説明

紙の製造方法及び該方法により得られた製品

本発明はナノ構造紙又はボードの製造方法及び新規な紙又はボードに関する。本方法は、ナノセルロース含有材料の液体懸濁液を供給するステップ、前記懸濁液からウェブを形成するステップ、及び紙又はボードを形成するために前記ウェブを乾燥するステップを備える。本発明によれば、前記ウェブが形成される前記懸濁液の水含有量は50液体重量%以下とする。本発明によれば、紙製造のエネルギー消費を著しく低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙に関する。特に、本発明は紙又はボードを製造する新規な方法及び該方法により得られる製品に関する。一般に、このような方法では、紙又はボードを形成するためにセルロース含有材料の液体懸濁液を用意し、懸濁液からウェブを形成し、ウェブを乾燥させる。
【背景技術】
【0002】
200年以上に亘り、通常の製紙プロセスは木質繊維の水性懸濁液のろ過プロセスに基づいている。最終紙構造に光学的不均質を生じる大きなフロキュレーション(凝集)傾向のために、典型的には約0.5−2(重量)%の低コンシステンシーの木質繊維が完成紙料(furnish)に使用されている。ろ過及びプレス後のウェブ構造は典型的には約50(重量)%の水を含み、プロセスの乾燥セクションで蒸発させなければならないので、生産エネルギーの大部分は乾燥プロセスにより消費される。
【0003】
紙状製品は非セルロース原料(例えばViaStone又はFiberStone)からも製造されている。このような製品は、例えば80%の炭酸カルシウムと20%の合成ポリマ樹脂とで構成し得る。このような材料によれば、使用水量を低減することができ、また使用しないことさえできる。
【0004】
所定の用途においては、原料として木質繊維の代わりにナノセルロースが使用されている。これは新しい製品及び新しい製紙プロセスの誕生を可能にしている。
【0005】
非特許文献1は、セルロースナノフィブリル網からなる多孔性紙を開示している。この紙の調製はナノフィブリル−水懸濁液から始まり、その水はセルロースナノフィブリル網を形成するために除去される。最初に、0.2(重量)%の撹拌水懸濁液がフィルタトンネル内で真空ろ過される。得られた湿潤フィルムは加熱及び加圧下で乾燥される。製品の気孔率は乾燥前に溶媒としての水をメタノール、エタノール又はアセトンと交換することによって増大される。
【0006】
特許文献1は、マイクロフィブリル化されたセルロースを含有する透明又は半透明の高多孔性ナノ織物を開示している。この織物は、上記の非特許文献1と同様のプロセスによって、マイクロフィブリル化されたセルロースの水性懸濁液からウェブを形成し、水溶媒を有機溶媒と交換し、乾燥することにより得ることができる。いくつかの例では、ウェブ形成前の水性懸濁液のコンシステンシーは0.1(重量)%である。上述した両方法とも、従来の製紙に使用されるセルロース(木質繊維)よりも寸法が小さいナノセルロースファイバを使用する。ナノセルロースファイバから製造されるシートは高い靭性及び強度を有することが報告されている。しかし、これらのシートは、それらの透明性及び/又は多孔性のために、例えば印刷用には極めて不適切である。
【0007】
更に、ナノセルロースから紙、ボード又は類似製品を製造する有効な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Henrikson et al,”Cellulose Nanopaper Structure of High Toughness”, Biomacromolecules, 2008, 9(6), 1579-1585
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0207692号
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、ナノセルロース含有製品を製造する新規な方法及び低使用水量で製造することができる新規なナノセルロース含有紙、ボード又は紙又はボード状製品(簡単にするために以後「紙」という)を提供することにある。
【0011】
更に、本発明の目的は、製紙の消費エネルギーを低減する方法を達成することにある。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、非水性懸濁液から直接ウェブを形成し、ウェブを乾燥させることによって紙を製造する方法が提供される。懸濁液のコンシステンシーは0.5−90(重量)%、特に1−50(重量)%、好ましくは少なくとも3(重量)%とすることができる。非水性懸濁液は少なくとも50(重量)%の有機溶媒を含む。液体の量の低減に加えて、このような溶媒の気化熱は典型的には水の気化熱より低いためにエネルギー節約も達成される。
