説明

糸巻取装置の糸長測定装置

【課題】糸巻取用の巻取ボビン6,7を回転駆動するパッケージ駆動モータ41と、このモータ41とは切り離されて駆動し、前記糸巻取の際に糸を綾振るためのトラバース装置5とを備えた糸巻取装置において、糸巻取長さを精度良く測定できる糸長測定装置を提供する。
【解決手段】巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成した糸層の周面の周方向の糸層周面移動距離ΔPLsを検出する手段73と、糸層の幅方向の糸のトラバース移動距離ΔTLsを検出する手段74と、糸層周面移動距離演算手段73で検出されたΔPLsとトラバース移動距離演算手段74で検出されたΔTLsをそれぞれ入力し、入力されたΔTLs及びΔPLsから、所定時間Tsごとに巻取ボビン6,7に巻き取った糸4の巻取長さを計算し、所定時間Tsごとに計算された巻取長さΔYLを巻始めから積算して、巻取ボビン6,7に巻き取った糸4の巻取長さYLを求める、巻取長さ演算手段75と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を巻取ボビンに綾振りしながら巻き取る糸巻取装置の糸長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の糸長測定装置に関し、特許文献1には、綾振ドラム式の糸巻取装置(自動ワインダ)において、綾振ドラムのドラム回転検出器が発生する検出パルスを定長カウンタで計数して糸長を測定する構成の糸長測定装置が開示されている。
【特許文献1】特開平5−286646号公報(0013等)
【0003】
一方、特許文献2は、巻取ボビン回転駆動装置とトラバース装置とが互いに独立して駆動する糸巻取装置(自動ワインダ)を開示する。特許文献2では、このように巻取ボビン回転駆動装置と綾振りのための駆動装置とを独立させることで、プレシジョンワインディングやステッププレシジョンワインディング等の形式の綾巻ボビンを製造できることが開示されている。また特許文献2は、巻取ボビンを巻取ボビン回転駆動装置の回転子に相対回動不能に結合する、所謂巻取ボビンダイレクトドライブ方式の構成を開示している。
【特許文献2】特開2000−247542号公報(0007、0043等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2の構成は、巻取ボビンとトラバース糸案内部を独立のモータで駆動しているので、上記の多種多様な巻き方が可能な点で有利であるが、特許文献2の巻取装置には特許文献1の糸長測定装置を適用することができない。つまり、特許文献1のように糸層と接触するローラの回転を検出するだけでは、それと独立して綾振りされるトラバース成分を加味した糸長測定が不可能である。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、トラバース装置が巻取ボビン回転駆動装置とは切り離されて駆動するタイプの糸巻取装置に好適な糸長測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、糸を巻き取るための巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動装置と、この巻取ボビン回転駆動装置とは切り離されて駆動し、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置とを備えた糸巻取装置における、前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを測定するための糸長測定装置において、以下のような構成が提供される。前記巻取ボビンに糸を巻き取って形成した糸層の周面の周方向の糸層周面移動距離を検出する手段と、前記糸層の幅方向の糸のトラバース移動距離を検出する手段と、前記糸層周面移動距離検出手段で検出された糸層周面移動距離及び前記トラバース移動距離検出手段で検出されたトラバース移動距離をそれぞれ入力し、入力された糸層周面移動距離及びトラバース移動距離から、所定の周期時間ごとに前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを計算し、所定時間ごとに計算された巻取長さを巻始めから積算して前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを求める巻取長さ演算手段と、を備えた。
【0008】
これにより、巻取ボビン回転駆動とトラバース駆動とが独立して行われるタイプの糸巻取装置において、糸の巻取長さを精度良く測定することができる。
【0009】
前記の糸巻取装置の糸長測定装置においては、前記所定の周期時間が瞬間の時間であることが好ましい。ここで、「瞬間の時間」とは、トラバース装置が1トラバースストローク分移動する時間よりも十分短い微小時間をいい、具体的には1秒以下の時間をいう。
