説明

糸状菌及びこれを用いた環境浄化方法

【課題】塩分を含む環境下で汚染物質を分解する能力を有し、分解速度や分解できる汚染物質の種類の点で先の微生物より優れた微生物及びこの微生物を用いた環境修復方法が望まれていた。
【解決手段】ペスタロティオプシス(Pestalotiopsis)属に属し、塩分を含む環境下で少なくともリグニン分解活性を有する微生物を提供する。この微生物はリグニン分解酵素のうちでラッカーゼを主に産生する。有性生殖器官を形成しないアナモルフ(anamorph)の菌類であり、分生子の細胞数は6(内、有色細胞4)で3−9本の付属糸を有する。Pestalotiopsis sp. SN-3株(FERMP−20375)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩分を含む環境下で環境汚染物質分解能の高いペスタロティオプシス(Pestalotiopsis)属に属する新規な糸状菌、この糸状菌及び/又はその分泌物を有効量含有する環境浄化剤及びこれを用いた環境浄化方法(バイオレメディエーション)に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は自己の活動を維持するために地球上の資源を大量に消費し、大量の廃棄物を環境(陸地、海洋、湖沼、河川、大気)中に排出し、環境を汚染してきている。
【0003】
環境を汚染している廃棄物中の分解され易い有機化合物は微生物により分解されるが、リグニン、各種色素染料、有機スズ(TBT、TPT)、PCB、ダイオキシン等のような有機化合物はなかなか分解されず、長期に亘って環境中に残る。
【0004】
環境中に残ったこれらの有機化合物中には人類を含む生物全般の生命活動にとって有害なものが多く含まれており、これらが生物の健康に長期に亘って悪影響を及ぼすので、これら有機化合物は速やかに分解・無害化する必要が有る。
【0005】
そこで、特開平9−173051号特許出願等、多くの特許出願において、これらの有機化合物を分解する微生物及びこの微生物を用いた環境修復方法が提案されている。
【0006】
ただ、この微生物は海洋のような塩分を含む環境下ではこれらの有機化合物を分解する能力を有していないか、分解する能力に乏しいので、海洋に投棄された廃棄物中のこれらの有機化合物の分解には利用できない。
【0007】
しかし、海洋におけるこれらの有機化合物による汚染は深刻な問題であり、特に、水産資源を利用している人類にとって深刻な問題である。
【0008】
例えば、船底の塗料や漁網の防汚剤として有機スズ(TBT、TPT)が使用されているが、有機スズは、例えば巻き貝の雌を雄化するなど、海の中に生きる生物の生理活動に悪影響を及ぼし、海の中の生態系が破壊されることが心配されている。
【0009】
また、これら有害な有機化合物は海の中の食物連鎖の中で水産物中に濃縮され、人間がこの濃縮された有機化合物を含む水産物を摂取しているので、人間の健康に対するこれらの有機物の影響も極めて大きいものがある。
【0010】
更に、被服生地等の染色で使用された染料色素は10〜15%が廃水中へ流出し、海の中に流れ込んで海の水を染料色素で染め、太陽の光が海の水の中に照射されるのを遮って藻類の光合成を妨げ、藻類の生育を阻害し、藻類を食べて生育する海産物の生育を悪化させている。
【0011】
従って、海洋に投棄された廃棄物中のこれらの有機化合物を速やかに分解・無害化する微生物及びこの微生物を用いた環境修復方法を見つけることが急務である。
【0012】
そこで、例えば特開2001−169775号特許出願において、塩分を含む環境下でこれらの有機化合物を分解する微生物及びこの微生物を用いた環境修復方法が提案されている。
【特許文献1】特開平9−173051
【特許文献2】特開2001−169775
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この微生物は塩分を含む環境下でこれらの有機化合物を分解・無害化する能力を備えているが、分解速度、分解出来る有機化合物の種類の点で万能ではない。
【0014】
塩分を含む環境下でこれらの有機化合物を分解する能力を有し、分解速度や分解できる有機化合物の種類の点で先の微生物より優れた微生物及びこの微生物を用いた環境修復方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る糸状菌は、ペスタロティオプシス(Pestalotiopsis)属に属し、塩分を含む環境下で少なくともリグニン分解活性を有することを特徴とするものである。リグニン分解酵素のうちでラッカーゼを主に産生する。有性生殖器官を形成しないアナモルフ(anamorph)の菌類であり、分生子の細胞数は6(内、有色細胞4)で3−9本の付属糸を有する。 Pestalotiopsis sp. SN-3株(FERMP−20375)である。
