説明

糸巻取機

【課題】所謂ダイレクトドライブ方式の糸巻取機において、糸継要求があったとき等のパッケージ逆転を伴う糸端引出し作業時に、パッケージ径の大小にかかわらず繰出し量を安定化させ、生産効率を向上できる構成を提供する。
【解決手段】巻取チューブに糸が巻かれて形成された糸層の径を検出する径センサと、前記糸層の周面に近接して糸端を吸い込むとともに当該糸端を糸継装置に案内する糸端引出し作業を行う糸端捕捉案内手段と、を備える。上記糸端引出し作業の際に各部を制御する制御装置は糸端繰出し量制御手段を備え、この糸端繰出し量制御手段は、パッケージ駆動モータを前記巻取ボビンを逆転駆動するように制御するとともに、前記径センサで検出された糸層の径に応じて前記巻取ボビンの逆転速度又は逆転時間をn段階(ただし、nは2以上の整数)で変化させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取ボビンに糸を巻いてパッケージを形成する糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、給糸部からの糸を綾振りながら巻取ボビンに巻き取る構成の自動ワインダを開示する。この特許文献1の自動ワインダは、巻取ボビンを回転駆動するための駆動装置を備え、この駆動装置の駆動軸は、巻取ボビンに直接的に連結する構成になっている。
【0003】
また、特許文献1の自動ワインダは、糸継装置による糸継作業のために巻取ボビンの糸を吸引捕捉して引き出すための吸込ノズルを上下旋回可能に備えている。
【特許文献1】特開2002−114445号公報(0029、0039、図1、図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には具体的な記載はないが、この特許文献1の構成のような自動ワインダにおいて、前記吸込ノズルを巻取ボビンに近接させると同時に、前記駆動装置によって前記巻取ボビンを逆転させて糸を繰り出し、吸引ノズルによる糸の吸引捕捉を補助することが考えられる。
【0005】
しかしながら、駆動装置によって巻取ボビンを単純に逆転させる場合、パッケージ径によって糸の繰出し速度が異なってくるため、パッケージ径が小さいときは吸込ノズルによる引出し量が過小となって糸継装置での糸継ミスの原因となる一方で、パッケージ径が大きいときは引出し量が過大となって糸の無駄が増大してしまう。また、パッケージ径が大きい場合、過剰に長く引き出された糸が、糸切れの際に発生する屑糸等を吸引除去するためのヤーントラップに吸い込まれてしまい、パッケージにビリが混入して糸品質に悪影響を及ぼすことも考えられる。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、パッケージ径の大小にかかわらず糸端引出し作業時の口出し量を安定化させ、生産効率を向上させることが可能な糸巻取機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、給糸部と、この給糸部からの糸を巻き取るための巻取ボビンを回転させるための巻取ボビン回転駆動装置と、前記巻取ボビンに糸が巻かれて形成された糸層の径を検出する径センサと、前記給糸部の糸始端部と前記巻取ボビンに糸が巻き取られて形成された糸層の糸終端部とを繋ぐための糸継装置と、前記給糸部の糸始端部を捕捉して前記糸継装置に導くための下糸捕捉案内手段と、前記糸層の糸終端部を捕捉して前記糸継装置に導くための上糸捕捉案内手段と、前記給糸部から前記巻取ボビンへ至る糸が切断されたことを検知するための糸切断検知手段と、この糸切断検知手段で糸切断を検知した時に前記巻取ボビン回転駆動装置の運転を停止し、次いで前記巻取ボビンが巻取方向と逆方向に回転するように前記巻取ボビン回転駆動装置を運転しながら前記糸継装置、前記下糸捕捉案内手段及び前記上糸捕捉案内手段を作動させるように前記巻取ボビン回転駆動装置、前記糸継装置、前記下糸捕捉案内手段及び前記上糸捕捉案内手段を制御する制御装置と、を備える。前記巻取ボビン回転駆動装置は、その駆動軸が前記巻取ボビンに連結されて当該巻取ボビンを直接回転駆動するように構成されている。前記制御装置は、前記径センサで検出された糸層の径に応じて前記巻取ボビンの逆転速度又は逆転時間の少なくとも何れか一方をn段階(ただし、nは2以上の整数)で変化させるように前記巻取ボビン回転駆動装置を制御する糸端繰出し量制御手段を有する。