【0010】
これにより、糸長測定の精度をより向上させることができる。即ち、1トラバースストローク内でトラバース移動速度が変化しても、糸長を精度良く測定できる。また、巻取ボビン回転速度やトラバース移動速度の種々の変動に対応しつつ、正確に糸長を測定できる。
【0011】
前記の糸巻取装置の糸長測定装置においては、前記トラバース装置が、糸をトラバース方向に移動させるために駆動されるトラバースガイドと、そのトラバースガイドを駆動するための駆動モータとを備え、この駆動モータの回転角度と前記トラバースガイドの移動距離とが所定の関係を維持していて、前記トラバース移動距離検出手段が前記駆動モータの回転角度を検出することが好ましい。
【0012】
これにより、前記トラバース移動距離を簡単な構成で精度良く検出することができる。
【0013】
前記の糸巻取装置の糸長測定装置においては、前記糸層周面移動距離検出手段が、前記糸層の径を検出する糸層径センサと、前記巻取ボビンの回転角度を検出する巻取ボビン回転角度センサとを備え、前記糸層径センサ及び前記巻取ボビン回転角度センサの検出結果から前記糸層周面移動距離を求めるものであることが好ましい。
【0014】
これにより、糸長の測定を正確に行える。即ち、上記特許文献1のように糸層と接触するローラの回転角度を検出する方式では、糸層とローラとの間にすべりが生じることがあるので、糸長の測定値が不正確になってしまいやすい。この点、本構成のように糸層周面移動距離検出手段を糸層径センサと巻取ボビン回転角度センサとで構成することで、正確に糸長を測定することができる。
【0015】
前記の糸巻取装置の糸長測定装置においては、前記糸層径センサが、糸の巻取を停止している状態で糸層径の検出が可能なものであることが好ましい。
【0016】
これにより、糸の巻取を開始した直後から糸長の測定が可能になるので、糸の巻取長さを正確に測定できる。また、糸層径センサとして巻取ボビン回転角度センサとローラ回転角度センサとで構成して両センサの信号から糸層径を演算する構成は、糸の巻取を開始した後の巻取ボビン及びローラの回転速度が低速の時には、単位時間当たりの両センサからの信号数(パルス数)が少なく、演算手段での演算処理が困難であるが、本構成では糸層径センサが糸の巻取を停止している状態で糸層径の検出が可能なものであるので、巻取ボビンの回転速度が低速の時にも糸層径を検出することができる。特に、このような構成とすることは、糸巻取が糸欠点除去装置(糸欠点検出器、糸継装置等)を備え、糸欠点の検出、糸巻取の停止、糸欠点の除去、糸継ぎ、糸巻取の再開を糸巻取中に繰返す構成の糸巻取装置において有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図である。図2は計算周期時間Tsにおける糸の巻取長さΔYLsの演算を説明する要部斜視図である。
【0018】
最初に図1に基づいて、自動ワインダ1の糸巻取ユニット(糸巻取装置)2を説明する。この糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3の糸4をトラバース装置5でトラバースさせながら巻取チューブ6に巻き取って糸層を形成し、所定長で所定形状のパッケージ7を形成するものである。図1では糸巻取ユニット2を1台しか図示していないが、このような糸巻取ユニット2が図略の機台上に多数列設されることで、自動ワインダ1が構成されている。なお本明細書では、巻取チューブ6及びパッケージ7を総称して巻取ボビンと呼ぶ。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンが巻取チューブ6であり、糸層が形成された巻取ボビンがパッケージ7である。
【0019】
糸巻取ユニット2は、前記巻取チューブ6を着脱可能に支持するクレードル(巻取ボビン支持部材)8と、前記パッケージ7の糸層の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、を備えている。前記クレードル8は、前記巻取チューブ6の両端を挟持して回転自在に支持できるように構成されている。また、このクレードル8は揺動軸10を中心に傾動自在に構成されており、巻取チューブ6への糸4の巻取りに伴う巻太り(糸層の径の増大)を、クレードル8が揺動することによって吸収できるように構成されている。
【0020】
前記クレードル8の巻取チューブ6を挟持する部分にはパッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動装置)41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41により巻取チューブ6を積極的に回転駆動して糸4を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取チューブ6をクレードル8に把持させたときに、当該巻取チューブ6と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。このパッケージ駆動モータ41の作動はパッケージ駆動制御部42により制御され、このパッケージ駆動制御部42はユニット制御部50からの信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。