【0016】
NaCl濃度0〜12%(W/V)、pH2〜11、4〜37℃の範囲で生育可能であり、培養液の保存については、5℃冷蔵において全く活性を失わず、−20℃冷凍では活性を失う。本菌はNaCl濃度5%まではリグニン分解活性を有する。
【0017】
また、この発明に係る環境浄化剤は、上記の糸状菌及び/又はその分泌物を有効量含有することを特徴とするものである。
【0018】
また、この発明に係る環境浄化方法は、上記の糸状菌及び/又はその分泌物を用いて環境汚染物質を分解させ、環境を修復(バイオレメディエーション)することを特徴とするものである。ここで、環境汚染物質とは、例えば、染色に用いる色素染料、船底塗料等に含まれる有機スズ(TBT、TPT)、内分泌攪乱物質であるノニフェノール、ダイオキシン等をいう。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る微生物は、これまで知られている微生物と比べて分解され難い有機化合物を分解する能力が高いので、有害な有機化合物で汚染された環境を速やかに修復することができるという効果がある。
【0020】
この発明に係る微生物は、塩分を含む環境中でも有機化合物を分解する能力が高いので、有害な有機化合物で汚染された塩分を含む環境を速やかに修復することができるという効果がある。
【0021】
この発明に係る微生物は自己の生命活動を利用して有害な有機化合物を分解するので、石油等の熱エネルギーを使用して有害な有機化合物を熱分解させる場合と比べ、有害ガスの発生による二次汚染を心配することなく低コストで環境を修復することができるという効果がある。
【0022】
この発明に係る微生物は環境中の有害な有機化合物の濃度を減少させるので、生物中へ蓄積・濃縮される有害な有機化合物の濃度レベルを下げることができ、漁獲物を摂取している人間の健康へのこれら有機物の影響を低減することができるという効果がある。
【0023】
この発明に係る微生物は、有害な有機化合物が色素染料の場合、化学物質を使うことなく色素染料を脱色することができるので、色素染料を脱色処理するために還元剤を使用し、その廃液を環境中に排出させる従来の場合と比べ、還元剤によって環境を汚染しなくて済むという効果がある。
【0024】
この発明に係る微生物は、化学物質を使うことなくパルプを漂白することができるので、パルプを漂白するために還元剤を使用し、その廃液を環境中に排出させる従来の場合と比べ、還元剤によって環境を汚染しなくて済むという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
分解速度や分解できる有機化合物の種類の点で先の微生物より優れた微生物を提供するという目的を、塩分を含む環境下でこれらの有機化合物を分解する能力を損なわずに実現した。
【実施例】
【0026】
リグニン分解菌の分離: まず、日本各地の沿岸域から土、流木を採取し、これらに付着している種々の菌をグアイヤコール発色法により一次スクリーニングして、リグニンを酸化させる能力を備えた菌(リグニン分解菌)を分離した。リグニン分解菌の一次スクリーニングの手順は次の通りである。
【0027】
培地の調製: Lip medium (Kirk medium) にο-メトキシフェノール(グアイヤコール)1.24g/リットルを加え、グルコースを除外したものをG-medium とした。また、Lip medium にο-メトキシフェノール(グアイヤコール)0.25g/リットルを加え、グルコースの量を0.5g/リットルに変えたものをGG-mediumとした。
【0028】
培養試験: 50ミリモルのHEPES(pH8.0)、50ミリモルのTricine(pH8.5)、50ミリモルのMCHES(pH9.0)を調整し、それぞれを20mlずつ取って100mlの三角フラスコに入れた。また、PDA培地(ポテトデキストロース寒天培地)、G-medium平板寒天培地を準備した。寒天の濃度は2%とした。
【0029】
次に、上記三角フラスコに土又は流木を砕いたものを適量入れ、27℃で7日間放置した。そして、この三角フラスコ内の培養液を200μl取り、これをPDA培地に塗沫し、27℃で3日間培養した。
【0030】
次に、PDA培地において生育がよく、目視で有望と思われる菌を、白金耳を用いて G-medium平板寒天培地に植え継いだ。そして、培地において、グアイヤコールを分解し赤く発色した菌(リグニン分解菌)を分離・採取した。
【0031】
