説明

紙器用水性グラビア印刷インキ組成物

【課題】乾燥性、レベリング性が良好な紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を提供する。
【解決手段】着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂及び水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、固形分濃度が15〜30質量%であり、アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足し、水性媒体は、下記条件2を満足することを特徴とする紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。条件1:アルカリ可溶型水溶性樹脂は、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有し、酸価が100〜210mgKOH/gである。条件2:水性媒体は、水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4のアルコールからなり、インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量が0.1〜2.5質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に関し、より詳しくは、組成物中に含まれている低級アルコールの量を極力少なくし、固形分濃度を高濃度とすることができる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であり、これを用いてコート紙等の浸透性の低い紙基材に刷版(固形分濃度が高濃度な場合は、浅版化した刷版)を使用し印刷しても従来と同じように良好なインキ性能(濃度、乾燥性、レベリング適性、印刷適性)を有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
菓子、ティッシュ、洗剤等の食品から家庭用品までの外装箱、酒類や飲料のマルチパック用パッケージ等には、美粧化のために水性インキがグラビア方式で印刷され、さらに、表面保護や光沢付与のために水性オーバープリントニスが塗工されている。
例えば、最近、缶ビールは、6缶パックとして陳列・販売される機会が非常に多くなっている。そして、特に目につくのがそれらのパーケージの印刷のきれいさである。ビール業界の市場シェア争いは熾烈を極め、最近では0.1%程度の差で売り上げランキングが入れ替わる可能性すらある。ビール業界に限ったことではないが、売り上げランキングのトップ企業には高いステイタスがあり、それが世間の信用や認知度にも結びつく。そこで、ビール業界では広告・宣伝への注力はもとより、お客様が製品を手に取ったときの印象が少しでも良くなるように、印刷業界を巻き込んで、缶やパッケージの印刷品質にまでこだわった販売戦略がとられている。
【0003】
このような6缶パックの印刷用紙基材には、表面に炭酸カルシウムなどの無機粒子と樹脂等とからなる塗工層を緻密に設けたコート紙が利用されている。コート紙は、表面が平滑で光沢があり、また、被覆剤組成物の浸透を抑制して歩留まり性を高めるという特徴を有するために、精緻で高濃度な印刷と高光沢の付与を可能にする。しかし、被覆剤組成物の印刷・塗工の際に、コート紙は非塗工紙と比較して乾燥性を低下させるという欠点がある。本来、紙基材中への浸透による乾燥が期待できるときは、水性被覆剤組成物の水性媒体が水だけでも良好な乾燥性が得られることも多い。ところが、コート紙を利用すると、浸透の抑制により乾燥が阻害される分、乾燥性が低下する。乾燥性は印刷物の生産効率に直結するファクターであり、特に大量に消費される缶ビール等のパッケージの印刷では極めて重要な性能となる。そこでコート紙を利用して、いかに乾燥性の低下をなくすかが大きな検討課題になっている。
【0004】
また、コート紙の浸透を抑制する性能は、同時に被覆剤組成物の紙面での広がりも抑制することから、印刷物の場合に、シャドウ部(網点面積率の高い部分)では印刷抜けが生じたり、ハイライト部(網点面積率の低い部分)ではざらついた感じに見えるといった結果になる。そして、グラビア印刷方式では、この様な印刷抜けやざらつき感が顕著になりやすい。
【0005】
グラビア印刷とは、円筒状の版材の表面に、画像部として“セル”と呼ばれる円筒状、格子状、ピラミッド状等の独立した微細な凹部を設け、その中に一度インキを充填し、ドクターブレードと呼ばれる板状の部材で凹部以外の部分に付着したインキを掻き取った後、版面に印刷基材を押圧し、セル内に残ったインキのみを印刷基材に転移させる印刷方式である。ここで、インキがセルから印刷基材に転移した後に広がらないと、インキは印刷基材上で点在することになり、印刷抜けやざらつき感が出る。したがって、インキの広がり性(レベリング性)は、印刷抜けやざらつき感をなくすために必要な性能と言える。なお、インキが広がりすぎると、今度はぼやけた感じになるため、レベリング性には適度な範囲が求められる。
【0006】
以上のような水性のインキの乾燥性やレベリング性を向上させるためには、低級アルコール成分を含有させるのが効果的であることが知られている。そこで、通常、これら水性のグラビアインキがコート紙に印刷・塗工される際には、低級アルコールが40%程度と多量に含まれている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、近年、自然環境の保護や労働環境の改善が強く求められるようになり、印刷業界においても、改正大気汚染防止法の施行により、2010年末までに業界全体で揮発性有機化合物(VOC)の排出量を3割削減することが義務付けられている。そして、グラビア印刷で規制対象となるのは、「グラビア印刷の用に供する乾燥施設の送風能力が27000m/時間以上」の場合であり、VOC排出濃度を、これまでの1300ppmC(ppmC=溶剤排出量×炭素数)から700ppmCまで削減する必要がある。
この対応手段としては、(1)インキに含まれる低級アルコール量を低減する方法、(2)グラビア印刷版深度(セルの深さ)を浅くして(浅版化)印刷することによって、印刷時のインキ使用量を低減する方法(例えば、特許文献2参照)が考えられる。
【0008】
しかしながら、(1)のこれまで利用されてきた水性被覆剤組成物から、単に低級アルコールを低減しただけの場合、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物では、印刷適性や乾燥性が低下するという問題があった。
また、(2)の方法では、グラビア印刷版の浅版化に伴ってセル容積が減少し、印刷時のインキ組成物の転移量は少なくなるので、有機溶剤の蒸発量は抑えられるが、インキ皮膜が薄膜となり、従来の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をそのまま使用すると、充分な濃度が得られない問題があった。そこで、充分な濃度が得られるよう、浅版化された印刷版で印刷する場合、通常、高固形分濃度のインキ組成物が考えられる。この場合、従来の低級アルコール含有量が多い場合では、高固形分濃度のインキ組成物を得ることは可能であると言える。しかし、印刷適性や印刷性能を良好にする原因物質の一つである低級アルコールを低減した上で、高固形分濃度としたインキ組成物は、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−31276号公報
