説明

紙及び製紙方法

本発明は、繊維系原料から形成され且つ印刷用紙として適用可能な紙に関する。本発明においては、前記紙の表面は、表面層を形成するために前記紙の表面の少なくとも一面に混合物を配置することでもって、表面に十分な密度を施すことにより表面処理され、前記混合物は、乾燥質量の75〜95質量%の顔料と、乾燥質量の5〜25質量%の接着剤とを含み、前記紙の表面層の空隙率は、水銀ポロシメータ法による定義で0.07ml/g未満である。更に、本発明は製紙方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルにおいて定義した紙及び請求項10のプリアンブルにおいて定義した製紙方法に関し、印刷用紙として適用可能な紙は、繊維系原料から形成される。
【背景技術】
【0002】
先行技術として、印刷に使用するための様々な印刷用紙及び様々な製紙方法が知られている。
印刷分野においては、紙を対象とした様々な印刷方法、例えばオフセット印刷技術又はグラビア印刷技術が知られている。既知の方法、具体的にはHSWO印刷においては印刷インキを高温(典型的には120℃〜150℃)で乾燥させるが、印刷インキの乾燥中に、印刷した領域と印刷していない領域との間で大きな水分傾斜が生じてしまう。このようにして生じた大きな水分傾斜が、HSWO印刷物の質の低下、すなわち波打ち(waving)の重要な要因となる。この波打ちの軽減を目的とした多くの方法が知られている。
参考文献としての国際公開第2004/003293号パンフレット(WO2004/003293)は、親油性の表面を備えた高密度の紙を開示している。表面のガーレー・ヒル透気度(Gurley−Hill permeance value)は、5000秒/100mlより高い。親油性の表面を備えた高密度の紙の形成には費用がかかり、工業的な生産はまだ実現されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、印刷において印刷用紙として適用可能な新しいタイプの紙を開示することである。本発明の具体的な目的は、印刷した表面と印刷していない表面との間の水分傾斜を最小限に抑制し、例えばHSWO印刷において波打ちを回避することができる紙を開示することである。本発明の更なる目的は、新しい製紙方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の紙及び製紙方法は、請求項において提示の内容によって特徴付けられる。
本発明は、繊維系原料から形成され且つ印刷用紙として適用可能な紙に基づく。本発明においては、前記紙の表面は、表面層を形成するために前記紙の表面の少なくとも一面に混合物を好ましくはコーティングにより配置する(arrange)ことにより、表面に十分な密度を施す(arrange)ことにより表面処理され、前記混合物は、乾燥質量の75〜95質量%の顔料と、乾燥質量の5〜25質量%の接着剤とを含み、表面層の空隙率は、水銀ポロシメータ法による定義で0.07ml/g未満である。
本明細書において、紙の表面層とは、それ自体が既知であるいずれの表面処理法によっても形成し得る、紙の表面上の表面層、例えばコーティング層のことである。
【0005】
本発明は、具体的には、表面が高密度となるように取り計らわれ且つ制御された表面密度を備える紙に基づく。更に、本発明の紙の表面エネルギー特性は好ましくは制御される。好ましくは、本発明の紙の表面は、いずれの親油特性も有していない。
本発明の紙では印刷した表面と印刷していない表面との間の水分傾斜、すなわち乾燥勾配(drying gradient)を最小限に抑えることができ、また波打ちを、例えばHSWO印刷において軽減することができる。特殊な方法で紙に密度を付与することにより、水分傾斜を最小限に抑えることが可能になる。紙の表面を高密度にすると、印刷した表面に比べて印刷していない表面の乾燥を減速させることが可能なため、水分傾斜を、例えばHSWO乾燥において軽減することができる。水分傾斜を抑えることにより、紙の波打ちを軽減することが可能である。
この際、紙とは全ての繊維系の紙のことである。紙は、化学パルプ、機械パルプ、ケミメカニカルパルプ、再生パルプ、これらの混合物などから形成され得る。紙は、湿紙、乾紙すなわち紙匹又は目的に適したその他の形態であってよい。紙は、適切な填料及び添加剤を含み得る。
【0006】
紙をコーティングにより表面処理すると、表面層、すなわちコーティング層が紙の表面上に形成される。好ましい一実施形態においては紙をコートし、より好ましくは軽くコートする。紙をシングルコートすることが望ましい。
一実施形態において、コート質量は1〜14g/m2/面である。
好ましくは、顔料及び接着剤の割合を既定及びあらかじめ設定する。
【0007】
