に基づいて、トラバースガイド駆動モータ45を駆動する。また、トラバース装置5はロータリエンコーダ等からなるトラバースガイド位置センサ47を備えており、アーム部材13の旋回位置(ひいては、トラバースガイド11の位置)を検出して、位置信号を前記トラバース制御部46へ送信できるように構成されている。これにより、巻取ボビン6,7の回転に同期させながら、所望のトラバース速度及びトラバース幅で糸4を綾振りできるようになっている。
【0040】
具体的には、トラバース制御部46は、トラバースガイド11が所定の目標トラバースストロークを実現するようにトラバースガイド駆動モータ45を駆動する。この目標トラバースストロークは、予め設定されたパッケージ7の巻幅に対応する長さに設定される。そして、トラバースガイド11が1回トラバースされる毎に、トラバース制御部46は、実際にトラバースガイド11が移動したトラバースストロークの端点の位置をトラバースガイド位置センサ47を介して取得する。
【0041】
トラバースストロークの端点の位置がトラバースガイド位置センサ47から検出されると、トラバース制御部46は、当該検出位置から実際のトラバースストロークを算出するとともに、この算出値と前記目標トラバースストロークとを比較する。そして、実際のトラバースストロークと目標トラバースストロークとが一致していない場合は、一致するように目標トラバースストロークを調整して、次回のトラバースではこの調整後の目標トラバースストロークに従ってトラバースガイド駆動モータ45を制御する。このようにして、所定の巻幅のパッケージ7を形成することができる。
【0042】
前記糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3から接触ローラ9へ至る糸走行経路中に、給糸ボビン3側から順に、解舒補助装置24、テンション付与装置25、糸継装置14、及びヤーンクリアラ(糸監視器)15を配設した構成となっている。
【0043】
解舒補助装置24は、給糸ボビン3からの糸4の解舒とともに芯管に被さる筒体を下降させることにより、バルーン抵抗を低減し、給糸ボビン3からの糸4の解舒を補助するように構成されている。
【0044】
テンション付与装置25は、走行する糸4に所定のテンションを付与するためのものである。本実施形態のテンション付与装置25としては、固定櫛歯26に対して可動櫛歯27を旋回可能に配置するゲート式のものが用いられている。この可動櫛歯27の旋回は、ロータリー式のソレノイド28によって行われる。
【0045】
糸継装置14は、前記の糸切断時又は糸切れ時に、給糸ボビン3側の下糸と、パッケージ7側の上糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0046】
また、ヤーンクリアラ15は糸4の太さ欠陥を検出するためのものであって、ヤーンクリアラ15の部分を通過する糸4の太さを適宜のセンサで検出し、このセンサからの信号をアナライザ23で分析することで、スラブ等の糸欠陥を検出するように構成されている。このヤーンクリアラ15には、糸欠陥を検出した時に直ちに糸4を切断するためのカッタ16が付設されている。
【0047】
糸継装置14の下側と上側には、給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉して案内する下糸捕捉案内手段17と、パッケージ7側の上糸を吸引捕捉して案内する上糸捕捉案内手段20が設けられている。上糸捕捉案内手段20はパイプ状に構成されており、軸21を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側にマウス22を設けている。同様に下糸捕捉案内手段17もパイプ状に構成されており、軸18を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側には吸引口19を設けている。上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には適宜の負圧源が接続されており、先端のマウス22及び吸引口19に吸引作用を生じさせるようになっている。
【0048】
次に、糸巻取ユニット2の電気的構成を説明する。図1に示すように、パッケージ駆動モータ41を制御するパッケージ駆動制御部42や、トラバースガイド駆動モータ45を制御するトラバース制御部46や、カッタ16を駆動するアナライザ23や、テンション付与装置25のソレノイド28や、糸継装置14等は、制御装置としてのユニット制御部50により制御される。
【0049】
このユニット制御部50は、図示しないが、演算手段としてのCPUや、記憶手段としてのROM及びRAMや、タイマ回路や、入出力インターフェース装置等のハードウェアを備えるマイクロコンピュータ式に構成されている。また、前記ROMには、前記ユニット制御部50のハードウェアを制御手段61として動作させるための制御ソフトウェアが記憶されている。
【0050】
この制御手段61は、上記に列挙した制御対象としての各装置や各部に対し所定の信号を送って制御し、糸4の巻取りのための制御や、糸切断時又は糸切れ時の糸継作業等の制御を行わせる。具体的には上記制御手段61は、巻取加速手段62やトラバースストローク短縮手段63等の各種の制御手段を含んでいる。
【0051】