【特許文献2】WO2007/088733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中に含まれている低級アルコールの量を極力少なくし、固形分濃度を高濃度とすることができ、コート紙などの浸透性の低い紙基材に刷版(固形分濃度が高濃度な場合は、浅版化した刷版)を使用して印刷しても従来と同じように良好なインキ性能(濃度、乾燥性、レベリング適性、印刷適性)を有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、低級アルコールの量が少ないなかでの流動性低下に起因するレベリング性や印刷適性の改良のため、アルカリ可溶型水溶性樹脂として特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂と、水性媒体として特定量の2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを使用すること、好ましくは、更にエマルジョン型の水性樹脂を使用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂及び水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、固形分濃度が15〜30質量%であり、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足し、上記水性媒体は、下記条件2を満足するものであることを特徴とする紙器用水性グラビア印刷インキ組成物である。
条件1
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、酸価100〜210mgKOH/gのスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂であり、上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂のモノマー成分であるマレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。
条件2
上記水性媒体は、水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4の低級アルコールからなり、上記炭素数1〜4の低級アルコールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が0.1〜2.5質量%である。
【0013】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、固形分濃度が20〜30質量%であり、更に、下記条件3のエマルジョン型の水性樹脂を含有することが好ましい。
条件3
上記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価が30〜50mgKOH/gであり、ガラス転移温度が15〜60℃である。
以下、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物について具体的に説明する。
【0014】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び水性媒体を必須成分として含有する。
<着色剤>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する着色剤としては、特に限定されず、通常、水性印刷インキで使用される従来公知の顔料が挙げられる。具体的には、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。また、有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げられる。
【0015】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記着色剤の含有量は、印刷時において4〜11質量%であることが好ましい。4質量%未満であると、印刷濃度の印刷物が得られないことがあり、一方、11質量%を超えると、得られる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度が高くなる傾向がある。
【0016】
また、本発明では、上記着色剤の分散性向上の目的で分散剤を含有しても良い。
上記分散剤としては特に限定されず、水性印刷インキで顔料等の分散性向上に使用される従来公知の分散剤が挙げられる。
また、本発明では、以下で説明する特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重体樹脂を使用しているため、乾燥性や流動性を向上さでるための体質顔料は必須ではないが、性能が低下しない範囲において、体質顔料を使用することもできる。上記体質顔料の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等が挙げられる。
【0017】
<水性媒体>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する水性媒体は下記条件2を満足するものである。
(条件2)
水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4の低級アルコールからなり、上記炭素数1〜4の低級アルコールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が0.1〜2.5質量%である。
すなわち、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物では、上記水性媒体は、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有するものである。これにより、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性やレベリング性の向上、また、グラビア印刷方式で印刷するときの印刷適性の向上を図ることができる。
【0018】
上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量が本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中0.1質量%未満であると、低級アルコールの含有量を抑えたときに、乾燥性やレベリング性が低下する。一方、2.5質量%を超えると、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の経時安定性が低下する傾向がある。本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性やレベリング性がより良好であることから、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量の好ましい下限は0.5質量%、好ましい上限は2.0質量%である。
【0019】