【0013】
本発明者達は、小さい粒径のために、ナノファイバのフロキュレーションは最終ウェブ構造の光学的均一性に関して殆ど無視できることを確かめた。これは、より高いコンシステンシーを有する懸濁液の使用を可能にし、高コンシステンシーウェブの形成を可能にする。懸濁液のコンシステンシーは0.5−90(重量)%とすることができる。従来の木質繊維と比較してナノセルロースの使用の別の利点は、形成されるファイバウェブの接触点の莫大な増大であり、これにより非水性懸濁液の使用が可能になる。木質繊維は、ファイバ相互作用の低減のために、典型的な非水性(例えばアルコール)懸濁液からの同程度の機械的に安定な紙構造を形成しない。対照的に、機械的に安定で多孔性で高度に不透明な紙状ウェブ構造はセルロースナノファイバから形成することができる。低い気化エネルギーのために、アルコール懸濁液からのナノセルロースウェブ構造の乾燥は、水ベースのウェブ形成プロセスに比較して遥かにエネルギー効率が高い。遥かに多数の結合部位のために、木質繊維に比較して同じ量のナノセルロースを用いて遥かに高い気孔率及び機械的安定性も達成でき、これにより使用原料の低減及びフィラー粒子の含量の増大が可能になる。
【0014】
本発明者達は、高い比表面積を有するセルロース粒子は非水性系(例えばエタノール懸濁液)から機械的に安定な(紙のような)シート状構造を形成することも確かめた。これは、遥かに大きいわりに遥かに小さい表面積のためによく団結しない結果接触面積が小さい木質繊維を用いる非水生懸濁液からなる従来のシートと比較して大きな進歩である。
【0015】
従来の製紙プロセスに比較して、上記の新しい製紙プロセスの潜在能力は、約100%の節水、60%のエネルギー節約、及び30−50%の原料節約をもたらす。
【0016】
好適な実施形態によれば、製品の平均ポア(細孔)サイズは200−400nmである。他の実施形態によれば、紙又はボードのポアの体積の少なくとも30%が200−400nmのサイズを有するポアに含まれる。これにより、可視光のすべての波長において高い不透明度が達成される。
【0017】
更に、紙又はボードが非水生懸濁液から乾燥されるとき、85%以上の不透明度、特に90%以上及び場合によっては95%以上の不透明度を有する製品を不透明剤の添加なしで生産することができる。換言すれば、ウェブはナノセルロースファイバに富む非水生マスから乾燥される。懸濁液は典型的には少なくとも50(重量)%、特に少なくとも75(重量)%、好ましくは95(重量)%のアルコールなどの有機溶媒を含む。本発明者達は、このような懸濁液は高い不透明度の達成に大きく寄与すること、ファイバ相互作用のスクリーニングが起こること及び毛管力が乾燥プロセス中に大幅に減少することを確かめた。従って、可視光の波長(400−800nm)の約半分である200−400nmの範囲内のポア構造を達成することができる。100nm以下及び800nm以上のポアは光を効果的に散乱しないが、可視光の波長の半分のこのポアサイズ範囲における光の散乱はまさに最適である。対照的に、水ベースのナノセルロース紙は緻密であるため、後に実験で示すように、不透明ではなく透明である。他方、既知のナノセルロースシートは多孔性で透明すぎるため、例えば印刷用の紙の代わりに使用することができない。
【0018】
本発明の別の態様によれば、ナノセルロースファイバの網と、添加物として補強用マクロファイバ及び無機フィラーを含む新規な紙が提供される。
【0019】
一実施形態によれば、高コンシステンシーの非水生懸濁液又は形成される紙は、10−90(固体重量)%、特に25−75(固体重量)%の添加物、例えばマクロファイバ(ナノファイバと対照的に)及び/又はフィラーを含む。マクロファイバは好ましくは有機マクロファイバ、例えば通常の製紙に使用される木質繊維である。マクロファイバは著しい補強効果を紙に与えることが確かめられている。フィラーは好ましくは有機(例えばセルロース性)フィラー又は顔料、特に無機顔料などの無機フィラーである。
【0020】
製品の不透明度は少なくとも85%、特に少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%である。
【0021】
一実施形態によれば、有機マクロファイバの量は1−30(固体重量)%、特に1−10(固体重量)%である。
【0022】
一実施形態によれば、フィラーの量は10−75(固体重量)%、特に25−75(固体重量)%である。
【0023】
一実施形態によれば、懸濁液は疎水化剤、例えばサイズ剤を含む。この疎水化剤の量は、例えば0.1−5重量%とし得る。例えば、アルケニル無水コハク酸(ASA)を特に1−3重量%の量で疎水化剤として使用することができる。疎水化剤の一つの目的は、水素結合によるファイバ相互作用のシールディング及び最終製品の気孔率及び/又はバルク(比体積)の調整にある。疎水化剤の別の目的は、湿潤性向上のために疎水性/親油性相互作用を調整することにあり、これは印刷用に重要である。
