説明

紙塗工用組成物

【課題】 本発明の目的は、紙塗工用組成物の流動性を改善し、紙塗工用組成物の高速かつ、高濃度での塗工を可能とすると共に、塗工時の乾燥エネルギーを低減化し、塗工紙の生産コストに優れた紙塗工用組成物を提供することにある。
【解決手段】(A)顔料、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする紙塗工用組成物、さらには(A)顔料、(B)デンプン、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなる紙塗工用組成物であって、(A)顔料100重量部に対して(B)デンプンが10重量部以下であることを特徴とする紙塗工用組成物により、従来の紙塗工用組成物よりも優れた流動性を有し、紙塗工用組成物を高濃度化することができるため、バインダーマイグレーションを抑制することができ、塗工紙の塗工層強度を向上させるだけでなく、印刷適性をも向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用組成物に関するものである。さらに詳しくは、塗工紙を製造するに際し、特に高濃度での塗工において、粘度が低減され、流動性に優れた紙塗工用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の塗工技術の傾向として、中性抄紙の実用化に伴い紙塗工用組成物の顔料として、安価な炭酸カルシウムの多量使用に合せて塗工紙品質の向上を目的として紙塗工用組成物の高濃度化が指向される一方、主に、生産性向上等の目的でコーターの高速化が進められており、塗工時の乾燥エネルギーの低減化が図られている。これら高濃度塗工および高速塗工に伴い紙塗工用組成物に対して種々の性質が要求されるようになってきている。とりわけ紙塗工用組成物に優れた流動性が必要とされる。
【0003】
塗工紙の塗層は、デンプン、合成高分子ラテックス等の接着剤とカオリンと炭酸カルシウムを主たる顔料とする紙塗工用組成物を塗工することで形成される。高速塗工を行う為には、優れた流動性が必要とされることから、紙塗工用組成物の濃度を低下させて粘度を低減し、流動性を増大させる方法が一般的にとられるが、紙塗工用組成物の濃度を低下させた場合、着肉性、等のオフセット印刷適性は著しく低下する。即ち、印刷適性の点からはむしろ高濃度化した紙塗工用組成物を高速塗工する必要がある。そこで、高速塗工適性を与える為、例えば、湿式粉砕した重質炭酸カルシウムを顔料に用い、紙塗工用組成物の流動性を改善する方法(特許文献1)が開示されている。しかしながら、湿式粉砕重質炭酸カルシウムを多用した場合、かえって塗工紙の着肉性を悪化させることから望ましい方向ではない。又、接着剤としてのデンプンを冷水可溶性デンプン、デキストリン、等の低分子デンプンとし、高濃度化を図ると共に、塗工適性、印刷品質を向上させる方法(特許文献2)が開示されている。しかしながら、低分子デンプンを用いた場合、デンプンの不均一なマイグレーションが起こり易く、着肉ムラを発生させ易い。以上のように、従来の技術では高濃度紙塗工用組成物での高速塗工を満足させるものがないのが現状であり、改善が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−62296号公報
【特許文献2】特開昭58−169595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、紙塗工用組成物の流動性を改善し、紙塗工用組成物の高速かつ、高濃度での塗工を可能とすると共に、塗工時の乾燥エネルギーを低減化し、塗工紙の生産コストに優れた紙塗工用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)顔料、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする紙塗工用組成物、さらには(A)顔料、(B)デンプン、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなる紙塗工用組成物であって、(A)顔料100重量部に対して(B)デンプンが10重量部以下であることを特徴とする紙塗工用組成物により、従来の紙塗工用組成物よりも優れた流動性を有し、紙塗工用組成物を高濃度化できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における紙塗工用組成物の成分である(A)顔料は、紙の塗工に従来から一般に用いられているものでよく、白色無機顔料及び白色有機顔料が使用できる。白色無機顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、タルク、カオリン、クレー、焼成カオリン、ホワイトカーボン、デラミカオリン、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、コロイダルシリカなどが挙げられる。また白色有機顔料としては、例えば、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。これらの(A)顔料は、それぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0008】