上記炭素数1〜4の低級アルコールとしては、従来から水性被覆剤組成物に使用されているものであれば特に限定されず、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソブタノール等を挙げることができる。
また、上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量が本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中30質量%を超えると、VOC排出濃度が高くなる。上記低級アルコールの含有量は、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中15〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。15質量%より少ないと、印刷適性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、上述したように、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有するため、後述する特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂を含有するため、揮発性有機化合物である上記低級アルコールの含有量をできるだけ少なくすることができ、かつ、印刷適性、レベリング性、乾燥性に優れたものとすることができる。
【0021】
また、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記水性媒体は、水を含有する。上記水の含有量を適宜調整することで、上記水性媒体における上述した2−エチル−1,3−ヘキサンジオール及び上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量を上述した範囲内に調整することができる。
【0022】
<アルカリ可溶型水溶性樹脂>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足するものである。
(条件1)
酸価100〜210mgKOH/gのスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂であり、上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂のモノマー成分であるマレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。
【0023】
上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂の酸価が100mgKOH/g未満であると、上述した水性媒体中での溶解性が低下し、一方、210mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下してしまう。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の酸価の好ましい下限は120mgKOH/g、好ましい上限は200mgKOH/gである。
【0024】
上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂は、モノマー成分として酸基含有エチレン性不飽和単量体であるマレイン酸ハーフルエステルと、スチレン系単量体と、必要に応じてその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体とを共重合して得られる、塩基性化合物の存在下で、水中に可溶となるようなスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂、具体的には、スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂である。上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を含む場合、具体的には、例えば、スチレン−アクリル−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂等のアルカリ可溶型水溶性樹脂が挙げられる。
【0025】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記マレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エチルカービトールハーフエステルとをモル比率で(マレイン酸イソブチルハーフエステル/マレイン酸エチルカービトールハーフエステル)100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。このような特定のマレイン酸ハーフエステルを用いることで、レベリング性や印刷適性が良好となる。
上記マレイン酸ハーフエステルにおいて、モル比率でマレイン酸イソブチルハーフエステルに対してマレイン酸エチルカービトールハーフエステルが45モルを超えると、耐水性が低下する傾向となる。
【0026】
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、それらの誘導体等のスチレン系単量体を挙げることができる。
【0027】
上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の含有量は、通常、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中に5〜25質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、顔料分散性が低下する傾向となることがあり、一方、25質量%を超えると、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の設計が困難となる。
【0029】
これらのアルカリ可溶型水溶性樹脂は、通常、塩基性化合物の存在下で水中に溶解させて水溶性樹脂ワニスとして使用する。
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂を水中に溶解するために使用する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等を挙げられる。具体的には、上記有機アミンとしては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等を挙げることができる。上記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。その中でも乾燥性を向上させるために、常温あるいはわずかの加温で容易に揮発するものが望ましい。
【0030】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物には、本発明の効果を低下させない範囲で、更に、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂以外の他の水性バインダー樹脂ワニス、例えば、水性シェラックワニス、水性カゼインワニス、水性ロジンマレイン酸樹脂ワニス、水性ポリエステル樹脂ワニス、水溶性セルロースワニス等を含有していてもよい。
【0031】
なお、本発明のアルカリ可溶型水溶性樹脂において、酸価は、以下の方法により求めることができる。
