説明

紅麹色素の製造方法

【課題】 安定な紅麹色素誘導体が求められている。
【解決手段】 紅麹色素をキトサンオリゴマーと反応せしめることにより、安定なキトサンオリゴ糖結合色素が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として食品や化粧料などの着色に染料として使用される天然系赤色色素としての紅麹色素に関するもので、中でもとくに水溶液中での安定性を強化させた紅麹色素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紅麹色素はモナスカス属の糸状菌(紅麹菌)が生産する色素であり、古くから中国、台湾等で紅酒、食肉等の着色剤として用いられており、その安全性が確認されている。紅麹色素は一般に、オレンジ色系のモナスコルブリン(monascorubrin)、黄色系のアンカフラビン(ankaflavin)、黄色系のモナスシン(monascin)、赤色系のモナスコルブラミン(monascorubramin)、ルブロパンクタチン(rubropunctatin)、ルブロパンクタミン(rubropunctamine)のように構造が類似し、置換基が異なる化合物からなる組成物である(非特許文献1)。これらの化合物は水に不溶であるが、モナスコルブリンとルブロパンクタチンは培養液中のアミノ基を有する水溶性化合物、例えば水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸等と反応して水溶性の複合体を形成して赤色系水溶性紅麹色素となることが知られている(非特許文献2)。しかし、この紅麹色素は光あるいは熱に対してやや不安定であり、変色あるいは退色に対する改善が要望されている。紅麹色素の退色防止方法としては、紅麹色素をブタノールやエタノール中で保存する方法が知られている。しかしながら、紅麹色素は、多くは水を含んだ製品に利用されており、この方法は実用的でない。
【0003】
更に、他の方法として、茶抽出物、ヤマモモ抽出物、セサモール、ビタミンCなどを紅麹色素に添加する退色防止方法が知られているが(特許文献1〜3;非特許文献3)、いずれも未だ十分に満足しうる方法とはいえない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−173609号公報
【特許文献2】特開平6−234935号公報
【特許文献3】特開平10−110109号公報
【非特許文献1】J. Ferment. Technol., Vol. 51, p. 407 (1973)
【非特許文献2】Journal of Industrial Microbiology, Vol. 16,pp. 163-170(1996)
【非特許文献3】栄養と食糧vol.28、No.4、pp.207−211(1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような事情に鑑み、本発明は、水溶液中での安定性を向上した水溶性紅麹色素を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、紅麹菌の生産する色素であるルブロパンクタチン、モナスコルブリンと結合させるアミノ基を有する化合物がキトサンオリゴ糖である場合に、生成した赤色水溶性色素が、水溶液中で非常に安定であることを見いだした。アミノ基を有する化合物がグルコサミンやその重合体であるキトサンである着色剤の製造方法は、既に知られているが(特許公報昭52−32965号)、本発明者らの検討によると、アミノ基を有する化合物が単糖のグルコサミンであると、安定性は向上せず、キトサンであると水溶性が著しく悪く、目的を充分達し得なかった。これに対し、アミノ基を有する化合物としてキトサンオリゴ糖(重合度2〜10)を用いた場合、安定性が向上し、且つ、水溶性が高い色素が製造できることを見いだしたものである。
即ち、本発明にかかるキトサンオリゴ糖結合色素は、色素主成分がキトサンオリゴ糖残基を有する化合物で構成することを特徴とし、少なくとも以下の内容を含む。
【0007】
[1]下記一般式(1)で示される化合物
【化1】

(式中、nは0から8までの整数、Xは下記一般式(2)で示される残基またはアミノ基のいずれかであり、少なくとも1の下記一般式(2)で示される残基を含む)
【化2】

(式中、RはC11又はC15
[2]
下記一般式(3)で示される化合物
【化3】

(式中、nは0から8までの整数、Xはいずれか1つが下記一般式(2)で示される残基であり、他はアミノ基である)
【化4】

(式中、RはC11又はC15
[3]
[1]又は[2]のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物を含有する水溶性組成物。
[4]
[1]又は[2]のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物を有効成分とするキトサンオリゴ糖結合色素。
[5]
[1]又は[2]のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物と、インク用溶媒とを含有してなる、色素組成物。
[6]
下記一般式(4)で示されるキトサンオリゴ糖と、下記一般式(5)で示される化合物とを、pH6〜pH10の条件下で反応式(6)に示すアミノ基交換反応に供して、キトサンオリゴ糖のうち、少なくとも1構成糖が有するアミノ基の窒素原子と、下記一般式(5)で示される化合物中のピラン環の酸素原子とを置換させる工程を少なくとも含む、[1]または[2]記載の化合物の製造方法
【化5】