【0021】
また、前記クレードル8にはパッケージ回転センサ(巻取ボビン回転角度センサ)43が取り付けられており、このパッケージ回転センサ43は、クレードル8に取り付けられた巻取ボビン(巻取チューブ6、パッケージ7)の回転角度(巻取ボビンが何回転したか)を検出するように構成している。この巻取ボビン6,7の回転角度検出信号は、パッケージ回転センサ43から、前記パッケージ駆動制御部42や前記ユニット制御部50へ送信される。更に、前記回転角度検出信号は、後述するトラバース制御部46へも入力される。
【0022】
また、前記クレードル8にはロータリエンコーダ等からなるパッケージ径センサ(糸層径センサ)44が取り付けられており、このパッケージ径センサ44は、クレードル8に取り付けられた巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成される糸層(パッケージ7)の径を、クレードル8の揺動角を検出することで検出できるように構成されている。このパッケージ径センサ44は、糸4を巻き取っている時にも糸4の巻取を停止している時にも糸層の径の検出が可能なものである。パッケージ径センサ44で取得された糸層の径は、ユニット制御部50へ送信される。なお、パッケージ回転センサ43とパッケージ径センサ44とは、巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成した糸層の周面の周方向の糸層周面移動距離を検出する糸層周面移動距離検出手段の構成要素である。
【0023】
また、前記接触ローラ9の近傍には前記トラバース装置5が設けられており、このトラバース装置5によって、糸4が綾振りされながらパッケージ7に巻き取られるようになっている。このトラバース装置5は、トラバース方向に往復移動自在に設けられたトラバースガイド(糸ガイド)11と、このトラバースガイド11を往復駆動するトラバース駆動モータ45と、を備えている。
【0024】
前記トラバース装置5は、支軸まわりに旋回可能に構成した細長状のアーム部材13の先端に前記トラバースガイド11をフック状に設けるとともに、このアーム部材13を前記トラバース駆動モータ45により図1の矢印のように往復旋回駆動させる構成になっている。本実施形態において前記トラバース駆動モータ45はボイスコイルモータで構成されている。
【0025】
このトラバース駆動モータ45の作動はトラバース制御部46により制御され、このトラバース制御部46はユニット制御部50からの運転信号を受けて前記トラバース駆動モータ45の運転/停止を制御するように構成している。また、トラバース装置5はロータリエンコーダ等からなるトラバースガイド位置センサ47を備えており、アーム部材13の旋回位置(ひいては、トラバースガイド11の位置)を検出して、位置信号を前記トラバース制御部46へ送信できるように構成されている。トラバースガイド位置センサ47は、トラバース移動距離検出手段の構成要素である。
【0026】
なお、本実施形態では図1に示すように、巻取ボビン6,7を駆動するパッケージ駆動モータ41と、トラバースガイド11を駆動するトラバース駆動モータ45とは、別々に設けられており、巻取ボビン6,7とトラバースガイド11とは別個独立に駆動(制御)されるように構成されている。これにより、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りの際に、プレシジョン巻、ステッププレシジョン巻、ランダム巻等、多種多様な巻き方を実現することができる。
【0027】
そして、前記糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3と接触ローラ9との間の糸走行経路中に、給糸ボビン3側から順に、糸継装置14とヤーンクリアラ(糸監視器)15を配設した構成となっている。
【0028】
糸継装置14は、ヤーンクリアラ15が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン3からの糸解舒中の糸切れ時に、給糸ボビン3側の下糸と、パッケージ7側の上糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0029】
また、ヤーンクリアラ15は糸4の太さ欠陥を検出するためのものであって、ヤーンクリアラ15の部分を通過する糸4の太さを適宜のセンサで検出し、このセンサからの信号をアナライザ23で分析することで、スラブ等の糸欠陥を検出するように構成されている。このヤーンクリアラ15には、糸欠陥を検出した時に直ちに糸4を切断するためのカッタ16が付設されている。