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
【0032】
<エマルジョン型の水性樹脂>
また、本発明では、上記着色剤の種類に応じて、又は、固形分濃度が高い紙器用水性グラビア印刷インキ組成物とする場合、適宜、エマルジョン型の水性樹脂を含有させることが好ましい。
上記エマルジョン型の水性樹脂としては、上述したスチレン系単量体とエチレン性不飽和単量体(好ましくは、単独で重合したときに得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体、例えば、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ブチルアクリレート等)とを主成分とするエチレン性不飽和単量体混合物を、高分子乳化剤の存在下で、乳化重合して得られた樹脂、スチレン−アクリル系水性樹脂、スチレン−マレイン酸系水性樹脂、スチレン−アクリル−マレイン酸系水性樹脂等であることが好ましい。
【0033】
上記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価が30〜50mgKOH/gであり、ガラス転移温度が15〜60℃であることが好ましい。上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価が30mgKOH/gより小さいと、再溶解性が低下する傾向にあり、酸価が50mgKOH/gより大きいと、乾燥性が低下する傾向があり、好ましくない。また、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度が15℃未満であると、ブロッキング性が低下するおそれがあり、60℃を超えると、印刷物の耐摩性が低下するおそれがある。
【0034】
また、上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に含まれる固形分中60質量%以下の範囲であることが好ましい。
また、固形分濃度が高い紙器用水性グラビア印刷インキ組成物とするには、上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に含まれる固形分中30〜60質量%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
上記高分子乳化剤としては、カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体、疎水性の高い上記芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(A)、及び、必要に応じて、その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体(B)を共重合して得られる酸価100〜200mgKOH/gの共重合樹脂を挙げることができる。
上記カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル等を挙げることができる。
上記高分子乳化剤の酸価が100mgKOH/g未満であると、高分子乳化剤の水中での溶解性が低下するおそれがある。200mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下するおそれがある。上記酸価は、150〜200mgKOH/gであることがより好ましい。
【0036】
上記高分子乳化剤を水中に溶解又は分散するために塩基性化合物を使用することができる。上記塩基性化合物としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0037】
なお、上記エマルジョン型の水性樹脂において、ガラス転移温度及び酸価は、以下の方法により求めることができる。
【0038】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは共重合体を構成する単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である)
【0039】
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
そして、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度とは、乳化重合に利用される全てのエチレン性不飽和単量体を、コア部、シェル部と分けずに1度に共重合した時に得られる共重合体のガラス転移温度を表す。
また、上記酸価は、高分子乳化剤に由来するものであり、例えば、酸価100mgKOH/gの高分子乳化剤が、水性樹脂の固形分比率として10質量%含まれているときの酸価は酸価10mgKOH/gとなる。
【0040】
<その他添加剤>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物には、使用用途に応じて、任意成分を適宜含有していてもよい。上記任意成分としては、界面活性剤、ワックス、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調製剤、乾燥調製剤、光沢剤、架橋剤等、種々の添加剤を挙げることができる。
【0041】
以上の上記構成材料を用いて、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を製造する方法を説明する。
まず、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び、必要に応じて添加する分散剤等を混合し、通常のインキ製造装置(例えば、ボールミル、アトライター、サンドミル等)を用いて攪拌、混練り後、アルカリ可溶型水溶性樹脂、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の水性媒体、必要に応じて、エマルジョン型の水性樹脂、ワックス、消泡剤等を添加混合して製造する方法が挙げられる。
【0042】
このようにして製造される本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、固形分濃度が15〜30質量%である。15質量%未満であると、乾燥性が低下する傾向となり、30質量%を超えると、粘度が高くなる傾向となる
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の固形分濃度は、20〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜30質量%である。固形分濃度がこの範囲にあることで、グラビア印刷に際して浅版化した刷版を使用することが可能となる。
なお、上記固形分濃度とは、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いてグラビア印刷されるときの固形分濃度である。
【0043】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の印刷方法について説明する。
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を高品位印刷用途として使用する方法として、コート紙等の紙基材に、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をグラビア印刷方式で印刷する方法が例示できる。