リグニン分解菌の選択: グアイヤコール発色法で分離・採取したリグニン分解菌をリグニン分解活性法により二次スクリーニングし、リグニン分解能力の高い菌を選び出した。この二次スクリーニングの手順は次の通りである。
【0032】
一次スクリーニングで分離した各リグニン分解菌をPDA平板寒天培地に白金耳を用いて塗沫し、27℃で3日間培養した。100ml三角フラスコにLiP mediumを20ml入れたものを用意し、PDA平板寒天培地で良く生育した菌を掻き取り、これを三角フラスコに植え継ぎ、暗所において、27℃で4日間振盪培養した。
【0033】
次に、培養液を1ml分取し、13,000g、2分、4℃で遠心分離し、上澄に含まれている酵素の活性を調べた。上澄みに含まれているリグニン分解酵素としては、Lignin peroxidase(以下、LiPという。)、Manganese peroxidase(以下、MnPという。)、Laccase(以下、Lacという。)が考えられるので、各々の活性について調べた。
【0034】
LiP活性は、Veratryl alcohol(以後VAと表記)を基質、サンプル(上澄み)を酵素とし、酵素反応により酸化されて生産されるベラトリルアルデヒドを分光光度計によりAbs.310nmで測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0035】
MnP活性は、2,6-dimethoxyphenolを基質、サンプル(上澄み)をを酵素とし、酵素反応により酸化されて生産されるdimethoxyphenolを分光光度計によりAbs.469nmで測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0036】
Lac活性は、2,2 - azino - bis( 3 - ethybenz - thiazoline - 6 - sulfolic acid) diammonium salt(以後ABTSと表記)を基質、サンプル(上澄み)をを酵素とし、酵素反応により酸化されるABTSを分光光度計によりAbs. 410 nm で測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果から、奄美大島の湿地帯から採取した流木に付着していたSN−3菌が最も高いLac活性を有していることがわかった。また、Lip活性は、この実験で用いた全てのリグニン分解菌について見られなかった。
【0039】
リグニン分解菌の同定: 現在報告されているリグニン分解菌には、Phanerochaete chrysosporiumを代表的とする担子菌に属するものが多い。SN−3菌が既知のリグニン分解菌と同一であるか、新規のものであるかを確認するため、菌糸、生殖器官(分生子)等の形態学的特長による属の同定を行った。
【0040】
同定の方法としては、当該微生物をPDA,MA,OA,LCA,1/3SW・LCAの各種培地に接種し、25℃で1週間培養を行い、コロニーの巨視的特長の観察を肉眼及び実体顕微鏡で行った。コロニー色調に関する記述はKornerup and Wanscher(1978)に従った。また、スライド培養検体の微視的特長の観察を光学顕微鏡U-LH1000(オリンパス、東京)で行った。
【0041】
各プレートにおいて培養1週間後および2週間後に巨視的観察を行い、コロニー直径・色調・表面性状・可溶性色素産生の有無等の点に関して記録を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
培養1週間目に1/3SW・LCAのみで黒色の分生子塊の形成がわずかに認められ、培養2週間目にPDA培地およびOA(Bacto Oatmeal Agar)培地で形成が認められた。特にOAでその形成率が高い傾向が認められた。
【0044】
更に微視的観察を行った結果、図1に示すように、栄養菌糸は寒天表面上もしくは寒天内に形成され、無色の有隔壁菌糸の形成が認められた。菌糸幅は細く、ほぼ同じ幅であり、厚壁菌糸の形成は確認されなかった。
【0045】
分生子果は分生子層様で、黒色で培地にやや埋没して形成され、黒色の分生子塊を出す様子が認められた。分生子形成構造としては、分生子柄は無色で、層状に集合して形成される様子が認められた。分生子形成細胞は無色で円筒形、1細胞から1つの分生子を形成する様子が認められた。分生子は紡錐体で、真っ直ぐかやや曲がり、5細胞性で、真ん中の3細胞が褐色で両端の2細胞が無色を示した。
【0046】
分生子の頂端細胞からは2〜3本の付属糸が形成され、基端細胞からは1本の非分岐の刺状の付属糸が形成される様子が認められた。微分干渉顕微鏡(2000倍)で撮影した分生子の写真を図2に示す。分生子は黒色ドロップ状の分生子塊となり形成される様子が認められた。長期培養検体からはテレオモルフの形成は確認できなかった。