上記のユニット制御部50の巻取加速手段62及びトラバースストローク短縮手段63の制御を説明する。図略の玉揚装置によって巻取チューブ6へ給糸ボビン3の糸4が掛けられて装着された後は、ユニット制御部50の巻取加速手段62は、巻取開始のためにパッケージ駆動制御部42へ信号を送り、巻取チューブ6を速度ゼロから所定の速度まで徐々に加速するようにパッケージ駆動モータ41を制御する。また、糸巻取中に給糸ボビン3からの糸解舒時の糸切れやヤーンクリアラ15の糸欠陥の検出による糸切断が発生した場合、巻取ボビン6,7の回転を直ちに停止するとともに糸継装置14による糸継動作を行う。そして、上記糸継動作の完了後は、ユニット制御部50の巻取加速手段62は巻取再開のためにパッケージ駆動制御部42へ信号を送り、巻取ボビン6,7を速度ゼロから所定の速度まで徐々に加速するようにパッケージ駆動モータ41を制御する。
【0052】
上記の加速区間中にもトラバース装置5はトラバースガイド11を往復駆動して糸4を綾振るが、当該加速区間においては糸4のテンションが不安定になるおそれがある。特に、巻取ボビン6,7が静止している状態からパッケージ駆動モータ41が回転を始めるときは、摩擦等の関係から回転の立ち上がりが円滑でなく、不規則かつ唐突に立ち上がることが多い(図2(a)の符号Aを参照)。従って、糸4のテンションの不安定化(特に、テンションの低下)による綾落ちの恐れが大きくなる。
【0053】
なお、ユニット制御部50は上記のような巻取ボビン6,7の加速区間(巻取ボビン6,7の回転開始直後も含む)において、テンション付与装置25による糸4への付加テンションを増大させるとともに、巻取速度の増大に伴って付加テンションを減少させるように制御している。具体的には、例えば図2(b)に示すように、巻取開始直後は通常時の付加テンションよりも若干大きな値のテンションを付加し、巻取ボビン6,7の加速区間が終わりに近づくに従って付加テンションを段状に減少させて通常の付加テンションへ戻す制御を行っている。しかしながら、上記のようなテンション付与装置25の単純な制御は一定の効果はあるものの、巻取速度と付加テンションの大きさが同期するわけではない。従って、巻取ボビン6,7の回転の不規則かつ不安定な立ち上がりによるテンションの変動を確実に低減できるものではなく、綾落ちによるパッケージ品質の低下を確実に防止することはできない。
【0054】
更に、本実施形態ではトラバースガイド11は接触ローラ9や巻取ボビン6,7と干渉しないように当該巻取ボビン6,7から若干離して配置されているため、トラバースガイド11と巻取ボビン6,7との間の糸4がフリーな区間(フリーレングス)が綾振ドラム方式のトラバース装置と比較して大きく形成される。更に、本実施形態のトラバース装置5はアーム部材13を往復旋回駆動させる構成であるため、アーム部材13の先端のトラバースガイド11は円弧軌跡を描きつつ糸4を綾振りすることになる。この結果、トラバースストロークの両端部では上記フリーレングスが大きくなるので、テンションの変動によって糸4の挙動が影響を受け易く、上記綾落ちの恐れは大きい。
【0055】
本実施形態ではこの点に鑑み、上記のような巻取ボビン6,7の加速区間(巻取ボビン6,7の回転開始直後も含む)の全域にわたって、ユニット制御部50のトラバースストローク短縮手段63はトラバース制御部46に信号を送り、図2(c)に示すように、通常のトラバースストロークよりも若干短いトラバースストロークでトラバースガイド11を往復駆動するように制御する。これにより、上述のテンションの不安定化による綾落ち等の品質低下を回避し、品質の高いパッケージ7を生産することができる。
【0056】
なお、ユニット制御部50には設定器51が電気的に接続され、加速区間でのトラバースストロークを通常時のそれと比べてどの程度短くするかを、当該設定器51で予め設定できるように構成されている。この設定器51に入力される値としては、例えば「93%」等の数値が考えられる。これは、加速区間でのトラバースストロークを通常のトラバースストロークの93%となるように設定することを意味している。
【0057】
なお、上記加速区間でのトラバースストロークは、通常時のトラバースストロークの例えば90%以上かつ90数%以下とすることが好ましい。90%未満だとパッケージ7の端面形状が崩れるおそれがあり、逆に大きすぎると糸4の綾落ちを確実に防止することができなくなる。
【0058】
以上に示すように本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、巻取ボビン6,7を回転駆動するためのパッケージ駆動モータ41と、前記巻取ボビン6,7への糸4の巻取りの際にその糸4を綾振るためのトラバース装置5と、を備える。そして、前記トラバース装置5は、糸4と係合して糸4を綾振りさせるためのトラバースガイド11と、このトラバースガイド11を移動させるためのトラバースガイド駆動モータ45と、を有する。前記トラバースガイド駆動モータ45は、前記パッケージ駆動モータ41とは切離されて駆動するように構成されている。そして、巻取ボビン6,7の少なくとも回転開始直後において、前記トラバースガイド11のトラバースストロークSを狭めるように、前記トラバースガイド駆動モータ45を制御する。
【0059】
言い換えれば、前記糸巻取ユニット2は、パッケージ駆動モータ41及び前記トラバースガイド駆動モータ45を制御するユニット制御部50を備える。このユニット制御部50は、前記パッケージ駆動モータ41を速度ゼロから所定の速度まで加速させる巻取加速手段62と、この巻取加速手段62による前記パッケージ駆動モータ41の回転開始直後において、前記トラバースガイド11のトラバースストロークSを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータ45を制御するトラバースストローク短縮手段63と、を備える。