【0044】
印刷物の製造効率を考慮すると、印刷スピードは150m/分以上が好ましい。また、上述の印刷スピードとするために、印刷後に、各種加熱乾燥装置を利用した乾燥工程を有していてもよい。
なお、印刷時、上記紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度は、ザーンカップN0.3の流出秒数が15〜19秒程度であることが好ましい。15秒未満であると、レべリグ性が低下する傾向となることがあり、19秒を超えると、印刷適性が低下する傾向となることがある。
【0045】
また、通常、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、濃縮の状態で保存され、印刷時に希釈剤により希釈される。上記希釈は、印刷時の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分濃度が、上述したように15〜30質量%となる範囲であるが、浅版化した刷版を使用する場合は、印刷適性及び印刷性能の観点から、印刷時の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分濃度は、20〜30質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0046】
さらに、具体的に印刷方法を説明する。
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いて印刷した印刷物には、通常、紙器用水性オーバープリントニス組成物が塗工される。この本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いて印刷する工程、及び、紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工する各工程は、一連の工程で行われても良く、別々の機会に工程を分けて行われても良い。
また、例えば、6缶パックのパッケージなどは、印刷物を製造後、打ち抜き加工等の後加工が行われるが、この後加工は、印刷、塗工と一連の工程で行われても良く、別々の機会に工程を分けて行われても良い。
【0047】
このようなグラビア印刷、塗工、後加工までを一度に行える装置としては、例えば、ボブストチャンプレンレマニックグラビア輪転打抜機が挙げられる。
具体的には、紙基材を給紙部に供給し、給紙部から本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物のグラビア印刷方式による印刷後、紙器用水性オーバープリントニス組成物の塗工による被覆を、印刷・塗工スピードとして150〜200m/minで印刷及び塗工を行い、その後、打ち抜き工程を経て、目的の印刷物を得ることができる。
さらに、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を印刷後、及び、紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工後、乾燥にあたっては熱風乾燥装置を利用することにより、印刷効率、塗工効率、全体の印刷物の製造効率が高くなる。
【0048】
上記印刷方法で使用する紙器用水性オーバープリントニス組成物としては、VOC排出濃度を700ppmCまで削減する必要があるので、水性媒体及びエマルジョン型の水性樹脂を必須成分として含有する紙器用水性オーバープリントニス組成物を使用することが好ましい。
【0049】
上記水性媒体としては、水と2−エチル−1,3−ヘキサンジオールとからなる水性媒体が好適に用いられる。
上記水性媒体は、更に必要に応じて炭素数1〜4の低級アルコールを紙器用水性オーバープリントニス組成物中30質量%以下で含有させることができるが、炭素数1〜4の低級アルコールを使用する際は、VOC排出濃度を低減させるために、極力少なくすることが好ましい。上記炭素数1〜4の低級アルコールとしては、上述した本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において説明したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量は、紙器用水性オーバープリントニス組成物中0.1〜2.5質量%であることが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満であると、乾燥性やレベリング性が低下することがある。一方、2.5質量%を超えると紙器用水性オーバープリントニス組成物の経時安定性が低下する傾向がある。
【0051】
次に、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を構成する水性樹脂について説明する。
上記水性樹脂は、エマルジョン型の水性樹脂である。上記エマルジョン型の水性樹脂としては、具体的には、乾燥性付与や強靭な塗膜が得られる点より、高分子乳化剤の存在下で、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体Aを主成分とするエチレン性不飽和単量体を乳化重合させてコア部を形成し、次いで、単独で重合した時に得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体Bを重合させてシェル部を形成して得られる樹脂であり、酸価が50〜70mgKOH/gであり、ガラス転移温度が40〜70℃であることが好ましい。
【0052】
上記高分子乳化剤としては、カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体、疎水性の高い芳香環を有するエチレン性不飽和単量体A、及び、必要に応じて、その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合して得られる酸価100〜200mgKOH/gの共重合樹脂を挙げることができる。
【0053】
上記芳香環を有するエチレン性不飽和単量体Aとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、それらの誘導体等のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル等を挙げることができる。
【0054】
上記単独で重合した時に得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体Bとしては、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ブチルアクリレート等を挙げることができる。
【0055】
上記カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル等を挙げることができる。
【0056】
上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0057】
上記高分子乳化剤は、酸価が100〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価が100mgKOH/g未満であると、高分子乳化剤の水中での溶解性が低下するおそれがある。酸価が200mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下するおそれがある。