【0030】
糸継装置14の下側と上側には、給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉して案内する下糸捕捉案内手段17と、パッケージ7側の上糸を吸引捕捉して案内する上糸捕捉案内手段20が設けられている。上糸捕捉案内手段20はパイプ状に構成されており、軸21を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側にマウス22を設けている。同様に下糸捕捉案内手段17もパイプ状に構成されており、軸18を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側には吸引口19を設けている。上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には適宜の負圧源が接続されており、先端のマウス22及び吸引口19に吸引作用を生じさせるようになっている。
【0031】
以上が自動ワインダ1の構成であり、この自動ワインダ1の糸巻取ユニット2において糸4の巻始めからの巻取長さYLを測定する糸長測定装置60は、上記のパッケージ回転センサ43、パッケージ径センサ44、トラバースガイド位置センサ47、トラバース制御部46等を少なくとも含んで構成されている。
【0032】
次に、糸長測定装置60における糸長測定機能を説明する。この糸長測定装置60を構成する前記トラバース制御部46はマイクロコンピュータ式に構成されて、演算手段としてのCPU70や、記憶手段としてのRAM71、タイマ回路72等を備えている。CPU70は、糸層周面移動距離演算手段73とトラバース移動距離演算手段74と巻取長さ演算手段75とを備えている。糸層周面移動距離演算手段73は、糸層周面移動距離検出手段の構成要素であり、パッケージ回転センサ43からの検出結果とパッケージ径センサ44の検出結果とから、所定のサンプリング周期時間Ts毎の糸層周面の移動距離ΔPLsを演算する。トラバース移動距離演算手段74は、トラバース移動距離検出手段の構成要素であり、トラバースガイド位置センサ47の検出結果から所定のサンプリング周期時間Ts毎のトラバース移動距離ΔTLsを演算する。巻取長さ演算手段75は、糸層周面移動距離演算手段73で検出された糸層周面移動距離ΔPLsとトラバース移動距離演算手段74で検出されたトラバース移動距離ΔTLsをそれぞれ入力し、入力された糸層周面移動距離ΔPLs及びトラバース移動距離ΔTLsから、所定の周期時間Tsごとに巻取ボビン6,7に巻き取った糸4の巻取長さを計算し、所定時間Tsごとに計算された巻取長さを巻始めから積算して、巻取ボビン6,7に巻き取った糸4の巻取長さを求めるものである。そしてトラバース制御部46のCPU70は、所定のサンプリング周期時間Tsごとに、前記巻取ボビン6,7に巻き取られた糸層の周面の移動距離ΔPLsと、前記トラバースガイド11の移動距離ΔTLsとを演算している。前記のサンプリング周期時間Tsは、前記トラバースガイド11が1トラバースストローク分移動する時間よりも十分短い微小時間であり、短ければ短いほど良いが、例えば1秒以下(数百μs程度)の時間とされる。
【0033】
具体的には、本実施形態において、パッケージ径センサ44はパッケージ7の径を適宜の時間間隔ごとに検出し、この検出された径はユニット制御部50へ送信される。ユニット制御部50は、パッケージ7の径の信号を受信すると、それをトラバース制御部46へ転送する。また、パッケージ回転センサ43は巻取ボビン6,7の回転角度(巻取ボビン6,7の回転速度)を適宜の時間間隔ごとに検出し、この検出された回転角度はトラバース制御部46へ送信される。
【0034】
上記によりトラバース制御部46はパッケージ(糸層)の径と巻取ボビン6,7の回転速度を取得することができ、これに基づいて、トラバース制御部46の糸層周面移動距離演算手段73は、当該サンプリング周期時間Tsにおける糸層の周面の移動距離ΔPLsを、以下の式に従って演算する。即ち、パッケージ7の直径をD(メートル)、巻取ボビン6,7の回転速度をB(rpm)、周期時間をTs(s)とすると、ΔPLs=(π×D×B×Ts)/60である。
【0035】
同時に、前記トラバースガイド位置センサ47は、前記位置信号として、前記トラバースガイド11の移動距離に応じた数のパルス信号をトラバース制御部46へ適宜の時間間隔ごとに送信するように構成している。そしてトラバース制御部46のトラバース移動距離演算手段74は、今回入力された前記パルス信号の数と、前記サンプリング周期時間Tsだけ前に入力されたパルス信号の数との差を求め、これに1パルスあたりの距離を乗じることで、サンプリング周期時間Tsにおけるトラバースガイド11の移動距離ΔTLsを演算して取得する。即ち、今回のサンプリングにおけるパルス数をCc(個)、前回のサンプリングにおけるパルス数をCp(個)、1パルスあたりの距離をΔLp(メートル)とすると、ΔTLs=|Cc−Cp|×ΔLpである。