(式中、nは0から8までの整数)
【化6】

(式中、RはR=C5H11又はR=C7H15
【化7】

(式中、RはC5H11又はC7H15を示し、R’ はキトサンオリゴ糖のいずれかのアミノ基を除く側鎖部分である)
[7]
前記一般式(5)で示される化合物が、モナスカス属に属し、紅麹色素生産能を有する微生物により生産される[6]記載の製造方法。
[8]
前記一般式(5)で示される化合物が、酸性条件下にて酢酸をフィードしつつ培養したモナスカス属に属し、紅麹色素産生能を有する微生物の培養物から採取されたものである[6]又は[7]記載の製造方法。
[9]
前記一般式(5)で示される化合物が、酸性条件下にて酢酸をフィードしつつ培養したモナスカス属に属し、紅麹色素産生能を有する微生物の培養物の色素含有湿菌体として反応に供されるものである、[6]又は[7]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キトサンオリゴ糖とルブロパンクタチン及び/又はモナスコルブリンを結合させることにより、従来の紅麹色素にくらべ水溶液中での安定性、耐光性に優れたキトサンオリゴ糖結合色素を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかるキトサンオリゴ糖結合色素の実施の形態を詳細に説明する。
紅麹菌の生産する色素は下記一般式(5)で示される構造を有し、式中R=C5H11の場合に化合物はルブロパンクタチンであり、式中R=C7H15の場合に化合物はモナスコルブリンである。以下、ルブロバンクタチン及びモナスコルブリンをまとめて、単に紅麹色素ということがある。
【化8】

(RはR=C5H11(ルブロパンクタチン)又はR=C7H15(モナスコルブリン))
本発明の化合物は、以下の反応式(6)のように、紅麹色素とキトサンオリゴ糖とを反応せしめ、赤色色素として生成する。
【化9】

(式中、RはCH11又はC7H15を示し、R’ はキトサンオリゴ糖のいずれかのアミノ基以外の側鎖部分である)
本発明の化合物は、上記反応により生成されるものであって、以下の一般式(1)に示される構造を有する。
【化10】

(式中、nは0から8までの整数、Xは下記一般式(2)で示される残基またはアミノ基のいずれかであり、少なくとも1の下記一般式(2)で示される残基を含む)
【化11】

(式中、RはC11又はC15
即ち、反応式(6)によって生成する化合物は、キトサンオリゴ糖が結合した色素(キトサンオリゴ糖結合色素)であって、例えば、キトサンオリゴ糖がグルコサミンの2量体で、前記式(2)の紅麹色素との反応の場合、下記一般式(7)のような構造となり、グルコサミンの3量体の場合には下記一般式(8)、4量体の場合は下記一般式(9)のような構造となる。グルコサミンの重合度が増加した場合も、同様な結合様式でキトサンオリゴ糖と紅麹色素は結合している。また、下記式(7)、(8)、(9)は、キトサンオリゴ糖と紅麹色素が1対1で結合した場合の構造を示すが、反応に供されるキトサンオリゴ糖のアミノ基は、複数存在しているため、例えば、下記式(10)に示すように複数の紅麹色素がキトサンオリゴ糖に結合しているものも本発明の化合物に含まれる。即ち、グルコサミンの重合度がnであれば、紅麹色素はキトサンオリゴ糖に1個〜n個結合している。本発明の化合物である、キトサンオリゴ糖結合色素は、これらの反応生成物の単体もしくはその2以上からなる混合物である。
【化12】

