説明

紙又は板紙の製造装置及びこれを用いた製造方法

【課題】サイズ処理時の湿紙含水量の最適値を見出すことによって、サイズ処理の効果を高めるとともに、湿紙含水量を考慮したサイズ処理を行なうことによって、紙又は板紙の製造工程の簡略化と低コスト化を可能にする。
【解決手段】紙又は板紙の抄紙工程中に湿紙の少なくとも一方の表面にサイズ液を塗布するサイズ処理装置を備えた紙又は板紙の製造装置において、紙又は板紙の抄紙工程中のドライヤパートC又はその下流側に、湿紙4の含水量が10〜25重量%となる領域にサイズ処理装置Dを設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙又は板紙の抄紙工程中に湿紙に対するサイズ処理工程を含む紙又は板紙の製造装置及びこれを用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙又は板紙の抄紙工程を以下簡単に説明する。原料調成工程で、叩解、薬品配合の終わった紙料は、抄紙工程では、濃度0.5〜1重量%前後に調整されてワイヤーパート(紙層形成部)に噴出され、ワイヤーパートで脱水、繊維配向が行なわれて紙層が形成される。ワイヤーパートを出たところで20重量%程度の紙料濃度(水分80重量%程度)となり、次のプレスパート(湿紙搾水部)で湿紙はプレスロールとフェルトとの間で圧搾・脱水され、さらにドライヤパート(湿紙乾燥部)で含水量が5〜8重量%くらいまで乾燥され、紙になる。
【0003】
なお、板紙とは、木材化学パルプ、砕木パルプ、わらパルプ、古紙などを配合した厚い紙の総称であり、主に段ボール原紙や包装紙等に使用される。一般には多層抄きで製造され、積層紙となるが、単層抄きのものも含める。
【0004】
ドライヤパートの後でサイズ処理が行なわれる。サイズ処理とは、紙表面にサイズ剤、例えば、澱粉、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリルアミド等を塗布し、紙表面の印刷特性、例えば、インキの滲み防止、繊維逸脱抑制(湿紙表面からの繊維の脱落を抑制する)等の向上を図る処理方法である。サイズ剤の塗布方法は、通常、湿紙をサイズ液が塗布されたロール間を通したり、あるいはスプレー等で塗布されたりする。サイズ処理の後で後乾燥処理が行なわれ、その後、巻取りリールに巻き取られる。
【0005】
サイズ処理は、湿紙の含水量が多く、強度が低いところで行なうと、湿紙が破断するおそれがある。また、サイズ処理はなるべく均一な水分分布の湿紙に行なったほうが均質な効果が得られるので、従来は、ドライヤパートでの乾燥処理後に行なうというのが基本的なやり方であった。従って、従来は湿紙含水量が高々8重量%の領域でサイズ処理が行なわれていた。このように、従来は、乾燥後の湿紙にサイズ処理を行なうため、湿紙への浸透性を良くするために、サイズ液の濃度は10重量%程度以下の低濃度のサイズ液を塗布していた。
【0006】
特許文献1(特表2004−533563号公報)には、サイズ液の濃度を15〜40重量%とし、湿紙の片面で5g/m以下、両面で10g/m以下のサイズ液を塗布するサイズ処理方法が開示されている。この方法は、それまで行なわれていたサイズ処理で使用されるサイズ液よりも高い濃度のサイズ液を使用し、製造された紙又は板紙の表面強度を向上させ、曲げ剛性を増加させるとともに、サイズ処理後の後乾燥ラインを短縮し、低コストとすることを意図している。
【0007】
【特許文献1】特表2004−533563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のサイズ処理は、ドライヤパートでの乾燥処理後に行なうという従来の基本的なやり方を踏襲し、サイズ液の濃度及びサイズ剤の塗布量のみに着目しており、湿紙の含水量については全く記述されていない。言い換えれば、特許文献1に開示されたサイズ処理方法は、サイズ処理時の湿紙の含水量の影響は全く考慮されていない。また、その他の文献にもサイズ処理時の湿紙の含水量の影響に着目した記述は見当たらない。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、サイズ処理時の湿紙の含水量を検討し、サイズ処理時の湿紙含水量の最適値を見出すことによって、サイズ処理の効果を高めるとともに、湿紙含水量を考慮したサイズ処理を行なうことによって、紙又は板紙の製造工程の簡略化と低コスト化を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の紙又は板紙の製造装置は、紙又は板紙の製造ライン中で湿紙の少なくとも一方の表面にサイズ液を塗布するサイズ処理装置を備えた紙又は板紙の製造装置において、