【0009】
この構成により、糸層の径に応じて巻取ボビンの逆転速度又は逆転時間をn段階の中から選択して制御することで、糸層からの糸端の引出し量(繰出し量)の、糸層の径によるバラツキを低減できる。この結果、糸継装置の糸継作業を安定して行えるとともに、パッケージの品質の低下を回避することができる。
【0010】
前記の糸巻取機においては、前記径センサは、前記巻取ボビンが回転を停止した状態で糸層の径を検出可能なセンサに構成されていることが好ましい。
【0011】
この構成により、巻取ボビンの回転状態・停止状態にかかわらず糸層の径を的確に検出できるので、パッケージの逆転速度を適宜に定めて、糸層からの糸端の口出し量を一層確実に安定化させることができる。
【0012】
前記の糸巻取機においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記ボビンを支持可能なクレードルを揺動自在に備える。前記径センサは、前記クレードルの揺動角を検出する角度センサとして構成されている。
【0013】
この構成により、簡素な構成で糸層の径を検出できるので、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る自動ワインダの巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図である。図2は上糸捕捉案内手段がパッケージ側の上糸を引き出す際のパッケージ駆動モータに対する制御を示すフロー図である。図3は、パッケージを逆転させ、上糸を引き出して糸継装置へ案内する様子を示す正面模式図である。
【0015】
最初に図1に基づいて、自動ワインダ1の糸巻取ユニット(糸巻取機)2を説明する。この糸巻取ユニット2は、給糸ボビン(給糸部)3の糸4を、ヤーンクリアラ(糸欠点検出器)15で糸欠点を除去しつつ、トラバース装置5でトラバースさせながら巻取チューブ6に巻き取って糸層を形成し、所定長で所定形状のパッケージ7を形成するものである。図1では糸巻取ユニット2を1台しか図示していないが、このような糸巻取ユニット2が図略の機台上に多数列設されることで、自動ワインダ1が構成されている。
【0016】
なお、巻取チューブ6及びパッケージ7を総称して巻取ボビンと呼ぶ。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンが巻取チューブ6であり、糸層が形成された巻取ボビンがパッケージ7である。
【0017】
糸巻取ユニット2は、巻取チューブ6を着脱可能に支持するクレードル(巻取ボビン支持部材)8と、前記パッケージ7の糸層の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、を備えている。前記クレードル8は、前記巻取チューブ6の両端を挟持して回転自在に支持できるように構成されている。また、このクレードル8は揺動軸10を中心に傾動自在に構成されており、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りに伴うパッケージ径の増大(巻太り)を、クレードル8が揺動することによって吸収できるように構成されている。
【0018】
前記クレードル8の巻取チューブ6を挟持する部分には例えばブラシレスモータからなるパッケージ駆動モータ41(巻取ボビン回転駆動装置)が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41により巻取チューブ6を回転駆動して糸4を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取チューブ6をクレードル8に把持させたときに、当該巻取チューブ6と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。このパッケージ駆動モータ41の作動はパッケージ駆動制御部42により制御され、このパッケージ駆動制御部42はユニット制御部50からの信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。また、このパッケージ駆動モータ41は、前記ユニット制御部50からの信号に基づいて、巻取ボビン6,7に糸4を巻き取る方向とは逆方向に回転できるように構成されている。