(式中、RはC11又はC15
【化13】

(式中、RはC11又はC15
【化14】

(式中、RはC11又はC15
【化15】

(式中、RはC11又はC15
【0010】
キトサンオリゴ糖は、工業的にはカニやエビ等の甲殻類の殻に含まれるキチンの脱アセチル化物であるキトサンを、酸または酵素で加水分解して製造される。このキトサンの加水分解物は重合度の異なる様々なキトサンオリゴ糖の混合物であり、カラムクロマトグラフィーや溶剤分画等の方法で重合度の異なるキトサンオリゴ糖に分けることができる。本発明の化合物の製造に使用されるキトサンオリゴ糖は、混合物のままでも、分画精製したものでもどちらでもよいが、重合度が2〜10のものが好ましい。キトサンオリゴ糖は各種市販されているものを用いることができ、例えば、純品では「キトサンダイマー〜ヘキサマー」(生化学工業株式会社製)、混合物としては「オリゴグルコサミン」(商品名、甲陽ケミカル株式会社製)、「キミカキトサンオリゴ糖COS−A」(商品名、株式会社キミカ製)などが挙げられる。
【0011】
紅麹色素は、各種紅麹菌から生産されるが、例えば、紅麹菌の固体培養で得られる粉末紅麹色素、液体培養で得られる液体色素、色素エタノール抽出物などが使用できる。紅麹菌としてはモナスカス(Monascus)属に属するものであればいずれの菌であってもよく、例えば、モナスカス・パープレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・アンカ(Monascus anka)、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)やこれらの変種、変異株などが挙げられる。
具体的には、モナスカス・パープレウス(Monascus purpureus)NBRC4478、モナスカス・パープレウス(Monascus purpureus)ATCC16360、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)NBRC9203、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)NBRC4480等が使用される。
NBRC4478、9203及び4480は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門より分譲を受けることができる(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)。
ATCC16360は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)より分譲を受けることができる(住所 ATCC, Address: P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, 1,United States of America )。
【0012】
紅麹菌の培養方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法でよい。より好ましくは、ルブロパンクタチンまたはモナスコルブリンを高濃度で蓄積できる培養方法で培養し、キトサンオリゴ糖と反応させる方法が望ましい。ルブロパンクタチン、モナスコルブリンを高蓄積させる培養方法は、例えば酢酸添加によるpH制御培養法(特開2003−268254号公報)などが挙げられる。菌体中に蓄積するルブロパンクタチンまたはモナスコルブリンは、培養後に菌体に含有された状態から、色素の抽出とキトサンオリゴ糖との結合反応を同時に行っても良く、或いは、一旦色素を抽出した後にキトサンオリゴ糖との結合反応を行っても良い。簡便性の観点からは、色素含有菌体に有機溶媒とキトサンオリゴ糖溶液を添加し、抽出と結合反応を行うことが望ましく、一方、純度の観点から、好ましくは、培地中に高蓄積したルブロパンクタチン・モナスコルブリンを有機溶媒で一旦抽出した後、キトサンオリゴ糖との結合反応を行う方法が望ましい。いずれの場合も、キトサンオリゴ糖は、ルブロパンクタチン・モナスコルブリンのモル数に対し、キトサンオリゴ糖のグルコサミン換算のモル数で等量〜500等量、好ましくは等量〜50等量程度を添加するとよい。後者の場合、一旦抽出した色素をメタノール、エタノールなどにルブロパンクタチン・モナスコルブリンを溶解し、キトサンオリゴ糖水溶液を添加すればよく、色素混合物の濃度は特に限定されないが、反応液中に色素が溶解できる濃度の範囲であればよい。
【0013】
添加するキトサンオリゴ糖水溶液のpHは、pH6〜10、好ましくはpH6〜8に調整する。中性付近〜アルカリ性でなければキトサンオリゴ糖と色素の結合反応が進みにくいからである(非特許文献2;Journal of Industrial Microbiology, Vol. 16,pp. 163-170(1996))。キトサンオリゴ糖は、水溶液でなく緩衝液に溶解して反応に供してもよい。その場合、緩衝液は反応に関与しないものであれば特に限定されないが、一例を挙げるとリン酸緩衝液、マックイルヴェイン緩衝液などを用いても良い。温度は室温〜80℃で1〜72時間撹拌する。また、例えば上記の酢酸添加によるpH制御培養(特開2003−268254号公報)では、ルブロパンクタチン・モナスコルブリンは水に溶けにくいため菌体と一緒にろ過、遠心分離などで回収されるが、この菌体と色素の混合物に直接エタノール、キトサンオリゴ糖水溶液を添加し、キトサンオリゴ糖結合色素を生成してもよい。この場合、色素を抽出する手間が省略できる。
【0014】
また、培養時にキトサンオリゴ糖を添加することにより水溶性の赤色色素であるキトサンオリゴ糖結合色素が得られる。培地へのキトサンオリゴ糖の添加量は、特に限定されるものではないが、通常の液体培地であれば培地中に0.05%重量以上、好ましくは0.5〜5%重量添加するとよい。
【0015】
本発明の赤色色素は、反応液をそのままの状態、不溶物をろ過、遠心分離などの方法で取り除いた状態、必要に応じて樹脂等で精製した状態、またはこれらを濃縮・乾燥を行った状態のいずれでも赤色色素組成物として利用できる。また、本発明のキトサンオリゴ糖結合色素を色素組成物として調製するに際しては、食品用途の場合、公知の紅麹色素と同様にして、所望により、乳糖、D−マンニトール、D−ソルビトール等の糖類、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉等の澱粉類、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機塩類のような賦形剤、希釈剤や他の添加物などと適宜配合することができる。使用目的に応じて他の着色料と混合してもよい。また、印刷用インクとして用いる場合は、例えば国際公開WO02/088265号パンフレットに記載のインク用溶媒(水性インク溶媒又は油性インク溶媒)、分散剤や結合剤を添加した色素組成物として調製し、適宜用いることができる。