【0024】
有機溶媒ベースの懸濁液は製紙に使用される殆どの他の通常の添加物とコンパチブルでもある。
【0025】
好適な実施形態によれば、製品の気孔率は10−50%の範囲内であり、これは前記特許文献1で達成される気孔率より著しく小さく、その製品を例えば印刷用に使用することが可能になる。
【0026】
一般に、本発明による紙又はボードの製造プロセスは、
非水性懸濁液をコンテナから、非水性懸濁液からウェブを形成する手段へ運搬するステップ、
形成したウェブを溶媒除去のために乾燥ゾーンへ運搬するステップ、
乾燥したウェブを貯蔵のために前記乾燥ゾーンから外へ導出するステップ、及び
溶媒を前記乾燥ゾーンで捕集(例えば濃縮)し、回収する又は循環させてプロセスに戻す随意のステップ、
を備える。
【0027】
得られる紙の坪量は好ましくは30−160g/m及び得られるボードの坪量は好ましくは120−500g/mである。
【0028】
定義
本明細書において、用語「ナノセルロース」は、10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下の (重量に基づく) 平均直径を有する任意のセルロースファイバをいう。「セルロースファイバ」は、上記の寸法区分に含まれる高いアスペクト比(好ましくは100以上、特に1000以上)を有する任意のセルロース主体とすることができる。これらは、例えば微細セルロースファイバ、マイクロフィブリル化セルロース(MFC)ファイバ及びセルロースナノファイバ(NFC)としばしば呼ばれる製品を含む。このようなセルロースは高い比表面積を有し、最終製品内に高いファイバ間接触面積をもたらす点で共通する。用語「ナノセルロースベース」紙又はボードは、紙又はボードのバックボーンを形成するように互いに結合されたナノセルロースファイバの連続網を備えるものを意味する。
【0029】
用語「マクロファイバ」(「木質繊維」)は製紙に使用される通常の(木起源の)セルロースファイバで、上記のナノセルロースの直径範囲から外れるものをいう。
【0030】
用語「非水性懸濁液」は、水の含有量が懸濁液の全液相の重量比で0.01−50%、典型的には0.01−20%、特に0.01−5%であるものをいう。従って、この懸濁液の液相の大部分は水以外の液体、例えばアルコールである。実際には、すべて技術的品質の有機溶媒、例えばアルコール内に少量の水が含有される。これは、実際上、ナノファイバの水素結合のために少量の水が必要とされるために必要である。しかし、1(重量)%より著しく低い水含有量でも十分である。
【0031】
懸濁液の「高コンシステンシー」とは通常の製紙のセルロース懸濁液より著しく高いコンシステンシー、特に5(重量)%以上のコンシステンシーを意味する。液体除去の必要性の低減及び走行性の増大のために高コンシステンシーの懸濁液が好ましいが、本発明は一般に低コンシステンシーの懸濁液にも適用することができる。好ましいコンシステンシー範囲は約0.05−90(重量)%、特に約1−50(重量)%である。
【0032】
用語「フィラー」は、ナノセルロース含有ウェブのポアに結合できるすべての非繊維性の原料を含む。特に、このような材料は、無機及び/又はポリマ顔料などの顔料、光沢剤及び結合剤を含む。顔料の例には、石膏、ケイ酸塩、タルク、プラスチック顔料粒子、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、地中に沈殿した炭酸カルシウム、ベントナイト、アルミナ三水和物、二酸化チタン、フィロケイ酸塩、合成シリカ粒子、有機顔料粒子及びそれらの混合物からなる群から選ばれる粒子がある。
【0033】
次に、本発明の実施形態及び利点を添付図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による製造装置を概略的に示す。
【図2】模範的なエタノール懸濁液ベースのナノセルロース紙、通常のコピー紙及び水性懸濁液ベースのナノセルロース紙の測定された特性を示す。
【図3a】非水性懸濁液から製造された紙シートのポアサイズ分布を示す。
【図3b】水性懸濁液から製造された紙シートのポアサイズ分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、ナノセルロースに基づく無水製紙プロセス及び該プロセスにより製造されるシート状製品を記載する。用語「無水」は水ベースでない(例えば、バイオエタノールのような炭化水素を含む)セルロース懸濁液についていう。典型的には技術的品質のアルコールの場合であるので、少量の水が依然として存在し得る。液相のセルロース懸濁液の水含有量は50(重量)%未満、好ましくは5(重量)%未満にしなければならない。