【0019】
前記クレードル8にはパッケージ回転速度センサ(回転速度センサ)43が取り付けられており、このパッケージ回転速度センサ43は、クレードル8に取り付けられた巻取ボビン6,7の回転速度を検出するように構成している。この巻取ボビン6,7の回転速度検出信号は、パッケージ回転速度センサ43から、前記パッケージ駆動制御部42や前記ユニット制御部50へ送信される。更に、前記回転速度検出信号は、後述するトラバース制御部46へも入力される。
【0020】
また、前記クレードル8にはパッケージ径センサ(径センサ)44が取り付けられており、このパッケージ径センサ44は、クレードル8に取り付けられた巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成される糸層(パッケージ7)の径を検出できるように構成されている。具体的にはパッケージ径センサ44は、クレードル8の揺動角を検出するロータリエンコーダ等の角度センサとして構成されており、糸層7の径に応じてクレードル8が傾動するその傾動角を検出することで、前記糸層7の径を検出できるように構成されている。
【0021】
パッケージ径センサ44は上記のように構成されているので、巻取ボビン6,7が回転していない停止状態においても、当該糸層7の径を問題なく検出することができる。パッケージ径センサ44で取得された糸層7の径は、ユニット制御部50へ送信される。
【0022】
前記接触ローラ9の近傍には前記トラバース装置5が設けられており、このトラバース装置5によって、糸4が綾振りされながら巻取ボビン6,7に巻き取られるようになっている。このトラバース装置5は、トラバース方向に往復移動自在に設けられたトラバースガイド(糸ガイド)11と、このトラバースガイド11を往復駆動するトラバース駆動モータ45と、を備えている。
【0023】
前記トラバース装置5は、支軸まわりに旋回可能に構成した細長状のアーム部材13の先端に前記トラバースガイド11をフック状に設けるとともに、このアーム部材13を前記トラバース駆動モータ45により図1の矢印のように往復旋回駆動させる構成になっている。また、前記アーム部材13を駆動する前記トラバース駆動モータ45は、本実施形態においてはボイスコイルモータで構成されている。
【0024】
上記トラバース駆動モータ45の作動はトラバース制御部46により制御され、このトラバース制御部46はユニット制御部50からの信号を受けて前記トラバース駆動モータ45の運転/停止を制御するように構成している。また、トラバース装置5はロータリエンコーダ等からなるトラバースセンサ47を備えており、アーム部材13の旋回位置(ひいては、トラバースガイド11の位置)を検出して、位置信号を前記トラバース制御部46へ送信できるように構成されている。
【0025】
なお、本実施形態では図1に示すように、巻取ボビン6,7を駆動するパッケージ駆動モータ41と、トラバースガイド11を駆動するトラバース駆動モータ45とは、別々に設けられており、巻取ボビン6,7とトラバースガイド11とは別個独立に駆動(制御)されるように構成されている。これにより、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りの際に、プレシジョン巻、ステッププレシジョン巻、ランダム巻等、多種多様な巻き方を実現することができる。
【0026】
前記ユニット制御部50は糸巻取ユニット2毎に備えられており、このユニット制御部50には上位制御コントローラ51が接続されている。この上位制御コントローラ51は、自動ワインダ1において列設される複数の糸巻取ユニット2・2・・・を統括して制御するものである。上位制御コントローラ51は、例えば後述の設定径φ1〜φ5やパッケージ逆転速度V1〜V6等のパラメータを設定するための、スイッチやテンキー等の設定手段52を備えている。これらのパラメータの詳細は後述する。