紙又は板紙の抄紙工程中のドライヤパート又は該ドライヤパートの下流側に、湿紙の含水量が10〜25重量%となる領域に前記サイズ処理装置を設置したものである。
【0011】
本発明者等は、サイズ処理を行なうときの湿紙含水量の影響を広範な試験を行なって把握し、サイズ処理時の湿紙含水量がサイズ処理による湿紙の強度等に大きく影響することを見出し、湿紙含水量との関係で最良のサイズ処理手段を見出したものである。即ち、湿紙含水量が10〜25重量%の領域でサイズ処理することで、10〜25重量%という高濃度のサイズ液を用いても、従来よりサイズ処理による効果を向上できることを見出した。
【0012】
本発明装置では、かかる新たな知見に基づいて、紙又は板紙の抄紙工程中のドライヤパート又はその下流側であって、湿紙の含水量が10〜25重量%となる領域にサイズ処理装置を設置したものである。これによって、湿紙の水分量が10〜25重量%の高含水量のときにサイズ処理を行なうため、湿紙に塗布するサイズ液の濃度を、従来の10重量%程度以下から10重量%以上に高めても、サイズ液の浸透性を向上することができる。そのため、湿紙の単位面積当りのサイズ剤量を増加できるとともに、サイズ液が湿紙の奥深くに浸透するので、製造された紙又は板紙の断面方向に沿って均一に強度を増大させることができる。
【0013】
また、湿紙に塗布するサイズ液の濃度を増大できるので、サイズ処理以後の乾燥負荷を低減でき、そのため、サイズ処理以後の乾燥負荷を低減でき、省エネを達成することができる。また、サイズ液の塗布濃度を従来より1.5倍以上にできるので、サイズ液貯留設備及び輸送設備を1/1.5倍にサイズダウンすることができる。
【0014】
サイズ液を塗布する時の湿紙含水量は、湿紙の搬送方向の強度に影響するが、本発明では、湿紙含水量を25重量%以下に抑えることで、湿紙の強度低下を最小限に抑えることができる。従って、サイズ処理時の断紙等の発生確率を増加させる心配はない。
【0015】
本発明装置において、サイズ処理装置の抄紙工程上流側に湿紙の含水量を検出する水分検出装置を備えるようにするとよい。サイズ処理装置の上流側で、該水分検出装置によって湿紙の含水量を検出することによって、サイズ処理装置に到達する湿紙の含水量を予測することができ、これによって、前記範囲の含水量の状態でのサイズ処理を可能とする。該水分検出装置として、例えば、赤外線やマイクロウェーブを用いた検出装置を適用することができる。
【0016】
また、水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいてサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量が前記範囲の含水量となるようにプレスパートのプレス装置の線圧を調整するコントローラを備えるようにするとよい。これによって、前記範囲、即ち、10〜25重量%の含水量の領域でサイズ処理を確実に行なうことができる。
【0017】
あるいは、該水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいてサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量前記範囲の含水量となるように、サイズ処理装置の上流側に設けられたドライヤパートのドライヤロールに供給する加熱用蒸気の蒸気圧又は蒸気量を調整するコントローラを備えるようにしてもよい。かかる手段によっても、前記範囲の含水量の状態でのサイズ処理を確実に行なうことができる。
【0018】
また、本発明の紙又は板紙の製造方法は、
サイズ処理装置の抄紙工程上流側に設けられ湿紙含水量を検出する水分検出装置と、該水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいて、プレスパートのプレス装置の線圧を調整するコントローラ、又はサイズ処理装置の上流側に設けられたドライヤパートのドライヤロールに供給する加熱用蒸気の蒸気圧又は蒸気量を調整するコントローラとを用い、該コントローラによってサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量を10〜25重量%に調整するとともに、該サイズ処理装置により濃度が10〜25重量%のサイズ液を湿紙に塗布するものである。
【0019】