【0036】
一実施形態によれば、溶媒の相対誘電率は少なくとも10である(例えばエタノール:24)。
【0037】
プロセスは非水ベース懸濁液の使用により特徴付けられ、0.5−90(重量)%、好ましくは1−50(重量)%、典型的には3−20(重量)%の中程度から高程度のコンシステンシーの懸濁液を使用できる。ウェブ形成プロセスの初期における高コンシステンシーの懸濁液は溶媒除去/循環の必要性、ひいてはエネルギー消費を最小にする。従って、高コンシステンシーの有機溶剤ベースの形成は大きな好ましい経済的及び環境的効果を有する。通常の木質繊維ベースの製紙では、高コンシステンシーの形成は特別な高コンシステンシー形成装置を必要とし、通常の低コンシステンシー形成の場合と異なる操作原理を有する。有機溶媒は懸濁液のレオロジーに大きな影響を与え、製紙工場において通常の形成技術のコンシステンシー範囲を広げる。
【0038】
本発明で使用されるナノセルロースの比表面積は、好ましくは少なくとも15m/g、特に少なくとも30m/gである。セルロースファイバは、任意のセルロース含有原料、例えば木材及び/又は植物から調製することができる。特に、セルロースは、いくつかの例を挙げるだけとすれば、パイン、トウヒ、綿、甜菜、稲わら、海草又は竹から得られる。更に、部分的に又は完全にバクテリアプロセスにより生成されたナノセルロース(バクテリアセルロース)を使用することもできる。
【0039】
ナノセルロースの製造に関して、例えばUS2007/0207692、WO2007/91942、JP2004/204380及びUS7381294に開示されているそれ自体既知の方法を参照されたい。このような方法により得られる水性懸濁液は、溶媒交換によって本発明が意味する非水性懸濁液に変換することができる。しかし、例えば乾燥パルプのエタノール懸濁液を粉砕することによってナノセルロースのアルコール懸濁液を直接生成することもできる。
【0040】
ウェブ形成プロセスは、非水性懸濁液のろ過、例えば多孔性支持体上での真空ろ過によって、又は非多孔性支持体上でのウェットウェブ構造の乾燥、例えばベルト乾燥によって、又はこれらの方法の組み合わせによって実行することができる。
【0041】
ウェブの乾燥は、熱エネルギー、例えばIR照射を用いることによって、又はウェットウェブ構造内に熱エネルギーを発生させることによって、例えばマイクロ波乾燥によって実行することができる。好ましい乾燥プロセスとしてのベルト乾燥は原料及び添加物の100%保存が可能で、製品性能又は生産性を高めることができる。異なる乾燥技術の組み合わせ又は縦続配置も使用できる。
【0042】
溶媒の濃縮及び循環、及び多層構造の形成のための予成形シートのカレンダリング又はウェッティングなどの他の可能なプロセスを含めることができる。
【0043】
有機溶媒は水より遥かに高価であるので、除去した溶媒の回収又は循環は好ましいオプションである。
【0044】
図1は本発明の一実施形態による製造プロセスを概略的に示す。このプロセスにおいて、非水性懸濁液は懸濁液コンテナ11から高コンシステンシー(>1%)ウェブの形成装置12に搬送される。形成されたウェブ13はベルトコンベヤ14により、乾燥器16及び溶媒濃縮器17を含む乾燥ゾーン15を通して搬送される。乾燥されたウェブは貯蔵のために乾燥ゾーンから外に導出される。溶媒濃縮器17から液体溶媒が循環導管18を通して懸濁液コンテナ11に循環されて戻される。
【0045】
本発明の好適な実施形態によれば、出発材料として、無機のフィラー粒子を添加物として含有するナノセルロースベースの完成紙料が供給される。フィラー含有量の範囲は典型的には1−90(重量)%、好ましくは10−75(重量)%である。このような完成紙料から調製されるナノセルロースベースの紙構造は、従来の紙(表2及び図2参照)に比べて比較的低い引張剛性を有するので、引張剛性と引裂き強さの両方を高めるために追加の添加物として木質繊維を使用することができる。木質繊維の含有量は1−30(重量)%、好ましくは1−10(重量)%の範囲である。
【0046】
非水性完成紙料からの調製は製紙で使用される他の添加物、例えばナノファイバの疎水化に使用できるサイズ剤ともコンパチブルである(表2及び図2参照)。疎水化されたナノファイバは気孔率、バルク及び/又は疎水性/親油性相互作用を調整するために使用することができる。従って、形成される紙又はボードは、特に多孔性及び湿潤性を所望の範囲にしなければならない高品質の印刷用に設計することができる。
【0047】
一つの有利な実施形態によれば、本発明のナノセルロースベース紙は、
25−75(重量)%のナノセルロースファイバ、
1−30(重量)%の補強用マクロファイバ、及び
0−75(重量)%のフィラー、
0- 10(重量)%の他の添加物