本発明における紙塗工用組成物の成分として、必要に応じて用いられる(B)デンプンは、紙の塗工に従来から一般に用いられているものでよく、例えば、酸化でんぷんや尿素リン酸エステル化でんぷんをはじめとする無変性の、又は変性されたでんぷん類などが挙げられる。これらの(B)デンプンは、それぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。(A)顔料と(B)デンプンの組成割合は、(A)顔料100重量部に対して、通常、(B)デンプンが10重量部以下であり、好ましくは5重量部以下である。(B)デンプンが10重量部より多いと紙塗工用組成物の粘度が増大する傾向がある。
【0009】
本発明における紙塗工用組成物の成分として用いられる(C)デンプン以外の水性バインダーは、紙の塗工に従来から一般に用いられているものでよく、水溶性のバインダーや水乳化系のバインダーが使用できる。水溶性バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、カゼインやゼラチンをはじめとする水溶性プロテイン類、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやカルボキシメチルセルロースをはじめとする変性セルロース類などが挙げられる。また水乳化系バインダーとしては、例えば、カルボキシル基含有スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸メチルをはじめとするアクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系樹脂、ポリアクリルアミドをはじめとする無変性の、又は変性されたアクリルアミドの重合体または共重合体等のポリアクリルアミド系樹脂などが挙げられる。これらの(C)デンプン以外の水性バインダーのうち、水酸基またはカルボキシル基含有の水性バインダーが(D)ジルコニウム化合物との相互作用が強いために好ましく、より好ましくは変性セルロース類であり、更に好ましくはカルボキシメチルセルロースである。これらの(C)デンプン以外の水性バインダーは、それぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。(A)顔料と(C)デンプン以外の水性バインダーの組成割合は、用途や目的に応じて決定され、当業界で一般に採用されている組成と特に異なるところはない。両者の好ましい組成割合は、(A)顔料100重量部に対して、(C)デンプン以外の水性バインダーが0.05〜200重量部、より好ましくは0.1〜50重量部である。
【0010】
本発明における紙塗工用組成物の成分として用いられる(D)ジルコニウム化合物としては、例えば炭酸ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、ヨウ化ジルコニウムアンモニウム、フッ化ジルコニウムアンモニウム、オキシ塩化ジルコニウムアンモニウム、オキシヨウ化ジルコニウムアンモニウム等が使用されるが、これらのうち、炭酸ジルコニウムアンモニウムが取扱い面の点で優れているために好ましい。これらのジルコニウム化合物を配合することにより、流動性が改善され、これらのジルコニウム化合物は、それぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。(A)顔料と(D)ジルコニウム化合物の組成割合は、通常、(A)顔料100重量部に対し、0.01〜10重量部配合され、好ましくは、0.05〜5重量部、更に好ましくは、0.05〜2重量部である。
【0011】
本発明の紙塗工用組成物には、従来、紙塗工用組成物用いられている成分を目的に応じ配合することができ、これらの成分としては、例えば、分散剤、消泡剤、防腐剤、潤滑剤、保水剤、耐水化剤、また染料や有色顔料のような着色剤などが挙げられ、必要に応じて紙塗工用組成物の粘度に悪影響を与えない範囲で配合させることができる。
【0012】
本発明の紙塗工組成物は、従来より公知の方法、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、キャストコーターなど、公知の各種コーターを用いる方法により、紙に塗布される。その後必要な乾燥を行い、さらに必要に応じてスーパーカレンダーなどで平滑化処理を施すことにより、本発明の塗工紙を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紙塗工用組成物を用いることにより、従来の紙塗工用組成物よりも高速かつ、高濃度塗工が可能となり、塗工時の乾燥エネルギーを低減化するとともに塗工紙の生産コストを削減することができる。また本発明の紙塗工用組成物は、粘度を低減させることができ、固形分濃度を高くすることができるため、バインダーマイグレーションを抑制することができ、塗工紙の塗工層強度を向上させるだけでなく、印刷適性をも向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、含有量又は使用量を表す%及び部は、特に断らないかぎり重量基準である。
粘度は、B型粘度計[(株)東京計器製、BL型]を用い、4号ローター60rpm、25℃で、調整直後の紙塗工用組成物の粘度を測定した値である。
【実施例1】
【0015】
<紙塗工用組成物の製造例>
(A)顔料としてアルファグロス(顔料、イー・シー・シー・インターナショナル社製のクレー)50重量部、カービタル90(顔料、富士カオリン(株)製の炭酸カルシウム)50重量部を混合し、更にポリアクリル酸系顔料分散剤0.2重量部、(C)デンプン以外の水性バインダーのスチレン−ブタジエン系ラテックス12.5重量部を混合し、水を加えて、固形分65.5%となるようにマスターカラーを調製した。続いて、マスターカラーの(A)顔料100重量部に、(B)デンプンの尿素リン酸エステル化デンプン(日食MS−4600、日本食品化工社製のデンプン)の固形分が3重量部、及び(D)ジルコニウム化合物の炭酸ジルコニウムアンモニウム(30%濃度)の固形分が0.1重量部となる割合で添加し、固形分を65.0%に調整し、粘度 1730mPa・s(25℃)の紙塗工用組成物T1を得た。