【0047】
以上、SN−3菌の観察された形態的特徴を踏まえて、Arx(1981)、Kiffer and Morelet(2000)、Sutton(1980)に記載されている菌類の検索表を用いて、SN−3菌の属までの帰属分類群を推定した。その結果、有性生殖器官を形成しないアナモルフ(anamorph)の菌類、不完全菌類(anamorphic fungi)のなかでも分生子果不完全菌類(Coelomycetes)であるPestalotiopsis属の形態的特長とほぼ一致した。
【0048】
Pestalotiopsis属に形態的に類似した菌としてPestalotia属、Truncatella属、Monochaetia属等が知られている.これらの属とPestalotiopsis属は「分生子の細胞数および有色細胞の数、頂端付属糸の数」といった形態的特徴から識別されている。Pestalotia属は6細胞(有色細胞4)で3−9本の付属糸、Truncatella属は4細胞(有色細胞2)で1〜本の付属糸、Monochaetia属は5細胞(有色細胞3)で1本の付属糸という特徴を持ち、Pestalotiopsis属と区別することができる。Pestalotiopsis属は研究者によってはPestalotia属に含まれる場合もあるが、今回はSutton(1980)らの見解に従い、SN−3菌をPestalotiopsis属と同定した。
【0049】
そして、このSN−3菌は平成17年1月24日(受領日)に寄託番号FERM AP−20375として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。
【0050】
次に、このSN−3菌の生理学的な性状について検討した。
【0051】
生育温度の検討: LiP mediumのみからなる培養液(A)と、NaClを3%を含むLiP mediumからなる培養液(B)と、14本の100mlフラスコを準備し、7本のフラスコに培養液(A)を20mlずつ入れ、SN−3菌を植菌し、別の7本のフラスコに培養液(B)を20mlずつ入れ、SN−3菌を植菌し、培養液(A),(B)毎に4℃,5℃,10℃,20℃,27℃,37℃又は45℃で各フラスコを静置し、二週間培養した。結果は表3に示す通りであった。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示された結果から、SN−3菌の生育可能温度は、NaClの有無にかかわらず、5〜37℃の範囲であり、20〜27℃の範囲が最適生育温度であることがわかる。なお、表3中、−、+、++、+++の印は、−が生育せず、+が生育、++が生育良好、+++が非常に良く生育するを意味する。
【0054】
生育pHの検討: LiP medium (Kirk medium)にGood's Bufferを基本とし、初発pHを2〜11に調整し、この培地でSN−3菌を、27℃で5日間振盪培養し、その後、吸引濾過して菌体を取り出し、これを105℃で90分間乾燥させ、重量を測定した。結果は表4及び図3に示す通りであった。
【0055】
【表4】

【0056】
表4及び図3に示された結果から、SN−3菌はpH2〜11の範囲で生育可能であり、Lac活性の限界pHは11であった。ただし、中性付近では生育が良好であるが、Lac活性は低く、反対に酸性、アルカリ性側では生育が不良であったが、Lac活性は高く、最適生育条件と最適分解条件は異なっていることがわかる。
【0057】
耐NaClの検討: LiP培地にNaClを濃度が0,1.5,3,5,10,12,15%となるように加え、この培地でSN−3菌を、27℃で5日間振盪培養し、その後、吸引濾過して菌体を取り出し、これを105℃で90分間乾燥させ、重量を測定した。結果は表5及び図4に示す通りであった。
【0058】
【表5】

【0059】
表5及び図4に示された結果から、SN−3菌はNaCl濃度0〜12%(W/V)の範囲で生育可能であることがわかった。また、SN−3菌はNaClの上限濃度5%まで分解活性を有することが分かる。また、SN−3菌がLacを産生する限界NaCl濃度は5%(w/v)であることがわかった。
【0060】
色素染料を分解する能力の検討: 次に、培地としてLiP mediumを用い、この培地に表6に示す色素を初期濃度70ppmで添加し、温度27℃、pH3の条件でSN−3菌を培養し、24時間後の培養液を12000rpm、2分の条件で遠心分離し、上澄液の吸光度(各色素染料の最大吸収波長における吸光度)を測定した。結果は表6に示す通りであった。
【0061】
【表6】