【0058】
上記高分子乳化剤を水中に溶解又は分散するために塩基性化合物を使用することができる。上記塩基性化合物としては、上述した本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において説明したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
このようなコア−シェル構造を有する水性樹脂は、例えば、下記の重合条件によりパワーフィード重合法を利用して得ることができる。
重合条件
(第一段階)
核(コア部)の形成
例えば、共重合成分として上記単量体A及び上記単量体Bを用いて、高分子乳化剤の存在下で上記単量体Aの方が上記単量体Bの添加時間より長くなる様な添加速度で添加し、乳化させることにより上記単量体Aを主成分としたコア部を形成する。
(第二段階)
第一段階の反応終了後、形成させたコア部をシードとし、上記単量体Bを添加して、乳化重合を行うことにより、柔軟な膜を形成するソフトポリマーをコア部の表面に付着させ、上記単量体Bの重合物からなるシェル部を形成し、2層構造のエマルジョンを得る。なお、柔軟な膜を形成するソフトポリマーは、コア部表面に局在化するように重合させることが好ましい。
【0060】
その他、上記コア−シェル構造を有する水性樹脂を製造する方法としては、シード重合法、コア−シェル重合法等の多段重合法が利用できる。
このような、剛性や皮膜強度に寄与するコア部と、成膜性や耐久性に寄与するシェル部との両方を有するエマルジョン型の水性樹脂を含有することにより、紙器用水性オーバープリントニス組成物として優れた性能を発揮するものとなる。
【0061】
なお、本発明において、ガラス転移温度、酸価および質量平均分子量は、以下の方法により求めることができる。
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは共重合体を構成する単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である)
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
そして、エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度とは、乳化重合に利用される全てのエチレン性不飽和単量体を、コア部、シェル部と分けずに1度に共重合した時に得られる共重合体のガラス転移温度を表す。
また、上記酸価は、高分子乳化剤に由来するものであり、例えば、酸価100mgKOH/gの高分子乳化剤が、水性樹脂の固形分比率として10質量%含まれているときの酸価は酸価10mgKOH/gとなる。
【0062】
上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性オーバープリントニス組成物中に固形分濃度で20〜45質量%であることが好ましく、乾燥性の点から、固形分濃度が高いほうがより好ましい。
【0063】
上記紙器用水性オーバープリントニス組成物は、使用用途に応じて、ワックス、消泡剤等の任意成分を適宜含有していてもよい。
また、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を製造する方法としては、上記各構成材料をディスパー等の攪拌装置で均一に攪拌することにより得る方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、上記構成からなるものであるため、含まれる低級アルコールの量を極力少なくし、固形分濃度を高濃度とすることができ、コート紙などの浸透性の低い紙基材に刷版(固形分濃度が高濃度の場合は、浅版化した刷版)を使用して印刷しても従来と同じように良好なインキ性能(濃度、乾燥性、レベリング適性、印刷適性)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものである。また、表中の各材料の分量の数字についても「質量部」である。
【0066】
<紙器用水性グラビア印刷インキ組成物>
構成材料
(有色顔料)
赤色顔料(PR48:3)
黄色顔料(PY14)
青色顔料(PB15:3)
黒色顔料(PB7)
(水性媒体)

イソプロパノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール
(消泡剤)
BYK−028#C(商品名、ビックケミー社製)
(ワックス)
ケミパール−400W(商品名、三井化学社製、ポリエチレンワックス)
【0067】
(エマルジョン型の水性樹脂製造例)
<エマルジョン型の水性樹脂1>
アクリル酸8質量%、メタクリル酸メチル70質量%、アクリル酸ブチル22質量部からなるアルカリ可溶性樹脂のジメチルエタノールアミン水溶液を高分子乳化剤として調製した。この高分子乳化剤の樹脂固形分53質量部に対し、2−エチルヘキシルアクリレート19質量部、スチレン28質量部を添加し、常法により乳化重合し、酸価33、ガラス転移温度22℃、固形分濃度40%のエマルジョン型の水性樹脂1を得た。
【0068】
<エマルジョン型の水性樹脂2>
アクリル酸12質量%、メタクリル酸メチル71質量%、アクリル酸ブチル17質量部からなるアルカリ可溶性樹脂のジメチルエタノールアミン水溶液を高分子乳化剤として調製した。この高分子乳化剤の樹脂固形分60質量部に対し、2−エチルヘキシルアクリレート8質量部、スチレン20質量部、メタクリルメチル12質量部を添加し、常法により乳化重合し、酸価47、ガラス転移温度55℃、固形分濃度40%のエマルジョン型の水性樹脂2を得た。
【0069】
(アルカリ可溶型水溶性樹脂の製造例)
<アルカリ可溶型水溶性樹脂1>
スチレン22質量部、α−メチルスチレン6質量部、メタクリル酸6質量部、メチルメタクリレート28質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル34質量部を常法の重合方法により合成し、酸価150mgKOH/g、重量平均分子量19000の共重合体を得た。この共重合体樹脂をアンモニア水で中和し、固形分濃度20.2%のアルカリ可溶型水溶性樹脂1を得た。
【0070】
<アルカリ可溶型水溶性樹脂2>
スチレン26質量部、α−メチルスチレン6質量部、メタクリル酸3質量部、メチルメタクリレート35質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル30質量部を常法の重合方法により合成し、酸価112mgKOH/g、重量平均分子量18000の共重合体を得た。この共重合体樹脂をアンモニア水で中和し、固形分濃度20.2%のアルカリ可溶型水溶性樹脂2を得た。
【0071】
<アルカリ可溶型水溶性樹脂3>
スチレン24質量部、α−メチルスチレン6質量部、メタクリル酸8質量部、メチルメタクリレート24質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル38質量部を常法の重合方法により合成し、酸価169mgKOH/g、重量平均分子量19000の共重合体を得た。この共重合体樹脂をアンモニア水で中和し、固形分濃度20.2%のアルカリ可溶型水溶性樹脂3を得た。
【0072】
<アルカリ可溶型水溶性樹脂4>