【0016】
すなわち、水性インク溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコール誘導体;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン等のアミン類;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン等の極性溶媒が挙げられる。好ましくは、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びジエチレングリコールである。これらの溶媒は単独で用いても良いし、二種以上を混合して使用しても良い。水と水溶性有機溶媒を混合して使用する場合、その水溶液中の水溶性有機溶媒の濃度は80重量%以下であることが望ましい。
【0017】
油性インク溶媒としては、主に通常の有機溶媒から所望に応じて適宜選択する。好ましい油性インク溶媒としては、例えば、エタノール、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フェニルプロパノール、フルフリルアルコール、アニスアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のグリコール誘導体;ベンジルメチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン類;ブチルフェニルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ヘキシルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、酢酸フェニルエチル、酢酸フェノキシエチル、フェニル酢酸エチル、プロピオン酸ベンジル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、ジエチルマロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ(2-メトキシエチル)、セバシン酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジオクチル、桂皮酸3-ヘキセニル等のエステル類、石油エーテル、石油ベンジル、テトラリン、デカリン、1-アミルベンゼン、ジメチルナフタリン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プロピレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジエチルドデカンアミド等の極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。本発明のキトサンオリゴ糖結合色素は上記有機溶媒に溶解してもよいし、適当な分散剤を併用し、分散してもよい。水性インク及び油性インクの場合には、その粘度を40 mPa・s以下に調整するのが好ましく、その表面張力を20〜100 mN/mに調整するのが好ましい。
【0018】
固体インクの溶媒は、室温で固体であり加熱されて流動性を示す相変化媒体の中から所望に応じて適宜選択して使用される。例えば密ロウ、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、鯨ロウ、カンデリラワックス、ラノリン、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の天然ワックス、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素、パルミチン酸、ステアリル酸、ベヘン酸、チグリン酸、2-アセトナフトベヘン酸、1,2-ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸等の有機酸;ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、エイコサノール、ドコサノール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール、ドデセノール、ミリシルアルコール、テトラセノール、ヘキサデセノール、エイコセノール、ドコセノール、ピネングリコール、ヒノキオール、ブチンジオール、ノナンジオール、イソフタリルアルコール、メシセリン、ヘキサンジオール、デカンジオール、テトラデカンジオール、ヘキサデカンジオール、ドコサンジオール、テトラコサンジオール、テレビネオール、フェニルグリセリン、エイコサンジオール、オクタンジオール、フェニルプロピレングリコール等のアルコール類;ビスフェノールA、p-α-クミルフェノール等のフェノール類、上述の有機酸のグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の有機酸エステル;ステアリン酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ミリスチン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、ラウリン酸コレステロール、メリシン酸コレステロール等のコレステロール脂肪酸エステル、ステアリン酸サッカロース、パルミチン酸サッカロース、ベヘン酸サッカロース、ラウリン酸サッカロース、メリシン酸サッカロース、ステアリン酸ラクトース、パルミチン酸ラクトース、ベヘン酸ラクトース、ラウリン酸ラクトース、メリシン酸ラクトース等の糖類脂肪酸エステル、ベンゾイルアセトン、ジアセトベンゼン、ベンゾフェノン、トリコサノン、ヘプタコサノン、ヘプタトリアコンタノン、ヘントリアコンタノン、ステアロン、ラウロン等のケトン類;オレイン酸アミド、ラウリル酸アミド、ステアリン酸アミド、リシノール酸アミド、パルミチン酸アミド、テトラヒドロフラン酸アミド、エルカ酸アミド、ミリスチン酸アミド、1,2-ヒドロキシステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N,N-エチレンビスラウリン酸アミド、N,N-エチレンビスステアリン酸アミド、N,N-エチレンビスベヘン酸アミド、N,N-キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N-ブチレンビスステアリン酸アミド、N,N-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N-ジオレイルセバシン酸アミド、N,N-ジステアリルセバシン酸アミド、N,N-ジステアリルテレフタル酸アミド、フェナセチン、トルアミド、アセトアミド等のアミド類、p-トルエンスルホンアミド、エチルベンゼンスルホンアミド、ブチルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド類が挙げられる。
【0019】