本発明方法により、サイズ液の湿紙への浸透性を向上することができ、そのため、サイズ液が湿紙の奥深くに浸透するとともに、湿紙の単位面積当りのサイズ剤量を増加できるので、製造された紙又は板紙の断面方向に沿って均一に強度を増大させることができる。
また、湿紙に塗布するサイズ液の濃度を増大できるので、サイズ処理以後の乾燥負荷を低減でき、そのため、サイズ処理以後の乾燥負荷を低減でき、省エネを達成することができる。
【0020】
本発明方法において、サイズ液を湿紙に塗布する手段として、例えば、従来公知の手段であるサイズ液転写プレスロールやスプレー塗布を用いることができる。これらの手段を用いて、湿紙の片面又は両面にサイズ液を塗布する。
【0021】
また、本発明方法において、好ましくは、湿紙に対するサイズ液の塗布量を5〜20g/mとするとよい。本発明方法では、湿紙含水量が10〜25重量%と従来と比べて高い含水量のときにサイズ液を塗布するので、サイズ液の浸透性が良い。そのため、サイズ液の塗布量を従来より多い5g/m以上としても、サイズ液が湿紙の内部に深く浸透する。これによって、紙の断面方向全幅に亘って均一に強度を高めることができる。なお、サイズ液の塗布量を20g/mより多くしても、それ以上サイズ処理の浸透性は向上しないので、製造された紙の強度等もそれ以上増大しない。また、コスト面を考えると、サイズ剤の塗布量は20g/m以下とするのがよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明装置によれば、紙又は板紙の抄紙工程中のドライヤパート又は該ドライヤパートの下流側に、湿紙の含水量が10〜25重量%となる領域にサイズ処理装置を設置したことにより、サイズ液を湿紙の内部に深く浸透させることができるので、従来よりインキの滲み防止効果や繊維逸脱抑制効果のみならず、特に湿紙の強度を向上させることができる。
【0023】
本発明方法によれば、サイズ処理装置の抄紙工程上流側に設けられ湿紙含水量を検出する水分検出装置と、該水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいて、プレスパートのプレス装置の線圧を調整するコントローラ、又はサイズ処理装置の上流側に設けられたドライヤパートのドライヤロールに供給する加熱用蒸気の蒸気圧又は蒸気量を調整するコントローラとを用い、該コントローラによってサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量を10〜25重量%に調整するとともに、該サイズ処理装置により濃度が10〜25重量%のサイズ液を湿紙に塗布するようにしているので、サイズ液を湿紙の内部に深く浸透させることができるので、従来よりインキの滲み防止効果や繊維逸脱抑制効果のみならず、特に湿紙層内部強度を向上させることができる。
【0024】
さらに、該コントローラによって、サイズ処理装置に到達した湿紙の含水量を確実に10〜25重量%の範囲に調整することができ、この含水量を有する湿紙に濃度が10〜25重量%のサイズ液を塗布するようにしているので、サイズ処理による効果を確実に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
(実施形態)
【0026】
図1は本発明が適用された抄紙機の系統図である。抄紙機にあっては、主としてフォーマパート(紙層形成部)A、プレスパート(湿紙搾水部)B及びプレドライヤパート(湿紙乾燥部)Cを備えており、濃度が約0.9重量%のパルプ原料1がヘッドボックス2の開口部からワイヤ幅方向に均一な噴流としてフォーマパートAのワイヤ3上に噴出される。
【0027】
フォーマパートAでは、パルプ原料1が重力及び負圧によりワイヤ3の網目を通過して脱水され、ワイヤ3上には湿紙4が形成される。この湿紙4は、フォーマパートAで濃度が約18重量%になるまで濃縮された後に、次工程のプレスパートBに移送される。
【0028】
プレスパートBでは、湿紙4が上下のフェルト5a、5b間に挟み込まれ、あるいはフェルト5b上に乗せられて、複数段に配置されたプレスロール6のニップを通って加圧されることにより搾水される。搾水された湿紙4は、プレスパートBで40〜50重量%程度まで濃度が上げられ、その後、次工程のプレドライヤパートCに移送される。
【0029】
プレドライヤパートCでは、蒸気が供給され蒸気で加圧された複数のドライヤロール7の表面に湿紙4が押し付けられる。このため、湿紙4に含まれる水分が蒸発して除去され、湿紙4は乾燥した紙となる。この紙が下流側に設置したリール8に巻き取られる。