【0036】
そしてトラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は、上記の演算で得られたΔPLs、ΔTLsの値を、所定の周期時間(計算周期時間)Tcの間、積算してゆく。得られた積算値ΔPL、ΔTLは、それぞれ、ΔPL=ΣΔPLs、ΔTL=ΣΔTLsとなる。なお、前記の計算周期時間Tcは、前記のサンプリング周期時間Tsよりも長い時間に設定されている。
【0037】
そして、前記の計算周期時間Tcが経過すると、トラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は、当該計算周期時間Tc中に巻き取られた糸4の長さΔYLを、前記の積算値ΔPL、ΔTLをもとに、三平方の定理の式に従って計算する。即ち、計算周期時間Tc中に巻き取られた糸の長さをΔYL(メートル)とすると、ΔYL=√(ΔPL2+ΔTL2)である。
【0038】
即ち、図2に示すように、十分に短い時間Tcでの糸の巻取長さを表すベクトル(ΔYL)は、糸層の周面の移動する方向の成分のベクトル(ΔPL)と、それに垂直なトラバース移動の成分のベクトル(ΔTL)のベクトル和として表される。従って、ΔYL=√(ΔPL2+ΔTL2)の関係が成り立つ。なお、図2に示す角度θは綾角である。
【0039】
なお、本実施形態においてトラバースガイド11は旋回駆動されるアーム部材13の先端に設けられているので、厳密にはトラバースガイド11は直線状の軌跡ではなく円弧状の軌跡を描いて運動する。この点、本実施形態ではアーム部材13の長さが十分に長いものであるとして、トラバースガイド11が近似的に直線運動をするものとして上記の計算式を適用している。ただし、上記の近似を行うことに限定されず、トラバースガイド11の移動距離ΔTLの前記糸層の幅方向の成分(糸4の綾振運動に実質的に寄与する成分距離)ΔTL’を三角関数を使って演算し、こうして得られた距離ΔTL’を用いて前記の三平方の定理の式からΔYLを計算するようにしても良い。
【0040】
上記のように、計算周期時間Tcごとの巻取長さΔYLが演算により取得されると、トラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は、巻取ボビン6,7への巻取り始めからの巻取長さYLを、積算値として求める。即ち、YL=ΣΔYLである。そしてトラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は、前述の積算値ΔPL、ΔTLをそれぞれゼロにリセットし、次の計算周期時間Tcでの処理に移行して、前記と同様の処理を反復する。
【0041】
トラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は計算周期時間Tcごとに上記の計算を繰り返して、巻取り始めからの巻取長さYLの値を更新するので、糸巻取ユニット2での巻取りが進むにつれて、巻取長さYLは刻々と増大していく。そして、巻取長さYLの値が予め設定された所定長さに到達すると、巻取長さ演算手段75は満巻であると判定し、ユニット制御部50へ満巻信号を送る。そして、ユニット制御部50はパッケージ駆動制御部42やトラバース制御部46に停止信号を送ってパッケージ駆動モータ41及びトラバース駆動モータ45を停止させ、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りを停止させるとともに、図示しない玉揚装置に適宜の玉揚動作を行わせる。その後、パッケージ駆動制御部42やトラバース制御部46を介してパッケージ駆動モータ41及びトラバース駆動モータ45の運転を再開し、新しい巻取ボビン(巻取チューブ)6に糸4を再び巻き付けていく。なお、新しい巻取ボビン6に糸を巻き取る際は、前記巻取長さYLの測定値がゼロにリセットされるのは勿論である。
【0042】
以上に示すように、本実施形態の糸長測定装置60は、所定のサンプリング周期時間Tsにおける、前記巻取ボビン6,7に巻き取られた糸層の周面の移動距離ΔPLsと、前記トラバースガイド11の移動距離ΔTLsとから、前記サンプリング周期時間Tsにおける糸4の巻取長さΔYLsを演算して求める巻取長さ演算手段75を備えている。そして、この巻取長さ演算手段75は、前記サンプリング周期時間Tsごとに繰返し求められた前記巻取長さΔYLsを積算することで、巻始めからの糸4の巻取長さYLを求めるように構成している。
【0043】
従って、巻取ボビン6,7の回転駆動とトラバースガイド11の駆動とが独立して行われる糸巻取装置において、巻取ボビン6,7の回転方向成分とトラバース方向成分とをそれぞれ加味した糸長測定を行うことができるので、糸長の測定精度が極めて良好であり、糸の巻取量の不足や糸の無駄を確実に防止できる。
【0044】