【0027】
次に、図1を参照して、糸継装置14、ヤーンクリアラ15、ワキシング装置25及びヤーントラップ26を説明する。即ち、前記糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3と接触ローラ9との間の糸走行経路中に、給糸ボビン3側から順に、糸継装置14と、ヤーンクリアラ(糸欠点検出器)15と、ワキシング装置25と、ヤーントラップ26と、を配設した構成になっている。
【0028】
糸継装置14は、ヤーンクリアラ15が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン3からの糸解舒中の糸切れ時に、給糸ボビン3側の下糸(給糸部3の糸始端部)とパッケージ7側の上糸(糸層の糸終端部)とを糸継ぎするように構成されている。この糸継装置14としては、例えばスプライサやノッタ等を採用することができる。
【0029】
また、ヤーンクリアラ15は糸4の太さ欠陥を検出するためのものであって、ヤーンクリアラ15の検出部の部分を通過する糸4の太さを適宜のセンサで検出し、このセンサからの信号をアナライザ23で分析することで、スラブ等の糸欠陥を検出して糸欠点検出信号をユニット制御部50に送信するように構成されている。このヤーンクリアラ15には、糸欠陥を検出した時に直ちに糸4を切断するためのカッタ16が付設されている。
【0030】
また前記ヤーンクリアラ15及びアナライザ23は、検知した糸4の太さ変動に基づいて、給糸ボビン3から巻取ボビン6,7へ至る糸4が走行しているか否か、即ち切れているか否かを検知できるように構成しており、糸切れ検出時は糸切れ検出信号をユニット制御部50へ送信するように構成されている。即ち、ヤーンクリアラ15及びアナライザ23は、給糸部3から巻取ボビン6,7へ至る糸4の欠点を検出するための糸欠点検出手段、及び、給糸部3から巻取ボビン6,7へ至る糸4が切断されたことを検知するための糸切断検知手段を構成している。
【0031】
糸継装置14の下側と上側には、給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉して糸継装置14へ導く下糸捕捉案内手段17と、パッケージ7側の上糸を吸引捕捉して糸継装置14へ導く上糸捕捉案内手段(糸端捕捉案内手段)20が設けられている。上糸捕捉案内手段20はパイプ状に構成されており、軸21を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側にマウス22を設けている。同様に下糸捕捉案内手段17もパイプ状に構成されており、軸18を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側には吸引口19を設けている。
【0032】
上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には適宜の負圧源が接続されており、先端のマウス22及び吸引口19に吸引作用を生じさせるようになっている。この結果、パッケージ7及び給糸ボビン3のそれぞれから糸4を吸引捕捉することができる。また、糸継装置14による糸継後は、パッケージ7や給糸ボビン3から余分に引き出されて糸継装置14によって切断された糸4をマウス22及び吸引口19から吸引廃棄できるようになっている。
【0033】
前記上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には、電動モータやシリンダ等からなる適宜のアクチュエータがそれぞれ連結されており、このアクチュエータによって上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17の上下旋回駆動を行うように構成されている。
【0034】
また、ヤーンクリアラ15の上方(糸走行方向下流側)には、走行中の糸4にワックス付けするワキシング装置25が設けられる。更に、ワキシング装置25の上方にはヤーントラップ26が設けられている。このヤーントラップ26には適宜の負圧源が接続されており、上記のワキシング装置25によるワックス付けの際に生じるワックスの滓を吸引除去したり、糸4の糸切れ時に発生する糸屑を吸引除去することができる。