【0062】
ここで、色素脱色率(%)は,各色素染料の最大吸収波長における吸光度の減少を分光光度計により測定して求めた。また、脱色速度は、初期の培養上清の吸光度と、ある時間経過後の各培養上清の吸光度との差を測定し、染料濃度の変化(ppm/h)として求めた。
【0063】
表6に示された結果から、インクに使用されているリアクティブ色素(Reactive Green 5, Reactive Black 5, Reactive Blue 5,Reactive Red 120),微生物検査で汎用されるクリスタルバイオレッド(Crystal Violet),タール色素(赤色2号,赤色3号,赤色104号,赤色105号),タンパク検出等で汎用されるクマージーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)など,発色団にかかわらず,広範囲の色素が脱色されることがわかった。
【0064】
TBT、TPTを分解する能力の検討: 次に、培地としてKirk mediumを用い、この培地に初期濃度0.1ppmのTBT、TPTを添加し、温度27℃、pH3の条件でSN−3菌を培養し、24時間後の培養液を12000rpm、2分の条件で遠心分離し、上澄液のTBT、TPTをガスクロマトグラフィーにより測定した。結果は表7に示す通りであった。
【0065】
【表7】

【0066】
表7に示された結果から、SN−3菌はTBT、TPTをいずれも約1週間で約80%分解することがわかった。
【0067】
分泌された酵素の特性: SN−3菌から分泌された酵素はラッカーゼ(Lac, EC 1. 10. 3. 2)のみからなる。最適条件下での本酵素の活性は、330U/Lであり、代表的なリグニン分解微生物である Phanerochaete chrysosporium が産生する酵素の活性と比べて、短期間で高い酵素活性を示す。5℃冷蔵では活性を失わないが、−20℃冷凍では活性を失う。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明に係る糸状菌及び/又はその分泌物は色素染料を漂白する作用を有しているので、環境修復(レメディエーション)に利用するだけでなく、パルプを漂白したり、衣服に付いたしみを選択的に抜く手段として利用する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】SN−3菌の顕微鏡写真である。
【図2】SN−3菌の分生子の顕微鏡写真である。
【図3】pHとSN−3菌の成長量(g/l)及びLac活性(U/L)との関係を示すグラフ。
【図4】NaCl濃度とSN−3菌の成長量(g/l)及びLac活性(U/L)との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペスタロティオプシス(Pestalotiopsis)属に属し、塩分を含む環境下で少なくともリグニン分解活性を有する糸状菌。
【請求項2】
Kirk培地を用いて培養した場合にNaCl濃度が0〜12%(W/V)、pHが2〜11、温度が4〜37℃の範囲で生育可能な請求項1に記載の糸状菌。
【請求項3】
Kirk培地を用いて培養した場合にラッカーゼを主に産生する請求項1又は2に記載の糸状菌。
【請求項4】
有性生殖器官を形成しないアナモルフ(anamorph)の菌類であり、分生子の細胞数は6(内、有色細胞4)で3〜9本の付属糸を有する請求項1〜3のいずれかに記載の糸状菌。
【請求項5】
Pestalotiopsis sp. SN-3株(FERMP−20375)である請求項1〜4のいずれかに記載の糸状菌。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の糸状菌及び/又はその分泌物を有効量含有することを特徴とする環境浄化剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の糸状菌及び/又はその分泌物を用いて環境汚染物質を分解させることを特徴とする環境浄化方法。
【請求項8】
前記環境汚染物質がリグニン、色素染料、有機スズ(TBT、TPT)、PCB又はダイオキシンであることを特徴とする請求項7に記載の環境浄化方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−246802(P2006−246802A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68945(P2005−68945)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【Fターム(参考)】