また、トラバース制御部46の巻取長さ演算手段75が前記巻取長さΔYLsを演算する周期時間Tsは、前記トラバースガイド11が1トラバースストローク分移動するのに必要な時間より短い長さ(十分短い瞬間の時間)に設定されている。従って、トラバースガイド11がトラバースストローク端部に向かうにつれて減速し、その端部で一瞬停止した後、反対側のトラバースストローク端部へ向かって加速するといった、トラバースガイド11の往復運動が与える影響(換言すれば、ΔTLsの変化)をキメ細かく反映させつつ巻取長さYLの値を求めることができる。従って、糸長測定の精度を大きく向上させることができる。また、同様に、巻取ボビン回転速度やトラバース移動速度の変化にも容易に対応することができる。
【0045】
また、本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、前記糸層の径を検出するパッケージ径センサ44と、前記糸層の回転角度を検出するパッケージ回転センサ43を備える。そして、トラバース制御部46の巻取長さ演算手段75は、前記パッケージ径センサ44の検出値と前記パッケージ回転センサ43の検出値とから、前記サンプリング周期時間Tsにおける糸層の周面の移動距離ΔPLsを演算して求めている。なお、接触ローラ9に回転センサを取り付ける方式でも前記周面の移動距離ΔPLsを求めることは可能であるが、この方式では糸層と接触ローラ9との間にすべりが生じることがあるので、糸長の測定値が不正確になってしまいやすい。この点、本実施形態では上記のように糸層周面移動距離検出手段をパッケージ径センサ44とパッケージ回転センサ43とで構成することで、正確に糸長を測定することができる。
【0046】
また、本実施形態においてトラバース装置5は、糸4をトラバース方向に移動させるために駆動されるトラバースガイド11と、そのトラバースガイド11を駆動するためのトラバース駆動モータ45とを備え、このトラバース駆動モータ45の回転角度と前記トラバースガイド11の移動距離とが比例の関係になっている。そして、トラバースガイド位置センサ47は、このトラバース駆動モータ45の回転角度を検出するように構成している。従って、トラバースガイド11の移動距離ΔTLsを簡単な構成で精度良く検出することができる。
【0047】
また、本実施形態においてパッケージ径センサ44は、糸4の巻取を停止している状態でも糸層径の検出が可能に構成されている。従って、空の巻取ボビンへの糸の巻取開始直後や糸継後の巻取再開直後のように巻取ボビン6,7が低速で回転しているときにも、パッケージ径センサ44で糸層径を測定することができ、正確に糸長を測定することができる。
【0048】
なお、例えば、パッケージ径センサ44を省略する代わりに接触ローラ9に回転センサを取り付け、この回転センサのパルス信号とパッケージ回転センサ43のパルス信号からCPU70等で糸層径を演算することも可能である。しかしながら、このように回転速度の関係から糸層径を演算する場合、糸巻取開始直後等の巻取ボビンが低速で回転している時は単位時間当たりのパルス数が少ないために、CPU70での演算処理が困難になってしまう。この点、本実施形態の構成では、巻取ボビンの低速回転時でもパッケージ径センサ44によって正確に糸層径を取得できるので、糸長を正確に測定することができる。特に本実施形態のような自動ワインダ1の糸巻取ユニット2では、ヤーンクリアラ15が糸欠点を検出する毎に巻取ボビン6,7の回転を停止し、当該糸欠点を除去して糸継装置14による糸継後に巻取ボビン6,7の回転を再開する動作を繰返すので、上記のように巻取ボビン停止時でも糸層径を検出可能なパッケージ径センサ44を採用することが有利である。
【0049】
また、本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、前記の糸長測定装置60で測定された巻取始めからの巻取長さYLが予め設定された長さに到達すると前記巻取ボビン6,7への巻取りを停止するように構成されている。これにより、糸4の巻取長さYLを正確に測定しながら定長巻取りを行うことが可能であり、糸4の巻取量の不足したパッケージ7を形成したり、パッケージ7に糸4を巻き過ぎて糸4を無駄にすること等を防止できる。
【0050】
なお、上記に開示された構成は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0051】
トラバース装置5は、ボイスコイルモータに構成したトラバース駆動モータ45によってアーム部材13を旋回往復駆動させる構成に代えて、図3に示すように、接触ローラ9の近傍に無端状のタイミングベルト31を配置し、このタイミングベルト31にトラバースガイド11’を取り付けるとともに、当該タイミングベルト31を、例えばパルスモータとしてのトラバース駆動モータ45’によって往復駆動する構成に変更することができる。また、ドラム状のトラバースカムの外周面にカム溝を螺旋状に設け、このカム溝にトラバースガイドを係合する構成等、他の構成のトラバース装置に変更することもできる。