プレドライヤパートCの下流側にはサイズプレス部(表面処理部)Dが設けられ、サイズプレス部Dには、一対のサイズ液転写プレスロール11a及び11bが設けられている。湿紙4が該プレスロールを通ることによって、湿紙4の表裏面にサイズ液が塗布される。これによって、抄造後の紙にインキの滲み防止効果や繊維逸脱抑制効果が付与されるとともに、紙の強度を増大させることができる。
【0030】
サイズプレス部Dの下流側にはアフタドライヤパートEが設けられており、アフタドライヤパートEには蒸気で加熱加圧されたドライヤロール7が設けられており、ここで、サイズ液が塗布された後の湿紙4を乾燥する。
【0031】
次にサイズプレス部Dの構成を図2に基づいて説明する。図2において、軸芯が水平方向に向けられた一対のサイズ液転写プレスロール11a、11bが配置されている。固定台12の水平面には、サイズ液転写プレスロール11aの図示しない回転軸を回転可能に支持する軸受部13が固定されているとともに、サイズ液溜め14aを支持するブラケット15aが回転軸15cを中心に回動可能に取り付けられている。
【0032】
固定台12とブラケット15aとの間には油圧シリンダ16aが架設され、該油圧シリンダ16aによって、サイズ液溜め14a及びブラケット15aは、矢印a方向に移動可能に構成されている。
また、固定台12には支持台17が回転軸17aを中心に回動可能に取り付けられ、支持台17の水平な上面には軸受部18が固定され、該軸受部18によってサイズ液転写プレスロール11aの図示しない回転軸を回転可能に支持している。
【0033】
固定台12と支持台17の下端部との間には油圧シリンダ19が架設され、該油圧シリンダ19によって、サイズ液転写プレスロール11bはサイズ液転写プレスロール11aに向かって近接又は離間する方向(矢印b方向)に移動可能に構成されている。また、サイズ液溜め14bを支持するブラケット15bが回転軸15dを中心に回動可能に取り付けられている。支持台17とブラケット15bとの間には油圧シリンダ16bが架設され、該油圧シリンダ16bによって、サイズ液溜め14bがサイズ液転写プレスロール11bに対して接近又は離間する方向(矢印c方向)に移動可能に構成されている。
【0034】
サイズ液溜め14a又は14bの上部にはサイズ液塗布ロール21a又は21bが回動自在に装着されている。サイズ液塗布ロール21a、21bは下部がサイズ液面に浸漬している。そして、サイズ液塗布ロール21a、21bがサイズ液転写プレスロール11a及び11bに接して、サイズ液塗布ロール21a又は21bの周面がサイズ液転写プレスロール11a又は11bに接して連れまわると、サイズ液塗布ロール21a、21bに塗布されたサイズ液がサイズ液転写プレスロール11a又は11bに転写されるように構成されている。
【0035】
かかる構成によって、サイズ液転写プレスロール11aと11b間を通る湿紙4に対して、油圧シリンダ19を作動させて、湿紙4にサイズ液を塗布するために好適なプレス圧となるように両者の間隔を調整することができる。サイズ液転写プレスロール11a及び11b間の間隔を調整することによって、サイズ液の塗布量を調整することができる。
【0036】
また、油圧シリンダ16a及び16bを作動させてサイズ液塗布ロール21a及び21bをサイズ液転写プレスロール11a又は11bの周面に接触させる。この状態で、サイズ液転写プレスロール11a及び11bの周面の周速度が湿紙4の移送速度と同一となるようにサイズ液転写プレスロール11a及び11bを回転駆動させる。サイズ液転写プレスロール11a及び11bが回転すると、サイズ液塗布ロール21a及び21bが連れ周りし、サイズ液をサイズ液転写プレスロール11a及び11bの周面に転写する。
【0037】
そして、サイズ液転写プレスロール11a及び11bの周面に塗布されたサイズ液は、湿紙4がサイズ液転写プレスロール11aと11b間を通るときに湿紙4の表裏面に転写される。
【0038】
図1に戻り、本実施形態では、サイズプレス部Dの直上流側に、湿紙4の含水量を検出する水分検出装置31が設けられている。水分検出装置31は、例えば、赤外線やマイクロウェーブを用いた検出装置を適用することができる。水分検出装置31の検出信号はコントローラ30に送信される。コントローラ30では、水分検出装置31から送信された検出値に基づいて、該検出値が10〜25重量%の範囲内の設定値となるように、プレスパートBのプレスロール6の湿紙4に対する線圧を調整する。
【0039】