本発明のキトサンオリゴ糖結合色素は、加熱されて流動状態の上記固体媒体中に分散又は溶解してもよいし、分散剤や結合剤を併用して分散又は溶解させてもよい。固体媒体の相変化温度は60〜200℃が好ましく、80〜150℃であるのがより好ましい。
【0020】
分散剤としては界面活性剤を用いる。界面活性剤としては陽イオン性、陰イオン性、両性及び非イオン性のいずれも用いることができる。陽イオン性界面活性剤としては脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N-アシル-N-メチルグリシン塩、N-アシル-N-メチル-β-アラニン塩、N-アシルグルタミン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0021】
結合剤としてはデンプン、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ、カルボメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子;合成ゴムラテックス等の合成樹脂ラテックス、ポリビニルブチラール、ポリビニルクロライド、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルホルマール、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキッド樹脂等の有機溶剤可溶樹脂が挙げられる。
その他種々の添加剤を必要に応じて適宜添加してもよい。添加剤としてはpH調整剤、粘度調整剤、浸透材、表面張力調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。
【0022】
本発明のキトサンオリゴ糖結合色素は、ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンとキトサンオリゴ糖との結合反応により得られる色素であることが重要である。例えば、特開昭62−297365号公報では、色素にキトサンを添加する色素等の安定化法が報告されている。ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンとアミノ基を有する化合物との結合反応は、シッフ塩基の形成を介しており、中性付近〜アルカリ性で反応が進行し、酸性では進行しない(非特許文献2;Journal of Industrial Microbiology, Vol. 16,pp. 163-170(1996))。本引例(特開昭62−297365号公報)ではキトサンを希酸性溶液に溶解して、市販紅麹色素に添加しており結合反応は進行していない。また、市販の水溶性紅麹色素は、ルブロパンクタチンとモナスコルブリンは、ほとんどの場合、既にアミノ基を有する化合物と結合しており、結合反応は不可逆反応であるため、ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンの含有量は少ない。従って、市販紅麹色素にキトサンを添加しても、キトサン結合色素は形成されず、市販されている紅麹色素等にキトサンオリゴ糖を添加したもの(結合せず共存しているもの)と本発明の紅麹色素にキトサンオリゴ糖を結合したものとは異なるものである。
本発明の赤色色素組成物は、食品の着色料や印刷用インク材料をはじめ、あらゆる用途で利用できる。
次に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0023】
製造例1
(ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンを含む色素組成物の調製)
YM培地(グルコース1重量%、酵母エキス(Difco Laboratories, Inc.製)0.3重量%、麦芽エキス(Difco Laboratories, Inc.製)0.3重量%、バクトペプトン(Difco Laboratories, Inc.製)0.5重量%)をpH6.5に調整した後、1Lを5L坂口フラスコに入れ、120℃で20分間加圧滅菌を行った。冷却後、YM寒天培地で斜面培養した紅麹菌〔モナスカス・パープレウス(NBRC4478)〕を一白金耳接種し、30℃で2日間振とう培養を行い、種菌液を得た。
一方、1Lガラスジャーに、上記と同じYM培地450mlを入れ、120℃で20分間加圧滅菌を行った。冷却後、上記種菌液を10%(v/v)植菌した。pH調整剤として酢酸を使用し、培養開始時から培養液のpHを4.0に保ちながら、30℃で7日間通気撹拌培養を行った。本培養終了後、培養液を遠心分離機にかけて(9000rpm、10分)、上澄み液と菌体に分離し色素含有湿菌体を得た。凍結乾燥して水分量を求めたところ、75.6重量%であった。
得られた湿菌体400gに酢酸エチル10Lを加え、1時間撹拌した後、ろ紙でろ液と菌体に分離した。ろ液から水層を除去して酢酸エチル層を得た。この酢酸エチル層に等量の水を加え、2回洗浄した。洗浄後の酢酸エチル抽出液を濃縮乾固し、ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンを含む赤橙色色素を得た。
【0024】
製造例2
(ルブロパンクタチン及びモナスコルブリンの調製)
製造例1で調製した色素組成物を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、400nmの検出波長で、主に4つのピークが検出された。このうち、保持時間7.1分および11.6分のピークを分取精製し、可視および紫外吸収スペクトル、質量分析、NMR測定を行い、それぞれ、ルブロパンクタチン、モナスコルブリンであると同定した。高速液体クロマトグラフィーの分析条件は下記のとおりである。
カラム:CAPCELL Pak C18 UG120、φ4.6mm×250mm(資生堂(株)製)
移動相:水/アセトニトリル(30/70)
流速:1ml/分
温度:室温
検出:400nm
【0025】
実施例1
キトサンダイマー(生化学工業株式会社製)を3.4mg/mlとなるように水に溶解した。この水溶液をpH7に調整したのち、製造例2で調製したルブロパンクタチンを240μg/mlの濃度でメタノールに溶解したものと1:1で混合した。室温で撹拌しながら一晩反応させた。反応液の色は、橙色から濃赤色へと変化した。作成例2に示す高速液体クロマトグラフィーの分析条件で分析を行ったところ、ルブロパンクタチンのピークは検出されなかった。製造例2の高速液体クロマトグラフィーの分析条件のうち移動相の組成を0.05%TFA/0.05%TFA含有アセトニトリル(70/30)に変更し、500nmで検出したところ、主なピークは3つ検出された。これらピークの分子量をLC−MSで測定したところ、3つのピークの分子量はすべて676であり、ルブロパンクタチン(分子量354)とキトサンダイマーの分子量(分子量340)の和から水の分子量の18をひいた数に等しく、一般式(11)に示される構造であることが推定された。
【化16】