【0035】
以上のようにして本実施形態の自動ワインダ1が構成されており、この構成において糸端引出し装置64は、上糸捕捉案内手段20、パッケージ径センサ44、パッケージ駆動モータ41、パッケージ駆動制御部42、及びユニット制御部50を少なくとも含んで構成されている。
【0036】
次に、上記の自動ワインダ1における巻取ボビン6,7の回転制御及びトラバースガイド11のトラバース制御を説明する。前記パッケージ駆動制御部42はマイクロコンピュータ式に構成されて、図示しない演算手段としてのCPUや、記憶手段としてのROM、RAM等を備えている。また、ユニット制御部50も同様に図略のCPUやROM、RAM等を備えている。
【0037】
パッケージ駆動制御部42、トラバース制御部46及びユニット制御部50は、糸巻取ユニット2に対する制御装置を構成している。以下で詳しく説明するが、この制御装置は、前記糸切断検知手段で糸切断を検知した時にトラバース装置5の運転を停止し、巻取ボビン6,7が巻取方向と逆方向に回転するようにパッケージ駆動モータ41を運転しながら糸継装置14、下糸捕捉案内手段17及び上糸捕捉案内手段20を作動させるように、トラバース装置5、パッケージ駆動モータ41、糸継装置14、下糸捕捉案内手段17及び上糸捕捉案内手段20を制御する。
【0038】
また、制御装置のうち前記ユニット制御部50は、パッケージ径演算手段71と、糸端繰出し量制御手段72と、を備えている。パッケージ径演算手段71は、パッケージ径センサ44から入力される信号に基づき、前記糸層7の径Dを取得する。また、糸端繰出し量制御手段72は、糸端引出し作業において、パッケージ径演算手段71が取得したパッケージ径Dに基づき、パッケージ駆動モータ41の逆転速度を6段階で変更制御するように構成されている。
【0039】
以下に、ユニット制御部50におけるフローを図2を参照して説明する。ユニット制御部50はフローがスタートすると、糸継要求信号が入力されるまでS101の処理で待機する。糸継要求信号とは、ヤーンクリアラ15が糸欠陥を検出して糸4を切断したときに発生させる糸欠陥検出信号や、給糸ボビン3からの糸解舒中の糸切れをヤーンクリアラ15が検出したときに発生させる糸切れ検出信号等である。
【0040】
従って、ユニット制御部50は、糸4をボビン6に巻き取る際にはS101の処理を反復する一方で、上記の糸欠陥検出に基づく糸切断時や給糸ボビン3からの糸解舒に伴う糸切れ時に、以下の糸端引出し処理(S102〜S114)に移行することになる。
【0041】
糸欠陥検出信号や糸切れ検出信号がユニット制御部50に入力されたとS101で判定されると、直ちにパッケージ駆動モータ41を停止制御して巻取ボビン6,7の回転を停止させるとともに、S102の処理で、巻取チューブ6に糸4を巻いて形成される糸層7の径(パッケージ径)Dを、パッケージ径センサ44からの信号を通じて取得する。
【0042】
そしてS103〜S113の処理により、その取得されたパッケージ径Dの値に応じて、巻取ボビン6,7の逆転速度(パッケージ駆動モータ41を逆転させる速度)を、V1〜V6の6段階に設定する。
【0043】
具体的には、パッケージ径Dが第1設定径φ1未満である場合は、パッケージ逆転速度をV1に設定する(S103→S108)。また、パッケージ径Dが第1設定径φ1以上かつ第2設定径φ2未満である場合は、パッケージ逆転速度をV2に設定する(S104→S109)。パッケージ径Dが第2設定径φ2以上かつ第3設定径φ3未満である場合は、パッケージ逆転速度をV3に設定する(S105→S110)。パッケージ径Dが第3設定径φ3以上かつ第4設定径φ4未満である場合は、パッケージ逆転速度をV4に設定する(S106→S111)。パッケージ径Dが第4設定径φ4以上かつ第5設定径φ5未満である場合は、パッケージ逆転速度をV5に設定する(S107→S112)。上記の何れの場合でもないとき、即ちパッケージ径Dが第5設定径φ5以上だった場合は、パッケージ逆転速度をV6に設定する(S113)。
【0044】