また、サイズプレス部Dでは、サイズ液溜め14a及び14bに濃度を10〜25重量%に調整した、例えば、澱粉液などのサイズ液を貯留しておく。そして、前記濃度のサイズ液を湿紙4の表裏面に塗布するようにしている。さらに、サイズ液転写プレスロール11a及び11bの湿紙4に対するプレス圧を調整して、サイズ液の塗布量が5〜20g/m2となるようにしている。
【0040】
本実施形態によれば、水分検出装置31で湿紙4の含水量を検出し、該検出値をコントローラ30に入力し、コントローラ30によって該検出値が10〜25重量%の範囲内になるように、プレスパートBのプレス装置6の湿紙4に対する線圧を調整するとともに、サイズプレス部Dで10〜25重量%の濃度のサイズ液を塗布量が5〜20g/mとなるように湿紙4に塗布しているので、インキの滲み防止効果や繊維逸脱抑制効果を付与できるとともに、特に、従来のサイズ処理法より湿紙4の強度を向上させることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、サイズプレス部DをプレドライヤパートCとアフタドライヤパートEの間に設けたが、湿紙含水量が10〜25重量%となる位置がプレドライヤパートCの中であれば、サイズプレス部DをプレドライヤパートCの中に設けるようにしてもよい。
(実施形態2)
【0042】
次に、本発明の第2実施形態を図3に基づいて説明する。図3は紙又は板紙の抄紙工程の後半部分を示す。図3において、サイズプレス部Dに設けられたサイズ液転写プレスロール11a及び11bの直上流側に水分検出装置31が設けられている。一方、プレドライヤパートCに設けられた複数のドライヤロール7に加熱用蒸気sを供給する主蒸気管路32が設けられ、該主蒸気管路32を通して各ドライヤロール7に加熱用蒸気sが供給される。加熱用蒸気sが各ドライヤロール7に供給されることで、各ドライヤロール7に巻回されて走行する湿紙4を乾燥処理する。
【0043】
また、主蒸気管路32に流量調整用電磁弁33が介設され、該電磁弁33の開度を調整することで、各ドライヤロール7に供給される加熱用蒸気sの蒸気量及び蒸気圧が調整される。そして、水分検出装置31で検出した湿紙4の含水量検出値をコントローラ30に入力する。コントローラ30では、該含水量検出値が10〜25重量%の範囲内の設定値になるように、該電磁弁33の開度を調整して、主蒸気管路32を流れる加熱用蒸気sの流量を調整する。
【0044】
かかる構成によって、サイズプレス部Dでの湿紙4の含水量を前記範囲内の設定値に調整することができる。なお、本実施形態でも、サイズ液濃度は10〜25重量%の範囲内に調整され、かつサイズ液転写プレスロール11a及び11bの湿紙4に対するプレス圧を制御してサイズ液の塗布量を5〜20g/mの範囲内に調整している。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、インキの滲み防止効果や繊維逸脱抑制効果を付与できるとともに、特に、従来より湿紙4の強度を向上させることができる。
【0045】
なお、前記第1実施形態及び第2実施形態では、サイズプレス部Dでサイズ液転写プレスロールを用いて湿紙4にサイズ液を塗布しているが、サイズ液転写プレスロールに代わりに、湿紙4にサイズ液をスプレー塗布するようにしてもよい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例を図4〜図8に基づいて説明する。図4は、サイズ処理工程において、澱粉濃度が10重量%のときの、澱粉塗工量と圧縮強度比(澱粉塗布をしない場合を1とする。)との関係をプロットした実験データである。図中、黒丸は湿紙含水量が23重量%の場合を示し、白丸は湿紙含水量が10重量%の場合である。図5は、澱粉濃度が20重量%の場合、図6は澱粉濃度が27重量%の場合の、図1と同様の実験データを示す。
【0047】
図7は、図4〜図6の実験データに基づいて、澱粉塗工量が5g/mのときの澱粉濃度(重量%)と圧縮強度比(澱粉塗布をしない場合を1とする。)との関係をプロットするとともに、比較例として、同じ澱粉塗工量で、従来の湿紙含水量(8重量%)でかつ澱粉濃度が8重量%で行なった圧縮強度比の値をプロットしたものである。
【0048】
図7から、澱粉濃度を増加させると、圧縮強度比は低下する傾向にあるが、湿紙含水量を高めるほど、圧縮強度比は増加することがわかる。ところが、澱粉濃度を27重量%程度まで増加させると、もはや湿紙含水量の影響は微少になり、湿紙含水量が10重量%の場合と同等の強度レベルに留まることがわかる。
【0049】