を含み、これらの成分の総量は100%になる。
【0048】

表1は添加物(フィラー及び木質繊維)を含むナノセルロースベース紙の例(目標値)を示す。表1に示す例に使用されるフィラーは粉砕された炭酸カルシウム(GCC)(フィンランドのOmya社から提供されているHydrocarb HO)とした。補強用木質繊維は漂白された樺材のクラフトパルプから得た。表に示されるすべての組成物は非水性懸濁液から本発明による気孔率範囲に製造可能であることが確かめられた。
【0049】
【表1】

【0050】
表2は、非水性懸濁液(エタノール)から調製された、サイズ剤(ASA)を含むナノセルロースベース紙の坪量の例(目標値)を示す。表に示されるすべての等級の紙は非水性懸濁液から本発明による気孔率範囲に製造可能であることが確かめられた。
【0051】
【表2】

【0052】
表3は、本発明による紙と比較紙の機械的及び光学的特性の測定データを示す。このデータは図2にグラフで示されている。NFC5及びNFC9は「無水」製紙方法に属し、水性懸濁液から形成されたNFC2及びNFC8のような他のNFCシートと比較されている。
【0053】
NFC2及びNFC5紙は100重量%の通常のナノフィブリル化セルロース100−5(粉砕ブナ材ファイバ)からなり、NFC8及び9は100重量%のASA処理されたナノフィブリル化セルロース100−5(粉砕ブナ材ファイバ)(2重量%のASA)からなる。原料NFC100−5はドイツのRettenmaier & Sohne Gmbから得た。他の添加物、顔料、木質繊維が使用されてないNFCフィルムも試験サンプルに含めた。
【0054】
フィルム形成のために、NFC及びASA−NFCの懸濁液はそれぞれ0.2−1重量%の範囲内の濃度を有する水又はエタノールで調製した。懸濁液はワーリング38−BL40ラボラトリブレンダーを用いて均質化した。次に、ブフナー漏斗内で減圧ろ過によってシートを形成した。得られたウェットNFCをメマート400乾燥オーブン内においてガラス板の間で50℃で乾燥した。
【0055】
【表3】

【0056】
表3から明らかなように、エタノールベース懸濁液(NFC5,NFC9)は、水ベース懸濁液から製造された比較紙(NFC2,NFC8)よりも一層厚く、一層バルキー(嵩高)で、一層明るく、一層不透明の紙になった。測定された他の特性も、このような紙は比較コピー紙と同様の用途に広く使用できることを示している。
【0057】
NFC5及びNFC2の試験紙のポアサイズ分布は水銀圧入プロシメトリ(MIP)により測定した。この方法は形成されたNFCシートのポア内への水銀の徐々の圧入に基づく。この目的のために、高圧ステーションPascal440(サーモサイエンティフィク)を使用した。これは400MPaまでの高圧での測定を可能にし、これにより単一ナノメートル範囲内のポアの圧入が可能になる。実験データは加圧時に充填されたポア体積に依存する形でえられる。これらのデータは水銀圧力とポア半径との関係を記述するウォッシュバーン方程式を適用することによってポアサイズ分布ヒストグラムに変換することができる。
【0058】
測定の結果はそれぞれ図3a及び3bに示されている。相対ポア体積が複数のポア径範囲に対して垂直バーとして百分率単位で示され、累積ポア体積が曲線として立方センチ単位で示されている。図から明らかなように、アルコールベース懸濁液から乾燥されたシート(NFC5、図3a)は水性懸濁液から乾燥されたシート(NFC2、図3b)よりほとんど2桁小さい大きさのポアを含む。前者の平均ポアサイズは200−400nmの有利な範囲内にあるが、後者の平均ポアサイズは20mm以上である。NFCシートのポアの示される主な形状は円柱である。
【0059】
上述され、添付図面に示された実施例及び特定の例は本発明を限定するものでない。本発明は添付の特許請求の範囲に特定され、その範囲は同等物を考慮に入れて解釈すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロース含有材料の液体懸濁液を供給するステップ、
前記懸濁液からウェブを形成するステップ、
紙又はボードを形成するために前記ウェブを乾燥するステップ
を備える、ナノ構造紙又はボードを製造する方法において、