以上のように、S102の処理で取得されたパッケージ径Dに応じて、パッケージ駆動モータ41の逆転速度が6段階の中から選択される。この6段階の速度V1〜V6は、パッケージ径Dが大きくなるに従って順次小さくなるように設定手段52によって適宜定められ(V1>V2>V3>V4>V5>V6)、この設定内容に応じた信号が上位制御コントローラ51から送信されることにより、予めユニット制御部50のRAMに記憶されている。こうして選択されたパッケージ逆転速度は、パッケージ駆動制御部42に送信される。
【0045】
そしてS114の処理に移行し、上糸捕捉案内手段20を上方回動させてマウス22を糸層7の表面に近接させ、それとほぼ同時に、パッケージ駆動制御部42に信号を送って、パッケージ駆動モータ41を、前記の選択された速度(V1〜V6の何れかの速度)で逆転駆動する。この結果、糸層7の表面上に位置する上糸4の糸端が解舒され口出しされて、上糸捕捉案内手段20のマウス22によって吸引捕捉される(図3)。その状態で上糸捕捉案内手段20を下側へ回動させるとともに、給糸ボビン3側の下糸4を吸引補足した下糸捕捉案内手段17を上方へ回動させ、上糸4と下糸4とを糸継装置14で糸継ぎさせる。こうしてS114における糸端引出し作業及び糸継作業が完了し、ユニット制御部50はパッケージ駆動モータ41を正転駆動させて巻取りを再開するとともに、S101の処理に戻って再び糸継要求信号が発生するのを待機する。この処理において上糸捕捉案内手段20の動作は、パッケージ径Dにかかわらず一定であり、上糸捕捉案内手段20のマウス22が糸層の表面に近接している時間もパッケージ径Dにかかわらず一定である。
【0046】
本実施形態の制御においては、糸継装置14に上糸4を案内するにあたって糸層7から上糸4を繰り出す際のパッケージ逆転速度は、パッケージ径センサ44から得られたパッケージの径Dが大きくなるに従って順次小さくなるように、6段階の速度V1〜V6から択一的に選択される。従って、パッケージ径Dが小さい巻取初期には大きな逆転速度(V1やV2等)が選択され、パッケージ径Dが大きい満巻直前期には小さな逆転速度(V6等)が選択されることになる。
【0047】
これにより、パッケージ7の逆転駆動による上糸4の糸端の繰出し長さをパッケージ径Dの大小によらず安定させることができるので、生産効率の低下やパッケージ品質の低下を防止できる。具体的には、パッケージ径Dが小さいときに、糸4の引出し量が過小となって糸継装置14による糸継ミスの原因となることを防止できる。また、パッケージ径Dが大きいときに糸4の引出し量が過大となって、上記ヤーントラップ26に糸4が吸われた状態で糸継ぎがされてしまい、糸4にビリが混入してパッケージ品質を低下させることも防止できる。
【0048】
また、パッケージ径センサ44で得られた径Dが所定の領域(例えば、第1設定径φ1以上第2設定径φ2未満)に入っていれば、それに対応する段階の速度(V1)を選択するという簡素な処理なので、上記の効果を奏しつつ、ユニット制御部50の負担を少なくでき、ユニット制御部50の電気的構成を簡素化することができる。
【0049】
更に、パッケージ径センサ44は、巻取ボビン6,7が回転を停止した状態で糸層7の径Dを検出可能になっている。具体的には、パッケージ径センサ44は、糸層7の巻太りに伴って径Dを増大させることに伴うクレードル8の揺動角を検出する角度センサ(ロータリエンコーダ)として構成されている。従って、簡単な制御及び構成によって糸層7の径Dを的確に検出でき、パッケージ逆転による糸層7からの糸解舒量(口出し量)を確実に安定化させることができる。
【0050】