これらの実験結果から、サイズ剤の浸透深さは、以下の関係にあるものと考えられる。
【数1】

即ち、サイズ剤の浸透深さとサイズ液の濃度とは反比例し、また、湿紙含水量が多いほど、湿紙の原料であるパルプの毛細管半径が広がり、サイズ剤の浸透深さが大となる。サイズ剤の浸透深さが大となるに伴って圧縮強度が向上することになるので、上記各因子の影響が確定できる。
【0050】
サイズプレス部Dでは、湿紙4はフェルト5等に挟まれたり、或いは載せられたりすることなく、湿紙4だけが引っ張られており、更に湿紙4はサイズ液の塗布によって再湿し、強度が弱くなっているために、高速運転時に紙切れを起こすおそれがあり、この理由から、従来は、湿紙含水量の低いドライヤパートの下流側でサイズ処理を行なっていた。ドライヤパートの下流側の湿紙含水量は5〜8重量%であるので、従来は、最大8重量%の含水量の元で行なっていた。しかも、サイズ処理を低い含水量の元で行なうため、サイズ液の濃度を下げて浸透深さを増加させる必要があった。
【0051】
本発明では、図7に示す実験結果から、従来行なっていなかった高い湿紙含水量、即ち含水量が10重量%以上の場合、サイズ液の濃度が10重量%以上でも、圧縮強度を増加できることがわかった。しかし、含有量が25重量%を越えると、強度低下のため断紙のおそれがあり、また、図7に示す結果から、サイズ液の濃度が25重量%を越えると、製造された紙の圧縮強度が増加しないことがわかった。さらに、コスト面を考慮すれば、サイズ液の濃度を25重量%以下とするのがよい。
【0052】
なお、サイズ剤の塗布量は、前述の理由から5〜20g/mとするのが好ましい。即ち、5g/m以上とすることにより、サイズ液を湿紙の断面に深く浸透させることができ、これによって、紙の断面方向全幅に亘って均一に強度を増加できる。一方、サイズ剤の塗布量を20g/mより多くしてもそれ以上強度が増加せず、さらに、コスト面からみて20g/m以下とするのがよい。
【0053】
次に本発明のサイズ処理法と特許文献1のサイズ処理法との相違を図8に図解して説明する。図8は湿紙の断面を示す模式図である。図8の(a)は本発明のサイズ処理法を施した湿紙の断面を示す。図8(a)において、本発明のサイズ処理法は、湿紙4の含水量を高くして、湿紙4の表面に塗布したサイズ液dを湿紙4の内部に深く浸透させるようにしている。そして、紙の厚さ方向に均一な圧縮強度を有する断面を形成させる。これによって、高い圧縮強度をもつ紙を製造する。
【0054】
一方、特許文献1に開示されたサイズ処理法は、サイズ液dの濃度を増加させ、従来のようにドライヤパートDの下流側で行なう。湿紙4の含水量を従来のように低く抑えることによって、図8(b)に示すように、サイズ液dの浸透性を抑え、サイズ液dの浸透幅を表面層fに限定する。これによって、湿紙4の表面に高強度の表面層fを形成する。このように、湿紙4を断面方向に3層構造とすることによって、曲げ力eに対する剛性を高めるようにしている。
【0055】
板紙は段ボール原紙等に使用されるが、本発明のサイズ処理を施して製造した板紙は、曲げ剛性を付与する代わりに、圧縮強度を付与しているので、曲げ力に対しては柔軟性をもっている。従って、段ボール原紙の中芯紙等に使用して、波形に成形されても割れなどが発生しない。一方、特許文献1のサイズ処理を施された板紙は、波形に成形された場合、割れ等が発生するおそれがある。
【0056】
本発明によれば、サイズ処理時の湿紙含水量を10〜25重量%とすることで、10〜25重量%という高いサイズ液濃度でも、従来のサイズ処理に比べて高い圧縮強度を得ることができる。サイズ処理時の湿紙含水量を高くするので、プレドライヤパートCの中にサイズ処理工程をもうけることができる。これによって、湿紙4の乾燥工程とサイズ処理後の後乾燥工程を同時に行なうことができるので、これらの工程に要する時間を短縮できるとともに、設備を簡素化することができる。
【0057】
また、プレドライヤパートCの下流側でサイズ処理を行なう場合では、プレドライヤパートCでの湿紙含水量をさほど低下させる必要がないので、プレドライヤパートCでの湿紙搬送速度を増大させることができる。従って、プレドライヤパートCでの乾燥時間を短縮することができる。
【0058】
また、サイズ液濃度を10重量%以上とすることができるので、サイズ処理後の乾燥負荷を低減でき、乾燥に要するエネルギを低減することができる。また、サイズ液の濃度を高くできるので、サイズ液用の貯留設備及びサイズ液を湿紙に供給する設備を小型化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、紙又は板紙の製造工程において、紙又は板紙のサイズ処理効果を向上できるとともに、ドライヤパート及びサイズ処理部での時間の短縮と装置構成の簡素化及び低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態の系統図である。