前記ウェブが形成される前記懸濁液の水含有量は50液体重量%以下である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記懸濁液の水含有量は25液体重量%以下、特に5液体重量%以下である、ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ウェブが形成される前記懸濁液のコンシステンシーは0.5−90(重量)%、特に1−50(重量)%である、ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液のコンシステンシーは3(重量)%以上、特に5(重量)%以上である、ことを特徴とする請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁液は50−100液体重量%のアルコールなどの有機溶媒を含む、ことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記懸濁液は90−100液体重量%の前記有機溶媒を含む、ことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記懸濁液は10−100固体重量%のナノセルロースファイバを含み、該ナノセルロースファイバは10マイクロメートル以下、特に1マイクロメートル以下、好ましくは200nm以下の(重量に基づく)平均直径を有する、ことを特徴とする請求項1−6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁液は添加物として補強用マクロファイバ及び/又は無機フィラーを含み、前記添加物の量は10−90(固体重量)%、特に25−75(固体重量)%である、ことを特徴とする請求項1−7記載の方法。
【請求項9】
前記マクロファイバの量は1−30(固体重量)%、特に1−10(固体重量)%である、ことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記フィラーの量は10−75(固体重量)%、特に25−75(固体重量)%である、ことを特徴とする請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記懸濁液はサイズ剤などの疎水化剤を、好ましくは0.1−5重量%の量で含む、ことを特徴とする請求項1−10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
10−50%の気孔率を有する紙又はボードを製造する、ことを特徴とする請求項1−11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
10μm未満の平均直径を有するナノセルロースベースのファイバマトリクスと、
前記ファイバマトリクス内に結合された少なくとも一つの添加物と、
を備えるナノ構造紙又はボードにおいて、
前記添加物は前記紙又はボードの重量に基づいて10−90%の量の補強用マクロファイバ及び/又はフィラーを含む、ことを特徴とする紙又はボード。
【請求項14】
前記ナノセルロースファイバは前記紙又はボードの全重量の10−90%、特に10−50%にのぼる、ことを特徴とする請求項13に記載の紙又はボード。
【請求項15】
前記マクロファイバの量は1−30(固体重量)%、特に1−10(固体重量)%である、ことを特徴とする請求項13又は14記載の紙又はボード。
【請求項16】
前記マクロファイバは10μm超の(重量に基づく)平均直径を有する木質遷移などの有機ファイバである、ことを特徴とする請求項13−15のいずれかに記載の紙又はボード。
【請求項17】
前記フィラーの量は10−75(固体重量)%、特に25−75(固体重量)%である、ことを特徴とする請求項13−16のいずれかに記載の紙又はボード。
【請求項18】
前記フィラーは顔料、特に無機顔料を含む、ことを特徴とする請求項13−17のいずれかに記載の紙又はボード。
【請求項19】
前記ナノセルロースファイバはASAなどのサイズ剤により疎水化される、ことを特徴とする請求項13−18のいずれかに記載の紙又はボード。
【請求項20】
不透明度が85%以上である、ことを特徴とする請求項13−19のいずれかに記載の紙又はボード。
【請求項21】
気孔率が10−50%である、ことを特徴とする請求項13−20のいずれかに記載の紙又はボード。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2012−529572(P2012−529572A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513649(P2012−513649)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050467
【国際公開番号】WO2010/142846
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511294578)ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション (2)
【氏名又は名称原語表記】UPM−KYMMENE CORPORATION
【出願人】(508096585)
【Fターム(参考)】