【0052】
パッケージ径センサ44が検出した径の信号は、ユニット制御部50を介してトラバース制御部46に転送される構成に代えて、トラバース制御部46に直接入力される構成に変更することができる。また、トラバース制御部46及び/又はパッケージ駆動制御部42をユニット制御部50に組み込むようにしても良い。
【0053】
糸の巻取長さ(ΔYLsやYL)を、トラバース制御部46で演算せずに、例えばユニット制御部50で演算する構成に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットの模式正面図及びブロック図。
【図2】サンプリング周期時間Tsにおける糸の巻取長さΔYLsの演算を説明する要部斜視図。
【図3】トラバース装置の変形例を示す模式正面図及びブロック図。
【符号の説明】
【0055】
1 自動ワインダ
2 糸巻取ユニット(糸巻取装置)
4 糸
5 トラバース装置
6 巻取チューブ(空の巻取ボビン)
7 パッケージ(糸層付の巻取ボビン)
11 トラバースガイド
41 パッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動装置)
43 パッケージ回転センサ(巻取ボビン回転角度センサ)
44 パッケージ径センサ(糸層径センサ)
46 トラバース制御部
47 トラバースガイド位置センサ
50 ユニット制御部
60 糸長測定装置
73 糸層周面移動距離演算手段
74 トラバース移動距離演算手段
75 巻取長さ演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き取るための巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動装置と、この巻取ボビン回転駆動装置とは切り離されて駆動し、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置とを備えた糸巻取装置における、前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを測定するための糸長測定装置であって、
前記巻取ボビンに糸を巻き取って形成した糸層の周面の周方向の糸層周面移動距離を検出する手段と、
前記糸層の幅方向の糸のトラバース移動距離を検出する手段と、
前記糸層周面移動距離検出手段で検出された糸層周面移動距離及び前記トラバース移動距離検出手段で検出されたトラバース移動距離をそれぞれ入力し、入力された糸層周面移動距離及びトラバース移動距離から、所定の周期時間ごとに前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを計算し、所定時間ごとに計算された巻取長さを巻始めから積算して前記巻取ボビンに巻き取った糸の巻取長さを求める巻取長さ演算手段と、
を備えたことを特徴とする、糸巻取装置の糸長測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取装置の糸長測定装置であって、前記所定の周期時間が瞬間の時間であることを特徴とする糸巻取装置の糸長測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の糸巻取装置の糸長測定装置であって、前記トラバース装置が、糸をトラバース方向に移動させるために駆動されるトラバースガイドと、そのトラバースガイドを駆動するための駆動モータとを備え、この駆動モータの回転角度と前記トラバースガイドの移動距離とが所定の関係を維持していて、前記トラバース移動距離検出手段が前記駆動モータの回転角度を検出することを特徴とする糸巻取装置の糸長測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の糸巻取装置の糸長測定装置であって、前記糸層周面移動距離検出手段が、前記糸層の径を検出する糸層径センサと、前記巻取ボビンの回転角度を検出する巻取ボビン回転角度センサとを備え、前記糸層径センサ及び前記巻取ボビン回転角度センサの検出結果から前記糸層周面移動距離を求めるものであることを特徴とする糸巻取装置の糸長測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の糸巻取装置の糸長測定装置であって、前記糸層径センサが、糸の巻取を停止している状態で糸層径の検出が可能なものであることを特徴とする糸巻取装置の糸長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−137615(P2007−137615A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335376(P2005−335376)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】