【0026】
実施例2
キトサンテトラマー(生化学工業株式会社製)を3.2mg/mlとなるように水に溶解した。実施例1と同様にしてルブロパンクタチンと反応させた。反応液の色は橙色から濃赤色へと変化した。高速液体クロマトグラフィーでルブロパンクタチンの分析を行ったが、ピークは検出されなかった。作成例2の高速液体クロマトグラフィーの分析条件のうち移動相の組成を0.05%TFA/0.05%TFA含有アセトニトリル(70/30)に変更し、500nmで検出したところ、主なピークは4つ検出され、LC−MSで分子量を測定したところ、4つのピークの分子量はすべて998であり、ルブロパンクタチン(分子量354)とキトサンテトラマーの分子量(分子量662)の和から水の分子量の18をひいた数に等しく、一般式(12)に示される構造であることが推定された。
【化17】

【0027】
実施例3
グルコサミン、キトサンダイマー、キトサンテトラマー、キトサンヘキサマー(生化学工業株式会社製)を、グルコサミン換算で16mMの濃度で水に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7に調整した。比較として、グルタミン酸1ナトリウムの16mM水溶液も調整した。これらの溶液と、製造例2で調製したモナスコルブリンの240μg/mlメタノール溶液とを1:1で混合し、室温で撹拌しながら一晩反応させた。いずれの反応液も、橙色から濃赤色へと変化した。製造例2に示す高速液体クロマトグラフィーの分析条件で分析を行ったところ、いずれの反応液からもモナスコルブリンのピークは検出されず、色素はグルコサミンまたはキトサンオリゴ糖結合色素及びグルタミン酸結合色素に変化していると推定された。この溶液の溶媒を遠心濃縮機で乾固し、水を加え、10分の1希釈液の500nm吸光度が0.55となるように濃度を調整した。pH7に調整後、ねじ口ガラス瓶に入れ、60℃で15時間、暗所で保存した。保存前後の500nm吸光度を測定し、保存前の吸光度に対する保存後の吸光度の割合を残存率(%)とし、安定性を比較した。その結果、表1に示すようにグルタミン酸結合色素、グルコサミン結合色素に比較しキトサンオリゴ糖結合色素の水溶液中での安定性は高く、グルコサミンの重合度が高いほど安定性が高いことがわかった。
【表1】