【0060】
従って、巻取ボビン6,7の回転し始めのテンション変動による糸4の綾落ちを防止することができ、品質の良好なパッケージ7を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態の糸巻取方法では、図2に示すように、前記巻取ボビン6,7の回転開始直後から加速終了までの全域にわたって、前記トラバースガイド11のトラバースストロークSを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータ45を制御している。
【0062】
これにより、糸4の綾落ちを一層確実に防止することができる。
【0063】
また本実施形態では、前記糸巻取ユニット2は、前記巻取ボビン6,7に巻き取られる糸4に対し糸巻取速度に応じたテンションを付与するテンション付与装置25を備えている。
【0064】
これにより、巻取ボビン6,7の回転開始直後において糸4への付与テンションを適宜制御することで、糸4のテンションの変動を低減できる。また、同時にトラバースストロークSが狭まるので、糸4の綾落ちも確実に防止できる。
【0065】
更に、前記トラバース装置5は、前記トラバースガイド11の位置を検出するトラバースガイド位置センサ47を備える。そして、トラバースガイド11のトラバースストローク端点を前記トラバースガイド位置センサ47で検出するとともに、この検出値に基づいて次回の目標トラバースストロークを演算し、演算された目標トラバースストロークに基づいて前記トラバースガイド駆動モータ45を制御する。
【0066】
これにより、目標トラバースストロークを加速区間において若干短く設定することで、トラバースガイド11のトラバースストロークの狭化を簡単に実現することができる。
【0067】
また、前記糸巻取ユニット2は、前記巻取ボビン6,7の回転によって給糸ボビン3の糸を解舒し、この糸4を当該巻取ボビン6,7に巻き取るように構成されている。
【0068】
このような構成では、給糸ボビン3の糸4がなくなったときや、給糸ボビン3からの糸解舒時の糸切れ等が発生する毎に巻取ボビン6,7は停止制御され、糸継装置14による糸継ぎ後に巻取ボビン6,7の回転が開始されて巻取りが再開されることになる。このときに前記トラバースストローク狭化制御を行うことで、糸4の綾落ちを効果的に回避することができる。
【0069】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0070】
図2(c)に示すようにトラバースストロークSを加速区間の全域にわたって狭める制御を行う代わりに、例えば回転開始直後から所定の時間だけトラバースストロークSを狭める制御を行う構成に変更することができる。
【0071】
図1で図示した解舒補助装置24やテンション付与装置25は、省略することができる。
【0072】
巻取加速手段62は、ユニット制御部50に設ける代わりにパッケージ駆動制御部42に設けるように変更することができる。トラバースストローク短縮手段63は、ユニット制御部50に設ける代わりにトラバース制御部46に設けるように変更することができる。また、ユニット制御部50とパッケージ駆動制御部42とトラバース制御部46は、別々に設けずに一体的に設けるように変更することができる。
【0073】
パッケージ駆動モータ41は、そのモータ軸に巻取チューブ6を連結する構成(所謂ダイレクトドライブ方式)に代えて、接触ローラ9をモータ軸に連結し、接触ローラ9により巻取ボビン6,7を摩擦駆動する構成に変更することができる。要は、トラバースガイド駆動モータ45が、パッケージ駆動モータ41と切り離された形で別個独立に駆動される構成であれば良い。
【0074】
トラバース装置5は、ボイスコイルモータに構成したトラバースガイド駆動モータ45によってアーム部材13を旋回往復駆動させる構成に代えて、接触ローラ9の近傍に無端状のタイミングベルトを配置し、このタイミングベルトにトラバースガイドを取り付けるとともに、当該タイミングベルトを例えばパルスモータとしてのトラバース駆動モータによって往復駆動する構成に変更することができる。また、例えば、トラバースカムと、その周面に螺旋状に設けた綾振り溝に係合しつつスライド移動自在に設けられたトラバースガイドと、前記トラバースカムを回転させるトラバースガイド駆動モータを備えるものに変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図。
【図2】巻取ボビンの回転開始直後から所定の速度に到達するまでの、巻取ボビンの回転速度、付与テンション及びトラバースストロークの制御を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0076】
1 自動ワインダ
2 糸巻取ユニット(糸巻取装置)
4 糸
5 トラバース装置
6 巻取チューブ(空の巻取ボビン)
7 パッケージ(糸層付の巻取ボビン)
11 トラバースガイド
14 糸継装置
25 テンション付与装置
41 パッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動モータ)
45 トラバースガイド駆動モータ
46 トラバース制御部