本発明の一実施形態において、顔料は、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、石膏及びこれらの混合物等の群から選択される。好ましい一実施形態において、顔料は主にカオリンを含む。一実施形態においては、板状顔料を、少なくとも部分的又は全面的に顔料として使用する。一実施形態においては実質的に板状の顔料が使用され、好ましい実施形態において板状顔料は顔料の量の70質量%を越える量にて存在し、より好ましい実施形態においては顔料の量の90質量%を越える量にて存在する。一実施形態において、顔料は球状の顔料を含む。
【0008】
本発明の一実施形態において、接着剤は、デンプン、タンパク質、ラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びこれらの混合物等の群から選択される。好ましい一実施形態において、接着剤は主にラテックス又はその誘導体、例えばSBラテックスを含む。
一実施形態において、接着剤は、−30〜35℃、より好ましくは0〜25℃の範囲のガラス転移温度を有するラテックスを含む。ガラス転移温度は、例えば示差走査熱量測定法(DSC)により定義される。
【0009】
好ましくは、紙の表面の密度を、接着剤と顔料との組み合わせによりコーティング混合物における原料組成を最適化することで制御する。本発明の一実施形態において、紙の表面上に配置される混合物は、顔料を混合物の全乾燥質量の82〜92質量%、より好ましくは約83〜85質量%含む。顔料は固形又は分散液形態であってよく、顔料が30〜100質量%を占める組成物として存在してもよい。本発明の一実施形態において、混合物は、接着剤を混合物の全乾燥質量の8〜17質量%、より好ましくは約13〜15質量%含む。接着剤は固形又は溶液形態であってよく、接着剤を3〜100質量%含む組成物として存在してもよい。
いずれの適切な接着剤及び顔料も紙の表面処理に使用することができる。更に、当該分野においてそれ自体が既知の適切な添加剤を、表面処理中に、例えばコーティング混合物に添加することができる。混合物は、添加剤を0〜10質量%含み得る。
【0010】
本発明の一実施形態において、紙の表面層の空隙率は、水銀ポロシメータ法で測定した場合、0.06ml/g未満である。水銀ポロシメータにより、空隙率と空隙径分布を求めることができる。
本発明の一実施形態において、紙は、好ましくは表面処理後にカレンダリングされる。
本発明の一実施形態においては、紙を、オフセット印刷、具体的にはHSWO印刷における印刷用紙として使用することができる。
本発明の紙の製造において、使用するいわゆる原紙は、LWC(軽量コーテッド紙)、MWC(中量コーテッド紙)、MFC(機械仕上げコーテッド紙)、WFC紙(上質紙)又は同様の紙等の印刷用紙に適用可能な紙へと本発明に従って形成可能な適切な繊維系原紙であってよい。
一実施形態において、填料、顔料、接着剤及び/又はその他の化学薬品は、紙の製造中に繊維系原料に添加される。当該分野で既知のいずれの薬剤及び化学薬品も、填料、顔料、接着剤及び化学薬品として使用し得る。
【0011】
更に、本発明は製紙方法に基づいており、印刷用紙として適用可能な紙は、繊維系原料から形成される。本発明においては、表面層の空隙率は、水銀ポロシメータ法による定義で0.07ml/g未満となるように紙の表面に十分な密度を施すため、表面層を形成するために紙の表面の少なくとも一面に好ましくはコーティングにより混合物を配置することにより紙を表面処理する。前記混合物は、乾燥質量の75〜95質量%顔料と、混合物の乾燥質量の5〜25質量%の接着剤とを含む。
紙の製造、表面処理、コーティング、カレンダリング及び/又は印刷等は、当該分野でそれ自体が既知の方法で行われ得る。
紙のコーティングにおいては、いずれのコーティング方法、例えばフィルム転写コーティング、ノズルアプリケータを用いたブレードコーティング、ロールアプリケータを用いたブレードコーティング、SDTA(short dwell time application)型のブレードコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング又は同様のコーティング方法が適用可能である。
【0012】
本発明の紙及び方法により、先行技術よりもずっと多くの利点が得られる。
本発明の紙は極めて高密度である。本発明の紙のおかげで高品質の印刷物が得られ、また印刷した紙における波打ちが軽減される。水分傾斜を最小限に抑えることにより乾燥に必要なエネルギー量が減るが、これは印刷した紙の表面に乾燥が集中するからである。更に、紙からの水分の過剰な蒸発は、紙の印刷品質を低下させる恐れがある。
本発明により、印刷用紙として適用可能な高品質の紙を製造するための単純で費用効率の高い方法が得られる。更に、本発明により、工業的な適用が可能な、簡単、単純で手頃な製紙方法が得られる。
