説明

純水流出口の殺菌方法

【課題】純水処理装置に連通する純水流出口を、短時間に確実に殺菌する方法を提供する。
【解決手段】純水処理装置に連通する純水の流出口、特に流出口先端部および開閉バルブを含む純水の流出口に、100〜400℃のスチームを吹きかける。電解質、有機物の溶解量、微粒子数なども同時に管理される純水の場合には、スチーム発生に用いられる水も相当する高品質の水を用いる。流出口は、純水中に生息する細菌捕集用フィルターの取付口であることもでき、本発明の方法で流出口を殺菌した後、細菌捕集用フィルターを取付け、一定量の純水を流してフィルター上に細菌類を付着させ、培養して細菌数を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水処理装置に連通する純水流出口の殺菌方法である。
【背景技術】
【0002】
電子工業、医薬品製造、食品工業、病院、研究施設などで用いられる純水では、純水中の各種イオン濃度、微粒子数とともに、細菌類の数〔以下、単に「細菌数」と記す。〕も基準値以下であることが要求される。特に医薬品製造、食品工業、病院などの使用では、細菌数の管理は最も重要な項目となっている。細菌類は、純水の製造、貯蔵、供給など純水処理装置のどこかで侵入すると時間の経過とともに系内で繁殖することから、純水処理装置内で細菌数が常に基準値以下であることが監視されなければならない。しかし、細菌類では計測器により細菌数を自動的に測定して、表示されることが難しく、従って水の一部を採取して別途培養により細菌数を測定するのが普通である。
【0003】
純水処理装置から純水を取出すとき、あるいは純水中の細菌数測定に用いる試料水の採取は、純水が流れる配管の一部に設置された流出口から行われるが、純水の殺菌装置及び純水配管がたとえ無菌に保たれていても、純水の流出口が周囲の細菌により汚染されていれば取出される純水も細菌で汚染されることになる。従って、純水を取出す前に流出口先端部および開閉バルブを含む流出口は生きた細菌がないことが重要である。特に純水中の細菌数測定では、測定値の正確さに関わる問題である。そこで、流出口およびその周辺における細菌類を死滅させるために、流出口をヒーターで加熱する方法、流出口を熱水中に浸漬する方法〔図1参照〕、流出口に熱水をかける方法〔図2参照〕などが行われている。しかし、ヒーターによる加熱は温度を充分高く設定すれば殺菌の目的は達せられるが、ヒーターを設備する煩わしさと、流出口に塵埃を発生させる要因を作ってしまい純水中の固形分上昇といった別の問題が生じてくる。また流出口を熱水中に浸漬する方法は、流出口が配管より下に突出しているなど流出口の形体に限られ、流出口に熱水をかける方法は、熱水との接触が充分でなく、殺菌不充分な場所が生じたり、これによる付着する細菌類が死滅するに充分な加熱が確保され難いことがあり、さらに熱水が飛び跳ねることによる火傷の危険性がある。
【0004】
そこで、流出口付近での殺菌を完全にすべく紫外光を利用して蛇口の内外面を殺菌し、又蛇口付近に外部の空気が自由に乱入しないカバーを取付ける方法〔特許文献1参照〕、流出口付近を石英、フッ素樹脂など紫外線透過率のよい材料で2重管を作り、外側管と内側管との間に流路を構成して、内側管の内部に紫外線ランプを挿入して流出口の内、外側共に紫外線殺菌する方法〔特許文献2参照〕などの提案がなされている。
【0005】
【特許文献1】特開平06−320153号公報
【特許文献2】特開平08−066677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明の目的は純水処理装置に連通する純水流出口を、短時間に確実に殺菌する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明の純水流出口の殺菌方法は、純水処理装置に連通する純水の流出口、特に流出口先端部および開閉バルブを含む純水の流出口に、100〜400℃のスチームを吹きかけることにある。この流出口は、純水中に生息する細菌捕集用フィルターを取付口であることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、純水処理装置の流出口に付着する細菌類が短時間で完全に死滅され、外部からの細菌類に汚染されずに純水を採取できる。特に純水中の細菌数測定に際して有効である。さらに、スチームは、熱水の取り扱いに比べれば火傷など不測の事故が起こり難く、流出口に特別の装置組み込みも不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、純水処理装置に連通する純水の流出口における殺菌方法であり、その実施の形態の概念図を図3に示す。ここで、純水処理装置とは、純水を製造、貯蔵、供給装置など純水を扱う装置全般、さらにこれらの装置周辺の配管を包含している。流出口は、上記の純水処理装置から純水を取出すための口であり、少なくとも流出口先端部、開閉バルブおよびその周辺の配管を包含する部分である。流出口先端部、開閉バルブおよびその周辺配管の材料は、本発明では特に限定するものではないが、本発明においてスチームが吹きかけられることを考慮すれば、用いられるスチームの温度に耐えられるものである必要があり、通常ステンレス鋼など鉄系金属、あるいはプラスチックである。
【0010】
本発明の殺菌方法は、細菌数レベルに関係なく如何なる水に対しても使用し得るが、通常、細菌数が1個/L以下の純水がその対象となる。細菌数以外の水質は特に限定されるものではない。
【0011】