47 トラバースガイド位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸巻取用の巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備え、
前記トラバース装置が、
糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、
前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、
を有する糸巻取装置を用いて、糸を前記巻取ボビンに巻き取る糸巻取方法において、
前記巻取ボビンの少なくとも回転開始直後において、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする、糸巻取方法。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取方法であって、
前記巻取ボビンの回転開始直後から加速終了までの全域にわたって、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする、糸巻取方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸巻取方法であって、
前記糸巻取装置は、前記巻取ボビンに巻き取られる糸に対し糸巻取速度に応じたテンションを付与するテンション付与装置を備えることを特徴とする糸巻取方法。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸巻取方法であって、
前記トラバース装置は、前記トラバースガイドの位置を検出するガイド位置検出手段を備え、
前記トラバースガイドのトラバースストローク端点を前記ガイド位置検出手段で検出し、この検出値に基づいて次回の目標トラバースストロークを演算し、演算された目標トラバースストロークに基づいて前記トラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする、糸巻取方法。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸巻取方法であって、前記巻取ボビンの回転によって給糸ボビンの糸を解舒し、この糸を当該巻取ボビンに巻き取るように構成されていることを特徴とする糸巻取方法。
【請求項6】
糸巻取用の巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備え、
前記トラバース装置が、
糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、
前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、
を有し、
かつ、前記巻取ボビン回転駆動モータ及び前記トラバースガイド駆動モータを制御する制御装置を備える糸巻取装置において、
前記制御装置は、
前記巻取ボビン回転駆動モータを速度ゼロから所定の速度まで加速させる巻取加速手段と、
この巻取加速手段による前記巻取ボビン回転駆動モータの少なくとも回転開始直後において、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御するトラバースストローク短縮手段と、
を備えることを特徴とする、糸巻取装置。
【請求項7】
請求項6に記載の糸巻取装置であって、
前記トラバースストローク短縮手段は、前記巻取ボビン回転駆動モータが速度ゼロから所定の速度までの加速が終了するまでの全域にわたって、前記トラバースガイドのトラバースストロークを狭めるように前記トラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする、糸巻取装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の糸巻取装置であって、
前記巻取ボビンに巻き取られる糸に対しテンションを付与するテンション付与装置を備えることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項9】
請求項6から8までの何れか一項に記載の糸巻取装置であって、
前記トラバース装置は、前記トラバースガイドのトラバースストローク端点の位置を検出するストローク端点位置検出手段を備えるとともに、この検出値に基づいて次回の目標トラバースストロークを演算し、演算された目標トラバースストロークに基づいて前記トラバースガイド駆動モータを制御するように構成しており、
前記トラバースストローク短縮手段は、前記目標トラバースストロークを短く設定することで前記トラバースガイドのトラバースストロークを短縮することを特徴とする、糸巻取装置。
【請求項10】
請求項6から9までの何れか一項に記載の糸巻取装置であって、前記巻取ボビンの回転によって給糸ボビンの糸を解舒し、この糸を当該巻取ボビンに巻き取るように構成されていることを特徴とする糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−210776(P2007−210776A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34652(P2006−34652)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】