以下において、本発明を、添付の図面を参照しながら詳細な実施形態例を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】水銀ポロシメータにより測定した、紙のコーティング層の空隙径分布曲線の概略の測定データを示す。
【図2】平滑化した図1の空隙径分布曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施例1
本実施例においては、約65g/m2の坪量を有し且つ印刷用紙として適用可能なLWCタイプの紙を、それ自体が既知である機械パルプから形成した。木材含有原紙を、顔料/接着剤の混合物で軽くシングルコートした。コート質量は11g/m2/片面であった。使用した顔料はカオリン及び/又はタルクであった。或いは、それ自体が既知であるいずれの顔料も、顔料として使用することができる。使用した接着剤はSBラテックスであった。
2種類の異なるコーティング混合物:(a)40部のカオリン、60部のタルク及び14部の接着剤を含む混合物、(b)100部のカオリン及び14部の接着剤を含む混合物を調製した。使用したカオリンは、Sedigraph 5100装置による測定で2μm未満の粒子の割合が85〜95%である粒径分布を有していた。更に、コーティング混合物は、それ自体が既知である添加剤を2.1〜2.6部含んでいた。コーティング混合物における固形分は、58〜60質量%の範囲であった。
コーティング後、紙をスーパーカレンダリングした。
【0015】
この試験において、紙のコーティング層の空隙率は、Mercuryにより提供される2つの水銀ポロシメータ装置:Micromeritics Autopore III及びPascalシリーズ140/440を用いて求められた。結果は、互いに十分に一致した。得られる結果は、装置に関係なく再現性が高いことが観察された。
本発明の紙サンプルにおけるコーティング層について得られた空隙率は(a)0.044ml/g及び(b)0.052ml/gであった。
【0016】
使用した基準紙は、コーティング混合物が60部のカオリン(Century)、40部の炭酸カルシウム(Covercarb 75)及び12部のラテックス(DL966)を含む対応する木材含有LWC紙であった。更に、コーティング混合物は、それ自体が既知の添加剤を1.5部含んでいた。木材含有原紙をブレードコートした。コート質量は11g/m2/面であった。コーテッド紙を、光沢レベル65%にまでスーパーカレンダリングした。基準紙のコーティング層の空隙率は、Mercury社の水銀ポロシメータにより0.07ml/gを越えると測定された。
水銀ポロシメータにより測定され且つ図1及び図2に示された空隙率は、基準紙の測定から導き出される。曲線は、紙全体で測定した空隙径分布を含む。図2は、2つのピークをはっきりと示している。約0.1μm地点の第1のピークはコーティング層の空隙率に対応し、約1μm地点の第2のピークは原紙の空隙率に対応する。コートの空隙率は、図1のおおまかな測定データから計算される。コートの空隙率は、0.02〜0.25μmの間におさまる。原紙が空隙率に与える影響は、0.02〜0.25μmの間ではごく僅かであった。コートの空隙率は、0.02〜0.25μmの累積空隙率(cumulative porosity)として求められた。
【0017】
実施例2
本実施例においては、印刷用紙として適用可能であって約65g/m2の坪量を有する、本発明によるシングルコートされたLWCタイプの紙を形成した。原紙は木材を含有していた。本発明の印刷用紙に使用したコーティング混合物は、100部の板状カオリン顔料、接着剤としての16部のSBラテックス及び3.3部の添加剤(例えば、レオロジー調整剤、染料)を含む混合物であった。表1に、Sedigraph 5100装置で測定した顔料の粒径分布を示した。
使用した基準紙は、65g/m2の坪量を有するシングルコートされた木材含有LWC紙であった。コーティング層は、カオリンとカーボネートとの典型的な混合物であった。
紙を、SDTAコーティングヘッドを用いてブレードコーティングによりシングルコートした。コート質量は11g/m2/面であった。コーティング後、紙をスーパーカレンダリングした。カレンダリング条件は、65%の光沢レベルが得られるように選択された。
【0018】
表1

【0019】
水銀ポロシメータでの測定により、紙のコーティング層の空隙率は、本発明の印刷用紙において0.053ml/gであり、基準紙で0.077ml/gであると求められた。
紙を、Albert Frakenthal A101S印刷機械を用いてHSWO印刷により印刷した。印刷では市販のHSWO印刷インキを使用した。ウェブの出口温度は、乾燥後130℃であった。
印刷後、本発明の印刷用紙を基準紙と比較したところ、本発明の印刷用紙においては、目視検査で波打ちの観点からかなりの改善が観察された。波打ちは、例えば、印刷及び乾燥後にAFT値を求めるAFT法により測定することができる。