以上に示すように本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、給糸ボビン(給糸部)3と、この給糸ボビン3からの糸4を巻き取るための巻取チューブ6を回転させるためのパッケージ駆動モータ41と、前記巻取チューブ6に糸4が巻かれて形成された糸層7の径Dを検出するパッケージ径センサ44を備えるとともに、前記給糸ボビン3の糸始端部と前記巻取チューブ6に糸4が巻き取られて形成された糸層7の糸終端部とを繋ぐための糸継装置14を備える。更に糸巻取ユニット2は、前記給糸ボビン3の糸始端部を捕捉して前記糸継装置14に導くための下糸捕捉案内手段17と、前記糸層7の糸終端部を捕捉して前記糸継装置14に導くための上糸捕捉案内手段20と、前記給糸ボビン3から前記巻取ボビン6,7へ至る糸4が切断されたことを検知するための糸切断検知手段としてのヤーンクリアラ15及びアナライザ23を備える。更に糸巻取ユニット2は、この糸切断検知手段で糸切断を検知した時に前記パッケージ駆動モータ41を停止し、次いで前記巻取ボビン6,7が巻取方向と逆方向に回転するように前記パッケージ駆動モータ41を運転しながら前記糸継装置14、前記下糸捕捉案内手段17及び前記上糸捕捉案内手段20を作動させるように前記パッケージ駆動モータ41、前記糸継装置14、前記下糸捕捉案内手段17及び前記上糸捕捉案内手段20を制御する制御装置を備える。前記パッケージ駆動モータ41は、その駆動軸が前記巻取ボビン6,7に連結されて当該巻取ボビン6,7を直接回転駆動するように構成されている。そして前記制御装置は、前記パッケージ径センサ44で検出された糸層7の径Dに応じて前記巻取ボビン6,7の逆転速度を6段階で変化させるように前記パッケージ駆動モータ41を制御する糸端繰出し量制御手段72を有する。
【0051】
従って、パッケージ径Dに応じて巻取ボビン6,7の逆転速度を6段階(速度V1〜V6)の中から選択して制御できるから、糸層7からの上糸4の口出し量をパッケージ径Dの大小にかかわらず安定化させることができる。この結果、口出し量不足による糸継装置14の糸継ミスを防止できるとともに、口出し量過剰による糸4の廃棄ロスや、糸4がヤーントラップ26に吸い込まれることによるビリの混入も防止できる。
【0052】
また、本実施形態の糸巻取ユニット2においては、前記パッケージ径センサ44は、前記巻取ボビン6,7が回転を停止した状態で糸層7の径Dを検出可能なセンサに構成されている。
【0053】
従って、巻取ボビン6,7の回転・停止にかかわらず糸層7の径Dを的確に検出でき、巻取ボビン6,7の逆転速度を適宜に定めて、糸層7からの糸端の口出し量を一層確実に安定化させることができる。
【0054】
また、本実施形態の糸巻取ユニット2は、前記巻取チューブ6を支持可能なクレードル8を揺動自在に備え、前記パッケージ径センサ44は、前記クレードル8の揺動角を検出する角度センサとして構成されている。
【0055】
従って、簡素な構成で糸層7の径Dを検出できるので、糸端引出し装置64の製造コストを低減できる。
【0056】
なお、上記に開示された構成は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0057】
図2の制御例では巻取ボビン6,7の逆転速度は予め定められた6段階の速度(速度V1〜V6)から選択されることとしているが、これに限らず、2段階以上の速度から選択してパッケージ駆動モータ41を逆転制御するものであれば良い。また、巻取ボビン6,7の逆転速度を無段的に変更する構成であっても良い。
【0058】
また、図2の制御例では、糸端引出し作業時における巻取ボビン6,7の逆転時間はパッケージ径Dに拠らず一定とする一方、巻取ボビン6,7の逆転速度のみを変更している。しかしながらこれに代えて、巻取ボビン6,7の逆転時間のみをn段階で変更するように構成しても良いし、巻取ボビン6,7の逆転速度及び逆転時間の双方をn段階で変更するように構成しても良い。この場合、パッケージ径Dが大きくなるにつれてパッケージ7の逆転時間が小さくなるようにすることで、上記と同様に糸端引出し作業時における口出し量を安定化させることができる。ただし、巻取ボビン6,7の逆転速度のみを変更する上記実施形態(図2)によれば、上糸捕捉案内手段20をパッケージ7の周面に近接させておく時間等を変更する必要がなく、上糸捕捉案内手段20の簡素な制御を実現できる点で好ましい。
【0059】
パッケージ径センサ44は、ロータリーエンコーダとすることに代えて、例えばポテンショメータ式に構成することができる。また、パッケージ径センサ44は、クレードル8の揺動角を検出する方式に代えて、例えば糸層7の径を直接的に検出する非接触式のセンサに変更することができる。
【0060】