スチレン20質量部、α−メチルスチレン6質量部、メチルメタクリレート14質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル30質量部、無水マレイン酸のエチルカルビトールのハーフエステル30質量部を常法の重合方法により合成し、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量18500共重合体を得た。この共重合体樹脂をアンモニア水で中和し、固形分濃度20.2%のアルカリ可溶型水溶性樹脂4を得た。
【0073】
(水性グラビア印刷用インキベースの調製)
表1の配合に従って、顔料(赤色:PR48:3、黄色:PY14、青色:PB15:3、黒色:カーボンブラック)、アルカリ可溶型水溶性樹脂1〜4及び水の混合物をビーズミルで混合した後、残りの材料を添加混合して、赤、黄、青、黒各色の水性グラビア印刷用インキベースA〜Dを得た。
【0074】
【表1】

【0075】
(実施例1〜12、比較例1、2の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の調製)
表2の配合組成となるように、上述の黒色、赤色、黄色、青色の水性グラビア印刷用インキベース、エマルジョン型の水性樹脂、アルカリ可溶型水溶性樹脂、イソプロパノール、消泡剤、ワックス、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、水を攪拌混合した。その後、イソプロパノール/水が70/30の希釈剤Aを用いて、ザーンカップNo.3で15〜19秒となる範囲で、インキ組成物中の固形分濃度が15〜30質量%、イソプロパノールの含有量が13〜24質量%の範囲となるように希釈し、黒色、赤色、黄色の実施例1〜11、青色の実施例1〜12、黒色、赤色、青色、黄色の参照例1、2の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を得た。
【0076】
(参照例1の水性グラビア印刷用インキ組成物)
参照例1の各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物として、市販品を用いた。
表3に、用いた市販品の黄色、赤色、青色、黒色のそれぞれの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の配合組成を示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
<紙器用水性オーバープリントニス>
構成材料
水性媒体:水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール
消泡剤:BYK−028#C(商品名、ビックケミー社製)
ワックス:ケミパール−400W(商品名、三井化学社製)
水性樹脂:下記の水性樹脂製造例により得られた水性樹脂1、2及び市販の水性樹脂3
【0080】
(水性樹脂製造例)
水性樹脂1
アクリル酸25質量%、スチレン50質量%、α−メチルスチレン25質量%からなるエチレン性不飽和単量体混合物を共重合して得たアルカリ可溶性樹脂のアンモニア水溶液を高分子乳化剤として調製した。この高分子乳化剤に、該高分子乳化剤の樹脂固形分30質量部に対し、2−エチルヘキシルアクリレートの12質量部を30分間、スチレンの52.7質量部を1時間、同時に滴下開始し、所定の時間をかけて滴下し、常法のパワーフィード乳化重合法でエマルジョンを得た。その後、このエマルジョンをコア部として2−エチルヘキシルアクリレートの5.3質量部を加え重合し、酸価58mgKOH/g、ガラス転移温度49℃、固形分濃度46%のエマルジョン型の水性樹脂1を得た。
【0081】
水性樹脂2
アクリル酸28質量%、スチレン50質量%、α−メチルスチレン22質量%からなるエチレン性不飽和単量体混合物を共重合して得たアルカリ可溶性樹脂のアンモニア水溶液を高分子乳化剤として調製した。この高分子乳化剤30質量部に対し、スチレン56.5質量部を添加しながら、常法により乳化重合し、エマルジョンを得た。その後、このエマルジョンをシードとして、2−エチルヘキシルアクリレート13.5質量部を加えて、常法により重合し、酸価65mgKOH/g、ガラス転移温度60℃、固形分濃度46%のエマルジョン型の水性樹脂2を得た。
【0082】
水性樹脂3
市販エマルジョン型水性樹脂、ジョンクリル352(商品名、ジョンソンポリマー社製、酸価53mgKOH/g、ガラス転移温度60℃、固形分濃度45%)
【0083】
(紙器用水性オーバープリントニス1〜9の調製)
表4の配合組成となるように上記構成材料をディスパーで均一に攪拌して、紙器用水性オーバープリントニス1〜9を得た。
【0084】
【表4】

【0085】
<紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の印刷物の製造及び印刷物の評価>
実施例及び比較例に係る各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性、レベリング性、網点再現性について、下記の条件で各紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をコート紙にグラビア印刷し、その印刷物について評価した。
【0086】
(実施例1〜4、6〜10、12、参照例1、比較例1、2の印刷条件)
<印刷条件>
用紙:コート紙(商品名:CRC230、レンゴー(株)社製)
印刷機械:グラビア校正機
インキを印刷する刷版:ヘリオ175ine/inch
(図柄:網点濃度5〜100%の諧調を有する諧調版)
印刷速度:80m/min
乾燥条件:80℃
【0087】
(実施例5、11の印刷条件)
<印刷条件>
用紙:コート紙(商品名:CRC230、レンゴー(株)社製)
印刷機械:グラビア校正機
インキを印刷する刷版:ヘリオ200ine/inch
(図柄:網点濃度5〜100%の諧調を有する諧調版)
印刷速度:80m/min
乾燥条件:80℃
【0088】
(乾燥性)
各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性は、東芝グラビア印刷機にて印刷速度を変えて印刷・塗工を行い、ガイドロールに(印刷面、塗工面)が触れた時に、ガイドロールにインキが付着して汚れる度合いを目視にて、下記基準にて評価した。その結果を表5に示した。
評価
○:ガイドロールに付着しない。
△:ガイドロールへの付着量が少ない。
×:ガイドロールへの付着量が多い。
【0089】
(レベリング性)
得られた各印刷物の網点濃度100%であるベタ部の濃淡ムラ、抜けを目視にて下記基準で評価した。その結果を表5に示した。
評価基準
○:濃淡むら、抜けがないもの
△:濃淡むら又は抜けが少しあるもの
×:濃淡むら又は抜けが多いもの
【0090】
(網点再現性)
得られた各印刷物の網点の状態を目視にて下記基準で評価した。その結果を表5に示した。
評価基準
○:参照インキ1(市販インキ)より優れるもの
△:参照インキ1(市販インキ)と同等なもの
×:参照インキ1(市販インキ)より劣るもの
【0091】
【表5】

【0092】
<紙器用水性オーバープリントニスを塗工した印刷物の製造及び印刷物の評価>