紙の製造、コーティング、カレンダリング及び印刷は、それ自体が既知の方法で行われ、ここではこれ以上詳細に説明しない。
【0020】
全ての試験において、本発明の紙は、紙の波打ち並びに印刷の均一性及び鮮明さに基づき、良質な印刷用紙であると判明した。
試験において、紙の表面構造が高密度であるため印刷した表面と印刷していない表面との間での水分傾斜が低いことから、HSWO印刷において波打ちが小さいことが観察された。
要約すると、本発明の方法により良質の印刷用紙が簡単に得られると結論づけることができる。
【0021】
本発明の紙及び方法は、極めて多岐にわたる印刷用紙製品を製造するにあたって様々な実施形態で適用可能である。
本発明は、上記の実施例だけに限定されず、請求項によって定義された創意の範囲内で多くの別の態様が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維系原料から形成され且つ印刷用紙として適用可能な紙であって、前記紙の表面が、表面層を形成するために前記紙の表面の少なくとも一面に混合物を配置することでもって、表面に十分な密度を施すことにより表面処理され、前記混合物が、乾燥質量の75〜95質量%の顔料と、乾燥質量の5〜25質量%の接着剤とを含み、前記紙の表面層の空隙率が、水銀ポロシメータ法による定義で0.07ml/g未満であることを特徴とする紙。
【請求項2】
前記紙の表面層の空隙率が、水銀ポロシメータ法による定義で0.06ml/g未満である、請求項1に記載の紙。
【請求項3】
前記顔料が、カオリン、タルク、カーボネート、石膏及びこれらの混合物の群から選択される、請求項1又は2に記載の紙。
【請求項4】
前記顔料として、板状顔料が少なくとも部分的に使用されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の紙。
【請求項5】
前記接着剤が、デンプン、タンパク質、ラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びこれらの混合物等の群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の紙。
【請求項6】
前記混合物が、乾燥質量の82〜92質量%の顔料を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙。
【請求項7】
前記混合物が、乾燥質量の8〜17質量%の接着剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の紙。
【請求項8】
前記紙が、カレンダリングされている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の紙。
【請求項9】
前記紙が、HSWO印刷において印刷用紙として適用可能である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の紙。
【請求項10】
印刷用紙として適用可能であり且つ繊維系原料から形成される紙を製造する方法であって、前記紙の表面に十分な密度を施し、且つ表面層の空隙率が水銀ポロシメータ法による定義で0.07ml/g未満となるように表面層を形成するために、少なくとも一面を乾燥質量の75〜95質量%の顔料及び乾燥質量の5〜25質量%の接着剤を含む混合物でコートすることでもって、前記紙を表面処理することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記表面層の空隙率が水銀ポロシメータ法による定義で0.06ml/g未満になるように、十分な密度を前記紙の表面層に施す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
接着剤に対する顔料の比を制御する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記紙をカレンダリングする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−501784(P2011−501784A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504775(P2010−504775)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050228
【国際公開番号】WO2008/132283
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509112604)ウーペーエム キュンメネ オーユーイー (6)
【Fターム(参考)】