本発明の殺菌方法は、純水処理装置からの流出口に100〜400℃のスチームを吹きかけることにある。100℃は大気圧下水の飽和蒸気沸点であり、100℃以上のスチームは、ボイラなど密閉容器下で水を加熱してできる高温・高圧スチーム、または常圧のスチームをヒーターなどで加熱した高温・常圧スチームである。スチーム温度は400℃を超えてもよいが、高温スチームの取扱いの煩雑さがあり、さらに殺菌の目的には必要以上の高温である。細菌数のみが管理される場合、スチーム発生により殺菌されるので純水を発生させる原水は如何なる水であってもよいが、電解質、有機物の溶解量、微粒子数なども同時に管理される場合にはスチーム発生に用いられる水も相当する高品質の水を用いる必要がある。スチームを吹きかける時間は、スチームの温度、量に依り一律に決められるものではないが、通常1分以上、好ましくは2〜10分、さらに好ましくは3〜5分である。スチーム吐出圧力は、純水処理装置の流出口が破壊されない範囲、取り扱いができる範囲で限定されない。スチームとの接触により開閉バルブおよびその周辺の配管に付着していた細菌類は完全に死滅させることができる。
【0012】
本発明の殺菌方法は、純水中に生息する細菌数測定における試料のサンプリングの際に有用であり、本発明の方法で殺菌した流出口を、細菌数測定のための細菌捕集用フィルター取付け口とすることで、純水中の細菌数を正確に測定することができる。
【0013】
以下に本発明方法により純水処理装置に連通する純水の流出口を殺菌し、ここに細菌捕集用フィルター取付けて行う細菌数測定について述べる。
純水は本来細菌数が極めて少ないものであるから、単純に純水を採取して細菌数を測定できない。そこで、流出口に細菌数測定のためのフィルターを設置し、対象とする純水の一定量をフィルターに流して、フィルター上に細菌類を付着させる。フィルターは、細菌類が捕集されるものであり通常孔径が0.45μm以下のものが選ばれ、フィルターホルダーで固定される。次いで、そのフィルター上の細菌数を培養により測定し、フィルターに流した純水量に対しての細菌数とされる。〔JIS K0550参照〕
【0014】
細菌の培養方法は、例えば標準液体培地、M−TGE液体培地を用い、培地上に純水を通過させたフィルターを置いて、30℃〜40℃、好ましくは30℃〜35℃で24時間以上培養し、フィルター上に形成されたコロニーの数を計数する。
【0015】
細菌の培養と計数は、外部からの細菌類が混入されないことが重要であるのはいうまでもなく、通常クリーンルーム内の細菌数測定専用の無菌ベンチで実施される。
【実施例】
【0016】
〔試験装置〕
図3にあるような純水配管から水平方向に分岐した配管に、開閉バルブがある流出口を設け、流出口の先端にフィルターを設置した。
【0017】
〔試験方法〕
実施例;クリーンルーム中で、細菌数が10個/mL程度の水で開閉バルブおよび流出口先端部を故意に汚染させた。開閉バルブ、流出口、さらに流出口より直接バルブ内部に向けてボイラーから140℃、吐出圧力0.25MPaのスチームを吹きかけて殺菌し、次いで、流出口先端にフィルターを取付け、純水配管からの純水を10L流した。フィルターを取出し、M−TGE培地に載せ、30℃にて48時間培養して細菌のコロニーから純水中の細菌数を測定した。
比較例;上記実施例と同様にして故意に開閉バルブおよび流出口先端部を汚染させ、90℃の水を開閉バルブおよび流出口先端部の上から注いで殺菌し、実施例と同様にフィルターを取付け、純水を10Lを流した後、フィルターを取出し、培養して細菌のコロニーから細菌数を測定した。
【0018】
〔結果〕
結果を表1に示す。
【表1】

この結果から、スチームにより短時間にて確実に殺菌できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の方法により、簡単な操作で外部からの細菌類に汚染されずに純水処理装置から純水が採取され、純水中の細菌数測定に際しては細菌汚染のない試料を得ることができる。さらに、火傷など不測の事故が起こり難い取扱いであり、大きな特別の装置組み込みも不要である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の流出口を熱水中に浸漬する方法のイメージ図である。
【図2】従来の流出口に熱水をかける方法のイメージ図である。
【図3】純水配管から水平方向に分岐した配管に開閉バルブがある流出口を設けた状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
1:純水流出口
2:流出口先端部
3:開閉バルブ
4:(分岐)配管
5:(本管内の)純水の流れ
10:ボイラ
11:スチーム噴射ノズル
12:スチーム
13:ビーカー
14:熱純水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水処理装置に連通する純水の流出口に、100〜400℃のスチームを吹きかけることを特徴とする純水流出口の殺菌方法。
【請求項2】
前記流出口が、流出口先端部および開閉バルブを含むことを特徴とする請求項1記載の純水流出口の殺菌方法。
【請求項3】
前記流出口が、前記純水中に生息する細菌数測定のための細菌捕集用フィルターの取付口であることを特徴とする請求項1記載の純水流出口の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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