【図2】前記第1実施形態のサイズプレス部Dの正面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の一部系統図である。
【図4】本発明の実施例に係る澱粉濃度と圧縮強度比との関係を示す線図である。
【図5】本発明の実施例に係る澱粉塗工量と圧縮強度比との関係を示す線図である。
【図6】本発明の実施例に係る澱粉塗工量と圧縮強度比との関係を示す線図である。
【図7】本発明の実施例に係る澱粉塗工量と圧縮強度比との関係を示す線図である。
【図8】(a)は本発明のサイズ処理法によって製造された紙の模式的断面図であり、(b)は特許文献1のサイズ処理法によって製造された紙の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 パルプ原料
2 ヘッドボックス
3 ワイヤ
4 湿紙
5a 上フェルト
5b 下フェルト
6 プレスロール
7 ドライヤロール
11a、11b サイズ液転写プレスロール
14a、14b サイズ液溜め
21a、21b サイズ液塗布ロール
30 コントローラ
31 水分検出装置
32 主蒸気管路
33 流量調整用電磁弁
A フォーマパート
B プレスパート
C プレドライヤパート
D サイズプレス部
E アフタドライヤパート
d サイズ液
s 加熱用蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙又は板紙の抄紙工程中で湿紙の少なくとも一方の表面にサイズ液を塗布するサイズ処理装置を備えた紙又は板紙の製造装置において、
紙又は板紙の抄紙工程中のドライヤパート又は該ドライヤパートの下流側に、湿紙の含水量が10〜25重量%となる領域にサイズ処理装置を設置したことを特徴とする紙又は板紙の製造装置。
【請求項2】
サイズ処理装置の抄紙工程上流側に湿紙の含水量を検出する水分検出装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の紙又は板紙の製造装置。
【請求項3】
水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいてサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量が前記範囲の含水量となるようにプレスパートのプレス装置の線圧を調整するコントローラを備えたことを特徴とする請求項2に記載の紙又は板紙の製造装置。
【請求項4】
前記水分検出装置で検出した湿紙含水量に基づいてサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量が前記範囲の含水量となるように、サイズ処理装置の上流側に設けられたドライヤパートのドライヤロールに供給する加熱用蒸気の蒸気圧又は蒸気量を調整するコントローラを備えたことを特徴とする請求項2に記載の紙又は板紙の製造装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載された紙又は板紙の製造装置を用いた紙又は板紙の製造方法において、
前記コントローラによってサイズ処理装置の設置位置における湿紙含水量を10〜25重量%に調整するとともに、該サイズ処理装置により濃度が10〜25重量%のサイズ液を湿紙に塗布することを特徴とする紙又は板紙の製造方法。
【請求項6】
サイズ液をサイズ液転写プレスロール又はスプレー塗布により湿紙の一方又は両方の表面に塗布することを特徴とする請求項5に記載の紙又は板紙の製造方法。
【請求項7】
サイズ液の塗布量を5〜20g/mとすることを特徴とする請求項5又は6に記載の紙又は板紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−24305(P2009−24305A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191431(P2007−191431)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(507009216)メッツォ ペーパー インコーポレイテッド (76)
【Fターム(参考)】