上記の設定径φ1〜φ5や選択される6段階の速度V1〜V6は、上位制御コントローラ51に接続される設定手段52によって設定されることに代えて、例えば糸巻取ユニット2側に設定手段を備え、その設定手段をオペレータが手動操作することによって設定するように変更することができる。
【0061】
更に、上記の構成は、自動ワインダ1に限らず、例えば紡績装置で紡績した糸をトラバースガイドで綾振りしながら巻き取って巻取パッケージとし、糸切れ時等には紡績側(給糸側)の糸と巻取パッケージ側の糸とを糸継装置で糸継ぎする紡績機に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図。
【図2】上糸捕捉案内手段がパッケージ側の上糸を引き出す際のパッケージ駆動モータに対する制御を示すフロー図。
【図3】パッケージを逆転させ、上糸を引き出して糸継装置へ案内する様子を示す正面模式図。
【符号の説明】
【0063】
1 自動ワインダ
2 糸巻取ユニット(糸巻取機)
3 給糸ボビン(給糸部)
4 糸
6 巻取チューブ(空の巻取ボビン)
7 パッケージ(糸層付の巻取ボビン)
8 クレードル
11 トラバースガイド
14 糸継装置
15 ヤーンクリアラ(糸切断検知手段の一部)
17 下糸捕捉案内手段
20 上糸捕捉案内手段
41 パッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動装置)
42 パッケージ駆動制御部
44 パッケージ径センサ(径センサ)
45 トラバース駆動モータ
50 ユニット制御部
52 設定手段
64 糸端引出し装置
71 パッケージ径演算手段
72 糸端繰出し量制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸部と、
この給糸部からの糸を巻き取るための巻取ボビンを回転させるための巻取ボビン回転駆動装置と、
前記巻取ボビンに糸が巻かれて形成された糸層の径を検出する径センサと、
前記給糸部の糸始端部と前記巻取ボビンに糸が巻き取られて形成された糸層の糸終端部とを繋ぐための糸継装置と、
前記給糸部の糸始端部を捕捉して前記糸継装置に導くための下糸捕捉案内手段と、
前記糸層の糸終端部を捕捉して前記糸継装置に導くための上糸捕捉案内手段と、
前記給糸部から前記巻取ボビンへ至る糸が切断されたことを検知するための糸切断検知手段と、
この糸切断検知手段で糸切断を検知した時に前記巻取ボビン回転駆動装置の運転を停止し、次いで前記巻取ボビンが巻取方向と逆方向に回転するように前記巻取ボビン回転駆動装置を運転しながら前記糸継装置、前記下糸捕捉案内手段及び前記上糸捕捉案内手段を作動させるように前記巻取ボビン回転駆動装置、前記糸継装置、前記下糸捕捉案内手段及び前記上糸捕捉案内手段を制御する制御装置と、
を備えた糸巻取機において、
前記巻取ボビン回転駆動装置は、その駆動軸が前記巻取ボビンに連結されて当該巻取ボビンを直接回転駆動するように構成されており、
前記制御装置は、前記径センサで検出された糸層の径に応じて前記巻取ボビンの逆転速度又は逆転時間の少なくとも何れか一方をn段階(ただし、nは2以上の整数)で変化させるように前記巻取ボビン回転駆動装置を制御する糸端繰出し量制御手段を有することを特徴とする、糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取機であって、
前記径センサは、前記巻取ボビンが回転を停止した状態で糸層の径を検出可能なセンサに構成されていることを特徴とする、糸巻取機。
【請求項3】
請求項2に記載の糸巻取機であって、
前記巻取ボビンを支持可能なクレードルを揺動自在に備え、
前記径センサは、前記クレードルの揺動角を検出する角度センサとして構成されていることを特徴とする、糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−223779(P2007−223779A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49610(P2006−49610)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】