赤色、黄色、黒色の実施例1〜11の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物、青色の実施例1〜12の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物、赤色、黄色、青色、黒色の比較例1、2の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物、赤色、黄色、青色、黒色の参照例1の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物、紙器用水性オーバープリントニス1〜9を、表6の組合せとなるように下記の方法によりインライン方式で印刷及び塗工して、印刷物1〜13(実施例に係る紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を使用)、印刷物14、15(比較例1、2に係る紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を使用)、印刷物16(参照例1に係る紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を使用)を得た。
【0093】
(印刷物1〜10、13、印刷物14、15、印刷物16を得る印刷条件)
用紙:コート紙(商品名:CRC230、レンゴー(株)社製)
印刷機械:東芝グラビア印刷機
インキを印刷する刷版:ヘリオ175line/inch
(図柄:網点濃度5〜100%の諧調を有する諧調版)
ニスを塗布する刷版:ヘリオ175line/inch
印刷速度:150〜200m/min
乾燥条件:80℃・80cm/min
印圧:2.2t
【0094】
(印刷物11、12を得る印刷条件)
用紙:コート紙(商品名:CRC230、レンゴー(株)社製)
印刷機械:東芝グラビア印刷機
インキを印刷する刷版:ヘリオ200line/inch
(図柄:網点濃度5〜100%の諧調を有する諧調版)
ニスを塗布する刷版:ヘリオ200line/inch
印刷速度:150〜200m/min
乾燥条件:80℃・80cm/min
印圧:2.2t
【0095】
<印刷評価>
(乾燥性)
各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物及び水性オーバープリントニスの乾燥性は、東芝グラビア印刷機にて印刷速度を変えて印刷・塗工を行い、ガイドロールに(印刷面、塗工面)が触れた時に、ガイドロールに(インキ、ニス)が付着して汚れる度合いを目視にて、下記基準にて評価した。その結果を表6に示した。
評価
○:ガイドロールに付着しない。
△:ガイドロールへの付着量が少ない。
×:ガイドロールへの付着量が多い。
【0096】
(レベリング性)
印刷物1〜13、印刷物14、15、印刷物16のレベリング性を目視にて、下記基準にて評価した。その結果を表6に示した。
○:なみうちがないもの
△:少しなみうちがあるもの
×:なみうちが多いもの
【0097】
(耐摩擦性)
印刷物1〜16を2.5cm×25cmに切断してテストピースとし、学振型耐摩擦試験機((株)大宋科学精器製作所製)を使用して、当て紙(非印刷状態のコート紙)を印刷物の印刷面に当てて、500gの荷重で500回ずつ摩擦して耐摩擦性を下記基準にて評価した。その結果を表6に示した。
評価
○:当て紙が全く損傷しないもの
△:当て紙に少し損傷が認められないもの
×:当て紙に損傷が認められるもの。
【0098】
(耐水耐摩擦性)
印刷物1〜16を2.5cm×25cmに切断してテストピースとし、学振型耐摩擦試験機を使用して((株)大宋科学精器製作所製)、当て紙として非印刷状態のコート紙にガーゼを被せ、さらに注射針で水を5滴浸透させたものを用い、200gの荷重で50回ずつ摩擦して耐水耐摩擦性を下記基準にて評価した。その結果を表6に示した。
評価基準
○:ガーゼが全く汚れないもの
△:ガーゼがうっすらと汚れるもの
×:ガーゼが汚れるもの
【0099】
(耐ブロッキング性)
印刷物1〜16を5cm×5cmに切断した各サンプルピースの印刷面同士を合わせ、1000g/cmの荷重をかけて、35℃/90%RHの環境条件下で24時間放置した後、サンプルピース同士の接触面を剥離したときのブロッキングの程度からブロッキング性を下記基準にて評価した。その結果を表6に示した。
評価基準
○:接触面が抵抗なく剥離するもの
△:少し取られるもの
×:多く取られるもの
【0100】
(溶剤排出量(炭化水素濃度ppmC))
上記印刷方法の際に排出される溶剤排出量(VOC排出濃度)を簡易型炭化水素濃度測定装置により測定した。その結果を表6に示した。
【0101】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、低級アルコールの量を極力少なくし、固形分濃度を高濃度とすることができ、コート紙などの浸透性の低い紙基材に刷版(固形分濃度が高濃度な場合は、浅版化した刷版)を使用して印刷しても従来と同じように良好なインキ性能(濃度、乾燥性、レベリング適性、印刷適性)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂及び水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、
固形分濃度が15〜30質量%であり、
前記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足し、前記水性媒体は、下記条件2を満足するものである
ことを特徴とする紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。
条件1
前記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、酸価100〜210mgKOH/gのスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂であり、前記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂のモノマー成分であるマレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。
条件2
前記水性媒体は、水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4の低級アルコールからなり、前記炭素数1〜4の低級アルコールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、前記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が0.1〜2.5質量%である。
【請求項2】
固形分濃度が20〜30質量%であり、更に、下記条件3を満たすエマルジョン型の水性樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。
条件3
前記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価が30〜50mgKOH/gであり、ガラス転移温度が15〜60℃である。

【公開番号】特開2013−35967(P2013−35967A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174228(P2011−174228)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】