【0028】
実施例4
「オリゴグルコサミン」(商品名、甲陽ケミカル株式会社製)を34.4mg/mlの濃度で水に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7に調整した。この溶液608mlに、製造例1で培養、調製した色素含有湿菌体を24g添加し、次にエタノールを608ml添加した。この溶液を、室温で撹拌しながら一晩反応させた。溶液の色は、橙色から濃赤色へと変化した。反応液をろ紙((有)桐山製作所製 No.5B)でろ過し、菌体をとりのぞき、そのろ液をエバポレーターでエタノールを除去した。この液を再度、ろ過して水不溶成分を取り除いた後、ろ液を凍結乾燥することにより赤色色素粉末21.7gを調製した。色素粉末を20mg/mlの濃度で50%エタノールに溶解し、製造例2に示す高速液体クロマトグラフィーの分析条件で分析を行ったところ、ルブロパンクタチン、モナスコルブリンのピークは検出されず、色素はキトサンオリゴ糖結合色素を主成分とする色素に変化していると推定された。
調製したキトサンオリゴ糖結合色素粉末を100mg/mlの濃度で水に溶解し、pHを7に調整後、500nm吸光度を測定した。一方、市販の紅麹色素(「ベニコウジ色素」、関東化学株式会社製)を、キトサンオリゴ糖結合色素と吸光度が等しくなるように水に溶解し、pHを7に調整した。これら溶液を、それぞれねじ口ガラス瓶に入れ、40℃、暗所で保存した。保存前後の500nm吸光度を測定し、保存前の吸光度に対する保存後の吸光度の割合を残存率(%)とし、安定性を比較した。その結果、図1に示すようにキトサンオリゴ糖結合色素は、市販の紅麹色素よりも水溶液中で安定であった。
【0029】
実施例5
キトサン(「コーヨーキトサンDAC−100」、甲陽ケミカル株式会社製)、キトサンオリゴ糖(「オリゴグルコサミン」、甲陽ケミカル株式会社製)を、それぞれ2mg/mlの濃度で0.05M酢酸水溶液に溶解した。キトサン/酢酸水溶液、キトサンオリゴ糖/酢酸水溶液、0.05M酢酸水溶液に、市販の紅麹色素(「ベニコウジ色素」、関東化学株式会社製)を2mg/ml添加し、撹拌後、遠心分離により沈殿を取り除き、3分の1希釈液の500nmでの吸光度が0.6になるように0.05M酢酸を用いて調整した(溶液A、B、及びC)。一方、実施例4で調製したキトサンオリゴ糖結合色素は、0.05M酢酸に溶解し、濃度は前述の吸光度と等しくなるように調整した(溶液D)。キトサンは水に溶解しないため、酢酸溶液に溶解したキトサンを用いて実施例4の方法でキトサン結合色素の調製を試みたが、反応は進行せず水溶性結合色素は得られなかった。これらの色素液の組成をまとめると表2のようになり、紅麹色素の状態は、溶液Aは紅麹色素とキトサンが共存している状態、溶液Bは紅麹色素とキトサンオリゴ糖が共存している状態、溶液Cは紅麹色素のみの状態、溶液Dは紅麹色素とキトサンオリゴ糖が結合している状態を示している。
【0030】
【表2】