【実施例2】
【0016】
実施例1における(B)デンプン、および(D)ジルコニウム化合物の添加量を表1に記載の添加量に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T2を得た。
紙塗工用組成物T2の粘度(25℃)の値を表1に示す。
【実施例3】
【0017】
(A)顔料としてアルファグロス(顔料、イー・シー・シー・インターナショナル社製のクレー)50重量部、カービタル90(顔料、富士カオリン(株)製の炭酸カルシウム)50重量部を混合し、更にポリアクリル酸系顔料分散剤0.2重量部、(C)デンプン以外の水性バインダーのスチレン−ブタジエン系ラテックス12.5重量部を混合し、水を加えて、固形分65.5%となるようにマスターカラーを調製した。続いて、マスターカラーの(A)顔料100重量部に、(C)デンプン以外の水性バインダーとしてフィンフィックス10(Noviant社製のカルボキシメチルセルロース)の固形分が0.8重量部、及び(D)ジルコニウム化合物の炭酸ジルコニウムアンモニウム(30%濃度)の固形分が0.2重量部となる割合で添加し、固形分を65.0%に調整し、粘度 3150mPa・s(25℃)の紙塗工用組成物T3を得た。
【0018】
(実施例4、5)
実施例3における(D)ジルコニウム化合物の添加量を、表2に記載の添加量に変更する以外は実施例3と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T4、T5を得た。
紙塗工用組成物T4、T5の粘度(25℃)を表2に示す。
【0019】
(実施例6、7)
実施例3における(C)デンプン以外の水性バインダーの添加量および(D)ジルコニウム化合物の添加量を、表3に記載の添加量に変更する以外は実施例3と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T6、T7を得た。
紙塗工用組成物T6、T7の粘度(25℃)を表3に示す。
【0020】
(実施例8、9)
実施例3における(C)デンプン以外の水性バインダーの添加量および(D)ジルコニウム化合物の添加量を、表4に記載の添加量に変更する以外は実施例3と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T8、T9を得た。
紙塗工用組成物T8、T9の粘度(25℃)を表4に示す。
【0021】
(比較例1)
実施例1において(D)ジルコニウム化合物を配合しない以外は、実施例1と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T10を得た。
紙塗工用組成物T10の粘度(25℃)を表1に示す。
【0022】
(比較例2)
実施例3において(D)ジルコニウム化合物を配合しない以外は、実施例3と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T11を得た。
紙塗工用組成物T11の粘度(25℃)を表2に示す。
【0023】
(比較例3)
実施例6において(D)ジルコニウム化合物を配合しない以外は、実施例6と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T12を得た。
紙塗工用組成物T12の粘度(25℃)を表3に示す。
【0024】
(比較例4)
実施例8において(D)ジルコニウム化合物を配合しない以外は、実施例8と同様の操作を行ない、紙塗工用組成物T13を得た。
紙塗工用組成物T13の粘度(25℃)を表4に示す。
【0025】
【表1】


【0026】
【表2】











【0027】
【表3】


【0028】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)顔料、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項2】
(A)顔料、(B)デンプン、(C)デンプン以外の水性バインダー、および(D)ジルコニウム化合物を含有してなる紙塗工用組成物であって、(A)顔料100重量部に対して(B)デンプンが10重量部以下であることを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項3】
(C)デンプン以外の水性バインダーが、変性セルロース類であることを特徴とする請求項1、2記載の紙塗工用組成物。
【請求項4】
(D)ジルコニウム化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウムであることを特徴とする請求項1〜3記載の紙塗工用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の紙塗工用組成物を紙に塗工してなる塗工紙。

【公開番号】特開2007−262640(P2007−262640A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102169(P2006−102169)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】