【0031】
表2示す溶液A〜Dを、ねじ口瓶に入れ、40℃で15時間、暗所で保存した。保存前後の500nm吸光度を測定し、保存前の吸光度に対する保存後の吸光度の割合を残存率(%)とし、安定性を比較した。その結果、図2に示すように、紅麹色素は、キトサンやキトサンオリゴ糖を添加し共存している状態では顕著な安定化効果は見られなかったが、キトサンオリゴ糖と結合させることにより安定化効果が顕著に見られた。
【0032】
実施例6
実施例4で調製したキトサンオリゴ糖結合色素、市販の紅麹色素(「ベニコウジ色素」、関東化学株式会社製)を20mg/mlの濃度で水に溶解し、pHを7に調整した。この溶液をガラス瓶に入れ、25℃で2800ルクスの蛍光灯下に3日間静置し、光を照射した。同様のサンプルを、暗所にも静置した。保存前後の500nm吸光度を測定し、光照射の残存率、暗所での残存率をそれぞれもとめ、E値(%)を(光照射サンプルの残存率/暗所サンプルの残存率)×100としてもとめ、光に対する安定性の指標として比較した。その結果、E値(%)は、キトサンオリゴ糖結合色素で56.0%、市販紅麹色素で41.5%であり、キトサンオリゴ糖結合色素は、通常の紅麹色素に比して、光照射に対する安定性が高いことがわかった。
以上記載したごとく、本発明によれば、キトサンオリゴ糖とルブロパンクタチン及びモナスコルブリンを結合させることにより、従来の紅麹色素にくらべ水溶液中での安定性、耐光性に優れた紅麹色素を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例4における色素溶液の安定性の結果を示すグラフである。
【図2】実施例5における色素溶液の安定性の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物
【化1】

(式中、nは0から8までの整数、Xは下記一般式(2)で示される残基またはアミノ基のいずれかであり、少なくとも1の下記一般式(2)で示される残基を含む)
【化2】

(式中、RはC11又はC15
【請求項2】
下記一般式(3)で示される化合物
【化3】

(式中、nは0から8までの整数、Xはいずれか1つが下記一般式(2)で示される残基であり、他はアミノ基である)
【化4】

(式中、RはC11又はC15
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物を含有する水溶性組成物。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物を有効成分とするキトサンオリゴ糖結合色素。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれか記載の化合物の1又は2以上の混合物と、インク用溶媒とを含有してなる、色素組成物。
【請求項6】
下記一般式(4)で示されるキトサンオリゴ糖と、下記一般式(5)で示される化合物とを、pH6〜pH10の条件下で反応式(6)に示すアミノ基交換反応に供して、キトサンオリゴ糖のうち、少なくとも1構成糖が有するアミノ基の窒素原子と、下記一般式(5)で示される化合物中のピラン環の酸素原子とを置換させる工程を少なくとも含む、請求項1または2記載の化合物の製造方法
【化5】

(式中、nは0から8までの整数)
【化6】

(式中、RはR=C5H11又はR=C7H15

【化7】

(式中、RはC5H11又はC7H15を示し、R’ はキトサンオリゴ糖のいずれかのアミノ基を除く側鎖部分である)
【請求項7】
前記一般式(5)で示される化合物が、モナスカス属に属し、紅麹色素生産能を有する微生物により生産される請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(5)で示される化合物が、酸性条件下にて酢酸をフィードしつつ培養したモナスカス属に属し、紅麹色素産生能を有する微生物の培養物から採取されたものである請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(5)で示される化合物が、酸性条件下にて酢酸をフィードしつつ培養したモナスカス属に属し、紅麹色素産生能を有する微生物の培養物の色素含有湿菌体として反応に供されるものである、請求項6又は7記載の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63464(P2007−63464A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253432(P2005−253432)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】